(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20231116BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20231116BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20231116BHJP
C22B 3/42 20060101ALI20231116BHJP
C01D 15/08 20060101ALI20231116BHJP
C01D 15/02 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B3/44 101A
C22B3/22
C22B3/42
C22B3/44 101Z
C01D15/08
C01D15/02
(21)【出願番号】P 2023527762
(86)(22)【出願日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2022048492
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2022008265
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022012433
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 博人
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-113147(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108675323(CN,A)
【文献】国際公開第2020/212363(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0146476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
当該リチウム塩を含む水性液中にリン酸リチウム及び水酸化アルミニウムを生成させる、リン酸リチウム及び水酸化アルミニウム生成工程を含むことを特徴とするリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
リン酸アルミニウム及びアルカリ金属水酸化物を、リチウム塩を含む水性液に添加し、リン酸リチウム及び水酸化アルミニウムを含む固形物を生成させるリン酸化工程と、
前記固形物を分離する第1の固液分離工程と、
前記第1の固液分離工程で分離された固形物を水に懸濁させて得られた懸濁液に鉱酸を添加して、当該懸濁液のpHを2~3に調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程で得られたリン酸アルミニウムとリチウム塩水溶液を固液分離する第2の固液分離工程と、
前記第2の固液分離工程で得られたリチウム塩水溶液から、炭酸リチウム及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つとしてリチウムを分離するリチウム分離工程を含み、
前記第2の固液分離工程で得られるリン酸アルミニウムを前記リン酸化工程で再利用することを特徴とする、リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【請求項3】
請求項2に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
前記リチウム分離工程が、前記第2の固液分離工程で得られたリチウム塩水溶液を炭酸化して炭酸リチウムを得る炭酸化工程を含むことを特徴とする、リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【請求項4】
請求項2に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
前記リチウム分離工程が、前記第2の固液分離工程で得られたリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて膜電解し水酸化リチウム水溶液を得る膜電解工程を含むことを特徴とする、リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【請求項5】
請求項4に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
前記膜電解工程で使用される電力として再生可能エネルギーを使用することを特徴とする、リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【請求項6】
請求項5に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
前記膜電解工程で使用される電力として太陽光発電及び風力発電からなる群から選ばれる少なくとも1つを使用することを特徴とする、リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【請求項7】
請求項2~6のいずれか1項に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
前記pH調整工程で使用される前記鉱酸は、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする、リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【請求項8】
請求項1に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
リチウム塩をリチウムとして0.1~70g/Lの範囲で含み、原料となる第1のリチウム塩水溶液
にアルミニウム塩とリン酸とを添加し、pHを8~14の範囲に調整することにより前記リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリー
を調整する前記リン酸リチウム及び水酸化アルミニウム生成工程と、
