(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】脆質性粘着シート、及び脆質性粘着シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20231116BHJP
C09J 7/25 20180101ALI20231116BHJP
C09J 7/24 20180101ALI20231116BHJP
G09F 3/03 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/25
C09J7/24
G09F3/03 D
G09F3/03 Z
(21)【出願番号】P 2020548595
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2019036761
(87)【国際公開番号】W WO2020066836
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2018178876
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】福井 千晃
(72)【発明者】
【氏名】富能 忠寛
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-183604(JP,A)
【文献】特開2009-192749(JP,A)
【文献】特開2010-281948(JP,A)
【文献】特開2000-072910(JP,A)
【文献】特開2003-073634(JP,A)
【文献】特開平06-073345(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182435(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/38
C09J 7/24
C09J 7/25
G09F 3/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材と、前記フィルム基材の第一の面側に設けられた粘着層と、を備え、
前記フィルム基材は、ポリスチレン系樹脂で構成され
、一軸延伸フィルムであるフィルム基材本体と、前記フィルム基材の前記粘着層が設けられた側とは反対の第二の面側に設けられた印刷コート層とを備え、
前記フィルム基材は、製膜方向(MD)に対してJIS K7128-1:1998に準拠して測定される引裂き強度が1500mN/mm以下であり、
前記印刷コート層は、ポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する脆質性粘着シート。
【請求項2】
透明である、請求項1に記載の脆質性粘着シート。
【請求項3】
前記脆質性粘着シートの、JIS K 7361-1:1997に準拠して測定される全光線透過率が80%以上、及び/又はJIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘーズが50%以下である、請求項1又は2に記載の脆質性粘着シート。
【請求項4】
前記フィルム基材は、製膜方向(MD)に対してJIS Z0237:2009に準拠して測定される引張破断伸度が20%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の脆質性粘着シート。
【請求項5】
前記フィルム基材は、製膜方向(MD)に対してJIS Z0237:2009に準拠して測定される引張破断強度が100N/15mm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の脆質性粘着シート。
【請求項6】
前記フィルム基材は、製膜方向(MD)および前記製膜方向に対して90°の方向(CD)に対して引裂き強度試験を行った際に、引裂き強度の比(MDの引裂き強度/CDの引裂き強度)が、0.7以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の脆質性粘着シート。
【請求項7】
前記フィルム基材は、製膜方向に対して90°の方向(CD)に対してJIS K7128-1:1998に準拠して測定される引裂き強度が1000mN/mm以上5000mN/mm以下である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の脆質性粘着シート。
【請求項8】
前記フィルム基材本体のポリスチレン系樹脂が、GPPS樹脂及びHIPS樹脂を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の脆質性粘着シート。
【請求項9】
前記フィルム基材本体のポリスチレン系樹脂100質量部に対する熱可塑性エラストマーの含有量は、10質量部以下である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の脆質性粘着シート。
【請求項10】
前記印刷コート層がアクリル系樹脂を含有する、請求項1~
9のいずれか一項に記載の脆質性粘着シート。
【請求項11】
不正開封防止又は改ざん防止に用いられる、請求項1~
10のいずれか一項に記載の脆質性粘着シート。
【請求項12】
ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体を形成する基材本体形成工程と、
前記フィルム基材本体の第一の面側に、粘着層を形成する粘着層形成工程と
前記フィルム基材本体の第二の面側に、ポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する印刷コート層を形成する印刷コート層形成工程と、
を有
し、
前記基材本体形成工程が、一軸延伸により、ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体を形成する工程である、請求項1~
11のいずれか一項に記載の脆質性粘着シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆質性粘着シート、脆質性粘着ラベル及び脆質性粘着シートの製造方法に関する。
本願は、2018年9月25日に、日本に出願された特願2018-178876号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品、電機・電子部品、精密機械部品などが小型化、高密度化、高性能化するに伴い、あるいはPL法の施行により、商品使用上の安全を期するために、法規制上それぞれの部品や製品に、特徴や取り扱い上の注意点を表示することが求められる。この場合には表示内容が改ざんされることを防止しなければならず、したがって、改ざん防止用ラベルなどが用いられる。
【0003】
一方、商品などの証明や封印などの目的で、封印用の粘着ラベルが使用されることが多くなっている。ところが、この封印ラベルを一旦剥がし、内容物を改変したり、あるいは内容物を入れ替えた後に、再度同じラベルで封印するという不法行為が多発し、問題となっている。このため、不当なラベルの貼り直し・再使用を防止するために、不正開封防止用ラベルが用いられている。
また、物品を託送又は梱包する場合において、不当な物品の開梱や蓋部の開放を防止するために、錠前などで防止することができない場合には、通常改ざん防止用テープなどで開口部をシールすることが行われている。例えば机、戸棚、金庫などの安全函、手荷物などを運送する場合には、一般に引出し、扉、蓋部などの外側に、不正開封防止用テープやシールが貼着される。
このような改ざん又は不正開封防止用ラベル、テープ、シールなどのセキュリティ部材としては、例えば該部材を被着体から剥がす際に、基材が破壊するタイプや、剥がした跡が被着体に残るタイプなどが知られている。
【0004】
また、識別性を向上させラベルのすり替えを防止する等のために、表面に印刷を施すことのできる改ざん防止用ラベル等が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような改ざん防止用ラベル等は、一例として、フィルム基材に粘着層を設けた粘着シートに対し、印刷加工を施して所定の形状に打ち抜くことで製造することができる。上述したようなラベルに用いることのできる粘着シートとして、そのフィルム基材にポリスチレン系樹脂を用いた粘着シートが検討されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、基材が破壊するタイプの改ざん防止用ラベル等を製造しようとする場合、ラベルの製造時において、次のような問題があった。粘着シートから、所定の形状に打ち抜いたラベルを得るためには、粘着シートに所定の形状の切り目を形成し、粘着シートのラベルとして用いない周囲の不要部分(カス Matrix waste)を剥離ライナー上から剥離して取り除く作業(カス上げMatrix removal)が一般に行われる。このとき、従来の改ざん防止用ラベルでは、フィルム基材が裂けやすくされているため、カスが切れやすいものとなってしまう。このため、カスが切れるたびに、カス上げが中断され、ラベルを効率よく製造することができなかった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、改ざん・不正開封防止効果とカス切れの抑制とが両立され、印刷適性に優れた脆質性粘着シート、及び脆質性粘着シートの製造方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フィルム基材が、ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体と、さらに印刷コート層とを備えることで、改ざん・不正開封防止効果とカス切れの抑制とが両立され、印刷適性に優れた脆質性粘着シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の一態様は、下記に示す脆質性粘着シート、及び脆質性粘着シートの製造方法である。
【0009】
(1) フィルム基材と、前記フィルム基材の第一の面側に設けられた粘着層と、を備え、
前記フィルム基材は、ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体と、前記フィルム基材の前記粘着層が設けられた側とは反対の第二の面側に設けられた印刷コート層とを備え、
前記印刷コート層は、ポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する脆質性粘着シート。
(2) 透明である、前記(1)に記載の脆質性粘着シート。
(3) 前記脆質性粘着シートの、JIS K 7361-1:1997に準拠して測定される全光線透過率が80%以上、及び/又はJIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘーズが50%以下である、前記(1)又は(2)に記載の脆質性粘着シート。
(4) 前記フィルム基材は、製膜方向(MD)に対してJIS Z0237:2009に準拠して測定される引張破断伸度が20%以下である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シート。
(5) 前記フィルム基材は、製膜方向(MD)に対してJIS Z0237:2009に準拠して測定される引張破断強度が100N/15mm以下である、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シート。
(6) 前記フィルム基材は、製膜方向(MD)に対してJIS K7128-1:1998に準拠して測定される引裂き強度が1500mN/mm以下である、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シート。
(7) 前記フィルム基材は、製膜方向(MD)および前記製膜方向に対して90°の方向(CD)に対して引裂き強度試験を行った際に、引裂き強度の比(MDの引裂き強度/CDの引裂き強度)が、0.7以下である前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シート。
(8) 前記フィルム基材は、製膜方向に対して90°の方向(CD)に対してJIS K7128-1:1998に準拠して測定される引裂き強度が1000mN/mm以上5000mN/mm以下である、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シート。
(9) 前記フィルム基材本体は、一軸延伸フィルムである、前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シート。
(10) 前記フィルム基材本体のポリスチレン系樹脂が、GPPS樹脂及びHIPS樹脂を含む、前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シート。
(11) 前記フィルム基材本体のポリスチレン系樹脂100質量部に対する熱可塑性エラストマーの含有量は、10質量部以下である、前記(1)~(10)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シート。
