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特許7385873シミュレーションシステム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】シミュレーションシステム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/50 20180101AFI20231116BHJP
【FI】
G16H50/50
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021565499
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045649
(87)【国際公開番号】W WO2021124985
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019229195
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519453869
【氏名又は名称】株式会社Xenlon
(73)【特許権者】
【識別番号】509068965
【氏名又は名称】メディカル・データ・ビジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小林 仁幸
【審査官】玉木 宏治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-070405(JP,A)
【文献】特開2014-056475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断に用いられる主要な指標が定められている特定の疾病又は症候に関するシミュレーションをするシミュレーションシステムであって、
多数の被験者から採取された検査結果に基づいて生成されたデータベースと、
前記検査結果に含まれる複数の検査項目の中の、前記主要な指標に関する検査項目を除いた複数の特定検査項目のそれぞれに対して、任意の数値入力を可能とする入力手段と、
前記入力手段によって入力された前記複数の特定検査項目の数値を前記データベースに照らし合わせて、前記特定の疾病又は症候に係るスコアを導出する演算手段と、
前記演算手段により導出されたスコアの表示及び前記入力手段を含む一以上の表示画面を表示する表示手段と、
を備え、
前記一以上の表示画面は、前記入力手段と共に、前記複数の特定検査項目の各々について前記入力手段によって入力可能な数値の範囲の表示及び各特定検査項目の結果として正常値とみなされる範囲である基準範囲の表示をそれぞれ識別可能な表示態様を含み、
前記一以上の表示画面に含まれる前記スコアの表示は、前記入力手段によって前記特定検査項目の数値が変更される度に、変動し、
前記複数の特定検査項目の中の一以上の特定検査項目の数値が前記入力手段によって前記基準範囲外の値に設定された場合に、該一以上の特定検査項目における入力可能な数値の範囲で変動する前記スコアの中で最良のスコアとなる、
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
【請求項2】
前記特定の疾病又は症候が、糖尿病であり、
前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)である、
請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項3】
前記特定の疾病又は症候が、多血症又は赤血球増加症の少なくとも一方であり、
前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、赤血球数、ヘモグロビン又はヘマトクリットのうちの少なくとも一つである、
請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項4】
前記特定の疾病又は症候が、好酸球増多症であり、
前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、好酸球数である、
請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項5】
前記特定の疾病又は症候が、高トリグリセリドであり、
前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、トリグリセリドである、
請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項6】
前記特定の疾病又は症候が、高LDLコレステロールであり、