当該第1のスラリーのpHを2~3の範囲に調整し、リン酸アルミニウムの沈殿を得る工程と、
前記リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーから該リン酸アルミニウムの沈殿を濾別して除去し、第2のリチウム塩水溶液を得る工程と、
アルミニウム塩を前記第2のリチウム塩水溶液に添加して得られる第2のスラリーからリン酸アルミニウムの沈殿を濾別して除去し、高純度リチウム塩水溶液を得る工程を含み、
該第2のスラリーを下記条件(1)又は(2)を満た
すように調製することを特徴とするリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
条件(1):4.5≦第2のスラリーのpH≦7
条件(2):7<第2のスラリーのpH≦8、かつAl/P≧3
ここで、Alは第2のスラリーに含まれる化合物中の元素としてのアルミニウムの質量を示し、Pは第2のスラリーに含まれる化合物中の元素としてのリンの質量を示す。
【請求項9】
請求項
8に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
前記第1のリチウム塩水溶液及び前記第2のリチウム塩水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1つに、前記第1のスラリー及び前記第2のスラリーからなる群から選ばれる少なくとも1つから濾別された前記リン酸アルミニウムの沈殿を添加することを特徴とするリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【請求項10】
請求項8に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
前記第1のリチウム塩水溶液から得られる前記リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーのpHを2~3の範囲に調整する前に、該リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーから該リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を濾別し、濾別された該リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を該第1のリチウム塩水溶液よりも少量の水に分散させて、濃縮されたリン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーを得ることを特徴とするリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【請求項11】
請求項8~
10のいずれか1項に記載されたリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法であって、
前記第2のスラリーから50℃以下でリン酸アルミニウムを生成する工程を含むことを特徴とするリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムはリチウムイオン二次電池等のリチウムイオン電池の原料として注目されており、その供給源としては、廃リチウム電池からリサイクルされるものの他、鉱物、塩水、海水等が知られている。前記塩水は天然の塩湖から得られ、通常、塩化リチウムの形態でリチウムを含有している。前記塩水中に含有されるリチウムの濃度は1g/L程度である。
【0003】
そこで、天然の塩湖から得られる前記塩水を露地の蒸発池に供給し、1年以上かけて自然蒸発させて濃縮し、Mg、Ca、B等の不純物を除去した後、炭酸リチウムを析出させて回収することが行われている。しかし、前記塩水を自然蒸発により濃縮する方法は、前記塩水の濃縮に長時間を要する上、天候等の自然条件の影響を受けやすく、更には濃縮過程でリチウムが他の不純物と塩を形成して失われる、硫酸塩が前記塩水に溶解している場合、硫酸リチウムは水に対する溶解度が小さく、当該塩水中のリチウムは硫酸リチウムとして析出してしまうから、当該塩水からリチウムを回収しきれないという問題がある。
【0004】
一方、前記塩水から、炭酸リチウムを回収する方法として、前記塩水にリン、リン酸又はリン酸塩を添加してリン酸リチウムを生成させて濃縮する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の方法は、前記リン酸リチウムにアルミニウム塩を添加して、該リン酸リチウムと該アルミニウム塩とを含むスラリーを調製し、該スラリーのpHを3.8~4.6の範囲に調整することにより該スラリーに含まれるリン酸イオン(PO4
3-)とアルミニウムイオン(Al3+)をリン酸アルミニウム(AlPO4)として沈殿させた後、リン酸アルミニウム(AlPO4)を濾別して除去し、粗製リチウム塩水溶液を得るというものである。特許文献1の記載によれば、前記粗製リチウム塩水溶液は更にpH調整、イオン交換膜を用いる処理等により、不純物を除去して精製し、高純度リチウム塩水溶液とし、該高純度リチウム塩水溶液に炭酸ナトリウム等の炭酸塩を添加して炭酸リチウムを得るとされている。
また、特許文献1には、前記アルミニウム塩として、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、及び硝酸アルミニウムの4種の化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国特許出願公開第108675323号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法では、リン酸リチウムとアルミニウム塩とを含むスラリーのpHを調整し、沈殿するリン酸アルミニウム(AlPO4)の濾過性に難があり、当該リン酸アルミニウムを濾別する操作に長時間を要し、当該方法を実施する設備が大きくなるという不都合がある。
【0008】
