(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】細胞滞留性蛍光化合物並びにそれを用いた細胞の染色方法及び高感度検出方法
(51)【国際特許分類】
C09B 57/02 20060101AFI20231116BHJP
C09B 57/00 20060101ALI20231116BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20231116BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20231116BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231116BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20231116BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C09B57/02 Z CSP
C09B57/00 C
C09K11/06
G01N33/48 P
G01N33/53 Y
G01N33/536 C
G01N33/48 M
G01N21/64 F
(21)【出願番号】P 2021526143
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2020023120
(87)【国際公開番号】W WO2020250998
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-06-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590005081
【氏名又は名称】株式会社同仁化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【氏名又は名称】宇野 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】大内 雄也
(72)【発明者】
【氏名】野口 克也
(72)【発明者】
【氏名】石山 宗孝
(72)【発明者】
【氏名】片山 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】森 健
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-512210(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0100792(US,A1)
【文献】国際公開第2018/079859(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/174460(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003686(WO,A1)
【文献】HYUN, Ji Young et al.,Trifunctional fluorogenic probes for fluorescence imaging and isolation of glycosidases in Cells,Organic Letters,2019.05, Vol.21, No.12,p.4439-4442
【文献】ITO, H. et al.,Red-shifted fluorogenic substrate for detection of lacZ-positive cells in living tissue with single-,Angewandte Chemie, International Edition,2018, Vol.57, No.48,p.15702-15706
【文献】DOURA, T. et al.,Detection of LacZ-positive cells in living tissue with single-cell resolution,Angewandte Chemie, International Edition,2016, Vol.55, No.33,p.9620-9624
【文献】KWAN, D. H. et al.,Self-immobilizing fluorogenic imaging agents of enzyme activity,Angewandte Chemie, International Edition,2011, Vol.50, No.1,p.300-303
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 57/02
C09B 57/00
C09K 11/06
G01N 33/48
G01N 33/53
G01N 33/536
G01N 21/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の
式(1)から(10)のいずれかで表される細胞滞留性蛍光化合物。
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項2】
標的細胞の表面に発現する抗原タンパク質に対する特異性を有する抗体に酵素を結合させた酵素標識抗体を該標的細胞に結合させる工程と、
前記酵素標識抗体が結合した前記標的細胞に、下記の
式(1)から(10)のいずれかで表される細胞滞留性蛍光化合物を接触させる工程を含む細胞の染色方法。
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項3】
前記標的細胞に発現する抗原タンパク質が、上皮成長因子受容体(EGFR)、HER2、PDL-1、PDL-2、WT-1、PD-1、CCR4、CD33、CD24、CD29、CD40、CD44、CD80、CD86、CD105、CD133、CD166、CD200、ESA、CXCR4、Stro-1、EpCAM、Integrin12b1、BMI-1のいずれかであることを特徴とする請求項
2に記載の細胞の染色方法。
【請求項4】
前記酵素標識抗体に含まれる前記酵素がβ-ガラクトシダーゼであり、
前記細胞滞留性蛍光化合物が、前記式(1)から(9)のいずれかで表されることを特徴とする請求項
2又は
3に記載の細胞の染色方法。
【請求項5】
前記酵素標識抗体に含まれる前記酵素がアルカリホスファターゼであり、
前記細胞滞留性蛍光化合物が、前記式(10)で表されることを特徴とする請求項
2又は
3に記載の細胞の染色方法。
【請求項6】
請求項
2から
5のいずれか1項に記載の細胞の染色方法を用いて、標的細胞の染色を行う工程と、
蛍光法を用いて染色された前記標的細胞を検出する工程を含む細胞の高感度検出方法。
【請求項7】
染色された前記標的細胞の検出にフローサイトメトリー又は蛍光イメージングを用いることを特徴とする請求項
6に記載の細胞の高感度検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の細胞に対し高い特異性を有する細胞の染色技術の改良に関し、より具体的には細胞滞留性蛍光化合物並びにそれを用いた細胞の染色方法及び高感度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種疾患の診断及び治療の分野において、がん細胞等の特定の疾患に罹患した細胞上に高発現する細胞表面タンパク質を標的とする抗体医薬や高感度検出方法が注目を集めている。特定疾患のマーカーとなるタンパク質は多数知られており、疾患の早期発見、早期治療等のためにそれらのマーカータンパク質を高感度で検出する方法に対するニーズが高まりつつある。しかしながら、マーカータンパク質には発現量が少ないものが多く、従来技術では検出及び解析が困難なものが多い。例えば、フローサイトメトリーで解析可能なタンパク質は、細胞1個あたり104コピー以上の発現量を有するものに限られており、このようなマーカータンパク質は、既知のマーカータンパク質全体の約35%に過ぎず、既知のマーカータンパク質全体の約37%は、細胞1個あたりの発現量が103コピー以下であると言われている。
【0003】
従来法に係る細胞表面マーカータンパク質の特異的な検出方法としては、蛍光基で修飾した抗体を用い、標的となるマーカータンパク質に蛍光修飾抗体を結合させ、蛍光検出法を用いて読み出す方法が広く知られている(例えば、非特許文献1参照)。この方法の欠点は感度が低いことであり、検出限界が細胞1個あたり103コピーであるため、適用対象が限られるという問題が存在する。
【0004】
