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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/44 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
G02B6/44 301A
G02B6/44 331
G02B6/44 336
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020000733
(22)【出願日】2020-01-07
(65)【公開番号】P2021110769
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 超臨界地熱発電技術研究開発/超臨界地熱資源への調査井掘削に資する革新的技術開発 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】北岡 諭
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲志
(72)【発明者】
【氏名】笠原 順三
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-064746(JP,A)
【文献】特開平01-015710(JP,A)
【文献】特開昭59-083107(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0051613(US,A1)
【文献】特開平07-244232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/44
C03C 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
300℃を超える高温下で使用される光ファイバであって、
ガラスファイバと、
該ガラスファイバの外周を被覆する金属層と、
該金属層の表面を被覆するダイヤモンドライクカーボン層と、
を備え
該金属層の厚さは、0.5μm以上4μm以下であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記金属層は一層以上からなり、その少なくとも最外層は、水との反応のギブスエネルギーが正であり、かつ溶融温度が1000℃以上である金属を有する請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記金属層は、金を含む層を有する請求項1または請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記金属層は、金、ニッケル、およびニッケル基合金から選ばれる一種以上を有する単一層である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記ダイヤモンドライクカーボン層の水素量は10atm%以下である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の光ファイバ。
【請求項6】
さらに、前記ダイヤモンドライクカーボン層の表面を被覆する保護層を備え、該保護層は金を有する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに関し、特に高温、高圧下の熱水中で使用できる光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、大容量かつ広帯域の通信が可能な高性能の通信媒体であり、海底光ケーブルなどの長距離通信媒体などとして広く使用されている。光ファイバの材料としてはプラスチックとガラスがあるが、プラスチックファイバは、ガラスファイバと比較して伝送損失が大きい。このため、長距離伝送用途としてはガラスファイバが用いられる。
【0003】
光ファイバの信頼性を向上させるためには、強度を高め、伝送損失を低減することが重要である。例えば、ガラスファイバに水素ガスが接触すると、ガラスファイバの中に水素分子が拡散し、それにより光が吸収されてしまう。また、ガラスファイバの構造欠陥に水素分子がトラップされ、水酸基(OH基)が生成されることによっても光が吸収されてしまう。このため、伝送損失を低減するためには、ガラスファイバへの水素の侵入を抑制することが有効である。ガラスファイバの強度を高め、水素の侵入を抑制するという観点から、ガラスファイバに樹脂や金属を被覆した光ファイバが実用化されている。
