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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】クラッチディスク及びトルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/62 20060101AFI20231116BHJP
   F16D 7/02 20060101ALI20231116BHJP
   F16D 43/21 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
F16D13/62 A
F16D7/02 A
F16D43/21
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019205392
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021076226
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】上原 宏
(72)【発明者】
【氏名】萩原 祥行
(72)【発明者】
【氏名】前田 昌宏
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-067330(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02191831(GB,A)
【文献】特開平04-194422(JP,A)
【文献】特開2011-047470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/62-13/64
F16D 7/02- 7/04
F16D 43/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の連結部と、前記連結部から径方向外方に突出して設けられ径方向に延びるスリットを挟んで円周方向に並べて配置された複数の固定部と、を有し、前記スリットは外周側が開放されているコアプレートと
前記コアプレートの固定部に固定され、内径が前記スリットの径方向内側の端部よりも大きい環状の摩擦部材と、
を備え、
前記摩擦部材の内周端面には、前記複数の固定部に対応して複数の排出溝が形成されており、前記排出溝は、前記摩擦部材の内周端面に落下した水を前記スリットに導く、
クラッチディスク。
【請求項2】
環状の連結部と、前記連結部から径方向外方に突出して設けられ径方向に延びるスリットを挟んで円周方向に並べて配置された複数の固定部と、を有するコアプレートと
前記コアプレートの固定部に固定され、内径が前記スリットの径方向内側の端部よりも大きい環状の摩擦部材と、
を備え、
前記コアプレートのスリットの径方向外側の端部は、前記摩擦部材の外径よりも大きく形成されており、
前記摩擦部材の内周端面には、前記複数の固定部に対応して複数の排出溝が形成されており、前記排出溝は、前記摩擦部材の内周端面に落下した水を前記スリットに導く、
クラッチディスク。
【請求項3】
前記排出溝は、前記摩擦部材の内周端面において前記コアプレート側に形成されており、
前記摩擦部材の前記各固定部に対応した部分において、前記排出溝は、円周方向の中央部から両側の前記スリットにかけて水が流れるように傾斜している、
請求項1又は2に記載のクラッチディスク。
【請求項4】
前記排出溝は、円周方向の中央部から両側に向かうにしたがって深さが深くなるように形成されている、請求項に記載のクラッチディスク。
【請求項5】
前記摩擦部材は、平坦面であって、摩擦表面に径方向に延びる溝が形成されていない、
請求項1からのいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項6】
前記コアプレートのスリットは、外周側にいくにしたがって幅広に形成されている、請求項1からのいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項7】
摩擦面を有する入力回転部材と、
前記入力回転部材の摩擦面に対向して配置されたプレッシャプレートと、
前記プレッシャプレートを前記入力回転部材側に押圧する押圧部材と、
前記入力回転部材の摩擦面と前記プレッシャプレートとの間に前記押圧部材によって挟持された、請求項1からのいずれかに記載のクラッチディスクと、
外周部に前記クラッチディスクが装着された出力回転部材と、
