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特許7386136雲高計測装置、計測点決定方法、および雲種類決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】雲高計測装置、計測点決定方法、および雲種類決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20231116BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01W1/00 E
G01B11/02 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020115520
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013152
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三木 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】森田 健一
(72)【発明者】
【氏名】蛯原 佳大
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-170350(JP,A)
【文献】特開2019-060754(JP,A)
【文献】特開2012-242322(JP,A)
【文献】特開2019-211342(JP,A)
【文献】米国特許第06085152(US,A)
【文献】韓国登録特許第1183105(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第101539424(CN,A)
【文献】Lei Liu et al.,Comparison of Cloud Base Height Derived from a Ground-Based Infrared Cloud Measurement and Two Ceilometers,Advances in Meteorology,2015年,Vol.2015,Article ID 853861,http://dx.doi.org/10.1155/2015/853861
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00
G01B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザからのデータを受信して、局所的な範囲の複数の雲底の高さを計測する局所雲高計測部と、
センサから全天の画像データを受信して、前記画像データに基づいて複数の雲底の相対的な高さを推定する低精度雲高推定部と、
前記レーザによる計測範囲と前記複数の雲底の交点を受け付け、前記交点と前記局所雲高計測部により計測した複数の雲底の高さを用いて、前記低精度雲高推定部にて推定した複数の雲底を補正する雲高補正部と、
を備えることを特徴とする全天雲高計測装置。
【請求項2】
前記局所雲高計測部は、前記複数の雲底の高さを計測するための領域を任意に選択し、選択された前記領域における雲低の高さを計測する、
ことを特徴とする請求項1に記載の全天雲高計測装置。
【請求項3】
前記低精度雲高推定部は、前記複数の雲底の相対的な高低関係を判別可能な形式のデータとして保持する、
ことを特徴とする請求項1に記載の全天雲高計測装置。
【請求項4】
前記雲高補正部は、前記局所雲高計測部により計測された雲底の高さと前記低精度雲高推定部により推定された雲底の相対的な高さとの時間変化についての相関が所定の関係を満たす位置を計測点として決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の全天雲高計測装置。
【請求項5】
前記局所雲高計測部は、前記レーザが照射するレーザパルスから得られる反射信号の強度と前記反射信号を検知するまでの時間とに基づいて前記計測点を2点以上決定し、記低精度雲高推定部にて推定した複数の雲底における前記レーザの計測箇所と方向を示す計測線の位置を決定する、
ことを特徴とする請求項に記載の全天雲高計測装置。
【請求項6】
前記雲高補正部は、前記センサと前記レーザとの相対的な位置関係から前記計測点の位置を推測し、前記計測点の候補となる候補点を限定する、
ことを特徴とする請求項に記載の全天雲高計測装置。
【請求項7】
前記低精度雲高推定部は、所定の波長光を計測することで得られる温度分布から、前記雲底の相対的な高さを推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の全天雲高計測装置。
【請求項8】
請求項1に記載の前記全天雲高計測装置で用いられる計測点を、前記レーザにより計測可能であって所定の形状を有した物体を前記レーザおよび前記センサの計測範囲に設置することで、雲が存在しない場合における前記計測点の位置を決定する、
ことを特徴とする計測点決定方法。
【請求項9】
請求項1に記載の前記全天雲高計測装置で用いられる計測点を、前記センサと前記レーザとを、それぞれの計測範囲が一致するように配置することで前記計測点の位置を決定する、
ことを特徴とする計測点決定方法。
【請求項10】
請求項1に記載の前記全天雲高計測装置が計測した前記雲低の高さと、気象情報を用いた所定の分類手法により分類した雲種とに基づいて、全天の雲の種類を特定することを特徴とする雲種類決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少数の雲高計測装置から得られる局所的な雲高値を用いて、低精度な雲高推定手法の出力を補正することで全天の雲高計測を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
