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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】鋼矢板壁の施工治具
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/16 20060101AFI20231116BHJP
   E02D 13/04 20060101ALI20231116BHJP
   E02D 5/08 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
E02D5/16
E02D13/04
E02D5/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020008471
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021116531
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391002122
【氏名又は名称】調和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕章
(72)【発明者】
【氏名】武野 正和
(72)【発明者】
【氏名】原田 典佳
(72)【発明者】
【氏名】北村 卓也
(72)【発明者】
【氏名】横山 博康
(72)【発明者】
【氏名】野路 功
(72)【発明者】
【氏名】吉丸 明善
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176191(JP,A)
【文献】実開昭62-038953(JP,U)
【文献】特開2014-133980(JP,A)
【文献】国際公開第2015/050207(WO,A1)
【文献】特開2016-069837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/16
E02D 13/04
E02D 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に打設され鋼矢板壁の一部を構成する第1の鋼矢板に、クレーンで吊り下げられた第2の鋼矢板を連結するための鋼矢板壁の施工治具であって、
前記第1の鋼矢板の板状部分に着脱可能に係止される係止部と、
少なくとも一部が前記鋼矢板壁の延長方向に、前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板に接触可能な位置まで延びる長尺部と、
前記係止部に着脱可能に連結され、前記長尺部を前記第1の鋼矢板の上端から所定の高さに保持する柱部と
を備え、
前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板は、ハット形鋼矢板であり、
前記係止部は、第1の係止部および第2の係止部を含み、
前記長尺部は、第1の長尺部および第2の長尺部を含み、
前記柱部は、第1の柱部および第2の柱部を含み、
前記施工治具は、
前記第1の鋼矢板のウェブに係止される前記第1の係止部と、
前記第1の鋼矢板のウェブに沿った方向に、少なくとも前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板のウェブに接触可能な位置まで延びる前記第1の長尺部と、
前記第1の係止部に連結され、前記第1の長尺部を前記第1の鋼矢板の上端から第1の高さに保持する前記第1の柱部と
を含む第1の施工治具、および
前記第1の鋼矢板のフランジに係止される前記第2の係止部と、
前記第1の鋼矢板のアームに沿った方向に、少なくとも前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板の前記第1の鋼矢板側の継手に接触可能な位置まで延びる前記第2の長尺部と、
前記第2の係止部に連結され、前記第2の長尺部を前記第1の鋼矢板の上端から第2の高さに保持する前記第2の柱部と
を含む第2の施工治具を含み、
前記第1の高さと前記第2の高さとは異なる鋼矢板壁の施工治具。
【請求項2】
前記第1の長尺部または前記第2の長尺部の少なくともいずれかは、前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板のウェブまたは前記第1の鋼矢板側もしくは前記第1の鋼矢板とは反対側の継手に接触可能な位置よりも先端側に、前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板を囲むように折り曲げられた延長部分を含む、請求項に記載の鋼矢板壁の施工治具。
【請求項3】
地盤に打設され鋼矢板壁の一部を構成する第1の鋼矢板に、クレーンで吊り下げられた第2の鋼矢板を連結するための鋼矢板壁の施工治具であって、
前記第1の鋼矢板の板状部分に着脱可能に係止される係止部と、
少なくとも一部が前記鋼矢板壁の延長方向に、前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板に接触可能な位置まで延びる長尺部と、
前記係止部に着脱可能に連結され、前記長尺部を前記第1の鋼矢板の上端から所定の高さに保持する柱部と
を備え、
前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板は、ハット形鋼矢板であり、
前記係止部は、第1の係止部および第2の係止部を含み、
前記長尺部は、第1の長尺部および第2の長尺部を含み、
前記柱部は、第1の柱部および第2の柱部を含み、
前記施工治具は、
前記第1の鋼矢板のウェブに係止される前記第1の係止部と、
