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特許7385908貼り合わせ基板の分断方法および応力基板の分断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】貼り合わせ基板の分断方法および応力基板の分断方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/027 20060101AFI20231116BHJP
   C03B 33/033 20060101ALI20231116BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20231116BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C03B33/027
C03B33/033
B28D5/00 Z
B26F3/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019197439
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021070603
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】田村 健太
(72)【発明者】
【氏名】武田 真和
(72)【発明者】
【氏名】市川 克則
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-083821(JP,A)
【文献】特開2013-016571(JP,A)
【文献】特開2009-280447(JP,A)
【文献】特開2010-173251(JP,A)
【文献】特開2016-043505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/02-33/037,
B28D 5/00,
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板の一方主面に前記下地基板とは熱収縮率が異なる樹脂が貼り合わされてなり、前記樹脂側が凸状または凹状に反っている貼り合わせ基板を、あらかじめ定められた分断予定位置にて分断する方法であって、
前記一方主面側から前記貼り合わせ基板を押圧しつつ前記下地基板の他方主面を水平に張設された保持テープと接触させることによって、前記貼り合わせ基板を平坦な形状に変形させつつ前記保持テープに貼付する貼付工程と、
前記保持テープに貼付された前記貼り合わせ基板の前記分断予定位置に沿って、スクライビングホイールを前記一方主面上で圧接転動させることによって、前記下地基板に前記分断予定位置に沿ったスクライブラインを形成し、前記下地基板の厚み方向において前記分断予定位置に沿った垂直クラックを伸展させる、スクライブ工程と、
前記下地基板の前記他方主面側からブレークバーを所定の押し込み量にて押し込むことで、前記下地基板を分断するブレーク工程と、
を備え、
前記スクライブ工程においては、前記垂直クラックの伸展深さの前記下地基板の厚みに対する比が5%~30%となるように、前記スクライビングホイールを前記一方主面上で圧接転動させる際に前記スクライビングホイールが前記下地基板に印加するスクライブ荷重を設定する、
ことを特徴とする、貼り合わせ基板の分断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の貼り合わせ基板の分断方法であって、
前記貼り合わせ基板においては前記樹脂側が凸状に反っており、
前記スクライブ工程においては前記一方主面を前記下地基板の上面とし、
前記ブレーク工程においては前記他方主面を前記下地基板の上面とする、
ことを特徴とする、貼り合わせ基板の分断方法。
【請求項3】
請求項1に記載の貼り合わせ基板の分断方法であって、
前記貼り合わせ基板においては前記下地基板側が凸状に反っており、
前記スクライブ工程においては前記一方主面を前記下地基板の上面とし、
前記ブレーク工程においては前記他方主面を前記下地基板の上面とする、
ことを特徴とする、貼り合わせ基板の分断方法。
【請求項4】
一方主面側と他方主面側とにおいて面内方向に作用する応力の向きが異なる応力基板を、あらかじめ定められた分断予定位置にて分断する方法であって、
