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  • 特許-フォトマスク及び露光方法 図1
  • 特許-フォトマスク及び露光方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】フォトマスク及び露光方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/38 20120101AFI20231116BHJP
   G03F 1/24 20120101ALI20231116BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G03F1/38
G03F1/24
G03F7/20 521
G03F7/20 503
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020059150
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021157114
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敦
(72)【発明者】
【氏名】高村 一夫
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 潤
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-219373(JP,A)
【文献】特開2002-072453(JP,A)
【文献】特開2005-092066(JP,A)
【文献】特開2010-168474(JP,A)
【文献】特開2012-211948(JP,A)
【文献】特開平07-056325(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0008733(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
G03F 7/20-7/24
G03F 9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面にパターンが形成されたフォトマスク基板と、
前記フォトマスク基板の前記パターンが形成された面と逆の面と接するように配置され、かつ前記フォトマスク基板から剥離可能である保護フィルムと、を有する、フォトマスク。
【請求項2】
前記フォトマスク基板の前記パターンが形成された面を覆うように配置されるペリクルをさらに有する、請求項1に記載のフォトマスク。
【請求項3】
前記保護フィルムの前記フォトマスク基板に接する面のJIS Z0237に準拠して測定される粘着力が0.1N/25mm~10N/25mmである、請求項1又は請求項2に記載のフォトマスク。
【請求項4】
前記保護フィルムが基材層と粘着層とを有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のフォトマスク。
【請求項5】
前記保護フィルムが凹凸吸収層と帯電防止層とをさらに有し、前記基材層、前記凹凸吸収層、前記帯電防止層及び前記粘着層をこの順に備える、請求項4に記載のフォトマスク。
【請求項6】
前記凹凸吸収層は熱可塑性樹脂を含む、請求項5に記載のフォトマスク。
【請求項7】
前記帯電防止層は導電性高分子を含む、請求項5又は請求項6に記載のフォトマスク。
【請求項8】
前記保護フィルムは前記フォトマスク基板を粘着剤でコーティングして形成される、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のフォトマスク。
【請求項9】
前記保護フィルムは少なくとも1つの面に凹凸形状を有する基材を備える、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のフォトマスク。
【請求項10】
前記保護フィルムは前記基材の凹凸形状を有する面の少なくとも一部を覆う表面層をさらに有する、請求項9に記載のフォトマスク。
【請求項11】
前記保護フィルムは前記基材と前記表面層との間に中空構造を有する、請求項10に記載のフォトマスク。
【請求項12】
前記フォトマスク基板は露光光を反射する反射層を有する、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のフォトマスク。
【請求項13】
一方の面にパターンが形成されたフォトマスク基板の前記パターンが形成された面と逆の面に接するように保護フィルムを配置する工程と、
前記保護フィルムを前記フォトマスク基板から剥離する工程と、
前記保護フィルムが剥離された前記フォトマスク基板を露光装置に取り付けて露光を実施する工程と、を含む、露光方法。
【請求項14】
前記保護フィルムの配置は、前記フォトマスク基板に保護フィルムを貼り付けて行う、請求項13に記載の露光方法。
【請求項15】
前記保護フィルムの配置は、前記フォトマスク基板を粘着剤でコーティングして行う、請求項13に記載の露光方法。
【請求項16】
前記フォトマスク基板の取り付けは、前記フォトマスク基板のパターンが形成された面と逆の面が前記露光装置のフォトマスクステージに接するように行う、請求項13~請求項15のいずれか1項に記載の露光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フォトマスク及び露光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、プリント基板、ディスプレイパネル等の物体の表面に感光性の物質を塗布し、パターン状に露光してパターンを形成する技術(フォトリソグラフィー)では、フォトマスクと呼ばれる片面にパターンが形成された透明基板が使用されている。
