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特許7386174HER2エクソン19変異を有するがん細胞に対する抗腫瘍活性を有する化合物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】HER2エクソン19変異を有するがん細胞に対する抗腫瘍活性を有する化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/517 20060101AFI20231116BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231116BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231116BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20231116BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20231116BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20231116BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20231116BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20231116BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
A61K31/517 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 105
C12N15/12
C12N15/54
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
C07K14/47
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020551912
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 US2019024353
(87)【国際公開番号】W WO2019191279
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】62/688,049
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/648,629
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ロビショー ジャクリーン
(72)【発明者】
【氏名】ヘイマッハ ジョン ブイ.
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516082(JP,A)
【文献】特表2014-513706(JP,A)
【文献】特表2010-529115(JP,A)
【文献】Int. J. Cancer,2012年,Vol.130,pp.2445-2454
【文献】Cancer Discovery,2013年,Vol.3, No.2,pp.224-237
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N 15/12
C12N 15/54
C12Q 1/6876
C12Q 1/6886
C12Q 1/6869
C12Q 1/686
C07K 14/47
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてがんを治療するための、有効量のポジオチニブを含む薬学的組成物であって、該対象が1つ以上のHER2エクソン19変異を有すると判定されている対象であ該1つ以上のHER2エクソン19変異が、HER2のアミノ酸668~769における、点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む、前記薬学的組成物。
【請求項2】
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、HER2点変異としてさらに定義される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記対象が、2つ、3つ、または4つのHER2エクソン19変異を有すると判定されている、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、R668、R678、V754、L755、I767、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある、請求項記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される、請求項1~のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記エクソン19変異が、L755PまたはR668Qである、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項7】
さらなる抗がん療法と組み合わせて使用される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項8】
ポジオチニブが、8mg、12mg、または16mgの用量で投与されることを特徴とする、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記がんが、口腔がん、中咽頭がん、上咽頭がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん、消化器がん、中枢もしくは末梢神経系組織のがん、内分泌もしくは神経内分泌がんまたは造血系のがん、神経膠腫、肉腫、がん腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳がん、中咽頭がん、上咽頭がん、腎臓がん、胆道がん、褐色細胞腫、膵島細胞がん、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺がん、副甲状腺がん、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌腫瘍I型およびII型、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、または皮膚がんである、請求項1~のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記がんが非小細胞肺がん(NSCLC)である、請求項1~のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記がんが結腸直腸がんである、請求項1~のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項12】
がんを有する患者におけるポジオチニブ単独または第2の抗がん療法との組み合わせに対する応答を予測することを補助する方法であって、該患者から得られたゲノム試料におけるHER2エクソン19変異を検出する工程を含み、該試料がHER2エクソン19変異の存在について陽性であることが、該患者がポジオチニブ単独または抗がん療法との組み合わせに対して好ましい応答を有することを示該HER2エクソン19変異が、HER2のアミノ酸668~769における、点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年3月27日に出願された米国仮特許出願第62/648,629号、および2018年6月21日に出願された米国仮特許出願第62/688,049号の恩典を主張するものであり、どちらも参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表の組み込み
「UTFC.P1354WOWO_ST25」という名称のファイル中に収容され、1.3 KB(Microsoft Windows(登録商標)により計算された場合)であり、2019年3月27日に作成された配列表が、本明細書と共に電子的に提出されており、参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
本発明は、National Institutes of Healthにより授与された認可番号CA190628の下、政府支援により行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0004】
1.分野
本発明は全体として、分子生物学および医学の分野に関する。より具体的には、本発明は、HER2エクソン19変異、例えば点変異を有する患者を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0005】
2.関連技術の説明
HER2は、非小細胞肺がん(NSCLC)の症例の2~3%で変異しており、アファチニブおよびダコミチニブを含むHER2に対して活性を有するチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、30%未満の客観的奏効率をもたらしている。NSCLCにおけるHER2変異の大部分はエクソン20内に生じるが、エクソン19内の点変異がNSCLCおよび乳がんなどの他のがんにおいて生じる。以前の研究によって、HER2のエクソン19における点変異は、多くの場合、HER2/薬物複合体をエネルギー的に悪化させるため、ラパチニブなどの現在承認されているチロシンキナーゼ阻害剤に対して耐性を有することが示されている。したがって、HERエクソン19変異を有するNSCLC腫瘍の自然薬物耐性を克服するための新規治療法を同定することには、重大な臨床的必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
概要
ある特定の実施形態において、本開示は、HER2エクソン19変異(例えばエクソン19点変異)を有する患者においてがんを治療するための方法および組成物を提供する。一実施形態では、有効量のポジオチニブを対象に投与する工程を含む、対象においてがんを治療する方法であって、該対象が、1つ以上のHER2エクソン19変異、例えば1つ以上のHER2エクソン19点変異を有すると判定されている、方法が提供される。特定の態様では、対象はヒトである。
【0007】
ある特定の態様では、1つ以上のHERエクソン19変異は、HER2のアミノ酸668~769(例えば、SEQ ID NO:1)における、1つ以上の点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む。いくつかの態様では、対象は、2つ、3つ、または4つのHER2エクソン19変異を有すると判定されている。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668、R678、V754、L755、I767、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668、R678、V754、L755、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、およびD769Yからなる群より選択される。
【0008】
いくつかの態様では、ポジオチニブはポジオチニブ塩酸塩としてさらに定義される。ある特定の態様では、ポジオチニブ塩酸塩は錠剤として製剤化される。
【0009】
いくつかの態様では、対象は、以前に投与されたチロシンキナーゼ阻害剤に対して耐性を有するか、またはそれに対する耐性を示している。ある特定の態様では、チロシンキナーゼ阻害剤は、ラパチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、オシメルチニブ、イブルチニブ、ナザルチニブ、またはネラチニブである。
【0010】
ある特定の態様では、ポジオチニブは経口投与される。いくつかの態様では、ポジオチニブは、5~25mg、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、2、23、24、または25mgの用量で投与される。ある特定の態様では、ポジオチニブは、8mg、12mg、または16mgの用量で投与される。いくつかの態様では、ポジオチニブは毎日投与される。ある特定の態様では、ポジオチニブは継続的に投与される。いくつかの態様では、ポジオチニブは28日サイクルで投与される。
【0011】
ある特定の態様では、対象は、患者由来のゲノム試料を分析することにより、HER2エクソン19変異、例えば点変異を有すると判定されている。いくつかの態様では、ゲノム試料は、唾液、血液、尿、正常組織、または腫瘍組織から単離される。特定の態様では、HERエクソン19変異の存在は、核酸配列決定(例えば、腫瘍組織または血漿由来循環フリーDNAのDNA配列決定)またはPCR分析によって判定される。
【0012】
ある特定の態様では、方法は、さらなる抗がん療法を施すことをさらに含む。いくつかの態様では、抗がん療法は、化学療法、放射線療法、遺伝子療法、手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、または免疫療法である。ある特定の態様では、ポジオチニブおよび/または抗がん療法は、静脈内、皮下、骨内、経口、経皮、持続型放出にて、制御型放出にて、遅延型放出にて、坐剤として、または舌下に、投与される。いくつかの態様では、ポジオチニブおよび/または抗がん療法の投与は、局所投与、局部投与、または全身投与を含む。特定の態様では、ポジオチニブおよび/または抗がん療法は、2回以上、例えば、毎日、1日おきに、または毎週、施される。
