(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】水性磁性塗料組成物並びにそれを用いた磁性面及び磁性シート
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20231116BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20231116BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20231116BHJP
C09D 5/23 20060101ALI20231116BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231116BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D133/00
C09D5/02
C09D5/23
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2021032927
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】前橋 義幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅治
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-045465(JP,A)
【文献】特開2014-148048(JP,A)
【文献】特開2004-167819(JP,A)
【文献】国際公開第96/017022(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/074218(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/071051(WO,A1)
【文献】特開2016-003259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
B32B 1/00 - 43/00
B05D 1/00 - 7/26
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
E04F 13/02 - 13/07
E04F 13/073
E04F 13/08
E04F 13/10 - 13/21
E04F 13/24
E04F 13/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルジョン系樹脂塗料と平均粒子径が20μ以上の鉄粉とで構成された磁性塗料において、珪酸塩水溶液を添加し
、珪酸塩水溶液の添加量が、エマルジョン系樹脂塗料100重量部に対して20重量部以上、かつ鉄粉100重量部に対して5重量部以上であることを特徴とする、水性磁性塗料組成物。
【請求項2】
エマルジョン系樹脂塗料が、アクリル樹脂系エマルジョン塗料、シリコンアクリル樹脂系エマルジョン塗料、及びエチレングリコールとジエチレングリコールモノブチルエーテルとの混合系エマルジョン塗料の、3種類の少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の水性磁性塗料組成物。
【請求項3】
珪酸塩が、珪酸ソーダ及び/又は珪酸リチュームであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の水性磁性塗料組成物。
【請求項4】
平均粒子径が2μ以上且つ、鉄粉の1/10以下の亜鉛粉を、鉄粉100重量部に対して3~5重量部添加することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水性磁性塗料組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水性磁性塗料組成物を、磁性又は非磁性材のシート状部材の片面に塗布し乾燥させてなることを特徴とする磁性シート。
【請求項6】
裏面に粘着剤層が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の磁性シート。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水性磁性塗料組成物を、両面粘着シートの片面に塗布し乾燥させてなることを特徴とする、請求項6に記載の磁性シート。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水性磁性塗料組成物を、磁性又は非磁性の壁面又はボードに塗布し乾燥させてなることを特徴とする磁性面。
