(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】腹部運動測定装置及びこれを用いた磁気共鳴画像撮像方法、並びに、腹部運動測定方法及び腹部運動測定用プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20231116BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20231116BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
A61B5/11 100
A61B5/113
A61B5/055 390
(21)【出願番号】P 2020042844
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】舟山 慧
(72)【発明者】
【氏名】本杉 宇太郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 洋
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-514116(JP,A)
【文献】米国特許第05022402(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第00264478(EP,A1)
【文献】国際公開第2017/115516(WO,A1)
【文献】特表2004-508859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定装置であって、
前記対象者の前記腹部に装着される袋状部材と、
前記袋状部材の内部の気圧を測定する第1気圧測定部と、
前記袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定部と、
前記基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理、及び、前記袋状部材の内部の気圧の測定データと前記平滑化処理を行った前記基準気圧の測定データと
の差分に基づいて、前記対象者における前記腹部の運動を測定する腹部運動測定処理を行う制御部と、
を有することを特徴とする腹部運動測定装置。
【請求項2】
帯状の固定部材を更に有し、
前記固定部材により、前記対象者の前記腹部に前記袋状部材を装着する、請求項1に記載の腹部運動測定装置。
【請求項3】
前記袋状部材及び前記固定部材が非磁性体で形成される、請求項2に記載の腹部運動測定装置。
【請求項4】
前記第1気圧測定部が、前記袋状部材と気密に接続された容器の内部に位置する、請求項1から3のいずれかに記載の腹部運動測定装置。
【請求項5】
前記腹部運動測定処理により測定した、前記対象者における前記腹部の運動の測定データを提示可能な提示部を更に有する、請求項1から4のいずれかに記載の腹部運動測定装置。
【請求項6】
前記提示部が、前記対象者における前記腹部の運動の測定データを前記対象者自身に提示する、請求項5に記載の腹部運動測定装置。
【請求項7】
前記第1気圧測定部、前記第2気圧測定部、及び前記制御部が、前記袋状部材を装着した前記対象者を測定する測定室の外部に位置する、請求項1から6のいずれかに記載の腹部運動測定装置。
【請求項8】
磁気共鳴画像撮像装置により、前記対象者における前記腹部の画像を撮像する際に用いられる、請求項1から7のいずれかに記載の腹部運動測定装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の腹部運動測定装置を用いて、前記対象者における前記腹部の運動を測定し、
測定した前記腹部の運動の測定データを用いて、前記対象者における前記腹部が所定の状態であるときに、前記対象者における前記腹部の画像を、磁気共鳴画像撮像装置により撮像することを特徴とする磁気共鳴画像撮像方法。
【請求項10】
対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定方法であって、
前記対象者における前記腹部に装着された袋状部材における内部の気圧を測定する第1気圧測定工程と、
前記袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定工程と、
前記基準気圧の測定データを平滑化する平滑化工程と、
前記袋状部材の内部の気圧の測定データと前記平滑化工程を行った前記基準気圧の測定データとの差分に基づいて、前記対象者における前記腹部の運動を測定する腹部運動測定工程と、
を含むことを特徴とする腹部運動測定方法。
【請求項11】
対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定用プログラムであって、
前記対象者における前記腹部に装着された袋状部材における内部の気圧を測定する第1気圧測定処理と、
前記袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定処理と、
前記基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理と、
前記袋状部材の内部の気圧の測定データと前記平滑化処理を行った前記基準気圧の測定データとの差分に基づいて、前記対象者における前記腹部の運動を測定する腹部運動測定処理と、
をコンピュータに実行させること特徴とする腹部運動測定用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹部運動測定装置及びこれを用いた磁気共鳴画像撮像方法、並びに、腹部運動測定方法及び腹部運動測定用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
身体の状態を詳細に検査する方法として、磁気共鳴画像撮像法(Magnetic Resonance Imaging;MRI)やコンピュータ断層撮像法(Computed Tomography;CT)などが知られている。これらの中でも、MRIは、CTと比較して、被ばくのおそれがない、撮像の自由度が高いといったメリットがあり、脳や腹部などの検査に広く用いられている。
【0003】
MRIを用いて対象者(被検者)の画像を撮像する際には、通常、1つ(1つの画像セット)の断面画像の撮像に30秒から2分程度の撮像時間(撮影時間)が必要となるが、この撮像時間の間に、対象者の位置や状態が変化してしまうと、撮像した断面画像の精度が低下してしまう場合がある。特に、被検者の腹部(体幹部)の検査を行う場合は、腹部は対象者の呼吸により運動する(変形する)ため、断面画像の精度の低下が生じやすい。
また、MRIによる検査では多数の断面画像の撮像を行うため、通常、検査時間(必要となる多数の断面画像を撮像するのに必要となる時間)として、20分から1時間程度の時間が必要となる。このため、断面画像の精度が低くなってしまった場合に、断面画像を改めて撮像し直すことには、更に長い時間にわたって検査を行う必要があるため現実的ではなく、また、緊急(救急)での検査においては、画像を改めて撮像し直すことができない場合もある。
【0004】
このため、MRIによる腹部の断面画像の精度を向上させる目的から、撮像時間をできるだけ短くする技術、対象者の呼吸に合わせて撮像する技術などが検討されている。対象者の呼吸に合わせて撮像する技術を用いる場合には、例えば、MRIで断面画像を撮像する撮像時間の中で、対象者に呼吸を止めてもらう時間を設けて、腹部の運動を抑制した状態で断面画像の撮像を行うときがある。また、対象者に呼吸を止めてもらう際には、30秒から2分程度の撮像時間の全部で呼吸を止めてもらうことは困難であるため、撮像時間の中で、複数回に分けて、呼吸を止めてもらう時間を設ける場合がある。
【0005】
ここで、対象者の呼吸に合わせて撮像する技術としては、MRIにより心臓の断面画像を撮像する際における、呼吸の影響による画像のノイズなどを抑制する目的から、MRIによる検査中に行われる複数回の呼吸停止の際に、横隔膜を画像化した情報から得られる横隔膜のナビゲータ情報に基づいて、MRI装置の操作者が、被検者に呼吸停止の指示を与えて撮像を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、放射線治療を行う際に腹部の状態を測定するために用いる技術として、被検者の体幹部に被せて被検者が横たわる寝台に装着するハウジングと、ハウジングに取り付けられ、胸部及び腹部の少なくとも2箇所の変異量を検出する変位量検出手段と、検出された呼吸による胸部及び腹部の変異量を統合した合成変位量を判定する判定手段とを備える装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、このような従来技術は、例えば、MRI装置(磁気共鳴画像撮像装置)により対象者の腹部の画像を撮像する際に、呼吸による腹部の運動の様子を正確に測定できるものではない。さらに、このような従来技術においては、例えば、撮像の対象者の腹部の状態を測定するための装置のサイズが大きく、MRI装置の撮像部に入れることができない場合がある。
このように、従来技術では、装置が大型となりMRI(磁気共鳴画像撮像法)に用いることができない場合や、対象者の呼吸による腹部の運動を正確に測定することができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2004-508859号公報
【文献】特開2006-263461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
対象者の腹部の運動を外部の観察者が容易に判別できる腹部運動測定装置及びこれを用いた磁気共鳴画像撮像方法が待望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段としての本発明の腹部運動測定装置は、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定装置であって、
対象者の腹部に装着される袋状部材と、
袋状部材の内部の気圧を測定する第1気圧測定部と、
袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定部と、
基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理、及び、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定処理を行う制御部と、を有する。
【0010】
また、本発明の磁気共鳴画像撮像方法では、本発明の腹部運動測定装置を用いて、対象者における腹部の運動を測定し、
測定した腹部の運動の測定データを用いて、対象者における腹部が所定の状態であるときに、対象者における腹部の画像を、磁気共鳴画像撮像装置により撮像する。
【0011】
また、上記の課題を解決するための手段としての本発明の腹部運動測定方法は、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定方法であって、
対象者における腹部に装着された袋状部材における内部の気圧を測定する第1気圧測定工程と、
袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定工程と、
基準気圧の測定データを平滑化する平滑化工程と、
袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化工程を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定工程と、を含む。
【0012】
また、上記の課題を解決するための手段としての本発明の腹部運動測定用プログラムは、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定用プログラムであって、
対象者における腹部に装着された袋状部材における内部の気圧を測定する第1気圧測定処理と、
袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定処理と、
基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理と、
袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
対象者の腹部の運動を外部の観察者が容易に判別できる腹部運動測定装置及びこれを用いた磁気共鳴画像撮像方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1の実施形態における腹部運動測定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態における腹部運動測定装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第2の実施形態における腹部運動測定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、第2の実施形態における腹部運動測定装置の制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態における腹部運動測定装置の制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態における腹部運動測定装置の制御装置のハードウェア構成の他の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、第2の実施形態における腹部運動測定装置の制御装置の機能構成の他の一例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態における腹部運動測定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、本発明の腹部運動測定装置を用いて、対象者における腹部の運動を測定する際の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、本発明の腹部運動測定装置を用いて、対象者における腹部の運動を測定した上で、MRIにより当該対象者の腹部の画像を撮像する際の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、測定例1における、袋状部材の内部の気圧の測定データと、基準気圧の測定データと、袋状部材の内部の気圧の測定データの値から基準気圧の測定データの値を引いた値(差分)の一例を示すグラフである。
