(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20231116BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20231116BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20231116BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20231116BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20231116BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D101:00
B62D111:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D137:00
(21)【出願番号】P 2019152194
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165219(JP,A)
【文献】特開2019-127217(JP,A)
【文献】特開2018-199477(JP,A)
【文献】特開2019-127185(JP,A)
【文献】特開2019-131014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 111/00
B62D 113/00
B62D 119/00
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフト、および転舵輪を転舵させる転舵シャフトを含む車両の操舵機構
のうち前記ステアリングシャフトに付与される駆動力を発生するモータを
、前記ステアリングホイールの操舵状態および前記転舵輪の転舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する操舵制御装置であって、
前記ステアリングホイールが定められた操作範囲内で操作される場合、少なくとも前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映される軸力を含む操舵域軸力を演算する操舵域軸力演算部と、
前記ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための軸力である制限軸力を演算する制限軸力演算部と、
前記操舵域軸力および前記制限軸力に基づき前記指令値に反映させるべき最終的な軸力である最終軸力を演算する最終軸力演算部と、
前記制限軸力を前記最終軸力に反映させる場合、
前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映される軸力に応じて調整された前記操舵域軸力、前記制限軸力または前記最終軸力が演算されるように処理を行う軸力調整部と、を有している操舵制御装置。
【請求項2】
前記軸力調整部は、前記制限軸力を前記最終軸力に反映させる場合、前記最終軸力に対する前記操舵域軸力または前記制限軸力の反映度合いを、前記操舵域軸力に占める前記転舵シャフトに作用する力が反映される軸力の割合が大きいほど減少させるべく、前記操舵域軸力に占める前記転舵シャフトに作用する力が反映される軸力の割合が大きいほど、前記操舵域軸力または前記制限軸力の値を減少させるように処理を行う請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記操舵域軸力は、
前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映される第1の軸力と、前記転舵輪の転舵角に基づく前記転舵シャフトの理想的な軸力である第2の軸力であって、前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映されない第2の軸力とが、車両の状態に応じて設定される割合で混合されることにより得られるものであって、
前記軸力調整部は、前記制限軸力を前記最終軸力に反映させるとき、前記操舵域軸力に占める前記第1の軸力の割合が大きいほど、前記制限軸力の値を減少させるように処理を行う請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記操舵域軸力は、
前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映される第1の軸力と、前記転舵輪の転舵角に基づく前記転舵シャフトの理想的な軸力である第2の軸力であって、前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映されない第2の軸力とが、車両の状態に応じて設定される割合で混合されることにより得られるものであって、
前記軸力調整部は、前記制限軸力を前記最終軸力に反映させるとき、前記操舵域軸力に占める前記第1の軸力の割合が大きいほど、前記第2の軸力または前記操舵域軸力の値を減少させるように処理を行う請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記最終軸力演算部は、前記操舵域軸力および前記制限軸力を合算することにより前記最終軸力を演算する請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記制限軸力演算部は、前記ステアリングホイールの操作範囲を仮想的に制限するための第1の制限軸力と、
前記転舵輪の転舵動作が制限される状況である場合に前記ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための第2の制限軸力と、
前記モータのトルクが本来発生させるべきトルクよりも小さい値に制限される状況である場合に前記ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための第3の制限軸力と、のうち少なくとも1つを演算する請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと前記転舵輪との間の動力伝達が分離された構造あるいは断接可能とされた構造を有するものであって、
前記モータは、前記駆動力としてステアリングホイールの操作方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータである請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。この操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータを通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータを通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離されているため、転舵輪に作用する路面反力がステアリングホイールに伝わりにくい。したがって、運転者は路面状態を、ステアリングホイールを介した手応えとして感じにくい。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1に記載の制御装置は、目標転舵角に基づく理想的なラック軸力である理想軸力と、転舵モータの電流値に基づくラック軸力の推定値である路面軸力とを演算する。制御装置は、理想軸力と路面軸力とを所定の配分割合で合算し、この合算した軸力に基づくベース反力を使用して反力モータを制御する。路面軸力には路面状態が反映されるため、反力モータが発生する操舵反力にも路面状態が反映される。したがって、運転者は、路面状態を操舵反力として感じることができる。
【0005】
また、制御装置は、ステアリングホイールの操作範囲を仮想的に制限するための制限用反力を演算する。制御装置は、目標操舵角および目標転舵角のうちの値の大きい方を選択し、その選択される目標操舵角または目標転舵角がしきい値に達したとき、制限用反力を発生させるとともにその制限用反力を急激に増大させる。しきい値は、転舵輪を転舵させるラック軸がその物理的な可動範囲の限界位置に達する直前、およびステアリングホイールがスパイラルケーブルから定まる操作範囲の限界位置に達する直前の双方において、操舵反力を急激に増大させる観点に基づき設定される。
【0006】
制御装置は、ベース反力と制限用反力とを合算することにより最終的な反力を演算し、この最終的な反力を使用して反力モータを制御する。目標操舵角または目標転舵角がしきい値に達した以降、操舵反力が急激に増大することにより、運転者は操舵角の絶対値が大きくなる方向へ向けてステアリングホイールを操作することが難しくなる。したがって、ステアリングホイールの操作範囲、ひいてはラック軸の可動範囲を仮想的につくることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1の制御装置においては、つぎのことが懸念される。すなわち、制御装置は、制限用反力が演算される場合、この制限用反力をベース反力に加算することにより、反力モータの制御に使用する最終的な反力を演算する。このため、ベース反力に制限用反力が上乗せされることによって、運転者に必要以上の操舵反力が付与されるおそれがある。この事象は、たとえば車両が低速で大きく旋回する場合など、ベース反力における路面軸力の配分割合がより大きな状態、すなわち路面軸力が支配的な状態で制限用反力が加算されるときに発生しやすい。
【0009】
本発明の目的は、より適切な操舵感触を運転者に付与することができる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成し得る操舵制御装置は、ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフト、および転舵輪を転舵させる転舵シャフトを含む車両の操舵機構のうち前記ステアリングシャフトに付与される駆動力を発生するモータを、前記ステアリングホイールの操舵状態および前記転舵輪の転舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する。操舵制御装置は、操舵域軸力演算部、制限軸力演算部、最終軸力演算部、および軸力調整部を有している。操舵域軸力演算部は、前記ステアリングホイールが定められた操作範囲内で操作される場合、少なくとも前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映される軸力を含む操舵域軸力を演算する。制限軸力演算部は、前記ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための軸力である制限軸力を演算する。最終軸力演算部は、前記操舵域軸力および前記制限軸力に基づき前記指令値に反映させるべき最終的な軸力である最終軸力を演算する。軸力調整部は、前記制限軸力を前記最終軸力に反映させる場合、前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映される軸力に応じて調整された前記操舵域軸力、前記制限軸力または前記最終軸力が演算されるように処理を行う。
【0011】
この構成によれば、制限軸力を最終軸力に反映させる場合、操舵域軸力、制限軸力または最終軸力の値が、前記転舵輪を介して転舵シャフトに作用する力が反映される軸力に応じて調整されることによって、より適切な最終軸力が得られる。この適切な最終軸力が指令値に反映されることによって車両の操舵機構に対してより適切な駆動力が付与される。したがって、運転者に対して、より適切な操舵感触を付与することができる。
