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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20231116BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
E02D3/12 101
E02D27/34 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021180752
(22)【出願日】2021-11-05
(65)【公開番号】P2023069117
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2021-12-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-07
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162652
【氏名又は名称】強化土エンジニヤリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592254526
【氏名又は名称】学校法人五島育英会
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆光
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】末政 直晃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和也
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】西田 秀彦
【審判官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-42426(JP,A)
【文献】特開2011-74591(JP,A)
【文献】特開昭59-130910(JP,A)
【文献】特開2003-213662(JP,A)
【文献】特開2016-17341(JP,A)
【文献】特開2017-155432(JP,A)
【文献】特開2016-69802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D3/12
E02D27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に挿入した注入管を用いて注入材を注入し液状化対策としての地盤改良を行う薬液注入工法において、前記注入管の先端部を非液状化層まで貫入させ、前記注入材の地盤への注入後、前記注入管を地盤内に残置し、地盤内に残置した前記注入管自体をアンカー体として機能させることにより、地震時の地盤の変形を抑止するようにしたことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
請求項1記載の地盤改良工法において、前記注入管が塩化ビニル管であることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項3】
請求項1記載の地盤改良工法において、前記注入管が鋼管であることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項4】
請求項1~の何れかに記載の地盤改良工法において、前記注入管の先端部に袋体が設けられており、前記袋体内に硬化性の充填材を充填して地盤内で拡大させることにより、アンカー効果を高めるようにしたことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項5】
請求項1~の何れかに記載の地盤改良工法において、前記注入管天端部位置に形成される削孔穴を、アスファルトまたはコンクリートで、前記注入管と一体に埋め戻すことにより、前記アスファルトまたはコンクリートの表層と前記注入管と薬液注入による改良体が一体となって地震時の地盤の変形を抑止することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項6】
請求項1~の何れかに記載の地盤改良工法において、前記注入管上端部どうしを引張り補強材で連結するようにしたことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項7】
請求項1~の何れかに記載の地盤改良工法において、前記注入材によって改良された地盤の設計強度が一軸圧縮強さで200kN/m2以下になるように設定されていることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項8】