気象情報は一般的に、気象衛星から撮影される映像データや、一般気象学に基づく気象予測によって得られるものであり、国内に留まらず、全世界に向けて開示されている。中には気象情報毎に固有の計測方法によって取得するものもあり、情報の計測コストが高い。しかしながら、これらの気象情報は事業者、個人を問わず広く活用されており、用途は多岐にわたる。このように一般的に開示されている気象情報は広域な範囲に対するものであり、細かくともせいぜい数キロメートル四方の範囲に対応する。そのため、地域単位の気象現象の予測には有効である。
【0003】
一方で、特定の場所における局所的な気象情報を必要とするケースも多くある。航空機の運行管理を例に取ると、航空機の進路上の雲や気流に関する情報をピンポイントに取得することで安全且つ効率的な運行を遂行できる。特に、航空機の離着陸時の安全を確保するために、飛行場上空、滑走路周辺の気象情報を観測することが非常に重要であることは想像に難くない。飛行場には一般的に多種多様な観測装置を備えるとともに、観測員の目視による観測を常時行っている。これらの観測項目のひとつに地面から雲低までの高度(以下、雲高と称する)があり、航空機の離着陸の可否を判定するために重要な役割を担う。現在、雲高を計測する標準的な手段としてシーロメータなどのレーザ測距装置が広く用いられている。
【0004】
シーロメータはレーザを利用した光学装置である。具体的には、強力なレーザ光を照射し、雲底(ここでは雲を例に取るが対象は特に限定しない)にて散乱、反射した光信号を検出し、その到達時間や信号強度から雲高を数メートル単位の精度で計測できる装置である。しかし、シーロメータはセンサ直上の狭い範囲しか計測することが出来ない。そのため、飛行場や滑走路の直上および周辺を含む全天の測定には不向きである。シーロメータを複数設置することで計測範囲を広げることは可能であるものの、シーロメータは一般的に高価であるため現実的ではない。
【0005】
このような光学装置を利用しない雲高計測手段として画像処理が挙げられる。例えばステレオカメラのように、2台のカメラの視差から対象までの距離を測定する方法や、AIを活用して二次元画像から距離を直接推定する方法などがあり、自動運転システムなど特定の分野では活用が進んでいる。画像は全天を計測できるという利点があるものの、雲は一般的な物体と比べて色情報やテクスチャが乏しいため、前記の画像処理技術の測距精度が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、任意の地点において、全天の雲高情報を高精度に計測する技術が求められる。特許文献1には赤外線放射温度計を利用して雲の温度情報を算出し、所定の演算処理により雲底高度を計測する技術が開示されている。また、特許文献2には2台の広角カメラで構成されたステレオカメラを天頂に向けて撮影することで、雲高と雲の移動速度や風速を計測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-170350号公報
【文献】特開2019-60754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術では、赤外線放射温度計を用いて上空を撮影する際に、特定の波長帯を透過する光学フィルタを用いることで、大気中の水蒸気や二酸化炭素の影響を補正し、正確な温度分布を取得することができる。取得した温度に対して、対流圏内に対する気温減率の温度勾配や乾燥断熱減率、湿潤断熱減率の関係を考慮した演算により雲高を推定することができる。しかし、前記の演算は国際標準大気においては有効であるものの、大気の状態変化に対して頑健ではないため、各種係数を予め取得しなければならず、観測項目が増加するという問題がある。
【0009】
特許文献2に記載の技術では、設置位置の標高、経度および緯度が既知であるカメラ2台によりステレオカメラを構成し、同時刻に各カメラで撮影された画像から被写体の方位角および天頂角を読み出す。被写体の高度を仮定し、仮定された高度をもとに経度と緯度を算出し、その値が各カメラについて一致、もしくはその差が予め設定した許容値に収まるまで新たに高度を仮定する処理を繰り返して雲高を計測することができる。しかし、一般的にカメラの位置や設置各を正確に取得することは困難である。さらに、雲底を計測する用途であればステレオカメラを構成する2つのカメラ間の距離(基線長と称す)は50メートルから300メートルほどである必要があるため、キャリブレーションの手段が限られる。また、広角カメラに限らず一般的な光学センサは工業製品であるため個体差があり、筐体を水平に設置したとしても光軸が地面と直行するとは限らないため、画像中の天頂位置を正確に求めるためには別途キャリブレーションが必要になる。特許文献2内ではこのキャリブレーション処理を拠り所に実行する方法が開示されているものの、星は気象状況や季節によって観測できず、雲高を計測できなくなるという問題がある。
【0010】
本発明は、シーロメータなどの光学装置から取得された局所的ながら高精度な雲高情報を用いて、画像から取得される低精度な広範囲の雲高情報を補正することで全天の範囲における雲高を高精度に計測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る全天雲高計測装置は、レーザからのデータを受信して、局所的な範囲の複数の雲底の高さを計測する局所雲高計測部と、センサから全天の画像データを受信して、前記画像データに基づいて複数の雲底の相対的な高さを推定する低精度雲高推定部と、前記レーザによる計測範囲と前記複数の雲底の交点を受け付け、前記交点と前記局所雲高計測部により計測した複数の雲底の高さを用いて、前記低精度雲高推定部にて推定した複数の雲底を補正する雲高補正部と、を備えることを特徴とする全天雲高計測装置として構成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、全天の範囲における雲高を高精度に計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】全天雲高計測装置の構成例を示す図である。
図2】全天雲高計測装置の機器構成を説明するための図である。
図3】低精度雲高推定部の入力データを説明するための図である。
図4】低精度雲高情報の例を示す図である。
図5】低精度雲高情報の性質を説明するための図である。
図6】全天雲高計測装置を用いた計測方法を説明するための図である。