【0012】
上記の操舵制御装置において、前記軸力調整部は、前記制限軸力を前記最終軸力に反映させる場合、前記最終軸力に対する前記操舵域軸力または前記制限軸力の反映度合いを、前記操舵域軸力に占める前記転舵シャフトに作用する力が反映される軸力の割合が大きいほど減少させるべく、前記操舵域軸力に占める前記転舵シャフトに作用する力が反映される軸力の割合が大きいほど、前記操舵域軸力または前記制限軸力の値を減少させるように処理を行うことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、制限軸力を最終軸力に反映させる場合、最終軸力に対する操舵域軸力または制限軸力の反映度合いが、前記操舵域軸力に占める転舵シャフトに作用する力が反映される軸力の割合に応じて減少する。このため、操舵域軸力および制限軸力の双方がそのまま最終軸力の演算に使用される場合と異なり、過剰な値の最終軸力が演算されることを抑制することができる。この適切な最終軸力が指令値に反映されることによって、より適切な操舵感触を運転者に付与することができる。
【0014】
上記の操舵制御装置において、前記転舵輪を介して前記操舵域軸力は、前記転舵シャフトに作用する力が反映される第1の軸力と、前記転舵輪の転舵角に基づく前記転舵シャフトの理想的な軸力である第2の軸力であって、前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映されない第2の軸力とが、車両の状態に応じて設定される割合で混合されることにより得られるものであってもよい。この場合、前記軸力調整部は、前記制限軸力を前記最終軸力に反映させるとき、前記操舵域軸力に占める前記第1の軸力の割合が大きいほど、前記制限軸力の値を減少させるように処理を行うようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、制限軸力を最終軸力に反映させるとき、操舵域軸力に占める第1の軸力の割合に応じて制限軸力の値が減少することにより、過剰な値の最終軸力が演算されることを抑制することができる。
【0016】
上記の操舵制御装置において、前記転舵輪を介して前記操舵域軸力は、前記転舵シャフトに作用する力が反映される第1の軸力と、前記転舵輪の転舵角に基づく前記転舵シャフトの理想的な軸力である第2の軸力であって、前記転舵輪を介して前記転舵シャフトに作用する力が反映されない第2の軸力とが、車両の状態に応じて設定される割合で混合されることにより得られるものであってもよい。この場合、前記軸力調整部は、前記制限軸力を前記最終軸力に反映させるとき、前記操舵域軸力に占める前記第1の軸力の割合が大きいほど、前記第2の軸力または前記操舵域軸力の値を減少させるように処理を行うようにしてもよい。
【0017】
この構成によれば、前記制限軸力を前記最終軸力に反映させるとき、操舵域軸力に占める第1の軸力の割合に応じて第2の軸力または操舵域軸力の値が減少することにより、過剰な値の最終軸力が演算されることを抑制することができる。
【0018】
上記の操舵制御装置において、前記最終軸力演算部は、前記操舵域軸力および前記制限軸力を合算することにより前記最終軸力を演算するようにしてもよい。
この構成によれば、操舵域軸力および制限軸力が合算されることにより、過剰な値の最終軸力が演算されやすい。このため、操舵制御装置として上記の軸力調整部を有する構成を採用することが好ましい。
【0019】
上記の操舵制御装置において、前記制限軸力演算部は、前記ステアリングホイールの操作範囲を仮想的に制限するための第1の制限軸力と、前記転舵輪の転舵動作が制限される状況である場合に前記ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための第2の制限軸力と、前記モータのトルクが本来発生させるべきトルクよりも小さい値に制限される状況である場合に前記ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための第3の制限軸力と、のうち少なくとも1つを演算するようにしてもよい。
【0020】
この構成によるように、第1の制限軸力、第2の制限軸力、および第3の制限軸力のうち少なくとも1つが最終軸力に反映される場合、過剰な値の最終軸力が演算されるおそれがある。このため、操舵制御装置として上記の軸力調整部を有する構成を採用することが好ましい。
【0021】
上記の操舵制御装置において、前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと前記転舵輪との間の動力伝達が分離された構造あるいは断接可能とされた構造を有するものであって、前記モータは、前記駆動力としてステアリングホイールの操作方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータであってもよい。
【0022】
この構成によれば、より適切な最終軸力が指令値に反映されることによって、運転者に対してより適切な操舵反力を付与することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の操舵制御装置によれば、より適切な操舵感触を運転者に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図。
【
図2】第1の実施の形態における制御装置の制御ブロック図。
【
図3】第1の実施の形態における操舵反力指令値演算部の制御ブロック図。
【
図4】第1の実施の形態における制限軸力演算部の制御ブロック図。
【
図5】第2の実施の形態における制限軸力演算部の制御ブロック図。
【
図6】第3の実施の形態における制限軸力演算部の制御ブロック図。
【
図7】第4の実施の形態における混合軸力演算部の制御ブロック図。
【
図8】(a)は第5の実施の形態における軸力演算部の制御ブロック図、(b)は第5の実施の形態におけるゲイン演算部の制御ブロック図。
【
図9】操舵制御装置を電動パワーステアリング装置に適用した第6の実施の形態の制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第1の実施の形態を説明する。
【0027】
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(
図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θ
wが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト14は車両の操舵機構を構成する。
【0028】
また、操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0029】
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ31(正確には、その回転軸)は、減速機構32を介して、ステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
【0030】
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θaを検出する。反力モータ31の回転角θaは、操舵角θsの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θaとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である操舵角θsとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θaに基づき操舵角θsを求めることができる。
【0031】
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わる操舵トルクThを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
【0032】
また、操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
【0033】
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41の回転軸は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は
図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
【0034】
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θbを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14を図示しないハウジングの内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる図示しない支持機構によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0035】
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、車載される各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501がある。車速センサ501は、車両の走行速度である車速Vを検出する。
【0036】
制御装置50は、反力モータ31の駆動制御を通じて操舵トルクThに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。制御装置50は操舵トルクThおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力に基づき操舵反力指令値を演算する。制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
【0037】
制御装置50は、転舵モータ41の駆動制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θbに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。このピニオン角θpは、転舵輪16,16の転舵角θwを反映する値である。また、制御装置50は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θaに基づき操舵角θsを演算し、この演算される操舵角θsに基づきピニオン角θpの目標値である目標ピニオン角を演算する。そして制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θpとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
【0038】
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、反力制御を実行する反力制御部50a、および転舵制御を実行する転舵制御部50bを有している。
【0039】
反力制御部50aは、操舵角演算部51、操舵反力指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
操舵角演算部51は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θaに基づきステアリングホイール11の操舵角θsを演算する。
【0040】
