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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   F26B 21/00 20060101AFI20231116BHJP
   F26B 3/02 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
F26B21/00 C
F26B3/02
F26B21/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019201831
(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公開番号】P2021076280
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】打田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】辻 眞理
(72)【発明者】
【氏名】川村 康晴
(72)【発明者】
【氏名】上神 宏一
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-194518(JP,A)
【文献】特開平03-095385(JP,A)
【文献】特開2004-338765(JP,A)
【文献】特開昭58-022875(JP,A)
【文献】特開平05-203356(JP,A)
【文献】特開2019-105410(JP,A)
【文献】特表平08-501979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 21/00
F26B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の容器の上部開口に向かって気体を吐出し、前記容器内に渦流を発生させる工程を備え、
前記渦流は、前記容器の中心軸に対し直交する方向に平行な軸を有し、
前記容器の上端から前記渦流の前記軸までの深さをz、前記容器の高さをHとした場合、前記軸は0.3≦(z/H)≦0.4の範囲のみに形成され
前記気体は、前記容器の中心からずれた位置に配置されたスリット状の吐出口を有するノズルから吐出され、
前記吐出口の幅方向の中心と前記容器の中心の間の距離をy 、前記容器の幅長さをDとした場合、前記吐出口は0.3≦(y /D)≦0.4の範囲内に配置され、前記気体のレイノルズ数が1400以上4000以下である乾燥方法。
【請求項2】
有底筒状の容器の上部開口に向かって気体を吐出し、前記容器内に渦流を発生させる工程を備え、
前記渦流は、前記容器の中心軸に対し直交する方向に平行な軸を有し、
前記容器の上端から前記渦流の前記軸までの深さをz 、前記容器の高さをHとした場合、前記軸は0.3≦(z /H)≦0.4の範囲のみに形成され、
前記気体は、前記容器の中心からずれた位置に配置されたスリット状の吐出口を有するノズルから吐出され、
前記吐出口の幅方向の中心と前記容器の中心の間の距離をy、前記容器の幅長さをDとした場合、前記吐出口は(/D)=0.4に配置され、前記気体のレイノルズ数が1400以上6000以下である乾燥方法。
【請求項3】
前記渦流は、前記容器内において単一である請求項1または2に記載の乾燥方法。
【請求項4】
前記ノズルは、所定の間隔を開けて対向して配置された一対のノズル壁の先端にスリット状の前記吐出口を備え、前記ノズル壁の先端側に互いの前記ノズル壁に向かって突出した複数の突起を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の乾燥方法。
【請求項5】
前記容器は円筒状の缶体である請求項1~のいずれか1項に記載の乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有底筒状の缶体を乾燥するインサイド・ベーク・オーブン(以下、IBOという)は、樹脂製又はステンレススチール製コンベアネットで缶体を一定量まとめて搬送して加熱処理するトンネルタイプオーブンである。例えば図15に示すIBO100のように、3つの領域(106,108,110)に分かれて加熱するタイプが主流である。前工程のインサイド・スプレーマシンで缶体内面に熱硬化性樹脂塗料が塗装された缶体104が、上部開口を上向きとした状態(以下、正置という)でIBO100に搬送される。
【0003】
