(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】圧電薄膜共振器、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
H03H9/17 F
(21)【出願番号】P 2019036872
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】谷口 眞司
(72)【発明者】
【氏名】西原 時弘
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-340775(JP,A)
【文献】特表2015-501102(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0099122(US,A1)
【文献】特開2018-067902(JP,A)
【文献】特開2017-147719(JP,A)
【文献】特開2015-099988(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0138888(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた第1電極と、
前記第1電極上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられた第2電極と、
前記圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第1電極と前記第2電極とが対向する共振領域において、前記第1電極および前記第2電極の少なくとも一方の電極の前記圧電膜と反対の面に設けられ、前記共振領域の中央領域に設けられた薄膜部と前記中央領域を囲む少なくとも一部に前記共振領域の外周に沿って設けられ前記薄膜部より厚い厚膜部とを有し、弾性定数の温度係数の符号が前記圧電膜の弾性定数の温度係数の符号と反対であ
り、音響インピーダンスが前記圧電膜の音響インピーダンスより小さい絶縁膜と、
前記共振領域において、前記絶縁膜の前記少なくとも一方の電極と反対の面に設けられ、音響インピーダンスが前記絶縁膜の音響インピーダンスより大きな付加膜と、
を備え、
前記絶縁膜は前記第1電極の前記圧電膜と反対の面に設けられた第1絶縁膜を含み、前記第1絶縁膜の厚膜部は前記第1絶縁膜の薄膜部に対し前記基板側に突出する圧電薄膜共振器。
【請求項2】
前記共振領域において、前記第1絶縁膜の前記圧電膜側の面は前記圧電膜と反対の面より平坦である請求項1に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項3】
前記絶縁膜は前記第2電極の前記圧電膜と反対の面に設けられた第2絶縁膜を含み、前記第2絶縁膜の厚膜部は前記第2絶縁膜の薄膜部に対し前記圧電膜と反対側に突出する請求項2に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項4】
前記圧電膜は単結晶である請求項1から3のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項5】
前記圧電膜は多結晶である請求項1から3のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項6】
前記絶縁膜の音響インピーダンスは前記圧電膜の音響インピーダンスより小さい請求項1から5のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項7】
前記付加膜は金属膜である請求項1から6のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器を含むフィルタ。
【請求項9】
請求項8に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜共振器、フィルタおよびマルチプレクサに関し、共振領域内に絶縁膜を有する圧電薄膜共振器、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用に圧電薄膜共振器を有するフィルタやマルチプレクサが用いられている。圧電薄膜共振器は、下部電極、圧電膜および上部電極が積層された積層膜を有している。圧電膜の少なくとも一部を挟み下部電極と上部電極とが対向する領域は弾性波が振動する共振領域である。共振領域内の積層膜内に温度変化を補償するための温度補償膜を設けることで、温度特性を向上させることが知られている(例えば特許文献1から6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-239392号公報
【文献】特開2015-139167号公報
【文献】特開昭58-137317号公報
【文献】特開昭60-16010号公報
【文献】米国特許第6420820号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0266925号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電膜の内部に温度補償膜を設けると電気機械結合係数が低下する。そこで、下部電極の下、下部電極の内部、上部電極の上または上部電極の内部に温度補償膜を設ける。これにより、電気機械結合係数の低下を抑制しかつ温度特性が向上する。しかしながら、Q値等の共振特性の向上は十分でない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、共振特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた第1電極と、前記第1電極上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜上に設けられた第2電極と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第1電極と前記第2電極とが対向する共振領域において、前記第1電極および前記第2電極の少なくとも一方の電極の前記圧電膜と反対の面に設けられ、前記共振領域の中央領域に設けられた薄膜部と前記中央領域を囲む少なくとも一部に前記共振領域の外周に沿って設けられ前記薄膜部より厚い厚膜部とを有し、弾性定数の温度係数の符号が前記圧電膜の弾性定数の温度係数の符号と反対であり、音響インピーダンスが前記圧電膜の音響インピーダンスより小さい絶縁膜と、前記共振領域において、前記絶縁膜の前記少なくとも一方の電極と反対の面に設けられ、音響インピーダンスが前記絶縁膜の音響インピーダンスより大きな付加膜と、を備え、前記絶縁膜は前記第1電極の前記圧電膜と反対の面に設けられた第1絶縁膜を含み、前記第1絶縁膜の厚膜部は前記第1絶縁膜の薄膜部に対し前記基板側に突出する圧電薄膜共振器である。