近年、リチウム塩が溶解している水性液から短時間で、小さな設備を使用してリチウムを回収する方法が希求されていたが、そのような方法は提供されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、リチウム塩が溶解している水性液から短時間で、小さな設備を使用してリチウムを回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、リチウム塩を含む水性液中に水酸化アルミニウムを生成させる水酸化アルミニウム生成工程を含むリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法が、前記課題を解決できることを見出した。本発明は前記知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明は、リチウム塩を含む水性液中にリン酸リチウム及び水酸化アルミニウムを生成させる、リン酸リチウム及び水酸化アルミニウム生成工程を含むリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法に関する。
【0011】
本発明のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法は、好ましくは、リン酸アルミニウム及びアルカリ金属水酸化物水溶液を、リチウム塩を含む水性液に添加し、リン酸リチウム及び水酸化アルミニウムを含む固形物を生成させるリン酸化工程と、前記固形物を分離する第1の固液分離工程と、前記第1の固液分離工程で分離された固形物を水に懸濁させて得られた懸濁液に鉱酸を添加して、当該懸濁液のpHを2~3に調整するpH調整工程と、前記pH調整工程で得られたリン酸アルミニウムとリチウム塩水溶液を固液分離する第2の固液分離工程と、前記第2の固液分離工程で得られたリチウム塩水溶液から、炭酸リチウム及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つとしてリチウムを分離するリチウム分離工程を含み、前記第2の固液分離工程で得られるリン酸アルミニウムを前記リン酸化工程で再利用する。本発明のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法は、前記pH調整工程で得られたリン酸アルミニウムとリチウム塩水溶液を速やかに固液分離できるから、リチウム塩が溶解している水性液から短時間で、小さな設備を使用して多量のリチウムを回収する方法を提供する。
前記リチウム分離工程は、好ましくは前記第2の固液分離工程で得られたリチウム塩水溶液を炭酸化して炭酸リチウムを得る炭酸化工程を含む。
また、前記リチウム分離工程は、好ましくは前記第2の固液分離工程で得られたリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて膜電解し水酸化リチウム水溶液を得る膜電解工程を含む。
前記膜電解工程で使用される電力として、好ましくは再生可能エネルギーを使用する。
前記膜電解工程で使用される電力として、より好ましくは太陽光発電及び風力発電からなる群から選ばれる少なくとも1つを使用する。
前記pH調整工程で使用される前記鉱酸は、好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0012】
本発明のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法は、好ましくは、リチウム塩をリチウムとして0.1~70g/Lの範囲で含み、原料となる第1のリチウム塩水溶液にアルミニウム塩とリン酸とを添加し、pHを8~14の範囲に調整することにより前記リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーを調整する前記リン酸リチウム及び水酸化アルミニウム生成工程と、当該第1のスラリーのpHを2~3の範囲に調整し、リン酸アルミニウムの沈殿を得る工程と、前記リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーから該リン酸アルミニウムの沈殿を濾別して除去し、第2のリチウム塩水溶液を得る工程と、アルミニウム塩を前記第2のリチウム塩水溶液に添加して得られる第2のスラリーからリン酸アルミニウムの沈殿を濾別して除去し、高純度リチウム塩水溶液を得る工程を含み、該第2のスラリーを下記条件(1)又は(2)を満たすように調製する。
条件(1):4.5≦第2のスラリーのpH≦7
条件(2):7<第2のスラリーのpH≦8、かつAl/P≧3
ここで、Alは第2のスラリーに含まれる化合物中の元素としてのアルミニウムの質量を示し、Pは第2のスラリーに含まれる化合物中の元素としてのリンの質量を示す。
好ましくは、前記第1のリチウム塩水溶液から得られる前記リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーのpHを2~3の範囲に調整する前に、好ましくは、該リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーから該リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を濾別し、濾別された該リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を該第1のリチウム塩水溶液よりも少量の水に分散させて、濃縮されたリン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーを得る。
本発明のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法は、より好ましくは、前記第2のスラリーから50℃以下でリン酸アルミニウムを生成する工程を更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法の一実施態様を示す説明図。
【
図2】本発明のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法のリチウム分離工程の一実施態様を示す説明図。
【
図3】本発明のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法に用いるイオン交換膜電解槽の構造を示す説明的断面図。
【