【0003】
近年、露光パターンの高精細化が進むにつれて、露光の光源として、DUV(Deep Ultra Violet:遠紫外)光に代えて、より短波長のEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光の利用が拡大している。EUV光を用いる露光方法では、露光光を反射する反射層を備えるフォトマスクが使用される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-191285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反射層を備えるフォトマスクは一般に、パターンが形成された面と逆の面を露光機のフォトマスクステージに静電チャックにより固定して使用される。この際、フォトマスクに異物が付着していると、フォトマスクとフォトマスクステージとの間に異物が挟まり、フォトマスクが歪んで露光ができなくなるなどのトラブルが発生する場合がある。フォトマスクに対する異物の付着を回避する方策としては、ペリクルとよばれる防塵カバーの設置、検査の実施などがこれまで行われてきたが、パターン形成技術の変化とともにフォトマスク(特に、パターンが形成された面と逆の面)の汚染を回避する方策が重要性を増している。
【0006】
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、フォトマスクの汚染が効果的に抑制されるフォトマスク、及びこのフォトマスクを用いる露光方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施形態が含まれる。
<1>一方の面にパターンが形成されたフォトマスク基板と、
前記フォトマスク基板の前記パターンが形成された面と逆の面と接するように配置され、かつ前記フォトマスク基板から剥離可能である保護フィルムと、を有する、フォトマスク。
<2>前記フォトマスク基板の前記パターンが形成された面を覆うように配置されるペリクルをさらに有する、<1>に記載のフォトマスク。
<3>前記保護フィルムの前記フォトマスク基板に接する面のJIS Z0237に準拠して測定される粘着力が0.1N/25mm~10N/25mmである、<1>又は<2>に記載のフォトマスク。
<4>前記保護フィルムが基材層と粘着層とを有する、<1>~<3>のいずれか1項に記載のフォトマスク。
<5>前記保護フィルムが凹凸吸収層と帯電防止層とをさらに有し、前記基材層、前記凹凸吸収層、前記帯電防止層及び前記粘着層をこの順に備える、<4>に記載のフォトマスク。
<6>前記凹凸吸収層は熱可塑性樹脂を含む、<5>に記載のフォトマスク。
<7>前記帯電防止層は導電性高分子を含む、<5>又は<6>に記載のフォトマスク。
<8>前記保護フィルムは前記フォトマスク基板を粘着剤でコーティングして形成される、<1>~<3>のいずれか1項に記載のフォトマスク。
<9>前記保護フィルムは少なくとも1つの面に凹凸形状を有する基材を備える、<1>~<3>のいずれか1項に記載のフォトマスク。
<10>前記保護フィルムは前記基材の凹凸形状を有する面の少なくとも一部を覆う表面層をさらに有する、<9>に記載のフォトマスク。
<11>前記保護フィルムは前記基材と前記表面層との間に中空構造を有する、<10>に記載のフォトマスク。
<12>前記フォトマスク基板は露光光を反射する反射層を有する、<1>~<11>のいずれか1項に記載のフォトマスク。
<13>一方の面にパターンが形成されたフォトマスク基板の前記パターンが形成された面と逆の面に接するように保護フィルムを配置する工程と、
前記保護フィルムを前記フォトマスクから剥離する工程と、
前記保護フィルムが剥離された前記フォトマスクを露光装置に取り付けて露光を実施する工程と、を含む、露光方法。
<14>前記保護フィルムの配置は、前記フォトマスク基板に保護フィルムを貼り付けて行う、<13>に記載の露光方法。
<15>前記保護フィルムの配置は、前記フォトマスク基板を粘着剤でコーティングして行う、<13>に記載の露光方法。
<16>前記フォトマスクの取り付けは、前記フォトマスク基板のパターンが形成された面と逆の面が前記露光装置のフォトマスクステージに接するように行う、<13>~<15>のいずれか1項に記載の露光方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、フォトマスクの汚染が効果的に抑制されるフォトマスク、及びこのフォトマスクを用いる露光方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係るフォトマスクの構成を示す概略断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係るフォトマスクに用いる保護フィルムの例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0011】
本開示において、EUV光とは、波長が5nm~30nm、たとえば波長が5nm~13.5nmの光をいう。
本開示では、EUV光、及び、EUV光よりも波長が短い光を「EUV光等」と総称する場合がある。
【0012】
本開示における「フォトマスク」は、レチクルも含む概念である。
本開示において「ペリクル」は、ペリクル枠と、ペリクル膜と、を含む態様を示すものである。