【0008】
上記構成において、前記共振領域において、前記第1絶縁膜の前記圧電膜側の面は前記圧電膜と反対の面より平坦である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記絶縁膜は前記第2電極の前記圧電膜と反対の面に設けられた第2絶縁膜を含み、前記第2絶縁膜の厚膜部は前記第2絶縁膜の薄膜部に対し前記圧電膜と反対側に突出する構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記圧電膜は単結晶である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電膜は、厚さ方向に延伸する柱状の結晶粒を有する多結晶である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記絶縁膜の音響インピーダンスは前記圧電膜の音響インピーダンスより小さい構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記付加膜は金属膜である構成とすることができる。
【0014】
本発明は、上記圧電薄膜共振器を含むフィルタである。
【0015】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、共振特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は絶縁膜の平面図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、それぞれ実施例1の変形例1および2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、それぞれ実施例1の変形例3および4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図6】
図6(a)から
図6(c)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図8】
図8は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図11】
図11(a)および
図11(b)は、それぞれ実施例1の変形例6および7に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、それぞれ実施例1の変形例8および9に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図14】
図14は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。
【
図15】
図15(a)は、実施例2における送信フィルタの平面図および断面図、
図15(b)は、
図15(a)のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は絶縁膜の平面図である。
図2(a)および
図2(b)は、
図1(a)および
図1(b)のA-A断面図である。
図2(a)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、
図2(b)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。
【0020】
図1(a)および
図2(a)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。基板10の上面に凹部からなる空隙30が設けられている。基板10上に下部電極12が設けられている。下部電極12上に圧電膜14が設けられている。圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は圧電膜14の少なくとも一部を挟む下部電極12と上部電極16とが対向する領域で定義される。共振領域50において、下部電極12と基板10との間に絶縁膜28aが設けられている。絶縁膜28aと基板10との間に付加膜26aが設けられている。積層膜18は、付加膜26a、絶縁膜28a、下部電極12、圧電膜14および上部電極16を備える。共振領域50は平面視において空隙30と重なり、空隙30より小さい。共振領域50内の積層膜18に積層膜18の厚さの略2倍の波長を有する厚み縦振動モードの弾性波が共振する。共振領域50の平面形状は楕円形状である。
【0021】
絶縁膜28aは弾性定数の温度係数の符号が圧電膜14の弾性定数の温度係数の符号と反対である。これにより、絶縁膜28aは温度補償膜として機能し、共振周波数等の周波数温度係数を小さくできる。付加膜26aの音響インピーダンスは絶縁膜28aの音響インピーダンスより大きい。これにより、絶縁膜28aを薄くでき電気機械結合係数を向上できる。付加膜26aは金属膜でも絶縁膜でもよい。付加膜26aが金属膜のとき付加膜26aは、下部電極12と電気的に絶縁されていてもよいし、下部電極12と電気的に接続されていいてもよい。
【0022】
図1(b)および
図2(a)に示すように、絶縁膜28aは薄膜部22aと厚膜部22bを有する。厚膜部22bの厚さtbは薄膜部22aの厚さtaより大きい。薄膜部22aは共振領域50の中央領域に設けられている。中央領域は共振領域50の中心を含む領域である。厚膜部22bは中央領域を囲む少なくとも一部に共振領域50の外周に沿って設けられている。これにより、厚膜部22bが横方向に伝搬する弾性波を反射するため、弾性波のエネルギーが共振領域50から漏れることを抑制する。よって、Q値等が向上する。共振領域50より外側の絶縁膜28aは厚膜部22bでもよいし薄膜部22aでもよい。厚膜部22bにおいて弾性波を反射するため、絶縁膜28aの音響インピーダンスは圧電膜14の音響インピーダンスより小さいことが好ましい。