前記第1の鋼矢板のウェブに沿った方向に、少なくとも前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板のウェブに接触可能な位置まで延びる前記第1の長尺部と、
前記第1の係止部に連結され、前記第1の長尺部を前記第1の鋼矢板の上端から第1の高さに保持する前記第1の柱部と
を含む第1の施工治具、および
前記第1の鋼矢板のフランジに係止される前記第2の係止部と、
前記第1の鋼矢板のアームに沿った方向に、少なくとも前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板の前記第1の鋼矢板側の継手に接触可能な位置まで延びる前記第2の長尺部と、
前記第2の係止部に連結され、前記第2の長尺部を前記第1の鋼矢板の上端から第2の高さに保持する前記第2の柱部と
を含む第2の施工治具を含み、
前記第1の長尺部または前記第2の長尺部の少なくともいずれかは、前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板のウェブまたは前記第1の鋼矢板側の継手に接触可能な位置よりも先端側に、前記第1の長尺部と前記第2の長尺部との間隔が広がるように折り曲げられた延長部分を含む鋼矢板壁の施工治具。
【請求項4】
前記第1の係止部を前記ウェブに係止し、前記第2の係止部を前記フランジに係止した状態において、前記鋼矢板壁の延長方向について前記第1の長尺部の先端と前記第2の長尺部の先端との位置が異なる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鋼矢板壁の施工治具。
【請求項5】
地盤に打設され鋼矢板壁の一部を構成する第1の鋼矢板に、クレーンで吊り下げられた第2の鋼矢板を連結するための鋼矢板壁の施工治具であって、
前記第1の鋼矢板の板状部分に着脱可能に係止される係止部と、
少なくとも一部が前記鋼矢板壁の延長方向に、前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板に接触可能な位置まで延びる長尺部と、
前記係止部に着脱可能に連結され、前記長尺部を前記第1の鋼矢板の上端から所定の高さに保持する柱部と
を備え、
前記長尺部は、複数の管状部材で形成され、前記複数の管状部材を互いに連結する管継手を含む鋼矢板壁の施工治具。
【請求項6】
前記管継手は、端部が斜めに切断された管状部材と、管状部材の外側に装着されるスリーブ管とを含む、請求項に記載の鋼矢板壁の施工治具。
【請求項7】
前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板は、ハット形鋼矢板であり、
前記係止部は、前記第1の鋼矢板のウェブに係止され、
前記長尺部は前記ハット形鋼矢板の幅以上の長さを有する、請求項5または請求項6に記載の鋼矢板壁の施工治具。
【請求項8】
地盤に打設され鋼矢板壁の一部を構成する第1の鋼矢板に、クレーンで吊り下げられた第2の鋼矢板を連結するための鋼矢板壁の施工治具であって、
前記第1の鋼矢板の板状部分に着脱可能に係止される係止部と、
少なくとも一部が前記鋼矢板壁の延長方向に、前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板に接触可能な位置まで延びる長尺部と、
前記係止部に着脱可能に連結され、前記長尺部を前記第1の鋼矢板の上端から所定の高さに保持する柱部と
を備え、
前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板は、ハット形鋼矢板であり、
前記係止部は、前記第1の鋼矢板のフランジに係止され、
前記長尺部は、前記フランジに沿った方向に延びる第1の管状部材と、前記第1の鋼矢板のアームに沿った方向に延びる第2の管状部材と、前記第1の管状部材と前記第2の管状部材とを連結するエルボ管とを含む鋼矢板壁の施工治具。
【請求項9】
地盤に打設され鋼矢板壁の一部を構成する第1の鋼矢板に、クレーンで吊り下げられた第2の鋼矢板を連結するための鋼矢板壁の施工治具であって、
前記第1の鋼矢板の板状部分に着脱可能に係止される係止部と、
少なくとも一部が前記鋼矢板壁の延長方向に、前記第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された前記第2の鋼矢板に接触可能な位置まで延びる長尺部と、
前記係止部に着脱可能に連結され、前記長尺部を前記第1の鋼矢板の上端から所定の高さに保持する柱部と
を備え、
前記長尺部の先端側の部分を前記地盤または前記地盤に設置される導枠に連結する先端側連結部材をさらに備える鋼矢板壁の施工治具。
【請求項10】
前記柱部は、離散して平行に配置される2本以上の直線部材を含む、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の鋼矢板壁の施工治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板壁の施工治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の鋼矢板を継手部の嵌合によって連結する方法として、例えば特許文献1および特許文献2に記載されたような治具を用いる方法が提案されている。
【0003】
特許文献1では、並行する2本のガイドレールにそれぞれ対向させて取付けた金物からなる鋼矢板の建込治具が記載されている。金物の側部には、第1の鋼矢板のウェブとの当接部と、第1の鋼矢板に連結される第2の鋼矢板の継手との当接部とが設けられる。
【0004】