【0013】
いくつかの態様では、がんは、口腔がん、中咽頭がん、上咽頭がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん、消化器がん、中枢もしくは末梢神経系組織のがん、内分泌もしくは神経内分泌がんまたは造血系のがん、神経膠腫、肉腫、がん腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳がん、中咽頭がん、上咽頭がん、腎臓がん、胆道がん、褐色細胞腫、膵島細胞がん、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺がん、副甲状腺がん、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌腫瘍I型およびII型、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、または皮膚がんである。いくつかの態様では、がんは、肺がん、乳がん、膀胱がん、肛門がん、子宮内膜がん、卵巣がん、または非小細胞肺がん(NSCLC)である。特定の態様では、がんはNSCLCである。
【0014】
別の実施形態では、1つ以上のHER2エクソン19変異、例えば1つ以上のHER2エクソン19点変異を有すると判定された患者のための、ポジオチニブを含む薬学的組成物が提供される。ある特定の態様では、1つ以上のHERエクソン19変異は、アミノ酸668~769における、点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む。ある特定の態様では、対象は、2つ、3つ、または4つのHER2エクソン19変異を有すると判定されている。
【0015】
いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668、R678、V754、L755、I767、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある。特定の態様では、1つ以上のエクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される。いくつかの態様では、患者は抗がん療法によって治療されている。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668、R678、V754、L755、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、およびD769Yからなる群より選択される。
【0016】
さらに別の実施形態では、がんを有する対象におけるポジオチニブ単独または抗がん療法との組み合わせに対する応答性を予測する方法であって、患者から得られたゲノム試料においてHER2エクソン19変異(例えば、HER2エクソン19点変異)を検出する工程を含み、試料がHER2エクソン19変異の存在について陽性である場合に、患者はポジオチニブ単独または抗がん療法との組み合わせに対して好ましい応答性を有すると予測される、方法が提供される。いくつかの態様では、ゲノム試料は、唾液、血液、尿、正常組織、または腫瘍組織から単離される。ある特定の態様では、HER2エクソン19変異の存在は、核酸配列決定またはPCR分析によって判定される。ある特定の態様では、HER2エクソン19変異は、アミノ酸668~769における、1つ以上の点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む。いくつかの態様では、HER2エクソン19変異は、残基R668、R678、V754、L755、I767、およびD769にある。いくつかの態様では、EGFRエクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668、R678、V754、L755、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、およびD769Yからなる群より選択される。ある特定の態様では、ポジオチニブ阻害剤単独または抗がん療法との組み合わせに対する好ましい応答性は、腫瘍の大きさもしくは腫瘍量の減少、腫瘍成長の阻害、腫瘍関連疼痛の軽減、がん関連病態の軽減、がん関連症状の軽減、がんの非進行、無病期間の延長、進行までの期間の延長、寛解の誘導、転移の減少、または患者の生存性の向上を含む。さらなる態様では、好ましい応答性を有すると予測された患者は、ポジオチニブを単独でまたは第2の抗がん療法と組み合わせて投与される。
【0017】
別の実施形態では、変異HER2タンパク質をコードする単離された核酸であって、該変異タンパク質が、HER2のアミノ酸668~769の間または
における、点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む1つ以上のHER2エクソン19変異だけ野生型ヒトHER2と異なる、単離された核酸が提供される。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668、R678、V754、L755、I767、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある。ある特定の態様では、1つ以上のエクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668、R678、V754、L755、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、およびD769Yからなる群より選択される。いくつかの態様では、方法は、好ましい応答性を有すると予測される患者に、ポジオチニブを単独でまたは第2の抗がん療法と組み合わせて投与する工程をさらに含む。
【0018】
本明細書では、ヒトがん細胞から単離された核酸;およびヒトHER2コード配列の変異を有するエクソン19の少なくとも第1の部分を増幅することができるプライマー対を含む組成物もさらに提供される。
【0019】
いくつかの態様では、組成物は、配列中に変異が存在する場合に、ヒトHERコード配列のエクソン19の第1の部分に特異的にハイブリダイズすることができる標識されたプローブ分子をさらに含む。ある特定の態様では、組成物は熱安定性DNAポリメラーゼをさらに含む。ある特定の態様では、組成物はdNTPをさらに含む。特定の態様では、標識されたプローブは、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、およびD769Yからなる群より選択される変異が存在する場合に、ヒトHER2コード配列のエクソン19の第1の部分にハイブリダイズする。
【0020】
さらなる実施形態は、変異HER2タンパク質をコードする単離された核酸であって、該変異タンパク質が、アミノ酸668~769における、1つ以上の点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む1つ以上のHER2エクソン19変異だけ野生型ヒトHER2と異なる、単離された核酸を提供する。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、残基R668、R678、V754、L755、I767、および/またはD769にある。ある特定の態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668、R678、V754、L755、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある。いくつかの態様では、1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、およびD769Yからなる群より選択される。
【0021】
[本発明1001]
対象においてがんを治療する方法であって、有効量のポジオチニブを該対象に投与する工程を含み、該対象が1つ以上のHER2エクソン19変異を有すると判定されている、前記方法。
[本発明1002]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、HER2のアミノ酸668~769における、点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、HER2点変異としてさらに定義される、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記対象が、2つ、3つ、または4つのHER2エクソン19変異を有すると判定されている、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、R668、R678、V754、L755、I767、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある、本発明1002の方法。
[本発明1006]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記エクソン19変異がL755Pである、本発明1001の方法。
[本発明1008]
患者由来のゲノム試料を分析することにより、前記対象がHER2エクソン19変異を有すると判定されている、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記ゲノム試料が、唾液、血液、尿、正常組織、または腫瘍組織から単離される、本発明1009の方法。
[本発明1010]
HER2エクソン19変異の存在が、核酸配列決定またはPCR分析によって判定される、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1011]
さらなる抗がん療法を施す工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1012]
前記さらなる抗がん療法が、化学療法、放射線療法、遺伝子療法、手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、または免疫療法である、本発明1011の方法。
[本発明1013]
ポジオチニブおよび/または前記抗がん療法が、静脈内、皮下、骨内、経口、経皮、持続型放出にて、制御型放出にて、遅延型放出にて、坐剤として、または舌下に、投与される、本発明1011の方法。
[本発明1014]
ポジオチニブおよび/または前記抗がん療法の投与が、局所投与、局部投与、または全身投与を含む、本発明1011の方法。
[本発明1015]
ポジオチニブおよび/または前記抗がん療法が2回以上施される、本発明1011の方法。
[本発明1016]
ポジオチニブが経口投与される、本発明1001の方法。
[本発明1017]
ポジオチニブが5~25mgの用量で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1018]
ポジオチニブが、8mg、12mg、または16mgの用量で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1019]
ポジオチニブが毎日投与される、本発明1001の方法。
[本発明1020]
ポジオチニブが継続的に投与される、本発明1019の方法。
[本発明1021]
ポジオチニブが28日サイクルで投与される、本発明1019の方法。
[本発明1022]
前記がんが、口腔がん、中咽頭がん、上咽頭がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん、消化器がん、中枢もしくは末梢神経系組織のがん、内分泌もしくは神経内分泌がんまたは造血系のがん、神経膠腫、肉腫、がん腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳がん、中咽頭がん、上咽頭がん、腎臓がん、胆道がん、褐色細胞腫、膵島細胞がん、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺がん、副甲状腺がん、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌腫瘍I型およびII型、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、または皮膚がんである、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1023]
前記がんが非小細胞肺がん(NSCLC)である、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1024]
前記がんが結腸直腸がんである、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1025]
前記対象がヒトである、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1026]
1つ以上のHER2エクソン19変異を有すると判定された対象において使用するための、ポジオチニブを含む薬学的組成物。
