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特許7385859ナノギャップ電極を有するガスセンサ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ナノギャップ電極を有するガスセンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20231116BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20231116BHJP
   B82Y 15/00 20110101ALI20231116BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231116BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/12 B
G01N27/04 F
B82Y15/00
B82Y40/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019154058
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021032746
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】真島 豊
(72)【発明者】
【氏名】ファン チョン トゥエ
(72)【発明者】
【氏名】土佐 翼
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正邦
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-155746(JP,A)
【文献】特開2010-078604(JP,A)
【文献】特開2007-327941(JP,A)
【文献】特開2005-315874(JP,A)
【文献】HYODO, T. et al.,NO2 sensing properties of macroporous In2O3-based powders fabricated by utilizing ultrasonic spray pyrolysis employing polymethylmethacrylate microspheres as a template,Sensors and Actuators B,2010年,Vol.151, No.1,p.265-273,https://doi.org/10.1016/j.snb.2010.09.002
【文献】TAMAKI, J. et al,Effect of micro-gap electrode on sensing properties to dilute chlorine gas of indium oxide thin film microsensors,Sensors and Actuators B,2006年,Vol.117,p.353-358, doi:10.1016/j.snb.2005.11.005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 27/04
B82Y 15/00
B82Y 40/00
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極及び第2電極を含み、前記第1電極の一端と前記第2電極の一端とがナノギャップを形成するように離隔して配置されたナノギャップ電極と、
金属酸化物のナノ粒子と、
を含み、
前記第1電極の一端と、前記第2電極の一端とが、5nm以上30nm以下の長さで離隔し、
前記金属酸化物のナノ粒子のサイズが、3nm以上30nm以下であり、
前記金属酸化物のナノ粒子は、前記ナノギャップに配置されている
ガスセンサ。
【請求項2】
前記金属酸化物のナノ粒子が、前記ナノギャップの中に、1個以上、20個以下配置されている
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記金属酸化物のナノ粒子が、多孔質体である
請求項1乃至のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記金属酸化物のナノ粒子が、酸素空孔を含む
請求項1乃至のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記金属酸化物が、酸化セリウム、酸化チタン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ロジウム、酸化ハフニウムから選ばれた少なくとも一種である
請求項1乃至のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記第1電極及び前記第2電極が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)から選ばれた一種又は複数の元素を含む
請求項1乃至のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記ナノギャップ電極が基板に設けられ、