前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、LDLコレステロールである、
請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項7】
前記特定の疾病又は症候が、心筋梗塞であり、
前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、心筋トロポニンI(cTnI)である、
請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項8】
前記特定の疾病又は症候が、B型肝炎であり、
前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、HBV-DNA定量である、
請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項9】
前記特定の疾病又は症候が、C型肝炎であり、
前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、HCV-RNA定量である、
請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項10】
前記特定の疾病又は症候が、腎機能障害であり、
前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、推算GFRcreateである、
請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項11】
診断に用いられる主要な指標が定められている特定の疾病又は症候に関するシミュレーションをコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記特定の疾病又は症候に関する検査結果に含まれる複数の検査項目の中の、前記主要な指標に関する検査項目を除いた複数の特定検査項目のそれぞれに対して、任意の数値入力を可能とする入力処理と、
多数の被験者から採取された検査結果に基づいて生成されたデータベースに、前記入力処理によって入力された前記複数の特定検査項目の数値を照らし合わせて導出された前記特定の疾病又は症候に係るスコアの表示を含む一以上の表示画面を表示する出力処理と、
をコンピュータに実行させ、
前記一以上の表示画面は、前記複数の特定検査項目の各々について前記入力処理によって入力可能な数値の範囲の表示及び各特定検査項目の結果として正常値とみなされる範囲である基準範囲の表示をそれぞれ識別可能な表示態様を含み、
前記一以上の表示画面に含まれる前記スコアの表示は、前記入力処理によって前記特定検査項目の数値が変更される度に、変動し、
前記複数の特定検査項目の中の一以上の特定検査項目の数値が前記入力処理によって前記基準範囲外の値に設定された場合に、該一以上の特定検査項目における入力可能な数値の範囲で変動する前記スコアの中で最良のスコアとなる、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーションシステム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医師による診察を支援することを目的とする種々の技術が開発されている。
例えば、特許文献1に開示されているコンピュータ装置は、糖尿病等の疾病に関する診察を支援する装置であり、患者の病態や過去の診察における医師の所見を表示する。ここで、当該装置が表示する患者の病態については、シミュレーション解析によって再現されたOGTT(糖負荷検査)の再現値が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-293171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に例示される、医療に関するシミュレーション解析を行うコンピュータシステム(以下、単にシミュレーションシステムという)は、一般的に、医学に裏付けされた論理に基づいてシミュレーション解析をすることが前提となる。
