(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】尿中Aβアミロイドを検出するためのテストストリップ及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20231116BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231116BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231116BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231116BHJP
G01N 33/553 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 521
C12N15/13
C07K16/18
G01N33/553
(21)【出願番号】P 2021578222
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 CN2019111303
(87)【国際公開番号】W WO2021072651
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】522000946
【氏名又は名称】湖南乾康科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】戴 正乾
(72)【発明者】
【氏名】顧 栢俊
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第208367017(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第108169492(CN,A)
【文献】国際公開第2011/057475(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0001732(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0040192(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12N 15/13
C07K 16/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVCベースシート(7)を備えた尿中Aβアミロイドを検出するためのテストストリップであって、前記PVCベースシート(7)上に順次接しているサンプルパッド(1)、コンジュゲートパッド(2)、クロマトグラフィー検出パッド(3)及び吸水パッド(4)が敷かれ、前記コンジュゲートパッド(2)上にモノクローナル抗体とコンジュゲートした金コロイド粒子を塗布し、前記クロマトグラフィー検出パッド(3)上の前記コンジュゲートパッド(2)に近い側に検出ライン(5)が設けられ、前記吸水パッド(4)に近い側にコントロールライン(6)が設けられ、前記検出ライン(5)上にAβアミロイド結合ポリマーを塗布し、前記コントロールライン(6)上にヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体を塗布する構成において、
前記Aβアミロイド結合ポリマーは、
グルタミン酸、リジン、アラニン、チロシンからランダムに合成されたペプチド鎖を含み、分子が4~52kDの範囲であり、
前記モノクローナル抗体は、マウスハイブリドーマ細胞株から調製されたマウス抗Aβモノクローナル抗体であり、又はモノクローナル抗体1E8、モノクローナル抗体4G8、モノクローナル抗体W0-2、モノクローナル抗体6E10のうち少なくとも1種であり、
前記サンプルパッド(1)上に電気泳動用緩衝液を塗布し、塗布量は、10~16μL/cmの範囲であり、前記コンジュゲートパッド(2)上のモノクローナル抗体とコンジュゲートした金コロイド粒子の塗布量が6~9μL/cmの範囲であり、前記検出ライン(5)上には、前記Aβアミロイド結合ポリマーの濃度が2mg/mLとなるリン酸緩衝生理食塩水の溶液であって、その塗布量が1.5~2.5μL/cmの範囲で塗布され、前記コントロールライン(6)上には、前記ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体の濃度が200μg/mLとなるリン酸緩衝生理食塩水の溶液であって、その塗布量が1.5~2.5μL/cmの範囲で塗布される