を備えたトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチディスク及びそれを用いたトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のクラッチ装置には、クラッチディスク組立体が搭載されている。クラッチディスク組立体は、エンジン側のフライホイールと、トランスミッションから延びる入力シャフトと、の間に配置されている。また、このクラッチディスク組立体は、過大なトルクが伝達されるのを防止するためのトルクリミッタにも用いられている。クラッチディスク組立体は、主に、複数のトーションスプリングを含むダンパ部と、ダンパ部の外周部に固定されたクラッチディスクと、を有している。
【0003】
クラッチディスクは、特許文献1に示されるように、クッショニングプレートと、環状の摩擦部材と、を有している。クッショニングプレートは、環状部と、環状部の外周部に設けられた複数のクッショニング部と、を有している。環状部の内周部は、ダンパ部の入力プレートにリベットにより固定されている。摩擦部材は、複数のクッショニング部の両側面に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-114239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クラッチディスクにおいて、摩擦部材の内周端面と、クッショニングプレートと、の間には、段差が形成される。このため、クラッチディスク組立体が車両に搭載され、長期間使用されないような場合には、摩擦部材の内周端面に水が溜まることがある。
【0006】
より詳細には、車両が水に浸かった場合や、外部環境によって車両内部に結露が生じた場合、停止した状態で下方に位置する部分の摩擦部材の内周端面と、クッショニングプレートの側面と、摩擦部材が圧接される相手部材の摩擦面と、によって囲まれる空間に水が溜まってしまう場合がある。
【0007】
特に、トルクリミッタでは、クラッチディスクの摩擦部材が相手部材の摩擦面から離れる頻度が少なく、かつクッショニングプレートが平坦状に形成されているために、前述した空間に溜まった水が抜けにくい。
【0008】
以上のように、クラッチディスクにおいて、摩擦部材の内周端面に水が溜まると、この水が摩擦部材の表面に染み込み、摩擦部材の特性が不安定になる。
【0009】
本発明の課題は、クラッチディスクの摩擦部材の内周端面に水が溜まりにくくすることによって、摩擦部材の摩擦特性を安定させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るクラッチディスクは、コアプレートと、環状の摩擦部材と、を備えている。コアプレートは、環状の連結部と、複数の固定部と、を有する。複数の固定部は、連結部から径方向外方に突出して設けられ、径方向に延びるスリットを挟んで円周方向に並べて配置されている。摩擦部材は、コアプレートの固定部に固定され、内径がスリットの径方向内側の端部よりも大きい。
【0011】
そして、摩擦部材の内周端面には、複数の固定部に対応して複数の排出溝が形成されており、排出溝は、摩擦部材の内周端面に落下した水をスリットに導く。
【0012】
車両等が停止している場合、クラッチディスクの周囲に発生した水は、下方に位置している摩擦部材の内周端面(すなわち上面)に落下する。ここで、摩擦部材の内周端面には排出溝が形成されているので、摩擦部材の内周端面に落下してきた水は、排出溝を介してスリットに導かれる。スリットに導かれた水は、このスリットを介して摩擦部材の下方に排出される。
【0013】
ここでは、摩擦部材の内周端面に水が溜まりにくい。このため、摩擦部材の表面に水が染み込むのを抑え、摩擦部材の摩擦特性を安定させることができる。
【0014】
(2)好ましくは、排出溝は、摩擦部材の内周端面においてコアプレート側に形成されている。また、摩擦部材の各固定部に対応した部分において、排出溝は、円周方向の中央部から両側のスリットにかけて水が流れるように傾斜している。
【0015】
(3)好ましくは、排出溝は、円周方向の中央部から両側に向かうにしたがって深さが深くなるように形成されている。
【0016】
(4)好ましくは、コアプレートのスリットは外周側が開放されている。
【0017】
(5)好ましくは、コアプレートのスリットの径方向外側の端部は、摩擦部材の外径よりも大きい。
【0018】
(6)好ましくは、摩擦部材は、平坦面であって、摩擦表面に径方向に延びる溝が形成されていない。
【0019】
ここで、摩擦部材の表面には、摩擦によって生じた摩擦粉等の異物を排出するために、径方向に延びる溝が形成されている場合がある。このような溝が形成されている場合は、この溝を介して、摩擦部材の内周端面に溜まった水を排出することが可能である。
【0020】
しかし、摩擦部材をより薄くしたい場合、あるいは摩擦面の面圧を均一にしたい場合等の要求がある場合は、摩擦部材に径方向の溝を形成しない方が好ましい。そして、このような径方向の溝が形成されていない摩擦部材においては、前述したような課題が発生する。
【0021】