水平に張設された保持テープに対し前記他方主面を接触させる態様にて、前記応力基板を平坦な形状にて前記保持テープに貼付した状態で、前記応力基板の前記分断予定位置に沿ってスクライビングホイールを前記一方主面上で圧接転動させることによって、前記応力基板に前記分断予定位置に沿ったスクライブラインを形成し、前記応力基板の厚み方向において前記分断予定位置に沿った垂直クラックを伸展させる、スクライブ工程と、
前記応力基板の前記他方主面側からブレークバーを所定の押し込み量にて押し込むことで、前記応力基板を分断するブレーク工程と、
を備え、
前記スクライブ工程においては、前記垂直クラックの伸展深さの前記応力基板の厚みに対する比が5%~30%となるように、前記スクライビングホイールを前記一方主面上で圧接転動させる際に前記スクライビングホイールが前記応力基板に印加するスクライブ荷重を設定する、
ことを特徴とする、応力基板の分断方法。
【請求項5】
請求項4に記載の応力基板の分断方法であって、
前記応力基板においては、前記一方主面側において面内方向に引張応力が作用し、前記他方主面側において面内方向に圧縮応力が作用しており、
前記スクライブ工程においては前記一方主面を前記応力基板の上面とし、
前記ブレーク工程においては前記他方主面を前記応力基板の上面とする、
ことを特徴とする、応力基板の分断方法。
【請求項6】
請求項4に記載の応力基板の分断方法であって、
前記応力基板においては、前記一方主面側において面内方向に圧縮応力が作用し、前記他方主面側において面内方向に引張応力が作用しており、
前記スクライブ工程においては前記一方主面を前記応力基板の上面とし、
前記ブレーク工程においては前記他方主面を前記応力基板の上面とする、
ことを特徴とする、応力基板の分断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の分断に関し、特に、脆性材料基板に樹脂が貼り合わされてなる貼り合わせ基板の分断に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスウェハなどの脆性材料基板に樹脂が貼り合わされてなる貼り合わせ基板は、電子部品などの種々の母基板として利用される。そのような貼り合わせ基板は通常、多数の個片に分断されて使用されることから、これを精度良く分断したいという一定のニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-070267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような貼り合わせ基板の中には、樹脂の収縮率と下地基板の収縮率との相違に起因して、樹脂側が凸または凹になる形態にて反っている(湾曲している)ものがある。このような反り(湾曲)のある貼り合わせ基板を好適にかつ確実に分断する手法は、必ずしも見出されてはいない。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、下地基板と熱収縮率が異なる樹脂が下地基板に貼り合わされてなる貼り合わせ基板を好適にかつ確実に分断出来る方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、下地基板の一方主面に前記下地基板とは熱収縮率が異なる樹脂が貼り合わされてなり、前記樹脂側が凸状または凹状に反っている貼り合わせ基板を、あらかじめ定められた分断予定位置にて分断する方法であって、前記一方主面側から前記貼り合わせ基板を押圧しつつ前記下地基板の他方主面を水平に張設された保持テープと接触させることによって、前記貼り合わせ基板を平坦な形状に変形させつつ前記保持テープに貼付する貼付工程と、前記保持テープに貼付された前記貼り合わせ基板の前記分断予定位置に沿って、スクライビングホイールを前記一方主面上で圧接転動させることによって、前記下地基板に前記分断予定位置に沿ったスクライブラインを形成し、前記下地基板の厚み方向において前記分断予定位置に沿った垂直クラックを伸展させる、スクライブ工程と、前記下地基板の前記他方主面側からブレークバーを所定の押し込み量にて押し込むことで、前記下地基板を分断するブレーク工程と、を備え、前記スクライブ工程においては、前記垂直クラックの伸展深さの前記下地基板の厚みに対する比が5%~30%となるように、前記スクライビングホイールを前記一方主面上で圧接転動させる際に前記スクライビングホイールが前記下地基板に印加するスクライブ荷重を設定する、ことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の貼り合わせ基板の分断方法であって、前記貼り合わせ基板においては前