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特許7385968情報処理装置、探査装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】情報処理装置、探査装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/02 20060101AFI20231116BHJP
   G01V 3/06 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01V3/02 C
G01V3/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023085483
(22)【出願日】2023-05-24
【審査請求日】2023-09-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.公開日:令和4年10月25日 プログラムの掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/jpi2022f/proceedings/list 2.集会名:公益社団法人石油学会長野大会(第52回石油・石油化学討論会) 開催日:令和4年10月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】上田 匠
(72)【発明者】
【氏名】西野 玉城
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-338258(JP,A)
【文献】特開2018-194454(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0006081(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104102814(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0036340(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00 - 99/00
G16Z 99/00
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置であって、
層設定部と、区分部と、比抵抗設定部と、平滑化部と、学習用比抵抗構造データ生成部と、を備え、
前記層設定部は、複数の層によって構成される地下構造を設定し、
前記区分部は、前記複数の層を、1層または連続する2以上の層によって構成される1つまたは複数のグループに区分し、
前記比抵抗設定部は、前記1つまたは複数のグループ毎に比抵抗を乱数により決定し、各グループに含まれる各層に当該グループに対して決定された比抵抗を設定し、
前記平滑化部は、前記比抵抗が設定された複数の層のうちの1層の比抵抗と、前記1層に隣接する層の比抵抗と、を用いた平滑化処理を各層毎に行い、前記各層に平滑化比抵抗を設定し、
前記学習用比抵抗構造データ生成部は、前記比抵抗または前記平滑化比抵抗が設定された前記複数の層に基づき地下構造が規定された学習用比抵抗構造データを生成する、情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
合成部をさらに備え、
前記合成部は、前記比抵抗と、前記比抵抗が設定された層に対応する層の平滑化比抵抗と、の合成処理を各層毎に行い、前記各層に合成比抵抗を設定し、
前記学習用比抵抗構造データ生成部は、前記合成比抵抗が設定された前記複数の層に基づき地下構造が規定された学習用比抵抗構造データを生成する、情報処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の情報処理装置であって、
前記複数の層の各層の深度は、二次関数により決定される、情報処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の情報処理装置であって、
学習データ生成部、機械学習部、入力処理部、および出力制御部をさらに備え、
前記学習データ生成部は、前記学習用比抵抗構造データと、前記学習用比抵抗構造データに基づいて算出された人工応答データと、を対応付けて学習データを生成し、
前記機械学習部は、前記学習データを用いて機械学習した機械学習モデルを有し、
前記入力処理部は、前記機械学習モデルに、測定地の地下に対する物理探査測定により取得された測定応答データを入力し、
前記出力制御部は、前記機械学習モデルから出力される、前記測定応答データが取得された前記測定地の地下の推定比抵抗構造データを出力する、情報処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の情報処理装置であって、
前記人工応答データと前記測定応答データは、電圧データまたは磁場データである、情報処理装置。
【請求項6】
請求項4に記載の情報処理装置であって、
前記物理探査測定は、電磁探査測定である、情報処理装置。
【請求項7】
請求項4に記載の情報処理装置であって、
前記機械学習部は、ノイズ付き前記人工応答データを用いて機械学習した前記機械学習モデルを有する、情報処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の情報処理装置であって、
前記ノイズは、経験的に算出されたノイズ、または前記測定応答データの測定時に存在した環境ノイズに基づいて算出されたノイズである、情報処理装置。
【請求項9】
探査装置であって、
請求項1に記載の情報処理装置を備える、探査装置。
【請求項10】
プログラムであって、
コンピュータに、層設定工程と、区分工程と、比抵抗設定工程と、平滑化工程と、学習用比抵抗構造データ生成工程とを実行させ、
前記層設定工程では、複数の層によって構成される地下構造を設定し、
前記区分工程では、前記複数の層を、1層または連続する2以上の層によって構成される1または複数のグループに区分し、
前記比抵抗設定工程では、前記1つまたは複数のグループ毎に比抵抗を乱数により生成し、各グループに含まれる各層に当該グループに対して生成された比抵抗を設定し、
前記平滑化工程では、前記比抵抗が設定された複数の層のうちの1層の比抵抗と、前記1層と隣接する層の比抵抗と、を用いた平滑化処理を各層毎に行い、前記各層に平滑化比抵抗を設定し、