本件発明は、このように、径方向の溝が形成されていない摩擦部材に適用することにより、より有効である。
【0022】
(7)好ましくは、コアプレートのスリットは、外周側にいくにしたがって幅広に形成されている。この場合は、スリットが外周側にいくにしたがって広がっているので、水が排出されやすくなる。
【0023】
(8)本発明に係るトルクリミッタは、摩擦面を有する入力回転部材と、プレッシャプレートと、押圧部材と、前記のクラッチディスクと、出力回転部材と、を備えている。プレッシャプレートは、入力回転部材の摩擦面に対向して配置されている。押圧部材は、プレッシャプレートを入力回転部材側に押圧する。クラッチディスクは、入力回転部材の摩擦面とプレッシャプレートとの間に押圧部材によって挟持されている。出力回転部材は、外周部にクラッチディスクが装着されている。
【発明の効果】
【0024】
以上のような本発明では、クラッチディスクの摩擦部材の内周端面に水が溜まりにくくなり、摩擦部材の摩擦特性を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態によるトルクリミッタの断面図。
図2図1の正面図。
図3図1の拡大部分図。
図4図1の拡大部分図。
図5】クラッチディスクの正面図。
図6図5の断面A,B,C
図7】排出溝の作用を示す図。
図8】コアプレートのスリットの他の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態によるクラッチディスクを有するトルクリミッタ1の断面図である。このトルクリミッタ1は、フライホイール2に装着され、エンジンと駆動ユニットとの間で伝達されるトルクを制限するとともに、回転変動を減衰する。また、図2はトルクリミッタ1の正面図である。
【0027】
なお、フライホイール2は、図示しないエンジン側に部材に固定されている。フライホイール2は、円板状の部材であり、環状部4と収容部5とを有している。環状部4は、フライホイール2の最外周部に設けられている。収容部5は、環状部4の径方向内方に形成されている。収容部5は、環状部4の取り付け表面からエンジン側に所定の深さを有している。
【0028】
トルクリミッタ1は、摩擦連結ユニット10と、ダンパユニット20と、を有している。
【0029】
摩擦連結ユニット10は、フライホイール2とダンパユニット20との間で伝達されるトルクを制限する。
【0030】
[摩擦連結ユニット10]
図3及び図4に拡大して示すように、摩擦連結ユニット10は、ダンパカバー11(入力回転部材の一例)と、プレッシャリング12と、クラッチディスク13と、コーンスプリング14(押圧部材の一例)と、ダンパリング15と、を有している。
【0031】
<ダンパカバー11>
ダンパカバー11は、環状のプレートであり、摩擦部11aと、固定部11bと、複数の係合孔11cと、を有している。摩擦部11aはダンパカバー11の内周部に形成され、固定部11bは摩擦部11aの外周部に形成されている。固定部11bには、複数の固定用孔11dが形成されている。固定用孔11dを貫通するボルトによって、ダンパカバー11はフライホイール2の環状部4の表面に固定される。
【0032】
複数の係合孔11cは、軸方向に貫通しており、摩擦部11aと固定部11bとの径方向間に形成されている。複数の係合孔11cは、円周方向に所定の間隔で配置され、各孔11cは円周方向に長く形成されている。
【0033】
<プレッシャリング12>
プレッシャリング12は、環状のプレートであり、ダンパカバー11の摩擦部11aと軸方向に所定の間隔をあけて対向して配置されている。プレッシャリング12は、複数の爪12aを有している。複数の爪12aは、プレッシャリング12の外周端に形成され、ダンパカバー11の係合孔11cに係合している。したがって、ダンパカバー11とプレッシャリング12とは相対回転不能である。
【0034】
<クラッチディスク13>
クラッチディスク13は、ダンパカバー11の摩擦部11aとプレッシャリング12との間に配置されている。クラッチディスク13は、図5に示すように、コアプレート16と、コアプレート16の両側面にリベット18により固定された1対の摩擦部材17と、を有している。そして、一方の摩擦部材17がダンパカバー11の摩擦部11aに当接し、他方の摩擦部材17がプレッシャリング12に当接している。
【0035】
コアプレート16は、平坦に形成され、波形状ではない。コアプレート16は、環状の連結部16aと、複数の固定部16bと、複数の取付部16cと、を有している。複数の固定部16bは、連結部16aから径方向外方に突出して形成され、円周方向に並んで配置されている。そして、隣接する固定部16b,16bの円周方向間には、径方向に延びるスリット16dが形成されている。スリット16dは、径方向外方が開放されている。複数の取付部16cは、連結部16aから径方向内方に突出して形成され、各取付部16cには取付用の孔16eが形成されている。