抗体と蛍光色素を用いる高感度検出方法として提案されているものの1つに、CARD法(CAtalyzed Reporter Deposition法)と呼ばれる方法がある(例えば、非特許文献2参照)。この方法では、HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)で修飾した抗体を標的となる細胞表面マーカータンパク質に結合させ、HRPと過酸化水素を用いてチラミド色素を酸化し、生成するチラミドラジカルとタンパク質のチロシン残基のヒドロキシフェニル基の間で結合を形成させることによりチラミド色素を細胞表面に固定化することで、細胞特異的な蛍光染色とシグナル増幅を可能にしている(下式参照)。しかしながら、この方法によるシグナル増幅の効果は蛍光標識抗体を用いた場合の10倍程度であり、依然感度が低いという問題が残っている。また、チラミドラジカルによる細胞毒性のため、生細胞系への適用が制限されるおそれもある。
【0005】
【0006】
上記の課題の解決策として、HRP以外の酵素で修飾した抗体と、疎水性の蛍光基に当該酵素の基質となる、すなわち酵素反応により切断される親水基を導入した蛍光色素を組み合わせて用いる方法(CARP法)が提案された(特許文献1参照)。標的となるマーカータンパク質に酵素修飾抗体が結合した細胞に、親水基が結合した蛍光色素(親水性を有するため、細胞膜透過性を有しない)が接近し、酵素の作用により親水基が切断されると、蛍光色素は細胞膜透過性を有するようになり、細胞膜上を拡散したり、細胞膜を透過したりすることにより細胞内に蓄積され、従来法よりも高感度での検出が可能になる(下式参照)。
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、CARP法で用いられる蛍光色素は細胞内滞留性が低く、細胞からの漏出や、それに伴い、標的となる細胞表面マーカータンパク質が発現していない他の細胞に対する非特異的な蛍光染色を引き起こす可能性がある。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、標的となる細胞表面タンパク質が発現した細胞のみを特異的かつ高感度に検出することを可能にする細胞滞留性蛍光化合物並びにそれを用いた細胞の染色方法及び高感度検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、下記の一般式(I)で表される細胞滞留性蛍光化合物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0011】
【0012】
なお、上記一般式(I)において、
Aは酵素反応により切断される1価の親水基であり、
R1、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、下記の(a)、(b)及び(c)からなる群より選択される原子又は原子団であり、
(a)水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シアノ基
(b)1又は複数の水素原子が他の原子又は原子団で置換されていてもよく、かつ炭素骨格中に、二重結合、三重結合、アミノ基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合及び尿素結合のいずれか1又は複数を含んでいてもよい直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びヘテロアリール基
(c)エステル基、アミド基、ウレタン基及び尿素基
R1、R3又はR5は、ベンジル位にフッ素原子を1つ又は2つ有するアルキル基であり、
R1、R2、R3、R4及びR5のいずれか1つは、疎水性の蛍光基を含み、
或いは、R1、R2、R3、R4及びR5のうち、ベンジル位にフッ素原子を1つ又は2つ有するアルキル基を除く隣り合う2つは、原子又は原子団を共有し環を形成し、当該環が結合したベンゼン環と共に疎水性の蛍光基を形成していてもよい。
【0013】
本発明の第1の態様に係る細胞滞留性蛍光化合物において、前記疎水性の蛍光基が細胞膜透過性を有することが好ましい。
【0014】
本発明の第1の態様に係る細胞滞留性蛍光化合物を表す前記一般式(I)において、Aがβ-D-ガラクトキシル基又はリン酸基であってもよい。
【0015】
本発明の第1の態様に係る細胞滞留性蛍光化合物を表す前記一般式(I)において、R1又はR5がフルオロメチル基若しくはジフルオロメチル基であることが好ましい。
【0016】
本発明の第1の態様に係る細胞滞留性蛍光化合物が、下記の式(1)から(10)のいずれかで表されることが好ましい。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
本発明の第2の態様は、標的細胞の表面に発現する抗原タンパク質に対し特異性を有する抗体に酵素を結合させた酵素標識抗体を該標的細胞に結合させる工程と、前記酵素標識抗体が結合した前記標的細胞に、下記の一般式(I)で表される細胞滞留性蛍光化合物を接触させる工程を含む細胞の染色方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0021】
【0022】
なお、上記一般式(I)において、
Aは前記酵素標識抗体に結合した酵素に触媒される反応により切断される1価の親水基であり、
R1、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、下記の(a)、(b)及び(c)からなる群より選択される原子又は原子団であり、
(a)水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シアノ基
(b)1又は複数の水素原子が他の原子又は原子団で置換されていてもよく、かつ炭素骨格中に、二重結合、三重結合、アミノ基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合及び尿素結合のいずれか1又は複数を含んでいてもよい直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びヘテロアリール基
(c)エステル基、アミド基、ウレタン基及び尿素基
R1、R3又はR5は、ベンジル位にフッ素原子を1つ又は2つ有するアルキル基であり、
R1、R2、R3、R4及びR5のいずれか1つは、疎水性の蛍光基を含み、
或いは、R1、R2、R3、R4及びR5のうち、ベンジル位にフッ素原子を1つ又は2つ有するアルキル基を除く隣り合う2つは、原子又は原子団を共有し環を形成し、当該環が結合したベンゼン環と共に疎水性の蛍光基を形成していてもよい。
【0023】
本発明の第2の態様に係る細胞の染色方法において、前記標的細胞に発現する抗原タンパク質が、上皮成長因子受容体(EGFR)、HER2、PDL-1、PDL-2、WT-1、PD-1、CCR4、CD33、CD24、CD29、CD40、CD44、CD80、CD86、CD105、CD133、CD166、CD200、ESA、CXCR4、Stro-1、EpCAM、Integrin12b1、BMI-1のいずれかであってもよい。
【0024】
本発明の第2の態様に係る細胞の染色方法において、前記酵素標識抗体に含まれる前記酵素がβ-ガラクトシダーゼであり、前記一般式(I)において、Aがβ-D-ガラクトキシル基であってもよい。或いは、本発明の第2の態様に係る細胞の染色方法において、前記酵素標識抗体に含まれる前記酵素がアルカリホスファターゼであり、前記一般式(I)において、Aがリン酸基であってもよい。
【0025】
本発明の第2の態様に係る細胞の染色方法に用いられる前記細胞滞留性蛍光化合物を表す前記一般式(I)において、R1又はR5がフルオロメチル基若しくはジフルオロメチル基であることが好ましい。
【0026】
本発明の第2の態様に係る細胞の染色方法において、前記細胞滞留性蛍光化合物が、下記の式(1)から(10)のいずれかで表されることが好ましい。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係る細胞の染色方法を用いて、標的細胞の染色を行う工程と、蛍光法を用いて染色された前記標的細胞を検出する工程を含む細胞の高感度検出方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0031】
本発明の第3の態様に係る細胞の高感度検出方法において、染色された前記標的細胞の検出にフローサイトメトリー又は蛍光イメージングを用いてもよい。
【発明の効果】
【0032】
一般式(I)で表される本発明の細胞滞留性蛍光化合物は、親水基Aを有しているため、そのままでは細胞膜透過性を有しないが、酵素反応により親水基Aが切断されると疎水性が増大し、細胞膜透過性を発現する。更に、親水基Aの切断と同時に、ベンジル位にフッ素原子を1つ又は2つ有するアルキル基であるR1、R3又はR5からフッ化水素が脱離することにより、キノンメチドが生成する。キノンメチドは求電子的なマイケル付加受容体であり、タンパク質中のアミノ基又はスルフヒドリル基等と反応し細胞に強く結合することにより細胞滞留性を発現する。このように、本発明の細胞滞留性蛍光化合物は、例えば、親水基Aを切断する反応を触媒する活性を有する酵素で修飾された酵素修飾抗体と組み合わせることにより、酵素修飾抗体の標的となるタンパク質が細胞表面に発現した細胞を特異的に蛍光染色することができる。かくして、本発明によると、標的となる細胞表面タンパク質が発現した細胞のみを特異的かつ高感度に検出することを可能にする細胞滞留性蛍光化合物並びにそれを用いた細胞の染色方法及び高感度検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】酵素反応の前後における化合物1のUV-VISスペクトルの変化を示す図である。