(12) 前記印刷コート層がアクリル系樹脂を含有する、前記(1)~(11)のいずれか一項に記載の脆質性粘着シート。
(13) 不正開封防止又は改ざん防止に用いられる、前記(1)~(12)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シート。
(14) ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体を形成する基材本体形成工程と、
前記フィルム基材本体の第一の面側に、粘着層を形成する粘着層形成工程と
前記フィルム基材本体の第二の面側に、ポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する印刷コート層を形成する印刷コート層形成工程と、
を有する、前記(1)~(13)のいずれか一つに記載の脆質性粘着シートの製造方法。
(15) 前記基材本体形成工程が、一軸延伸により、ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体を形成する工程である、前記(14)に記載の脆質性粘着シートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、改ざん・不正開封防止効果とカス切れの抑制とが両立され、印刷適性に優れた脆質性粘着シート、及び脆質性粘着シートの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の脆質性粘着シートの構成を示す断面図である。
【
図2】実施形態の脆質性粘着ラベルの一例を示す平面図である。
【
図3】引裂き強度試験に用いられる試験片を示す平面図である。
【
図5】カス切れ性の評価に用いるパターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、脆質性粘着シート、脆質性粘着シートの製造方法、及び脆質性粘着ラベル(以下、単に「ラベル」ということがある)の実施形態を説明する。なお、上記「脆質性」の文言自体は、必須ではないため、上記の、脆質性粘着シート、脆質性粘着ラベル及び脆質性粘着シートの製造方法としては、それぞれ、粘着シート、粘着ラベル及び粘着シートの製造方法と言い換えることができる。
【0013】
≪脆質性粘着シート≫
実施形態の脆質性粘着シートは、フィルム基材と、前記フィルム基材の第一の面側に設けられた粘着層と、を備え、前記フィルム基材は、ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体と、前記フィルム基材の前記粘着層が設けられた側とは反対の第二の面側に設けられた印刷コート層とを備え、前記印刷コート層は、ポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有するものである。
【0014】
図1は、実施形態の脆質性粘着シートの構成を示す断面図である。実施形態の脆質性粘着シート1は、フィルム基材10と、フィルム基材10の第一の面側に設けられた粘着層12と、を備える。フィルム基材10は、フィルム基材本体11と、粘着層12が設けられた側とは反対の第二の面側に設けられた印刷コート層16とを備えている。また、脆質性粘着シート1は、粘着層12のフィルム基材10が設けられた側とは反対側の面に設けられた剥離ライナー13を備えている。
【0015】
フィルム基材本体11は、ポリスチレン系樹脂によって構成されている。ポリスチレン系樹脂は比較的もろく裂けやすい素材である。そのため、ポリスチレン系樹脂をフィルム基材本体11に用いた脆質性粘着シート1を被着体に貼付後、さらに被着体から剥がそうとすると、脆質性粘着シート1が破壊され、被着体に脆質性粘着シート1を剥がした証拠が残る。また、脆質性粘着シートが破壊されることで、脆質性粘着シートを貼り直し・再使用して脆質性粘着シートを剥がしたことを隠蔽することができない。したがって、フィルム基材本体11がポリスチレン系樹脂によって構成されていることで、脆質性粘着シート1は、優れた改ざん・不正開封防止効果が発揮される。
【0016】
また、
図2に示すように、実施形態の脆質性粘着ラベルは、例えば、脆質性粘着シートに印刷され、打ち抜かれ、カス上げされたものである。
【0017】
脆質性粘着シート1は、ラベルを製造するために用いられ得る。ラベルは、例えば、脆質性粘着シートの印刷コート層16上に印刷加工を施し、フィルム基材10及び粘着層12を所定の形状に打ち抜きすることで得ることができる。なお、脆質性粘着シート1は、いかなる形状のラベルを形成するためのものであってもよく、本実施形態では、脆質性粘着シート1は、島状に配置された複数の略長方形のラベル部14と、ラベル部14以外の部位であるカス部15とを有するものとして説明する。脆質性粘着シート1のカス部15を、カス(不要部分)として剥離ライナー13から剥離、除去する作業を経て、剥離ライナー13上にラベル部14のみを形成することができる。
【0018】
しかしながら、ポリスチレン系樹脂をフィルム基材として用いた従来のラベル用粘着シートは、ラベルを効率よく製造することが難しいものであった。すなわち、ポリスチレン系樹脂は比較的脆く裂けやすいため、ラベル用粘着シートのカス部をカスとして除去する工程(カス上げ)において、細くなったカスが切れる現象(カス切れ)が頻発していた。
このような場合、剥離ライナー上に本来除去されるべきカス部が残存してしまい、再度カス上げ作業を個別に行う必要がある。特に、カスをローラで巻き取りながら、剥離ライナーからカスを連続的に除去している場合、ローラに再度カスを巻きつける作業が必要となり、生産性が劣るものとなってしまう。また、特に、省資源、生産性の観点から、ラベル部の面積を多くするためカス部の面積が小さくなった場合、カスが細くなりやすく、上述したような問題(カス切れ)は顕著に発生していた。
【0019】
対して、実施形態の脆質性粘着シート1は、フィルム基材10が印刷コート層16を備えている。かかる構成により、優れた脆質性による改ざん・不正開封防止効果を有しつつも、カス切れが抑制されるという、大変に好適な状態でフィルム強度を向上させることができ、改ざん・不正開封防止効果とカス切れの抑制とを両立可能とできる。また、同時に優れた印刷適性も発揮される。
【0020】
以下、脆質性粘着シート1を構成する各層について、詳細に説明する。
【0021】
<フィルム基材>
フィルム基材10は、脆質性粘着シート1に、剛性、柔軟性等の物理的強度を付与する機能を有している。一方、フィルム基材本体11は、ポリスチレン系樹脂によって構成されているために破壊されやすい(脆質である)。フィルム基材本体11が脆質であることで、脆質性粘着シート1全体が脆質なものとなる。ここでいう脆質とは、脆質性粘着シートのフィルム基材10及び粘着層12が破断し、断片化することを指す。脆質性粘着シート1の強度は主にフィルム基材10によって付与されているので、脆質性粘着シートが断片化するためには、フィルム基材10が裂けやすく、破断しやすい性質を有することが重要であると考えられる。
フィルム基材10の脆質性、及びカス切れ性に関わる性状を示す値として、以下に示す引張破断伸度、引張破断強度、引裂き強度の項目に係る評価項目を採用することができる。
【0022】
尚、以下に述べるフィルム基材10の製膜方向(以下、Machine direction:MDともいう)は、フィルム基材本体11を製膜する際の製膜方向と一致するものであり、フィルムの長手方向とも一致する。フィルム基材の製膜方向に対して90°の方向(以下、Cross machine direction: CDともいう)は、フィルム基材を製膜する際の製膜方向に対して90°の方向となるものであり、フィルムの幅方向とも一致する。
フィルム基材本体11の製膜方向は、当業者であればフィルム性状を確認することで容易に判別可能である。
【0023】
フィルム基材10は、製膜方向(MD)に対してJIS Z0237:2009に準拠して測定される引張破断伸度が、20%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがより好ましく、3%以上7%以下であることがさらに好ましい。フィルム基材の製膜方向に対しての上記引張破断伸度が上記範囲内であることで、製造されたラベルは脆質性が良好なものとなる。すなわち、ラベルを剥がそうとしてフィルム基材に力がかけられたときに、フィルム基材が伸びにくいことでフィルムが切れやすいものとなる。また、特にフィルム基材の製膜方向に対しての上記引張破断伸度が3%以上であることで、カス切れがより一層好適に抑制され得る。
【0024】
フィルム基材10は、製膜方向に対してJIS Z0237:2009に準拠して測定される引張破断強度が100N/15mm以下であることが好ましく、15N/15mm以上50N/15mm以下であることがより好ましく、28N/15mm以上35N/15mm以下であることがさらに好ましい。フィルム基材の製膜方向に対しての上記引張破断強度が上記上限値以下であることで、製造されたラベルの脆質性が良好なものとなる。
すなわち、被着体からラベルを剥がそうとしてフィルム基材に力がかけられたときに、フィルム基材が切れやすいものとなる。また、特にフィルム基材の製膜方向に対しての上記引張破断強度が28N/15mm以上であることで、カス切れがより一層好適に抑制され得る。
【0025】
なお、JIS Z0237:2009は、ISO 29864:2007 Self adhesive tapes - Measurement of breaking strength and elongation at breakを基に、対応する部分についてはこれを翻訳し、技術的内容を変更することなく作成した日本工業規格であり、対応国際規格で規定されていない試験項目(厚さの測定,幅の測定,長さの測定,引裂き強度,低速及び高速巻戻し力,傾斜式ボールタック,透湿度)を日本工業規格として追加したものである。
上記の、JIS Z0237:2009に準拠して測定される引張破断伸度及び引張破断強度について詳細に説明する。
〔引張強さ(引張破断強度)及び伸び(引張破断伸度)〕
<試験片>
試験片採取のとき、シートから幅15mmに切り出す。試験片は、各5枚以上採取し、試験片の長さは、約140 mmとする。試験片の厚さは、対象製品のフィルム基材の厚さであってよい。
<試験装置>
引張試験機は、JIS B 7721(ISO 7500-1:2004)に規定する引張試験機(試験機の等級1:相対指示誤差±1.0%)又はこれと同等の引張試験機を用いる。
試験機の容量は、測定値がその容量の15~85%の範囲に入るものを用いる。引張速度は、5±0.2 mm/sで、読取り公差は、2 %以下とする。測定値の表示方法は、アナログ式、デジタル式、デジタル記録式又はチャート記録式のいずれを用いてもよい。
<試験方法>
試験方法は、引張試験機のチャックのつかみ間隔又は試験片の標線間隔を100mmとし、200 mm/分の速さで引っ張り、試験片が切断するまでの荷重及び伸びを測定する。この場合、チャック端部から5 mm以内で破断した試験片は破棄し、最終的に正しく破断した試験片が5枚になるまで測定を続ける。
引張強さ及び伸びは、次の式によって算出する。
【0026】
【0027】
T:引張強さ(N/15 mm)
P:切断するまでの最大荷重(N)
W:試験片の幅(mm)
【0028】
【0029】
E:伸び(%)
L0:始めのチャック又は標線の間隔(mm)
L1:切断時のチャック又は標線の間隔(mm)
【0030】
上記引張試験の値は、製膜方向に対して測定されたものであるので、製膜方向に沿ってラベルを剥がそうとしたときの状況を反映するものである。ただし、製膜方向以外に沿ってラベルを剥がそうとした場合でも、通常はラベルの周囲の一部分を起点にラベル剥がす動作を行うので、製膜方向にも一定の力が加わることから、上記引張試験の値は、脆質性粘着ラベル自体の脆質性を反映するものといえる。
【0031】
前記フィルム基材10は、製膜方向に対して90°の方向(CD)に対してJIS K7128-1:1998 トラウザー引裂法に準拠して測定される引裂き強度が1000mN/mm以上であることが好ましく、1500mN/mm以上5000mN/mm以下であることがより好ましく、1800mN/mm以上3000mN/mm以下であることがさらに好ましい。上記CDに対しての引裂き強度の値が上記下限値以上であることで、カス切れが好適に抑制される。上記CDに対しての引裂き強度の値が上記上限値以下であることで、脆質性が良好なものとなる。
【0032】
前記フィルム基材10は、製膜方向(MD)に対してJIS K7128-1:1998 トラウザー引裂法に準拠して測定される引裂き強度が1500mN/mm以下であることが好ましく、100mN/mm以上1000mN/mm以下であることがより好ましく、300mN/mm以上800mN/mm以下であることがさらに好ましい。上記MDに対しての引裂き強度の値が上記上限値以下であることで、脆質性が良好なものとなる。上記MDに対しての引裂き強度の値が上記下限値以上であることで、カス切れが好適に抑制される。
【0033】
