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特許7386227水性樹脂架橋剤、水性樹脂架橋剤含有液及び水性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】水性樹脂架橋剤、水性樹脂架橋剤含有液及び水性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/09 20060101AFI20231116BHJP
   C08G 18/28 20060101ALI20231116BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20231116BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20231116BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20231116BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20231116BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231116BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20231116BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08G18/09 050
C08G18/28 015
C08G18/79 070
C08L79/00
C08L101/02
C09D201/00
C09D7/63
C09J201/00
C09J11/06
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021503628
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009234
(87)【国際公開番号】W WO2020179835
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019039955
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 奈巳
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/006950(WO,A1)
【文献】特開2001-011152(JP,A)
【文献】特開昭63-264128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
C08L 79/00
C08L 101/02
C09D 201/00
C09D 7/63
C09J 201/00
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボジイミド化合物(A1)及びポリカルボジイミド化合物(A2)のうちから選ばれる1種以上のポリカルボジイミド化合物(A)、ポリカルボジイミド化合物(B)、並びに界面活性剤(C)を含み、
前記ポリカルボジイミド化合物(A1)は、両末端に、イソシアネート基が下記一般式(1)で表される末端封止化合物(T1)で封止された構造を有し、
前記ポリカルボジイミド化合物(A2)は、一方の末端に、イソシアネート基が前記末端封止化合物(T1)で封止された構造を有し、かつ、他方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T2)で封止された構造を有し、
前記ポリカルボジイミド化合物(B)は、一方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T3)で封止された構造を有し、かつ、他方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T4)で封止された構造を有し、
1(OCHR2CH2nOH (1)
(式(1)中、R1は炭素数1~4のアルキル基である。R2は、水素原子又はメチル基である。nは7~30の整数である。前記ポリカルボジイミド化合物(A1)の一方の末端を封止する末端封止化合物(T1)及び他方の末端を封止する末端封止化合物(T1)、並びに前記ポリカルボジイミド化合物(A2)の一方の末端を封止する末端封止化合物(T1)は、それぞれ、同一であっても、異なっていてもよい。)
前記末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)は、それぞれ独立に、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、もしくはカルボキシ基を1個有する化合物、又は末端封止化合物(T1)以外の水酸基を1個有する化合物であり、
前記ポリカルボジイミド化合物(A)中のオキシアルキレン基(OCHR2CH2)の合計含有量が15質量%以上であり、
前記ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の合計量に対する前記ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)中のオキシアルキレン基の合計含有量が10質量%以下であり、
前記界面活性剤(C)の含有量が、前記ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の合計含有量100質量部に対して0.1~20質量部である、水性樹脂架橋剤。
【請求項2】
前記ポリカルボジイミド化合物(A)が、前記ポリカルボジイミド化合物(A1)である、請求項1に記載の水性樹脂架橋剤。
【請求項3】
前記ポリカルボジイミド化合物(A)が、前記ポリカルボジイミド化合物(A1)及び前記ポリカルボジイミド化合物(A2)の混合物である、請求項1に記載の水性樹脂架橋剤。
【請求項4】
前記ポリカルボジイミド化合物(A1)の一方の末端を封止する末端封止化合物(T1)及び他方の末端を封止する末端封止化合物(T1)が同一である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤。
【請求項5】
前記末端封止化合物(T3)及び(T4)が同一である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤。
【請求項6】
前記末端封止化合物(T1)が、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルである、請求項1~5のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤。
【請求項7】