図4】本発明のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法の別の実施態様を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法(以下、本発明の回収方法と称する場合がある)は、当該リチウム塩を含む水性液中に水酸化アルミニウムを生成させる水酸化アルミニウム生成工程を含む。
【0015】
添付の図面を参照しながら本発明の1つの実施態様について詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の回収方法の1つの実施態様(以下、実施態様1と称する場合がある)は、例えばリチウム塩を含む水性液1を出発物質とする。前記水性液1は、溶媒の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%が水で構成される液体である。前記水性液1として、例えば水溶液、水分散液、水乳化液等が挙げられる。好ましい前記水性液1はリチウム塩が溶解している水溶液、より好ましい前記水性液1は塩湖、海水、及び汽水からなる群から選ばれる少なくとも1つ由来の鹹水、より好ましい前記水性液1は塩湖由来の鹹水である。
【0016】
<不純物除去工程>
塩湖由来の鹹水のように、前記水性液1がカルシウム、マグネシウム、及びホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む場合、実施態様1は、これらの金属を除去する不純物除去工程(STEP A)を含んでいてよい。
【0017】
前記不純物除去工程は特定の方法に限定されない。前記不純物除去工程の1つの実施態様は以下の通りである。
前記水性液1がカルシウム、マグネシウム、及びホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む場合、これらは前記水性液1から、例えば特許第6122944号公報に示された方法で除去されてよい。すなわち前記水性液1にアルカリ金属水酸化物及びその水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1つを混合し、マグネシウムを水酸化マグネシウムとして生成できる。この時、前記アルカリ金属水酸化物が混合された塩水のpHを8.5~10.5に維持させ、ホウ素(例えば、ホウ素イオン)を水酸化マグネシウムに吸着させてマグネシウムとホウ素を共沈させることができる。ホウ素が吸着して沈殿した水酸化マグネシウムと塩水を分離させるため、ろ過等の固液分離によりマグネシウムとホウ素が同時に回収され、濾液が得られる。前記濾液にアルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属炭酸塩(例えば、NaOHまたは炭酸塩を単独または混合して)を混合し、前記濾液のpHを12以上に維持させてカルシウムを沈殿させることができる。前記濾液と混合される前記アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属炭酸塩の種類に応じて水酸化カルシウム又は炭酸カルシウムが沈殿し、カルシウムが前記水性液1から除去される。
前記アルカリ金属水酸化物のアルカリ金属はナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。前記アルカリ金属は、好ましくはナトリウム、及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくはナトリウム、又はカリウムであり、更に好ましくはナトリウムである。
【0018】
<リン酸化工程>
実施態様1は、リン酸アルミニウム及びアルカリ金属水酸化物(MOH)水溶液を、必要に応じてカルシウム、マグネシウム、及びホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1つが除去された前記水性液に添加し、リン酸リチウム及び水酸化アルミニウムを含む固形物2を生成させるリン酸化工程(STEP 1)を含む。塩化アルカリ金属(MCl)、硫酸アルカリ金属(M2SO4)等のアルカリ金属塩が、前記固形物(リン酸リチウム及び水酸化アルミニウム)2が生成した前記水性液に溶解している。
前記アルカリ金属水酸化物のアルカリ金属はナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。前記アルカリ金属は、好ましくはナトリウム、及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、より好ましくはナトリウムである。
【0019】
<第1の固液分離工程>
実施態様1は、前記リン酸化工程で生成した前記固形物2を固液分離する第1の固液分離工程(STEP 2)を含む。前記第1の固液分離工程として、例えばろ過が挙げられる。
【0020】
<pH調整工程>
実施態様1は、前記第1の固液分離工程で分離された前記固形物2は洗浄されてもよい。実施態様1は、前記固形物2を水に懸濁させて得られた懸濁液に鉱酸を添加して、当該懸濁液のpHを2~3に調整するpH調整工程(STEP 3)を含む。前記鉱酸は、好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、更に好ましくは塩酸、硫酸、又は硝酸であり、特に好ましくは塩酸である。リン酸アルミニウムが分散している塩化リチウム等のリチウム塩の水溶液が前記pH調整工程で得られる。
【0021】
<第2の固液分離工程>
実施態様1は、前記pH調整工程で得られたリン酸アルミニウムとリチウム塩水溶液を固液分離する第2の固液分離工程(STEP 4)を含む。前記第2の固液分離工程として、例えばろ過が挙げられる。前記第2の固液分離工程で得られるリン酸アルミニウムは、前記pH調整工程において未反応である微量の水酸化アルミニウムを含み、短時間で固液分離可能であり、固液分離されたリン酸アルミニウムは前記リン酸化工程で再利用される。
