IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロッテ ケミカル コーポレイションの特許一覧

特許7386159熱可塑性樹脂組成物およびこれから形成された成形品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびこれから形成された成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20231116BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20231116BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20231116BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20231116BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L51/04
C08K5/49
C08L27/18
C08L25/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020529705
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 KR2018016852
(87)【国際公開番号】W WO2019132584
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】10-2017-0184308
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520087103
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミョン ファン
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-513778(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0203831(US,A1)
【文献】特開2016-102219(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0303296(US,A1)
【文献】特開2015-117274(JP,A)
【文献】特表2011-526941(JP,A)
【文献】特開2008-038003(JP,A)
【文献】特開2001-002908(JP,A)
【文献】特開2007-045908(JP,A)
【文献】特表2002-513837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 51/04
C08K 5/49
C08L 27/18
C08L 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール-A型ポリカーボネート樹脂 100重量部;
ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合された第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体 1重量部~10重量部;
ゴム質重合体にアルキル(メタ)アクリレート系単量体がグラフト重合された第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体 1重量部~10重量部;
リン系難燃剤 1重量部~30重量部;ならびに
カプセル化されたフッ素重合体 0.1重量部~5重量部;を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物であって、
前記第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ブタジエン系ゴム質重合体にアクリロニトリルおよびスチレンがグラフト重合された共重合体(g-ABS)であって、コア(ゴム質重合体)-シェル(単量体混合物の共重合体)の構造を有し、
前記第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ブタジエン/エチルアクリレートゴムにメチルメタクリレートがグラフト重合された共重合体であって、コア(ゴム質重合体)-シェル(メチルメタクリレートの重合体)の構造を有し、
前記カプセル化されたフッ素重合体は、スチレンおよびアクリロニトリルの重合体でカプセル化されたポリテトラフルオロエチレンであり、
前記第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体と第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の重量比は、1:1~1:3であり、
前記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D256に基づいて測定した1/8”厚の試験片のノッチ付きアイゾット衝撃強度が45kgf・cm/cm~80kgf・cm/cmであり、
前記熱可塑性樹脂組成物は、UL-94垂直試験方法で測定した1.2mm厚の試験片の難燃度がV-0以上であり、