図7】雲高補正部が計測点の位置を決定する処理フローを説明するための図である。
図8】計測点候補の設定方法を説明するための図である。
図9】雲底補正部が計測点を決定する具体的な例を示す図である。
図10】記録した局所雲高と低精度雲高の例を示す図である。
図11】雲高値を補正する具体例を説明するための図である。
図12】シーロメータとカメラの設置位置を好ましい位置に設置した場合の例を示す図である。
図13】雲がない場合に全天雲高計測装置を校正する方法を説明するための図である。
図14】記録した局所雲高と低精度雲高の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以降、「本実施形態」と称す)について、適宜図を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態では、前記レーザ測距装置をシーロメータとした例について説明するが、レーダーエコーや超音波式の測距装置など、雲高を計測可能な装置であれば特に限定しない。また、本実施形態ではセンサを、全天を撮影可能なカメラとした例について説明するが、全天を一括して撮影可能な魚眼カメラでもよく、あるいは全天を分割して撮影したり、全天のうち雲高計測が必要な一部分のみを撮影したりしてもよく、雲を計測可能な手段であれば特に限定しない。
【0015】
また、以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0016】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0017】
以下の説明では、「テーブル」、「リスト」等の表現にて各種情報を説明することがあるが、各種情報は、これら以外のデータ構造で表現されていてもよい。データ構造に依存しないことを示すために「XXテーブル」、「XXリスト」等を「XX情報」と呼ぶことがある。識別情報について説明する際に、「識別情報」、「識別子」、「名」、「ID」、「番号」等の表現を用いた場合、これらについてはお互いに置換が可能である。
【0018】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0019】
また、以下の説明では、プログラムを実行して行う処理を説明する場合があるが、プログラムは、プロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit))によって実行されることで、定められた処理を、適宜に記憶資源(例えばメモリ)および/またはインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら行うため、処理の主体がプロセッサとされてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路(例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit))を含んでいてもよい。
【0020】
プログラムは、プログラムソースから計算機のような装置にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、以下の説明において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【実施例1】
【0021】
全天雲高計測装置の構成例について、図1図11を用いて説明する。
【0022】
図1は全天雲高計測装置1の構成例を示している。全天雲高計測装置1は、レーザ測距装置により取得される局所的ながら高精度な雲高情報を利用し、画像データから取得した全天の低精度な雲高情報を補正することで、全天の高精度な雲高情報を計測可能とする計測装置である。図1に示す各機能の概要を説明すると、局所雲高計測部2は、例えばシーロメータに代表されるようなレーザ測距装置から情報を受信し、局所的な範囲の雲高を計測する機能である。低精度雲高推定部3は、センサから全天の画像データを受信して、画像データに基づいて少なくとも雲層毎の相対的な雲高を推定する機能である。雲高補正部4は、低精度雲高推定部3の出力における局所雲高計測部2の計測箇所を仮定し、仮定した計測箇所における計測結果を計算し、実際の局所雲高計測部2の出力と時間変化の類似度が高い計測箇所を抽出することで、低精度雲高推定部3の雲高情報を補正する機能である。
【0023】
全天雲高計測装置1としては、CPU等の制御部である処理装置、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)やHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の記憶部である記憶媒体や記憶装置、NIC(Network Interface Card)等の通信部である通信機器を有した、ハードウェアとしては一般的な通信可能なコンピュータを用いることができる。全天雲高計測装置1の各機能は、例えば、CPUが、ROMからプログラムを読み出し、RAMに対して読み書きして処理を実行することにより実現される。
【0024】
上記プログラムは、例えば、外部の記憶媒体の一例であるUSB(Universal Serial Bus)メモリ等から読み出されたり、ネットワークを介した他のコンピュータからダウンロードする等して提供されてもよい。さらに、以下では、全天雲高計測装置1の各機能が、ハードウェアとしては一般的なコンピュータに設けられているが、これらの全部または一部が、クラウドのような1または複数のコンピュータに分散して設けられ、互いに通信することにより同様の機能を実現してもよい。
【0025】
まず、全天雲高装置1の活用例を、図2を用いて説明する。図2では局所雲高計測部2に局所雲高情報を送信するシーロメータ2_Aと、低精度雲高推定部3に画像データを送信するカメラ3_Aが計測対象である上空に向けられている。上空には雲C_1と、その上層に雲C_2があり、シーロメータ2_Aの計測箇所と方向を示す計測線2_Bとの計測点P_1、計測点P_2がある。ここではシーロメータ2_Aが2層以上の雲層を計測可能な場合を例として示しているが、少なくとも1層の雲層を計測できればよく、特に限定しない。また、ここでは便宜上シーロメータ2_Aの計測範囲を線として示しており、雲Pと交わる箇所を点として説明しているが、計測線2_Bは線に限らず、円錐状など水平方向に範囲を持っていてもよく、特に限定しない。その場合、計測点Pは点ではなく局所的な領域であってもよく、その場合、領域内の雲高値の平均値や最大値などを代表値として決定しても良い。
