(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】系統特異的タンパク質の阻害のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20231116BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20231116BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231116BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20231116BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231116BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231116BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20231116BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231116BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231116BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231116BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231116BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231116BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20231116BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20231116BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20231116BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20231116BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/12
A61K35/17
A61K35/51
A61K39/395 Y
A61K45/00
A61K47/68
A61P35/00
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12Q1/04
C07K16/28 ZNA
C07K19/00
C12N5/0789
(21)【出願番号】P 2019547641
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(86)【国際出願番号】 US2018020327
(87)【国際公開番号】W WO2018160768
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-03-01
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519312511
【氏名又は名称】ブイオーアール バイオファーマ インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】VOR BIOPHARMA INC.
【住所又は居所原語表記】100 Cambridgepark Drive, Suite400,Cambridge,MA 02140, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ボーレン,ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ラドヴィク-モレノ,アレクサンダー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ライダード,ジョン
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0144026(US,A1)
【文献】国際公開第2017/066760(WO,A1)
【文献】CANCER DISCOVERY,2015年10月,Vol. 5,pp. 1282-1295
【文献】J Immunother,2017年06月,Vol. 40, No. 5,pp. 187-195
【文献】Genome Editing Using CRISPR-Cas9 to Increase the Therapeutic Index of Antigen-Specific Immunotherapy in Acute Myeloid Leukemia,Molecular Therapy,2016年,Vol. 24, Supplement 1,p. S108,273
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/12
A61K 45/00
A61K 47/68
A61K 35/17
A61K 35/28
A61K 35/51
A61P 35/00
A61K 39/395
C12N 5/10
C12N 15/12
C12N 15/13
C12N 15/62
C12N 15/63
C12Q 1/04
C07K 16/28
C12N 5/0789
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞傷害剤の有効量と組み合わせて使用するための医薬組成物であって、CD33における非必須エピトープを欠くCD33のバリアントを発現する造血細胞の集団を含み、
非必須エピトープが、CD33のアミノ酸47~51(配列番号9)、48~52(配列番号12)、248~252(配列番号8)、249~253(配列番号10)、250~254(配列番号11)、または251~255(配列番号13)を含み、および
細胞傷害剤が、CD33の非必須エピトープに特異的に結合する抗原結合フラグメントを含む、前記医薬組成物。
【請求項2】
細胞傷害剤と組み合わせた医薬組成物が、対象における、造血器悪性腫瘍を処置するためのものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
造血細胞またはその子孫で発現されるCD33のバリアントが、細胞傷害剤の抗原結合フラグメントが結合する非必須エピトープの欠失または非必須エピトープ中の1つ以上のアミノ酸残基の変化を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗原結合フラグメントが、CD33の非必須エピトープに特異的に結合する単鎖抗体フラグメント(scFv)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
細胞傷害剤が、
抗体または抗体-薬物コンジュゲート(ADC)、もしくは
抗原結合フラグメントを含むキメラ受容体を発現する免疫細胞
である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
キメラ受容体が以下をさらに含む、請求項5に記載の医薬組成物:
(a)ヒンジドメイン、
(b)膜貫通ドメイン、
(c)少なくとも1つの共刺激ドメイン、
(d)細胞質シグナル伝達ドメイン、または
(e)それらの組み合わせ。
【請求項7】
(i)キメラ受容体が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、ICOS、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、GITR、HVEM、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される共刺激受容体に由来する、少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメインを含む;
(ii)キメラ受容体が細胞質シグナル伝達ドメインを含み、これがCD3ζからのものである;および/または
(iii)キメラ受容体がヒンジドメインを含み、これがCD8αまたはCD28からのものである、
請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
非必須エピトープが、6~10個のアミノ酸からなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
CD33のバリアントが、配列番号1のアミノ酸W11~T139の欠失を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
CD33のバリアントが、配列番号1のアミノ酸47~51または248~252を含むエピトープに欠失を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
CD33のバリアントが、配列番号2~7のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
造血細胞が、造血幹細胞であり、任意にここで造血幹細胞が、骨髄細胞、臍帯血細胞、または末梢血単核細胞(PBMC)からのものである、請求項1~
11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
免疫細胞、造血細胞、または両方が、同種異系または自家である、請求項5~
12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
造血細胞が、対象のHLAハプロタイプと一致するHLAハプロタイプを有するドナーから得られる、
請求項2~
13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
対象が、細胞傷害剤および/または造血細胞を投与する前に事前調整されている、任意にここで事前調整が、1つ以上の化学療法剤を対象に投与することを含む、
請求項2~
14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
造血細胞が、CD33をコードする造血細胞の内在性遺伝子の遺伝子修飾によって調製されている、請求項1~
15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
対象が、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、または多発性骨髄腫を有し;任意に、白血病が、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、または慢性リンパ芽球性白血病である、請求項2~
16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
以下を含む、キット:
(i)請求項1~
17のいずれか一項に記載の細胞傷害剤;および
(ii)請求項1~
17のいずれか一項に記載の造血細胞の集団。
【請求項19】
CD33のバリアントを発現する造血細胞が、細胞傷害剤が結合する非必須エピトープを含むCD33を発現する対応物細胞と比較して、正常に分化する能力を保持する、請求項1~
17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
非必須エピトープを欠くCD33のバリアントが、CD33の生物活性に影響を与えない、請求項1~
17または
19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
CD33のバリアントを発現する造血細胞が、CD33の非必須エピトープに特異的に結合する抗原結合フラグメントを含む細胞傷害剤への、低減した結合を有する、または、結合がない、
請求項1~
17、
19または
20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
造血細胞が、造血幹細胞であり、任意に、造血細胞が、CD34
+造血幹細胞である、請求項1~
17または
19~
21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C. § 119(e)の下で2017年2月28日提出の米国仮出願第62/464,975号の利益を主張する。参照された出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
標的療法を設計する際の主要な課題は、治療上除去が適切である細胞(例えば、異常な、悪性の、または他の標的細胞)に固有に発現するが、除去したくない細胞(例えば、正常な、健康な、または他の非標的細胞)には存在しないタンパク質の、成功的な同定である。例えば多くのがん治療薬は、正常細胞を無傷のままにしつつ、がん細胞を効果的に標的化することに苦心している。
【0003】
出現している代替戦略には、正常細胞、がん細胞、および前がん細胞の標的化を含む細胞系統全体の標的化が含まれる。例えば、CD19を標的とするキメラ抗原受容体T細胞(CAR T細胞)および抗CD20モノクローナル抗体(例えばリツキシマブ)はそれぞれ、B細胞系統タンパク質(それぞれCD19およびCD20)を標的とする。B細胞悪性腫瘍の処置には潜在的に有効であるが、かかる療法の使用は、B細胞の除去が有害であるために、制限されている。同様に、他の細胞集団、例えば骨髄系細胞(例えば、骨髄芽球、単球、巨核球などから生じるがん)の系統特異的タンパク質を標的化することは、これらの細胞集団が生存に必要であるため、実行不可能である。
【発明の概要】
【0004】
開示の概要
本開示は、少なくとも部分的に、細胞傷害剤によって標的化することができる系統特異的細胞表面タンパク質内のエピトープ(例えば、非必須エピトープ)の同定に基づいており、ここで該細胞傷害剤は、そのエピトープを含むタンパク質を発現する細胞の細胞死を引き起こすが、細胞傷害剤への結合が低減され、結果として細胞死を回避するようにエピトープが操作(例えば、遺伝的に)されているタンパク質を発現する細胞(例えば、造血幹細胞)の細胞死は引き起こさない。かかる方法は、造血器悪性腫瘍の安全かつ有効な処置を提供することが期待されている。
【0005】
したがって、本開示の一側面は、造血器悪性腫瘍を処置する方法を提供し、該方法は、それを必要とする対象に(i)系統特異的細胞表面タンパク質を発現する細胞を標的とする細胞傷害剤の有効量、および(ii)造血細胞の集団、を投与することを含み、ここで造血細胞は、それらまたはその子孫が細胞傷害剤に結合しないか、または細胞傷害剤への結合が低減するように操作されている。いくつかの態様において、細胞傷害剤は、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに特異的に結合する、抗原結合フラグメントを含む。いくつかの態様において、造血細胞またはその子孫は、系統特異的細胞表面タンパク質を発現し、および遺伝子操作されて、系統特異的細胞表面タンパク質は、細胞傷害剤が結合するエピトープを欠いている。いくつかの態様において、造血細胞は遺伝子操作されて、造血細胞またはその子孫で発現される系統特異的細胞表面タンパク質は、細胞傷害剤が低減した結合活性を有するかまたは結合できない変異エピトープまたはバリアントエピトープを有している。本明細書に記載される態様のいずれかにおいて、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープは、非必須であってよい。
【0006】
任意に、本明細書で提供される方法のいずれかはさらに、細胞傷害剤および/または造血細胞を投与する前に、例えば、1つ以上の化学療法剤または他のがん療法を対象に投与することにより、対象を事前調整することを含んでもよい。いくつかの態様において、対象は、細胞傷害剤および/または造血細胞を投与する前に、事前調整されている。他の態様において、本明細書で提供される方法のいずれかはさらに、細胞傷害剤および/または造血細胞の投与と併せて、1つ以上の化学療法剤または1つ以上の他のがん療法を、対象に投与することを含み得る。化学療法剤または他のがん療法は、細胞傷害剤および/または造血細胞の投与の前に、同時に、または後に、投与され得る。
代替的または追加的に、本明細書に記載の方法のいずれかはさらに、細胞傷害剤が結合するエピトープを欠く造血細胞を、例えば遺伝子修飾により、調製することを含み得る。
【0007】
本明細書に記載の方法のいずれかで使用するための細胞傷害剤は、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに特異的に結合する抗原結合フラグメント(例えば、単鎖抗体フラグメントまたはscFv)を含む。いくつかの態様において、細胞傷害剤は、抗体または抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。いくつかの態様において、細胞傷害剤は、抗原結合フラグメントを含むキメラ受容体を発現する、免疫細胞(例えば、T細胞)であり得る。免疫細胞は、同種異系または自家であり得る。
キメラ受容体はさらに、(a)ヒンジドメイン、(b)膜貫通ドメイン、(c)少なくとも1つの共刺激ドメイン、(d)細胞質シグナル伝達ドメイン、または(e)それらの組み合わせを、含み得る。いくつかの態様において、キメラ受容体は、少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの態様において、共刺激シグナル伝達ドメインは、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、ICOS、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、GITR、HVEM、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される共刺激受容体に由来する。いくつかの態様において、キメラ受容体は、少なくとも1つの細胞質シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの態様において、細胞質シグナル伝達ドメインは、CD3、例えばCD3ゼータ(CD3ζ)からである。いくつかの態様において、キメラ受容体は、少なくとも1つのヒンジドメインを含む。いくつかの態様において、ヒンジドメインは、CD8αまたはCD28からである。
【0008】
本明細書に記載の方法で使用するための造血細胞(例えば、同種異系または自家)は、例えば骨髄細胞、臍帯血細胞、または末梢血単核細胞(PBMC)に由来し得る造血幹細胞であり得る。いくつかの態様において、造血細胞は、対象のHLAハプロタイプと一致するHLAハプロタイプを有するドナーから得た、同種異系造血幹細胞である。いくつかの態様において、方法はさらに、対象のHLAハプロタイプと一致するHLAを有するドナーから、造血細胞を得ることを含む。
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法で使用する造血細胞は、細胞傷害剤が結合するエピトープを破壊するための遺伝子修飾により、操作することができる。代替的に、造血細胞は、それらを細胞またはその子孫上の系統特異的細胞表面タンパク質に結合し、したがって細胞傷害剤の細胞への結合をブロックするブロッキング剤と接触するよう造血細胞を位置させることにより、操作され得る。これは、造血細胞をブロッキング剤とex vivoでインキュベートすることにより、または、ブロッキング剤を、造血細胞の投与の前に、同時に、または後に、対象に投与することにより、達成することができる。
【0009】
いくつかの態様において、造血細胞は、バリアント系統特異的細胞表面タンパク質を発現するように遺伝的に修飾され、ここで該バリアント系統特異的細胞表面タンパク質は、細胞傷害剤と会合しない。いくつかの態様において、造血細胞は、バリアント系統特異的細胞表面タンパク質を発現するように遺伝的に修飾され、ここで該バリアント系統特異的細胞表面タンパク質は、細胞傷害剤への低減した結合(例えば、低減した結合親和性)を有する。細胞傷害剤の結合に不可欠なエピトープは、線形の連続アミノ酸配列(例えば線形エピトープ)内に含まれるか、または、細胞傷害剤結合エピトープが非隣接アミノ酸配列(例えば、立体構造エピトープ)に依存し得るような、系統特異的細胞表面タンパク質立体構造に依存し得る。したがって、例えば造血細胞は、細胞傷害剤結合エピトープを含有する系統特異的細胞表面タンパク質の領域またはドメインが、欠失または変異し得るように、遺伝的に修飾され得る。代替的に、エピトープ全体(例えば、3~15のアミノ酸)を欠失させるか、または1つ以上のアミノ酸を変異させて細胞傷害剤の結合が妨げられるようにしてもよい。代替的に、系統特異的細胞表面立体配座依存性エピトープの立体配座に不可欠なアミノ酸を、欠失または変異させて、エピトープの立体配座が破壊され、それにより細胞傷害剤による結合を低減または排除するようにしてもよい。
【0010】
いくつかの態様において、エピトープアミノ酸配列を変更して、系統特異的細胞表面タンパク質の必須の構造要素を保存しつつ、細胞傷害剤の結合を排除または低減してもよい。かかる変更は、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープ内の単一または複数のアミノ酸の変異であり得る。
いくつかの態様において、別個の細胞傷害剤によって認識される複数の別個のエピトープを変更することができ、それにより、細胞傷害剤を治療的に組み合わせて使用するか、または連続して使用することができる。
いくつかの態様において、造血細胞またはその子孫の集団で発現される系統特異的細胞表面タンパク質は、系統特異的細胞表面タンパク質の遺伝子のエクソンによりコードされるフラグメントの欠失を有し、該フラグメントは、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープを含む。
【0011】
いくつかの態様において、系統特異的細胞表面抗原は、2型系統特異的細胞表面タンパク質である。いくつかの態様において、2型系統特異的細胞表面タンパク質は、CD33である。いくつかの態様において、造血細胞の表面上に発現されるタンパク質は、細胞傷害剤が結合するエピトープ(例えば、非必須エピトープ)を欠く可能性があるCD33のバリアントである。いくつかの例において、エピトープは、CD33遺伝子のエクソン2によってコードされる領域に位置している。いくつかの態様において、本明細書に記載の造血細胞上で発現されるCD33のバリアントは、CD33のエクソン2またはその一部を欠いている。いくつかの態様において、本明細書に記載の造血細胞上で発現されるCD33のバリアントは、配列番号1のアミノ酸W11~T139を欠く。いくつかの態様において、本明細書に記載の造血細胞上で発現されるCD33のバリアントは、配列番号1のアミノ酸47~51または248~252を含むエピトープを欠く。例示的なCD33バリアントは、配列番号2~7のいずれか1つのアミノ酸配列を含み得る。したがって、いくつかの態様において、本開示は、細胞傷害剤が結合するエピトープを欠くバリアントCD33タンパク質を発現するように遺伝的に修飾された造血細胞を、提供する。いくつかの特定の態様において、遺伝子修飾造血細胞は、エクソン2またはその一部が欠失したバリアントCD33を発現する。いくつかの特定の態様において、遺伝子修飾造血細胞は、配列番号1のアミノ酸47~51または248~252を含むエピトープを欠くバリアントCD33を発現する。いくつかの特定の態様において、遺伝子修飾造血細胞は、配列番号2~7のいずれか1つのアミノ酸配列を含むバリアントCD33を発現する。
【0012】
いくつかの態様において、系統特異的細胞表面タンパク質は、1型系統特異的細胞表面タンパク質である。いくつかの態様において、1型系統特異的細胞表面は、CD19である。いくつかの態様において、造血細胞の表面上に発現されるタンパク質は、細胞傷害剤が結合するエピトープ(例えば、非必須エピトープ)を欠く可能性があるCD19のバリアントである。いくつかの例において、エピトープは、CD19遺伝子のエクソン2によってコードされる領域に位置している。いくつかの態様において、本明細書に記載の造血細胞上で発現されるCD19のバリアントは、CD19のエクソン2またはその一部を欠いている。したがって、いくつかの態様において、本開示は、細胞傷害剤が結合するエピトープを欠くバリアントCD19タンパク質を発現するように遺伝的に修飾された、造血細胞を提供する。いくつかの特定の態様において、遺伝子修飾造血細胞は、エクソン2またはその一部が欠失したバリアントCD19を発現する。
【0013】
本明細書に記載の方法のいずれかにおいて、対象は、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、または多発性骨髄腫を有していてもよい。いくつかの態様において、対象は白血病、例えば、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、または慢性リンパ芽球性白血病を有する。
本明細書に記載の遺伝的に修飾された造血細胞のいずれか、および造血器悪性腫瘍の処置におけるその使用も、本開示の範囲内である。
