(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 11/00 20060101AFI20231116BHJP
A62C 3/10 20060101ALI20231116BHJP
B63B 43/00 20060101ALI20231116BHJP
B63B 11/04 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B63B11/00 Z
A62C3/10
B63B43/00 Z
B63B11/04 Z
(21)【出願番号】P 2020093017
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】立石 昌也
(72)【発明者】
【氏名】日本貴 秀一
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-1358(JP,A)
【文献】特開2007-14377(JP,A)
【文献】実開昭61-42953(JP,U)
【文献】特開2011-207364(JP,A)
【文献】特開昭58-15870(JP,A)
【文献】特開2015-181546(JP,A)
【文献】特開2018-149920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 11/00
A62C 3/10
B63B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも船尾側船底が船底外殻および船底内殻を備え、
前記船底外殻および前記船底内殻の間にバラスト水を貯めるバラスト水貯留空間が形成され、
船殻内の船尾隔壁よりも船尾側にある船尾側空間内に非常用消火ポンプが配置されている船舶であって、
前記船底内殻の一部に開口部を有し且つ前記船底外殻側に凹んだポンプ設置空間が形成されており、
前記バラスト水貯留空間と前記ポンプ設置空間とは、液密に仕切られており、
前記ポンプ設置空間内には、前記船底外殻に溶接されて前記船底外殻を補強する補強用構造物の一部が露出しており、
前記補強用構造物の前記一部に前記非常用消火ポンプが固定されていることを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記船底内殻が舵機室床を兼ねている請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記船底外殻の内面の一部が前記ポンプ設置空間の一面を形成している請求項2に記載の船舶。
【請求項4】
前記ポンプ設置空間は、設置した前記非常用消火ポンプの周囲に前記非常用消火ポンプの設置及び保守点検作業に必要な作業用スペースを備えている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項5】
前記作業用スペース内には、前記非常用消火ポンプの固定に使用されない前記補強用構造物の一部が露出している請求項4に記載の船舶。
【請求項6】
前記ポンプ設置空間は、前記船殻の長手方向及び垂直方向に延びて前記船殻を二分する仮想平面によって二分される位置に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項7】
前記船尾隔壁と前記ポンプ設置空間と前記船底外殻に隣接し且つ前記仮想平面によって二分される位置にあって、前記バラスト水貯留空間と連通し、前記補強用構造物の存在によって前記船底外殻上に残留する残留バラスト水を漲排水するための漲排水口を備えた漲排水室をさらに備えている請求項6に記載の船舶。
【請求項8】
前記漲排水室の一部が前記ポンプ設置空間の下方に位置する請求項7に記載の船舶。
【請求項9】
前記非常用消火ポンプは、前記ポンプ設置空間内の前記船尾隔壁側に寄った位置に設置されている請求項1乃至8のいずれか1項に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船尾隔壁よりも船尾側に非常用消火ポンプを設置する船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2018-149920号公報(特許文献1)の
図3乃至
図6には、船尾隔壁4よりも船尾20側に非常用消火ポンプ6を設置し、非常用消火ポンプ6の設置床面8を作業エリア床面9よりも下にした船舶が開示されている。またこの公報の
図2および
図3には、非常用消火ポンプ6の設置区間を船体中心線に対して片側で、船体中心線側に配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明では、非常用消火ポンプ6の設置床面8を作業エリア9よりも下にすることにより、非常用消火ポンプ6の設置位置をより下方に位置させることを可能にしている。しかし特許文献1には、二重船底でバラストタンクを備えた船舶を対象とする場合については言及されていない。
【0005】
本発明の目的は、少なくとも船尾側船底にバラスト水貯留空間を有する場合でも、非常用消火ポンプの設置位置をさらに下方にすることができる船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも船尾側船底に船底外殻および船底内殻を備え、船底外殻および船底内殻の間にバラスト水を貯めるバラスト水貯留空間が形成され、船殻内の船尾隔壁よりも船尾側にある船尾側空間内に非常用消火ポンプが配置されている船舶を対象とする。本発明においては、船底内殻の一部に開口部を有し且つ船底外殻側に凹んだポンプ設置空間が形成される。バラスト水貯留空間とポンプ設置空間とは、液密に仕切られている。ポンプ設置空間内には、船底外殻に溶接されて船底外殻を補強する補強用構造物の一部が露出している。そして補強用構造物の一部に非常用消火ポンプが固定されている。