このような前提によれば、医学の常識に拘束された解析結果となり、時として、最適なシミュレーション解析の妨げとなることがある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、医療診断について医師に新たな気付きを与えるシミュレーションシステム、及びそれを実現する為のプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の本発明によれば、診断に用いられる主要な指標が定められている特定の疾病又は症候に関するシミュレーションをするシミュレーションシステムであって、多数の被験者から採取された検査結果に基づいて生成されたデータベースと、前記検査結果に含まれる複数の検査項目の中の、前記主要な指標に関する検査項目を除いた複数の特定検査項目のそれぞれに対して、任意の数値入力を可能とする入力手段と、前記入力手段によって入力された前記複数の特定検査項目の数値を前記データベースに照らし合わせて、前記特定の疾病又は症候に係るスコアを導出する演算手段と、前記演算手段により導出されたスコアの表示及び前記入力手段を含む一以上の表示画面を表示する表示手段と、を備え、前記一以上の表示画面は、前記入力手段と共に、前記複数の特定検査項目の各々について前記入力手段によって入力可能な数値の範囲の表示及び各特定検査項目の結果として正常値とみなされる範囲である基準範囲の表示をそれぞれ識別可能な表示態様を含み、前記一以上の表示画面に含まれる前記スコアの表示は、前記入力手段によって前記特定検査項目の数値が変更される度に、変動し、前記複数の特定検査項目の中の一以上の特定検査項目の数値が前記入力手段によって前記基準範囲外の値に設定された場合に、該一以上の特定検査項目における入力可能な数値の範囲で変動する前記スコアの中で最良のスコアとなる、ことを特徴とするシミュレーションシステムが提供される。
【0007】
第二の本発明によれば、診断に用いられる主要な指標が定められている特定の疾病又は症候に関するシミュレーションをコンピュータに実行させるプログラムであって、前記特定の疾病又は症候に関する検査結果に含まれる複数の検査項目の中の、前記主要な指標に関する検査項目を除いた複数の特定検査項目のそれぞれに対して、任意の数値入力を可能とする入力処理と、多数の被験者から採取された検査結果に基づいて生成されたデータベースに、前記入力処理によって入力された前記複数の特定検査項目の数値を照らし合わせて導出された前記特定の疾病又は症候に係るスコアの表示を含む一以上の表示画面を表示する出力処理と、をコンピュータに実行させ、前記一以上の表示画面は、前記複数の特定検査項目の各々について前記入力処理によって入力可能な数値の範囲の表示及び各特定検査項目の結果として正常値とみなされる範囲である基準範囲の表示をそれぞれ識別可能な表示態様を含み、前記一以上の表示画面に含まれる前記スコアの表示は、前記入力処理によって前記特定検査項目の数値が変更される度に、変動し、前記複数の特定検査項目の中の一以上の特定検査項目の数値が前記入力処理によって前記基準範囲外の値に設定された場合に、該一以上の特定検査項目における入力可能な数値の範囲で変動する前記スコアの中で最良のスコアとなる、ことを特徴とするプログラムが提供される。
【0008】
上記の発明によれば、シミュレーション解析に用いる為に数値入力する各検査項目から、解析対象となる疾病又は症候の診断に用いられる主要な指標に関する検査項目が除かれており、その入力結果を多数の被験者から採取された実際の検査結果に基づいて生成されたデータベースに照らし合わせて、その疾病又は症候に係るスコアを算出する。
従って、医学の常識から外れた解析結果を得られる場合があり、そのような場合には医師に新たな気付きを与えうる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、医療診断について医師に新たな気付きを与えるシミュレーションシステム、及びそれを実現する為のプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】シミュレーションシステムの構成図である。
図2】シミュレーションシステムの処理に関するシーケンス図である。
図3】シミュレーション解析に関する表示画面の一部を示す図である。
図4】白血球数について入力値を変動させた場合のスコア変動を示す図である。
図5】赤血球数について入力値を変動させた場合のスコア変動を示す図である。
図6】ヘモグロビンについて入力値を変動させた場合のスコア変動を示す図である。
図7】ヘマトクリットについて入力値を変動させた場合のスコア変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0012】
<シミュレーションシステムの構成について>
先ず、本実施形態におけるシミュレーションシステム100の構成について説明する。
図1は、シミュレーションシステム100の構成図である。
本実施形態におけるシミュレーションシステム100は、糖尿病に関するリスクをシミュレーション解析して数値化するものである。
ここで糖尿病に関するリスクとは、例えば、糖尿病が発症していない者に対しては発症の可能性が相当し、糖尿病が発症している者に対してはその重篤度が相当しうる。
また、糖尿病に関するリスクを数値化したものを、以下の説明では便宜的に「スコア」と称する。
【0013】