前記学習用比抵抗構造データ生成工程では、前記比抵抗または前記平滑化比抵抗が設定された前記複数の層に基づき地下構造が規定された学習用比抵抗構造データを生成する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、探査装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁探査の最適化(逆解析)手法として、機械学習を用いた手法が知られている。学習データとなる探査対象の比抵抗構造には、水平多層構造が用いられることが多い。
【0003】
非特許文献1には、学習データとして層数が比較的少ない水平多層構造が用いられる逆解析手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Xin Wu、他5名、"A Deep Learning Estimation of the Earth Resistivity Model for the Airborne Transient Electromagnetic Observation",[online],令和4年2月25日、アメリカ地球物理学連合、[令和5年4月12日検索],インターネット<URL:https://doi.org/10.1029/2021JB023185>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような単純な水平多層構造は、実際の地下構造とは大きく異なるため、解析の過程で局所解に陥るおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、実際の多様な地下構造に対応可能な比抵抗構造を有する学習データを生成する情報処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]情報処理装置であって、層設定部と、区分部と、比抵抗設定部と、平滑化部と、学習用比抵抗構造データ生成部と、を備え、前記層設定部は、複数の層によって構成される地下構造を設定し、前記区分部は、前記複数の層を、1層または連続する2以上の層によって構成される1つまたは複数のグループに区分し、前記比抵抗設定部は、前記1つまたは複数のグループ毎に比抵抗を乱数により決定し、各グループに含まれる各層に当該グループに対して決定された比抵抗を設定し、前記平滑化部は、前記比抵抗が設定された複数の層のうちの1層の比抵抗と、前記1層に隣接する層の比抵抗と、を用いた平滑化処理を各層毎に行い、前記各層に平滑化比抵抗を設定し、前記学習用比抵抗構造データ生成部は、前記比抵抗または前記平滑化比抵抗が設定された前記複数の層に基づき地下構造が規定された学習用比抵抗構造データを生成する、情報処理装置。
[2][1]に記載の情報処理装置であって、合成部をさらに備え、前記合成部は、前記比抵抗と、前記比抵抗が設定された層に対応する層の平滑化比抵抗と、の合成処理を各層毎に行い、前記各層に合成比抵抗を設定し、前記学習用比抵抗構造データ生成部は、前記合成比抵抗が設定された前記複数の層に基づき地下構造が規定された学習用比抵抗構造データを生成する、情報処理装置。
[3][1]または[2]に記載の情報処理装置であって、前記複数の層の各層の深度は、二次関数により決定される、情報処理装置。
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載の情報処理装置であって、学習データ生成部、機械学習部、入力処理部、および出力制御部をさらに備え、前記学習データ生成部は、前記学習用比抵抗構造データと、前記学習用比抵抗構造データに基づいて算出された人工応答データと、を対応付けて学習データを生成し、前記機械学習部は、前記学習データを用いて機械学習した機械学習モデルを有し、前記入力処理部は、前記機械学習モデルに、測定地の地下に対する物理探査測定により取得された測定応答データを入力し、前記出力制御部は、前記機械学習モデルから出力される、前記測定応答データが取得された前記測定地の地下の推定比抵抗構造データを出力する、情報処理装置。
[5][4]に記載の情報処理装置であって、前記人工応答データと前記測定応答データは、電圧データまたは磁場データである、情報処理装置。
[6][4]または[5]に記載の情報処理装置であって、前記物理探査測定は、電磁探査測定である、情報処理装置。
[7][4]~[6]のいずれか1つに記載の情報処理装置であって、前記機械学習部は、ノイズ付き前記人工応答データを用いて機械学習した前記機械学習モデルを有する、情報処理装置。
[8][7]に記載の情報処理装置であって、前記ノイズは、経験的に算出されたノイズ、または前記測定応答データの測定時に存在した環境ノイズに基づいて算出されたノイズである、情報処理装置。
[9]探査装置であって、[1]~[8]のいずれか1つに記載の情報処理装置を備える、探査装置。
[10]プログラムであって、コンピュータに、層設定工程と、区分工程と、比抵抗設定工程と、平滑化工程と、学習用比抵抗構造データ生成工程とを実行させ、前記層設定工程では、複数の層によって構成される地下構造を設定し、前記区分工程では、前記複数の層を、1層または連続する2以上の層によって構成される1または複数のグループに区分し、前記比抵抗設定工程では、前記1つまたは複数のグループ毎に比抵抗を乱数により生成し、各グループに含まれる各層に当該グループに対して生成された比抵抗を設定し、前記平滑化工程では、前記比抵抗が設定された複数の層のうちの1層の比抵抗と、前記1層と隣接する層の比抵抗と、を用いた平滑化処理を各層毎に行い、前記各層に平滑化比抵抗を設定し、前記学習用比抵抗構造データ生成工程では、前記比抵抗または前記平滑化比抵抗が設定された前記複数の層に基づき地下構造が規定された学習用比抵抗構造データを生成する、プログラム。
【0008】
本発明によれば、初期設定の比抵抗と平滑化比抵抗との両者を用いた学習データを生成することで、多様な地下構造に対応可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る情報処理装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る情報処理装置1の機能構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る情報処理装置1の区分部20bが区分する地下構造の区分イメージである。
図4】本発明の第1実施形態に係る情報処理装置1が生成する目的変数として生成される学習用比抵抗構造データの例である。
