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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ショットキーダイオード
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/872 20060101AFI20231116BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20231116BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20231116BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01L29/86 301F
H01L29/86 301D
H01L29/86 301E
H01L29/91 K
H01L29/48 D
H01L29/48 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019071261
(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2020170787
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/150451(WO,A1)
【文献】特開2018-142577(JP,A)
【文献】特開2018-060992(JP,A)
【文献】特開2014-205899(JP,A)
【文献】特開2013-219332(JP,A)
【文献】特開2014-183244(JP,A)
【文献】特開2009-224136(JP,A)
【文献】特開2008-282973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/872
H01L 29/861
H01L 29/868
H01L 29/47
H01L 21/329
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga系単結晶からなり、一方の面に開口する複数のトレンチを有するn型半導体層と、
前記n型半導体層の隣接する前記トレンチの間のメサ形状領域に接続されたアノード電極と、
絶縁膜に覆われた状態で前記複数のトレンチのそれぞれに埋め込まれ、前記アノード電極に電気的に接続されたトレンチアノード電極と、
前記n型半導体層の前記アノード電極と反対側に直接又は間接的に接続されたカソード電極と、
前記メサ形状領域の一部及び前記アノード電極に接続されたp型半導体部材と、
を備えた、ショットキーダイオード。
【請求項2】
前記p型半導体部材が、価電子帯の上端のエネルギーが前記Ga系単結晶の価電子帯の上端のエネルギー以上である第1のp型半導体部材を含む、
請求項1に記載のショットキーダイオード。
【請求項3】
前記第1のp型半導体部材が、Ga、NiO、CuO、SnO、ZnSe、GaN、SiC、Si、又はGaAsからなる、
請求項2に記載のショットキーダイオード。
【請求項4】
前記p型半導体部材が、価電子帯の上端のエネルギーが前記Ga系単結晶の価電子帯の上端のエネルギーに2eVを加えたエネルギー以下である第2のp型半導体部材を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のショットキーダイオード。
【請求項5】
前記第2のp型半導体部材が、ZnSe、GaN、又はダイアモンドからなる、
請求項4に記載のショットキーダイオード。
【請求項6】
前記第2のp型半導体部材の価電子帯の上端のエネルギーが、前記Ga系単結晶の価電子帯の上端のエネルギー以下である、
請求項4に記載のショットキーダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットキーダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードと呼ばれる、pn接合とショットキー接合を組み合わせた構造を有するダイオードが知られている(例えば、特許文献1参照)。JBSダイオードにおいては、pnダイオード部分にサージ電流を流すことができるため、pn接合を有しないショットキーバリアダイオードと比較して、サージ電流への耐性に優れる。
【0003】
特許文献1に記載のJBSダイオードは、SiCからなるn型ドリフト層と、n型ドリフト層にp型不純物をイオン注入することにより得られるp型層を有し、n型ドリフト層とp型層がpn接合を形成している。