【0026】
このように、局所雲高計測部2は、複数の雲底の高さを計測するための領域を任意に選択し、選択された領域における雲低の高さを計測してもよい。また、局所雲高計測部2は、計測点を2点以上決定し、計測点の回帰線を計算することで、低精度雲高推定部3にて推定した複数の雲底における計測線の位置を決定してもよい。
【0027】
カメラ3_Aから取得したカメラ画像3_Bの例を、図3を用いて説明する。カメラ3_Aの視点からは雲C_1の後方に雲C_2が位置しているため、当然ながら雲C_2の隠れ部分はカメラ画像3_Bに映らない。計測線2_Bはカメラ画像3_Bに実際は映らないが、説明の便宜上図示している。この場合、シーロメータ2_Aの計測結果からは雲高が2層分出力されており、そのうち低い値が計測点P_1で観測された雲C_1の雲高であり、もう一方の値が計測点P_2で観測された雲C_2の雲高である。以下、局所雲高計測部2、低精度雲高推定部3、雲高補正部4について、詳細に説明する。
【0028】
局所雲高計測部2はシーロメータ2_Aから上空の雲高情報を受付け、計測範囲に雲が存在した場合には少なくとも1層以上の雲層あるいは雲塊の雲高を出力する。シーロメータ2_Aはレーザパルスを照射し、雲で後方散乱したレーザ光を反射信号としてシーロメータ2_Aが内蔵する検知器が検知するまでの時間と強度から、雲までの高度を算出する。計測可能な雲層の数や、最高高度、最低高度はシーロメータ2_Aのレーザの強度や検知器の感度など、製品の仕様によって異なる。局所雲高計測部2は、図1および図2に示す例のような場合は、計測点P_1および計測点P_2の高度を示す2値を受け付けることが望ましいものの、少なくとも計測点P_1における下層の雲C_1の雲高を受け付ければ良い。シーロメータ2_Aの出力は、実際はレーザ光の強度分布や雲高の確率分布であってもよく、計算により計測点Pの雲光を特定できる形態であればよく、特に限定しない。
【0029】
図4を用いて低精度雲高推定部3について説明する。低精度雲高推定部3はカメラ3_Aから全天を撮影したデータを受取り、低精度雲高情報3_Cを出力する機能である。低精度雲高情報3_Cは図4に示すようなデータであり、この例では晴天に中に雲C_1の一部が雲C_2に重なるように配置されている。このとき、低精度雲高情報3_Cは、少なくとも雲Cの領域とそれらの相対的な雲高が取得可能な情報である。図4の例では雲C_1、雲C_2、晴天部の領域と、その低精度な雲高情報が付与されているが、雲C以外の領域の高度は必ず取得可能でなくても良い。具体的には、雲C_1の雲高が雲高Aであり、雲C_2が雲高Bである。雲高A、雲高Bそれぞれの値は実際の雲高と必ずしも一致する必要はなく、少なくとも相対的な雲高が取得可能であれば良い。この場合、雲高A<雲高Bという関係が取得できれば良い。低精度雲高情報3_Cは図4に示すような画像の形式をしていなくてもよく、例えばカメラ画像3_Bのピクセル位置と、雲高値のペアを保存した配列でもよく、雲高値は相対的な高低が判別可能であればよいため、正規化された値を保存しても良い。このように、低精度雲高推定部3は、複数の雲底の相対的な高低関係を判別可能な形式のデータとして保持する。
【0030】
低精度雲高情報3_Cは例えばディープラーニングを利用した画像処理技術により取得可能である。具体的には、全天のカメラ画像3_Bと、カメラ画像3_Bに映る雲Cの領域と、実際の雲高を埋め込んだ真値雲高画像を生成する。真値雲高画像からは画像中の雲Cの位置と、その雲高の真値を取得できる。この真値雲高画像を教師データとして、カメラ画像3_Bを入力とし、ピクセルごとに深度を推定した深度画像を出力するニューラルネットワークを設計、学習することで、カメラ画像3_Bの雲高の推定が可能となり、低精度雲高情報3_Cを取得することができる。あるいは、雲Cの発生高度により温度が異なる、具体的には雲高が高いほど気温が低いという特性を利用し、赤外線放射温度計によるサーモグラフィから低精度雲高情報3_Cを取得することができる。このとき、一般的な赤外線放射温度計を用いた場合、大気中の水蒸気や二酸化炭素、塵の影響により雲Cの温度を正確に計測できない場合があるものの、先述の通り低精度雲高情報3_Cは相対的な雲高が取得できればよいため、大気中の外的要因による計測精度の低下は考慮しなくて良い。あるいは、ステレオカメラなど計測対象までの距離を直接計測可能な装置を用いても良い。このように、低精度雲高推定部3は、所定の波長光(例えば、赤外線や遠赤外線)を計測することで得られる温度分布から、雲底の相対的な高さを推定し、その高さを雲高とすることができる。
【0031】
一般的にステレオカメラの計測距離の最大値は主にステレオカメラを構成する単眼カメラ同士の基線長により決定され、雲Cのような遠方の対象の距離を計測する場合は基線長を50メートルから300メートルほどに設定する必要がある。ステレオカメラは一般的に計測対象が遠方であるほど測距性能が低下するという性質があるため雲高を正確に計測することは困難であるものの、低精度雲高情報3_Cの要件を満たすことができる。このように、低精度雲高推定部3は入力データを計測する装置に適した演算を実施し、低精度雲高情報3_Cは少なくとも雲Cの相対的な雲高を取得可能であればよく、取得手段は特に限定しない。
【0032】
図5図11を用いて雲高補正部4について詳細に説明する。局所雲高計測部2が出力する雲高を用いて低精度雲高情報3_Cを補正するためには、低精度雲高情報3_Cの内、シーロメータ2_Aの計測点Pが対応する位置を特定する必要がある。図5を用いて計測点Pの位置を特定することの必要性を説明する。図5では低精度雲高情報3_Cに対して計測線2_Bと計測点P_1、計測点P_2の位置を、3パターンを仮定して図示している。先述の通り、一般的に計測線2_Bは不可視であるため計測点Pの位置は未知である。また、低精度雲高情報3_Cからは正確な雲高を取得できないため、特に雲Cが複数存在する場合には計測点Pの凡その位置を推定することも困難である。