【
図2】酵素反応の前後における化合物1の蛍光発光スペクトルの変化を示す図である。
【
図3】酵素反応後の化合物1の蛍光強度の経時変化を示す図である。
【
図4】CD44を標的としたA549細胞の特異的蛍光染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図5】PD-L1発現HepG2細胞の特異的蛍光染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図6】CD44を表面抗原としたHeLa細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示すヒストグラムである。
【
図7】CD44を表面抗原としたHeLa細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示すヒストグラムである。
【
図8】CD44を表面抗原としたHeLa細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示すヒストグラムである。
【
図9】CD44を表面抗原としたHeLa細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示すヒストグラムである。
【
図10】CD44を表面抗原としたHeLa細胞の蛍光染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の実施の形態に係る細胞滞留性蛍光化合物(以下、単に「細胞滞留性蛍光化合物」と略称する場合がある。)は、下記の一般式(I)で表される。
【0035】
【0036】
なお、上記一般式(I)において、Aは、酵素反応(酵素に触媒される反応)により、Aとフェノール性酸素との間の結合が切断される1価の親水基である。
【0037】
酵素反応によりフェノール性酸素との間の結合が切断される1価の親水基Aとしては、加水分解酵素の基質となり得る任意のものを特に制限なく用いることができる。Aの具体例としては、リン酸基、硫酸基、グルコシル基、ガラクトキシル基、キシロシル基、グルクロン酸基等が挙げられる。
【0038】
上記一般式(I)において、R1、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、下記の(a)、(b)及び(c)からなる群より選択される原子又は原子団である。なお、以下の説明において、Rは水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1以上10以下)又は蛍光基(具他例については後述する。)を表し、Rが複数存在する場合、それらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
(a)水素原子(-H)、ヒドロキシル基(-OH)、アルコキシル基(-OR)、ハロゲン原子(-F、-Cl、-Br、-I)、アミノ基(-NR2)、ニトロ基(-NO2)、スルホン酸基(-SO3H又はその塩)、スルホンアミド基(-SO2NR2)、シアノ基(-CN)
(b)1又は複数の水素原子が他の原子又は原子団で置換されていてもよく、かつ炭素骨格中に、二重結合、三重結合、アミノ基(-NR-)、酸素原子(-O-)、ケイ素原子(-SiR2-)、硫黄原子(-S-)、カルボニル基(-C(=O)-)、エステル結合(-O-C(=O)-)又は-C(=O)-O-)、アミド結合(-NR-C(=O)-)又は-C(=O)-NR-)、ウレタン結合(-O-C(=O)-NR-)又は-NR-C(=O)-O-)及び尿素結合(-NR-C(=O)-NR-)のいずれか1又は複数を含んでいてもよい直鎖アルキル基(例えば、炭素数1以上10以下)、分岐鎖アルキル基(例えば、炭素数1以上10以下)、シクロアルキル基(例えば、炭素数3以上10以下)、アルケニル基(末端に二重結合を含み、例えば、炭素数2以上10以下の炭化水素基)、アルキニル基(末端に三重結合を含み、例えば、炭素数2以上10以下の炭化水素基)、アリール基(1又は複数の単環式又は縮合環式芳香族環を含む炭化水素基)及びヘテロアリール基(1又は複数の単環式又は縮合環式芳香族環を含み、1又は複数の炭素原子が、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子等のヘテロ原子で置換された原子団)
(c)エステル基(-O-C(=O)-R)又は-C(=O)-O-R)、アミド基(-NR-C(=O)-R)又は-C(=O)-NR-R)、ウレタン基(-O-C(=O)-NR-R)又は-NR-C(=O)-O-R)及び尿素基(-NR-C(=O)-NR-R)
【0039】
上記一般式(I)において、R1、R3又はR5は、ベンジル位にフッ素原子を1つ又は2つ有するアルキル基(例えば、炭素数1以上10以下)であり、R1、R2、R3、R4及びR5のいずれか1つは、疎水性の蛍光基を含み、或いは、R1、R2、R3、R4及びR5のうち、ベンジル位にフッ素原子を1つ又は2つ有するアルキル基を除く隣り合う2つは、原子又は原子団を共有し環を形成し、当該環が結合したベンゼン環と共に疎水性の蛍光基を形成していてもよい。
【0040】
疎水性の蛍光基としては、所望の発光波長及び励起波長を有する任意の公知のものを、特に制限なく用いることができる。疎水性の蛍光基は、細胞膜透過性を有していることが好ましい。また、疎水性の蛍光基は、一般式(I)のR1、R2、R3、R4及びR5のいずれか1つに含まれていてもよく、或いは、R1、R2、R3、R4及びR5のうち、ベンジル位にフッ素原子を1つ又は2つ有するアルキル基を除く隣り合う2つが原子を共有することにより環を形成し、当該環が結合したベンゼン環と共に疎水性の蛍光基を形成していてもよい。疎水性の蛍光基の具体例としては、クマリン誘導体、フルオレセイン誘導体、ボロンジピロメテン誘導体、ローダミン誘導体、ロドール誘導体、シアニン誘導体、キサンテン誘導体、レゾルフィン誘導体、ピレン誘導体、ナフタルイミド誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、DDAO誘導体、ダンシル誘導体、スクアレン誘導体等が挙げられる。
【0041】
R1、R3又はR5は、ベンジル位にフッ素原子を1つ又は2つ有するアルキル基であるが、これは、Aの切断によりo-又はp-キノンメチドを生成するための条件であり、好ましくはフルオロメチル基である。
【0042】
好ましい化合物の具体例としては、下記の式(1)から(10)のいずれかで表されるものが挙げられる。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
細胞滞留性蛍光化合物は、任意の公知の方法を用いて合成することができる。いくつかの具体例については、実施例において説明する。
【0047】
本発明の第2の実施の形態に係る細胞の染色方法は、標的細胞の表面に発現する抗原タンパク質に対し特異性を有する抗体に酵素を結合させた酵素標識抗体を該標的細胞に結合させる工程と、前記酵素標識抗体が結合した前記標的細胞に、上記の一般式(I)で表される細胞滞留性蛍光化合物を接触させる工程を含んでいる。
【0048】
酵素標識抗体の製造に用いられる抗体タンパク質としては、標的細胞の表面に発現するタンパク質、好ましくは標的細胞の表面に特異的に発現するタンパク質を抗原とする任意の抗体を特に制限なく用いることができる。抗原タンパク質の具体例としては、上皮成長因子受容体(EGFR)、HER2、PDL-1、PDL-2、WT-1、PD-1、CCR4、CD33、CD24、CD29、CD40、CD44、CD80、CD86、CD105、CD133、CD166、CD200、ESA、CXCR4、Stro-1、EpCAM、Integrin12b1、BMI-1等が挙げられる。
【0049】
抗体としては、ハイブリドーマを用いて作出されたモノクローナル抗体、動物(マウス、ラット、ヤギ等)への抗原の投与により得られるポリクローナル抗体、動物由来のポリクローナル抗体のFc領域をヒト由来免疫グロブリンのものに置換したヒト化抗体等が挙げられる。
【0050】