操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクThおよび車速Vに基づき操舵反力指令値T*を演算する。操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵反力指令値T*を演算する。操舵反力指令値演算部52については、後に詳述する。
【0041】
通電制御部53は、操舵反力指令値T*に応じた電力を反力モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部53は、操舵反力指令値T*に基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部53は、反力モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iaの値を検出する。この電流Iaの値は、反力モータ31に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部53は、電流指令値と実際の電流Iaの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値T*に応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
【0042】
転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、および通電制御部64を有している。
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θbに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。転舵モータ41とピニオンシャフト44とは減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θbとピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θbからピニオン角θpを求めることができる。また、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θpと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪16,16の転舵角θwを反映する値である。
【0043】
目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θsに基づき目標ピニオン角θp
*を演算する。本実施の形態において、目標ピニオン角演算部62は、目標ピニオン角θp
*を操舵角θsと同じ値に設定する。すなわち、操舵角θsと転舵角θwとの比である舵角比は「1:1」である。
【0044】
ちなみに、目標ピニオン角演算部62は、目標ピニオン角θp
*を操舵角θsと異なる値に設定するようにしてもよい。すなわち、目標ピニオン角演算部62は、たとえば車速Vなど、車両の走行状態に応じて操舵角θsに対する転舵角θwの比である舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが遅くなるほど操舵角θsに対する転舵角θwがより大きくなるように、また車速Vが速くなるほど操舵角θsに対する転舵角θwがより小さくなるように、目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、操舵角θsに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を操舵角θsに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角θp
*を演算する。
【0045】
ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θp
*、およびピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角θpを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、実際のピニオン角θpを目標ピニオン角θp
*に追従させるべくピニオン角θpのフィードバック制御を通じてピニオン角指令値Tp
*を演算する。
【0046】
通電制御部64は、ピニオン角指令値Tp
*に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。具体的には、通電制御部64は、ピニオン角指令値Tp
*に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部64は、転舵モータ41に対する給電経路に設けられた電流センサ65を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Ibの値を検出する。この電流Ibの値は、転舵モータ41に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部64は、電流指令値と実際の電流Ibの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値Tp
*に応じた角度だけ回転する。
【0047】
つぎに、操舵反力指令値演算部52について詳細に説明する。
図3に示すように、操舵反力指令値演算部52は、目標操舵反力演算部71、軸力演算部72、および減算器73を有している。
【0048】
目標操舵反力演算部71は、操舵トルクThおよび車速Vに基づき目標操舵反力T1*を演算する。目標操舵反力T1*は、反力モータ31を通じて発生させるべきステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクの目標値である。目標操舵反力演算部71は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の目標操舵反力T1*を演算する。
【0049】
軸力演算部72は、ピニオン角θp、転舵モータ41の電流Ibの値、および車速Vに基づき転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力を演算し、この演算される軸力をトルクに換算したトルク換算値(軸力に応じた操舵反力)T2*を演算する。
【0050】
減算器73は、目標操舵反力演算部71により演算される目標操舵反力T1*から軸力演算部72により演算されるトルク換算値T2*を減算することにより、操舵反力指令値T*を演算する。
【0051】
つぎに、軸力演算部72について詳細に説明する。
軸力演算部72は、混合軸力演算部81、制限軸力演算部82、加算器83、および換算器84を有している。混合軸力演算部81は、理想軸力演算部91、推定軸力演算部92、および軸力配分演算部93を有している。
【0052】
理想軸力演算部91は、ピニオン角θpに基づき、転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である理想軸力F1を演算する。理想軸力演算部91は、制御装置50の記憶装置に格納された理想軸力マップを使用して理想軸力F1を演算する。理想軸力マップは、横軸をピニオン角θp、縦軸を理想軸力F1とするマップであって、ピニオン角θpと理想軸力F1との関係を車速Vに応じて規定する。理想軸力マップは、つぎの特性を有する。すなわち、理想軸力F1は、ピニオン角θpの絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値に設定される。ピニオン角θpの絶対値の増加に対して、理想軸力F1の絶対値は線形的に増加する。理想軸力F1は、ピニオン角θpの符号と同符号に設定される。理想軸力F1は、路面状態あるいは転舵輪16,16を介して転舵シャフト14に作用する力が反映されない軸力である。
【0053】
推定軸力演算部92は、転舵モータ41の電流Ibの値に基づき、転舵シャフト14に作用する推定軸力F2を演算する。ここで、転舵モータ41の電流Ibの値は、路面摩擦抵抗などの路面状態に応じた外乱が転舵輪16に作用することに起因して目標ピニオン角θp
*と実際のピニオン角θpとの間に発生する差によって変化する。すなわち、転舵モータ41の電流Ibの値には、転舵輪16,16に作用する実際の路面状態が反映される。このため、転舵モータ41の電流Ibの値に基づき路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。推定軸力F2は、車速Vに応じた係数であるゲインを転舵モータ41の電流Ibの値に乗算することにより求められる。推定軸力F2は、路面状態あるいは転舵輪16,16を介して転舵シャフト14に作用する力が反映される軸力である。
【0054】
軸力配分演算部93は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態変数に応じて、理想軸力F1および推定軸力F2に対する分配比率を個別に設定する。軸力配分演算部93は、理想軸力F1および推定軸力F2に対してそれぞれ個別に設定される分配比率を乗算した値を合算することにより、混合軸力F3を演算する。また、軸力配分演算部93は、推定軸力F2の分配比率DRfを制限軸力演算部82へ供給する。
【0055】
ちなみに、分配比率は、車両の状態変数の一つである車速Vのみに基づき設定してもよい。この場合、たとえば車速Vが速いときほど、理想軸力F1の分配比率をより大きな値に設定する一方、推定軸力F2の分配比率をより小さな値に設定する。また、車速Vが遅いときほど、理想軸力F1の分配比率をより小さな値に設定する一方、推定軸力F2の分配比率をより大きな値に設定する。
【0056】
制限軸力演算部82は、ピニオン角θpに基づき、ステアリングホイール11の操作範囲を仮想的に制限するための制限軸力F4を演算する。制限軸力F4は、ステアリングホイール11の操作位置がその操作範囲の限界位置に近づいたとき、あるいは転舵シャフト14がその物理的な可動範囲の限界位置に近づいたとき、反力モータ31が発生する操舵方向と反対方向のトルクを急激に増大させる観点に基づき演算される。ステアリングホイール11の操作範囲の限界位置は、たとえばステアリングホイール11に設けられるスパイラルケーブルの長さによって決まる。また、転舵シャフト14の物理的な可動範囲の限界位置とは、転舵シャフト14の端部であるラックエンドが図示しないハウジングに突き当たる、いわゆる「エンド当て」が生じることによって、転舵シャフト14の移動範囲が物理的に規制される位置をいう。制限軸力F4は、ピニオン角θpの符号と同符号に設定される。
【0057】
加算器83は、混合軸力演算部81により演算される混合軸力F3と、制限軸力演算部82により演算される制限軸力F4とを合算することにより、操舵反力指令値T*の演算に使用される最終的な軸力である最終軸力F5を演算する。
【0058】
換算器84は、加算器83により演算される最終軸力F5をトルクに換算することによりトルク換算値T2*を演算する。
ここで、ステアリングホイール11の操作位置がその操作範囲の限界位置の近傍位置に達していないとき、あるいは転舵シャフト14がその物理的な可動範囲の限界位置の近傍位置に達していないとき、制限軸力演算部82は制限軸力F4を演算しない。このため、混合軸力演算部81により演算される混合軸力F3が最終軸力F5として設定される。この場合、この最終軸力F5をトルクに換算したトルク換算値T2*が操舵反力指令値T*に反映されることによって、車両挙動あるいは路面状態に応じた操舵反力をステアリングホイール11に付与することが可能となる。運転者は、ステアリングホイール11を介した操舵反力を手応えとして感じることにより車両挙動あるいは路面状態を把握することが可能となる。