[本発明1027]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、アミノ酸668~769における、点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む、本発明1026の組成物。
[本発明1028]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、HER2点変異としてさらに定義される、本発明1026の組成物。
[本発明1029]
前記対象が、2つ、3つ、または4つのHER2エクソン19変異を有すると判定されている、本発明1026の組成物。
[本発明1030]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、R668、R678、V754、L755、I767、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある、本発明1028の組成物。
[本発明1031]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される、本発明1026の組成物。
[本発明1032]
前記対象が抗がん療法によって治療されている、本発明1026の組成物。
[本発明1033]
がんを有する対象におけるポジオチニブ単独または第2の抗がん療法との組み合わせに対する応答性を予測する方法であって、患者から得られたゲノム試料におけるHER2エクソン19変異を検出する工程を含み、該試料がHER2エクソン19変異の存在について陽性である場合に、該患者がポジオチニブ単独または抗がん療法との組み合わせに対して好ましい応答性を有すると予測される、前記方法。
[本発明1034]
前記HER2エクソン19変異が、HER2エクソン19点変異としてさらに定義される、本発明1033の方法。
[本発明1035]
前記ゲノム試料が、唾液、血液、尿、正常組織、または腫瘍組織から単離される、本発明1033の方法。
[本発明1036]
前記HER2エクソン19変異の存在が、核酸配列決定またはPCR分析によって判定される、本発明1033の方法。
[本発明1037]
前記HER2エクソン19変異が、アミノ酸668~769における、点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む、本発明1036の方法。
[本発明1038]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、R668、R678、V754、L755、I767、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基にある、本発明1037の方法。
[本発明1039]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される、本発明1033~1038のいずれかの方法。
[本発明1040]
ポジオチニブ単独または抗がん療法との組み合わせに対する好ましい応答性が、腫瘍の大きさもしくは腫瘍量の減少、腫瘍成長の阻害、腫瘍関連疼痛の軽減、がん関連病態の軽減、がん関連症状の軽減、がんの非進行、無病期間の延長、進行までの期間の延長、寛解の誘導、転移の減少、または患者の生存性の向上を含む、本発明1033の方法。
[本発明1041]
好ましい応答性を有すると予測された前記患者に、ポジオチニブを単独でまたは第2の抗がん療法と組み合わせて投与する工程をさらに含む、本発明1033~1041のいずれかの方法。
[本発明1042]
(a)ヒトがん細胞から単離された核酸;および
(b)ヒトHER2コード配列の変異を有するエクソン19の少なくとも第1の部分を増幅できるプライマー対
を含む、組成物。
[本発明1043]
前記配列中に変異が存在する場合に、前記ヒトHERコード配列のエクソン19の第1の部分に特異的にハイブリダイズすることができる、標識されたプローブ分子をさらに含む、本発明1042の組成物。
[本発明1044]
熱安定性DNAポリメラーゼをさらに含む、本発明1042の組成物。
[本発明1045]
dNTPをさらに含む、本発明1042の組成物。
[本発明1046]
R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される変異が存在する場合に、前記標識されたプローブが、前記ヒトHER2コード配列のエクソン19の第1の部分にハイブリダイズする、本発明1043~1045のいずれかの組成物。
[本発明1047]
変異HER2タンパク質をコードする単離された核酸であって、該変異タンパク質が、アミノ酸668~769における、1つ以上の点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失を含む1つ以上のHER2エクソン19変異だけ、野生型ヒトHER2と異なる、前記単離された核酸。
[本発明1048]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、残基R668、R678、V754、L755、I767、および/またはD769にある、本発明1047の単離された核酸。
[本発明1049]
前記1つ以上のHER2エクソン19変異が、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、およびD769Yからなる群より選択される、本発明1047または1048の単離された核酸。
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるだろう。しかしながら、本明細書の詳細な説明から、本発明の精神および範囲の範囲内でのさまざまな変更および修飾が当業者には明らかとなることから、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものではあるが、例示のみを目的としていることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付の図面は、本明細書の一部を形成するものであり、本発明のある特定の態様をさらに実証するために含まれる。本発明は、本明細書において提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の1つまたは複数を参照することによって、よりよく理解され得る。
【0023】
図1A図1A~1B:空ベクターまたはHER2 L755Pを安定的に発現するBa/F3細胞株のIL-3非依存的な増殖は、L755Pが活性化HER2変異であることを示す。Cell Titer Gloアッセイによって細胞生存率を測定した。各細胞株について平均値±SEMをプロットしている(n=3)。表示されている阻害剤で処理したHER2 L755P Ba/F3細胞の用量反応曲線は、ポジオチニブによる細胞生存能の阻害を示す。Cell Titer Glowアッセイによって経時的に細胞生存率を測定し(図1A)、GraphPad PrismによってIC50推定値を計算した(図1B)。各用量について平均値±SEMをプロットしている、n=2。
図1B図1Aの説明を参照。
図2】HER2における変異を図示する概略図。
図3-1】ポジオチニブまたは表示されているTKIで72時間処理したHER2変異Ba/F3細胞株の細胞生存率の用量反応曲線。
図3-2】図3-1の続きを示す。
図4】IL-3不含条件下で14日間増殖させた、HER2エクソン19変異体の安定発現Ba/F3細胞株の細胞生存率。Cell Titer Gloアッセイによって3日毎に細胞生存率を測定した。各細胞株について平均値±SEMをプロットしている(n=3、生物学的に独立した実験)。
図5A】薬物処理の72時間後における、表示されている変異体を安定的に発現するBa/F3細胞のlog IC50値のヒートマップ。Cell Titer Gloアッセイによって細胞生存率を測定した(N≧3)。
図5B】72時間の薬物処理後のHER2エクソン19変異細胞株の平均IC50。バーは平均値±SEMを表す(N≧3)。
図5C】表示されている阻害剤による、L755SまたはL755Pを発現するBa/F3細胞の平均IC50値。ドットは平均値±SEMを表す(N≧3)。対応のあるt検定によって統計的有意差を判定した。
図5D-1】パネルAヒートマップに表される各薬物および変異についてのIC50値の表。
図5D-2】図5D-1の続きを示す。
図6A】表示されている阻害剤で72時間処理したCW-2細胞の用量反応曲線。
図6B】表示されている阻害剤で処理したCW-2細胞(HER2 L755S)異種移植片の腫瘍成長曲線。二元配置ANOVAを用いて、統計的有意差を判定した。アスタリスクは、ビヒクルとポジオチニブまたはネラチニブとの間の有意差を示す。
図6C】21日目のCW-2腫瘍体積の棒グラフ。ドットは個々の腫瘍を表し、バーは平均値±SEMを表す。点線は350mmでの無作為化を示す。統計的有意差は一元配置ANOVAによって判定した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
例示的な実施形態の説明
HER2変異非小細胞肺がん(NSCLC)の活性化変異の大多数は、利用可能なEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に対して感受性を有するが、HER2のエクソン19に変化を有するサブセットは耐性を有する。本研究は、インシリコ、インビトロ、およびインビボ試験を利用して、これらのエクソン19変異により誘導される構造変化をモデル化して、効果的な阻害剤を同定した。ポジオチニブは、その小さなサイズおよび柔軟性により、これらの立体変化を回避することができ、HER2エクソン19変異タンパク質の強力かつ相対的に選択的な阻害剤であることが見出された。したがって、これらのデータは、HER2エクソン19変異の強力で臨床的に活性のある阻害剤としてポジオチニブを同定し、これらの変異により誘導された立体変化を回避し得るキナーゼ阻害剤の分子的特徴を解明する。
【0025】
したがって、本開示のある特定の実施形態は、HER2エクソン19変異、例えばHER2エクソン19点変異を有するがん患者を治療するための方法を提供する。具体的には、本方法は、HERエクソン19点変異を有すると同定された患者へのポジオチニブ(HM781-36Bとしても知られている)の投与を含む。ポジオチニブの大きさおよび柔軟性は、立体障害を克服し、低いナノモル濃度でHER2エクソン19変異体を阻害する。したがって、ポジオチニブならびに構造的に類似する阻害剤は、第2世代および第3世代の不可逆的なTKIに耐性を有するHER2エクソン19変異を標的とするために使用することのできる、強力なHER2阻害剤である。
【0026】
I.定義
本明細書において用いられるとき、「a」または「an」は、1つまたは複数を含み得る。本明細書の請求項において用いられるとき、「含む」という語と併せて使用されるとき、「a」または「an」という語は、1つまたは複数を意味し得る。
【0027】
本開示は代替物のみならびに「および/または」を指す定義を支持しているが、代替物のみを指すかまたは代替物が相互に排他的であると明確に示されていない限り、特許請求の範囲における用語「または」の使用は「および/または」を意味するために使用される。本明細書において用いられるとき、「別の」は、少なくとも第2のもの、またはそれ以上のものを意味し得る。用語「約」、「実質的に」、および「およそ」は、概して、示された値±5%を意味する。
【0028】
「治療」または「治療する」は、(1)疾患の病態もしくは総体症状を経験するもしくは示す対象もしくは患者において疾患を阻害すること(例えば、病態および/または総体症状のさらなる進行を阻止すること)、(2)疾患の病態もしくは総体症状を経験するもしくは示す対象もしくは患者において疾患を改善すること(例えば、病態および/または総体症状を後退させること)、および/または(3)疾患の病態もしくは総体症状を経験するもしくは示す対象もしくは患者において任意の測定可能な疾患の減少に作用すること、を含む。例えば、治療は、有効量のポジオチニブの投与を含み得る。
【0029】
「予防」または「予防する」は、(1)疾患の危険性を有し、かつ/または疾患に罹りやすい可能性があるが、まだ疾患の病態もしくは総体症状のいずれかもしくは全てを経験も示してもいない対象もしくは患者において疾患の開始を阻害すること、および/または(2)疾患の危険性を有するか、および/または疾患に罹りやすい可能性があるが、まだ疾患の病態もしくは総体症状のいずれかもしくは全てを経験も示してもいない対象もしくは患者において、疾患の病態もしくは総体症状の開始を遅らせること、を含む。
【0030】
本明細書において用いられるとき、用語「患者」または「対象」は、生存している哺乳類生物、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、またはそれらの遺伝子組み換え種を指す。特定の実施形態では、患者または対象は、霊長類である。ヒト患者の非限定的な例は、成人、未成年、幼児、および胎児である。
【0031】
用語「有効な」は、この用語が本明細書および/または請求項で使用されるとき、所望の、期待された、または意図された結果を達成するために十分であることを意味する。化合物を用いて患者もしくは対象を治療するという文脈において使用されるとき、「有効量」、「治療有効量」、または「薬学的有効量」は、化合物の量が、疾患を治療もしくは予防するために対象もしくは患者に投与されたときに、疾患のかかる治療もしくは予防に作用するのに十分な量であることを意味する。
【0032】
