(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】水処理装置及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20231116BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20231116BHJP
B01D 61/04 20060101ALI20231116BHJP
B01D 61/16 20060101ALI20231116BHJP
B01D 61/22 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C02F1/44 C
B01D61/12
B01D61/04
B01D61/16
B01D61/22
C02F1/44 A
(21)【出願番号】P 2020039026
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】石橋 光
(72)【発明者】
【氏名】中原 禎仁
(72)【発明者】
【氏名】蛯名 教介
(72)【発明者】
【氏名】日根野谷 充
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-346562(JP,A)
【文献】特開2005-095812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
井戸から地下水を汲み上げる水中ポンプと、
前記井戸から汲み上げられた地下水を透過水と非透過水とに分離する膜分離手段と、
前記水中ポンプと前記膜分離手段とを連結する原水供給流路と、
前記原水供給流路に設けられた、前記井戸から汲み上げられた地下水の圧力の変動を低減する圧力変動低減手段と、を備え、
前記圧力変動低減手段は、圧力タンクであり、
前記井戸から汲み上げられた地下水は、気密状態を保持したまま前記膜分離手段に供給される、水処理装置。
【請求項2】
前記圧力タンクは、タンク内部に貯留される地下水が気密状態を保持できるものである、請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記圧力タンクは、不活性ガスが充填されているタンク、又はゴム膜に封入した蓄圧気体がタンク内部に充填され、蓄圧気体の圧縮と膨張によって蓄圧できるタンクである、請求項1又は2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記膜分離手段は、逆浸透膜及び限外ろ過膜の少なくとも一方を備える、請求項1
~3のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記非透過水の一部を前記膜分離手段に返送する返送手段をさらに備え、
前記非透過水の一部は、気密状態を保持したまま前記膜分離手段に返送される、請求項1
~4のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項6】
井戸から汲み上げられた地下水を膜分離手段に供給して透過水と非透過水とに分離する水処理方法であって、
前記井戸から汲み上げられた地下水を
、圧力タンクにより前記地下水の圧力の変動を低減しつつ、気密状態を保持したまま前記膜分離手段に供給する、水処理方法。
【請求項7】
前記圧力タンクは、タンク内部に貯留される地下水が気密状態を保持できるものである、請求項6に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記圧力タンクは、不活性ガスが充填されているタンク、又はゴム膜に封入した蓄圧気体がタンク内部に充填され、蓄圧気体の圧縮と膨張によって蓄圧できるタンクである、請求項6又は7に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記膜分離手段は、逆浸透膜及び限外ろ過膜の少なくとも一方を備える、請求項
6~8のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記非透過水の一部を気密状態を保持したまま前記膜分離手段に返送する、請求項