【0007】
本発明においては、船底内殻の一部を除いて、船底内殻よりも下にポンプ設置空間を形成する。そして船底外殻に溶接される補強用構造物の一部をポンプ設置空間に露出させ、補強用構造物の一部を利用して非常用消火ポンプを固定した。その結果、バラスト水貯留空間があっても、船殻の強度を維持した上で、非常用消火ポンプの設置位置を船殻の船底外殻に最も近い位置に下げることができる。
【0008】
なお船底内殻が舵機室床を兼ねていてもよい。船底内殻が舵機室床を兼ねている場合には、作業者のポンプ設置空間へのアクセスが容易である。
【0009】
また船底外殻の内面の一部がポンプ設置空間の一面を形成していてもよい。この場合には、ポンプ設置空間を最も広く確保することができる。
【0010】
ポンプ設置空間は、設置した非常用消火ポンプの周囲に非常用消火ポンプの設置及び点検作業に必要な作業用スペースを備えているのが好ましい。作業用スペースの底面としては、船底外殻の内面そのものを利用することができる。その結果、非常用消化ポンプの設置作業及び保守点検作業を簡単に行える。
【0011】
作業用スペース内には、非常用消火ポンプの固定に使用されない補強用構造物の一部が露出していてもよい。船底外殻に溶接される補強用構造物は、残しておけば、船殻の強度低下に影響を与えることがない。
【0012】
またポンプ設置空間は、船殻の長手方向及び垂直方向に延びて船殻を二分する仮想平面によって二分される位置にポンプ設置空間を形成すると、非常用ポンプ設置位置を船底内殻よりも下方に下げた場合でもバラスト水貯留空間の対称性が維持できるので、船殻の強度を維持することができる。なお本発明は、ポンプ設置空間が、船殻の長手方向及び垂直方向に延びて船殻を二分する仮想平面によって二分される位置に配置されない場合であっても、効果を発揮するものである。
【0013】
船尾隔壁とポンプ設置空間と外殻に隣接し且つ仮想平面によって二分される位置にあって、バラスト水貯留空間と連通し、補強用構造物の存在によって外殻上に残留するバラスト水を漲排水するための漲排水口を備えた漲排水口室をさらに備えているのが好ましい。このようにすると、補強用構造物の存在によって外殻上に残留するバラスト水を早期に排出することができるので、バラスト水の排水時間を短縮することができる。
【0014】
なお漲排水室の一部がポンプ設置空間の下方に位置するようにすると、漲排水室を構成する構造物を、ポンプを支持するための構造物として利用することができる。そのためポンプの支持のために、格別な補強構造を必要としない。
【0015】
非常用消火ポンプを、ポンプ設置空間内の船尾隔壁側に寄った位置に設置すれば、船底外殻の船尾側の上方に向かう湾曲部を従来よりも上方に位置させることが可能になり、より大径のプロペラを使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を適用する対象となる船舶の横断面図である。
【
図2】本発明を適用した船舶の実施の形態の一例を説明するために用いる非常用消火ポンプの設置位置を説明するための概略図である。
【
図3】本発明を適用した船舶の実施の形態の一例を説明するために用いる非常用消火ポンプの設置位置を説明するための概略図である。
【
図4】非常用消火ポンプのポンプ設置空間の位置と構造を示すために、船舶の内部の船尾側空間の船底側の構造を示す一部省略斜視図である。
【
図5】非常用消火ポンプのポンプ設置空間の位置と構造を示すために、
図4の一部を拡大して示した拡大斜視図である。
【
図6】非常用消火ポンプのポンプ設置空間の位置と構造を示すために、
図4の一部を拡大して示した拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用する対象となる船舶1の横断面図であり、
図2および
図3は、本発明を適用した船舶1の実施の形態の一例を説明するために用いる非常用消火ポンプ3の設置位置を説明するための概略図である。また
図4乃至
図6は、非常用消火ポンプ3のポンプ設置空間8の位置と構造を示すために、船舶1の内部の船尾側空間7の船底側の構造を示す一部省略斜視図である。なお
図4及び
図6においては、後述する船尾隔壁21が省略されている。
図4においては、船尾側船底の船底内殻11を透明なものとみなしてハッチングを付して示しており、
図5においては、船尾隔壁21を透明なものとみなして、ハッチングを付して示してある。
【0018】
本実施の形態の船舶1は、
図1に示すように船底外殻9および船底内殻11からなる二重船底13と船側外殻15および船側内殻17からなる二重船側壁19を有するダブルハル構造の船殻を有する船舶である。この船舶1は、
図1に示すように船尾よりも前方側の領域では船底外殻9と船底内殻11との間、船側外殻15と船側内殻17との間に形成される空間が、バラストタンクを形成するためのバラスト水貯留空間Sを構成している。そして
図2に示すように船尾側では、船尾側船底を構成する船底外殻9および船底内殻11の間に形成される空間が、バラスト水が入るバラストタンクを形成するためのバラスト水貯留空間Sを構成している。
【0019】