実施態様1は、前記第2の固液分離工程でリン酸アルミニウムを分離して得られるリチウム塩水溶液に、好ましくは第2のpH調整工程でアルカリ金属水酸化物(M1OH)水溶液を添加し、前記リチウム塩水溶液のpHを調整する第2のpH調整工程(STEP B)を含んでいてよい。前記リチウム塩水溶液のpHは、好ましくは4.5~8、より好ましくは5~7の範囲に調整される。前記アルカリ金属水酸化物のアルカリ金属はリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。前記アルカリ金属は、好ましくはナトリウム、及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、より好ましくはリチウム又はナトリウムである。
【0022】
<リチウム分離工程>
実施態様1は、前記第2の固液分離工程で得られた、必要に応じてpHが調製されたリチウム塩水溶液から、炭酸リチウム及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つとしてリチウムを分離するリチウム分離工程(STEP 5)を含む。前記リチウム分離工程の一実施態様を
図2に示す。
【0023】
<炭酸化工程>
前記リチウム分離工程は、特定の方法に限定されない。前記リチウム分離工程は、好ましくは前記第2の固液分離工程で得られたリチウム塩水溶液を炭酸化して炭酸リチウム3を得る炭酸化工程(STEP 5-1)を含む。前記炭酸化工程では、炭酸アルカリ金属塩(炭酸リチウムを除く)が前記リチウム塩水溶液へ添加される。
【0024】
前記炭酸アルカリ金属塩のアルカリ金属は、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つである。前記アルカリ金属は、好ましくはナトリウム、及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、より好ましくはナトリウムである。
【0025】
<膜電解工程>
前記リチウム分離工程は、前記第2の固液分離工程で得られ、必要に応じて前記第2のpH調整工程(STEP B)に付された前記リチウム塩水溶液を濃縮する濃縮工程(STEP C)を含んでいてよい。前記濃縮工程を、例えば逆浸透膜(RO膜)を用いて行うことができる。
【0026】
また、前記リチウム分離工程は、前記第2の固液分離工程で得られ、必要に応じて前記第2のpH調整工程(STEP B)及び前記濃縮工程(STEP C)からなる群から選ばれる少なくとも1つに付された前記リチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて膜電解し水酸化リチウム水溶液を得る膜電解工程(STEP 5-2)を含んでいてもよい。
【0027】
前記膜電解工程を、例えば
図3に示す膜電解槽11を用いて行うことができる。
膜電解槽11は、一方の内側面に陽極板12を備え、陽極板12と対向する内側面に陰極板13を備え、陽極板12は電源の陽極14に接続され、陰極板13は電源の陰極15に接続されている。また、膜電解槽11は、イオン交換膜16により、陽極板12を備える陽極室17と、陰極板13を備える陰極室18とに区画されている。
【0028】
膜電解槽11では、陽極室17に前記リチウム塩水溶液を供給して膜電解を行うと、塩化物イオンが陽極板12上で塩素ガス(Cl
2)を生成する。一方、リチウムイオン等のアルカリ金属イオンはイオン交換膜16を介して陰極室18に移動する。なお、
図3には、塩化リチウムが溶解している前記リチウム塩水溶液の膜電解が示されている。
【0029】
陰極室18では水(H2O)が水酸化物イオン(OH-)と水素イオン(H+)とに電離し、水素イオンが陰極板13上で水素ガス(H2)を生成する一方、水酸化物イオンとリチウムイオン等のアルカリ金属イオンから水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液を生成する。前記アルカリ金属水酸化物水溶液を前記第2のpH調整工程(STEP B)で用いてよい。
【0030】
前記膜電解工程に要する電力として、例えば再生可能エネルギー、好ましくは太陽光発電及び風力発電からなる群から選ばれる少なくとも1つが使用される。
【0031】
前記膜電解工程で生成した水素ガス(H
2)と塩素ガス(Cl
2)を反応させ、塩酸を得ることができる。
図3には示されていないが、前記リチウム塩水溶液が硫酸イオンを含む場合、陽極室17で硫酸を得ることができる。前記リチウム塩水溶液が硝酸イオンを含む場合、陽極室17で硝酸を得ることができる。すなわち、前記膜電解工程で鉱酸4を得ることができ、当該鉱酸4は前記pH調整工程(STEP 3)に用いてよい。
【0032】
(水酸化リチウム一水和物の分離)
前記リチウム分離工程は、前記膜電解工程で得られた前記アルカリ金属水酸化物水溶液を蒸発濃縮して水酸化リチウム一水和物5を晶析する晶析工程(STEP D)を含んでいてよい。
【0033】
<炭酸リチウムの分離>
前記リチウム分離工程は、二酸化炭素を前記膜電解工程で得られた前記水酸化リチウム水溶液に吹き込み、炭酸リチウム6を生成させる第2の炭酸化工程(STEP E)を含んでいてもよい。前記第2の炭酸化工程で得られるスラリーをろ過等により固液分離して得られるリチウム塩水溶液は、前記濃縮工程(STEP C)で濃縮されてよい。
【0034】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の別の実施態様(以下、実施態様2と称する場合がある)について詳細に説明する。
<リン酸アルミニウムの沈殿を得る工程>
図4に示すように、実施形態2のリチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法では、まず、
図4のSTEP1で、第1のリチウム塩水溶液としての低濃度リチウム(Li)塩水溶液に、アルミニウム(Al)塩とリン酸(H
3PO
4)とを添加する。前記低濃度Li塩水溶液は、塩化リチウム等のリチウム塩を、リチウムとして0.1~70g/Lの範囲で含んでいる。このような低濃度Li塩水溶液として、例えば、塩湖、海水、又は汽水から得られる天然の塩水、廃リチウムイオン電池の回収工程から得られる低濃度リチウム塩水溶液等を用いることができる。前記低濃度Li塩水溶液に添加するAl塩は、Al塩であればどのようなものであってもよい。Al塩は、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び硝酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び硝酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、更に好ましくは塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、又は硝酸アルミニウムであり、特に好ましくは塩化アルミニウムである。