特許文献2では、2本のH形鋼である導材に沿わせてU形鋼矢板を打設して鋼矢板壁を構築する際に用いる治具が記載されている。治具は溝形鋼またはH形鋼であり、フランジに設けられた切り欠きを用いて導材を構成するH形鋼のフランジに嵌め込み固定される。治具の端部に設けられる側板によって、U形鋼矢板のフランジがガイドされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭59-76631号公報
【文献】実開昭60-120038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、クレーンなどで吊り上げた鋼矢板の継手を、先に打設された鋼矢板の継手に嵌合させる際には、クレーンで鋼矢板の重量を支えながら、人力で鋼矢板を所定の施工位置、すなわち鋼矢板の継手と先に打設された鋼矢板の継手との位置が整合する位置まで水平方向に移動させる。しかしながら、吊り上げられた鋼矢板が強風などによって揺動した場合には、吊り下げられた鋼矢板を人力で保持したり移動させたりすることは困難である。鋼矢板の施工位置への誘導が遅延すると、後続する打設工程にも遅延が生じ、全体的な工期遅延につながる可能性がある。また、強風によって揺動する鋼矢板を人力によって保持したり移動させたりすることは、作業員の安全性の面でも好ましくない。例えば、10分間の平均風速が10m/s以上の場合にはクレーンを使用する作業が法的に禁止る場合がある。また、実際上の問題として、平均風速が5m/s~8m/s程度でも、揺動する鋼矢板を人力で保持することは困難である。
【0007】
加えて、鋼矢板の大型化や長尺化によって上記の問題は一層顕著になる。例えば、鋼矢板の幅が400mm~600mm程度であれば1人の作業員が鋼矢板の幅方向両端を掴んで保持することは比較的容易であるが、鋼矢板の幅が1000mm以上である場合に同じことをするのは容易ではない。また、鋼矢板の幅が広くなると、鋼矢板を保持している作業員が目標位置、つまり先に打設された鋼矢板の継手の位置を目視確認するのが困難になる。加えて、鋼矢板の大型化や長尺化によって重量が増大すると、鋼矢板の揺動の抑制が人力では困難になる可能性が高い。複数の作業員を配置することによって上記の問題はある程度解決しうるが、根本的な解決にはならず、また作業員の数が増えることによって施工の経済性が低下する。上述したような問題について、特許文献1および特許文献2に記載された技術は解決方法を提供していない。
【0008】
そこで、本発明は、鋼矢板を所定の施工位置まで誘導して先に打設された鋼矢板に連結する作業を迅速かつ容易にすることができる、鋼矢板壁の施工治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]地盤に打設され鋼矢板壁の一部を構成する第1の鋼矢板に、クレーンで吊り下げられた第2の鋼矢板を連結するための鋼矢板壁の施工治具であって、第1の鋼矢板の板状部分に着脱可能に係止される係止部と、少なくとも一部が鋼矢板壁の延長方向に、第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された第2の鋼矢板に接触可能な位置まで延びる長尺部と、係止部に着脱可能に連結され、長尺部を第1の鋼矢板の上端から所定の高さに保持する柱部とを備える鋼矢板壁の施工治具。
[2]第1の鋼矢板および第2の鋼矢板は、ハット形鋼矢板であり、係止部は、第1の係止部および第2の係止部を含み、長尺部は、第1の長尺部および第2の長尺部を含み、柱部は、第1の柱部および第2の柱部を含み、施工治具は、第1の鋼矢板のウェブに係止される第1の係止部と、第1の鋼矢板のウェブに沿った方向に、少なくとも第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された第2の鋼矢板のウェブに接触可能な位置まで延びる第1の長尺部と、第1の係止部に連結され、第1の長尺部を第1の鋼矢板の上端から第1の高さに保持する第1の柱部とを含む第1の施工治具、および第1の鋼矢板のフランジに係止される第2の係止部と、第1の鋼矢板のアームに沿った方向に、少なくとも第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された第2の鋼矢板の第1の鋼矢板側の継手に接触可能な位置まで延びる第2の長尺部と、第2の係止部に連結され、第2の長尺部を第1の鋼矢板の上端から第2の高さに保持する第2の柱部とを含む第2の施工治具を含む、[1]に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[3]第1の係止部をウェブに係止し、第2の係止部をフランジに係止した状態において、鋼矢板壁の延長方向について第1の長尺部の先端と第2の長尺部の先端との位置が異なる、[2]に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[4]第1の高さと第2の高さとは異なる、[2]または[3]に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[5]第1の長尺部または第2の長尺部の少なくともいずれかは、第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された第2の鋼矢板のウェブまたは第1の鋼矢板側もしくは第1の鋼矢板とは反対側の継手に接触可能な位置よりも先端側に、第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された第2の鋼矢板を囲むように折り曲げられた延長部分を含む、[4]に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[6]第1の長尺部または第2の長尺部の少なくともいずれかは、