【請求項9】
請求項6または請求項7に記載の磁性シートの粘着剤層面を、磁性又は非磁性の面に貼着させてなることを特徴とする磁性面。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性磁性塗料組成物並びにそれを塗布した磁性面及び磁性シートに関する。より詳しくは、水性でありながら磁性粉を鉄粉としても錆びない塗装面及びシートを実現する。更に本発明に依れば、裏面に粘着剤付きの磁性シートが容易に得られる。
【背景技術】
【0002】
磁性面に永久磁石を磁気吸着させるか、あるいはその逆が、「表示」する手段として広く採用されている。
一方、既存の非磁性壁面やボード、あるいは不定形な面を磁性面に変貌させる為には、塗装手段でもって磁性面を形成することが最も容易であるが、該磁性塗料に採用する鉄粉が水によって錆びるという問題があった。
下記特許文献1は、その様な課題を解決する1つの方法を開示している。すなわち、特許文献1では、鉄よりイオン化傾向の大きな亜鉛金属の粒子を一定量添加することで防錆機能を発揮させている。
【0003】
また、特許文献2は、塗料に添加した組成間で化学反応させて防錆性に優れたコーティング塗料とする技術を提案している。
【0004】
【文献】特開2020―045465号公報
【文献】特開2016―003259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、亜鉛粉の添加量と防錆性とは正の相関が想定されるが、本文献の実施例では鉄100重量部に対して10重量部と、比較的多量に添加している。
他方で、粒子径が小さく且つ揃った亜鉛粉体は高価であり、使用量は少ない程好ましいのである。
【0006】
特許文献2の提案は、本発明の目的とは異なり、塗料組成物その物が磁性を有していないので、非磁性面に塗布しても磁性面に成らない。まして磁性シートを形成することは出来ない。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、磁性粉として採用される鉄粉の防錆能力に優れ、塗布するだけで磁気特性に優れた面を確保することが出来る安価な水性磁性塗料組成物並びにそれを用いた磁性面及び磁性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために次のような手段をとる。
すなわち、エマルジョン系樹脂塗料と平均粒子径が20μ以上の鉄粉とで構成された磁性塗料において、珪酸塩水溶液を添加し、珪酸塩水溶液の添加量が、エマルジョン系樹脂塗料100重量部に対して20重量部以上、かつ鉄粉100重量部に対して5重量部以上である、水性磁性塗料組成物とする。
更に、エマルジョン系樹脂塗料が、アクリル樹脂系エマルジョン塗料、シリコンアクリル樹脂系エマルジョン塗料、及びエチレングリコールとジエチレングリコールモノブチルエーテルとの混合系エマルジョン塗料の、3種類の少なくとも1種を含むことは好ましい態様である。
【0009】
珪酸塩が、珪酸ソーダ及び/又は珪酸リチュームであっても良い。
【0010】
平均粒子径が2μ以上且つ、鉄粉の1/10以下の亜鉛粉を、鉄粉100重量部に対して3~5重量部添加することによって、防錆性をより高めることが出来る。
【0011】
本発明の水性磁性塗料組成物を、磁性又は非磁性材のシート状部材の片面に塗布し乾燥させると磁性シートが得られる。
該シートの裏面に粘着剤層が形成されていても良い。
【0012】
本発明の水性磁性塗料組成物を両面粘着シートの片面に塗布し乾燥させると、裏面に粘着剤層が形成された磁性シートが得られる。
【0013】
また、本発明の水性磁性塗料組成物を磁性又は非磁性の壁面又はボードに塗布し乾燥させると、永久磁石が磁気吸着可能な磁性面が得られる。
或いは、裏面に粘着剤層を有する磁性シートの粘着剤層面を磁性又は非磁性の面に貼着させて、同様な磁性面を得ることが出来る。
【発明の効果】
【0014】
本発明には安価な水性磁性塗料組成物が開示されている。磁性粉として採用される鉄粉の防錆能力に優れ、塗布するだけで磁気特性に優れた面を確保することが出来る。更に、水性なので、F☆☆☆☆(Fフォースター、JIS規格のホルムアルデヒド等級の最上位規格)の安全性が確保されている。
また本組成物は、塗料としての特性を活かして磁性シートを直接作ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の組成物を評価する為のシートを作成する方法を説明する図。
【
図3】裏面に粘着剤付きの磁性シートを作成する方法を説明する図。
【
図4】