【0059】
また、ステアリングホイール11の操作位置がその操作範囲の限界位置に近づいたとき、あるいは転舵シャフト14がその物理的な可動範囲の限界位置に近づいたとき、制限軸力演算部82は制限軸力F4を演算する。このため、混合軸力演算部81により演算される混合軸力F3に制限軸力演算部82により演算される制限軸力F4が加算された値が最終軸力F5として設定される。この場合、この最終軸力F5をトルクに換算したトルク換算値T2*が操舵反力指令値T*に反映されることによって操舵反力が急激に増大する。このため、運転者は操舵角θsの絶対値が大きくなる方向へ向けてステアリングホイール11を操作することが難しくなる。したがって、運転者は操舵反力(手応え)として突き当り感を感じることによって、ステアリングホイール11が仮想的な操作範囲の限界位置に至ったことを認識することが可能となる。
【0060】
ところが、ステアリングホイール11の操作位置がその操作範囲の限界位置に近づいたとき、あるいは転舵シャフト14がその物理的な可動範囲の限界位置に近づいたとき、混合軸力F3と制限軸力F4とが合算されることによって過剰な値の最終軸力F5、ひいては過剰な値のトルク換算値T2*が演算されるおそれがある。この場合、運転者に必要以上の操舵反力が付与されることが懸念される。この事象は、たとえば車両が低速で大きく旋回する場合など、混合軸力F3に占める推定軸力F2の分配比率がより大きな状態、すなわち推定軸力F2が支配的な状態で制限軸力F4が加算される場合に発生しやすい。これは、路面摩擦抵抗などの路面状態に応じて、操舵角θsの絶対値の増加に対する推定軸力F2の増加割合である傾きが変動するところ、たとえば路面摩擦抵抗が大きくなるほど、かつ操舵角θsの値が大きくなるほど推定軸力F2はより大きな値になるからである。
【0061】
そこで、本実施の形態では、制限軸力演算部82として、つぎの構成を採用している。
図4に示すように、制限軸力演算部82は、仮想ラックエンド角演算部101、減算器102、仮想ラックエンド軸力演算部103、ゲイン演算部104、および乗算器105を有している。
【0062】
仮想ラックエンド角演算部101は、車速Vに応じて仮想ラックエンド角θendを演算する。仮想ラックエンド角演算部101は、車速Vが速くなるほど、より小さい絶対値の仮想ラックエンド角θendを演算する。仮想ラックエンド角θendとは、ステアリングホイール11の仮想的な操作範囲の限界位置に対応する操舵角、あるいは転舵シャフト14の仮想的な可動範囲の限界位置に対応するピニオン角をいう。仮想ラックエンド角θendは、ステアリングホイール11がその操作範囲の限界位置に達するときの操舵角θs、あるいは転舵シャフト14がその可動範囲の限界位置に達するときのピニオン角θpの近傍値に基づき設定される。
【0063】
減算器102は、仮想ラックエンド角演算部101により演算される仮想ラックエンド角θendからピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θpを減算することにより、角度差Δθ1を演算する。ちなみに、減算器102は、仮想ラックエンド角θendから操舵角演算部51により演算される操舵角θsを減算することにより、角度差Δθ1を演算するようにしてもよい。
【0064】
仮想ラックエンド軸力演算部103は、減算器102により演算される角度差Δθ1に応じて仮想ラックエンド軸力F4preを演算する。仮想ラックエンド軸力演算部103は、制御装置50の記憶装置に格納された制限軸力マップM1を使用して、仮想ラックエンド軸力F4preを演算する。制限軸力マップM1は、横軸を角度差Δθ1、縦軸を仮想ラックエンド軸力F4preとするマップであって、角度差Δθ1と仮想ラックエンド軸力F4preとの関係を規定する。制限軸力マップM1は、つぎの特性を有する。すなわち、角度差Δθ1の絶対値が「0」を基準として設定されるエンド判定しきい値θth以下の値である場合、仮想ラックエンド軸力F4preが発生するとともに、その仮想ラックエンド軸力F4preは角度差Δθ1の絶対値が「0」に向けて減少するにつれて絶対値が増加する方向へ向けて急激に増大する。角度差Δθ1の絶対値がエンド判定しきい値θthを超える値である場合、仮想ラックエンド軸力F4preの値は「0」に維持される。ちなみに、仮想ラックエンド軸力F4preは、ピニオン角θpの符号と同符号に設定される。
【0065】
ゲイン演算部104は、軸力配分演算部93により演算される推定軸力F2の分配比率DRfに応じてゲインG1を演算する。ゲイン演算部104は、制御装置50の記憶装置に格納されたゲインマップM2を使用してゲインG1を演算する。ゲインマップM2は、横軸を推定軸力F2の分配比率DRf、縦軸をゲインG1とするマップであって、分配比率DRfとゲインG1との関係を規定する。ゲインマップM2は、つぎの特性を有する。すなわち、ゲインG1の値は、分配比率DRfの値が「0」を基準として増加するにつれて「0」へ向けて徐々に減少する。
【0066】
乗算器105は、仮想ラックエンド軸力演算部103により演算される仮想ラックエンド軸力F4preに対してゲイン演算部104により演算されるゲインG1を乗算することにより制限軸力F4を演算する。
【0067】
なお、本実施の形態において、混合軸力演算部81は、転舵輪16,16の転舵状態などを含む車両の状態に応じて操舵域軸力を演算する操舵域軸力演算部を構成する。操舵域軸力とは、ステアリングホイール11が通常操作される操舵域として定められる操作範囲内で操作されるときの転舵シャフト14に作用する軸力をいう。加算器83は、操舵反力指令値T*に反映させる最終的な軸力である最終軸力F5を演算する最終軸力演算部に相当する。ゲイン演算部104および乗算器105は、制限軸力F4を最終軸力F5に反映させる場合、制限軸力F4の値を転舵シャフト14に作用する力が反映される軸力である推定軸力F2に応じて調整する軸力調整部を構成する。推定軸力F2は転舵シャフト14に作用する力が反映される第1の軸力に相当し、理想軸力F1は転舵シャフト14に作用する力が反映されない第2の軸力に相当する。制限軸力F4は、ステアリングホイール11の操作範囲を仮想的に制限するための第1の制限軸力に相当する。
【0068】
<第1の実施の形態の作用>
つぎに、第1の実施の形態の作用を説明する。
ピニオン角θpが仮想ラックエンド角θendに近づき、仮想ラックエンド角θendとピニオン角θpとの差である角度差Δθ1がエンド判定しきい値θth以下の値に達した以降、角度差Δθ1の減少に対して制限軸力F4が急激に増大する。この制限軸力F4が混合軸力F3に加算されることにより、過剰な値の最終軸力F5が演算されるおそれがある。これは、理想軸力F1はピニオン角θpに応じた値にしかならないところ、推定軸力F2は路面摩擦抵抗の増加に応じて増大することに起因する。特に、混合軸力F3に占める推定軸力F2の分配比率DRfがより大きい値となる状態、すなわち推定軸力F2が支配的な状態で制限軸力F4が加算される場合、最終軸力F5が過剰な値になりやすい。
【0069】
この点、第1の実施の形態によれば、混合軸力F3における推定軸力F2の占める割合である分配比率DRfに応じて制限軸力F4の値が変化する。すなわち、制限軸力F4は、仮想ラックエンド軸力演算部103により演算される仮想ラックエンド軸力F4preに対して、推定軸力F2の分配比率DRfに応じて設定されるゲインG1を乗算することにより演算されるところ、そのゲインG1は推定軸力F2の分配比率DRfの値が大きくなるほど、より小さい値に設定される。このため、推定軸力F2の分配比率DRfの値が大きくなるほど、制限軸力F4は、より小さい値となる。したがって、混合軸力F3に加算される制限軸力F4の値が推定軸力F2の分配比率DRfに応じて減少することにより、過剰な値の最終軸力F5が演算されること、ひいては運転者に必要以上の操舵反力が付与されることが抑制される。
【0070】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)混合軸力F3に加算される制限軸力F4の値は、推定軸力F2の分配比率DRfの値に応じて減少される。このため、最終軸力F5が過剰な値になることを抑制することができる。したがって、運転者に過度な操舵反力が付与されることに起因する運転者の違和感を抑えることができる。
【0071】
特に、第1の実施の形態は、混合軸力F3に占める推定軸力F2の割合が大きいときほど、また推定軸力F2がより大きい値であるときほど効果的である。すなわち、車両が低速で大きく旋回する場合など、制限軸力F4が演算される状況と、混合軸力F3に占める推定軸力F2の割合が大きくなることにより推定軸力F2が支配的となる状況とは一致する。したがって、軸力演算部72として混合軸力F3に制限軸力F4を加算する構成が採用されている場合、より大きな値の混合軸力F3に制限軸力F4が加算されることになるため、最終軸力F5の値が過剰に大きくなりやすい。これに対して、第1の実施の形態では、混合軸力F3に加算される制限軸力F4の値が推定軸力F2の分配比率DRfに応じて減少されるため、最終軸力F5が過剰な値になることを抑制することができる。
【0072】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図1~
図3に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、軸力演算部72における制限軸力演算部の構成の点で第1の実施の形態と異なる。
【0073】
操舵装置10あるいは制御装置50の製品仕様などによっては、ステアリングホイール11が仮想的な操作範囲の限界位置に至ったこと以外にも車両の他の状況を、操舵反力を通じて運転者に伝えることが要求されることがある。運転者への伝達が要求される車両の他の状況としては、たとえば車両が停車状態から発進する場合などにおいて、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっている状況が考えられる。
【0074】
そこで、本実施の形態では、操舵反力を通じて車両の他の状況を運転者に伝えるために、軸力演算部72として、つぎの構成を採用している。
図3に括弧書きの符号で示すように、軸力演算部72は、先の制限軸力演算部82に代えて、制限軸力演算部110を有している。
【0075】
制限軸力演算部110は、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況下において、さらなる切り込み操舵あるいは切り返し操舵を制限するための制限軸力F6を演算する。制限軸力演算部110は、転舵モータ41の電流Ibの値、目標ピニオン角θp
*、ピニオン角θp、車速V、操舵角θs、および推定軸力F2の分配比率DRfに基づき制限軸力F6を演算する。
【0076】
図5に示すように、制限軸力演算部110は、微分器111、判定部112、基準角設定部113、差分演算部114、縁石軸力演算部115、ゲイン演算部116、および乗算器117を有している。
【0077】
微分器111は、ピニオン角θpを微分することによりピニオン角速度ωpを演算する。
判定部112は、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっているかどうかを判定する。判定部112は、つぎの4つの判定条件A1~A4のすべてが成立するとき、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっている旨判定する。
【0078】
A1.│Δθp(=│θp
*-θp│)│>θpth
A2.│Ib│>Ith
A3.│ωp│<ωth
A4.│V│<Vth
判定条件A1において、「θp