記樹脂側が凸状に反っており、前記スクライブ工程においては前記一方主面を前記下地基板の上面とし、前記ブレーク工程においては前記他方主面を前記下地基板の上面とする、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載の貼り合わせ基板の分断方法であって、前記貼り合わせ基板においては前記下地基板側が凸状に反っており、前記スクライブ工程においては前記一方主面を前記下地基板の上面とし、前記ブレーク工程においては前記他方主面を前記下地基板の上面とする、ことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、一方主面側と他方主面側とにおいて面内方向に作用する応力の向きが異なる応力基板を、あらかじめ定められた分断予定位置にて分断する方法であって、水平に張設された保持テープに対し前記他方主面を接触させる態様にて、前記応力基板を平坦な形状にて前記保持テープに貼付した状態で、前記応力基板の前記分断予定位置に沿ってスクライビングホイールを前記一方主面上で圧接転動させることによって、前記応力基板に前記分断予定位置に沿ったスクライブラインを形成し、前記応力基板の厚み方向において前記分断予定位置に沿った垂直クラックを伸展させる、スクライブ工程と、前記応力基板の前記他方主面側からブレークバーを所定の押し込み量にて押し込むことで、前記応力基板を分断するブレーク工程と、を備え、前記スクライブ工程においては、前記垂直クラックの伸展深さの前記応力基板の厚みに対する比が5%~30%となるように、前記スクライビングホイールを前記一方主面上で圧接転動させる際に前記スクライビングホイールが前記応力基板に印加するスクライブ荷重を設定する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載の応力基板の分断方法であって、前記応力基板においては、前記一方主面側において面内方向に引張応力が作用し、前記他方主面側において面内方向に圧縮応力が作用しており、前記スクライブ工程においては前記一方主面を前記応力基板の上面とし、前記ブレーク工程においては前記他方主面を前記応力基板の上面とする、ことを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項4に記載の応力基板の分断方法であって、前記応力基板においては、前記一方主面側において面内方向に圧縮応力が作用し、前記他方主面側において面内方向に引張応力が作用しており、前記スクライブ工程においては前記一方主面を前記応力基板の上面とし、前記ブレーク工程においては前記他方主面を前記応力基板の上面とする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1ないし請求項3の発明によれば、樹脂側が凸または下地基板側が凸になる形態にて反っている(湾曲している)貼り合わせ基板を、好適にかつ確実に分断することが出来る。
【0013】
請求項4ないし請求項6の発明によれば、一方主面側と他方主面側において応力が作用する向きが異なる応力基板を、好適にかつ確実に分断することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】貼り合わせ基板10に対するスクライブ処理の様子を模式的に示す図である。
図2】スクライブ処理に供する前の貼り合わせ基板10の状態を示す図である。
図3】スクライブ処理を開始する際の貼り合わせ基板10における応力状態を示す図である。
図4】スクライブ荷重Lの値がスクライブ処理に与える影響を示す図である。
図5】スクライブ荷重Lの値がスクライブ処理に与える影響を示す図である。
図6】貼り合わせ基板10に対するブレーク処理の様子を模式的に示す図である。
図7】スクライブ処理に供する前の貼り合わせ基板10の状態を示す図である。
図8】スクライブ処理を開始する際の貼り合わせ基板10における応力状態を示す図である。
図9】スクライブ処理の様子を示す図である。
図10】5通りのスクライブ処理におけるスクライブ荷重Lの大きさと、分断面の撮像画像から特定される垂直クラックCRの伸展深さd1の厚みtに対する比d1/tと、撮像画像から判定される分断品質の良否と、分断面の撮像画像の一部とを、一覧にして示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施の形態>
以下、本発明の第1の実施の形態において行う分断処理についてその概要を説明する。分断処理は、スクライブ処理とこれに続くブレーク処理とを行うことで実現される。