前記基板が、アルミナ基板、ジルコニア基板、又は酸化シリコン膜が表面に形成されたシリコン基板である
請求項1乃至のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記ナノギャップの部分に前記金属酸化物の被膜を有し、前記金属酸化物のナノ粒子は前記被膜に含まれている
請求項1乃至のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記第1電極と前記第2電極との組が、複数個配置され、かつ電気的に並列に接続されている
請求項1乃至のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項10】
酸素に対する応答速度が10秒以下である
請求項1乃至のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項11】
基板上に第1電極の一端と第2電極の一端とがナノギャップを形成するように5nm以上30nm以下の長さで離隔して配置されたナノギャップ電極を形成し、
前記ナノギャップ電極の上から、金属化合物の水和物による金属前駆体を含む溶液を塗布して塗膜を形成し、
前記塗膜を乾燥させ、熱処理により前記ナノギャップの部分に粒径が3nm以上30nm以下の金属酸化物のナノ粒子を成長させる
ガスセンサの製造方法。
【請求項12】
前記ナノギャップ電極を、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)から選ばれた一種又は複数の元素を含む金属で形成する
請求項11に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項13】
前記金属化合物の水和物に含まれる金属元素が、セリウム、チタン、コバルト、ニッケル、ニオブ、タングステン、タンタル、ロジウム、ハフニウムから選ばれた少なくとも一種である請求項11又は12に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項14】
前記金属酸化物として、酸化セリウム、酸化チタン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ロジウム、酸化ハフニウムから選ばれた少なくとも一種が形成される
請求項13に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項15】
前記溶液が、金属酸化物のナノ粒子を含むナノ粒子コロイド溶液である
請求項11又は12に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項16】
前記ナノギャップ電極のナノギャップの間に前記ナノ粒子を1個以上、20個以下の個数で配置する
請求項11に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項17】
前記ナノギャップの部分に、前記熱処理により前記金属酸化物の被膜を形成し、前記金属酸化物のナノ粒子は前記被膜に含まれるように形成する
請求項11乃至16のいずれか一項に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項18】
前記塗膜を、スピンコート法又は浸漬法で形成する
請求項11乃至17のいずれか一項に記載のガスセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物の抵抗変化を利用したガスセンサの構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、温度センサ、湿度センサ、加速度センサ、光センサ、ガスセンサ等、様々なセンサが日常生活を支える電気器具、車両、船舶、航空機等で使用されている。例えば、自動車には、エンジンの燃焼効率を向上させ、排気ガスが環境基準を満たすようにするために、エンジンに供給する空気と燃料の混合比率を制御する必要があり、その制御システムの中で固体電解質を用いた酸素ガスセンサが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
酸素を検知するガスセンサとしては、固体電解質(ジルコニア)を用いたものが実用化されている。固体電解質を用いた酸素ガスセンサは、基準ガスを必要としており、酸素に対する感度が十分でなく、応答速度が遅いといった問題を有している。例えば、自動車のエンジンが高速回転するときは、20ミリ秒ごとに燃料が噴射されるが、固体電解質を用いた酸素ガスセンサは応答速度が数十秒であるため、エンジンの回転に追従できないという問題を有している。
【0004】
一方、酸素ガスセンサとして、酸化物半導体を用いた抵抗型酸素ガスセンサが知られている。しかし、現在の抵抗型酸素ガスセンサの応答速度は数十秒であり、産業のニーズを満たしているとはいえない状況にある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-137998号公報