図5】本発明の第1実施形態に係る情報処理装置1を用いたデータ処理のフロー図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る情報処理装置1を用いたデータ処理の学習データ生成工程S2のフロー図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る探査装置3のハードウェア構成を示すブロック図である。
図8】本発明のデータ処理で使用された学習用比抵抗構造データの例である。
図9】従来方法のデータ処理で使用された学習用比抵抗構造データの例である。
図10】本発明のデータ処理方法に係る学習曲線および検証誤差を示す。
図11】従来のデータ処理方法に係る学習曲線および検証誤差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0011】
1. 第1実施形態
本実施形態に係る逆解析システムは、電磁探査測定によって得られた測定データから当該測定が行われた場所の地下の比抵抗構造を推定することができるシステムである。本実施形態に係る逆解析システムは、情報処理装置1を備える。
【0012】
1.1 情報処理装置1のハードウェア構成
図1に、本実施形態に係る情報処理装置1のハードウェア構成を示す。本実施形態に係る情報処理装置1は、制御部10、記憶部11、通信部12、入力部13、および出力部14を備える。制御部10、記憶部11、通信部12、入力部13、および出力部14は通信バス40によって相互に接続されている。
【0013】
制御部10は、中央処理装置(CPU)、デジタル信号プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラマブル論理デバイス(PLD)等のプロセッサを含むことができる。
【0014】
記憶部11は、揮発性メモリまたは不揮発性メモリを含んでもよい。揮発性メモリの例としては、RAM(Random Access Memory)やDRAM(Dynamic Random Access Memory)が挙げられ、制御部10による各種プログラムに基づく処理の実行時のワークエリア等として用いられる。不揮発性メモリの例としては、ROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリが挙げられ、各種データや制御部10の処理に利用されるプログラム等を保存するために用いられる。また、HDD(Hard Disk Drive)等の外部記憶装置を含んでもよい。
【0015】
記憶部11に記憶されるプログラムは、例えば情報処理装置1の基本的な機能を実現するためのOS(Operating System)、各種ハードウェアを制御するためのドライバ、各種機能を実現するためのプログラム等であって、本実施形態に係るコンピュータプログラムを含む。
【0016】
通信部12は、送受信可能に構成され、通信回線に接続する機能を有する。例えば、通信部12は、外部の探査装置と通信可能に構成されてもよく、この場合測定応答データを、通信部12を介して取得することができる。通信部12は、例えば、例えばNIC(Network Interface Controller)、無線LAN(Local Area Network)に接続する機能、無線WAN(Wide Area Network)に接続する機能、Bluetooth(登録商標)等の近距離の無線通信や赤外線通信等を可能とする機能を有してもよく、または有線接続が可能な機能を有してもよい。
【0017】
入力部13には、後述のパラメータ設定工程S1でユーザが設定する各種パラメータや、測定応答データを入力することができる。ここで、入力される測定応答データは、物理探査測定、とりわけ電磁探査測定によって取得されるデータである。測定応答データは、電圧データ(誘導起電力データ)または磁場データである。入力部13は、例えば、キーボード、キーパッド、マウス、マイク、タッチスクリーン、ボタン等の1つまたは複数を含むことができる。
【0018】
出力部14には、測定応答データや情報処理装置1の出力制御部22から出力される推定比抵抗構造データを表示することができる。出力部14は、例えば、任意のディスプレイとできる。
【0019】
1.2 情報処理装置1の機能構成
図2に情報処理装置1の機能構成を示す。情報処理装置1の制御部10は、パラメータ設定部(図示せず)、学習データ生成部20、入力処理部21、出力制御部22および機械学習部23を備える。
【0020】
1.2.1 パラメータ設定部
パラメータ設定部は、各種パラメータを設定する。パラメータ設定部は、ユーザによる情報処理装置1の入力部13が受け付けた値に基づき必要なパラメータの一部または全部を設定してもよく、パラメータ設定部が予め設定された条件や乱数に基づき必要なパラメータの一部または全部を設定してもよい。設定されるパラメータには、生成する学習データ数(以下、生成学習データ数)、地下構造の最深深度D、分割層数N、層厚設定係数t、生成比抵抗ρの範囲(最大比抵抗ρmax≦ρ≦最小比抵抗ρmin)、学習データに使用する比抵抗種類およびその割合、ならびに解析対象となる測定応答データを取得した際の測定システムや信号源や測定地情報の設定が含まれる。
【0021】
1.2.2 学習データ生成部20
学習データ生成部20は、学習用比抵抗構造と人工応答データとを対応付けて学習データを生成することができる。本実施形態において生成される学習データは、目的変数が比抵抗構造であり、説明変数が人工応答データである。学習データ生成部20は、層設定部20aと、区分部20bと、比抵抗設定部20cと、平滑化部20dと、合成部20eと、学習用比抵抗構造データ生成部20fと、使用比抵抗決定部20gと、応答データ算出部20hと、ノイズ付与部20iとを備えることができる。
【0022】
(1) 層設定部20a
層設定部20aは、複数の層によって構成される1次元地下構造を設定することができる。層構造設定部は、具体的には例えば、次式の計算を行うことによって、地下の各層の境界深度を設定することができる。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、Dはユーザが入力部13を介して入力した最深深度、Nはユーザが入力部13を介して入力した分割層数、nは自然数(n=1,2,・・・N+1)、tはユーザが入力部13を介して入力した層厚設定係数(-1≦t≦1)である。層厚設定係数tの値によって、層構造の決定方法が調整可能に構成されている。例えば、層構造(層厚)は、t=-1の場合は、指数関数的に決定され、t=0の場合は線形的に決定され、t=1の場合は二次関数的に決定される。
【0025】