ことを特徴とするテストストリップ。
【請求項2】
尿中Aβアミロイドを検出する方法であって、粒子径が20~50nmの範囲のモノクローナル抗体とコンジュゲートした金コロイド粒子で尿中Aβアミロイドを捕捉し、金コロイド粒子とAβアミロイドの複合体が形成され、次にAβアミロイド結合ポリマーで前記金コロイド粒子とAβアミロイドの複合体を検出し;ここで前記モノクローナル抗体は、抗Aβモノクローナル抗体で、前記Aβアミロイド結合ポリマーがグルタミン酸、リジン、アラニン、チロシンからランダムに合成されたペプチド鎖を含み、前記ペプチド鎖の分子量は、4~52kDの範囲であり、
前記抗Aβモノクローナル抗体は、マウスハイブリドーマ細胞株から調製されたマウス抗Aβモノクローナル抗体であり、又はモノクローナル抗体1E8、モノクローナル抗体4G8、モノクローナル抗体W0-2、モノクローナル抗体6E10のうち少なくとも1種であり、
サンプルパッド(1)上に電気泳動用緩衝液を塗布し、塗布量は、10~16μL/cmの範囲であり、
コンジュゲートパッド(2)上のモノクローナル抗体とコンジュゲートした金コロイド粒子の塗布量が6~9μL/cmの範囲であり、
検出ライン(5)上には、前記Aβアミロイド結合ポリマーの濃度が2mg/mLとなるリン酸緩衝生理食塩水の溶液であって、その塗布量が1.5~2.5μL/cmの範囲で塗布され、
コントロールライン(6)上には、
ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体の濃度が200μg/mLとなるリン酸緩衝生理食塩水の溶液であって、その塗布量が1.5~2.5μL/cmの範囲で塗布される
ことを特徴とする尿中Aβアミロイドを検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿中Aβアミロイドを検出するためのテストストリップ及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、最も一般的な種類の認知症であり、世界中で2600万人以上の人々が認知症を抱えて暮らしている。私たちと他の研究者は、認知機能が正常な高齢者の大部分(30%)の脳内のPETリガンドの保持率が高く、脳脊髄液(CSF)中に低いレベルのAβ1-42を示すことが発見されたことで、これらの人々も現在、前臨床期アルツハイマー病と診断されている。軽度認知障害(MCI)は、ADの前駆段階と見なされ、MCI基準を満たす患者の40~60%が、最終的に臨床ADに進展し、毎年約5~25%を占める。散発性ADの主な原因は、Aβの蓄積及びAβクリアランスの失敗である。現在この研究分野は、脳内のAβの代謝の不均衡が神経変性及びAD患者の認知機能低下の根本的な原因であるということを「アミロイドカスケード仮説」として広く支持されている。多くの動物及び遺伝学的研究では、単球/マクロファージ/ミクログリアの先天性貪食作用がAβのクリアランスの促進及び老人斑の形成を予防することにより、ADの進行を遅らせる可能性があることを示している。
【0003】
脳、特に海馬の体積の減少(核磁気共鳴画像法(MRI)を通じて)を検出する手段、脳機能の変化(機能的核磁気共鳴画像法を使用)を検出する手段及び脳脊髄液(CSF)中のAβ1-40、Aβ1-42とtauの濃度変化を検出する手段を含むバイオマーカーは、アルツハイマー病の早期診断のための有効な手段として有望である。ただし後者の手段は、侵襲的で、患者のコンプライアンスが非常に低いものとなっている。もう1つの有望な方法は、陽電子放射断層撮影法(PET)3である。ニューロイメージング(MRI、PET、CT)は、高価で、臨床使用に利用できる施設の数が集団スクリーニングの需要量を満たすことができていない。血漿中のAβ1-42/Aβ1-40の比は、潜在的に高リスクのMCI又はAD患者を識別する有効なバイオマーカーとして使用できることが研究によって示されているが、この検出も特別な機器が必要で、集団に対する全面的なスクリーニング検査に適していない。このためより実用的で、感度が高く、特異的な新規ADバイオマーカーが緊急的に必要とされる。
【0004】