【文献】特開2003-149189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような背景に鑑み、本発明は、酸素を検知するガスセンサの応答速度を向上させることを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るガスセンサは、第1電極及び第2電極を含み、第1電極の一端と前記第2電極の一端とがナノギャップを形成するように離隔して配置されたナノギャップ電極と、金属酸化物のナノ粒子と、を含み、金属酸化物のナノ粒子は、前記ナノギャップに配置されている。
【0008】
本発明の一実施形態に係るガスセンサの製造方法は、基板上に第1電極の一端と第2電極の一端とがナノギャップを形成するように離隔して配置されたナノギャップ電極を形成し、ナノギャップ電極の上から金属水和物による金属前駆体を含む溶液を塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させ、さらに熱処理によりナノギャップの部分に金属酸化物のナノ粒子を成長させることを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属酸化物のナノ粒子を、ナノギャップ電極の中に配置することで、酸素に対する応答速度の速いガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るガスセンサを示し、(A)は平面模式図、(B)は平面模式図に示すA1-A2間に対応する断面模式図を示す。
図2】本発明の一実施形態に係るガスセンサの断面模式図であり、(A)~(C)はナノ粒子の状態が異なる態様を示す。
図3】本発明の一実施形態に係るガスセンサの平面模式図を示す。
図4】本発明の一実施形態に係るガスセンサの作製方法を説明する断面模式図であり、(A)~(D)はナノギャップ電極を作製する工程を示す。
図5】本発明の一実施形態に係るガスセンサの作製方法を説明する断面模式図であり、(A)~(D)はナノギャップ電極のナノ粒子を形成する工程を示す。
図6】実施例で作製された酸化セリウムのSEM像を示し、スピンコート時の回転数が、(a)は100rpm、(b)は200rpm、(c)は3000rpm、(d)は4000rpmであるときの結果を示す。
図7】実施例で作製された酸化セリウムのSEM像を示し、溶液の金属前駆体の濃度が、(a)は0.2mol/kg、(b)は0.1mol/kg、(c)は0.05mol/kgであるときの結果を示す。
図8】実施例で作製された酸化セリウムのSEM像を示し、熱処理温度が、(a)は250℃、(b)は400℃、(c)は600℃、(d)は800℃であるときの結果を示す。
図9】実施例で作製された試料のSEM像を示し、(a)はナノギャップ電極、(b)はナノギャップ電極上に平均膜厚5.5nmの酸化セリウムを形成した試料(素子1)、(c)はナノギャップ電極上に平均膜厚16.2nmの酸化セリウムを形成した試料(素子2)、(d)はナノギャップ電極上に平均膜厚28.2nmの酸化セリウムを形成した試料(素子4)、の状態を示す。
図10】実施例(浸漬法)で作製された試料のSEM像を示し、(a)は酸化セリウム膜を形成する前のナノギャップ電極のSEM像を示し、(b)は酸化セリウム膜を形成した試料のAFM像示す。
図11】実施例で作製された試料(素子1)で測定された電流の酸素分圧依存性を示す。
図12】実施例で作製された試料(素子2)で測定された電流の酸素分圧依存性を示す。
図13】酸化セリウムにおける酸素空孔の生成と消滅を説明するモデルを示す。
図14】実施例で作製された試料(素子1)の動作温度依存性を示し、定電圧を印加したときの電流変化を示す。
図15】実施例で作製された試料(素子1)の電流の温度依存性を示す。
図16】実施例で作製された試料(素子3)の酸素分圧の変化に対する応答時間を示す。
図17】比較例で作製された試料(マイクロギャップ素子)の酸素分圧の変化に対する応答時間を示す。
図18】実施例で作製された試料(浸漬法)で測定された電流の酸素分圧依存性を示す。
図19】実施例で作製された試料(浸漬法)の動作温度依存性を示し、定電圧を印加したときの電流変化を示す。
図20】実施例で作製された試料(浸漬法)の電流の温度依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号(又は数字の後にa、bなどを付した符号)を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有さない。
【0012】
図1(A)は、本発明の一実施形態に係るガスセンサ100の平面模式図を示し、図1(B)は、平面模式図に示し、A1-A2間に対応する断面模式図を示す。ガスセンサ100は、基板102上に設けられたナノギャップ電極104及びナノ粒子110を含む。本実施形態は、これらの詳細について説明する。
【0013】
ナノギャップ電極104は、第1電極106及び第2電極108を含み、第1電極106の一端と第2電極108の一端と、がナノギャップを形成するように対向して配置された構造を有する。なお、本実施形態において、ナノギャップ電極とは、特段の断りがない限り、一対の電極間にナノスケールの間隙(以下、「ナノギャップ」ともいう。)を有し、その間隙の長さL(以下、「ナノギャップ長L」ともいう。)が、100nm以下であるものをいう。