一般的に、層構造を決定する場合は指数関数のみを用いるが、指数関数のみにより決定される層構造では、浅部と深部での層厚の差が大きくなる(浅部の層厚は小さく、深部の層厚は大きい)。一方、本実施形態に係る二次関数的要素を含む方法により決定される層構造では、指数関数により決定される層構造と比較して、浅部と深部との層厚の差が小さくなる。したがって、より詳細な層構造、すなわちより現実的な地下構造を生成することが可能となる。
【0026】
(2) 区分部20b
区分部20bは、層設定部20aにより設定された複数の層を1層または連続する2以上の層によって構成される1つまたは複数のグループに区分することができる。区分部20bは、例えば、層設定部20aにより設定された層の境界深度を選択することによって区分する。例えば、選択される境界の数は、層数が30の場合は、0~4、層数が50の場合は、0~6、層数が100の場合は、0~11であることが好ましい。
【0027】
図3に、境界の数が0、1および2の場合における、区分部20bが区分する地下構造の区分のイメージを示す。例えば、境界の数が0の場合、全ての層を含むグループG1が生成される。境界の数が1つの場合、つまり境界B1を選択した場合、境界B1より上に位置する層を含むグループG1、および境界B1より下に位置する層を含むG2に区分される。境界の数が2つの場合、つまり、境界B1と境界B2とを選択した場合、境界B1より上に位置する層を含むグループG1、境界B1より下かつ境界B2より上に位置する層を含むグループG2、および境界B2より下に位置する層を含むグループG3に区分される。
【0028】
区分部20bは、複数の層を任意の方法によって区分することができるが、例えば、乱数によって境界深度を選択し各グループに含まれる層を決定してもよく、ユーザによる境界深度の選択を受け付け、当該選択に基づき各グループに含まれる層を決定してもよい。以下、本明細書においては、乱数によって境界深度を選択する方法を用いたとして説明する。
【0029】
(3) 比抵抗設定部20c
比抵抗設定部20cは、区分された1つまたは複数のグループの比抵抗を乱数により決定し、各グループに含まれる各層に、当該グループに対して決定された比抵抗を設定することができる。比抵抗設定部20cは、具体的には例えば、次式に基づいて、グループの比抵抗を決定する。
【0030】
【数2】
【0031】
ここで、iはグループの数、ρmaxはユーザが設定した最大比抵抗、ρminはユーザが設定した最小比抵抗、ρはi個目のグループの比抵抗、θは、擬似乱数である。また、θは、0~1の一様分布にしたがってグループ毎に決定される。比抵抗設定部20cにより設定された比抵抗を用いて生成された学習用比抵抗構造の例が図4の左図(平滑化前)に示されている。図4の例では、グループの数iは4であり、各層が、上式により決定されたグループの比抵抗に対応する比抵抗を有している。
【0032】
(4) 平滑化部20d
平滑化部20dは、比抵抗設定部20cで設定された各層の比抵抗(以下、平滑化前比抵抗と記載)を平滑化し、平滑化比抵抗を設定することができる。具体的には例えば、層設定部20aにより設定された複数の層のうちの1層と、当該1層に隣接する2層と、の計3層の平滑化前比抵抗を用いて、移動平均による平滑化処理を各層毎に行う。最上層および最下層については、最上層/最下層に隣接する層の平滑化前比抵抗1つと、最上層/最下層の平滑化前比抵抗2つと、の計3つの平滑化比抵抗を用いて平滑化処理を行う。図4の中央の図(平滑化後)に、平滑化部20dにより設定された平滑化比抵抗を用いて生成された学習用比抵抗構造の例を示す。
【0033】
(5) 合成部20e
合成部20eは、平滑化前比抵抗と、当該平滑化前比抵抗が設定された層に対応する層の平滑化比抵抗と、の合成処理を各層毎に行い、各層に合成比抵抗を設定することができる。ここで、合成処理とは、各層の平滑化前比抵抗と平滑化比抵抗との間で加重平均を行うことを指す。合成部20eは、具体的には例えば次式に基づいて、加重平均を行う。
【0034】
【数3】
【0035】
ここで、jは層数、ρ'は平滑化前比抵抗、ρ''は平滑化比抵抗、αは重みである。αは、0~1の一様分布に基づいて各地下構造毎に決定される。αにより、比抵抗と平滑化比抵抗の合成度合いが決定され、αが0に近いほど平滑化前の構造に近づき、αが1に近いほど、平滑化後の構造に近づく。図4の右図(合成)に、合成部20eにより設定された合成比抵抗を用いて生成された学習用比抵抗構造の例を示す。図4の例では、重みαは0.02であり、比較的平滑化前の構造に近い合成比抵抗構造が表されている。
【0036】
(6) 学習用比抵抗構造データ生成部20f
学習用比抵抗構造データ生成部20fは、平滑化前比抵抗、平滑化比抵抗または合成比抵抗が設定された複数の層に基づいて地下構造が規定された学習用比抵抗構造データを生成することができる。図4に、平滑化前比抵抗、平滑化比抵抗および合成比抵抗に基づいてそれぞれ生成された学習用比抵抗構造データの例を示す。
【0037】
(7) 使用比抵抗決定部20g
使用比抵抗決定部20gは、ユーザが入力部13を介して入力した学習データに使用する比抵抗種類および割合に基づいて、学習データに使用する、生成学習データ数分の学習用比抵抗構造データを決定することができる。具体的には、使用比抵抗決定部20gは、ユーザが入力した、学習データとして使用する学習用比抵抗構造データの1つまたは複数の種類、および、生成学習データ数のうち当該1つまたは複数の種類の学習用比抵抗構造データがそれぞれ使用される割合に基づいて、学習データに使用される学習用比抵抗構造データを決定することができる。
【0038】
また、ユーザが学習データに使用する比抵抗種類および割合を設定しない場合、使用比抵抗決定部20gは、合成比抵抗が用いられた学習用比抵抗構造(以下、合成学習用比抵抗構造データ)を、学習データに使用する学習用比抵抗構造データとして決定することができる。また、ユーザが学習データに使用する比抵抗種類および割合を設定しない場合、使用比抵抗決定部20gは、ユーザが入力部13を介して入力した測定地の情報に基づいて、学習データに使用する生成学習データ数分の学習用比抵抗構造データを決定してもよい。例えば、当該測定地の地下構造が比較的単純であると入力された場合、使用比抵抗決定部20gは、学習データとして使用する生成学習データ数分の学習用比抵抗構造データのうち、少なくとも平滑化前比抵抗が用いられた学習用比抵抗構造データ(以下、平滑化前学習用比抵抗構造データ)を用いること、または平滑化前学習用比抵抗構造データの割合を増やすことを決定することができる。例えば、当該測定地の地下構造が複雑であると入力された場合、使用比抵抗決定部20gは、学習データとして使用する生成学習データ数分の学習用比抵抗構造データのうち、少なくとも平滑化比抵抗が用いられた学習用比抵抗構造データ(以下、平滑化学習用比抵抗構造データ)、または平滑化比学習用比抵抗構造データの割合を増やすことを決定することができる。