本明細書において用いられるとき、用語「IC50」は、得られた最大応答の50%である、阻害的用量を指す。この定量的測定は、特定の生物学的、生化学的、もしくは化学的プロセス(またはプロセスの構成要素、すなわち、酵素、細胞、細胞受容体、もしくは微生物)を半分阻害するのにどの程度の量の特定の薬物、または他の物質(阻害剤)が必要であるかを示す。
【0033】
「抗がん」剤は、例えば、がん細胞の殺傷を促進し、がん細胞のアポトーシスを誘導し、がん細胞の増殖速度を低減し、転移の発生率もしくは数を低減し、腫瘍の大きさを縮小し、腫瘍の成長を阻害し、腫瘍もしくはがん細胞への血液供給を削減し、がん細胞もしくは腫瘍に対する免疫応答を促進し、がんの進行を予防もしくは阻害し、またはがんを有する対象の生存期間を延長することにより、対象におけるがん細胞/腫瘍に負の影響を与えることができる。
【0034】
用語「挿入」または「挿入変異」は、1つ以上のヌクレオチド塩基対のDNA配列中への付加を指す。例えば、HER2のエクソン19の挿入変異は、アミノ酸668と769の間に、約2~21塩基対で存在し得る。
【0035】
「ハイブリダイズする」または「ハイブリダイゼーション」は、核酸同士の結合を指す。ハイブリダイゼーションの条件は、結合する核酸の配列相同性に応じて様々であり得る。よって、対象とする核酸の間の配列相同性が高い場合、ストリンジェントな条件が用いられる。配列相同性が低い場合、中程度の条件が用いられる。ハイブリダイゼーション条件がストリンジェントである場合、ハイブリダイゼーション特異性は増大し、ハイブリダイゼーション特異性のこの増大は、非特異的ハイブリダイゼーション産物の産生を減少させる。しかしながら、中程度のハイブリダイゼーション条件下では、ハイブリダイゼーション特異性は低下し、ハイブリダイゼーション特異性のこの低下は、非特異的ハイブリダイゼーション産物の産生を増大させる。
【0036】
「プローブ」は、少なくとも8個のヌクレオチドの長さを有し、かつプローブ中の少なくとも1つの配列と標的領域中の配列との相補性のために標的配列と共にハイブリッド構造を形成する、ポリヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチドは、DNAおよび/またはRNAで構成され得る。プローブは、ある特定の実施形態では、検出可能に標識される。プローブの大きさは有意に異なり得る。一般的に、プローブの長さは、例えば、少なくとも8~15個のヌクレオチドの長さである。他のプローブの長さは、例えば、少なくとも20、30、または40ヌクレオチド長である。さらなる他のプローブの長さは、幾分かより長く、少なくとも、例えば、50、60、70、80、または90ヌクレオチド長である。プローブはまた、前記範囲の範囲内にある任意の特定の長さのものであり得る。好ましくは、プローブは、ポリメラーゼ連鎖反応中に標的配列をプライミングするために用いられる配列に相補的な配列を含まない。
【0037】
「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」は、非修飾RNAもしくはDNAまたは修飾RNAもしくはDNAであり得る、一本鎖または二本鎖デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのポリマーを指す。
【0038】
「修飾リボヌクレオチド」またはデオキシリボヌクレオチドは、核酸において天然塩基の代わりに使用することができる分子を指し、これらに限定されないが、修飾プリンおよびピリミジン、微量塩基、コンバーチブルヌクレオシド、プリンおよびピリミジンの構造的アナログ、標識された、誘導体化された、および修飾されたヌクレオシドおよびヌクレオチド、コンジュゲートされたヌクレオシドおよびヌクレオチド、配列修飾因子、末端修飾因子、スペーサー修飾因子、ならびに骨格修飾されたヌクレオチドを含み、これらに限定されないが、リボース修飾ヌクレオチド、ホスフォラミダート、ホスホロチオエート、ホスフォナミジト、メチルホスフォナート、メチルホスフォラミジト、メチルホスフォナミジト、5′-β-シアノエチルホスフォラミジト、メチレンホスフォナート、ホスフォロジチオエート、ペプチド核酸、光学不活性および中性ヌクレオチド間結合を含む。
【0039】
「バリアント」は、それぞれ、1つ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸の交換、欠失、または挿入によって、野生型または個々の集団において最も多くみられる形態と比較して異なる、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。交換、欠失、または挿入されるヌクレオチドまたはアミノ酸の数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個、またはそれより多い、例えば、25、30、35、40、45、または50個であり得る。
【0040】
「プライマー」または「プライマー配列」は、核酸合成反応をプライミングするために標的核酸配列(例えば、増幅されるべきDNA鋳型)にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、DNAオリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチド、またはキメラ配列であり得る。プライマーは、天然、合成、または修飾ヌクレオチドを含み得る。プライマーの長さの上限および下限はいずれも経験的に決定される。プライマーの長さの下限は、核酸増幅反応条件下での標的核酸とのハイブリダイゼーション時に安定な二本鎖を形成するのに必要とされる最低限の長さである。非常に短いプライマー(通常、3~4未満のヌクレオチド長)は、そのようなハイブリダイゼーション条件下で標的核酸と熱力学的に安定な二本鎖を形成しない。上限は、多くの場合、標的核酸中の予め決定された核酸配列以外の領域において二本鎖形成を有する可能性により決定される。一般的に、適切なプライマーの長さは、約10~約40ヌクレオチド長の範囲内である。ある特定の実施形態では、例えば、プライマーは、10~40、15~30、または10~20ヌクレオチド長であり得る。プライマーは、適切な条件下に置かれたときに、ポリヌクレオチド配列上の合成開始点として作用することができる。
【0041】
「検出」、「検出可能な」、およびそれらの文法的等価物は、標的核酸配列の存在、および/または量、および/または相同性を決定する方法を指す。いくつかの実施形態では、検出は、標的核酸配列の増幅を生じる。他の実施形態では、標的核酸の配列決定は、標的核酸を「検出する」ことを特徴とすることができる。プローブに結合した標識は、例えば、化学的もしくは物理的手段により検出可能である、当技術分野において周知である多種多様な標識の任意のものを含み得る。プローブに結合させることが可能である標識は、例えば、蛍光および発光材料を含む。
【0042】
「増幅する」、「増幅」、およびそれらの文法的等価物は、直線的もしくは指数関数的のいずれかで核酸配列を増幅するための広範な技法を含むがこれらに限定されない、鋳型依存的な様式で標的核酸配列の少なくとも一部を複製する任意の方法を指す。増幅工程を実施するための例示的な手段は、リガーゼ連鎖反応(LCR)、リガーゼ検出反応(LDR)、Q-レプリカーゼ増幅が後に続くライゲーション、PCR、プライマー伸長、鎖置換増幅(SDA)、ハイパーブランチ鎖置換増幅、複数置換増幅(MDA)、核酸鎖に基づく増幅(NASBA)、2工程多重増幅、ローリングサークル増幅(RCA)、リコンビナーゼ-ポリメラーゼ増幅(RPA)(TwistDx、Cambridg、UK)、および自立配列複製(3SR)、ならびにそれらの多重バージョンまたは組み合わせ、例えば、OLA/PCR、PCR/OLA、LDR/PCR、PCR/PCR/LDR、PCR/LDR、LCR/PCR、PCR/LCR(複合連鎖反応-CCRとしても知られる)を含むがこれらに限定されないもの、などを含む。かかる技法の説明は、他の場所、Sambrookら、Molecular Cloning、3rd Edition)において見出され得る。
【0043】
一般的に本明細書にて使用されるとき、「薬学的に許容される」は、合理的な利益/リスクの比率を伴い、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴うことのない、健全な医学的判断の範疇において、ヒトおよび動物の組織、器官、および/または体液と接触させて使用するのに好適な化合物、材料、組成物、および/または投薬形態を指す。
【0044】
「薬学的に許容される塩」は、上記のような薬学的に許容され、所望の薬理活性を有する、本発明の化合物の塩を意味する。かかる塩の非限定的な例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、およびリン酸などの無機酸を用いて形成された酸付加塩;または1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、3-フェニルプロピオン酸、4,4′-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、酢酸、脂肪族モノ-およびジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファ-スルホン酸、炭酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、フェニル-置換アルカン酸、プロピオン酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、第3級ブチル酢酸、およびトリメチル酢酸などの有機酸を用いて形成された酸付加塩を含む。薬学的に許容される塩は、存在する酸性プロトンが無機または有機塩基と反応可能である場合に形成され得る塩基付加塩も含む。許容される無機塩基は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム、および水酸化カルシウムを含む。許容される有機塩基の非限定的な例は、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、およびN-メチルグルカミンを含む。本発明の任意の塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、その塩が全体として薬理学的に許容される限りは、危険ではない、ということが認識されるべきである。薬学的に許容される塩ならびにそれらの調製および使用方法のさらなる例は、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,and Use(P.H.Stahl&C.G.Wermuth eds.、Verlag Helvetica Chimica Acta、2002)において提供される。
【0045】
II.HER2エクソン19変異
本開示の特定の実施形態は、対象が、1つ以上のHER2エクソン19変異、例えば、点変異、特に図2に示されている1つ以上の変異を有するかどうかを判定することに関する。対象は、2つ、3つ、4つ、またはそれより多くのHER2エクソン19変異を有していてもよい。変異検出方法は、当技術分野において公知であり、PCR分析および核酸配列決定、ならびにFISHおよびCGHを含む。特定の態様では、エクソン19変異は、例えば、腫瘍または血漿由来循環フリーDNAなどからのDNA配列決定により検出される。
【0046】
HER2エクソン19変異には、アミノ酸668~769の間における、1つ以上の点変異、挿入、および/または1~18個のヌクレオチドの欠失が含まれ得る。1つ以上のHER2エクソン19変異は、R668、R678、V754、L755、I767、およびD769からなる群より選択される1つ以上の残基に位置することができる。HER2エクソン19変異には、R668Q、R678Q、V754M、L755P、L755S、L755W、D769H、D769N、I767M、および/またはD769Yが含まれ得る。
【0047】
患者試料は、対象における肺がんに由来する核酸を含む、任意の体の組織または液体であり得る。特定の実施形態では、試料は、循環腫瘍細胞または細胞フリーDNAを含む血液試料である。他の実施形態では、試料は、組織、例えば、肺組織であり得る。肺組織は、腫瘍組織に由来することができ、新鮮凍結、またはホルマリン固定、パラフィン包埋(FFPE)されてもよい。特定の実施形態では、肺腫瘍FFPE試料が得られる。
【0048】
本明細書において記載される方法における使用に好適な試料には、遺伝子材料、例えば、ゲノムDNA(gDNA)が含まれる。ゲノムDNAは典型的に、血液、または口腔粘膜の粘膜スクレーピングなどの生物試料から抽出されるが、尿、腫瘍、もしくは去痰薬を含む他の生物試料から抽出することもできる。試料それ自体は、典型的に、正常または腫瘍組織を含む、対象から取り出された有核細胞(例えば、血液もしくは頬側細胞)または組織を含む。試料を入手し、処理し、分析するための方法および試薬は、当技術分野において周知である。いくつかの実施形態では、試料は、医療機関の協力の下、例えば血液を採取することにより、得られる。いくつかの実施形態では、試料は、医療機関の協力を伴わずに得られ、例えば、試料は、頬側綿棒もしくはブラシを用いて得られる頬側細胞を含む試料、または口腔洗浄液試料のように、非侵襲的に得られる。
【0049】