【0023】
上部電極16上には周波数調整膜および/またはパッシベーション膜として絶縁膜が設けられていてもよい。
【0024】
図1(a)および
図2(b)に示すように、並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16の下層16aと上層16bとの間に、質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。質量負荷膜20を設けることで、直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差を調整することができる。その他の構成は直列共振器Sの
図1(b)と同じであり説明を省略する。
【0025】
基板10は、例えばシリコン基板であり、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等でもよい。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)膜および/またはクロム(Cr)膜であり、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜でもよい。
【0026】
圧電膜14は、例えばC軸配向した窒化アルミニウム膜(AlN)であり、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO3)、水晶等である。圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、スカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン、ジルコニウム(Zr)またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル、ニオブ(Nb)またはバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、ボロン(B)を含んでもよい。
【0027】
絶縁膜28aは、例えば酸化シリコン膜であり、窒化シリコン膜、酸化ゲルマニウム膜等である。絶縁膜28aは酸化シリコンを主成分とし、弗素(F)、水素(H)、CH3、CH2、塩素(Cl)、炭素(C)、窒素(N)、燐(P)および/または硫黄(S)等が添加されていてよい。絶縁膜28aの音響インピーダンスは圧電膜14の音響インピーダンスより小さいことが好ましい。これにより、厚膜部22bにおいて横方向の弾性波を反射させることができる。絶縁膜28aは複数の膜が積層されていてもよい。
【0028】
付加膜26aは例えばルテニウム膜またはクロム膜であり、下部電極12および上部電極16に用いる金属膜でもよいし、窒化アルミニウム膜または酸化アルミニウム膜等の絶縁膜でもよい。
【0029】
[実施例1の変形例1]
図3(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図3(a)に示すように、実施例1の変形例1では、絶縁膜28aは下部電極12および付加膜26aより大きく、下部電極12および付加膜26aの端の外側まで設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0030】
[実施例1の変形例2]
図3(b)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図3(b)に示すように、実施例1の変形例2では、下部電極12の下に絶縁膜28aおよび付加膜26aは設けられていない。上部電極16上に絶縁膜28b、絶縁膜28b上に付加膜26bが設けられている。絶縁膜28bは薄膜部22aおよび厚膜部22bを有している。薄膜部22aは共振領域50の中央領域に設けられ、厚膜部22bは薄膜部22aを囲むように共振領域50の外周に沿って設けられている。絶縁膜28bおよび付加膜26bの材料としては絶縁膜28aおよび付加膜26aで例示した材料を用いる。付加膜26bが金属膜のとき、付加膜26bは上部電極16と電気的に絶縁させていてもよいし、電気的に接続されていてもよい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0031】
[実施例1の変形例3]
図4(a)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図4(a)に示すように、実施例1の変形例3では、下部電極12と付加膜26aとは接触しており、電気的に短絡している。下部電極12の下および上部電極16の上にそれぞれ絶縁膜28aおよび28bが設けられている。絶縁膜28aの下および絶縁膜28bの上にそれぞれ付加膜26aおよび26bが設けられている。絶縁膜28aおよび28bは各々薄膜部22aおよび厚膜部22bを有している。共振領域50内において、絶縁膜28aの厚膜部22bと絶縁膜28bの厚膜部22bとは重なっている。共振領域50内において、絶縁膜28aの厚膜部22bと絶縁膜28bの厚膜部22bとは少なくとも一部が重なっていればよい。絶縁膜28aと28bとは同じ材料からなる膜でもよいし、異なる材料からなる膜でもよい。付加膜26aと26bとは同じ材料からなる膜でもよいし、異なる材料からなる膜でもよい。その他の構成は実施例1および実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0032】
実施例1およびその変形例1、2のように、絶縁膜28aおよび28bは下部電極12の下および上部電極16の上のいずれか一方または両方に設けられていればよい。
【0033】
[実施例1の変形例4]