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルのいずれか又は両方を意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートのいずれか又は両方を意味する。
【0013】
<フォトマスク>
本開示の一実施形態に係るフォトマスクは、一方の面にパターンが形成されたフォトマスク基板と、前記フォトマスク基板の前記パターンが形成された面と逆の面と接するように配置され、かつフォトマスク基板から剥離可能である保護フィルムと、を有する、フォトマスクである。
【0014】
上記構成を有するフォトマスクは、フォトマスク基板のパターンが形成された面(以下、パターン面ともいう)と逆の面(以下、裏面ともいう)に保護フィルムが配置されている。また、保護フィルムはフォトマスク基板から剥離可能であるため、フォトマスク基板の裏面に異物が付着しても、保護フィルムを剥離すれば異物も保護フィルムとともに除去される。
例えば、洗浄後のフォトマスク基板の裏面に保護フィルムを貼り付け、露光機に設置する直前に保護フィルムを剥離することで、フォトマスク基板の裏面への異物の付着を回避することができる。
【0015】
フォトマスクは、フォトマスク基板のパターン面を覆うように配置されるペリクルをさらに有していてもよい。ペリクルが配置されていることで、フォトマスク基板のパターン面への異物の付着を回避することができる。
【0016】
本開示の一実施形態に係るフォトマスクの構成の一例を図1に示す。図1に示すフォトマスクは、一方の面にパターン(図示せず)が形成されたフォトマスク基板100と、フォトマスク基板100の裏面に配置される保護フィルム200と、フォトマスク基板100のパターン面を覆うように配置されるペリクル300と、を備えている。ペリクル300は、ペリクル膜301とペリクル枠302とから構成されている。
ペリクル300は、フォトマスク基板100と分離して新品と交換することができる。
【0017】
(フォトマスク基板)
フォトマスクを構成するフォトマスク基板は特に制限されず、フォトリソグラフィーに一般的に使用されるものから選択してもよい。例えば、ガラス等の露光光の透過性が高い基板の一方の面に、露光光の透過性が低い材料を用いて形成したパターンを有するものであってもよい。
【0018】
フォトマスク基板は、EUV光等を光源として用いる場合に使用される、露光光を反射する反射層を有するものであってもよい。
反射層を有するフォトマスク基板は、例えば、支持基板と、支持基板上に積層された反射層と、反射層上に形成された吸収体層と、を含むものであってもよい。
上記構成のフォトマスク基板は、反射層及び吸収体層が設けられた側の面が、光照射面となり、吸収体層が照射光を一部吸収することで、感応基板(例えば、フォトレジスト膜付き半導体基板)上に、所望の像が形成される。
反射層としては、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との多層膜が好適に挙げられる。
吸収体層としては、クロム(Cr)、窒化タンタル等の、EUV光等の吸収性の高い材料からなる層が好適に挙げられる。
【0019】
(保護フィルム)
保護フィルムは、フォトマスク基板から剥離可能な材料であれば特に制限されない。
保護フィルムは、フォトマスク基板に接する面(第1形態の場合は、粘着層)のJIS Z0237に準拠して測定される粘着力が0.1N/25mm~10N/25mmであることが好ましい。
上記粘着力が0.1N/25mm以上であるとフォトマスク基板に対する充分な密着性が得られ、10N/25mm以下であるとフォトマスク基板からの剥離を良好に行うことができる。
【0020】
保護フィルムが粘着性を示す態様は、特に制限されない。例えば、粘着剤を含むことで粘着性を示すものであってもよく、表面に形成された微細な凸部によって粘着性を示すものであってもよい。
【0021】
以下、保護フィルムの具体的態様の例として、基材層と粘着層とを有するもの(第1形態)、フォトマスク基板を粘着剤でコーティングして形成されるもの(第2形態)、少なくとも1つの面に凹凸形状を有する基材を有するもの(第3形態)についてそれぞれ説明する。
【0022】
(第1形態)
第1形態の保護フィルムは、基材層と、粘着層とを有し、必要に応じて他の層を有していてもよい。
【0023】
基材層の材料は、特に制限されない。例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等の樹脂が挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等のポリアミド;ポリアクリレート;ポリメタアクリレート;ポリ塩化ビニル;ポリエーテルイミド;エチレン・酢酸ビニル共重合体;ポリアクリロニトリル;ポリカーボネート;ポリスチレン;アイオノマー;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。基材層に含まれる樹脂は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0024】
基材層は、保護フィルムが後述する放射線硬化性粘着剤を含む粘着層を備える場合、少なくともその放射線を透過可能な材料であることが好ましい。このような樹脂としては、ポリオレフィン及びポリエステルが挙げられる。
【0025】
基材層に含まれる樹脂の密度は、900kg/m以上であることが好ましい。基材層に含まれる樹脂の密度が900kg/m以上であると、貯蔵弾性率が低すぎず、充分な形状保持性が得られる傾向にある。基材層に含まれる樹脂の密度の上限は特に制限されないが、柔軟性を確保する観点からは1450kg/m以下であることが好ましい。
【0026】