【0016】
図1は、本実施の形態において行う、貼り合わせ基板10に対するスクライブ処理の様子を模式的に示す図である。図2は、スクライブ処理に供する前の貼り合わせ基板10の状態を示す図である。図3は、スクライブ処理を開始する際の貼り合わせ基板10における応力状態を示す図である。
【0017】
貼り合わせ基板10は、概略、下地基板1の一方主面1a上に樹脂2が貼り合わされた構成を有する。
【0018】
下地基板1は、平面サイズ(直径)が20cm~30cm程度で厚みtが0.1mm~1.0mm程度の脆性材料基板であり、例えばガラスウェハが例示される。
【0019】
樹脂2は、1μm~50μm程度の厚みを有してなり、下地基板1よりも収縮率(熱収縮率)が小さいものとする。なお、樹脂2の内部や表面に金属配線や電極を備えていてもよく、表面に半田ボールが形成されていてもよい。
【0020】
本実施の形態においては、このような構成を有する貼り合わせ基板10を、あらかじめ定められた分断予定位置Pにおいて分断するものとする。図1に示す場合においては、ストリートと称される樹脂2の隙間の位置に、分断予定位置Pが設定されてなる。それゆえ、図1に示す場合において実際にスクライブ対象面となるのは、ストリートにおいて露出する下地基板1の一方主面1aである。ストリートの幅は、例えば20μm~200μm程度である。
【0021】
なお、本実施の形態においては説明の簡単のため、樹脂2は図面視左右方向において2つの部分に分かれており、それらの部分の間に一のストリートが形成されてなる態様を示しているが、実際には、貼り合わせ基板10の面内の互いに直交する2つの方向のそれぞれに、多数のストリートが所定の間隔で形成されていてよく、その場合には、それら多数のストリートの各々において、スクライブ処理さらにはブレーク処理がなされることになる。
【0022】
スクライブ処理は、公知のスクライブ装置100を用いて行う。図1に示すように、スクライブ装置100は、スクライブ対象物を水平姿勢にて下方支持可能なステージ101と、外縁部に刃先102eを有する円板状部材であるスクライビングホイール(カッターホイール)102とを、主として備える。スクライビングホイール102は、垂直面内において回転自在な態様にてスクライブ装置100に保持される。
【0023】
スクライビングホイール102は、直径が2mm~3mmの円板状の部材(スクライビングツール)であり、外周面に断面視二等辺三角形状の刃先102eを有する。また、少なくとも刃先102eはダイヤモンドにて形成されてなる。また、刃先102eの角度(刃先角)αは100°~135°であるのが好適である。
【0024】
貼り合わせ基板10は、樹脂2が備わる一方主面1a側を上面(スクライブ対象面)とし、他方主面1b側をステージ101に対する載置面とする態様にて、ステージ101に載置固定され、位置決めされる。
【0025】
より詳細には、貼り合わせ基板10は、スクライブ処理に先立ち、その他方主面1bを、あらかじめ略環状のリング(例えばダイシングリング)RGに張設された保持テープ(例えばダイシングテープ)DTに貼付させた状態とされる。そして、係る態様にて貼り合わせ基板10が保持テープDTに貼付されてなる該リングRGがステージ101に載置固定されることで、貼り合わせ基板10がステージ101に載置固定される。
【0026】
ただし、図1においては、水平方向に平坦な形状を有する貼り合わせ基板10が、ステージ101に載置固定されているが、実際の貼り合わせ基板10は、少なくともステージ101の載置前においては、図2に示すように、樹脂2が形成された一方主面1a側がわずかに凸となり、他方主面1b側が凹となっている。すなわち、貼り合わせ基板10は反っている(湾曲している)。これは、所定の温度下での下地基板1に対する樹脂2となる樹脂層の形成後、貼り合わせ基板10が常温に冷やされたことの結果である。
【0027】
具体的には、下地基板1よりも収縮率が小さい樹脂2が貼り合わされている一方主面1a側は、他方主面1b側に比して収縮しがたいことにより、図2に示すような反り(湾曲)が生じている。同時に、係る状態においては、図2に示すように、樹脂2には面内方向に圧縮応力fcが生じている。
【0028】
本実施の形態においては、このような反り(湾曲)が生じている貼り合わせ基板10を、一方主面1aの側から外力によって押圧しつつ保持テープDTに貼付したうえで、ステージ101に載置固定することによって、図1に示すような水平方向に平坦な形状に変形させ、反り(湾曲)の解消を図ったうえで、スクライブ処理を行うようにしている。