【0033】
例えば、計測線2_B’の場合、計測点P_1’は計測線2_B’上のどこかに存在する。計測点P_2’は低精度雲高情報3_Cからは存在するか不明であるため、局所雲高計測部2から雲高が2値取得された場合は存在が認められる。ただし、雲C_2の更に上空に雲Cが存在する場合もあるため、雲C_2の雲高であると断定することは出来ない。同様にして、計測線2_B’’の場合は計測点P_1’’および計測点P_2’’は計測線2_B’’上のどこかに存在し、計測線2_B’’’の場合は計測点P_1’’’および計測点P_2’’’は計測線2_B’’’上のどこかに存在する。
【0034】
実際の計測線2_Bの実際の位置を特定するためにはカメラ3_Aとシーロメータ2_Aの相対的な位置関係を表すパラメータが必要である。以下、このパラメータを外部パラメータと称する。外部パラメータを推定する一般的な手法としては、カメラ3_Aとシーロメータ2_Aの設置位置と姿勢を計測して算出する手法や、予め形状やアピアランス情報が既知な撮影対象物(例えば、チェッカーパターンを印刷した板)をカメラ3_Aとシーロメータ2_Aにより計測し、それぞれから撮影対象物への相対位置姿勢を推定することで外部パラメータを算出する方法がある。しかし、シーロメータ2_Aの出力は離散的な雲高であったり、画像データとの対応関係を取得できない形式であったりするため、従来のキャリブレーション手法を適用することが困難である。以下、低精度雲高情報3_C上の計測点Pの位置を特定する方法を説明する。
【0035】
図6は全天雲高計測装置1を用いて時系列で計測する際の概要を示している。まず、時刻t1ではシーロメータ2_Aの上空に雲C_2のみが観測されている。そのため、シーロメータ2_Aは雲C_2の雲高を計測し、局所雲高計測部2はそれを受け付け、雲高補正部4に送信する。時刻t2に推移すると、雲C_1が右方に移動し、シーロメータ2_Aの計測線2_Bと初めて交わり、雲C_1の輪郭部分に計測点P_1を成す。さらに、時刻t1に引き続き雲C_2は計測線2_Bと計測点P_2で交わっている。そのため、この時点で局所雲高計測部2から受け取る雲高値は2つになる。時刻t3では引き続き雲C_1、雲C_2が計測線2_Bと交わっているため、局所雲高計測部2は雲高を2値出力しており、同一の雲Cを計測しているため、それぞれの雲高値の変化は少ない。
【0036】
一方、同時刻に取得した低精度雲高情報3_Cでは、計測点P_2の実際の位置は雲C_1の後方に隠れているため、確認できない。時刻t4では雲C_1、雲C_2がさらに右方に進み、計測線2_Bと交わらないため、局所雲高計測部2は雲高値を出力しない。一方、同時刻に取得した低精度雲高情報3_Cでは計測線2_Bの位置と実際の雲高が不明であるため、計測点Pが存在するかは不明である。
【0037】
図7を用いて雲高補正部4が低精度雲高情報3_Cにおける計測点Pの位置を特定する処理フローを示している。雲高補正部4は、ステップS401で低精度雲高情報3_C上に計測点候補4_Aを設定する。雲高補正部4は、ステップS402では低精度雲高情報3_Cを参照することで各計測点候補4_Aにおける低精度雲高を記録する。雲高補正部4は、ステップS403では、雲高記録回数が設定の回数未満であるか否かを判定し、雲高記録回数が設定の回数未満であると判定した場合には(ステップS403;no)、ステップ401に戻り、以降の処理を行う。
【0038】
一方、雲高補正部4は、雲高記録回数が設定の回数未満でないと判定した場合(ステップS403;yes)、ステップS404において、局所雲高計測部2から受付けた局所雲高情報2_Cと各計測点候補4_Cにおける低精度雲高との相関を計算する。雲高補正部4は、ステップS404では各計測点候補4_Cのうち最も相関が強い点を計測点Pとして決定する。すなわち、雲高補正部4は、局所雲高計測部2により計測された雲底の高さと低精度雲高推定部3により推定された雲底の相対的な高さとの相関が、最も相関が強い点のほか、相関関係が一定程度以上強いといった所定の関係を満たす位置を計測点として決定する。以下、ステップS401-S405について詳細に説明する。
【0039】
ステップS401について図8を用いて説明する。ステップS401では、雲高補正部4は、低精度雲高情報3_Cで位置が不明な計測点Pを決定するために、計測点Pの位置を仮定した計測点候補4_Aを設定する。図8には、とある時刻tに取得した低精度雲高情報3_Cについて144個の計測点候補4_Aを設定し、各計測点候補4_Aは等間隔に並べた例を示している。なお、本実施例では説明の便宜上、計測点候補4_Aを144個設定した例を示すが、実際は少なくとも1つ以上設定すればよく、図8に示すように等間隔に並べる必要はない。好ましくは、雲高補正部4は、低精度雲高情報3_Cの情報単位(例えば形態が画像であればピクセル)ごとに1つの計測点候補4_Aを設定することで、より高精度に計測点Pを決定できる。
【0040】
さらに、シーロメータ2_Aとカメラ3_Aの相対的な位置が明らかであり、低精度雲高情報3_C上で計測線2_Bが存在し得る位置を限定できる場合は、雲高補正部4は、計測線2_Bが存在し得る領域に限定して計測点候補4_Aを設定してもよく、この場合、計測点Pを決定するための演算量を削減することができる。このように、雲高補正部4は、カメラ3_A等のセンサとシーロメータ2_A等のレーザとの相対的な位置関係から前記計測点の位置を推測し、前記計測点の候補となる候補点を限定する。
【0041】
ステップS402の処理について図8を用いて説明する。雲高補正部4は、図8に示すような低精度雲高情報3_Cを取得した際に、例えば計測点候補4_A_1は雲C_1の上に位置しており、埋め込まれた低精度雲高情報を参照すると、時刻tにおける計測点候補4_A_1の雲高は雲高Aと記録する。また、計測点候補4_A_2は雲C_2の上に位置しているため、雲高補正部4は、時刻tにおける計測点候補4_A_2の雲高は雲高Bと記録する。雲高補正部4は、以上の処理を、ステップS401で設定した計測点候補4_Aの全てに対して実施する。そして、雲高補正部4は、局所雲高計測部2から取得した局所雲高2_Cを時刻tの局所雲高2_Cとして同時に記録する。