本開示の他の側面は、系統特異的細胞表面タンパク質中の1つ以上の細胞傷害剤結合エピトープを欠く遺伝子操作造血細胞を調製する方法を提供し、該方法は以下を含む:(i)ヒト対象から得た造血細胞の集団を提供すること、ここで造血細胞の集団は、系統特異的細胞表面タンパク質を発現する;(ii)造血細胞の集団を遺伝子操作して、系統特異的細胞表面タンパク質の候補エピトープに変異を導入すること、および(iii)遺伝子操作された造血細胞の機能を決定して、候補エピトープの変化が系統特異的タンパク質機能を維持することを検証すること。
【0014】
本開示のさらに他の側面は、系統特異的細胞表面タンパク質中の非必須エピトープを同定する方法を提供し、該方法は以下を含む:(i)系統特異的細胞表面タンパク質を発現する造血細胞の集団を提供すること;(ii)造血細胞集団を遺伝子操作して、系統特異的細胞表面タンパク質の候補エピトープに変異を導入すること;(iii)遺伝子操作された造血細胞の機能を決定すること;および(iv)変異を保有する候補エピトープが、(iii)で決定された系統特異的タンパク質機能を維持するかどうかを評価すること、ここで、系統特異的タンパク質機能の維持は、候補エピトープが非必須エピトープであることを示す。
【0015】
さらに本開示の範囲内であるのは、造血器悪性腫瘍の処置に使用するキットであって、以下を含むものである:(i)系統特異的細胞表面タンパク質を発現する細胞を標的とする1つ以上の細胞傷害剤、ここで該細胞傷害剤は、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに特異的に結合するタンパク質結合フラグメントを含み;および(ii)系統特異的細胞表面タンパク質を発現する造血細胞(例えば、造血幹細胞)の集団、ここで造血細胞は、細胞傷害剤に結合しないか、または細胞傷害剤への低減した結合を有するように操作されている。いくつかの態様において、造血細胞は、系統特異的細胞表面タンパク質が、細胞傷害剤が結合するエピトープを欠くように、操作されている。いくつかの態様において、造血細胞は、系統特異的細胞表面タンパク質が、細胞傷害剤が結合しないかまたは結合が低減したバリアントエピトープを有するように、操作される。
【0016】
さらに本開示は、系統特異的細胞表面タンパク質を発現する細胞を標的とする任意の細胞傷害剤、および/または、系統特異的細胞表面タンパク質を発現する任意の造血細胞であって、造血器悪性腫瘍の処置に使用するための細胞傷害剤に結合しないように操作されている前記造血細胞、を含む医薬組成物;ならびに、造血器悪性腫瘍の処置に使用する薬剤を製造するための、細胞傷害剤および造血細胞の使用、を提供する。
本開示の1つ以上の態様の詳細は、以下の説明に記載されている。本開示の他の特徴または利点は、いくつかの態様の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本開示の特定の側面をさらに実証するために含まれ、これらは、これらの図面の1つ以上を本明細書に提示される特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することにより、さらに良好に理解することができる。
【
図1】
図1は、本明細書に記載の方法を含む例示的な治療プロセスを示す概略図である。A:このプロセスには、CD34
+細胞(ドナーからまたは自家取得)を得ること、CD34
+細胞を遺伝子操作すること、操作された細胞を患者に移植すること、CAR T細胞療法を患者に実施して、がん負担のクリアまたは低減と、保持された造血をもたらすこと、というステップが含まれる。B:系統特異的細胞表面タンパク質の非必須エピトープが、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに特異的なCAR T細胞に結合しないように修飾された、操作されたドナーCD34
+細胞。
【0018】
【
図2】
図2は、系統特異的細胞表面タンパク質ヒトCD33の細胞外部分および膜貫通部分の概略図である。修飾された場合に有害性が低くなると予測されるCD33の領域は、ボックスで示されている。この配列は、配列番号51に対応する。
【
図3】
図3は、CAR T細胞がヒトCD33を発現する細胞に結合するが、CD33のエピトープが修飾または欠失されたヒトCD33を発現する細胞には結合しないことを示している。A:CD33
+急性骨髄性白血病細胞を標的とするCAR T細胞は、細胞溶解を引き起こす。B:CAR T細胞は、CD33のエピトープが修飾または欠失された遺伝子操作ドナー移植細胞には、結合できない。その結果、これらの細胞は溶解しない。
【
図4】
図4は、CD19エクソン2のCRISPR/Cas9媒介性ゲノム欠失の概略図であり、エクソン2が欠失したCD19バリアントの発現をもたらす。
【0019】
【
図5A】
図5は、ヒト白血病細胞株(K562細胞)におけるCD19を標的とするさまざまな修飾シングルガイドRNA(ms-sgRNA)の調査を示す図を含む。A:T7E1アッセイで決定されたCD19遺伝子のイントロン1および2にまたがる領域に由来する、PCRアンプリコンを示す写真。試料は、T7E1で処理(+)または未処理(-)である。切断効率のパーセンテージを各レーンの下に示す。C=New England Biolabs(NEB)試料対照、WT=野生型非トランスフェクト細胞、Cas9=Cas9のみ。
【
図5B】B:T7E1アッセイおよびTIDE分析によって決定された、インデルパーセントを示すグラフ。
【
図6A】
図6は、K562細胞におけるCD19のエクソン2の二重ms-sgRNA媒介性欠失を示す図を含む。A:二重ms-sgRNA媒介性CRISPR/Cas9を介して、CD19のエクソン2のCRISPR/Cas9媒介性ゲノム欠失を検出する、PCRベースのアッセイを示す概略図。
【
図6BC】B:ゲノムDNAのエンドポイントPCRアッセイにより、指定されたms-sgRNAペアでK562細胞を処理した後の、エクソン1とエクソン3の間の領域の欠失を示す写真。C:エンドポイントPCRで定量化された欠失パーセントを示すグラフ。
【0020】
【
図7A】
図7は、T7E1アッセイおよびTIDE分析による、CD34
+ HSCのイントロン1または2を標的とするCD19 ms-sgRNAのスクリーニングを示す図を含む。A:T7E1アッセイで測定された、CD19遺伝子のイントロン1と2にまたがる領域に由来するPCRアンプリコンを示す写真。試料は、T7E1で処理された(+)かまたは未処理(-)であった。挿入/欠失(インデル)のパーセントと切断効率は、各レーンの下に示す。C=NEB試料対照、Cas9=Cas9のみ。
【
図7B】B:CD19遺伝子のイントロン1と2にまたがる領域に由来するPCRアンプリコンを、T7E1アッセイまたはTIDE分析で分析し、インデルパーセントを決定した。Cas9=cas9のみの対照。
【0021】
【
図8】
図8は、CD34
+ HSCにおけるCD19エクソン2の二重ms-sgRNA媒介性欠失を示す図を含む。A:ゲノム欠失領域にわたりPCRによって決定された、より大きな親バンドと比較した、より小さな欠失PCR産物を示す写真。B:エンドポイントPCRで定量化された欠失パーセントを示すグラフ。
【
図9】
図9は、CD34
+ HSCにおけるCD19のイントロン1または2を標的とするms-sgRNAの調査を示す図を含む。A:T7E1アッセイで測定された、CD19遺伝子のイントロン1と2にまたがる領域に由来する、PCRアンプリコンを示す写真。切断効率のパーセントを、各レーンの下に示す。B:T7E1アッセイで分析した、CD19遺伝子のイントロン1と2にまたがる領域に由来するPCRアンプリコンとインデルパーセントを示すグラフ。Cas9=cas9のみの対照。
【
図10A】
図10は、CD34
+ HSCにおけるCD19のエクソン2の、効率的な二重ms-sgRNA媒介性欠失を示す図を含む。A:ゲノム欠失領域にわたりPCRによって決定された、より大きな親バンドと比較した、より小さな欠失PCR産物を示す写真。欠失パーセントを各レーンの下に表示する。
【
図10B】B:エンドポイントPCRで定量化された欠失パーセントを示すグラフ。
【0022】
【
図11】
図11は、編集されたCD34
+ HSCの分化能を評価するための概略ワークフローである。d=日、w=週、w/o=週齢、RNP=リボ核タンパク質。
【
図12】
図12は、ラージバーキットリンパ腫腫瘍モデルにおけるCART19療法のin vivo選択性と有効性を評価するための、概略ワークフローである。d=日、w=週、w/o=週齢。
【
図13A】
図13は、CD19のエクソン2が欠失されたラージ-fluc-GFP細胞の生成を示す図を含む。A:FACSで測定された、ms-sgRNAの示された組み合わせでトランスフェクトされたラージ-fluc-GFP細胞株における、CD19の発現を示す図。親ラージ細胞およびCas9のみでヌクレオフェクトされたラージ-fluc-GFPは、対照として含まれている。
【
図13B-D】B:各細胞集団(CD19「hi」、CD19「int」、およびCD19「lo」)における生細胞の割合を示すグラフである。C:ゲノム欠失領域にわたりPCRによって決定された、より大きな親バンドと比較した、エクソン2欠失についてのより小さいPCR産物を示す写真である。D:エンドポイントPCRにより決定された、細胞のバルク集団における、CD19の欠失されたエクソン2を有する細胞の割合を示すグラフである。
【0023】
【
図14】
図14は、CD19エクソン2が欠失されたラージ細胞に対する、CART19細胞傷害性のレベルを示す図を含む。A:CD19のエクソン2が欠失された細胞が、CART19細胞傷害性に耐性があることを示す折れ線グラフ。B:CD19のエクソン2が欠失された細胞が、CART19細胞傷害性に耐性であることを示す棒グラフ。
【
図15】
図15は、本明細書に記載の方法が関与する、編集されたHSCと対になったCART治療薬の有効性および選択性を評価する、例示的なin vivoモデルを示す概略図である。
【
図16】
図16は、CD33エクソン2の編集を示す概略図であり、CD33mバリアントの発現をもたらす。
【0024】
【
図17】
図17は、TIDE分析による、CD34
+ HSCにおけるCD33のイントロン1または2を標的とする様々なms-sgRNAの調査を示すグラフである。CD33遺伝子のイントロン1と2にまたがる領域に由来するPCRアンプリコンを、TIDE分析で分析し、インデルパーセントを決定した。
【
図18AB】
図18は、CD33編集初代CD34
+ HSCの特性を示す図である。A:CD34
+ HSCにおいてTIDE分析で調査した、CD33のイントロン1または2を標的とする選択されたms-sgRNAとインデルパーセントを示すグラフ。「Sg」および「811」は、それぞれエクソン2および3を標的とする対照sgRNAを表す。B:ゲノム欠失領域にわたりPCRによって決定された、より大きな親バンドと比較した、より小さな欠失PCR産物を示す写真。
【
図18C】C:フローサイトメトリー分析により評価した、エクソン2によりコードされるCD33のVドメインの喪失を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
開示の詳細な説明
標的がん治療に適したタンパク質の同定に成功することは、大きな課題である。多くの潜在的な標的タンパク質が、がん細胞の細胞表面および正常な非がん細胞の細胞表面の両方に存在し、これらは、対象の発達および/または生存に必要であるかまたは決定的に関与し得る。標的タンパク質の多くは、かかる重要な細胞の機能に貢献する。したがって、これらのタンパク質を標的とする治療は、重大な毒性および/または他の副作用など、対象に有害な影響をもたらし得る。
【0026】
本開示は、少なくとも上記の問題に対処することを目的とした、方法、細胞、組成物、およびキットを提供する。本明細書に記載の方法、細胞、組成物、およびキットは、血液悪性腫瘍の安全かつ効果的な処置を提供し、がん細胞だけでなく対象の発達および/または生存に重要な細胞にも存在する系統特異的細胞表面タンパク質(例えば、0型、1型、または2型タンパク質)の標的化を可能にする。本明細書に記載の方法は、標的系統特異的細胞表面タンパク質を発現する細胞を、以下により除去することを含む:処置を必要とする対象に対して、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに特異的に結合する細胞傷害剤を投与すること;および、対象に、その細胞またはその子孫が系統特異的細胞表面タンパク質を発現するところの造血細胞を提供すること、ここで該造血細胞は、細胞傷害剤によって標的化できないか、または標的化が減少するように、(例えば、遺伝的に)操作されている。例えば、系統特異的細胞表面タンパク質の結合エピトープは、細胞傷害剤への結合が削除、変異、またはブロックされている。「系統特異的細胞表面タンパク質を発現する」とは、系統特異的細胞表面タンパク質の少なくとも一部が、造血細胞またはその子孫の表面で検出できることを意味する。いくつかの態様において、本明細書に記載の方法で使用するための操作された造血細胞は、生物学的に機能的な系統特異的細胞表面タンパク質を発現する。いくつかの態様において、本明細書に記載の方法で使用するための操作された造血細胞は、生物学的に機能的な系統特異的細胞表面タンパク質を発現しなくてもよいが、しかしながら、そこから分化した細胞(例えば、その子孫)は、かかる機能的な系統特異的な細胞表面タンパク質を発現する。
【0027】
したがって、本明細書に記載されるのは、系統特異的細胞表面タンパク質を標的とする細胞傷害剤の使用を含む、組成物および方法であり、該系統特異的細胞表面タンパク質は、本明細書に記載されているかまたは当技術分野で知られている系統特異的細胞表面タンパク質のいずれか、例えばCD33またはCD19および造血幹細胞(HSC)などの造血細胞であって、これらまたはその子孫は、系統特異的細胞表面タンパク質を発現し、細胞傷害剤に結合しないように、または低減した細胞傷害剤への結合を有するように操作されており、これらの組成物および方法は、造血器悪性腫瘍の処置に使用することができる。本明細書で提供されるのは、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープを欠く系統特異的細胞表面タンパク質のバリアントを発現する、遺伝子操作造血細胞、ならびに、かかる細胞を調製する方法である。本明細書には、系統特異的細胞表面タンパク質の非必須エピトープを同定する方法も、記載されている。
【0028】
系統特異的細胞表面タンパク質を発現する細胞を標的とする細胞傷害剤
本開示の側面は、系統特異的細胞表面タンパク質を発現する細胞(例えば、がん細胞)を標的とする、細胞傷害剤を提供する。本明細書で使用する場合、用語「細胞傷害剤」は、系統特異的細胞表面タンパク質(例えば、標的がん細胞)を発現する標的細胞の細胞傷害性を直接的または間接的に誘導できる、任意の薬剤を指す。かかる細胞傷害剤は、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに結合して標的化するタンパク質結合フラグメントを含んでもよい。いくつかの例において、細胞傷害剤は抗体を含んでもよく、これは薬物(例えば、抗がん剤)にコンジュゲートして、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を形成し得る。
【0029】
本明細書に記載の方法で使用される細胞傷害剤は、標的細胞の細胞死を直接引き起こし得る。例えば、細胞傷害剤は、キメラ受容体を発現する免疫細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)であり得る。キメラ受容体のタンパク質結合ドメインが系統特異的細胞表面タンパク質の対応するエピトープに結合すると、シグナル(例えば、活性化シグナル)が免疫細胞に伝達されて、ペロフォリンおよびグランザイムなどの細胞傷害性分子の放出、およびエフェクター機能の活性化がもたらされ、標的細胞の死が引き起こされる。別の例では、細胞傷害剤はADC分子であり得る。標的細胞に結合すると、ADCの薬物部分は細胞傷害活性を発揮し、標的細胞死を引き起こす。
他の態様において、細胞傷害剤は間接的に、標的細胞の細胞死を誘発し得る。例えば、細胞傷害剤は抗体であり得、これは、標的細胞に結合するとエフェクター活性(例えば、ADCC)を誘発し、かつ/または他の因子(例えば、補体)を補充して標的細胞死をもたらす。
【0030】
A.系統特異的細胞表面タンパク質
本明細書で使用する場合、用語「タンパク質」、「ペプチド」、および「ポリペプチド」は互換的に使用することができ、ペプチド結合によって一緒に連結されたアミノ酸残基のポリマーを指す。一般にタンパク質は、天然、組換え、合成、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。また、この用語の範囲内には、野生型対応物と比較して1つ以上のアミノ酸残基の変異(例えば、置換、挿入、または欠失)を含む、バリアントタンパク質がある。
本明細書で使用する場合、用語「系統特異的細胞表面タンパク質」および「細胞表面系統特異的タンパク質」は互換的に使用することができ、細胞の表面に十分に存在し、かつ細胞系統(単数または複数)の1つ以上の集団と会合する、任意のタンパク質を指す。例えばタンパク質は、細胞系統(単数または複数)の1つ以上の集団に存在し、別の細胞集団の細胞表面には存在しない(または減少したレベルである)可能性がある。
一般的に、系統特異的細胞表面タンパク質は、いくつかの要因、例えば、タンパク質および/またはタンパク質を提示する細胞の集団が宿主生物の生存および/または発達に必要であるかどうか、などに基づいて、分類することができる。系統特異的タンパク質の例示的な種類の概要は、以下の表1に提供される。
【0031】
【0032】
表1に示すように、0型系統特異的細胞表面タンパク質は、組織の恒常性と生存に必要であり、0型系統特異的細胞表面タンパク質を保有する細胞型も、対象の生存に必要であり得る。したがって、恒常性と生存における、0型系統特異的細胞表面タンパク質または0型系統特異的細胞表面タンパク質を保有する細胞の重要性を考えると、このカテゴリーのタンパク質を、従来のCAR T細胞免疫療法を使用して標的とすることは挑戦的となり得るが、その理由は、かかるタンパク質およびかかるタンパク質を保有する細胞の阻害または除去が、対象の生存に有害となり得るからである。その結果、系統特異的細胞表面タンパク質(0型系統特異的タンパク質など)および/またはかかるタンパク質を保有する細胞型は生存に必要となり得、例えばその理由は、これが対象において重要な非冗長機能を実行するからであり、したがってこの種類の系統特異的タンパク質は、従来のCAR T細胞ベースの免疫療法には劣った標的となる可能性がある。
【0033】
0型タンパク質とは対照的に、1型細胞表面系統特異的タンパク質および1型細胞表面系統特異的タンパク質を保有する細胞は、組織の恒常性または対象の生存に必要ではない。1型細胞表面系統特異的タンパク質を標的とすることが、対象の急性毒性および/または死につながる可能性は低い。例えば、Elkins et al. (Mol. Cancer Ther. (2012) 10:2222-32)に記載のように、正常な形質細胞および多発性骨髄腫(MM)細胞の両方でユニークに発現する1型タンパク質であるCD307を標的とするように操作されたCAR T細胞は、両方の細胞型の除去をもたらすであろう。しかし、形質細胞系統は生物の生存に消費されるため、CD307および他の1型系統特異的タンパク質は、CAR T細胞ベースの免疫療法に適したタンパク質である。1型クラスの系統特異的タンパク質は、卵巣、精巣、前立腺、乳房、子宮内膜、および膵臓を含む多様な異なる組織で発現され得る。いくつかの態様において、薬剤は、1型タンパク質である細胞表面系統特異的タンパク質を標的とする。かかる方法は、患者の長期生存および生活の質を改善するように設計され得る。例えば、すべての形質細胞を標的にすることは、急性毒性および/または死につながるとは予想されないが、体液性免疫系の機能低下などの長期的な影響があり、感染のリスクが高まる。
【0034】
2型タンパク質を標的とすることは、1型タンパク質と比較して大きな困難を伴う。2型タンパク質は、次のように特徴付けられる:(1)タンパク質は生物の生存に必ずしも必要ではない(すなわち、生存に必要とされない)、および(2)タンパク質を保有する細胞系統は、生物の生存に不可欠である(すなわち、生存には特定の細胞系統が必要である)。例えば、CD33は、正常な骨髄細胞および急性骨髄性白血病(AML)細胞の両方で発現する、2型タンパク質である(Dohner et al., NEJM 373:1136(2015))。その結果、CD33タンパク質を標的とするように設計されたCAR T細胞は、正常な骨髄細胞とAML細胞の両方を殺す可能性があり、対象の生存と両立しない可能性がある。いくつかの態様において、薬剤は、2型タンパク質である系統特異的細胞表面タンパク質を標的とする。
多種多様なタンパク質が、本開示の方法および組成物により標的化され得る。これらのタンパク質に対するモノクローナル抗体は、商業的に購入するか、または標準的な手法を使用して生成でき、これには、動物を目的のタンパク質で免疫化した後に、従来のモノクローナル抗体法を使用することなどを含む。抗体または抗体をコードする核酸は、任意の標準的なDNAまたはタンパク質配列決定技術を使用して、配列決定され得る。
【0035】
いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質は、BCMA、CD19、CD20、CD30、ROR1、B7H6、B7H3、CD23、CD38、C型レクチン様分子-1、CS1、IL-5、L1-CAM、PSCA、PSMA、CD138、CD133、CD70、CD7、NKG2D、NKG2Dリガンド、CLEC12A、CD11、CD123、CD56、CD34、CD14、CD33、CD66b、CD41、CD61、CD62、CD235a、CD146、CD326、LMP2、CD22、CD52、CD10、CD3/TCR、CD79/BCR、およびCD26である。いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質は、CD33またはCD19である。
【0036】
代替的に、または追加して、細胞表面系統特異的タンパク質は、がんタンパク質、例えば、がん細胞上に示差的に存在する細胞表面系統特異的タンパク質であり得る。いくつかの態様において、がんタンパク質は、組織または細胞系統に特異的なタンパク質である。特定の種類のがんに関連する細胞表面系統特異的タンパク質の例としては、限定はされないが、以下が挙げられる:CD20、CD22(非ホジキンリンパ腫、B細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病(CLL))、CD52(B細胞CLL)、CD33(急性骨髄性白血病(AML))、CD10(gp100)(一般的な(pre-B)急性リンパ性白血病および悪性黒色腫)、CD3/T細胞受容体(TCR)(T細胞リンパ腫および白血病)、CD79/B細胞受容体(BCR)(B細胞リンパ腫および白血病)、CD26(上皮およびリンパ系悪性腫瘍)、ヒト白血球抗原(HLA)-DR、HLA-DP、およびHLA-DQ(リンパ系悪性腫瘍)、RCAS1(婦人科の癌腫、胆管腺がんおよび膵臓の腺管がん)、ならびに前立腺特異的膜抗原。いくつかの態様において、細胞表面タンパク質CD33は、AML細胞に関連している。
【0037】
本明細書に記載の細胞傷害剤はいずれも、例えば、系統特異的タンパク質のエピトープに特異的に結合するタンパク質結合フラグメントを含む、系統特異的細胞表面タンパク質を標的とする。
本明細書で使用する用語「エピトープ」は、抗体のCDRが結合する系統特異的細胞表面タンパク質などのタンパク質の、アミノ酸配列(線形または立体配座)を指す。いくつかの態様において、細胞傷害剤は、系統特異的細胞表面タンパク質の1つ以上(例えば、少なくとも2、3、4、5またはそれ以上)のエピトープに結合する。いくつかの態様において、細胞傷害剤は、系統特異的細胞表面タンパク質の複数のエピトープに結合し、造血細胞は、各エピトープが細胞傷害剤による結合用には不在であるか、および/または利用できないように、操作される。
【0038】
いくつかの態様において、系統特異的細胞表面タンパク質は、CD33である。当業者に知られているように、CD33は、選択的スプライシングされたエクソン7Aおよび7Bを含む7つのエクソンによってコードされる(Brinkman-Van der Linden et al. Mol Cell. Biol. (2003)23:4199-4206)。
いくつかの態様において、系統特異的細胞表面タンパク質は、CD19である。いくつかの態様において、系統特異的細胞表面タンパク質は、CD33である。
【0039】
1.系統特異的細胞表面タンパク質の非必須エピトープ
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法で使用する細胞傷害剤は、系統特異的細胞表面タンパク質の非必須エピトープを標的とする。非必須エピトープ(またはこれを含むフラグメント)とは、系統特異的タンパク質内のドメインを指し、そこでの変異(例えば、欠失)は、系統特異的タンパク質の生物活性、したがってこれを発現する細胞の生物活性に、実質的に影響を与える可能性が低い。例えば、系統特異的細胞表面タンパク質の非必須エピトープの欠失または変異を含む造血細胞の場合、かかる造血細胞は、野生型系統特異的細胞表面タンパク質を発現する造血細胞と類似のレベルに、増殖し、および/または赤血球生成的に分化することができる。