ADは、脳の障害や損傷だけでなく、全身の系統的疾患である。尿中には、血漿中の可溶性Aβがろ過さて体外に排出されることができることを見出し、脳内のAβ循環の変化を反映できる可能性がある。ヒトの尿中Aβ濃度の最低値がELISA法の検出限界よりも低いため、現在、尿中AβをターゲットとしたMCI又はADの診断のための臨床ルーチン診断手順はない。ターゲット抗原は、小さすぎて4.3kDのみで、他のタンパク質と非特異的に結合しやすいため、慣用の「二重抗体サンドイッチ法」や「競合法」では高感度及び特異性を実現することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術における上述の問題点の克服を意図しており、尿中Aβアミロイドを検出するためのテストストリップ及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明によって提供される技術的手段として、
尿中Aβアミロイドを検出するためのテストストリップは、PVCベースシート(7)を備え、前記PVCベースシート(7)上に順次接しているサンプルパッド(1)、コンジュゲートパッド(2)、クロマトグラフィー検出パッド(3)及び吸水パッド(4)が敷かれ、前記コンジュゲートパッド(2)上にモノクローナル抗体とコンジュゲートした金コロイド粒子を塗布し、前記クロマトグラフィー検出パッド(3)上のコンジュゲートパッド(2)に近い側に検出ライン(5)が設けられ、吸水パッド(4)に近い側にコントロールライン(6)が設けられ、前記検出ライン(5)上にAβアミロイド結合ポリマーを塗布し、前記コントロールライン(6)上にヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体を塗布する。
【0007】
好ましくは、Aβアミロイド結合ポリマーは、グルタミン酸、リジン、アラニン、チロシンからランダムに合成されたペプチド鎖を含み、分子量が4~52kDの範囲である。
【0008】
好ましくは、前記抗Aβモノクローナル抗体は、マウスハイブリドーマ細胞株から調製されたマウス抗Aβモノクローナル抗体であり、又はモノクローナル抗体1E8、モノクローナル抗体4G8、モノクローナル抗体W0-2、モノクローナル抗体6E10のうち少なくとも1種である。
【0009】
好ましくは、前記サンプルパッド(1)上に電気泳動用緩衝液を塗布し、塗布量は、10~16μL/cmの範囲であり、前記コンジュゲートパッド(2)上のモノクローナル抗体とコンジュゲートした金コロイド粒子の塗布量が6~9μL/cmの範囲であり、前記検出ライン(5)上には、前記Aβアミロイド結合ポリマーの濃度が2mg/mLとなるリン酸緩衝生理食塩水の溶液であって、その塗布量が1.5~2.5μL/cmの範囲で塗布され、前記コントロールライン(6)上には、前記ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体の濃度が200μg/mLとなるリン酸緩衝生理食塩水の溶液であって、その塗布量が1.5~2.5μL/cmの範囲で塗布される。
【0010】
尿中Aβアミロイドを検出する方法は、粒子径が20~50nmの範囲のモノクローナル抗体とコンジュゲートした金コロイド粒子で尿中Aβアミロイドを捕捉し、金コロイド粒子とAβアミロイドの複合体が形成され、次にAβアミロイド結合ポリマーで金コロイド粒子とAβアミロイドの複合体を検出し;ここで前記モノクローナル抗体は、抗Aβモノクローナル抗体で、前記Aβアミロイド結合ポリマーがグルタミン酸、リジン、アラニン、チロシンからランダムに合成されたペプチド鎖を含む。
【0011】
好ましくは、前記ペプチド鎖の分子量は、4~52kDの範囲である。
【0012】
好ましくは、前記抗Aβモノクローナル抗体は、マウスハイブリドーマ細胞株から調製されたマウス抗Aβモノクローナル抗体であり、又はモノクローナル抗体1E8、モノクローナル抗体4G8、モノクローナル抗体W0-2、モノクローナル抗体6E10のうち少なくとも1種である。
【0013】
前記Aβアミロイド結合ポリマーは、Aβアミロイド検出試薬、MCI診断試薬及びAD診断試薬の調製に使用させることができる。
【0014】
本発明を以下にさらに説明する。
