(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】液体飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20231116BHJP
A23L 2/66 20060101ALI20231116BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20231116BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/66
A23L2/38 P
A23L2/38 Z
(21)【出願番号】P 2019094566
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-037714(JP,A)
【文献】特開2018-038397(JP,A)
【文献】国際公開第2015/034068(WO,A1)
【文献】BURRINGTON K. J.,Choosing a Dairy Protein Ingredient,Think USA Dairy [online],2014年,[retrieved on 2023.03.13],https://www.thinkusadairy.org/resources-and-insights/resources-and-insights/application-and-technical-materials/choosing-a-dairy-protein-ingredient
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における粘度が50mPa・s以下であり、液体飲料の総質量に対して、硬化ヤシ油を1質量%以上、及びカゼイン:ホエイの質量比が7:3~9:1である乳タンパク質濃縮物を0.1~1.2質量%含む、液体飲料
(ただし、乳タンパク質濃縮物と植物性脂肪又は生クリームとからなり乳糖含有率が1質量%以下である乳代替成分を含有するものを除く)。
【請求項2】
前記液体飲料の総質量に対して、乳脂肪の含有量が0.5質量%以下である、請求項
1に記載の液体飲料。
【請求項3】
25℃における粘度が50mPa・s以下であり、液体飲料の総質量に対して、乳脂肪の含有量が0.5質量%以下であり、硬化ヤシ油を1質量%以上、及びカゼイン:ホエイの質量比が7:3~9:1である乳タンパク質濃縮物を0.1~1.2質量%含む、液体飲料。
【請求項4】
前記乳タンパク質濃縮物を0.2~1.2質量%含み、前記液体飲料の液温を25℃に3ヵ月間維持したときの、目開き200μmの篩を通過しない固体塊の生成量が200g当たり1g以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の液体飲料。
【請求項5】
前記液体飲料の総質量に対して、脱脂粉乳を1質量%以上含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の液体飲料。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の液体飲料を製造する方法であって、硬化ヤシ油、及び前記乳タンパク質濃縮物を含む原料と水を混合する混合工程を有する、液体飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は常温で保存可能な液体飲料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳成分を含有する液体飲料において、脂肪感を付与するために植物性脂肪を含有させる方法が知られている。特に硬化ヤシ油は、比較的安価で、乳脂肪に近い脂肪感が得られるため好適に用いられる。
特許文献1には、インスタントティー又はインスタントコーヒーと、砂糖と、脱脂粉乳と、硬化ヤシ油と、乳化剤と、水と、必要に応じて重曹を混合し、乳化処理して、ミルクティー又はミルクコーヒーを製造した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
常温で保存可能な液体飲料は流通コストを抑えやすい点で有利であり、常温での保存安定性を向上させることにより、賞味期限をより長くすることが可能となる。
しかし、本発明者の知見によれば、硬化ヤシ油を含む液体飲料にあっては、常温で長期間保存されたときに脂肪が凝集して固化する現象が生じやすい。かかる現象は硬化ヤシ油の融点(約32℃)が常温付近にあるためと考えられる。
本発明は、硬化ヤシ油を含み、常温での保存安定性に優れた液体飲料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] 25℃における粘度が50mPa・s以下であり、液体飲料の総質量に対して、硬化ヤシ油を1質量%以上、及びカゼイン:ホエイの質量比が7:3~9:1である乳タンパク質濃縮物を0.1~1.2質量%含む、液体飲料。
[2] 前記液体飲料の液温を25℃に3ヵ月間維持したときの、目開き200μmの篩を通過しない固体塊の生成量が200g当たり1g以下である、[1]の液体飲料。
[3] 前記液体飲料の総質量に対して、脱脂粉乳を1質量%以上含む、[1]又は[2]の液体飲料。
[4] 前記液体飲料の総質量に対して、乳脂肪の含有量が0.5質量%以下である、[1]~[3]のいずれかの液体飲料。