6~9のいずれか一項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
井戸内から汲み上げられた地下水は、水処理装置によって処理された後、生活用水、工業用水、農業用水等に利用される。
地下水を水処理装置で処理する方法としては、例えば井戸から汲み上げられた地下水を一旦、原水槽に貯留し、その後、砂ろ過、活性炭処理等の前処理を行った後に、限外ろ過膜や逆浸透膜等による膜分離処理を行い、透過水と非透過水とに分離する方法が知られている。
【0003】
処理項目が多くなるほど、地下水中の不純物が除去されやすくなるが、水処理装置が大型化し、処理コストも上昇する。前処理を行わずに工程を簡素化すれば、省スペース及び低コスト化を図ることができる。
しかし、地下水が原水槽中で空気に触れることにより、地下水に溶存する鉄イオン等の金属イオンが酸化して金属酸化物となり、この金属酸化物が膜分離処理に用いる分離膜を閉塞することがある。
【0004】
地下水の溶存元素の酸化を防止する方法として、地下水を還元状態に調整した後に膜分離処理する方法(例えば特許文献1)、汲み上げた地下水を貯蔵する貯水タンク(原水槽)に不活性ガスを供給する方法(例えば特許文献2)が知られている。
また、井戸から地下水を汲み上げる水中ポンプ、圧力タンク及び吸気弁等を組み合わせて、揚水装置に空気が混入するのを防止する空気混入防止装置(例えば特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-189242号公報
【文献】特開2012-122189号公報
【文献】実開昭56-86374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、還元状態に調整する前に地下水の溶存元素が酸化すると、酸化物を還元するのは困難であり、溶存元素の酸化防止が必ずしも充分ではない。
特許文献2に記載の方法は定期的なガスの補充が必要であり、手間やコストがかかる。
特許文献3に記載の空気混入防止装置では、空気の混入防止が必ずしも充分ではない。
本発明は、分離膜の閉塞を抑制しつつ、省スペース化及び低コスト化が図られた水処理装置及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 井戸から地下水を汲み上げる水中ポンプと、
前記井戸から汲み上げられた地下水を透過水と非透過水とに分離する膜分離手段と、
前記水中ポンプと前記膜分離手段とを連結する原水供給流路と、
前記原水供給流路に設けられた、前記井戸から汲み上げられた地下水の圧力の変動を低減する圧力変動低減手段と、を備え、
前記井戸から汲み上げられた地下水は、気密状態を保持したまま前記膜分離手段に供給される、水処理装置。
[2] 前記膜分離手段は、逆浸透膜及び限外ろ過膜の少なくとも一方を備える、前記[1]の水処理装置。
[3] 前記非透過水の一部を前記膜分離手段に返送する返送手段をさらに備え、
前記非透過水の一部は、気密状態を保持したまま前記膜分離手段に返送される、前記[1]又は[2]の水処理装置。
[4] 井戸から汲み上げられた地下水を膜分離手段に供給して透過水と非透過水とに分離する水処理方法であって、
前記井戸から汲み上げられた地下水をその圧力の変動を低減しつつ、気密状態を保持したまま前記膜分離手段に供給する、水処理方法。
[5] 前記膜分離手段は、逆浸透膜及び限外ろ過膜の少なくとも一方を備える、前記[4]の水処理方法。
[6] 前記非透過水の一部を気密状態を保持したまま前記膜分離手段に返送する、前記[4]又は[5]の水処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分離膜の閉塞を抑制しつつ、省スペース化及び低コスト化が図られた水処理装置及び水処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第一の態様の水処理装置の一例を模式的に示す概略図である。
【
図2】本発明の第二の態様の水処理装置の一例を模式的に示す概略図である。
【