*」は目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角、「θp」はピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角である。また、「Δθp」は角度差であって、目標ピニオン角θp
*から実際のピニオン角θpを減算することにより得られる。また、「θpth」は角度差しきい値である。角度差しきい値θpthは、つぎの観点に基づき設定される。すなわち、転舵輪16,16が障害物に当たっている場合、転舵輪16,16は切り増し側あるいは切り戻し側へ向けて転舵することが困難となる。この状態でステアリングホイール11が切り増し側あるいは切り戻し側へ向けて操舵されるとき、その操舵に応じて目標ピニオン角θp
*が増大するのに対して、転舵角θw、ひいてはピニオン角θpは一定の値に維持される。このため、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況で、さらに転舵輪16,16を転舵しようとするほど、目標ピニオン角θp
*とピニオン角θpとの差の値が増大する。このため、角度差Δθpの絶対値が大きいときほど、転舵輪16,16が障害物に当たっている蓋然性が高いといえる。したがって、角度差Δθpは、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況の確からしさの度合いを示す値である。この観点に基づき、角度差しきい値θpthは、回転角センサ43のノイズなどによる公差を考慮しつつ、実験あるいはシミュレーションにより設定される。
【0079】
判定条件A2において、「Ib」は転舵モータ41の電流Ibの値、「Ith」は電流しきい値である。電流しきい値Ithは、つぎの観点に基づき設定される。すなわち、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況で、さらに転舵輪16,16を転舵しようとするほど、転舵モータ41の電流Ibの絶対値が増大する。このため、転舵モータ41の電流Ibの絶対値が大きいときほど、転舵輪16,16が障害物に当たっている蓋然性が高いといえる。したがって、転舵モータ41の電流Ibの値も、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況の確からしさの度合いを示す値である。この観点に基づき、電流しきい値Ithは、実験あるいはシミュレーションにより設定される。
【0080】
判定条件A3において、「ωp」はピニオン角速度であって、ピニオン角θpを微分することにより得られる。また、「ωth」は、角速度しきい値である。角速度しきい値ωthは、つぎの観点に基づき設定される。すなわち、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況下においては、転舵輪16,16を転舵させることが困難である。このため、転舵輪16,16の転舵速度、ひいてはピニオン角速度ωpの絶対値が小さいときほど、転舵輪16,16が障害物に当たっている蓋然性が高いといえる。したがって、ピニオン角速度ωpも、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況の確からしさの度合いを示す値である。この観点に基づき、角速度しきい値ωthは、回転角センサ43のノイズなどによる公差を考慮しつつ、実験あるいはシミュレーションにより設定される。
【0081】
判定条件A4において、「V」は車速である。また、「Vth」は、車両が低速で走行しているかどうかを判定する際の基準となる車速しきい値である。車速しきい値Vthは、低速域(0km/h~40km/h未満)の車速Vを基準として設定されるものであって、たとえば「40km/h」に設定される。車速しきい値Vthは、転舵輪16,16が障害物に当たっているかどうかの判定を行うこと、ひいては転舵輪16,16が障害物に当たっていることを後述するように操舵反力を急激に変化させることによって運転者に伝えることが妥当な走行状態であるかどうかという観点に基づき設定される。
【0082】
たとえば車両が中速域(40km/h~60km/h未満)、あるいは高速域(60km/h以上)の車速Vで走行している場合、転舵輪16,16が障害物に当たっていることを運転者に伝えたところで、運転者の気持ちに余裕がなく、運転者による障害物回避操作などの対応が間に合わなかったり困難であったりする状況が想定される。こうした状況を鑑みると、車両が中速域あるいは高速域の車速Vで走行している場合、転舵輪16,16が障害物に当たっていることを運転者に伝える必要性が乏しく、そもそも転舵輪16,16が障害物に当たっているかどうかの判定をすることが無駄になるおそれがある。このため、本実施の形態では、転舵輪16,16が障害物に当たっているかどうかの判定条件の一つとして、車両が低車速域の車速Vで走行していることを設定している。
【0083】
判定部112は、転舵輪16,16が障害物に当たっているかどうかの判定結果に応じてフラグFoの値をセットする。判定部112は、転舵輪16,16が障害物に当たっていない旨判定されるとき、すなわち4つの判定条件A1~A4のうち少なくとも一つの条件が成立しないとき、フラグFoの値を「0」にセットする。また、判定部112は、転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されるとき、すなわち4つの判定条件A1~A4がすべて成立するとき、フラグFoの値を「1」にセットする。
【0084】
基準角設定部113は、判定部112により転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されるとき、すなわち判定部112によりセットされるフラグFoの値が「1」であるとき、ピニオン角θpに基づき基準角θ0を演算する。基準角θ0は、操舵角θsに対する転舵角θwの比である舵角比に基づき、ピニオン角θpを操舵角θsに換算したものである。ただし、本実施の形態では、先の第1の実施の形態と同様に、舵角比は「1:1」であって、舵角比の値は「1」である。
【0085】
ちなみに、目標ピニオン角演算部62として、目標ピニオン角θ
p
*を操舵角θ
sと異なる値に設定する構成が採用される場合、
図5に二点鎖線で示すように、基準角設定部113は、舵角比および車速Vに基づきピニオン角θ
pを操舵角θ
sに換算することにより、基準角θ
0を演算する。また、基準角設定部113は、判定部112により転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されないとき、すなわち判定部112によりセットされるフラグF
oの値が「0」であるとき、基準角θ
0の演算を実行しない。
【0086】
差分演算部114は、判定部112により転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されるとき、すなわち判定部112によりセットされるフラグFoの値が「1」であるとき、角度差Δθ2を演算する。角度差Δθ2は、基準角設定部113により演算される基準角θ0から操舵角演算部51により演算される操舵角θsを減算することにより得られる基準角θ0と操舵角θsとの差分である。差分演算部114は、判定部112により転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されないとき、すなわち判定部112によりセットされるフラグFoの値が「0」であるとき、角度差Δθ2の演算を実行しない。
【0087】
縁石軸力演算部115は、差分演算部114により演算される角度差Δθ2に応じて縁石軸力F6preを演算する。縁石軸力演算部115は、制御装置50の記憶装置に格納された制限軸力マップM3を使用して縁石軸力F6preを演算する。制限軸力マップM3は、横軸を基準角θ0と操舵角θsとの差分である角度差Δθ2の絶対値、縦軸を縁石軸力F6preとするマップであって、角度差Δθ2の絶対値と縁石軸力F6preとの関係を規定する。制限軸力マップM3は、たとえばつぎのような特性を有する。すなわち、縁石軸力F6preは、角度差Δθ2の絶対値が「0」を基準として増加するほど、より大きい値に設定される。縁石軸力F6preは、運転者による障害物に当たっている側への操舵が困難となる程度の操舵反力を発生させる観点に基づき設定される。
【0088】
ゲイン演算部116は、軸力配分演算部93により演算される推定軸力F2の分配比率DRfに応じてゲインG2を演算する。ゲイン演算部116は、制御装置50の記憶装置に格納されたゲインマップM4を使用してゲインG2を演算する。ゲインマップM4は、横軸を推定軸力F2の分配比率DRf、縦軸をゲインG2とするマップであって、分配比率DRfとゲインG1との関係を規定する。ゲインマップM4は、つぎの特性を有する。すなわち、ゲインG2の値は、分配比率DRfの値が「0」を基準として大きくなるにつれて「0」へ向けて徐々に減少する。
【0089】
乗算器117は、縁石軸力演算部115により演算される縁石軸力F6preに対してゲイン演算部116により演算されるゲインG2を乗算することにより制限軸力F6を演算する。
【0090】
なお、本実施の形態において、ゲイン演算部116および乗算器117は、制限軸力F6を最終軸力F5に反映させる場合、制限軸力F6の値を転舵シャフト14に作用する力が反映される軸力である推定軸力F2に応じて調整する軸力調整部を構成する。また、制限軸力F6は、転舵輪16,16の転舵動作が制限される状況である場合にステアリングホイール11の操作を仮想的に制限するための第2の制限軸力に相当する。
【0091】
<第2の実施の形態の作用>
つぎに、第2実施の形態の作用を説明する。
たとえば転舵輪16,16が障害物に当たっている状態でステアリングホイール11が操舵されるとき、制限軸力演算部110は、制限軸力F6を演算する。このため、混合軸力演算部81により演算される混合軸力F3に制限軸力演算部110により演算される制限軸力F6が加算された値が最終軸力F5として設定される。この場合、この最終軸力F5をトルクに換算したトルク換算値T2*が操舵反力指令値T*に反映されることによって操舵反力が急激に増大する。このため、運転者は操舵角θsの絶対値が大きくなる方向へ向けてステアリングホイール11を操作することが難しくなる。したがって、運転者は操舵反力として突き当り感を感じることによって、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっている状況であることを認識することが可能となる。
【0092】
ところが、この制限軸力F6が混合軸力F3に加算されることにより、過剰な値の最終軸力F5が演算されるおそれがある。特に、混合軸力F3に占める推定軸力F2の分配比率DRfがより大きい値となる状態、すなわち推定軸力F2が支配的な状態で制限軸力F6が加算される場合、最終軸力F5が過剰な値になりやすい。
【0093】
この点、第2の実施の形態によれば、混合軸力F3における推定軸力F2の占める割合である分配比率DRfに応じて、制限軸力F6の値が変化する。すなわち、制限軸力F6は、縁石軸力演算部115により演算される縁石軸力F6preに対して、推定軸力F2の分配比率DRfに応じて設定されるゲインG2を乗算することにより演算されるところ、そのゲインG2は推定軸力F2の分配比率DRfの値が大きくなるほど、より小さい値に設定される。このため、推定軸力F2の分配比率DRfの値が大きくなるほど、制限軸力F6は、より小さい値となる。したがって、混合軸力F3に加算される制限軸力F6の値が推定軸力F2の分配比率DRfに応じて減少することにより、過剰な値の最終軸力F5が演算されること、ひいては運転者に必要以上の操舵反力が付与されることが抑制される。