基材層は、単層であっても、複数の層の組み合わせであってもよい。基材層が複数の層の組み合わせである場合、それぞれの層が異なる材料を含んでいてもよい。
【0027】
基材層の厚みは、特に制限されない。フォトマスク基板の反りを抑制する観点からは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。基材層の厚みの上限は特に制限されないが、取り扱い性の観点からは100μm以下であることが好ましい。
【0028】
保護フィルムが有する粘着層は、フォトマスク基板に保護フィルムが貼り付けられた状態を維持する機能を有する。
粘着層は、粘着剤を含んでもよい。粘着剤(粘着主剤)の種類は特に制限されず、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、エチレン酢酸ビニル共重合体、オレフィン系粘着剤、ポリブタジエン系粘着剤、ゴム系粘着剤、スチレン系粘着剤等が挙げられる。これらの中でもアクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤及びゴム系粘着剤が好ましく、接着力の調整を容易にする観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。
粘着層に含まれる粘着剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0029】
粘着層は、放射線硬化型粘着剤を含んでもよい。粘着層が放射線硬化型粘着剤を含む場合、例えば、保護フィルムを剥離する際に放射線を照射して粘着剤を硬化させることで粘着力を低下させ、フォトマスク基板からの剥離を容易に行うことができる。照射する放射線は特に制限されず、紫外線、電子線、赤外線等を使用できる。
【0030】
放射線硬化型粘着剤としては、前述の粘着主剤と、分子内に炭素-炭素二重結合を有する化合物と、放射線重合開始剤とを含むもの、分子内に炭素-炭素二重結合を有するポリマーをベースポリマーとする粘着主剤と、放射線重合開始剤とを含むものなどが挙げられる。
【0031】
分子内に炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。分子内に炭素-炭素二重結合を有する化合物の含有量は、例えば、粘着主剤100質量部に対して30質量部以下であってもよい。また、粘着主剤100質量部に対して5質量部以上であってもよい。
【0032】
放射線重合開始剤としては、メトキシアセトフェノンなどのアセトフェノン系光重合開始剤;4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトンなどのα-ケトール化合物;ベンジルジメチルケタールなどのケタール系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸などのベンゾフェノン系光重合開始剤などが挙げられる。
【0033】
放射線硬化型粘着剤は、必要に応じて架橋剤をさらに含んでもよい。架橋剤としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリイソシアネートなどのイソシアネート系架橋剤が挙げられる。
【0034】
粘着層の厚みは、特に制限されない。例えば、5μm~200μmであってもよい。
【0035】
第1形態の保護フィルムは、基材層と粘着層との間に凹凸吸収層及び帯電防止層の少なくとも一方を有していてもよい。
ある実施態様では、保護フィルムは、基材層と、凹凸吸収層と、帯電防止層と、粘着層とをこの順に有する。
【0036】
凹凸吸収層の材質は、特に制限されない。例えば、凹凸吸収性を発現する樹脂を含んでもよい。
凹凸吸収性を発現する樹脂としては、オレフィン系樹脂、エチレン・極性モノマー共重合体、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの中でも、オレフィン系樹脂およびエチレン・極性モノマー共重合体が好ましい。凹凸吸収層に含まれる樹脂は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0037】
オレフィン系樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとを含むエチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレンと炭素数4~12のα-オレフィンとを含むプロピレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・環状オレフィン共重合体、エチレン・α-オレフィン・環状オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0038】
エチレン・極性モノマー共重合体としては、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸プロピル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等のエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・プロピオン酸ビニル共重合体、エチレン・酪酸ビニル共重合体、エチレン・ステアリン酸ビニル共重合体等のエチレン・ビニルエステル共重合体等が挙げられる。
【0039】
エチレン・α-オレフィン共重合体における炭素原子数3~12のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が挙げられ、中でもプロピレン及び1-ブテンが好ましい。
【0040】