【0004】
例えば特許文献1には、ガラスファイバと、その外周を被覆するアモルファスカーボン層と、さらにその外周を被覆するポリイミド樹脂層と、を有する光ファイバが記載されている。特許文献2には、ガラスファイバと、炭素を主成分としガラスファイバの外周を被覆する第一被覆層と、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含み第一被覆層の外周を被覆する第二被覆層と、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含み第二覆層の外周を被覆する第三被覆層と、を有する光ファイバが記載されている。特許文献3には、光ファイバ裸線またはそれに樹脂被膜が設けられた光ファイバ素線からなる光ファイバと、その外周を被覆する三層の金属被膜と、を有する金属被覆光ファイバが記載されている。金属被膜は、内側から無電解銅からなる第一めっき層、電解銅からなる第二めっき層、およびアモルファスニッケルからなる第三めっき層から構成されている。特許文献3には、金属被膜の外周に、さらにカーボンからなる保護層を被覆することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-110508号公報
【文献】特開2019-184785号公報
【文献】特開2011-64746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年光ファイバは、情報通信用としてだけでなく、温度や振動を検知するセンサ用としても活用され始めている。いずれの用途においても、光ファイバの使用環境は様々であり、通常の生活環境に限られない。例えば地中深くの領域で通信や測定をする場合、高温、高圧、酸性といった厳しい環境下で長期間に亘る使用が想定される。例えば300℃を超える環境下では、被覆層が腐食したり、被覆層中を水素が移動してガラスファイバの性能を劣化させる。なかでも、超臨界水(温度374℃以上、圧力22MPa以上の状態の水)が存在するような領域は特に過酷な環境である。このような厳しい環境下で光ファイバを使用する場合、上記特許文献1~3に記載されているような従来の被覆構造では、被覆層が腐食したり溶解したりして剥離するおそれがある。こうなると、ガラスファイバを保護することができず、水素の侵入により伝送損失が増加してしまう。したがって、高温、高圧などの厳しい環境にも耐えられる被覆構造が求められる。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、高温、高圧などの厳しい環境下でも劣化しにくい被覆構造を有し、外力による損傷、伝送損失の増加などが生じにくい光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の光ファイバは、ガラスファイバと、該ガラスファイバの外周を被覆する金属層と、該金属層の表面を被覆するダイヤモンドライクカーボン層と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光ファイバは、ダイヤモンドライクカーボン層(DLC層)を備える。DLC層は、炭素を主成分とする非晶質で硬質な層である。上記特許文献1~3に記載されているように、従来よりガラスファイバの被覆層としてカーボン層を配置することは知られている。しかしながら、従来のカーボン層は、DLC層ではなく比較的軟質な層であるため、高温、高圧などの厳しい環境下では劣化してしまう。これに対して、本発明の光ファイバに用いられるDLC層は、高温、高圧などの厳しい環境下においても劣化しにくく、ガラスファイバへの水分および水素の侵入を抑制する効果も高い。したがって、本発明の光ファイバは、DLC層を備えることにより、厳しい環境下で使用されても被覆機能が失われることがなく、外力による損傷、伝送損失の増加などが生じにくい。
【0010】
通常、DLC膜の形成には、PVD(物理蒸着)法やプラズマCVD(化学蒸着)法が用いられる。本発明者が検討した結果、ガラスファイバの外周に直接DLC膜を成膜しようとすると、DLC膜は硬質で緻密な構造を有するため、成膜時に高温に晒された後、室温に戻された際に、膜中に引張方向の応力が生じて膜が剥離してしまうという知見を得た。そこで、本発明の光ファイバにおいては、ガラスファイバにDLC層を直接形成するのではなく、ガラスファイバとDLC層との間に金属層を介在させる。こうすることにより、金属層が緩衝材の役割を果たし、成膜後にDLC層に生じる引張応力を低減することができる。製造過程に起因した熱応力によるDLC層の剥離を回避することができるため、DLC層を金属層を介してガラスファイバに密着させて形成することができる。また、金属層とDLC層との積層構造にすることにより、ガラスファイバに対する保護効果、水素の侵入抑制効果がより高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一実施形態の光ファイバの構成を説明するための斜視図である。