なお、JIS K7128-1:1998は、ISO 6383-1:1983 Film and sheeting -- Determination of tear resistance -- Part 1: Trouser tear methodを基に、対応する部分についてはこれを翻訳し、技術的内容を変更することなく作成した日本工業規格であるが、原国際規格の内容を一部変更している。
上記の、JIS K7128-1:1998 トラウザー引裂法に準拠して測定される引裂き試験について詳細に説明する。以下は製膜方向に対して90°の方向(CD)に対して引裂き試験を行う場合である。
図3において、試験片10’は、フィルム基材10の一部である。試験片10’は、試験片10’の長辺方向がフィルム基材10の幅方向(CD)となるように、また、試験片10’の短辺方向がフィルム基材10の長手方向(MD)となるように、切り取られている。また、試験片10’は、MDの中央部に、CDに沿ってスリットSが設けられている。このような試験片10’を用いて引裂き強度試験を行う。
【0034】
また、
図4において、試験片10’は、その端部101および端部102がつかみ具20A、つかみ具20Bによってそれぞれつかまれて固定されている。このつかみ具20Aおよびつかみ具20Bを300mm/minの速度で、離れる方向(図中、矢印の方向)に移動させることにより、引裂き強度試験を行う。引裂き強度は、得られた引裂き力(mN)を試験片の厚さ(mm)で割った値として求められる。試験片の厚さは、対象製品のフィルム基材の厚さであってよい。
【0035】
なお、MDに対して引裂き試験を行う場合には、上記の試験片のCDとMDを逆にして行う。
【0036】
実施形態の粘着層12が発揮する粘着力は、被着体との間で大きいが、剥離を前提としている剥離ライナー13との間では小さい。したがって、被着体からラベルを剥がそうとするときにフィルム基材にかかる力は比較的大きく、上記の引張物性及び引裂き物性の値は、被着体からラベルを剥がそうとする際に脆質性が発揮される程度に小さいものである。一方、カス上げ時に粘着シートのカス部を剥離ライナーから引き上げようとする力は、カス部と剥離ライナーの積層を剥離可能な程度に小さいものであるため、フィルム基材にかかる力は比較的小さく、上記の引張物性及び引裂き物性の値は、カス上げ時にカス切れの発生が好適に抑制される程度に大きいものである。
【0037】
前記フィルム基材10は、前記製膜方向(MD)および前記製膜方向に対して90°の方向(CD)に対して前記引裂強度試験を行った際に、引裂き強度の比(MDの引裂き強度/CDの引裂き強度)が、1未満であることが好ましく、0.7以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.1以上0.4以下であることがさらに好ましい。上記強度の比が上記範囲内であることで、脆質性とカス切れの抑制とがより両立されやすい傾向にある。
【0038】
上記引裂き強度において、引裂き強度の比(MDの引裂き強度/CDの引裂き強度)が1未満であると、少なくともMDにおける引裂き強度の値が小さいことで、MDの引き裂きが生じやすくなり、引き裂かれた断片の引張物性が低下し、フィルム基材の脆質性が発揮されやすくなると考えられる。
また、カス上げの効率化の観点から、カス上げはMDに沿って行うことが好ましい。その場合、CDに切れ目が生じると、カス部の破断が生じてカス部が剥離ライナー上に残存してしまうケースが多い。しかし、少なくともCDの引裂き強度の値が大きいことで、カス上げ時にカス部がCDに引き裂かれることが防止され、カス切れが抑制されやすくなるものと考えられる。
【0039】
このような、MDとCDとで引裂き物性が異なるもの、特に、引裂き強度の比(MDの引裂き強度/CDの引裂き強度)が1未満(すなわち、CDの引裂き強度>MDの引裂き強度)であるフィルム基材の製法は、特に制限されるものではないが、フィルム基材本体11は、MD方向に延伸された一軸延伸フィルムであることが好ましい。カス上げをMD方向に行うとき、フィルム基材本体はCD方向に引裂けやすい。MD方向だけに延伸されたフィルム基材本体11は、MD方向の引裂き強度は高められず、CD方向の引裂き強度が高められる傾向にある。これにより、カス上げ時には、CD方向に引裂けにくく(カス切れが防止された)、被着体から剥がすときには、MD方向に引裂けやすい(貼り換え等が防止された)、脆質性粘着シートを得ることができる。
一軸延伸法としては、例えばTダイ法が挙げられ、上記一軸延伸フィルムはTダイ成形フィルムであることが好ましい。
【0040】
ポリスチレン系樹脂で構成された一軸延伸フィルムは、延伸方向にポリスチレンが配向した状態にあるものと考えられる。すなわち、ポリスチレンの配向方向(MDに対応)に沿っては引裂きが生じやすく、ポリスチレンの配向方向に対して90°の方向(CDに対応)に対しては引裂きが生じ難いものと考えられる。
【0041】
フィルム基材本体11は、ポリスチレン系樹脂で構成される。すなわち、フィルム基材本体11は、ポリスチレン系樹脂を含有する。
【0042】
フィルム基材本体11に用いることのできるポリスチレン系樹脂としては、特には限定されないが、例えば、スチレンのみの重合物であるポリスチレン樹脂(GPPS樹脂 GPPS:General Purpose Polysthylene)、ゴム成分にスチレンをグラフト重合させたゴム成分含有ポリスチレン樹脂(HIPS樹脂 HIPS:High Impact Polysthylene)、GPPS樹脂とHIPS樹脂とをブレンドしたポリスチレン樹脂(MIPS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体樹脂、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリフェニレンエーテルにGPPS樹脂をアロイした変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)等が挙げられる。
【0043】
上述した中でも、ゴム成分含有ポリスチレン樹脂は、ある程度の伸縮性および柔軟性を有しているため、上述の引張破断伸度を好適な範囲に調整し易いという利点がある。これは、ゴム成分含有ポリスチレン樹脂は、ポリスチレン中に粒子状のゴム成分が微分散しており、この粒子状のゴム成分がフィルム基材本体11の伸縮性および柔軟性の向上に寄与するためだと考えられる。特に、上述したゴム成分含有ポリスチレン樹脂の中でも、ポリスチレン系樹脂としてHIPS樹脂を用いた場合、このような効果は顕著なものとなる。
【0044】
ポリスチレン系樹脂として、HIPS樹脂が含まれる場合、ポリスチレン系樹脂の総質量に対するHIPS樹脂の含有量は、50~100質量%であってもよく、65~95質量%であってもよく、75~90質量%であってもよい。これにより、フィルム基材本体11の脆質性を十分なものとしつつ、柔軟性および伸縮性を特に優れたものとすることができる。この結果、脆質性粘着シート1は、カス切れが特に抑制されたものとなる。
【0045】
ポリスチレン系樹脂として、GPPS樹脂が含まれる場合、ポリスチレン系樹脂の総質量に対するGPPS樹脂の含有量は、5~35質量%であってもよく、10~25質量%であってもよい。フィルム基材本体がGPPS樹脂を含むことにより、脆質性粘着シート1の脆質性が適度に向上する。
また、フィルム基材本体が、GPPS樹脂とHIPS樹脂とをブレンドしたポリスチレン樹脂(MIPS樹脂)を含むことにより、脆質性粘着シート1の脆質性の向上とカス切れの抑制との両立が良好となる。
上記観点から、HIPS樹脂とGPPS樹脂との質量比率(HIPS樹脂:GPPS樹脂)は、50:1~1:5が好ましく、50:5~1:1がより好ましく、50:5~50:15がさらに好ましい。
【0046】
また、ゴム成分含有ポリスチレン樹脂に含まれるゴム成分は、特に限定されないが、例えば、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ポリイソブチレン(ブチルゴム)等の合成ゴムや天然ゴムを用いることができ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
上述した中でも、ゴム成分としては、スチレンブタジエンゴムまたはブタジエンゴムを用いることが好ましく、スチレンブタジエンゴムを用いることがより好ましい。これにより、脆質性粘着シート1は、カス切れが特に抑制されたものとなる。
【0048】
また、ゴム成分がスチレンブタジエンゴムを含む場合、スチレンブタジエンゴムの単量体成分であるスチレンとブタジエンとの共重合比率(スチレン:ブタジエン)は、質量比で、30:70~60:40であることが好ましく、35:65~55:45であることがより好ましい。これにより、フィルム基材本体11の柔軟性を十分に優れたものとし、脆質性粘着シート1のカス上げ時におけるカス切れを特に効果的に抑制することができる。また、フィルム基材本体11の剛性を十分なものとし、脆質性粘着シート1から製造される脆質性粘着ラベルの貼付時および剥離時における作業性を特に容易なものとすることができる。また、温度、湿度変化等の環境変化によって、製造されたラベルが劣化することが好適に防止される。
【0049】
また、ゴム成分含有ポリスチレン樹脂の総質量に対するゴム成分の含有割合は、30質量%以下であることより好ましく、20質量%以下であることより好ましく、15質量%以下であることが好ましい。これにより、フィルム基材本体11における上述の引張破断伸度をより好適なものとすることができる。この結果、脆質性粘着シート1は、優れた脆質性が発揮される。
【0050】
また、フィルム基材本体11の総質量に対するポリスチレン系樹脂の含有割合は、66~100質量%であることが好ましく、70~95質量%であることより好ましい。これにより、脆質性粘着シート1の脆質性がより良好となる。
【0051】
また、フィルム基材本体11は、熱可塑性エラストマーを含んでもよいが、熱可塑性エラストマーの含有量が少ないことが好ましい。フィルム基材本体11のポリスチレン系樹脂100質量部に対する熱可塑性エラストマーの含有量は、10質量部以下であることが好ましく、0~2質量部であることが好ましく、0~0.5質量部であることがより好ましく、熱可塑性エラストマーを実質的に含有しないことがさらに好ましい。これにより、フィルム基材本体11は、伸縮性が低下し、引裂き強度が低下して優れた脆質性が発揮される。
【0052】
フィルム基材本体11に用いることのできる熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック重合体等のスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマーが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
また、フィルム基材本体11には、着色剤が含まれていてもよい。着色剤としては、各種顔料、染料等を用いることができる。特に、着色剤として、顔料を用いた場合、脆質性粘着シート1を着色することができるとともに、脆質性粘着シート1を不透明なものとすることができ、脆質性粘着シートの印刷適性が向上する。着色剤として顔料を用いた場合、顔料は水及び油に不溶であるので、フィルム基材本体において顔料が分散し、脆質性粘着シートの脆質性を適度に向上させることができる。
【0054】
顔料としては、特には限定されないが、例えば、カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸、ケイ酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト等の無機顔料、プラスチックピグメント等の有機顔料が挙げられ、これらを1種または2種以上合わせて用いることができる。この中でも、着色剤として白色顔料、特に二酸化チタンを用いた場合、脆質性粘着シート1を特に不透明なものとすることができるとともに、特に白色度の高いものとすることができる。
【0055】
また、このような場合、フィルム基材本体11の総質量に対する着色剤の含有割合は、1.5~25質量%であることが好ましく、2.7~20質量%であることがより好ましい。これにより、フィルム基材本体11の脆質性を適度に向上させつつ、引裂き強度や剛性をカス切れの抑制を良好な程度に高いものとでき、より確実に目的の色に着色することができる。
【0056】
フィルム基材本体11の厚さは、10~120μmであることが好ましく、25~100μmであることがより好ましく、40~80μmであることがさらに好ましい。これにより、脆質性粘着シート1は、適度な剛性を有し、カス上げ時においてカス切れが特に抑制されたものとなる。また、脆質性粘着シート1を用いて製造されるラベルは、OA機器等の筺体に添付する際に、気泡の巻き込みやシワの発生が好適に防止されたものとなる。
また、製造された帯状の脆質性粘着シート1を巻き取る際において、粘着剤と剥離ライナーとの間に浮きが発生することが確実に防止される。
【0057】
なお、本明細書において、「厚さ」は、無作為に選定した5箇所で厚さを測定した平均で表される値として、JIS K7130に準じて、定圧厚さ測定器を用いて取得できる。ここでのJIS K7130は、ISO 4593, Plastics-Film and sheeting-Determination of thickness by mechanical scanningを翻訳し、技術的内容を変更することなく作成した日本工業規格である。
