(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231116BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20231116BHJP
C04B 35/19 20060101ALI20231116BHJP
C04B 35/453 20060101ALI20231116BHJP
C04B 35/488 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
C04B35/19
C04B35/453
C04B35/488
(21)【出願番号】P 2020143621
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-335742(JP,A)
【文献】特開2014-019628(JP,A)
【文献】特開2001-102436(JP,A)
【文献】特開平10-032239(JP,A)
【文献】特表2017-538278(JP,A)
【文献】特開2019-021708(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157571(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
C04B 35/19
C04B 35/453
C04B 35/488
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を保持する保持装置であって、
セラミックを主成分とし、板状に形成されるセラミック部と、
アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属を含み、板状に形成されたベース部と、
前記セラミック部と前記ベース部との間に配置され、前記セラミック部と前記ベース部とを接合する接合部と、
を備え、
前記ベース部は、アルミニウムおよびマグネシウムよりも熱膨張率
が低く、負の熱膨張率を有するセラミックである低熱膨張率セラミックを含有し、
50~100℃の温度範囲における熱膨張率が4ppm/K以上10ppm/K以下であることを特徴とする
保持装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の保持装置であって、
前記低熱膨張率セラミックは、タングステン酸ジルコニウム(ZrW
2O
8)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr
2WO
4(PO
4)
2)、β-ユークリプタイト(β-LiAlSiO
4)、ビスマスニッケル鉄酸化物(BiNi
1-xFe
xO
3(x<1):BNFO)、ビスマスランタンニッケル酸化物(Bi
1-xLa
xNiO
3(x<1))、ルテニウム酸化物(Ca
2RuO
4-x(x<0.4)、Ca
2Ru
1-xFe
xO
4-y(x、y<0.4))、LaCu
3Fe
4O
12、逆ペロブスカイト型マンガン窒化物および逆ペロブスカイト型マンガン窒化物の窒素の一部が炭素に置換されたもの(Mn
3AN
1-xC
x(0≦x<0.2)、ただしAは亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)のいずれか)から成る群から選択される少なくとも一種のセラミックであることを特徴とする
保持装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の保持装置であって、
前記ベース部は、該ベース部を構成する金属から成り連続的に形成された金属相中に、前記低熱膨張率セラミックの粒子が分散していることを特徴とする
保持装置。
【請求項4】
請求項1から
3までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記ベース部における前記低熱膨張率セラミックの含有率は、10体積%以上60体積%以下であることを特徴とする
保持装置。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか一項に記載の保持装置であって、さらに、
前記ベース部の表面に設けられ、前記保持装置の使用環境において許容される材料として予め選択された金属またはセラミックによって形成される第1コート層を備えることを特徴とする
保持装置。
【請求項6】
請求項1から
5までのいずれか一項に記載の保持装置であって、さらに、
前記ベース部の表面のうちの前記接合部と接する面に設けられ、セラミックによって構成される第2コート層を備えることを特徴とする
保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を保持する保持装置として、例えば、半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する静電チャックが知られている。静電チャックは、対象物が載置されるセラミック部と、冷媒流路が形成されるベース部と、セラミック部とベース部とを接合する接合部と、を備える。このような保持装置として、比較的熱膨張率が低い金属によってベース部を構成する技術、具体的には、ベース部の構成材料として広く用いられているアルミニウムよりも熱膨張率が低いチタン、コバール、インバー、スーパーインバー、ノビナイト等の金属によりベース部を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術によれば、ベース部とセラミック部との間の熱膨張率差が抑えられることにより、上記熱膨張率差によって生じる熱応力に起因して、セラミック部や接続部が損傷することを抑えることが可能になる。しかしながら、上記した熱膨張率が比較的低い金属は、アルミニウムに比べて熱伝導率が低いため、冷媒機能を有するベース部による冷却の機能が不十分になる可能性があった。そのため、ベース部とセラミック部との間の熱膨張率差に起因する応力の発生を抑えつつ、ベース部における熱伝導率を確保する技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態は、対象物を保持する保持装置であって、セラミックを主成分とし、板状に形成されるセラミック部と、アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属を含み、板状に形成されたベース部と、前記セラミック部と前記ベース部との間に配置され、前記セラミック部と前記ベース部とを接合する接合部と、を備え、前記ベース部は、アルミニウムおよびマグネシウムよりも熱膨張率の低いセラミックである低熱膨張率セラミックを含有し、熱膨張率が4ppm/K以上10ppm/K以下であることを特徴とする。