図2】同光ファイバの径方向断面図である。
図3】第二実施形態の光ファイバの径方向断面図である。
図4】実施例で製造した光ファイバの光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の光ファイバの実施の形態について説明する。
【0013】
<第一実施形態>
まず、第一実施形態の光ファイバの構成を説明する。図1に、本実施形態の光ファイバの構成を説明するための斜視図を示す。図2に、同光ファイバの径方向断面図を示す。図1図2に示すように、光ファイバ10は、ガラスファイバ20と、金属層30と、DLC層40と、を備えている。ガラスファイバ20は、断面円形状のコア21とその外周を取り囲むクラッド22とを有している。コア21およびクラッド22は、いずれもシリカガラスを主成分としている。クラッド22の外径は、約125μmである。
【0014】
金属層30は、ガラスファイバ20のクラッド22の外周を被覆している。金属層30は、金(Au)製であり、薄膜状を呈している。金属層30の厚さは、1.5μmである。DLC層40は、金属層30の表面を被覆している。DLC層40は、アークPVD法により製造されており、薄膜状を呈している。DLC層40の水素量は、3atm%であり、硬度は50GPa、ヤング率は600GPaである。DLC層40の厚さは、1.0μmである。
【0015】
次に、本実施形態の光ファイバの作用効果を説明する。光ファイバ10は、径方向内側から順にガラスファイバ20、金属層30、DLC層40を備えている。DLC層40は、硬質で緻密な構造を有しているため、例えば、温度500℃、圧力25MPaという高温、高圧下においても劣化しにくい。加えて、DLC層40は、水素の侵入を抑制する効果も高い。特に、DLC層40は3atm%しか水素を含有しないため、水素の透過がより一層抑制される。
【0016】
DLC層40の下側には金属層30が積層されている。金属層30は、金から形成されている。金は水との反応のギブスエネルギーが正(ΔG>0)である。すなわち、金と水との反応(Au+xHO→AuO+xH)は進行しにくい。このため、金属層30は、水分の存在下で酸化しにくく、脆化しにくい。また、金の酸化による水素の発生がほとんどないため、ガラスファイバ20に対する水素侵入の低減にもつながる。例えば、金属層30を構成する金属の溶融温度が比較的低い場合、使用環境によっては溶融したり、溶融しなくても粒成長など金属の結晶組織が変化することにより隣接する層との間で界面剥離が生じるなどの悪影響が懸念される。この点、金の溶融温度は1064℃であるため、例えば温度500℃程度の高温下では溶融しないし、金属の結晶組織が変化するおそれも小さい。したがって、光ファイバ10を厳しい環境下で使用しても、金属層30は劣化することなく保持される。このように、光ファイバ10は、金属層30およびDLC層40が積層した被覆構造を有するため、高温、高圧下における耐久性に優れ、水素侵入による伝送損失も小さい。
【0017】
DLC層40は、アークPVD法により製造されている。このため、DLC層40の成膜時には成膜対象が150~200℃の高温に晒されて、成膜後に室温に戻される。ここで、DLC層40とガラスファイバ20との間には、金属層30が介在している。金属層30の熱膨張係数はDLC層40のそれよりも大きく、かつヤング率はDLC層40のそれよりも小さい。このため、金属層30が緩衝材の役割を果たし、成膜後に室温に戻された際にDLC層40内に発生する引張応力を低減することができる。したがって、金属層30を介在させることにより、製造過程に起因した熱応力によるDLC層40の剥離を回避することができ、DLC層40を金属層30を介してガラスファイバ20に密着させて形成することができる。
【0018】
ここで、金属層30の厚さが小さすぎると、充分な緩衝効果を得られない。他方、金属層30の厚さが大きすぎると、光ファイバ10を高温下で使用した際に、金属層30が熱膨張することによりDLC層40に引張応力が発生してしまう。本実施形態の光ファイバ10によると、金属層30の厚さが1.5μmであるため、後述の実施例で示すように、金属層30の熱膨張を抑制しつつ、DLC層40内に生じる引張応力を低減することができる。このため、製造過程および使用時の両方において、DLC層40の剥離を抑制することができる。