【
図12】
図12は、測定例2における、袋状部材の内部の気圧の測定データと、基準気圧の測定データと、袋状部材の内部の気圧の測定データの値から平滑化処理前の基準気圧の測定データの値を引いた値(差分)と、袋状部材の内部の気圧の測定データの値から平滑化処理を行った基準気圧の測定データの値を引いた値(差分)の一例を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例1において、固定部材を用いて袋状部材を対象者の腹部に固定して装着したときの様子の一例を撮影した写真である。
【
図14】
図14は、実施例1において、腹部運動測定装置における、MRI装置に高圧のヘリウムガスを供給する圧縮機などが配置される機械室に配置する部分の一例を撮像した写真である。
【
図15】
図15は、実施例1において、腹部運動測定装置における、MRI装置に高圧のヘリウムガスを供給する圧縮機などが配置される機械室に配置する部分の一例を撮像した他の写真である。
【
図16】
図16は、実施例1において、腹部運動測定装置における、MRI装置に高圧のヘリウムガスを供給する圧縮機などが配置される機械室に配置する部分の一例を、外装ケースを開けた状態で撮影した写真である。
【
図17】
図17は、実施例1における、対象者における腹部の運動の測定データの一例を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実施例2における、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の一例であるAbches(登録商標)とを用いて測定した、対象者における腹部の運動の測定データの一例を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例2における、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の一例であるAbches(登録商標)とを用いて測定した、対象者における腹部の運動の測定データをプロットした相関図(散布図)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(腹部運動測定装置)
本発明の腹部運動測定装置は、従来技術では、MRI(磁気共鳴画像撮像法)に用いることができない場合や、対象者の腹部の運動を正確に測定することができず、当該対象者の腹部の運動が止まっているかどうかを外部の観察者が判別できない場合があるという、本発明者らの知見に基づくものである。
【0016】
例えば、上記の特許文献1に記載されているような従来技術では、MRIによる検査中に行われる複数回の呼吸停止の際に、横隔膜を画像化した情報から得られる横隔膜のナビゲータ情報に基づいて、MRI装置の操作者が、被検者に呼吸停止の指示を与えて撮像を行うとしている。しかしながら、このような従来技術は、例えば、横隔膜が所定の位置となるときに、被検者に呼吸停止の指示を与えるものであり、腹部の運動を測定することを目的とした技術ではなく、MRI撮像中に、当該被検者の腹部の運動が止まっているかどうかを外部の観察者(例えば、MRI装置の操作者)が判別することができない。
さらに、このような従来技術においては、呼吸停止の指示が与えられた際に、被検者自身も、自身が正しい位置で腹部の運動を止めることができているか否かを知ることができない。このため、このような従来技術においては、対象者の腹部の画像を撮像する際に、対象者の腹部の状態がずれてしまい、撮像した画像の精度が低くなってしまう場合がある。
【0017】
加えて、上記の特許文献1に記載されているような従来技術では、MRI装置の操作者が、横隔膜のナビゲータ情報に基づいて、被検者に呼吸停止の指示を与えるとしているが、このような技術においては、被検者が腹部の運動を止めているかどうかをMRI装置の操作者が判別することが難しいため、被検者の呼吸のタイミングと呼吸停止の指示のタイミングとが合わない場合があり、撮像した画像の精度が低下してしまうときがある。
より具体的には、このような従来技術において、横隔膜のナビゲータ情報は、MRIにより被検者の腹部の断面画像の撮像を行う技術と同様の技術を用いて取得するため、例えば、断面画像の撮像を行う直前の腹部の状態に関する情報は取得することはできても、MRIにより断面画像の撮像を行っている最中の被検者の腹部の状態に関する情報は取得することができない。このため、従来技術においては、MRIの撮像中には、被検者の腹部の運動の状態を測定することができないので、撮像した画像の精度を高くすることが難しい。
【0018】
また、上記の特許文献2に記載されているような従来技術の装置は、放射線治療を行う際に腹部の状態を測定するために用いることを目的としたものであり、被検者が横たわる寝台に装着するハウジングを有する比較的大型の装置である。ここで、MRI装置の撮像部は、通常、直径が60cmから70cmの円筒形状であるため、この従来技術の装置では、MRI装置の撮像部に入れることができない。このため、この従来技術の装置は、MRIによる対象者の検査に用いることができないものである。
【0019】
このように、従来技術では、例えば、MRI撮像中の対象者の腹部の運動を正確に測定することができず、被検者が腹部の運動を止めているかどうかを外部の観察者(例えば、MRI装置の操作者)が判別することができない場合や、装置が大型となりMRIに用いることができない場合があるという問題があった。
【0020】
そこで、本発明者らは、対象者の腹部の運動を外部の観察者が容易に判別できる腹部運動測定装置等、より具体的な例としては、対象者に装着する部材を小型化できると共に、当該対象者の腹部の運動を正確に測定でき、当該対象者の腹部の運動が止まっているかどうかを外部の観察者が判別できる腹部運動測定装置等について鋭意検討を重ね、本発明を想到した。すなわち、本発明者らは、対象者の腹部に装着される袋状部材と、袋状部材の内部の気圧を測定する第1気圧測定部と、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定部と、基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理、及び、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における前記腹部の運動を測定する腹部運動測定処理を行う制御部とを有する腹部運動測定装置等により、対象者の腹部の運動を外部の観察者が容易に判別できることを知見した。さらに、本発明者らは、上記の構成を有する腹部運動測定装置により、例えば、対象者に装着する部材を小型化できると共に、当該対象者の腹部の運動を正確に測定でき、当該対象者の腹部の運動が止まっているかどうかを外部の観察者が判別できることを知見した。本発明は、これら知見に基づくものである。
【0021】
ここで、本発明の腹部運動測定装置は、対象者の腹部に装着される袋状部材と、袋状部材の内部の気圧を測定する第1気圧測定部とを有する。このように、本発明では、第1気圧測定部により、対象者における腹部に装着された袋状部材における内部の気圧を測定して、袋状部材における内部の気圧の測定データを取得する。
第1気圧測定部により袋状部材の内部の気圧を測定する際に、対象者が呼吸をする場合に、息を吸い込み腹部が膨張する(膨らむ)ときには、例えば、袋状部材に加わる圧力が大きくなり、袋状部材の内部の気圧が高くなる。一方、対象者が呼吸をする場合に、息を吐き出して腹部が収縮する(凹む)ときには、例えば、袋状部材に加わる圧力が小さくなり、袋状部材の内部の気圧が低くなる。このように、袋状部材の内部の気圧には、対象者の腹部の運動の様子が反映されるため、袋状部材の内部の気圧を測定することにより、対象者の腹部の運動に関する測定データを取得することができる。つまり、本発明においては、対象者の腹部の運動の代替指標として、袋状部材の内部の気圧の変動を用いている。
【0022】
また、対象者に装着する袋状部材としては、例えば、樹脂などの材料で形成された袋を用いることができる。このため、対象者に装着する袋状部材は、適宜大きさを選択することができ、小型化することが可能である。このため、袋状部材は、例えば、MRI装置の撮像部に入れることが可能であり、MRIにより対象者の検査を行う際にも、当該対象者における腹部の運動を測定することができる。
【0023】
さらに、本発明の腹部運動測定装置は、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧(対照気圧)を測定する第2気圧測定部を有する。このように、本発明では、第2気圧測定部により、基準気圧を測定して、基準気圧の測定データを取得する。また、基準気圧としては、例えば、大気圧とすることができる。
加えて、本発明の腹部運動測定装置は、基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理、及び、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定処理を行う制御部を有する。つまり、本発明の腹部運動測定装置が有する処理部は、少なくとも、平滑化処理及び腹部運動測定処理の2つの処理を行う。
【0024】
ここで、例えば、MRIによる検査を行う場合、MRI装置により当該対象者を検査する検査室(測定室)と、MRI装置に高圧のヘリウムガスを供給する圧縮機などが配置される機械室と、MRI装置の操作を行う操作室とに分けて、MRIによる検査を行うためのシステムを配置することが一般的である。このとき、MRIによる検査を行っている最中(画像を撮像しているとき)に、MRI装置により当該対象者を検査する検査室は、電磁遮蔽の必要性や室内温度を一定に保つ必要性があることから、人が出入りすることは基本的にはないが、機械室や操作室においては人の出入りがある場合がある。機械室や操作室に人の出入りがあったときには、出入りの際の扉の開閉などにより瞬間的な気圧変動が生じることがある(例えば、
図12参照)。
また、本発明の腹部運動測定装置をMRIによる腹部の検査を行う際に用いる場合、基準気圧を測定する第2気圧測定部を配置する場所としては、例えば、上記の機械室や操作室などとすることができる。例えば、第2気圧測定部を上記の機械室に配置する場合、上述したように、機械室の扉の開閉などがあったときには、機械室における瞬間的な気圧変動が、第2気圧測定部が測定する基準気圧におけるスパイク状のノイズとして測定されてしまう。このようなスパイク状のノイズが含まれる基準気圧の測定データを用いて対象者の腹部の運動を測定すると、当該腹部の運動の測定精度が低下してしまう可能性がある。
【0025】
そこで、本発明においては、基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理を行う。基準気圧の測定データに平滑化処理を行うことにより、基準気圧の測定データにスパイク状のノイズが含まれる場合などにおいても、当該スパイク状のノイズを除去することができ、第2気圧測定部を配置した環境に依存するノイズを、基準気圧の測定データから除去することができる。
【0026】
ここで、対象者の腹部に装着される袋状部材の内部の気圧は、対象者の腹部の運動の様子を反映したものであるが、例えば、袋状部材の外部の気圧(通常は、大気圧)の影響も受ける。つまり、袋状部材の内部の気圧は、袋状部材に外部から加わる圧力によって変化し、袋状部材に外部から加わる圧力は、対象者の腹部の運動、袋状部材の外部の気圧の変動などによって変化する。なお、袋状部材の外部の気圧による袋状部材への圧力は、第1気圧測定部が測定する袋状部材の内部の気圧の測定データの基線(ベースライン)となる。言い換えると、例えば、袋状部材の外部の気圧が、袋状部材の内部の圧力に対する基準となる基準気圧となる。
また、上述したように、MRIによる検査では多数の断面画像の撮像(撮影)を行うため、通常、検査時間(必要となる多数の断面画像を撮像するのに必要となる時間)として、20分から1時間程度の時間が必要となる。通常、袋状部材の外部の気圧は大気圧となるが、大気圧は、低気圧や高気圧の移動などによって、1時間の間に1hPa程度変動し得る。
このように、袋状部材の内部の圧力は、袋状部材を装着した対象者の腹部の運動以外に、大気圧の変動によっても大きく変化する場合があるため、第1気圧測定部が測定する袋状部材の内部の気圧の測定データの基線が大きく変動するときがある。袋状部材の内部の気圧の測定データの基線が変動してしまうと、対象者の腹部の運動による袋状部材の内部の気圧の変化を正確に測定することが難しくなり、対象者の腹部の運動の測定精度が低くなってしまう場合がある。
【0027】
そこで、本発明においては、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定処理を行う。つまり、本発明においては、袋状部材の内部の気圧の測定データだけではなく、平滑化処理によりノイズを除去した基準気圧(通常は、大気圧)の測定データも用いて、対象者における腹部の運動を測定する。
こうすることにより、本発明では、対象者の腹部の運動を測定している際に、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧(袋状部材の外部の気圧)が変動する場合であっても、当該基準気圧の変動を考慮して、対象者の腹部の運動による袋状部材の内部の気圧の変動を表すデータを取得することができる。このため、本発明では、対象者の腹部の運動を測定する際に基準気圧の変動する場合にも、対象者の腹部の運動を正確に測定することができる。