地盤内に挿入した注入管を用いて注入材を注入して液状化対策としての地盤改良を行う薬液注入工法において、前記注入管の先端部を非液状化層まで貫入させ、前記注入材の地盤への注入後、前記注入管を地盤内に残置し、地盤内に残置した前記注入管自体をアンカー体として機能させることにより、地震時の地盤の変形を抑止するようにする地盤改良工法用設計方法であって、前記前記注入材によって改良された地盤の一軸圧縮強さを前記注入管のアンカー効果を考慮して設定することを特徴とする地盤改良工法用設計方法。
【請求項9】
請求項記載の地盤改良工法用設計方法において、前記一軸圧縮強さが200kN/m2以下となるように設定することを特徴とする地盤改良工法用設計方法。
【請求項10】
請求項記載の地盤改良工法に用いる注入管であって、前記注入管の先端部に袋体が設けられており、前記袋体の内部に硬化性の充填材を充填することで、前記袋体が地盤内で拡大するようにしたことを特徴とする地盤改良工法用注入管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液注入工法に用いる注入管のアンカー効果を考慮した液状化対策としての地盤改良工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液状化対策を目的とした地盤改良工法の一つとして、非アルカリシリカグラウトを主剤とする溶液型注入材を用いた薬液注入工法が一般的に知られている。薬液注入工法による液状化対策では、地震時に生じる最大せん断応力比に対して十分な液状化強度比となるように地盤の改良強度が設定される。
【0003】
特に近年では、レベル2地震動に対する検討もなされるため、液状化対策として必要な液状化強度比が0.5~1.0となり、設計強度強度としては一軸圧縮強さで200~500kN/m2となり、安全率(2.0)を乗じた事前配合試験における目標強度は400~1,000kN/m2となる。
【0004】
この室内目標強度を満足するためには、注入材のシリカ濃度が8%以上必要となり、施工費が高くなる場合や、シリカ濃度を高く設定しても目標を満足しない場合もある。
【0005】
このような背景より、特許文献1または特許文献2では側方流動が生じる方向に改良体を造成し、さらに改良体内部に引張り補強材を埋設することにより、流動圧に抵抗する工法の提案を行っている。つまり、これらの提案では改良範囲を最小限にすることにより経済性を高め、液状化現象をある程度許容するものの、側方への大変形を抑止することを目的としている。
【0006】
しかし、震災時の支援物資の供給拠点となる港湾岸壁などでは、側方流動を抑え込むだけでは十分な対策とは言えず、岸壁法線や荷上場など護岸全体に地震動による変形が生じないようにしなくてはならない。
【0007】
なお、薬液注入工法による液状化対策の効果は、2011年の東北地方太平洋沖地震にてその有効性が確認されており、特に仙台港においては設計において想定したものより遥かに大きな地震動が生じたものの、岸壁は健全な状態を保ち、数日後には運用が再開された。
【0008】
このような調査事実と模型実験の結果より、本発明として注入管がアンカー体として機能する液状化対策とその設計方法の提案に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-194418号公報
【文献】特許第5569849号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】恒久グラウト注入工法技術マニュアル、地盤注入開発機構、2017
【文献】米倉亮三,島田俊介、「長期耐久性地盤注入工法の最近の動向-薬液注入の耐久性の研究から恒久グラウト本設注入技術への展望-」、2015年、基礎工、Vol.43、No.10、pp.1-9
【文献】久保井公彦,末政直晃,田中剛,佐々木隆光,島田俊介、「薬液注入工法により改良した矢板岸壁の地震時安定性」、2005年、第40回地盤工学研究発表会、pp.1809-1810
【文献】大藤恭平,末政直晃,佐々木隆光,島田俊介、「薬液注入工法を施した自立式鋼矢板の地震時安定性に関する研究」、2006年、第41回地盤工学研究発表会、pp.1681-1682
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1によると薬液注入工法による液状化対策の設計において、レベル2地震動に対する照査では、求められる液状化強度比は0.5~1.0となることより、注入材のシリカ濃度を高く設定する必要があるため、経済性が低下する傾向にある。
【0012】
これに対し、特許文献1または特許文献2記載の発明では、液状化に伴う側方流動を低減させるため、流動方向に薬液注入工法による改良体を構築するとともに、改良体内に引張り補強材を埋設する経済性を向上させた対策方法が提案されている。しかし、特許文献1または特許文献2記載の発明では改良範囲が限定され、ある程度の液状化を許容するため、港湾施設や危険物タンクなどの重要構造物に対しては十分な対策方法とは言えない。
【0013】
図1は未改良砂と薬液により改良された砂を対象に実施した三軸繰返し載荷試験結果であり、未改良砂では繰返し載荷に伴い、過剰間隙水圧比Δu/σ’cが徐々に増加(正の値)し、その値が0.9程度になると脆性的に軸ひずみεが生じる。これが一般的に液状化現象と称されている。一方、薬液改良砂では繰返し載荷初期より過剰間隙水圧比Δu/σ’cが発生しているが、載荷方向の圧縮側で正の値を、引張側で負の値を示し、未改良砂のような間隙水圧の蓄積はない。