[5] [1]~[4]のいずれかの液体飲料を製造する方法であって、硬化ヤシ油、及び前記乳タンパク質濃縮物を含む原料と水を混合する混合工程を有する、液体飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の液体飲料は、硬化ヤシ油を含みながら、常温での保存安定性に優れる。したがって、常温で長期保存が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本実施形態の液体飲料は、硬化ヤシ油および乳タンパク質濃縮物を含む。
硬化ヤシ油は、完全硬化ヤシ油でもよく、部分硬化ヤシ油でもよい。2種以上を併用してもよい。硬化ヤシ油のヨウ素価は60以下が好ましく、20以下がより好ましい。
液体飲料の総質量に対して、硬化ヤシ油の含有量は1質量%以上であり、1.2質量%以上が好ましく、1.4質量%以上がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、硬化ヤシ油を添加することによる風味の向上効果に優れる。特に乳脂肪に近い脂肪感が向上する。
硬化ヤシ油の含有量の上限は、安定性の点で、液体飲料の総質量に対して3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0008】
乳タンパク質濃縮物は、カゼイン:ホエイの質量比が7:3~9:1であるものを用いる。2種以上を併用してもよい。カゼイン:ホエイの質量比が上記範囲であると、乳に近い風味が得らやすい。
乳タンパク濃縮物の総質量に対して乳タンパク質の含有量は70質量%以上が好ましく、75質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
乳タンパク質濃縮物の具体例としては、MPC(ミルクプロテインコンセントレート)、MPI(ミルクプロテインアイソレート)、MCI(ミセラカゼインアイソレート)、MCC(ミセラカゼインコンセントレート)が挙げられる。
液体飲料の総質量に対して、乳タンパク質濃縮物の含有量は0.1~1.2質量%であり、0.2~0.9質量%が好ましく、0.3~0.8質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると常温保存時の脂肪固化を防止しやすく、上限値以下であると、乳タンパク質濃縮物を添加することによる風味の変化を防止しやすい。
【0009】
本実施形態の液体飲料において、乳風味をより高めるためには、乳タンパク質濃縮物以外の乳成分を配合することが好ましい。乳成分としては、液体飲料中の脂肪の凝集を抑制しやすい点で、脱脂粉乳または脱脂乳を用いることが好ましい。脱脂乳は脱脂粉乳の水溶液に相当する。脱脂乳の添加量は脱脂粉乳に換算して示す。
脱脂粉乳又は脱脂乳を添加する場合、充分な添加効果が得られやすい点で、液体飲料の総質量に対して脱脂粉乳の含有量が1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上がより好ましい。
前記脱脂粉乳の含有量の上限は特に限定ないが、殺菌時の安定性の点では、液体飲料の総質量に対して15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましい。
【0010】
本実施形態の液体飲料に、乳脂肪を含む原料を含有させてもよい。乳脂肪を含む原料としては、例えば牛乳、クリーム、バター、デイリースプレッド等が挙げられる。
保存中の脂肪の凝集を防止しやすい点で、乳脂肪は少ない方が好ましい。液体飲料の総質量に対して、乳脂肪の含有量は0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。ゼロでもよい。
【0011】
本実施形態の液体飲料は、乳化剤を含んでもよい。乳化剤は脂肪の凝集抑制に寄与する。乳化剤の添加量が多いと風味が低下しやすい。
液体飲料の分野で公知の乳化剤を使用できる。例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
液体飲料の総質量に対する乳化剤の含有量は、風味の点で0.2質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。ゼロでもよい。乳化剤の充分な添加効果が得られやすい点では0.02質量%以上が好ましく、0.04質量%以上がより好ましい。
【0012】
本実施形態の液体飲料は、必要に応じてpH調整剤を含んでもよい。液体飲料の分野で公知のpH調整剤を使用できる。例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
液体飲料の25℃におけるpHは6.5~7.5が好ましく、6.7~7.3がより好ましい。前記pHが上記範囲の下限値以上であると殺菌時に凝集が生じにくく、上限値以下であると風味が好ましい。
【0013】
本実施形態の液体飲料は、上記に挙げた原料以外のその他の原料を含んでもよい。
その他の原料として、例えば、コーヒー抽出物、茶(紅茶、緑茶、烏龍茶など)抽出物、果汁、糖類、糖アルコール、甘味料、香料、硬化ヤシ油以外の植物油脂、安定剤、増粘剤、ミネラル類、ビタミン類等が挙げられる。
【0014】
本実施形態の液体飲料は、溶媒に各原料を溶解または分散させた混合液である。液体飲料の粘度は、得ようとする食感に応じて設定できる。溶媒は水を含み、水の配合量によって粘度を調整できる。
本実施形態の液体飲料の25℃における粘度は50mPa・s以下であり、20mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以下がより好ましい。
一般に、液体飲料の粘度が低いほど保存中に脂肪の凝集が生じやすい傾向がある。液体飲料の粘度が前記上限値以下であると、本実施形態の構成を採用することによる充分な効果が得られやすい。