前記界面活性剤(C)がアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤のうちから選ばれる1種以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤。
【請求項8】
前記ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の合計100質量部のうちの前記ポリカルボジイミド化合物(A)の含有量が0.5~25質量部である、請求項1~7のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤、及び水性媒体を含む、水性樹脂架橋剤含有液。
【請求項10】
前記水性媒体が、水、又は水と親水性溶媒との混合溶媒である、請求項に記載の水性樹脂架橋剤含有液。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤、及び水性樹脂を含む、水性樹脂組成物。
【請求項12】
前記水性樹脂が、カルボキシ基、アミノ基及び水酸基から選ばれる基を有する、請求項11に記載の水性樹脂組成物。
【請求項13】
前記水性樹脂が、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂及びフッ素樹脂から選ばれる1種以上である、請求項11又は12に記載の水性樹脂組成物。
【請求項14】
接着剤、繊維処理剤、コーティング剤又は塗料に用いられる、請求項1113のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項15】
前記塗料が、ウェット・オン・ウェット方式の塗装用である、請求項14に記載の水性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1115のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物により形成された樹脂膜。
【請求項17】
請求項16に記載の樹脂膜が、基材上に形成されてなる物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボジイミド系の水性樹脂架橋剤、並びにこれを含有する水性樹脂架橋剤含有液及び水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性又は水分散性を有する水性樹脂は、環境面や安全面の点で取り扱い性に優れていることから、塗料やインキ、繊維処理剤、接着剤、コーティング剤等の各種用途で用いられている。水性樹脂は、樹脂自体に水溶性又は水分散性を付与するために、水酸基やカルボキシ基等の親水基が導入されている。それゆえに、水性樹脂は、油性樹脂に比べて、耐水性や耐久性の点で劣る傾向にある。
このため、水性樹脂の耐水性や耐久性、強度等の諸物性を向上させるために、該水性樹脂には、架橋剤が添加される。
【0003】
このような架橋剤の一例として、ポリカルボジイミド化合物が知られている。例えば、特許文献1には、所定の親水基を末端に有するポリカルボジイミド化合物を含む、2種のポリカルボジイミド化合物を、所定の比率で混合することにより、水性樹脂と併存させた場合の保存安定性に優れ、長期間併存させた場合であっても架橋性能が保持された水性樹脂架橋剤が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/006950号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているポリカルボジイミド化合物の混合物では、該混合物による架橋剤を用いて硬化させた水性樹脂の硬化物は、耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性が十分と言えるものではなかった。
【0006】
したがって、水性樹脂をカルボジイミド系の架橋剤を用いて硬化させた場合において、該水性樹脂の硬化物の特性として、耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性の向上が求められている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、架橋剤と水性樹脂とを併存させた場合の保存安定性に優れていることに加えて、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性の向上を図ることができる、カルボジイミド系の水性樹脂架橋剤、並びにこれを含有する水性樹脂架橋剤含有液及び水性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カルボジイミド系の水性樹脂架橋剤において、特定のポリカルボジイミド化合物の混合物を用いることにより、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性が向上することを見出したことに基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[16]を提供する。
[1]ポリカルボジイミド化合物(A1)及びポリカルボジイミド化合物(A2)のうちから選ばれる1種以上のポリカルボジイミド化合物(A)、ポリカルボジイミド化合物(B)、並びに界面活性剤(C)を含み、前記ポリカルボジイミド化合物(A1)は、両末端に、イソシアネート基が下記一般式(1)で表される末端封止化合物(T1)で封止された構造を有し、前記ポリカルボジイミド化合物(A2)は、一方の末端に、イソシアネート基が前記末端封止化合物(T1)で封止された構造を有し、かつ、他方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T2)で封止された構造を有し、前記ポリカルボジイミド化合物(B)は、一方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T3)で封止された構造を有し、かつ、他方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T4)で封止された構造を有し、
1(OCHR2CH2nOH (1)
(式(1)中、R1は炭素数1~4のアルキル基である。R2は、水素原子又はメチル基である。nは7~30の整数である。前記ポリカルボジイミド化合物(A1)の一方の末端を封止する末端封止化合物(T1)及び他方の末端を封止する末端封止化合物(T1)、並びに前記ポリカルボジイミド化合物(A2)の一方の末端を封止する末端封止化合物(T1)は、それぞれ、同一であっても、異なっていてもよい。)