第1の鋼矢板に連結可能な水平位置に配置された第2の鋼矢板のウェブまたは第1の鋼矢板側の継手に接触可能な位置よりも先端側に、第1の長尺部と第2の長尺部との間隔が広がるように折り曲げられた延長部分を含む、[2]から[4]のいずれか1項に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[7]長尺部は、複数の管状部材で形成され、複数の管状部材を互いに連結する管継手を含む、[1]から[6]のいずれか1項に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[8]管継手は、端部が斜めに切断された管状部材と、管状部材の外側に装着されるスリーブ管とを含む、[7]に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[9]第1の鋼矢板および第2の鋼矢板は、ハット形鋼矢板であり、係止部は、第1の鋼矢板のフランジに係止され、長尺部は、フランジに沿った方向に延びる第1の管状部材と、第1の鋼矢板のアームに沿った方向に延びる第2の管状部材と、第1の管状部材と第2の管状部材とを連結するエルボ管とを含む、[1]に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[10]第1の鋼矢板および第2の鋼矢板は、ハット形鋼矢板であり、係止部は、第1の鋼矢板のウェブに係止され、長尺部はハット形鋼矢板の幅以上の長さを有する、[1]に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[11]長尺部の先端側の部分を地盤または地盤に設置される導枠に連結する先端側連結部材をさらに備える、[1]から[10]のいずれか1項に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[12]柱部は、離散して平行に配置される2本以上の直線部材を含む、[1]から[11]のいずれか1項に記載の鋼矢板壁の施工治具。
[13]地盤に打設された第1の鋼矢板の板状部分に施工治具の係止部を係止する工程と、係止部に連結された柱部によって第1の鋼矢板の上端から所定の高さに保持され、第1の鋼矢板を含む鋼矢板壁の延長方向に延びる長尺部に沿ってクレーンで吊り下げられた第2の鋼矢板を誘導する工程と、誘導された第2の鋼矢板を第1の鋼矢板に連結する工程とを含む鋼矢板壁の施工方法。
[14]地盤に打設された第1の鋼矢板のウェブに第1の施工治具の第1の係止部を係止し、第1の鋼矢板のフランジに第2の施工治具の第2の係止部を係止する工程と、第1の係止部に連結された第1の柱部によって第1の鋼矢板の上端から第1の高さに保持され、第1の鋼矢板を含む鋼矢板壁の延長方向に延びる第1の長尺部にクレーンで吊り下げられた第2の鋼矢板のウェブを沿わせ、第2の係止部に連結された第2の柱部によって第1の鋼矢板の上端から第2の高さに保持され、鋼矢板壁の延長方向に延びる第2の長尺部に第2の鋼矢板の第1の鋼矢板側の継手を沿わせることによって第2の鋼矢板を誘導する工程と、誘導された第2の鋼矢板を第1の鋼矢板に連結する工程とを含む鋼矢板壁の施工方法。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、第2の鋼矢板を施工治具の長尺部に接触させながら、長尺部に沿って所定の施工位置まで誘導することによって、第2の鋼矢板を先に打設された第1の鋼矢板に連結する作業を迅速かつ容易にすることができる。施工治具を構成する部材は、現場施工条件に応じて必要最小限の種類とできるよう互いに着脱自在な構造仕様となっている。そのため、経済化を図れるとともに、様々な型式の鋼矢板や施工状況に応じて、適宜部材を組合せ、所定の機能を発揮することができる。また、簡便に鋼矢板に着脱可能であり、小型・軽量化した部材に分割できるため、施工現場での運搬や鋼矢板へのセッティング負荷が少なく、連続して打設する鋼矢板への繰り返し使用が容易で、取り扱いを簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る施工治具を用いた鋼矢板壁の施工を模式的に示す斜視図である。
図2図1の平面図である。
図3図1に示す施工治具の拡大図である。
図4図3に示す施工治具の変形例を示す図である。
図5図3に示す施工治具の変形例を示す図である。
図6】嵌合治具における長尺部の高さ設定の例を示す図である。
図7】嵌合治具において長尺部を延長した例を示す図である。
図8】長尺部の継手の構成例を示す図である。
図9】嵌合治具において長尺部をエルボ管で連結した例を示す図である。
図10】施工治具において長尺部の長さを変えた例を示す図である。
図11】施工治具において折り曲げられた延長部分が設けられる例を示す図である。
図12】施工治具において折り曲げられた延長部分が設けられる別の例を示す図である。
図13】施工治具において長尺部の先端側連結部材を配置する例を示す図である。
図14】施工治具を単独で配置する例を示す図である。
図15】施工治具を単独で配置する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る施工治具を用いた鋼矢板壁の施工を模式的に示す斜視図であり、図2図1の平面図である。図示された例において、ハット形の鋼矢板1A,1Bは、地盤に設置された導枠2の間に順次打設されて、鋼矢板壁を構成する。鋼矢板1A,1Bはそれぞれウェブ11A,11B、フランジ12A,12B、アーム13A,13Bおよび継手14A,14Bを含む。先に地盤に打設された鋼矢板1Aの継手14Aに、後から打設される鋼矢板1Bの継手14Bを嵌合させることによって、鋼矢板1Bが鋼矢板1Aに連結される。