IBO100では、コンベアネット102上に正置された缶体104が平面視において千鳥状のパターンを形成し、予熱帯106、昇温帯108、保持帯110、冷却帯114の各領域を通過する。予熱帯106では、100℃程度で水、溶剤を蒸発あるいは揮発させる。昇温帯108では、樹脂の架橋反応を開始させて分子構造を密にするとともに、所定の温度に缶体104を到達させる。保持帯110では、樹脂の架橋反応をさらに促進させ要求性能を満たす塗膜を形成する。要求性能を満たす塗膜を形成するために、例えば190℃×60secを確保する必要がある。保持帯110からエアシール112を経て、冷却帯114で缶温200℃近傍から冷却されて、次の工程へ搬送される。
【0004】
IBO100の各領域には、コンベアネット102上に正置された缶体104の上方の所定位置に、ノズル本体116が設けられている。ノズル本体116は、缶体104を乾燥させるための気体を缶体104の縦方向に平行に吐出するスリットノズル117を備える。スリットノズル117は、缶体104の搬送方向に直交する方向、すなわちコンベアネット102の幅方向を長手方向とするスリット状の吐出口を有する。吐出口は、所定の幅(例えば3~7mm)を有し、一定間隔(例えば75~90mm等)で搬送方向に複数配置されている。スリットノズル117から吐出される気体は、レイノルズ数(以下、「Re」)2000程度(吐出口で12~16m/s)である。以上のように缶体104を乾燥する際、スリットノズル117が配備されているエリアにおいては、スリットノズル117から吐出される気体を缶内に吹き込ませる衝突噴流が、また、スリットノズル117が配備されていないエリアにおいては、自然対流熱伝達が採用されている。
【0005】
IBO100は、熱風循環式により、図示しないが、気体として一部の外気を吸気しバーナー加熱された熱風を、循環ファンにより循環させている。上記熱風は、上部の吹出ノズル118から吹出され、吹出ノズル118直後のパンチングプレート120と、スリットノズル117直前のパンチングプレート122を順に通過することによって、各領域の全体に分散、均圧化される。このようにしてスリットノズル117からは、均一な流速の熱風が吹き出る。
【0006】
上記スリットノズルとして、特許文献1には、一対の波板を、互いの山部及び谷部が直交するように、離間して配置された渦流発生装置が開示されている。上記特許文献1によると、渦流発生装置によって生じた乱流状態にある空気が缶体に到達すると、缶体の周囲の気流の流れを乱し、缶体の表面に付着した水分を効率よく乾燥することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平3-95385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記特許文献1のスリットノズルから吐出された空気は、缶体内に侵入した時点で流速が低下し、缶体内を効率的に乾燥させることが困難であるという懸念があった。
【0009】
本発明は、缶体内を効率的に乾燥することができる乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る乾燥方法は、有底筒状の容器の上部開口に向かって気体を吐出し、前記容器内に渦流を発生させる工程を備え、前記渦流は、前記容器の中心軸に対し直交する方向に平行な軸を有し、前記容器の上端から前記渦流の前記軸までの深さをz、前記容器の高さをHとした場合、前記軸は0.3≦(z/H)の範囲のみに形成される。
【0011】
本発明に係る乾燥方法において、渦流は、前記容器内において単一である。
【0012】
本発明に係る乾燥方法において、前記気体は、前記容器の中心からずれた位置に配置されたスリット状の吐出口を有するノズルから吐出されるのが好ましい。
【0013】
本発明に係る乾燥方法において、前記吐出口の幅方向の中心と前記容器の中心の間の距離をy、前記容器の幅長さをDとした場合、前記吐出口は0.3≦(y/D)<0.5の範囲内に配置され、前記気体のレイノルズ数が1000以上4000以下であるのが好ましい。
【0014】
本発明に係る乾燥方法において、前記吐出口の幅方向の中心と前記容器の中心の間の距離をy、前記容器の幅長さをDとした場合、前記吐出口は0.4≦(y/D)<0.5の範囲内に配置され、前記気体のレイノルズ数が1000以上6000以下であるのが好ましい。
【0015】
本発明に係る乾燥方法において、前記ノズルは、所定の間隔を開けて対向して配置された一対のノズル壁の先端にスリット状の吐出口を備え、前記ノズル壁の先端側に互いの前記ノズル壁に向かって突出した複数の突起を有するのが好ましい。
【0016】