図3】実施例1における、通水時間と、フラックス及びRO平均圧力との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例1における、非透過水中の全鉄と鉄イオンと酸化鉄の濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図5】比較例1で用いた水処理装置を模式的に示す概略図である。
【
図6】比較例1における、通水時間と、フラックス及びRO平均圧力との関係を示すグラフである。
【
図7】比較例1における、非透過水中の全鉄と鉄イオンと酸化鉄の濃度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る水処理方法及び水処理装置の一実施形態を挙げ、
図1、2を適宜参照しながら詳述する。
なお、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
また、
図2において、
図1と同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0011】
<第一の態様>
(水処理装置)
図1に本発明の第一の態様の水処理装置の一例を模式的に示す。
図1に示す水処理装置1は、水源である井戸100と、井戸100から地下水(原水)を汲み上げる水中ポンプ21と、井戸100から汲み上げられた地下水を透過水と非透過水とに分離する膜分離手段10と、水中ポンプ21と膜分離手段10とを連結する原水供給流路22と、井戸100から汲み上げられた地下水の圧力の変動を低減する圧力変動低減手段30とを備える。
【0012】
水処理装置1は、さらに、膜分離手段10から透過水を排出する透過水排出手段40と、膜分離手段10から非透過水を排出する非透過水排出手段50とを備える。
なお、ポンプや後述の電磁弁、流量計、圧力計等は、これらの動作を制御する制御部(図示略)に電気的に接続されている。
【0013】
膜分離手段10は、地下水を透過水と非透過水とに分離する手段である。
この例の膜分離手段10は、逆浸透膜モジュール11と、ポンプ12と、原水流路13と、流量計14と、圧力計15とを備える。
逆浸透膜モジュール11は逆浸透膜を備え、導入された地下水を、逆浸透膜を透過する透過水と逆浸透膜を透過しない非透過水とに分離するものであればよい。なお、逆浸透膜を透過した透過水を「処理水」といい、逆浸透膜を透過しなかった非透過水を「濃縮水」ともいう。
逆浸透膜には、ナノろ過膜が包含される。
逆浸透膜の形態としては、スパイラル膜、中空糸膜、管状膜、平膜等が挙げられる。
逆浸透膜の材質としては、ポリアミド、ポリスルフォン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0014】
逆浸透膜モジュール11としては、例えば、スパイラル型逆浸透膜エレメントの1個以上を、ベッセル等の耐圧容器に収納したものが挙げられる。スパイラル型逆浸透膜エレメントとしては、例えば、集水管のまわりに逆浸透膜を巻き回したものを円筒状のケーシングに収納し、ケーシングの両端面にテレスコープ防止部材を取り付けたものが挙げられる。
【0015】
原水流路13は、逆浸透膜モジュール11とポンプ12とを連結する連結管である。
流量計14及び圧力計15は、原水流路13に設けられている。
【0016】
原水供給流路22は、水中ポンプ21と膜分離手段10とを連結する連結管である。
井戸から汲み上げられた地下水は、気密状態を保持したまま原水供給流路22を通って、膜分離手段10へ供給される。
【0017】
原水供給流路22は、地下から地上に延びる揚水管23と、揚水管23の上端に接続して、水平方向に延びる送水管24とで構成されている。
この例の送水管24は、圧力変動低減手段30よりも上流側の第一の送水管241と、圧力変動低減手段30よりも下流側の第二の送水管242とで構成されている。
揚水管23の下端、すなわち原水供給流路22の一端には、水中ポンプ21が接続されている。送水管24の先端(第二の送水管242の先端)、すなわち原水供給流路22の他端には、膜分離手段10のポンプ12が接続されている。