【0040】
系統特異的細胞表面タンパク質の非必須エピトープは、本明細書に記載の方法により、またはタンパク質構造機能予測に関連する従来の方法により、同定することができる。例えば、タンパク質の非必須エピトープを、1つの種からのタンパク質のアミノ酸配列を他の種からのタンパク質の配列と比較することに基づき、予測することができる。非保存ドメインは通常、タンパク質の機能に不可欠ではない。当業者には明らかであるように、タンパク質の非必須エピトープは、PROVEANソフトウェアなどのアルゴリズムまたはソフトウェアを使用して予測され(例えば、provean.jcvi.org;Choi et al. PLoS ONE(2012)7(10):e46688を参照)、目的の系統特異的タンパク質の潜在的な非必須エピトープを予測する(「候補非必須エピトープ」)。置換および/または欠失を含む変異は、従来の核酸修飾技術を使用して、候補非必須エピトープの任意の1つ以上のアミノ酸残基においてなされる。このようにして調製されたタンパク質バリアントは、造血細胞などの適切な種類の細胞に導入することができ、タンパク質バリアントの機能を調査して、候補非必須エピトープが実際に非必須エピトープであることを確認できる。
【0041】
代替的に、系統特異的細胞表面タンパク質の非必須エピトープは、適切な種類の宿主細胞(例えば、造血細胞)の目的の系統特異的タンパク質の候補領域に変異を導入し、宿主細胞において変異した系統特異的タンパク質の機能を検査することにより、同定され得る。変異した系統特異的タンパク質が、天然の対応物の生物学的活性を実質的に維持している場合、これは、変異が導入された領域が、系統特異的タンパク質の機能に必須ではないことを示す。
系統特異的細胞表面タンパク質および造血細胞またはその子孫の機能性を評価する方法は当技術分野で知られており、例えば、増殖アッセイ、分化アッセイ、コロニー形成、発現分析(例えば、遺伝子および/またはタンパク質)、タンパク質局在化、細胞内シグナル伝達、機能アッセイ、およびin vivoヒト化マウスモデルなどが含まれる。
系統特異的細胞表面タンパク質中の非必須エピトープを同定および/または検証するための方法のいずれも、本開示の範囲内である。
【0042】
2.系統特異的細胞表面タンパク質のバリアント
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法で使用する造血細胞は、本明細書に記載の細胞傷害剤への低減した結合を有する、目的の系統特異的細胞表面タンパク質のバリアントを発現する。バリアントは、細胞傷害剤が結合するエピトープを欠いている場合がある。代替的に、バリアントは、細胞傷害剤への結合が天然または野生型の系統特異的細胞表面タンパク質の対応物と比較して低減または消失されるように、細胞傷害剤が結合するエピトープの1つ以上の変異を保有し得る。かかるバリアントは、野生型の対応物と実質的に同様の生物学的活性を維持するために好ましい。
【0043】
バリアントは、野生型対応物と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、97%、98%、99%、またはそれ以上)の配列相同性を共有し、いくつかの態様において、目的のエピトープを変異または欠失させるための変異に加えて、他の変異は含有しない。2つのアミノ酸配列の「同一性パーセント」は、Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68, 1990のアルゴリズムを使用し、Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77, 1993のように変更して決定される。かかるアルゴリズムは、Altschul, et al. J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。BLASTタンパク質検索を、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実行して、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列間にギャップが存在する場合、Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402, 1997に記載のGapped BLASTを利用することができる。BLASTプログラムおよびGapped BLASTプログラムを使用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータ(例えば、XBLASTおよびNBLAST)を使用することができる。
【0044】
いくつかの場合において、バリアントは、細胞傷害剤が変異エピトープに結合しないか、低減した結合を有するように、目的のエピトープ内に1つ以上のアミノ酸残基置換(例えば、2、3、4、5、またはそれ以上)を含有する。かかるバリアントは、細胞傷害剤に対する結合親和性が実質的に低減している可能性がある(例えば、その野生型対応物よりも少なくとも40%、50%、60%、70%、80%または90%低い結合親和性を有する)。いくつかの例において、かかるバリアントは、細胞傷害剤への結合活性を消失している可能性がある。他の場合において、バリアントは、目的のエピトープを含む領域の欠失を含有する。かかる領域は、エクソンによってコードされてもよい。いくつかの態様において、領域は、エピトープをコードする目的の系統特異的細胞表面タンパク質のドメインである。一例において、バリアントは、エピトープのみが削除されている。削除された領域の長さは、3~60アミノ酸、例えば、5~50、5~40、10~30、10~20などの範囲であり得る
系統特異的細胞表面タンパク質のバリアントにおける変異(単数または複数)または欠失は、変異(単数または複数)または欠失(単数または複数)がタンパク質の生物活性に実質的に影響を及ぼさないように、非必須エピトープ内にあるか、または非必須エピトープを囲み得る。
【0045】
いくつかの例において、本明細書で提供されるのは、CD33のバリアントであって、CD33のエクソンのいずれか1つによってコードされるタンパク質のフラグメントの欠失または変異、または非必須エピトープの欠失または変異を含み得るものである。CD33の予測される構造には、2つの免疫グロブリンドメイン、IgVドメインとIgC2ドメインが含まれる。いくつかの態様において、CD33の免疫グロブリンVドメインの一部が、欠失または変異されている。いくつかの態様において、CD33の免疫グロブリンCドメインの一部が、欠失または変異されている。いくつかの態様において、CD33のエクソン2が、欠失または変異されている。いくつかの態様において、CD33バリアントは、配列番号1のアミノ酸残基W11~T139を欠く。いくつかの態様において、欠失または変異フラグメントは、細胞傷害剤が結合するエピトープと重複またはこれを包含する。例1に記載されるように、いくつかの態様において、エピトープは、CD33(配列番号1)の細胞外部分のアミノ酸47~51または248~252を含む。いくつかの態様において、エピトープは、CD33(配列番号1)の細胞外部分の、アミノ酸248~252(配列番号8)、47~51(配列番号9)、249~253(配列番号10)、250~254(配列番号11)、48~52(配列番号12)、または251~255(配列番号13)を含む。
【0046】
いくつかの例において、本明細書で提供されるのは、CD19のバリアントであって、CD19のエクソンのいずれか1つによりコードされるタンパク質のフラグメントの欠失または変異、またはCD19の非必須エピトープの欠失または変異を含み得るものである。15個のエクソンを含むCD19遺伝子の全配列は、当技術分野で知られている。例えば、GenBankアクセッション番号NC_000016を参照。例えば、CD19遺伝子のエクソン2によりコードされる領域に位置する1つ以上のエピトープは、欠失または変異され得る。エクソン2をコードするCD19遺伝子の領域に対する特定の修飾により、CD19タンパク質の発現、膜局在化、およびタンパク質機能の部分的維持が成功することが示されている(Sotillo et al. Cancer Discovery. (2015) 5: 1282-1295)。例えば、CD19遺伝子のエクソン2のミスセンスまたはフレームシフト変異、または代替的に、CD19エクソン2の保持に関与するスプライシング因子SRSF3の発現を永続的または一時的に低減させる修飾は、in vivoでのCD19発現を低減させる可能性がある。いくつかの態様において、CD19遺伝子のエクソン2によってコードされる領域に位置する1つ以上のエピトープが、変異または欠失されている。例えば、CD19を標的とするCAR療法の既知の標的である、CD19のFMC63エピトープは、変異または欠失している可能性がある(Sotillo et al. Cancer Discovery. (2015) 5: 1282-129; Nicholson et al. Mol Immunol. (1997) 34:1157-1165; Zola et al. Immunol Cell Biol. (1991) 69:411-422)。いくつかの態様において、CD19のエクソン2は、変異または欠失されている。
【0047】
B.細胞傷害剤
1.抗体および抗原結合フラグメント
任意の抗体またはその抗原結合フラグメントは、細胞傷害剤として、または本明細書に記載の系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープを標的とする細胞傷害剤を構築するために、使用することができる。かかる抗体または抗原結合フラグメントは、従来の方法、例えば、ハイブリドーマ技術または組換え技術により、調製することができる。
【0048】
本明細書で使用する用語「抗体」とは、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質、すなわち、異なる遺伝子によってコードされる2つの同一IgH鎖および2つの同一L鎖から構成される、共有ヘテロ四量体を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略記)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインから構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略す)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、CLという1つのドメインから構成される。VHおよびVL領域はさらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域で区切られた、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性領域に細分化することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRと4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置されている。重鎖と軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系のさまざまな細胞(例:エフェクター細胞)および古典的な補体系の最初の成分(Clq)を含む宿主組織または因子への、免疫グロブリンの結合を媒介する。成熟した機能性抗体分子の形成は、2つのタンパク質が化学量論量で発現され、適切な構成で自己組織化される場合に、達成することができる。
【0049】
いくつかの態様において、抗原結合フラグメントは、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに特異的に結合する単鎖抗体フラグメント(scFv)である。他の態様において、抗原結合フラグメントは、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに特異的に結合する全長抗体である。
本明細書に記載されており、当業者に明らかであるように、抗体のCDRは、標的タンパク質(系統特異的細胞表面タンパク質)のエピトープに特異的に結合する。
【0050】
いくつかの態様において、抗体は完全長抗体であり、これは、抗体が結晶化可能フラグメント(Fc)部分と抗原結合フラグメント(Fab)部分を含むことを意味する。いくつかの態様において、抗体は、アイソタイプIgG、IgA、IgM、IgA、またはIgDのものである。いくつかの態様において、抗体の集団は、抗体の1つのアイソタイプを含む。いくつかの態様において、抗体はIgG抗体である。いくつかの態様において、抗体はIgM抗体である。いくつかの態様において、抗体の集団は、抗体の複数のアイソタイプを含む。いくつかの態様において、抗体の集団は、抗体の1つのアイソタイプの大部分で構成されるが、抗体の1つ以上の他のアイソタイプも含む。いくつかの態様において、抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、IgEからなる群から選択される。
【0051】
本明細書に記載の抗体は、標的タンパク質に特異的に結合し得る。本明細書で使用する「特異的結合」とは、がん抗原などの所定のタンパク質への抗体結合を指す。「特異的結合」は、代替タンパク質と比較して、より頻繁に、より迅速に、相互作用のより長い持続時間、および/または標的タンパク質に対するより高い親和性を伴う。いくつかの態様において、抗体の集団は、標的タンパク質の特定のエピトープに特異的に結合し、これは、抗体が特定のタンパク質に、同じ標的タンパク質の代替エピトープまたは別のタンパク質のエピトープと比較して、より頻繁に、より迅速に、相互作用のより長い持続時間、および/またはエピトープに対してより高い親和性で結合することを意味する。いくつかの態様において、標的タンパク質の特定のエピトープに特異的に結合する抗体は、同じタンパク質の他のエピトープに結合しなくてもよい。
【0052】
抗体またはそのフラグメントは、標的タンパク質またはエピトープに対する抗体の結合親和性に基づいて、選択することができる。代替的にまたは追加的に、抗体を変異させて、標的タンパク質またはエピトープに対する抗体の結合親和性を修飾する(例えば、増強または低減する)1つ以上の変異を導入してもよい。
本抗体または抗原結合部分は、約10-7M未満、約10-8M未満、約10-9M未満、約10-10M未満、約10-11M未満、または約10-12M未満の解離定数(KD)で、特異的に結合することができる。本開示による抗体の親和性は、従来技術を使用して容易に決定することができる(例えば、Scatchard et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. (1949) 51:660;および米国特許第5,283,173号、第5,468,614号、または均等物を参照のこと)。
【0053】
エピトープまたはタンパク質に対する結合親和性または結合特異性は、平衡透析、平衡結合、ゲルろ過、ELISA、表面プラズモン共鳴、または分光法などのさまざまな方法により決定することができる。
例えば、目的の系統特異的タンパク質のエピトープに特異的な抗体(またはその抗原結合フラグメント)は、従来のハイブリドーマ技術により作製することができる。KLHなどの担体タンパク質に結合し得る系統特異的タンパク質は、その複合体に結合する抗体を生成するための宿主動物を免疫化するために、使用することができる。宿主動物の免疫化の経路およびスケジュールは、一般に、本明細書でさらに説明されるように、抗体刺激および生産のための確立された従来の技術に沿っている。マウス抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体の生産のための一般的な技術は当技術分野で知られており、本明細書に記載されている。ヒトを含む任意の哺乳動物対象またはそれからの抗体産生細胞を操作して、ヒトを含む哺乳動物ハイブリドーマ細胞株の生産の基礎として役立たせることが企図される。典型的には、宿主動物に、本明細書に記載の量を含む量の免疫原を、腹腔内、筋肉内、経口、皮下、足底内、および/または皮内に接種する。
【0054】
ハイブリドーマは、リンパ球および不死化骨髄腫細胞から、Kohler, B. and Milstein, C. (1975) Nature 256:495-497の一般的な体細胞ハイブリダイゼーション技術、またはBuck, D. W., et al., In Vitro, 18:377-381 (1982)により修正されたものを使用して、調製することができる。X63-Ag8.653およびSalk Institute, Cell Distribution Center, San Diego, Calif., USAからのものを含むがこれらに限定されない、利用可能な骨髄腫株を、ハイブリダイゼーションに使用してもよい。一般にこの技法は、ポリエチレングリコールなどの融合剤を使用して、または当業者に周知の電気的手段によって、骨髄腫細胞とリンパ系細胞を融合することを伴う。融合後、細胞を融合培地から分離し、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)培地などの選択的増殖培地で増殖させて、ハイブリダイズしていない親細胞を排除する。血清の補充の有無にかかわらず、本明細書に記載の任意の培地を使用して、モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを培養することができる。細胞融合技術の別の代替法として、EBV不死化B細胞を使用して、本明細書に記載のTCR様モノクローナル抗体を産生してもよい。必要に応じて、ハイブリドーマを拡大およびサブクローニングし、上清を抗免疫原活性について、従来の免疫測定法(例えば、放射免疫測定法、酵素免疫測定法、または蛍光免疫測定法)によりアッセイする。
【0055】
抗体の供給源として使用できるハイブリドーマは、系統特異的タンパク質に結合可能なモノクローナル抗体を産生する、親ハイブリドーマのすべての誘導体、子孫細胞を含む。かかる抗体を産生するハイブリドーマは、既知の手順を使用してin vitroまたはin vivoで増殖させることができる。モノクローナル抗体は、必要に応じて、硫酸アンモニウム沈殿、ゲル電気泳動、透析、クロマトグラフィー、および限外濾過などの従来の免疫グロブリン精製手順により、培地または体液から分離され得る。望ましくない活性はこれが存在する場合、例えば、固相に付着した免疫原で作られた吸着剤上で製剤を流し、所望の抗体を免疫原から溶出または放出することにより、除去することができる。宿主動物の、標的タンパク質による、または免疫される種において免疫原性であるタンパク質にコンジュゲートした標的アミノ酸配列を含有するフラグメントによる免疫化は、抗体(例えば、モノクローナル抗体)の集団を生成することができ、これは例えば以下である:キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、または次のような二官能化剤または誘導体化剤を使用した大豆トリプシン阻害剤:例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介したコンジュゲーション)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を介した)、グルタルアルデヒド、コハク酸無水物、SOCl、またはR1N=C=NR;この式中、RおよびR1は異なるアルキル基である。
【0056】
必要に応じて、目的の抗体(例えば、ハイブリドーマによって産生される)を配列決定し、その後ポリヌクレオチド配列を、発現または増殖のためにベクターにクローニングすることができる。目的の抗体をコードする配列は、宿主細胞のベクターで維持されてもよく、その後宿主細胞は、将来の使用のために拡大および凍結することができる。代替的に、ポリヌクレオチド配列を遺伝子操作に使用して、抗体を「ヒト化」するか、抗体の親和性または他の特性を改善することができる(親和性成熟)。例えば、定常領域をヒトの定常領域にさらに似るように設計して、抗体がヒトの臨床試験および処置で使用される場合に免疫応答を回避することができる。抗体配列を遺伝的に操作して、系統特異的タンパク質に対するより高い親和性を得ることが望ましい場合がある。当業者には、1つ以上のポリヌクレオチドの変化を抗体に加えることができ、それでもなお標的タンパク質に対するその結合特異性を維持することは、明らかであろう。
【0057】
他の態様において、完全ヒト抗体を、特定のヒト免疫グロブリンタンパク質を発現するように操作された市販のマウスを使用することにより、得ることができる。より望ましい(例えば、完全ヒト抗体)またはより堅牢な免疫応答を生産するように設計されたトランスジェニック動物も、ヒト化またはヒト抗体の生成に使用され得る。かかる技術の例は、Amgen, Inc. (Fremont, Calif.)のXenomouse(登録商標)およびMedarex, Inc. (Princeton, N.J.)のHuMAb-Mouse(登録商標)およびTC Mouse(商標)である。別の代替において、抗体は、ファージディスプレイまたは酵母技術により組換えにより作製され得る。例えば、以下を参照のこと:米国特許第5,565,332号;第5,580,717号;第5,733,743号;および第6,265,150号;およびWinter et al., (1994) Annu. Rev. Immunol. 12:433-455。代替的に、ファージディスプレイ技術(McCafferty et al., (1990) Nature 348:552-553)を使用して、免疫化されていないドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、in vitroでヒト抗体および抗体フラグメントを生産することができる。
【0058】
無傷の抗体(完全長抗体)の抗原結合フラグメントは、日常的な方法で調製できる。例えば、F(ab’)2フラグメントは抗体分子のペプシン消化により生成され、Fabフラグメントは、F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することにより生成することができる。
遺伝子操作された抗体、例えばヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、および二重特異性抗体などは、例えば従来の組換え技術を介して生産することができる。一例において、標的タンパク質に特異的なモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができる、オリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)、容易に単離および配列決定することができる。ハイブリドーマ細胞は、かかるDNAの好ましい供給源として機能する。単離されたDNAは、1つ以上の発現ベクターに配置され、これは次に、大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、またはそうでなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトされて、モノクローナル抗体の合成を組換え宿主細胞中に得る。例えば、PCT公開番号WO 87/04462を参照。次いでDNAの修飾を、例えば、ヒト重鎖および軽鎖定常ドメインのコード配列を相同マウス配列の代わりに置換することにより:Morrison et al., (1984) Proc. Nat. Acad. Sci. 81:6851;または非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部または一部を免疫グロブリンコード配列に共有結合することにより、行うことができる。このようにして、「キメラ」または「ハイブリッド」抗体などの遺伝子操作された抗体を、標的タンパク質の結合特異性を有して、調製することができる。
【0059】
「キメラ抗体」の生産のために開発された技術は、当技術分野でよく知られている。例えば、Morrison et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 6851;Neuberger et al. (1984) Nature 312, 604;およびTakeda et al. (1984) Nature 314:452を参照。
ヒト化抗体を構築する方法も、当技術分野でよく知られている。例えば、Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:10029-10033 (1989)を参照。一例において、親非ヒト抗体のVHおよびVLの可変領域は、当技術分野で知られている方法に従って、三次元分子モデリング分析にかけられる。次に、正しいCDR構造の形成に重要であると予測されるフレームワークのアミノ酸残基を、同じ分子モデリング分析を使用して特定する。並行して、親の非ヒト抗体のアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を有するヒトVHおよびVL鎖を、任意の抗体遺伝子データベースから、親VHおよびVL配列を検索クエリとして使用して特定する。ヒトVHおよびVLアクセプター遺伝子が、次に選択される。