本発明に係る乾燥方法において、前記容器は円筒状の缶体であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、缶体内において発生する渦流の軸が0.3≦(z/H)の範囲のみに形成されることによって、気体が缶体内の全体をより高速で循環するので、缶体内を効率的に乾燥することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の乾燥装置の全体構成を示す模式図である。
図2】本実施形態の乾燥装置に用いられるノズルの斜視図である。
図3】上記ノズルの平面図である。
図4】上記ノズルの作用の説明に供する断面図である。
図5】上記ノズルの変形例を示す斜視図である。
図6】実験装置の構成を模式的に示す斜視図である。
図7】実験装置の部分拡大図である。
図8図8のaはレイノルズ数2000のときの時間平均速度の等値分布図、図8のbはレイノルズ数2000のときの流線図である。
図9】レイノルズ数2000のときの時間平均速度分布図である。
図10図10のcはy/D=0のときの速度の等値分布の時間変化、図10のdはy/D=0.3のときの速度の等値分布の時間変化を示す図である。
図11図11のeは時間平均速度の等値分布を示す図、図11のfは流線図である。
図12図12のgはレイノルズ数4000のときの速度の等値分布の時間変化、図12のhはレイノルズ数6000のときの速度の等値分布の時間変化を示す図である。
図13図13のjは渦の軸の位置とy/Dとの関係を示すグラフ、図13のkは循環Γとy/Dとの関係を示すグラフ(1)、図13のmは循環Γとy/Dとの関係を示すグラフ(2)、図13のnはグラフの説明に供する模式図である。
図14】ノズルの位置と、缶体内における気体の平均速度との関係を示すグラフである。
図15】従来の乾燥装置の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る乾燥装置1について図1を参照して説明する。有底筒状の容器としての缶体104を乾燥する乾燥装置1は、樹脂製またはステンレススチール製のコンベアネット102で缶体104を一定量まとめて搬送して加熱処理するトンネルタイプオーブンである。乾燥装置1は、3つの領域に分かれて加熱する。前工程のインサイド・スプレーマシンで缶体104内面に熱硬化性樹脂塗料が塗装された缶体104が、上部開口105が上向きである正置した状態で乾燥装置1に搬送される。
【0020】
乾燥装置1は、上流から、昇温帯108、保持帯110、冷却帯114が搬送方向に沿って順に設けられている。そして、必要に応じ昇温帯108の前方に予熱帯106が設けられる。搬送部としてのコンベアネット102上に正置された缶体104は、平面視において格子状に配置され、予熱帯106、昇温帯108、保持帯110、冷却帯114の各領域を通過する。予熱帯106では、100℃以下で水、溶剤を蒸発あるいは揮発させる。昇温帯108では、樹脂の架橋反応を開始させて分子構造を密にするとともに、所定の温度に缶体104を到達させる。保持帯110では、樹脂の架橋反応をさらに促進させて要求性能を満たす塗膜を形成する。要求性能を満たす塗膜を形成するために、例えば190℃×60secを確保する必要がある。保持帯110からエアシール112を経て、冷却帯114で缶温200℃近傍から冷却されて、次の工程へ搬送される。
【0021】
乾燥装置1の各領域には、コンベアネット102上に正置された缶体104の上方の所定位置に、ノズル本体10Aがそれぞれ設けられている。ノズル本体10Aは、缶体104の縦方向に平行に気体を吐出するノズル(後述する)を備える。本明細書において平行とは、完全に平行である状態に限定されず、完全に平行な状態からわずかに傾いた状態を含む。
【0022】
乾燥装置1は、熱風循環式により、図示しないが、缶体104を乾燥する気体として一部の外気を吸気し、100℃~255℃程度にバーナー加熱された熱風を、循環ファンにより循環させている。上記熱風は、上部の吹出ノズル118から吹出され、吹出ノズル118直後のパンチングプレート120と、ノズル11直前のパンチングプレート122を順に通過することによって、各領域の全体に分散、均圧化される。このようにしてノズル11からは、均一な流速の熱風が吹き出る。なお、乾燥装置1の基本的な構成は、図1に示した例に限定されるものではなく、いわゆる衝突噴流を用いる他の形態にも適用できる。
【0023】