ここで、基材又は層の厚さは、基材又は層の全体の厚さを意味し、例えば、フィルム基材本体が複数層からなる場合厚さとは、フィルム基材本体を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0058】
(印刷コート層)
フィルム基材10は、粘着層12が設けられた側とは反対の第二の面側に設けられた印刷コート層16を有し、印刷コート層16は、ポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する。
印刷コート層上に印刷が施される際には、印刷コート層に印刷インキが直接接して載せられる形態をとる。そのため、印刷コート層は、印刷インキとの密着性が良好となる(即ち、印刷適性が優れる)よう構成されることが好ましい。
【0059】
印刷コート層は、印刷コート層の形成対象面に、印刷コート層を構成するための各成分及び希釈媒体を含む印刷用コート剤を塗工し、必要に応じて乾燥させて希釈媒体を揮発させることで、目的とする部位に印刷コート層を形成できる。すなわち、印刷用コート剤が含有する固形分(希釈媒体を除いた成分)の組成は、印刷コート層の構成成分に対応する。実施形態の脆質性粘着シート1では、印刷用コート剤をフィルム基材本体11の表面に塗布して、フィルム基材本体11上に印刷コート層16を設けることができる。
上記印刷用コート剤のフィルム基材本体への塗布量は、通常乾燥後の印刷コート層の厚さが0.05~9μmであることが好ましく、0.5~7μmであることがより好ましく、2~5μmであることがさらに好ましい。
【0060】
・ポリエステル系樹脂
印刷用コート剤は、樹脂成分としてポリエステル系樹脂を含むものであってよい。
ポリエステル系樹脂としては、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂などが挙げられる。
ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とグリコール化合物とを共重合して得られるポリエステル共重合体樹脂が好ましく挙げられる。
【0061】
ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、スルホテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、セバシン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が好ましく用いられる。
【0062】
グリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、p-キシレングリコール、トリエチレングリコール等が好ましく用いられる。
【0063】
ウレタン変性ポリエステル樹脂としては、上記ポリエステル樹脂にウレタン結合を有するものが挙げられる。
ウレタン変性ポリエステル樹脂は、例えば、水酸基などの官能基を1分子中に2個以上有するポリエステル樹脂とポリイソシアネート化合物を反応させることにより、得ることができる。
【0064】
ポリイソシアネート化合物としては、後述する架橋剤としてのポリイソシアネート化合物と同様のものが使用できる。ポリエステル樹脂のウレタン変性に用いるポリイソシアネート化合物は、1種単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0065】
ポリエステル系樹脂は、ウレタン変性ポリエステル樹脂が好ましい。ウレタン変性ポリエステル樹脂を用いることで、印刷に用いられるインキの適用範囲を広くすることができ、更にインキとの密着性を向上させることができる。
芳香族ポリエステルの基本構造とは、主鎖のポリエステル構造に芳香族化合物から誘導される繰り返し単位を有するものであり、例えば、共重合原料の一部又は全部のジカルボン酸とグリコール化合物の一方又は両方が芳香族化合物である場合に得られるものである。
ポリエステル系樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
ポリエステル系樹脂の数平均分子量は、5000~10万が好ましく、1万~6万がより好ましい。
ポリエステル系樹脂の水酸基価は、1~50mgKOH/gが好ましく、1~25mgKOH/gがより好ましく、1.5~20mgKOH/gがさらに好ましい。
【0067】
ポリエステル系樹脂の酸価は、0~40mgKOH/gが好ましく、0~30mgKOH/gがより好ましい。
ポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、40~105℃が好ましく、50~100℃がより好ましく、70~95℃がさらに好ましい。
ポリエステル系樹脂の数平均分子量、水酸基価、酸価及びガラス転移温度が上記好ましい範囲にあると、本発明の効果をより一層発揮できる。
【0068】
また、フィルム基材本体11や印刷インキへの印刷コート層の密着性向上とブロッキングの防止を両立させるために、上記ポリエステル系樹脂に、上記ポリエステル系樹脂のガラス転移温度よりも20℃以上低いガラス転移温度を有するポリエステル系樹脂を混合することができ、そのガラス転移温度は-30~15℃が好ましく、-25~5℃がより好ましい。ガラス転移温度が上記好ましい範囲、より好ましい範囲になるにつれて、印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止の効果をさらにより一層発揮できる。
【0069】
この印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止用のポリエステル系樹脂は、上記ポリエステル樹脂と同様に、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂などが挙げられる。また、印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止用のポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とグリコール化合物とを共重合して得られるポリエステル共重合体樹脂が好ましく挙げられる。ジカルボン酸とグリコール化合物の具体例としては、上記したものと同様なものが挙げられる。
【0070】
ウレタン変性ポリエステル樹脂としては、上記ポリエステル樹脂にウレタン結合を有するものが挙げられる。
ウレタン変性ポリエステル樹脂は、例えば、水酸基などの官能基を1分子中に2個以上有するポリエステル樹脂とポリイソシアネート化合物を反応させることにより、得ることができる。
【0071】
ポリイソシアネート化合物としては、上記したものと同様のものが使用できる。ポリエステル樹脂のウレタン変性に用いるポリイソシアネート化合物は、1種単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止用のポリエステル系樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
また、上記ポリエステル系樹脂と、印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止用のポリエステル系樹脂を混合して用いる場合、両者は同じ種類のポリエステル系樹脂であることが好ましい。例えば、前者のポリエステル系樹脂が、ウレタン変性ポリエステル樹脂である場合は、後者の併用する印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止用のポリエステル系樹脂もウレタン変性ポリエステル樹脂であることが好ましく、さらに、前者のポリエステル系樹脂が、芳香族ポリエステルの基本構造を有するウレタン変性ポリエステル樹脂である場合は、後者の併用する印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止用のポリエステル系樹脂も芳香族ポリエステルの基本構造を有するウレタン変性ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0073】
印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止用のポリエステル系樹脂の数平均分子量、水酸基価、及び酸価が下記好ましい範囲、より好ましい範囲、さらに好ましい範囲になるにつれて、印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止の効果をさらにより一層発揮できる。
【0074】
数平均分子量は、5000~10万が好ましく、1万~6万がより好ましい。
水酸基価は、1~50mgKOH/gが好ましく、1~15mgKOH/gがより好ましく、1.5~10mgKOH/gがさらに好ましい。
酸価は、0~20mgKOH/gが好ましく、0~8mgKOH/gがより好ましく、0~3mgKOH/gがさらに好ましい。
【0075】
印刷コート層の密着性向上とブロッキング防止用のポリエステル系樹脂の混合割合は、全部のポリエステル系樹脂の合計質量100質量%に対して1~50質量%が好ましく、10~45質量%がより好ましく、15~40質量%が特に好ましい。
印刷用コート剤は、上記ポリエステル系樹脂と共に、架橋剤としてのイソシアネート系化合物を含有することができる。
【0076】
架橋剤としてのイソシアネート系化合物は、上記ポリエステル系樹脂の水酸基などの官能基と反応して、架橋構造を形成するものであれば、種々のイソシアネート系化合物を用いることができる。
上記イソシアネート系化合物としては、1分子当たりイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0077】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物、テトライソシアネート化合物、ペンタイソシアネート化合物、ヘキサイソシアネート化合物などが挙げられ、具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン-4,4-ジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、メチルシクロへキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどの脂環式イソシアネート化合物;ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート化合物などが挙げられる。
【0078】
また、これらの化合物のビウレット体、イソシアヌレート体や、これらの化合物とエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ひまし油などの非芳香族性低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などの変性体も用いることができる。
【0079】
これらのイソシアネート系化合物のうち、脂肪族イソシアネート化合物が好ましく、脂肪族ジイソシアネート化合物がより好ましく、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネートが特に好ましい。
イソシアネート系化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
印刷用コート剤は、上記架橋剤としてのイソシアネート系化合物と共に、金属系架橋促進剤を含有してもよい。
前記金属系架橋促進剤としては、スズ系架橋促進剤、ビスマス系架橋促進剤、チタン系架橋促進剤、バナジウム系架橋促進剤、ジルコニウム系架橋促進剤、アルミニウム系架橋促進剤、ニッケル系架橋促進剤などが挙げられる。
【0081】
スズ系架橋促進剤、ビスマス系架橋促進剤、チタン系架橋促進剤、バナジウム系架橋促進剤、ジルコニウム系架橋促進剤、アルミニウム系架橋促進剤、又はニッケル系架橋促進剤は、それぞれ、スズ、ビスマス、チタン、バナジウム、ジルコニウム、アルミニウム、又はニッケルの有機金属化合物であって、アルコキシド、カルボキシラート、キレート等の構造を有する化合物であり、好ましくは、それらの金属のアセチルアセトン錯体、アセチルアセトネート、オクチル酸化合物又はナフテン酸化合物などが挙げられる。
【0082】
金属のアセチルアセトン錯体の具体例としては、アセチルアセトンチタン、アセチルアセトンバナジウム、アセチルアセトンジルコニウム、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトンニッケルなどが挙げられる。
アセチルアセトネートの具体例としては、ビスマスアセチルアセトネート、チタンアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセトネート、ニッケルアセチルアセトネートなどが挙げられる。
【0083】
オクチル酸化合物の具体例としては、2-エチルヘキシル酸ビスマス、2-エチルヘキシル酸ニッケル、2-エチルヘキシル酸ジルコニウムなどが挙げられる。