この形態の保持装置によれば、ベース部が低熱膨張率セラミックを含有することにより、ベース部の熱膨張率が低減される。そして、ベース部の熱膨張率が4ppm/K以上10ppm/K以下であることにより、ベース部とセラミック部との間の熱膨張率差が小さくなり、ベース部とセラミック部との間の熱膨張率差に起因して保持装置内で生じる熱応力や、セラミック部等の変形が抑えられる。このとき、ベース部がアルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属を含むため、熱伝導率が比較的低い低熱膨張率セラミックをベース部が含有するにもかかわらず、ベース部における熱伝導率の低下を抑えることができる。
(2)上記形態の保持装置において、前記低熱膨張率セラミックは、負の熱膨張率を有することとしてもよい。このような構成とすれば、ベース部の熱膨張率を低減するためにベース部に含有させる低熱膨張率セラミックの含有率を抑えることができる。このように、ベース部における低熱膨張率セラミックの含有率を低減できることにより、ベース部に関する熱伝導率や電気抵抗などの熱膨張率以外の物性が、低熱膨張率セラミックを混合することに起因して変化する程度を抑えることができる。
(3)上記形態の保持装置において、前記低熱膨張率セラミックは、タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO4)2)、β-ユークリプタイト(β-LiAlSiO4)、ビスマスニッケル鉄酸化物(BiNi1-xFexO3(x<1):BNFO)、ビスマスランタンニッケル酸化物(Bi1-xLaxNiO3(x<1))、ルテニウム酸化物(Ca2RuO4-x(x<0.4)、Ca2Ru1-xFexO4-y(x、y<0.4))、LaCu3Fe4O12、逆ペロブスカイト型マンガン窒化物および逆ペロブスカイト型マンガン窒化物の窒素の一部が炭素に置換されたもの(Mn3AN1-xCx(0≦x<0.2)、ただしAは亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)のいずれか)から成る群から選択される少なくとも一種のセラミックであることとしてもよい。このような構成とすれば、ベース部の熱膨張率を低減するためにベース部に含有させる低熱膨張率セラミックの含有率を抑えることができる。このように、ベース部における低熱膨張率セラミックの含有率を低減できることにより、ベース部に関する熱伝導率や電気抵抗などの熱膨張率以外の物性が、低熱膨張率セラミックを混合することに起因して変化する程度を抑えることができる。
(4)上記形態の保持装置において、前記ベース部は、該ベース部を構成する金属から成り連続的に形成された金属相中に、前記低熱膨張率セラミックの粒子が分散していることとしてもよい。このような構成とすれば、ベース部は、連続的に形成された金属相を有することになるため、この金属相によってベース部における熱伝導性を確保することができる。そのため、熱伝導率が比較的低い低熱膨張率セラミックをベース部が含有するにもかかわらず、ベース部における熱伝導率の低下を抑えることができる。
(5)上記形態の保持装置において、前記ベース部における前記低熱膨張率セラミックの含有率は、10体積%以上60体積%以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、低熱膨張率セラミックを混合することによってベース部の熱膨張率を低減する効果と、ベース部中の金属によってベース部における熱伝導性を確保する効果とを両立することが容易になる。
(6)上記形態の保持装置において、さらに、前記ベース部の表面に設けられ、前記保持装置の使用環境において許容される材料として予め選択された金属またはセラミックによって形成される第1コート層を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、ベース部の表面に第1コート層が設けられているため、ベース部が低熱膨張率セラミックを含有することに起因する影響、例えば、保持装置が使用される装置内部の環境に与える影響や当該装置で実行される処理に対する影響を、抑えることができる。
(7)上記形態の保持装置において、さらに、前記ベース部の表面のうちの前記接合部と接する面に設けられ、セラミックによって構成される第2コート層を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、ベース部が含有する低熱膨張率セラミックに起因して、接合部を構成する接着剤とベース部との間の接着性が局所的に低下する場合であっても、接合部とベース部との間の接着性を高めることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、保持装置を含む半導体製造装置、保持装置の製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】静電チャックの断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図4】ベース部における低熱膨張率セラミックの含有率と熱伝導率との関係を表すグラフ。
【
図5】ベース部における低熱膨張率セラミックの含有率と熱膨張率との関係を表す説明図。
【
図6】静電チャックの断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図7】静電チャックの断面の様子を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
(A-1)静電チャックの構造:
図1は、第1実施形態における静電チャック10の外観の概略を表す斜視図である。
図2は、静電チャック10の断面の様子を模式的に表す断面図である。
図1では、静電チャック10の一部を破断して示している。また、
図1、
図2、および後述する
図6および