これらの中でも、貼り付け時の凹凸吸収性に優れる点で、低密度ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・炭素原子数4~12のα-オレフィンの三元共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体;プロピレン・1-ブテン・炭素原子数5~12のα-オレフィンの三元共重合体;及びエチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましく、エチレン・プロピレン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体がより好ましい。
【0041】
凹凸吸収層の厚みは、特に制限されない。凹凸吸収性とその他の特性のバランスの観点からは、10μm~500μmであってもよく、20μm~400μmであってもよく、30μm~300μmであってもよく、50μm~250μmであってもよい。
【0042】
凹凸吸収層の密度は、特に制限されない。機械的強度と凹凸吸収性とのバランスの観点からは、800kg/m~990kg/mであってもよく、830kg/m~980kg/mであってもよく、850kg/m~970kg/mであってもよい。
【0043】
帯電防止層は、保護フィルムをフォトマスク基板から剥離する際に発生する静電気の量を抑制する役割を果たす。
【0044】
帯電防止層の材質は、特に制限されない。例えば、導電性高分子を含んでもよい。
導電性高分子としては、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリ(p-フェニレンビニレン)系導電性高分子、ポリキノキサリン系導電性高分子等が挙げられる。帯電防止層に含まれる導電性高分子は1種のみでも2種以上であってもよい。
【0045】
光学特性や外観、帯電防止性、塗工性、安定性等のバランスが良好であるという観点からは、ポリチオフェン系導電性高分子が好ましい。ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリチオフェンが挙げられる。
【0046】
帯電防止層は、ドーピング剤を含んでもよい。ドーピング剤は、導電性高分子に導電性をより確実に付与(ドーピング)する物質である。
ドーピング剤としては、スルホン酸系化合物が挙げられる。ドーピング剤としてスルホン酸系化合物を添加すると、導電性高分子とスルホン酸系化合物とが一部反応してスルホン酸塩を形成し、このスルホン酸塩の作用により帯電防止層の帯電防止機能が向上する。
【0047】
スルホン酸系化合物としては、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メシチレンスルホン酸、m-キシレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等が挙げられる。導電性高分子の溶解性又は水分散性を向上させる観点から、ポリスチレンスルホン酸及びポリビニルスルホン酸が好ましい。
ドーピング剤の含有量は、例えば、導電性高分子100質量部に対して100質量部~300質量部である。
【0048】
導電性高分子とドーピング剤との組み合わせとしては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との組み合わせが帯電防止性により優れるため好ましい。
【0049】
帯電防止層は、バインダー樹脂を含んでもよい。帯電防止層がバインダー樹脂を含んでいると、皮膜形成性、密着性等が向上する傾向にある。
バインダー樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等が挙げられる。帯電防止層に含まれるバインダー樹脂は1種のみでも2種以上であってもよい。
バインダー樹脂の含有量は、例えば、導電性高分子100質量部に対して10質量部~500質量部であってもよい。
【0050】
帯電防止層30の厚みは、特に制限されない。帯電防止性能とその他の特性のバランスの観点からは、0.01μm~10μmであってもよく、0.01μm~5μmであってもよく、0.01μm~1μmであってもよい。
【0051】
(第2形態)
第2形態の保護フィルムは、フォトマスク基板を粘着剤でコーティングして形成されるものである。コーティングに用いる粘着剤の種類は特に制限されず、上述した粘着層に含まれる粘着剤から選択してもよい。
【0052】
コーティングの方法は特に制限されず、スプレーコーティング、刷毛塗り等で行うことができる。厚みの均一な皮膜を形成する観点からは、スプレーコーティングが好ましい。
【0053】
厚みの均一な皮膜を形成する観点からは、粘着剤は、公知の溶剤に溶解した粘着剤溶液の状態でコーティングされることが好ましい。
粘着剤溶液に用いる溶剤とは特に制限されず、公知の溶剤を用いることができる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライド、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメーチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-プロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピルアセテート、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル等が挙げられる。粘着剤溶液に用いる溶剤は、1種のみでもよく、2種以上であってもよい。
【0054】
粘着剤溶液の固形分濃度は、特に制限されない。例えば、固形分濃度が1質量%~50質量%程度であることが好ましい。