【0004】
また、従来、ゲート電極が半導体層に埋め込まれたトレンチMOS型のGa系ショットキーダイオードが知られている(例えば、特許文献2参照)。Ga系の半導体デバイスは、Gaの広いバンドギャップに代表される物性から、高耐圧・低損失であることが知られている。さらに、特許文献1に記載のショットキーダイオードは、トレンチMOS構造を用いているため、半導体層の抵抗を増加することなく、より高い耐圧を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-282973号公報
【文献】特開2018-142577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に示されるようなGa系ショットキーダイオードのサージ電流への耐性を向上させようとした場合、p型のGaを得ることが非常に困難であるため、Ga層にp型不純物を添加してpn接合領域を形成することができない。
【0007】
本発明の目的は、高耐圧かつ低損失であり、かつサージ電流への耐性に優れたGa系のショットキーダイオードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[6]のショットキーダイオードを提供する。
【0009】
[1]Ga系単結晶からなり、一方の面に開口する複数のトレンチを有するn型半導体層と、前記n型半導体層の隣接する前記トレンチの間のメサ形状領域に接続されたアノード電極と、絶縁膜に覆われた状態で前記複数のトレンチのそれぞれに埋め込まれ、前記アノード電極に電気的に接続されたトレンチアノード電極と、前記n型半導体層の前記アノード電極と反対側に直接又は間接的に接続されたカソード電極と、前記メサ形状領域の一部及び前記アノード電極に接続されたp型半導体部材と、を備えた、ショットキーダイオード。
[2]前記p型半導体部材が、価電子帯の上端のエネルギーが前記Ga系単結晶の価電子帯の上端のエネルギー以上である第1のp型半導体部材を含む、上記[1]に記載のショットキーダイオード。
[3]前記第1のp型半導体部材が、Ga、NiO、CuO、SnO、ZnSe、GaN、SiC、Si、又はGaAsからなる、上記[2]に記載のショットキーダイオード。
[4]前記p型半導体部材が、価電子帯の上端のエネルギーが前記Ga系単結晶の価電子帯の上端のエネルギーに2eVを加えたエネルギー以下である第2のp型半導体部材を含む、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のショットキーダイオード。
[5]前記第2のp型半導体部材が、ZnSe、GaN、又はダイアモンドからなる、上記[4]に記載のショットキーダイオード。
[6]前記第2のp型半導体部材の価電子帯の上端のエネルギーが、前記Ga系単結晶の価電子帯の上端のエネルギー以下である、上記[4]に記載のショットキーダイオード。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高耐圧かつ低損失であり、かつサージ電流への耐性に優れたGa系のショットキーダイオードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態に係るショットキーダイオードの垂直断面図である。
図2図2は、p型半導体部材とGa系単結晶からなるn型半導体層のバンド構造と、正孔の流れを模式的に示す図である。
図3図3は、ショットキーダイオードがp型半導体部材を含む場合(A)と含まない場合(B)の、突入電流が流れるときの電流-電圧特性を模式的に示すグラフである。
図4図4は、p型半導体部材とGa系単結晶からなるn型半導体層のバンド構造と、正孔の流れを模式的に示す図である。
図5図5は、本発明の実施の形態に係るショットキーダイオードの変形例の垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1の実施の形態〕
(ショットキーダイオードの構成)
図1は、第1の実施の形態に係るショットキーダイオード1の垂直断面図である。ショットキーダイオード1は、トレンチMOS構造を有する縦型のショットキーダイオードである。
【0013】