本発明は、粒子径が20~40nmの範囲のモノクローナル抗体とコンジュゲートした金コロイド粒子で尿中Aβアミロイドを捕捉し、金コロイド粒子とAβアミロイドの複合体を形成する。貪食作用促進ペプチド群(Aβアミロイド結合ポリマー、PPPと命名する)があり、特定のポリマーと少数の15モノマーペプチドを含むことが分かり、この群はAβ1-42に対し高親和性に富んでいることを見出した。ポリマーの1つは、グルタミン酸、リジン、アラニン及びチロシンからランダムに合成されたペプチド鎖を含み、分子量が4~52kD(平均6.5kD)の範囲である。新たに溶解したAβ1-42と古いAβ1-42の平衡解離定数KDは、それぞれ6.6と25.4nMである。このポリマーは、Aβ1-42の検出に非常に有望で、ヒトAβのクリアランスを促進することもできる。よって、Aβアミロイド結合ポリマーで、金コロイド粒子とAβアミロイドの複合体を検出し、感度が高く、検出限界が40ピコグラム(pg)である。免疫クロマトグラフィー反応全体が横流クロマトグラフィーテストストリップシステムに統合されることで、迅速で経済的になり、ルーチン臨床病理検査に適し、集団に対する全面的なスクリーニング検査や家庭内のエンドユーザーの自己スクリーニング検査に適し、特に、軽度認知障害(MCI)の早期診断と事前判断を臨床的に支援し、患者がMCI及びADに進展する高いリスクがあるかどうかを予測するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】尿中Aβアミロイドを検出するためのテストストリップ概略構成図である。
【
図2】PPPは、Aβ
1-42に直接結合し、高親和性があることを示す図(p:HiLyte Fluor488標識Aβ
1-42(80nMを最終濃度としてPBSに添加する)の1:1(体積)でPPPを段階的に希釈して混合した。95%のLED及び40%の赤外線レーザー出力を使用してNT.115システムの標準処理キャピラリー内で測定した。)である。
【
図3】Aβ
1-42とPPPの相互作用を示す図(A:Aβの2次構造(0.2mg/mL,44μM)は円二色性スペクトル(CD)の助けを介して決定され;B:PPP(44μM)の2次構造である。C:ジャンプ状態のAβとPPPの構造を決定し;コンピュータープログラムCDSSTR及びSreeramaらが作成した参考データセット3を運用して2次構コンポーネントを分析した。)
【
図4】PPPとAβ42との緊密結合を示す図(Aβ42(それぞれ10μg,2.2nmol)は、異なる量のPPP0、0.22、1.1、2.2、6.6、15.4nmol(カラム1~6)又は血清セット2.2nmol(カラム7)と混合された。混合物(各サンプル30μL)を50μM DTTで希釈し、90℃にて5分間加熱し、SDS-PAGE(4~12% NuPageゲル、MES緩衝液、100Vで50分間)を加え;タンパク質を転写し、抗-Aβモノクローナル抗体(クローンW0-2)で検出し;A:ウェスタンブロッティング画像は、Aβ染色を示し、各半定量4.5KDのAβ42モノマーは底条を示し;B:タンパク質がニトロセルロース膜に転写された後Ponceau S染色を行い、大量のPPP及びウシ血清アルブミン(BSA)が赤く染色され、Seeblue+2標準で事前に染色してタンパク質サイズを推定した。)である。
【
図5】純水で調製し、100μLの合成Aβ42を異なる濃度で添加して最終濃度を0~5ng/mLにしたAβテストストリップの試験結果(左図);尿で調製した同じ100μLの合成Aβ42テストストリップの試験結果(右図)である。
【
図6】本発明のAβテストストリップで健康な子供の尿サンプルを収集してテストし、各テストストリップに100μLの尿サンプルを滴下した様子である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2乃至
図7は、本発明の実施例における結果図である。
【0017】
1、抗Aβモノクローナル抗体の生産と精製
艾比瑪特医薬科技有限公司(Ab-Mart Pty Ltd)が生産している商用マウスハイブリドーマ細胞株(BGM02)を購入して、マウス抗Aβモノクローナル抗体を生産し、その他の商用可能なモノクローナル抗体クローンは、1E8、4G8、W0-2、6E10などを含んで単独又は混合して使用することもできる。ガス透過性の疎水性細胞培養フラスコを使用して、ハイブリドーマ細胞を45℃で解凍し、1%グルタミン、1%ストレプトマイシン/ペニシリン、20%ウシ胎児血清(FBS)をハイブリドーマ細胞無血清培地に添加した(%はハイブリドーマ細胞の無血清培地中の成分の質量%を意味する)。
【0018】