いくつかの場合において、生物試料は、DNA単離のために処理することができる。例えば、細胞または組織試料中のDNAは、試料の他の成分から分離することができる。細胞は、当技術分野において周知の技術を用いて、生物試料から回収することができる。例えば、細胞は、細胞試料を遠心分離し、ペレット化した細胞を再懸濁することにより、回収することができる。細胞は、リン酸緩衝食塩水(PBS)などの緩衝液中に再懸濁することができる。細胞懸濁液を遠心分離して、細胞ペレットを得た後、細胞を溶解して、DNA、例えば、gDNAを抽出することができる。例えば、Ausubelら(2003)を参照されたい。試料を濃縮および/または精製して、DNAを単離することができる。あらゆる種類のさらなる処理に供されるものを含む、対象から得られた全ての試料は、対象から得られたものと考えられる。例えば、フェノール抽出を含む、慣例的な方法を用いて、生物試料からゲノムDNAを抽出することができる。あるいは、ゲノムDNAは、QIAamp(登録商標)組織キット(Qiagen、Chatsworth、Calif.)、およびWizard(登録商標)ゲノムDNA精製キット(Promega)などのキットを用いて抽出することができる。試料の源の非限定的な例は、尿、血液、および組織を含む。
【0050】
本明細書に記載されるようなHER2エクソン19変異(例えばエクソン19点変異)の存在または不在は、当技術分野において周知の方法を用いて決定することができる。例えば、ゲル電気泳動、キャピラリ電気泳動、サイズ排除クロマトグラフィ、配列決定、および/またはアレイを用いて、変異の存在または不在を検出することができる。望ましい場合には、核酸の増幅は、当技術分野において周知の方法、例えば、PCRを用いて成し遂げることができる。一例において、試料(例えば、ゲノムDNAを含む試料)は、対象から得られる。次いで、試料中のDNAを試験して、本明細書に記載されるような変異の特性を決定する。変異は、本明細書に記載される任意の方法により、例えば、配列決定により、またはゲノムDNA、RNA、もしくはcDNA中の遺伝子の核酸プローブ、例えば、DNAプローブ(cDNAおよびオリゴヌクレオチドプローブを含む)もしくはRNAプローブに対するハイブリダイゼーションにより、検出することができる。核酸プローブは、特定の変異体と特異的または優先的にハイブリダイズするように設計することができる。
【0051】
プローブのセットは、典型的に、本開示の実施可能な推奨治療において用いられる標的遺伝子変異(例えば、HER2エクソン19変異)を検出するために用いられる、プライマーのセット(通常は、プライマー対)および/または検出可能に標識されたプローブを指す。プライマー対は、前記遺伝子のそれぞれについての標的遺伝子変異についての領域にわたるアンプリコンを定義するために、増幅反応において用いられる。アンプリコンのセットは、マッチしたプローブのセットにより検出される。例示的な実施形態では、本方法は、標的遺伝子変異のセット(例えば、HER2エクソン19変異)を検出するために、TaqMan(商標)(Roche Molecular Systems、Pleasanton、Calif.)アッセイを使用することができる。一実施形態では、プローブのセットは、次世代配列決定反応などの核酸配列決定反応により検出されるアンプリコンを産生するために用いられるプライマーのセットである。これらの実施形態では、例えば、AmpliSEQ(商標)(Life Technologies/Ion Torrent、Carlsbad、Calif.)またはTruSEQ(商標)(Illumina、San Diego、Calif.)技術を利用することができる。
【0052】
核酸マーカーの分析は、配列分析および電気泳動分析を含むがこれらに限定されない、当技術分野において周知の技術を用いて実施することができる。配列分析の非限定的な例は、Maxam-Gilbert配列決定、Sanger配列決定、キャピラリアレイDNA配列決定、サーマルサイクル配列決定(Searsら、1992)、固相配列決定(Zimmermanら、1992)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF/MS;Fuら、1998)などの質量分析を伴う配列決定、ならびにハイブリダイゼーションによる配列決定(Cheeら、1996;Drmanacら、1993;Drmanacら、1998)を含む。電気泳動分析の非限定的な例は、スラブゲル電気泳動、例えば、アガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリ電気泳動、および変性勾配ゲル電気泳動を含む。さらに、次世代配列決定法は、the Life Technologies/Ion Torrent PGMまたはProton、the Illumina HiSEQまたはMiSEQ、およびthe Roche/454次世代配列決定システムなどの会社から商業的に入手可能なキットおよび装置を用いて実施することができる。
【0053】
核酸分析の他の方法は、直接手動配列決定(ChurchおよびGilbert、1988;Sangerら、1977;米国特許第5,288,644号);自動化蛍光配列決定;一本鎖形態多型アッセイ(SSCP)(Schaferら、1995);クランプ変性ゲル電気泳動(CDGE);二次元ゲル電気泳動(2DGEもしくはTDGE);形態感受性ゲル電気泳動(CSGE);変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)(Sheffieldら、1989);変性高速液体クロマトグラフィ(DHPLC、Underhillら、1997)赤外線マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(IR-MALDI)質量分析(WO99/57318);移動度シフト分析(Oritaら、1989);制限酵素分析(Flavellら、1978;Geeverら、1981);定量的リアルタイムPCR(Racaら、2004);ヘテロ二本鎖分析;化学的ミスマッチ分解(CMC)(Cottonら、1985);RNase保護アッセイ(Myersら、1985);ヌクレオチドミスマッチを認識するポリペプチド、例えば、E.coli mutSタンパク質の使用;アレル特異的PCR、ならびにかかる方法の組み合わせを含み得る。例えば、米国特許公開第2004/0014095を参照されたい。この特許は、参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。
【0054】
一例において、試料におけるHER2変異を同定する方法は、かかる試料に由来する核酸を、変異したHER2タンパク質をコードする核酸、または変異を含むその断片に特異的にハイブリダイズすることができる核酸プローブと接触させること、およびそのハイブリダイゼーションを検出すること、を含む。特定の一実施形態では、かかるプローブは、例えば、放射性同位体(H、32P、もしくは33P)、蛍光剤(ローダミン、もしくはフルオレセイン)、または発色剤を用いて、検出可能に標識される。特定の一実施形態では、プローブは、アンチセンスオリゴマー、例えば、PNA、モルフォリノ-ホスフォラミダート、LNA、または2′-アルコキシアルコキシである。プローブは、約8個のヌクレオチド~約100個のヌクレオチド、または約10~約75個、または約15~約50個、または約20~約30個であり得る。別の態様では、本開示のかかるプローブは、試料におけるHER2変異を同定するためのキット中で提供され、かかるキットは、HER2遺伝子における変異部位に特異的にハイブリダイズするか、またはそれらに隣接するオリゴヌクレオチドを含む。キットはさらに、キットを用いるハイブリダイゼーション試験の結果に基づいてポジオチニブを用いてHER2エクソン19変異を含む腫瘍を有する患者を治療するための指示を含む。
【0055】
別の態様では、試料におけるHER2エクソン19変異を検出するための方法は、かかるHER2遺伝子のエクソン19に対応するかかる核酸試料または変異を含むと考えられるその断片を増幅すること、および増幅した核酸の電気泳動移動度を、対応する野生型HER2遺伝子またはその断片の電気泳動移動度と比較すること、を含む。移動度における差異は、増幅した核酸配列における変異の存在を示す。電気泳動の移動度は、ポリアクリルアミドゲル上で測定できる。
【0056】
あるいは、核酸は、酵素的変異検出(EMD)(Del Titoら、1998)を用いて変異の検出について分析することができる。EMDは、点変異、挿入、および欠失に起因する塩基対ミスマッチにより引き起こされる構造ひずみを検出および分解するまで、二本鎖DNAに沿ってスキャンする、バクテリオファージリゾルバーゼTエンドヌクレアーゼVIIを使用する。リゾルバーゼ分解により、例えば、ゲル電気泳動により形成される2つの短い断片の検出は、変異の存在を示す。EMD方法の利点は、PCR反応から直接アッセイされ、試料精製の必要性を排除し、ハイブリダイゼーション時間を短縮し、シグナル対ノイズ比を増大させる、点変異、欠失、および挿入を同定するための単一のプロトコルである。通常のDNAの最大20倍の発現と最大4kbの大きさの断片とを含む混合した試料をアッセイすることができる。しかし、EMDスキャニングは、変異陽性試料中に生じる特定の塩基変化を同定せず、必要な場合には、変異を同定するためにさらなる配列決定手順が必要となる。米国特許第5,869,245号において実証されているように、CEL I酵素をリゾルバーゼTエンドヌクレアーゼVIIと同様に使用することができる。
【0057】
III.治療方法
本明細書では、個体におけるがんの進行を治療するまたは遅延させるための方法であって、有効量のポジオチニブまたは構造的に同様の阻害剤を、その個体、HER2エクソン19変異(例えば、エクソン19点変異)を有すると判定された対象に投与することを含む方法がさらに提供される。対象は、1つ以上のHERエクソン19変異を有し得る。
【0058】
治療のために企図されるがんの例には、肺がん、頭頸部がん、乳がん、膵臓がん、前立腺がん、腎臓がん、骨がん、精巣がん、子宮頸がん、消化器がん、リンパ腫、肺の前腫瘍性病変、結腸がん、黒色腫、および膀胱がんが含まれる。特定の態様では、がんは、非小細胞肺がんである。
【0059】
いくつかの実施形態では、対象は、哺乳類、例えば、霊長類、好ましくは、高等霊長類、例えば、ヒト(例えば、本明細書に記載された障害を有するか、またはそれらの障害を有する危険性のある患者)である。一実施形態では、対象は、免疫応答を強化する必要がある。特定の実施形態では、対象は、易感染性であるか、その危険性がある。例えば、対象は、化学療法的治療および/または放射線療法を受けているか、または受けたことがある。あるいは、または組み合わせて、対象は、感染の結果として、易感染性であるか、またはその危険性がある。
【0060】
ある特定の実施形態は、HER2エクソン19変異(例えば、エクソン19点変異)を有すると判定された対象へのポジオチニブ(HM781-36B、HM781-36、および1-[4-[4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロアニリノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イル]オキシピぺリジン-1-イル]プロップ-2-エン-1-オンとしても知られている)の投与に関する。ポジオチニブは、HER1、HER2、およびHER4を含むチロシンキナーゼ受容体のHERファミリーを介するシグナル伝達を不可逆的に阻害する、キナゾリン系pan-HER阻害剤である。ポジオチニブまたは構造的に類似する化合物(例えば、米国特許第8,188,102号および米国特許公開第2013/0071452号;参照により本明細書に組み入れられる)が、本発明の方法において用いられてもよい。
【0061】
A.薬学的組成物
本明細書では、HER2エクソン19変異(例えば、エクソン19点変異)を有すると判定された対象のための、ポジオチニブと薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物および製剤も提供される。
【0062】
本明細書に記載される薬学的組成物および製剤は、所望の程度の純度を有する活性成分(例えば、抗体またはポリペプチド)を、凍結乾燥製剤または水溶液の形態の1つ以上の任意の薬学的に許容される担体(Remington’s Pharmaceutical Sciences 22nd edition、2012)と混合することにより、調製することができる。薬学的に許容される担体は、一般的に、使用される用量および濃度において受容者に対して非毒性であり、緩衝液、例えば、ホスフェート、シトレート、および他の有機酸;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤、例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルもしくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む、単糖類、二糖類、および他の炭水化物;キレート化剤、例えば、EDTA;糖類、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、亜鉛-タンパク質錯体);および/または非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)を含むが、これらに限定されない。本明細書では、例示的な薬学的に許容される担体は、介在性(insterstitial)薬剤分散剤、例えば、可溶性中性-活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International、Inc.)をさらに含む。rHuPH20を含む、ある例示的なsHASEGPおよび使用方法は、米国特許公開第2005/0260186号および第2006/0104968号に記載されている。一態様では、sHASEGPは、1つ以上のさらなるグルコサミノグリカナーゼ、例えば、コンドロイチナーゼと組み合わされる。