【0035】
次に、STEP2で、Al塩とH3PO4とが添加された前記低濃度Li塩水溶液のpHを8~14、好ましくは10~11の範囲に調整してよい。STEP2における前記pH調整は、Al塩とH3PO4とが添加された前記低濃度Li塩水溶液に、例えば、アルカリ金属水酸化物、及びその水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1つを添加することにより行うことができる。前記アルカリ金属水酸化物のアルカリ金属はナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つである。前記アルカリ金属は、好ましくはナトリウム、及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、より好ましくはナトリウムである。
【0036】
このようにすると、Al塩とH3PO4とが添加された前記低濃度Li塩水溶液中で、リン酸リチウム(Li3PO4)と水酸化アルミニウム(Al(OH)3)が生成し、Li3PO4とAl(OH)3との混合物を含む第1のスラリーを得ることができる。
【0037】
次に、STEP3で、前記第1のスラリーのpHを2~3の範囲に調整する。STEP2における前記pH調整は、例えば、塩酸または硫酸を添加することにより行うことができる。このようにすると、Li3PO4とAl(OH)3とからリン酸アルミニウム(AlPO4)が生成し、沈殿する。
【0038】
<第2のリチウム塩水溶液を得る工程>
そこで、次に、STEP4で、前記第1のスラリーから前記AlPO4を第1の固液分離により濾別して除去することにより、第2のリチウム塩水溶液としての濾液を得ることができる。このとき、前記AlPO4は前記第1のスラリーから生成するので未反応のAl(OH)3を微量ながら含んでおり、この結果として前記AlPO4の濾過性が良くなり、前記濾別する操作を短時間で行うことができると考えられる。
【0039】
なお、実施形態2では、STEP2で得られたLi3PO4とAl(OH)3との混合物を含む前記第1のスラリーは、STEP3で前記第1のスラリーのpHを2~3の範囲に調整する前に、固液分離によりLi3PO4とAl(OH)3とを濾別し、前記低濃度Li塩水溶液よりも少量の水に再分散させることにより濃縮してもよい。前記第1のスラリーを濃縮することにより、STEP4で、該第1のスラリーから前記AlPO4を前記濾別する操作を更に短時間で行うことができる。
【0040】
STEP4で得られた前記濾液は、STEP3において塩酸を添加することにより前記pH調整を行う場合には塩化リチウム水溶液であり、STEP3において硫酸を添加することにより前記pH調整を行う場合には硫酸リチウム水溶液である。また、STEP4で分離された微量のAl(OH)3を含む前記AlPO4(AlPO4とAl(OH)3との混合物)は、STEP1に戻すことができる。
【0041】
<高純度リチウム塩水溶液を得る工程>
次に、STEP5で、STEP4で得られた前記濾液にAl塩を添加し、第2のスラリーを得る。STEP5で前記濾液に添加するAl塩は、STEP1で添加されるAl塩と同様、Al塩であればどのようなものであってもよい。
STEP5で添加されるAl塩の質量を、後述するSTEP6で調整される前記第2のスラリーのpHに応じて調整する。
【0042】
(4.5≦第2のスラリーのpH≦7の場合のAl塩の添加量)
下記条件(1)が満たされる場合、STEP5で添加されるAl塩の質量を、下記Al/Pが好ましくは1~5,より好ましくは2~4、更に好ましくは2~3になるように調整する。
条件(1):4.5≦第2のスラリーのpH≦7
【0043】
STEP5で添加されるAl塩が上記範囲であると、後述するSTEP7の第2の固液分離で得られるリチウム塩水溶液中の不純物(リン及びアルミニウム)の濃度が小さくなり、更に前記第2のスラリー中に生成するAlPO4の量も適量で、後述するSTEP7の第2の固液分離が効率的に実施される。
【0044】
(7<第2のスラリーのpH≦8の場合のAl塩の添加量)
また、下記条件(2)が満たされように、STEP5で添加されるAl塩の質量を調整する。
条件(2):7<第2のスラリーのpH≦8、かつAl/P≧3
ここで、Alは第2のスラリーに含まれる化合物中の元素としてのアルミニウムの質量を示し、Pは第2のスラリーに含まれる化合物中の元素としてのリンの質量を示す。
【0045】
STEP5で添加されるAl塩が少なすぎる場合、前記第2のスラリー中にAlPO4が安定的に生成せず、後述するSTEP7の第2の固液分離で得られるリチウム塩水溶液中のリンの濃度が大きくなりすぎる。またSTEP5で添加されるAlが多すぎる場合、前記第2のスラリー中にAlPO4及びAl(OH)3が大量に生成し、後述するSTEP7の第2の固液分離が効率的に実施されなくなる。
【0046】
その後、STEP6で、Al塩が添加された濾液のpHを、例えばアルカリ金属水酸化物、及びその水溶液の少なくとも1つを添加して4.5~8の範囲に調整する。前記アルカリ金属水酸化物については、STEP2で使用されるアルカリ金属水酸化物と同様である。前記Al塩は、前記濾液に溶解しているリン酸塩と反応し、AlPO4が安定的に生成する。
【0047】
前記反応は、好ましくは50℃以下で行われる。したがって、STEP6で前記濾液にAl塩を添加して得られるスラリーは、AlPO4及びAl(OH)3を含む。さらに前記スラリー中のリンが該Al(OH)3に吸着される。
【0048】