さらに、本発明では、対象者の腹部の運動を正確に測定することができるため、例えば、MRIによる検査に用いる場合などに、対象者に腹部の運動を止めてもらう(呼吸を止めてもらう)ときに、当該対象者の腹部の運動が止まっているかどうかを、外部の観察者が判別することができる。このため、本発明を用いることにより、例えば、MRIによる検査に用いる場合などに、対象者が呼吸を止めるタイミングと、画像を撮像するタイミングとを合わせることができ、撮像する画像の精度を高くすることができる。
【0028】
このように、本発明の腹部運動測定装置は、袋状部材と、第1気圧測定部と、第2気圧測定部と、平滑化処理及び腹部運動測定処理を行う制御部とを有することにより、対象者の腹部の運動を外部の観察者が容易に判別できる。さらに、本発明の腹部運動測定装置は、例えば、対象者に装着する部材を小型化できると共に、当該対象者の腹部の運動を正確に測定でき、当該対象者が腹部の運動を止めているかどうかを外部の観察者が判別できる。
【0029】
本発明の腹部運動測定装置は、対象者における腹部の運動を測定する装置である。
腹部の運動を測定する対象者としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、腹部に関する検査を受ける被検者などが挙げられる。
また、対象者における腹部の運動は、例えば、呼吸により生じる運動であってもよいし、意識的に腹部を膨らます又は凹ますことにより生じる運動であってもよい。本発明においては、例えば、MRIによる検査の際などに、横たわった(寝そべった)状態の被検者における、呼吸による腹部の運動を測定するときなどに好適に用いることができる。
【0030】
上述したように、本発明の腹部運動測定装置は、対象者に装着する部材を小型化できると共に、当該対象者の腹部の運動を正確に測定でき、当該対象者が腹部の運動を止めているかどうかを外部の観察者が判別できる。このため、本発明の腹部運動測定装置は、例えば、MRI(磁気共鳴画像撮像法)により、当該対象者の腹部の画像を撮像する際に、好適に用いることができる。言い換えると、本発明の腹部運動測定装置の好ましい用途としては、例えば、磁気共鳴画像撮像装置(MRI装置)により、対象者における腹部の画像を撮像する際に用いることが挙げられる。
【0031】
本発明の腹部運動測定装置は、袋状部材と、第1気圧測定部と、第2気圧測定部と、制御部とを有し、固定部材及び提示部の少なくともいずれかを有することが好ましく、更に必要に応じてその他の部(手段)を有する。
【0032】
<袋状部材>
袋状部材は、対象者の腹部に装着される部材である。袋状部材としては、内部に空間を有し、対象者の腹部の運動に応じて変形可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
袋状部材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、非磁性体であることが好ましく、非磁性体かつ非導電体であることがより好ましい。ここで、「非磁性体」とは、強磁性体以外の物質を意味する。言い換えると、「非磁性体」とは、常磁性体又は反磁性体を意味する。また、「非導電体(絶縁体)」とは、電気を通さない(流さない)性質を持つ物質を意味する。
ここで、MRIにより対象者の検査を行う際には強い磁場が生じるため、MRI装置により当該対象者を検査する検査室(測定室)には、強磁性体や導電体を含むもの(電子機器類、時計)などの持ち込みや配置が制限される場合がある。このため、非磁性体や導電体の材料で形成された袋状部材を用いることで、MRIによる検査を行う際に、本発明の腹部運動測定装置をより好適に用いることができる。
【0033】
袋状部材に用いることができる非磁性体かつ非導電体の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂、ゴムなどが挙げられる。また、樹脂やゴムで形成された袋状部材は、対象者の腹部の運動に応じて容易に変形可能である点でも好ましい。樹脂で形成された袋状部材としては、例えば、ポリプロピレンで形成された袋などを用いることができる。
【0034】
袋状部材の形状としては、対象者の腹部に乗せて装着することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、四角形状、円形状、楕円形状、帯(長尺)形状などが挙げられる。また、四角形状としては、例えば、正方形状、長方形状などが挙げられる。また、袋状部材の形状としては、対象者の腹部の運動により連動して変形可能な形状であることが好ましい。対象者の腹部の運動により連動して変形可能な形状としては、例えば、対象者の腹部における臍部(臍(へそ)の周辺の部分)を覆うことができる形状とすることができる。対象者の腹部における臍部を覆うことができる形状としては、例えば、長方形状、帯(長尺)形状などが挙げられる。
また、袋状部材の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、通常の1重の側面部分を有する袋状の構造、2重の側面部分を有する袋状の構造、内部が複数の区画に仕切られた袋状の構造、複数の袋状の構造の部分を内部に有する構造などが挙げられる。
【0035】
袋状部材の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明の腹部運動測定装置においては、対象者に装着する袋状部材として、上述したように、袋状の簡易な構造の部材を用いることができ、対象者に装着する部材を小型化することが可能である。このため、袋状部材は、例えば、MRI装置の撮像部に入れることが可能であり、MRIにより対象者の検査を行う際にも、当該対象者の腹部の運動を測定することができる。
袋状部材の大きさとしては、より具体的には、例えば、対象者の腹部における臍部に乗せることができる程度の大きさとすることが好ましい。このような大きさの袋状部材としては、例えば、内部に空気を入れない状態(平たい状態)としたときに、縦80mm×横120mm程度の大きさの袋などを用いることができる。
【0036】
袋状部材の内部の気圧の高さ(大きさ)としては、対象者における腹部の運動に合わせて、当該袋状部材の内部の気圧が変化可能な高さであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。袋状部材の内部の気圧の高さは、腹部運動測定処理における、対象者の腹部の運動の測定精度をより向上させることができるため、例えば、当該袋状部材の外部の気圧(通常は大気圧)よりも高い気圧とすることが好ましい。
袋状部材の外部の気圧よりも高い気圧とする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の送風機(ブロアー)を用いて、袋状部材の内部に空気を送り込み少し膨らます方法などが挙げられる。
【0037】
また、袋状部材を対象者の腹部に装着する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、対象者の腹部の運動に合わせて変形可能であり、当該対象者の腹部の運動に応じて袋状部材に加わる圧力が変化するように装着することが好ましい。このように袋状部材を対象者の腹部に装着する方法としては、例えば、帯状の固定部材により、対象者の腹部に袋状部材を装着する方法が挙げられる。言い換えると、本発明の腹部運動測定装置においては、帯状の固定部材を更に有し、固定部材により、対象者の腹部に袋状部材を装着することが好ましい。
【0038】
ここで、固定部材としては、帯状(バンド状;ベルト状)の部材であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、少なくとも一部が伸縮性を有する材料で形成されたバンド(ベルト)状の部材などを好適に用いることができる。このような部材としては、例えば、一部がゴム材料を含む伸縮可能な材料で形成され、他の部分が樹脂材料で形成されたバンドを好適に用いることができる。このように、固定部材としては、例えば、伸縮可能な伸縮部を備えるものが好ましい。
【0039】
例えば、対象者の腹部に接するように袋状部材を配置し、帯(バンド)状の固定部材を用いて、当該固定部材の伸縮部(例えば、ゴムバンドで形成される部分)により袋状部材が外側から固定されるように、固定部材を対象者の腹部に巻くことによって、袋状部材を対象者の腹部に固定(装着)することができる。このようにして、伸縮可能な伸縮部を備える固定部材により袋状部材を対象者の腹部に装着することにより、対象者の腹部の運動に応じて袋状部材に加わる圧力がより適切に変化するため、対象者の腹部の運動の測定の精度をより高くすることができる。
【0040】
また、バンド状の固定部材は、例えば、ゴム材料や樹脂材料などの非磁性体かつ非導電体である材料により形成することができるため、MRIによる検査を行う際にも好適に用いることができる。
このように、本発明においては、袋状部材及び固定部材が、非磁性体で形成されることが好ましく、非磁性体かつ非導電体で形成されることがより好ましい。非磁性体や導電体の材料で形成された袋状部材及び固定部材を用いることで、MRIによる検査を行う際に、本発明の腹部運動測定装置をより好適に用いることができる。
【0041】
<第1気圧測定部>
第1気圧測定部は、袋状部材の内部の気圧を測定する部(手段)である。言い換えると、第1気圧測定部は、袋状部材の内部の気圧(内圧)を測定することにより、袋状部材の内部の気圧の測定データを取得する部(手段)である。また、第1気圧測定部は、例えば、有線又は無線の通信手段により制御部と通信可能に接続される。
第1気圧測定部としては、気圧を測定可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の気圧センサを用いることができる。気圧センサとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、BME280(登録商標、ボッシュ株式会社製)などを用いることができる。
【0042】
第1気圧測定部が配置される場所としては、袋状部材の内部の気圧を測定可能な場所であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。第1気圧測定部が配置される場所としては、例えば、袋状部材の内部、袋状部材と気密に接続された容器の内部などが挙げられる。これらの中でも、第1気圧測定部が配置される場所は、袋状部材と気密に接続された容器の内部であることが好ましい。言い換えると、本発明の腹部運動測定装置においては、第1気圧測定部が、袋状部材と気密に接続された容器の内部に位置することが好ましい。
ここで、袋状部材と気密に接続された容器としては、袋状部材と気密な状態を保つことができ、第1気圧測定部を収容可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。袋状部材と気密に接続された容器としては、例えば、袋状部材と気密に接続した筒状部材と、筒状部材と気密に接続され第1気圧測定部を収容可能な収容部材とを有するものを好適に用いることができる。
【0043】
上記の筒状部材としては、袋状部材と気密に(気体が漏れないように)接続可能かつ気体が流通可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のチューブなどを用いることができる。
筒状部材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、袋状部材及び固定部材と同様に、非磁性体で形成されることが好ましく、非磁性体かつ非導電体で形成されることがより好ましい。より具体的には、筒状部材の材質としては、例えば、樹脂材料などを好適に用いることができる。また、筒状部材としては、第1気圧測定部及び収容部材の配置の自由度を容易に高められる点から、変形可能なものが好ましく、例えば、軟質塩化ビニルで形成されたチューブなどを好適に用いることができる。
【0044】
上記の収容部材としては、筒状部材と気密に接続可能かつ第1気圧測定部を収容可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
上述したような筒状部材により、袋状部材と収容部材とを気密に接続することで、袋状部材の内部の気圧と、第1気圧測定部を収容する収容部材の内部の気圧とを等しくすることができる。このため、第1気圧測定部により、収容部材の内部の気圧を測定することで、袋状部材の内部の気圧を測定することができる。
このように、袋状部材と気密に接続された容器(密閉された容器)の内部に、第1気圧測定部を配置することにより、第1気圧測定部を配置する場所の自由度を高めることができ、例えば、袋状部材とは離れた場所に第1気圧測定部を配置することができる。
【0045】
ここで、上述したように、MRIにより対象者の検査を行う際には強い磁場が生じるため、MRI装置により当該対象者を検査する検査室(測定室)には、強磁性体や導電体を含むもの(電子機器類)などの持ち込みや配置が制限される場合がある。第1気圧測定部は、通常、電子機器となるため、MRIによる検査の際には、第1気圧測定部は検査室の外部に配置することが好ましい。
そこで、袋状部材と気密に接続された容器の内部に第1気圧測定部を配置することにより、例えば、MRI装置により当該対象者を検査する検査室の外部に、当該容器における収容部材を配置することができるため、第1気圧測定部を当該検査室の外部(例えば、機械室や操作室)に配置することができる。このように、本発明の腹部運動測定装置では、袋状部材と気密に接続された容器の内部に第1気圧測定部を配置することにより、例えば、MRI装置により当該対象者を検査する検査室の外部に第1気圧測定部を配置することができるため、MRI装置により、対象者における腹部の画像を撮像する際に、本発明の腹部運動測定装置をより好適に用いることができる。