【0042】
ステップS403では、雲高補正部4は、ステップS402にて記録した雲高情報が予め設定した記録回数に達したことを判定し、記録回数が未達だった場合、ステップS401、ステップS402を繰り返す。判定に用いる記録回数は少なくとも1回以上であればよく、後述する局所雲高2_Cと計測点候補4_Cのデータ数が相関の計算方法に適すように決定する。
【0043】
図9図10を用いてステップS404について説明する。ステップS404では計測点Pを決定するために、雲高補正部4は、前ステップまでに記録した局所雲高2_Cともっとも近しい雲高を記録した計測点候補4_Cを決定するために、双方の時間方向の変化の相関を計算する。図9には全天雲高計測装置1を利用して計測したときの時刻t5、t6、t7のシーンを抜粋して図示しており、ステップS401で予め設定した計測点候補4_Aのうち、代表点として3点、計測点候補4_A_1-4_A_3を取り上げて図示している。図9の上部には各時刻において全天雲高計測装置1と計測対象の雲C_1、雲C_2を横から見た図と実際の計測点Pの位置を示しており、下部には各時刻において低精度雲高推定部3から受付けた低精度雲高情報3_Cと、計測点候補4_Aの位置を示している。
【0044】
図10では雲C_1に注目して、記録した局所雲高2_Cと計測点候補4_A_1、4_A_2、4_A_3の低精度雲高情報を時系列順にプロットしたグラフを示している。なお、時刻t6では雲C_1、雲C_2の双方と計測線2_Bがそれぞれ計測点P_1、計測点P_2で交わっているため局所雲高2_Cは時刻t6で2値分が記録されているものの、ここでは説明の便宜上最も低い雲高の1値しか図示していない。雲C_1、雲C_2の実際の雲高はそれぞれ雲高C、雲高Dとし、雲底は平坦であると仮定して図示しているが、実際は平坦な雲底でなくても同様の手法を適用可能である。
【0045】
図10に示すような雲高が記録された場合、局所雲高2_Cと、各計測点候補4_Aにおける低精度雲高情報3_Cをそれぞれ時系列データと捉えることができ、相関を計算する事ができる。2つのデータの関係を示す指標として例えば相関係数用いると、計測点候補4_A_1が局所雲高2_Cと同タイミング(時刻t6)で雲高値が低下しているため、強い正の相関を持つことがわかる。ステップS405では、雲高補正部4は、ステップS404で計算した相関値を参照し、最も強い相関を持つ計測点候補4_Aを計測点P_1として決定する。他時刻tにおいて、同処理を計測点P_2についても実施することで、低精度雲高情報3_Cにおける計測点P_2の位置を決定することが出来る。
【0046】
例えば、図9図10に示す例では時刻t6と時刻t7の間で雲C_1が計測点P_2の真下に移動する。その際に、低精度雲高情報3_Cからは計測点P_2に対応する雲C_2上の点を視認することは出来ないものの、計測点P_2の位置と局所雲高2_Cが明らかであるため、局所雲高2_Cに雲高Dが記録されている限り、雲C_1の上空に雲C_2が存在することを予測することができる。さらに計測を継続することで、局所雲高2_Cに雲高Dが記録されなくなった時刻があれば、その時刻で雲C_2の切れ間、もしくは輪郭が計測線2_B上に存在することがわかるため、カメラ2_Aでは本来確認することが出来ない下層の雲Cに隠れた雲Cの凡その形状を計測することができる。
【0047】
以上のステップにより低精度雲高情報3_Cにおける計測点Pの位置を特定することができる。さらに、低精度雲高情報3_Cにおいて計測点Pの位置が2つ以上特定された場合、それらの計測点Pを結ぶ直線を計測線2_Bとしても良い。低精度雲高情報3_C上で計測線2_Bの位置が取得できた場合、ステップS401で計測点候補4_Aを計測線2_B上、もしくはその周辺を含む領域に限定して設定することで演算量を削減するとともに計測点Pの推定精度の向上が見込める。
【0048】
雲高補正部4が低精度雲高情報3_Cを補正する方法について説明する。ステップS401-S405により、雲高補正部4は、低精度雲高情報3_Cにおける計測点Pの位置と、その位置の局所雲高2_Cが取得できる。低精度雲高情報3_Cは前述の通り相対的な雲高を取得できるため、ある点と同値の雲高を有する領域を特定できる。図9に示す例において、時刻t6では計測点候補4_A_1の実際の雲高値が雲高Cであることが分かるため、雲高補正部4が、計測点候補4_A_1と同様に雲高Aに対応するすべての領域を雲高Cに置き換えることで、低精度雲高情報3_Cを局所雲高2_Cに補正することができる。雲C_2についても同様に雲高値を雲高Bから雲高Dに補正することで補正できる。
【0049】
以上の処理により、計測線2_Bと交点をなさない領域についても高精度な雲高に補正することができ、全天の雲高を高精度に計測することができる。ここで取り上げる例では雲Cは2つしかなく、いずれも計測線2_Bと雲Cの一部が交点をなすが、その他に雲が存在し、雲C_1あるいは雲C_2と同じ低精度雲高情報3_Cを有する場合は同様に雲高を補正することができる。また、例えばサーモグラフィにより取得した温度分布や、ステレオカメラにより取得した視差分布および視差画像など、低精度雲高情報3_Cが実際の雲高値へ線形補完可能な雲高値を有する場合、低精度雲高情報3_Cのうち局所雲高2_Cが取得できない領域があった場合でも補正することができる。具体的には、例えば雲高Aが雲高Bの50%の雲高値であることが明らかであり、雲高Aの領域のみが局所雲高2_Cで補正された場合、雲高Bの領域は雲高A/0.5の雲高値で補正することで全天の雲光を計測することができる。あるいは、雲高補正部4の出力は雲高値の条件式でも良く、その例を、図11を用いて説明する。
【0050】