【0014】
また、軸ひずみεも載荷初期に生じるものの、一定値に収束する傾向にある。このように薬液改良砂の繰返し載荷による変形特性は、未改良砂とは大きく異なり、液状化が発生していないにもかかわらず、液状化強度比RL20(DA=5%)(繰返し載荷回数が20回で両振幅歪が5%に達する応力比)で評価されるため、変形に対する粘り強さが評価されていない。
【0015】
また、液状化強度比RL20(DA=5%)は、図2に示すように一軸圧縮強さquと相関性があり、一軸圧縮強さの増加に伴い液状化強度比は大きくなる傾向にあることから、現行設計法における設計強度の設定や品質管理は一軸圧縮強さでなされている。
【0016】
なお、現行の薬液注入工法による液状化対策における設計では、地盤の液状化強度比Rを地震時せん断応力比Lで除した液状化安全率FL=R/Lが1以上になるように設定する。従って、レベル1地震動に対して求められる液状化強度Rはおおよそ0.2~0.5であり、この時の設計強度は一軸圧縮強さquで40~200kN/m2となる。
【0017】
一方、レベル2地震動では、液状化強度比Rが0.5~1.0程度必要となり、設計強度は一軸圧縮強さで200~500kN/m2となる。そして、施工する注入材のシリカ濃度を決定する事前配合試験においては、これらの設計強度に対し、安全率2.0を乗じた値を目標強度としている。
【0018】
図3は注入材のシリカ濃度SiO2(%)と一軸圧縮強さquの関係であるが、シリカ濃度の増加に伴い一軸圧縮強さは大きくなるが、その増加割合は砂によって異なる傾向にある。
【0019】
この増加割合に及ぼす影響としては、図4に示すように砂の平均粒径D50や相対密度Drが挙げられ、平均粒径の増加や相対密度の低下に伴い、同一のシリカ濃度における強度の発現割合が低くなる。
【0020】
従って、薬液改良土は液状化現象が生じていないにもかかわらず、砂の種類や密度、設計強度によっては経済性の低い改良設計となる場合や工法自体が不適合となる場合がある。
【0021】
本発明は従来技術における上述のような課題の解決を図ったものであり、薬液注入工法による液状化対策において、注入管のアンカー効果を取り入れることにより、大きな地震動に対し経済的な改良設計が行える地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
薬液改良土は一軸圧縮強さが50kN/m2程度あれば未改良砂でみられる液状化による脆性的な破壊は生じない。しかし、地震時に生じる最大せん断応力比により液状化判定を行うFL法では目標強度は高く設定される。
【0023】
そこで、本発明においては薬液注入により改良された砂は粘着力が増加し、液状化現象は生じないものと仮定する。さらに、改良地盤内に残置される注入管がアンカー体として機能し、地震動によって発生しようとする円弧滑りやせん断変形、滑動に抵抗することを期待する工法であり、その照査を震度法により行う設計方法である。
【0024】
すなわち、本発明は、地盤内に挿入した注入管を用いて注入材を注入し液状化対策としての地盤改良を行う薬液注入工法において、注入材の地盤への注入後、注入管を地盤内に残置し、地盤内に残置した注入管をアンカーとして機能させることにより、地震時の地盤の変形を抑止するようにしたことを特徴とする。
【0025】
注入管がアンカー効果を発揮することにより、地震時の液状化対策工法として、さらに円弧滑りまたはせん断変形、滑動を抑止することができる。
【0026】
注入液は非アルカリシリカ(強化土エンジニヤリング株式会社の登録商標第6322403号)を有効成分とする溶液型シリカグラウトである。非アルカリシリカグラウトとは、シリカコロイドと水ガラスのいずれか又は複数を有効成分とするpHが1~10の注入液をいう。
【0027】
注入管としては、薬液注入工法で用いられている塩化ビニル管や鋼管などを用いることができる。
【0028】
また、注入管の先端部に袋体を設け、袋体内に硬化性の充填材を充填して地盤内で拡大させることにより、注入管のアンカー効果を高めるようにすることもできる。
【0029】
また、注入管天端部位置に形成される削孔穴を、アスファルトまたはコンクリートで注入管と一体に埋め戻すことにより、アスファルトまたはコンクリートの表層と注入管と薬液注入による改良体が一体となって地震時の地盤の変形を抑止するようにすることもできる。
【0030】
さらに、注入管上端部どうしを引張り補強材で連結し、注入管と薬液注入による改良体が一体となって地震時の地盤の変形を抑止するようにすることもできる。
【0031】
本発明の地盤改良工法においては、注入管の引張強度に応じたアンカー効果を考慮した設計が可能となるため、薬液注入工法の注入材によって改良された地盤の設計強度が一軸圧縮強さで200kN/m2以下になるように設定することが可能である。
【0032】