前記末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)は、それぞれ独立に、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、もしくはカルボキシ基を1個有する化合物、又は末端封止化合物(T1)以外の水酸基を1個有する化合物であり、前記ポリカルボジイミド化合物(A)中のオキシアルキレン基(OCHR2CH2)の合計含有量が15質量%以上であり、前記ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の合計量に対する前記ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)中のオキシアルキレン基の合計含有量が10質量%以下であり、前記界面活性剤(C)の含有量が、前記ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の合計含有量100質量部に対して0.1~20質量部である、水性樹脂架橋剤。
[2]前記ポリカルボジイミド化合物(A)が、前記ポリカルボジイミド化合物(A1)である、上記[1]に記載の水性樹脂架橋剤。
[3]前記ポリカルボジイミド化合物(A)が、前記ポリカルボジイミド化合物(A1)及び前記ポリカルボジイミド化合物(A2)の混合物である、上記[1]に記載の水性樹脂架橋剤。
[4]前記ポリカルボジイミド化合物(A1)の一方の末端を封止する末端封止化合物(T1)及び他方の末端を封止する末端封止化合物(T1)が同一である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤。
[5]前記末端封止化合物(T3)及び(T4)が同一である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤。
[6]前記末端封止化合物(T1)が、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルである、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤。
[7]前記界面活性剤(C)がアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤のうちから選ばれる1種以上である、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤。
【0010】
[8]上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤、及び水性媒体を含む、水性樹脂架橋剤含有液。
[9]前記水性媒体が、水、又は水と親水性溶媒との混合溶媒である、上記[8]に記載の水性樹脂架橋剤含有液。
[10]上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の水性樹脂架橋剤、及び水性樹脂を含む、水性樹脂組成物。
[11]前記水性樹脂が、カルボキシ基、アミノ基及び水酸基から選ばれる基を有する、上記[10]に記載の水性樹脂組成物。
[12]前記水性樹脂が、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂及びフッ素樹脂から選ばれる1種以上である、上記[10]又は[11]に記載の水性樹脂組成物。
[13]接着剤、繊維処理剤、コーティング剤又は塗料に用いられる、上記[10]~[12]のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
[14]前記塗料が、ウェット・オン・ウェット方式の塗装用である、上記[13]に記載の水性樹脂組成物。
【0011】
[15]上記[10]~[14]のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物により形成された樹脂膜。
[16]上記[15]に記載の樹脂膜が、基材上に形成されてなる物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性樹脂架橋剤は、架橋剤と水性樹脂とを併存させた場合の保存安定性に優れている。このため、前記水性樹脂架橋剤を用いることにより、保存安定性に優れた水性樹脂組成物が得られる。しかも、前記水性樹脂架橋剤によれば、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性を向上させることができる。したがって、前記水性樹脂架橋剤を含む水性樹脂組成物は、接着剤や繊維処理剤、コーティング剤、塗料等の用途に好適に用いることができる。
また、前記水性樹脂架橋剤を用いた水性樹脂架橋剤含有液は、水性樹脂を架橋させるために架橋剤を使用する際の利便性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の水性樹脂架橋剤、並びにこれを含有する水性樹脂架橋剤含有液及び水性樹脂組成物について詳細に説明する。
なお、本発明で言う「水性」とは、水性媒体に対する溶解性又は分散性を有していることを意味する。「水性媒体」とは、水及び/又は親水性溶媒を指すものとする。また、「ポリカルボジイミド化合物」とは、2個以上のカルボジイミド基を有する化合物を指す。
【0014】
[水性樹脂架橋剤]
本発明の水性樹脂架橋剤は、ポリカルボジイミド化合物(A)、ポリカルボジイミド化合物(B)及び界面活性剤(C)を含むものである。すなわち、前記水性樹脂架橋剤は、(A)及び(B)の2種のポリカルボジイミド化合物、並びに界面活性剤(C)を含む。
このような配合組成からなる水性樹脂架橋剤によれば、水性樹脂と併存させた場合の保存安定性に優れ、しかも、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性を向上させることができる。
【0015】
(ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B))
ポリカルボジイミド化合物(A)は、ポリカルボジイミド化合物(A1)及びポリカルボジイミド化合物(A2)のうちから選ばれる1種以上である。ポリカルボジイミド化合物(A1)又はポリカルボジイミド(A2)のうちの1種のみでもよく、あるいはまた、これらのうちから選ばれる2種以上を含んでいてもよい。
【0016】
ポリカルボジイミド化合物(A1)は、両末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T1)で封止された構造を有している。ポリカルボジイミド化合物(A2)は、一方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T1)で封止された構造を有し、かつ、他方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T2)で封止された構造を有している。ポリカルボジイミド化合物(B)は、一方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T3)で封止された構造を有し、かつ、他方の末端に、イソシアネート基が末端封止化合物(T4)で封止された構造を有している。