ナフテン酸化合物の具体例としては、ナフテン酸ビスマス、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸ジルコニウムなどが挙げられる。
前記金属系架橋促進剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
・アクリル系樹脂
印刷用コート剤は、インキとの密着性に優れ、透明度が高く、耐候性に優れるという観点から、樹脂成分としてアクリル系樹脂を含むものであってよい。
【0085】
前記アクリル系樹脂は、アクリル系樹脂を構成するモノマーに由来する構成単位を含む樹脂である。ここでいう「由来する」とは、前記モノマーが重合するのに必要な構造の変化を受けたことを意味する。
【0086】
アクリル系樹脂を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリレートを含むものであり、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート(ミリスチル(メタ)アクリレート)、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート(パルミチル(メタ)アクリレート)、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)等の、アルキル基が鎖状で炭素数が1~18であるアルキル(メタ)アクリレート;
シクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート等の環状骨格を有する(メタ)アクリレート;
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;
グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが例示できる。
また、アクリル系樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、N-メチロールアクリルアミド等のモノマーが共重合されたものでもよい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を包含する概念とする。
【0087】
アクリル系樹脂を構成するモノマーは、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0088】
印刷コート層に含まれる前記アクリル系樹脂は、架橋剤により架橋された架橋型アクリル系樹脂であってよい。
【0089】
印刷用コート剤は、アクリル系樹脂と架橋剤とを含むものであってよく、前記架橋剤としては、反応性の観点から、エポキシ基又はグリシジル基を有する基を分子内に2以上有する多官能性エポキシ系架橋剤であることが好ましい。上記架橋剤における、1分子中のエポキシ基の個数は2個以上であり、例えば、2~6個であってもよく、3~5個であってもよい。
【0090】
多官能性エポキシ系架橋剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等公知のものが用いられる。これらの架橋剤は通常単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0091】
アクリル系樹脂は、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基等の他の化合物と結合可能な官能基を有していてもよい。前記アクリル系樹脂は、上記の架橋剤との反応性の観点から、カルボキシル基を有していることが好ましい。上記カルボキシル基は、アクリル系樹脂を構成するモノマーが有するカルボキシル基に由来するものであってよい。
【0092】
アクリル系樹脂に用いられるカルボキシル基を含有するモノマーの使用量は、アクリル系樹脂を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、カルボキシル基を含有するモノマー由来の構成単位の含有量が、好ましくは5質量%以上、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%となるように使用することができる。上記の含有量が5~50質量%であると、アクリル系樹脂の水分散性及びエポキシ系架橋剤との架橋性が良好であり、エポキシ系架橋剤との架橋反応後の耐水性及び耐アルカリ性も良好である。カルボキシル基を含有するモノマーとしては、上記の(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0093】
アクリル系樹脂はアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有することが好ましい。
アクリル系樹脂に用いられるアルキル(メタ)アクリレートの使用量は、アクリル系樹脂(C1)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対してアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有量が、好ましくは50質量%以上、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~90質量%となるように使用することができる。上記の含有量が50~95質量%であると、得られる印刷コート層の耐溶剤性と耐水性とのバランスが良好である。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、上述のものを例示でき、アルキル基が鎖状で炭素数が1~18のものや、炭素数が1~8のものが挙げられる。
【0094】
また、アクリル系樹脂とエポキシ系架橋剤との架橋反応性を向上させるために、塩基性窒素原子を含有するモノマーを用いることができる。塩基性窒素原子を含有するモノマーの使用量は、アクリル系樹脂を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して塩基性窒素原子を含有するモノマーを由来の構成単位の含有量が、好ましくは35質量%以下、好ましくは5~35質量%となるように使用することができる。塩基性窒素原子を含有するモノマーとしては、アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、アクリル酸N,N-ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸N,N-ジエチルアミノエチル等が挙げられ、これらは通常単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
アクリル系樹脂としては、フィルム基材本体への適用における汎用性の高さから、水を含む溶媒に溶解又は分散した状態で提供される水系アクリル系樹脂であることが好ましい。水系樹脂としては水分散型であっても水溶性型であってもよい。
【0095】
水系アクリル系樹脂は、公知の方法で重合して得ることができ、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を採用できる。水系アクリル系樹脂の製造には、例えばカルボキシル基等の親水基を有するモノマーを用いればよく、モノマーの重合反応を行った後、カルボキシル基を中和し、更に水を加えて水分散液または水溶液とすることが好ましい。
中和に用いられる塩基としては、アンモニアや第1又は第2アミン類が挙げられ、上記の架橋反応性を向上させる観点から、イミダゾール化合物が好ましい。イミダゾール化合物は、イミダゾール及びイミダゾール誘導体を包含するものであり、イミダゾール化合物は、イミダゾールの一個以上の水素原子が、他の基で置換されたものであってよい。
前記イミダゾール化合物の具体例としては、例えば2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2- イソプロピルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、イミダゾール等が挙げられる。
【0096】
印刷用コート剤において、アクリル系樹脂と、エポキシ系架橋剤とが混合された状態とすることができる。アクリル系樹脂及び架橋剤は、予め中和された状態で更に水を加えて水分散液または水溶液とすることが好ましい。
【0097】
印刷用コート剤の固形分の総含有量100質量%に対するポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂の含有量の割合(印刷コート層のポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂の含有量)は、20質量%以上であることが好ましく、20~95質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~70質量%であることがさらに好ましい。
【0098】
印刷用コート剤がポリエステル系樹脂を含有する場合、印刷用コート剤において、ポリエステル系樹脂と架橋剤としてのイソシアネート系化合物の含有割合は、固形比でポリエステル系樹脂100質量部に対し、架橋剤としてのイソシアネート系化合物が1~80質量部が好ましく、2~70質量部がより好ましく、3~60質量部が特に好ましい。
【0099】
また、印刷用コート剤がポリエステル系樹脂を含有する場合、印刷用コート剤において、架橋剤としてのイソシアネート系化合物と前記金属系架橋促進剤の含有割合は、ポリエステル系樹脂100質量部に対し、前記金属系架橋促進剤が金属量換算で0.001~5質量部が好ましく、0.005~2質量部がより好ましく、0.01~1質量部が特に好ましい。
【0100】
印刷用コート剤がアクリル系樹脂を含有する場合、アクリル系樹脂とエポキシ系架橋剤の配合比は、中和前のアクリル系樹脂のカルボキシル基/エポキシ系架橋剤のエポキシ基の当量比が0.90~1.50となるように調整することが好ましい。前記当量比が0.90~1.50であると、架橋反応が十分で得られる印刷コート層の耐溶剤性、耐水性が良好である。
尚、アクリル系樹脂とエポキシ系架橋剤は市販品を用いてもよく、例としては、ジャパンコーティングレジン株式会社の水性アクリル系樹脂(商品名:リカボンドSA-95)とエポキシ系架橋剤(商品名:リカボンドEX-8)が挙げられる。
【0101】
印刷用コート剤は、前記ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、架橋剤、架橋促進剤、塩基以外に、希釈媒体を含有することができる。希釈媒体としては、有機系希釈媒体、水系希釈媒体などが挙げられる。
有機系希釈媒体としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどの脂肪族ケトン、シクロヘキサノンなどの脂環式ケトンなどの有機溶剤などが挙げられ、1種又は2種以上の組み合わせで使用できる。2種以上を組み合わせる場合、沸点が10~60℃異なる有機溶剤を組み合わせることが、乾燥効率を向上させる点で好ましい。
水系希釈媒体としては、水、水と水溶性の有機溶剤との混合溶剤が挙げられ、水溶性の有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
【0102】
印刷用コート剤の総質量に対し、ポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂及び架橋剤などの樹脂固形分の含有割合が0.5~10質量%であることが好ましく、1~7質量%であることがより好ましい。
【0103】
また、印刷用コート剤には、滑り性の向上や、マット感を得るために、有機フィラー、無機フィラーなどの各種フィラーを配合することができる。
有機フィラーとしては、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、メタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂又はこれらの混合物などの樹脂粉末などが挙げられる。
【0104】
無機フィラーとしては、シリカ、アルミナなどの無機酸化物、金粉、銀粉などの金属粉などが挙げられる。
フィラーの配合量は、印刷用コート剤の樹脂成分及び架橋剤の合計量100質量部に対し、0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましい。
【0105】
印刷用コート剤は、そのゲル分率が、塗工14日後において50%以上であることが好ましく、60%以上であることが特に好ましい。この範囲を下回ると、印刷用コート剤の凝集力が不十分になり、印刷コート層の凝集破壊を引き起こすことがある。また、塗工3日後のゲル分率に対する塗工14日後のゲル分率の比(塗工14日後のゲル分率/塗工3日後のゲル分率)が4.5以内であることが好ましく、2.5以内であることがさらに好ましく、1.5以内であることが特に好ましい。この範囲内であると、製造時における耐ブロッキング性がより良好となる可能性がある。
【0106】