図2に示すように、ノズル本体10Aは、ノズル11が設けられている。ノズル11は、図2の場合1つを図示しているが、実際はコンベアネット102の幅方向に、所定の間隔をあけて、複数設けられている。ノズル11は、所定の間隔(例えば3~7mm)を開けて対向して配置された一対のノズル壁12,14を備える。図2において、搬送方向はx方向、搬送部としてのコンベアネット102の幅方向はy方向、コンベアネット102表面に垂直な方向はz方向とする。図2においてノズル11のx方向の端部は、開口しているのが好ましい。
【0024】
ノズル11は、パンチングプレート122(図1)を通過した熱風を一方向下向きへ導く流路を有する。当該流路は、ノズル壁12,14の間に形成された扁平形状である。一方向は、熱風の吐出方向である。図2の場合、一方向は、図中矢印方向(z方向)であり、上部開口105を上向きとして正置された有底筒状の缶体104の中心軸107に平行な方向である。ノズル11の一方向の長さは、適宜選択することができる。
【0025】
本実施形態の場合、ノズル壁12,14は、所定の間隔を開けて配置された一対の平板で形成されている。ノズル壁12,14同士は、基端において天板13に一体化されている。ノズル本体10Aは、天板13を挟んでノズル11が形成されている。ノズル11の基端は、パンチングプレート122を通過した熱風の入口である。
【0026】
缶体104は、x方向に一列に整列した状態で搬送される。乾燥装置1は、コンベアネット102の上流側に、缶体104をx方向に一列に整列させる整列機構(図示しない)を有するのが好ましい。整列機構を有することにより、乾燥装置1の上流の工程から平面視において千鳥状に配置された状態で搬送されてくる缶体104を、一列に整列させることができる。
【0027】
ノズル11の先端は、缶体104の上部開口105に向かって熱風を吐出する、熱風の出口である吐出口15が設けられている。吐出口15は、スリット状の開口を有する。ノズル11は、吐出口15の長手方向をx方向と平行、すなわちコンベアネット102の長手方向に対して平行に配置されている。吐出口15のy方向の長さは、缶体104の半径より短い。ノズル11の入口と吐出口15を結ぶ流路は、一方向から見て扁平形状である。当該流路の開口面積は、吐出口15の直前まで一定であるのが好ましい。図2の場合、流路および吐出口15は、一方向から見た形状が長方形状である。以上のように缶の乾燥においては、ノズル11から吐出される熱風を缶体104に吹き込ませる、いわゆる衝突噴流が採用されている。
【0028】
図3に示すように、前記吐出口15は、缶体104の中心からコンベアネット102のy方向にずれた位置に配置されているのが好ましい。缶体104の中心とは、中心軸107方向から見たときの円形状の缶体104の中心をいう。吐出口15の位置は、缶体104の中心を含まず、缶体104の中心を通るy方向の直線と缶体104の胴部の交点までの範囲で選択することができる。図3の場合、吐出口15は、缶体104の中心からコンベアネット102のy方向左側にずれた位置に配置されている。
【0029】
吐出口15から吐出された熱風は、図4に示すように、缶体104の胴部内面に沿って直進して缶体104内へ進入し、缶体104の中心軸107に直交する方向に平行な軸19を有する渦流を形成する。すなわち渦流は、熱風の進行方向に対し直交する方向に平行な軸を有する横渦である。吐出口15のy方向の中心と、缶体104の中心の間の距離をy、前記缶体104の幅長さ(直径)をDとした場合、吐出口15は、コンベアネット102のy方向であって0.3≦(y/D)<0.5の範囲に配置されるのが好ましい。y/Dが上記範囲であることによって、上記渦流の軸19の高さ方向の位置は、缶体104の高さの半分程度の位置に形成される。缶体104の上端から渦流の軸19までの深さをz、缶体104の高さをHとした場合、軸19は0.3≦(z/H)の範囲のみに形成される。渦流は、缶体104の高さ方向に広がり、楕円状の軌道を描きながら軸19を中心に再循環する。缶体104内に形成される渦流は、単一とすることもできる。缶体104内において生ずる渦流が単一であることによって、渦流の流れが妨げられないため、缶体104内における熱風の平均速度をより高速とすることができる。吐出口15は、0.4≦(y/D)<0.5の範囲に配置されるのがより好ましい。
【0030】
ノズル11から吐出される熱風は、コアンダ効果が発揮されるほど安定して缶体104の内面に付着して流れる。従って、ノズル11から吐出される熱風のReは、1000以上4000以下、1000以上4000未満、1000以上3000以下、1000以上2500以下とすることが好ましい。ノズル11から吐出される熱風のReを上記範囲内とすることによって、缶体104の中心軸107に直交する方向に平行な軸19を有する渦流をより確実に形成することができる。熱風のReは、熱風の流速と温度を変えることによって、適宜調整することができる。