【0017】
末端封止化合物(T1)は、下記一般式(1)で表される。
1(OCHR2CH2nOH (1)
式(1)中、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくはメチル基又はエチル基、より好ましくはメチル基である。R2は、水素原子又はメチル基であり、好ましくは水素原子である。
nは、ポリカルボジイミド化合物(A)の親水性や水性樹脂との混和性等の観点から、7~30の整数であり、好ましくは7~25の整数、より好ましくは8~20の整数である。末端封止化合物(T1)は、nが7~30の整数のいずれかである式(1)で表される化合物の混合物の場合もある。
【0018】
末端封止化合物(T1)としては、取り扱い性や入手容易性等の観点から、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられ、特に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルが好適に用いられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリカルボジイミド化合物(A)の親水性や水性樹脂との混和性等の観点から、末端封止化合物(T1)の分子量は、340~1800であることが好ましく、より好ましくは350~1500、さらに好ましくは400~1000である。
【0019】
ポリカルボジイミド化合物(A)は、親水性の付与の観点から、ポリカルボジイミド化合物(A1)であることが好ましい。
ポリカルボジイミド化合物(A1)の一方の末端を封止する末端封止化合物(T1)及び他方の末端を封止する末端封止化合物(T1)、並びにポリカルボジイミド化合物(A2)の一方の末端を封止する末端封止化合物(T1)は、それぞれ、異なっていてもよいが、ポリカルボジイミド化合物(A1)の製造の容易性の観点から、同一であることが好ましい。
【0020】
また、ポリカルボジイミド化合物(A)としては、ポリカルボジイミド化合物(A1)及びポリカルボジイミド化合物(A2)の混合物も好適に用いることができる。
【0021】
末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)は、それぞれ独立に、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基もしくはカルボキシ基を1個有する化合物、又は末端封止化合物(T1)以外の水酸基を1個有する化合物である。これらのいずれかの基が、末端イソシアネート基と反応して、末端が封止されたポリカルボジイミド化合物が得られる。これらのうち、1種単独でも、2種以上を含んでいてもよい。末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)は、互いに、同一であっても、異なっていてもよい。末端封止化合物(T3)及び(T4)は、ポリカルボジイミド化合物(B)の製造の容易性の観点から、同一であることが好ましい。
【0022】
末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)に用いられるアミノ基を1個有する化合物としては、例えば、炭素数1~18の炭化水素基を有するモノアミン類が挙げられる。具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミン、アダマンタンアミン、アリルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、アニリン、ジフェニルアミン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、2,2-ジフルオロアミン、フルオロベンジルアミン、トリフルオロエチルアミン、[[4-(トリフルオロメチル)シクロヘキシル]メチル]アミン、イソプロパノールアミン、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらのうち、汎用性等の観点から、シクロヘキシルアミン、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン等が好適に用いられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)に用いられるイソシアネート基を1個有する化合物としては、例えば、炭素数1~18の炭化水素基を有するモノイソシアネート類が挙げられる。具体的には、ブチルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、オクチルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、1-アダマンチルイソシアネート、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、アクリル酸2-イソシアナトエチル、イソシアン酸ベンジル、2-フェニルエチルイソシアネート、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらのうち、反応性等の観点から、シクロヘキシルイソシアネート等が好適に用いられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)に用いられるエポキシ基を1個有する化合物としては、例えば、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、エチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルラウリルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(ペルフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、及びこれらの誘導体等のモノエポキシ類が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)に用いられるカルボキシ基を有する化合物としては、例えば、炭素数1~18の炭化水素基を有するモノカルボン酸類が挙げられる。具体的には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シクロヘキサンカルボン酸、アダマンタン酢酸、フェニル酢酸、安息香酸、ウンデセン酸、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)に用いられる水酸基を1個有する化合物としては、例えば、炭素数1~18の炭化水素基を有するモノアルコール類、ポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル等が挙げられる。