【0046】
<第2気圧測定部>
第2気圧測定部は、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する部(手段)である。言い換えると、第2気圧測定部は、基準気圧を測定することにより、基準気圧の測定データを取得する部(手段)である。また、第2気圧測定部は、例えば、有線又は無線の通信手段により制御部と通信可能に接続される。
第2気圧測定部としては、気圧を測定可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の気圧センサを用いることができ、第1気圧測定部と同様のものを用いることができる。
本発明の腹部運動測定装置では、上述したように、第2気圧測定部により基準気圧を測定することで、対象者の腹部の運動を測定している際に、袋状部材の内部の気圧の測定データの基線(ベースライン)となる基準気圧が変動する場合であっても、当該基準気圧の変動を考慮して、対象者の腹部の運動による袋状部材の内部の気圧の変動を表すデータを取得することができる。
【0047】
第2気圧測定部が配置される場所としては、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定可能な場所であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧(対照気圧)としては、上述したように、袋状部材に外部から加わる気圧(外部の気圧)であることが好ましく、通常は大気圧となる。このため、第2気圧測定部が配置される場所としては、大気圧を測定可能な場所であることが好ましい。
【0048】
また、第2気圧測定部は、第1気圧測定部と同様に、通常、電子機器となるため、MRIによる検査の際には、第2気圧測定部は、MRI装置により当該対象者を検査する検査室(測定室)の外部(例えば、機械室や操作室)に配置することが好ましい。言い換えると、本発明の腹部運動測定装置においては、第2気圧測定部が、袋状部材を装着した対象者を測定する測定室の外部に位置することが好ましい。こうすることにより、MRI装置により、対象者における腹部の画像を撮像する際に、本発明の腹部運動測定装置をより好適に用いることができる。
【0049】
<制御部>
制御部は、基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理、及び、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定処理を行う部(手段)である。制御部は、例えば、第1気圧測定部から袋状部材の内部の気圧の測定データを取得し、第2気圧測定部から基準気圧の測定データを取得して、取得したこれらの測定データに基づいて、平滑化処理及び腹部運動測定処理を行う。
制御部としては、平滑化処理及び腹部運動測定処理を行うことができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のコンピュータ、携帯端末などを用いて実現することができる。また、制御部としては、「Raspberry Pi」などの小型のコンピュータを用いることもできる。なお、制御部として、複数のコンピュータを組み合わせて用いてもよい。
【0050】
また、制御部が配置される場所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ここで、制御部は、電子機器であるため、MRIによる検査の際には、制御部は、MRI装置により当該対象者を検査する検査室(測定室)の外部(例えば、機械室や操作室)に配置することが好ましい。言い換えると、本発明の腹部運動測定装置においては、制御部が、袋状部材を装着した対象者を測定する測定室の外部に位置することが好ましい。こうすることにより、MRI装置により、対象者における腹部の画像を撮像する際に、本発明の腹部運動測定装置をより好適に用いることができる。
上述したように、第1気圧測定部、第2気圧測定部、及び制御部は、MRIによる検査の際には、MRI装置により当該対象者を検査する検査室(測定室)の外部に配置することが好ましい。言い換えると、本発明の腹部運動測定装置においては、第1気圧測定部、第2気圧測定部、及び制御部が、袋状部材を装着した対象者を測定する測定室の外部に位置することが好ましい。こうすることにより、腹部測定装置において、通常、電子機器が用いられる(強磁性体や導電体を含む)各手段が、袋状部材を装着した対象者を測定する測定室(MRI装置が存在する部屋)の外部に位置することになるため、MRIによる検査を行う際に、本発明の腹部運動測定装置を特に好適に用いることができる。
【0051】
<<平滑化処理>>
制御部が行う平滑化処理は、基準気圧の測定データを平滑化する処理である。つまり、平滑化処理においては、第2気圧測定部が測定した基準気圧の測定データを平滑化する処理を行う。
平滑化処理としては、基準気圧の測定データを平滑化できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の平滑化手法を用いることができ、例えば、移動平均フィルタを用いる手法、Savitzky-Golayフィルタを用いる手法、中央値フィルタを用いる手法などが挙げられる。また、移動平均フィルタを用いる手法としては、例えば、単純移動平均に基づく手法、加重移動平均に基づく手法、指数移動平均に基づく手法などが挙げられる。
これらの中でも、基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理においては、中央値フィルタを用いる手法が好ましい。平滑化手法として、中央値フィルタを用いる手法を用いることにより、例えば、第2気圧測定部を配置した部屋において扉の開閉などがあったときの瞬間的な気圧変動によるスパイク状のノイズを、基準気圧の測定データからより適切に除去することができる。
【0052】
また、本発明では、測定した対象者の腹部の運動の測定データを、後述する提示部により、例えば、当該対象者自身やMRI装置の操作者等に提示する場合などには、第2気圧測定部が測定した基準気圧の測定データに対して、リアルタイムに平滑化処理を行うことが好ましい。
例えば、MRIによる検査に本発明を用いる場合に、撮像する画像の精度を高める目的から、対象者に腹部の運動を止めてもらう(呼吸を止めてもらう)ときに、リアルタイムで平滑化処理を行った測定データに基づいて求めた、当該対象者の腹部の運動の測定データを提示することで、当該対象者自身及びMRI装置の操作者に対して、より正確な腹部の運動を提示することができる。
【0053】
なお、本発明においては、第2気圧測定部が測定した基準気圧の測定データの全範囲について平滑化処理を行うことは必須ではなく、当該基準気圧の測定データに平滑化処理を行わない範囲が含まれていてもよい。例えば、測定した対象者の腹部の運動の測定データを、後述する提示部により当該対象者自身に提示する場合に、当該対象者に提示しない範囲の測定データ(例えば、対象者に腹部の運動を止めてもらう必要がない時間の測定データ)には平滑化処理を行わないようにしてもよい。
【0054】
<<腹部運動測定処理>>
制御部が行う腹部運動測定処理は、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定(算出)する処理である。つまり、腹部運動測定処理においては、対象者の腹部の運動の代替指標として、袋状部材の内部の気圧の測定データを用いると共に、平滑化処理によりノイズを除去した基準気圧の測定データを用いることによって基準気圧の変動を考慮した上で、当該対象者における腹部の運動を測定(算出)する。こうすることにより、腹部測定処理では、対象者の腹部の運動を測定する際に基準気圧の変動する場合にも、対象者の腹部の運動を正確に測定することができる。
また、腹部運動測定処理としては、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定可能な処理であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0055】
腹部運動測定処理としては、袋状部材の内部の気圧の測定データと、平滑化処理を行った基準気圧の測定データとの差分に基づいて処理を行うことが好ましい。言い換えると、本発明では、腹部運動測定処理において、袋状部材の内部の気圧の測定データと、平滑化処理を行った基準気圧の測定データとの差分に基づいて、対象者における腹部の運動を測定することが好ましい。
より具体的には、例えば、第1気圧測定部が測定した袋状部材の内部の気圧の測定データの値から、第2気圧測定部が測定した基準気圧(例えば、大気圧)の平滑化処理を行った測定データの値を引いた差(差分)を、対象者における腹部の運動の測定データとすることが好ましい。
このようにすることにより、対象者の腹部の運動を測定している際に、袋状部材の内部の気圧の測定データの基線(ベースライン)となる基準気圧の変動の影響を取り除いて、当該対象者の腹部の運動による袋状部材の内部の気圧の変動を表すデータをより適切に取得することができ、対象者の腹部の運動をより正確に測定することができる。
【0056】
<提示部>
提示部は、腹部運動測定処理により測定した、対象者における腹部の運動の測定データを提示する部(手段)である。
提示部としては、対象者における腹部の運動の測定データを提示可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディスプレイ(画面、モニタ)を有する装置(デバイス)、音により情報を出力できる装置などを用いることができる。これらの中でも、ディスプレイを有する装置が好ましい。
ここで、ディスプレイを有する装置としては、例えば、公知のコンピュータ、携帯端末などを用いることができる。また、音により情報を出力できる装置としては、例えば、公知のスピーカーなどが挙げられる。
【0057】
本発明の腹部運動測定装置では、提示部により、対象者における腹部の運動の測定データを、当該対象者自身、当該対象者の腹部の運動を観察する観察者などに提示することができる。これらの中でも、対象者における腹部の運動の測定データを、少なくとも当該対象者自身に提示することが好ましい。
【0058】
ここで、上述したように、MRIによる検査などにおいて、撮像する断面画像の精度を高める目的から、MRIで1つの断面画像を撮像する撮像時間の中で、対象者に呼吸を止めてもらう時間を設けて、腹部の運動を抑制した状態で断面画像の撮像を行うときがある。また、対象者に呼吸を止めてもらう際には、30秒から2分程度の撮像時間の全部で呼吸を止めてもらうことは困難であるため、撮像時間の中で、複数回に分けて、呼吸を止めてもらう時間を設ける場合がある。
この場合、複数回に分けて呼吸を止める(腹部の運動を止める)ときに、対象者自身の感覚に基づいて腹部の運動を止めてもらうと、毎回同じ位置(同じ状態)で腹部の運動を止めることは困難であり、通常、複数回の腹部の運動の停止のたびに、腹部の位置(状態)にずれが生じる。このため、従来技術においては、対象者の腹部の画像を撮像する際に、対象者の腹部の状態がずれてしまい、撮像した画像の精度が低くなってしまう場合がある。
【0059】
本発明の腹部運動測定装置においては、提示部により当該対象者の腹部の運動の測定データを対象者自身に提示することで、当該対象者は、自身の腹部の運動の様子を当該測定データに基づいて正確に知ることができる。つまり、提示部を用いて、対象者に自身の腹部の運動の情報をフィードバックすることにより、当該対象者は、フィードバックされた情報を参照しながら、腹部の運動を所定の状態に容易にコントロールすることができる。
このため、提示部により当該対象者の腹部の運動の測定データを対象者自身に提示することで、MRIよる検査などにおいて、対象者が、毎回同じ位置(同じ状態)で腹部の運動を止めることが容易にできる(呼吸停止の再現性を高くできる)ようになるため、撮像する断面画像の精度をより高くすることができる。
【0060】
また、本発明の腹部運動測定装置においては、対象者自身、及び当該対象者の腹部の運動を観察する観察者に、当該対象者の腹部の運動の測定データを提示することにより、例えば、当該対象者における腹部の状態が、所定の状態となっているかどうかを、対象者自身と当該対象者の腹部の運動を観察する観察者の両方が認識することができる。
例えば、本発明の腹部運動測定装置をMRIによる検査に用いる場合などに、対象者が腹部の運動を止める(呼吸を止める)タイミングと、MRI装置の操作者が画像を撮像するタイミングを容易に合わせることができ、撮像する画像の精度をより高くすることができる。
言い換えると、対象者自身、及び当該対象者の腹部の運動を観察する観察者に、当該対象者の腹部の運動の測定データを提示することにより、対象者の腹部が、MRIによる画像の撮像に適した(所定の位置を維持している)状態であるときに、当該対象者の腹部の画像を撮像することができ、撮像する画像の精度をより高くすることができる。
【0061】
ここで、提示部が、対象者における腹部の運動の測定データを提示する際の提示形式としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、腹部運動測定処理において測定(算出)した測定データの形式のままであってもよいし、当該測定データを加工して形式を変更してもよい。
腹部運動測定処理の測定データの加工方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、腹部運動測定処理の測定データが時系列の連続した気圧のグラフである場合には、例えば、当該測定データを、対象者の腹部の膨らみ(凹凸)の中心からの、測定時点における対象者の腹部の膨らみの差の程度を示す情報に変換して提示してもよい。