原水供給流路22としては、気密状態を保持できる配管であれば特に限定されない。
【0018】
圧力変動低減手段30は、井戸100から汲み上げられた地下水の圧力の変動を低減する手段であり、原水供給流路22に設けられている。地下水の圧力の変動を低減することで、水中ポンプ21から原水供給流路22に送り込まれる地下水の流量と、ポンプ12から逆浸透膜モジュール11に送り込まれる地下水の流量のバランスを図ることができ、分離膜の破損を抑制できる。
この例の圧力変動低減手段30は、圧力タンク31である。
圧力タンク31は、圧力に応じて内部に地下水を貯留できるようになっており、地下水の圧力の変動を吸収して低減するとともに、内部に地下水を貯留したり、貯留した地下水を排出したりして、送水管24内を流れる地下水の流量の調節も行うことができる。
圧力タンク31としては、貯留している地下水が気密状態を保持できれば特に限定されないが、例えば気相に窒素、二酸化炭素等の不活性ガスが充填されているタンク;アキュムレーターのようなゴム膜等に封入した蓄圧気体がタンク内部に充填され、蓄圧気体の圧縮と膨張によって蓄圧できるタンクが好ましい。
【0019】
透過水排出手段40は、膜分離手段10から透過水を排出する手段である。
透過水排出手段40は、透過水流路41と、透過水流路41に設けられた流量計42及び圧力計43とを備える。
【0020】
非透過水排出手段50は、膜分離手段10から非透過水を排出する手段である。
非透過水排出手段50は、非透過水流路51と、非透過水流路51に設けられた流量計52及び圧力計53とを備える。
【0021】
(水処理方法)
水処理装置1を用いた水処理方法の一例について説明する。
まず、水中ポンプ21を駆動させて井戸100から地下水を汲み上げる。次いで、ポンプ12を駆動させて、井戸100から汲み上げられた地下水を、気密状態を保持したまま膜分離手段10へ供給する。地下水が原水供給流路22を通過する際に、圧力変動低減手段30によって地下水の圧力の変動が低減される。すなわち、井戸100から汲み上げられた地下水は、その圧力の変動が低減されつつ、気密状態を保持したまま膜分離手段10に供給される。
【0022】
ポンプ12を通過した地下水は、気密状態を保持したまま原水流路13を通過して逆浸透膜モジュール11に供給される。このとき、原水流路13に設けられた流量計14及び圧力計15、透過水流路41に設けられた流量計42及び圧力計43、非透過水流路51に設けられた流量計52及び圧力計53をモニタリングしながら、逆浸透膜に対する地下水の圧力や水量をポンプ12にて調節するのが好ましい。
逆浸透膜モジュール11に供給された地下水は、逆浸透膜を透過する透過水と、逆浸透膜を透過しない非透過水とに分離される。
【0023】
逆浸透膜を透過した透過水は、透過水流路41を通って受水槽(図示略)に貯留される。
一方、逆浸透膜を透過しなかった非透過水は、非透過水流路51を通って、例えば下水などに放流されて処分される。
【0024】
(作用効果)
本発明の第一の態様の水処理装置及び水処理方法によれば、井戸から汲み上げられた地下水を、その圧力の変動を低減しつつ、気密状態を保持したまま膜分離手段に供給して透過水と非透過水とに分離する。すなわち、井戸から汲み上げられた地下水は、空気に触れることなく膜分離手段に供給されるので、地下水が膜分離手段に供給されるまでの間に地下水に溶存する金属イオンが酸化しにくく、分離膜の閉塞を抑制できる。
加えて、本発明の第一の態様の水処理装置及び水処理方法では、井戸から汲み上げられた地下水を直接膜分離手段に供給するので、工程を簡素化ができ、省スペース化及び低コスト化を図ることができる。
しかも、本発明の第一の態様の水処理装置及び水処理方法では、圧力変動低減手段により地下水の圧力の変動を低減しながら地下水を膜分離手段に供給するので、水中ポンプから原水供給流路に送り込まれる地下水の流量と、膜分離手段においてポンプから逆浸透膜モジュールに送り込まれる地下水の流量のバランスを図ることができ、分離膜の破損を抑制できる。
【0025】
(他の態様)
本発明の第一の態様の水処理装置及び水処理方法は、上述した実施形態に限定されない。
