(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】水中不分離グラウト組成物及び水中不分離グラウト
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20231116BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20231116BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20231116BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20231116BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20231116BHJP
C04B 111/74 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B22/14 B
C04B22/08 Z
C04B24/26 E
C04B24/38 D
C04B111:74
(21)【出願番号】P 2020039535
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 亮太
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037329(JP,A)
【文献】特開2017-114692(JP,A)
【文献】特開2016-037406(JP,A)
【文献】特開2018-193280(JP,A)
【文献】特開2011-136863(JP,A)
【文献】特開2009-096040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
早強ポルトランドセメントを含むセメント、石膏類及び非晶質アルミノシリケートからなる結合材と、減水剤と、増粘剤と、細骨材とを含み、
前記早強ポルトランドセメントの含有量が、前記セメント100質量部に対し、42質量部以上であり、
前記減水剤の含有量が、前記結合材100質量部に対し、0.55~5質量部であり、
粒径0.15mm以下の細骨材
(0.15mmふるい通過分)の含有量が、前記細骨材100質量部に対し、13.5~25質量部である、水中不分離グラウト組成物。
【請求項2】
前記非晶質アルミノシリケートの含有量が、前記結合材100質量部に対し、2~30質量部である、請求項1に記載の水中不分離グラウト組成物。
【請求項3】
前記減水剤が、ポリカルボン酸系減水剤である、請求項1又は2に記載の水中不分離グラウト組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水中不分離グラウト組成物と、水とを含み、
前記水の含有量が、前記結合材100質量部に対し、18~35質量部である、水中不分離グラウト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中不分離グラウト組成物及び水中不分離グラウトに関する。
【背景技術】
【0002】
橋脚や橋台、洋上設備の基礎等の構造物を水中に構築する際、グラウト、モルタル、コンクリート等を水中に打設することがある。このような場合、それぞれの材料に水中不分離性を付与した水中不分離材料を用いることになる。水中不分離材料は充填性がよく、また、水に分散しにくいため汚濁の発生を抑制した施工が可能である。
【0003】
このような水中不分離性材料としては、膨張材と増粘剤と減水剤とを組み合わせた水中グラウト用混和材を用いたセメント組成物(特許文献1)や、化学成分として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からそれぞれ1種類以上の成分を含有するポリカルボン酸系減水剤と増粘剤とを用いた水中不分離性モルタル組成物(特許文献2)等が挙げられる。
【0004】
また、グラウト、モルタル等の材料としては高い強度特性が求められる場合もある。例えば、特許文献3には、非晶質アルミノ珪酸鉱物粉末及び石膏を含有した早強性超高強度グラウト組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-138055号公報
【文献】特開2017-114692号公報
【文献】特開2018-193280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで施工施設によっては、高い割裂引張強度が要求される場合がある。割裂引張強度は許容応力度設計で使用されることはあまりないが、精密な応力解析が必要な設計、限界状態を想定した靱性設計、ひび割れ抵抗性や局所破壊の評価等には重要な指標となる。しかしながら、通常ベースとなるモルタルやコンクリートと比べて従来の水中不分離材料は減水剤の量が多く、また水中不分離性を付与する増粘剤等の特性から割裂引張強度等の強度特性が低い傾向にあった。
一方、高い強度発現性や割裂引張強度を発現するグラウト等に増粘剤を添加しても、その材料組成の影響により、十分な水中不分離性が得られにくいという課題があった。
また、作業性の観点から水中不分離性材料には可使時間も要求される。
【0007】
したがって、本発明は、可使時間が長く、水中不分離性が高く、また硬化時の圧縮強度及び割裂引張強度が優れた水中不分離グラウト組成物及び水中不分離グラウトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、早強ポルトランドセメント及び減水剤の含有量、骨材粒度を調整することで、可使時間及び水中不分離性を確保し、且つ硬化時の圧縮強度及び割裂引張強度に優れる水中不分離グラウト組成物及び水中不分離グラウトが得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]~[4]である。
[1]早強ポルトランドセメントを含むセメント、石膏類及び非晶質アルミノシリケートからなる結合材と、減水剤と、増粘剤と、細骨材とを含み、早強ポルトランドセメントの含有量が、前記セメント100質量部に対し、42質量部以上であり、減水剤の含有量が、結合材100質量部に対し、0.55~5質量部であり、粒径0.15mm以下の細骨材の含有量が、細骨材100質量部に対し、13.5~25質量部である、水中不分離グラウト組成物。
[2]非晶質アルミノシリケートの含有量が、結合材100質量部に対し、2~30質量部である、[1]の水中不分離グラウト組成物。
[3]減水剤が、ポリカルボン酸系減水剤である、[1]又は[2]の水中不分離グラウト組成物。