【0019】
<第二実施形態>
本実施形態の光ファイバと第一実施形態の光ファイバとの相違点は、DLC層の外側に保護層が配置されている点である。ここでは、主に相違点を説明する。図3に、本実施形態の光ファイバの径方向断面図を示す。図3において、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0020】
図3に示すように、光ファイバ11は、ガラスファイバ20と、金属層30と、DLC層40と、保護層50と、を備えている。保護層50は、DLC層40の表面を被覆している。保護層50は、金(Au)製であり、薄膜状を呈している。保護層50の厚さは、1μmである。
【0021】
本実施形態の光ファイバと第一実施形態の光ファイバとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態の光ファイバ11においては、DLC層40の外側表面が保護層50により被覆されている。保護層50は、金から形成されている。このため、金属層30と同様に、例えば温度500℃、圧力25MPaという高温、高圧下において、さらに水分が存在している場合であっても、保護層50は溶解せず、かつ脆化しにくい。よって、厳しい環境下で使用されても、保護機能が低下しにくい。また、DLC層40の厚さ方向両側が金製の保護層50および金属層30で挟持されているため、本実施形態の光ファイバ11によると、高温、高圧下における耐久性がより高くなる。
【0022】
<その他の実施形態>
以上、本発明の光ファイバを実施する二つの形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。本発明の光ファイバは、ガラスファイバと、金属層と、DLC層と、を備えるものであり、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0023】
[ガラスファイバ]
ガラスファイバは、コアとクラッドとから構成され、コアの屈折率はクラッドの屈折率よりも高い。コアおよびクラッドは、シリカガラスを主成分とするが、その材質、寸法などは特に限定されない。ガラスファイバは、シングルモード、マルチモードのいずれでもよい。
【0024】
[金属層]
金属層は、ガラスファイバの外周を被覆する。金属層は、一層でも複数層から構成されていてもよい。金属層の厚さは特に限定されない。例えば、DLC層の製造過程に起因した熱応力による剥離を抑制する、ガラスファイバの保護効果を高めるなどの観点から、金属層の厚さは0.3μmより大きく、さらには0.5μm以上、1μm以上、1.5μm以上であることが望ましい。他方、光ファイバを高温下で使用した際に、金属層の熱膨張を抑制し、金属層の熱膨張に伴ってDLC層に発生する引張応力を小さくするという観点から、金属層の厚さは10μm以下、さらには7μm以下、4μm以下であることが望ましい。
【0025】
金属層を構成する金属は特に限定されない。金属層が一層の場合にはその単一層、あるいは金属層が複数層から構成される場合にはその少なくとも最外層は、水との反応のギブスエネルギーが正である金属を有することが望ましい。金属と水との反応のギブスエネルギーが正であれば、金属と水との反応(Me+xHO→MeO+xH;Meは金属)が進行しにくい。よって、当該金属を有する金属層は、水分の存在下で酸化しにくく、脆化しにくい。また、金属の酸化による水素の発生が抑制されるため、ガラスファイバに対する水素侵入の低減にもつながる。水との反応のギブスエネルギーが正である金属は、例えばエリンガム図(Ellingham Diagrams)から特定することができる。エリンガム図は、横軸に温度、縦軸に標準生成ギブスエネルギー(ΔG)をとり、種々の酸化物の標準生成ギブスエネルギーを温度に対してプロットしたグラフである。エリンガム図によると、平衡酸素分圧下での酸化物の安定性を知ることができ、エリンガム図の下方に位置する物質ほど酸化物が安定である、換言すると、標準生成ギブスエネルギーが低い物質の方が酸化されやすい。エリンガム図によると、水との反応のギブスエネルギーが正である金属は、水素の酸化反応を示す曲線(2H+O=2HO)よりも上方に位置する金属になる。例えば、金、白金、銅、ニッケル、コバルトなどが挙げられる。
【0026】