【0060】
選択されたヒトアクセプター遺伝子内のCDR領域は、親の非ヒト抗体またはその機能的バリアントからのCDR領域で置き換えることができる。必要な場合、CDR領域との相互作用に重要であると予測される親鎖のフレームワーク領域内の残基(上記の説明を参照)を使用して、ヒトアクセプター遺伝子の対応する残基を置換することができる。
単鎖抗体は、組換え技術により、重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列と軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を連結することによって、調製することができる。好ましくは、柔軟なリンカーが、2つの可変領域の間に組み込まれる。代替的に、単鎖抗体の生産について記載された技術(米国特許第4,946,778号および第4,704,692号)を適合させて、ファージまたは酵母のscFvライブラリーを生産することができ、系統特異的タンパク質に特異的なscFvクローンを、ライブラリーから日常的な手順に従って同定することができる。陽性クローンをさらにスクリーニングして、系統特異的タンパク質に結合するクローンを特定することができる。
【0061】
いくつかの例において、本明細書に記載の方法で使用する細胞傷害剤は、系統特異的タンパク質CD33を標的とする抗原結合フラグメントを含む。他の例において、本明細書に記載の方法で使用する細胞傷害剤は、系統特異的タンパク質CD19を標的とする抗原結合フラグメントを含む。CD33またはCD19を標的とする抗体および抗原結合フラグメントは、慣例に従って調製することができる。CD19を標的とする抗原結合フラグメントの非限定的な例は、Porter DL et al. NEJM (2011) 365:725-33およびKalos M et al. Sci Transl Med. (2011) 3:95ra73に見出すことができる。本明細書の説明も参照されたい。かかるCD19標的抗原結合フラグメントは、本明細書に記載のCAR構築物を作製するために使用することができる。
【0062】
2.キメラ抗原受容体を発現する免疫細胞
いくつかの態様において、本明細書に記載の系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープを標的とする細胞傷害剤は、系統特異的タンパク質(例えば、CD33またはCD19)のエピトープに結合可能な抗原結合フラグメント(例えば、単鎖抗体)を含む、キメラ受容体を発現する免疫細胞である。その細胞表面に系統特異的タンパク質のエピトープを有する標的細胞(例えば、がん細胞)の、キメラ受容体の抗原結合フラグメントによる認識は、活性化シグナルをキメラ受容体のシグナル伝達ドメイン(例えば、共刺激シグナル伝達ドメインおよび/または細胞質シグナル伝達ドメイン)に伝達し、これは、キメラ受容体を発現する免疫細胞のエフェクター機能を活性化し得る。
【0063】
本明細書で使用されるキメラ受容体とは、宿主細胞の表面で発現することができ、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープに結合する抗原結合フラグメントを含む、天然に存在しない分子を指す。一般にキメラ受容体は、異なる分子に由来する少なくとも2つのドメインを含む。本明細書に記載のエピトープ結合フラグメントに加えて、キメラ受容体はさらに、以下のうちの1つ以上を含み得る:ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、細胞質シグナル伝達ドメイン、およびそれらの組み合わせ。いくつかの態様において、キメラ受容体は、N末端からC末端まで、細胞表面系統特異的タンパク質に結合する抗原結合フラグメント、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの態様において、キメラ受容体はさらに、少なくとも1つの共刺激ドメインを含む。
【0064】
いくつかの態様において、本明細書に記載のキメラ受容体は、1つ以上のヒンジドメインを含む。いくつかの態様において、ヒンジドメインは、抗原結合フラグメントと膜貫通ドメインとの間に位置してもよい。ヒンジドメインは、タンパク質の2つのドメインの間に一般的に見られるアミノ酸セグメントであり、タンパク質の柔軟性と、ドメインの一方または両方の相互の移動を可能にする。キメラ受容体の別のドメインに対して、抗原結合フラグメントのかかる柔軟性および移動を提供する任意のアミノ酸配列を、使用することができる。
ヒンジドメインは、約10~200個のアミノ酸、例えば15~150個のアミノ酸、20~100個のアミノ酸、または30~60個のアミノ酸を含み得る。いくつかの態様において、ヒンジドメインは、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、または200個のアミノ酸の長さであり得る。
【0065】
いくつかの態様において、ヒンジドメインは、天然に存在するタンパク質のヒンジドメインである。ヒンジドメインを含むことが当技術分野で知られている任意のタンパク質のヒンジドメインは、本明細書に記載のキメラ受容体での使用に適合する。いくつかの態様において、ヒンジドメインは、天然に存在するタンパク質のヒンジドメインの少なくとも一部であり、キメラ受容体に柔軟性を付与する。いくつかの態様において、ヒンジドメインは、CD8αまたはCD28のものである。いくつかの態様において、ヒンジドメインは、CD8αのヒンジドメインの一部、例えば、CD8αまたはCD28のヒンジドメインの少なくとも15個(例えば、20、25、30、35、または40個)の連続アミノ酸を含有するフラグメントである。
【0066】
IgG、IgA、IgM、IgE、またはIgD抗体などの抗体のヒンジドメインも、本明細書に記載のキメラ受容体での使用に適合する。いくつかの態様において、ヒンジドメインは、抗体の定常ドメインCH1とCH2を結合するヒンジドメインである。いくつかの態様において、ヒンジドメインは抗体のものであり、抗体のヒンジドメインおよび抗体の1つ以上の定常領域を含む。いくつかの態様において、ヒンジドメインは、抗体のヒンジドメインおよび抗体のCH3定常領域を含む。いくつかの態様において、ヒンジドメインは、抗体のヒンジドメイン、および抗体のCH2およびCH3定常領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、IgG、IgA、IgM、IgE、またはIgD抗体である。いくつかの態様において、抗体は、IgG抗体である。いくつかの態様において、抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4抗体である。いくつかの態様において、ヒンジ領域は、IgG1抗体のヒンジ領域ならびにCH2およびCH3定常領域を含む。いくつかの態様において、ヒンジ領域は、IgG1抗体のヒンジ領域およびCH3定常領域を含む。
【0067】
さらに本開示の範囲内であるのは、天然に存在しないペプチドであるヒンジドメインを含むキメラ受容体である。いくつかの態様において、Fc受容体の細胞外リガンド結合ドメインのC末端と膜貫通ドメインのN末端との間のヒンジドメインは、(GlyxSer)nリンカーなどのペプチドリンカーであり、この式中、xおよびnは独立して、3~12の整数(3、4、5、6、7、8、9、10、11、12またはそれ以上を含む)であることができる。
本明細書に記載のキメラ受容体のヒンジドメインで使用できる追加のペプチドリンカーは、当技術分野で知られている。例えば、Wriggers et al. Current Trends in Peptide Science (2005) 80(6): 736-746およびPCT公開WO 2012/088461を参照。
【0068】
いくつかの態様において、本明細書に記載のキメラ受容体は、1つ以上の膜貫通ドメインを含み得る。キメラ受容体で使用するための膜貫通ドメインは、当技術分野で知られている任意の形態であり得る。本明細書で使用する「膜貫通ドメイン」とは、細胞膜、好ましくは真核細胞膜において熱力学的に安定な、任意のタンパク質構造を指す。本明細書で用いられるキメラ受容体での使用に適合する膜貫通ドメインは、天然に存在するタンパク質から得ることができる。代替的に、膜貫通ドメインは、合成の非天然タンパク質セグメント、例えば、細胞膜において熱力学的に安定な疎水性タンパク質セグメントであってもよい。
【0069】
膜貫通ドメインは、膜貫通ドメインのトポロジーに基づいて分類され、これは、膜貫通ドメインが膜を通過する回数およびタンパク質の配向を含む。例えば、シングルパス膜タンパク質は細胞膜を1回通過し、マルチパス膜タンパク質は細胞膜を少なくとも2回(例えば、2、3、4、5、6、7回またはそれ以上)通過する。いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、シングルパス膜貫通ドメインである。いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、キメラ受容体のN末端を細胞の細胞外側に向け、キメラ受容体のC末端を細胞の細胞内側に向ける、シングルパス膜貫通ドメインである。いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、シングルパス膜貫通タンパク質から得られる。いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、CD8αのものである。いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、CD28のものである。いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、ICOSのものである。
【0070】
いくつかの態様において、本明細書に記載のキメラ受容体は、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。本明細書で使用する「共刺激シグナル伝達ドメイン」という用語は、細胞内のシグナル伝達を媒介して、エフェクター機能などの免疫応答を誘導するタンパク質の少なくとも一部を指す。本明細書に記載のキメラ受容体の共刺激シグナル伝達ドメインは、シグナルを伝達し、T細胞、NK細胞、マクロファージ、好中球、または好酸球などの免疫細胞によって媒介される応答を調節する、共刺激タンパク質由来の細胞質シグナル伝達ドメインであり得る。
いくつかの態様において、キメラ受容体は、2つ以上(少なくとも2、3、4、またはそれ以上)の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの態様において、キメラ受容体は、異なる共刺激タンパク質から得られる2つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの態様において、キメラ受容体は、共刺激シグナル伝達ドメインを含まない。
【0071】
一般に多くの免疫細胞は、細胞の増殖、分化、生存を促進し、細胞のエフェクター機能を活性化するために、抗原特異的シグナルの刺激に加えて、共刺激を必要とする。宿主細胞(例えば免疫細胞)の共刺激シグナル伝達ドメインの活性化は、細胞を誘導して、サイトカインの産生と分泌、食作用特性、増殖、分化、生存、および/または細胞傷害性を増加または減少させ得る。任意の共刺激タンパク質の共刺激シグナル伝達ドメインは、本明細書に記載のキメラ受容体での使用に適合し得る。共刺激シグナル伝達ドメインの種類(単数または複数)は、そこでキメラ受容体が発現される免疫細胞の種類(例えば、初代T細胞、T細胞株、NK細胞株)および所望の免疫エフェクター機能(例えば、細胞傷害性)などの要因に基づいて選択される。キメラ受容体で使用するための共刺激シグナル伝達ドメインの例は、共刺激タンパク質の細胞質シグナル伝達ドメインであることができ、以下を含むがこれに限定はされない:CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、ICOS、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3。いくつかの態様において、共刺激ドメインは、4-1BB、CD28、またはICOSに由来する。いくつかの態様において、共刺激ドメインはCD28に由来し、キメラ受容体は、4-1BBまたはICOSからの第2の共刺激ドメインを含む。
【0072】
いくつかの態様において、共刺激ドメインは、2つ以上の共刺激ドメインまたは2つ以上の共刺激ドメインの一部を含む、融合ドメインである。いくつかの態様において、共刺激ドメインは、CD28およびICOSからの共刺激ドメインの融合である。
いくつかの態様において、本明細書に記載のキメラ受容体は、1つ以上の細胞質シグナル伝達ドメインを含む。任意の細胞質シグナル伝達ドメインを、本明細書に記載のキメラ受容体において使用することができる。一般に、細胞質シグナル伝達ドメインは、細胞外のリガンド結合ドメインとそのリガンドの相互作用等のシグナルを中継して、細胞のエフェクター機能(例えば、細胞傷害性)を誘導するなどの、細胞応答を刺激する。
【0073】
当業者には明らかであるように、T細胞活性化に関与する因子は、細胞質シグナル伝達ドメインの免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)のリン酸化である。当分野で知られている任意のITAM含有ドメインが、本明細書に記載のキメラ受容体を構築するために使用され得る。一般的に、ITAMモチーフは、6~8個のアミノ酸で分離されたアミノ酸配列YxxL/Iの2つの繰り返しを含むことができ、式中、各xは独立して任意のアミノ酸であり、保存モチーフYxxL/Ix(6~8)YxxL/Iを生産する。いくつかの態様において、細胞質シグナル伝達ドメインは、CD3ζに由来する。
いくつかの態様において、本明細書に記載のキメラ受容体は、2型タンパク質を標的とする。いくつかの態様において、キメラ受容体は、CD33を標的とする。いくつかの態様において、本明細書に記載のキメラ受容体は、1型タンパク質を標的とする。いくつかの態様において、キメラ受容体は、CD19を標的とする。かかるキメラ受容体は、CD19に結合する重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗原結合フラグメント(例えばscFv)を含んでもよい。代替的に、キメラ受容体は、CD33に結合する重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗原結合フラグメント(例えばscFv)を含んでもよい。
【0074】
CD33またはCD19を標的とするキメラ受容体構築物はさらに、少なくともヒンジドメイン(例えば、CD28、CD8α、または抗体から)、膜貫通ドメイン(例えば、CD8α、CD28またはICOSから)、1つ以上の共刺激ドメイン(CD28、ICOS、または4-1BBの1つ以上から)、および細胞質シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ζから)、またはそれらの組み合わせを含み得る。
本明細書に記載のキメラ受容体はいずれも、組換え技術などの日常的な方法により調製することができる。本明細書のキメラ受容体を調製する方法には、抗原結合フラグメントおよび任意でヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン、および細胞質シグナル伝達ドメインを含む、キメラ受容体の各ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸の生成が関与する。いくつかの態様において、キメラ受容体の成分をコードする核酸は、組換え技術を使用して一緒に結合される。
【0075】
キメラ受容体の各成分の配列は、通常の技術、例えばPCR増幅を介して、当技術分野で知られているさまざまなソースのいずれかから得ることができる。いくつかの態様において、キメラ受容体の1つ以上の成分の配列は、ヒト細胞から得る。代替的に、キメラ受容体の1つ以上の成分の配列は、合成することができる。各成分(例えばドメイン)の配列は、直接または間接的に結合することができ(例えば、ペプチドリンカーをコードする核酸配列を使用して)、キメラ受容体をコードする核酸配列を、PCR増幅またはライゲーションなどの方法を使用して形成する。代替的に、キメラ受容体をコードする核酸を合成してもよい。いくつかの態様において、核酸はDNAである。他の態様において、核酸はRNAである。
【0076】
キメラ受容体の1つ以上の成分(例えば、抗原結合フラグメントなど)内の1つ以上の残基の変異は、各成分の配列を結合する前または後に行うことができる。いくつかの態様において、キメラ受容体の成分において1つ以上の変異を生じさせて、該成分のエピトープ(例えば、標的タンパク質の抗原結合フラグメント)に対する親和性を調節(増加または減少)する、および/または該成分の活性を調節することができる。
本明細書に記載のキメラ受容体はいずれも、従来の技術を介した発現に適する免疫細胞に導入することができる。いくつかの態様において、免疫細胞は、初代T細胞またはT細胞株などのT細胞である。代替的に、免疫細胞は、確立されたNK細胞株(例えば、NK-92細胞)などの、NK細胞であり得る。いくつかの態様において、免疫細胞は、CD8(CD8+)またはCD8およびCD4(CD8+/CD4+)を発現する、T細胞である。いくつかの態様において、T細胞は、確立されたT細胞株のT細胞、例えば293T細胞またはジャーカット細胞である。
【0077】
初代T細胞は、任意のソースから、例えば末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄、脾臓などの組織、リンパ節、胸腺、または腫瘍組織などから得られる。所望の種類の免疫細胞を得るのに適した供給源は、当業者には明らかであろう。いくつかの態様において、免疫細胞の集団は、造血器悪性腫瘍を有するヒト患者に由来し、例えば患者から得た骨髄またはPBMCに由来する。いくつかの態様において、免疫細胞の集団は、健康なドナーに由来する。いくつかの態様において、免疫細胞は、キメラ受容体を発現する免疫細胞がその後投与される対象から得る。細胞を得た対象と同じ対象に投与される免疫細胞は、自家細胞と呼ばれ、一方、細胞が投与される対象とは異なる対象から得た免疫細胞は、同種異系細胞と呼ばれる。
【0078】
所望の宿主細胞の種類は、細胞を刺激分子と一緒にインキュベートすることにより得られる細胞集団内で拡大することができ、例えば、抗CD3および抗CD28抗体を、T細胞の拡大に使用できる。
本明細書に記載のキメラ受容体構築物のいずれかを発現する免疫細胞を構築するために、キメラ受容体構築物の安定発現または一過性発現のための発現ベクターを、本明細書に記載の従来の方法により構築し、免疫宿主細胞に導入してもよい。例えば、キメラ受容体をコードする核酸は、適切なプロモーターに作動可能に連結されたウイルスベクターなどの適切な発現ベクターにクローニングされてもよい。核酸およびベクターは、適切な条件下で制限酵素と接触させて、互いに対合してリガーゼと結合することができるそれぞれの分子上に、相補的な末端を作製することができる。代替的に、合成核酸リンカーを、キメラ受容体をコードする核酸の末端に連結することができる。合成リンカーは、ベクター内の特定の制限部位に対応する核酸配列を含んでもよい。発現ベクター/プラスミド/ウイルスベクターの選択は、キメラ受容体の発現のための宿主細胞の種類に依存するが、真核細胞での統合と複製に適しているべきである。
【0079】
様々なプロモーターを、本明細書に記載のキメラ受容体の発現に使用することができ、これには、限定することなく以下を含む:サイトメガロウイルス(CMV)中間初期プロモーター、ウイルスLTR、例えばラウス肉腫ウイルスLTR、HIV-LTR、HTLV-1 LTR、マロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)LTR、骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)LTR、脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)LTR、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、単純ヘルペスtkウイルスプロモーター、EF1-αイントロンの有りまたは無しの伸長因子1-アルファ(EF1-α)プロモーター。キメラ受容体の発現のための追加のプロモーターには、免疫細胞における任意の構成的に活性なプロモーターが含まれる。代替的に、任意の調節可能なプロモーターを使用して、その発現を免疫細胞内で調節できるようにしてもよい。
【0080】
さらにベクターは、例えば、以下のいくつかまたはすべてを含んでもよい:選択マーカー遺伝子、例えば宿主細胞における安定なまたは一過性のトランスフェクタント選択のためのネオマイシン遺伝子など;高レベル転写のための、ヒトCMVの最初期遺伝子からのエンハンサー/プロモーター配列;mRNA安定性のための、SV40からの転写終結およびRNA処理シグナル;α-グロビンまたはβ-グロビンなどの高発現遺伝子からのmRNA安定性および翻訳効率のための、5’および3’非翻訳領域;SV40ポリオーマの複製起点と適切なエピソーム複製のための、ColE1;内部リボソーム結合部位(IRES)、高汎用性マルチクローニング部位;センスおよびアンチセンスRNAのin vitro転写用のT7およびSP6 RNAプロモーター;トリガーされるとベクターを保有する細胞が死ぬ原因となる「自殺スイッチ」または「自殺遺伝子」(例えば、HSVチミジンキナーゼ、iCasp9などの誘導性カスパーゼ)、およびキメラ受容体の発現を評価するための、レポーター遺伝子。以下の第VI節を参照。導入遺伝子を含有するベクターを生産するための適切なベクターおよび方法はよく知られており、当技術分野で利用可能である。キメラ受容体の発現のためのベクターの調製の例は、例えばUS2014/0106449に見出すことができ、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0081】
いくつかの態様において、キメラ受容体構築物または該キメラ受容体をコードする核酸は、DNA分子である。いくつかの態様において、キメラ受容体構築物または該キメラ受容体をコードする核酸は、DNAベクターであり、免疫細胞にエレクトロポレーションされ得る(例えば、Till, et al. Blood (2012) 119(17): 3940-3950を参照)。いくつかの態様において、キメラ受容体をコードする核酸はRNA分子であり、これは免疫細胞にエレクトロポレーションされ得る。
【0082】
本明細書に記載のキメラ受容体構築物をコードする核酸配列を含むベクターのいずれもまた、本開示の範囲内である。かかるベクターは、宿主免疫細胞などの宿主細胞に、適切な方法により送達されてもよい。ベクターを免疫細胞に送達する方法は当技術分野でよく知られており、以下を含み得る:DNA、RNA、またはトランスポゾンエレクトロポレーション、DNA、RNA、またはトランスポゾンを送達するリポソームまたはナノ粒子などのトランスフェクション試薬;DNA、RNA、またはトランスポゾンまたはタンパク質の、機械的変形による送達(例えば、Sharei et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2013) 110(6): 2082-2087を参照);またはウイルス形質導入。いくつかの態様において、キメラ受容体の発現のためのベクターは、宿主細胞にウイルス形質導入によって送達される。送達のための例示的なウイルスによる方法は以下を含むが、これに限定はされない:組換えレトロウイルス(例えば以下を参照:PCT公開番号WO 90/07936;WO 94/03622;WO 93/25698;WO 93/25234;WO 93/11230;WO 93/10218、WO 91/02805;米国特許第5,219,740号および第4,777,127号、英国特許第2,200,651号、および欧州特許第0 345 242号)、アルファウイルスベースのベクター、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば以下を参照:PCT公開番号WO 94/12649、WO 93/03769、WO 93/19191、WO 94/28938、WO 95/11984およびWO 95/00655)。いくつかの態様において、キメラ受容体の発現のためのベクターは、レトロウイルスである。いくつかの態様において、キメラ受容体の発現のためのベクターは、レンチウイルスである。いくつかの態様において、キメラ受容体の発現のためのベクターは、アデノ随伴ウイルスである。
【0083】