第一の態様では、圧力変動低減手段は原水供給流路に設けられた圧力タンクであるが、原水供給流路そのものを圧力変動低減手段としてもよい。ただし、原水供給流路を圧力変動低減手段とする場合は、原水供給流路の直径を大きくしたり、長さを長くしたりするのが好ましい。特に、送水管の直径を大きくしたり、長さを長くしたりするのが好ましい。具体的には、送水管の直径は13~1000mmが好ましく、長さは10~600mが好ましい。
【0026】
第一の態様では逆浸透膜を用いて地下水を透過水と非透過水とに分離しているが、膜分離に用いられる分離膜は逆浸透膜に限定されず、例えば限外ろ過膜、精密ろ過膜などであってもよい。分離膜としては、逆浸透膜、限外ろ過膜が好ましく、逆浸透膜がより好ましい。
また、第一の態様の水処理装置の膜分離手段は、1つの逆浸透膜モジュールを備えているが、膜分離手段は並列に配置された複数の逆浸透膜モジュールを備えていてもよい。この場合、原水流路は途中で分岐して、各逆浸透膜モジュールに接続されていることが好ましく、膜分離手段のポンプは昇圧ポンプが好ましい。
【0027】
<第二の態様>
(水処理装置)
図2に本発明の第二の態様の水処理装置の一例を模式的に示す。
第二の態様の水処理装置2は、非透過水の一部を膜分離手段10に返送する返送手段60をさらに備える以外は、第一の態様の水処理装置と同様である。
すなわち、
図2に示す水処理装置2は、水源である井戸100と、井戸100から地下水(原水)を汲み上げる水中ポンプ21と、井戸100から汲み上げられた地下水を透過水と非透過水とに分離する膜分離手段10と、水中ポンプ21と膜分離手段10とを連結する原水供給流路22と、井戸100から汲み上げられた地下水の圧力の変動を低減する圧力変動低減手段30と、非透過水の一部を膜分離手段10に返送する返送手段60とを備える。
水処理装置2は、さらに、膜分離手段10から透過水を排出する透過水排出手段40と、膜分離手段10から非透過水を排出する非透過水排出手段50とを備える。
【0028】
膜分離手段10、原水供給流路22、圧力変動低減手段30、透過水排出手段40及び非透過水排出手段50は第一の態様と同じであるため、これらの説明は省略する。
【0029】
返送手段60は、非透過水の一部を膜分離手段10に返送する手段である。
返送手段60は、返送流路61と、返送流路61の開閉を行い、膜分離手段10に返送される非透過水の圧力を調整する電磁弁62と、流量計63とを備える。
この例の返送流路61は、その一端が非透過水流路51の途中に接続され、他端が第二の送水管242の途中に接続されており、非透過水の一部が非透過水流路51、返送流路61及び第二の送水管242を順に経て、膜分離手段10に返送されるようになっている。
返送流路61を通過する非透過水は、気密状態を保持したまま膜分離手段10に返送されることが好ましい。
【0030】
(水処理方法)
水処理装置2を用いた水処理方法の一例について説明する。
まず、水中ポンプ21を駆動させて井戸100から地下水を汲み上げる。次いで、ポンプ12を駆動させて、井戸100から汲み上げられた地下水を、気密状態を保持したまま膜分離手段10へ供給する。地下水が原水供給流路22を通過する際に、圧力変動低減手段30によって地下水の圧力の変動が低減される。すなわち、井戸100から汲み上げられた地下水は、その圧力の変動が低減されつつ、気密状態を保持したまま膜分離手段10に供給される。
【0031】
ポンプ12を通過した地下水は、気密状態を保持したまま原水流路13を通過して逆浸透膜モジュール11に供給される。このとき、原水流路13に設けられた流量計14及び圧力計15、透過水流路41に設けられた流量計42及び圧力計43、非透過水流路51に設けられた流量計52及び圧力計53をモニタリングしながら、逆浸透膜に対する地下水の圧力や水量をポンプ12にて調節するのが好ましい。
逆浸透膜モジュール11に供給された地下水は、逆浸透膜を透過する透過水と、逆浸透膜を透過しない非透過水とに分離される。
【0032】
逆浸透膜を透過した透過水は、透過水流路41を通って受水槽(図示略)に貯留される。