抗体の標識に用いられる酵素としては、一般式(I)で表される細胞滞留性蛍光化合物のAとフェノール性酸素との間の結合を切断する反応を触媒する活性を有する任意の加水分解酵素を、細胞滞留性蛍光化合物に用いたAの種類に応じて適宜選択して用いることができる。酵素の具体例としては、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ等が挙げられる。
【0051】
酵素による抗体の標識は、結合基を介して酵素と抗体を結合させることをいい、酵素と抗体の標識部位及び用いられる結合基は、それぞれの機能を阻害しない限りにおいて特に制限されない。酵素による抗体の標識には、例えば、リンカーを介した共有結合、一次抗体と二次抗体の結合、ビオチンとアビジンの複合体形成が好ましく用いられる。酵素標識抗体の標的細胞表面への結合は、酵素標識抗体を直接標的細胞の表面に結合させることにより行ってもよく、一次抗体又はビオチン標識抗体を標的細胞の表面に結合させ、次いで酵素標識二次抗体又はアビジン標識酵素を、先に標的細胞表面に結合させた一次抗体又はビオチン標識抗体と結合させることにより行ってもよい。
【0052】
酵素標識抗体が結合した細胞の表面に細胞滞留性蛍光化合物が接近すると、抗体に結合した酵素の作用により細胞滞留性蛍光化合物の親水基Aが加水分解により切断される。それに伴い、細胞滞留性蛍光化合物が細胞膜透過性を発現すると共に反応性の高いキノンメチドを生成する。キノンメチドが標的細胞の表面又は内部のタンパク質と結合することにより、標的細胞は、特異的に蛍光染色される。
【0053】
本発明の第3の実施の形態に係る細胞の高感度検出方法は、本発明の第2の実施の形態に係る細胞の染色方法を用いて、標的細胞の染色を行う工程と、蛍光法を用いて染色された前記標的細胞を検出する工程を含んでいる。
【0054】
標的細胞は、酵素標識抗体の認識対象となるタンパク質を表面に発現する任意の細胞であってよい。標的細胞の具体例としては、上皮成長因子受容体(EGFR)、HER2、PDL-1、PDL-2、WT-1、PD-1、CCR4、CD33、CD24、CD29、CD40、CD44、CD80、CD86、CD105、CD133、CD166、CD200、ESA、CXCR4、Stro-1、EpCAM、Integrin12b1、BMI-1等の特定の疾患マーカーが発現した細胞が挙げられる。
【0055】
上述のとおり、酵素標識抗体において抗体に結合した酵素の作用による細胞滞留性蛍光化合物の親水基Aの切断がトリガーとなり、細胞滞留性蛍光化合物が細胞膜透過性を発現すると共に反応性の高いキノンメチドを生成し、それが標的細胞の表面又は内部のタンパク質と結合することにより、標的細胞は蛍光染色される。蛍光染色された細胞の検出には、蛍光イメージング法やフローサイトメトリー法等の任意の公知の方法を用いることができるが、例えば、フローサイトメトリー法が好ましく用いられる。
【0056】
本発明によると、特定の表面タンパク質が発現した細胞を特異的に蛍光染色し、高感度に検出できるため、それを利用した特定疾患の高感度診断方法、上述の細胞滞留性蛍光化合物及び酵素標識抗体を含む特定細胞の高感度検出キットも提供される。それらもまた、本発明の実施形態に含まれうる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。本実施例は具体的な実施態様の説明のためのものであり、本発明を限定するものではない。なお、以下の実施例において、「式(n)で表される化合物」を「化合物n」と称する場合がある。
【0058】
実施例1:化合物1の合成
下記のスキームにしたがって化合物1の合成を行った。
【0059】
【0060】
中間体Aの合成
【0061】
【0062】
300mLナスフラスコに、ヘキサメチレンテトラミン(20g、143mmol)、4-メチルクマリン(10g、57mmol)、酢酸(75mL)を入れた。オイルバスを95℃にセットし、スターラーで撹拌しながら、4時間反応させた。室温に戻した後、希塩酸140mLを加えた。95℃に加温し、1時間更に反応させた。その後、酢酸エチル100mLを加え抽出操作を行った。酢酸エチル層を濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、微黄白色粉末として720mg(3.5mmol、2.5%)の中間体Aを得た。
【0063】
1H-NMR(DMSO-d6): δ 11.90(1H), 10.45(2H), 7.96-7.93(1H), 6.99-6.97(1H), 6.31(1H), 2.14(3H).
【0064】
中間体Bの合成
【0065】
【0066】
50mLナスフラスコに、中間体A 500mg(2.45mmol)、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-D-ガラクトピラノシルブロミド3.0g(7.35mmol)、クロロホルム20mL及び5%水酸化ナトリウム水溶液6mLを加え、室温で終夜攪拌した。その後、クロロホルム80mL及び飽和食塩水20mLを加え、抽出操作を行った。クロロホルム層を濃縮し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、白色粉末として600mg(1.1mmol、46%)の中間体Bを得た。
【0067】
1H-NMR(acetone-d6): δ 10.46(1H), 8.04(1H), 7.39(1H), 7.37(1H), 6.29(1H), 5.68(1H), 5.35(2H), 5.19(1H), 4.57(1H), 4.24(2H), 2.49(3H), 2.48(3H), 2.18-1.91(12H).
【0068】
中間体Cの合成
【0069】
【0070】
100mL二口ナスフラスコに、中間体B 0.57g(1.1mmol)、脱水THF 20mLを加え、アルゴン風船を付しアルゴンに置換した。フラスコを氷浴に浸け、LiAlH(OtBu)3 4mLをシリンジで滴下した。そのまま室温で一晩反応させた後、飽和塩化アンモニウム水溶液10mL、飽和食塩水100mL及び酢酸エチル100mLを加え、抽出操作を行った。酢酸エチル層を濃縮後、HPLCにて精製し、白色粉末として68mg(0.12mmol、12%)の中間体Cを得た。
【0071】
1H-NMR(CD3OD): δ 7.78(1H), 7.26(1H), 6.28(1H), 5.53-5.45(3H), 5.31(1H), 4.83(2H), 4.39(1H), 4.23(2H), 2.49(3H), 2.21(3H), 2.10-2.00(9H).
【0072】
中間体Dの合成
【0073】
【0074】
200mLナスフラスコに、中間体C 550mg(1.0mmol)、クロロホルム100mL及びDAST(三フッ化N,N-ジエチルアミノ硫黄)400μL(2.0mmol)を加え、30分間室温で反応させた。反応液を濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、白色粉末として530mg(0.99mmol、99%)の中間体Dを得た。
【0075】
1H-NMR(CD3OD): δ 7.92(1H), 7.27(1H), 6.28(1H), 5.65-5.52(1H), 5.49-5.45(5H), 5.31(1H), 4.42(1H), 4.26(3H), 2.49(3H), 2.21(3H), 2.10-1.98(9H).
【0076】
化合物1の合成
【0077】
【0078】
50mLナスフラスコに、中間体D 100mg(0.19mmol)、メタノール5mL及びナトリウムメトキシド5mg(0.01mmol)を加えた。室温で1時間反応させた後、純水1mLを滴下し、反応を終了させた。反応液を濃縮後、HPLCにて精製し、白色粉末として11mg(30μmol、16%)の化合物1を得た。
【0079】
1H-NMR(CD3OD): δ 7.86(1H), 7.35(1H), 6.28(1H), 5.83(1H), 5.73(1H), 5.07(1H), 3.95(2H), 3.92(3H), 3.64(1H), 3.50(2H), 2.50(3H).
【0080】
実施例2:化合物8の合成
下記のスキームにしたがって化合物8の合成を行った。
【0081】
【0082】
中間体Eの合成
【0083】
【0084】
300mLナスフラスコに2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド5g(36mmol)、メルドラム酸5.2g(36mmol)、酢酸ピペリジン105mg及びエタノール100mLを加え、80℃で3時間加熱攪拌した。室温に戻した後、析出した結晶をろ取し、白色粉末として、4.8g(23mmol、65%)の中間体Eを得た。
【0085】
1H-NMR (DMSO-d6): δ 6.75 (1H, s), 6.86 (1H, d, J=8.52 Hz), 7.76 (1H, d, J=8.60 Hz), 8.69 (1H, s), 11.13 (1H,brs), 12.86 (1H, brs).