キメラ受容体をコードするベクターが、ウイルスベクターを使用して宿主細胞に導入される例においては、免疫細胞に感染してベクターを保有することができるウイルス粒子は、当技術分野で知られている任意の方法によって生産され、例えば以下に見出される:PCT出願番号WO 1991/002805A2、WO 1998/009271 A1、および米国特許第6,194,191号。ウイルス粒子は細胞培養上清から収集され、ウイルス粒子を免疫細胞と接触させる前に、単離および/または精製されてもよい。
【0084】
本明細書に記載のキメラ受容体のいずれかを発現する宿主細胞を調製する方法は、免疫細胞をex vivoで活性化および/または拡大することを含み得る。宿主細胞の活性化とは、宿主細胞を、細胞がエフェクター機能(例えば、細胞傷害性)を実行できる活性化状態に刺激することを意味する。宿主細胞を活性化する方法は、キメラ受容体の発現に使用される宿主細胞の種類に依存する。宿主細胞の拡大は、キメラ受容体を発現する細胞の数の増加をもたらす任意の方法を含み得、例えば、宿主細胞を増殖させること、または宿主細胞の増殖を刺激することである。宿主細胞の拡大を刺激する方法は、キメラ受容体の発現に使用される宿主細胞の種類に依存し、当業者には明らかであろう。いくつかの態様において、本明細書に記載のキメラ受容体のいずれかを発現する宿主細胞は、対象への投与前に、ex vivoで活性化および/または拡大される。
【0085】
3.抗体-薬物コンジュゲート
いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープを標的とする細胞傷害剤は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。当業者には明らかであるように、「抗体-薬物コンジュゲート」という用語は「免疫毒素」と交換可能に使用することができ、毒素または薬物分子にコンジュゲートした抗体(またはその抗原結合フラグメント)を含む融合分子を指す。抗体の、標的タンパク質の対応するエピトープへの結合は、毒素または薬物分子の、細胞表面(例えば、標的細胞)上にタンパク質(およびそのエピトープ)を提示する細胞への送達を可能にし、それにより、標的細胞の死をもたらす。いくつかの態様において、抗体-薬物コンジュゲート(またはその抗原結合フラグメント)は、系統特異的細胞表面タンパク質のその対応するエピトープに結合するが、エピトープを欠くかまたはエピトープが変異している系統特異的細胞表面タンパク質には結合しない。
いくつかの態様において、薬剤は抗体-薬物コンジュゲートである。いくつかの態様において、抗体-薬物コンジュゲートは、抗原結合フラグメントおよび、標的細胞で細胞傷害性を誘発する毒素または薬物を含む。いくつかの態様において、抗体-薬物コンジュゲートは、2型タンパク質を標的とする。いくつかの態様において、抗体-薬物コンジュゲートは、CD33を標的とする。いくつかの態様において、抗体-薬物コンジュゲートは、1型タンパク質を標的とする。いくつかの態様において、抗体-薬物コンジュゲートは、CD19を標的とする。
【0086】
抗体-薬物コンジュゲートでの使用に適合する毒素または薬物は、当技術分野に知られており、当業者には明らかであろう。例えば、Peters et al. Biosci. Rep.(2015) 35(4): e00225を参照。いくつかの態様において、抗体-薬物コンジュゲートはさらに、抗体および薬物分子を結合するリンカー(例えば、切断可能なリンカーなどのペプチドリンカー)を含み得る。
いくつかの態様において、系統特異的細胞表面タンパク質の2つ以上のエピトープが修飾されており、2つの異なる細胞傷害剤(例えば2つのADC)が2つのエピトープを標的とすることが可能になる。いくつかの態様において、ADCによって運ばれる毒素は相乗的に作用して、効力(例えば、標的細胞の死)を増強する可能性がある。
本明細書に記載のADCは、本明細書に記載の併用療法を受けた対象への、後続処置として使用され得る。
【0087】
造血細胞
本開示はまた、本明細書に記載の処置方法で使用するための、系統特異的細胞表面タンパク質またはそのバリアントを発現する、造血細胞またはその子孫も提供する。造血細胞またはその子孫は、細胞傷害剤に結合しないように、または細胞傷害剤への低減した結合を有するように操作される。本明細書で使用する場合、造血細胞の「子孫」には、造血細胞から生じる任意の細胞型または細胞系統が含まれる。いくつかの態様において、造血細胞の子孫は、造血細胞から分化した細胞型または細胞系統である。
【0088】
本明細書で使用する場合、「低減した結合」という用語は、少なくとも25%低減した結合を指す。結合レベルは、細胞傷害剤の、造血細胞またはその子孫への結合の量、または細胞傷害剤の、系統特異的細胞表面タンパク質への結合の量を指し得る。操作された造血細胞またはその子孫の、細胞傷害剤への結合レベルは、細胞傷害剤の、同じアッセイにより同じ条件下で決定された、操作されていない造血細胞またはその子孫への結合レベルに関連し得る。代替的に、エピトープを欠く系統特異的細胞表面タンパク質の、細胞傷害剤への結合レベルは、細胞傷害剤の、同じアッセイにより同じ条件下で決定された、エピトープを含む系統特異的細胞表面タンパク質(例えば、野生型タンパク質)への結合レベルに関連し得る。いくつかの態様において、結合は、少なくとも25%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%、低減される。いくつかの態様において、結合は、検出可能な結合が従来のアッセイにおいて実質的に存在しないように、低減される。
【0089】
本明細書で使用する「結合がない」とは、実質的に結合しないこと、例えば、従来の結合アッセイで決定される検出可能な結合がないこと、またはベースライン結合のみであることを指す。いくつかの態様において、操作された造血細胞またはその子孫と細胞傷害剤との間に、結合はない。いくつかの態様において、操作された造血細胞またはその子孫と細胞傷害剤との間に、検出可能な結合はない。いくつかの態様において、造血細胞またはその子孫の細胞傷害剤への結合がないとは、当技術分野で知られている任意の従来の結合アッセイを使用して示される、結合のベースラインレベルを指す。いくつかの態様において、操作された造血細胞またはその子孫と細胞傷害剤の結合レベルは、生物学的に重要ではない。用語「結合がない」は、結合が完全にないことを要求することを意図していない。
【0090】
いくつかの態様において、造血細胞は造血幹細胞である。造血幹細胞(HSC)は、骨髄系細胞とリンパ系前駆細胞の両方を発生させることができ、これはさらに、骨髄系細胞(例えば、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、樹状細胞、赤血球、血小板など)およびリンパ系細胞(例えば、、T細胞、B細胞、NK細胞)をそれぞれ発生させることができる。HSCは、細胞表面マーカーCD34(例えば、CD34+)の発現によって特徴付けられ、これはHSCの同定および/または単離に使用でき、細胞表面マーカーの不在は、細胞系統への関与に関連する。
いくつかの態様において、HSCは、哺乳動物対象などの対象から取得される。いくつかの態様において、哺乳動物対象は、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、マウスまたはラット)、ウシ、ブタ、ウマ、または家畜である。いくつかの態様において、HSCは、造血器悪性腫瘍を有するヒト患者などの、ヒト患者から得る。いくつかの態様において、HSCは、健康なドナーから得る。いくつかの態様において、HSCは、キメラ受容体を発現する免疫細胞がその後投与される対象から得る。細胞を得た対象と同じ対象に投与されるHSCは、自家細胞と呼ばれ、一方、細胞が投与される対象とは異なる対象から得たHSCは、同種異系細胞と呼ばれる。
【0091】
いくつかの態様において、対象に投与されるHSCは、同種異系細胞である。いくつかの態様において、HSCは、対象のHLAハプロタイプと一致するHLAハプロタイプを有するドナーから得る。ヒト白血球抗原(HLA)は、ヒトの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパク質をコードする。MHC分子は、抗原提示細胞および他の多くの細胞型の表面に存在し、免疫監視のために自己および非自己(例えば、外来)抗原のペプチドを提示する。しかしながら、HLAは非常に多型であり、多くの異なるアレルをもたらす。異なる(外来性、非自己)アレルは抗原性であり、特に臓器および細胞移植において、強い有害な免疫反応を刺激する可能性がある。外来(非自己)として認識されるHLA分子は、移植拒絶を引き起こす可能性がある。いくつかの態様において、患者と同じHLAタイプを有するドナーからのHSCを投与して、拒絶の発生率を低減することが望ましい。
【0092】
ドナー対象のHLA遺伝子座をタイピングして、個体を対象のHLA適合ドナーとして特定することができる。HLA遺伝子座をタイピングする方法は当業者には明らかであり、例えば、血清学(セロタイピング)、細胞タイピング、遺伝子配列決定、表現型決定、およびPCR法が含まれる。ドナーのHLAが対象のHLAと「一致」しているとみなされるのは、ドナーと対象のHLA遺伝子座が同一または十分に類似していて、有害な免疫応答が予想されない場合である。
いくつかの態様において、ドナーからのHLAは対象のHLAと一致しない。いくつかの態様において、対象には、対象のHLAと一致するHLAではないHSCが投与される。いくつかの態様において、対象にさらに1つ以上の免疫抑制剤を投与して、ドナーHSC細胞の拒絶を低減または防止する。
【0093】
HSCは、任意の適切なソースから、当技術分野で知られている従来の手段を使用して得ることができる。いくつかの態様において、HSCは、骨髄試料または血液試料などの対象(またはドナー)からの試料から得られる。代替的または追加的に、HSCは臍帯から得てもよい。いくつかの態様において、HSCは、骨髄、臍帯血細胞、または末梢血単核細胞(PBMC)に由来する。一般に骨髄細胞は、対象(またはドナー)の、腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨、または他の髄腔から得られる。骨髄は患者から取り出され、当技術分野で知られているさまざまな分離および洗浄手順によって分離され得る。骨髄細胞の単離のための例示的な手順は、以下のステップを含む:a)骨髄試料の抽出;b)骨髄懸濁液を3つの画分に遠心分離し、中間画分またはバフィーコートを収集;c)ステップ(b)のバフィコート画分を分離液(通常Ficoll(登録商標))でもう一度遠心分離し、骨髄細胞を含む中間画分を収集;およびd)再輸血可能な骨髄細胞を回収するために、ステップ(c)から収集した画分を洗浄する。
【0094】
HSCは、通常骨髄に存在するが、末梢血からHSCを採取するために、動員剤を投与することによって循環血液に動員することができる。いくつかの態様において、HSCを得る対象(またはドナー)には、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの動員剤が投与される。動員剤使用による動員後に収集したHSCの数は、典型的には、動員剤を使用せずに得た細胞の数よりも多い。
【0095】
本明細書に記載の方法で使用するためのHSCは、目的の系統特異的細胞表面タンパク質を発現し得る。本明細書に記載の任意の修飾(例えば、遺伝子修飾またはブロッキング剤とのインキュベーション)の際、HSCは、これも本明細書に記載の細胞傷害剤によって標的化されないであろう。代替的に、本明細書に記載の方法で使用するためのHSCは、目的の系統特異的細胞表面タンパク質(例えば、CD19)を発現しない場合がある;しかし、HSCから分化した子孫細胞(例えば、B細胞)は、系統特異的細胞表面タンパク質を発現する。遺伝子修飾により、系統特異的細胞表面タンパク質をコードするHSCの内在性遺伝子は、系統特異的細胞表面タンパク質の非必須エピトープをコードする領域で、破壊され得る。かかる修飾HSCから分化した(例えば、in vivo)子孫細胞は、非必須エピトープに結合可能な細胞傷害剤の標的にならないように非必須エピトープが変異された、修飾された系統特異的細胞表面タンパク質を発現するであろう。
【0096】
いくつかの態様において、試料は対象(またはドナー)から得られ、その後、所望の細胞型(例えば、CD34+/CD33-細胞)について濃縮される。例えば、PBMCおよび/またはCD34+造血細胞は、本明細書に記載のように血液から単離され得る。細胞はまた、他の細胞から、例えば所望の細胞型の細胞表面上のエピトープに結合する抗体による単離および/または活性化により、単離することができる。使用できる別の方法には、受容体の関与により細胞を活性化することなく特定の細胞型を選択的に濃縮するための、細胞表面マーカーに対する抗体を使用したネガティブ選択が含まれる。
【0097】
HSCの集団は、HSCを操作する前または後に拡大して、細胞傷害剤に結合しないか、細胞傷害剤への低減した結合を有することができる。細胞は、幹細胞因子(SCF)、Flt-3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)、またはインターロイキン6(IL-6)などの、1つ以上のサイトカインを含む拡大培地を含む条件下で培養し得る。細胞は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25日または任意の必要な範囲で、拡大することができる。いくつかの態様において、HSCは、対象(またはドナー)から得られた試料からの所望の細胞集団(例えば、CD34+/CD33-)を単離した後、および操作(例えば、遺伝子操作、ブロッキング剤との接触)の前に、拡大される。いくつかの態様において、HSCは遺伝子操作の後に拡大され、それにより、遺伝子修飾を受け、かつ細胞傷害剤が結合する系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープを欠く(例えば、エピトープの少なくとも一部の欠失または置換を有する)細胞を、選択的に拡大する。いくつかの態様において、遺伝子修飾後に所望の特徴(例えば、表現型または遺伝子型)を有する細胞(「クローン」)またはいくつかの細胞を選択し、独立して拡大することができる。いくつかの態様において、HSCは、HSCを系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに結合するブロッキング剤と接触させる前に拡大され、それにより、ブロッキング剤による対応するエピトープのブロッキングのために細胞傷害剤が結合できない系統特異的細胞表面タンパク質を発現するHSCの集団を提供する。
【0098】
本明細書に記載されるように、造血細胞またはその子孫は、細胞傷害剤が標的とする系統特異的細胞表面タンパク質を発現するが、細胞傷害剤が該系統特異的細胞表面タンパク質に結合しないか、または低減した結合を有するように操作されている。本明細書で使用する「操作される(manipulated)」という用語は、遺伝子操作(genetic manipulation)(すなわち、遺伝子操作(genetic engineering))、または、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープが存在しない、変異している、および/または細胞傷害剤による結合には利用できない結果をもたらす、任意の他の形態の操作もしくは修飾を指す。いくつかの態様において、造血細胞は、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープが細胞傷害剤と結合するのをブロックする抗原結合フラグメントを含むブロッキング剤と、造血細胞を接触させることにより、操作される。造血細胞は、例えば、細胞をブロッキング剤と組織培養においてインキュベートすることにより、ex vivoでブロッキング剤と接触させられ得る。代替として、またはそれに加えて、造血細胞をブロッキング剤とin vivoで接触させることができ、例えば、ブロッキング剤を造血細胞と同時に、対象に共投与する。
【0099】
いくつかの態様において、造血細胞は遺伝子操作されて、細胞は、細胞傷害剤(その抗原結合フラグメント)が結合する細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープを欠くようになる。いくつかの態様において、造血細胞は遺伝子操作されて、本明細書に記載の細胞表面系統特異的タンパク質バリアントのいずれかを発現し、ここで細胞傷害剤が結合するエピトープは、変異または欠失されている。さらに他の態様において、2つ以上のエピトープは遺伝子操作されて、細胞死が望まれる細胞への2つ以上の細胞傷害剤または免疫調節剤の標的化を可能にする。本明細書で使用する場合、造血細胞上に存在する系統特異的細胞表面タンパク質を含む、操作された造血細胞が、細胞傷害剤に結合しないとみなされるのは、細胞傷害剤の操作された系統特異的細胞表面タンパク質への、予測される結合を含む結合の実質的な減少(または不在)があり、細胞傷害剤が造血細胞と接触した時に有意な応答が誘導されない場合である。いくつかの例において、細胞傷害剤は、造血細胞上で発現される系統特異的タンパク質バリアントにまったく結合せず、すなわち、当分野で知られているブランクまたはネガティブ対照と比較して、従来のアッセイ方法ではベースレベルの結合のみが検出可能である。
【0100】
いくつかの態様において、細胞傷害剤が結合するエピトープは、系統特異的細胞表面タンパク質に存在しない(すなわち、エピトープまたはエピトープの少なくとも一部が欠失している)。いくつかの態様において、細胞傷害剤が結合するエピトープ(例えば、エピトープの少なくとも1、2、3、4、5、またはそれ以上の残基)は、エピトープがもはや存在しないように、および/またはエピトープが細胞傷害剤によってもはや認識されないように、変異されている。細胞傷害剤の、タンパク質のエピトープへの結合は、当分野で知られている任意の手段によって評価され得る。例えば、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープの存在は、抗原特異的抗体でエピトープを検出することにより評価できる(例えば、フローサイトメトリー法、ウエスタンブロッティング)。
【0101】
系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープを欠く、HSCなどの遺伝子操作造血細胞はいずれも、日常的な方法または本明細書に記載の方法により調製することができる。いくつかの態様において、遺伝子操作は、ゲノム編集を使用して実行される。本明細書で使用する場合、「ゲノム編集」とは、生物の任意のタンパク質コードヌクレオチド配列または非コードヌクレオチド配列を含むゲノムを修飾して、標的遺伝子の発現をノックアウトする方法を指す。一般に、ゲノム編集方法は、例えば標的ヌクレオチド配列でゲノムの核酸を切断することができるエンドヌクレアーゼの使用を伴う。ゲノム内の二本鎖切断の修復は、変異を導入して修復することもでき、および/または外因性核酸が標的部位に挿入される場合もある。
ゲノム編集方法は一般に、標的核酸の二本鎖切断の生成に関与するエンドヌクレアーゼの種類に基づいて分類される。これらの方法には、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターベースのヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、およびCRISPR/Casシステムの使用が含まれる。
【0102】
本開示の一側面において、がん細胞の、正常細胞の修飾された集団による置換は、細胞が細胞傷害剤に結合しないように操作された正常細胞を使用して実施される。かかる修飾には、CRISPR-Cas9システムを使用した系統特異的タンパク質のエピトープの欠失または変異が含まれ得、ここで、クラスター化され規則的に間隔を空けた短い回文反復(CRISPR)-Cas9システムは、操作された、天然に存在しないCRISPR-Cas9システムである。
【0103】
本開示は、系統特異的タンパク質ポリヌクレオチド中の標的配列とハイブリダイズするCRISPR/Cas9システムを利用し、このCRISPR/Cas9システムは、Cas9ヌクレアーゼおよび操作されたcrRNA/tracrRNA(または単一ガイドRNA)を含む。CRISPR/Cas9複合体は、系統特異的タンパク質ポリヌクレオチドに結合し、タンパク質ポリヌクレオチドの切断を可能にし、それによりポリヌクレオチドを修飾することができる。
本開示のCRISPR/Casシステムは、例えば、リーダー配列、トレーラー配列またはイントロンなどの遺伝子内または遺伝子に隣接するコード領域または非コード領域の細胞表面系統特異的タンパク質内の目的の領域、またはコード領域の上流または下流いずれかの非転写領域内の目的の領域に、結合および/または切断することができる。本開示で使用されるガイドRNA(gRNA)は、gRNAが、Cas9-gRNA複合体の、ゲノム内の所定の切断部位(標的部位)への結合を指示するように、設計されてもよい。切断部位は、未知の配列の領域を含む、またはSNP、ヌクレオチド挿入、ヌクレオチド欠失、再配列などを含有する領域を含むフラグメントを、放出するように選択することができる。
【0104】
遺伝子領域の切断は、標的配列の位置で1つまたは2つの鎖を、Cas酵素により切断することを含んでもよい。一態様において、かかる切断は、標的遺伝子の転写の減少をもたらし得る。別の態様において、切断はさらに、切断された標的ポリヌクレオチドを、外因性テンプレートポリヌクレオチドとの相同組換えによって修復することを含むことができ、ここで修復は、標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換をもたらす。
用語「gRNA」、「ガイドRNA」、および「CRISPRガイド配列」は、全体を通して交換可能に使用され、CRISPR/CasシステムのCas DNA結合タンパク質の特異性を決定する配列を含む核酸を指す。gRNAは、宿主細胞のゲノム内の標的核酸配列に(部分的または完全に相補的に)ハイブリダイズする。標的核酸にハイブリダイズするgRNAまたはその部分は、長さが15~25ヌクレオチド、18~22ヌクレオチド、または19~21ヌクレオチドであり得る。いくつかの態様において、標的核酸にハイブリダイズするgRNA配列は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25ヌクレオチド長である。いくつかの態様において、標的核酸にハイブリダイズするgRNA配列は、長さが10~30、または15~25ヌクレオチドである。
【0105】
標的核酸に結合する配列に加えて、いくつかの態様において、gRNAは足場配列も含む。標的核酸に相補的な配列と足場配列の両方をコードするgRNAの発現には、標的核酸への結合(ハイブリダイズ)と、標的核酸へのエンドヌクレアーゼの補充の両方の機能があり、部位特異的なCRISPR活性もたらす可能性がある。いくつかの態様において、かかるキメラgRNAは、単一ガイドRNA(sgRNA)と呼ばれる場合がある。
本明細書で使用する場合、tracrRNAとも呼ばれる「足場配列」は、Casエンドヌクレアーゼを相補的gRNA配列に結合(ハイブリダイズ)した標的核酸に補充する、核酸配列を指す。少なくとも1つのステムループ構造を含み、エンドヌクレアーゼを補充する任意の足場配列を、本明細書に記載の遺伝要素およびベクターにおいて使用してもよい。例示的な足場配列は、当業者には明らかであり、例えば、Jinek, et al. Science (2012) 337(6096):816-821、Ran, et al. Nature Protocols (2013) 8:2281-2308、PCT出願番号WO2014/093694、およびPCT出願番号WO2013/176772に見出すことができる。
【0106】
いくつかの態様において、gRNA配列は足場配列を含まず、足場配列は別個の転写物として発現される。かかる態様において、gRNA配列はさらに、足場配列の一部に相補的である追加の配列を含み、足場配列を結合(ハイブリダイズ)して、エンドヌクレアーゼを標的核酸に補充する機能を果たす。
いくつかの態様において、gRNA配列は、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または少なくとも100%、標的核酸に相補的である(gRNA配列の標的ポリヌクレオチド配列との相補性の教示に関して、参照により組み込まれる米国特許第8,697,359号も参照)。CRISPRガイド配列と標的核酸の3’末端付近の標的核酸とのミスマッチは、ヌクレアーゼ切断活性を消失させる可能性があることが実証されている(Upadhyay, et al. Genes Genome Genetics (2013) 3(12):2233-2238)。いくつかの態様において、gRNA配列は、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または少なくとも100%、標的核酸の3’末端(例えば、標的核酸の3’末端の最後の5、6、7、8、9、または10ヌクレオチド)に相補的である。
【0107】
CD19のイントロン1および2を標的とするsgRNA配列の例を、表3に提供する。CD33のイントロン1および2を標的とするsgRNA配列の例を、表4に提供する。当業者に明らかなように、sgRNA配列の選択は、予測されるオンターゲットおよび/またはオフターゲット結合部位の数などの要因に依存する。いくつかの態様において、sgRNA配列は、潜在的なオンターゲット部位を最大化し、潜在的なオフターゲット部位を最小化するように選択される。