シミュレーションシステム100は、サーバ10と、データベース20と、スマートフォン30と、パソコン40と、を含む。
【0014】
サーバ10は、ネットワーク50を介して、スマートフォン30及びパソコン40と通信可能に構成される。なお、ネットワーク50は、インターネット、携帯電話通信網、LAN(Local Area Network)などからなるコンピュータネットワークである。
サーバ10は、データベース20を参照可能に構成されており、データベース20を参照することによって上記のスコアを導出することができる。
【0015】
データベース20は、多数の被験者から採取された大量の検査結果を独自ロジックに基づいてデータクレンジングした後に、いわゆるビッグデータ解析(種々のデータベース技術、ディープラーニング処理等)を適用して生成されたものである。
なお、データベース20は、実際の検査結果に基づいて生成されたものであれば足り、その実現手法は特に制限されず、既知の技術をいかように組み合わせて実現してもよい。
【0016】
スマートフォン30及びパソコン40は、サーバ10に対するクライアント端末として位置付けられるコンピュータ装置の例示である。
スマートフォン30及びパソコン40は、後述するアプリケーションプログラムをインストールすることによって、サーバ10に対してアクセス可能となり、サーバ10によって導出されたスコアを要求することができる。
【0017】
スマートフォン30及びパソコン40にインストールされるアプリケーションプログラムは、本実施形態においては糖尿病に関するシミュレーションを実行させるものである。
当該アプリケーションプログラムは、スマートフォン30及びパソコン40が有するストレージ(図示省略)に格納され、スマートフォン30及びパソコン40が有するCPU(図示省略)によって読み出されることによって、以下の入力処理及び出力処理をスマートフォン30及びパソコン40に実行させることができる。
ここで入力処理とは、糖尿病に関する検査結果に含まれる複数の検査項目のそれぞれに対して、ユーザが任意の数値を入力する処理である。
ここで出力処理とは、上記のデータベース20に、上記の入力処理によって入力された各検査項目の数値を照らし合わせて導出された糖尿病に係るスコアを、ユーザが認識可能な形式で出力する処理である。
なお、入力処理の対象となる検査項目の詳細、及び、その入力結果として得られる糖尿病のスコアの詳細については、後述する。
【0018】
<シミュレーションシステムの処理手順について>
次に、本実施形態のシミュレーションシステム100の処理手順について説明する。
図2は、シミュレーションシステム100の処理に関するシーケンス図である。
なお、図2における「端末」は図1のスマートフォン30に相当し、図2における「サーバ」は図1のサーバ10に相当し、図2における「DB」は図1のデータベース20に相当するものとして以下説明する。但し、図2の「端末」は図1のパソコン40に代えたとしても、その処理手順は変わらない。
【0019】
先ず、ユーザは、スマートフォン30の表示画面に表示されるスライドバー形式の入力手段を用いて、糖尿病の診断に用いられる検査(例えば、血液検査)における検査項目別に、その検査結果である数値を入力する(ステップS11)。
ステップS11で入力された数値は、スマートフォン30からサーバ10に送信され、サーバ10は当該数値をデータベース20に照らし合わせる(ステップS13)。
ステップS13で照らし合わせた結果として、サーバ10は、糖尿病に係るスコアを取得できる(ステップS15)。
ステップS15で取得したスコアを、サーバ10はスマートフォン30に応答する(ステップS17)。
【0020】
上記の処理手順は、スマートフォン30の表示画面(スライドバー形式の入力手段)によって入力される数値が変更される度に行われるので、ユーザは、当該表示画面に入力する数値を変更しながら、スコアの変動を確認することができる。
【0021】
<シミュレーション解析に関する表示画面について>
続いて、シミュレーションシステム100によって行われるシミュレーション解析に関する表示画面(上記のスマートフォン30やパソコン40の表示画面)について、説明する。
図3は、シミュレーション解析に関する表示画面の一部を示す図である。なお、図3に示す表示態様は一具体例であり、本発明の実施はこれに限られない。
【0022】
表示D11は、糖尿病に係るスコアを数値で表示するものである。なお、本実施形態では、この数値が大きいほど糖尿病に関するリスクが高く、この数値が小さいほど糖尿病に関するリスクが低いものとして説明するが、この関係が逆であってもよい。すなわち、数値が小さいほど糖尿病に関するリスクが高く、この数値が大きいほど糖尿病に関するリスクが低い態様にて、本発明が実施されてもよい。