【0014】
ナノギャップ電極104を形成する第1電極106及び第2電極108は、絶縁表面を形成する基板102上に金属材料で形成される。第1電極106及び第2電極108は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)から選ばれた一種又は複数種の金属により形成される。例えば、第1電極106及び第2電極108は、白金(Pt)で形成され、又は白金合金(例えば、白金イリジウム合金)で形成される。ナノギャップ電極104は、このような金属材料を用いて形成されることで、化学的に安定であり、高温においても形状を安定に保つことができる。したがって、ガスセンサ100は、ナノギャップ電極104が用いられることで、高温環境下においても安定した動作を得ることができる。
【0015】
ナノギャップ電極104において、第1電極106の一端と第2電極108の一端との間隔は、5nm以上、好ましくは5nm以上100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下、例えば20nmの長さを有する。第1電極106及び第2電極108の厚さは、例えば、3nm以上、20nm以下、例えば、10nmの厚さを有する。また、第1電極106と第2電極108の幅に限定はないが、20nm以下、例えば、5nmの幅で形成される。ナノギャップ電極104は、ナノギャップを形成する第1電極106及び第2電極108が上記のような寸法を有している他は任意の形状とすることができる。例えば、第1電極106及び第2電極108のそれぞれに設けられるパッド電極は任意の大きさとすることができる。
【0016】
なお、図1(B)には示されないが、第1電極106及び第2電極108と基板102との間には密着性を向上させるために、チタン(Ti)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)等の金属膜が設けられていてもよい。金属膜の膜厚Tは任意であるが、例えば、2nmから10nmの厚さを有していればよい。
【0017】
ナノ粒子110は、ナノギャップ電極104のナノギャップ長Lと同程度、又はそれより小さい大きさ(一端から他端までの長さ)を有する。例えば、ナノ粒子110は、3nm以上、好ましくは5nm以上、40nm以下、好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下の大きさを有する。ナノ粒子110は、ナノギャップ電極104のナノギャップ部分に設けられる。別言すれば、ナノ粒子110は、ナノスケールの間隙をもって配置される第1電極106と第2電極108との間に設けられる。
【0018】
ナノギャップ部分に設けられるナノ粒子110の数に限定はないが、例えば、1個以上、20個以下、好ましくは10個以下、さらに好ましくは5個以下の個数で設けられることが好ましい。このような数のナノ粒子がナノギャップ部分に配置されることで、後述されるように、ガスセンサ100の応答速度を高めることができる。
【0019】
ナノ粒子110は、金属酸化物であり、特に半体特性を有する金属酸化物で形成されることが好ましい。このことから、ナノ粒子110を形成する金属酸化物は、酸化物半導体と呼び代えることもできる。ナノ粒子110を形成する金属酸化物としては、酸化セリウム(CeO2、セリアとも呼ばれる)、酸化チタン(TiO2、チタニアとも呼ばれる)、酸化コバルト、酸化ニッケル(NiO)、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ロジウム、酸化ハフニウムから選ばれた一種の金属酸化物が用いられる。また、ナノ粒子110は、これらの金属酸化物に限定されず、半導体特性を有するものとして、金属窒化物、金属酸窒化物を用いることもできる。
【0020】
このようなナノ粒子110が、ナノギャップ電極104のナノギャップ部分に複数個設けられる場合、個々のナノ粒子は同一の金属酸化物であってもよいし、異なる金属酸化物で形成されたナノ粒子が混在していてもよい。なお、前述の金属酸化物は、化学量論組成のもののみでなく化学量論組成からずれたものであってもよく、酸化数が異なる金属酸化物が含まれていてもよい。
【0021】
金属酸化物で形成されるナノ粒子110は、結晶性を有していることが好ましく、例えば、単結晶であることが好ましい。後述されるように、ナノ粒子110は金属酸化物で形成される膜の中に含まれていてもよい。ナノ粒子110、及びそれを含む金属酸化物の膜は多孔体であることが好ましく、その多孔体の孔率は10%~80%であることが好ましい。いずれにしても、ナノ粒子110(及びそれを含む金属酸化物の膜)が検出部となるため、ガスと触れるようにナノギャップ間に設けられていればよい。また、金属酸化物で形成されるナノ粒子110は酸素空孔を有している。このようなナノ粒子110は、雰囲気の酸素濃度が変化すると、酸素空孔濃度が変化し、それに伴い抵抗率が変化する。ガスセンサ100は、この抵抗変化を検出することで、酸素濃度の変化を検出することができる。
【0022】