図3の方法で得られる粘着剤付き磁性シートを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は磁性塗料組成物に関し、水性で且つ防錆性が強く、黒色や白っぽいグレー色を含むカラー化が可能である。
本発明の組成物を塗布した塗装面は固くは無く、本発明で得られるシートは柔軟性がある。
以下、実施例と比較例で説明する。
【実施例1】
【0017】
シリコンアクリル樹脂系合成樹脂エマルジョンペイントである、「水性多用途カラー(白)」(株式会社アサヒペンが販売)5グラムに、珪酸ソーダ水溶液の1種類である水ガラス1号(日本化学工業株式会社が販売)を1.0グラム加えて混合し、更に還元鉄粉である「DR-C2」(平均粒子径>75μ。110μを超える粒子は殆ど無かった。DOWA・IPクリエイション社製)を20グラム加えて良く混合して、磁性塗料組成物を得た。
【0018】
次いで、
図1に示す方法で該磁性塗料組成物を両面粘着テープの片面に塗布した。すなわち、ニトムスプロセルフ・カーペット用強弱両面テ―プ(日東電工株式会社)1を台紙(厚紙)4に粘着させ、はくり紙(離型紙)2を取り去って新たに表れた粘着剤層3に前記磁性塗料組成物を適量乗せ、スペーサー5のクリアランスになる様に、バー(バーコーター)6を矢印Aの方向に移動させて、一定厚の磁性塗料層7を得た。
得られたシートを室内で自然乾燥させると、
図2に示すように、台紙4の上に粘着剤層3があり、その上に磁性塗料層7が形成された試験用シート8が得られた。
【0019】
水をはじき疎水性を示す粘着剤であるが、水分が乾燥後のシート8では、磁性塗料層7が粘着剤層3と強固に粘着しており、後述する錆発生テスト終了後も同様であった。
本発明の実施例及び比較例いずれの組成物も同様で、また、前記両面粘着テープの他の粘着剤層面も同様であった。
【0020】
次に、プラスチック製カップに十分満たした水道水に前記試験用シート8全体を浸漬させ、略28℃前後の室内に放置して定期的にシートの磁性層表面を観察した。
【表1】
【0021】
錆発生テスト開始後10日間経過後における磁性層表面の錆の発生状態の肉眼及びルーペ観察結果は、特定の箇所に錆が認められる状態では無かった。
観察結果を表1のテストNo.1に示す。表1は、他の実施例と比較例の組成物の内容と共に、錆発生テストの観察結果を纏めたものである。
【0022】
実施例1と同様にして、実施例2~実施例6を実施した。組成及び錆発生テストの結果を表1に纏めている。
【実施例2】
【0023】
実施例2では、実施例1に対して、亜鉛粉を1.0グラム加えた。
【実施例3】
【0024】
実施例3では、実施例1に対して、「水性多用途カラー(白)」を4.0グラムとするとともに、水ガラス1号を2.0グラムとした。
【実施例4】
【0025】
実施例4では、実施例1に対して、水ガラス1号に替えて珪酸リチューム35を1.0グラム加えるとともに、亜鉛粉を1.0グラム加えた。
【実施例5】
【0026】
実施例5では、実施例1に対して、「水性多用途カラー(白)」を4.0グラムとするとともに、水ガラス1号に替えて珪酸リチューム35を2.0グラム加えた。
【実施例6】
【0027】
実施例6では、実施例1に対して、「水性多用途カラー(白)」に替えて「オールマイティネオ(白)」を5.0グラム加えた。
【0028】
ここに、「オールマイティネオ(白)」は、アトムサポート株式会社の合成樹脂エマルジョン塗料で、樹脂成分としてジエチレングリコールモノブチルエーテルとエチレングリコールを含んでいる。
珪酸リチューム35は、日本化学工業が販売している珪酸塩水溶液の1種類である。亜鉛粉は、九州白水株式会社のグレードF(粒子径3~5μ、平均3.8μ)を用いた。
【0029】
〔比較例1〕
水性多用途カラー(白)6グラムに、DR-C2を20グラム加えて良く混合して、磁性塗料組成物を得た。以下実施例1と同様に試験用シートを作成し、錆発生テストを実施した。浸漬10日後の磁性層表面は、全面に赤褐色の錆が激しかった。
【0030】
試験結果を表1に示す(テストNo.9)。同様に、比較例2~比較例5の組成内容とその錆発生テストの結果を表1に纏めている。
【0031】
防錆効果が大きい実施例1~6を錆が目立つ比較例1~5と比べると、珪酸塩の量は一定以上の比率が必要であり、多いと防錆効果も大きい。亜鉛粉の添加効果は単独では効果が無い少量であっても、珪酸塩との併用では 鉄粉100重量部に対して5重量部で効果が大きい。
【実施例7】
【0032】
実施例1において、多用途カラー(白)4グラムの塗料に対して、水ガラス1号を1グラム、更に珪酸リチューム35を1グラム加え、鉄粉(DR-C2)20グラムの組成として、他は全く同様に、錆発生テストを実施したところ、表1に示す様に、錆は全く認められなかった。