表示D12は、表示D11の数値に比例して長さが変動する帯状の表示である。また、表示D12は、その色彩によって表示D11の数値が示すリスクの高低を表している。具体的には、表示D12は、当該リスクが高い場合に赤色になり、当該リスクが中程度である場合に黄色になり、当該リスクが低い場合に緑色になる。
【0023】
表示D21は、白血球数の検査結果について数値入力する為のスライドバー形式の入力手段であり、スライダーD22を左右に動かすことによって入力する数値が変動する。
表示D21によって入力可能な数値の範囲は、1500/μLから20040/μLまでとしている。また、表示D21は、白血球数の基準範囲(図3における表示D21の網掛け部分)を他の範囲と識別可能な表示態様としている。なお、表示D21における白血球数の基準範囲は、3600/μLから9000/μLまでとしている。
【0024】
表示D31は、赤血球数の検査結果について数値入力する為のスライドバー形式の入力手段であり、スライダーD32を左右に動かすことによって入力する数値が変動する。
表示D31によって入力可能な数値の範囲は、214万/μLから560万/μLまでとしている。また、表示D31は、赤血球数の基準範囲(図3における表示D31の網掛け部分)を他の範囲と識別可能な表示態様としている。なお、表示D31における赤血球数の基準範囲は、387万/μLから525万/μLまでとしている。
【0025】
表示D41は、ヘモグロビンの検査結果について数値入力する為のスライドバー形式の入力手段であり、スライダーD42を左右に動かすことによって入力する数値が変動する。
表示D41によって入力可能な数値の範囲は、6.7g/dLから16.9g/dLまでとしている。また、表示D41は、ヘモグロビンの基準範囲(図3における表示D41の網掛け部分)を他の範囲と識別可能な表示態様としている。なお、表示D41におけるヘモグロビンの基準範囲は、12.6g/dLから16.5g/dLまでとしている。
【0026】
表示D51は、ヘマトクリットの検査結果について数値入力する為のスライドバー形式の入力手段であり、スライダーD52を左右に動かすことによって入力する数値が変動する。
表示D51によって入力可能な数値の範囲は、20.5%から49.9%までとしている。また、表示D51は、ヘマトクリットの基準範囲(図3における表示D51の網掛け部分)を他の範囲と識別可能な表示態様としている。なお、表示D51におけるヘマトクリットの基準範囲は、37.4%から48.6%までとしている。
【0027】
なお、上記の表示D21~表示D51における入力可能な数値の範囲、及び、各検査項目の基準範囲は、一具体例に過ぎず、適宜変更可能である。特に、各検査項目の基準範囲についてはユーザの性別によって適切な範囲が変化するものであるため、ユーザの性別に応じて変更可能であることが好ましい。
【0028】
また、図3には図示しないが、上記の表示画面には、以下の検査項目に関する検査結果を入力するための入力手段が含まれる。
血小板数、総蛋白、アルブミン、クレアチンキナーゼ、GOT、GPT、LDH、アルカリフォスファターゼ、γ-GTP、クレアチニン、尿酸、尿素窒素、グルコース、トリグリセリド、ナトリウム、カリウム、クロール、総ビリルビン、CRP、推算GFRcreateが含まれる。これらと図3に図示した4つの検査項目(白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット)は、通常の血液検査の検査対象となることが多い検査項目としてピックアップしたものである。
【0029】
ここで、上記の表示画面を用いて検査結果を入力可能な検査項目から、糖尿病の診断に用いられるものとして最も主要な指標であるHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)が除かれていることが、本実施形態におけるシミュレーションシステム100の特徴である。
この特徴により、シミュレーションシステム100は、通常の診断では得られない結論を導き出すことが可能となり、医師に新たな気付きを与えうる。
【0030】
ここで、図3に例示した状況において、4つの検査項目(白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット)のうち1つの検査項目について、入力可能な範囲において入力する数値を変動させた場合に、スコアがどのように変動するのかという点について、図4から図7を用いて以下に説明する。
なお、図4から図7に図示するスコアの変動は、上記の各検査項目に入力された検査結果(数値)が相互に作用し合うことによって生じるものであり、全てのユーザについて共通の傾向となるものではない。言い換えれば、入力する検査結果ごとに、スコア変動の傾向性が変化しうる。
【0031】
図4は、白血球数について入力値を変動させた場合のスコア変動を示す図である。