【0055】
粘着剤を含むコーティングの厚みは、特に制限されない。強度と剥離性のバランスの環手からは、10μm~200μmであってもよく、25μm~100μmであってもよい。
【0056】
必要に応じ、粘着剤を含むコーティングの上に、樹脂フィルム等の別の材料を配置してもよい。
【0057】
(第3形態)
第3形態の保護フィルムは、少なくとも1つの面に凹凸形状を有する基材を備える。
上記構成の保護フィルムは、基材の凹凸形状に由来する物理的作用によって粘着性を発揮する。上記構成の保護フィルムは粘着剤を含まないため、保護フィルムを剥離した後のフォトマスク基板に粘着剤が残存するのを回避できる。
【0058】
凹凸形状に由来する物理的作用を利用した粘着材料については、例えば、国際公開第2014/124352号、Adv.Mater.19,1973-1977(2007)等の記載を参照できる。
【0059】
基材が有する凹凸形状は、フォトマスク基板に対して必要な粘着性を示す形状であれば特に制限されない。また、凹凸形状は基材の片面にのみ形成されていても、両面に形成されていてもよい。
【0060】
凸部の形状は特に限定されず、円柱状、円錐状、テーパ状、逆テーパ状、長方体状、多角形柱状、きのこ形状、ダンベル形状等の任意の形状であってよい。また、基材における凸部は、その中心軸が鉛直方向(基材の厚み方向)に対して傾斜していてもよい。
【0061】
凸部の幅は、0.1μm~500μmであることが好ましく、0.5μm~400μmであることがより好ましく、1μm~300μmであることがさらに好ましい。
本開示において、凸部の幅とは、凸部の底部の周囲を2つの平行な面で挟んだときに場合に、面間距離が最大となる長さを指す。
凸部が、例えば、円柱状又は円錐状の場合、底部の直径が凸部の幅に相当し、直方体状の場合、底部の対角線の長さが凸部の幅に相当し、三角柱状の場合、底部のある一辺と、当該ある一辺を構成していない頂点との距離の最大値が凸部の幅に相当する。
【0062】
基材における凸部間の距離は、0.1μm~500μmであることが好ましく、1μm~400μmであることが好ましく、2μm~300μmであることがさらに好ましい。
本開示において、凸部間の距離とは、隣接する凸部のうち、2つの凸部の側面間の距離が最短となる長さを指す。
【0063】
基材における凸部の高さは、0.1μm~2000μmであることが好ましく、1μm~1000μmであることが好ましく、2μm~500μmであることがさらに好ましい。
【0064】
凸部の幅に対する凸部の高さの比(凸部の高さ/凸部の幅)は、0.5~15であることが好ましく、0.8~10であることがより好ましく、1~5であることがさらに好ましい。上記比が0.5以上であると、被着体との粘着性により優れる傾向にあり、15以下であると、凸部の強度に優れる傾向にある。
【0065】
凸部の幅に対する凸部間の距離の比(凸部間の距離/凸部の幅)は、0.2~10であることが好ましく、0.5~8であることがより好ましく、0.8~5であることがさらに好ましい。上記比が0.2以上であると、加工性や凸部の形状安定性に優れる傾向にあり、10以下であると、被着体との粘着性により優れる傾向にある。
【0066】
凸部の底部の合計面積に対する凹部の底面の合計面積比(凹部の底面の合計面積/凸部の底部の合計面積)は、保護フィルムの粘着性及び形状保持性の点から、1~100であることが好ましく、1.5~50であることがより好ましく、2~20であることがさらに好ましい。
【0067】
基材における凹凸形状が占める領域(凸部が占める領域と凹部が占める領域の合計)において、凸部の占める割合(体積比)は、保護フィルムの粘着性及び形状保持性の点から、0.0001~0.5であることが好ましく、0.02~0.4であることがより好ましく、0.05~0.33であることがさらに好ましい。
【0068】
凹凸形状を有する基材に含まれる材料は、特に限定されず、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂及びカーボネート系樹脂等の樹脂が挙げられる。中でも、凸部の形状保持の点から、オレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド樹脂及びシリコーン系樹脂が好ましい。
【0069】
凹凸形状を有する基材は、凸部の形状保持及びべたつき抑制の点から、弾性率が高く、かつタック性が低い材料から形成されていることが好ましい。
【0070】
前述の基材の25℃における貯蔵弾性率は、インプリント加工性と粘着性との両立の点から、1MPa~1GPaであることが好ましく、5MPa~1GPaであることがより好ましく、10MPa~50MPaであることがさらに好ましい。
基材の貯蔵弾性率は、上述した第1形態の保護フィルムの基材層の貯蔵弾性率の測定方法に準じて測定できる。
【0071】
基材に凹凸形状を形成する方法は特に制限されず、公知の方法で行うことができる。例えば、ナノインプリント技術にて基材の面上に凸部をパターニングして形成してもよい。
【0072】
基材は、紫外線、熱等の刺激を与えることにより化学構造が変化する物質を含んでいてもよい。これにより、例えば、基材に刺激を与えるとフォトマスク基板に対する粘着力が低減する構成としてもよい。
【0073】
保護フィルムは、基材の凹凸形状を有する面の少なくとも一部を覆う表面層をさらに有していてもよい。表面層は、基材における凸部の先端部上に配置され、凹凸形状を有する面の少なくとも一部を覆う構成であればよい。
【0074】