【0094】
<第2の実施の形態の効果>
したがって、第2の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(2)転舵輪16,16が障害物に当たっている状況下においてステアリングホイール11が操作される場合、混合軸力F3に加算される制限軸力F6の値が推定軸力F2の分配比率DRfの値に応じて減少される。このため、最終軸力F5が過剰な値になることを抑制することができる。したがって、運転者に過度な操舵反力が付与されることに起因する運転者の違和感を抑えることができる。
【0095】
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図1~
図3に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、軸力演算部72における制限軸力演算部の構成の点で第1の実施の形態と異なる。
【0096】
操舵装置10あるいは制御装置50の製品仕様などによっては、ステアリングホイール11が仮想的な操作範囲の限界位置に至ったこと以外の車両の他の状況を、操舵反力を通じて運転者に伝えることが要求されることがある。運転者への伝達が要求される車両の他の状況としては、たとえば車載されるバッテリの電力不足などに起因して転舵モータ41へ供給される電流、ひいては転舵モータ41が発生するトルクが本来発生すべきトルクよりも小さな値に制限されて不足することにより、転舵輪16,16の転舵角θw、すなわちピニオン角θpが目標値に追従できない状況が考えられる。
【0097】
そこで、本実施の形態では、操舵反力を通じて車両の他の状況を運転者に伝えるために、軸力演算部72として、つぎの構成を採用している。
図3に括弧書きの符号で示すように、軸力演算部72は、先の制限軸力演算部82に代えて、制限軸力演算部120を有している。
【0098】
制限軸力演算部120は、転舵モータ41に供給される電流、すなわち転舵モータ41が発生するトルクが本来発生するべきトルクよりも小さな値に制限されている状況下において、さらなる切り込み操舵あるいは切り戻し操舵を制限するための制限軸力F7を演算する。制限軸力演算部120は、目標ピニオン角θp
*、ピニオン角θp、転舵モータ41に供給される電流の制限値Ilim、および推定軸力F2の分配比率DRfに基づき制限軸力F7を演算する。
【0099】
制限値Ilimは、制御装置50に設けられる制限値演算部130により演算される。制限値演算部130は、車載されるバッテリの電圧Vbが電圧しきい値以下の値に至ったとき、転舵モータ41の定格電流値よりも小さい値の制限値Ilimを演算する。また、制限値演算部130は、電圧Vbの低下に応じて、より小さい絶対値を有する制限値Ilimを演算する。
【0100】
制限値Ilimは、制限軸力演算部120だけでなく、転舵制御部50bにおける通電制御部64にも供給される。制限値演算部130により制限値Ilimが演算される場合、通電制御部64は転舵モータ41に供給しようとする電流の絶対値と制限値Ilimとを比較する。通電制御部64は、転舵モータ41へ供給しようとする電流の絶対値が制限値Ilimよりも大きいとき、転舵モータ41へ供給しようとする電流の絶対値を制限値Ilimに制限する。これにより、転舵モータ41が発生するトルクは、制限値Ilimに応じたトルクに制限される。通電制御部64は、転舵モータ41へ供給しようとする電流の絶対値が制限値Ilim以下であるとき、電流Ibのフィードバック制御を通じて演算される本来の電流をそのまま転舵モータ41へ供給する。転舵モータ41のトルクは制限されないため、転舵モータ41は本来発生すべきトルクを発生する。
【0101】
図6に示すように、制限軸力演算部120は、減算器121、電流制限軸力演算部122、2つのゲイン演算部123,124、および乗算器125を有している。
減算器121は、目標ピニオン角θ
p
*からピニオン角θ
pを減算することにより角度差Δθ
pを演算する。
【0102】
電流制限軸力演算部122は、減算器121により演算される角度差Δθpに応じて電流制限軸力F7preを演算する。電流制限軸力演算部122は、制御装置50の記憶装置に格納された制限軸力マップM5を使用して電流制限軸力F7preを演算する。制限軸力マップM5は、横軸を目標ピニオン角θp
*とピニオン角θpとの差分である角度差Δθpの絶対値、縦軸を電流制限軸力F7preとするマップであって、角度差Δθpの絶対値と電流制限軸力F7preとの関係を規定する。制限軸力マップM5は、たとえばつぎのような特性を有する。すなわち、角度差Δθpの絶対値が「0」を基準として増加するほど、電流制限軸力F7preはより大きい値に設定される。電流制限軸力F7preは、転舵モータ41に供給される電流、ひいては転舵モータ41が発生するトルクが制限される度合いに応じた操舵反力を発生させる観点に基づき設定される。
【0103】
ちなみに、角度差Δθpは、転舵モータ41に供給される電流が制限されている状況の確からしさの度合いを示す値である。すなわち、転舵モータ41に供給される電流が制限されている状況下においては、転舵輪16,16を十分に転舵させることが困難であるため、転舵輪16,16を転舵させようとするほど、目標ピニオン角θp
*とピニオン角θpとの差が増大する。したがって、角度差Δθpの絶対値が大きいときほど、転舵モータ41に供給される電流が制限されている状況である蓋然性が高いといえる。
【0104】
ゲイン演算部123は、制限値演算部130により演算される制限値Ilimに基づきゲインG3を演算する。制限値Ilimは、転舵モータ41に供給される電流の限界値である。ゲイン演算部123は、制御装置50の記憶装置に格納されたゲインマップM6を使用してゲインG3を演算する。ゲインマップM6は、横軸を制限値Ilimの絶対値、縦軸をゲインG3とするマップであって、制限値Ilimの絶対値とゲインG3との関係を規定する。ゲインマップM6は、つぎの特性を有する。すなわち、ゲインG3の値は、制限値Ilimの絶対値が大きくなるにつれて「0」へ向けて徐々に減少する。制限値Ilimは、たとえば「1」から「0」までの範囲の値である。
【0105】
ゲインG3も、転舵モータ41に供給される電流が制限されている状況の確からしさの度合いを示す値である。すなわち、転舵モータ41に供給される電流の絶対値がより小さな値に制限されているときほど、制限値Ilimの絶対値はより小さな値に設定される。このため、制限値Ilimの絶対値が小さいときほど、転舵モータ41に供給される電流の絶対値がより小さな値に制限されている状況である蓋然性が高いといえる。
【0106】
ゲイン演算部124は、軸力配分演算部93により演算される推定軸力F2の分配比率DRfに応じてゲインG4を演算する。ゲイン演算部116は、制御装置50の記憶装置に格納されたゲインマップM7を使用してゲインG4を演算する。ゲインマップM7は、横軸を推定軸力F2の分配比率DRf、縦軸をゲインG4とするマップであって、分配比率DRfとゲインG4との関係を規定する。ゲインマップM7は、つぎの特性を有する。すなわち、ゲインG4の値は、分配比率DRfの値が「0」を基準として大きくなるにつれて「0」へ向けて徐々に減少する。
【0107】
乗算器125は、電流制限軸力演算部122により演算される電流制限軸力F7preに対して、ゲイン演算部123により演算されるゲインG3およびゲイン演算部124により演算されるゲインG4を乗算することにより最終的な制限軸力F7を演算する。
【0108】
なお、本実施の形態において、ゲイン演算部124および乗算器125は、制限軸力F7を最終軸力F5に反映させる場合、制限軸力F7の値を転舵シャフト14に作用する力が反映される軸力である推定軸力F2に応じて調整する軸力調整部を構成する。また、制限軸力F7は、転舵モータ41のトルクが本来発生させるべきトルクよりも小さい値に制限される状況である場合にステアリングホイール11の操作を仮想的に制限するための第3の制限軸力に相当する。
【0109】
<第3の実施の形態の作用>
つぎに、第3実施の形態の作用を説明する。
たとえば転舵モータ41へ供給される電流が制限されるとき、制限軸力演算部120は、制限軸力F7を演算する。このため、混合軸力演算部81により演算される混合軸力F3に制限軸力演算部120により演算される制限軸力F7が加算された値が最終軸力F5として設定される。この場合、この最終軸力F5をトルクに換算したトルク換算値T2*が操舵反力指令値T*に反映されることによって操舵反力が急激に増大する。このため、運転者は操舵角θsの絶対値が大きくなる方向へ向けてステアリングホイール11を操作することが難しくなる。したがって、運転者は操舵反力として突き当り感を感じることによって、転舵モータ41に供給される電流、ひいては転舵モータ41が発生するトルクが制限されている状況であることを認識することが可能となる。
【0110】
ところが、この制限軸力F7が混合軸力F3に加算されることにより、過剰な値の最終軸力F5が演算されるおそれがある。特に、混合軸力F3に占める推定軸力F2の分配比率DRfがより大きい値となる状態、すなわち推定軸力F2が支配的な状態で制限軸力F7が加算される場合、最終軸力F5が過剰な値になりやすい。
【0111】
この点、第3の実施の形態によれば、混合軸力F3における推定軸力F2の占める割合である分配比率DRfに応じて制限軸力F7の値が変化する。すなわち、制限軸力F7は、電流制限軸力演算部122により演算される電流制限軸力F7preに対して、制限値Ilimに応じたゲインG3および分配比率DRfに応じたゲインG4を乗算することにより演算されるところ、そのゲインG4は推定軸力F2の分配比率DRfの値が大きくなるほど、より小さい値に設定される。このため、推定軸力F2の分配比率DRfの値が大きくなるほど、制限軸力F7は、より小さい値となる。したがって、混合軸力F3に加算される制限軸力F7の値が推定軸力F2の分配比率DRfに応じて減少することにより、過剰な値の最終軸力F5が演算されること、ひいては運転者に必要以上の操舵反力が付与されることが抑制される。
【0112】
<第3の実施の形態の効果>
したがって、第3の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(3)転舵モータ41へ供給される電流が制限される場合、混合軸力F3に加算される制限軸力F7の値が推定軸力F2の分配比率DRfの値に応じて減少される。このため、最終軸力F5が過剰な値になることを抑制することができる。したがって、運転者に過度な操舵反力が付与されることに起因する運転者の違和感を抑えることができる。
【0113】
<第4の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図1~
図4に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、混合軸力演算部81の構成の点で第1の実施の形態と異なる。ちなみに、本実施の形態は、先の第2または第3の実施の形態に適用してもよい。
【0114】
図7に示すように、混合軸力演算部81は、理想軸力演算部91、推定軸力演算部92、および軸力配分演算部93に加えて、推定軸力演算部94を有している。
推定軸力演算部94は、車両に設けられる横加速度センサ502を通じて検出される横加速度LAに基づき、転舵シャフト14に作用する推定軸力F8を演算する。推定軸力F8は、車速Vに応じた係数であるゲインを横加速度LAに乗算することにより求められる。横加速度LAには路面状態あるいは車両挙動が反映される。このため、横加速度LAに基づき演算される推定軸力F8は路面状態あるいは車両挙動が反映されたものとなる。