【0086】
中間体Fの合成
【0087】
【0088】
300mLナスフラスコに、中間体E 4.8g(23mmol)、炭酸N,N’-スクシンイミジル8.8g(34.5mmol)、4-ジメチルアミノピリジン10mg、DMF30mL及びトリエチルアミン360μLを加え、室温で一晩攪拌した。その後、40mLの2MエチルアミンTHF溶液(80mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応後、濃縮し、水20mLを加え結晶化後、ろ取し、黄色粉末として4.3g(18.4mmol、80%)の中間体Fを得た。
【0089】
1H-NMR (DMSO-d6): δ 1.13 (3H, t, J=7.16 Hz), 6.80 (1H, s), 6.88 (1H, d, J=8.56 Hz), 7.81 (1H, d, J=8.60 Hz), 8.62 (1H, s), 8.78 (1H, s).
【0090】
中間体Gの合成
【0091】
【0092】
1Lナスフラスコに、中間体F 3.0g(12.9mmol)、ヘキサメチレンテトラミン(9g、64mmol)、ジオキサン200mL及びトリフルオロ酢酸25mLを入れた。オイルバスを110℃にセットし、スターラーで撹拌しながら、一晩反応させた。室温に戻した後、水50mLを加えた。80℃に加温し、1時間更に反応させた。反応液を濃縮後、水100mLを加え結晶化させ、ろ取し、黄色粉末として860mg(3.3mmol、26%)の中間体Gを得た。
【0093】
1H-NMR (DMSO-d6): δ 1.13 (3H, t, J=7.09 Hz), 3.34 (2H, m), 7.05 (1H, d, J=8.80 Hz), 8.12 (1H, d, J=8.80 Hz), 8.57 (1H, t, J=5.50 Hz), 8.83 (1H, s), 10.44 (1H, s).
【0094】
中間体Hの合成
【0095】
【0096】
500mLナスフラスコに、中間体G 856mg(3.3mmol)、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-D-ガラクトピラノシルブロミド6.8g(16.5mmol)、Ag2O 4.5g(20mmol)、モレキュラーシーブ2g及びトルエン100mLを加えた。その後、110℃に加温し、2時間攪拌した。Ag2Oをろ別後、濃縮し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、粗製品として中間体Hを含む白色フォーム状物2.5gを得た。
【0097】
MS (ES+): m/z calc.: 614.14; found: 613.97 [M+Na]+
【0098】
中間体Iの合成
【0099】
【0100】
100mLナスフラスコに、中間体H 100mg(0.17mmol)、酢酸10mLを加え、次いでNaBH3CN10mgを加えた。室温で1時間反応させた後、濃縮乾固し、粗製品として中間体Iを含む白色粉末110mgを得た。
【0101】
MS (ES-): m/z calc.: 628.14; found: 628.36 [M+Cl]-
【0102】
中間体Jの合成
【0103】
【0104】
100mLナスフラスコに、中間体I 110mg及びジクロロメタン10mLを加えた後、中間体Iが消失するまでFLUOLEAD(4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニル硫黄トリフルオリド)を加え、30分間室温で反応させた。反応液にメタノール10mLを加え反応をクエンチした後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、白色粉末として20mg(0.34mmol、28%(3段階の全収率))の中間体Jを得た。
【0105】
MS (ES-): m/z calc.: 630.14; found: 630.24 [M+Cl]-
【0106】
化合物8の合成
【0107】
【0108】
50mLナスフラスコに、中間体J 20mg(0.34mmol)、メタノール5mL及びナトリウムメトキシド5mg(0.09mmol)を加えた。室温で1時間反応させた後、純水1mLを滴下し、反応を終了させた。反応液を濃縮後、HPLCにて精製し、白色粉末として5mg(12μmol、34%)の化合物8を得た。
【0109】
1H-NMR (CD3OD): δ 1.27 (3H, t, J=7.21 Hz), 3.48 (4H, m), 3.62 (2H, m), 3.79 (3H, s), 3.93 (2H, m), 4.50 (2H, q, J=7.02 Hz), 5.11 (2H, d, J=7.92 Hz), 5.77 (2H, m), 7.41 (1H, d, J=9.28 Hz), 7.91 (2H, m), 8.85 (1H, s), 9.00 (1H, brs).
【0110】
実施例3:化合物3の合成
下記のスキームにしたがって化合物3の合成を行った。
【0111】
【0112】
中間体Kの合成
【0113】
【0114】
300mLナスフラスコに、フルオレセイン5g(15mmol)、DMF50mL、ヨウ化メチル4.26g(30mmol)及び炭酸セシウム9.75g(30mmol)を加え、3時間90℃加温攪拌した。室温に戻し、沈殿物をろ取した。ろ取物を10mLのMeOHに懸濁し、1M NaOH水溶液30mLを加え、濃縮後、水20mLを加え、1M HClでpH4に調整し、酸析した。沈殿物をろ取し、黄色粉末として1.9g(5.5mmol、37%)の中間体Kを得た。
【0115】
1H-NMR (CD3OD): δ 3.87 (3H, d), 6.60 (2H, q, J=14.04 Hz), 6.71 (3H, s), 6.89 (1H, s), 7.22 (1H, d, J=7.52 Hz), 7.75 (2H, m, J=8.11 Hz), 8.03 (2H, d, J=7.52 Hz).
【0116】
中間体Lの合成
【0117】
【0118】
300mLナスフラスコに、ヘキサメチレンテトラミン2.5g(17.5mmol)、中間体K 1.2g(3.5mmol)、ジオキサン130mL及びトリフルオロ酢酸13mLを入れた。オイルバスを110℃にセットし、スターラーで撹拌しながら、6.5時間反応させた。室温に戻した後、水30mLを加えた。90℃に加温し、30分間反応させた。その後、水300mL及び酢酸エチル700mLを加え抽出操作を行った。酢酸エチル層を濃縮後、カラムクロマトグラフィーを用いて精製し、微黄白色粉末として、254mg(0.68mmol、19%)の中間体Lを得た。
【0119】
1H-NMR (CDCl3): δ 3.86 (3H, s), 6.67 (3H, m), 6.84 (1H, s), 6.91 (1H, d, J=9.04 Hz), 7.17 (1H, d, J=7.52 Hz), 7.67 (2H, m, J=7.07 Hz), 8.04 (1H, d, J=7.36 Hz), 10.7 (1H, s), 12.17 (1H, s).
【0120】
中間体Mの合成
【0121】
【0122】
50mLナスフラスコに、中間体L 355mg(0.95mmol)、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-D-ガラクトピラノシルブロミド1.95g(4.74mmol)、トルエン50mL及びAg2O 1.32g(5.69mmol)を加え、110℃で1時間攪拌した。その後、ろ過し、濃縮後、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、白色粉末として390mg(0.55mmol、58%)の中間体Mを得た。
【0123】
1H-NMR (CDCl3): δ 1.98 (3H, s), 2.05 (6H, m), 2.10 (3H, d, J=7.46 Hz), 2.19 (3H, d, J=4.89 Hz), 3.86 (3H, s), 4.03 (1H, q, J=7.74 Hz), 4.14 (3H, m), 5.10 (2H, q, J=8.94 Hz), 5.45 (1H, q, J=4.16 Hz), 5.59 (1H, m), 6.68 (2H, m), 6.84 (1H, t, J=8.03 Hz), 6.89 (1H, s), 6.98 (1H, t, J=9.32 Hz), 7.15 (1H, q, J=7.96 Hz), 7.67 (2H, m), 8.04 (1H, d, J=7.46 Hz), 10.58 (1H, s).