【0036】
摩擦部材17は、環状に形成され、コアプレート16の複数の固定部16bにリベット18によって固定されている。摩擦部材17の内径は、コアプレート16のスリット16dの基端、すなわち径方向内側の端部よりも大きい。また、摩擦部材17の外径は、コアプレート16の外径よりも小さい。言い換えれば、摩擦部材17の外径は、スリット16dの開放端、すなわち径方向外側の端部よりも小さい。また、摩擦部材17の表面は、平坦であって、溝は形成されていない。
【0037】
図6図5の断面6A,6B,6Cを示している。図5及ぶ図6から明らかなように、摩擦部材17において、コアプレート16の各固定部16bに対応する部分には、排出溝17aが形成されている。以下、この排出溝17aについて詳細に説明する。
【0038】
まず、摩擦部材17において、コアプレート16の各固定部16bに対応した部分とは、図5に示す領域R(一個所のみを示している)である。すなわち、正面視で、摩擦部材17において、コアプレート16の各固定部16bと重なる部分である。
【0039】
そして、排出溝17aは、領域R部分の内周端面において、コアプレート16側に形成されている。具体的には、領域R部分において、スリット16dにつながる部分にまで形成されている。また、各領域R以外の、スリット16dに重なる部分にも排出溝17aが形成されており、隣接する領域Rに形成された排出溝17aは、スリット16dと重なる部分に形成された溝を含めてつながっている。
【0040】
排出溝17aは、円周方向の中央部(断面6A)では、溝の深さは最も浅いか、あるいは形成されていない。そして、円周方向の中央部から円周方向に離れるにしたがって、排出溝17aの深さが深くなっている。すなわち、排出溝17aは、断面6Bで示す個所よりは、断面6Cで示す個所の方が深く形成されている。
【0041】
このような排出溝17aを形成することにより、特に、停止時に最も下方に位置した部分では、図7に示すように、摩擦部材の内周端面の水は、矢印で示すように、排出溝17aを介してスリット16dに導かれ、摩擦部材17の下方に排出される。
【0042】
<コーンスプリング14>
コーンスプリング14は、プレッシャリング12とダンパリング15との間に配置されている。コーンスプリング14は、プレッシャリング12を介してクラッチディスク13をダンパカバー11の摩擦部11aに押圧している。
【0043】
ダンパリング15は、プレッシャリング12のさらにエンジン側に配置され、プレッシャリング12との間に、コーンスプリング14を圧縮された状態で支持している。
【0044】
[ダンパユニット20]
図1に示すように、ダンパユニット20は、クラッチプレート21(出力回転部材の一例)及びリティニングプレート22と、ハブフランジ23と、複数のトーションスプリング24と、ヒス発生機構25と、を有している。
【0045】
<クラッチプレート21及びリティニングプレート22>
クラッチプレート21の外周部には、摩擦連結ユニット10を構成するクラッチディスク13が連結されている。クラッチプレート21は、円板状に形成され、複数の窓部21aを有している。リティニングプレート22は、クラッチプレート21と軸方向に間隔をあけて対向して配置されている。リティニングプレート22は、円板状に形成され、複数の窓部22aを有している。クラッチプレート21とリティニングプレート22とは、リベットにより互いに固定されており、軸方向及び回転方向に相対移動不能である。
【0046】
<ハブフランジ23>
ハブフランジ23は、中心部に形成された筒状のハブ26と、ハブ26の外周面から径方向外方に延びるフランジ27と、を有している。ハブ26の内周面にはスプライン孔26aが形成されており、このスプライン孔26aに、駆動ユニットの入力軸がスプライン係合可能である。フランジ27は、円板状に形成され、クラッチプレート21とリティニングプレート22との軸方向間に配置されている。フランジ27は複数の収容部27aを有している。各収容部27aは、クラッチプレート21の窓部21a及びリティニングプレート22の窓部22aと対応する位置に形成されている。
【0047】
<トーションスプリング24>
複数のトーションスプリング24は、フランジ27の収容部27aに収容され、クラッチプレート21の窓部21a及びリティニングプレート22の窓部22aによって軸方向及び径方向に保持されている。また、トーションスプリング24の円周方向の両端面は、それぞれ各窓部21a,22a及び収容部27aの円周方向の端面に当接可能である。
【0048】
<ヒス発生機構25>
ヒス発生機構25は、図1に示すように、第1ブッシュ31と、第2ブッシュ32と、