【0115】
軸力配分演算部93は、理想軸力F1および推定軸力F2,F8を取り込む。そして、軸力配分演算部93は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態変数に応じて、理想軸力F1および推定軸力F2,F8に対する分配比率を個別に設定する。軸力配分演算部93は、理想軸力F1および推定軸力F2,F8に対してそれぞれ個別に設定される分配比率を乗算した値を合算することにより、混合軸力F3を演算する。また、軸力配分演算部93は、推定軸力F2の分配比率DRfを制限軸力演算部82へ供給する。
【0116】
ちなみに、ピニオン角θpに基づく理想軸力F1、および横加速度LAに基づく推定軸力F8は、転舵シャフト14に高負荷の力が作用したとき、この高負荷の力が反映されない軸力である。また、転舵モータ41の電流Ibに基づく推定軸力F2は、転舵シャフト14に高負荷の力が作用したとき、この高負荷の力が反映される軸力である。転舵シャフト14に高負荷の力が作用する状況としては、たとえば転舵シャフト14の端部が図示しないハウジングに突き当たるエンド当てが発生した状況、あるいは転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たった状況が考えられる。
【0117】
<第4の実施の形態の作用>
つぎに、第4の実施の形態の作用を説明する。
ピニオン角θpに基づく理想軸力F1、路面状態が反映される状態変数(Ib)に基づく推定軸力F2、および路面状態あるいは車両挙動が反映される状態変数(LA)に基づく推定軸力F8が所定の分配比率で合算される。これにより、路面状態あるいは車両挙動がより細やかに反映された混合軸力F3が演算される。この混合軸力F3が操舵反力指令値T*に反映されることによって、路面状態、車両挙動あるいは操舵状態に応じた、より細やかな操舵反力がステアリングホイール11に付与される。
【0118】
ところが、ステアリングホイール11が仮想的な操作範囲の限界位置に至った以降、ステアリングホイール11の操作を制限するための制限軸力F4が急激に増大するところ、この制限軸力F4が混合軸力F3に加算されることにより、過剰な値の最終軸力F5が演算されるおそれがある。
【0119】
たとえばステアリングホイール11の操作位置が仮想的な操作範囲の限界位置の近傍に達している状態で、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たったとき、転舵モータ41の電流Ibに基づく推定軸力F2は、より大きい値になる。この推定軸力F2には、転舵シャフト14に作用する力が反映されるからである。また、路面状態あるいは転舵輪16,16の転舵状態を操舵反力を通じて運転者に伝える観点から、混合軸力F3に占める推定軸力F2の割合もより増加する。すなわち、より大きな値の混合軸力F3に制限軸力F4が加算されることになるため、最終軸力F5の値が過剰に大きくなりやすい。
【0120】
この点、第4の実施の形態によれば、推定軸力F2の分配比率DRf、すなわち混合軸力F3における推定軸力F2の占める割合に応じて制限軸力F4の値が変化する。すなわち、制限軸力F4は、仮想ラックエンド軸力演算部103により演算される仮想ラックエンド軸力F4preに対して分配比率DRfに応じたゲインG1を乗算することにより演算されるところ、そのゲインG1は分配比率DRfの値が大きくなるほど、より小さい値に設定される。このため、分配比率DRfの値が大きくなるほど、制限軸力F4は、より小さい値となる。したがって、混合軸力F3に加算される制限軸力F4の値が分配比率DRfに応じて減少することにより、過剰な値の最終軸力F5が演算されること、ひいては運転者に必要以上の操舵反力が付与されることが抑制される。
【0121】
<第4の実施の形態の効果>
したがって、第4の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(4)制限軸力F4が演算される場合、その制限軸力F4の値は推定軸力F2の分配比率DRfの値に応じて減少される。混合軸力F3に加算される制限軸力F4の値が減少するため、最終軸力F5が過剰な値になることを抑制することができる。したがって、運転者に過度な操舵反力が付与されることに起因する運転者の違和感を抑えることができる。
【0122】
<第5の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第5の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図1~
図4に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、軸力演算部72の構成の点で第1の実施の形態と異なる。ちなみに、本実施の形態は、先の第2~第4の実施の形態に適用してもよい。
【0123】
図8(a)に示すように、軸力演算部72は、先の
図3に示される加算器83に代えて、最大値選択部85を有している。最大値選択部85は、混合軸力演算部81により演算される混合軸力F3、および制限軸力演算部82により演算される制限軸力F4を取り込む。最大値選択部85は、これら取り込まれる混合軸力F3および制限軸力F4のうち絶対値の大きい方を選択し、この選択される混合軸力F3または制限軸力F4を、操舵反力指令値T
*の演算に使用する最終軸力F5として設定する。
【0124】
この構成を採用する場合、混合軸力F3および制限軸力F4のうち絶対値の大きい方が操舵反力指令値T*の演算に使用される最終軸力F5として設定される。制限軸力F4が混合軸力F3に上乗せされることがないため、最終軸力F5が過剰な値になることを抑制することができる。したがって、運転者に過度な操舵反力が付与されることに起因する運転者の違和感を抑えることができる。
【0125】
しかし、制限軸力演算部82によりステアリングホイール11の操作範囲を仮想的に制限するための適切な制限軸力F4が演算されるにもかかわらず、この制限軸力F4が使用されないおそれがある。たとえば混合軸力F3が制限軸力F4よりも大きい値になる場合である。そこで本実施の形態では、制限軸力演算部82として、つぎの構成を採用している。
【0126】
すなわち、制限軸力演算部82は、推定軸力F2の分配比率DR
fではなく、転舵シャフト14に作用する力が反映されない軸力である理想軸力F1の分配比率DR
f2を取り込む。また、
図8(b)に示すように、ゲイン演算部104は先の
図4に示されるゲインマップM2とは逆の特性を有するゲインマップM8を使用してゲインG5を演算する。ゲインマップM8は、つぎの特性を有する。すなわち、ゲインG5の値は、分配比率DR
f2の値が「0」を基準として増加するほど、より大きい値に設定される。先の
図4に示される乗算器105は、仮想ラックエンド軸力演算部103により演算される仮想ラックエンド軸力F4
preにゲインG5を乗算することにより制限軸力F4を演算する。
【0127】
なお、本実施の形態において、最大値選択部85は、操舵反力指令値T*に反映させる最終的な軸力である最終軸力F5を演算する最終軸力演算部に相当する。
<第5の実施の形態の作用および効果>
したがって、第5の実施の形態によれば、以下の作用および効果を得ることができる。
【0128】
(5)理想軸力F1の分配比率DRf2の値が大きくなるほど、制限軸力演算部82により演算される制限軸力F4がより大きい値となる。したがって、ステアリングホイール11の操作位置が仮想的な操作範囲の限界位置の近傍に達し、制限軸力演算部82によって制限軸力F4が演算される場合、その制限軸力F4は混合軸力F3よりも大きい値になりやすい。このため、最大値選択部85により、ステアリングホイール11の操作範囲を仮想的に制限するための制限軸力F4が操舵反力指令値T*の演算に使用される最終軸力F5として設定されやすくなる。したがって、運転者はより適切な操舵反力を手応えとして感じることによって、ステアリングホイール11が仮想的な操作範囲の限界位置に至ったことを認識することが可能となる。
【0129】
<第6の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をEPS(電動パワーステアリング装置)の制御装置に具体化した第6の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0130】
EPSは、
図1に示されるステアリングホイール11と転舵輪16,16との間が機械的に連結されてなる。すなわち、ステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14は、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路として機能する。ステアリングホイール11の回転操作に伴い転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θ
wが変更される。また、EPSは、
図1に示される転舵モータ41と同じ位置に設けられるアシストモータを有している。アシストモータは、操舵方向と同じ方向のトルクである操舵補助力を発生する。
【0131】
図9に示すように、EPS200の制御装置201は、アシストモータ202に対する通電制御を通じて操舵トルクT
hに応じた操舵補助力を発生させるアシスト制御を実行する。制御装置201は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT
h、車速センサ501を通じて検出される車速V、アシストモータ202に設けられる回転角センサ203を通じて検出される回転角θ
mに基づき、アシストモータ202に対する給電を制御する。
【0132】
制御装置201は、ピニオン角演算部211、アシスト指令値演算部212、および通電制御部213を有している。ピニオン角演算部211は、アシストモータ202の回転角θmを取り込み、この取り込まれる回転角θmに基づきピニオンシャフト44の回転角であるピニオン角θpを演算する。アシスト指令値演算部212は、操舵トルクThおよび車速Vに基づきアシスト指令値Tas
*を演算する。アシスト指令値Tas
*は、アシストモータ202に発生させるべきトルクに対応する値である。通電制御部213は、アシスト指令値Tas
*に応じた電力をアシストモータ202へ供給する。アシストモータ202に対する給電経路には、電流センサ214が設けられている。電流センサ214は、アシストモータ202へ供給される実際の電流Imの値を検出する。
【0133】
つぎに、アシスト指令値演算部212の構成を詳細に説明する。
アシスト指令値演算部212は、アシストトルク演算部221、軸力演算部222、および減算器223を有している。
【0134】
アシストトルク演算部221は、操舵トルクThおよび車速Vに基づいてアシストトルクTas1
*を演算する。アシストトルク演算部221は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値のアシストトルクTas1
*を演算する。
【0135】
軸力演算部222は、先の
図3に示される軸力演算部72と同様の演算機能を有している。軸力演算部222は、電流センサ214を通じて検出されるアシストモータ202の電流I
mの値、ピニオン角演算部211により演算されるピニオン角θ
p、および車速センサ501を通じて検出される車速Vに基づき、転舵シャフト14に作用する最終軸力F5を演算し、この最終軸力F5をトルクに換算したトルク換算値T
as2
*を演算する。
【0136】
減算器223は、アシストトルク演算部221により演算されるアシストトルクTas1