【0029】
貼り合わせ基板10の変形を伴う貼付は、一方主面1a側からの外力による押圧によって、下地基板1に反りを解消させる向きの外力(粘着力)を作用させつつ他方主面1bを水平に張設された保持テープDTと接触させることにより、実現される。より詳細には、当該変形は、外力が作用することによって、前記保持テープDTと接触する他方主面1b近傍においては下地基板1が面内方向外側へと広げられ、その反対面である一方主面1a近傍においては下地基板1が面内方向内側へと縮められることによりなされる。
【0030】
そして、係る変形の結果として、換言すれば、下地基板1に対する外力の作用の結果として、スクライブ処理の実行を開始する際の下地基板1の内部では、図3に示すように、下地基板1の一方主面1a近傍において引張応力Faが生じ、他方主面1b近傍において圧縮応力Fbが生じている。
【0031】
一方で、樹脂2には保持テープDTへの貼付前、貼り合わせ基板10の反り(湾曲)に伴い圧縮応力fcが作用していたが、係る圧縮応力は、貼付後は緩和される。これは、一方主面1aの近傍において下地基板1を面内方向内側へと縮める向きに、外力が作用したことの効果である。
【0032】
本実施の形態においては、このような応力状態のもと、貼り合わせ基板10に対するスクライブ処理を行うようになっている。
【0033】
概略的にいえば、スクライブ処理においては、図1および図3に示すように、分断予定位置Pとスクライビングホイール102の回転面とが同一の鉛直面(図面に垂直な面)内に位置するように位置決めがなされたうえで、スクライビングホイール102が、所定のスクライブ荷重Lを印加しつつ、ストリートにて露出する下地基板1上において当該分断予定位置Pに沿って圧接転動させられる。これにより、下地基板1の表面近傍にスクライブラインSLが形成され、さらには、分断予定位置Pに沿って、該スクライブラインSLから厚み方向に垂直クラックCRが伸展(浸透)する。スクライビングホイール102の圧接転動は、例えば、図示しない駆動機構によりステージ101をスクライビングホイール102に対して相対的に水平移動させることにより実現される。
【0034】
ここで問題となるのが、スクライブ荷重Lの設定である。図4および図5は、スクライブ荷重Lの値がスクライブ処理に与える影響を示す図である。
【0035】
スクライブ処理においては通常、垂直クラックCRが、スクライブ荷重Lの大きさL0に応じた所定の伸展深さ(本実施の形態においては一方主面1aから垂直クラックCRの先端までの距離)dにて、形成される。
【0036】
ただし、本実施の形態においては、内部において引張応力Faが生じている一方主面1a側がスクライブ処理の対象となるので、無応力の状態に比して、垂直クラックCRが伸展しやすい状態となっている。そのため、無応力の状態に比して、スクライブ荷重Lが小さい場合でも、垂直クラックCRが伸展しやすい状態となっている。
【0037】
そればかりか、図4に示すように、スクライブ荷重Lの大きさL0がある臨界値Lc以上(L0≧Lc)であった場合、垂直クラックCRが臨界深さd=dc以上のある深さd=d0にまで到達するのみならず、さらにはその先端から他方主面1bに向けて、意図しない下地基板1の破断(「先走り」とも称する)が生じてしまう。破断面FRは必ずしも分断予定位置Pに沿って形成されるわけではないので、そのような意図しない破断が生じた場合、貼り合わせ基板10は好適に分断されたことにはならない。なお、破断は貼り合わせ基板10を横断する態様にて生じる場合もあれば、部分的にのみ生じる場合もある。
【0038】
なお、臨界深さd=dcとは、垂直クラックCRの伸展がこれよりも浅い限りは、先端からの下地基板1の破断が生じないという垂直クラックCRの伸展深さであり、スクライブ荷重Lが=Lcのときの垂直クラックCRの伸展深さであるとする。
【0039】
それゆえ、本実施の形態においては、図5に示すように、垂直クラックCRの到達が臨界深さd=dc未満のある深さd=d1に留まるように、臨界値Lc未満の大きさL1にてスクライブ荷重Lを印加するようにする。概略的にいえば、垂直クラックCRの伸展が下地基板1の一方主面1a近傍の引張応力が作用する領域内で確実に留まるように、スクライブ荷重Lを印加すればよい。係る場合においては、スクライブ荷重Lの大きさL=L1は、同種材料および同じ厚みにて形成された無応力状態の脆性材料基板に対して同様のスクライブ処理を行う場合よりも垂直クラックCRの伸展深さが小さくなるように、設定される。このような、垂直クラックCRの伸展深さが小さいスクライブ処理を、低浸透スクライブと称する。