ただし、ポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルは、末端封止化合物(T1)以外の化合物である。具体的には、シクロヘキサノール、グリコール酸メチル、オレイルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ドデシルアルコール、オクタノール、ヘキサノール、ペンタノール、ブタノール、プロパノール、エタノール、N,N-ジメチルイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン等が挙げられる。これらのうち、反応性や汎用性等の観点から、イソプロパノール、グリコール酸メチル、オレイルアルコール、ベンジルアルコール、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン等が好適に用いられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
末端封止化合物(T2)、(T3)及び(T4)は、保存安定性の観点から、前記末端イソシアネート基と反応するアミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシ基又は水酸基を除いた部位が、炭化水素のみからなる化合物であることが好ましい。その中でも、前記末端イソシアネート基と反応する基は、アミノ基、イソシアネート基又は水酸基であることが好ましく、より好ましくはアミノ基又はイソシアネート基である。
【0028】
前記水性樹脂架橋剤においては、ポリカルボジイミド化合物(A)に親水性を付与する観点から、ポリカルボジイミド化合物(A)中のオキシアルキレン基(OCHR2CH2)の合計含有量が15質量%以上であり、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。前記合計含有量は、ポリカルボジイミド化合物(A)中のカルボジイミド基が架橋性基として十分な作用を奏するようにする観点から、50質量%以下であることが好ましい。
【0029】
また、前記水性樹脂架橋剤は、ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の合計量に対するポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)中のオキシアルキレン基の合計含有量が10質量%以下であり、好ましくは0.2~10.0質量%、より好ましくは0.25~6.0質量%、さらに好ましくは0.3~5.0質量%である。
前記合計含有量が10.0質量%を超えると、該架橋剤を含む水性樹脂組成物の保存安定性が低下し、また、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性も劣るものとなる。
前記合計含有量は、水性樹脂の硬化物の耐水接着性の向上の観点から、5.0質量%以下であることが好ましい。
【0030】
前記水性樹脂架橋剤中のポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の各含有量は、上述したオキシアルキレン基の合計含有量に応じて設定されるが、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性向上の観点から、ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の合計100質量部のうちのポリカルボジイミド化合物(A)の含有量が0.5~25質量部であることが好ましく、より好ましくは1~20質量部、さらに好ましくは1~10質量部である。
【0031】
(ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の製造方法)
ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)は、例えば、ジイソシアネート化合物の脱炭酸縮合反応等の公知の反応により、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を合成した後、又は、同時に、所定の末端封止化合物と反応させて、末端のイソシアネート基を封止することにより得ることができる。
【0032】
前記ジイソシアネート化合物は、特に限定されるものではなく、鎖状又は脂環状の脂肪族ジイソシアネート化合物、芳香族ジイソシアネート化合物又は複素環ジイソシアネート化合物のいずれでもよく、これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記ジイソシアネート化合物以外に、3個以上のイソシアネート基を有する化合物を反応原料として用いることもできる。
鎖状脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環状ジイソシアネート化合物としては、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)プロパン、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。
芳香族ジイソシアネート化合物としては、例えば、トルエン-2,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,2’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、2,4,6-トリイソプロピルベンゼン-1,3-ジイルジイソシアネート等が挙げられる。
また、芳香族環を含む脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、m-キシリレンジイソシアネート、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)等が挙げられる。
これらの中でも、入手容易性やポリカルボジイミド化合物の合成の容易さ等の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートが好ましく、特に、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートが好適に用いられる。
【0033】
前記ジイソシアネート化合物の脱炭酸縮合反応は、カルボジイミド化触媒の存在下で行うことが好ましい。前記カルボジイミド化触媒としては、例えば、1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-エチル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-2-ホスホレン-1-オキシド及びこれらの3-ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシドが好ましい。