上記のように、例えば、腹部運動測定処理の測定データの提示形式を、当該測定データの提示を受ける対象者が、自身の腹部の運動の様子を把握しやすいように変換した形式としてフィードバックすることにより、当該対象者は、フィードバックされた情報を参照しながら、腹部の運動を所定の状態により容易にコントロールすることができる。このため、MRIによる検査などにおいて、対象者が、毎回同じ位置(同じ状態)で腹部の運動を止めることがより容易にできる(呼吸停止の再現性をより高くできる)ようになるため、撮像する断面画像の精度を特に高くすることができる。
【0062】
提示部が配置される場所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、対象者が視認できる場所、当該対象者の腹部の運動を観察する観察者が視認できる場所などが挙げられる。また、本発明の腹部運動測定装置は、提示手段を複数有していてもよく、例えば、対象者に腹部運動測定処理の測定データを提示する提示部と、当該対象者の腹部の運動を観察する観察者に当該測定データを提示する提示部とが別に設けられていてもよい。
また、例えば、本発明の腹部運動測定装置をMRIによる検査に用いる場合には、対象者に腹部運動測定処理の測定データを提示するための提示部として、MRI装置により対象者を検査する検査室(測定室)に持ち込み可能なMRI検査室用のディスプレイを好適に用いることができる。
【0063】
<その他の部>
その他の部(手段)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0064】
(磁気共鳴画像撮像方法)
本発明の磁気共鳴画像撮像方法では、上述した本発明の腹部運動測定装置を用いて、対象者における腹部の運動を測定し、測定した腹部の運動の測定データを用いて、対象者における腹部が所定の状態であるときに、対象者における腹部の画像を、磁気共鳴画像撮像装置により撮像する。
上述したように、本発明の腹部運動測定装置は、磁気共鳴画像撮像法(MRI)に好適に用いることができる。MRIにより対象者の腹部の断面画像を撮像(撮影)する際には、撮像する断面画像の精度を高める目的から、上述したように、複数回に分けて、対象者に腹部の運動を止めてもらい、当該対象者の腹部の状態が同じときに撮像を行うことがある。このときに、対象者自身の感覚に基づいて腹部の運動を止めてもらうと、毎回同じ位置(同じ状態)で腹部の運動を止めることは困難であり、通常、複数回の腹部の運動の停止のたびに、腹部の位置(状態)にずれが生じる。このため、従来技術においては、対象者の腹部の画像を撮像する際に、対象者の腹部の状態がずれてしまい、撮像した画像の精度が低くなってしまう場合がある。
【0065】
ここで、本発明の腹部運動測定装置は、上述したように、対象者に装着する部材を小型化できると共に、当該対象者の腹部の運動を正確に測定でき、当該対象者が腹部の運動を止めているかどうかを外部の観察者が判別できる装置である。
このため、本発明の腹部運動測定装置を用いることにより、対象者の腹部の運動を正確に測定できるので、測定した腹部の運動の測定データを用いて、当該対象者における腹部が所定の状態であるときに画像を撮像することが容易になる。言い換えると、本発明の腹部運動測定装置を用いて、対象者における腹部の運動を測定し、測定した腹部の運動の測定データを用いて、対象者における腹部が所定の状態であるときに、対象者における腹部の画像を、MRI装置により撮像することで、撮像する画像の精度を高くすることができる。
【0066】
(腹部運動測定方法)
本発明の腹部運動測定方法は、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定方法であって、対象者における腹部に装着された袋状部材における内部の気圧を測定する第1気圧測定工程と、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定工程と、基準気圧の測定データを平滑化する平滑化工程と、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化工程を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定工程と、を含む。
本発明の腹部運動測定方法は、例えば、上記の腹部運動測定装置により実現することができる。言い換えると、本発明の腹部運動測定方法における、第1気圧測定工程は第1気圧測定部により好適に行うことができ、第2気圧測定工程は第2気圧測定部により好適に行うことができ、平滑化工程及び腹部運動測定工程は制御部により好適に行うことができる。このため、本発明の腹部運動測定方法における好ましい形態は、上記の腹部運動測定装置と同様とすることができる。
【0067】
(腹部運動測定用プログラム)
本発明の腹部運動測定用プログラムは、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定用プログラムであって、対象者における腹部に装着された袋状部材における内部の気圧を測定する第1気圧測定処理と、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定処理と、基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理と、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定処理と、をコンピュータに実行させる。
本発明の腹部運動測定用プログラムは、例えば、上記の腹部運動測定方法をコンピュータにより実現させるためのプログラムとすることができる。言い換えると、本発明の腹部運動測定用プログラムをコンピュータにより実行することで、コンピュータを上記の腹部運動測定装置として機能させることができる。このため、本発明の腹部運動測定用プログラムにおける好ましい形態は、上記の腹部運動測定装置及び腹部運動測定方法と同様とすることができる。
【0068】
本発明の腹部運動測定用プログラムは、使用するコンピュータの構成及びオペレーティングシステムの種類・バージョンなどに応じて、各種のプログラミング言語を用いて作成することができる。
【0069】
本発明の腹部運動測定用プログラムは、ハードディスクなどの記憶媒体に記録しておいてもよいし、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc-ROM)、MO(Magneto-Optical)ディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリなどの記憶媒体に記録しておいてもよい。
また、コンピュータから情報通信ネットワークを通じてアクセス可能な外部記憶領域(他のコンピュータなど)に、本発明の腹部運動測定用プログラムを記録しておいてもよい。この場合、外部記憶領域に記録された本発明の腹部運動測定用プログラムを、必要に応じて、外部記憶領域から情報通信ネットワークを通じて、ハードディスクにインストールして使用することができる。
なお、本発明の腹部運動測定用プログラムは、複数の記憶媒体に、任意の処理毎に分割されて記録されていてもよい。
【0070】
<実施形態>
以下では、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0071】
<<第1の実施形態>>
図1は、第1の実施形態における腹部運動測定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、腹部運動測定装置100は、CPU(Central Processing Unit)101と、主記憶装置102と、補助記憶装置103と、入力装置104と、出力装置(提示部)105と、通信インターフェース106と、第1気圧測定部107と、袋状部材108と、容器109と、第2気圧測定部110と、バス111を有する。腹部運動測定装置100においては、CPU101と、主記憶装置102と、補助記憶装置103と、入力装置104と、出力装置(提示部)105と、通信インターフェース106と、第1気圧測定部107と、第2気圧測定部110とが、バス111を介してそれぞれ接続されている。
【0072】
CPU101は、種々の制御や演算を行なう処理装置である。CPU101は、主記憶装置102などに読み込まれたプログラム等を実行することにより、種々の機能を実現する。すなわち、CPU101は、腹部運動測定装置100の各種プログラム(例えば、腹部運動測定用プログラム)を実行することにより、腹部運動測定装置100の制御部として機能する。
また、CPU101は、腹部運動測定装置100全体の動作を制御することができる。なお、本実施例では、腹部運動測定装置100全体の動作を制御する装置をCPU101としたが、これに限ることなく、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などとしてもよい。
【0073】
主記憶装置102は、各種プログラムを記憶するとともに、各種プログラムを実行するために必要なデータ等を記憶する。
主記憶装置102は、例えば、ROM及びRAM(Random Access Memory)の少なくともいずれかを有する。
ROMは、例えば、BIOS(Basic Input/Output System)、腹部運動測定用プログラムなどの各種プログラムなどを記憶する。ROMとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ROMとしては、例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)などが挙げられる。
RAMは、ROMや補助記憶装置103などに記憶された各種プログラムが、CPU101により実行される際に展開される作業範囲として機能する。RAMとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。RAMとしては、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などが挙げられる。
【0074】
補助記憶装置103としては、各種情報を記憶できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブなどが挙げられる。また、補助記憶装置103は、CD(Compact Disc)ドライブ、DVD(Digital Versatile Disc)ドライブ、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)ドライブなどの可搬記憶装置としてもよい。
【0075】
入力装置104としては、腹部運動測定装置100に対する各種要求を受け付けることができれば特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、スイッチ、マイクなどが挙げられる。また、入力装置104がタッチパネル(タッチディスプレイ)である場合は、入力装置104が出力装置105を兼ねることができる。
【0076】
出力装置(提示部)105としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、ディスプレイ、スピーカーなどが挙げられる。出力装置105に用いられるディスプレイとしては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができる。
【0077】
通信インターフェース106としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、無線又は有線を用いた通信デバイスなどが挙げられる。
【0078】
第1気圧測定部107としては、気圧を測定可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、気圧センサであるBME280(登録商標、ボッシュ株式会社製)などを用いることができる。
また、第1気圧測定部107は、袋状部材108と気密に接続された容器109の内部に位置し、袋状部材108の内部の気圧を測定可能になっている。
【0079】
袋状部材108としては、内部に空間を有する袋状の形状であり、対象者の腹部の運動に応じて変形可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂材料で形成された小袋を用いることができる。また、袋状部材108は、気密な状態で容器109と接続されている。
【0080】
容器109としては、袋状部材と気密な状態を保つことができ、第1気圧測定部を収容可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、袋状部材と気密に接続可能なチューブと、当該チューブと気密に接続され第1気圧測定部107を収容するコンテナとを有するものを用いることができる。
【0081】
第2気圧測定部110としては、第1気圧測定部107と同様の気圧センサを用いることができる。また、第2気圧測定部は、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧(対照気圧)の一例としての大気圧を測定可能な場所に配置される。
【0082】
図2は、第1の実施形態における腹部運動測定装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、腹部運動測定装置100は、通信機能部120と、記憶機能部130と、制御部140と、入力機能部150と、第1気圧測定機能部160と、第2気圧測定機能部170と、出力機能部180とを有する。
腹部運動測定装置100においては、例えば、通信インターフェース106により通信機能部120の機能が実現され、主記憶装置102及び補助記憶装置103により記憶機能部130の機能が実現され、CPU101及び主記憶装置102により制御部140の機能が実現され、入力装置104により入力機能部150の機能が実現され、第1気圧測定部107により第1気圧測定機能部160の機能が実現され、第2気圧測定部110により第2気圧測定機能部170の機能が実現され、出力装置(提示部)105により出力機能部(提示機能部)180の機能が実現される。