ショットキーダイオード1は、n型半導体基板10と、n型半導体基板10に積層される層であって、そのn型半導体基板10と反対側の面18に開口するトレンチ12を有するn型半導体層11と、n型半導体層11の面18上に形成されたアノード電極13と、n型半導体基板10のn型半導体層11と反対側の面上に形成されたカソード電極14と、n型半導体層11のトレンチ12の内面を覆うトレンチ絶縁膜15と、n型半導体層11のトレンチ12内にトレンチ絶縁膜15に覆われるように埋め込まれ、アノード電極13に電気的に接続されるアノード電極16と、を有する。
【0014】
ショットキーダイオード1においては、アノード電極13とカソード電極14との間に順方向電圧(アノード電極13側が正電位)を印加することにより、n型半導体層11から見たアノード電極13とn型半導体層11との界面のエネルギー障壁が低下し、アノード電極13からカソード電極14へ電流が流れる。
【0015】
一方、アノード電極13とカソード電極14との間に逆方向電圧(アノード電極13側が負電位)を印加したときは、ショットキー障壁により、電流は流れない。また、アノード電極13とカソード電極14との間に逆方向電圧を印加すると、アノード電極13とn型半導体層11との界面及びトレンチ絶縁膜15とn型半導体層11との界面から空乏層が拡がる。
【0016】
一般的に、ショットキーダイオードの逆方向リーク電流の上限は1μAとされている。本実施の形態では、1μAのリーク電流が流れるときの逆方向電圧を耐圧と定義する。
【0017】
例えば、“松波弘之、大谷昇、木本恒暢、中村孝著、「半導体SiC技術と応用」、第2版、日刊工業新聞社、2011年9月30日、p.355”に記載された、SiCを半導体層とするショットキーダイオードにおける逆方向リーク電流のショットキー界面電界強度依存性のデータによれば、逆方向リーク電流の電流密度が0.0001A/cm2のときのショットキー電極直下の電界強度は、およそ0.8MV/cmである。ここで、0.0001A/cm2は、サイズが1mm×1mmであるショットキー電極に1μAの電流が流れたときのショットキー電極直下の電流密度である。
【0018】
このため、半導体材料自体の絶縁破壊電界強度が数MV/cmあったとしても、ショットキー電極直下の電界強度が0.8MV/cmを超えると、1μAを超えるリーク電流が流れることになる。
【0019】
例えば、ショットキー電極直下の電界強度を抑制するための特別な構造を有さない従来のショットキーダイオードにおいて1200Vの耐圧を得るためには、ショットキー電極直下の電界強度を0.8MV/cm以下に抑えるために、半導体層のドナー濃度を1015cm-3台にまで下げ、かつ半導体層を非常に厚くする必要がある。そのため、導通損失が非常に大きくなり、高耐圧かつ低損失のショットキーバリアダイオードを作製することは困難である。
【0020】
本実施の形態に係るショットキーダイオード1は、トレンチMOS構造を有するため、半導体層の抵抗を増加することなく、高い耐圧を得ることができる。すなわち、ショットキーダイオード1は、高耐圧かつ低損失のショットキーダイオードである。
【0021】
なお、高耐圧かつ低損失のショットキーダイオードとして、ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードが知られているが、p型のGaは製造が困難であるため、Gaはp型領域が必要なJBSダイオードの材料に向いていない。
【0022】
n型半導体基板10は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn型のGa系単結晶からなる。n型半導体基板10のドナー濃度は、例えば、1.0×1018cm-3以上かつ1.0×1020cm-3以下である。n型半導体基板10の厚さは、例えば、10~600μmである。n型半導体基板10は、例えば、Ga系単結晶基板である。
【0023】
ここで、Ga系単結晶とは、Ga単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたGa単結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたGa単結晶である(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)単結晶であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。なお、上記のGa単結晶は、例えば、β型の結晶構造を有する。
【0024】