培地が黄色くなると、細胞を継代し、細胞の継代における血清の割合は、20%、10%、5%、2%から無血清培地(0%)に低減し、細胞が生き残ることができた。この過程には、通常1ヶ月かかる。血清が消費されるまで上清を吸引除去しなかった。
【0019】
バイオリアクターにおいて培地に接種する時、細胞を遠心分離して沈降させると共に注ぎ、凝集させ、注射器に集めた後、培地に接種した。ハイブリドーマ細胞をバイオリアクター内の無血清培地で培養させ、10~15日後に細胞培養上清を吸引除去した。
【0020】
樹脂と結合した組換えプロテインAでアフィニティークロマトグラフィーを介して抗体を精製した。
【0021】
ハイブリドーマ細胞培養上清を1N NaOH又は1N HClでpH7.5に調整した。回転数3600rpm/分間のベンチトップ遠心分離機で20分遠心分離し、又は回転数7500r/minの高速遠心分離機で10分遠心分離(推奨)して、全ての細胞破片を除去し、沈殿物を析出させた。
【0022】
上清を組換えプロテインAハイフローカラムに入れ、0.22μmプレフィルター又はガラス繊維メンブレン付きプレフィルターを使用できた。落地速度を2mL/分未満に保ち、カラム体を少なくとも50mlのPBS緩衝液で洗浄した。
【0023】
50mLの40mMクエン酸三ナトリウム(pH3.0)で溶出(1mL/minの速度)し、フラクションコレクターで溶出液を収集し、Na2HPO3緩衝液(0.5M、pH9.5)ですべての収集液体を直ちに中和した。溶出後すぐにカラムを洗い流した。抗体を入れた遠心分離管を一緒に集め、A280/A260吸光度分光光度計又はタンパク質検出キットで濃度を測定した。抗体を分注し、-80℃で保存した。
【0024】
2、30nmの金コロイド粒子の調製
0.01% HAuCl4溶液200mLを取り、ゆっくりとかき混ぜて沸騰させる。2分間沸騰させ続け、高速撹拌に切り替え、直ちに1%クエン酸三ナトリウム2.0mLを加える。溶液が赤色/紫色になるまで沸騰させ続け、次に5分間沸騰させ続ける。電子顕微鏡で検査したところ、予想される粒子サイズが30nmである。サイズは、1%のクエン酸三ナトリウムの体積で調整でき、8.0、6.0、4.0、又は1.5mLの体積で、それぞれ10、15、20、50nmのサイズの粒子を生成した。
【0025】
室温まで冷却し0.1M K2CO3でpHを7.2に調整した。ブレーキをかけずに回転数10000gで30分間遠心分離し、約20mLが残るまで上清を取り除き、4℃で保存した。
【0026】
3、金コロイド粒子とモノクローナル抗体の共役カップリング
100μLの5mMホウ酸緩衝液(pH9.0)を試験管1~10に追加し、100μLの抗体溶液を試験管1に添加し、よく混合し、試験管9まで順番に希釈し、100μLのホウ酸緩衝液を試験管10のみ添加する。各試験管に100μLの金コロイド溶液(0.1M K2CO3でpH9.0に調整する)を添加し、よく混合して10分間インキュベートし、10μLの10%塩化ナトリウムを添加し、よく混合し、60~120分間静置する。タンパク質含有量が十分な場合、色は変化せず、タンパク質含有量が足りない場合、試験管10の色が紺青に変わる。この方法を使用することで20mLの金コロイド粒子に必要なタンパク質の最小量(Xmin)を見つけることができた。
【0027】
金コロイド粒子溶液(0.1M K2CO3でpH9.0に調整)に、Xminの質量に対して10%の量の抗体(5mMホウ酸緩衝液でpH9.0)を追加し、室温で15分間シェーカーに置く。
【0028】
標識された金コロイド50μLに10% 5μLを加えて、飽和度を確認し、30分間静置する。金コロイドが青色に変化せず、金を析出した場合、飽和して標識されたことを示した。
【0029】
1%ポリエチレングリコールPEG(20kDで、1%クエン酸三ナトリウム又は0.1M K2CO3でpH7.2に調整)を加えて、最終濃度を0.1%にした。
【0030】
260gで20分間低速で遠心分離し、上清を保存して不純物(小粒子)を除去した。
【0031】
ブレーキをかけずに10000gで30分間高速で遠心分離し、0.2% PEGを4mMリン酸塩/クエン酸塩緩衝液(pH6.8)に10mlまで加え、粒子を再懸濁して4℃で保存した。使用前に10%ショ糖を加えた。
【0032】
4、横流クロマトグラフィーテストストリップの組み立て
図1を参照すると、