図4に示すとおり、白血球数の入力値を1500/μLから20040/μLまでの範囲で変動させた場合、スコアの最大値(最悪のスコア)は基準範囲内になる。また、上記の入力範囲において最良のスコアは基準範囲から外れる。
ここで白血球数の基準範囲は、一般的な血液検査では正常値と見做されるものであるが、本実施形態のように糖尿病という特定の疾病に関するリスク判断という観点では、むしろそれを逸脱した値の方が好ましいことが見て取れる。
【0032】
図5は、赤血球数について入力値を変動させた場合のスコア変動を示す図である。
図5に示すとおり、赤血球数の入力値を214万/μLから560万/μLまでの範囲で変動させた場合、スコアの推移は、赤血球数と正の相関関係になる。従って、スコアの最大値(最悪のスコア)は560万/μLを入力した際の値(6.06)である。一方、スコアの最小値(最良のスコア)は214万/μLを入力した際の値(4.87)である。従って、上記の入力範囲において最良のスコアは基準範囲から外れる。
ここで赤血球数の基準範囲についても、白血球数の基準範囲と同様に、一般的な血液検査では正常値と見做されるものである。しかしながら、本実施形態のように糖尿病という特定の疾病に関するリスク判断という観点では、赤血球数については少ないほど好ましいことが見て取れる。
【0033】
図6は、ヘモグロビンについて入力値を変動させた場合のスコア変動を示す図である。
図6に示すとおり、ヘモグロビンの入力値を6.7g/dLから16.9g/dLまでの範囲で変動させた場合、スコアの推移は、ヘモグロビンと負の相関関係になる。従って、スコアの最大値(最悪のスコア)は6.7g/dLを入力した際の値(5.98)である。一方、スコアの最小値(最良のスコア)は16.9g/dLを入力した際の値(5.72)である。従って、上記の入力範囲において最良のスコアは基準範囲から外れる。
ここでヘモグロビンの基準範囲についても、赤血球や白血球数の基準範囲と同様に、一般的な血液検査では正常値と見做されるものである。しかしながら、本実施形態のように糖尿病という特定の疾病に関するリスク判断という観点では、ヘモグロビンについては多いほど好ましいことが見て取れる。
【0034】
図7は、ヘマトクリットについて入力値を変動させた場合のスコア変動を示す図である。
図7に示すとおり、ヘマトクリットの入力値を20.5%から49.9%までの範囲で変動させた場合、スコアの最大値(最悪のスコア)は基準範囲内になる。また、上記の入力範囲において最良のスコアは基準範囲から外れる。
ここでヘマトクリットの基準範囲は、赤血球、白血球数及びヘモグロビンの基準範囲と同様に、一般的な血液検査では正常値と見做されるものであるが、本実施形態のように糖尿病という特定の疾病に関するリスク判断という観点では、むしろそれを逸脱した値の方が好ましいことが見て取れる。
【0035】
図4図7に示すスコア変動の傾向性からも明らかであるように、シミュレーションシステム100は、一般的な血液検査では推奨されない(異常として扱われる)数値を肯定する場合があり、医師に新たな気付きを与えうる。
【0036】
ここで、上述したスコア変動の傾向性とは異なる観点から、本発明によって得られる知見を以下に述べる。
いずれも肝機能の診断に用いられる検査項目であるGOTとGPTについて、前者は数値が高いほどスコアが低くなる傾向になっている一方、後者は数値が高いほどスコアが高くなる傾向になっている。従って、糖尿病という特定の疾病に関するリスク判断という観点では、GOTは高いほど良く、GPTは低いほど良い。このように、GOTとGPTについては、糖尿病のリスク判断をする際には、別々の見方をしなければならない。
また、腎機能の診断に用いられる検査項目であるクレアチンは、他の腎機能の診断に用いられる検査項目(総蛋白、アルブミン、尿酸、尿素窒素、推算GFRcreate)に比べてスコアに与える影響が高く、クレアチンの数値が高いほどスコアが低くなる傾向になっている。従って、糖尿病という特定の疾病に関するリスク判断という観点でも、クレアチンは重要な指標になりうる。
【0037】
<まとめ>
以上に説明したシミュレーションシステム100について、ここで整理する。
シミュレーションシステム100は、通常の診断ではHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)を主要な指標として用いる糖尿病に関するシミュレーションをするものである。
データベース20は、多数の被験者から採取された検査結果に基づいて生成されたものであり、本発明に係る「データベース」に相当する。
スマートフォン30又はパソコン40に表示される表示画面(図3の表示画面)は、検査結果に含まれる複数の検査項目のそれぞれに対して、任意の数値を入力するスライドバー形式の入力手段を有しており、本発明に係る「入力手段」に相当する。