n型半導体層11は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn型のGa系単結晶からなる。n型半導体層11のドナー濃度は、n型半導体基板10のドナー濃度Nよりも低い。n型半導体層11は、例えば、Ga系単結晶基板であるn型半導体基板10上にエピタキシャル成長したエピタキシャル層である。
【0025】
なお、n型半導体基板10とn型半導体層11との間に、高濃度のドナーを含む高ドナー濃度層を形成してもよい。この高ドナー濃度層は、例えば、基板であるn型半導体基板10上にn型半導体層11をエピタキシャル成長させる場合に用いられる。n型半導体層11の成長初期は、ドーパントの取り込み量が不安定であったり、基板であるn型半導体基板10からのアクセプタ不純物の拡散があったりするため、n型半導体基板10上にn型半導体層11を直接成長させると、n型半導体層11のn型半導体基板10との界面に近い領域が高抵抗化する場合がある。このような問題を避けるため、高ドナー濃度層が用いられる。高ドナー濃度層の濃度は、例えば、n型半導体層11よりも高い濃度に設定され、より好ましくは、n型半導体基板10よりも高い濃度に設定される。
【0026】
n型半導体層11のドナー濃度が増加するほど、ショットキーダイオード1の各部の電界強度が増加する。n型半導体層11中のアノード電極13直下の領域中の最大電界強度、n型半導体層11中の最大電界強度、及びトレンチ絶縁膜15中の最大電界強度を低く抑えるためには、n型半導体層11のドナー濃度がおよそ6.0×1016cm-3以下であることが好ましい。一方、ドナー濃度Nが小さくなるほどn型半導体層11の抵抗が大きくなり、順方向損失が増加してしまうため、例えば1200V以下の耐圧を得るためには、3.0×1016cm-3以上であることが好ましい。また、より高い耐圧を得るためには、ドナー濃度Nを例えば1.0×1016cm-3程度まで下げることが好ましい。
【0027】
n型半導体層11の厚さTが増加するほど、n型半導体層11中の最大電界強度及びトレンチ絶縁膜15中の最大電界強度が低減する。n型半導体層11の厚さTをおよそ6μm以上にすることにより、n型半導体層11中の最大電界強度及びトレンチ絶縁膜15中の最大電界強度を効果的に低減することができる。これらの電界強度の低減と、ショットキーダイオード1の小型化の観点から、n型半導体層11の厚さTはおよそ5.5μm以上かつ9μm以下であることが好ましい。
【0028】
トレンチ12の深さDによってショットキーダイオード1の各部の電界強度が変化する。n型半導体層11中のアノード電極13直下の領域中の最大電界強度、n型半導体層11中の最大電界強度、及びトレンチ絶縁膜15中の最大電界強度を低く抑えるためには、トレンチ12の深さDがおよそ2μm以上かつ6μm以下であることが好ましく、およそ3μm以上かつ4μm以下であることがより好ましい。
【0029】
トレンチ12の幅Wは、アノード電極13直下の領域の電界強度とは無関係のため、自由に設定できる。トレンチ12内には電流が流れないため、幅Wは可能な限り狭い方が好ましい。しかしながら、幅Wを微細化し過ぎると、トレンチ12内へのトレンチ絶縁膜15及びアノード電極16の埋め込みが困難になり、製造歩留まりが悪化する。一方、本発明者の検討により、幅Wが3μm以上になると幅Wが増えてもアノード電極16の埋め込み性にほとんど影響がないことがわかっている。また、幅Wが0.5μm未満になると、トレンチ12の形成のために特殊な露光装置が必要になり、製造コストが増加する場合がある。よって、幅Wは、0.5μm以上、3μm以下であることが好ましい。
【0030】
n型半導体層11の隣接するトレンチ12の間のメサ形状部分の幅が低減するほど、n型半導体層11中のアノード電極13直下の領域中の最大電界強度が低減する。n型半導体層11中のアノード電極13直下の領域中の最大電界強度を低く抑えるためには、メサ形状部分の幅Wが2.5μm以下であることが好ましい。一方、メサ形状部分の幅が小さいほどトレンチ12の製造難度が上がるため、メサ形状部分の幅Wが0.5μm以上であることが好ましい。
【0031】
トレンチ絶縁膜15の誘電率が増加するほど、トレンチ絶縁膜15中の最大電界強度が低減するため、トレンチ絶縁膜15は誘電率が高い材料からなることが好ましい。例えば、トレンチ絶縁膜15の材料としてAl(比誘電率がおよそ9.3)、HfO(比誘電率がおよそ22)を用いることができるが、誘電率の高いHfOを用いることが特に好ましい。
【0032】