図1を参照すると、尿中Aβアミロイドを検出するためのテストストリップは、PVCベースシート7を備え、前記PVCベースシート7上に順次接しているサンプルパッド1、コンジュゲートパッド2、クロマトグラフィー検出パッド3及び吸水パッド4が敷かれ、前記コンジュゲートパッド2上にモノクローナル抗体とコンジュゲートした金コロイド粒子を塗布し、前記クロマトグラフィー検出パッド3上のコンジュゲートパッド2に近い側に検出ライン5が設けられ、吸水パッド4に近い側にコントロールライン6が設けられ、前記検出ライン5上にAβアミロイド結合ポリマーを塗布し、前記コントロールライン6上にヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体を塗布する。
【0033】
具体的な組み立てプロセスは、次の通りである。すなわち、
サンプルパッド及びコンジュゲートパッドをブロッキングバッファー(20mM四ホウ酸ナトリウム、pH8.0、2%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.05% NaN3)に4℃で3時間又は一晩浸した。パッドを蒸留水(又は超純水)で室温にて15分間1回洗浄した後、37℃で乾燥させた。
【0034】
サンプルパッドを幅15mmのストリップにカットし、電気泳動用緩衝液(20mM四ホウ酸ナトリウム、pH8.0、8% BSA、0.05% Tween-20、0.05% NaN3)をスプレーし、塗布量は、10μL/cmである。
【0035】
コンジュゲートパッドを幅10mmのストリップにカットする。標識された金コロイドをコンジュゲートパッドにスプレーし、塗布量は、1cmあたり6~9μLである。
【0036】
クロマトグラフィー検出パッド(ニトロセルロースメンブレン)に検出ライン及びコントロールラインを8mm間隔で引く。検出ラインは、ポリマーPPPを含む2mg/mL 10mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で、塗布量が2.5μL/cmである。コントロールラインには、ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体が含まれ、PBSに500μg/mLまで添加し、塗布量が2.5μL/cmである。それぞれラインは、幅1mm、長さ4mmである。
【0037】
吸収パッドを幅15mmのストリップにカットする。
【0038】
上記の構成要素を60×300mmのベースシートに組み立て、幅4mmの75本のストリップにカットする。各テストストリップは、プラスチック製のケースに組み込まれる。
【0039】
5、尿Aβを検出するための横流クロマトグラフィーテストストリップの使用
尿サンプルは一日中いつでも採取できるが、同じ日に測定するのが最善である。尿サンプルを-80℃で凍結保存できるが、凍結融解を繰り返すことはできない。
【0040】
キットケースのサンプルポートに100μLの尿サンプルをゆっくりと加える。20分間静置した後、検出ライン及びコントロールラインを確認する。
【0041】
結果の最良の読み取り時間は、2時間以内で、金コロイド免疫クロマトグラフィー分析計又は目視で読み取る。
【0042】
結果の判定
陰性(-):コントロールラインのみが呈色する。
弱陽性(+/-):検出ラインは薄く呈色し、コントロールラインが明確に呈色する。
陽性(+):検出ラインは呈色し、呈色強度がコントロールラインと一致する。
強陽性(++):検出ラインは明確に呈色し、コントロールラインが正常又は薄く呈色する。
極強陽性(+++):検出ラインは鮮明で濃く呈色し、コントロールラインが極めて薄く呈色するか、呈色しない可能性がある。
【0043】
6、Aβポリマーの識別
PPPがAβと相互作用できるかどうかをテストした。Nano Temperorのマイクロスケール熱泳動(MST)でPPPとAβ
1-42との間の親和性を確認した。HiLyte Fluor488標識Aβ
1-42(PBS緩衝液中の80nM)の1:1(体積)でPPPを段階的に希釈し、平均分子量は、6.5KDであった。Monolith NT.115システムにおける95%のLED及び40%の赤外線レーザー出力で処理された標準キャピラリー内で測定する。結果は、分子量が6.6nMの場合、PPPとAβ
1-42との間に高親和性結合があることを示している。PPPとAβ
1-42モノマーの化学量論比は、3である。Aβ