前記カルボジイミド化触媒の使用量は、通常、前記ジイソシアネート化合物100質量部に対して0.01~2.0質量部であることが好ましい。
【0034】
前記ジイソシアネート化合物の脱炭酸縮合反応は、溶媒中でも、無溶媒でも行うことができる。使用される溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、ジオキソラン等の脂環式エーテル;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、パークレン、トリクロロエタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;シクロヘキサノン;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。これらは、単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
溶媒中で反応を行う場合、前記ジイソシアネート化合物の濃度は、5~55質量%とすることが好ましく、より好ましくは5~20質量%である。
【0035】
前記脱炭酸縮合反応の条件は、特に限定されるものではないが、反応温度は、40~250℃であることが好ましく、より好ましくは80~195℃である。溶媒中で反応を行う場合は、40℃~溶媒の沸点の範囲内の温度であることが好ましい。
また、反応時間は、0.5~80時間であることが好ましく、より好ましくは1~70時間である。
また、窒素ガス、希ガス等の不活性ガス雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
【0036】
イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物と末端封止化合物との反応は、イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を、好ましくは50~200℃、より好ましくは100~180℃に加熱した後、末端封止化合物を添加し、80~200℃程度で0.5~5時間程度反応させることにより行うことができる。
【0037】
イソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成する際に、同時に末端封止化合物を添加して反応させてもよく、この場合の加熱温度は、好ましくは40~200℃、より好ましくは80~195℃であり、10~70時間程度反応させることにより、ポリカルボジイミド化合物(A)又は(B)を得ることができる。
【0038】
ポリカルボジイミド化合物(A2)は、イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物の末端イソシアネート基を、末端封止化合物(T1)及び(T2)で封止するように反応させることによって製造される。
例えば、ジイソシアネート化合物に、目的とするポリカルボジイミド化合物(A2)と等モル量(理論量)の末端封止化合物(T1)又は(T2)、及びカルボジイミド化触媒を添加して反応させて、該末端封止化合物(T1)又は(T2)でイソシアネート基の一部が封止されたポリカルボジイミド化合物を得た後、該ポリカルボジイミド化合物の未封止の末端イソシアネート基と等モル量(理論量)の、前記末端封止化合物とは異なる末端封止化合物(T2)又は(T1)と反応させることにより、ポリカルボジイミド化合物(A2)が得られる。
また、ジイソシアネート化合物に、目的とするポリカルボジイミド化合物(A2)と等モル量ずつの末端封止化合物(T1)及び(T2)、並びにカルボジイミド化触媒を同時に添加して反応させることによっても、ポリカルボジイミド化合物(A2)を得ることができる。
【0039】
あるいはまた、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を得た後、該イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物と等モル量(理論量)の末端封止化合物(T1)又は(T2)を添加して反応させて、該末端封止化合物(T1)又は(T2)でイソシアネート基の一部が封止されたポリカルボジイミド化合物を得て、その後、該ポリカルボジイミド化合物の未封止の末端イソシアネート基と等モル量(理論量)の、前記末端封止化合物とは異なる末端封止化合物(T2)又は(T1)と反応させることにより、ポリカルボジイミド化合物(A2)を得ることもできる。
また、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を得た後、該イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物と等モル量(理論量)ずつの末端封止化合物(T1)及び(T2)を同時に添加して反応させることによっても、ポリカルボジイミド化合物(A2)を得ることができる。
【0040】
なお、上記のようなポリカルボジイミド化合物(A2)の合成においては、主生成物であるポリカルボジイミド化合物(A2)以外に、ポリカルボジイミド化合物(A1)も副生する場合がある。また、両末端のイソシアネート基が末端化合物(T2)で封止された化合物(ポリカルボジイミド化合物(B)に相当)も副生する場合がある。ただし、これらの副生成物の分離及び生成量の確認は、実際上困難である。このため、本明細書においては、上述したようなポリカルボジイミド化合物(A2)を得るための製造方法で得られたポリカルボジイミド化合物を、ポリカルボジイミド化合物(A2)とみなすものとする。
【0041】
ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の重合度(カルボジイミド基の重合度)は、特に限定されるものではないが、ポリカルボジイミド化合物の水性媒体中でのゲル化防止の観点から、1~30であることが好ましく、より好ましくは2~25であり、さらに好ましくは3~20である。
なお、本明細書中で言う「カルボジイミド基の重合度」とは、ポリカルボジイミド化合物中の、ジイソシアネート化合物同士の脱炭酸縮合反応により生成したカルボジイミド基の数を指し、平均重合度で表す。
【0042】
(界面活性剤(C))
界面活性剤(C)は、ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)を水性媒体に均一に溶解又は分散させ、また、水性樹脂組成物の保存安定性等の観点から配合される。また、界面活性剤(C)の適量の添加は、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性の向上にも寄与する。