この評価結果は、珪酸塩単独で同量(2種類分)の珪酸塩を添加した場合に比べ、優れた防錆効果を示している。相乗効果が有ると考えられる。
【実施例8】
【0033】
実施例7において、塗料バインダーをオールマイティネオ(白)5グラムに水ガラス1号を1グラム、珪酸リチューム35を1グラム、それぞれ加え、更に亜鉛粉(F)を1グラム加え、鉄粉DR-C2を20グラム加えたこと以外は実施例1と同様に錆発生テストを実施したところ、錆は全く認められず実施例1~8の全8件中最も良好な結果だった。
珪酸塩水溶液と亜鉛との相乗効果が有ると考えられる。
【実施例9】
【0034】
実施例3(表1のテストNo.3)の塗料組成物を準備し、内装材の石膏ボード表面に「こて」で略0.8mm~1mmの厚さに塗布し、自然乾燥させたところ、永久磁石が強力に磁着する白っぽい面が形成出来た。
この壁面は適度に凹凸があり、更に塗料樹脂の柔らかさとの相乗効果で摩擦が強く、永久磁石が滑ることは殆ど無かった。
【実施例10】
【0035】
実施例8(表1のテストNo.8)の塗料組成物を準備し、
図3の方法で裏面にアクリル樹脂系の粘着剤付きの磁性シートを得た。
すなわち、両面粘着シート9の離型紙2を付けたまま、巻凹面に前記塗料組成物を適量乗せ、スペーサー5のクリアランスになる様に、バー(バーコーター)6を矢印Aの方向に移動させて、一定厚の磁性塗料層7を得た。
得られたシートを乾燥させると、
図3に示すように、裏面を離型紙2に保護された粘着剤層3の上に磁性塗料層7が形成された磁性シート(タッキー付き)10が得られた。
【0036】
所定の大きさ・形状にカットした前記磁性シートの離型紙を取り除き、永久磁石が吸着出来る壁面に変えたい部分に貼るという簡単な作業で目的が達せられる。
【0037】
本発明では、市販されている水性エマルジョン塗料をベースにしているので、塗料の取り扱いや用具の清掃・後始末などは従来通りの方法で良い。もちろん水道水を使うことが出来る。
【0038】
実施例や比較例で採用した塗料はいずれも二酸化チタンが添加されていて、白色を呈している。
その中へ磁性粉を添加すると「白色」とは言えないグレーになってしまう。しかし明らかに「黒」では無く白っぽいので、暗いイメージは無い。
そして、別途酸化チタン粉体を添加すれば更に白っぽくすることが出来る。
【0039】
水性エマルジョン塗料はカラフルな塗料が揃っていて、本発明においてもそのまま採用してカラフルな磁性面やシートを得ることが出来る。追加の顔料等を添加しても良い。
【0040】
また、本発明の実施例や比較例は珪酸塩の「水溶液」を採用しているが、水溶性の珪酸塩粒子を採用しても同様の結果が得られることは述べるまでも無い。
【0041】
本発明の水性磁性塗料組成物は、接触している鉄系金属の防錆効果を有しているので、例えばスチールシートに塗布すると、該スチールシートの防錆機能を発揮すると共に、塗布面の磁気特性を向上させる事が出来る。
【0042】
尚、本発明の組成物に鉄粉以外の磁性紛、例えばソフトフェライトや砂鉄(あるいはマグネタイト)を少量加えても良い。ハードフェライトも可能である。
勿論、その粒子径は鉄粉の粒子径に準じることが好ましい。例えば10μ程度未満の粒子は組成物の色を黒くする作用が有るので分級操作等でカット(除去)すること、少なくとも減少させることが好ましい。平均粒子径が20μ以上であれば、黒くならないことの効果は十分に期待できる。
【0043】
他方、本発明の前記磁性紛の粒子径が大き過ぎても良くない。例えば粒子径が110μ以下であれば塗布し易い粘性を確保し、且つ塗布表面の大きな凹凸を抑えて、塗装面としての少なくとも最低限の品質を確保する事が出来る。
【0044】
上記実施例で示した亜鉛粉は、平均粒子径3.8μであるが、2μ以上且つ、鉄粉の1/10以下であれば、防錆効果の向上は十分に期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
非磁性面に塗布・乾燥させることでもって永久磁石が吸着する磁性面を実現する塗料である。建装材表面に塗布しても良く、リフォーム時に例えば子供部屋の1つの壁の特定の部分だけに塗布して、そこをカラフルな磁性面にすることが出来る。
或いは、裏面の粘着剤でもって壁面に施工する作業を短時間で完了させることが出来る磁性シートとして採用される。
更に本発明の塗料組成物は、安価な材料からなり、錆に強い建装用機能性塗料である。
【符号の説明】
【0046】
1 両面粘着テープ
2 離型紙(保護紙)
3 粘着剤層
4 台紙
5 スペーサー
6 コーター(バーコーター)
7 磁性塗料層
8 試験用シート
9 両面粘着シート
10 タッキー付き磁性シート