船尾側船底における船底外殻9および船底内殻11との間および船側外殻15および船側内殻17との間には、スペースSを維持するためのスペース維持用の補強用構造物が設置されている。
図4乃至
図6に示すように、例えば、船底外殻9の内壁面には、船底外殻9を補強するための補強用構造物16が設けられている。本実施の形態の補強用構造物16は、複数枚の補強用
板材16Aが船殻の長手方向と交差する方向に延び、且つ長手方向に間隔をあけて設けられ、また複数枚の補強用
板材16Aと交差し長手方向に延びる中央の補強用板材16B
(図6)が組み合わされた構造を有している。なお
図4乃至
図6には、船底外殻9を補強する補強用構造物16の一部だけを図示してある。
【0020】
本実施の形態の船舶1では、
図2及び
図4に示すように、船尾側船底の船底内殻11のうち舵機室床を構成する部分の一部を除くようにして開口部12を形成してある。そして、この開口部12から船底外殻9側に延びる3枚の隔壁板7A乃至7Cと船尾隔壁21と船底外殻9の内面の一部によって囲まれた空間(船底外殻側に凹んだ空間)が、ポンプ設置空間8を構成している。言い換えれば、本実施の形態では、船底外殻の内面の一部がポンプ設置空間8の一面を形成している。その結果、ポンプ設置空間8を最も広く確保することができる。このポンプ設置空間8は、角柱状の空間を呈している。3枚の隔壁板7A乃至7Cの下端部は船底外殻9に溶接されており、また3枚の隔壁板7A乃至7Cの上端部は船底内殻11の開口部12の周縁部に溶接されている。さらに隔壁板7A乃至7Cの下端部は、補強用板材16A及び16Bと交差した状態で相互に溶接されている。また、2枚の隔壁板7A及び7Cの一方の側方端部は船尾隔壁21に溶接され、他方の側方端部は隔壁板7Bの両方の側方端部に溶接されている。
【0021】
なお本実施の形態では、
図3に示すように、ポンプ設置空間8は、船殻の長手方向及び垂直方向に延びて船殻を二分する仮想平面PSによって二分される位置に形成されている。また船尾隔壁21とポンプ設置空間8と船底外殻9に隣接し且つ仮想平面PS(
図3)によって二分される位置に、バラスト水貯留空間Sと連通し、補強用構造物16の存在によって船底外殻9上に残留す
るバラスト水W(
図6)を排水するための排水口となる漲排水口24(
図5)を備えた漲排水室25をさらに備えている。本実施の形態では、漲排水口24から漲水も行う。
【0022】
この漲排水室25の一部がポンプ設置空間8の下方に位置している。本実施の形態の漲排水室25は、ポンプ設置空間8の底部の一部を構成する天板25Aと、隔壁板7A及び7Bの一部と、補強用構造物16の最も前方側に位置する一枚の補強用板材16Aの一部と、該補強用板材16Aと対向する前方壁25Bと船底外殻9の一部、及び該船底外殻9の一部に連結された前方に延びる延長壁部25C(
図2)によって構成される構造物の内部に形成されている。天板25Aの一部の上には、非常用消火ポンプ3のベース31の一部が載っており、隔壁板7A及び7Cの下側端部でバラスト水貯留空間Sと対向し、船尾隔壁21に接続される部分には、バラスト水貯留空間S内か
らバラスト水Wを漲排水室25内に導入する導入孔26が形成されている。なお複数枚の補強用板材
16A及び16Bには、船底外殻9上に残るバラスト水が通る貫通孔hが船底外殻9の内面に近い適宜の場所にそれぞれ形成されている。また漲排水口24は、前方壁25Bを貫通して漲排水室25の底面に向かう図示しない漲排水パイプの先端に設けられている。この漲排水口24と漲排水室
25の底面との間の隙間か
らバラスト水Wを排出する。
【0023】
本実施の形態によれば、非常用ポンプ設置位置を船底内殻11よりも下方に下げた場合でもバラスト水貯留空間Sの対称性が維持できるので、船殻のバランスが影響を受けることがない。
【0024】
本実施の形態では、ポンプ設置空間8の底部には、3枚の補強用板材16Aの一部及び1枚の補強用板材16Bの一部が、ポンプ設置空間8内に露出している。そして本実施の形態では、1枚の補強用板材16Aと1枚の補強用板材16Bの交点部の上に、非常用消火ポンプ3のベース31が、溶接またはボルト等の固定手段を用いて固定されている。本実施の形態によれば、二重船底の機能と、船殻の強度を維持した上で、非常用消火ポンプ3の設置位置を船殻の船底外殻9の近くまで下げることができる。
【0025】
本実施の形態は、ダブルハル構造を有する船舶に本発明を適用したものであるが、本発明は少なくとも一部において二重船底を有する船舶であれば、適用可能である。
【0026】
また本発明は、漲排水室25を有しない船舶にも適用できる。さらに本発明は、ポンプ設置空間8が、船尾隔壁21から船尾側に離れて形成される場合や、仮想平面PS(
図3)によって二分される位置から幅方向に外れた位置に設けられる場合にも、当然にして適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、船尾側船底にバラスト水貯留空間を有する場合でも、非常用消火ポンプの設置位置を従来よりもさらに下方に下げることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 船舶
3 非常用消火ポンプ
7 船尾側空間
8 ポンプ設置空間
9 船底外殻
11 船底内殻
13 二重船底
15 船側外殻
16 補強用構造物
17 船側内殻
21 船尾隔壁
24 漲排水口
25 漲排水室
S バラスト水貯留空間
W バラスト水
h 貫通孔