次に、STEP7で、前記第2のスラリーからAlPO4と、リンが吸着しているAl(OH)3とを第2の固液分離により濾別して除去することにより、前記不純物としてのリン及びアルミニウムの濃度が低減された高純度リチウム塩水溶液を得ることができる。前記高純度リチウム塩水溶液中のリン及びAlの濃度は、それぞれ1mg/L以下、0.1mg/L以下である。STEP7で、濾別されたAlPO4と微量のAl(OH)3との混合物はリチウムを含んでいるので、STEP1及びSTEP5の少なくとも1つに戻すことができる。その結果、リチウムの回収率を向上させられる。
【0049】
実施形態2で得られた前記高純度リチウム塩水溶液には、STEP8で、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩を添加することにより、炭酸リチウムを得ることができる。前記アルカリ金属炭酸塩のアルカリ金属は、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つである。前記アルカリ金属は、好ましくはナトリウム、及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、より好ましくはナトリウム又はカリウムであり、更に好ましくはナトリウムである。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定された。
<実施例1及び2の水溶液中のイオンの含有量>
実施例1及び2の水溶液中のイオンの含有量をMetrohm社製イオンクロマトグラフ(IC)により測定した。
【0052】
<炭酸リチウム中の不純物の含有量>
炭酸リチウム中の不純物の含有量をPerkinElmer社製誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)Optima8300により測定した。
【0053】
<実施例3~6及び参考例1~4の水溶液中の各元素の濃度の測定>
実施例3~6及び参考例1~4の水溶液中の各元素の濃度を、PerkinElmer社製ICP発光分光分析装置により測定した。
【0054】
[実施例1]
塩湖由来の鹹水の模擬液として、当該模擬液1kg当たり0.70gのLi、5.45gのK、100.52gのNa、151.61gのCl、及び20.88gのSO4をイオンとして含む水溶液100kgに、450gのリン酸アルミニウムを溶解し、更に水酸化ナトリウムを添加して水溶液のpHを10.5に調整し、反応を行って白色スラリーAを得た。次に前記白色スラリーAを濾過し、洗浄して含水率55%の白色ケーキA1380gを得た。前記白色ケーキAを750mLの純水に懸濁させ、35質量%の塩酸を添加して、懸濁液のpHを2.5に調整し、当該懸濁液を60℃に加熱して反応を行い、白色スラリーBを得た。前記白色スラリーBを濾過し、洗浄して含水率60%の白色ケーキB1126gと、ろ液及び洗浄液を得た。前記ろ液及び洗浄液を水酸化リチウムでpH7に調整後、濾過してリチウム塩溶液3850mLを得た。500gの炭酸ナトリウムを940mlの水に溶解した水溶液を当該リチウム塩溶液(塩化リチウム濃度95.4g/L)に添加して60℃に加熱し、反応を行った。得られた固形分を濾過し、洗浄して含水炭酸リチウムを得た。前記含水炭酸リチウムを500℃で乾燥し、257gの炭酸リチウムを得た。リチウムの回収率は69%であった。前記炭酸リチウム中のナトリウムの含有量は200ppm未満、カリウムの含有量は10ppm未満、アルミニウムの含有量は10ppm未満、リンの含有量は10ppm未満、塩素含有量は50ppm未満、硫酸イオンの含有量はSO4として400ppm未満、水の含有量は0.1質量%未満であった。
【0055】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた塩化リチウム水溶液(塩化リチウム濃度は200g/L)を、イオン交換膜(Chemours社製Nafion N324)を用いて、電流密度40A/dm2、電極面積0.7dm2の条件下で膜電解し、6.2質量%の水酸化リチウム水溶液1670gを得た。前記膜電解工程における電流効率は83%であった。
【0056】
前記6.2質量%の水酸化リチウム水溶液800gを分取し、水溶液の80質量%を晶析して水酸化リチウム一水和物の結晶70g(乾燥後質量)を得た。前記水酸化リチウム一水和物中のナトリウム含有量は20ppm未満、アルミニウムの含有量は5ppm未満、リンの含有量は5ppm未満であった。
前記6.2質量%の水酸化リチウム水溶液800gを分取し、炭酸ガスを吹き込み、60℃で1時間加温し濾過洗浄して、炭酸リチウム68g(乾燥後重量)を得た。前記炭酸リチウム中のナトリウム含有量は50ppm未満、アルミニウムの含有量は5ppm未満、リンの含有量は5ppm未満であった。
【0057】
[実施例3]
本実施例では、まず、イオン交換水1.5Lに塩化リチウム27.5gを添加し、第1のリチウム塩水溶液として、3g/Lのリチウム(Li)を含む低濃度リチウム水溶液を調製した。
次に、
図4に示すSTEP1で、前記低濃度リチウム水溶液に、塩化アルミニウム6水和物54.8gと、85質量%リン酸26.2gを添加し、液温を60℃に保持して攪拌した。
【0058】
次に、
図4に示すSTEP2で、塩化アルミニウム6水和物及びリン酸を添加した前記低濃度リチウム水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、攪拌してpHを10に調整した。この結果、リン酸リチウム(Li
3PO
4)と水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)との混合物を含むスラリーAを得た。
次に、前記スラリーAを、減圧濾過により固液分離した。濾別された沈殿物をイオン交換水で洗浄し、リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む含水沈殿物281gを得た。
【0059】
次に、前記含水沈殿物131gに、20g/Lのリチウムを含むリチウム水溶液100mLを添加して、攪拌することにより再分散させ、リン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む濃縮されたスラリーBを得た。
次に、
図4に示すSTEP3で、前記スラリーBの液温を60℃に保持して、塩酸を添加し、前記スラリーBのpHを2.5に調整した。この結果、リン酸アルミニウム(AlPO