標的核酸には、3’側に、エンドヌクレアーゼと相互作用しかつエンドヌクレアーゼ活性の標的核酸への標的化にさらに関与し得るプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)が、隣接している。一般的に、標的核酸に隣接するPAM配列は、エンドヌクレアーゼおよびエンドヌクレアーゼが由来するソースに依存すると考えられる。例えば、Streptococcus pyogenesに由来するCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNGGである。Staphylococcus aureus由来のCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNNGRRTである。Neisseria meningitidisに由来するCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNNNNGATTである。Streptococcus thermophilusに由来するCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNNAGAAである。Treponema denticolaに由来するCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNAAAACである。Cpf1ヌクレアーゼの場合、PAM配列はTTNである。
【0108】
いくつかの態様において、細胞を遺伝子操作することは、Casエンドヌクレアーゼを細胞に導入することも含む。いくつかの態様において、CasエンドヌクレアーゼおよびgRNAをコードする核酸は、同じ核酸(例えばベクター)上に提供される。いくつかの態様において、CasエンドヌクレアーゼおよびgRNAをコードする核酸は、異なる核酸(例えば、異なるベクター)上で提供される。代替的に、または追加して、Casエンドヌクレアーゼは、タンパク質形態で細胞に提供または導入されてもよい。
いくつかの態様において、Casエンドヌクレアーゼは、Cas9酵素またはそのバリアントである。いくつかの態様において、Cas9エンドヌクレアーゼは、Streptococcus pyogenes、Staphylococcus aureus、Neisseria meningitidis、Streptococcus thermophilus、またはTreponema denticolaに由来する。いくつかの態様において、Casエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列は、宿主細胞での発現のためにコドン最適化されてもよい。いくつかの態様において、エンドヌクレアーゼは、Cas9ホモログまたはオーソログである。
【0109】
いくつかの態様において、Cas9エンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列はさらに、タンパク質の活性を変えるために修飾される。いくつかの態様において、Cas9エンドヌクレアーゼは、触媒的に不活性なCas9である。例えば、dCas9には触媒活性残基(D10およびH840)の変異が含まれており、ヌクレアーゼ活性は有さない。代替的にまたは追加して、Cas9エンドヌクレアーゼは、別のタンパク質またはその一部に融合していてもよい。いくつかの態様において、dCas9は、KRABドメインなどのリプレッサードメインに融合している。いくつかの態様において、かかるdCas9融合タンパク質は、多重化遺伝子抑制(例えば、CRISPR干渉(CRISPRi))のために、本明細書に記載の構築物と共に使用される。いくつかの態様において、dCas9は、VP64またはVPRなどの活性化因子ドメインに融合している。いくつかの態様において、かかるdCas9融合タンパク質は、遺伝子活性化(例えば、CRISPR活性化(CRISPRa))のために本明細書に記載の構築物と共に使用される。いくつかの態様において、dCas9は、ヒストンデメチラーゼドメインまたはヒストンアセチルトランスフェラーゼドメインなどの、エピジェネティック調節ドメインに融合している。いくつかの態様において、dCas9は、LSD1またはp300またはその一部に融合している。いくつかの態様において、dCas9融合体は、CRISPRベースのエピジェネティック調節に使用される。いくつかの態様において、dCas9またはCas9は、Fok1ヌクレアーゼドメインに融合している。いくつかの態様において、Fok1ヌクレアーゼドメインに融合したCas9またはdCas9が、ゲノム編集に使用される。いくつかの態様において、Cas9またはdCas9は、蛍光タンパク質(例えば、GFP、RFP、mCherryなど)に融合している。いくつかの態様において、蛍光タンパク質に融合したCas9/dCas9タンパク質は、ゲノム遺伝子座の標識化および/または可視化、またはCasエンドヌクレアーゼを発現する細胞の同定に、使用される。
【0110】
いくつかの態様において、エンドヌクレアーゼは、塩基エディターである。いくつかの態様において、エンドヌクレアーゼは、ウラシルグリコシラーゼ阻害剤(UGI)ドメインに融合したdCas9を含む。いくつかの態様において、エンドヌクレアーゼは、アデニン塩基エディター(ABE)、例えばRNAアデニンデアミナーゼTadAから進化したABEに融合したdCas9を含む。
代替的にまたは追加して、Casエンドヌクレアーゼは、Cpf1ヌクレアーゼである。いくつかの態様において、宿主細胞は、Provetella spp.またはFrancisella spp.に由来するCpf1ヌクレアーゼを発現する。いくつかの態様において、Cpf1ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列は、宿主細胞での発現のためにコドン最適化されてもよい。
【0111】
いくつかの態様において、本開示は、CRISPR/Cas9システムを使用した、造血細胞の細胞表面系統特異的タンパク質を阻害するための組成物および方法を提供し、ここでガイドRNA配列は、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープをコードするヌクレオチド配列にハイブリダイズする。いくつかの態様において、ガイドRNA配列は、系統特異的細胞表面タンパク質のエクソンをコードするヌクレオチド配列にハイブリダイズする。いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質はCD33またはCD19であり、gRNAは、CD33またはCD19のエピトープをコードするヌクレオチド配列の一部にハイブリダイズする。
【0112】
いくつかの態様において、HSC、特に同種異系HSCをさらに遺伝子操作して、移植片対宿主効果を低減することが望ましい場合がある。例えば、再発AMLの標準療法は、造血幹細胞移植(HSCT)である。しかし、成功するHSCTの制限要因の少なくとも1つは移植片対宿主病(GVHD)であり、ここでは細胞表面分子CD45の発現が関与している。例えば、Van Besie, Hematology Am. Soc. Hematol Educ Program (2013)56;Mawad Curr. Hematol. Malig. Rep. (2013) 8(2):132を参照。CD45RAおよびCD45ROは、CD45のアイソフォームである(赤血球を除くすべての造血細胞に見られる)。Tリンパ球において、CD45RAはナイーブ細胞で発現され、一方CD45ROは記憶細胞で発現される。CD45RA T細胞は、HSCT後のレシピエント特異的タンパク質に対する反応性が高く、GVHDをもたらす。CD45は、CD45を含む細胞が生存に必要であるため、1型系統のタンパク質である;しかし、CD45の抗原性部分をCRISPRを使用して幹細胞から削除して、GvHDの発生率または程度を防止および/または低減することができる。
【0113】
本明細書においてさらに提供されるのは、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープを欠く細胞を生産する方法であり、この方法は、細胞を提供すること、およびゲノム編集のためにCRISPR Casシステムの細胞成分に導入することを含む。いくつかの態様において、系統特異的細胞表面タンパク質をコードするヌクレオチド配列の一部にハイブリダイズするか、ハイブリダイズすると予測される、CRISPR-CasガイドRNA(gRNA)を含む核酸が、細胞に導入される。いくつかの態様において、gRNAは、ベクター上の細胞に導入される。いくつかの態様において、Casエンドヌクレアーゼが、細胞に導入される。いくつかの態様において、Casエンドヌクレアーゼは、Casエンドヌクレアーゼをコードする核酸として細胞に導入される。いくつかの態様において、gRNAおよびCasエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列は、同じ核酸(例えば同じベクター)で細胞に導入される。いくつかの態様において、Casエンドヌクレアーゼは、タンパク質の形態で細胞に導入される。いくつかの態様において、CasエンドヌクレアーゼおよびgRNAは、in vitroで予め形成され、リボ核タンパク質複合体として細胞に導入される。
【0114】
本開示のベクターは、哺乳動物発現ベクターを使用して、哺乳動物細胞における1つ以上の配列の発現を駆動することができる。哺乳動物発現ベクターの例には、pCDM8((Seed, Nature (1987) 329: 840)およびpMT2PC(Kaufman, et al., EMBO J. (1987) 6: 187)が含まれる。哺乳動物細胞で使用する場合、発現ベクターの制御機能は典型的には、1つ以上の調節要素によって提供される。例えば、一般的に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、シミアンウイルス40、および本明細書に開示され当技術分野で知られている他のものに由来する。原核細胞および真核細胞の両方に適した他の発現系については、例えば、Sambrook, et al., MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL. 2nd eds., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989の16章および17章を参照。
【0115】
本開示のベクターは、核酸の発現を特定の細胞型において優先的に指示することができる(例えば、組織特異的調節要素を使用して核酸を発現させる)。かかる調節要素には、組織特異的または細胞特異的であり得るプロモーターが含まれる。プロモーターに適用される「組織特異的」という用語は、目的のヌクレオチド配列の、特定種類の組織(例えば、種子)への選択的発現を、異なる種類の組織における目的とする同じヌクレオチド配列の発現の相対的不在の下で指示することができる、プロモーターを指す。プロモーターに適用されるものとしての「細胞型特異的」という用語は、特定種類の細胞における目的のヌクレオチド配列の選択的発現を、同一組織内の異なる種類の細胞における目的とする同じヌクレオチド配列の発言の相対的不在の下で指示することができる、プロモーターを指す。「細胞型特異的」という用語は、プロモーターに適用される場合、単一組織内の領域で目的のヌクレオチド配列の選択的発現を促進することができるプロモーターも意味する。プロモーターの細胞型特異性は、当技術分野で周知の方法、例えば免疫組織化学染色を使用して評価され得る。
【0116】
従来のウイルスおよび非ウイルスベースの遺伝子導入法を使用して、CRISPR/Cas9をコードする核酸を哺乳動物細胞または標的組織に導入することができる。かかる方法を使用して、CRISPR-Casシステムの成分をコードする核酸を、培養中または宿主生物中の細胞に投与することができる。非ウイルスベクター送達システムには、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載のベクターの転写物)、裸の核酸、および送達ビヒクルと複合体化した核酸が含まれる。ウイルスベクター送達システムには、細胞への送達後にエピソームまたは統合ゲノムのいずれかを有する、DNAおよびRNAウイルスが含まれる。
ウイルスベクターは、患者に直接投与することも(in vivo)でき、またはin vitroもしくはex vivoで細胞を操作するために使用することもでき、ここでは修飾細胞を患者に投与することができる。一態様において、本開示は、遺伝子導入のためにウイルスベースのシステムを利用し、これには、限定はされないが、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴および単純ヘルペスウイルスベクターを含む。さらに本開示は、宿主ゲノムに組み込むことができるベクター、例えばレトロウイルスまたはレンチウイルスを提供する。好ましくは、本開示のCRISPR-Casシステムの発現に使用されるベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0117】
一態様において、本開示は、CRISPR-Casをコードする1つ以上のベクターを真核細胞に導入することを提供する。細胞は、がん細胞であり得る。代替的に、細胞は、造血幹細胞などの造血細胞である。幹細胞の例には、多能性、多分化能性(multipotent)および単能性幹細胞が含まれる。多能性幹細胞の例には、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、胚性がん腫細胞および人工多能性幹細胞(iPSC)が含まれる。好ましい態様において、本開示は、CRISPR-Cas9の造血幹細胞への導入を提供する。
本開示のベクターは、対象の真核細胞に送達される。CRISPR/Cas9システムを介した真核細胞の修飾は細胞培養で起こり得て、この方法は、真核細胞を修飾の前に、対象から単離することを含む。いくつかの態様において、この方法はさらに、前記真核細胞および/またはそれに由来する細胞を、対象に戻すことを含む。
【0118】
処置法および併用療法
本明細書に記載されるように、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに結合する抗原結合フラグメントを含む細胞傷害剤は、系統特異的細胞表面タンパク質を発現するが細胞が細胞傷害剤に結合しないように操作されている造血細胞と組み合わせて、対象に投与され得る。
したがって、本開示は、造血器悪性腫瘍を処置する方法を提供し、該方法は、それを必要とする対象に、以下を投与することを含む:(i)系統特異的細胞表面タンパク質を発現する細胞を標的とする細胞傷害剤の有効量;および(ii)造血細胞の集団、ここで造血細胞は、それらまたはその子孫が、細胞傷害剤に結合しないか、または低減された細胞傷害剤への結合を有するように操作されている。いくつかの態様において、造血器悪性腫瘍を処置する方法は、それを必要とする対象に、以下を投与することを含む:(i)系統特異的細胞表面タンパク質を発現する細胞を標的とする細胞傷害剤の有効量、ここで細胞傷害剤は、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープに特異的に結合する抗原結合フラグメントを含み;および(ii)造血細胞の集団、ここで造血細胞は、それらまたはその子孫が、細胞傷害剤に結合しないか、または低減された細胞傷害剤への結合を有するように操作されている。いくつかの態様において、造血細胞は、造血細胞またはその子孫で発現される系統特異的細胞表面タンパク質が、細胞傷害剤が結合するエピトープを欠くように遺伝子操作されている。いくつかの態様において、造血細胞は、造血細胞またはその子孫で発現される系統特異的細胞表面タンパク質が、細胞傷害剤が結合できない(または結合が低減した)ような変異をしたかまたはバリアントエピトープを有するように、遺伝子操作されている。いくつかの態様において、系統特異的細胞表面のエピトープは、非必須である
【0119】
本明細書で使用する場合、「対象」、「個体」、および「患者」は交換可能に使用され、脊椎動物、好ましくはヒトなどの哺乳動物を指す。哺乳動物には、限定することなく、ヒト霊長類、非ヒト霊長類またはネズミ、ウシ、ウマ、イヌまたはネコの種が含まれる。いくつかの態様において、対象は、造血器悪性腫瘍を有するヒト患者である。
いくつかの態様において、細胞傷害剤および/または造血細胞は薬学的に許容し得る担体と混合されて、医薬組成物を形成してもよく、これも本開示の範囲内である。
本明細書に記載の方法を実施するために、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープに結合する抗原結合フラグメントを含む細胞傷害剤の有効量と、造血細胞の有効量とを、処置を必要とする対象に同時投与することができる。本明細書で使用する用語「有効量」は、用語「治療有効量」と交換可能に使用され、細胞傷害剤、細胞集団、または医薬組成物(例えば、細胞傷害剤および/または造血細胞を含む組成物)の量であって、それを必要とする対象への投与時に所望の活性をもたらすのに十分な量を指す。本開示の文脈内で、用語「有効量」は、本開示の方法により処置される障害の少なくとも1つの症状の、発現を遅らせ、進行を停止し、これを軽減または緩和するのに十分な、化合物、細胞集団、または医薬組成物の量を指す。活性成分の組み合わせが投与される場合、組み合わせの有効量は、個別に投与された場合に有効であった各成分の量を含んでも含まなくてもよいことに留意されたい。
【0120】
有効量は、当業者によって認識されるように、処置される特定の状態、状態の重症度、年齢、身体状態、サイズ、性別および体重を含む個々の患者パラメータ、処置期間、併用療法の性質(もしあれば)、特定の投与経路、および医療従事者の知識と専門知識内の同様の要因に依存する。いくつかの態様において、有効量は、対象における任意の疾患または障害の症状を、緩和、軽減、改良、改善、または低減させ、または進行を遅延させる。いくつかの態様において、対象はヒトである。いくつかの態様において、対象は、造血器悪性腫瘍を有するヒト患者である。
本明細書に記載されるように、キメラ受容体を発現する造血細胞および/または免疫細胞は、対象に対して自家性であり得る、すなわち、細胞は処置を必要とする対象から得られ、細胞が細胞傷害剤に結合しないように操作され、その後、同じ対象に投与される。自家細胞の対象への投与は、非自家細胞の投与と比較して、宿主細胞の拒絶の減少をもたらし得る。代替的に、宿主細胞は同種異系細胞である、すなわち、細胞は第1の対象から得られ、細胞が細胞傷害剤に結合しないように操作され、次に第1の対象とは異なるが同じ種の第2の対象に投与される。例えば、同種異系免疫細胞は、ヒトのドナーに由来し、ドナーとは異なるヒトのレシピエントに投与され得る。
【0121】
いくつかの態様において、免疫細胞および/または造血細胞は同種異系細胞であり、移植片対宿主病を低減するためにさらに遺伝子操作されている。例えば、本明細書に記載されるように、造血幹細胞は、CD45RAの発現が低減するように遺伝子操作されてもよい(例えば、ゲノム編集を使用して)。
いくつかの態様において、本明細書に記載のキメラ受容体のいずれかを発現する免疫細胞は、対象に、標的細胞(例えば、がん細胞)の数を少なくとも20%、例えば50%、80%、100%、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍またはそれ以上減少させるのに有効な量で投与される。
哺乳動物(例えば、ヒト)に投与される細胞、すなわち、免疫細胞または造血細胞の典型的な量は、例えば、約106~1011細胞の範囲であり得る。いくつかの態様において、106個未満の細胞を対象に投与することが望ましい場合がある。いくつかの態様において、1011個を超える細胞を対象に投与することが望ましい場合がある。いくつかの態様において、細胞の1つ以上の用量は、約106細胞~約1011細胞、約107細胞~約1010細胞、約108細胞~約109細胞、約106細胞~約108細胞、約107細胞~約109細胞、約107細胞~約1010細胞、約107細胞~約1011細胞、約108細胞~約1010細胞、約108細胞~約1011細胞、約109細胞~約1010細胞、約109細胞~約1011細胞、または約1010細胞~約1011細胞を含む。
【0122】
いくつかの態様において、対象は、細胞傷害剤および/または造血細胞の投与の前に、事前調整される。いくつかの態様において、方法はさらに、対象を事前調整することを含む。一般に、対象の事前調整には、患者に対して、化学療法または放射線照射等の他の種類の療法などの、1つ以上の療法を施すことが含まれる。いくつかの態様において、事前調整は、1つ以上の後続の治療(例えば、本明細書に記載の標的治療)に対する患者の耐性を、誘導または増強し得る。いくつかの態様において、事前調整は、1つ以上の化学療法剤を対象に投与することを含む。化学療法剤の非限定的な例には、アクチノマイシン、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エポチロン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イマチニブ、イリノテカン、メクロレタミン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、テニポシド、チオグアニン、トポテカン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、およびビノレルビンが含まれる。
【0123】
いくつかの態様において、対象は、細胞傷害剤および/または造血細胞を投与する前に、少なくとも1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、または少なくとも6ヶ月、事前調整される。
他の態様において、化学療法(単数または複数)または他の療法(単数または複数)は、細胞傷害剤および操作された造血細胞と同時に投与される。他の態様において、化学療法(単数または複数)または他の療法(単数または複数)は、細胞傷害剤および操作された造血細胞の後に投与される。
一態様において、キメラ受容体(例えば、キメラ受容体をコードする核酸)が免疫細胞に導入され、対象(例えば、ヒト患者)は、キメラ受容体を発現する免疫細胞の初回投与または投与量を受ける。細胞傷害剤(例えば、キメラ受容体を発現する免疫細胞)の1回以上のその後の投与は、患者に対して、前の投与後15日、14日、13日、12日、11日、10日、9日、8日、7日、6日、5日、4日、3日、または2日の間隔で提供されてもよい。1週当たり2用量以上の細胞傷害剤を、例えば薬剤の2、3、4回またはそれ以上の投与を、対象に投与することができる。対象は、1週間に2用量以上の細胞傷害剤(例えば、キメラ受容体を発現する免疫細胞)を受け、その後1週間薬剤を投与せず、最後に1回以上の細胞傷害剤を追加投与することができる(例えば、1週間当たり、キメラ受容体を発現する免疫細胞の2回以上の投与)。キメラ受容体を発現する免疫細胞は、一日おきに週に3回、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、またはそれ以上の週の間、投与してもよい。
【0124】
本明細書に記載の方法のいずれも、対象における血液悪性腫瘍の処置用であり得る。本明細書で使用する「処置する」、「処置すること」、および「処置」という用語は、疾患もしくは障害に関連する少なくとも1つの症状を軽減または緩和すること、または疾患もしくは障害の進行を遅らせるかまたは逆転させることを意味する。本開示の意味の範囲内で、用語「処置する」はまた、疾患の発症(すなわち、疾患の臨床症状発現前の期間)を阻止し、遅らせること、および/または疾患を進展または悪化させるリスクを低減することを意味する。例えば、がんに関連して「処置する」という用語は、がん細胞の数もしくは複製を排除または低減すること、および/または転移を予防、遅延もしくは阻害することなどを意味し得る。
【0125】
いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープに結合する抗原結合フラグメントを含む細胞傷害剤、および、細胞表面系統特異的タンパク質を発現することに欠けているが、細胞傷害剤に結合しないように操作されている造血細胞の集団が、対象に投与される。したがって、かかる治療方法において、細胞傷害剤は、標的を殺すために、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープを発現する標的細胞を認識する(結合する)。タンパク質を発現するが細胞傷害性酸に結合しない(例えば、タンパク質のエピトープを欠いているため)造血細胞は、薬剤の標的となる細胞型の再増殖を可能にする。いくつかの態様において、患者の処置は、以下のステップを含むことができる:(1)細胞傷害剤の治療有効量を、患者に投与すること、および(2)患者に、自家または同種異系いずれかの造血幹細胞を注入または再注入すること、ここで造血細胞は、細胞傷害剤と結合しないように操作されている。いくつかの態様において、患者の処置は、以下のステップを含むことができる:(1)キメラ受容体を発現する免疫細胞の治療有効量を、患者に投与すること、ここで免疫細胞は、細胞表面系統特異的な疾患関連タンパク質のエピトープに結合するキメラ受容体をコードする核酸配列を含み;および(2)患者に、自家または同種異系いずれかの造血細胞(例:造血幹細胞)を注入または再注入すること、ここで造血細胞は、細胞傷害剤と結合しないように操作されている。