1-42を4℃で1週間置いても、より多くのオリゴマーと繊維構造が析出され、KD分子量の実効値がやはり25.4nMと低く(
図2)、Aβモノクローナル抗体の親和性に近い。
【0044】
円二色性(CD)分光法は、溶液中のペプチド-ペプチド相互作用を研究するための実用的な方法である。遠紫外線領域(178~260nm)のCDは、タンパク質骨格のアミドに由来し、タンパク質のコンフォメーションに敏感である。よってCDは、相互作用中にポリペプチドのコンフォメーションが変化するかどうかを確認できる。CD分光法は、Aβ
1-42及びPPPの結果を検出及び取得できる(
図3)。CDは定量分析の手法で、Aβ
1-42とPPPの相互作用が発生すると、CDスペクトルの変化量は形成されたペプチド-ペプチド複合体に比例する。結果は、βシート構造がAβ
1-42で優先的に形成されるのに対し、PPPではあまり明白ではないことを示している。この複合体は、明らかに異なる構造を示し、Aβ
1-42とPPPとの間に相互作用があることを示している(
図3)。
【0045】
さらにウェスタンブロッティング法でAβ
1-42とPPPとの間の相互作用を研究した。合成されたAβ
1-42を異なる量のPPPと異なる比率で混合し、次に混合物をSDS-PAGE簡易電気泳動にかけた。電気泳動の線量を減らすことによりPPPは、Aβ
1-42を大幅に保持し、削減され単純化された条件下でも同じ(
図4)で、Aβ
1-42とPPPとの間の結合が緊密であることを示している。
【0046】
したがって、従来のポリクローナル抗体の横流イムノクロマトグラフィーと異なり、我々は、捕捉分子としてのPPPでコンジュゲート金コロイド粒子に結合されたAβを検出する。ELISA法と比較してこの方法は、検出感度を大幅に向上する。
【0047】
7、尿Aβを検出するための横流クロマトグラフィーテストストリップの臨床応用
まず、100μLのMilliQ超純水を使用して、0~100ng/mLの範囲の異なる濃度の合成Aβ
42を調製し、試験紙で順次テストした。結果は、0~5ng/mLの間に良好な相関関係があり、高濃度の結果は抗原が多すぎることが原因である可能性があるTラインの強度をさらに増加させなかったことを示している(
図5)。
【0048】
次に、Aβ42を陰性尿サンプルに添加し、試験紙でテストした。結果は、超純水で調製されたAβ42試験紙の結果と一致していた。0.5~5ng/mLのAβ
42尿でテストした場合、Tラインが現れ、過剰な抗原(10μg/mL)もテスト結果の比例した逓増を示さなかった(
図5)。
【0049】
10歳未満の健康な子供の尿サンプルを本発明のテストストリップでテストした(
図6)。健康な子供の尿サンプルの90%以上のテスト結果が陰性であった。
【0050】
152人の中国人漢民族の尿サンプルをこれらの試験紙でテストした(
図7)。研究の対象は、中国の上海にある復旦大学の華山病院神経内科で募集された外来患者であった。うち男性は、55例で、年齢が平均68.5歳で、女性が97例で、年齢が平均68.1歳であった。年齢範囲は、42歳~89歳で、平均年齢が68.3歳であった。
【0051】
対象は、次の通りである。すなわち、
(1)認知機能正常対照群(n=30):既知の加齢性疾患は、なく、ミニメンタルステート評価尺度(MMSE)の点数が27点以上であり、このグループの患者のうち22人が外来診療で最近記憶力の低下を訴えた。他の8人は、患者の家族であった。
(2)MCI群(n=47):初期AD患者を含む臨床評価(MMSE点数が22~30点)。
(3)軽度のAD群(n=37):MMSE点数が10~20点
(4)重度のAD群(n=6):MMSE<10。
(5)その他の認知症(n=21):15人の血管性認知症、3人の前頭側頭型認知症、及び3人のレビー小体型認知症を含む。
(6)パーキンソン病の患者(n=3)。
【0052】
すべての尿サンプルは、ルーチン尿検査を実施した。高タンパク(2+以上)の尿を除外した。
【0053】
全体的な結果(表1)は、他の認知症とともに、MCIおよび早期/軽度ADの検出率が高いことを示し、これらのテストストリップがMCI及びADの臨床診断において高い潜在力があることを示している。
【0054】
【符号の説明】
【0055】
1 サンプルパッド
2 コンジュゲートパッド
3 クロマトグラフィー検出パッド
4 吸水パッド
5 検出ライン
6 コントロールライン
7 PVCベースシート