【0040】
実際に低浸透スクライブを行う際のスクライブ荷重Lの好適な大きさは、下地基板1の厚みによっても異なるが、垂直クラックCRの伸展深さd1が、下地基板1の厚みtの5%~30%となるように設定するのが好適である。具体的な値は、臨界深さd=dcを与えるスクライブ荷重Lの臨界値Lcをあらかじめ実験的に特定あるいは推定し、その値に基づいて設定すればよい。
【0041】
スクライブ処理が終了した貼り合わせ基板10は続いて、ブレーク処理に供される。図6は、貼り合わせ基板10に対するブレーク処理の様子を模式的に示す図である。ブレーク処理は、公知のブレーク装置200を用いて行うことができる。
【0042】
ブレーク装置200は、少なくとも表面部分が弾性体からなり、ブレーク対象物を水平姿勢にて下方支持可能な支持体201と、鉛直下方に断面視三角形状の刃先202eを有する板状部材であるブレークバー202とを、主として備える。
【0043】
支持体201としては、例えば、上面が平坦な金属製の部材の当該上面に板状の弾性体を載置固定した構成などが、採用可能である。
【0044】
ブレークバー202は、断面視二等辺三角形状の刃先202eが刃渡り方向に延在するように設けられてなる板状の金属製(例えば超硬合金製)部材である。図6においては、刃渡り方向が図面に垂直な方向となるように、ブレークバー202を示している。また、一度のブレーク動作によって刃渡り方向全般に渡るブレークを行えるよう、ブレークバー202の刃渡りは、貼り合わせ基板10の平面サイズよりも大きい。
【0045】
図6においては、スクライブ処理によって垂直クラックCRが形成されてなる、ある分断予定位置Pが、ブレーク処理の対象とされるときの様子を示している。
【0046】
スクライブ処理後の貼り合わせ基板10は、リングRGに張設された保持テープDTに貼付された状態でブレーク処理に供される。ただし、図6に示すように、ブレーク処理に際しては、スクライブ処理の際には露出していた一方主面側が保護フィルムPFによって被覆される。保護フィルムPFは、その端縁部がリングRGに貼付される態様にて、樹脂2を被覆する。スクライブ処理後の貼り合わせ基板10は、他方主面側が上方となり、一方主面側が下方となる姿勢にて、換言すれば、リングRG、保持テープDT、および保護フィルムPFともども支持体201上に載置固定される。すなわち、保護フィルムPFが支持体201と接触する態様にて、載置固定される。
【0047】
そして、分断予定位置Pに沿ったブレーク動作を行う場合は、個々の分断予定位置Pとブレークバー202の刃渡り方向とが並行となるように、貼り合わせ基板10が支持体201に載置固定される。そして、それぞれの分断予定位置Pについて、当該分断予定位置Pとブレークバー202が同一の鉛直面(図面に垂直な面)内に位置するように位置決めがなされたうえで、ブレークバー202が、矢印ARにて示すように、当該分断予定位置Pに向けて下降させられる。ブレークバー202は、その刃先202eが保持テープDTに当接した後もさらに、所定距離(押し込み量と称される)zだけ押し込まれる。
【0048】
このように、スクライブラインSLを下方に位置させた姿勢の貼り合わせ基板10の分断予定位置Pに向けて、ブレークバー202を下降させ、さらに所定の押し込み量にて押し込むと、スクライブ処理によって形成されていた垂直クラックCRが分断予定位置Pに沿って厚み方向にさらに伸展し、上面となっている貼り合わせ基板10の他方主面1bにまで、より具体的には下地基板1の保持テープDTに対する被貼付面にまで、到達する。
【0049】
なお、スクライブ処理前の下地基板1においては、一方主面1a側において引張応力が作用し、他方主面1b側においては圧縮応力が作用していたが、前者がスクライブ処理による垂直クラックCRの伸展によって少なくとも部分的には開放されることに伴い、ブレーク処理を実行する時点では、後者についても、スクライブ処理前よりは緩和されており、好ましくは無応力の状態となっている。それゆえ、貼り合わせ基板10はブレークバー202の下降に伴い好適にかつ確実に分断される。
【0050】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、下地基板よりも熱収縮率が小さい樹脂が下地基板の一方主面側に貼り合わされてなることで樹脂側が凸になる形態にて反っている(湾曲している)貼り合わせ基板をスクライブ処理とブレーク処理とによって分断する場合において、下地基板の一方主面側に意図的に引張応力を生じさせた状態で下地基板の該一方主面に対しスクライブ処理を行い、その後反対面側からブレークバーを当接させることによってブレーク処理を行うことで、当該貼り合わせ基板を、好適にかつ確実に分断することが出来る。