【0039】
使用される学習用比抵抗構造データの種類は、平滑化前学習用比抵抗構造データ、平滑化学習用比抵抗構造データおよび合成学習用比抵抗構造データのすべてであってよい。使用される学習用比抵抗構造データの種類は、平滑化前学習用比抵抗構造データおよび平滑化学習用比抵抗構造データの組み合わせであってもよく、平滑化前学習用比抵抗構造データおよび合成学習用比抵抗構造データの組み合わせであってもよく、または、平滑化学習用比抵抗構造データ比抵抗および合成学習用比抵抗構造データの組み合わせであってもよい。また、使用される学習用比抵抗構造データの種類は、平滑化前学習用比抵抗構造データのみであってもよく、平滑化学習用比抵抗構造データのみであってもよく、または合成学習用比抵抗構造データのみであってもよい。
【0040】
(8) 応答データ算出部20h
応答データ算出部20hは、生成された学習用比抵抗構造データに基づいて順解析を行い、学習用比抵抗構造データに対応付けられた人工応答データを算出し、学習データを生成することができる。具体的には、ユーザが設定する、解析対象となる測定応答データを取得した際の、測定システムや信号源などのパラメータに基づいて、当該パラメータに対応するMaxwell方程式を、各学習用比抵抗構造データに対して円筒座標計の偏微分方程式を解くことにより、理論上の応答データ(=人工応答データ)を算出する。人工応答データは、電圧データまたは磁場データである。
【0041】
応答データ算出部20hが算出可能な送信器タイプとしては、電気・磁気ダイポール、円ループ、矩形ループ、および接地電線が挙げられる。応答データ算出部20hが算出可能な受信成分は、任意位置で、電場3成分、磁場3成分である。また、応答データ算出部20hは、送信・受信のいずれも、空中、地表、地中および海中に配置された測定システムについても、対応可能である。
【0042】
(9) ノイズ付与部20i
ノイズ付与部20iは、応答データ算出部20hによって生成された学習データに経験的に算出されたノイズまたは、物理探査測定時に存在した環境ノイズを付与し、学習用比抵抗構造データに対応付けられたノイズ付き人工応答データを算出し、ノイズ付き学習データを生成することができる。好ましくは、ノイズ付与部20iは、経験的に算出されたノイズを付与する。
【0043】
具体的には、ノイズ付与部20iは、物理探査測定によって得られた測定応答データの標準偏差を算出し、これをノイズレベルとする。経験的に算出されたノイズを付与する場合、ノイズ付与部20iは、学習データの人工応答データにガウス分布のノイズを付与する。当該ガウス分布の平均は0、標準偏差は前述の測定応答データの標準偏差である。
【0044】
環境ノイズを付与する場合、ノイズ付与部20iは、学習データの人工応答データに前述の測定応答データの標準偏差を一様に付与する。
【0045】
物理探査の測定応答データにおいては、測定時の装置の振動、周辺の環境ノイズ(金属物や送電線等の電磁ノイズ)などによりノイズが含まれているため、ノイズを付与したデータで学習を行うことで、より精度の良い機械学習ネットワークを得ることができる。
【0046】
本実施形態に係る学習データ生成部20により生成される学習データには、平滑化前比抵抗、平滑化比抵抗、および合成比抵抗といった種類の異なる比抵抗が用いられており、様々な比抵抗構造を生成することが可能となる。これより、従来の平滑化前比抵抗のみを用いて生成される学習データが用いられる場合と比較して、本学習データを用いる場合は精度良く真の地下構造を推定することができる。なお、ここで精度が良いとは、検証データを用いて解析を行った際の誤差関数や、推定比抵抗構造から算出した人工応答データと測定応答データの相対パーセント誤差が小さいことを意図する。
【0047】
1.2.3 入力処理部21
入力処理部21は、通信部12を介して外部の探査装置から取得した測定応答データ、または入力部13を介して直接入力された測定応答データなどを、機械学習部23が有する機械学習モデルに入力することができる。
【0048】
1.2.4 出力制御部22
出力制御部22は、機械学習部23が有する機械学習モデルから出力される、入力処理部21によって入力された測定応答データが取得された測地の地下の推定比抵抗構造データを出力し、出力部14に表示することができる。
【0049】
1.2.5 機械学習部23
機械学習部23は、学習データ生成部20によって生成された学習データに基づいて学習することにより、入力処理部21により入力される、測定応答データが測定された測定地の地下の推定比抵抗構造を出力する機械学習モデルを構築し、構築した機械学習モデルを保持している。機械学習モデルは、学習用比抵抗構造データに対応付けられた人工応答データを学習データとして機械学習することにより構築されたモデルとできる。また、機械学習モデルは、学習用比抵抗構造データに対応付けられたノイズ付き人工応答データをノイズ付き学習データとして機械学習することにより構築されたモデルとできる。
【0050】
機械学習モデルの内部構成は任意であるが、例えば、DNN(Deep Neural Network、ディープニューラルネットワーク)、CNN(Convolutional Neural Network、畳み込みニューラルネットワーク)、RNN(Recurrent Neural Network、再帰型ニューラルネットワーク)、LSTM(Long Short-Term Memory、長・短期記憶)により構成されることができる。
【0051】
1.3 情報処理装置1を用いたデータ処理の手順
図5を参照しながら、本実施形態に係る情報処理装置1を用いたデータ処理の方法を説明する。該データ処理方法は、パラメータ設定工程S1、学習データ生成工程S2、ネットワークモデル構築工程S3、測定応答データ読み込み工程S4、逆解析工程S5、推定比抵抗構造出力工程S6を備える。
【0052】
(1) パラメータ設定工程S1
パラメータ設定工程S1では、パラメータ設定部が各種パラメータを設定する。パラメータ設定部は、ユーザによる、情報処理装置1の入力部13が受け付けた値に基づき必要なパラメータの一部または全部を設定してもよく、パラメータ設定部が予め設定された条件や乱数等に基づき必要なパラメータの一部または全部を設定してもよい。設定されるパラメータには、生成学習データ数、学習データの目的変数となる地下構造の最深深度D、分割層数N、層厚設定係数t、生成比抵抗ρの範囲(最大比抵抗ρmax≦ρ≦最小比抵抗ρmin)、学習データに使用する比抵抗種類およびその割合、解析対象となる測定応答データを取得した際の測定システムや信号源や測定値情報の設定が含まれる。各パラメータの設定手順の例を以下に示す。