一方、逆浸透膜を透過しなかった非透過水は、非透過水流路51を通って、例えば下水などに放流されて処分される。その際、必要に応じて電磁弁62を開くことによって、非透過水の一部を非透過水流路51の途中で分流して返送流路61を通過させ、第二の送水管242の途中で、井戸100から汲み上げられた地下水と合流させる。これにより、非透過水の一部は、非透過水流路51、返送流路61及び第二の送水管242を順に経て、膜分離手段10に返送される。
非透過水の一部を膜分離手段10に返送する際は、気密状態を保持したまま非透過水の一部を膜分離手段10に返送することが好ましい。
【0033】
(作用効果)
本発明の第二の態様の水処理装置及び水処理方法によれば、第一の態様の水処理装置及び水処理方法と同様、井戸から汲み上げられた地下水が膜分離手段に供給されるまでの間に、地下水に溶存する金属イオンが酸化しにくく、分離膜の閉塞を抑制できる。加えて、工程を簡素化ができ、省スペース化及び低コスト化を図ることができる。しかも、水中ポンプから原水供給流路に送り込まれる地下水の流量と、膜分離手段においてポンプから逆浸透膜モジュールに送り込まれる地下水の流量のバランスを図ることができ、分離膜の破損を抑制できる。
【0034】
(他の態様)
本発明の第二の態様の水処理装置及び水処理方法は、上述した実施形態に限定されない。
なお、第二の態様において、第一の態様と共通部分についての他の態様は第一の態様と同様であるため、説明を省略する。
【0035】
第二の態様では返送流路の他端は第二の送水管の途中に接続されているが、返送流路の他端は第一の送水管の途中に接続されていてもよいし、原水流路の途中に接続されていてもよい。ただし、逆浸透膜に供給される地下水と非透過水との混合物の圧力や水量をモニタリングしながら調節できる点で、返送流路の他端は第一の送水管又は第二の送水管の途中に接続されることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0037】
[実施例1]
本実施例においては、
図2に示す水処理装置2を用いて、以下のようにして地下水の水処理を行った。
なお、本実施例では地下水に溶存する金属イオンが酸化することによる分離膜への影響を確認する目的で、以下に示すように、地下水に硫酸鉄の水溶液を意図的に添加した。
また、逆浸透膜としては、アズワン株式会社製の商品名「ROメンブレンフィルター(型番:BW60-1812-75)」(膜面積:0.5m
2)を使用した。
【0038】
まず、水中ポンプ21を駆動させて井戸100から地下水を汲み上げた。次いで、ポンプ12を駆動させて、井戸100から汲み上げられた地下水を、気密状態を保持したまま膜分離手段10へ供給した。その際、原水供給流路22を流れる地下水を一旦、圧力タンク31に貯留し、貯留した地下水を原水供給流路22に排出することで、地下水の圧力の変動を低減した。また、井戸100から汲み上げられた地下水が圧力タンク31に貯留される前に、地下水中の全鉄の濃度が4.8mg/Lとなるように硫酸鉄の水溶液を地下水に添加した。なお、硫酸鉄の水溶液としては、25℃におけるpHが2.5となるように調整された純水に、硫酸鉄(II)七水和物(FeSO4・7H2O)を添加した後に、溶存酸素量が0mg/Lになるまで密閉容器内でアルゴンで置換したものを用いた。また、硫酸鉄の水溶液を地下水に添加する際には、硫酸鉄の水溶液を密閉容器(図示略)に入れた状態のまま、ポンプ(図示略)を用いて地下水へ添加した。硫酸鉄の水溶液を添加した地下水の25℃におけるpHは7.5であった。
次いで、地下水を逆浸透膜モジュール11にて透過水と非透過水とに分離した。
逆浸透膜を透過した透過水を透過水排出手段40により膜分離手段10から排出し、逆浸透膜を透過しなかった非透過水を非透過水排出手段50により膜分離手段10から排出した。その際、電磁弁62を開いて非透過水の一部を非透過水流路51の途中で分流して返送流路61を通過させ、第二の送水管242の途中で、井戸100から汲み上げられた地下水と合流させ、膜分離手段10に返送した。通水条件は、流量計14を2600mL/min、流量計42を113mL/min、流量計52を49mL/minに設定した。
【0039】