【0014】
施工治具3A,3Bは、上記のように鋼矢板1Bを鋼矢板1Aに連結するときに、クレーンで吊り下げられた鋼矢板1Bを所定の施工位置まで誘導するために用いられる。第1の施工治具3Aは、係止部31Aと、柱部32Aと、長尺部33Aとを含む。第2の施工治具3Bは、係止部31Bと、柱部32Bと、長尺部33Bとを含む。かかる施工治具3A,3Bの構成について、図3の拡大図をあわせて参照して、さらに説明する。なお、図3には施工治具3Bが図示されているが、施工治具3Aも同様に構成される。
【0015】
係止部31A,31Bは、鋼矢板1Aの板状部分、具体的にはウェブ11Aおよびフランジ12Aにそれぞれ係止される。具体的には、例えば、鋼板を鋼矢板1Aの板厚よりも大きい間隔でU字形に折り返すことによって係止部31A,31Bが形成される。U字形の空間間隔より適用する鋼矢板のウェブの板厚が薄ければ、鋼矢板の型式および種類を問わず適用可能であるため、現場で使用する最大板厚を有する鋼矢板に合わせてU字形の空間間隔を設定しておけば、1種類のみの係止部を準備することで対応が可能である。係止部31A,31Bを上方から鋼矢板1Aのウェブ11Aやフランジ12Aにかぶせることによって、施工治具3A,3Bを容易に鋼矢板1Aに取り付けることができる。この際の取り回しをよくするために、係止部31A,31Bから上方に突出するハンドル311A,311Bが取り付けられてもよい。また、取り付け後の施工治具3A,3Bのがたつきを防ぐために、鋼矢板1Aのウェブ11Aやフランジ12Aに吸着可能なハンドマグネット312が取り付けられてもよい。ハンドマグネット312の取り付け位置としては、例えば、U字形に折り返された係止部31A,31Bのそれぞれの面のうち、鋼矢板1Bが長尺部33A,33Bに接触した際に鋼矢板1Aに押し付けられる側の面に取り付けることで、効果的に係止部31A,31Bの鋼矢板1A上でのがたつきを抑止できる。ハンドマグネット312は1箇所のみ取り付けてもよいし、強風時などで鋼矢板1Bの揺れが大きくなるときは2箇所以上取り付け、係止部31A,31Bを鋼矢板1Aに強固に固定できるようにしてもよい。
【0016】
柱部32A,32Bは、係止部31A,31Bにそれぞれ連結され、鉛直方向(図中のz方向)に延びる。具体的には、例えば、柱部32A,32Bは、それぞれ離散して平行に配置される2本の鋼管(直線部材)で形成され、係止部31A,31Bに柱部32A,32Bの鋼管を挿通することが可能なスリーブ313が接合される。この場合、柱部32A,32Bは、それぞれ係止部31A,31Bに着脱可能に連結される。スリーブ313に挿通した柱部32A,32Bを鋼矢板1Aの上端から所定の高さに固定するために、柱部32A,32Bの所定の位置にスリーブ313の内径よりも大きく張り出したストッパー321が設けられてもよい。ピン状のストッパー321が図示されているが、フランジ状のストッパーが設けられてもよい。あるいは、図4に示されるように2本の鋼管をつなぐ横材322をストッパーとして用いてもよい。この場合、ストッパーを柱部32A,32Bの補強材としても利用することができる。また、柱部32A,32Bの抜け止めのために、スリーブ313の外側から柱部32A,32Bを貫通するピン323を挿通してもよい。抜け止めのためのピン323は、図5に示されるように柱部32A,32Bがスリーブ313を貫通して突出した部分に挿通されてもよい。
【0017】
図示された例では、柱部32A,32Bを構成する2本の鋼管が互いに平行であるため、係止部31A,31Bに接合されたスリーブ313への挿入が容易である。2本の鋼管の間隔は、ハット形鋼矢板やU形鋼矢板の場合はウェブ幅よりも狭くし、Z形鋼矢板の場合はアーム幅よりも狭くする。2本の鋼管によって長尺部33A,33Bを2点支持することによって、長尺部33A,33Bの平面配置における角度方向を容易に固定できる。鋼矢板が大型になったり、風による鋼矢板の揺動が大きくなったりして、長尺部33A,33Bに作用する荷重が大きくなった場合でも、2本の鋼管が曲げモーメントの固定端として抵抗するため、1点支持の場合と比べて固定端としての抵抗耐力が大きくなる。
【0018】
長尺部33A,33Bは、柱部32A,32Bの先端に溶接され、鋼矢板1Aの上端から所定の高さに保持される。つまり、鋼矢板1Aが鉛直方向に打設される場合、長尺部33A,33Bは鋼矢板1Aの上端から所定の間隔をおいて水平方向に延びる。図示された例において、鋼矢板1Aのウェブ11Aに取り付けられる施工治具3Aの長尺部33Aは、その全体がウェブ11Aに沿った方向に延びる。ハット形鋼矢板の場合、ウェブ11Aに沿った方向が鋼矢板壁の延長方向(図中のx方向)になる。長尺部33Aは、少なくとも、鋼矢板1Bが鋼矢板1Aに連結可能な水平位置(図2に示されている鋼矢板1Bの位置)に配置されたときに鋼矢板1Bのウェブ11Bに接触可能な位置まで延びる。つまり、鋼矢板1Bが鋼矢板1Aに連結されたときに、鋼矢板1Bのウェブ11Bと長尺部33Aとは、鋼矢板壁の延長方向について少なくとも部分的に重複する。
【0019】
後述するように、長尺部33Aは複数の管状部材で形成され、複数の管状部材を互いに連結する管継手333Aが設けられてもよい。長尺部33Aを長くすることによって、揺動する鋼矢板1Bが長尺部33Aに接触したときに作用する荷重を分散させ、集中荷重による長尺部33Aの変形を防止できる。具体的には、例えば長尺部33Aの長さを鋼矢板の幅以上確保することで、鋼矢板1Bがウェブ11Bを横断する線状の領域で長尺部33Aに接触できるようになる。
【0020】