【0031】
なお、図3では、吐出口15は、缶体104の中心からコンベアネット102のy方向左側にずれた位置に配置されている場合について説明したが、y方向右側にずれていてもよいことはもちろんである。
【0032】
乾燥装置1は、吐出口15に対し缶体104の中心を挟んで反対側に、吸引口21を設けてもよい。吸引口21は、図示しないが、配管を通じて循環ファンに接続される。吸引口21は、吐出口15と同様、スリット状の開口を有し、長手方向がコンベアネット102の長手方向と平行となるように配置されている。吸引口21と缶体104の中心の間の距離は、上記yと同じでもよいし、異なっていてもよく、適宜選択することができる。
【0033】
次に、乾燥装置1の作用及び効果について説明する。乾燥装置1では、コンベアネット102上をx方向に一列に整列した状態で缶体104が搬送される。缶体104は、コンベアネット102のy方向に複数列配列され、全体として格子状に配列される。上方の所定位置に配置された吐出口15から缶体104の上部開口105に向かって熱風が吐出される。吐出口15の長手方向が、x方向と平行に配置されているので、缶体104の上部開口105が熱風に継続的に曝されるため、缶体104内を効率的に乾燥することができる。
【0034】
吐出口15から吐出された熱風は、缶体104の胴部内面に沿って直進して缶体104内へ容易に進入する。熱風は缶体104内において、楕円状の軌道を描きながら、缶体104の中心軸107に直交する方向に平行な軸19を中心に再循環し、渦流の一部は、缶体104の反対側の胴部内面に沿って上昇し外部へ流出する。
【0035】
本実施形態に係る乾燥方法は、上記渦流の軸19が0.3≦(z/H)の範囲のみに形成されることによって、渦流が缶体104の高さ方向に広がり、熱風が缶体104内の全体に行きわたるので、缶体104内を効率的に乾燥することができる。上記渦流の軸19を0.3≦(z/H)の範囲のみに形成するには、吐出口15を0.3≦(y/D)<0.5の範囲に配置し、熱風のReを4000以下、又は4000未満とすることが有効である。
【0036】
本実施形態に係る乾燥方法は、缶体104内において形成される渦流を単一とすることによって、缶体104内における気体の平均速度がより高速になるので、缶体104の内面を効率的に乾燥することができる。缶体104内において形成される渦流を単一とするには、吐出口15を0.4≦(y/D)<0.5の範囲に配置し、熱風のReを6000以下とするのが有効である。熱風は単一の渦流によって缶体104内の全体を循環するので、缶体104における温度差をより低減することができる。
【0037】
缶体104は、長手方向がx方向に平行に配置された吐出口15の下を、x方向に一列に整列した状態で搬送される。乾燥装置1は、缶体104が継続的に熱風に曝されるため効率的に乾燥することができる。
【0038】
上記のようにノズル11を配置することにより、缶体104の上部開口105から缶体104内へ継続的に熱風を供給することができ、さらに供給された熱風が効率的に缶体104内面に沿って底部へ到達する。したがって缶体104は、接触した熱風によって熱せられるので、効率的に乾燥される。特に缶体104が、アルミニウムで形成されている場合、熱伝導率が高いので、より効率的に乾燥される。
【0039】
缶体104内に流れ込んだ熱風は、吐出口15が缶体104の中心からy方向にずれた位置に配置されていることにより、缶体104内においてコアンダ効果が生じやすい。上記熱風は、コアンダ効果によって、いわゆる壁面噴流となる。壁面噴流は、自由噴流よりも拡散が抑制されるので、流速が低下しにくく、噴流の中心速度は維持される。さらに吐出口15が上記所定の範囲に配置され、吐出される熱風のReが上記所定の範囲であることにより、渦流が缶体104の高さ方向に広がり、缶体104内において単一の渦流を発生させることができる。上記壁面噴流を起点とする単一の渦流は、缶体104内をより高速で循環するので、水や溶剤などの物質移動をさらに促進することができる。
【0040】
上記実施形態の場合、流路および吐出口15は、一方向から見た形状が長方形状である場合について説明したが、本発明はこれに限らない。図5に示すノズル本体10Bは、ノズル23が設けられている。ノズル23は、ノズル壁12,14の先端側、図5の場合、先端27,28に互いのノズル壁12,14に向かって突出した複数の突起31を有する。突起31は、櫛歯状であって、吐出口25の長手方向に沿って複数形成されている。図5に示す突起31は、一方向から見た形状が四角形状である。突起31同士の間は凹部32が形成されている。凹部32は、突起31と同様、四角形状である。