【0083】
通信機能部120は、例えば、各種のデータを外部の装置と送受信する。
記憶機能部130は、例えば、各種プログラムを記憶するとともに、第1気圧測定機能部160により測定した袋状部材108の内部の気圧の測定データ、第2気圧測定機能部170により測定した基準気圧の測定データ、対象者Tにおける腹部の運動の測定データなどの各種のデータを、補助記憶装置103において記憶する。
【0084】
制御部140は、平滑化処理部141と腹部運動測定処理部142とを有する。制御部140は、例えば、記憶部130に記憶された各種プログラム(例えば、腹部運動測定用プログラム)を実行するとともに、腹部運動測定装置100全体の動作を制御する。
制御部140における平滑化処理部141は、第2気圧測定部が測定した基準気圧の測定データを平滑化する処理を行う。また、制御部140における腹部運動測定処理部142は、袋状部材108の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者Tにおける腹部の運動を測定(算出)する処理を行う。
【0085】
入力機能部150は、例えば、腹部運動測定装置100に対する各種指示を受け付ける。入力機能部150は、例えば、対象者における腹部の運動の測定を開始するための指示を受け付ける。
第1気圧測定機能部160は、例えば、第1気圧測定部107により、袋状部材108の内部の気圧を測定する。
第2気圧測定機能部170は、例えば、第2気圧測定部110により、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧(対照気圧)を測定する。
出力機能部(提示機能部)180は、例えば、対象者における腹部の運動の測定データを、ディスプレイに表示して提示する。
【0086】
<<第2の実施形態>>
図3は、第2の実施形態における腹部運動測定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aは、MRI装置により、対象者における腹部の画像を撮像する際に用いる場合の好適な形態の一例である。第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aでは、第1の実施形態に係る腹部運動測定装置100とは異なり、
図3に示すように、腹部運動測定装置100aの各部分が異なる領域に配置されている。なお、以下では、第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aにおける、第1の実施形態に係る腹部運動測定装置100と同様の部分については説明を省略することがある。
【0087】
第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aにおいては、MRI装置により対象者Tを検査する検査室(測定室)Aに、袋状部材108が配置される。袋状部材108は、対象者Tの腹部に、伸縮可能な伸縮部を備える固定部材113により固定されている。
また、第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aでは、袋状部材108及び固定部材113は、非磁性体で形成される。
【0088】
図3に示すように、腹部運動測定装置100aにおいては、MRI装置に高圧のヘリウムガスを供給する圧縮機などが配置される機械室Bに、第1気圧測定部107と、容器109と、第2気圧測定部110と、制御装置200aが配置される。また、第1気圧測定部107はバス111aにより制御装置200aと接続され、第2気圧測定部110はバス111bにより制御装置200aと接続される。なお、バス111a及び111bにおける接続方式としては、例えば、I
2C(Inter-Integrated Circuit)を用いることができる。
【0089】
腹部運動測定装置100aにおいて、第1気圧測定部107は、測定室Aに配置された袋状部材108と気密に接続された容器109の内部に位置し、袋状部材108の内部の気圧を測定可能になっている。
また、腹部運動測定装置100aにおいて、第2気圧測定部110は、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧(対照気圧)の一例としての大気圧を測定する。
【0090】
ここで、
図4は、第2の実施形態における腹部運動測定装置の制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図5は、第2の実施形態における腹部運動測定装置の制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4に示すように、機械室Bに配置される制御装置200aは、CPU201と、主記憶装置202と、補助記憶装置203と、通信インターフェース204と、入力装置205とを有する。これらは、バス206でそれぞれ接続されている。
第2の実施形態に係る制御装置200aにおける、CPU201と、主記憶装置202と、補助記憶装置203と、通信インターフェース204と、入力装置205とは、第1の実施形態に係る腹部運動測定装置100における、CPU101と、主記憶装置102と、補助記憶装置103と、通信インターフェース106と、入力装置104と、それぞれ同様とすることができる。
【0091】
図5に示すように、機械室Bに配置される制御装置200aは、通信機能部210と、記憶機能部220と、制御部230と、入力機能部240とを有する。
制御装置200aにおける、通信機能部210と、記憶機能部220と、入力機能部240とは、第1の実施形態に係る腹部運動測定装置100における、通信機能部120と、記憶機能部130と、入力機能部150と、それぞれ同様とすることができる。
また、制御装置200aにおける制御部230は、平滑化処理部141を有する。第1の実施形態に係る腹部運動測定装置100と同様に、制御部230における平滑化処理部141は、第2気圧測定部が測定した基準気圧の測定データを平滑化する処理を行う。
【0092】
ここで、
図3に戻り、腹部運動測定装置100aにおいては、MRI装置の操作を行う操作室Cに、入力装置104と、出力装置(提示部)105と、制御装置200bが配置される。また、入力装置104はバス111cにより制御装置200bと接続され、出力装置(提示部)105はバス111dにより制御装置200bと接続される。なお、バス111cにおける接続方式としては、例えば、SPI(Serial Peripheral Interface)を用いることができ、バス111dにおける接続方式としては、例えば、GPIO(General Purpose Input/Output)を用いることができる。
【0093】
操作室Cに配置される制御装置200bは、ネットワーク112により、機械室Bに配置される制御装置200aと接続される。なお、ネットワーク112における接続方式としては、例えば、イーサネット(登録商標;Ethernet)を介したSSH(Secure Shell)を用いることができる。
【0094】
ここで、
図6は、第2の実施形態における腹部運動測定装置の制御装置のハードウェア構成の他の一例を示すブロック図である。
図7は、第2の実施形態における腹部運動測定装置の制御装置の機能構成の他の一例を示すブロック図である。
図6に示すように、操作室Cに配置される制御装置200bは、CPU201と、主記憶装置202と、補助記憶装置203と、通信インターフェース204とを有する。これらは、バス206でそれぞれ接続されている。これらは、機械室Bに配置される制御装置200aと同様のものとすることができる。
【0095】
図7に示すように、操作室Cに配置される制御装置200bは、通信機能部210と、記憶機能部220と、制御部230とを有する。通信機能部210及び記憶機能部220は、機械室Bに配置される制御装置200aと同様のものとすることができる。
また、制御装置200bにおける制御部230は、腹部運動測定処理部142を有する。第1の実施形態に係る腹部運動測定装置100と同様に、制御部230における腹部運動測定処理部142は、袋状部材108の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者Tにおける腹部の運動を測定(算出)する処理を行う。
【0096】
このように、第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aにおいては、第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aでは、袋状部材108及び固定部材113が、非磁性体で形成されると共に、袋状部材108を装着した対象者Tを測定する測定室Aの外部に、第1気圧測定部107、第2気圧測定部110、及び制御部140(制御装置200a及び200b)を有する制御装置200a及び200bが位置する。
このため、第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aでは、測定室Aには、非磁性体で形成された部材のみが配置され、磁性体や導電体を有し得る第1気圧測定部107、第2気圧測定部110、及び制御部140(制御装置200a及び200b)は、機械室Bや操作室Cなどの操作室Aの外部に配置される。このため、MRI装置により、対象者における腹部の画像を撮像する際に、強磁性体や導電体を含むものなどの持ち込みや配置が制限される場合においては、第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aを好適に用いることができる。
【0097】
<<第3の実施形態>>
図8は、第3の実施形態における腹部運動測定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
第3の実施形態に係る腹部運動測定装置100bは、MRI装置により、対象者における腹部の画像を撮像する際に用いる場合の好適な形態の他の一例である。第3の実施形態に係る腹部運動測定装置100bでは、第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aとは異なり、
図8に示すように、MRI装置により対象者Tを検査する検査室(測定室)Aにも、出力装置(提示部)が配置されている。なお、以下では、第3の実施形態に係る腹部運動測定装置100bにおける、第2の実施形態に係る腹部運動測定装置100aと同様の部分については説明を省略することがある。
【0098】
第3の実施形態に係る腹部運動測定装置100bでは、出力装置(提示部)105aが測定室Aに配置されており、出力装置(提示部)105bが操作室Cに配置されている。出力装置105aは、ネットワーク112により、制御装置200a又は制御装置200bと接続される。
また、出力装置105aとしては、MRI装置により対象者を検査する検査室(測定室)に持ち込み可能なMRI検査室用のディスプレイを好適に用いることができる。
【0099】
第3の実施形態に係る腹部運動測定装置100bでは、対象者自身、及び当該対象者の腹部の画像を撮像するMRI装置の操作者に、当該対象者の腹部の運動の測定データを提示することにより、当該対象者における腹部の状態が、所定の状態となっているかどうかを、対象者自身とMRI装置の操作者の両方が認識することができる。このため、第3の実施形態に係る腹部運動測定装置100bでは、対象者が腹部の運動を止める(呼吸を止める)タイミングと、MRI装置の操作者が画像を撮像するタイミングを容易に合わせることができ、撮像する画像の精度をより高くすることができる。
【0100】
<処理の流れ>
図9は、本発明の腹部運動測定装置を用いて、対象者における腹部の運動を測定する際の流れの一例を示すフローチャートである。ここでは、本発明の腹部運動測定装置を用いて、対象者における腹部の運動を測定する際の流れを、
図9に示すフローチャートの図中Sで表すステップごとに説明する。
【0101】
まず、ステップS101では、送風機(ブロアー)を用いて、袋状部材の内部に空気を送り込み、袋状部材を膨らまして、第1気圧測定部が、袋状部材の内部の気圧を測定できるようにする。また、ステップS101においては、袋状部材が少し膨らむ程度に空気を送り込めばよい。より具体的には、ステップS101では、袋状部材における側面どうしが互いに接しない程度に、袋状部材に空気を送り込んで膨らませればよい。なお、ステップS101において、袋状部材に空気を送り込んで膨らませる際には、袋状部材に接続されたチューブ(チューブ継ぎ手)を介して空気を送り込んでもよい。
また、ステップS101では、膨らませた袋状部材とチューブを介して気密に接続された収容部材(容器)の内部に第1気圧測定部を配置して、第1威圧測定部が、袋状部材の内部の気圧を測定できるようにする。
【0102】
続いて、ステップS102では、伸縮可能な伸縮部を備える固定部材を用いて、腹部の運動を測定する対象者の腹部に、袋状部材を固定して装着する。言い換えると、ステップS102においては、固定部材を用いて、対象者の腹部の運動に応じて袋状部材に加わる圧力が変化するように、袋状部材を当該対象者の腹部に固定して装着する。
次に、ステップS103では、第1気圧測定部により、袋状部材の内部の気圧を測定し、第2気圧測定部により基準気圧を測定する。つまり、ステップS103においては、第1気圧測定部により袋状部材の内部の気圧の測定データを取得し、第2気圧測定部により基準気圧としての大気圧の測定データを取得する。
【0103】
そして、ステップS104では、制御部により、平滑化処理と腹部運動測定処理をリアルタイムに実行することにより、対象者の腹部の運動を測定(算出)する。言い換えると、ステップS104では、第2気圧測定部が取得した基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理、及び、第1気圧測定部が取得した袋状部材の内部の気圧の測定データと、平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定処理をリアルタイムに実行する。