【0124】
中間体Nの合成
【0125】
【0126】
50mL二口ナスフラスコに、中間体M 0.16g(0.22mmol)、脱水THF5mLを加え、アルゴン風船を付しアルゴンに置換した。フラスコを氷浴に浸け、1M LiAlH(OtBu)3 1.1mLをシリンジで滴下した。そのまま室温で5時間反応させた後、飽和塩化アンモニウム水溶液10mL、飽和食塩水100mL及び酢酸エチル100mLを加え、抽出操作を行った。酢酸エチル層を濃縮後、176mgの粗成物を得た。
【0127】
中間体Oの合成
【0128】
【0129】
50mL二口ナスフラスコに、中間体N 176mg(0.25mmol)、クロロホルム8mL及びDAST100μL(0.76mmol)を加え、2時間室温で反応させた。反応液を濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色粉末として38.5mg(0.063mmol、25%)の中間体Oを得た。
【0130】
19F-NMR (CDCl3): δ -209.38 (1F, td, J=47.71, 170.72 Hz).
【0131】
化合物3の合成
【0132】
【0133】
50mLナスフラスコに、中間体O 11.7mg(16.5μmol)、メタノール1mL及びナトリウムメトキシド6μL(28μmol)を加えた。室温で1時間反応させた後、純水を1mL滴下し、反応を終了させた。反応液を濃縮後、HPLCにて精製し、白色粉末として3mg(5.6μmol、33%)の化合物3を得た。
【0134】
1H-NMR (CD3OD): δ 3.59 (1H, m), 3.71 (2H, m), 3.89 (3H, s), 4.95 (1H, q, J=7.93 Hz), 5.80 (1H, s), 5.92 (1H, s), 6.73 (2H, s), 6.84 (1H, d, J=8.64 Hz), 6.98 (1H, s), 7.06 (1H, d, J=8.84 Hz), 7.24 (1H, d, J=7.92 Hz), 7.77 (2H, m), 8.05 (1H, d, J=7.36 Hz).
【0135】
実施例4:化合物9の合成
下記のスキームにしたがって化合物9の合成を行った。
【0136】
【0137】
中間体Pの合成
【0138】
【0139】
1Lナスフラスコに、1-O-メチル2,3,6-トリ-O-ベンゾイル-α-D-ガラクトピラノシド10.3g(19.3mmol)、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-D-ガラクトピラノシルブロミド15.8g(36.5mmol)、モレキュラーシーブ11.2g及びクロロホルム180mLを加えた。トリフルオロメタンスルホン酸銀10.1g(39.2mmol)/トルエン220mL溶液を30分かけて滴下した。トリエチルアミン9.4mLを加え、反応液をろ過後、水で洗浄し、濃縮乾固した。その後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、白色粉末として6.0g(7.1mmol、37%)の中間体Pを得た。
【0140】
1H-NMR (CDCl3): δ 1.96 (3H, s), 2.00 (3H, s), 2.04 (1H, d, J=8.60 Hz), 2.17 (3H, s), 2.19 (3H, s),3.41 (3H, s), 3.70 (1H, t, J=6.48 Hz), 4.03 (2H, m), 4.36 (1H, d, J=11.49 Hz), 4.50 (2H, dd, J=7.15, 11.46 Hz), 4.67 (2H, d, J=8.56 Hz), 4.91 (1H, d, J=13.84 Hz), 5.09 (1H, d, J=3.52 Hz), 5.32 (1H, d, J=19.57 Hz), 5.35 (1H, d, J=18.29 Hz), 5.54 (1H, d, J=3.48 Hz), 5.57 (1H, d, J=3.52 Hz), 5.84 (1H, dd, J=2.46, 10.70 Hz), 7.47 (9H, d, J=98.81 Hz), 7.96 (3H, d, J=7.96 Hz), 8.08 (3H, t, J=7.38 Hz).
【0141】
中間体Qの合成
【0142】
【0143】
300mLナスフラスコに、中間体P 6g(7.2mmol)、無水酢酸14mL及び4%H2SO4を加えた。3時間攪拌後、氷300mLを加え、炭酸水素ナトリウムで中和した。クロロホルムで抽出後、クロロホルム層を濃縮し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、白色粉末として4.15g(4.8mmol、67%)の中間体Qを得た。
【0144】
1H-NMR (CDCl3): δ 1.93 (3H, s), 2.00 (3H, s), 2.15 (3H, s), 2.16 (3H, s), 2.23 (3H, s), 3.69 (1H, d, J=14.55 Hz), 3.91 (1H, m), 4.00 (1H, m), 4.46 (1H, m), 4.71 (1H, m), 4.91 (1H, m), 5.30 (1H, s), 5.36 (1H, t, J=9.22 Hz), 5.75 (1H, m), 5.84 (1H, m), 6.52 (1H, d, J=3.67 Hz), 7.36 (2H, m), 7.48 (6H, m), 7.58 (2H, m), 7.87 (2H, m), 8.07 (4H, m).
【0145】
中間体Rの合成
【0146】
【0147】
100mLナスフラスコに、中間体Q 4.1g(4.8mmol)、5.1M HBr/AcOH 12mL、クロロホルム15mLを加え、室温で40分間攪拌した。水50mL及び飽和炭酸水素ナトリウム100mLで洗浄し、クロロホルム層を濃縮乾固した。白色粉末として4.22g(4.7mmol、99%)の中間体Rを得た。
【0148】
1H-NMR (CDCl3): δ 1.95 (3H, s), 2.00 (3H, s), 2.17 (3H, s), 2.20 (3H, s), 3.72 (1H, t, J=6.54 Hz), 3.94 (1H, m), 4.04 (1H, m), 4.51 (2H, m), 4.71 (3H, m), 4.91 (1H, m), 5.33 (2H, m), 5.55 (1H, q, J=4.79 Hz), 5.90 (1H, d, J=10.20 Hz), 6.75 (1H, d, J=4.98 Hz), 7.43 (7H, m), 7.56 (4H, m), 7.99 (2H, d, J=8.00 Hz), 8.08 (4H, m).
【0149】
中間体Sの合成
【0150】
【0151】
500mLナスフラスコに、中間体R 4.22g(4.76mmol)、ホルミルフルオレセイン(中間体L)595mg(1.58mmol)、Ag2O1.3g(5.5mmol)、モレキュラーシーブ2g及びトルエン200mLを加えた。その後、110℃に加温し、1.5時間攪拌した。Ag2Oをろ別後、濃縮し、カラムクロマトグラフィーを用いて精製を行い、白色粉末として480mg(1.23mmol、26%)の中間体Sを得た。
【0152】
1H-NMR (CDCl3): δ 2.01 (9H, s), 2.16 (4H, d, J=6.49 Hz), 2.33 (4H, t, J=3.15 Hz), 3.82 (3H, s), 4.07 (3H, m), 4.22 (1H, m), 4.61 (5H, m), 4.91 (1H, m), 5.36 (6H, m), 5.92 (1H, m), 6.62 (3H, m), 6.84 (2H, m), 7.12 (2H, m), 7.43 (9H, m), 7.60 (3H, m), 7.71 (1H, m), 7.99 (9H, m), 10.42 (1H, d, J=16.57 Hz).