また、注入材の地盤への注入後、注入管を地盤内に残置し、地盤内に残置した注入管をアンカーとして機能させることにより、地震時の地盤の変形を抑止するようにする地盤改良工法用の設計方法として、注入材によって改良された地盤の一軸圧縮強さを注入管のアンカー効果を考慮して設定する設計方法を用いることができる。その場合、上述のように、例えば改良体の一軸圧縮強さが200kN/m2以下となるように設定した設計が可能となる。
【0033】
本発明の地盤改良工法に用いる注入管としては、注入管の先端部に袋体が設けられており、袋体の内部に硬化性の充填材を充填することで袋体が地盤内で拡大するようにした地盤改良工法用注入管を用いることができ、地盤内で拡大することにより、高いアンカー効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は薬液注入工法による液状化対策において、注入管のアンカー効果を取り入れることにより、大きな地震動に対し経済的な改良設計が行えるものであり、護岸構造物背面や構造物基礎の液状化対策や耐震補強などに広く適用することができる。
【0035】
従来の設計法ではFL法であり、地震時の最大せん断応力比に対して十分な液状化強度を有するように設計するため、経済性が低下する傾向にあるが、本発明によると、薬液注入工法により砂に粘着力が付与され、せん断抵抗が増加することと、地盤内に残置する注入管がアンカー体として機能することにより、改良体の変形が抑止される工法であり、これを震度法により設計する手法である。その結果、注入材の濃度を低く設定することができ、経済性が向上することや、レベル2地震動に対する照査においては要求性能を満足することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】未改良砂と薬液により改良された砂を対象に実施した三軸繰返し載荷試験結果を示すグラフである。
図2】一軸圧縮強さquと液状化強度RLとの関係を示すグラフである。
図3】注入材のシリカ濃度SiO2(%)と一軸圧縮強さquとの関係を示すグラフである。
図4】平均粒径D50および相対密度Drが一軸圧縮強さquに及ぼす影響を示すグラフである。
図5】本発明の一実施形態として、本発明を控え杭矢板式岸壁に適用する場合の断面図である。
図6】改良断面における、震度法を用いたせん断抵抗に対する照査方法に関する説明図である。
図7】改良断面における、円弧滑りによる照査方法に関する説明図である。
図8】改良断面における、円弧滑りにおける分割片の応力状態の説明図である。
図9】改良断面における、活動に対する照査方法に関する説明図である。
図10】本発明の一実施形態における施工手順を示す断面図である。
図11】本発明における液状化対策検討断面を示す図である。
図12】検討結果としての一軸圧縮強さquと設計水平震度khの関係を示すグラフである。
図13】2007年に実施された仙台港中野地区高松埠頭岸壁における薬液注入による液状化対策の設計断面を示す図である。
図14】2011年の東北地方太平洋沖地震において、液状化対策を実施していない岸壁で液状化現象が生じていることを示す写真である。
図15】2011年の東北地方太平洋沖地震において、液状化対策として薬液注入を行った地盤で、岸壁背面の地盤や岸壁の法線に変状が見られなかったことを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図5に控え杭12を備えた矢板式岸壁11を例として本発明の実施形態を示す。
図中、符号1は注入管、符号2は注入管1の先端部に設けた袋体を示す。
【0038】
薬液注入による液状化の改良範囲は従来設計法と同様であり、深さ方向は液状化の可能性のある層を対象とし、矢板背面側の奥行方向は控え杭12の下端より、地震時主働崩壊角を立ち上げたところまでとする。
【0039】
また、注入管1の設置深度は、注入管1の先端部が非液状化層に貫入し、固定される状態が望ましいが、照査の結果、非液状化層と改良地盤の間において、せん断変形や円弧滑り、滑動が生じない場合には、注入管1の先端部は改良範囲内に留めてもよいものとする。
【0040】
また、使用する注入管1の素材は従来工法に用いる塩化ビニル製の注入管を用いることができ、大きなせん断抵抗あるいは引張抵抗を期待する目的で注入管の直径を選定することができる。
【0041】
しかし、直径の大きな注入管を選定した場合、注入管1を設置するための削孔工程において工期の長期化や経済性の低下が生じるため、高い剛性を有する鋼管を用いることが有用である。
【0042】
また、注入管1のアンカー効果をさらに高める方法として、注入管先端部に布製やゴム製、ビニル製などの袋体2が設けられており、この袋体2に硬化性のある懸濁液などを圧入し、地盤を締固めながら注入管1先端を非液状化層に固定するものである。
【0043】
この改良断面において、震度法を用いたせん断抵抗に対する照査方法を図6に示す。矢板高さがH1の背面地盤において、水平地震動khが加わったとき、改良体に深さH2のひび割れが生じ、幅Bのブロック状態にてせん断変形が生じる。