一方、鋼矢板1Aのフランジ12Aに取り付けられる施工治具3Bの長尺部33Bは、フランジ12Aに沿った方向に延びる第1の部分331Bと、鋼矢板1Aのアーム13Aに沿った方向に延びる第2の部分332Bとを含む。ハット形鋼矢板の場合、アーム13Aに沿った方向も鋼矢板壁の延長方向になる。長尺部33Bは、少なくとも、鋼矢板1Bが鋼矢板1Aに連結可能な水平位置(図2に示されている鋼矢板1Bの位置)に配置されたときに鋼矢板1Bの鋼矢板1A側の継手14Bに接触可能な位置まで延びる。つまり、鋼矢板1Bが鋼矢板1Aに連結されたときに、鋼矢板1Bの鋼矢板1A側の継手14Bと長尺部33Bとは、鋼矢板壁の延長方向について少なくとも部分的に重複する。
【0021】
上記のように長尺部33A,33Bが延びることによって、長尺部33Aに鋼矢板1Bのウェブ11Bを沿わせ、長尺部33Bに鋼矢板1Bの鋼矢板1A側の継手14Bを沿わせることによって、鋼矢板1Bを鋼矢板1Aに連結可能になる所定の施工位置まで円滑に誘導することができる。より確実に鋼矢板1Bの揺動を防止する場合は、長尺部33Aが鋼矢板1Bのウェブ11Bに線状の領域で接触可能であり、かつ長尺部33Bが継手14Bに加えてアーム13Bにも接触可能であるように、長尺部33A,33Bの長さを設定することが効果的である。
【0022】
また、図2に示された例では、施工治具3Aの係止部31Aを鋼矢板1Aのウェブ11Aに係止し、施工治具3Bの係止部31Bをフランジ12Aに係止した状態において、鋼矢板壁の延長方向について、長尺部33Aの先端と長尺部33Bの先端との位置が異なる。具体的には、上記の状態において、第1の施工治具3Aの長尺部33Aは、第2の施工治具3Bの長尺部33Bよりも先まで、すなわち鋼矢板壁の延長方向について鋼矢板1Aからより遠くまで延びている。これによって、図2に示されるように、長尺部33Aと長尺部33Bとの間の空間の間口Wの大きさが長尺部33Aと長尺部33Bとの間の距離dよりも大きくなり、クレーンなどで吊り上げた鋼矢板1Bを上記の空間に進入させることが容易になる。
【0023】
上記のような長尺部33A,33Bは、例えば円形断面の管状部材で形成される。長尺部33A,33Bの断面を円形にすることによって、誘導時に鋼矢板1Bが鉛直方向でどのような角度に傾いても、長尺部33A,33Bの角に接触して損傷することを防止できる。長尺部33A,33Bは柱部32A,32Bによって支持される片持ち梁と考えられるため、先端に鋼矢板1Bに接触による荷重が作用したときに、作業の安全性を考慮し、長尺部33A,33Bをほぼ剛体として維持できるよう、変形が所定の範囲内(例えば10mm以内)になるように断面剛性を確保する。具体的には、風速10m/sで、クレーンで吊り上げられた鋼矢板に振幅1mの揺動が生じると、鋼矢板の下端と長尺部33A,33Bとの接触時には最大200kgfの荷重が作用するため、この荷重が先端に作用したときに変形が所定の範囲内になるように長尺部33A,33Bの材質や寸法を決定する。
【0024】
なお、ハット形鋼矢板の場合、鋼矢板壁を構成する鋼矢板のウェブは壁の横断方向(図中のy方向)で見た場合にどの鋼矢板でも同じ側に位置するため、長尺部33Aの長さを想定される型式の鋼矢板の最大幅に適応させておけば、ハット形鋼矢板の型式にかかわらず1種類の第1の施工治具3Aを兼用することができる。また、U形鋼矢板の場合、鋼矢板壁を構成する鋼矢板のウェブは壁の横断方向で見た場合に1つおきに同じ側に位置するため、長尺部33Aの長さを想定される型式の鋼矢板の最大幅の2倍に適応させておけば、U形鋼矢板の型式にかかわらず1種類の第1の施工治具3Aを兼用することができる。Z形鋼矢板の場合、継手部分を避けてアームに係止部31Aを係止するため、長尺部33Aの長さを想定される型式の鋼矢板の最大幅の1.5倍に適応させておけば、Z形鋼矢板の型式にかかわらず1種類の第1の施工治具3Aを兼用することができる。上記のそれぞれの条件に適応していれば、ハット形、U形およびZ形のそれぞれの鋼矢板の間で1種類の第1の施工治具3Aを兼用することもできる。
【0025】
上述したような施工治具3A,3Bは、係止部31A,31Bと柱部32A,32Bとが着脱可能に連結されるため、係止部31A,31Bと柱部32A,32Bおよび長尺部33A,33Bとを分離して運搬することができる。1人の作業員が運搬することを考慮した場合、分離された各部材の重量を15kg以下にすることが好ましい。上記のように第1の施工治具3Aは鋼矢板の型式にかかわらず兼用可能であるため、第2の施工治具3Bのみを鋼矢板の型式に合わせて用意すればよく、部材の種類を削減できる。
【0026】
加えて、施工治具3A,3Bの平面における占有スペースとして、鋼矢板壁の横断方向(図中のy方向)外側への鋼矢板断面からの飛び出し領域は、長尺部33A,33Bの外形分のみとなるため、住宅地や障害物が存在するような狭隘な施工現場に適用できる。導枠2を利用して打設する場合は、導枠2の平面範囲内に施工治具3A,3Bを収めることができる。長尺部33A,33Bの先端にロープや支柱を取り付けるような場合、特に水上施工の際は、導枠2上内のみでの作業が可能となるため、作業足場を確保できる。
【0027】
また、鋼矢板の打ち止め高さは鋼矢板壁の機能によって異なるが、施工治具3A,3Bは地盤ではなく鋼矢板1Aに取り付けられるため、鋼矢板の打ち止め高さにかかわらず適切な高さに長尺部33A,33Bを配置して鋼矢板1Bを誘導することができる。鋼矢板の天端高さが階段状に変化する場合であっても、1つ前の鋼矢板の天端高さに合わせて施工治具3A,3Bが配置されるため、天端高さの変化に適応させるための構造は不要である。また、鋼矢板1Bを施工位置まで誘導した後の継手14A,14Bの嵌合を容易にするために、鋼矢板1Aの継手14A付近に取り付けられる嵌合治具4を併用してもよい。この場合は、施工治具3A,3Bと嵌合治具4とが干渉しないようにそれぞれの配置を調整する。なお、図2において嵌合治具4は図示を省略されている。