*から軸力演算部222により演算されるトルク換算値Tas2
*を減算することにより、アシスト指令値Tas
*を演算する。
【0137】
このようなEPSの制御装置201にも、ステアリングホイール11の操作範囲を仮想的に制限する第1の制御、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況下における操舵を制限する第2の制御、または転舵モータ41に供給される電流が制限されている状況下における操舵を制限する第3の制御を実行する機能が持たせられることがある。この場合、第1~第3の制御の少なくとも一つの制御が実行されるとき、ステアリングホイール11に過剰な操舵補助力が付与されることが懸念される。
【0138】
そこで、本実施の形態の軸力演算部222は、先の
図4~
図6に示される制限軸力演算部82,110,120のうちいずれか1つと同様の演算機能を有している。すなわち、制御装置201に第1の制御を実行する機能が持たせられる場合、軸力演算部222として、先の
図4に示される制限軸力演算部82と同様の構成が採用される。制御装置201に第2の制御を実行する機能が持たせられる場合、軸力演算部222として、先の
図5に示される制限軸力演算部110と同様の構成が採用される。制御装置201に第3の制御を実行する機能が持たせられる場合、軸力演算部222として、先の
図6に示される制限軸力演算部120と同様の構成が採用される。
【0139】
ちなみに、軸力演算部222の混合軸力演算部として、先の
図7に示される第4の実施の形態の混合軸力演算部81と同様の構成を採用してもよい。また、軸力演算部222として、先の
図9に示される第5の実施の形態の軸力演算部72と同様の構成を採用してもよい。
【0140】
<第6の実施の形態の効果>
したがって、第6の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(6)たとえば制限軸力F4,F6,F7が演算される場合、その制限軸力F4,F6,F7の値は、転舵輪16,16を介して転舵シャフト14に作用する力が反映される推定軸力F2の分配比率DRfの値に応じて減少される。混合軸力F3に加算される制限軸力F4,F6,F7の値が減少するため、最終軸力F5が過剰な値になることを抑制することができる。したがって、運転者に過度な操舵補助力が付与されることに起因する運転者の違和感を抑えることができる。
【0141】
<他の実施の形態>
なお、前記各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第4の実施の形態において、
図7に括弧書きの符号で示すように、推定軸力演算部94は、横加速度LAに代えて、あるいは横加速度LAに加えて、車両に設けられるヨーレートセンサ505を通じて検出されるヨーレートYRに基づき、転舵シャフト14に作用する推定軸力F12を演算するようにしてもよい。推定軸力F12は、ヨーレートYRを微分した値であるヨーレート微分値に、車速Vに応じた係数である車速ゲインを乗算することにより求められる。車速ゲインは、車速Vが速くなるほどより大きな値に設定される。ヨーレートYRには路面摩擦抵抗などの路面状態あるいは車両挙動が反映される。このため、ヨーレートYRに基づき演算される推定軸力F12は実際の路面状態あるいは車両挙動が反映されたものとなる。
【0142】
・第4の実施の形態において、混合軸力演算部81は、推定軸力演算部92に加えて、転舵シャフト14に作用する高負荷の力が反映される軸力を演算する単数または複数の他の推定軸力演算部を有していてもよい。他の推定軸力演算部は、転舵モータ41に供給される電流Ib以外の路面状態あるいは転舵シャフト14に作用する力が反映される状態変数に基づき、転舵シャフト14に作用する他の推定軸力を演算する。軸力配分演算部93は、推定軸力F2および他の推定軸力の分配比率をそれぞれ合算することにより分配比率DRfを演算し、この演算されるトータルとしての分配比率DRfを制限軸力演算部82へ供給する。このようにすれば、制限軸力F4が演算される場合、その制限軸力F4の値はトータルとしての分配比率DRfの値に応じて減少される。混合軸力F3に加算される制限軸力F4の値が減少するため、最終軸力F5が過剰な値になることを抑制することができる。
【0143】
・第1~第6の実施の形態において、理想軸力演算部91は、理想軸力F1の演算に際して車速Vを必ずしも考慮しなくてもよい。
・第1~第5の実施の形態において、目標操舵反力演算部71は、操舵トルクThのみに基づいて目標操舵反力T1*を演算するようにしてもよい。また、第6の実施の形態において、アシストトルク演算部221は、操舵トルクThのみに基づいてアシストトルクTas1
*を演算するようにしてもよい。
【0144】
・第1~第5の実施の形態において、操舵反力指令値演算部52として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクThに基づき目標操舵トルクを演算し、操舵トルクThの検出値を目標操舵トルクに追従させるべく操舵トルクThのフィードバック制御を通じて第1の操舵反力指令値を演算する。また、操舵反力指令値演算部52は、先の第1~第5の実施の形態と同様にして、ピニオン角θp、転舵モータ41の電流Ibの値および車速Vに基づき最終軸力F5を演算する。操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTh、第1の操舵反力指令値、最終軸力F5および車速Vに基づき目標操舵角を演算し、操舵角θsを目標操舵角に追従させるべく操舵角θsのフィードバック制御を通じて第2の操舵反力指令値を演算する。操舵反力指令値演算部52は、第1の操舵反力指令値および第2の操舵反力指令値を加算することにより操舵反力指令値T*を演算する。
【0145】
・第1~第5の実施の形態において、操舵装置10にクラッチを設けてもよい。この場合、
図2に二点鎖線で示すように、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とをクラッチ21を介して連結する。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。制御装置50は、クラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に連結される。
【0146】
・第1~第4の実施の形態において、制限軸力演算部82,110,120として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、転舵シャフト14に作用する力が反映されない軸力(F1,F8)の分配比率DR
f2の値、あるいは転舵シャフト14に作用する力が反映されない複数の軸力に対して個別に設定される分配比率を合算したトータルとしての分配比率DR
f2の値が増加するにつれて制限軸力F4,F6,F7の値を増加させる。この場合、先の
図4~
図6に示されるゲインマップM2,M4,M7の特性は、その横軸を分配比率DR
f2としたうえで、つぎのように設定される。すなわち、ゲインG1,G2,G4は、分配比率DR
f2の値が「0」を基準として増加するほど、より大きい値に設定される。このようにすれば、最終軸力F5に占める制限軸力F4,F6,F7の割合が増加することにより、ステアリングホイール11の操作をより適切に制限することができる。
【0147】
・第1~第4の実施の形態および上記の他の実施の形態において、制限軸力演算部82,110,120として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、転舵シャフト14に作用する力が反映される軸力(F2)の分配比率DRfが、転舵シャフト14に作用する力が反映されない軸力(F1,F8)の分配比率DRf2よりも小さい値であるとき、分配比率DRfの値が増加するにつれて制限軸力F4,F6,F7の値を増加させる。転舵シャフト14に作用する軸力が反映される単数または複数の軸力に対して個別に設定される分配比率を合算したトータルとしての分配比率DRfが、転舵シャフト14に作用する軸力が反映されない複数の軸力に対して個別に設定される分配比率を合算したトータルとしての分配比率DRf2よりも小さい値であるときについても上記と同様である。このようにすれば、転舵輪16,16を介して転舵シャフト14に作用する力が反映された、より適切な操舵反力を運転者に付与することができる。
【0148】
・第1~第4の実施の形態および上記の他の実施の形態において、制限軸力演算部82,110,120として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、転舵シャフト14に作用する力が反映される軸力(F2)の分配比率DRfが、転舵シャフト14に作用する力が反映されない軸力(F1,F8)の分配比率DRf2よりも大きい値であるとき、分配比率DRfの値が増加するにつれて制限軸力F4,F6,F7の値を減少させる。転舵シャフト14に作用する軸力が反映される単数または複数の軸力に対して個別に設定される分配比率を合算したトータルとしての分配比率DRfが、転舵シャフト14に作用する軸力が反映されない複数の軸力に対して個別に設定される分配比率を合算したトータルとしての分配比率DRf2よりも大きい値であるときについても上記と同様である。このようにすれば、過剰な値の最終軸力F5が演算されることを抑制しつつ、転舵輪16,16を介して転舵シャフト14に作用する力が反映された、より適切な操舵反力を運転者に付与することができる。
【0149】
・第1~第4の実施の形態において、軸力演算部72として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、ゲインマップM2,M4,M7に基づき演算されるゲインG1,G2,G4は、仮想ラックエンド軸力F4
pre(
図4参照)、縁石軸力F6
pre(
図5参照)、あるいは電流制限軸力F7
pre(
図6参照)ではなく、軸力演算部72の加算器83により演算される最終軸力F5(
図3参照)に乗算するようにしてもよい。このようにしても、過剰な値の最終軸力F5が演算されることが抑制される。
【0150】
・第1~第4の実施の形態において、軸力演算部72として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、ゲインマップM2,M4,M7に基づき演算されるゲインG1,G2,G4は、仮想ラックエンド軸力F4
pre(
図4参照)、縁石軸力F6
pre(
図5参照)、あるいは電流制限軸力F7
pre(
図6参照)ではなく、転舵シャフト14に作用する力が反映される推定軸力F2または混合軸力F3に乗算するようにしてもよい。このようにしても、過剰な値の最終軸力F5が演算されることが抑制される。
【符号の説明】
【0151】
11…ステアリングホイール、12…操舵機構を構成するステアリングシャフト、14…操舵機構を構成する転舵シャフト、16…転舵輪、31…反力モータ、41…転舵モータ、50…制御装置(操舵制御装置)、81…混合軸力演算部(操舵域軸力演算部)、82,110,120…制限軸力演算部、83…加算器(最終軸力演算部)、85…最大値選択部(最終軸力演算部)、104,116,124…軸力調整部を構成するゲイン演算部、105,117,125…軸力調整部を構成する乗算器、202…アシストモータ、F1…理想軸力(第2の軸力、操舵域軸力)、F2…推定軸力(第1の軸力、操舵域軸力)、F3…混合軸力(操舵域軸力)、F4…制限軸力(第1の制限軸力)、F5…最終軸力、F6…制限軸力(第2の制限軸力)、F7…制限軸力(第3の制限軸力)、T*…操舵反力指令値(指令値)。