【0063】
B.併用療法
特定の実施形態では、本実施形態の組成物および方法は、少なくとも1つのさらなる治療法と組み合わせたポジオチニブを含む。さらなる治療法は、放射線療法、手術(例えば、乳腺腫瘍摘出術および乳房切除術)、化学療法、遺伝子療法、DNA療法、ウイルス療法、RNA療法、免疫療法、骨髄移植、ナノセラピー、モノクローナル抗体療法、または前記の組み合わせであり得る。さらなる治療法は、アジュバントまたはネオアジュバント療法の形態であり得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、さらなる治療法は、小分子酵素阻害剤または転移抑制剤の投与である。いくつかの実施形態では、さらなる治療法は、副作用を減じた薬剤(例えば、治療の副作用の発生および/または重篤度を減少させることを意図した薬剤、例えば、制吐剤など)の投与である。いくつかの実施形態では、さらなる治療法は、放射線療法である。いくつかの実施形態では、さらなる治療法は、手術である。いくつかの実施形態では、さらなる治療法は、放射線療法と手術との組み合わせである。いくつかの実施形態では、さらなる治療法は、ガンマ照射である。いくつかの実施形態では、さらなる治療法は、PBK/AKT/mTOR経路を標的とする治療法、HSP90阻害剤、チューブリン阻害剤、アポトーシス阻害剤、および/または化学予防剤である。さらなる治療法は、当技術分野において周知の1つ以上の化学療法剤であり得る。
【0065】
ポジオチニブは、免疫チェックポイント療法などのさらなるがん治療法の前、その間、その後、またはそれらと種々に組み合わせて、投与され得る。投与は、同時投与から、数分間隔、数日間隔、数週間隔までの範囲であり得る。ポジオチニブがさらなる治療剤とは別々に患者に提供される実施形態では、2つの化合物が患者に対してなお有利な併用効果を与えることができるように、一般的に、各送達時間の間に有意期間が終了しないことを確実にする。かかる場合において、互いの約12~24または72時間以内に、より特定的には、互いの約6~12時間以内に、患者に抗体療法および抗がん療法を提供してもよいことが企図される。いくつかの状況において、それぞれの投与の間に数日間(2、3、4、5、6、または7)から数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8)の間隔をもたせ、治療のための期間を有意に延長することが望ましいこともある。
【0066】
様々な組み合わせが利用され得る。以下の例において、ポジオチニブは「A」であり、抗がん療法は「B」である。
【0067】
患者に対する本実施形態の任意の化合物の投与または治療法の実施は、存在する場合には薬剤の毒性を考慮に入れて、かかる化合物の投与のための一般的なプロトコルに従う。したがって、いくつかの実施形態では、組み合わせ療法に起因する毒性をモニタリングする工程がある。
【0068】
1.化学療法
本実施形態に従って、多様な化学療法剤を使用することができる。用語「化学療法」は、がんを治療するための薬物の使用を指す。「化学療法剤」は、がんの治療において投与される化合物または組成物を示すために使用される。これらの薬剤または薬物は、細胞内のそれらの活性モード、例えば、それらが細胞周期に影響するかどうか、およびそれらが細胞周期のどの段階に影響するか、により分類される。あるいは、薬剤は、そのDNAに直接架橋する能力、DNA中に介入する能力、または核酸合成に作用することにより染色体および有糸分裂異常を誘導するための能力に基づいて特徴付けられてもよい。
【0069】
化学療法剤の例には、アルキル化剤、例えば、チオテパおよびシクロホスファミド:スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファン;アジリジン、例えば、ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ、およびウレドーパ;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスフォラミド、トリエチレンチオホスフォラミド、およびトリメチロロメラミンを含む、エチレンイミンおよびメチラメラミン;アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成アナログトポテカンを含む);ブリオスタチン;カチスタチン;CC-1065(そのアゾゼレシン、カルゼレシンおよびビゼレシン合成アナログを含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成アナログ、KW-2189およびCB1-TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン;スポンジスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、クロホスファミド、エストラムスチン、イフォスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベムビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、およびウラシルマスタード;ニトロソウレア、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムヌスチン;抗生剤、例えば、エンジイン抗生剤(例えば、カリチアマイシン、特に、カリチアマイシンガンマlIおよびカリチアマイシンオメガI1);ダイネマイシンAを含む、ダイネマイシン;ビスホスホネート、例えば、クロドロネート;エスペラマイシン;ならびにネオカルチノスタチン発色団および関連する色素タンパク質エンジイン抗生剤発色団、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウトラマイシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルフォリノ-ドキソルビシン、シアノモルフォリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えば、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン(nogalarnycin)、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメックス、ジノスタチン、およびゾルビシン;抗代謝物質、例えば、メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸アナログ、例えば、デノプテリン、プテロプテリン、およびトリメトレキサート;プリンアナログ、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、およびチオグアニン;ピリミジンアナログ、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモファー、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフフリジン、エノシタビン、およびフロックスウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン、ドロモスタノロンプロピオナート、エピチオスタノール、メピチオスタン、およびテストラクトン;抗副腎、例えば、ミトタンおよびトリロスタン;葉酸補充物質、例えば、フォリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジクオン;エルフォルミチン;エリプチニウムアセテート;エポチロン;エトグルシッド;ガリウムニトレート;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニンメイタンシノイド、例えば、メイタンシンおよびアンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサトロン;モピダンモール;ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシンン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2毒素、ベラクリンA、ロリジンA、およびアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセルゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;プラチナ配位錯体、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチン;ビンブラスチン;プラチナ;エトプシド(VP-16);イフォスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼロダ;イバンドロナート;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、レチノイン酸;カペシタビン;カルボプラチン、プロカルバジン、プリコマイシン、ゲムシタビエン、ナベルビン、ファネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ、ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が含まれる。
【0070】
2.放射線療法
DNA損傷を引き起こし、かつ幅広く用いられている他の因子は、γ線、X線として知られているもの、および/または腫瘍細胞に対する放射性同位体の指向性送達を含む。DNA損傷因子の他の形態も企図され、例えば、電子レンジ、陽子ビーム照射(米国特許第5,760,395号および第4,870,287号)、ならびにUV照射が挙げられる。これらの因子の全ては、DNAに対して、DNAの前駆体に対して、DNAの複製および修復に対して、ならびに染色体の集合および維持に対して、広範囲の損傷に影響を与える可能性が高い。X線についての線量範囲は、長期間(3~4週間)についての50~200レントゲンの1日線量から、2000~6000レントゲンの単一線量までの範囲にわたる。放射性同位体についての線量範囲は、広く異なり、同位体の半減期、放出された放射線の強度および種類、ならびに新生物細胞による取込みに依存する。
【0071】
3.免疫療法
当業者は、さらなる免疫療法が、本実施形態の方法と組み合わせてまたは連動させて用いられ得ることを理解するだろう。がん治療の文脈において、免疫療法は、一般的に、がん細胞を標的とし、それを破壊するために、免疫エフェクター細胞および分子の使用に依存する。リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))は、その一例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上にあるいくつかのマーカーに特異的な抗体であり得る。抗体単独を治療法のエフェクターとして使用することもでき、または、抗体が、細胞殺傷に実際に作用する他の細胞を動員してもよい。抗体はまた、薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)にコンジュゲートされ、分子標的剤として機能することができる。あるいは、エフェクターは、直接的または間接的に腫瘍細胞標的と相互作用する表面分子を有するリンパ球であり得る。様々なエフェクター細胞は、細胞傷害性T細胞およびNK細胞を含む
【0072】
抗体-薬物コンジュゲートは、がん治療の開発において画期的なアプローチとして出現した。がんは、世界中において、主な死因の一つである。抗体-薬物コンジュゲート(ADC)は、細胞を殺傷する薬物に共有結合したモノクローナル抗体(MAb)を含む。このアプローチは、Mabのそれらの抗原標的に対する高い特異性と、高度に強力な細胞傷害性薬物とを組み合わせており、ペイロード(薬物)を豊富なレベルの抗原と共に腫瘍細胞に送達する「武装した」MAbsをもたらす。薬物の標的指向性送達はまた、正常組織中への薬物の曝露を最小限にし、毒性の軽減および治療指標の改善をもたらす。2つのADC薬物の認可、FDAにより2011年に認可されたADCETRIS(登録商標)(ブレンツキシマブベドチン)および2013年に認可されたKADCYLA(登録商標)(トラスツズマブエムタンシンまたはT-DM1)は、このアプローチを確証している。現在、30種を超えるADC薬物候補が、がん治療のための臨床試験の様々な段階にある(Lealら、2014)。抗体エンジニアリングおよびリンカー-ペイロード最適化が、益々成熟しているために、新規ADCの創薬および開発は、このアプローチと標的指向性MAbの生成とに好適な新規標的の同定および検証に大いに依存する。ADCの標的についての2つの基準は、腫瘍細胞および頑強な内部移行における、上方制御された/高レベルの発現である。
【0073】