ナノ粒子110を形成する金属酸化物として、特に、酸化セリウムは酸素空孔の拡散係数が他の金属酸化物と比べて大きく、酸素空孔密度は平衡状態において急速に変化する。そのため、ナノ粒子110といして酸化セリウムを用いたガスセンサ100は、高い応答速度を得ることができる。また、酸化セリウムは、塩素ガス(Cl2)、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等の腐食性ガスに対して良好な耐食性を有し、高温においても良好な構造安定性を有する。そのため、酸化セリウムのナノ粒子は、本発明の一実施形態に係るガスセンサ100において、好適に用いることができる。
【0023】
図2(A)に示すように、ガスセンサ100は、第1電極106と第2電極108との間に電流経路を形成するように、複数個のナノ粒子110が連接するように設けられていてもよい。ガスセンサ100は、また、図2(B)に示すように、ナノ粒子110を含む金属酸化物膜112が第1電極106と第2電極108との間に設けられていてもよい。このとき金属酸化物膜112は非晶質であってもよいが、ナノ粒子110と同様に多孔体であることが好ましい。さらに、ガスセンサ100は、図2(C)に示すように、金属酸化物膜112の中にナノ粒子110が分散するように含まれていてもよい。別言すれば、金属酸化物の非晶質膜の中に、結晶性を有するナノ粒子110が分散するように配置されていてもよい。図2(B)及び(C)の態様において、ナノ粒子110及び金属酸化物の膜112は多孔体であり、その孔率は10%~80%であることが好ましい。そして、ナノ粒子110及び金属酸化物の膜112の少なくとも一方、好ましくは双方がガスと接触できるようにナノギャップ間に設けられていることが好ましい。
【0024】
上述のように、ガスセンサ100は、ナノギャップ電極104のナノギャップ部分に、図2(A)に示すように金属酸化物のナノ粒子100を含む構成、図2(B)、(C)に示すように、金属酸化物のナノ粒子100及び金属酸化物膜112を含む構成の双方を含み得る。金属酸化物のナノ粒子110及び金属酸化物膜112は、酸素空孔を有する多孔体であり、雰囲気の酸素濃度が変化すると酸素空孔の濃度が変化し、それに伴い抵抗率が変化する。なお、金属酸化物膜112のみの構成では、不定形の構造に起因して酸素空孔により形成される準位が結晶の場合に比べて一定に定まらないため、酸素分圧の変化に対して抵抗率の変化に対する割合は、結晶の場合に比べて小さくなると推測される。したがって、図2(B)及び(C)に示すように金属酸化物膜112を有する場合であっても、ナノギャップ間に金属酸化物で形成されるナノ粒子110が含まれている方が、ガスセンサ100の高速応答を実現する上で好ましいといえる。
【0025】
ナノギャップ電極104及びナノ粒子110を支持する基板102としては、アルミナ基板、ジルコニア基板、又は酸化シリコン膜が形成されたシリコン又はシリコンカーバイド(SiC)基板が用いられる。ガスセンサ100は、このような基板102を用いて形成されることで、高温環境下においても安定して動作することができる。
【0026】
図3に示すように、第1電極106及び第2電極108、並びにナノ粒子110の組を複数個並列に配置して、かつ電気的に並列に接続してガスセンサ100を構成してもよい。このような電極構造とすることで、ガスセンサ100の感度を高めることができる。なお、図3に示す構造は一例にすぎず、並列に配列させるナノ粒子110の数は任意に設定することができる。
【0027】
本実施形態に係るガスセンサ100は、ナノギャップ電極104のナノギャップ部分に金属酸化物で形成されるナノ粒子110を配置することで、量子効果を発現することができ、ナノギャップ長Lを10nm以下とすることで、トンネル電流を生じさせ、応答速度を高めることができる。
【0028】
さらに、ガスセンサ100は、ナノギャップ電極104に白金(Pt)等の触媒作用を有する金属が用いられている。ガスセンサ100は、上述のように、ナノ粒子110が計測対象となる雰囲気中の酸素と相互作用し、酸素空孔の濃度が変化することで抵抗率が変化し、その変化を電気信号として取り出している。このとき、ナノギャップ電極104を形成する金属が触媒作用を発現し、表面に吸着した酸素を活性化して表面拡散により金属酸化物で形成されるナノ粒子110に供給するというメカニズムが考えられる。例えば、酸素分圧に依存して抵抗値が変化する抵抗型センサで雰囲気中の酸素濃度を素早く検出するには、酸素分圧と化学平衡にある金属酸化物内の酸素欠陥濃度が敏速に達成されることが望ましい。本発明の一実施形態に係るナノギャップ電極104及びナノ粒子110の配置は、従来のガスセンサに比べて、ナノ粒子110と触媒となるナノギャップ電極104(第1電極106及び第2電極108)との距離がきわめて小さいため、触媒作用をもつナノギャップ電極104とナノ粒子110との界面で活性化された酸素等の分子が有効かつ敏速に生成し、半導体特性を有するナノ粒子110と反応することができる。その結果、金属酸化物で形成されるナノ粒子110と酸素との相互作用が促進され、酸素空孔の濃度変化による抵抗率が急速に変化することとなる。結果として、このような現象が伴うことにより、ガスセンサ100における応答速度が向上することが期待される。
【0029】