【0043】
前記水性樹脂架橋剤中の界面活性剤(C)の含有量は0.1~20質量部である。
前記含有量が0.1質量部未満では、該架橋剤を含む水性樹脂組成物中に凝集物が生じたり、保存安定性が不十分となる場合がある。一方、20質量部を超える場合は、該架橋剤を含む水性樹脂組成物の保存安定性が低下し、また、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性も劣るものとなる。
前記含有量は、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性向上の観点から、0.5質量部以上であることが好ましい。また、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0044】
界面活性剤(C)としては、該架橋剤を含む水性樹脂組成物の保存安定性、また、水性樹脂の硬化物の耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性の観点から、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤が好ましい。これらのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、N-ココイルメチルタウリンナトリウム、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、硫酸ナトリウム2-エチルヘキシル、α-スルホ脂肪酸メチルエステルナトリウム塩等が挙げられる。これらのうち、入手容易性等の観点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好適に用いられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル等が挙げられる。これらのノニオン性界面活性剤の分子量は、100~2000であることが好ましく、添加混合のしやすさ等の観点から、より好ましくは100~1000、さらに好ましくは300~1000である。
【0045】
(その他の成分)
前記水性樹脂架橋剤は、ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)並びに界面活性剤(C)以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、溶剤や、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、消泡剤及び濡れ性向上剤等の添加剤を含んでいてもよい。この場合、架橋作用を効率的に発揮させる観点から、前記水性樹脂架橋剤中のポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の合計含有量は、85質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0046】
(水性樹脂架橋剤の製造方法)
水性樹脂架橋剤は、ポリカルボジイミド化合物(A)、ポリカルボジイミド化合物(B)、界面活性剤(C)、及び、必要に応じて、その他の成分の添加剤等を撹拌混合することにより、製造することができる。また、これらの混合の際に水性媒体を用い、水性樹脂架橋剤を、予め、後述する水性樹脂架橋剤含有液として製造してもよい。
水性樹脂架橋剤を得るための撹拌混合の方法は、特に限定されるものではなく、例えば、回転羽根やマグネチックスターラー等を用いた公知の方法により行うことができる。
混合時の温度や時間等の条件は、ポリカルボジイミド化合物(A)、ポリカルボジイミド化合物(B)及び界面活性剤(C)等の種類等によって異なるが、効率的に均一に混合する観点から、例えば、水性樹脂架橋剤中のポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)を60~200℃で1~48時間混合した後、界面活性剤(C)を50~100℃で0.5~4時間撹拌混合することが好ましい。
【0047】
[水性樹脂架橋剤含有液]
本発明の水性樹脂架橋剤含有液は、前記水性樹脂架橋剤及び水性媒体を含むものである。前記水性樹脂架橋剤を、これを含む含有液としておくことにより、架橋する水性樹脂に対して均一に添加混合することが容易となり、取り扱い性に優れたものとすることができる。
【0048】
(水性媒体)
水性媒体は、前記水性樹脂架橋剤中の各含有成分を均一に溶解又は分散可能である媒体が用いられ、水や、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類等のうちの親水性溶媒が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、水、又は水と親水性溶媒との混合溶媒であることが好ましく、環境配慮やコスト等の観点からは、水のみであることが好ましい。
アルコール類としては、例えば、メタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。エーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン等が挙げられる。エステル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0049】
(水性樹脂架橋剤)
水性樹脂架橋剤含有液中の水性樹脂架橋剤の濃度は、水性樹脂に対して均一に添加混合する上での取り扱い性、及び、架橋作用の効率性の観点から、適宜定められるが、10~100質量%であることが好ましく、より好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは30~50質量%である。
【0050】
(その他の成分)
水性樹脂架橋剤含有液は、前記水性樹脂架橋剤及び水性媒体以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、溶剤や、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、増粘剤、消泡剤及び濡れ性向上剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0051】
(水性樹脂架橋剤含有液の製造方法)
水性樹脂架橋剤含有液は、前記水性樹脂架橋剤、水性媒体、及び、必要に応じて、その他の成分の添加剤等を混合することにより、製造することができる。撹拌混合の方法は、特に限定されるものではなく、例えば、回転羽根やマグネチックスターラー等を用いた公知の方法により行うことができる。
混合時の温度や時間等の条件は、水性樹脂架橋剤の組成や水性媒体の種類等によって異なるが、効率的に均一に混合する観点から、例えば、水性樹脂架橋剤と水性媒体とを混合する場合には、20~100℃で0.5~5時間撹拌混合することが好ましい。