前記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1238に規定された評価方法に基づいて220℃、10kgfの条件で測定したメルトフローインデックス(MI)が20g/10分~50g/10分である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記リン系難燃剤は、ホスフェート化合物、ホスホネート化合物、ホスフィネート化合物、ホスフィンオキシド化合物、およびホスファゼン化合物のうち1種以上を含むことを特徴とする、請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン系難燃剤は、ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物は、UL-94垂直試験方法で測定した2.5mm厚の試験片の難燃度が5VAであることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物は、ISO R306に基づいて5kgの荷重、50℃/hrの条件で測定したビカット軟化温度が90℃~120℃であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項による熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物およびこれから形成された成形品に関する。より具体的には、本発明は、耐衝撃性、薄膜難燃性、耐熱性、流動性などに優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれから形成された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物のうち、ポリカーボネート(PC)樹脂にアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体樹脂などのゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂および難燃剤を混合したPC/ABS系難燃性熱可塑性樹脂組成物は、電気電子製品の内/外装材、工業用部品、日用雑貨、および自動車用素材に至るまで、非常に多様な分野に広範囲に使用されている。このような難燃性熱可塑性樹脂組成物は、汎用プラスチック材料に比べて耐衝撃性、難燃性、流動性などに優れており、加工中にその特性の調節が容易であるという長所を有する。通常、難燃性熱可塑性樹脂組成物の物性は、樹脂の溶融混合比率、重合単量体の組成比および分子量の変更などの方法で調節されている。
【0003】
近年、環境、エネルギー問題が問題化され、プラスチック製品の環境にやさしいデザインが強調され、各製品のデザインが徐々に軽量化、薄膜化される状況にある。これによって、従来の難燃性熱可塑性樹脂組成物の製品では具現されにくい高い耐衝撃性、高い流動性、高い薄膜難燃性が同時に発現される新規材料の開発に対する要求が増加している。
【0004】
したがって、耐衝撃性、薄膜難燃性、耐熱性、流動性、これらの物性バランスなどに優れた熱可塑性樹脂組成物の開発が必要な実情にある。
【0005】
本発明の背景技術は、韓国公開特許第10-2016-0077081号公報などに開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐衝撃性、薄膜難燃性、耐熱性、流動性などに優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、前記熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品を提供することにある。
【0008】
本発明の上記目的およびその他の目的は、下記で説明する本発明によって全て達成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1.本発明の一観点は、熱可塑性樹脂組成物に関する。前記熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂約100重量部;ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合された第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体約1重量部~約10重量部;ゴム質重合体にアルキル(メタ)アクリレート系単量体がグラフト重合された第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体約1重量部~約10重量部;リン系難燃剤約1重量部~約30重量部;ならびにカプセル化されたフッ素重合体約0.1重量部~約5重量部;を含む。
【0010】
2.上記1.の具体例において、前記第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体と第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体との重量比は、約1:約1~約1:約3であってもよい。
【0011】
3.上記1.または2.の具体例において、前記第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、上記ゴム質重合体に上記アルキル(メタ)アクリレート系単量体および芳香族ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたものであってもよい。
【0012】
4.上記1.~3.の具体例において、上記リン系難燃剤は、ホスフェート化合物、ホスホネート化合物、ホスフィネート化合物、ホスフィンオキシド化合物、およびホスファゼン化合物のうち1種以上を含んでもよい。
【0013】
5.上記1.~4.の具体例において、上記リン系難燃剤は、ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)であってもよい。
【0014】
6.上記1.~5.の具体例において、上記カプセル化されたフッ素重合体は、スチレンおよびアクリロニトリルの重合体でカプセル化されたポリテトラフルオロエチレンであってもよい。
【0015】
7.上記1.~6.の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D256に基づいて測定した1/8”厚の試験片のノッチ付きアイゾット衝撃強度が約45kgf・cm/cm~約80kgf・cm/cmであってもよい。
【0016】
8.上記1.~7の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、UL-94垂直試験(vertical test)方法で測定した1.2mm厚の試験片の難燃度がV-0以上であってもよい。
【0017】