全天には雲C_1、雲C_2があり、雲C_1のみが計測線2_Bと交点をなしており、前後の時刻でも雲C_2と交点をなすことはないとする。低精度雲高情報3_Cは、雲高E<雲高Fの関係のみが既知であり、雲高を線形補間不可能な値であり、ラベル値でもよい。この場合に、雲高補正部4は、前述の手法により雲C_1の雲高値を雲高Eから局所雲高2_Cを用いて、シーロメータ2_Aから計測点Pまでの雲高Gに補正したとしても、雲C_2と計測線2_Bと交点をなさないため、前述の手法を適用しても雲高値は不明のままである。そこで、雲高補正部4は、雲C_2の補正後の雲高値を、雲高E<雲高Fの関係式から雲高G以上という条件式とすることができる。この場合、雲C_2の雲高値を限定できるため、実際の雲高値が不明である場合にも、有用な全天雲高情報として提供することができる。雲C_1、雲C_2以外に雲Cが存在する場合、より限定した雲高値の条件式で補正することもできる。
【実施例2】
【0051】
実施例2における全天雲高計測装置1の構成例について、図12を用いて説明する。なお、本実施例ではシーロメータ2_Aとカメラ3_Aの設置位置を調整することで雲高補正部4が計測点候補4_Aを設定せずに低精度雲高情報3_Cを補正する方法を説明する。下では、全天雲高計測装置1で用いられる計測点を、カメラ3_A等のセンサとシーロメータ2_A等のレーザとを、それぞれの計測範囲が一致するように配置することで前記計測点の位置を決定している。
【0052】
図12ではシーロメータ2_Aとカメラ3_Aの設置位置を調整し、シーロメータ2_Aの計測線2_Bとカメラ3_Aの特定の位置、例えば画像中心と直行するように設置した例を示している。このような場合、低精度雲高情報3_Cにおいて、計測線2_Bは線ではなく点となり、計測点Pは雲高に関わらず同じ点に限定される。そのため、雲底補正部4はステップS401-S405を処理せずとも計測点Pの位置を決定することができるため演算量を削減することができる。あるいは、計測線2_Bとカメラ3_Aの光軸が限りなく近く、好ましくは平行になるようにシーロメータ2_Aとカメラ3_Aの設置位置を調整することで、低精度雲高情報3_Cにおいて、計測点2_Bは極端に短い線とすることができる。したがって、雲高補正部4は、前述と同様に、計測点Pの位置を容易に決定することができる。あるいは、予めシーロメータ2_Aとカメラ3_Aの相対的な位置姿勢が既知となるように設置位置を調整することで、例えば、以下に示す[数1]に示すような一般的な射影変換により低精度雲高情報3_C上の計測線2_Bの位置を特定することができる。
【0053】
【数1】
【0054】
なお、(数1)において、(u,v)はカメラ画像3_Bあるい低精度雲高情報3_C上の座標であり、fx,fy、cu,cvは一般的に内部パラメータと称されているカメラ3_Aに固有なパラメータであり、(fx,fy)はそれぞれx軸、y軸方向の画素あたりの焦点距離、(cu,cv)は画像平面と光軸の交点の座標である。(x,y,z)は計測線2_B上の世界座標系における座標である。
【実施例3】
【0055】
本実施例では、実施例1、実施例2で説明した全天雲高計測装置を利用して、雲種を特定する方法を説明する。以下では、全天雲高計測装置1が計測した雲低の高さと、気象情報を用いた所定の分類手法により分類した雲種とに基づいて、全天の雲の種類や雲量を特定する雲種類決定方法を例示している。
【0056】
雲Cはその形状や並び方から雲種と称される分類に細分化されている。最も一般的な雲種は10種雲形と呼ばれるものであり、具体的には層積雲、層雲、積雲、高積雲、高層雲、乱層雲、巻雲、巻積雲、巻層雲、積乱雲の10種である。なお、本実施例では全天雲高計測装置1を利用して10種雲形を特定する場合について説明するが、雲種の分類方法は多岐にわたり、当然ながら本実施例を適用する分類方法は10種雲形に限定しない。
【0057】
例えば雲Cを撮影した画像を入力として一般的な画像認識手法を利用して10種雲形を特定する場合、アピアランスの類似性が高い雲種は混同する。たとえば、巻積雲と高積雲は互いに雲の片が群れをなしたようなアピアランスであるという点で共通しており類似度が高い。そのため、一般的な画像認識手法ではアピアランスを拠り所として雲種を区別するため、巻積雲と高積雲を混同する場合がある。一般的に巻積雲は高度5000メートルから15000メートルの範囲に発生し、一方高積雲は高度2000メートルから7000メートルの範囲に発生する。全天雲高計測装置1により雲高が計測可能であるため、アピアランスの類似度が高い巻積雲と高積雲を高精度に分類することができる。なお、本実施例は雲高によって区別されるような雲種についても有効である。また、当然ながら一般的な画像処理による雲種判定結果以外も補正可能であり、例えば目視の観測結果の補正にも活用でき、前段の雲種判定の手段は特に限定しない。
【0058】
また、雲種によっては一般的な気象情報を参照することで分類することができる。以下、一般的に公開されている気象情報を活用して雲種を分類する方法を説明する。
【0059】
公開されている気象情報に例えば気象レーダーがある。気象レーダーは観測装置からマイクロ波を照射し、その反射波であるレーダーエコーの強度から周囲数百キロメートルの範囲に存在する降水粒子の分布を観測するデータである。気象レーダーにより計測された降水粒子の分布を参照することで、降雨性の雲の有無を判定することができる。気象レーダーの計測分解能は一般的に数キロメートル四方であり、好ましくはこの分解能と同等、もシックはそれ以上の細かい粒度で全天雲高計測装置1の設置位置が明らかである場合、低精度雲高情報3_C内の方位と気象レーダー内の方位を同定することで、全天雲高計測装置1が計測した雲Cが降雨性であるかを容易に判定でき、例えば降雨性の有無によって雲種が異なる場合において分類が容易になる。さらに、気象レーダーのみならず、衛星写真を活用して雲や霧などの気象現象を直接観測して、それらの気象現象の内容と発生位置を入力することで、より高精度に雲種の分類が可能である。
【0060】