【0051】
<第2の実施の形態>
図7は、本発明の第2の実施の形態においてスクライブ処理に供する前の貼り合わせ基板20の状態を示す図である。図8は、スクライブ処理を開始する際の貼り合わせ基板20における応力状態を示す図である。図9は、本実施の形態におけるスクライブ処理の様子を示す図である。
【0052】
貼り合わせ基板20は、第1の実施の形態に係る貼り合わせ基板10と同様、下地基板11の一方主面11a上に樹脂12が貼り合わされた構成を有する。ただし、貼り合わせ基板10とは異なり、貼り合わせ基板20においては、樹脂12の方が下地基板11よりも収縮率(熱収縮率)が大きいものとする。係る貼り合わせ基板20においては、樹脂12が貼り合わされている一方主面11a側が他方主面11b側に比して収縮しやすいことにより、図7に示すような、下地基板側が凸となる反り(湾曲)が生じている。すなわち、貼り合わせ基板20においては、樹脂12が形成された一方主面11a側がわずかに凹となり、他方主面11b側が凸となっている。同時に、係る状態においては、図7に示すように、樹脂12には面内方向に引張応力fsが生じている。
【0053】
上述した第1の実施の形態における分断手法は、図7に示すような貼り合わせ基板20にも適用が可能である。係る分断処理も、第1の実施の形態と同様、スクライブ処理とこれに続くブレーク処理とを行うことで実現される。
【0054】
スクライブ処理は、第1の実施の形態と同様、公知のスクライブ装置100を用いて行うことが出来る。貼り合わせ基板10と同様、貼り合わせ基板20の場合も、一方主面11aの側から外力によって押圧しつつ保持テープDTに貼付したうえで、ステージ101に載置固定することによって、図1に示すような水平方向に平坦な形状に変形させ、反り(湾曲)の解消を図ったうえで、スクライブ処理を行う。より詳細には、反りを解消するための当該変形は、外力の作用により、保持テープDTと接触する他方主面11b近傍においては下地基板11が面内方向内側へと縮められ、その反対面である一方主面11a近傍においては下地基板11が面内方向外側へと広げられることによってなされる。
【0055】
係る変形の結果として、スクライブ処理の実行を開始する際の下地基板11の内部では、図8に示すように、下地基板11の一方主面11a近傍において圧縮応力Fcが生じ、他方主面11b近傍において引張応力Fdが生じている。
【0056】
一方で、樹脂22には保持テープDTへの貼付前、貼り合わせ基板20の反り(湾曲)に伴い引張応力fsが作用していたが、係る引張応力は、貼付後は緩和される。これは、一方主面11aの近傍において下地基板11を面内方向外側へと拡げる向きに、外力が作用したことの効果である。
【0057】
本実施の形態においては、このような応力状態のもと、貼り合わせ基板20に対するスクライブ処理を行うようになっている。
【0058】
係る場合、内部において圧縮応力Fcが生じている一方主面11a側がスクライブ処理の対象となるので、無応力の状態に比して、垂直クラックCRが伸展しにくい状態となっている。それゆえ、本実施の形態においても、図9に示すように、垂直クラックCRの到達が臨界深さd=dc未満のある深さd=d2に留まるよう、臨界値Lc未満の大きさL2にてスクライブ荷重Lを印加するようにすることで、つまりは低浸透スクライブを行うことで、意図しない垂直クラックCRに起因した下地基板11の破壊は回避される。概略的にいえば、垂直クラックCRの伸展が下地基板11の一方主面11a近傍の圧縮応力Fcが作用する領域内で確実に留まるように、スクライブ荷重Lを印加すればよい。
【0059】
本実施の形態においても、実際に低浸透スクライブを行う際のスクライブ荷重Lの好適な大きさは、下地基板11の厚みによっても異なるが、垂直クラックCRの伸展深さd2が、下地基板11の厚みtの5%~30%となるように設定するのが好適である。
【0060】
係る態様にてスクライブ処理を行った後、第1の実施の形態と同様に、公知のブレーク装置200を用いたブレーク処理を行うようにすれば、貼り合わせ基板20を好適に分断することが出来る。
【0061】
<変形例>