図7には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸を示している。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。本願明細書においては、Z軸は鉛直方向を示し、X軸およびY軸は水平方向を示している。なお、
図1および
図2は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0008】
静電チャック10は、対象物を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内で、対象物であるウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、セラミック部20と、ベース部30と、接合部40と、を備える。これらは、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、セラミック部20,接合部40、ベース部30の順に積層されている。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
【0009】
セラミック部20は、略円形の板状部材であり、セラミック(例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等)を主成分として形成されている。セラミック部20の構成材料として、酸化アルミニウムは、耐プラズマ性に優れるため好ましい。また、セラミック部20の構成材料として、窒化アルミニウムは、熱伝導性が高いため好ましい。本願明細書において、特定成分が「主成分である」とは、当該特定成分の含有率が、50体積%以上であることを意味する。セラミック部20の直径は、例えば、50mm~500mm程度とすればよく、通常は200mm~350mm程度である。セラミック部20の厚さは、例えば1mm~10mm程度とすればよい。
【0010】
図2に示すように、セラミック部20の内部には、チャック電極22が配置されている。チャック電極22は、例えば、タングステンやモリブデンなどの導電性材料により形成されている。チャック電極22に対して図示しない電源から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミック部20の載置面S1に吸着固定される。チャック電極22は、双極型であってもよく、単極型であってもよい。また、セラミック部20の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されて、載置面S1に吸着固定されたウェハWを加熱するための、図示しないヒータ電極を設けてもよい。
【0011】
ベース部30は、略円形の板状部材であり、アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属を含むと共に、アルミニウムおよびマグネシウムよりも熱膨張率の低いセラミックである「低熱膨張率セラミック」をさらに含有する。なお、本願明細書において、「熱膨張率」は、「線膨張率」を指す。ベース部30の直径は、例えば、220mm~550mm程度とすればよく、通常は220mm~350mmである。ベース部30の厚さは、例えば、20mm~40mm程度とすればよい。ベース部30の構成については、後に詳しく説明する。
【0012】
ベース部30の内部には、複数の冷媒流路32がXY平面に沿うように形成されている。冷媒流路32に、例えばフッ素系不活性液体や水等の冷媒を流すことにより、ベース部30が冷却される。そして、接合部40を介したベース部30とセラミック部20との間の伝熱によりセラミック部20が冷却され、セラミック部20の載置面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。ベース部30の内部に冷媒流路32を有する形態の他、ベース部30の外部からベース部30を冷却することにより、ベース部30に冷却機能を持たせてもよい。
【0013】
接合部40は、セラミック部20とベース部30との間に配置されて、セラミック部20とベース部30とを接合する。接合部40は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤により構成される。接合部40は、例えばセラミック粉末等の無機フィラーを含んでいてもよい。具体的には、シリカ、アルミナ、アルミ、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等のフィラーを含んでいてもよい。接合部40の厚さは、例えば0.1mm~1mm程度とすることができる。
【0014】
静電チャック10には、さらに、複数のガス供給路50が形成されている。ガス供給路50は、セラミック部20、接合部40,およびベース部30をZ方向に貫通して設けられており、載置面S1において、ガス吐出口52として開口している。ガス供給路50は、図示しないガス供給装置から、例えばヘリウムガス等の不活性ガスを供給されて、載置面S1とウェハWとの間の空間に対して、ガス吐出口52から不活性ガスを供給する。これにより、セラミック部20とウェハWとの間の伝熱性を高めて、ウェハWの温度分布の制御性がさらに高められる。なお、ガス供給路50は必須ではなく、静電チャック10にガス供給路50を設けないこととしてもよい。
【0015】
(A-2)ベース部の構成:
既述したように、ベース部30は、アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属を含むと共に、アルミニウムおよびマグネシウムよりも熱膨張率の低いセラミックである低熱膨張率セラミックをさらに含有する。ベース部30の構成金属として、アルミニウムは、熱伝導性が高いため望ましい。また、ベース部30の構成金属として、マグネシウムは、密度が低いため静電チャック10の軽量化が容易となり、また、比熱が低いため、静電チャック10やウェハWの温度制御が容易となって望ましい。なお、アルミニウムの熱膨張率は23.1ppm/K(20℃)であり、マグネシウムの熱膨張率は24.8ppm/K(20℃)である。本実施形態では、ベース部30が低熱膨張率セラミックを含有することで、ベース部30における熱膨張率を低減して、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差を抑えている。