通水を開始してから115時間経過するまでの間、25℃における単位時間及び単位膜面積当たりの透過水量を計測し、フラックス(透過流束)を算出した。また、逆浸透膜の平均圧力(RO平均圧力)を圧力計にて測定した。結果を
図3に示す。
一般的に、一定圧で膜ろ過する場合、分離膜が閉塞するとフラックスが低下する傾向にある。
図3に示すように、本実施例であれば通水時間が100時間以上経過してもRO平均圧力及びフラックスは概ね一定であり、逆浸透膜の閉塞が生じていないことが示された。
【0040】
また、通水を開始してから115時間経過した時点での非透過水中の全鉄の濃度及び鉄イオンの濃度をHACH社製の商品名「ポータブル吸光光度計DR890」を用い、全鉄濃度はFeroo Ver法、鉄イオン濃度は1.10フェナントロリン法で測定した。また、全鉄の濃度から鉄イオン濃度を差し引き、非透過水中の酸化鉄の濃度を求めた。結果を
図4に示す。
図4に示すように、非透過水中の全鉄の濃度及び鉄イオンの濃度はいずれも16mg/Lであり、非透過水中に酸化鉄は含まれていなかった。すなわち、地下水中の鉄イオンは酸化されていないことから、本実施例では井戸から汲み上げられた地下水を気密状態で膜分離手段に供給したといえる。
【0041】
また、通水を開始してから115時間経過した時点で、非透過水流路51から排出された直後の非透過水の溶存酸素量を測定したところ、0mg/Lであった。よって、膜分離手段10に返送された非透過水の溶存酸素量も0mg/Lであるといえることから、本実施例では気密状態を保持したまま非透過水の一部を膜分離手段10に返送したといえる。
【0042】
[比較例1]
本比較例においては、
図5に示す水処理装置3を用いて、以下のようにして地下水の水処理を行った。
図5に示す水処理装置3は、水源である井戸100と、井戸100から地下水(原水)を汲み上げる水中ポンプ21と、井戸100から汲み上げられた地下水を貯留する原水槽70と、地下水を透過水と非透過水とに分離する膜分離手段10と、膜分離手段10から透過水を排出する透過水排出手段40と、膜分離手段10から非透過水を排出する非透過水排出手段50と、非透過水の一部を膜分離手段10に返送する返送手段60と、井戸100から汲み上げられた地下水に硫酸を添加する添加手段80と、井戸100から汲み上げられた地下水を原水槽70に供給する第一の被処理水流路91と、原水槽70と膜分離手段10とを連結する第二の被処理水流路93とを備える。
水処理装置3の膜分離手段10は、ポンプ12が昇圧ポンプである以外は、
図2に示す膜分離手段10と同じである。
水処理装置3の透過水排出手段40は、
図2に示す透過水排出手段40と同じである。
水処理装置3の非透過水排出手段50は、
図2に示す非透過水排出手段50と同じである。
水処理装置3の返送手段60は、返送流路61の他端が第二の被処理水流路93に接続されている以外は、
図2に示す返送手段60と同じである。
【0043】
原水槽70には、散気手段71が設けられている。散気手段71は原水槽70内の底部近傍に略水平に配置され散気管71aと、散気管71aに気体を送気するブロワ71bと、ブロワ71bから送気された気体を散気管71aへ供給する気体供給管71cとを備える。
添加手段80は、硫酸を収容するタンク81と、硫酸を原水槽70へ供給する硫酸供給管82と、硫酸供給管82の途中に設けられたポンプ83とを備える。
第一の被処理水流路91には、電磁弁92が設けられている。
第二の被処理水流路93には、ポンプ94と、流量計95と、2つのプレフィルター96と、圧力計97が、原水槽70側からこの順に設けられている。
なお、ポンプ、電磁弁、流量計、圧力計等は、これらの動作を制御する制御部(図示略)に電気的に接続されている。
逆浸透膜としては、日東電工株式会社製の商品名「ESPA2-LD4040」(膜面積:7.43m2)を使用した。
プレフィルター96としては、ゼット工業株式会社製の商品名「ワイドカートリッジフィルター(型番:ZW-PP10-500L)」を使用した。
また、比較例1では、実施例1で使用した井戸とは異なる井戸100を使用した。比較例1で使用した井戸100中の地下水の全鉄の濃度は5.2mg/Lであった。