9.上記1.~8.の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、UL-94垂直試験方法で測定した2.5mm厚の試験片の難燃度が5VAであってもよい。
【0018】
10.上記1.~9.の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ISO R306に基づいて5kgの荷重、50℃/hrの条件で測定したビカット(Vicat)軟化温度が約90℃~約120℃であってもよい。
【0019】
11.前記1.~10.の具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1238に規定された評価方法に基づいて220℃、10kgfの条件で測定したメルトフローインデックス(MI)が約20g/10分~約50g/10分であってもよい。
【0020】
12.本発明の他の観点は成形品に関する。上記成形品は、上記1.~11.のいずれか1つによる熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、耐衝撃性、薄膜難燃性、耐熱性、流動性などに優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれから形成された成形品を提供するという効果を有する。
【0022】
発明を実施するための最良の形態
以下では、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂;(B)第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体;(C)第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体;(D)リン系難燃剤;および(E)カプセル化されたフッ素重合体;を含む。
【0024】
本明細書において、数値の範囲を示す「a~b」は「≧aで、≦b」と定義する。
【0025】
(A)ポリカーボネート樹脂
本発明の一具体例に係るポリカーボネート樹脂としては、通常の熱可塑性樹脂組成物に使用されるポリカーボネート樹脂を使用できる。例えば、ジフェノール類(芳香族ジオール化合物)をホスゲン、ハロゲンホルメート、炭酸ジエステルなどの前駆体と反応させることによって製造される芳香族ポリカーボネート樹脂を使用してもよい。
【0026】
具体例において、上記ジフェノール類としては、4,4'-ビフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどを例示できるが、これらに限定されない。例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、または1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどを使用してもよく、具体的には、ビスフェノール-Aとも呼ばれる2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを使用してもよい。
【0027】
具体例において、上記ポリカーボネート樹脂は、分枝鎖を有するものであってもよく、例えば、重合に使用されるジフェノール類の全体に対して約0.05モル%~約2モル%の3価またはそれ以上の多官能化合物、具体的には、3価またはそれ以上のフェノール基を有する化合物を添加して製造した分枝型ポリカーボネート樹脂を使用してもよい。
【0028】
具体例において、上記ポリカーボネート樹脂は、ホモポリカーボネート樹脂、コポリカーボネート樹脂、またはこれらのブレンド形態で使用してもよい。また、前記ポリカーボネート樹脂は、エステル前駆体、例えば、2官能カルボン酸の存在下で重合反応させて得られた芳香族ポリエステル-カーボネート樹脂に一部または全量を取り替えることも可能である。
【0029】
具体例において、上記ポリカーボネート樹脂は、GPC(gel permeation chromatography)で測定した重量平均分子量(Mw)が約10,000g/mol~約50,000g/mol、例えば、約15,000g/mol~約40,000g/molであってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の流動性(加工性)などが優秀になり得る。また、前記ポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量(Mw)が異なる2種以上のポリカーボネート樹脂の混合物であってもよい。
【0030】
具体例において、上記ポリカーボネート樹脂は、ISO 1133に基づいて、300℃、1.2kgの荷重条件で測定したメルトフローインデックス(Melt-flow Index:MI)が約5g/10分~約110g/10分であってもよい。また、前記ポリカーボネート樹脂は、メルトフローインデックスが異なる2種以上のポリカーボネート樹脂の混合物であってもよい。
【0031】
(B)第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体
本発明の第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性などを向上できるものであって、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたグラフト共重合体である。例えば、前記第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物をグラフト重合して得ることができ、必要に応じて、上記単量体混合物に加工性および耐熱性を付与する単量体をさらに含ませてグラフト重合してもよい。上記重合は、乳化重合、懸濁重合などの公知の重合方法によって行われ得る。また、前記第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、コア(ゴム質重合体)-シェル(単量体混合物の共重合体)構造を形成することができる。
【0032】