免疫療法の一態様では、腫瘍細胞は、標的指向化に適している(すなわち、他の細胞の大部分において存在しない)いくつかのマーカーを有する必要がある。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのいずれもが、本実施形態の文脈における標的指向化に好適であり得る。一般的な腫瘍マーカーは、CD20、がん胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、Sialyl Lewis抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニン受容体、erb B、およびp155を含む。免疫療法の代替的な一態様は、抗がん効果と免疫刺激効果とを組み合わせることである。サイトカイン、例えば、IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、ガンマ-IFN、ケモカイン、例えば、MIP-1、MCP-1、IL-8、および増殖因子、例えば、FLT3リガンドを含む、免疫刺激分子も存在する。
【0074】
免疫療法の例には、免疫アジュバント、例えば、マイコバクテリウムボビス、熱帯熱マラリア原虫、ジニトロクロロベンゼン、および芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および第5,739,169号;HuiおよびHashimoto、1998;Christodoulidesら、1998);サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、β、およびγ、IL-1、GM-CSF、およびTNF(Bukowskiら、1998;Davidsonら、1998;Hellstrandら、1998);遺伝子療法、例えば、TNF、IL-1、IL-2、およびp53(Qinら、1998;Austin-WardおよびVillaseca、1998;米国特許第5,830,880号および第5,846,945号);ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2、および抗p185(Hollander、2012;Hanibuchiら、1998;米国特許第5,824,311号)が含まれる。1つ以上の抗がん療法が本明細書に記載の抗体療法と共に使用され得ることが企図される。
【0075】
いくつかの実施形態では、免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤であり得る。免疫チェックポイントは、シグナル(例えば、共刺激分子)を強くするか、またはシグナルを弱くする。免疫チェックポイント妨害により標的とされ得る阻害性免疫チェックポイントは、アデノシンA2A受容体(A2AR)、B7-H3(CD276としても知られている)、BおよびTリンパ球減衰剤(BTLA)、細胞傷害性T-リンパ球関連タンパク質4(CTLA-4、CD152としても知られている)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG3)、プログラム死1(PD-1)、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3(TIM-3)、ならびにT細胞活性化のVドメインIg抑制剤(VISTA)を含む。特に、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1系および/またはCTLA-4を標的とする。
【0076】
免疫チェックポイント阻害剤は、薬物、例えば、小分子、リガンドもしくは受容体の組換え形態であることができ、または特に、抗体、例えば、ヒト抗体(例えば、国際特許公開第WO2015/016718号;Pardoll、Nat Rev Cancer、12(4):252-64、2012;両文献は参照により本明細書に取り込まれる)である。免疫チェックポイントタンパク質またはそのアナログの既知の阻害剤が用いられてもよく、特に、キメラ、ヒト化、またはヒト形態の抗体が用いられてもよい。当業者には、代替的および/または等価な名称が、本開示において言及された特定の抗体のために使用されてもよいことが分かるであろう。かかる代替的および/または等価な名称は、本明細書の文脈において互換的である。例えば、ランブロリズマブは、代替的および等価な名称としてMK-3475およびペンブロリズマブとしても知られていることが知られている。
【0077】
いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1のそのリガンド結合パートナーに対する結合を阻害する分子である。特定の一態様では、PD-1リガンド結合パートナーは、PDL1および/またはPDL2である。別の実施形態では、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1のその結合パートナーに対する結合を阻害する分子である。特定の一態様では、PDL1結合パートナーは、PD-1および/またはB7-1である。別の実施形態では、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2のその結合パートナーに対する結合を阻害する分子である。特定の一態様では、PDL2結合パートナーは、PD-1である。アンタゴニストは、抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドであり得る。例示的な抗体は、米国特許第8,735,553号、第8,354,509号、および第8,008,449号に記載されており、これらの全ては参照により本明細書に組み込まれる。本明細書にて提供される方法において使用するための他のPD-1系アンタゴニストは、当技術分野において周知であり、例えば、米国特許公開第US2014/0294898号、第US2014/022021号、および第US2011/0008369号に記載されており、これらの全ては参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、およびCT-011からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合したPDL1またはPDL2の細胞外またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、AMP-224である。MDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558、およびOPDIVO(登録商標)としても知られているニボルマブは、WO2006/121168に記載されている抗PD-1抗体である。MK-3475、Merck3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)、およびSCH-900475としても知られているペンブロリズマブは、WO2009/114335に記載されている抗PD-1抗体である。hBATまたはhBAT-1としても知られているCT-011は、WO2009/101611に記載されている抗PD-1抗体である。B7-DCIgとしても知られているAMP-224は、WO2010/027827およびWO2011/066342に記載されているPDL2-Fc融合可溶性受容体である。
【0079】
本明細書において提供される方法において標的とされ得る別の免疫チェックポイントは、CD152としても知られている、細胞傷害性T-リンパ球-関連タンパク質4(CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全なcDNA配列は、Genbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4は、T細胞の表面上で見出され、抗原-提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合されると、「オフ」スイッチとして作用する。CTLA4は、ヘルパーT細胞の表面上で発現され、阻害性シグナルをT細胞に伝達する、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA4は、T細胞共刺激タンパク質、CD28に類似しており、両分子は、抗原-提示細胞上のそれぞれB7-1およびB7-2とも呼ばれるCD80およびCD86に結合する。CTLA4は、阻害性シグナルをT細胞に伝達し、一方で、CD28は、刺激性シグナルを伝達する。細胞内CTLA4は、調節性T細胞においても見出され、それらの機能にとって重要であり得る。T細胞受容体およびCD28を介するT細胞活性化は、CTLA-4、B7分子についての阻害性受容体の発現増大に至る。
【0080】
いくつかの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体)、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0081】
本方法において使用するのに好適な抗ヒトCTLA-4抗体(またはそれらに由来するVHおよび/もしくはVLドメイン)は、当該分野において周知の方法を用いて作成することができる。あるいは、当該分野において認識される抗CTLA-4抗体を使用することができる。例えば、米国特許第8,119,129号;国際特許公開第WO01/14424号、第WO98/42752号、および第WO00/37504号(CP675,206、トレメリムマブ;以前のチシリムマブとしても知られている);米国特許第6,207,156号;Hurwitzら、1998;Camachoら、2004;ならびにMokyrら、1998において開示された抗CTLA-4抗体を、本明細書において開示される方法において使用することができる。前記刊行物のそれぞれの教示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。CTLA-4に対する結合について当該分野において認識されるこれらの抗体と競合する抗体を使用することもできる。例えば、ヒト化CTLA-4抗体は、国際特許出願第WO2001/014424号、および第WO2000/037504号、および米国特許第8,017,114号に記載されており、これらの全ては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0082】
例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101、およびYervoy(登録商標)としても知られている)またはその抗原結合断片およびバリアントである(例えば、WO01/14424を参照されたい)。他の実施形態では、抗体は、イピリムマブの重鎖および軽鎖CDRまたはVRを含む。したがって、一実施形態では、抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびにイピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態では、抗体は、上記の抗体と同じCTLA-4上のエピトープとの結合および/またはそれらへの結合について競合する。別の実施形態では、抗体は、上記の抗体と少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列相同性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、95%、または99%の可変領域相同性)を有する。
【0083】
CTLA-4を調節するための他の分子は、CTLA-4リガンドおよび受容体、例えば、米国特許第5,844,905号、第5,885,796号、および国際特許出願第WO1995/001994号および第WO1998/042752号に記載のもの;全て参照により本明細書に取り込まれる、ならびにイムノアドヘシン、例えば、米国特許第8,329,867号に記載のもの、参照により本明細書の取り込まれる、を含む。
【0084】
4.手術
がんを有する人の約60%は、予防的、診断的または病期分類的、治療的、および緩和的手術を含む、ある種の手術を受ける。治療的手術は、がん組織の全てまたは一部が物理的に除去されるか、切除されるか、および/または破壊される切除術を含み、また他の治療法、例えば、本実施形態の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法、および/または代替的な治療法と併用することができる。腫瘍切除術は、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を指す。腫瘍切除術に加えて、手術による治療は、レーザー手術、冷凍外科手術、電気手術、および顕微鏡制御された手術(モース手術)を含む。
【0085】
がん細胞、組織、または腫瘍の一部または全ての切除では、体内に腔が形成されてもよい。治療は、さらなる抗がん療法を用いる領域の灌流、直接注入、または局所適用により成し遂げることができる。かかる治療は、例えば、1、2、3、4、5、6もしくは7日ごとに、または1、2、3、4および5週ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12ヶ月ごとに繰り返すことができる。これらの治療は、用量を変化させたものであってもよい。
【0086】
5.他の薬剤
治療の治療効果を改善するために本実施形態の特定の態様と組み合わせて他の薬剤を用いてもよいことが企図される。これらのさらなる薬剤には、細胞表面受容体およびGAPジャンクションの上方制御に作用する薬剤、細胞増殖抑制剤および分化剤、細胞接着の阻害剤、過剰増殖細胞のアポトーシス誘導剤への感受性を増大させる薬剤、または他の生物学的薬剤が含まれる。GAPジャンクションの数を高めることによる細胞内シグナリングの増大は、隣接する過剰増殖細胞集団に対する抗過剰増殖効果を増大し得る。他の実施形態では、細胞増殖抑制剤または分化剤は、治療の抗過剰増殖効果を改善するために本実施形態の特定の態様と組み合わせて用いることができる。細胞接着の阻害剤は、本実施形態の効果を改善するために企図される。細胞接着阻害剤の例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。抗体c225などの過剰増殖細胞のアポトーシスに対する感受性を増大させる他の薬剤が、治療効果を改善するために本実施形態の特定の態様と組み合わせて用いられ得ることがさらに企図される。