【0044】
まず、水中ポンプ21を駆動させて井戸100から地下水を汲み上げた。電磁弁92を開いて井戸100から汲み上げられた地下水を原水槽70に供給した。その際、ポンプ83を駆動させて、地下水の25℃におけるpHが6.0となるように硫酸を第一の被処理水流路91を通過する地下水に添加した。
次いで、ブロワ71bを駆動させることで空気を、気体供給管71cを経て原水槽70内の散気管71aに供給し、原水槽70中の地下水を曝気した。
次いで、ポンプ94及びポンプ12を駆動させて、原水槽70の地下水を引き抜き、プレフィルター96を経て膜分離手段10へ供給した。
次いで、地下水を逆浸透膜モジュール11にて透過水と非透過水とに分離した。
逆浸透膜を透過した透過水を透過水排出手段40により膜分離手段10から排出し、逆浸透膜を透過しなかった非透過水を非透過水排出手段50により膜分離手段10から排出した。その際、電磁弁62を開いて非透過水の一部を非透過水流路51の途中で分流して返送流路61を通過させ、第二の被処理水流路93の途中、具体的にはポンプ94よりも上流側で、原水槽70から引き抜かれた地下水と合流させ、膜分離手段10に返送した。
なお、比較例1では、井戸から汲み上げられた地下水を一旦、原水槽に貯留し、原水槽中で曝気した後に膜分離手段に供給していることから、井戸から汲み上げられた地下水は、気密状態を保持せずに膜分離手段に供給されたことになる。通水条件は、流量計14を25.0L/min、流量計42を1.7L/min、流量計52を0.7L/minに設定した。
【0045】
通水を開始してから23時間経過するまでの間、25℃における単位時間及び単位膜面積当たりの透過水量を計測し、フラックス(透過流束)を算出した。また、逆浸透膜の平均圧力(RO平均圧力)を圧力計にて測定した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、通水時間が20時間経過した時点で、RO平均圧力が通水開始時の2倍に上昇し、逆浸透膜が閉塞したことが示された。
【0046】
また、通水を開始してから23時間経過した時点での原水槽70内の地下水中の全鉄の濃度及び鉄イオンの濃度を実施例1と同様の方法で測定した。また、全鉄の濃度から鉄イオン濃度を差し引き、原水槽70内の地下水中の酸化鉄の濃度を求めた。結果を
図7に示す。
図7に示すように、原水槽70内の地下水中の全鉄の濃度は5.2mg/Lであり、鉄イオンの濃度は4.4mg/Lであり、酸化鉄の濃度は0.8mg/Lであった。これは、井戸100から汲み上げられた地下水が原水槽70に貯留されている間に、地下水中の全鉄の15%が酸化されて酸化鉄となったことを意味する。この酸化鉄が逆浸透膜の閉塞の原因と考えられる。
【0047】
一般的に、地下水等の被処理水のpHを下げると被処理に溶存している金属イオンは酸化されにくくなる傾向にある。また、プレフィルターは水中の濁質(ゴミ、砂等)を除去するものであり、水中の濁質を除去することで逆浸透膜を保護する役割を果たす。
しかし、井戸から汲み上げられた地下水を、気密状態を保持せずに膜分離手段に供給した比較例1では、地下水のpHを6.0まで下げ、さらにプレフィルターにて前処理された地下水を膜分離手段に供給したにも関わらず、地下水中で酸化鉄が生じ、水処理中にRO平均圧力が上昇し、逆浸透膜が閉塞した。
【符号の説明】
【0048】
1,2,3 水処理装置
10 膜分離手段
11 逆浸透膜モジュール
12,83,94 ポンプ
13 原水流路
14,42,52,63,95 流量計
15,43,53,97 圧力計
21 水中ポンプ
22 原水供給流路
23 揚水管
24 送水管
241 第一の送水管
242 第二の送水管
30 圧力変動低減手段
31 圧力タンク
40 透過水排出手段
41 透過水流路
50 非透過水排出手段
51 非透過水流路
60 返送手段
61 返送流路
62,92 電磁弁
70 原水槽
71 散気手段
71a 散気管
71b ブロワ
71c 気体供給管
80 添加手段
81 タンク
82 硫酸供給管
91 第一の被処理水流路
93 第二の被処理水流路
96 プレフィルター
100 井戸