【0016】
ベース部30において、アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属の含有率は、ベース部30の熱伝導性を確保する観点からは、40体積%を超えることが望ましく、50体積%を超えることがより望ましく、60体積%を超えることがさらに望ましい。また、ベース部30において、アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属の含有率は、低熱膨張率セラミックの含有率を確保する観点からは、90体積%未満であることが望ましく、85体積%未満であることがより望ましく、80体積%未満であることがさらに望ましい。ただし、ベース部30におけるアルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属の含有率は、40体積%以下としてもよく、90体積%以上としてもよい。
【0017】
ベース部30を構成する金属として、アルミニウムとマグネシウムのうちの少なくとも一方を含む合金を用いる場合には、この合金は、アルミニウムおよびマグネシウム以外の元素として、亜鉛、ジルコニウム、銅、希土類元素、イットリウム、ケイ素等、種々の元素を含むことができる。ベース部30を構成する金属に含まれる元素の種類およびその含有率は、静電チャック10を使用する半導体製造装置の真空チャンバ内部の環境に対する影響(例えば、半導体素子製造の工程において汚染の原因になるか否かなど)や、真空チャンバ内で発生させるプラズマに対する影響が、許容範囲となるように設定されていればよい。
【0018】
ベース部30は、後述するように、ベース部30を構成する金属から成り連続的に形成された金属相を備える。ベース部30の金属相は、アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属を主成分として含んでいる。ベース部30の金属相が、「アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属を主成分として含む」とは、ベース部30の金属相がアルミニウムを50体積%以上含む場合と、ベース部30の金属相がマグネシウムを50体積%以上含む場合と、ベース部30の金属相におけるアルミニウムおよびマグネシウムの各々の含有率が50体積%未満であっても、アルミニウムとマグネシウムの含有率の合計が50体積%以上である場合と、を含む。ベース部30の金属相におけるアルミニウムとマグネシウムの含有率の合計は、50体積%以上であればよいが、80体積%以上であることがより望ましく、90体積%以上であることがさらに望ましい。アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属のみにより、ベース部30の金属相が形成されていてもよい。
【0019】
本実施形態では、既述したように、ベース部30が低熱膨張率セラミックを含有することで、ベース部30における熱膨張率を、ベース部30が低熱膨張率セラミックを含有しない場合に比べて低下させて、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差を抑えている。具体的には、ベース部30の熱膨張率を、4ppm/K以上10ppm/K以下にして、ベース部30の熱膨張率を、セラミック部20の熱膨張率に近づけている。例えば、熱膨張率が7.2ppm/Kの酸化アルミニウムを主成分とするセラミック部20を設ける場合には、ベース部30の熱膨張率は、6.5ppm以上10ppm/K以下とすることが望ましい。なお、各材料の熱膨張率は、温度によって変化し得るため、本願明細書においては、熱膨張率は、静電チャック10の一般的な使用温度範囲や、加熱硬化による接合部40の形成など、静電チャック10を生産する上で影響する温度範囲と重なる、50~100℃の温度範囲における熱膨張率を指すものとする。
【0020】
ベース部30の熱膨張率の測定方法について、以下に説明する。ベース部30の熱膨張率は、公知の熱膨張率測定装置(例えば、株式会社リガク製のThermo plus EVO2)により測定できる。具体的には、測定のための試験片として、ベース部30から切り出した角柱(例えば長さ15mm×幅5mm×厚み5mm)を用意する。そして、上記試験片に圧縮荷重(例えば10mN)を付与しつつ、予め設定した昇温速度(例えば10℃/分)で昇温し、予め設定した時間間隔(例えば1秒間隔)で、上記試験片の温度と長さの変化を測定する。測定の温度範囲は、対象となる静電チャックの使用温度や製造工程にかかる温度に応じて決定することができる。例えば、50~100℃の温度範囲における熱膨張率は、以下の(1)式により算出することができる。
【0021】
熱膨張率=(100℃の試験片長さ-50℃の試験片長さ)÷(50℃の試験片長さ)÷(100-50) …(1)
【0022】
図3は、本実施形態の静電チャック10のベース部30の様子を模式的に表す説明図である。本実施形態の静電チャック10のベース部30は、ベース部30を構成する金属から成り連続的に形成された金属相37中に、低熱膨張率セラミックから成る複数の低熱膨張率粒子38が分散する構造を有している。
図3では、ベース部30内で低熱膨張率粒子38が3次元的に分散している様子が示されている。
図3では、低熱膨張率粒子38は模式的に球状で図示したが、必ずしも球状に限らず、例えば、板状や不定形状であってもよい。
【0023】
以上のように構成された本実施形態の静電チャック10によれば、ベース部30が低熱膨張率セラミックを含有することにより、ベース部30の熱膨張率が低減されて、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差が抑えられている。そのため、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差に起因して静電チャック10内で生じる熱応力を抑え、熱応力に起因するセラミック部20等の変形(曲がりや反り等)や、接合部40の剥離や破断を抑えることができる。特に、ベース部30が低熱膨張率セラミックを含有することにより、ベース部30の熱膨張率を、4ppm/K以上10ppm/K以下にすることで、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差を小さくして、上記効果を高めることができる。また、ベース部30が、アルミニウムおよびマグネシウムのうちの少なくとも一種の金属を含むため、熱伝導率が比較的低い低熱膨張率セラミックをベース部30が含有するにもかかわらず、ベース部30における熱伝導率の低下を抑えることができる。