【0053】
生成学習データ数は任意の数とできる。生成学習データ数は、パラメータ設定部が、ユーザによる、情報処理装置1の入力部13が受け付けた値に基づき設定することができる。生成する学習データ数は、好ましくは40000~1200000であり、パラメータ設定部が、生成学習データ数を当該範囲内において乱数等を用いて設定してもよい。
【0054】
最深深度Dは、パラメータ設定部が、表皮深度の概念を応用したDOI(Depth of Investigation)を算出し、算出した値に基づき最深深度Dを設定することができる。または、算出した値を情報処理装置1の出力部14を介してユーザに提示してもよく、この場合、情報処理装置1の入力部13においてユーザからの入力を受け付けることができ、受け付けた値に基づき最深深度Dを設定することもできる。なお、DOIは、測定システムや測定値の地下の比抵抗によって変化するため、ユーザにより入力される最深深度Dは、ユーザが解析対象の測定システムや測定地など種々の条件を複合的に踏まえて経験的に設定することができる。
【0055】
分割層数Nは、任意の数とできる。分割層数Nは、ユーザによる、情報処理装置1の入力部13が受け付けた値に基づき設定することができる。分割層数Nは10~100で設定されることが多く、とりわけ20~50で設定されることが多い。パラメータ設定部が、分割層数Nを当該範囲内において乱数等を用いてに設定してもよい。
【0056】
層厚設定係数tは、ユーザによる、情報処理装置1の入力部13が受け付けた値に基づき設定することができる。層厚設定係数tは、パラメータ設定部が、-1~1の間で乱数等を用いて決定してもよいが、好ましくは、層厚設定係数tは1に決定される。
【0057】
生成比抵抗ρの範囲は、任意の範囲に設定できる。生成比抵抗ρの範囲は、ユーザによる、情報処理装置1の入力部13が受け付けた値に基づき設定することができる。生成比抵抗ρの範囲は10-2≦ρ≦10で設定されることが多い。したがって、パラメータ設定部が生成比抵抗ρの範囲を当該範囲に予め設定しておいてもよい。
【0058】
学習データに使用する比抵抗種類およびその割合は、任意に設定できる。具体的には、学習データとして使用する学習用比抵抗構造データの1つまたは複数の種類、および、生成学習データ数のうち当該1つまたは複数の種類の学習用比抵抗構造データがそれぞれ使用される割合は、ユーザによる、情報処理装置1の入力部13が受け付けた値に基づき設定することができる。
【0059】
後述する再解析が行われる場合、パラメータ設定工程S1では、パラメータ設定部が、ユーザによる情報処理装置1の入力部13が受け付けた最深深度D、分割層数N、層厚設定係数t、生成比抵抗ρの範囲(最大比抵抗ρmax≦ρ≦最小比抵抗ρmin)、学習データに使用する比抵抗種類およびその割合に基づきパラメータを再設定することができる。なお、ユーザにより入力される各種パラメータは、ユーザが前回の解析結果に基づいて調整することができる。
【0060】
(2) 学習データ生成工程S2
パラメータ設定工程S1が終了すると、学習データ生成工程S2が開始する。学習データ生成工程S2では、学習データ生成部20が比抵抗構造と人工応答データとを対応付けた学習データを生成する。学習データ生成工程S2は、層設定工程S21、区分工程S22、比抵抗設定工程S23、平滑化工程S24、合成工程S25、学習用比抵抗構造データ生成工程S26、応答データ算出工程S28、およびノイズ付与工程S29を備える。図6に学習データ生成工程S2の流れを示す。
【0061】
層設定工程S21では、層設定部20aが、パラメータ設定工程S1で設定された、最深深度D、分割層数N、および層厚設定係数tに基づいて、複数の層によって構成される地下構造を設定する。層設定工程S21では、生成学習データ数分、層設定部20aによる地下構造の設定が行われる。層設定工程S21が終了すると、区分工程S22に進む。
【0062】
区分工程S22では、区分部20bが、1つの地下構造における層設定工程S21で設定された複数の層を1層または連続する2以上の層によって構成される1つまたは複数のグループに区分し、これを生成学習データ数分行う。区分工程S22が終了すると、比抵抗設定工程S23に進む。
【0063】
比抵抗設定工程S23では、比抵抗設定部20cが、区分工程S22により区分された1つの地下構造における1つまたは複数のグループの比抵抗を決定し、各グループに含まれる1つまたは複数の層の比抵抗(平滑化前比抵抗)を設定する。比抵抗設定工程S23では、生成学習データ数分、比抵抗設定部20cによる比抵抗の設定が行われる。比抵抗設定工程S23が終了すると、平滑化工程S24に進む。
【0064】
平滑化工程S24では、平滑化部20dが、比抵抗設定部20cで設定された1つの地下構造における各層の平滑化前比抵抗を平滑化し、平滑化比抵抗を設定する。平滑化工程S24では、生成学習データ数分、平滑化部20dによる平滑化比抵抗の設定が行われる。平滑化工程S24が終了すると、合成工程S25に進む。
【0065】
合成工程S25では、合成部20eが1つの地下構造における平滑化前比抵抗と平滑化比抵抗とを用いて合成処理を行い、合成比抵抗を設定する。合成工程S25では、生成学習データ数分、合成部20eによる合成比抵抗の設定が行われる。合成工程S25が終了すると、学習用比抵抗構造データ生成工程S26に進む。
【0066】
学習用比抵抗構造データ生成工程S26では、学習用比抵抗構造データ生成部20fが、1つの地下構造における、平滑化前比抵抗、平滑化比抵抗または合成比抵抗が設定された複数の層に基づいて地下構造が規定された学習用比抵抗構造データを生成し、これを生成学習データ数分行う。学習用比抵抗構造データ生成工程S26が終了すると、使用比抵抗決定工程S27に進む。
【0067】
使用比抵抗決定工程S27では、使用比抵抗決定部20gが、パラメータ設定工程S1で設定された学習データに使用する比抵抗種類および割合または測定値情報に基づいて、学習データに使用する生成学習データ数分の学習用比抵抗構造データを決定する。具体的には、使用比抵抗決定部20gは、以下(1)~(7)のいずれかで構成される、学習データに使用される学習用比抵抗構造データを決定する。
(1)平滑化前学習用比抵抗構造データ、平滑化学習用比抵抗構造データおよび合成学習用比抵抗構造データが用いられる学習用比抵抗構造データ