また、トレンチ絶縁膜15の厚さが増加するほど、n型半導体層11中の最大電界強度が低減するが、トレンチ絶縁膜15中の最大電界強度およびアノード電極13直下の領域中の最大電界強度が増加する。製造容易性の観点からは、トレンチ絶縁膜15の厚さは小さい方が好ましく、300nm以下であることがより好ましい。ただし、当然ながら、アノード電極16とn型半導体層11の間に直接電流がほとんど流れない程度の厚さは必要である。
【0033】
アノード電極16の材料は、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、高濃度でドーピングされた多結晶Siや、Ni、Au等の金属を用いることができる。
【0034】
ショットキーダイオード1中の電界強度は、上述のように、隣接する2つのトレンチ12の間のメサ形状部分の幅、トレンチ12の深さD、トレンチ絶縁膜15の厚さ等の影響を受けるが、トレンチ12の平面パターンにはほとんど影響を受けない。このため、n型半導体層11のトレンチ12の平面パターンは特に限定されない。
【0035】
p型半導体部材17は、サージ対策のために用いられる部材であり、そのエネルギー構造によって、2種類のサージ電流に対応することができる。
【0036】
p型半導体部材17の価電子帯の上端のエネルギーが、n型半導体層11を構成するGa系単結晶の価電子帯の上端のエネルギー以上である場合は、p型半導体部材17を用いることにより、逆方向電圧印加時に落雷等に起因して生じるサージ電流を逃がすことができる。以下、価電子帯の上端のエネルギーが、n型半導体層11を構成するGa系単結晶の価電子帯の上端のエネルギー以上であるp型半導体部材17をp型半導体部材17aと呼ぶ。
【0037】
サージ電流はアバランシェブレークダウンの発生により生じるが、このアバランシェブレークダウンにより大量に発生する電子と正孔のうち、電子はn型半導体層11からカソード電極14を通って外部へ抜けることができる。一方、正孔は、ショットキー障壁に阻まれるため、n型半導体層11からアノード電極13へ直接移動することはできないが、p型半導体部材17aを通ってアノード電極13へ移動することができる。
【0038】
図2は、p型半導体部材17とGa系単結晶からなるn型半導体層11のバンド構造と、正孔の流れを模式的に示す図である。図2に示されるように、p型半導体部材17の価電子帯の上端のエネルギーEV2がGa系単結晶の価電子帯の上端のエネルギーEV1以上であれば、n型半導体層11からp型半導体部材17へ正孔が移動することができる。なお、p型半導体部材17の伝導帯の下端のエネルギーEC2の大きさは、n型半導体層11からp型半導体部材17への正孔の移動に影響を及ぼさないため、特定の範囲に限定されることはない。
【0039】
p型半導体部材17aは、Ga、NiO、CuO、SnO、ZnSe、GaN、SiC、Si、GaAsなどのp型半導体からなる。なお、p型半導体部材17aは、酸化物であるGa系単結晶からなるn型半導体層11と常に接触した状態にあるため、Siなどの非酸化物からなる場合は徐々に酸化されるおそれがある。そのため、p型半導体部材17aは、長期安定性を確保するため、Ga、NiO、CuO、SnO等の酸化物からなることが好ましい。また、Gaはp型導電性を得るのが困難なため、NiO、CuO、SnO等がp型半導体部材17aの材料として特に好ましい。
【0040】
また、p型半導体部材17の価電子帯の上端のエネルギーが、n型半導体層11を構成するGa系単結晶の価電子帯の上端のエネルギーに2eVを加えたエネルギー以下である場合は、p型半導体部材17を用いることにより、ショットキーダイオード1をオンにする際に生じ得るサージ電流(突入電流、始動電流などとも呼ばれる)発生時にドリフト層の抵抗を下げることができ、発熱や破損を抑制することができる。以下、価電子帯の上端のエネルギーが、n型半導体層11を構成するGa系単結晶の価電子帯の上端のエネルギーに2eVを加えたエネルギー以下であるp型半導体部材17をp型半導体部材17bと呼ぶ。
【0041】
通常、pnダイオードはショットキーダイオードよりもオン電圧が大きい。このため、ショットキーダイオード1がオンになる電圧でp型半導体部材17bとn型半導体層11で構成されるpnダイオード部分がオンしないような設計にすることができる。例えば、ショットキーダイオード1のオン電圧を1V程度、pnダイオード部分のオン電圧を2V程度とすることができる。
【0042】
これによって、ショットキーダイオード1の通常動作においてはpnダイオード部分はオンしないため、ショットキーダイオード本来の高速動作が可能になる。一方、突入電流発生時はショットキーダイオード1の電圧が上昇し、pnダイオード部分がオンする電圧に達し、p型半導体部材17bからn型半導体層11へ正孔が注入される。