【0024】
セラミック部20が変形すると、セラミック部20の載置面S1と、載置面S1上に保持されるウェハWとの間の平行度が低下するため、載置面S1上にウェハWを吸着する程度が損なわれる可能性があり、また、載置面S1とウェハWとの間の空間に供給されるヘリウムガス等がリークする可能性がある。ヘリウムガス等がリークすると、セラミック部20とウェハWとの間の伝熱状態が損なわれ、ウェハWの温度が変化したり、ウェハWの温度にばらつきが生じる可能性がある。また、接合部40が剥離すると、セラミック部20とベース部30の伝熱状態が損なわれ、ウェハWの温度が変化したり、ウェハWの温度にばらつきが生じる可能性がある。本実施形態によれば、セラミック部20とベース部30との間の熱膨張率差に起因するセラミック部20の変形や接合部40の剥離が抑制されることにより、上記した不都合を抑えることができる。
【0025】
さらに、本実施形態では、ベース部30は、
図3に示すように、ベース部30を構成する金属から成り連続的に形成された金属相37中に、低熱膨張率セラミックから成る複数の低熱膨張率粒子38が分散する構造を有している。このように、金属相37が連続的に形成されているため、熱伝導率が比較的低い低熱膨張率セラミックをベース部30が含有するにもかかわらずベース部30における熱伝導率の低下を抑える効果を、より高めることができる。すなわち、ベース部30が、 金属相37中に低熱膨張率粒子38が分散する構造を有することにより、ベース部30の熱伝導率の低下を抑え、ベース部30において熱膨張率の低減と熱伝導率の確保とを両立することが、より容易になる。
【0026】
なお、金属相37中に分散する低熱膨張率粒子38の平均粒径は、低熱膨張率粒子38を配合して分散させる工程を容易化する観点から、1μm以上とすることが好ましく、5μm以上とすることがさらに好ましい。また、低熱膨張率粒子38の分散状態が不均一になることを抑え、ベース部30全体で特性を均一化することを容易化する観点から、低熱膨張率粒子38の平均粒径は、100μm以下とすることが好ましく、50μm以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
図4は、ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率とベース部30の熱伝導率との関係を概念的に表すグラフである。
図4において、横軸は低熱膨張率セラミックの含有率を示し、縦軸はベース部30の熱伝導率を示す。
図4では、一例として、ベース部30に含まれるベース部分(金属相37)がアルミニウムによって構成される場合を示している。
図4に示すように、ベース部30では、連続的な金属相37により熱伝導性が確保されるため、金属に比べて熱伝導率が低い低熱膨張率セラミックの含有率を増加させても、低熱膨張率セラミックの含有率をある程度増加させるまではベース部30の熱伝導率はあまり低下しない。そのため、例えばベース部30の熱膨張率がセラミック部20の熱膨張率に十分に近づくまで低熱膨張率セラミックの含有率を増加させても、低熱膨張率セラミックの混合に起因してベース部30の熱伝導率が低下する程度を抑えることができる。ベース部30の熱膨張率を低減する方法として、アルミニウムやマグネシウムよりも熱膨張率が低い低熱膨張率金属(例えば、チタン、コバール、インバー、スーパーインバー、ノビナイト等)によってベース部全体を構成する方法も考えられる。しかしながら、このような低熱膨張率金属は、一般に、アルミニウムやマグネシウムに比べて熱伝導率が低いため、ベース部30の熱伝導率が望ましくない程度に低下する可能性がある。本実施形態の静電チャック10によれば、ベース部30の熱膨張率を低減すると共に熱伝導率を確保することで、例えば、冷媒流路32が形成されるベース部30による冷却の機能を確保することが可能になる。ただし、低熱膨張率セラミックを混合することによるベース部30における熱伝導率の低下の程度が許容範囲であれば、ベース部30は、
図3に示すように連続的な金属相37中に低熱膨張率粒子38が分散する構造とは異なる構造を有していてもよい。
【0028】
ベース部30において、低熱膨張率セラミックを混合することによる熱膨張率の低減の効果を得るためには、ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率は、10体積%以上とすることが望ましく、15体積%以上とすることがより望ましく、20体積%以上とすることがさらに望ましい。また、ベース部30において、ベース部30に含まれる金属によってベース部30の熱伝導性を確保する効果を得るためには、ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率は、60体積%以下とすることが望ましく、50体積%以下とすることがより望ましく、40体積%以下とすることがさらに望ましい。ただし、ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率は、10体積%未満としてもよく、60体積%を超えることとしてもよい。
【0029】
ベース部30の製造方法について、以下に説明する。アルミニウムやマグネシウムなどの金属と低熱膨張率セラミックとを複合化した複合物は、例えば、溶融させた上記金属中に低熱膨張率セラミックを混合する方法、あるいは、鋳型内に低熱膨張率セラミックを入れた後に上記金属の溶湯を鋳込む方法により、作ることができる。ベース部30は、アルミニウムやマグネシウムなどの金属と低熱膨張率セラミックとを複合化した複合物から、切削加工など通常用いられる公知の機械加工により作ることができる。
【0030】
ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率(体積%)は、例えば、ベース部30の断面について走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)の反射電子像観察を行い、明部と暗部の面積割合を算出することにより求めることができる。倍率は、一つの視野の中に多くの低熱膨張率セラミック粒子が確認できるよう、例えば1000倍程度と比較的低い倍率で観察を行うことが好ましい。広い視野で観察することで、平均化された含有率を求めることができるためである。走査型電子顕微鏡の反射電子像観察において、反射電子はサンプルを構成する元素により発生量が異なり、原子番号が大きいほど発生量が多くなる性質を有するため、原子番号の大きい元素ほど明るく観察される。したがって、例えば、低熱膨張率セラミックとしてタングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)を用いる場合には、アルミニウムやマグネシウムから成る金属相37は、原子番号が比較的小さいため暗く観察され、ジルコニウムやタングステンなどの原子番号が比較的大きい元素を含む低熱膨張率粒子38は明るく観察される。上記のようにして算出した走査型電子顕微鏡の反射電子像における低熱膨張率セラミックの部分の面積割合は、ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率に等しいと考えることができる。ベース部30における組成がある程度不均一であると考えられる場合には、上記した面積割合を求める断面の数を増やして、断面ごとに求めた低熱膨張率セラミックの面積割合の平均を求めればよい。含まれている低熱膨張率セラミックの組成は、走査型電子顕微鏡に備え付けることができるエネルギー分散型X線分析(EDX: Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により、元素に固有の特性X線と、その強度とを測定することにより確認できる。また、X線回折法(XRD: X-ray Diffraction)により、結晶状態を測定し、データベースと比較することによっても確認できる。
【0031】
本実施形態では、既述したように、ベース部30が含有する低熱膨張率セラミックとして、アルミニウムおよびマグネシウムよりも低い熱膨張率を示す低熱膨張率セラミックを混合することにより、ベース部30の熱膨張率を低減している。ベース部30の熱膨張率は、セラミック部20の熱膨張率に近づけることが望ましいため、低熱膨張率セラミックは、セラミック部20を構成するセラミックの熱膨張率よりも低い熱膨張率を示すことが望ましい。これにより、ベース部30の熱膨張率をセラミック部20の熱膨張率に近づけることが容易になる。アルミニウムおよびマグネシウムよりも低い熱膨張率を示す低熱膨張率セラミックとしては、例えば、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)や酸化イットリウム(イットリア:Y2O3)を挙げることができる。また、セラミック部20を酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)で形成する場合には、セラミック部20を構成するセラミックよりも低い熱膨張率を示す低熱膨張率セラミックとしては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、コージライトを挙げることができる。
【0032】
ベース部30の熱膨張率を効率良く低減できるという観点から、低熱膨張率セラミックは、特に、負の熱膨張率を有することが望ましい。ベース部30が含有する負の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミックは、例えば、タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO4)2)、β-ユークリプタイト(β-LiAlSiO4)、ビスマスニッケル鉄酸化物(BiNi1-xFexO3(x<1):BNFO)、ビスマスランタンニッケル酸化物(Bi1-xLaxNiO3(x<1))、ペロブスカイト型複合酸化物であるルテニウム酸化物(Ca2RuO4-x(x<0.4)、Ca2Ru1-xFexO4-y(x、y<0.4))、ペロブスカイト型複合酸化物のうちAサイト秩序型ペロブスカイト型酸化物(LaCu3Fe4O12)、逆ペロブスカイト型マンガン窒化物および逆ペロブスカイト型マンガン窒化物の窒素の一部が炭素に置換されたもの(Mn3AN1-xCx(0≦x<0.2)、ただしAは亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)のいずれか)から成る群から選択される少なくとも一種のセラミックとすることができる。
【0033】
上記した負の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミックの中でも、タングステン酸ジルコニウム、β-ユークリプタイト、および、ビスマスランタンニッケル酸化物であるBi0.95La0.05NiO3が、特に好ましい。タングステン酸ジルコニウムは、-200℃以下あるいは400℃以上であっても負の熱膨張を示し、-200℃~400℃を超える広い温度範囲において、熱膨張率-9ppm/Kを示す。また、β-ユークリプタイトは、20℃以下あるいは400℃以上であっても負の熱膨張を示し、20℃~400℃を超える広い温度範囲において、熱膨張率-7.6ppm/Kを示す。Bi0.95La0.05NiO3は、47℃~107℃という温度範囲において、熱膨張率-82ppm/Kを示す。
【0034】
これら3種の低熱膨張率セラミックは、負の熱膨張が大きいため、少量の添加でベース部30の熱膨張率をセラミック部20の熱膨張率に整合させることが可能となる。ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率は、既述したように10体積%以上60体積%以下とすることが好ましいが、低熱膨張率セラミックとしてタングステン酸ジルコニウムやβ-ユークリプタイトを用いる場合には、特に、30体積%以上60体積%以下とすることが好ましい。このような含有率を採用することで、ベース部30の熱膨張率をセラミック部20の熱膨張率に効果的に近づけることができる。また、低熱膨張率セラミックとしてBi0.95La0.05NiO3を用いる場合には、Bi0.95La0.05NiO3は特に負の熱膨張が大きいため、ベース部30におけるBi0.95La0.05NiO3の含有率を10体積%以上30体積%以下とすることが好ましい。
【0035】