図4(b)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図4(b)に示すように、実施例1の変形例4では、絶縁膜28aの厚膜部22bの下面は薄膜部22aの下面に対し下に突出している。厚膜部22bと薄膜部22aの上面はほぼ平坦である。絶縁膜28bの厚膜部22bの上面は薄膜部22aの上面に対し上に突出している。厚膜部22bと薄膜部22aの下面はほぼ平坦である。共振領域50より外側は厚膜部22bである。その他の構成は実施例1の変形例3と同じであり説明を省略する。
【0034】
[実施例1の変形例4の製造方法]
図5(a)から
図7(b)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図5(a)に示すように、基板10の上面に凹部からなる空隙30をエッチング法等を用い形成する。
【0035】
図5(b)に示すように、空隙30に犠牲層38を形成する。犠牲層38は酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)または酸化シリコン(SiO
2)等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。犠牲層38の上面には凸部が設けられている。犠牲層38の上面のうち外周領域36bの上面は基板10の上面とほぼ同じ高さである。犠牲層38の上面のうち中央領域36aの上面は、外周領域36bの上面より高い。
【0036】
図5(c)に示すように、基板10および犠牲層38上に付加膜26aを例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い形成する。
【0037】
図6(a)に示すように、付加膜26a上に絶縁膜28aを例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。絶縁膜28aの上面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い平坦化する。
【0038】
図6(b)に示すように、絶縁膜28a上に下部電極12を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。
図6(c)に示すように、下部電極12、絶縁膜28aおよび付加膜26aを例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いパターニングする。このとき、下部電極12、絶縁膜28aおよび付加膜26aの端面と基板10および犠牲層38の上面との角度が鋭角になることが好ましい。
【0039】
図7(a)に示すように、基板10および下部電極12上に圧電膜14を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。
図7(b)に示すように、圧電膜14上に上部電極16、絶縁膜28bおよび付加膜26bを例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。絶縁膜28bは薄膜部22aと厚膜部22bを有するように形成する。付加膜26b、絶縁膜28bおよび上部電極16を例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いパターニングする。その後、犠牲層38を除去することで、
図4(b)の圧電薄膜共振器が形成される。
【0040】
実施例1の変形例4では、絶縁膜28aの厚膜部22bが薄膜部22aに対し下に突出し、共振領域50内の絶縁膜28aおよび下部電極12の上面が略平坦である。このため、圧電膜14を形成するときに、圧電膜14の結晶性を高めることができる。
【0041】
[実施例1の変形例5]
図8は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図8に示すように、実施例1の変形例5では、圧電膜14は単結晶圧電基板であり、例えば単結晶窒化アルミニウム基板、単結晶タンタル酸リチウム基板、単結晶ニオブ酸リチウム基板または単結晶水晶基板である。付加膜26a、絶縁膜28aおよび下部電極12を囲むように絶縁膜24が設けられている。絶縁膜24は例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜または酸化アルミニウム膜等の無機絶縁膜、または樹脂等の有機絶縁膜である。圧電膜14の下面は平坦である。その他の構成は実施例1の変形例4と同じであり説明を省略する。
【0042】
[実施例1の変形例5の製造方法]
図9(a)から
図10(c)は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図9(a)に示すように、圧電膜14として単結晶圧電基板を準備する。圧電膜14上に下部電極12、絶縁膜28aおよび付加膜26aを例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。絶縁膜28aは薄膜部22aと厚膜部22bを有するように形成する。
【0043】
図9(b)に示すように、付加膜26a、絶縁膜28aおよび下部電極12を例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いパターニングする。
図9(c)に示すように、圧電膜14上、付加膜26a、絶縁膜28aおよび下部電極12を取り除いた圧電膜14上に絶縁膜24を形成し、絶縁膜24の上面を例えばCMP法を用い平坦化する。
【0044】
図10(a)に示すように、付加膜26aおよび絶縁膜24の上面に基板10を例えば表面活性化法を用い常温接合する。基板10には凹部が設けられ、凹部内に犠牲層38が設けられている。
図10(b)に示すように、上下を逆にし、圧電膜14を例えばCMP法を用い薄膜化する。
【0045】
図10(c)に示すように、圧電膜14上に上部電極16、絶縁膜28bおよび付加膜26bを例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。絶縁膜28bは薄膜部22aと厚膜部22bを有するように形成する。その後、犠牲層38を除去することで、
図8の圧電薄膜共振器が形成される。
【0046】