次いで、ステップS105では、腹部運動測定処理により測定した対象者の腹部の運動の測定データを、リアルタイムに提示部に出力する。また、ステップS105において、例えば、提示部としては、ディスプレイを有する装置を用いることができる。なお、ステップS105では、提示部により、腹部運動測定装置の操作者に、対象者の腹部の運動の測定データを提示する。
続いて、ステップS106では、対象者における腹部の運動の測定を継続する場合は処理をステップS103に戻し、対象者における腹部の運動の測定を終了する場合は処理を終了する。
【0104】
なお、ここでは、
図9に示すフローチャートに従って特定の順番で工程を行うことについて説明したが、本発明は、
図9に示すフローチャートの順に工程を行うことに限られるものではなく、技術的に矛盾を生じない範囲で適宜順番を変更してもよいし、複数の工程を同時に行ってもよい。
【0105】
図10は、本発明の腹部運動測定装置を用いて、対象者における腹部の運動を測定した上で、MRIにより当該対象者の腹部の画像を撮像する際の流れの一例を示すフローチャートである。なお、
図10に示すフローチャートの例において、S201からS204は、
図9に示したフローチャートの例におけるS101からS104と同様の処理とすることができるため、説明を省略する。
【0106】
ステップS205では、腹部運動測定処理により測定した対象者の腹部の運動の測定データを、リアルタイムに提示部に出力し、対象者自身及びMRI装置の操作者に当該測定データを提示する。言い換えると、ステップS205においては、提示部は、対象者自身、及び当該MRI装置の操作者に、当該対象者の腹部の運動の測定データをリアルタイムに提示する。
次に、ステップS206では、対象者が、提示部に表示された自身における腹部の運動の測定データを参照しながら、腹部が所定の状態となるように呼吸(腹部の運動)を止め、腹部を所定の状態で維持する。言い換えると、ステップS206においては、提示部を用いて、対象者に自身の腹部の運動の情報をフィードバックして、当該対象者が、フィードバックされた情報を参照しながら、腹部の運動を所定の状態にコントロールできるようにする。
【0107】
続いて、ステップS207では、MRI装置の操作者が、提示部に表示された対象者における腹部の運動の測定データを参照しながら、当該対象者の腹部が所定の状態であると判断したときに、当該対象者の腹部の画像(断面画像)を撮像する。言い換えると、ステップS207においては、MRI装置の操作者は、対象者の腹部が、MRIによる画像の撮像に適した(所定の位置を維持している)状態であるときに、当該対象者の腹部の画像を撮像する。なお、ステップ206において対象者に測定データを表示する提示部(例えば、ディスプレイ)と、ステップ207においてMRI装置の操作者に測定データを表示する提示部は、別々に配置されていてもよい。
そして、ステップS208では、対象者における腹部の画像の撮像を継続する場合は処理をステップS203に戻し、対象者における腹部の画像の撮像が全て終了した場合は処理を終了する。
【0108】
図10に示したフローチャートの例においては、対象者が腹部の運動を止める(呼吸を止める)タイミングと、MRI装置の操作者が画像を撮像するタイミングを容易に合わせることができ、撮像する画像の精度をより高くすることができる。
【実施例】
【0109】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例により限定されるものではない。
【0110】
<測定例1(基準気圧の変動の確認)>
まず、基準気圧の変動の程度の確認のために、袋状部材の内部の気圧と基準気圧との測定を行った。
図3に示したような腹部運動測定装置を用いて、袋状部材の内部の気圧と基準気圧としての大気圧を測定した。
袋状部材108としては、シリコーンや樹脂で形成されたチューブ継ぎ手が接続され、内部に空気を入れない状態で縦84mm×横118mmのポリエチレンの小袋を用いた。袋状部材108に送風機(ブロアー)を用いて、袋状部材の内部に空気を送り込み膨らました。そして、チューブ継ぎ手に接続された軟質塩化ビニルのチューブにおける、当該チューブ継ぎ手と接続した側と反対側を、第1気圧測定部を収容可能な容器109に気密に接続した。
なお、測定例1においては、シリコーンや樹脂で形成されたチューブ継ぎ手を介して、袋状部材と軟質塩化ビニルのチューブを接続したが、本発明においては、例えば、チューブ継ぎ手を介さずに、袋状部材と軟質塩化ビニルのチューブを直接接続してもよい。
【0111】
容器109に、第1気圧測定部107としてのBME280(登録商標、ボッシュ株式会社製)を収容して気密な状態とした。また、第2気圧測定部110としては、第1気圧測定部107と同様に、BME280を用いた。
制御装置200aとしては、シングルボードコンピュータであるRaspberry Pi3 model B(登録商標、Raspberry Pi Foundation製)を用いた。また、制御装置200bとしては、シングルボードコンピュータであるRaspberry Pi3 model B+(登録商標、Raspberry Pi Foundation製)を用いた。また、制御装置200a及び200bには、OSとして、Raspbian Stretch(ver. November 2018)を用い、腹部運動測定装置100aを制御するためのプログラム(腹部運動測定用プログラム)として、Python 3.5.3を用いて開発したプログラムを実行可能に記録した。
【0112】
上記のようにして作製した腹部運動測定装置100bを用いて、袋状部材108の内部の気圧を第1気圧測定部107により測定し、基準気圧としての大気圧を第2気圧測定部110により測定した。なお、この例では、基準気圧の変動の程度の確認のために、袋状部材108を、対象者に装着せずに測定を行った。
【0113】
図11は、測定例1における、袋状部材の内部の気圧の測定データと、基準気圧の測定データと、袋状部材の内部の気圧の測定データの値から基準気圧の測定データの値を引いた値(差分)の一例を示すグラフである。
図11のグラフでは、袋状部材の内部の気圧の測定データP1と、基準気圧としての大気圧の測定データP2と、測定データP1と測定データP2との差分(P1-P2)を示している。また、
図11のグラフにおいて、縦軸は気圧(Pa)を表し、横軸は時間(分)を表す。なお、
図11のグラフは、測定を開始して30分から60分の間のデータを示している。
【0114】
図11における基準気圧としての大気圧の測定データP2に注目すると、測定を開始して30分の時点における値(破線を付した99.40kPa近傍の値)に対し、測定を開始して60分の時点では、
図11の矢印で示すように99.46kPa近傍まで大気圧の測定データP2が変動している。このように、大気圧は30分間で0.06kPa(0.6hPa)程度変動する場合があり、1時間の間には約1hPa程度の変動があるときがある。ここで、例えば、MRIによる検査には、通常、20分から40分程度の時間が必要となるため、MRIによる検査の間にも、0.05kPa(0.5hPa)程度は大気圧が変動する場合がある。
また、本発明者らの知見によると、袋状部材を対象者の腹部に装着したときに、呼吸による腹部の運動により生じる袋状部材の内部の気圧の変動は、1hPaから2hPa(100Paから200Pa)程度である。つまり、例えば、MRIによる検査の間には、呼吸による腹部の運動により生じる袋状部材の内部の気圧の変動の大きさに対して、1/2から1/4程度の大きさで基準気圧(大気圧)も変動する場合がある。言い換えると、例えば、MRIによる検査の間には、袋状部材の内部の気圧の測定データの基線(ベースライン)となる基準気圧が、呼吸による腹部の運動による気圧の変動の大きさに対して、1/2から1/4程度の大きさで変動する場合がある。
【0115】
本発明の腹部運動測定装置の一例においては、上述したように、例えば、袋状部材の内部の気圧の測定データP1の値と、基準気圧としての大気圧の測定データP2の値の差分(P1-P2)を、対象者の腹部の運動による袋状部材の内部の気圧の変動として取り扱う。つまり、本発明の腹部運動測定装置の一例では、対象者の腹部の運動の代替指標として、袋状部材の内部の気圧の測定データP1の値と、基準気圧としての大気圧の測定データP2の値の差分(P1-P2)を用いる。
このようにすることにより、対象者の腹部の運動を測定している際に、袋状部材の内部の気圧の測定データの基線(ベースライン)となる基準気圧の変動の影響を抑制して、当該対象者の腹部の運動による袋状部材の内部の気圧の変動を表すデータをより適切に取得することができ、対象者の腹部の運動をより正確に測定することができる。
図11に示したグラフでも確認できるように、測定データP1と測定データP2との差分(P1-P2)では、基準気圧としての大気圧の測定データP2の変動による影響が抑制され、略一定のデータを得ることができた。
【0116】
<測定例2(平滑化処理の効果の確認)>
続いて、上記の基準気圧の変動の確認に用いた装置と同様の腹部運動測定装置を使用して、平滑化処理の効果を確認するための検証を行った。
測定例2では、第2気圧測定部110を配置した、MRI装置に高圧のヘリウムガスを供給する圧縮機などが配置される機械室Bにおいて、気圧の測定中に扉を開閉して瞬間的な気圧変動を生じさせた。そして、測定例2においては、第2気圧測定部110が測定した基準気圧としての大気圧の測定データに平滑化処理を行い、平滑化処理の効果を確認するための検証を行った。
【0117】
図12は、測定例2における、袋状部材の内部の気圧の測定データと、基準気圧の測定データと、袋状部材の内部の気圧の測定データの値から平滑化処理前の基準気圧の測定データの値を引いた値(差分)と、袋状部材の内部の気圧の測定データの値から平滑化処理を行った基準気圧の測定データの値を引いた値(差分)の一例を示すグラフである。
図12のグラフでは、袋状部材の内部の気圧の測定データP3と、基準気圧としての大気圧の測定データP4と、測定データP3と平滑化処理前の測定データP4との差分「P3-P4(平滑化処理なし)」と、測定データP3と平滑化処理を行った測定データP4との差分「P3-P4(平滑化処理あり)」とを示している。また、
図12のグラフにおいて、縦軸は気圧(Pa)を表し、横軸は時間(分)を表す。なお、
図12のグラフは、測定を開始して5分から10分の間のデータを示している。
【0118】
図12における基準気圧としての大気圧の測定データP4に注目すると、測定を開始してから6分の少し前に機械室Bの扉を開放した(開けた)ときと、測定を開始してから9分ごろに機械室Bの扉を閉鎖した(閉じた)ときに、瞬間的な気圧変動が生じ、当該瞬間的な気圧変動が、スパイク状のノイズ(
図12において円で示した部分)として測定されていることがわかる。なお、扉を開放してから閉鎖するまでの間、扉は開放したままの状態とした。
【0119】
図12に示すように、測定データP3と平滑化処理前の測定データP4との差分「P3-P4(平滑化処理なし)」においては、大気圧の測定データP4におけるスパイク状のノイズが反映されており、「P3-P4(平滑化処理なし)」にも、スパイク状のノイズが含まれていることがわかる。
一方、測定データP3と平滑化処理を行った測定データP4との差分「P3-P4(平滑化処理あり)」においては、平滑化処理を行ったことにより、扉の開閉による瞬間的な気圧変動に起因したスパイク状のノイズの影響が抑制されており、第2気圧測定部110を配置した環境に依存するノイズを、基準気圧の測定データから除去することができていることがわかる。なお、測定例2では、平滑化処理には中央値フィルタを用いた。
【0120】
<実施例1>
上記の測定例1及び2で用いた腹部運動測定装置と同様のものを用いて、対象者における腹部の運動を測定した。
実施例1においては、固定部材として、合成ゴム及びレーヨンで形成されたゴムバンドと、ナイロンテープと、ポリエステル及びナイロンで形成された面ファスナーとを有するものを用いて、対象者に袋状部材を固定して装着した。
【0121】
図13は、実施例1において、固定部材を用いて袋状部材を対象者の腹部に固定して装着したときの様子の一例を撮影した写真である。
図13に示すように、例えば、袋状部材108としてのポリエステルで形成された略長方形状の小袋を、対象者の腹部に接するように配置し、ゴムバンド(伸縮部113aの一例)と、ナイロンテープ113bで形成されたバンド状の固定部材を用いて、当該固定部材のゴムバンドで形成される部分により当該小袋が外側から固定されるように、固定部材を対象者の腹部に巻くことによって、当該小袋を対象者の腹部に固定して装着することができる。
また、
図13に示す例では、シリコーンと樹脂で形成されたチューブ継ぎ手t1を介して、軟質塩化ビニルのチューブt2が袋状部材108としての小袋と接続されている。
【0122】
また、実施例1においては、制御装置200a及び200bに対し、出力装置としてのディスプレイ(SSD1306(登録商標)、HiLetgo社製)を接続し、入力装置(制御用スイッチ)として汎用トグルスイッチを接続した。また、出力装置としてのディスプレイには、対象者における腹部の運動の測定データについて、規格化された当該測定データをリアルタイムに表示できるようにした。
図14及び15は、実施例1において、腹部運動測定装置における、MRI装置に高圧のヘリウムガスを供給する圧縮機などが配置される機械室に配置する部分の一例を撮影した写真である。
図14及び15に示すように、機械室Bには、操作室Aに配置される袋状部材と容器を気密に接続するためのチューブt2と、容器の内部にディスプレイ(出力装置105の一例)や第2気圧測定部としての気圧センサなどの機器類が気密に収容されており、容器には制御用スイッチ(入力装置104の一例)が設けられている。