また、上記した3種の低熱膨張率セラミックは、負の熱膨張率を示す温度範囲が広いため、静電チャック10の使用温度範囲が制限されることを抑えることができる。中でも、タングステン酸ジルコニウムおよびβ-ユークリプタイトは、静電チャックの一般的な使用温度範囲をカバーできる温度範囲において、負の熱膨張を示すため望ましい。特に、タングステン酸ジルコニウムは、0℃以下を含む広い温度範囲で負の熱膨張率を示すため、0℃以下で使用する低温用の静電チャックにおいても好適に用いることができる。
【0036】
静電チャック10における要求性能等を考慮して、静電チャック10の構成材料の望ましい組み合わせとしては、セラミック部20の構成材料、ベース部30の金属相の構成材料、低熱膨張率セラミックの構成材料の順で、例えば、酸化アルミニウム、アルミニウム、タングステン酸ジルコニウムの組み合わせ、窒化アルミニウム、アルミニウム、タングステン酸ジルコニウムの組み合わせ、酸化アルミニウム、マグネシウム、タングステン酸ジルコニウムの組み合わせ、窒化アルミニウム、マグネシウム、タングステン酸ジルコニウムの組み合わせ、を挙げることができる。
【0037】
図5は、ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率と、ベース部30の熱膨張率との関係を模式的に表す説明図である。
図5において、横軸は低熱膨張率セラミックの含有率を示し、縦軸はベース部30の熱膨張率を示す。
図5では一例として、ベース部30に含まれるベース部分がアルミニウムによって構成される場合を示している。また、
図5では、低熱膨張率セラミックとして正の熱膨張率(CTE)を有する低熱膨張率セラミックを用いる場合と、負の熱膨張率(CTE)を有する低熱膨張率セラミックを用いる場合とについて、併せて示している。
図5に示すように、低熱膨張率セラミックの種類にかかわらず、低熱膨張率セラミックの含有率を増やすほど、ベース部30の熱膨張率はほぼ一定の傾きで低下する。これは、ベース部30の内部の組織に異方性がなく、全体的に十分に均質な場合、連続的な相か、分散している相かといった内部組織の構造によらず、連続的な相も分散している相も熱膨張率には同等に寄与し、ベース部30全体として膨張・収縮するためである。そして、負の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミックの方が正の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミックよりも、傾きが大きくなる。
図5では、セラミック部20の熱膨張率をCTE
0、ベース部30の熱膨張率の目標とする下限値をCTE
L、ベース部30の熱膨張率の目標とする上限値をCTE
Uとして示している。
図5に示すように、ベース部30の熱膨張率を下限値CTE
Lと上限値CTE
Uとの間の値にするためには、負の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミックを用いる場合には、低熱膨張率セラミックの含有率をA~B体積%とすればよく、正の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミックを用いる場合には、低熱膨張率セラミックの含有率をC~D体積%とすれば良い(A<C、B<D。特に、
図5では、A<B<C<Dとなる様子を示している)。
【0038】
このように、低熱膨張率セラミックとして、負の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミックを用いることにより、正の熱膨張率を有する低熱膨張率セラミックを用いる場合に比べて、ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率を、さらに抑えることができる。ベース部30における低熱膨張率セラミックの含有率を低減できることにより、ベース部30に関する熱伝導率や電気抵抗などの熱膨張率以外の物性が、低熱膨張率セラミックを混合することによって、ベース部30を構成する金属の物性から変化する程度を抑えることができる。
【0039】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態の静電チャック110の断面の様子を、
図2と同様にして示す説明図である。第2実施形態の静電チャック110は、ベース部30の表面に第1コート層34を備えること以外は第1実施形態と同様の構成を有している。第2実施形態の静電チャック110において、第1実施形態の静電チャック10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
【0040】
第1コート層34は、ベース部30の表面のうちの外部に露出する露出面を覆うように設けられており、静電チャック10の使用環境において許容される材料として予め選択された金属またはセラミックによって形成される。静電チャック10の使用環境において許容される材料とは、当該材料を用いて第1コート層34を形成したときに、静電チャック10が使用される装置(例えば、半導体製造装置の真空チャンバ)内部の環境に与える影響や、当該装置で実行される処理に対する影響(例えば、半導体素子製造の工程において汚染の原因になるか否か、あるいは真空チャンバ内のプラズマに望ましくない影響を与えるか否か等)が、許容範囲内となる材料を指す。
【0041】
第1コート層34が金属層を備える場合には、この金属層を構成する金属は、例えば、セラミック部20に含まれる金属元素から成る金属、あるいは、ベース部30に含まれる金属と同種の金属とすることができる。また、第1コート層34がセラミック層を備える場合には、このセラミック層を構成するセラミックは、例えば、セラミック部20を構成するセラミックと同種のセラミックとすることができる。セラミック部20を構成するセラミックは、静電チャック10の使用環境において許容される材料として予め選択されているためである。例えば、セラミック部20が酸化アルミニウムにより形成される場合には、上記金属層はアルミニウム層とすることができる。また、セラミック部20が酸化アルミニウムにより形成される場合には、上記セラミック層は酸化アルミニウムの層とすることができる。ただし、静電チャック10の使用環境において許容される材料であれば、セラミック部20に含まれない成分からなる金属層やセラミック層を設けてもよい。例えば、静電チャック10の使用環境において酸化イットリウムが許容される材料であれば、上記セラミック層は、酸化イットリウムの層とすることができる。このような金属層あるいはセラミック層は、例えば溶射により形成することができる。また、金属層は、電解めっき、あるいは無電解めっきにより形成してもよい。