具体例において、上記ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン-ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)などのジエン系ゴム;前記ジエン系ゴムに水素添加した飽和ゴム;イソプレンゴム;炭素数2~10のアルキル(メタ)アクリレートゴム;炭素数2~10のアルキル(メタ)アクリレートおよびスチレンの共重合体;エチレン-プロピレン-ジエン単量体三元共重合体(EPDM)などを例示することができる。これらは、単独で適用されてもよく、2種以上を混合して適用されてもよい。例えば、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレートゴムなどを使用してもよく、具体的には、ブタジエン系ゴム、ブチルアクリレートゴムなどを使用してもよい。
【0033】
具体例において、前記ゴム質重合体(ゴム粒子)は、粒度分析装置で測定した平均粒径(D50)が約0.05μm~約6μm、例えば、約0.15μm~約4μm、具体的には、約0.25μm~約3.5μmであってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性などが優秀になり得る。ここで、平均粒径は、公知の方法によって、乾式法でマスターサイザー(Mastersizer) 2000Eシリーズ(Malvern社)装備を用いて測定した。
【0034】
具体例において、前記ゴム質重合体の含有量は、第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の全体100重量%のうち約10重量%~約70重量%、例えば、約20重量%~約60重量%であってもよく、前記単量体混合物の含量は、第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の全体100重量%のうち約30重量%~約90重量%、例えば、約40重量%~約80重量%であってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優秀になり得る。
【0035】
具体例において、上記芳香族ビニル系単量体は、上記ゴム質重合体にグラフト重合され得るものであって、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどを例示することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。上記芳香族ビニル系単量体の含有量は、上記単量体混合物の100重量%中、約15重量%~約94重量%、例えば、約20重量%~約80重量%、具体的には、約40重量%~約80重量%であってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の加工性などが優秀になり得る。
【0036】
具体例において、上記シアン化ビニル系単量体は、上記芳香族ビニル系と共重合可能なものであって、前記シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリルなどを例示することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを使用してもよい。上記シアン化ビニル系単量体の含有量は、前記単量体混合物の100重量%のうち約6重量%~約85重量%、例えば、約20重量%~約80重量%、具体的には、約20重量%~約60重量%であってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の流動性、剛性などが優秀になり得る。
【0037】
具体例において、上記加工性および耐熱性を付与するための単量体としては、無水マレイン酸、N-置換マレイミドなどを例示することができる。上記加工性および耐熱性を付与するための単量体を使用するとき、その含有量は、上記単量体混合物の100重量%中、約15重量%以下、例えば、約0.1重量%~約10重量%であってもよい。上記範囲では、他の物性が低下することなく、熱可塑性樹脂組成物に加工性および耐熱性を付与することができる。
【0038】
具体例において、第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体としては、ブタジエン系ゴム質重合体にアクリロニトリルおよびスチレンがグラフト重合された共重合体(g-ABS)などを例示することができる。
【0039】
具体例において、第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、上記ポリカーボネート樹脂の約100重量部に対して約1重量部~約10重量部、例えば、約1重量部~約6重量部で含まれてもよい。前記第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の含有量が、前記ポリカーボネート樹脂の約100重量部に対して約1重量部未満である場合は、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性などが低下するおそれがあり、約10重量部を超える場合は、熱可塑性樹脂組成物の難燃性、剛性、流動性などが低下するおそれがある。
【0040】
(C)第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体
本発明の第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性などを向上できるものであって、ゴム質重合体にアルキル(メタ)アクリレート系単量体、またはアルキル(メタ)アクリレート系単量体および芳香族ビニル系単量体がグラフト重合されたグラフト共重合体である。例えば、前記第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体にアルキル(メタ)アクリレート系単量体、またはアルキル(メタ)アクリレート系単量体および芳香族ビニル系単量体を含む単量体混合物をグラフト重合して得ることができる。上記重合は、乳化重合、懸濁重合などの公知の重合方法によって行われ得る。また、前記第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、コア(ゴム質重合体)-シェル(アルキル(メタ)アクリレート系単量体または単量体混合物の重合体)構造を形成することができる。