(2)平滑化前学習用比抵抗構造データおよび平滑化学習用比抵抗構造データが用いられる学習用比抵抗構造データ
(3)平滑化前学習用比抵抗構造データおよび合成学習用比抵抗構造データが用いられる学習用比抵抗構造データ
(4)平滑化学習用比抵抗構造データ比抵抗および合成学習用比抵抗構造データが用いられる学習用比抵抗構造データ
(5)平滑化前学習用比抵抗構造データが用いられる学習用比抵抗構造データ
(6)平滑化学習用比抵抗構造データが用いられる学習用比抵抗構造データ
(7)合成学習用比抵抗構造データが用いられる学習用比抵抗構造データ
使用比抵抗決定工程S27が終了すると、応答データ生成工程に進む。
【0068】
応答データ算出工程S28では、応答データ算出部20hが、使用比抵抗決定工程S27で決定された学習用比抵抗構造データのうちの1つの生成された学習用比抵抗構造データに基づいて順解析を行い、学習用比抵抗構造データに対応付けられた人工応答データを算出し、学習データを生成する。応答データ算出工程S28では、使用比抵抗決定工程S27で決定されたすべての学習用比抵抗構造データに対して、応答データ算出部20hによる人工応答データの算出が行われ、これにより生成学習データ数分の学習データが生成される。応答データ算出工程S28が終了すると、ノイズの付与を行う場合はノイズ付与工程S29に進み、ノイズの付与を行わない場合は、学習データ生成工程S2が終了する。
【0069】
ノイズ付与工程S29では、ノイズ付与部20iが、応答データ算出部20hによって生成された学習データの人工応答データに経験的に算出されたノイズを付与し、ノイズ付き学習データを生成する。ノイズ付与工程S29が終了すると、学習データ生成工程S2が終了する。
【0070】
(3) ネットワークモデル構築工程S3
学習データ生成工程S2が終了すると、ネットワークモデル構築工程S3が開始する。ネットワークモデル構築工程S3では、機械学習部23が、学習データ生成工程S2で生成された学習データまたはノイズ付与工程S29で生成されたノイズ付き学習データを用いて機械学習することによって、入力される測定応答データの推定比抵抗構造を出力する機械学習モデルを構築する。具体的には、ネットワークモデル構築工程S3では、人工応答データまたはノイズ付き人工応答データを入力とし(説明変数)、比抵抗構造データを出力とし(目的変数)、当該人工応答データまたは当該ノイズ付き人工応答データに対応付けられた学習用比抵抗構造データが正解ラベルである、教師あり学習が行われる。このような機械学習モデルを構築することによって、入力される測定応答データに対応する比抵抗構造の推定が可能となる。
【0071】
(4) 測定応答データ読み込み工程S4
測定応答データ読み込み工程S4は、逆解析工程S5を開始する前に行うことができれば、任意のタイミングで行われてよい。図5では、ネットワークモデル構築工程S3が終了した後に測定応答データ読み込み工程S4が開始するように示されており、以下本明細書では当該順序で工程を行うこととして説明する。測定応答データ読み込み工程S4では、入力処理部21が、測定応答データをネットワークモデル構築工程S3によって構築された機械学習モデルに入力する。
【0072】
(5) 逆解析工程S5
測定応答データ読み込み工程S4が終了すると逆解析工程S5が開始する。逆解析工程S5では、機械学習部23が、機械学習部23に入力された測定応答データを用いて解析を行い、推定比抵抗構造データを出力する。
【0073】
(6) 推定比抵抗構造出力工程S6
逆解析工程S5が終了すると推定比抵抗構造出力工程S6が開始する。推定比抵抗構造出力工程S6では、出力制御部22が逆解析工程S5で出力された推定比抵抗構造データを出力部14に表示する。
【0074】
推定比抵抗構造出力工程S6が終了すると、本発明に係るデータ処理が終了する。出力部14から出力された解析結果に基づき、所望の解析結果が得られていない場合は、パラメータ設定工程S1に戻り、上記工程を繰り返し行い、再解析することができる。
【0075】
再解析は、例えば、推定比抵抗構造出力工程S6で出力された比抵抗構造に基づいて人工応答データを算出し、当該人工応答データと、解析を行った測定応答データと、の相対パーセント誤差が測定点全体で所定値以上(例えば、50%以上)となる場合に行われるように構成されてもよい。
【0076】
本実施形態に係るデータ処理方法では、機械学習を用いた解析を行うことにより、非線形最小二乗法などの従来の最適化手法と比較して解析時間を短縮することが可能となる。特に、実際の電磁探査測定が行われる場合、従来の解析手法では解析に時間を要することから、見掛比抵抗といった仮定の比抵抗構造を用いて測定の評価を行っていた。本方法を用いたデータ処理では、リアルタイムで比抵抗構造の推定が可能となるため、有利である。
【0077】
2. 第2実施形態
本実施形態に係る逆解析システムは、探査装置3を備える。本実施形態に係る逆解析システムは、探査装置3に情報処理装置1の機能が組み込まれている点で第1実施形態と異なる。以下においては、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0078】
2.1 探査装置3のハードウェア構成
図7に本実施形態に係る探査装置3のハードウェア構成を示す。探査装置3は、電磁場制御部30、送信部31、受信部32、情報処理制御部33、記憶部34、入力部36、および出力部37を備える。電磁場制御部30、送信部31、受信部32、情報処理制御部33、記憶部34、入力部36、および出力部37は通信バス40によって相互に接続されている。探査装置3は、通信部35をさらに備えていてもよい。
【0079】
電磁場制御部30は、中央処理装置(CPU)、デジタル信号プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラマブル論理デバイス(PLD)等のプロセッサを含むことができる。
【0080】
送信部31は、電磁場制御部30によって決定された磁場を形成する。送信部31は、電磁探査の送信器として用いることができる任意の送信器を備えることができる。送信部31は例えば、コイル、接地した電線またはループ電線とできる。
【0081】
受信部32は、地下からの応答データである二次磁場データまたは電圧データを受信することができる。受信部32は、電磁探査の受信器として用いることができる任意の受信器を備えることができる。受信部32は、例えば、電圧データを測定する場合はコイル、磁場データを測定する場合はフラックスゲート磁力計、MI磁力計若しくはSQUID磁力計などの磁場センサとできる。