[4][1]~[3]のいずれかの水中不分離グラウト組成物と、水とを含み、水の含有量が、結合材100質量部に対し、18~35質量部である、水中不分離グラウト。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可使時間が長く、水中不分離性が高く、また硬化時の圧縮強度及び割裂引張強度が優れた水中不分離グラウト組成物及び水中不分離グラウトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態の水中不分離グラウトは、早強ポルトランドセメントを含むセメント、石膏類及び非晶質アルミノシリケートからなる結合材と、減水剤と、増粘剤と、細骨材とを含む。
【0013】
本明細書において、結合材は早強ポルトランドセメントを含むセメント、石膏類及び非晶質アルミノシリケートの三成分からなる。
【0014】
セメントとしては早強ポルトランドセメントを含む。早強ポルトランドセメントには、通常の早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントが含まれる。早強ポルトランドセメント以外のセメント成分としては、種々のものを使用することができ、例えば、普通、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント;高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカフュームを含む混合セメント;エコセメント;速硬性セメント等が挙げられる。セメントとしては、割裂引張強度及び圧縮強度が一層優れたものになるという観点から、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントを併用することがより好ましい。
【0015】
早強ポルトランドセメントの含有量は、セメント100質量部に対し、42質量部以上である。早強ポルトランドセメントの含有量が上記範囲外であるとき、十分な割裂引張強度が得られない。早強ポルトランドセメントの含有量は、割裂引張強度及び圧縮強度が一層優れたものになるという観点から、セメント100質量部に対し、45~95質量部であることが好ましく、60~92質量部であることがより好ましく、70~90質量部であることが更に好ましい。
【0016】
セメントの含有量は、結合材100質量部に対し、60~95質量部であることが好ましく、65~92質量部であることがより好ましく、70~90質量部であることが更に好ましい。
【0017】
石膏類としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏が挙げられる。石膏類としては、強度発現性を更に向上させるという観点から、無水石膏が好ましい。石膏類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0018】
石膏類の含有量は、結合材100質量部に対し、1~15質量部であることが好ましく、2~12質量部であることがより好ましく、3~10質量部であることが更に好ましい。石膏類の含有量が上記範囲内であれば、圧縮強度や割裂引張強度等の強度特性がより一層向上する。
【0019】
非晶質アルミノシリケートは、粘土鉱物に由来し、非晶質部分を含むアルミノシリケートであれば特に限定されず、いずれも使用可能である。原料である粘土鉱物の例としては、カオリン鉱物、雲母粘土鉱物、スメクタイト型鉱物、及びこれらが混合生成した混合層鉱物が挙げられる。非晶質アルミノシリケートは、これらの結晶性アルミノシリケートを、例えば焼成・脱水して非晶質化することにより得られる。非晶質アルミノシリケートとしては、反応性に更に優れるという観点から、カオリナイト、ハロサイト、ディッカイト等のカオリン鉱物由来のものが好ましく、カオリナイトを焼成して得られるメタカオリンより好ましい。非晶質アルミノシリケートは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
本明細書において「非晶質」とは、粉末X線回折装置による測定で、原料である粘土鉱物に由来するピークがほぼ見られなくなることをいう。本実施形態に係る非晶質アルミノシリケートは非晶質の割合が70質量%以上であればよく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%、即ち粉末X線回折装置による測定でピークが全く見られないものが最も好ましい。非晶質の割合は標準添加法により求めた値である。非晶質の割合が高いアルミノシリケート、即ち結晶質の割合が低いアルミノシリケートは、非晶質の割合が低いアルミノシリケートに比べて、同じ混和量における強度発現性が更によい傾向にある。アルミノシリケートの非晶質化のための加熱としては、外熱キルン、内熱キルン、電気炉等による焼成、及び溶融炉を用いた溶融等が挙げられる。
【0020】
非晶質アルミノシリケートの含有量は、結合材100質量部に対し、2~30質量部であることが好ましく、5~25質量部であることがより好ましく、10~20質量部であることが更に好ましい。非晶質アルミノシリケートの含有量が上記範囲内であれば、高強度を確保しつつ、良好な流動性を確保しやすい。
【0021】
減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤が挙げられる。これらの中では、少量の添加量であっても流動性保持時間を確保しやすいという観点から、ポリカルボン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0022】
減水剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.55~5質量部である。減水剤の含有量が上記範囲外であると、可使時間が十分に取れないおそれがある。減水剤の含有量は、可使時間や流動性をより一層確保できるという観点から、結合材100質量部に対し、0.7~4質量部であることが好ましく、1~3質量部であることがより好ましい。
【0023】
増粘剤は特に限定されるものではなく、例えば、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤等が挙げられる。増粘剤としては、中でもセルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0024】
増粘剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.01~3質量部であることが好ましく、0.02~1質量部であることがより好ましく、0.03~0.5質量部であることが更に好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性と水中不分離性を確保しやすい。