【0028】
図6は、嵌合治具における長尺部の高さ設定の例を示す図である。施工治具3A,3Bにおいて、長尺部33A,33Bは柱部32A,32Bによってそれぞれ鋼矢板1Aの上端から所定の高さに保持される。ここで、図6に示された例のように、第1の施工治具3Aの柱部32Aが長尺部33Aを保持する高さh1と、第2の施工治具3Bの柱部32Bが長尺部33Bを保持するh2とが異なっていてもよい。具体的には、高さh1が高さh2よりも大きく、高さの差h3=h1-h2がある。図示された例では第1の施工治具3Aの長尺部33Aの方が高いが、他の例では第2の施工治具3Bの長尺部33Bの方が高くてもよい。また、柱部32A,32Bまたはスリーブ313にピン323を挿通する複数の孔を形成することによって、長尺部33A,33Bの高さを可変にしてもよい。
【0029】
このように、一方の施工治具の長尺部を他方の施工治具よりも低く配置することによって、クレーンなどで吊り上げた鋼矢板1Bを一方の長尺部だけに接触するような高さに配置し、先に高い方の長尺部に接触させることによって鋼矢板1Bの揺れを抑制した後に降下させて低い方の長尺部に接触させ、鋼矢板1Bを長尺部の間の空間に進入させることが容易になる。具体的には、図6の例では、鋼矢板1Bの下端が長尺部33Aよりも低く、長尺部33Bよりも高くなるように吊り下げ位置を調整し、鋼矢板1Bを先に長尺部33Aに接触させてから降下させることで、長尺部33A,33Bの間の空間に進入させる。最初に鋼矢板1Bを長尺部33Aに接触させるときには、鋼矢板1Bが第2の施工治具3Bの係止部31Bや柱部32B、長尺部33Bの上方を通過してもよいため、誘導が容易である。上述のように、長尺部33A,33Bの高さは可変であってもよい。この場合、長尺部33Aおよび長尺部33Bのうち施工現場で風下側となる長尺部の高さを高くし、高い位置に設定した長尺部に一旦鋼矢板1Bの自重を預けることで、鋼矢板1Bの揺れを効果的に抑制することができる。
【0030】
図7は、嵌合治具において長尺部を延長した例を示す図である。図示された例では、第1の施工治具3Aの長尺部33A、および第2の施工治具3Bの長尺部33Bのそれぞれが、上記で図2に示した例に比べて延長されている。ここで、長尺部33A,33Bが延長されることは、鋼矢板壁の延長方向について長尺部33A,33Bが鋼矢板1Aからより遠くまで延びることを意味する。長尺部33A,33Bを延長することによって、鋼矢板1Bを誘導の初期段階で長尺部33A,33Bの間の空間に進入させることができ、鋼矢板1B全体を長尺部33A,33Bで覆うことによって、長尺部33A,33Bに沿って誘導する間に揺動を抑制して、鋼矢板1Bが鋼矢板1Aに連結可能になる所定の施工位置に到達した後は迅速に継手14A,14Bを嵌合させる作業に移行することができる。
【0031】
ここで、図7に示された例のように長尺部を延長する場合、管継手333A,333Bで複数の管状部材を互いに連結することによって長尺部33A,33Bを構成してもよい。長尺部を分割可能とすることによって、個々の部材の軽量化に繋がり、運搬負担を軽減できる効果がある。この場合、長尺部33A,33Bの先端側に配置される管状部材334A,334Bについては、例えば他の管状部材と外径は同じであるものの、板厚を削減して軽量化したものを使用することによって、長尺部33A,33Bを支持する柱部32A,32Bが受ける曲げモーメントを低減することができる。管継手333A,333Bとして、図8に示すように、端部が斜めに切断された管状部材335と、管状部材の外側に装着されるスリーブ管336とを含む構造を採用してもよい。一方の管状部材335にスリーブ管336を予め接合しておき、管状部材の連結時には斜めに切断された切断面335Sが整合するように他方の管状部材をスリーブ管336に挿入することによって、管状部材の径方向の位置合わせが容易になる。例えば、スリーブ管336と管状部材とをボルトで固定する場合、上記のような構成によってボルト孔の位置合わせが容易になる。鋼矢板の型式に関わらず、長尺部の外形として同じものを流用すれば、管継手は1種類のみ準備すればよく、現場での取り扱いが容易となる。
【0032】
図9は、施工治具において長尺部をエルボ管で連結した例を示す図である。図示された例では、第2の施工治具3Bにおいて、長尺部33Bが、鋼矢板1Aのフランジ12Aに沿った方向に延びる第1の管状部材337Aと、鋼矢板1Aのアーム13Aに沿った方向に延びる第2の管状部材337Bと、管状部材337A,337Bを連結するエルボ管338とを含む。エルボ管338の折れ曲がり角度は、鋼矢板1Aのフランジ12Aとアーム13Aとの交差角度に応じて調整する。このような構成によれば、直線状の管状部材337A,337Bを用いることができ、搬送や保管が容易になるのに加えて、第1の施工治具3Aと第2の施工治具3Bとの間で管状部材を共通化することもできる。
【0033】
図10は、施工治具において長尺部の長さを変えた例を示す図である。上記の図2の例では、施工治具3Aの係止部31Aを鋼矢板1Aのウェブ11Aに係止し、施工治具3Bの係止部31Bをフランジ12Aに係止した状態において、第1の施工治具3Aの長尺部33Aが第2の施工治具3Bの長尺部33Bよりも先まで延びていたが、図10の例では同じ状態で逆に第2の施工治具3Bの長尺部33Bが第1の施工治具3Aの長尺部33Aよりも先まで、すなわち鋼矢板壁の延長方向について鋼矢板1Aからより遠くまで延びている。
【0034】