【0153】
中間体Tの合成
【0154】
【0155】
50mL二口ナスフラスコに、中間体S 0.15g(0.13mmol)、脱水THF5mLを加え、アルゴン風船を付し、アルゴン置換を行った。フラスコを氷浴に浸け、1M LiAlH(OtBu)3 0.65mLをシリンジで滴下した。そのまま室温で2時間反応させた後、飽和塩化アンモニウム水溶液10mL、飽和食塩水100mL及び酢酸エチル100mLを加え、抽出操作を行った。酢酸エチル層を濃縮後、粗成物として135mgの中間体Tを得た。
【0156】
中間体Uの合成
【0157】
【0158】
50mL二口ナスフラスコに、中間体T 135mg(0.11mmol)、クロロホルム8mL及びDAST43μL(0.33mmol)を加え、1時間室温で反応させた。反応液を濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色粉末として60mg(0.050mmol、46%)の中間体Uを得た。
【0159】
1H-NMR (CDCl3): δ 2.01 (6H, t, J=3.61 Hz), 2.16 (3H, d, J=5.01 Hz), 2.33 (3H, d, J=5.50 Hz), 3.75 (1H, m), 3.81 (3H, s), 4.12 (3H, m), 4.59 (4H, m), 4.91 (1H, m), 5.15 (1H, q, J=12.65 Hz), 5.49 (5H, m), 5.91 (1H, m), 6.37 (1H, m), 6.62 (2H, m), 6.81 (2H, m), 7.08 (2H, m), 7.51 (10H, m), 8.01 (7H, m).
【0160】
化合物9の合成
【0161】
【0162】
50mLナスフラスコに、中間体U 75mg(63μmol)、メタノール6.3mL及びナトリウムメトキシド130μL(65μmol)を加えた。室温で一晩反応させた後、純水1mLを滴下し、反応を終了させた。反応液を濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、白色粉末として26mg(37μmol、59%)の化合物9を得た。
【0163】
1H-NMR (CD3OD): δ 3.54 (2H, m), 3.68 (5H, m), 3.79 (2H, m), 3.91 (5H, m), 4.13 (1H, s), 4.52 (1H, d, J=7.83 Hz), 4.97 (1H, t, J=8.22 Hz), 5.79 (1H, s), 5.91 (1H, s), 6.73 (2H, s), 6.84 (1H, d, J=8.92 Hz), 7.01 (2H, m), 7.24 (1H, m), 7.77 (2H, m), 8.05 (1H, d, J=7.56 Hz).
【0164】
実施例5:化合物10の合成
下記のスキームにしたがって化合物10の合成を行った。
【0165】
【0166】
中間体Vの合成
【0167】
【0168】
20mLナスフラスコに、中間体L 103mg(2.8μmol)、THF10mL、POCl3 50μL及びトリエチルアミン150μLを加え、氷浴中で攪拌した。1時間後、水200μL及びTHF600μLを加え、濃縮乾固した。濃縮後、水20mLを加え、1M HClでpH4に調整し、酸析した。沈殿物をろ取し、黄色粉末として1.9g(5.5mmol、37%)の中間体Vを得た。
【0169】
1H-NMR (CDCl3): δ 3.83 (3H, s), 6.65 (2H, s), 6.85 (2H, s), 6.90 (2H, d, J=8.56 Hz), 7.15 (2H, d, J=7.32 Hz), 7.64 (2H, m), 7.99 (1H, d, J=7.48 Hz).
【0170】
中間体Wの合成
【0171】
【0172】
20mLナスフラスコに、中間体V 34mg(75μmol)、酢酸1mL及びNaBH3CN10mgを入れた。60分間反応させ、濃縮後、中間体Wの粗生成物を黄色固体として得た。
【0173】
化合物10の合成
【0174】
【0175】
20mLナスフラスコに、中間体W 30mg(66μmol)、塩化メチレン10mL及びDAST20μLを加え、室温で1.5時間攪拌した。その後、濃縮し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、淡黄白色固体として2.3mg(5μmol、7.6%)の化合物10を得た。
【0176】
1H-NMR (CD3OD): δ 3.89 (3H, s), 5.84 (1H, d, J=48.02 Hz), 6.69 (3H, m), 6.81 (1H, d, J=8.76 Hz), 6.99 (1H, s), 7.24 (1H, d, J=7.60 Hz), 7.29 (1H, d, J=9.08 Hz), 7.77 (1H, d, J=44.61 Hz), 8.05 (1H, d, J=7.72 Hz).
【0177】
実施例6:化合物1の蛍光発光特性の検討
化合物1(5μM)を、β-ガラクトシダーゼ(5U/mL)とリン酸緩衝液(10mM、pH7.4)中で混合し、10分間室温で酵素反応を行った。その後、UV-VISスペクトル(株式会社島津製作所UV-2450)と蛍光スペクトル(日本分光株式会社FP-6300)を測定した。比較のため、酵素反応を行わない状態でのUV-VISスペクトル及び蛍光スペクトルの測定も行った。
【0178】
図1に示すように、酵素反応の前後でUV-VISスペクトルが変化しているのが確認された。また、
図2に示すように、化合物1は酵素反応によりβ-D-ガラクトシル基が切断されることにより蛍光発光を示すことが確認された。また、
図3に示すように、化合物1は酵素に対して迅速な応答を示し、酵素反応後少なくとも10分程度は経時変化を示さないことが確認された。
【0179】
実施例7:CD44を標的としたA549細胞の特異的蛍光染色
CD44はA549細胞などのがん細胞表面に発現するマーカーとして知られている。本実施例では、CD44を標的としたA549細胞の蛍光染色を行った。
【0180】
A549細胞に、抗CD44抗体(アブカム社:ウサギモノクローナル抗体)(MEM培地)を接触させ、CO2インキュベーター内(37℃)で1時間放置した。洗浄後、β-ガラクトシダーゼ標識抗ウサギ抗体(アブカム社)(MEM培地)を接触させ、CO2インキュベーター内(37℃)で1時間放置した。洗浄後、化合物1(HBSS)を添加し、CO2インキュベーター内(37℃)で30分間インキュベート後、蛍光顕微鏡(キーエンスBZ-X710)を用いて細胞の蛍光観察を行った。比較としてキノンメチドを形成しない4-メチルウンベリフェリルβ-D-ガラクトピラノシド(MUG)を用いて同様の実験を行った。
【0181】
結果を
図4に示す。A549細胞を抗CD44抗体、β-ガラクトシダーゼ標識抗ウサギ抗体及び化合物1で処理した場合、細胞内に強い蛍光が観察された 。一方、抗CD44抗体で処理しない場合には、蛍光は観察されなかった。この結果は、細胞表面に結合した酵素によって、疎水性の蛍光色素が生成し、細胞膜透過性が発現されることを示している。また、キノンメチド構造を形成しない蛍光基質MUGを用いた場合、細胞内にわずかな蛍光しか観察されなかった。この結果は、酵素反応によって生成したキノンメチド構造が細胞内滞留性を発揮し、高感度蛍光染色に寄与することを示している。