サーバ10は、入力された各検査項目の数値をデータベースに照らし合わせて、特定の疾病又は症候に係るスコアを導出するので、本発明に係る「演算手段」に相当する。
【0038】
また、上記のスマートフォン30又はパソコン40にインストールされるアプリケーションプログラムは、通常の診断ではHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)を主要な指標として用いる糖尿病に関するシミュレーションをコンピュータに実行させるプログラムである。
そして、当該プログラムは、スマートフォン30又はパソコン40に、上記の入力処理と出力処理とを実行させるものである。
【0039】
上記のシミュレーションシステム100及びアプリケーションプログラムの共通の特徴として、入力手段(又は入力処理)において入力対象になっている検査項目から、主要な指標に関する検査項目であるHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)が除かれている。
このような特徴を有しているので、シミュレーションシステム100及びアプリケーションプログラムは、医学の常識に拘束されることなく、新たな気付きを医師に与えることができる。
【0040】
<変形例>
上述の実施形態は、本発明を実施可能な一態様を例示したに過ぎず、本発明の目的を達成する範囲において、いかような変更も可能である。
【0041】
上述の実施形態では、本発明の「データベース」「入力手段」「演算手段」がそれぞれ別々の装置として実現されることを例示したが、これらのうち2つ又は3つの構成が単一の装置として実現されてもよい。
また、図1では、本発明の「データベース」「演算手段」に相当する構成がそれぞれ単一の装置であるかのように図示したが、それぞれが複数の装置によって実現されてもよい。
【0042】
上述の実施形態では、本発明の「入力処理」と「出力処理」とが、同一の表示画面で実現されることを例示したが、それぞれ別の表示画面で実現されてもよい。
また、本発明の「出力処理」については、必ずしも表示出力であることに限られず、印字出力や音声出力によって実現されてもよい。
【0043】
上述の実施形態では、シミュレーション解析の対象となる疾病が糖尿病である実施態様について説明したが、他の疾病又は症候に対して、同様の技術思想に基づくシミュレーション解析をしてもよい。
例えば、シミュレーション解析の対象となる疾病又は症候が多血症又は赤血球増加症の少なくとも一方であるならば、入力対象から除くべき主要な指標に関する検査項目は、赤血球数、ヘモグロビン又はヘマトクリットのうちの少なくとも一つであることが好ましい。
シミュレーション解析の対象となる疾病又は症候が好酸球増多症であるならば、入力対象から除くべき主要な指標に関する検査項目は好酸球数であることが好ましい。
シミュレーション解析の対象となる疾病又は症候が高トリグリセリドであるならば、入力対象から除くべき主要な指標に関する検査項目はトリグリセリドであることが好ましい。
シミュレーション解析の対象となる疾病又は症候が高LDLコレステロールであるならば、入力対象から除くべき主要な指標に関する検査項目はLDLコレステロールであることが好ましい。
シミュレーション解析の対象となる疾病又は症候が心筋梗塞であるならば、入力対象から除くべき主要な指標に関する検査項目は心筋トロポニンI(cTnI)であることが好ましい。
シミュレーション解析の対象となる疾病又は症候がB型肝炎であるならば、入力対象から除くべき主要な指標に関する検査項目はHBV-DNA定量であることが好ましい。
シミュレーション解析の対象となる疾病又は症候がC型肝炎であるならば、入力対象から除くべき主要な指標に関する検査項目はHCV-RNA定量であることが好ましい。
シミュレーション解析の対象となる疾病又は症候が腎機能障害であるならば、入力対象から除くべき主要な指標に関する検査項目は推算GFRcreateであることが好ましい。
【0044】
上述の実施形態では、糖尿病に係るスコアを数値の表示D11と、その数値に比例して長さが伸縮する帯状の表示D12と、が表示出力されることを例示したが、その一方が省かれてよいし、他の表示が共に表示されてもよい。
例えば、これらの表示に加えて、スコアを改善するための助言や治療方針(食事療法、運動療法、薬物療法に関するコメント等)が、表示出力されてもよい。
また、スコアの改善の為に着目すべき検査項目と、その検査項目の目標値と、が表示出力されてもよい。なお、この変形例において、着目すべき検査項目(目標値が設定される検査項目)は、他の検査項目を同割合変化させた場合に比べて、スコアの改善度合いが大きいものであることが好ましい。