例えば、図示されているように長尺部33A,33Bのそれぞれについて管継手333A,333Bで先端側に管状部材334A,334Bを連結し、第2の施工治具3Bに管状部材334Bを連結した場合には上記のように長尺部33Bの方が先まで延び、管状部材334Bを連結しない場合には図2の例と同様に長尺部33Aの方が先まで延びるように、管継手333A,333Bの配置を調節してもよい。これによって、鋼矢板1Bが鋼矢板壁の横断方向(図中のy方向)のどちら側から誘導されるかによって、長尺部33Aと長尺部33Bとの間の空間の間口Wが開く向きを変更することができる。2本の長尺部の鋼矢板1Aからの突出長を変えることで、長尺部の先端間長さを鋼矢板断面高さよりも大きく確保することができ、長尺部の間に鋼矢板1Bを引き込みやすくなる。
【0035】
図11は、施工治具において折り曲げられた延長部分が設けられる例を示す図である。図示された例では、第2の施工治具3Bの長尺部33Bにおいて、鋼矢板1Aに連結可能な水平位置に配置された鋼矢板1Bの鋼矢板1A側の継手14Bに接触可能な位置よりも先端側に、長尺部33Aから離れる向きに折り曲げられた延長部分339が設けられる。延長部分339は、図示された例のようにエルボ管338で連結されてもよいし、長尺部33Bの他の部分と一体に形成されてもよい。このような延長部分339があることによって、長尺部33A,33Bの間隔が広がる部分ができ、クレーンなどで吊り上げた鋼矢板1Bを上記の空間に進入させることが容易になる。他の例では、第1の施工治具3Aの長尺部33Aが、同様に長尺部33Bから離れる向きに折り曲げられてもよい。施工現場において風下側の長尺部を延長することで、鋼矢板1Bの揺れを受け止めやすくなる。例えば、長尺部33B側が風下になる場合、長尺部33Bのみを延長し、かつ長尺部間の開口幅を広げることで、鋼矢板1Bを延長部分339で受け止め、長尺部の間に鋼矢板1Bが入りやすくする。
【0036】
さらに他の例として、図12に示されるように、第1の施工治具3Aの長尺部33Aにおいて、鋼矢板1Aに連結可能な水平位置に配置された鋼矢板1Bのウェブ11Bに接触可能な位置よりも先端側に、鋼矢板1Bのフランジ12Bに沿って長尺部33Bに近づく向きに、鋼矢板1Bを囲むように折り曲げられた延長部分339Aが設けられてもよい。延長部分339Aは、図示された例のようにエルボ管338で連結されてもよいし、長尺部33Aの他の部分と一体に形成されてもよい。例えば、このような延長部分339Aを上記の図6の例のように長尺部33A,33Bを段違いに配置する構成と組み合わせることによって、鋼矢板1Bの誘導を容易にしつつ、一旦鋼矢板1Bが長尺部33Aと長尺部33Bとの間の空間に入った後は、脱落するのを防止できる。他の例では、第2の施工治具3Bの長尺部33Bが、鋼矢板1Bの鋼矢板1Aに近い側の継手14Bに接触可能な位置よりも先端側で鋼矢板1Bの鋼矢板1Aに近い側のフランジ12Bに沿うように、もしくは鋼矢板1Bの鋼矢板1Aとは反対側の継手14Bに接触可能な位置よりも先端側で鋼矢板1Bの鋼矢板1Aとは反対側のフランジ12Bに沿うように、長尺部33Aに近づく向きに折り曲げられてもよい。
【0037】
図13は、施工治具において長尺部の先端側連結部材を配置する例を示す図である。図示された例では、施工治具3A,3Bの長尺部33A,33Bの先端側の部分を導枠2に連結する先端側連結部材340A,340Bが配置されている。強風が吹くときや、鋼矢板が大型のときなど、鋼矢板1Bとの接触によって長尺部33A,33Bに大きな力が加わる可能性がある場合、長尺部33A,33Bの先端側の部分を先端側連結部材340A,340Bで固定することによって、柱部32A,32Bに作用する曲げモーメントを低減することができる。図示された例において先端側連結部材340A,340Bは支柱であるが、ロープなどの張力部材を用いてもよい。張力部材を用いる場合、長尺部33A,33Bに力が作用する向きと同じ側(つまり、長尺部33Aは長尺部33B側、長尺部33Bは長尺部33A側)から支持することによって、張力部材に張力を作用させて長尺部33A,33Bを支持することができる。
【0038】
図14および図15は、施工治具を単独で配置する例を示す図である。上記では第1の施工治具3Aおよび第2の施工治具3Bが組で配置される例について説明したが、第1の施工治具3A、または第2の施工治具3Bのいずれかを単独で配置することも可能である。例えば、風の吹く方向が一定している場合や、いずれか一方の施工治具に鋼矢板1Bを接触させたまま摺動させて誘導することが可能である場合、第1の施工治具3A、または第2の施工治具3Bのいずれかを単独で配置しても、安定して鋼矢板1Bを誘導することが可能である。どちらか一方の長尺部のみで鋼矢板1Bの揺れを抑制することができる場合には、施工治具を単独で配置することによって設置作業負荷を軽減できる。
【0039】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0040】
1A,1B…鋼矢板、2…導枠、3A…第1の施工治具、3B…第2の施工治具、4…嵌合治具、11A,11B…ウェブ、12A,12B…フランジ、13A,13B…アーム、14A,14B…継手、31A,31B…係止部、32A,32B…柱部、33A,33B…長尺部、311A,311B…ハンドル、312…ハンドマグネット、313…スリーブ、321…ストッパー、322…横材、323…ピン、331B…第1の部分、332B…第2の部分、333A,333B…管継手、334A,334B,335…管状部材、335S…切断面、336…スリーブ管、337A…第1の管状部材、337B…第2の管状部材、338…エルボ管、339,339A…延長部分、340A,340B…先端側連結部材、W…間口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15