【0044】
この時の土塊の重量Wは式(1)、滑り面に直行する応力Nは式(2)で示される。従って、土塊がせん断変形しようとする力TDは式(3)、これに抵抗する力TRは式(4)で求められる。
【0045】
【数1】
【0046】
【数2】
【0047】
【数3】
【0048】
【数4】
【0049】
ここで、cは薬液改良土の粘着力、φは改良土の内部摩擦角、βはせん断滑り角、σは改良土の引張強さ、nはせん断領域内にある注入管の本数、Fは注入管1本あたりの鉛直方向への抵抗力である。
【0050】
なお、注入管1本あたりの抵抗力Fは、
a.土塊のせん断面以深の改良土と注入管の摩擦力より得られる引き抜き抵抗力、
b.非液状化層と注入管の摩擦力より得られる引き抜き抵抗力、
c.拡大した袋体の引き抜き抵抗力、
のいずれかを見込む。また、この抵抗力Fと注入管の引張強度を比較し、小さいほうの値にて算定を行う。
【0051】
算定方法はH2およびβをパラメータとし、式(5)に示すように、TRをTDにて除した安全率Fsが1となるように粘着力cを決定する。
【0052】
【数5】
【0053】
ここで、算定に用いる改良土の内部摩擦角φは、未改良砂のものと大きく違わないことより、その値を用いることができる。また、引張強さσは改良土の一軸圧縮強さquの1/8~1/10の値とし、一軸圧縮強さはモール・クーロンの破壊規準における幾何条件より、式(6)により求めることができる。
【0054】
【数6】
【0055】
図7及び図8は円弧滑りによる照査方法であるが、円弧滑りの一分割片におけるすべり面に生じる応力状態はせん断変形に対する照査で用いる式(3)および式(4)と同様であり、これを用いフェレニウス法やビショップ法などによって検討を行う。
【0056】
図9は滑動に対する照査方法であるが、改良地盤背面の液状化による流動圧または地震動による慣性力に対して改良体の重量から得られる改良体底盤の摩擦抵抗力と注入管のアンカー効果によって側方への滑りに対しての安定性について検討を行う。
【0057】
このように、せん断変形、円弧滑りおよび滑動に対する安定性を照査し、すべての項目について安定性を確保できる粘着力cを設計・施工管理基準値とする。
【0058】
図10は施工手順であり、その手順を次に説明する。
(a) 注入管を設置するため削孔を行う。なお、削孔は袋体アンカーを使用する場合、注入対象深度より深く行う。
(b) 袋体が取付けられた注入管を挿入し、シールグラウトを打設するとともに削孔管を引き抜く。
(c) 袋体アンカーに硬化性の充填材を圧入し、袋体を膨張させる。
(d) シール材のクラッキングを行う。
(e) 注入材を注入する。
(f) 削孔穴を舗装材で埋め戻し、舗装と注入管および改良体が一体となるようにする。
【0059】
〔実施例〕
図11は液状化対策を検討した断面である。検討対象は矢板高さが6.75mの控え杭式矢板岸壁である。また、改良土の湿潤密度ρは20.0kN/m3とし、内部摩擦角φは35°とした。また、注入管の間隔は1mの正方配列とし、その引抜抵抗力は20kN/本とした。
【0060】
また、算定方法はFL法と本特許にて提案するせん断滑りに対する安定性を震度法により行い、震度法においては注入管のアンカー効果の有無についても算定を行った。なお、震度法における検討では、せん断すべり角βは地震時主働崩壊角と一致すると仮定し、ここではβ=60°とした。
【0061】
検討結果として、図12に一軸圧縮強さquと設計水平震度khの関係を示す。一軸圧縮強さが比較的低い条件では、設計水平震度に対して必要な一軸圧縮強さは同程度となるが、レベル2地震動が想定される設計水平震度0.5以上の範囲では、FL法によるものは高い一軸圧縮強さが必要となる。一方、震度法によるものは同程度の設計水平震度に対して、FL法によるものと比較して必要な一軸圧縮強さは低く、さらに、アンカー効果を期待する場合では、必要な一軸圧縮強さを200kN/m2以下に設定することが可能となる。
【0062】
図13は2007年に実施された仙台港中野地区高松埠頭岸壁における薬液注入による液状化対策の設計断面である。なお、この改良工事における設計水平震度khは0.25であり、管理基準値として一軸圧縮強さは50kN/m2であった。
【0063】
2011年の東北地方太平洋沖地震において、改良地盤の近傍の地震計では400~1,000gal程度の加速度が計測されており、図14に示すように液状化対策を実施していない岸壁では液状化現象が生じている。一方、薬液注入を行った地盤では設計を遥かに超えた地震動が加えられているものの、図15に示すように岸壁背面の地盤や岸壁の法線に変状は見られない。
【0064】
このように、想定地震動が生じたにもかかわらず地盤の変状が見られなかった要因としては、注入管のせん断変形の抑止効果などが発揮されたこともその一員として挙げられる。
【符号の説明】
【0065】
1…注入管、2…袋体、
11…矢板式岸壁、12…控え杭
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15