また、雷観測データが気象情報として公開されている。雷観測データは、雷監視システムが雷により発生する電波を受信し、雷の発生時刻や発生位置を記録したものであり、雷雲の中や雲と雲の間で発生する雲放電(雷光として観測されることが多い)と、雷雲と地面の間で発生する対地放電(落雷として観測される)を観測する。気象レーダーと同様にして、低精度雲高情報3_C内の方位と、雷観測データの方位を同定することで、全天雲高計測装置1が計測した雲Cの放電の有無を容易に判定することができる。例えば、塔状の積雲が観測された場合に、本実施例を実施することでその雲種を、放電が確認されたら積乱雲として、放電が確認されなかったら塔状積雲として分類することができる。当然ながら、本実施例は積雲と塔状積雲の分類に限定されず、放電の有無により雲種の分類が容易になる場合に広く適用可能であり、特に限定しない。
【0061】
本実施例の応用例として、全天雲高計測装置1より取得された全天の雲高と、前述の手段により分類した雲種から、全天の雲層毎の雲種および雲量を計測することができる。また、全天の異なる雲高をもつ雲Cについて、それらを地表と平行な同一平面に重畳した際に、全天のうち雲Cが占める領域の割合を全雲量として利用することもできる。
【0062】
また、一般的な気象情報を活用して低精度雲高情報3_Cを事前に実際の雲高に近い値に補正することで、全天雲高計測装置1の性能を向上することができる。例えば、大気の気温と露点温度の差分から湿数を算出することができる。湿数を活用すると気温が露点温度を下回るような高度では雲Cが発生しやすい大気状況であることがわかり、その高度付近に低精度雲高情報3_C上で雲Cが確認できる場合には、その雲Cの雲高を湿数により算出された高度で補正してもよい。その場合、低精度雲高情報3_Cがもつ雲高は局所雲高2_Cと近しい値になるため、最終的に補正された全天雲高情報の精度向上が見込める。
【実施例4】
【0063】
全天雲高計測装置1について、雲Cが上空にない場合や、上空に雲Cは存在するものの、どの時刻tでもその雲Cが計測線2_Bと交わらない場合などにおいては、ステップS401-S405を実施しても低精度雲高情報3_Cの計測点Pの位置を決定することが出来ない。そのような場合においても高さが既知な治具などを利用することで、低精度雲高情報3_Cの計測点P、あるいは計測線2_Bの位置を決定する方法を図13図14を用いて説明する。以下、全天雲高計測装置で用いられる計測点を、シーロメータ2_A等のレーザにより計測可能であって所定の形状を有した物体を前記レーザおよびカメラ3_A等のセンサの計測範囲に設置することで、例えば、雲が存在しない場合における前記計測点の位置を決定することを可能としている。
【0064】
図13を用いて上空に好適な雲Cがない場合において計測点Pの位置を決定する方法を説明する。ボードE_1にはスリットE_2が空いており、好ましくはそれぞれの寸法と、スリットE_2の位置が既知である。また、ボードE_1は例えば樹脂や金属など、シーロメータ2_Aがその高度を計測可能な材質であればよく特に限定しない。本実施例で用いるボードE_1は最も基本的な形状の一例であり、ボードE_1には好適にはスリットE_2、その他には例えば深さなどが既知な凹み、高さが既知な突起部など、局所雲高2_Cから、シーロメータ2_AとボードE_1までの距離の変化を計測可能な形状を有していればよく、特に限定しない。さらに、ボードE_1は例えば球体でもよく、必ずしも板状でなくてもよく、形状については特に限定しない。
【0065】
図13に示す例では、ボードE_1をカメラ3_Aおよびシーロメータ2_Aの距離Hを保ちながら、カメラ3_Aの画角の左方から右方へ等速に移動させた際について、時刻t9、t10、t11を抜粋して図示している。ボードE_1は計測線2_Bと交点をなすように、シーロメータ2_Aの上空を通過するように移動させる。時刻t9では計測線2_BはボードE_1と交点をなすため、計測点Pが出現し、同時に局所雲高2_Cには雲高として高度Hが記録される。時刻t10では、ボードE_1がさらに右方へ移動し、計測線2_BがスリットE_2を通るため、計測点Pはなく、局所雲高2_Cに雲高は記録されない。時刻t11ではボードE_1がさらに右方へ移動し、計測線2_Bが再びボードE_1と交わる。
【0066】
このとき、低精度雲高情報3_Cは少なくともボードE_1の領域を判別可能な情報を有していれば良い。局所雲高2_Cに高度Hが記録されない時刻では計測線2_BがボードE_1の外側かスリットE_2を通っていることがわかる。さらに、ボードE_1の移動方向が明らかであるため、局所雲高2_Cに記録される高度の立ち上がり、立ち下がりのライミングを時系列で観測することで、計測線2_BがスリットE_2を通った時刻tを容易に特定できる。
【0067】
図14を用いて具体例を詳細に説明する。前述のようにボードE_1を移動させた際の局所雲高2_Cは、時刻t9から時刻t10まで高度Hが記録されており、時刻t10から時刻t11は計測線2_BがスリットE_2を通るため高度Hは記録されていない。時刻t11以降は再び高度Hが記録される。実施例1と同様にステップS401-S405を実施することで、時刻t10でスリットE_2の縁に位置する計測点候補4_Aを計測点Pに決定、あるいは計測点候補を絞り込むことができる。
【0068】
図13に示す例ではスリットE_2がy軸方向に幅を持つため、計測点PはスリットE_2の幅分の領域に限定されるまでであり、位置を一意に決定できない。そこで、ボードE_1を90°回転させ、低精度雲高情報3_Cの上方から下方へ同様に移動させることで、計測点候補4_Aをより限定することができ、最終的に計測点Pの位置を決定できる。さらに、ボードE_1を異なる高度に設置して以上の手順を実施することで、異なる高度の複数の計測点Pを決定することができ、計測点Pを2点以上決定した場合にはそれらを結ぶ線を計測線2_Bとしても良い。
【0069】
以上の手順で、ボードE_1を用いることにより、全天雲高計測装置1の上空に好適な雲Cが存在しない場合や、屋内など天空が計測できない環境においても、低精度雲高情報3_C上の計測点Pの位置を決定することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 全天雲高計測装置
2 局所雲高計測部
3 低精度雲高推定部
4 雲高補正部
2_A シーロメータ
3_A カメラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14