【0041】
上記のようなノズル23を通過した熱風は、突起31同士の間の凹部32を通過することにより、一方向の軸を有する縦渦となることで、直進性が増す。吐出口25が上記所定の範囲に配置され、吐出される熱風のReが上記所定の範囲であることにより、渦流が缶体104の高さ方向に広がり、熱風は単一の渦流を形成するので、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0042】
本変形例に係る吐出口25は、吐出口25の長手方向が、x方向と平行に配置されているので、缶体104の上部開口105に熱風を継続的に供給できるため、缶体104内を効率的に乾燥することができる。吐出口25は、缶体104の中心からy方向にずれた位置に配置されることにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また上記ノズル23を備えた乾燥装置1は、当該ノズル23が突起31を有することにより、直進性が向上した熱風を吐出口25から吐出することができるので、より効率的に缶体104内を乾燥することができる。ノズル23に突起31を設け、強制的に縦渦を発生させることによって自由噴流の大規模渦列を抑制することができる。ノズル23を通過した熱風は、突起のないノズルを通過した熱風に比べ、吐出口25の流速が保たれる領域(速度ポテンシャルコア)を伸ばすことができ、レイノルズ数を大きくすることと等価の効果が得られる。上記突起31は、四角形状である場合に限られず、三角形状でもよい。
【0043】
図5の場合、ノズル壁12に形成された突起31と凹部32は、ノズル壁14に形成された突起31と凹部32と同じ位置に形成されているが、本発明はこれに限らない。例えば、ノズル壁12に形成された突起31と凹部32は、ノズル壁14に形成された突起31と凹部32と、吐出口25の長手方向にずれていてもよく、ノズル壁12に形成された突起31に対応した位置にノズル壁14に凹部32が形成されていてもよい。
【0044】
図5の場合、ノズル壁12,14の先端27,28に複数の突起31を有する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。突起31は、圧力損失による熱風の直進性が著しく低下しない程度の範囲内で、吐出口25の入口方向へずれた位置に形成してもよい。
【0045】
上記実施形態の場合、乾燥装置1は、コンベアネット102の上流側に、缶体104をx方向に一列に整列させる整列機構(図示しない)を有する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。整列機構は、乾燥装置1とは別に、乾燥装置1の上流側に設けることとしてもよい。
【0046】
上記吐出口15の先端に、吐出口15の一部を閉塞する網などのフィルターを設けることによって、吐出口15から吐出された熱風のReを変えることとしてもよい。
【実施例1】
【0047】
実際に上記実施形態に係る吐出口15の配置の有効性を検証した結果を以下に説明する。まず図6に示す実験装置124を用意した。当該実験装置124は、上部の吹出ノズル118、パンチングプレート120、ノズル本体10Aを介して、気体が容器104に吐出される。気体は、Reを2000~6000、吐出口15における流速Uを6~18m/sとした。
【0048】
粒子イメージ流速計測法(PIV:Particle Image Velocimetry)により、吐出された気体の流れを撮影した。具体的には、CCDカメラ38を用いて、ノズル11から吐出された気体の流れを撮影した。トレーサーとしてオイルミスト(平均粒径1μm、比重s≒1.05)を用いた。光源36は、ダブルパルスのNd:YAGレーザ(Dantec Dynamics社製 Dual Power 200-15)であり、図6の位置より厚さ1mmのレーザーシートにして照射した。
【0049】
容器104(図7)は、透明樹脂で形成した上部開口を有する直方体形状であって、底面の辺の長さ(D)66mm、高さ(H)124mmの容器を用いた。ノズル11は、一方向の長さを30mm、吐出口15のy方向長さを5mm、容器104を載せた台と天板13までの距離を200mmとした。CCDカメラ38を用いてノズル11から吐出された気体の流れを撮影した結果を図8に示す。図8のaはRe=2000のときの時間平均速度の等値分布図、図8のbはRe=2000のときの流線図であり、それぞれ縦軸は容器104の上端からの深さzと容器104の高さHとの比であるz/H、横軸はy/Dを示す。PIVでは、時間間隔15~50μsの2枚の画像1組を15Hzで合計256組撮影し、流体力学解析ソフト(DANTEC Dynamics studio Ver.5.1)で瞬時及び時間平均の速度ベクトルを算出した。上記速度ベクトルに基づき、時間平均速度の等値分布図、及び、時間平均の流れ場から流線図を求めた。