【0041】
具体例において、上記ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン-ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)などのジエン系ゴム;上記ジエン系ゴムに水素添加した飽和ゴム;イソプレンゴム;炭素数2~10のアルキル(メタ)アクリレートゴム;炭素数2~10のアルキル(メタ)アクリレートおよびスチレンの共重合体;エチレン-プロピレン-ジエン単量体三元共重合体(EPDM)などを例示することができる。これらは、単独で適用されてもよく、2種以上を混合して適用されてもよい。例えば、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレートゴムなどを使用してもよく、具体的には、ブタジエン系ゴム、エチルアクリレートゴム、これらの組み合わせなどを使用してもよい。
【0042】
具体例において、上記ゴム質重合体(ゴム粒子)は、粒度分析装置で測定した平均粒径(D50)が約0.05μm~約6μm、例えば、約0.15μm~約4μm、具体的には、約0.25μm~約3.5μmであってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性などが優秀になり得る。
【0043】
具体例において、上記ゴム質重合体の含有量は、第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の全体100重量%のうち約10重量%~約70重量%、例えば、約20重量%~約60重量%であってもよく、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体または単量体混合物の含有量は、第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の全体100重量%のうち約30重量%~約90重量%、例えば、約40重量%~約80重量%であってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性などが優秀になり得る。
【0044】
具体例において、上記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、上記ゴム質重合体にグラフト重合することができ、上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどを例示することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。上記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、単独でシェルに適用されてもよく、前記単量体混合物に含まれるとき、その含有量は、単量体混合物の100重量%のうち約6重量%~約85重量%、例えば、約20重量%~約80重量%、具体的には、約40重量%~約80重量%であってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の流動性、外観特性などが優秀になり得る。
【0045】
具体例において、上記芳香族ビニル系単量体は、上記ゴム質重合体にグラフト重合することができるものであって、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどを例示することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。上記芳香族ビニル系単量体の含有量は、前記単量体混合物の100重量%中、約15重量%~約94重量%、例えば、約20重量%~約80重量%、具体的には、約20重量%~約60重量%であってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の加工性などが優秀になり得る。
【0046】
具体例において、前記第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体としては、ブタジエン系ゴム質重合体にメチルメタクリレートがグラフト重合されたグラフト共重合体、ブタジエン系ゴム質重合体にメチルメタクリレートおよびスチレンがグラフト重合されたグラフト共重合体(g-MBS)などを例示することができる。
【0047】
具体例において、前記第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、上記ポリカーボネート樹脂の約100重量部に対して約1重量部~約10重量部、例えば、約5重量部~約9重量部で含まれてもよい。前記第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の含有量が前記ポリカーボネート樹脂の約100重量部に対して約1重量部未満である場合は、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性などが低下するおそれがあり、前記第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の含有量が前記ポリカーボネート樹脂の約100重量部に対して約10重量部を超える場合は、熱可塑性樹脂組成物の難燃性、外観などが低下するおそれがある。
【0048】
具体例において、前記第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体(B)と第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体(C)との重量比((B):(C))は、約1:約1~約1:約3、例えば、約1:約1.5~約1:約2.5であってもよい。上記範囲では、熱可塑性樹脂組成物の薄膜難燃性、耐衝撃性、流動性、これらの物性バランスなどがさらに優秀になり得る。
【0049】
(D)リン系難燃剤