【0182】
実施例8:PD-L1発現HepG2細胞の特異的蛍光染色
PD-L1は、活性化T細胞の表面に発現しているPD-1のリガンドであり、がん免疫サイクルに関与していることが知られているが、近年、肝細胞がん細胞のマーカーとしても注目されている。本実施例では、インターフェロンγ(IFN-γ)によりPD-L1を誘導したヒト肝細胞がん由来HepG2細胞を用いて、化合物1による特異的染色を試みた。
【0183】
PD-L1を誘導したHepG2細胞に、抗PD-L1抗体(アブカム社:ウサギモノクローナル抗体)(DMEM培地)を接触させ、CO2インキュベーター内(37℃)で1時間放置した。洗浄後、β-ガラクトシダーゼ標識抗ウサギ抗体(アブカム社)(DMEM培地 )を接触させ、CO2インキュベーター内(37℃)で1時間放置した。洗浄後、化合物1(HBSS)を添加し、CO2インキュベーター内(37℃)で30分間インキュベートした後、蛍光顕微鏡(キーエンスBZ-X710)を用いて細胞の蛍光観察を行った。また、一般的な二次抗体法として、抗PD-L1抗体と市販の蛍光色素(Alexa405)標識抗ウサギ抗体を用いた実験を行った。また比較のため、PD-L1の発現を誘導していないHepG2細胞を用いて同様の実験を行った。
【0184】
結果を
図5に示す。PD-L1を発現誘導したHepG2細胞を抗PD-L1抗体、β-ガラクトシダーゼ標識抗体及び化合物1で処理した場合、細胞内に強い蛍光を観察した。一方、PD-L1を発現誘導していないHepG2細胞では蛍光が観察されなかったことから、抗原特異的に細胞を蛍光染色できることが示された。また、Alexa405標識抗ウサギ抗体を用いた二次抗体法の場合には蛍光像が観測されなかった。これは、一般的な蛍光標識抗体を用いた方法では感度が不十分であることを示している。
【0185】
実施例9:CD44を表面抗原としたHeLa細胞のフローサイトメトリー分析(1)
トリプシン/EDTAを用いて培養器から剥離した懸濁状態のHeLa細胞に、抗CD44抗体(アブカム社:ウサギモノクローナル抗体)(MEM培地)を接触させ、CO2インキュベーター内(37℃)で1時間放置した。洗浄後、β-ガラクトシダーゼ標識抗ウサギ抗体(アブカム社)(MEM培地)を接触させ、CO2インキュベーター内(37℃)で1時間放置した。洗浄後、化合物1又は8の20μM溶液(HBSS)を添加し、CO2インキュベーター内(37℃)で30分間インキュベート後、フローサイトメータ(ベクトン・ディッキンソン社、Fortessa X-20)を用いて細胞ごとの蛍光強度(励起 405nm, 蛍光 450/40nm BP)を測定した。。一般的な二次抗体法として、抗CD44抗体と市販の蛍光色素(Alexa405)標識抗ウサギ抗体を用いた実験を行った。
【0186】
化合物1及び化合物8を用いたフローサイトメトリー分析の結果を、それぞれ、
図6及び
図7に示す。これらの図より明らかなように、HeLa細胞を抗CD44抗体、β-ガラクトシダーゼ標識抗体及び化合物1又は8で処理した場合、抗CD44抗体、Alexa405標識抗体に比べて高い蛍光強度を示した。これは、一般的な蛍光標識抗体を用いた方法では感度が不十分であることを示している。
【0187】
実施例10:CD44を表面抗原としたHeLa細胞のフローサイトメトリー分析(2)
トリプシン/EDTAを用いて培養器から剥離した懸濁状態のHeLa細胞を4%PFA/PBSで固定し、1%Triton-X100/PBSで膜透過処理を行った。抗CD44抗体(アブカム社:ウサギモノクローナル抗体)(10% Blocking One/PBS)を接触させ、室温で1時間放置した。洗浄後、β-ガラクトシダーゼ標識抗ウサギ抗体(アブカム社)(0.1%Tween20/PBS)を接触させ、室温で1時間放置した。洗浄後、化合物1又は化合物8の20μM溶液(PBS)を添加し、CO2インキュベーター内(37℃)で30分間インキュベート後、フローサイトメータ(ベクトン・ディッキンソン社、Fortessa X-20)を用いて細胞ごとの蛍光強度(励起 405nm, 蛍光 450/40nm BP)を測定した。一般的な二次抗体法として、抗CD44抗体と市販の蛍光色素(Alexa405)標識抗ウサギ抗体を用いた実験を行った。
【0188】
化合物1及び化合物8を用いたフローサイトメトリー分析の結果を、それぞれ、
図8及び
図9に示す。これらの図より明らかなように、HeLa細胞を抗CD44抗体、β-ガラクトシダーゼ標識抗体及び化合物1又は8で処理した場合、抗CD44抗体、Alexa405標識抗体に比べて高い蛍光強度を示した。これは、一般的な蛍光標識抗体を用いた方法では感度が不十分であることを示している。
【0189】
実施例11:CD44を表面抗原としたHeLa細胞の蛍光染色
HeLa細胞に、抗CD44抗体(アブカム社:ウサギモノクローナル抗体)(MEM培地)を接触させ、CO2インキュベーター内(37℃)で1時間放置した。洗浄後、β-ガラクトシダーゼ標識抗ウサギ抗体(アブカム社)(MEM培地)を接触させ、CO2インキュベーター内(37℃)で1時間放置した。洗浄後、化合物3(HBSS)を添加し、CO2インキュベーター内(37℃)で30分間インキュベート後、蛍光顕微鏡(キーエンスBZ-X710)を用いて細胞の蛍光観察を行った。一般的な二次抗体法として、抗CD44抗体と市販の蛍光色素(Alexa488)標識抗ウサギ抗体を用いた実験を行った。
【0190】
結果を
図10に示す。HeLa細胞を抗CD44抗体、β-ガラクトシダーゼ標識抗ウサギ抗体及び化合物3で処理した場合、細胞内に強い蛍光を観察した。また、HeLa細胞を抗CD44抗体、Alexa488標識抗ウサギ抗体で処理した場合、蛍光は観察されなかった。これは、一般的な蛍光標識抗体を用いた方法では感度が不十分であることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0191】
【非特許文献】
【0192】
【文献】Beck, M. et al., The quantitative proteome of a human cell line, Mol. Systems Biol., 2011, 7, 549.
【文献】Clutter, M. R. et al., Tyramide signal amplification for analysis of kinase activity by intracellular flow cytometry, Cytometry Part A, 2010, 77, 1020-1031.
【0193】
なお、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0194】
本出願は、2019年6月14日に出願された日本国特許出願2019-111159号に基づくものであり、その明細書、特許請求の範囲、図面および要約書を含むものである。上記日本国特許出願における開示は、その全体が本明細書中に参照として含まれる。