【0045】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)診断に用いられる主要な指標が定められている特定の疾病又は症候に関するシミュレーションをするシミュレーションシステムであって、多数の被験者から採取された検査結果に基づいて生成されたデータベースと、前記検査結果に含まれる複数の検査項目のそれぞれに対して、任意の数値を入力する入力手段と、前記入力手段によって入力された各検査項目の数値を前記データベースに照らし合わせて、前記特定の疾病又は症候に係るスコアを導出する演算手段と、を備え、前記入力手段による入力対象になっている検査項目から、前記主要な指標に関する検査項目が除かれている、ことを特徴とするシミュレーションシステム。
(2)前記特定の疾病又は症候が、糖尿病であり、前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)である、(1)に記載のシミュレーションシステム。
(3)前記特定の疾病又は症候が、多血症又は赤血球増加症の少なくとも一方であり、前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、赤血球数、ヘモグロビン又はヘマトクリットのうちの少なくとも一つである、(1)に記載のシミュレーションシステム。
(4)前記特定の疾病又は症候が、好酸球増多症であり、前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、好酸球数である、(1)に記載のシミュレーションシステム。
(5)前記特定の疾病又は症候が、高トリグリセリドであり、前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、トリグリセリドである、(1)に記載のシミュレーションシステム。
(6)前記特定の疾病又は症候が、高LDLコレステロールであり、前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、LDLコレステロールである、(1)に記載のシミュレーションシステム。
(7)前記特定の疾病又は症候が、心筋梗塞であり、前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、心筋トロポニンI(cTnI)である、(1)に記載のシミュレーションシステム。
(8)前記特定の疾病又は症候が、B型肝炎であり、前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、HBV-DNA定量である、(1)に記載のシミュレーションシステム。
(9)前記特定の疾病又は症候が、C型肝炎であり、前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、HCV-RNA定量である、(1)に記載のシミュレーションシステム。
(10)前記特定の疾病又は症候が、腎機能障害であり、前記入力手段による入力対象から除かれている前記主要な指標に関する検査項目が、推算GFRcreateである、(1)に記載のシミュレーションシステム。
(11)前記入力手段による入力対象になっている検査項目のうち少なくとも一部について、検査項目別に基準範囲が定められており、前記入力手段によって入力される各検査項目の数値の変動に応じて、前記演算手段によって導出される前記スコアが変動し、一の検査項目について入力する数値を変動するとき、前記スコアが最良となる数値が前記基準範囲から外れる場合がある、(1)から(10)のいずれか一つに記載のシミュレーションシステム。
(12)診断に用いられる主要な指標が定められている特定の疾病又は症候に関するシミュレーションをコンピュータに実行させるプログラムであって、前記特定の疾病又は症候に関する検査結果に含まれる複数の検査項目のそれぞれに対して、任意の数値を入力する入力処理と、多数の被験者から採取された検査結果に基づいて生成されたデータベースに、前記入力処理によって入力された各検査項目の数値を照らし合わせて導出された前記特定の疾病又は症候に係るスコアを出力する出力処理と、をコンピュータに実行させ、前記入力処理において入力対象になっている検査項目から、前記主要な指標に関する検査項目が除かれている、ことを特徴とするプログラム。
【0046】
この出願は、2019年12月19日に出願された日本出願特願2019-229195を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【符号の説明】
【0047】
100 シミュレーションシステム
10 サーバ
20 データベース
30 スマートフォン
40 パソコン
50 ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7