また、金属層を構成する金属は、溶融温度が1000℃以上である金属を有することが望ましい。溶融温度が1000℃以上の金属は、例えば温度500℃程度の高温下でも溶融せず、結晶組織が変化するおそれも小さい。よって、当該金属を有することにより、金属層の界面剥離などを抑制し、金属層を劣化させずに保持することができる。
【0027】
このように、金属層を構成する金属としては、水との反応のギブスエネルギーが正であり、かつ溶融温度が1000℃以上である金属が好適であり、例えば、金、ニッケル、ニッケル量が50wt%以上のニッケル基合金などが挙げられる。金属層は、PVD法、湿式めっき法などにより形成すればよい。
【0028】
[DLC層]
DLC層は、金属層の表面を被覆する。DLC層の厚さは特に限定されない。例えば、ガラスファイバへの水分および水素の侵入を充分に抑制するという観点から、DLC層の厚さは0.1μm以上、さらには0.5μm以上であることが望ましい。他方、成膜時の効率性を考慮すると、DLC層の厚さは2μm以下、さらには1.5μm以下であることが望ましい。
【0029】
DLC層を、硬質で緻密な構造にするという観点から、DLC層の水素量は、層全体の原子を100atm%とした場合の10atm%以下であることが望ましい。より好適な水素量は4atm%以下であり、さらには水素を含まない形態(いわゆる水素フリーDLC)が望ましい。DLC層の水素量は、グロー放電発光分光法やラマン分光法などにより測定すればよい。
【0030】
DLC層の製造方法は特に限定されず、PVD法、プラズマCVD法から適宜選択すればよい。水素量が少なく硬質な層を形成するという観点においては、スパッタリング、アークイオンプレーティングなどのPVD法を採用することが望ましい。例えば、アークPVD法においては、成膜後の室温下でDLC層に生じる引張応力と高温使用環境下でDLC層に生じる引張応力との両方を小さくするという理由から、処理温度を150~200℃程度にするとよい。
【0031】
[保護層]
保護層は、必要に応じてDLC層の表面を被覆するように配置される。保護層は金を有すればよく、金に加えて他の金属を有してもよい。金以外の金属としては、金属層に好適な金属として挙げたニッケル、ニッケル基合金などが挙げられる。保護層の厚さは特に限定されない。例えば、ガラスファイバの保護効果を高めるなどの観点から、保護層の厚さは0.1μm以上、さらには0.5μm以上であることが望ましい。他方、光ファイバを高温下で使用した際の保護層の熱膨張を抑制し、保護層の熱膨張に伴ってDLC層に発生する引張応力を小さくするという観点から、保護層の厚さは、金属層の厚さと合わせて10μm以下、さらには4μm以下であることが望ましい。保護層についても金属層と同様に、PVD法、湿式めっき法などにより形成すればよい。
【0032】
[変形例]
本発明の光ファイバは、特に高温、高圧などの厳しい環境下で使用する場合に好適な被覆構造を有するが、使用環境などに応じて被覆構造を変更してもよい。
【0033】
第一変形例として、光ファイバを、ガラスファイバと、該ガラスファイバの外周を被覆する一層の金属層と、該金属層の表面を被覆するカーボン層と、を備えて構成し、一層の金属層として、金、ニッケル、ニッケル基合金から選ばれる一種以上を用いるようにしてもよい。すなわち、金属層の外側にDLC層ではなくカーボン層を配置してもよい。この構成においては、溶融温度が高く、水分の存在下で酸化しにくく、脆化しにくい金属層によりガラスファイバを保護し、金属層の水素透過をカーボン層により抑制する。
【0034】
第二変形例として、光ファイバを、ガラスファイバと、該ガラスファイバの外周を被覆する一層以上の金属層と、該金属層の表面を被覆するカーボン層と、該カーボン層の表面を被覆する保護層と、を備えて構成し、金属層および保護層として、金、ニッケル、ニッケル基合金から選ばれる一種以上を用いるようにしてもよい。すなわち、金属層の外側にDLC層ではなくカーボン層を配置してもよい。この構成においては、主に金属層および保護層によりガラスファイバを保護し、保護層の水素透過をカーボン層により抑制する。
【実施例
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
<光ファイバの製造>
まず、シリカガラスを主成分とするシングルモードのガラスファイバ(外径約125μm)の外周に金めっきを施して、厚さ1.5μmの金属層を形成した。次に、形成した金属層の表面に、アークイオンプレーティング法により、厚さ1μmのDLC層を形成した。DLC層形成時の処理温度は200℃とした。このようにして、金属層とDLC層とが積層された被覆構造を有する光ファイバを製造した。