4)と水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)との混合物を含むスラリーCを得た。
【0060】
次に、
図4に示すSTEP4で、前記スラリーCを、減圧濾過により固液分離した。濾別された沈殿物をイオン交換水で洗浄し、リン酸アルミニウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む含水沈殿物と、第2のリチウム塩水溶液としての濾液を得た。
前記濾液は、20g/Lのリチウム、100mg/Lのリン、及び38mg/Lのアルミニウムを含んでいた(上記Al/P(質量比)=0.4)。0.5Lの前記濾液に、0.38gの塩化アルミニウム6水和物を添加し(STEP5)、更に5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して得た第2のスラリーのpHを6.2に調整し(STEP6)、22℃で1時間程度攪拌して、上記Al/P(質量比)=2.5のスラリーDを得た。該スラリーDをSTEP4と同じ条件で固液分離し(STEP7)、高純度リチウム塩水溶液を得た。前記リチウム塩水溶液中のリン及びアルミニウムの濃度を表1に示す。
【0061】
[実施例4]
実施例3の第2のスラリーのpHを4.8(5質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更)、該第2のスラリーの攪拌時の液温を24℃とした以外、実施例3と同じ操作をして高純度リチウム塩水溶液を得た。前記リチウム塩水溶液中のリン及びアルミニウムの濃度を表1に示す。
【0062】
[実施例5]
実施例3の第2のスラリーのpHを6.7(5質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更)、該第2のスラリーの攪拌時の液温を24℃とした以外、実施例3と同じ操作をして高純度リチウム塩水溶液を得た。前記リチウム塩水溶液中のリン及びアルミニウムの濃度を表1に示す。
【0063】
[実施例6]
実施例3の第2のスラリーに添加される塩化アルミニウム6水和物の添加量を0.83g、該第2のスラリーのpHを7.4(5質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更)、該第2のスラリーの攪拌時の液温を24℃とした以外、実施例3と同じ操作をして高純度リチウム塩水溶液を得た。当該リチウム塩水溶液中のリン及びアルミニウムの濃度を表1に示す。
【0064】
[参考例1]
実施例3のスラリーCに塩化アルミニウム6水和物を添加せず、実施例3の第2のスラリーのpHを6.6とした(5質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更)以外、実施例3と同じ操作をしてリチウム塩水溶液を得た。当該リチウム塩水溶液中のリン及びアルミニウムの濃度を表1に示す。
【0065】
[参考例2]
実施例3の第2のスラリーのpHを4.3(5質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更)、該第2のスラリーの攪拌時の液温を24℃とした以外、実施例3と同じ操作をしてリチウム塩水溶液を得た。当該リチウム塩水溶液中のリン及びアルミニウムの濃度を表1に示す。
【0066】
[参考例3]
実施例3の第2のスラリーのpHを7.4(5質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更)、該第2のスラリーの攪拌時の液温を24℃とした以外、実施例3と同じ操作をしてリチウム塩水溶液を得た。当該リチウム塩水溶液中のリン及びアルミニウムの濃度を表1に示す。
【0067】
[参考例4]
実施例3の第2のスラリーのpHを8.4(5質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更)、該第2のスラリーの攪拌時の液温を24℃とした以外、実施例3と同じ操作をしてリチウム塩水溶液を得た。当該リチウム塩水溶液中のリン及びアルミニウムの濃度を表1に示す。
【0068】
【0069】
第2のリチウム塩水溶液にAl塩を添加せずに第2の固液分離を行った参考例1で調製されたリチウム塩水溶液には多量のリンが含まれていた。第2のスラリーのpHが低すぎる参考例2、及び第2のスラリーのpHが高すぎる参考例4で調製されたリチウム塩水溶液には多量のリン及びアルミニウムが含まれていた。7<第2のスラリーのpH≦8の時の第2のスラリーのAl/Pが3未満である参考例3で調製されたリチウム塩水溶液には多量のリンが含まれていた。一方、実施例3~6で調製されたリチウム塩水溶液には僅かなリン及びアルミニウムしか含まれず、当該リチウム塩水溶液の純度は非常に高かった。
【0070】
以上の結果から、リチウム塩が溶解している水性液から短時間で、小さな設備を使用してリチウムを回収できることが分かった。
【符号の説明】
【0071】
1…水性液、 2…リン酸リチウム及び水酸化アルミニウム、 3…炭酸リチウム、
4…鉱酸、 5…水酸化リチウム一水和物、 6…炭酸リチウム、 11…膜電解槽、
12…陽極板、 13…陰極板、 14…陽極、 15…陰極、 16…イオン交換膜、
17…陽極室、 18…陰極室。
【要約】
リチウム塩が溶解している水性液から短時間で、小さな設備を使用してリチウムを回収する方法を提供する。リチウム塩を含む水性液からリチウムを回収する方法が、このリチウム塩を含む水性液中に水酸化アルミニウムを生成させる水酸化アルミニウム生成工程を含む。このリチウム回収方法の1つの実施態様では、好ましくは、リン酸アルミニウムを再利用しながらリチウムを回収する。さらにこのリチウム回収方法の別の実施態様では、好ましくは、第1のリチウム塩水溶液から得られるリン酸リチウムと水酸化アルミニウムとの混合物を含む第1のスラリーからリン酸アルミニウムを除去して第2のリチウム塩水溶液を得、アルミニウム塩をこの第2のリチウム塩水溶液に添加して得られる第2のスラリーを特定の条件に調整し、この第2のリチウム塩水溶液からリン酸アルミニウムの沈殿を濾別して除去し、高純度リチウム塩水溶液を得る。