実施例1の変形例5では、圧電膜14が単結晶基板である。これにより、圧電薄膜共振器の電気機械結合係数等を向上させることができる。絶縁膜28aの厚膜部22bが薄膜部22aに対し下に突出し、絶縁膜28bの厚膜部22bが薄膜部22aに対し上に突出している。これにより、圧電膜14が単結晶であっても絶縁膜28aに厚膜部22bと薄膜部22aを形成することができる。
【0047】
[実施例1の変形例6]
図11(a)は、実施例1の変形例6に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図11(a)に示すように、実施例1の変形例6では、絶縁膜28aは厚膜部22bを有さず、絶縁膜28aの厚さは略均一である。絶縁膜28bは厚膜部22bおよび薄膜部22aを有している。その他の構成は実施例1の変形例5と同じであり説明を省略する。
【0048】
[実施例1の変形例7]
図11(b)は、実施例1の変形例7に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図11(b)に示すように、実施例1の変形例7では、絶縁膜28bは厚膜部22bを有さず、絶縁膜28bの厚さは略均一である。絶縁膜28aは厚膜部22bおよび薄膜部22aを有している。その他の構成は実施例1の変形例5と同じであり説明を省略する。
【0049】
実施例1の変形例6および7のように、絶縁膜28aおよび28bのいずれか一方は厚膜部22bを有さなくてもよい。
【0050】
[実施例1の変形例8]
図12(a)は、実施例1の変形例8に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図12(a)に示すように、実施例1の変形例8では、基板10の上面は平坦である。空隙30は基板10の上面と付加膜26a(または下部電極12)との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0051】
[実施例1の変形例9]
図12(b)は、実施例1の変形例9に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図12(b)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの高い膜31aと音響インピーダンスの低い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0052】
実施例1およびその変形例1から8のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例9のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。実施例1の変形例1から8において、空隙30の代わりに音響反射膜31を設けてもよい。音響反射層は、空隙30または音響反射膜31を含めばよい。
【0053】
実施例1およびその変形例において、共振領域50の平面形状として楕円形状を例に説明したが、四角形状または五角形状等の多角形状でもよい。
【0054】
[シミュレーション]
絶縁膜28aを有する実施例1の変形例4と絶縁膜28aを有しない比較例1においてQ値を2次元有限要素法を用いシミュレーションした。シミュレーション条件は以下である。
基板10:シリコン基板
付加膜26a:厚さが130nmのクロム膜
絶縁膜28aの薄膜部22a:厚さが140nmの弗素添加の酸化シリコン膜
絶縁膜28aの厚膜部22b:厚さが240nmの弗素添加の酸化シリコン膜
下部電極12:厚さが190nmのルテニウム膜
圧電膜14:厚さが1120nmの窒化アルミニウム膜
上部電極16:厚さが190nmのルテニウム膜
絶縁膜28bの薄膜部22a:厚さが140nmの弗素添加の酸化シリコン膜
絶縁膜28bの厚膜部22b:厚さが240nmの弗素添加の酸化シリコン膜
付加膜26b:厚さが40nmのクロム膜
パッシベーション膜:厚さが50nmの酸化シリコン膜
【0055】
図13は、シミュレーション結果を示す図である。
図13に示すように、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器は比較例1に比べ反共振周波数におけるQ値Qaが大きい。
【0056】
圧電膜14の内部に温度補償膜として機能する絶縁膜を設けると電気機械結合係数が低下する。また、圧電膜14を2回に分けて成膜することになる。圧電膜14をスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する場合、成膜が進むにともない結晶粒が大きくなり結晶性がよくなる。圧電膜14を2回に分けて成膜すると圧電膜14の結晶性が低下する。
【0057】
そこで、実施例1およびその変形例によれば、下部電極12と付加膜26aとの間に絶縁膜28aを設ける、および/または上部電極16と付加膜26bとの間に絶縁膜28bを設ける。絶縁膜28aおよび28bの弾性定数の温度係数の符号は圧電膜14の弾性定数の温度係数に符号と反対であり、付加膜26aおよび26bの音響インピーダンスは絶縁膜28aおよび28bの音響インピーダンスより大きい。これにより、電気機械結合係数の低下を抑制しかつ温度特性が向上する。しかしながら、Q値等の共振特性の向上は十分でない。
【0058】
そこで、共振領域50において、下部電極12(第1電極)および上部電極16(第2電極)の少なくとも一方の電極の圧電膜14と反対の面に設けられ、共振領域50の中央領域に設けられた薄膜部22aと中央領域を囲む少なくとも一部に共振領域50の外周に沿って設けられ薄膜部22aより厚い厚膜部22bとを有する。これにより、横方向に伝搬する弾性波が共振領域50の外側に漏洩することが抑制される。よって、Q値等の共振特性が向上する。
【0059】
絶縁膜28aおよび28bの薄膜部22aの厚さは10nmから500nmが好ましい。これにより、周波数温度係数を小さくできる。厚膜部22bの厚さは、薄膜部22aの厚さより10nmから500nm厚いことが好ましい。これにより、Q値等の共振特性を向上できる。厚膜部22bの厚さは薄膜部22aの厚さの1.1倍から3倍であることが好ましい。これにより、Q値等の共振特性を向上できる。厚膜部22bの幅は弾性波の波長(共振領域における積層膜18の厚さの2倍)の0.1倍から10倍であることが好ましい。共振領域50の大きさは弾性波の波長の1倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましい。