【0123】
図16は、実施例1において、腹部運動測定装置における、MRI装置に高圧のヘリウムガスを供給する圧縮機などが配置される機械室に配置する部分の一例を、外装ケースを開けた状態で撮影した写真である。
図16に示すように、実施例1においては、チューブt2と気密に接続された容器109の内部に、第1気圧測定部107としてのBME280(登録商標、ボッシュ株式会社製)が収容されている。
【0124】
実施例1では、MRIにより腹部の画像を撮像する場合を想定して、対象者に、複数回に分けて呼吸を止めてもらう(腹部の運動を止めてもらう)条件で、当該対象者における腹部の運動を測定した。つまり、実施例1においては、第1気圧測定部により対象者の腹部に装着した袋状部材の内部の圧力を測定し、第2気圧測定部により基準気圧としての大気圧を測定して、基準気圧に平滑化処理を行うと共に、袋状部材の内部の圧力の測定データと平滑化処理後の基準気圧の測定データとに基づいて、当該対象者の腹部の運動を測定した。なお、実施例1では、袋状部材の内部の圧力の測定データと、平滑化処理後の基準気圧の測定データとの差分により、当該対象者の腹部の運動を測定(算出)した。
【0125】
図17は、実施例1における、対象者における腹部の運動の測定データの一例を示すグラフである。なお、
図17のグラフにおいて、縦軸は正規化した波形の大きさを表し、横軸は測定データのインデックスを表す。なお、実施例1で用いた装置においては、20Hzで測定データを取得するため、横軸の測定データのインデックスを20で割った値が、測定を開始してからの経過時間(秒)に対応する。
実施例1では、
図17に示す「呼吸停止」の範囲(
図17における矢印で示した領域)で、対象者に合計3回呼吸を止めてもらった。
図17に示すように、実施例1では、3回の呼吸停止の様子が、明確にグラフから判断できる。このように、本発明の腹部運動測定装置では、対象者の腹部の運動を正確に測定でき、当該対象者が腹部の運動を止めているかどうかを外部の観察者が判別できる。
さらに、
図17に示すように、3回の呼吸停止の間の測定データには、わずかな振動が含まれている。呼吸停止に測定されたわずかな振動は、対象者が呼吸を止めている際における、対象者の腹部大動脈の拍動が腹壁を介して袋状部材に伝わることで測定されたものである。このように、実施例1で使用した腹部運動測定装置は、腹部大動脈の拍動による腹部の小さな運動も正確に測定できることがわかった。
【0126】
<実施例2>
実施例2では、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の装置との対照試験を行い、本発明の腹部運動測定装置の測定の精度について検証した。
実施例2においては、上記の実施例1で使用した腹部運動測定装置と同様の装置と、従来技術の装置としての、上記の特許文献2の技術を利用した装置である「Abches(登録商標、エイペックスメディカル株式会社製)」との測定データを比較した。
【0127】
ここで、上記の特許文献2の技術を利用した装置である「Abches(登録商標、エイペックスメディカル株式会社製)」は、呼吸停止下での放射線治療の際に用いられる装置であり、比較的大型の装置であり、MRIでの検査には用いることができないものであるものの、腹部の運動についての測定精度は高いことが知られている装置である。
実施例2では、非MRI環境下(測定室の外部)において、本発明の腹部運動測定装置の一例における袋状部材、及びAbchesの測定部分を、被検者(一人)の腹部に装着した。袋状部材及びAbchesの測定部分の装着箇所は、いずれも被検者の上腹部とし、それぞれの装置が干渉しないように、わずかに離して被検者に装着した。つまり、実施例2においては、本発明の腹部運動測定装置の一例とAbchesによる測定を同時に行った。
【0128】
実施例2においては、安静時呼吸、過呼吸、低呼吸、多呼吸、徐呼吸のそれぞれの状態について、被検者における腹部の運動の測定データ(波形)を記録した。
また、実施例2での解析に際し、本発明の腹部運動測定装置の一例では測定データが30Hzで記録され、Abchesでは測定データは30Hzで記録されるため、これらの測定データを比較可能とする目的でリサンプリングを行った。なお、各測定データ(波形)の正規化には最大値と最小値を用いた。
【0129】
実施例2では、測定した測定データ(波形)を重ねて表示し、視覚評価により波形の一致を評価した。
図18は、実施例2における、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の一例であるAbches(登録商標)とを用いて測定した、対象者における腹部の運動の測定データの一例を示すグラフである。なお、
図18のグラフにおいて、縦軸は正規化した波形の大きさを表し、横軸は測定データのインデックスを表す。なお、実施例2で用いた装置においては、実施例1と同様に、20Hzで測定データを取得するため、横軸の測定データのインデックスを20で割った値が、測定を開始してからの経過時間(秒)に対応する。
【0130】
図18に示すように、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の一例であるAbchesとにおいては、応答の特性に若干の違いがみられるものの、測定データ(波形)から得られる腹部の運動の位相(呼吸位相)は、よく一致していた。また、
図18に示すように、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の一例であるAbchesとにおいては、腹部の運動に対する応答性についても、よく一致していた。なお、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の一例であるAbchesとにおいては、応答の特性に若干の違いとして、被検者が深く息を吐いたときに、本発明の腹部運動測定装置の一例の方が、波形が低くなる傾向があることがわかった。
【0131】
続いて、本発明の腹部運動測定装置の一例とAbchesとの間の測定データについて、当該測定データの相関を相関係数で評価した。相関係数の評価は、強い相関(r=0.7~1)、中等度相関(r=0.4~0.7)、弱い相関(r=0.2~0.4)、相関なし(r=0~0.2)の4段階で評価した。なお、これらの解析には、Python 3.6.8(Python Software Foundation)を用いた。
【0132】
図19は、実施例2における、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の一例であるAbches(登録商標)とを用いて測定した、対象者における腹部の運動の測定データをプロットした相関図(散布図)の一例である。
図19に示すように、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の一例であるAbchesにおける測定データには、強い正の相関がみられた。また、本発明の腹部運動測定装置の一例と、従来技術の一例であるAbchesにおける測定データの相関係数を計算したところ、相関係数は0.96となり、強い相関があることが確認できた。
なお、
図19に示した散布図は、
図18に示した測定データの全てをプロットしたものであり、特に、測定データの値が小さい領域においては、測定データを示すプロットが密集しており、値が小さい測定データが多いことがわかる。
図19からわかるように、測定データの値が小さい領域においては、プロットのばらつきが特に小さく、本発明の腹部運動測定装置の一例の測定データ、従来技術の一例であるAbchesの測定データとの相関が特に高いことがわかる。したがって、相関が高く、値が小さい領域の測定データが大半を占めることから、相関係数が0.96という高い値になったと考えられる。
【0133】
図18及び19に示す結果から、本発明の腹部運動測定装置は、腹部の運動についての測定精度が高いことが知られている従来技術よりも、対象者に装着する部材を小型化できると共に、当該従来技術と同様に、当該対象者の腹部の運動を正確に測定でき、当該対象者が腹部の運動を止めているかどうかを外部の観察者が判別できることがわかった。
【0134】
以上、説明したように、本発明の腹部運動測定装置は、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定装置であって、対象者の腹部に装着される袋状部材と、袋状部材の内部の気圧を測定する第1気圧測定部と、袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定部と、基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理、及び、袋状部材の内部の気圧の測定データと平滑化処理を行った基準気圧の測定データとに基づいて、対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定処理を行う制御部と、を有する。
これにより、本発明の腹部運動測定装置は、対象者の腹部の運動を外部の観察者が容易に判別できる。
【0135】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定装置であって、
前記対象者の前記腹部に装着される袋状部材と、
前記袋状部材の内部の気圧を測定する第1気圧測定部と、
前記袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定部と、
前記基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理、及び、前記袋状部材の内部の気圧の測定データと前記平滑化処理を行った前記基準気圧の測定データとに基づいて、前記対象者における前記腹部の運動を測定する腹部運動測定処理を行う制御部と、
を有することを特徴とする腹部運動測定装置である。
<2> 帯状の固定部材を更に有し、
前記固定部材により、前記対象者の前記腹部に前記袋状部材を装着する、前記<1>に記載の腹部運動測定装置である。
<3> 前記袋状部材及び前記固定部材が非磁性体で形成される、前記<2>に記載の腹部運動測定装置である。
<4> 前記第1気圧測定部が、前記袋状部材と気密に接続された容器内に位置する、前記<1>から<3>のいずれかに記載の腹部運動測定装置である。
<5> 前記腹部運動測定処理において、前記袋状部材の内部の気圧の測定データと、前記平滑化処理を行った前記基準気圧の測定データとの差分に基づいて、前記対象者における前記腹部の運動を測定する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の腹部運動測定装置である。
<6> 前記腹部運動測定処理により測定した、前記対象者における前記腹部の運動の測定データを提示可能な提示部を更に有する、前記<1>から<5>のいずれかに記載の腹部運動測定装置である。
<7> 前記提示部が、前記対象者における前記腹部の運動の測定データを前記対象者自身に提示する、前記<6>に記載の腹部運動測定装置である。
<8> 前記第1気圧測定部、前記第2気圧測定部、及び前記制御部が、前記袋状部材を装着した前記対象者を測定する測定室の外部に位置する、前記<1>から<7>のいずれかに記載の腹部運動測定装置である。
<9> 磁気共鳴画像撮像装置により、前記対象者における前記腹部の画像を撮像する際に用いられる、前記<1>から<8>のいずれかに記載の腹部運動測定装置である。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の腹部運動測定装置を用いて、前記対象者における前記腹部の運動を測定し、
測定した前記腹部の運動の測定データを用いて、前記対象者における前記腹部が所定の状態であるときに、前記対象者における前記腹部の画像を、磁気共鳴画像撮像装置により撮像することを特徴とする磁気共鳴画像撮像方法である。
<11> 対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定方法であって、
前記対象者における前記腹部に装着された袋状部材における内部の気圧を測定する第1気圧測定工程と、
前記袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定工程と、
前記基準気圧の測定データを平滑化する平滑化工程と、
前記袋状部材の内部の気圧の測定データと前記平滑化工程を行った前記基準気圧の測定データとに基づいて、前記対象者における前記腹部の運動を測定する腹部運動測定工程と、
を含むことを特徴とする腹部運動測定方法である。
<12> 対象者における腹部の運動を測定する腹部運動測定用プログラムであって、
前記対象者における前記腹部に装着された袋状部材における内部の気圧を測定する第1気圧測定処理と、
前記袋状部材の内部の気圧に対する基準となる基準気圧を測定する第2気圧測定処理と、
前記基準気圧の測定データを平滑化する平滑化処理と、
前記袋状部材の内部の気圧の測定データと前記平滑化処理を行った前記基準気圧の測定データとに基づいて、前記対象者における前記腹部の運動を測定する腹部運動測定処理と、
をコンピュータに実行させること特徴とする腹部運動測定用プログラムである。
【0136】
前記<1>から<9>のいずれかに記載の腹部運動測定装置、前記<10>に記載の磁気共鳴画像撮像方法、前記<11>に記載の腹部運動測定方法、及び前記<12>に記載の腹部運動測定用プログラムによると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0137】
100 腹部運動測定装置(第1の実施形態)
100a 腹部運動測定装置(第2の実施形態)
100b 腹部運動測定装置(第3の実施形態)
105 出力装置(提示部)
107 第1気圧測定部
108 袋状部材
109 容器
110 第2気圧測定部
140 制御部
141 平滑化処理部
142 腹部運動測定処理部