本発明の一具体例に係るリン系難燃剤は、通常の熱可塑性樹脂組成物に使用されるリン系難燃剤であってもよい。例えば、リン系難燃剤としては、ホスフェート化合物、ホスホネート化合物、ホスフィネート化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスファゼン化合物、これらの金属塩などのリン系難燃剤を使用してもよい。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0050】
具体例において、上記リン系難燃剤は、下記化学式1で表される芳香族リン酸エステル系化合物(ホスフェート化合物)を含んでもよい。
【0051】
【化1】
【0052】
前記化学式1において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C20(炭素数6~20)のアリール基、またはC1-C10のアルキル基が置換されたC6-C20のアリール基であって、Rは、C6-C20のアリーレン基またはC1-C10のアルキル基が置換されたC6-C20のアリーレン基、例えば、レゾルシノール、ヒドロキノン、ビスフェノール-A、ビスフェノール-Sなどのジアルコールから誘導されたものであって、nは、0~10、例えば、0~4の整数である。
【0053】
前記化学式1で表される芳香族リン酸エステル系化合物としては、nが0である場合は、ジフェニルホスフェートなどのジアリルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレシルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリ(2,6-ジメチルフェニル)ホスフェート、トリ(2,4,6-トリメチルフェニル)ホスフェート、トリ(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(2,6-ジメチルフェニル)ホスフェートなどを例示することができ、nが1である場合は、ビスフェノール-Aビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス[ビス(2,6-ジメチルフェニル)ホスフェート]、レゾルシノールビス[ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート]、ヒドロキノンビス[ビス(2,6-ジメチルフェニル)ホスフェート]、ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ヒドロキノンビス[ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート]などを例示することができ、nが2以上であるオリゴマー型リン酸エステル系化合物などであってもよいが、これに制限されない。これらは、単独で適用されてもよく、2種以上の混合物の形態で適用されてもよい。
【0054】
具体例において、上記リン系難燃剤は、上記ポリカーボネート樹脂約100重量部に対して約1重量部~約30重量部、例えば、約5重量部~約20重量部で含まれてもよい。上記リン系難燃剤の含有量が前記ポリカーボネート樹脂の約100重量部に対して約1重量部未満である場合は、熱可塑性樹脂組成物の難燃性、流動性などが低下するおそれがあり、約30重量部を超える場合は、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性、加工性などが低下するおそれがある。
【0055】
(E)カプセル化されたフッ素重合体
本発明の一具体例に係るカプセル化されたフッ素重合体は、熱可塑性樹脂組成物の薄膜難燃性、5V難燃性などを向上できるものであって、カプセル化されたフッ素重合体としては、TSANと知られているスチレンおよびアクリロニトリルの重合体(SAN)でカプセル化されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを使用してもよい。
【0056】
具体例において、前記TSANは、TSAN100重量%中、約40重量%~約60重量%のPTFEおよび約40重量%~約60重量%のSANを含んでもよく、前記SANは、前記SANの100重量%中、約60重量%~約90重量%のスチレンおよび約10重量%~約40重量%のアクリロニトリルを含んでもよい。
【0057】
具体例において、上記カプセル化されたフッ素重合体は、上記ポリカーボネート樹脂約100重量部に対して、約0.1重量部~約5重量部、例えば、約0.5重量部~約3重量部で含まれてもよい。上記カプセル化されたフッ素重合体の含有量が前記ポリカーボネート樹脂の約100重量部に対して約0.1重量部未満である場合は、熱可塑性樹脂組成物の薄膜難燃性などが低下するおそれがあり、約5重量部を超える場合は、熱可塑性樹脂組成物の流動性、外観などが低下するおそれがある。
【0058】
本発明の一具体例に係る熱可塑性樹脂組成物は、通常の熱可塑性樹脂組成物に含まれる添加剤をさらに含んでもよい。上記添加剤としては、充填剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、核剤、安定剤、顔料、染料、これらの混合物などを例示することができる。上記添加剤を使用する際、その含有量は、ポリカーボネート樹脂約100重量部に対して約0.001重量部~約40重量部、例えば、約0.1重量部~約10重量部であってもよい。
【0059】
本発明の一具体例に係る熱可塑性樹脂組成物は、上記の構成成分を混合し、通常の二軸押出機を用いて、約200℃~約280℃で、例えば、約220℃~約260℃で溶融・押出しを行ったペレット状であってもよい。
【0060】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D256に基づいて測定した1/8”厚の試験片のノッチ付きアイゾット衝撃強度が約45kgf・cm/cm~約80kgf・cm/cm、例えば、約50kgf・cm/cm~約75kgf・cm/cmであってもよい。
【0061】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、UL-94 50W垂直試験方法で測定した1.2mm厚の試験片の難燃度がV-0以上であってもよい。