表面層は、基材における複数の凸部の先端部上にまたがって配置されていることが好ましく、例えば、基材における10個以上の凸部の先端部上にまたがって配置されていてもよい。ここで、「表面層は、基材における複数の凸部の先端部上にまたがって配置されている」とは、少なくとも1つの表面層が複数の凸部の先端部上にまたがって配置されていることを意味する。表面層は、複数の凸部の先端部上にまたがって配置され、これら複数の凸部を覆う連続層であることが好ましい。保護フィルムは、複数の凸部の先端部上にまたがって配置されている表面層を複数有していてもよい。複数の表面層を備える場合、複数の表面層は別々に存在し、複数の凸部の先端部上にまたがってそれぞれ配置されていることが好ましい。
【0075】
保護フィルムは、基材と表面層との間に中空構造を有していてもよい。
例えば、図2に示すように、凸部2と凹部6とからなる凹凸形状を有する基材1と、基材1の凹凸形状を覆うように配置される表面層3との間に、凹部6に対応する空間からなる中空構造を有していてもよい。
基材1と表面層3との間に形成される空間の形状は、保護フィルムをフォトマスク基板に貼り付ける際に変化してもよい。
【0076】
表面層の厚さに対する基材における凸部の高さの比(凸部の高さ/表面層の厚さ)は、0.2~1000であることが好ましく、0.5~500であることがより好ましく、1.0~100であることがさらに好ましい。
【0077】
表面層の厚さは、フォトマスク基板に対する粘着性をより高める点および加工性の観点から、0.1μm~50μmであることが好ましく、1μm~20μmであることがより好ましく、3μm~15μmであることがさらに好ましい。
【0078】
表面層に含まれる材料は、特に限定されず、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂及びカーボネート系樹脂等の樹脂が挙げられる。中でも、フォトマスク基板への低汚染性が優れる点から、オレフィン系樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂又はシリコーン系樹脂が好ましい。
【0079】
基材と表面層とは、同じ種類の材料を含んでいてもよく、例えば、基材と表面層とがともにシリコーン系樹脂を含んでいてもよい。
【0080】
表面層は、凸部の形状保持及びべたつき抑制の点から、弾性率が高く、かつタック性が低い材料から形成されていることが好ましい。
【0081】
前述の表面層の25℃における貯蔵弾性率は、1MPa~1GPaであることが好ましく、5MPa~1GPaであることがより好ましく、10MPa~50MPaであることがさらに好ましい。また、表面層の25℃における貯蔵弾性率は、基材の25℃における貯蔵弾性率よりも小さいことが好ましい。
表面層の貯蔵弾性率は、上述した第1形態の保護フィルムの基材層の貯蔵弾性率の測定方法に準じて測定できる。
【0082】
(ペリクル)
フォトマスクがペリクルを備えている場合、ペリクルの種類は特に制限されず、用途等に応じて選択できる。
ペリクルを構成するペリクル膜の材質は特に制限されず、有機系材料であっても、無機系材料であっても、有機系材料と無機系材料との組み合わせであってもよい。
有機系材料としては、フッ素系ポリマー等が挙げられる。
無機系材料としては、結晶シリコン(単結晶シリコン、多結晶シリコン等)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラファイト、アモルファスカーボン、グラフェン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。
ペリクル膜は、上記材料を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0083】
ペリクル膜は、単層であっても、二層以上からなる構成であってもよい。
ペリクル膜の厚み(二層以上からなる場合には総厚み)は、10nm~200nmであることが好ましく、10nm~100nmであることがより好ましく、10nm~70nmであることがさらに好ましく、10nm~50nmであることが特に好ましい。
【0084】
ペリクルを構成するペリクル枠の材質は、特に制限されない。例えば、アルミニウム、アルミニウム合金(5000系、6000系、7000系等)、ステンレス、シリコン、シリコン合金、鉄、鉄系合金、炭素鋼、工具鋼、セラミックス、金属-セラミックス複合材料、樹脂等が挙げられる。中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金が、軽量かつ剛性の面から好ましい。
【0085】
ペリクル枠は、表面に保護膜を有していてもよい。保護膜は、露光雰囲気中に存在する水素ラジカルおよび露光に用いるに対して耐性を有することが好ましい。
保護膜としては、例えば、酸化被膜が挙げられる。酸化被膜は、陽極酸化等の公知の方法によって形成することができる。また、酸化被膜は、黒色系染料によって着色されていてもよい。ペリクル枠が黒色系染料によって着色された酸化被膜を有する場合には、ペリクル枠上の異物の検出がより容易となる。
【0086】
<露光方法>
本開示の一実施形態に係る露光方法は、一方の面にパターンが形成されたフォトマスク基板の前記パターンが形成された面と逆の面に接するように保護フィルムを配置する工程と、
前記保護フィルムを前記フォトマスク基板から剥離する工程と、
前記保護フィルムが剥離された前記フォトマスク基板を露光装置に取り付けて露光を実施する工程と、を含む、露光方法である。
【0087】
上記方法によれば、露光装置に取り付ける前のフォトマスク基板のパターンが形成された面と逆の面の汚染が効果的に抑制される。
【0088】