下地基板1の一方主面1aが全面的に樹脂2にて覆われている場合には、分断予定位置Pに相当する部分の樹脂2のみをあらかじめ除去したうえで、上述の主要にて分断を行うようにすればよい。下地基板11の一方主面11aが全面的に樹脂12にて覆われている場合も同様である。
【0062】
上述の第1の実施の形態における貼り合わせ基板の分断は、一方主面側において面内方向に引張応力が作用し、他方主面側において面内方向に圧縮応力が作用する応力基板に対しても、適用が可能である。すなわち、保持テープに対し他方主面を接触させる態様にて応力基板を平坦な形状にて保持テープに貼付したうえで、係る応力基板の一方主面側に対して上述の実施形態と同様の条件でスクライブ処理を行い、その後、他方主面にブレークバーを当接させる態様にてブレーク処理を行うようにすれば、応力基板を好適に分断することが出来る。保持テープに貼付する前の応力基板が反っている場合には、もちろん、一方主面側から応力基板を押圧しつつ応力基板の他方主面を水平に張設された保持テープと接触させることによって、平坦な形状に変形させるようにすればよい。
【0063】
同様に、上述の第2の実施の形態における貼り合わせ基板の分断は、一方主面側において面内方向に圧縮応力が作用し、他方主面側において面内方向に引張応力が作用する応力基板に対しても、適用が可能である。
【実施例
【0064】
下地基板1としてのガラスウェハの一方主面1aに樹脂2を貼り合わせた、樹脂2の側が凸となる形態にて反っている(湾曲している)貼り合わせ基板10を5枚用意し、それぞれについて、上述の実施の形態のように、下地基板1の他方主面1b側に圧縮応力が生じ、一方主面1a側に引張応力が生じるように、リングRGに張設された保持テープDTに貼付したうえで、相異なる5通りの条件でスクライブ処理を行った。
【0065】
具体的には、下地基板1の厚みtを0.15mmとし、スクライブ荷重Lを1.2N、2.2N、3.5N、3.7N、4.0Nの5水準に違えた。スクライビングホイール102としては刃先角αが125°のものを用いた。スクライブ速度は100mm/secとした。
【0066】
さらに、係るスクライブ処理に続いてブレーク処理を行い、得られた分断面の断面品質を評価した。
【0067】
図10は、上記5通りのスクライブ処理におけるスクライブ荷重Lの大きさと、分断面の撮像画像から特定される垂直クラックCRの伸展深さd1の厚みtに対する比(図10においては「深さ比」と記載)d1/tと、当該撮像画像から判定される分断品質の良否と、分断面の撮像画像の一部とを、一覧にして示す図である。なお、分断品質(図10においては「断面品質」と記載)の良否については、良好な品質の分断面が得られた場合には「○」(丸印)を記載し、得られなかった場合には「×」(バツ印)を付している。また、深さ比d1/tは百分率にて示している。
【0068】
図10に示すように、スクライブ荷重Lの大きさが3.7Nの場合と4.0Nの場合には深さ比d1/tが約50%以上となり、分断面の品質は良好ではなかった。具体的には、スクライブ処理後の時点で破断が生じてしまっていた。
【0069】
一方、スクライブ荷重Lの大きさが1.2Nの場合、2.2Nの場合、および3.5Nの場合には、ブレーク処理後の分断面の品質は良好であった。係る場合においては、深さ比d1/tは最大でも30%以下に留まり、5%~30%なる範囲をみたしていた。
【0070】
以上の結果は、上述の実施の形態のように、一方主面1aに樹脂2を貼り合わせた、樹脂2の側が凸となる形態にて反っている(湾曲している)貼り合わせ基板10について、下地基板1の他方主面1b側に圧縮応力が生じ、スクライブ対象面である一方主面1a側に引張応力が生じるように、意図的に応力を生じさせた状態で、垂直クラックCRの伸展深さの下地基板の厚みに対する比が5%~30%なる範囲をみたすようにスクライブ処理を行うことで、貼り合わせ基板10を好適に分断出来ることを意味している。
【符号の説明】
【0071】
1 下地基板
1a (下地基板の)一方主面
1b (下地基板の)他方主面
2 樹脂
10 貼り合わせ基板
100 スクライブ装置
101 ステージ
102 スクライビングホイール
102e (スクライビングホイールの)刃先
200 ブレーク装置
201 支持体
202 ブレークバー
202e (ブレークバーの)刃先
CR 垂直クラック
DT 保持テープ
FR 破断面
Fa 引張応力
Fb、f 圧縮応力
L スクライブ荷重
P 分断予定位置
PF 保護フィルム
RG リング
SL スクライブライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10