印刷コート層に対して好適な印刷方法としては、特に限定されるものではないが、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット式印刷、スクリーン印刷、熱転写印刷等が挙げられる。
【0107】
<粘着層>
粘着層12は、フィルム基材10の第一の面側に設けられている。
【0108】
また、粘着層12は、粘着剤としての機能を有するものであり、脆質性粘着シート1から形成される脆質性粘着ラベルは、粘着層12によって被着体に貼付されることができる。
【0109】
粘着層12に使用できる粘着剤としては、特に制限されることなく、公知の粘着剤を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0110】
粘着剤としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、又はシリコーン系粘着剤を主剤とする粘着剤などが挙げられる。この中でも、アクリル系粘着剤を用いることが好ましい。アクリル系粘着剤は、耐候性に優れ、また、比較的安価に得ることができる。
【0111】
アクリル系粘着剤は、アクリル系樹脂を含むものである。前記アクリル系樹脂としては、公知のアクリル重合体を用いることができる。
アクリル系粘着剤がアクリル系樹脂である場合、粘着層12の総質量に対するアクリル系樹脂の含有割合は、20~100質量%であってよく、30~99.99質量%であってよい。
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合体が挙げられ、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーの重合体が好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと、ビニル系モノマーとを共重合して得られた共重合体を用いることがより好ましい。これにより、粘着層12は、耐候性に優れ、適度な粘着力を有するものとなる。
【0112】
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーのアルキル基の炭素数は、4~12であることが好ましい。これにより、粘着層12は、適度な粘着力を有するものとなる。
【0113】
アルキル基の炭素数が4~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0114】
また、ビニル系モノマーとしては、具体的にはアルキル基の炭素数が1~3の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;水酸基含有アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリルアミド;アクリロニトリル;スチレン;酢酸ビニル;ビニルピロリドン等をが挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。このようなビニル系モノマーをアクリル系粘着剤に用いることにより、得られる粘着剤の粘着力や凝集力を調節することができる。
【0115】
また、上述したようなモノマーの混合物を溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の従来公知の方法により共重合することで、アクリル系粘着剤としての共重合体を得ることができる。
【0116】
上記の粘着剤には、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アジリジン系架橋剤等の架橋剤を配合することができる。粘着剤に架橋剤を配合した場合、特にイソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0117】
前記イソシアネート系架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などを挙げることができる。これらの架橋剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4-ジアミノジフェニルメタン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)トルエン等のエポキシ化合物を挙げることができる。
【0118】
架橋剤の配合割合は、必要とする粘着特性を得るためには、粘着剤:100質量%に対して0.01~5質量%が好ましく、特に0.01~3.5質量%が好ましい(いずれも固形分換算値)。
【0119】
また、粘着層12には、必要に応じて粘着性付与剤、充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤等の公知の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0120】
実施形態の脆質性粘着シートにおける粘着層の粘着力は、下記粘着力試験において、粘着力が5N/25mm以上であることが好ましく、8N/25mm以上であることがより好ましい。粘着層の粘着力が上記範囲内であることで、被着体への粘着力が良好なものとなり、被着体からの剥離時に、脆質性粘着シート1が破壊されやすくできる。
粘着力試験は、ISO 29862:2007(JIS Z0237:2009)に準拠して、脆質性粘着シートの試験片をSUS304鋼板(試験板)に質量2kgのローラを1往復させて圧着しながら貼付し、剥離速度300mm/minの条件で、試験片を試験板に対して180°に引きはがす試験方法により測定する。脆質性粘着シートの試験片は、試験時におけるフィルムの破断を防止するため、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートを基材とする粘着テープで補強したものを用いる。試験片のサイズは幅25mm、長さ100mm以上とする。
【0121】
粘着層12の厚さは、10~50μmであることが好ましく、15~40μmであることがより好ましい。これにより、脆質性粘着シート1を用いて製造されるラベルは、十分な粘着性(タック)および粘着力を有しつつ、貼付対象への貼付時においてラベル端部で粘着剤がはみだしたり、ラベルの端部に露出した粘着剤によってゴミが付着することが防止される。
【0122】
<剥離ライナー>
剥離ライナー13は、粘着層12のフィルム基材10が設けられた側とは反対側の面に設けられている。
【0123】
剥離ライナー13としては、特に限定されず、一般的には、ライナーの片面に剥離処理が施された公知の剥離ライナーを適宜選択して用いることができる。剥離ライナー13に用いることのできるライナーとしては、例えば、グラシン紙、上質紙、クラフト紙等の紙、これらの紙にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム等が挙げられる。
【0124】
また、離型処理を行うための離型処理剤としては、シリコーン、長鎖アルキル系樹脂、フッ素系樹脂等を例示することができる。
剥離ライナー13の厚さは、特に限定されないが、10~150μmであることが好ましく、20~130μmであることが好ましい。
【0125】
剥離ライナー13を除く、フィルム基材10及び粘着層12を含む脆質性粘着シート1の厚さは、目的に応じて適宜選択できるが、20~200μmであることが好ましく、60~150μmであることがより好ましく、70~90μmであることが特に好ましい。
【0126】
実施形態の脆質性粘着シートは、透明であることが好ましい。透明であることが好ましいのは、印刷コート層に印刷が施される前の脆質性粘着シート、又は脆質性粘着シートの印刷コート層に印刷が施されていない部分である。
透明とは、有色透明であってもよく、無色透明であってもよい。脆質性粘着シートの透明度の指標としては、以下の全光線透過率及びヘーズを採用できる。
また、実施形態の脆質性粘着シートが透明である場合、かかる脆質性粘着シートの印刷コート層は、透明度が高く、耐候性に優れるという観点から、アクリル系樹脂を含有するものであることが好ましい。
【0127】
<脆質性粘着シートの全光線透過率>
脆質性粘着シートの全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。脆質性粘着シートの全光線透過率が前記下限値以上であることで、貼付対象物の視認性が向上し、貼付対象物の識別の妨げとなり難い。
【0128】
脆質性粘着シートの全光線透過率の上限値は、特に限定されず、高いほど好ましい。脆質性粘着シートの製造の容易さ、及び、脆質性粘着シートの構成の自由度の高さ等を考慮すると、脆質性粘着シートの全光線透過率は、99%以下であることが好ましい。
【0129】
脆質性粘着シートの全光線透過率は、実施例においても後述するように、JIS K 7361-1:1997に準拠して、光源として白色LED(5V、3W)を用いて測定できる。
JIS K 7361-1:1997は、ISO 13468-1, Plastics-Determination of the total luminous transmittance of transparent materials -Part 1 : Single beam instrumentを翻訳し、技術的内容を変更することなく作成した日本工業規格である。
なお、脆質性粘着シートが剥離ライナーを備える場合には、脆質性粘着シートの全光線透過率は、剥離ライナーを剥がした後の状態の脆質性粘着シートを測定対象とする。
なお、脆質性粘着シートの全光線透過率は、印刷コート層に印刷が施される前の脆質性粘着シート、又は印刷コート層に印刷が施されていない部分の脆質性粘着シートを測定対象とする。
【0130】
<脆質性粘着シートのヘーズ>
脆質性粘着シートのヘーズは、特に限定されないが、50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることが特に好ましい。従来のポリスチレン系樹脂フィルムは、カス上げ時にカスが切れることを防ぐために、熱可塑性エラストマーを含有していたため、ヘーズが50%よりも大きいものであったが、実施形態のポリスチレン系樹脂フィルムは、熱可塑性エラストマーの含有量を10質量部以下に抑えているので、従来のものよりもヘーズを低減できる。脆質性粘着シートのヘーズが前記上限値以下であることで、貼付対象物の視認性が向上し、貼付対象物の識別の妨げとなり難い。
【0131】
脆質性粘着シートのヘーズの下限値は、特に限定されず、低いほど好ましい。脆質性粘着シートの製造の容易さ、及び、脆質性粘着シートの構成の自由度の高さ等を考慮すると、脆質性粘着シートのヘーズは、20%以上であってもよく、30%以上であってもよい。
【0132】
脆質性粘着シートのヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠して、光源として白色LED(5V、3W)を用いて測定できる。
JIS K 7136:2000は、ISO 14782,Plastics-Determination of haze for transparent materialsを翻訳し、技術的内容を変更することなく作成した日本工業規格である。
なお、脆質性粘着シートが剥離ライナーを備える場合には、脆質性粘着シートのヘーズは、剥離ライナーを剥がした後の状態の脆質性粘着シートを測定対象とする。
なお、脆質性粘着シートのヘーズは、印刷コート層に印刷が施される前の脆質性粘着シート、又は印刷コート層に印刷が施されていない部分の脆質性粘着シートを測定対象とする。
【0133】
脆質性粘着シート又はラベルは、いかなるものに貼付するものであってもよい。
脆質性粘着シート又はラベルは、改ざん・不正開封防止に用いることができるものであってよい。当該脆質性粘着シート又はラベルは、貼付対象の物品に貼付され、特徴や取り扱い上の注意点等の内容が印刷され、これを表示するものであってよい。また、脆質性粘着シート又はラベルは、トラッキングなどの目的で使用されてもよい。また、脆質性粘着シート又はラベルは、証明や封印などの目的で、物品の開封・開口部(開封又は開口予定部を含む)に貼付して使用されるものであってよい。また、脆質性粘着シート又はラベルは、不当な物品の開梱や、蓋部等の開封部又は開口部の開放、開封又は開口を防止するために、物品の開封部又は開口部に貼付して使用される不正開封防止シールであってよい。また、脆質性粘着シート又はラベルは、商品の偽造防止や偽造品の流通防止の目的のため使用されるものであってよい。例えば上記の目的のため、脆質性粘着シート又はラベルには、物品を識別するバーコード、QRコード(登録商標)等のコードや、識別番号、識別記号等が印刷されてもよい。
【0134】
脆質性粘着シート又はラベルの貼付対象の物品としては、例えば、医薬品や化粧品、医療器具、医療製品、OA機器、家電機器、机、戸棚、金庫、手荷物、封筒及びそれらの包装材又は梱包材を例示できる。これらの中でも、脆質性粘着シート又はラベルは、医薬品の容器や包装を封緘し、かつ、医薬品をトラッキングすることができるラベルとして適している。
【0135】