【0050】
ノズル11が容器104上部中央のy/D=0にある場合、流入した気体はz/H=0.25付近まで到達後、左右に分かれて容器104の外に流出している。ノズル11をy/D=0.1~0.2の位置にずらした場合、気体は容器104の右壁面側に曲げられてz/H=0.5付近まで到達し、容器104の左側から流出する。さらにノズル11をy/D=0.3~0.4の位置にずらした場合、気体はz/H=0.75付近まで到達している。図8のbの流線図を見ると、y/D=0~0.2の場合、渦流の軸は容器104の上部にあるが、y/D=0.3~0.4の場合、z/H=0.4付近に渦流の軸があり、再循環している渦流もz方向に大きく広がっている。特にy/D=0.4の気体は、容器104右側壁面に沿って流入するため、気体が容器104の底部まで到達する。
【0051】
図9に、時間平均速度(u)を吐出口15における流速によって無次元化した値(u/U)を用い、Re=2000のときの時間平均速度分布図を示す。図9の縦軸はu/U、横軸はy/D、各値はノズル位置がy/D=0~0.4のときのz/H=0,0.25,0.5,0.75の水平断面における時間平均速度分布を示す。各値は下向きが正である。y/D=0.4において、容器104の壁面に沿って速度が大きい分布がz/H=0.75の位置まで認められる。
【0052】
図10のcにRe=2000,y/D=0のときの速度の等値分布の時間変化、図10のdにRe=2000,y/D=0.3のときの速度の等値分布の時間変化を示す。y/D=0の場合、気体は左右に振動し、15s経過後もz/H=0.5付近にとどまる。一方、ノズル位置をy/D=0.3にずらした場合、気体は振動せず、容器104壁面に沿って流れ、図10のdのように気体はt=0の時点ですでに容器104の底部まで達する。
【0053】
図11のeに、y/D=0,0.3において、Re=4000、6000とした場合の時間平均速度の等値分布を示す。Re=2000の場合と同様にノズル位置y/D=0においては、Reが変化しても時間平均の容器104内の速度分布には変化が見られない。ノズル位置y/D=0.3にオフセットした場合、Re=2000の場合にはz/H=0.75付近まで気体が到達していたのに対し、Re=4000、6000の場合には気体がz/H=0.5付近にとどまる。
【0054】
図11のfに流線図を示す。Re=4000、6000の場合に容器104の上方の渦流に加えて、容器104の下方にも渦流が形成されている。ここで上方に形成される時計回りの渦流を第1渦流、下方で形成される反時計回りの渦流を第2渦流と呼ぶ。Re=4000、6000の場合、第2渦流が形成されることにより、気体が曲げられて容器104の底部の流速が低下したと考えられる。
【0055】
図12にノズル位置y/D=0.3において、Re=4000、6000とした場合の速度の等値分布の時間変化を示す。Re=6000では、容器104の下方に第2渦流が定在している。一方、Re=4000では、Re=2000のように容器104の壁面に付着して流れる場合とRe=6000の場合のように容器104の下方に第2渦流が生じている場合が混在している。このことからRe=4000において、Re=2000と同様の容器104内の流れ場が得られることが確認された。このようにReが4000以下の場合、気体は安定して容器104の壁面に付着して流れる。一方、Reが4000を超えると、容器104の上方の第1渦流が強くなる影響で容器104の下方の第2渦流も成長し、気体が容器104の底部まで壁面に付着しなくなる。
【0056】
図13に、ノズル位置を容器の中心からずらした場合の容器104内に形成される第1渦流と第2渦流の軸のz方向の位置変化を示す。図13のnに示すように、容器104の上方から容器104内のz/Hが0.35までの領域(-0.25≦(z/H)<0.35)を上部領域、容器内のz/Hが0.35から0.95までの領域(0.35≦(z/H)<0.95)を下部領域という。図13のjは渦流の軸の位置とy/Dとの関係を示すグラフである。Re=2000の場合、渦流の軸は、y/Dが大きくなるほど容器104下方に移動し、0.3≦(y/D)で気体が壁面に付着し大きく下方に移動する。一方、Re=4000,6000の場合、容器104の下方に第2渦流が形成されているが、Re=4000の方が、第2渦流の軸がより深い位置に形成されているので、第1渦流の軸がRe=6000の場合に比べ深い位置に形成される。y/D=0.4では、気体が壁面に付着してRe=6000の場合でも第2渦流が形成されないため、渦流の軸は容器104のより下方(z/H=0.4以下)へ移動する。