【0062】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、UL-94 500W垂直試験方法で測定した2.5mm厚の試験片の難燃度が5VAであってもよい。
【0063】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、ISO R306に基づいて5kgの荷重、50℃/hrの条件で測定したビカット軟化温度が約90℃~約120℃、例えば、約95℃~約110℃であってもよい。
【0064】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1238に規定された評価方法に基づいて220℃、10kgfの条件で測定したメルトフローインデックス(MI)が約10g/10分~約60g/10分、例えば、約20g/10分~約50g/10分であってもよい。
【0065】
本発明に係る成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物から形成される。上記熱可塑性樹脂組成物はペレット状に製造可能であり、製造されたペレットは、射出成形、押出成形、真空成形、キャスティング成形などの多様な成形方法を通じて多様な成形品(製品)に製造され得る。このような成形方法は、本発明の属する分野で通常の知識を有する者によく知られている。上記成形品は、耐衝撃性、薄膜難燃性、耐熱性、流動性などに優れるので、薄膜型(約1mm~約3mmの厚さ)電気/電子製品の外装材などとして有用である。また、5VA認証が要求される自動販売機、インダストリアルドライブ(industrial drive)のハウジングなどに適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。しかし、これらの実施例は、説明の目的のためのものに過ぎず、本発明を制限するものと解釈してはならない。
【0067】
実施例
以下では、実施例および比較例で使用された各成分の仕様を説明する。
【0068】
(A)ポリカーボネート樹脂
(A1)重量平均分子量(Mw)が18,000g/molであるビスフェノール-A型ポリカーボネート樹脂を使用した。
【0069】
(A2)重量平均分子量(Mw)が25,000g/molであるビスフェノール-A型ポリカーボネート樹脂を使用した。
【0070】
(B)第1ゴム変性ビニル系グラフト共重合体
45重量%のブタジエンゴム(平均粒径:310nm)に55重量%のスチレンおよびアクリロニトリル(重量比:75/25)がグラフト重合されたg-ABSを使用した。
【0071】
(C)第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体
ブタジエン/エチルアクリレートゴム(コア、平均粒径:310nm)にメチルメタクリレートがグラフト重合されることによってシェルを形成したコア-シェル構造のゴム変性ビニル系グラフト共重合体(製造社:呉羽化学工業株式会社、製品名:EXL-2602)を使用した。
【0072】
(D)リン系難燃剤
ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)(製造社:ICL-IP、製品名:Sol-DP)を使用した。
【0073】
(E1)カプセル化されたフッ素重合体
スチレンおよびアクリロニトリルの重合体(SAN)でカプセル化されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であるTSAN(製造社:Hannanotech Co.,Ltd.、製品名:FS-200)を使用した。
【0074】
(E2)滴下防止剤
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、メーカー:旭硝子株式会社、製品名:G350)を使用した。
【0075】
実施例1~4および比較例1~3
上記各構成成分を下記の表1に記載した含有量で添加した後、230℃で押出しを行うことによってペレットを製造した。押出しは、L/D=36、直径45mmである二軸押出機を用いて行い、製造されたペレットは、80℃で2時間以上乾燥した後、6Oz射出機(成形温度:230℃、金型温度:60℃)で射出することによって試験片を製造した。製造された試験片に対して下記の方法で物性を評価し、その結果を下記の表1に示した。
【0076】
物性測定方法
(1)耐衝撃性評価:ASTM D256に基づいて、1/8”厚の試験片のノッチ付きアイゾット衝撃強度(単位:kgf・cm/cm)を測定した。
【0077】
(2)難燃性評価:UL-94垂直試験方法で1.2mm厚の試験片および2.5mm厚の試験片の難燃度を測定した。
【0078】
(3)耐熱性評価:ISO R306に基づいて、5kgの荷重、50℃/hrの条件でビカット軟化温度(Vicat Softening Temperature:VST)(単位:℃)を測定した。
【0079】
(4)流動性評価:ASTM D1238に規定された評価方法に基づいて、220℃、10kgfの条件でメルトフローインデックス(Melt-flow Index:MI)(単位:g/10分)を測定した。
【0080】
【表1】
【0081】
上記結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、薄膜難燃性、耐熱性、流動性などに全て優れることが分かる。
【0082】
本発明のカプセル化されたフッ素重合体(TSAN)の代わりにPTFEを使用した比較例1の場合は、耐衝撃性などが低下したことが分かる。第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体が少量適用された比較例2の場合は、耐衝撃性などが低下したことが分かり、第2ゴム変性ビニル系グラフト共重合体が過量適用された比較例3の場合は、難燃性の具現が不可能であったことが分かる。
【0083】
発明の単純な変形および変更は、本分野で通常の知識を有する者によって容易に実施可能であり、このような変形や変更は、いずれも本発明の領域に含まれるものと見なすことができる。