【0060】
絶縁膜28a(第1絶縁膜)は下部電極12の圧電膜14と反対の面に設けられている。絶縁膜28aの厚膜部22bは絶縁膜28aの薄膜部22aに対し基板10側に突出する。これにより、実施例1の変形例4および5のように、共振領域50において、絶縁膜28aの圧電膜14側の面は圧電膜14と反対の面より平坦にできる。
【0061】
これにより、
図7(b)において、圧電膜14を形成するときに、圧電膜14の結晶性を高めることができる。例えば、圧電膜14をスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成すると、圧電膜14は多結晶となる。この場合、下部電極12の上面に凹凸が存在すると、圧電膜14の配向性が低下する。また、圧電膜14の強度が劣化する(例えばクラック等が発生する)。特に、圧電膜14が厚さ方向に延伸する柱状の結晶粒を有する多結晶の場合、圧電膜14の配向性が低下し、クラック等が発生しやすい。そこで、絶縁膜28aの厚膜部22bを基板10側に突出させることで、圧電膜14の配向性を高め結晶性を高めることができる。また、厚膜部22bが補強になるため積層膜18の強度を高めることができる。
【0062】
また、絶縁膜28aの厚膜部22bが上に突出する場合、圧電膜14を単結晶とすることが難しい。
図9(a)から
図10(c)のように、絶縁膜28aの厚膜部22bを基板10側に突出させることで、絶縁膜28aに厚膜部22bを設けることができる。
【0063】
実施例1の変形例4および5のように、絶縁膜28b(第2絶縁膜)は上部電極16の圧電膜14と反対の面に設けられている。絶縁膜28bの厚膜部22bは絶縁膜28bの薄膜部22aに対し圧電膜14と反対側に突出する。これにより、共振領域50において、絶縁膜28bの圧電膜14側の面は圧電膜14と反対の面より平坦にできる。
【0064】
絶縁膜28aおよび28bの音響インピーダンスは圧電膜14の音響インピーダンスより小さい。これにより、厚膜部22bにおいて横方向に伝搬する弾性波を反射し、Q値等の共振特性を向上させることができる。
【0065】
付加膜26aおよび26bは金属膜である。付加膜26aと下部電極12とは絶縁膜28aにより絶縁されていてもよいし、
図4(a)のように電気的に短絡されていてもよい。付加膜26bと上部電極16とは絶縁膜28bにより絶縁されていてもよいし、電気的に短絡されていてもよい。
【実施例2】
【0066】
実施例2はデュプレクサの例である。
図14は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。
図14に示すように、デュプレクサは、送信フィルタ40および受信フィルタ42を備えている。送信フィルタ40は、共通端子Antと送信端子Txとの間に接続されている。受信フィルタ42は、共通端子Antと受信端子Rxとの間に接続されている。共通端子Antとグランドとの間には、整合回路としてインダクタL1が設けられている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。インダクタL1は、送信フィルタ40を通過した送信信号が受信フィルタ42に漏れず共通端子Antから出力されるようにインピーダンスを整合させる。
【0067】
送信フィルタ40は、ラダー型フィルタである。送信端子Tx(入力端子)と共通端子Ant(出力端子)との間に1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。送信端子Txと共通端子Antとの間に1または複数の並列共振器P1からP3が並列に接続されている。並列共振器P1からP3のグランド側は共通にインダクタL2を介し接地されている。直列共振器、並列共振器およびインダクタ等の個数や接続は所望の送信フィルタ特性を得るため適宜変更可能である。直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3の少なくとも1つを実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器とすることができる。
【0068】
図15(a)は、実施例2における送信フィルタの平面図および断面図、
図15(b)は、
図15(a)のA-A断面図である。
図15(a)および
図15(b)に示すように、実施例1に係る圧電薄膜共振器を同一基板10に形成し、ラダー型フィルタとすることができる。圧電膜14に開口36が形成されている。開口36を介し下部電極12と電気的に接続することができる。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。各共振器S1からS4およびP1からP3の共振領域50の大きさおよび形状は、適宜変更可能である。
【0069】
受信フィルタ42は、ラダー型フィルタでもよく、多重モードフィルタでもよい。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方をラダー型フィルタまたはラティス型フィルタとすることができる。また、送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方の少なくとも1つの共振器を実施例1から2およびその変形例の圧電薄膜共振器とすることができる。
【0070】
フィルタが実施例およびその変形例の圧電薄膜共振器を含む。これにより、Q値等の共振特性を向上できる。マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0071】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 基板
12 下部電極
14 圧電膜
16 上部電極
22a 薄膜部
22b 厚膜部
24、28a、28b 絶縁膜
26a、26b 付加膜
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
50 共振領域