フリクションプレート33と、コーンスプリング34と、を有している。このヒス発生機構25によって、クラッチプレート21及びリティニングプレート22とハブフランジ23とが相対回転すると、第1ブッシュ31とクラッチプレート21との間、及び第2ブッシュ32とフリクションプレート33との間で摩擦抵抗(ヒステリシストルク)が発生する。
【0049】
[動作]
エンジンからフライホイール2に伝達された動力は、摩擦連結ユニット10を介してダンパユニット20に入力される。ダンパユニット20では、摩擦連結ユニット10のクラッチディスク13が固定されているクラッチプレート21及びリティニングプレート22に動力が入力され、この動力は、トーションスプリング24を介してハブフランジ23に伝達される。そして、ハブフランジ23から、さらに出力側の電動機、発電機、変速機等に動力が伝達される。
【0050】
また、例えば、エンジン始動時においては、出力側の慣性量が大きいために、出力側からエンジンに過大なトルクが伝達される場合がある。このような場合は、摩擦連結ユニット10によってエンジン側に伝達されるトルクが所定値以下に制限される。
【0051】
ダンパユニット20においては、クラッチプレート21及びリティニングプレート22からトーションスプリング24に動力が伝達されると、トーションスプリング24が圧縮される。また、トルク変動によって、トーションスプリング24は伸縮を繰り返す。トーションスプリング24が伸縮すると、クラッチプレート21及びリティニングプレート22とハブフランジ23との間でねじれが生じる。このねじれによって、ヒス発生機構25が作動し、ヒステリシストルクが発生する。これにより、トルク変動が減衰する。
【0052】
[水の排出]
図6に示すように、摩擦部材17とコアプレート16との間には段差が形成される。より詳細には、摩擦部材17は所定の厚みを有しているので、摩擦部材17の内周部は、コアプレート16よりも摩擦部材17の厚みだけ軸方向に突出している。したがって、図6の断面6Aに示すように、摩擦部材17がダンパカバー11とプレッシャリング12との間に挟持された状態では、ダンパカバー11と、摩擦部材17の内周端面17bと、プレッシャリング12と、によって囲まれた空間Sが形成される。
【0053】
このような状況において、車両の浸水、あるいは結露等によって、トルクリミッタ1の内部に水がたまり、車両を長期間停止した状態にすると、内部の水が下方に落下し、この水が、クラッチディスク13の摩擦部材17の内周端面17bの上部(すなわち、断面6Aの空間S)にたまってしまうおそれがある。特に、この実施形態では、摩擦部材17の表面に溝が形成されていないので、摩擦部材17の表面を介して水を排出することができない。
【0054】
しかし、この実施形態では、摩擦部材17の内周端面17bには排出溝17aが形成されているので、摩擦部材17のうちの下方に位置する部分の内周端面17bに落下してきた水は、排出溝17aを介してコアプレート16のスリット16dに導かれる。このため、摩擦部材17の内周端面17bに水がたまるのを防止できる。
【0055】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0056】
(a)コアプレートに形成されたスリットの形状は前記実施形態に限定されない。例えば、図8に示すコアプレート16’では、隣接する固定部16b’の間のスリット16d’は、外周側に行くにしたがって幅広に形成されている。この場合は、スリット16d’は外周側に行くにしたがって広がっているので、水がより排出されやすくなる。
【0057】
(b)前記実施形態では、コアプレートのスリットの外周側を開放したが、スリットの径方向外側の端部が摩擦部材17の外径よりも外周側に位置していれば、スリットの外周側は閉じられていてもよい。また、スリットの外周側が開放されていれば、コアプレートの外径(スリットの径方向外側の端部)は摩擦部材17の外径よりも小さくてもよい。
【0058】
(c)前記実施形態では、摩擦部材17の内周端面においてコアプレート16側に排出溝17aを形成したが、排出溝の軸方向の位置はこれに限定されない。
【0059】
(d)前記実施形態では、摩擦連結ユニット10に加えてダンパユニット20が設けられたトルクリミッタ1に本発明を適用したが、ダンパユニット20を有していないトルクリミッタに対しても、本件発明を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 トルクリミッタ
11 ダンパカバー(入力回転部材)
12 プレッシャリング(プレッシャプレート)
13 クラッチディスク
14 コーンスプリング(押圧部材)
16,16’ コアプレート
16a 連結部
16b,16b’ 固定部
16c 取付部
16d,16d’ スリット
17 摩擦部材
17a 排出溝
17b 摩擦部材の内周端面
21 クラッチプレート(出力回転部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8