【0057】
図13のkは、上部領域及び下部領域を含む全領域(-0.25≦(z/H)≦0.95,-0.45≦(y/D)≦0.45)の渦度分布から求めた循環Γと、y/Dとの関係を示すグラフ、図13のmは、上部領域(-0.25≦(z/H)<0.35)と下部領域(0.35≦(z/H)<0.95)の渦度分布から求めた循環Γと、y/Dとの関係を示すグラフである。図13のkに示すように、全領域を無次元化した循環Γ/UDは、0.3≦(y/D)、Re=4000以下において、増加している。図13のmに示すように、上部領域において、無次元化した循環Γ/UDは、y/Dが大きいほど高くなっているが、Reに依存せず概ね同様な変化を示す。
【0058】
以上の結果から、y/Dが0.3以上、Re4000以下の場合、渦流の軸の位置は容器の中央付近の深さに形成され、熱風は容器全体に行きわたる。y/Dが0.4以上の場合は、Re6000であっても、容器内に生じる渦流は単一となり、渦流のより高い循環が得られることが分かった。
【実施例2】
【0059】
実際に上記実施形態に係る吐出口の配置と、円筒状の缶体における気体の速度との関係を検証した結果を以下に説明する。噴流源としてヒートガン((株)石崎電機製作所製 SUREプラジェットPJ-214A)を用いた。高さ(H)135mm、内径(D)約50mmの缶体に対し、缶体の上端から約20mmの上方の位置にノズルを配置した。ノズルは開口幅3mm、長さ約50mmの吐出口を有する平面ノズルを用いた。当該ノズルから、流速約15m/s、温度約300℃、Re=約1400の気体を吐出した。缶体の中心から吐出口の中心までの距離yを変えながら、缶体の底面から8mmの位置(ボトム)、底面から68mmの位置(ミドル)、底面から127mmの位置(トップ)の平均流速を測定した。平均流速は、図14に示すように、缶体を中心軸方向から見てp、q、tの各地点で測定した。ノズルの長手方向を図14のx方向に平行に配置し、地点qから地点pの範囲でノズルを移動させた。地点pは、缶体の中心を通りノズルの長手方向に直交する直線と缶体の胴部の一方の交点である。地点tは、缶体の中心を挟んで地点pに対向する缶体胴部の他方の交点である。地点qは、缶体の中心を通りノズルの長手方向に平行な直線と缶体の胴部の一方の交点である。
【0060】
グラフは、横軸が時間(s)、縦軸が温度(℃)、曲線がそれぞれボトム、ミドル、トップにおける測定温度の変化を示す。地点qにおいてボトムの流速は、0.3≦(y/D)<0.5の範囲で強く、y/D=0.4で最も強い。地点tにおいてボトムの流速は、0.2≦(y/D)<0.5の範囲で強く、y/D=0.3で最も強い。このことから、熱風を容器全体に行きわたらせるには、0.3≦(y/D)<0.5とすることが有効といえる。地点tにおいてトップの流速がy/D=0~0.3が強かったのは、缶体下方の第2渦流の影響を受け、缶体に流入した気体がすぐに外へ排出され、経路が短くなったことによると考えられる。
【0061】
以上より、渦流の軸が0.3≦(z/H)の範囲のみに形成されることによって、渦流が缶体の高さ方向に広がり、熱風が缶体内の全体に行きわたるので、缶体内を効率的に乾燥することができる。上記渦流の軸を0.3≦(z/H)の範囲のみに形成するには、吐出口を0.3≦(y/D)<0.5の範囲に配置し、熱風のReを4000以下、又は4000未満とすることが有効である。
【0062】
缶体内において形成される渦流を単一とすることによって、缶体内における気体の平均速度がより高速になるので、缶体の内面を効率的に乾燥することができる。缶体内において形成される渦流を単一とするには、吐出口を0.4≦(y/D)<0.5の範囲に配置し、熱風のReを6000以下とするのが有効である。熱風は単一の渦流によって缶体内の全体を循環するので、缶体における温度差をより低減することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 乾燥装置
10A,10B ノズル本体
11 ノズル
12,14 ノズル壁
15 吐出口
19 軸
21 吸引口
23 ノズル
25 吐出口
31 突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15