【0082】
情報処理制御部33、記憶部34、通信部35および出力部37は、情報処理装置1の制御部10、記憶部11、通信部12および出力部14と同様の構成とできる。
【0083】
入力部36には、第1実施形態のパラメータ設定工程S1でユーザが設定する各種パラメータに加えて、測定に用いる電流値、周波数、電圧等を入力することができる。入力部36は、例えば、キーボード、キーパッド、マウス、マイク、タッチスクリーン、ボタン等の1つまたは複数を含むことができる。
【0084】
2.2 探査装置3の機能構成
探査装置3の電磁場制御部30は、ユーザが入力部36で入力した電流値、周波数、電圧等に基づいて、送信部31を制御する機能を有する。
【0085】
探査装置3の情報処理制御部33は、情報処理装置1の制御部10と同様の機能構成を有することができるが、入力処理部は、受信部32が取得した測定応答データを機械学習部が有する機械学習モデルに入力することができる。
【0086】
3. その他の実施形態
3.1 コンピュータプログラム
本発明の一実施形態に係るコンピュータプログラムは、第1実施形態のデータ処理方法において情報処理装置1が行う、パラメータ設定工程S1、学習データ生成工程S2、ネットワークモデル構築工程S3、測定応答データ読み込み工程S4、逆解析工程S5、および推定比抵抗構造出力工程S6を、コンピュータに実行させるプログラムである。また、コンピュータに実行させる学習データ生成工程S2のプログラムには、層設定工程S21、区分工程S22、比抵抗設定工程S23、平滑化工程S24、合成工程S25、学習用比抵抗構造データ生成工程S26、使用比抵抗決定工程S27、応答データ算出工程S28、およびノイズ付与工程S29が含まれる。
【0087】
3.2 情報処理装置1
情報処理装置1は、各実施形態の情報処理機能に係るプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体または上述のプログラムを記録したコンピュータの読み取りが可能な記録媒体として実現することもできる。
【0088】
3.3 データ処理方法
本発明の一実施形態に係るデータ処理方法は、第1実施形態のデータ処理方法において、学習データ生成工程S2の後に、機械学習設定工程を備えることができる。機械学習設定工程では、ユーザがデータ処理において使用する機械学習のフレームワークの選択やネットワークを設定することができる。
【0089】
3.4 逆解析システム
本発明の一実施形態に係る逆解析システムは、2次元または3次元の推定比抵抗構造を算出することができる。この場合、第1実施形態における学習データ生成部20で生成したデータをグリッドデータの1つとして、2次元または3次元学習データに拡張することで、実現可能である。
【0090】
4. 実施例
以下、本発明に係る情報処理装置1を用いたネットワークモデルの検証結果について説明する。
【0091】
4.1 概要
本検証では、ヘリコプタで曳航する空中周波数領域電磁探査法を想定し、検証データを用いて、構築されたネットワークモデルを評価した。また、本発明のデータ処理方法を用いた場合と、単純構造のみを使用する従来のデータ処理方法を用いた場合とを、誤差関数(目的変数(比抵抗構造)の平均二乗誤差)による比較を行った。なお、本発明に係るデータ処理方法では、学習用比抵抗構造データとして平滑化前比抵抗構造データおよび平滑化比抵抗構造データの2種類を用いて、経験的に算出されたノイズを付したノイズ付き学習データを生成した。
【0092】
本検証おいて使用したパラメータ設定を表1に示す。また、本発明に係るデータ処理方法で使用された学習用比抵抗構造データの例を図8に、従来のデータ処理方法で使用された学習用比抵抗構造データの例を図9に示す。
【表1】
【0093】
4.2 結果
本発明のデータ処理方法に係る学習曲線および検証誤差を図10に、従来のデータ処理方法係る学習曲線および検証誤差を図11に示す。図10より、本発明のデータ処理方法により構築されたネットワークモデルは、学習に伴い検証データの平均二乗誤差が減少し、過学習が起きていないことが確認された。また、従来方法との比較の観点では、本発明における平均二乗誤差は、0.16、標準偏差は0.18であり、従来方法における平均二乗誤差は、0.21、標準偏差は0.31であった。したがって、本発明のデータ処理方法の方が従来方法と比較して誤差関数が小さくなる結果となり、より精度が高いネットワークモデルが構築されたことが認められた。
【符号の説明】
【0094】
1:情報処理装置、3:探査装置、
10:制御部、11:記憶部、12:通信部、13:入力部、14:出力部
20:学習データ生成部、21:入力処理部、22:出力制御部、23:機械学習部、
20a:層設定部、20b:区分部、20c:比抵抗設定部、20d:平滑化部、20e:合成部、20f:学習用比抵抗構造データ生成部、20g:使用比抵抗決定部、20h:応答データ算出部、20i:ノイズ付与部
30:電磁場制御部、31:送信部、32:受信部、33:情報処理制御部、34:記憶部、35:通信部、36:入力部、37:出力部、
40:通信バス
B1、B2:境界、G1、G2、G3:グループ
S1:パラメータ設定工程、S2:学習データ生成工程、S3:ネットワークモデル構築工程、S4:測定応答データ読み込み工程、S5:逆解析工程、S6:推定比抵抗構造出力工程、S21:層設定工程、S22:区分工程、S23:比抵抗設定工程、S24:平滑化工程、S25:合成工程、S26:学習用比抵抗構造データ生成工程、S27:使用比抵抗決定工程、S28:応答データ算出工程、S29:ノイズ付与工程
【要約】
【課題】実際の多様な地下構造に対応可能な比抵抗構造を有する学習データを生成する情報処理装置を提供する。
【解決手段】本発明によれば、複数の層によって構成される地下構造を設定する層設定部、複数の層を1層または連続する2以上の層によって構成される1つまたは複数のグループに区分する区分部、1つまたは複数のグループ毎に比抵抗を乱数により決定し、各グループに含まれる各層に当該グループに対して決定された比抵抗を設定する比抵抗設定部、比抵抗が設定された複数の層のうちの1層の比抵抗と1層に隣接する層の比抵抗とを用いた平滑化処理を各層毎に行い各層に平滑化比抵抗を設定する平滑化部、および、比抵抗または平滑化比抵抗が設定された複数の層に基づき地下構造が規定された学習用比抵抗構造データを生成する学習用比抵抗構造データ生成部、を備える情報処理装置が提供される。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11