【0126】
細胞表面系統特異的タンパク質に結合する抗原結合フラグメントを含む薬剤および細胞表面系統特異的タンパク質を欠く造血細胞の集団を使用する治療法の有効性は、当分野に知られた任意の方法により評価することができ、熟練した医療専門家に明らかであろう。例えば、治療の有効性は、対象の生存または対象もしくは組織もしくはその試料におけるがん負荷によって、評価され得る。いくつかの態様において、治療の有効性は、特定の集団または細胞系統に属する細胞の数を定量化することにより、評価される。いくつかの態様において、治療の有効性は、細胞表面系統特異的タンパク質を提示する細胞の数を定量化することにより、評価される。
いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープに結合する抗原結合フラグメントを含む細胞傷害剤および造血細胞の集団は、同時に投与される。
【0127】
いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープに結合する抗原結合フラグメントを含む細胞傷害剤(例えば、本明細書に記載のキメラ受容体を発現する免疫細胞)は、造血細胞の投与の前に投与される。いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープに結合する抗原結合フラグメントを含む薬剤(例えば、本明細書に記載のキメラ受容体を発現する免疫細胞)は、造血細胞の投与の、少なくとも約1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月またはそれ以上前に、投与される。
いくつかの態様において、造血細胞は、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープに結合する抗原結合フラグメントを含む細胞傷害剤(例えば、本明細書に記載のキメラ受容体を発現する免疫細胞)の前に、投与される。いくつかの態様において、造血細胞の集団は、細胞表面系統特異的タンパク質のエピトープに結合する抗原結合フラグメントを含む細胞傷害剤の投与の、少なくとも約1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、またはそれ以上前に、投与される。
【0128】
いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質を標的とする細胞傷害剤および造血細胞の集団は、実質的に同時に投与される。いくつかの態様において、細胞表面系統特異的タンパク質を標的とする細胞傷害剤が投与され、患者が一定期間評価され、その後、造血細胞の集団が投与される。いくつかの態様において、造血細胞の集団が投与され、患者が一定期間評価され、その後、細胞表面系統特異的タンパク質を標的とする細胞傷害剤が投与される。
さらに本開示の範囲内であるのは、細胞傷害剤および/または造血細胞の集団の複数回投与(例えば、用量)である。いくつかの態様において、細胞傷害剤および/または造血細胞の集団は、対象に1回投与される。いくつかの態様において、細胞傷害剤および/または造血細胞の集団は、対象に複数回(例えば、少なくとも2回、3回、4回、5回、またはそれ以上)投与される。いくつかの態様において、細胞傷害剤および/または造血細胞の集団は、対象に定期的な間隔で、例えば6ヶ月ごとに投与される。
【0129】
いくつかの態様において、対象は、造血器悪性腫瘍を有するヒト対象である。本明細書で使用される造血器悪性腫瘍は、造血細胞(例えば、前駆細胞および幹細胞を含む、血液細胞)が関与する悪性異常を指す。造血器悪性腫瘍の例には、限定はされないが、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、または多発性骨髄腫が含まれる。例示的な白血病には、限定はされないが、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病または慢性リンパ芽球性白血病、および慢性リンパ性白血病が含まれる。
いくつかの態様において、造血器悪性腫瘍に関与する細胞は、悪性腫瘍を処置するために使用される従来の治療法または標準的な治療法に耐性がある。例えば、細胞(例えば、がん細胞)は、悪性腫瘍の処置に使用される化学療法剤および/またはCAR T細胞に耐性であり得る。
【0130】
いくつかの態様において、造血器悪性腫瘍は、CD19+細胞に関連している。例としては、限定はされないが、B細胞悪性腫瘍、例えば非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、急性リンパ芽球性白血病、急性リンパ性白血病(acute lymphoid leukemia)、急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukemia)、慢性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病(chronic lymphoid leukemia)、慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia)が含まれる。
いくつかの態様において、白血病は、急性骨髄性白血病(AML)である。AMLは、主要な分化および成長調節経路を破壊する重要な遺伝的変化を徐々に獲得した形質転換細胞に由来する、異種のクローン性腫瘍性疾患として特徴付けられる。(Dohner et al., NEJM, (2015) 373:1136)。CD33糖タンパク質は、骨髄性白血病細胞の大部分、および正常な骨髄性および単球性前駆細胞に発現しており、AML治療の魅力的な標的と考えられている(Laszlo et al., Blood Rev. (2014) 28(4):143-53)。抗CD33モノクローナル抗体ベースの治療を用いた臨床試験では、標準的な化学療法と併用した場合、AML患者のサブセットで生存率が改善することが示されているが、これらの効果には安全性と有効性の懸念も伴った。
【0131】
本明細書に記載のキメラ受容体を発現する免疫細胞のいずれも、薬学的に許容し得る担体または賦形剤中で医薬組成物として投与され得る。
本開示の組成物および/または細胞に関連して使用される「薬学的に許容し得る」という語句は、哺乳動物(例えば、ヒト)に投与された場合に、生理学的に耐容され、望ましくない反応を典型的に生じない、かかる組成物の分子実体および他の成分を指す。好ましくは、本明細書で使用する用語「薬学的に許容し得る」とは、連邦政府または州政府の規制当局によって承認されるか、または米国薬局方、または、哺乳動物、より具体的にはヒトでの使用が一般に認められている薬局方にリストされていることを意味する。「許容し得る」とは、担体が組成物の活性成分(例えば、核酸、ベクター、細胞、または治療用抗体)と適合性であり、組成物が投与される対象に悪影響を及ぼさないことを意味する。本方法で使用される医薬組成物および/または細胞のいずれも、凍結乾燥構成体または水溶液の形態の、医薬的に許容し得る担体、賦形剤、または安定剤を含むことができる。
【0132】
緩衝液を含む、薬学的に許容し得る担体は、当技術分野で周知であり、以下を含み得る:リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;アミノ酸;疎水性ポリマー;単糖類;二糖類;およびその他の炭水化物;金属錯体;および/または非イオン性界面活性剤。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. (2000) Lippincott Williams and Wilkins, Ed. K. E. Hooverを参照。
【0133】
治療用キット
さらに本開示の範囲内であるのは、系統特異的細胞表面タンパク質を標的とする細胞傷害剤を、細胞表面系統特異的タンパク質を発現するが、細胞傷害剤に結合しないか、細胞傷害剤への低減した結合を有するように操作されている造血細胞の集団と組み合わせて使用するための、キットである。かかるキットは、細胞表面系統特異的タンパク質を結合する抗原結合フラグメント(例えば、本明細書に記載のキメラ受容体を発現する免疫細胞)および薬学的に許容し得る担体を含む任意の細胞傷害剤を含む、第1の医薬組成物、ならびに、細胞表面系統特異的タンパク質を発現するが、細胞傷害剤と結合しないかまたは結合を低減するように操作された造血細胞(例えば、造血幹細胞)の集団、および薬学的に許容し得る担体を含む、第2の医薬組成物、を含む1つ以上の容器を含み得る。
【0134】
いくつかの態様において、キットは、本明細書に記載の方法のいずれかで使用するための、説明書を含むことができる。含まれる説明書は、対象において意図された活性を達成するための、第1および第2の医薬組成物の対象への投与の説明を含むことができる。キットはさらに、処置に適した対象を、対象が処置を必要としているかどうかを識別することに基づいて選択することの説明を含んでもよい。いくつかの態様において、説明書は、第1および第2の医薬組成物を、処置を必要とする対象に投与することの説明を含む。
本明細書に記載の、細胞表面系統特異的タンパク質を標的とする細胞傷害剤ならびに第1および第2の医薬組成物の使用に関する説明書には、一般に、意図する処置のための投与量、投与スケジュール、および投与経路に関する情報が含まれる。容器は、単位用量、バルクパッケージ(例えば、複数用量パッケージ)、またはサブユニット用量であり得る。本開示のキットで提供される説明書は、典型的には、ラベルまたは添付文書に記載された説明書である。ラベルまたは添付文書は、医薬組成物が対象の疾患または障害の処置、発症の遅延、および/または緩和に使用されることを示している。
【0135】
本明細書で提供されるキットは、適切なパッケージに入っている。適切なパッケージには、限定はされないが、バイアル、瓶、ジャー、柔軟なパッケージなどが含まれる。さらに意図されるのは、吸入器、経鼻投与装置、または注入装置などの特定の装置と組み合わせて使用するためのパッケージである。キットは、滅菌アクセスポートを備えていてもよい(例えば容器は、静脈内溶液バッグ、または皮下注射針で貫通可能なストッパーを備えたバイアルであってもよい)。容器はまた、無菌のアクセスポートも有し得る。医薬組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本明細書に記載のキメラ受容体バリアントである。
キットは任意に、緩衝液および解釈情報などの追加の要素を提供する場合がある。キットは通常、容器と、容器上または容器に関連付けられたラベルまたは添付文書とを含む。いくつかの態様において、本開示は、上記のキットの内容物を含む製品を提供する。
【0136】
一般的技術
本開示の実施は、特に明記しない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学の従来の技術を使用し、これらは当業者の範囲内である。かかる技術は、次のような文献に完全に説明されている:Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition (Sambrook, et al., 1989) Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait, ed. 1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook (J. E. Cellis, ed., 1989) Academic Press;Animal Cell Culture (R. I. Freshney, ed. 1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P. E. Roberts, 1998) Plenum Press;Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J. B. Griffiths, and D. G. Newell, eds. 1993-8) J. Wiley and Sons;Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.);Handbook of Experimental Immunology (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds.): Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J. M. Miller and M. P. Calos, eds., 1987);Current Protocols in Molecular Biology (F. M. Ausubel, et al. eds. 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis, et al., eds. 1994);Current Protocols in Immunology (J. E. Coligan et al., eds., 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999);Immunobiology (C. A. Janeway and P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: a practice approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989);Monoclonal antibodies: a practical approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000);Using antibodies: a laboratory manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds. Harwood Academic Publishers, 1995);DNA Cloning: A practical Approach, Volumes I and II (D.N. Glover ed. 1985);Nucleic Acid Hybridization (B.D. Hames & S.J. Higgins eds.(1985);Transcription and Translation (B.D. Hames & S.J. Higgins, eds. (1984);Animal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1986);Immobilized Cells and Enzymes (lRL Press, (1986);およびB. Perbal, A practical Guide To Molecular Cloning (1984); F.M. Ausubel et al. (eds.).
【0137】
さらに詳述することなく、当業者は、上記の説明に基づき本開示を最大限に利用できると考えられる。したがって以下の特定の態様は、単なる例示として解釈されるべきであり、いかなる形であれ本開示の残りの部分を限定するものではない。本明細書で引用されるすべての出版物は、本明細書で参照される目的または主題のために、参照により組み込まれる。
【実施例】
【0138】
例1:造血細胞で発現されたCD33のエピトープの同定および変異
ヒトCD33を系統特異的細胞表面抗原の例として使用し、アミノ酸の変異および/または欠失が有害な影響(例えば、機能の低下または廃止)をもたらす可能性が低いタンパク質の領域を、PROVEANソフトウェア(provean.jcvi.org; Choi et al. PLoS ONE (2012) 7(10): e46688を参照)を用いて予測した。予測された領域の例を
図2のボックスに示し、予測された領域での例示的な欠失を表2に示す。アミノ酸残基の番号付けは、配列番号1で提供されるヒトCD33のアミノ酸配列に基づく。
【0139】
【0140】
CD33をコードするヌクレオチド配列を遺伝子操作して、(CD33の細胞外部分の)タンパク質のエピトープまたはそれを含むフラグメントを、従来の核酸操作方法を使用して欠失させる。以下に提供されるアミノ酸配列は、表2の各エピトープを欠くように操作されたCD33変異体の、例示的な配列である。
CD33の細胞外部分のアミノ酸配列は、配列番号1により提供される。シグナルペプチドは斜体で示され、操作部位は下線および太字で示される。膜貫通ドメインは、下線付きの斜体で示される。
【化1】
【0141】
残基S248からE252の欠失を含むCD33の細胞外部分のアミノ酸配列は、配列番号2により提供される。シグナルペプチドは斜体で示され、膜貫通ドメインは下線付きの斜体で示される。
【化2】
【0142】
残基I47からD51の欠失を含むCD33の細胞外部分のアミノ酸配列は、配列番号3により提供される。シグナルペプチドは斜体で示され、膜貫通ドメインは下線付きの斜体で示される。
【化3】
【0143】
残基G249からT253の欠失を含むCD33の細胞外部分のアミノ酸配列は、配列番号4により提供される。シグナルペプチドは斜体で示され、膜貫通ドメインは下線付きの斜体で示される。
【化4】
【0144】
残基K250からR254の欠失を含むCD33の細胞外部分のアミノ酸配列は、配列番号5により提供される。シグナルペプチドは斜体で示され、膜貫通ドメインは下線付きの斜体で示される。
【化5】
【0145】
残基P48からK52の欠失を含むCD33の細胞外部分のアミノ酸配列は、配列番号6により提供される。シグナルペプチドは斜体で示され、膜貫通ドメインは下線付きの斜体で示される。
【化6】
【0146】
残基Q251からA255の欠失を含むCD33の細胞外部分のアミノ酸配列は、配列番号7により提供される。シグナルペプチドは斜体で示され、膜貫通ドメインは下線付きの斜体で示される。
【化7】
【0147】
例2:細胞の生成および特性決定
初代ヒトCD8+ T細胞を、患者の末梢血から免疫磁気分離(Miltenyi Biotec)によって分離する。T細胞を培養し、抗CD3および抗CD28 mAbs被覆ビーズ(Invitrogen)を用いて、前に記載のように刺激した(Levine et al., J. Immunol. (1997) 159(12):5921)。
CD33のエピトープに結合するキメラ受容体は、従来の組換えDNA技術を使用して生成し、レンチウイルスベクターに挿入する。キメラ受容体を含むベクターを使用してレンチウイルス粒子を生成し、これを使用して初代CD8+ T細胞に形質導入する。ヒト組換えIL-2は、1日おきに添加し得る(50IU/mL)。T細胞は、刺激後約14日間培養する。キメラ受容体の発現は、ウエスタンブロッティングおよびフローサイトメトリーなどの方法を使用して確認することができる。
【0148】
キメラ受容体を発現するT細胞を選択し、それらの、CD33に結合しCD33を発現する細胞の細胞傷害性を誘導する能力について評価する。キメラ受容体を発現する免疫細胞も、それらの、キメラ受容体が結合するエピトープを欠くように操作されたCD33を発現する細胞の細胞傷害性を誘導する能力について、評価する。好ましくは、CD33に結合するがエピトープを欠くCD33には結合しないキメラ受容体を発現する免疫細胞が、選択される(
図3)。
CD33を発現するがCD33のエピトープを欠く細胞(例えば、造血幹細胞)についても、増殖、赤血球生成分化、およびコロニー形成などのさまざまな特性を評価して、エピトープの操作がCD33の機能に重大な影響を与えないことを確認する。
【0149】
例3:血液疾患の処置
急性骨髄性白血病についての、本明細書に記載の方法、細胞、および薬剤を使用した例示的なレジメンを、以下に提供する。
1)造血細胞移植(HCT)を受ける候補者であるAML患者を特定する;
2)HLAハプロタイプが一致するHCTドナーを、標準の方法および手法を使用して特定する;
3)ドナーから骨髄を抽出する;
4)ドナー骨髄細胞を、ex vivoで遺伝子操作する。簡単に言えば、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープの標的修飾(欠失、置換)を導入する。一般に、エピトープは少なくとも3個のアミノ酸(例えば、約6~10個のアミノ酸)でなければならない。ドナー骨髄細胞上の標的化された系統特異的細胞表面タンパク質のこのエピトープの遺伝的修飾は、タンパク質の機能に実質的に影響を与えてはならず、その結果、患者への移植を成功させかつ移植片対腫瘍(GVT)効果を媒介する能力を含む骨髄細胞の機能に、実質的に影響を与えてはならない。
【0150】
任意選択ステップ5~7:
いくつかの態様において、以下に提供されるステップ5~7は、本明細書に記載の例示的な処置方法において(1回または複数回)実行され得る:
5)AML患者を、化学療法剤(例、エトポシド、シクロホスファミド)の注入および/または放射線照射などの標準的な技術を使用して、事前調整する;
6)操作されたドナー骨髄をAML患者に投与し、移植を成功させる;
7)細胞傷害剤、例えばキメラ受容体を発現する免疫細胞(例えば、CAR T細胞)または抗体-薬物コンジュゲートなどでフォローアップする;ここで細胞傷害剤が結合するエピトープは、修飾されたものと同じであり、ドナーの操作された骨髄移植片には存在しない。したがって標的療法は、系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープを特異的に標的化すると同時に、エピトープが存在しない骨髄移植片は除去しない。
【0151】
任意選択ステップ8~10:
いくつかの態様において、ステップ8~10は、本明細書に記載の例示的な処置方法において(1回または複数回)実行され得る:
8)細胞傷害剤、例えばキメラ受容体を発現する免疫細胞(例えば、CAR T細胞)または系統特異的細胞表面タンパク質のエピトープを標的とする抗体-薬物コンジュゲートなどを、投与する。この標的療法は、がん細胞と患者の非がん細胞の両方を除去することが期待される;
9)AML患者を、化学療法剤の注入などの標準的な技術を使用して事前調整する;
10)操作されたドナー骨髄をAML患者に投与し、移植を成功させる。
ステップ8~10により、標的タンパク質に発現する患者のがん細胞と正常細胞が除去され、一方で正常細胞集団に、標的治療に耐性のドナー細胞が補充される。
【0152】
例4:CRISPR/Cas9媒介性遺伝子編集によるCD19またはCD33のエクソン2の欠失
材料および方法
sgRNA構築物の設計
すべてのsgRNAは、標的領域に近接したSpCas9 PAM(5’-NGG-3’)の手動検査によって設計され、予測された特異性に従って、ヒトゲノムにおける潜在的なオフターゲット部位をオンライン検索アルゴリズムで最小化することにより、優先順位付けした(Benchling, Doench et al 2016、Hsu et al 2013)。設計されたすべての合成sgRNAは、Synthegoから、5’および3’末端両方の3つの末端位置の化学修飾ヌクレオチドと共に購入した。修飾ヌクレオチドは2’-O-メチル-3’-ホスホロチオエート(「ms」と略される)を含み、ms-sgRNAをHPLC精製した。Cas9タンパク質は、Synthego(
図5~8)およびAldervon(
図9、10、14、17、18)から購入した。
【0153】
細胞の維持および不死化ヒト細胞株のエレクトロポレーション
K562ヒト白血病細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC)から入手し、DMEM+10%FBSで維持し、37℃、5%CO2で維持した。K562細胞は、Cas9リボ核タンパク質(RNP)のエレクトロポレーションによって、Lonza Nucleofector(プログラムSF-220)およびHuman P3 Cell Nucleofection Kit(VPA-1002、Lonza)を使用して編集した。ラージ-fluc-GFP細胞は、Capital Biosciencesから購入し、RPMI+10%FBS+1%グルタミンで37℃、5%CO2で維持した。ラージ-fluc-GFP細胞を、RNPのエレクトロポレーションにより、Lonza Nucleofector(プログラムDS-104)およびSG Cell line 4D-Nucleofector X Kit S(V4XC-3032、Lonza)を使用して編集した。Cas9 RNPは、タンパク質をms-sgRNAとモル比1:9(20:180pmol)で25℃で10分間インキュベートすることにより、エレクトロポレーションの直前に作製した。エレクトロポレーション後、細胞をキュベット内で10分間インキュベートし、1mLの上記培地に移し、下流の分析のために24~72時間培養した。
【0154】
初代ヒトCD34+ HSCでの編集