また、OA機器、家電機器等に貼付される場合、OA機器や、家電製品の筺体は、一般に、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)等のポリスチレン系樹脂等が用いられている。脆質性粘着シートは、筺体と共通の種類の樹脂で構成されていることで、筺体をリサイクルする際に筺体から剥がす必要がない。すなわち、筺体を解体・分別する場合において、ラベルの存在によってポリスチレン系樹脂以外の不純物が混入することが少ないものとなる。このため、ラベルを用いた場合、リサイクル時における作業を簡素にすることができる。
【0136】
本発明の一実施形態として、貼付対象の物品に、実施形態の脆質性粘着シート又はラベルを貼付する、貼付方法を提供する。
本発明の一実施形態として、貼付対象の物品に、実施形態の脆質性粘着シート又はラベルを貼付する、物品の製造方法を提供する。
本発明の一実施形態として、貼付対象の物品に、実施形態の脆質性粘着シート又はラベルを貼付する、改ざん防止方法を提供する。
本発明の一実施形態として、貼付対象の物品に、実施形態の脆質性粘着シート又はラベルを貼付する、偽造防止方法を提供する。
本発明の一実施形態として、貼付対象の物品に、実施形態の脆質性粘着シート又はラベルを貼付する、不正開封防止方法を提供する。
貼付対象の物品に、実施形態の脆質性粘着シートを貼付する方法としては、脆質性粘着シート又はラベルの粘着層を貼付対象の物品表面に接触させて、脆質性粘着シート又はラベルを物品に貼りつければよい。
【0137】
本発明の一実施形態として、実施形態の脆質性粘着シート又はラベルの、改ざん防止のための使用を提供する。
本発明の一実施形態として、実施形態の脆質性粘着シート又はラベルの、偽造防止のための使用を提供する。
本発明の一実施形態として、実施形態の脆質性粘着シート又はラベルの、不正開封防止のための使用を提供する。
【0138】
≪脆質性粘着シートの製造方法≫
次に、実施形態の脆質性粘着シートの製造方法について説明する。
【0139】
実施形態の脆質性粘着シートの製造方法は、ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体を形成する基材本体形成工程と、前記フィルム基材本体の第一の面側に、粘着層を形成する粘着層形成工程と、前記フィルム基材本体の第二の面側に、ポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する印刷コート層を形成する印刷コート層形成工程と、を有する。これにより、上述したような脆質性粘着シート1を容易かつ確実に製造することができる。
【0140】
<基材本体形成工程>
フィルム基材本体11を構成するフィルム材料は、フィルム基材本体11の構成材料を混練、混合することにより得ることができる。
フィルム材料は、フィルム基材本体11を構成する各材料をすべて同時に混合するものであってもよいし、予め、調製すべきフィルム材料の構成成分のうち一部を混合して混合物(マスター)を得、その後、当該混合物(マスター)を、他の成分と混合してもよい。
【0141】
例えば、フィルム材料が着色剤を含む場合、着色剤とスチレン系樹脂の一部とを予め混合して着色剤のマスターバッチを得、着色剤のマスターバッチと他の構成材料とを混合することにより、フィルム材料を得るものであってもよい。これにより、着色剤をより均一にフィルム材料中に混合することができ、得られるフィルム基材本体11は、各部位においてより均質に着色されたものとなる。
【0142】
特に、着色剤として、顔料を用いる場合、着色剤のマスターバッチ100質量%に対する顔料の含有割合は、30~60質量%であることが好ましく、35~55質量%であることがより好ましい。これにより、顔料をより均一に分散させることができ、形成されるフィルム基材本体11を均質に着色させることができるとともに、顔料が凝集した異物(フィッシュアイ)等が発生することが確実に防止される。
【0143】
また、このような着色剤のマスターバッチは、残りのスチレン系樹脂:100質量部に対し、5~30質量部混合されることが好ましく、10~20質量部混合されることがより好ましい。これにより、フィルム基材本体11をより確実に着色することができる。
【0144】
本実施形態では、ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体11は、上記のフィルム材料を一軸延伸することにより形成することが好ましい。一軸延伸でフィルム基材本体11を形成することにより、フィルム基材本体11は、上述したような引裂き強度試験での上述したような強度比を確実に満たすものとなる。これは、一軸延伸により形成されたフィルムは、延伸方向にポリスチレン系樹脂が配向することによるものと考えられる。この結果、フィルム基材本体11を用いた脆質性粘着シート1は、改ざん・不正開封防止効果とカス切れの抑制とがより好適に両立がされたものとなると考えられる。
【0145】
<粘着層形成工程>
粘着層12は、フィルム基材本体11の第一の主面上に形成される。
実施形態の脆質性粘着シート1では、粘着層12は、粘着剤の構成材料をシート状にした粘着層(前駆体)を剥離ライナー13上に形成し、剥離ライナー13とフィルム基材本体11とを粘着層(前駆体)が間に来るように貼り合わせることにより形成することができる。
【0146】
粘着層(前駆体)は、例えば、粘着層を構成するための各成分及び希釈媒体を含む塗工液を剥離ライナー13上に塗布し、乾燥することで形成することができる。
【0147】
塗工液の固形分は、20~60質量%であることが好ましく、25~55質量%であることがより好ましい。これにより、より均一な厚さの粘着層を形成することができる。
【0148】
塗工液の塗布は、例えば、塗工機(コーター)によって行うことができる。塗工液の塗布に用いることのできる塗工機は、特に限定されないが、例えば、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、キスコーターなどが挙げられる。
【0149】
次に、粘着層(前駆体)が設けられた剥離ライナー13とフィルム基材本体11とを、粘着層(前駆体)が剥離ライナー13とフィルム基材本体11との間に挟まれるように、貼り合わせることによって、フィルム基材本体11上に粘着層12が形成される。
【0150】
<印刷コート層形成工程>
印刷コート層は、フィルム基材本体11の第二の主面上に形成される。
印刷コート層は、印刷コート層の形成対象面に、印刷コート層を構成するための各成分及び希釈媒体を含む印刷用コート剤を塗工し、必要に応じて乾燥させて希釈媒体を揮発させることで、目的とする部位に印刷コート層を形成できる。実施形態の脆質性粘着シート1では、印刷用コート剤をフィルム基材本体11の第二の面側の表面に塗布して、フィルム基材本体11に印刷コート層16を設けることができる。
このようにフィルム基材本体11に直接、印刷用コート剤を塗布することで、印刷用コート剤に有機系希釈媒体(有機溶剤)が含有される場合には、有機系希釈媒体がフィルム基材本体11に接触することとなる。すると、フィルム基材本体が有機溶剤と接触して、表面の一部がおそらく溶解・膨潤することで、印刷用コート剤の成分とフィルム基材本体の馴染みが良好なものとなり、フィルム基材本体への印刷コート層の密着性が向上する。ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体は、有機溶剤による浸軟が生じやすく、ポリスチレン系樹脂と印刷コート層の構成の組み合わせにより、印刷コート層の密着性に優れ、印刷適性の高いフィルム基材10が得られる。
印刷用コート剤に水系希釈媒体が含有される場合には、水系希釈媒体のフィルム基材本体への浸軟が生じ難いことなどから、フィルム基材本体の厚さの構成の自由度の高さを向上させることができ、例えば、脆質性に優れたフィルム基材10の製造が容易である。
【0151】
上記印刷用コート剤の塗布方法は、例えば、バーコート法、グラビアコート法など従来公知の方法が挙げられる。
なお、印刷用コート剤のフィルム基材本体との密着性を高めるために、必要に応じてフィルム基材本体の表面にアンカーコート層を設けて、そのアンカーコート層の表面に印刷コート層を設けることができる。
【0152】
アンカーコート層を設けるために使用するアンカーコート剤としては、例えば、ポリウレタン系アンカーコート剤、ポリエステル系アンカーコート剤などが挙げられる。
【0153】
乾燥は、通常60~130℃で行うことが好ましく、70~120℃がより好ましい。
乾燥時間は特に制限ないが、通常10秒~5分間で十分である。
【0154】
フィルム基材本体の裏面は、粘着層との密着力をさらに上げるために易接着処理を施してもよい。易接着処理としては、特に制限はないが、例えば、コロナ放電処理等が挙げられる。
【0155】
なお、印刷コート層形成工程は、粘着層形成工程の後に行うことが好ましい。先に粘着層形成工程を行い、フィルム基材本体に粘着層及び剥離ライナーを積層しておくことで、印刷コート層形成工程において脆質なフィルム基材本体が破損するおそれが低減される。
上記各工程を経ることにより、脆質性粘着シート1が得られる。
【0156】
≪ラベルの製造方法≫
次に、脆質性粘着シート1を用いたラベルの製造方法を説明する。
実施形態のラベルの製造方法は、脆質性粘着シートのフィルム基材及び粘着層に切れ目を形成してラベル部とカス部とを形成する打抜工程と、前記カス部を除去するカス上げ工程と、を含むことができる。実施形態のラベルの製造方法は、脆質性粘着シート又は前記ラベル部の印刷コート層上に印刷加工を行う印刷工程を、さらに含むことができる。以下、印刷工程を含むラベルの製造方法について説明する。
【0157】
まず、脆質性粘着シート1の印刷コート層16上に印刷加工を行う。
次に、脆質性粘着シート1のフィルム基材10及び粘着層12を、印刷柄の周囲に合わせて抜き型(ダイ)用いて打ち抜くことにより、ラベルに対応する形状のラベル部14とそれ以外の部分のカス部15とを形成する。ラベル部14及びカス部15は、フィルム基材10及び粘着層12を含む。
このとき、剥離ライナー13には切れ目が形成されないことが好ましい。剥離ライナー13にも切れ目が形成されてもよいが、剥離ライナーが破断されない程度とする。
【0158】
実施形態の脆質性粘着シートによるカス切れの抑制が効果的に発揮され、余分なカス部の量を低減させるとの観点から、カス部の幅は狭いことが好ましい。一方で、ある程度のカス部を設けたほうが、ラベルの貼付作業の作業効率が向上する。そのため、カス切れが発生し易い、MD方向に沿って形成されたカス部の幅は、例えば1~20mmであってよく、3~10mmであってよい。(後述の
図5における当該幅は、10mmである。)なお、上記のMD方向に沿って形成されたカス部の幅とは、CD方向に沿って測定されるカス部の幅の数値のうち最小値とする。
【0159】
次に、カス部15を剥離ライナー13から剥離(カス上げ)することによって剥離ライナー13上にラベル部14が残存したラベルが得られる。
【0160】
カス部15の剥離は、例えば、カス上げ巻き取り機等で行うことにより、効率よく連続的に行うことができる。カス上げは上述のMDに沿って行うことができる。従来の脆質性粘着シートを用いた場合、カス上げ時おいて、カス部が切れてしまい、カス切れが頻発する問題があった。このようにカス切れが頻発すると、カス切れの度にカス上げを中断して、再度カス上げの巻き取りの準備を行う必要があり、ラベルを効率よく生産できない問題があった。しかしながら、実施形態の脆質性粘着シートは、好適にカス切れが防止されたものである。このため、カス上げ作業を中断することなくラベルを生産することができる。
【0161】
ここでは、ラベルの製造時に印刷加工を行うことを説明したが、脆質性粘着シート1の印刷コート層16上に印刷加工を行い、印刷加工済みの脆質性粘着シートとして提供してもよい。
また、カス上げ後のラベルに対して熱転写ラベラーを用いて直接印刷加工を行うものであってもよいし、印刷加工を行わずに脆質性粘着シート又はラベルを製造してもよい。
【0162】
≪ラベル≫
次に、脆質性粘着シート1を用いて製造されたラベルについて説明する。
【0163】
実施形態のラベルは、脆質性粘着シート1から上述のように加工されて得ることができる。
実施形態のラベルの構成は、上記の脆質性粘着シートの実施形態で例示したものが挙げられ、フィルム基材と、前記フィルム基材の第一の面側に設けられた粘着層と、を備え、前記フィルム基材は、ポリスチレン系樹脂で構成されたフィルム基材本体と、前記フィルム基材の前記粘着層が設けられた側とは反対の第二の面側に設けられた印刷コート層とを備え、前記印刷コート層は、ポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有するものであってよい。
実施形態のラベルは、印刷コート層上に印刷が施されていることが好ましい。したがって、実施形態のラベルは、上記印刷コート層上に印刷インキが積層されていることが好ましい。
【0164】
実施形態のラベルは、剥離ライナー上に、複数個の実施形態の脆質性粘着シート(ラベル部)が島状に配置されたものであってよい。
剥離ライナー上に、島状に配置された脆質性粘着シート(ラベル部)の個数は、2個以上であってよく、50個以上であってよく、1000個以上であってよい。当該個数の上限値は、脆質性粘着シートの大きさにもよるが、例えば1,000,000個以下である。
【0165】