前記粘度の下限は特に限定されないが、通常、水の粘度以上となる。例えば1mPa・s以上が好ましい。
本明細書において、液体飲料の粘度の測定方法は、B型粘度計を用い、No.1ローターを使用し60回転/秒で10秒測定する。
【0015】
本実施形態の液体飲料は、硬化ヤシ油、乳タンパク質濃縮物を含む原料と水を混合する混合工程を経て製造できる。混合する際に液を加温してもよい。
混合工程後に加熱殺菌することが好ましい。混合工程後、加熱殺菌前に、公知の方法で均質化してもよい。均質化する際の液温は55~90℃が好ましい。
加熱殺菌は、公知の方法で行うことができる。液体飲料を保存容器に充填してレトルト処理を行うレトルト殺菌法が、長期保存には好適である。レトルト殺菌法の加熱条件は、110~130℃で10~30分程度が好ましく、120~125℃で10~20分間がより好ましい。加熱後、常温まで冷却する。
レトルト処理可能な保存容器としては、缶、ビン、紙パック、ペットボトル、耐熱フィルム容器等が挙げられる。
【0016】
本実施形態の液体飲料は保存安定性に優れ、例えば、液体飲料の液温を25℃に3ヵ月間維持する保存試験を行ったときの、固体塊の生成量を200g当たり1g以下とすることができる。製造終了から保存試験の開始前の経過時間、及び保存温度の履歴は限定されない。前記保存試験での固体塊の生成量が上記範囲であると、常温での長期保存が可能な製品として好適である。
本明細書において、液体飲料中の固体塊は目開きが200μmの篩を通過しない大きさの固体を意味する。
【0017】
後述の例に示されるように、硬化ヤシ油を含み、乳タンパク質濃縮物を含まない比較例の液体飲料は、常温で2ヵ月の保存であれば問題なかったものの、保存期間が3ヵ月以上になると固体塊の生成が認められた。この固体塊は液体飲料中の脂肪が凝集して固化したものである。
一方、前記比較例の液体飲料に乳タンパク質濃縮物を加えた実施例の液体飲料は、常温で保存可能な期間が長くなり、6ヵ月保存しても固体塊の生成は認められなかった。
このように、乳タンパク質濃縮物を添加することによって保存安定性を向上できるため、保存安定性の確保のために必要な乳化剤の添加量を減らすことができる。その結果、液体飲料の風味を向上させることができる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、含有量を表す「%」は特に断りの無い限り「質量%」である。
【0019】
<原料>
硬化ヤシ油:上昇融点32℃、酸価0.1、ヨウ素価4。
脱脂粉乳:森永乳業社製、脂肪含量1%、乳タンパク質含量34%、炭水化物含量53.3%。
乳タンパク質濃縮物:森永乳業社製、MPC、脂肪含量1%、乳タンパク質含量81%、炭水化物含量5.5%、カゼイン:ホエイの質量比は8:2。
砂糖:北海道糖業社製。
インスタントコーヒー:市販品。
いちご果汁:市販の濃縮いちご果汁。
乳化剤:グリセリン脂肪酸エステル。
pH調整剤:炭酸ナトリウム。
【0020】
<保存安定性の評価方法>
評価対象の液体飲料200gを目開き200μmの篩でろ過し、篩上に残った残渣の質量(固体塊の生成量)を測定した。下記の基準で常温での保存安定性を評価した。
A:固体塊の生成量がゼロ。
B:固体塊の生成量がゼロ超、1g以下。
C:固体塊の生成量が1g超、2g以下。
D:固体塊の生成量が2g超、3g以下。
E:固体塊の生成量が3g超。
【0021】
<風味の評価方法>
各例で製造した液体飲料を25℃で所定期間保存した後、液温を5℃に調整したサンプルと、各例で製造した直後の液体飲料を5℃で保存した参照製品を、1年以上の経験を持つ飲料開発従事者のパネリスト8名が試飲し、風味の差異について下記基準で5段階評価した。8名の平均値を評価結果とした。
(評価基準)
5点:風味の差異が認められない。
4点:極く僅かに風味の差異が認められるが、製品として問題のない差異である。
3点:僅かに風味の差異が認められるが、製品として許容できる差異である。
2点:風味の差異が認められ、製品として許容できない差異である。
1点:風味に大きな差異が認められ、製品として許容できない差異である。
【0022】
(実施例1、比較例1)
表1に示す全原料を混合し、75℃に加温し、圧力15MPaで均質化処理し、容量200mLの容器に190gずつ充填し、120℃で10分間加熱殺菌(レトルト殺菌)し、室温(25℃)まで放冷して容器入り液体飲料(コーヒー飲料)を得た。
得られた容器入り液体飲料を、25℃雰囲気中で所定の期間保存した後、上記の方法で固体塊の生成量を測定し、保存安定性を評価した。また、上記の方法で風味を評価した。結果を表2に示す。
【0023】
【0024】
【0025】
表1、2の結果に示されるように、硬化ヤシ油を含む液体飲料に乳タンパク質濃縮物を含有させた実施例1は、乳タンパク質濃縮物を含まない比較例1に比べて常温での保存安定性が向上した。常温で保存したときの風味変化は、実施例1及び比較例1においてほぼ同等であり、製品として許容できる範囲であった。
【0026】
(実施例2~6、比較例2)
表3に示す配合に変更したほかは、実施例1または比較例1と同様にして容器入り液体飲料(いちご果汁入り飲料)を製造し、同様に評価した。結果を表4に示す。
【0027】
【0028】
【0029】
表3、4の結果に示されるように、硬化ヤシ油を含む液体飲料に乳タンパク質濃縮物を含有させた実施例2~6は、乳タンパク質濃縮物を含まない比較例2に比べて常温での保存安定性が向上した。常温で保存したときの風味変化は、実施例2~6及び比較例2においてほぼ同等であり、製品として許容できる範囲であった。