【0043】
そのとき、カソード電極14からn型半導体層11へはその注入された正孔と同じ数の電子が注入され、ドリフト層の抵抗が大幅に減少する。このため、突入電流という大電流がショットキーダイオード1を流れるが、電圧の上昇は抑えられるため、温度上昇が抑えられ、突入電流によるショットキーダイオード1の損傷を防ぐことができる。
【0044】
図3は、ショットキーダイオード1がp型半導体部材17bを含む場合(A)と含まない場合(B)の、突入電流が流れるときの電流-電圧特性を模式的に示すグラフである。図3に示されるように、p型半導体部材17bが含まれない場合、電流の増加とともに電圧が上昇し続け、ショットキーダイオード1の温度が急上昇して燃え尽きてしまう。一方、p型半導体部材17bが含まれる場合、pnダイオード部分がオンする電圧Vpnに達すると、電圧の上昇率が低下する。このように、突入電流によりショットキーダイオード1を流れる電流は上昇するが、電圧の上昇が抑えられるため、温度上昇が抑えられ、ショットキーダイオード1の損傷が防がれる。
【0045】
図4は、p型半導体部材17とGa系単結晶からなるn型半導体層11のバンド構造と、正孔の流れを模式的に示す図である。図4に示されるように、p型半導体部材17の価電子帯の上端のエネルギーEV2がGa系単結晶の価電子帯の上端のエネルギーEV1に2eVを加えたエネルギー以下であれば、p型半導体部材17からn型半導体層11へ正孔が注入され得る。なお、p型半導体部材17の伝導帯の下端のエネルギーEC2の大きさは、p型半導体部材17からn型半導体層11への正孔の注入に影響を及ぼさないため、特定の範囲に限定されることはない。
【0046】
また、p型半導体部材17の価電子帯の上端のエネルギーEV2が、n型半導体層11を構成するGa系単結晶の価電子帯の上端のエネルギーEV1以下である場合は、p型半導体部材17からn型半導体層11への正孔の移動が容易になるため、突入電流への耐性をより高めることができる。
【0047】
p型半導体部材17bは、ZnSe、GaN、ダイアモンドなどのp型半導体からなる。これらの材料のうち、ダイアモンドの価電子帯の上端のエネルギーはGa系単結晶の価電子帯の上端のエネルギー以下であるため、ダイアモンドをp型半導体部材17bの材料として用いることにより、突入電流への耐性をより高めることができる。
【0048】
また、ZnSe、GaNの価電子帯の上端のエネルギーはGa系単結晶の価電子帯の上端のエネルギー以上であるため、ZnSe、GaNからなるp型半導体部材17は、落雷等に起因して生じるサージ電流に対応するp型半導体部材17aと、突入電流に対応するp型半導体部材17bのいずれとしても機能することができる。
【0049】
p型半導体部材17の大きさ、個数、配置は特に限定されない。p型半導体部材17とn型半導体層11との接触面積が大きいほどサージ電流を効率的に逃がすことができるが、通常動作時に電流が流れにくくなる。このため、p型半導体部材17とn型半導体層11との総接触面積は、アノード電極13とn型半導体層11との総接触面積の10%以上かつ50%以下であることが好ましい。
【0050】
図5は、ショットキーダイオード1の変形例である、p型半導体部材17aとp型半導体部材17bの両方を有するショットキーダイオード2の垂直断面図である。ショットキーダイオード2は、p型半導体部材17aによる落雷等に起因して生じるサージ電流への高い耐性と、p型半導体部材17bによる突入電流への高い耐性を有する。
【0051】
ショットキーダイオード2においては、p型半導体部材17aとn型半導体層11との総接触面積と、p型半導体部材17bとn型半導体層11との総接触面積との合計が、アノード電極13とn型半導体層11との総接触面積の10%以上かつ50%以下であることが好ましい。
【0052】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、高耐圧かつ低損失であり、かつサージ電流への耐性に優れたGa系のショットキーダイオードを提供することができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0054】
1、2…ショットキーダイオード、 10…n型半導体基板、 11…n型半導体層、 12…トレンチ、 13…アノード電極、 14…カソード電極、 15…トレンチ絶縁膜 16…アノード電極、、 17、17a、17b…p型半導体部材
図1
図2
図3
図4
図5