フォトマスク基板に保護フィルムを配置する方法は特に制限されず、使用する保護フィルムの形態等に応じて選択できる。例えば、上述した第1形態又は第3形態の保護フィルムを用いる場合は、フォトマスク基板に保護フィルムを必要に応じて加熱しながら貼り付けて行うことができる。第2形態の保護フィルムを用いる場合は、粘着剤でフォトマスク基板をコーティングして行うことができる。
【0089】
フォトマスク基板の汚染を抑制する観点からは、保護フィルムをフォトマスク基板から剥離する工程は、フォトマスク基板を露光装置に取り付ける作業の直前であることが好ましい。
【0090】
上記方法は、フォトマスク基板を洗浄する工程を含んでもよい。この場合、フォトマスク基板の汚染を抑制する観点からは、保護フィルムをフォトマスク基板に配置する工程は、フォトマスク基板を洗浄する工程の直後であることが好ましい。
【0091】
フォトマスク基板のパターンが形成された面を覆うようにペリクルを配置する工程を含んでもよい。ペリクルを配置する方法は特に制限されず、接着剤等を用いて公知の方法により行うことができる。保護フィルムの配置とペリクルの配置は、いずれを先に行ってもよい。
【0092】
上記方法は、フォトマスク基板に異物が付着しているか否かを検査する工程を含んでもよい。検査は、保護フィルムの配置前、保護フィルムの配置後かつ剥離前、保護フィルムの剥離後のいずれに行ってもよく、検査を実施する回数は1回でも複数回であってもよい。
【0093】
上記方法において、フォトマスク基板を露光装置に取り付ける方法は、特に制限されない。例えば、フォトマスク基板のパターンが形成された面と逆の面が露光機のフォトマスクステージに接するように、静電チャック等により固定してもよい。
【0094】
上記方法では、フォトマスク基板のパターンが形成された面と逆の面への異物の付着が保護フィルムによって抑制されているため、フォトマスクとフォトマスクステージとの間に異物が挟まりにくく、露光時のトラブルが発生しにくい。このため、保護フィルムを使用しない従来の方法に比べて生産性が向上する。
【実施例
【0095】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
<実施例1>
予め洗浄したフォトマスク基板の裏面に、200mm×200mmに切り出した基材上に粘着層が形成された粘着テープ(イクロステープ、SB-150HND-R2、三井化学東セロ株式会社)を常温にて、ロール貼り付けをし、保護フィルムを配置した。
保護フィルムが配置された状態のフォトマスク基板を、24時間クリーンルーム内に静置した。その後、保護フィルムをフォトマスク基板から剥がし、露出した面に存在する最大径が3μm以上の異物の数を表面パーティクルスキャナ(YPI-200MX、株式会社山梨技術工房)を用いて測定した。洗浄直後のフォトマスク基板の裏面(保護フィルムの配置前)についても同様に異物の数を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
<実施例2>
粘着テープを貼り付ける代わりに、フォトマスク基板の裏面を粘着剤(エルエフティー株式会社製、製品名:液体フィルムスプレー)でコーティングして保護フィルムを形成したこと以外は実施例1と同様のプロセスを行った。
【0098】
<実施例3>
図2に示すような構成の保護フィルムを以下の方法で作製した。
エポキシアクリレート(ダイセル・オルネクス社、EBERCRYL3500)100質量部と光重合開始剤(IGM Resins B.V.社、Omnirad184)2質量部を混合して攪拌し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、ニッケル製300mm角モールド(2次元正方格子状に配置された凹パターン、凹部の高低差:15μm、凹部の形状:ホール、凹部の幅(ホールの直径):5μm、凹部の幅(ホールの間隔):5μm、凹部のアスペクト比(深さ/直径)3:1)に滴下し、50μmのギャップで塗工し、ポリエステル系離型フィルム(東洋紡社製TN100)を貼り合わせた状態でUV照射(1000mJ/cm)した。その後、モールドから硬化樹脂シートを剥がし、片面に2次元正方格子状(凸部間の距離:5μm)に配置された円柱状の凸形状(幅:5μm、高さ:15μm)を有する基材を得た。
次に、表面層となるフィルムを以下のように作成した。前記樹脂組成物をテフロン(登録商標)製のシャーレに滴下し、UV照射(500mJ/cm)して、厚さ10μmのフィルムを得た。
続いて、基材の凸形状を有する面側に表面層となるフィルムを貼り合わせ、UV照射(1000mJ/cm)にて本硬化して、基材と表面層との間に中空構造を有する保護フィルム(離型フィルムを除く基材部分の厚み:50μm、表面層部分の厚み:10μm)を作製した。
粘着テープの代わりに、作製した保護フィルムの表面層側をフォトマスク基板の裏面に貼り付けたこと以外は実施例1と同様のプロセスを行った。
【0099】
<比較例1>
フォトマスク基板の裏面に保護フィルムを配置しなかったこと以外は実施例1と同様のプロセスを行った。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示すように、保護フィルムを配置しなかった比較例のフォトマスク基板は、クリーンルーム内に24時間静置した後の異物数が洗浄直後と比べて増大した。これに対し、保護フィルムを配置した実施例のフォトマスク基板は、クリーンルーム内に24時間静置した後の異物数が洗浄直後からほとんど変化がなく、表面の汚染が効果的に抑制されていた。
【符号の説明】
【0102】
100…フォトマスク基板
200…保護フィルム
300…ペリクル
301…ペリクル膜
302…ペリクル枠
1…基材
2…凸部
3…表面層
6…凹部
図1
図2