【0037】
図4に、製造した光ファイバの光学顕微鏡写真を示す。図4に示すように、製造した光ファイバを光学顕微鏡で観察したところ、光ファイバの最外層には、DLC層が剥離することなく均一に形成されていることが確認できた。また、この光ファイバを温度350℃、圧力25MPaの超臨界水中に10時間浸漬し、その後、光学顕微鏡および電子顕微鏡の両方で観察したところ、引張応力に起因するDLC層のクラックは見られなかった。
【0038】
<金属層の厚さの検討>
[サンプルの製造]
金属層を有さない光ファイバのサンプル一つと、先に製造した光ファイバとは金属層の厚さが異なる光ファイバのサンプルを三つ製造した。製造したサンプルにおける金属層の厚さは、0μm(金属層無し)、0.3μm、4μm、15μmである。DLC層の厚さは全て1μmである。光ファイバのサンプルの製造方法は、使用した材料を含めて先に製造した光ファイバの製造方法と同じである。
【0039】
[サンプルの評価]
(1)DLC層の状態
製造した光ファイバのサンプルを光学顕微鏡で観察したところ、金属層が無いサンプルにおいては、DLC層が剥離しており、ガラスファイバも破断していた。すなわち、ガラスファイバの表面に金属層を形成しない場合には、DLC層を形成することはできなかった。また、金属層の厚さが0.3μmのサンプルにおいては、DLC層に部分的な剥離が見られた。これに対して、金属層の厚さが4μm、15μmの各サンプルにおいては、DLC層が剥離することなく均一に形成されていた。
【0040】
ここで、金属層の厚さが異なる五つの光ファイバを想定し(0.3μm、1μm、2μm、4μm、15μm)、有限要素法(FEM)による熱応力解析を行った。具体的には、200℃下でDLC層を形成した後、室温に戻した際に、DLC層内発生する周方向の応力を計算した。熱応力解析においては、200℃下での応力は0と仮定した。結果、金属層の厚さが小さくなるほど、室温下においてDLC層内に発生する周方向の引張応力は大きくなり、例えば金属層の厚さが0.3μmの場合には、引張応力は160MPaを超えた。このように、熱応力解析の結果からも、DLC層の厚さや製造条件などにより、DLC層の形成に好適な金属層の厚さがあることが確認できた。
【0041】
(2)超臨界水に浸漬した後のDLC層の状態
DLC層を均一に形成することができた金属層の厚さが15μmのサンプルを、温度500℃、圧力25MPaの超臨界水中に10時間浸漬した。その後、光学顕微鏡および電子顕微鏡の両方で観察したところ、DLC層に部分的な剥離が見られた。また、上記同様に、金属層の厚さが異なる五つの光ファイバについてFEMによる熱応力解析を行い、DLC層を形成した後、200~600℃の高温に晒した際にDLC層内発生する周方向の応力を計算した。結果、金属層の厚さが大きくなるほど、高温下においてDLC層内に発生する周方向の引張応力は大きくなり、例えば金属層の厚さが15μmの場合には、220℃において引張応力が160MPaを超えた。このように、熱応力解析の結果からも、使用温度に応じて好適な金属層の厚さがあることが確認できた。
【0042】
[金属の違いによる金属層の厚さの検討]
DLC層中に発生する周方向の引張応力は、主に金属層の厚さ(d)と熱膨張係数(α)に依存する。金属層の自由伸び量は、「熱膨張係数(α)×厚さ(d)×温度差(ΔT)」により算出することができる。したがって、金属層が金以外の金属を含んで構成される場合の好適な厚さの範囲は、金から構成される場合に設定された好適な厚さの範囲に基づいて、次式(i)~(iii)により算出することができる。
自由伸び量の式より αAu×dAu=αMe×dMe ・・・(i)
厚さの下限値 dMe(l)=αAu/αMe×dAu(l) ・・・(ii)
厚さの上限値 dMe(u)=αAu/αMe×dAu(u) ・・・(iii)
[αAu:金の熱膨張係数、dAu:金からなる金属層の厚さ、αMe:金属層を構成する金属の熱膨張係数、dMe:金以外の金属を含んで構成される金属層の厚さ、dMe(l):金以外の金属を含んで構成される金属層の厚さの下限値、dAu(l):金からなる金属層の厚さの下限値、dMe(u):金以外の金属を含んで構成される金属層の厚さの上限値、dAu(u):金からなる金属層の厚さの上限値]
【符号の説明】
【0043】
10、11:光ファイバ、20:ガラスファイバ、21:コア、22:クラッド、30:金属層、40:DLC層、50:保護層。
図1
図2
図3
図4