【0025】
細骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中から、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度に調整した珪砂、石灰石砂等を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0026】
細骨材は、通常用いられる粒径5mm以下のもの(5mmふるい通過分)を使用することが好ましく、粒径2.5mm以下のもの(2.5mmふるい通過分)が細骨材100質量部に対して90質量部以上であるものを使用することがより好ましく、95質量部以上であるものを使用することがより好ましい。
細骨材において、粒径0.15mm以下の細骨材の含有量は、細骨材100質量部に対し、13.5~25質量部である。粒径0.15mm以下の細骨材の含有量が上記範囲外であると、水中不分離性が低下する。粒径0.15mm以下の細骨材の含有量は、水中不分離性及び流動性が一層優れたものになるという観点から、細骨材100質量部に対し、14~23質量部であることが好ましく、14.5~20質量部であることがより好ましい。
【0027】
細骨材の含有量は、良好な流動性が得られやすく、材料分離抵抗性を確保しやすいという観点から、結合材100質量部に対し、30~100質量部であることが好ましく、35~70質量部であることがより好ましく、40~60質量部であることが更に好ましい。
【0028】
本実施形態の水中不分離グラウト組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては、例えば、発泡剤、消泡剤、セメント用ポリマー、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維、石粉、土鉱物粉末、フライアッシュ、シリカフューム、無機質フィラー、火山灰等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の水中不分離グラウト組成物を製造する方法は、特に限定されず、例えば、V型混合機や可傾式コンクリートミキサー等の重力式ミキサー、ヘンシェル式ミキサー、噴射型ミキサー、リボンミキサー、パドルミキサー等のミキサーにより混合することで製造することができる。
【0030】
本実施形態の水中不分離グラウト組成物は、水と混合して水中不分離グラウトとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、結合材100質量部に対して18~35質量部であることが好ましく、20~30質量部であることがより好ましく、21~25質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、圧縮強度及び割裂引張強度といった強度特性がより一層優れたものとなる。
【0031】
本実施形態の水中不分離グラウトの調製は、通常の水中不分離グラウト組成物と同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、モルタルミキサー、グラウトミキサー、ハンドミキサー、傾胴ミキサー、二軸ミキサー等が挙げられる。
【0032】
本実施形態の水中不分離グラウト組成物及び水中不分離グラウトは、可使時間に優れ、水中不分離性も良好であり、硬化時には圧縮強度及び割裂引張強度といった強度特性に優れたものである。したがって、通常の水中構造物の打設への使用だけでなく、特に強固な強度特性を求められる洋上設備の施工にも好適に使用することができる。その施工方法は特に限定されず、型枠を作り充填する方法等が選択できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例は特に断りがない限り、全て20℃の環境下で行った。
【0034】
[材料]
セメント:
普通ポルトランドセメント
早強ポルトランドセメント
石膏類:無水石膏
非晶質アルミノシリケート:メタカオリン
細骨材:珪砂
減水剤:ポリカルボン酸系減水剤
増粘剤:メチルセルロース系増粘剤
【0035】
[水中不分離グラウトの作製]
セメント、石膏類、非晶質アルミノシリケートからなる結合材100質量部に対して、各種材料を表1に示す割合で配合設計し、水中不分離グラウト組成物を調製した。10Lの円筒容器に配合設計した。セメントは普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントの混合セメントを用い、混合セメント全質量に対する早強セメントの割合についても表1に示す。
水中不分離グラウト組成物と水を添加し、ハンドミキサーで90秒混練してグラウトを作製した。水は結合材100質量部に対し、23質量部となるように添加した。
【0036】
[性能評価]
・流動性及び可使時間
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.「フロー試験」(ただし、15打の落下運動は行わず、引き抜きフローとする)に準じて、各時間経過後の水中不分離グラウトのテーブルフロー値(JIS静置フロー値)を測定した。テーブルフロー値の測定は、20℃環境下で実施し、フローコーンを引き抜き後のテーブルフロー値とした。経時変化後の測定は、ハンドミキサーにて5秒間再撹拌後に行った。比較例1については途中で硬化したため、180分時のフロー値は計測していない。
・水中不分離性
JSCE-D-104-2007「コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格」付随書2(規定)水中不分離性コンクリートの水中不分離度試験方法に準じて、懸濁物質量を測定した。水中不分離性は、同基準書の水中不分離性混和剤の性能規定である懸濁物質量50mg/L以下のものを良好(○)と評価し、50mg/L超のものを不良(×)と評価した。
・圧縮強度
JIS A 1108:2006「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて、材齢28日における圧縮強度を測定した。供試体の寸法は、直径50mm、高さ100mmとした。
・割裂引張強度
JIS A 1113:2018「コンクリートの割裂引張強度試験方法」に準じて
材齢28日における割裂引張強度を測定した。供試体の寸法は、直径100mm、高さ200mmとした。
【0037】
【0038】
実施例の水中不分離グラウトは、180分時でも十分な流動性を保持して可使時間に優れており、水中でも懸濁物量が少なかった。また実施例の水中不分離グラウトは、硬化時における圧縮強度及び割裂引張強度も良好だった。一方で、比較例の水中不分離グラウトは、可使時間、水中不分離性、硬化時の強度特性の両立が満足できなかった。