【0042】
第2実施形態の静電チャック110によれば、ベース部30の表面のうちの外部に露出する露出面を覆うように第1コート層34が設けられている。そのため、ベース部30が低熱膨張率セラミックを含有することに起因する影響、例えば、静電チャック10が使用される装置(例えば、半導体製造装置の真空チャンバ)内部の環境に与える影響や、当該装置で実行される処理に対する影響(例えば、半導体素子製造の工程において汚染の原因になるか否か、あるいは真空チャンバ内のプラズマに望ましくない影響を与えるか否か等)が、第1コート層34を設けない場合には許容範囲を超える場合であっても、低熱膨張率セラミックに起因する上記した望ましくない影響を抑えることができる。
【0043】
第1コート層34によってベース部30中の低熱膨張率セラミックの影響を抑える観点からは、第1コート層34の厚みは、5μm以上とすることが望ましく、10μm以上とすることがより望ましく、30μm以上とすることがさらに望ましい。また、静電チャック110の生産性を高める観点からは、第1コート層34の厚みは、300μm以下とすることが望ましく、250μm以下とすることがより望ましく、200μm以下とすることがさらに望ましい。
【0044】
C.第3実施形態:
図7は、第3実施形態の静電チャック210の断面の様子を、
図2と同様にして示す説明図である。第3実施形態の静電チャック110は、ベース部30の表面に第2コート層36を備えること以外は第1実施形態と同様の構成を有している。第3実施形態の静電チャック110において、第1実施形態の静電チャック10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
【0045】
第2コート層36は、ベース部30の表面のうちの接合部40と接する面に設けられ、セラミックによって構成される。第2コート層36は、ベース部30の表面のうちの接合部40と接する面に設けられ、セラミックによって構成される。第2コート層36は、ベース部30の表面において、接合部40と接する領域の一部に形成してもよいが、接合部40と接する領域全体にわたって形成することが望ましい。第2コート層36を構成するセラミックとしては、例えば、酸化アルミニウムや酸化イットリウムを挙げることができる。第2コート層36は、例えば、溶射により形成することができる。ベース部30の表面において、接合部40と接する領域のみ第2コート層36を設ける場合には、第2コート層36を設けない領域をマスキングして第2コート層36を形成すればよい。また、第2コート層36と共に、第3実施形態の第1コート層34としてのセラミック層を設け、第2コート層36と上記セラミック層を同種のセラミックにより形成する場合には、第2コート層36と第1コート層34とを一体で形成してもよい。
【0046】
第3実施形態の静電チャック210によれば、ベース部30の表面における接合部40と接する領域に第2コート層36を設けている。そのため、ベース部30が含有する低熱膨張率セラミックに起因して、接合部40を構成する接着剤とベース部30との間の接着性が局所的に低下する場合であっても、接合部40とベース部30との間の接着性を高めることができる。これは、接着剤により実現される接着力の少なくとも一部は、分子間力(ファンデルワールス力)等の物理的相互作用によると考えられ、極性が高い部位を有するセラミックによって第2コート層36を構成することにより、接着性が高まるためである。例えば、静電チャック210の使用温度範囲や、静電チャック210の使用環境において許容されるか否か等に基づいて望ましい接着剤を選択したときに、当該接着材とマグネシウムとの接着性が不十分になる場合であっても、第2コート層36を設けることにより、安定した接着が可能になる。
【0047】
第2実施形態の第1コート層34および第3実施形態の第2コート層36(以下では、単に「コート層」とも呼ぶ)の組織、組成、厚みなどは、以下の方法により測定することができる。コート層の組織は、走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)による観察で評価できる。コート層の組成は、ベース部30の断面におけるコート層の部分、あるいは、コート層の表面について、例えば走査型電子顕微鏡に備え付けることができるエネルギー分散型X線分析(EDX)装置による分析、あるいはX線光電子分光法(XPS: X-ray Photoelectron Spectroscopy)による分析を行って、構成する元素を特定することにより測定できる。コート層の厚みは、例えば、ベース部30の断面におけるコート層の部分の走査型電子顕微鏡による観察、あるいはX線光電子分光法による測定により求めることができる。また、コート層の厚みは、コート層の表面からコート層を厚み方向にエッチングしながら、組成をX線光電子分光法により測定していくことでも求めることができる。より具体的には、コート層の表面から深さ方向へのエッチングは、例えばアルゴンイオン(Ar+)をコート層の表面に当てて、イオンスパッタリング効果を利用することで可能になる。エッチングとX線光電子分光の測定とを交互に繰り返して行うことにより、厚み方向の組成の変化を測定することができるため、コート層の厚みを測定できる。
【0048】
D.他の実施形態:
本開示は、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャックに限らず、セラミック部と、ベース部と、セラミックス部とベース部とを接合する接合部と、を備え、セラミック部の表面上に対象物を保持する他の保持装置、例えば、CVD、PVD、PLD等の真空装置用ヒータ装置や、真空チャック等にも同様に適用可能である。
【0049】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10,110,210…静電チャック
20…セラミック部
22…チャック電極
30…ベース部
32…冷媒流路
34…第1コート層
36…第2コート層
37…金属相
38…低熱膨張率粒子
40…接合部
50…ガス供給路
52…ガス吐出口
S1…載置面
W…ウェハ