動員された末梢血由来の凍結CD34+ HSCはAllCellsから購入し、製造業者の指示に従って解凍した。臍帯血由来の凍結CD34+ HSCは、AllCellsまたはStemcellのいずれかから凍結で購入し、製造業者の指示に従って解凍および維持した。HSCを編集するために、約1e6個のHSCを解凍し、StemSpan CC110カクテル(StemCell Technologies)を添加したStemSpan SFEM培地で24時間、RNPを用いたエレクトロポレーションの前に培養した。HSCをエレクトロポレーションするために、1.5e5個をペレット化し、20μLのLonza P3溶液に再懸濁し、上記のように10μLのCas9 RNPと混合した。CD34+ HSCを、Lonza Nucleofector 2(プログラムDU-100)およびHuman P3 Cell Nucleofection Kit(VPA-1002、Lonza)を使用してエレクトロポレーションした。
【0155】
ゲノムDNA分析
すべてのゲノム解析について、DNAを細胞からQiagen DNeasyキットを使用して回収した。T7E1アッセイのために、PCRを、CRISPR切断部位に隣接するプライマーを使用して実行した。生成物をPCR精製(Qiagen)で精製し、200ngを変性してサーモサイクラーで再アニーリングし、T7エンドヌクレアーゼI(New England Biolabs)で製造業者のプロトコルに従って消化した。消化したDNAを、1%アガロースゲルで電気泳動し、BioRad ChemiDocイメージャーで表示した。バンド強度をImage Lab Software(Bio-Rad)を使用して分析し、アレル修飾頻度(インデル)を、式:100×(1-(1-切断部分)^0.5)で算出した。TIDE(分解によるIn/delの追跡)を使用してアレル修飾頻度を分析するために、精製PCR産物を両方のPCRプライマーを使用してサンガー配列決定し(Eton)、各配列クロマトグラムをオンラインTIDEソフトウェア(Deskgen)で分析した。分析を、模擬トランスフェクト(Cas9タンパク質のみ)試料の参照配列を使用して実施した。パラメータは、デフォルトの最大インデルサイズの10ヌクレオチドに設定し、分解ウィンドウは、高品質のトレースで可能な限り最大のウィンドウをカバーするように設定した。3.5%の検出感度を下回るすべてのTIDE分析は、0%に設定した。
【0156】
ゲノム欠失の程度を二重ms-sgRNAを使用して決定するために、エンドポイントPCRを、804bp領域を増幅するCRISPR切断部位に隣接するプライマーを使用して実行した。PCR産物を、1%アガロースゲルで電気泳動し、BioRad ChemiDocイメージャーで表示して、無傷の親バンドと予想されるさらに小さい(ms-sgRNAの組み合わせにより400~600bp)欠失産物を観察した。バンド強度をImage Lab Software(Bio-Rad)を使用して分析し、欠失パーセントを、式:100×切断部分、を使用して算出した。ゲルバンドをゲル抽出キット(Qiagen)で抽出し、サンガー配列決定(Eton Bioscience)のために、PCR精製(Qiagen)でさらに精製した。
【0157】
フローサイトメトリーおよびFACS分析
上記のようにRNPでヌクレオフェクトしたラージ-fluc-GFP細胞を、細胞培養に48時間維持した。生細胞をPE結合CD19抗体(IM1285U;Beckman Coulter)で染色し、CD19の発現によりBD FACS Ariaで選別分析した。CD34+ HSCは、CD33について抗CD33抗体(P67.7)を使用して染色し、フローサイトメトリーによりAttune NxTフローサイトメーター(Life Technologies)で分析した。
【0158】
CAR-T細胞の細胞傷害性アッセイ
CD19指向性CAR-T細胞(CART19)を、CART19を発現するレンチウイルスを健常人ドナーからのCD4+およびCD8+ T細胞に形質導入することにより、生成した。CART19構築物には、CD19認識ドメイン(FMC63モノクローナル抗体由来の単鎖可変フラグメント)、CD28由来の共刺激ドメイン、およびCD3ゼータドメインが含まれる。CART19の細胞傷害性は、フローサイトメトリーベースのアッセイにより評価した。CellTrace Violet色素で染色したラージ-fluc-GFP細胞を、標的細胞として使用した。CART19構築物で形質導入されていないT細胞を、細胞傷害性アッセイの陰性対照として使用した。エフェクター(E)および腫瘍標的(T)細胞は、示されたE/T比(10:1、3:1、0:1)で、CTS OpTmizerベースの無血清培地中、ウェル当たり総容量200μl中の1×104個の標的細胞と共培養した。20時間のインキュベーション後、細胞をヨウ化プロピジウムで染色し、Attune NxTフローサイトメーター(Life Technologies)で分析した。生きている標的細胞は、ヨウ化プロピジウム陰性およびCellTraceバイオレット陽性としてゲートした。細胞傷害性は、(1-(CART19群の生きている標的細胞画分)/(陰性対照群の生きている標的細胞画分))×100%として算出した。
【0159】
in vivo移植実験
CD19のin vivo移植実験では、細胞をNOD scidガンママウス(NSG(登録商標)マウス;The Jackson Laboratory)に移植する。CD33のin vivo移植実験では、細胞をNSG-SGM3マウス(The Jackson Laboratory)に移植する。
【0160】
CD19のエクソン2を標的化する
gRNAの選択
CD19のエクソン2は、
図4に例示するように、CRISPR/Cas9媒介性ゲノム欠失の標的であった。1対のsgRNA、すなわちイントロン1を標的とする1つのsgRNAとイントロン2を標的とする1つのsgRNAにより、Cas9によるDNA二本鎖切断(DSB)の同時生成と、CD19のエクソン2の完全な喪失を含む領域の切除がもたらされる。切断部位の遠位端は、非相同末端結合(NHEJ)を介したイントロン1および2のライゲーションにより、修復される。修飾CD19遺伝子の転写は、RNAスプライシング中のエクソン2スキッピングを介して、エクソン2を欠くCD19バリアント(「CD19エクソン2欠失」)の発現をもたらす。
イントロン1および2を標的とするsgRNAのパネルは、CD19エクソン2に近接したSpCas9 PAM(5’-NGG-3’)の手動検査によって設計され、オンライン検索アルゴリズムを使用した、ヒトゲノムにおいてオンターゲットを最大化し潜在的なオフターゲット部位を最小化することによる予測特異性にしたがって、優先順位付けされた(Benchling, Doench et al (2016);Hsu et al (2013))(表3)。例示のCD19 sgRNAのそれぞれについて、配列はCD19を標的とし、CasタイプはSpCas9である。
【0161】
表3:CD19 sgRNAパネル
【表3】
1示された公開アルゴリズムに基づくオンおよびオフターゲット予測。スコアは100点満点で、成功の予測である。
【0162】
遺伝子編集のために、sgRNAを材料および方法に記載されているように修飾した。修飾されたsgRNAは、「ms」の接頭辞で示す。
イントロン1または2のいずれかを標的とするCD19 sgRNAを、ヒト白血病細胞株であるK562細胞でスクリーニングし、T7E1アッセイおよびTIDE分析で分析した(
図5)。評価された12のms-sgRNAsのうち、ms-sgRNAの1、3~9がイントロン1を標的とし、ms-sgRNA10がエクソン2を標的とし、ms-sgRNA14~16がイントロン2を標的とする。
この試料において、ms-sgRNA-1のインデルパーセントは算出されなかったが、これは、編集されたバンドと未編集のバンドの間のサイズの変化を、現在のPCRプライマーのセットを使用して正確に区別できなかったためである。
ペアのms-sgRNAを使用して、K562細胞のCD19のエクソン2を欠失させ、PCRベースのアッセイを使用し、CD19エクソン2のCRISPR/Cas9媒介性ゲノム欠失を検出した(
図6)。イントロン1を標的とするms-sgRNA(ms-sgRNA 3、4、5、6、9)の組み合わせ活性を、イントロン2を標的とするms-sgRNA(ms-sgRNA 14、15、16)と組み合わせてスクリーニングして、ゲノム欠失を生成した。ゲノム欠失領域全体のPCRは、大きな親バンド(801bp)と比較して、より小さな欠失PCR産物(400~560bp)を示す。編集効率は、エンドポイントPCRによる欠失パーセントとして定量化した(
図6、パネルC)。
【0163】
イントロン1または2のいずれかを標的とするCD19 sgRNAも、CD34
+ HSCにおいてスクリーニングした(
図7および9)。
ペアのms-gRNAを使用して、CD34
+ HSCのCD19のエクソン2を欠失させた。イントロン1を標的とするms-sgRNA(ms-sgRNA 4、6、9)の組み合わせ活性を、イントロン2を標的とするms-sgRNA(ms-gRNA 14、15、16)と組み合わせてスクリーニングし、ゲノム欠失を生成した(
図8)。ゲノム欠失領域にわたるPCRは、より大きな親バンドと比較して、より小さな欠失PCR産物を示す。編集効率は、エンドポイントPCRによる欠失パーセントとして定量化した。
追加のms-gRNAペアを使用して、CD34
+ HSCのCD19のエクソン2を欠失させた。イントロン1を標的とするms-sgRNA(ms-sgRNA 1、6、7)と、イントロン2を標的とするms-sgRNA(ms-gRNA 14、15、16)を組み合わせた組み合わせの使用が、エクソン2のゲノム欠失を効率的に生成することが見出された(
図10)。
【0164】
編集されたCD34
+ HSCの分化能
本明細書に記載の方法を使用して生産された任意の編集細胞の分化能を、評価することができる。
エクソン2が欠損している編集されたCD34
+ HSCをex vivoで生成し、「材料および方法」に記載されているようにアッセイする。編集されたCD34
+ HSCは、材料および方法に記載されているようにex vivoで生成される。簡単に説明すると、CD34
+ HSCを解凍し、あらかじめ形成されたリボ核タンパク質(RNP)と接触させる。試料を、2つの画分に分割する:細胞の2%は、in vitroで特性決定され、残りの画分は、6~8週齢のNOD scidガンママウス(NOD.Cg-Prkdc
scid Il2rg
tm1Wjl/SzJ(NSG(登録商標)マウス);The Jackson Laboratory)(
図11))に移植する。in vitro画分は、コロニー形成単位(CFU)アッセイとジェノタイピングによって特性決定される。
in vivo画分は、放射線照射されたNSG(登録商標)マウスに投与する。マウスの群を表4に示す。血液試料は、さまざまな時点(例えば、4週間、8週間、12週間)でマウスから取得し、ジェノタイピングによって分析して、ヒトCD45
+細胞の割合を評価する。16週目にマウスを屠殺し、末梢血、骨髄、および脾臓を分析のために採取する。プライマリーエンドポイントは移植率であり、これはジェノタイピングおよびフローサイトメトリー分析によって評価する(例えば、マウスvsヒトのCD45、CD20/CD19、エクソン2欠損CD19、Cd34、CD33、CD3)。セカンダリーエンドポイントは、エクソン2が欠損しているCD19の発現であり、ウエスタンブロッティングおよび/またはqRT-PCRによる。
【0165】
【0166】
in vivoラージ腫瘍モデル
in vivoラージ腫瘍モデルを使用して、本明細書に記載の任意の処置方法の有効性をアッセイすることができる。
エクソン2が欠損した内在性CD19を発現するラージ-fluc-GFP細胞(CD19エクソン2欠失)を、材料および方法に記載されているように、ex vivoで生成した。編集した細胞の濃縮後、試料を2つの画分に分割する:1つの画分をin vitroで特性決定し、残りの画分を6~8週齢のNSGマウスに異種移植する(
図12)。
in vitro画分は、材料および方法に記載されているように、細胞傷害性と分子アッセイによって特性決定する。
in vivo画分は、バーケットリンパ腫マウスモデルにおけるCART19の有効性と選択性について評価し、示されたアッセイにより、材料および方法の説明に従ってアッセイする。マウスの群を表5に示す。簡単に説明すると、エクソン2が欠損した内在性CD19を発現するラージ-fluc-GFP細胞を注射した1週間後に、マウスにCART19細胞を注入する。マウスをさまざまな時点(例えば、6日、12日、18日、35日)で、in vivoイメージングシステム(IVIS)で評価して、ラージ細胞(CD19/CD19ex2)の量を決定する。血液試料もマウスから取得し、CART19細胞の数を定量化する。
【0167】
【0168】
処置有効性のプライマリーエンドポイントは、例えば、生存率、腫瘍負荷量、およびIVISイメージングによる腫瘍負荷によって評価する。処置選択性のプライマリーエンドポイントは、例えば、ラージ-GFP細胞の持続性を決定することにより評価する。
CART19治療のセカンダリーエンドポイントには、薬物動態と腫瘍浸潤が含まれ、CD19のセカンダリーエンドポイントには、エクソン2が欠損しているCD19の発現が含まれる。
CD19のエクソン2を発現するラージ細胞は、CART19細胞によって殺されると予想されるが、一方CD19のエクソン2を欠失するように操作されたラージ細胞は生き残り、CARTによる殺傷を回避するであろう。
【0169】
CD19エクソン2欠損ラージ-fluc-GFP細胞株の生成
ラージ-fluc-GFP細胞株に、ms-sgRNAのペアをトランスフェクトし、CD19の発現について、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)によりアッセイした。細胞は、相対的CD19発現に基づき3つの集団にゲートした:「hi」(高)、「int」(中間)、および「lo」(低)(
図13)。親のラージ細胞と、Cas9のみでヌクレオフェクトしたラージ-fluc-GFPを、対照として含めた。各条件における生細胞の割合を定量化した(
図13、パネルB)。また、PCRは各条件の細胞のゲノム欠失領域全体で行われ、より大きな親バンドと比較して、より小さな欠失PCR産物が示された(
図13、パネルC)。バルク集団のCD19エクソン2の割合も、各条件においてエンドポイントPCRによりアッセイし(
図13、パネルD)、CD19「int」およびCD19「lo」細胞集団で、CD19エクソン2が欠失した細胞の割合が高いことが示された。
【0170】
CARTの細胞傷害性
CD19指向性CAR-T細胞(CART19)を、材料および方法に記載のようにして生成し、ラージ-fluc-GFP細胞とインキュベートした。20時間のインキュベーション後、細胞傷害性をフローサイトメトリーにより評価した。
図14は、CD19「low」ラージ細胞の特異的溶解が、CD19「hi」集団と比較して減少したことを示す。
図13に示すように、ラージ「hi」集団は、遺伝子型が混在した細胞集団である。単一細胞を濃縮して、クローン集団および未編集の親集団を分析できる。対照のCD19-hi集団は、混合遺伝子型(20~40%のCD19エクソン2欠失)であり、野生型対照集団では殺傷の強化が期待される。
【0171】
in vivoでの有効性および選択性
図15は、編集されたHSCと組み合わせたCART療法の有効性と選択性を評価する、包括的in vivoモデルの概要を示す。簡単に説明すると、CD19のエクソン2が欠損したHSC(CD19ex2欠失)を準備する。マウスの群には、対照(未編集)HSCまたはCD19のエクソン2が欠損したHSCのいずれかを投与する。4週間後、マウスにラージバーキットリンパ腫細胞を投与し、1週間後にCART19細胞を投与する。マウスを、IVISイメージングによって毎週評価し、血液試料は4週間ごとに取得する。12週間後、マウスを屠殺し、分析のために末梢血、骨髄、脾臓を採取する。
【0172】
CD33のエクソン2を標的化する
gRNAの選択
CD33遺伝子は、2つの主要なアイソフォームをコードし、そのうちの1つはエクソン2を保持し、CD33Mと呼ばれ、もう1つはエクソン2を除外し、CD33mと呼ばれる(
図16)。ゲムツズマブオゾガマイシン(Mylotarg)などの、CD33のエクソン2のエピトープを標的とする治療薬は、CD33のエクソン2が欠損しているHSC(例:CD33m)と組み合わせることができる。
図14に示すように、Cas9ヌクレアーゼは、2つのsgRNAによってCD33のイントロン1および2を標的とする。Cas9によるDNA二本鎖切断(DSB)の同時生成は、エクソン2の完全な喪失を含む領域の切除につながる。切断部位の遠位端は、非相同末端結合(NHEJ)を介したイントロン1および2のライゲーションにより修復され、修復された接合点は三角形で示される。修飾されたゲノムの転写により、CD33mアイソフォームが発現される。
ms-sgRNAsのパネルは、CD33エクソン2に近接したSpCas9 PAM(5’-NGG-3’)についての手動検査によって設計され、予測特異性に従って、ヒトゲノムの潜在的なオフターゲット部位を最小化することにより、オンライン検索アルゴリズムを用いて優先順位付けした(Benchling, Doench et al (2016); Hsu et al (2013))(表6)。次に、イントロン1または2のいずれかを標的とするms-sgRNAのサブセットを、in vitroの遺伝子編集効率に基づいて選択した。各sgRNAはヒトCD33を標的とし、Cas9タイプのSpCas9を使用する。
【0173】
表6:CD33 sgRNAパネル
【表6-1】
【表6-2】
1示された公開アルゴリズムに基づくオンおよびオフターゲット予測。スコアは100点満点であり、成功の予測である。
【0174】
イントロン1または2を標的とするCD33 ms-sgRNAを、初代CD34
+ HSCにおいて、TIDEアッセイによりスクリーニングした(
図17および18)。
CD34
+ HSCで試験されたms-gRNAのペアを使用した(
図18、パネルBおよびC)。エクソン2および3の効率的な欠失が、エクソン2および3を標的とする対照sgRNAを使用して観察された(それぞれSgおよび811)。エクソン2を含有するCD33の減少が、イントロン1と2を標的とするsgRNAのペアで観察された(例えば、sgRNA 17および23;sgRNA 17および24)。
CD33のエクソン2を欠失させるためのsgRNAのさらなるペアをスクリーニングして、エクソン2の効率的な喪失を達成するペアを特定し得る。
【0175】
その他の態様
本明細書に開示されているすべての特徴は、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書に開示されている各特徴は、同一の、等価な、または類似の目的を果たす代替の特徴に置き換えることができる。したがって、特に明記しない限り、開示された各特徴は、等価または類似の特徴の一般的なシリーズの例にすぎない。
上記の説明から、当業者は本開示の本質的な特徴を容易に確認することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、本開示への様々な変更および修正を実施し、様々な使用および条件に適合させることができる。したがって、他の態様もまた特許請求の範囲内にある。
【0176】
均等物
本明細書においていくつかの発明の態様について説明および図示したが、当業者は、本明細書に記載の機能を実行し、および/または結果および/または1つ以上の利点を得るための、さまざまな他の手段および/または構造を、容易に想像するであろう;かかる変形および/または修正のそれぞれは、本明細書に記載されている本発明の態様の範囲内であるとみなされる。より一般的に、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、特定の用途または本発明の教示が使用される用途に依存することを、容易に理解するであろう。当業者は、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載の特定の発明の態様に対する多くの均等物を認識するか、確認することができるであろう。したがって、前述の態様は例としてのみ提示され、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、発明の態様は、具体的に説明および請求された以外の方法で実施し得ることを理解されたい。本開示の発明の態様は、本明細書に記載される各個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法に向けられている。さらに、かかる機能、システム、物品、材料、キット、および/または方法の2つ以上の任意の組み合わせは、かかる機能、システム、物品、材料、キット、および/または方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0177】
本明細書で定義および使用されるすべての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれた文書の定義、および/または定義された用語の通常の意味を支配することが、理解されるべきである。
本明細書で開示されるすべての参考文献、特許、および特許出願は、それぞれが引用される主題に関して参照により組み込まれ、それは場合によっては文書全体を包含し得る。
本明細書および特許請求の範囲において本明細書で使用される不定冠詞「a」および「an」は、明確に逆が示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
本明細書および特許請求の範囲において本明細書で使用される語句「および/または」は、そのように結合された要素、すなわちいくつかの場合に接続的に存在し、他の場合には離接的に存在する要素の「いずれかまたは両方」を意味すると理解されるべきである。「および/または」と共にリストされた複数の要素は、同様に解釈されるべきである;すなわち、そのように結合された要素の「1つ以上」である。「および/または」節によって具体的に特定される要素以外に、具体的に特定される要素に関連するかどうかに関係なく、他の要素が任意に存在してもよい。したがって、非限定的な例として、「含む」などのオープンエンド言語と組み合わせて使用される場合の「Aおよび/またはB」への言及は、一態様において、Aのみ(任意で、B以外の要素を含む);別の態様において、Bのみ(任意で、A以外の要素を含む);さらに別の態様において、AおよびBの両方(任意で、他の要素を含む);などである。
【0178】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「または」は、上記で定義された「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内の項目を分離する場合、「または」または「および/または」は、包括的、つまり要素の数またはリストの少なくとも1つを含むが複数も含み、そして任意に、追加のリストされていない項目を含むと解釈されるものとする。明確に逆の用語のみ、例えば「1つのみ」または「正確に1つ」など、または請求項で使用される場合の「からなる」は、多くのまたはリストされた要素の正確に1つの要素を含めることを指す。一般に、本明細書で使用する「または」という用語は、「いずれか」、「1つ」、「1つのみ」、または「正確に1つ」などの排他的条件が先行する場合、排他的代替(すなわち、「どちらか一方だが両方ではない」)を示すものとしてのみ解釈される。特許請求の範囲で使用される場合、「本質的にからなる」は、特許法の分野で使用される通常の意味を有するものとする。
【0179】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、1つ以上の要素のリストに関して「少なくとも1つ」という語句は、要素のリストの任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきであるが、ただし、要素のリスト内に具体的にリストされているすべてのそれぞれの要素の少なくとも1つを、必ずしも含む必要はなく、要素のリスト内の要素の任意の組み合わせを除外しない。また、この定義により、「少なくとも1つ」という語句が指す要素のリスト内で具体的に特定された要素以外に、具体的に特定された要素に関連するかどうかに関係なく、要素は任意に存在することができる。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または、等価的に「AまたはBの少なくとも1つ」、または等価的に「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)とは、一態様において、少なくとも1つのA、任意に複数のAを含み、Bは存在しない(および任意でB以外の要素を含む);別の態様において、少なくとも1つのB、任意に複数のBを含み、Aは存在しない(および任意でA以外の要素を含む);さらに別の態様において、少なくとも1つのA、任意に複数のAを含み、少なくとも1つのB、任意に複数のBを含む(および任意に他の要素を含む);などである
また、明確に逆が示されない限り、複数のステップまたは行為を含む本明細書で請求される任意の方法において、方法のステップまたは行為の順序は、方法のステップまたは行為が列挙されている順序には必ずしも限定されないことも、理解されるべきである。
【配列表】