このような現象は、第1電極106及び第2電極108とナノ粒子110とが近接していること、及び第1電極106と第2電極108との間隔が狭く、ナノ粒子110の数が少ないこと(上述のように10個以下が好ましいと考えられる。)により顕著に発現する。すなわち、本実施形態に係るガスセンサ100は、ナノギャップ電極104を有し、ナノギャップ間に金属酸化物で形成されるナノ粒子110が設けられた構造を有することにより、従来、電極間のギャップが数百マイクロメータの大きさで形成されていた抵抗型ガスセンサに比べて、極めて高い応答速度を実現することができる。なお、本発明の一実施形態に係るガスセンサは、酸素ガスセンサとして好適に用いることができる。以下、本発明の一実施形態に係るガスセンサ100を、実施例により詳細に説明する。
【実施例
【0030】
1.ガスセンサの作製
ガスセンサ100の作製方法を、図面を参照して説明する。本実施例に係るガスセンサ100の作製方法は、基板102上にリフトオフ法によりナノギャップ電極104を形成する工程と、ナノギャップ電極104のナノギャップ部分に金属酸化物で形成されるナノ粒子を形成する工程とを含む。
【0031】
図4(A)は、基板102上に絶縁膜114を形成する段階を示す。本実施例では、基板102としてはシリコンウェハを用いる。適宜洗浄された基板102に絶縁膜114を形成する。絶縁膜114は、シリコンウェハを熱酸化して形成される酸化シリコン膜である。シリコンウェハ上に酸化シリコン膜を形成することで、ナノギャップ電極104のリーク電流を防止することができる。なお、基板102として、サファイア基板、ジルコニア基板、アルミナ基板等のセラミック基板を用いる場合は、絶縁膜114の形成を省略することができる。
【0032】
図4(B)は、基板102上にレジスト膜116を形成する段階を示す。レジスト膜116は、フォトレジスト組成物をスピンコートで塗布し、乾燥させることで形成する。レジスト膜は、20nm~40nmの厚さで形成する。本実施形態では、レジスト膜116を、電子ビーム露光用のフォトレジスト組成物により形成する。
【0033】
図4(C)は、レジスト膜116を現像してマスクパターン118を形成する段階を示す。マスクパターン118は、レジスト膜116を電子ビームリソグラフィにより露光し、現像することにより作製する。マスクパターン118は、ナノギャップ電極104のナノギャップ長が、例えば、20nmとなるように形成する。
【0034】
図4(D)は、ナノギャップ電極104を形成する金属膜120を形成する段階を示す。金属膜120は、基板102表面の略全面を覆うように形成する。金属膜120は、第1金属膜120aとしてチタン(Ti)膜を2~10nm、例えば5nmの厚さで形成し、第2金属膜120bとして白金(Pt)膜を5nm~20nm、例えば15nmの厚さで形成する。このような金属膜120は、電子ビーム蒸着法により形成する。
【0035】
図5(A)は、マスクパターン118をリフトオフしてナノギャップ電極104を形成する段階を示す。マスクパターン118を剥離して、同時にその部分に重なる金属膜120を除去する。これにより、第1金属膜120a及び第2金属膜120bが積層された、第1電極106及び第2電極108が形成される。第1電極106及び第2電極108は、間隔(ナノギャップ長)が、20nm、幅が15nmとなるように形成する。
【0036】
追加
本実施例では、上記の電子ビームリソグラフィの手法によりナノギャップ電極を作製しているが、原版となるモールド(金型)を型押しすることによりレジストにパターンを転写するナノインプリントリソグラフィの手法を用いてナノギャップ電極を作製することもできる。
【0037】
本実施例では、ナノギャップ電極104のナノギャップ部分に設ける金属酸化物のナノ粒子として、酸化セリウムのナノ粒子を用いる。以下に示す酸化セリウムによるナノ粒子の調製は、例えば参考文献1(Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 56, 1, AE02, 2017)に開示されている方法により行うことができる。さらには、ナノ粒子の形成に適した溶液から作製することができる。
【0038】
図5(B)は、金属酸化物のナノ粒子を形成するための溶液を塗布する段階を示す。酸化セリウムのナノ粒子を形成する場合には、セリウム(III)アセチルアセトネート水和物、セリウム(III)硝酸塩六水和物(純度99.99%)、及びセリウム(III)硝酸水和物(純度99.99%)の3種類の金属前駆体を含む溶液を準備する。溶媒としては2-メトキシエタノールプロピオン酸を用いる。金蔵前駆体と溶媒を混合し、溶液を10~60分間攪拌しながら70℃~120℃で加熱する。その後、その溶液を0.2μmのフィルタで濾過する。
【0039】
こうして調製された金属前駆体溶液を、ナノギャップ電極104が形成された基板102上にスピナーで塗布して塗膜122を形成する。スピナーの回転数は任意であるが、例えば、1000rpm~4000rpmの範囲で適宜設定する。
【0040】
その後、図5(C)に示すように、塗膜122を乾燥させる。例えば、塗膜122を、150℃で60秒間、さらに250℃で300秒間加熱して溶媒を揮発させ乾燥させる。
【0041】