上記のラベル部14の1つあたりの面積は、例えば、1~100cm2であってよく、2~50cm2であってよく、5~40cm2であってよい。
【0166】
ラベルは、いかなるものに貼付するものであってもよく、貼付対象としては、脆質性粘着シートで説明したものが挙げられる。
脆質性粘着シートをラベルに加工して提供することで、貼付作業の作業効率の向上が期待できる。
【0167】
以上、実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0168】
また、例えば、本発明の脆質性粘着シートには上記に例示した層の他に、任意の層が設けられていてもよい。例えば、粘着層とフィルム基材本体との間や、フィルム基材本体と印刷コート層との間に密着性等の向上を目的として中間層が設けられていてもよい。
【0169】
また、前述した実施形態では、粘着層は、一旦剥離ライナー上に形成された後に、剥離ライナーとフィルム基材本体11とを貼り合わせることによって設けられたが、粘着層の形成方法はこれに限定されない。例えば、粘着層は、フィルム基材本体11上に粘着剤を含む粘着シートを貼り合わせることで設けられたものであってもよいし、上述したような塗工液をフィルム基材上に直接塗布して設けられたものであってもよい。
【実施例】
【0170】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0171】
1.脆質性粘着シートの製造
<実施例1-1>
(a)フィルム基材本体形成工程
まず、スチレンモノマー:90質量部とスチレンブタジエンゴム:10質量部をグラフト重合させ、ポリスチレン樹脂(HIPS)を調製した。
【0172】
次に、ポリスチレン樹脂(HIPS):7.5質量部と、二酸化チタン:7.5質量部とを混合し、着色剤のマスターバッチを得た。
【0173】
次に、ポリスチレン樹脂(HIPS):100質量部と、着色剤のマスターバッチ:15質量部と、を混合して、白色のフィルム材料を得た。
【0174】
次に、140℃で溶融させたフィルム材料を、Tダイ製膜機を用いてMD方向に延伸(一軸延伸)し、厚さ50μmの一軸延伸フィルムを得た。
次に、一軸延伸フィルムの片面にコロナ放電処理を施し、フィルム基材本体を得た。
【0175】
(b)粘着層形成工程
次に、剥離ライナーに、アクリル系粘着剤(ブチルアクリレート95質量部、アクリル酸5質量部を共重合した重量平均分子量50万のアクリル酸エステル共重合体100質量部とエポキシ系架橋剤(TETRAD-C、三菱ガス化学社製)0.03質量部の混合物)を塗工し、90℃で60秒間乾燥させて乾燥厚さ:30μmの粘着層を形成し、剥離ライナーと粘着層とからなる積層体を得た。
【0176】
次に、積層体の粘着層を有する面と、フィルム基材のコロナ放電処理が行われた面とを貼り合わせることによりフィルム基材上に粘着層を形成した。
【0177】
(c)印刷コート層形成工程
ウレタン変性ポリエステル樹脂A(東洋紡社製、バイロンUR-1700、水酸基価19mgKOH/g、ガラス転移温度92℃、固形分30質量%)70質量部及びウレタン変性ポリエステル樹脂B(東洋紡社製、バイロンUR-8700、水酸基価2~4mgKOH/g、ガラス転移温度-22℃、固形分30質量%)30質量部、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートHX、固形分100質量%))15質量部、スズ系架橋促進剤溶液(固形分25質量%)2質量部を混合し、トルエンにて希釈し、固形分1.5質量%の塗工液を得た。
塗工液をフィルム基材に塗布し、70℃で乾燥することにより、厚さ2μmの印刷コート層を形成した。
【0178】
表1に、実施例1-1で製造したフィルム基材の材料および含有量等を示した。
【0179】
【0180】
<実施例2-1>
印刷コート層の厚さを4μmに変更した以外は、前記実施例1-1と同様にして脆質性粘着シートを製造した。
【0181】
<比較例1-1>
印刷コート層を設けなかった以外は、前記実施例1-1と同様にして粘着シートを製造した。
【0182】
<比較例2-1>
フィルム基材の表面にコロナ処理を施した以外は、前記比較例1-1と同様にして粘着シートを製造した。
【0183】
<比較例3-1>
上記フィルム基材に代えて、インフレーション法(2軸延伸)によって製造されたフィルム基材を用いた以外は、前記比較例1-1と同様にしてフィルムを製造した。インフレーション法は、インフレーション加工機(ダイス径75φ)を用いて、樹脂温度220℃、ダイス温度200℃の条件で製膜を行なった。
【0184】
<比較例4-1>
比較例1-1のTダイ法において、延伸しなかったこと以外は、比較例1-1と同様にして粘着シートを製造した。
【0185】
<実施例1-2>
(a)フィルム基材本体形成工程
まず、スチレンモノマー:90質量部とスチレンブタジエンゴム:10質量部をグラフト重合することにより、ポリスチレン樹脂(HIPS)のペレットを得た。
【0186】
次に、スチレンモノマー100質量部を重合することにより、ポリスチレン樹脂(GPPS)のペレットを得た。
【0187】
次に、ポリスチレン樹脂(HIPS)のペレット100質量部と、ポリスチレン樹脂(GPPS)のペレット15質量部と、を混合して、透明なフィルム材料を得た。
【0188】
次に、140℃で溶融させたフィルム材料を、Tダイ製膜機を用いてMD方向に延伸(一軸延伸)し、厚さ50μmの一軸延伸フィルムを得た。
次に、一軸延伸フィルムの片面にコロナ放電処理を施し、フィルム基材本体を得た。
【0189】
(b)粘着層形成工程
上記実施例1-1と同様にして、フィルム基材上に粘着層を形成した。
【0190】
(c)印刷コート層形成工程
水性アクリル系樹脂(ジャパンコーティングレジン株式会社、リカボンドSA-95、固形分20.5質量%)100質量部及びエポキシ系架橋剤(ジャパンコーティングレジン株式会社、リカボンドEX-8、固形分100質量%)10質量部を混合し、水にて希釈し、固形分10質量%の塗工液を得た。
塗工液をフィルム基材に塗布し、120℃で乾燥することにより、厚さ2μmの印刷コート層を形成した。
【0191】
<実施例2-2>
印刷コート層の厚さを4μmに変更した以外は、前記実施例1-2と同様にして脆質性粘着シートを製造した。
【0192】
<比較例1-2>
印刷コート層を設けなかった以外は、前記実施例1-2と同様にして粘着シートを製造した。
【0193】
<比較例2-2>
フィルム基材の表面にコロナ処理を施した以外は、前記比較例1-2と同様にして粘着シートを製造した。
【0194】
<比較例3-2>
上記フィルム基材に代えて、インフレーション法(2軸延伸)によって製造されたフィルム基材を用いた以外は、前記比較例1-2と同様にしてフィルムを製造した。インフレーション法は、インフレーション加工機(ダイス径75φ)を用いて、樹脂温度220℃、ダイス温度200℃の条件で製膜を行なった。
【0195】
<比較例4-2>
比較例1-2のTダイ法において、延伸しなかったこと以外は、比較例1-2と同様にして粘着シートを製造した。
【0196】
2.評価
2.1 引張破断伸度
各実施例および各比較例のフィルム基材について、引張破断伸度をJIS Z0237:2009に準拠して測定を行った。
【0197】
フィルム基材の製膜方向(MD)について、幅:15mm、標線長さ:100mmの短冊状に打ち抜いたフィルム基材の試験片を用意した。次に、引張試験機を使用して、温度:23℃、湿度:50%RH下で、試験片を200mm/分の速度で引っ張り、破断時の試験片の長さを測定し、元の試験片の長さに対する伸度[%]を求めた。
【0198】
2.2 引張破断強度
各実施例および各比較例のフィルム基材について、引張破断強度をJIS Z0237:2009に準拠して測定を行った。
【0199】
フィルム基材の製膜方向(MD)について、それぞれ幅:15mm、標線長さ:140mmの短冊状に打ち抜いたフィルム基材の試験片を用意した。次に、引張試験機を使用して、温度:23℃、湿度:50%RH下で、試験片を200mm/分の速度で引っ張り、引張破断強度を求めた。
【0200】
2.3 引裂き強度試験
各実施例および各比較例のフィルム基材について、製膜方向(MD)及び製膜方向に対して90°の方向(CD)について、JIS K7128-1:1998によるトラウザー引裂法に準拠して試験速度:300mm/minで引裂き強度試験を行ない、得られた荷重(mN)を厚さ(mm)で割った値を引裂き強度とした。
【0201】
2.4 脆質性
各実施例および各比較例の脆質性粘着シートについて、50mm×50mmの長方形に打ち抜いた脆質性粘着シートの試験片を用意した。剥離ライナーから剥がした試験片をアクリル板の表面に貼付し、試験片を室温下にて24時間放置した後に、試験片の角部分から剥がしていったときの試験片の状態を下記の基準に従い評価した。
【0202】
〇:試験片を剥がし終えるまでに試験片が断片化した。
×:試験片が断片化することなく、試験片を剥がし終えた。
【0203】
2.5 カス切れ性
各実施例および各比較例で得られた脆質性粘着シートについて、オフセット印刷装置、ダイカット装置、カス上げ・巻き取り装置が付与されたラベル印刷機(Intermitted Letterpress machine)「LPM-300iT(リンテック株式会社製)」を用いて
図5に示すパターンでラベル抜き加工を行い、ラベル部とカス部を形成した。その後、カス上げを行い、長手方向にカス部を巻き取ることで、カス切れ性について下記の4段階の基準に従い評価した。
【0204】
〇:カス切れなし。
△:20m以上、200m未満に一度の頻度でカス切れが発生。
×:5m未満に一度の頻度でカス切れが発生。
【0205】
2.6 印刷適性
各実施例および各比較例の脆質性粘着ラベルについて、印刷状態を下記の基準に従い評価した。
【0206】
〇:均一なベタ塗り印刷ができた。
×(密着不良):印刷インキのフィルム基材への密着が不十分で、インキの剥がれが発生した。
×(ムラ):印刷インキのベタ塗りにムラが発生した。
【0207】
これらの結果を表2に示す。
【0208】
【0209】
2.7 透明度
実施例1-2~2-2の粘着シートについて、全光線透過率およびヘーズを求めた。
全光線透過率は、JIS K 7361-1:1997に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業社製、NDH5000)を用いて、剥離ライナーから剥がした上記粘着シートの全光線透過率を測定した。
ヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業社製、NDH5000)を用いて測定した。
その結果、実施例1-2~2-2の粘着シートの、全光線透過率はいずれも90%であり、ヘーズはいずれも38%であり、透明度が良好であった。
【0210】
以下、上記の実施例1-1と実施例1-2をまとめて、実施例1と表記する場合がある。その他の実施例及び比較例についても同様である。
表2に示されるように、実施例1~2と、比較例1~2との比較によれば、表面に印刷コート層を備えた実施例1~2の粘着シートは、脆質性、カス切れ、印刷適性の全ての項目で良好な結果が得られた。表面に印刷コート層を備えることで、印刷適性が良好となるのはもちろんのこと、おそらく、主にCDにおける引裂き強度が向上することで、カス切れが抑制されていると考えられる。一方、実施例1~2のフィルムのMDにおける引裂き強度は、比較例1~2のフィルムのそれとさほど変わらず、カス切れが抑制されつつも粘着シートの脆質性が保たれ、脆質性とカス切れの抑制とが両立されるものと考えられる。
【0211】
引張物性について、実施例1~2の粘着シートにおける引張破断伸度及び引張破断強度は、一般的な粘着シートにおける数値と比べて顕著に低いものであり、各値はそれぞれ、粘着シートの脆質性が発揮されるために重要と考えられる。
【0212】
また、比較例3では、MDとCDの両方で引裂き強度が高い値となっており、カス切れは抑制されるものの、脆質性が低下することがわかる。比較例4では、MDとCDの両方で引裂き強度が低い値となっており、脆質性は良好であるものの、CDの引裂き強度が小さいため、カス切れの発生が多くなる傾向となることがわかる。
【0213】
実施例1-1~比較例4-1の白色の粘着シートでは、白色着色剤として二酸化チタンを用いたことも、フィルム基材中に二酸化チタンの粉末が分散して、これら物性値を低下させ、脆質性の向上に寄与したものと考えられる。
一方、実施例1-2~比較例4-2の透明の粘着シートでは、白色着色剤を使用せず、透明度の高い粘着シートを得ることができた。その際、白色着色剤を使用しない代わりに、ポリスチレン樹脂としてHIPSとGPPSとの混合物を使用したことも、脆質性の向上に寄与したものと考えられる。
【0214】
本明細書において例示した数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0215】
1 ・・・脆質性粘着シート
10 ・・・フィルム基材
11 ・・・フィルム基材本体
16 ・・・印刷コート層
10’ ・・・試験片
101 ・・・端部
102 ・・・端部
12 ・・・粘着層
13 ・・・剥離ライナー
14 ・・・ラベル部
15 ・・・カス部
20A、20B ・・・つかみ具