【0087】
IV.キット
HER2エクソン19変異、例えば、本明細書において開示されるもの等を検出するためのキットも、本開示の範囲の範囲内である。そのようなキットの一例は、エクソン19変異に特異的なプライマーのセットを含み得る。キットはさらに、本明細書に記載される特定のHER2エクソン19変異の存在または不在を検出するためにプライマーを使用するための指示書を含み得る。キットはさらに、がん患者由来の試料における本明細書に記載のHER2エクソン19変異について陽性であると同定することが、チロシンキナーゼ阻害剤であるポジオチニブまたは構造的に類似する阻害剤に対する感受性の指標となることを示す、診断目的のための指示書を含み得る。キットはさらに、がん患者由来の試料における本明細書に記載のHER2エクソン19変異について陽性であると同定することが、患者がポジオチニブまたは構造的に類似する阻害剤を用いて治療されるべきであることを示すことを示す、指示書を含み得る。
【実施例
【0088】
V.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。当業者であれば、後に続く本実施例において開示された技術は、本発明の実施において十分に機能することが本発明者により見出された技術であり、それ故に、その実施のための好ましいモードを構成するものとして考慮することができる、ということを理解するべきである。しかし、当業者であれば、本開示に照らして、本明細書において開示された特定の実施形態において多数の変更を加えることができること、そして本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似する結果を依然として得ることができること、を理解するべきである。
【0089】
実施例1-HERエクソン19変異を有するがん細胞のための薬物の同定
エクソン19点変異体L755Pを発現するBa/F3細胞を作製した。細胞をIL-3非依存性について試験し、Cell Titer Gloアッセイを用いてラパチニブ、アファチニブ、EGF-816、イブルチニブ、およびポジオチニブ、ならびにHER2抗体トラスツズマブを含むHER2 TKIに対してスクリーニングを行った。HER2 L755Pを発現するBa/F3細胞のIL-3非依存的な増殖が認められ、これはHER2 L755Pが活性化変異であることを示している。加えて、トラスツズマブ、ラパチニブ、EGF-816、およびイブルチニブは、HER2 L755Pタンパク質を発現するBa/F3細胞の細胞生存率を抑制しなかった。
【0090】
第2世代TKIであるアファチニブは、いくらかの活性(IC50値 =13nM)を示したが、ポジオチニブは、3.0nMのIC50値でBa/F3 HER2 L755P変異細胞の増殖を有意に抑制することが認められた。加えて、D769Y、D769N、D769H、L755S、およびR678Qを含む複数の他のHER2エクソン19変異についても、ポジオチニブを含む種々のTKIに対する感受性を試験した。ポジオチニブがこれらの変異細胞の増殖を抑制することが認められた(図3)。
【0091】
IL-3不含条件下で増殖させたHER2エクソン19変異体の安定発現Ba/F3細胞株の細胞生存率を14日間測定した。Cell Titer Gloアッセイによって、3日毎に細胞生存率を測定した(図4)。図5Aは、薬物処理の72時間後における、表示されている変異体を安定的に発現するBa/F3細胞のlog IC50値のヒートマップを示す。表示されている阻害剤による、L755SまたはL755Pを発現するBa/F3細胞の平均IC50値を測定した(図5C)。ポジオチニブによる処理は、試験した他の阻害剤と比較して最も低いIC50値を有することが観察された。
【0092】
さらなる実験において、種々の濃度のさまざまな阻害剤によってCW-2結腸直腸細胞を処理し、ポジオチニブが細胞生存率の最も高い低下をもたらすことを示した(図6A)。ポジオチニブ、アファチニブ、またはネラチニブで処理したCW-2細胞を接種したマウスを用いて、マウスの試験を実施した。腫瘍成長は、5mg/kgのポジオチニブで処理したマウスにおいて有意に低下した(図6C)。したがって、ポジオチニブならびに構造的に類似する阻害剤は、HER2エクソン19変異の強力な阻害剤であり、新規の薬物耐性を克服するための治療剤として用いることができる。
【0093】
実施例2-材料および方法
細胞株の作製およびIL-3欠乏:Ba/F3細胞株を、無菌条件下で、L-グルタミン、10%熱失活FBS(Gibco)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma Life Science)、および10ng/mlのマウスIL-3(R&D systems)を追加した完全RPMI-1640(R8758;Sigma Life Science)培地中で培養した。12時間のBa/F3細胞株のレトロウイルス形質導入により、安定発現細胞株を作製した。リポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて、pBabe-PuroベースのベクターをPhoenix 293T amphoパッキング細胞株(Orbigen)にトランスフェクトすることにより、レトロウイルスを作製した。形質導入の72時間後、2μg/mlのピューロマイシン(Invitrogen)を培地に添加した。5日間の選択の後、FITC-HER2(Biolegend)を用いて細胞を染色し、FACSにより選別した。次いで、IL-3の非在下で細胞株を15日間増殖させ、Cell Titer Gloアッセイ(Progema)を用いて3日毎に細胞生存率を測定した。結果として得られた安定発現細胞株を、IL-3を含まない上記の完全RPMI-1640培地中で維持した。PowerPlex 1.2キット(Promega)を用いるショートタンデムリピートによるDNAフィンガープリンティングにより、細胞株の同一性を確認した。フィンガープリンティングの結果を、細胞株の初代供給源によって維持される参照フィンガープリントと比較した。全ての細胞株は、マイコプラズマ不含であった。HER2 L775P細胞株を作製するために、c.2264T>C(AddgeneのpBabe-puro HER WT(#40978)からBioinnovatiseにより作出)を細胞に形質導入した。
【0094】
(表1)図6Bの二元配置ANOVAの統計値
【0095】
細胞生存率アッセイおよびIC50推定:以前に記載された(Robichaux et al.、2018)ように、Cell Titer Gloアッセイ(Promega)を用いて細胞生存率を測定した。簡単に説明すると、384ウェルプレート(Greiner Bio-One)に、1ウェルあたり2000~3000個の細胞を技術的に三連で播種した。細胞を、1ウェルあたり40μLの最終体積で7種類の異なる濃度のチロシンキナーゼ阻害剤またはビヒクル単独で処理した。3日後、11μLのCell Titer Gloを各ウェルに添加した。プレートを15分間振とうし、FLUOstar OPTIMAマルチモードマイクロプレートリーダー(BMG LABTECH)を用いて、生物発光を測定した。生物発光の値をDMSO処理細胞に対して正規化し、正規化した値を、可変傾斜を用いる正規化データに対する非線形回帰フィットを用いて、GraphPad Prismにてプロットした。IC50値を、50%阻害でGraphPad Prismにより計算した。
【0096】
チロシンキナーゼ阻害剤およびT-DM1:MedChem Expressから購入したEGF816およびピロチニブを除いて、全ての阻害剤をSelleck Chemicalから購入した。全ての阻害剤をDMSOで10mMの濃度になるように溶解し、-80℃で貯蔵した。阻害剤は、2回の凍結融解サイクルの後には廃棄されるよう制限した。T-DM1は、M.D.Anderson Cancer Centerの施設内薬局から購入し、再構成した。
【0097】
ヒト細胞株:MCF10A細胞をATCCから購入し、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、5%ウマ血清(sigma)、20ng/ml EGF、0.5mg/mlヒドロコルチゾン、および10μg/mlインスリンを追加したDMEM/F12培地で培養した。レトロウイルス形質導入によって、安定発現細胞株を作出し、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて表1に要約したpBabe-Puroベースのベクター(Addgene and Bioinnovatise)をPhoenix 293T-ampho細胞(Orbigen)にトランスフェクトすることによって、レトロウイルスを作製した。形質導入の2日後、0.5μg/mlピューロマイシン(Invitrogen)をRPMI培地に添加した。14日間の選択の後、細胞を上記のような細胞生存率アッセイで試験した。CW-2細胞はMTA下でRiken細胞株データベースによって提供され、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI中で維持された。
【0098】
インビボ異種移植片試験:CW-2細胞株異種移植片を、50%マトリゲル中の1×10個の細胞を6週齢のメスnu/nuヌードマウスに注入することによって、作出した。腫瘍が350mmに達したら、マウスを4群:20mg/kgアファチニブ、5mg/kgポジオチニブ、30mg/kgネラチニブ、またはビヒクル対照(dHO中に、0.5%メチルセルロール、2%Tween-80)に無作為化した。腫瘍体積を週に3回測定した。マウスは月曜日~金曜日(週に5日)薬物を受けたが、水曜日に投与を始め、最初の3日の投与後に2日の休薬日を与えた。
【0099】
Y772dupYVMA PDXマウスをJax Labsから購入した(Model#TM01446)。HER2 Y772dupYVMAを発現する腫瘍由来の断片を、5~6週齢のメスNSGマウス(Jax Labs #005557)に接種した。マウスを週に3回測定し、腫瘍が200~300mmの体積に達したら、マウスを以下の4つの処置群に無作為化した:ビヒクル対照(dHO中に、0.5%メチルセルロール、0.05%Tween-80)、2.5mg/kgポジオチニブ、10mg/kg T-DM1、または2.5mg/kgポジオチニブと10mg/kg T-DM1との組み合わせ。腫瘍体積および体重を週に3回測定した。2.5mg/kgポジオチニブで処置されるマウスは、薬物を月曜日~金曜日(週に5日)に経口で受けた。10mg/kg T-DM1で処置されるマウスは、無作為化の日にT-DM1の1回の静脈内(IV)投与を受けた。ポジオチニブとT-DM1との組み合わせで処置されるマウスは、T-DM1の1回IV投与を受け、T-DM1の投与の3日後に、週に5日2.5mg/kgポジオチニブを開始した。マウスの体重が10%を上回って低下するか、または20グラム未満に低下した場合には、マウスに投与の休みを与えた。無増悪生存期間は、2回の連続する測定での最良奏効から腫瘍倍加までとして定義された。完全退縮は、腫瘍量の95%を上回る減少として定義され、完全退縮を伴うマウスでは、腫瘍倍加は、3回以上の連続する測定で75mmを上回ると定義された。実験は、Good Animal Practicesにしたがって、MD Anderson Cancer Center Institutional Animal Care and Use Committee(Houston、TX)の承認を得て、完了した。
【0100】
本明細書において開示され、特許請求される方法の全ては、本開示に照らして、過度の実験を行うことなく、構築および実施することができる。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態に関連して説明されてきたが、当業者には、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書において記載された方法および工程、または方法の工程の順序に変更が適用されてもよいことが、明らかであろう。より具体的には、化学的および生理的に関連する特定の薬剤が本明細書に記載の薬剤の代わりに用いられてもよく、それらが同じまたは同様の結果に到達し得ることは、明らかであろう。当業者には明らかである全てのかかる同様の置換および修飾は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内であるとみなされる。
【0101】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に示された参考文献を補足する例示的な手順的なまたは他の詳細を提供するものであり、参照により本明細書に具体的に取り込まれる。
図1A
図1B
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5A
図5B
図5C
図5D-1】
図5D-2】
図6A
図6B
図6C
【配列表】
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