最後に、図5(D)に示すように、乾燥した塗膜122に熱処理を行い、ナノ粒子を形成する。熱処理は、電気炉を用い、空気中で300~600℃で、10~60分間加熱する。以上の工程において、ナノ粒子のサイズ及び多孔質の度合いは、金属前駆体溶液の濃度、スピンコーティングの回転数、熱処理温度により調整することができる。
【0042】
2.ナノ粒子の評価
本実施例で作製されたナノ粒子の評価結果を以下に示す。
【0043】
(1)スピンコート時の回転数依存性
図6に、スピンコート時の回転数を変化させて作製された酸化セリウム膜の走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)写真(SEM像)を示す。図6において、(a)はスピナーの回転数が1000rpmのときの表面SEM像(上段)と断面SEM像(下段)を示し、以下同様に、(b)は2000rpm、(c)は3000rpm、(d)は4000rpmの結果を示す。なお、熱処理は、空気中で600℃、60分間行った。
【0044】
酸化セリウム膜の膜厚は、1000rpmで28.2nm、2000rpmで21.5nm、3000rpmで18.5nm、4000rpmで16.2nmと、回転数の増加により減少する傾向が確認された。一方、粒子のサイズは、いずれの試料も7nm~8nmであることが観察され、スピナーの回転数に依存しないことが判明した。
【0045】
(2)金属前駆体溶液の濃度依存性
図7は、金属前駆体溶液の濃度を変化させたときの酸化セリウム膜のSEM像を示す。図7において、(a)は金属前駆体の濃度が0.2mol/kgのときの表面SEM像(上段)と断面SEM像(下段)を示し、以下同様に、(b)は0.1mol/kg、(c)は0.05mol/kgの結果を示す。なお、熱処理は、空気中で600℃、60分間行った。
【0046】
酸化セリウム膜の膜厚は、0.2mol/kgで16.2nm、0.1mol/kgで7.5nm、0.05mol/kgで5.5nmとなり、濃度の低下に伴って減少する傾向が確認された。粒子のサイズは、いずれの試料も7nm~8nmであり金属前駆体の濃度に依存しないが、膜の表面状態(モルフォロジー)及び多孔性は、溶液の濃度に強く依存する傾向が観察された。金属前駆体の濃度が高い程、酸化セリウム膜の表面状態は凹凸が大きく、多孔性であることが観察された。
【0047】
(3)熱処理温度依存性
図8は、熱処理温度を変化させたときの酸化セリウム膜のSEM像を示す。図8において、(a)は熱処理温度が250℃のときの表面SEM像(上段)と断面SEM像(下段)を示し、以下同様に、(b)は400℃、(c)は600℃、(d)は800℃の結果を示す。なお、試料は、金属前駆体の濃度が0.2mol/kgの溶液を用いて作製した。
【0048】
酸化セリウム膜の膜厚は、250℃で19.1nm、400℃で18.3nm、600℃で16.2nm、800℃で15.8nmと、温度の上昇により減少する傾向が確認された。また、粒子のサイズは、温度の上昇と共に、5nmから20nmへと顕著な変化が観察された。
【0049】
3.ナノギャップ電極上の酸化セリウム膜
(1)スピンコートで作製された酸化セリウム膜
図9は、スピンコートにより作製されたナノギャップ電極上の酸化セリウム膜のSEM像を示す。図9において、(a)は酸化セリウム膜を形成する前のナノギャップ電極の平面SEM像、(b)はナノギャップ電極の上に5.5nmの平均膜厚で酸化セリウム膜が形成された試料(以下、「素子1」ともいう。)の平面SEM像、(c)は同様に平均膜厚が16.3nmの試料(以下、「素子2」ともいう。)の平面SEM像、(d)は同様に平均膜厚が28.2nmの試料(以下、「素子3」ともいう。)の平面SEM像を示す。熱処理温度は400℃である。
【0050】
図8(b)~(d)に示されるように、酸化セリウム膜はナノギャップ電極を十分被覆しており、段差被覆性(ステップカバレッジ)も良好であることが観察された。また、酸化セリウム膜の膜厚の増加により、多孔質性も高くなる(孔が増加する)傾向が観察されている。
【0051】
(2)浸漬法で作製された酸化セリウム膜
図10に、酸化セリウム膜を浸漬法によってナノギャップ電極上に作製した試料(素子4)を示す。図10において、(a)は酸化セリウム膜を形成する前のナノギャップ電極のSEM像を示し、(b)は酸化セリウム膜を形成した試料を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)で観察した結果(AFM像)を示す。図10(b)の結果より、酸化セリウムの粒径は、30~40nmの範囲であることが観察される。
【0052】
ここで、試料は、酸化セリウム(CeO2)ナノ結晶を含むナノ粒子コロイド溶液を使用し、この溶液にナノギャップ電極が形成された基板を浸漬させ、600℃で3時間の熱処理を行って作製した。基板としてはサファイア基板が用いられている。なお、浸漬法の詳細な例は、参考文献1に開示されている。ナノ粒子の作製法としては、例えばバッチ式や連続式の水熱合成法や均一沈殿法、ゾルゲル法などがあり、金属塩、例えば金属塩化物や金属硝酸塩、クエン酸などの有機塩類の水溶液を100℃~900℃で1秒から50時間で大気圧もしくは加圧下で加熱することにより2nm~50nmの単結晶状のナノ粒子が得られる。これらの溶液は水や極性および非極性有機溶媒に分散したナノ粒子溶液すなわちコロイド溶液として得られる。
【0053】
4.ガスセンサ素子としての特性
上記で作製された、素子1及び素子2について、ガスセンサとして評価した結果を示す。
【0054】
(1)酸素分圧依存性
図11は、素子1で測定された電流の酸素分圧依存性を示す。測定は、ナノギャップ電極間に1Vの電圧を印加し、573K、530K、470Kの3点の温度で行った。酸素分圧の範囲は9.2×10-3Pa~1×10-5Paとした。また、図12は、素子2で測定された電流の酸素分圧依存性を示す。測定は、ナノギャップ電極間に1Vの電圧を印加し、573K、550Kの温度で行った。酸素分圧の範囲は9.2×10-3Pa~1×10-5Paとした。なお、図12において、酸素分圧が約10-1~10Paの範囲で連続性が途切れているが、これは真空度を計測する測定器の切替に起因する問題であり素子2の特性を反映させていないものであることに留意すべきである。
【0055】
図11及び図12の結果より、素子1及び素子2は共に熱活性化型の伝導を示し、酸素分圧の減少に伴って電流が増加する傾向が示された。また、温度の上昇により電流が大きくなる傾向が示された。図11において、素子1の各温度において測定されたプロットに基づいて引かれる直線の傾きは、-1.7(573K)、-1.5(530K)、-0.09(470K)であり、素子2では-0.31(573K)、-0.27(550K)であり、温度が高いほど電流が大きくなり、酸素分圧の変化に対する電流の変化は大きくなり、酸素分圧に対し[PО2-α(α=1.3~1.7(素子1)、0.3(素子2))の関係があることが観測された。
【0056】
素子1及び素子2で測定される電流の酸素分圧依存性は、酸化セリウムナノ粒子の酸素空孔の濃度が、アクセプタ濃度に関係していると考察することができる。図13に示すように、すなわち低酸素分圧の下では、Ce4+は、低酸素分圧下においてCe3+に還元され、酸素空孔が形成されることによりCe4+とCe3+の間で電子移動生じると考えられる。このような反応に基づく電流の増加は、式(1)によって示すことができる。
【数1】
【0057】
(2)温度依存性
図14は、素子1の温度依存性を示す。測定は、空気中で素子1に3Vの電圧を印加し、300K~570Kの温度範囲における電流を測定した。素子1は、温度が500Kに達すると急激に電流が増加する傾向が測定された。このような伝導率の変化は、ドナーレベルから伝導帯へ電子が励起されるのに十分な熱エネルギーが与えられた結果であると推測することができ、これは式(2)により説明することができる。
【数2】
ここで、nは電子のキャリア濃度、Efはフェルミ準位、Ecは伝導帯の底のエネルギー、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。
【0058】
図15は、酸化セリウムナノ粒子の電流の温度依存性を示す。約500℃以上の高温域では熱活性化型の伝導を示し、アレニウスプロットより活性化エネルギーは0.62eVであった。
【0059】
(3)応答速度
図16は、素子3の酸素分圧の変化に対する応答時間を示す。ここで、応答時間とは、酸素分圧の急峻な変化に対し、素子の出力信号が飽和値の90%に達する時間として定義した。ここで出力信号は電流値の変化として読み取ることができ、図16に示されるように、素子3の応答時間は300℃で、6秒未満であることが確認された。
【0060】
図17は、比較例を示し、電極のギャップ長が12μmの素子(マイクロギャップ素子)について同様の測定をした結果を示す。図17に示される特性から明らかなように、比較例の素子の酸素分圧の変化に対する応答速度は極めて遅く、3400秒以上であるという結果となった。
【0061】
このように、ナノギャップ電極を有する素子は、比較例の素子に対し1000倍近く速い応答速度を示すことが実証された。また、測定温度は、300℃である。測定温度を上げると、応答速度は、絶対温度に対して指数関数的に速くなる。比較例の素子に対して100倍近く速い応答速度を示していることを鑑みると、測定温度を上げることにより、桁違いの応答速度の増加が期待される。
【0062】
5.浸漬法で作製された素子の特性
図18は、浸漬法で作製された素子4の電流の酸素分圧依存性を示し、図19は素子4の電流の温度依存性を示す。素子4においても、酸素分圧の低下に伴い電流が増加する結果が測定されている。また、温度依存性において、420K以上で急激な電流値の増加が観測されている。
【0063】
図20は、素子4の電流の温度依存性を示し、アレニウスプロットから活性化エネルギーが0.47~0.64eVにあることが推定されている。
【符号の説明】
【0064】
100・・・ガスセンサ、102・・・基板、104・・・ナノギャップ電極、106・・・第1電極、108・・・第2電極、110・・・ナノ粒子、112・・・金属酸化物膜、114・・・絶縁膜、116・・・レジスト膜、118・・・マスクパターン、120・・・金属膜、122・・・塗膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20