【0052】
[水性樹脂組成物]
本発明の水性樹脂組成物は、前記水性樹脂架橋剤及び水性樹脂を含むものである。該水性樹脂組成物は、水性樹脂と併存させた状態での保存安定性に優れた本発明の水性樹脂架橋剤を含むのであるため、製造後長期間経過した後でも、加熱等による架橋反応を行うことができる。また、該水性樹脂組成物を用いることにより、耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性に優れた水性樹脂の硬化物を得ることができる。
【0053】
(水性樹脂)
前記水性樹脂は、水溶性又は水分散性を有する樹脂である。前記水性樹脂はカルボジイミド基により架橋され得るものであり、特に、親水性を有する架橋性基を有しているものであることが好ましい。
前記水性樹脂は、具体的には、親水基であるカルボキシ基、アミノ基及び水酸基から選ばれる基を有していることが好ましく、アルコール性水酸基及び/又はカルボキシ基を架橋性基として有していることがより好ましい。前記水性樹脂としては、例えば、このような架橋性基を有する、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂が、特に好適に用いられる。
【0054】
(水性樹脂架橋剤)
水性樹脂組成物中の水性樹脂架橋剤の含有量は、水性樹脂の種類や、水性樹脂の硬化物に求められる物性等に応じて適宜定められるが、架橋反応性及びコストのバランス等の観点から、水性樹脂100質量部に対して、0.5~40質量部であることが好ましく、より好ましくは1~30質量部、さらに好ましくは1.5~20質量部である。
【0055】
(その他の成分)
前記水性樹脂組成物は、前記水性樹脂架橋剤及び水性樹脂以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加成分を含んでいてもよい。具体的には、使用目的や用途等に応じて、必要により、溶剤や、例えば、着色剤、充填剤、分散剤、可塑剤、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加成分を含んでいてもよい。
【0056】
(水性樹脂組成物の製造方法)
水性樹脂組成物は、前記水性樹脂架橋剤、水性樹脂、及び、必要に応じて、その他の添加成分等を撹拌混合することにより、製造することができる。撹拌混合の方法は、特に限定されるものではなく、例えば、回転羽根やマグネチックスターラー等を用いた公知の方法により行うことができる。
混合時の温度や時間等の条件は、前記水性樹脂架橋剤の組成や水性樹脂の種類等によって異なるが、効率的に均一に混合する観点から、混合温度は0~100℃であることが好ましく、より好ましくは10~50℃である。前記水性樹脂架橋剤、水性樹脂及び添加剤の反応性や混合効率の観点から、20~30℃であることがより好ましい。混合時間は0.1~2時間であることが好ましく、より好ましくは0.3~1時間である。
なお、前記水性樹脂組成物は、水性樹脂との均一な混合性や取り扱い容易性等の観点から、上述したような水性樹脂架橋剤含有液として、水性樹脂と混合することにより製造してもよい。
【0057】
(水性樹脂の硬化物)
前記水性樹脂組成物を加熱することにより、架橋反応を生じ、水性樹脂の硬化物が得られる。
前記水性樹脂組成物を硬化させるための加熱温度は、前記水性樹脂架橋剤の組成や水性樹脂の種類等に応じて、前記水性樹脂組成物が変色したり、熱分解したりしない範囲内において、架橋反応を促進する観点から、適宜設定される。
【0058】
前記水性樹脂組成物は、耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性に優れた水性樹脂の硬化物を生成するため、例えば、塗料やインキ、繊維処理剤、接着剤、コーティング剤、成形物等の種々の用途において好適に用いることができ、特に、接着剤、繊維処理剤、コーティング剤、塗料に好適である。
例えば、前記水性樹脂組成物を、接着剤として用いた場合、優れた耐水接着性が得られる。また、塗料として用いた場合、水性樹脂により、耐水性、耐溶剤性に優れた硬化塗膜を得られ、ウェット・オン・ウェット方式の塗装にも好適に適用できる。ウェット・オン・ウェット方式の際、前記水性樹脂組成物で形成された塗膜(樹脂膜)は、架橋反応が促進されることにより、積層された塗膜同士のにじみや接着性不良を生じにくく、良好な塗膜が効率的に形成され得る。
また、前記水性樹脂組成物は、それ以外の優れた架橋性に基づく諸物性をも発揮し得るものであり、例えば、前記樹脂膜が基材上に形成されてなる物品は、高い引張強度や、優れた耐熱性、耐久性、接着性、密着性、耐チッピング性、耐スクラッチ性及び相溶性が求められる用途にも適用することができる。具体的には、自動車、建築、重防食塗装、食品包装、ヘルスケア等の分野で好適に適用することができる。
【実施例
【0059】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
[ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)の合成]
まず、下記実施例及び比較例で用いられる各ポリカルボジイミド化合物を合成した。
下記合成例で用いたジイソシアネート化合物及び末端封止化合物を以下に示す。
なお、本明細書における分子量は、計算値又はカタログ値である。
【0060】
<ジイソシアネート化合物>
・HMDI:ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
・XDI:m-キシリレンジイソシアネート
・IPDI:イソホロンジイソシアネート
【0061】
<末端封止化合物>
・MP(550):ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量550)
・MP(400):ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)
・MP(500):ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量500)
・CHI:シクロヘキシルイソシアネート(分子量125.17)
・CHA:シクロヘキシルアミン(分子量99.17)
・AA:N,N-ジエチルイソプロパノールアミン(分子量131.58)
・IPA:イソプロパノール(分子量60.10)
・GM:グリコール酸メチル(分子量90.08)
・BzOH:ベンジルアルコール(分子量108.14)
・C18OH:オレイルアルコール(分子量268.48)
【0062】
また、下記合成例における各分析は以下の装置及び方法にて行った。
<赤外吸収(IR)スペクトル>
・測定装置:「FTIR-8200PC」、株式会社島津製作所製
<末端イソシアネート基量>
使用装置:自動滴定装置「COM-900」、平沼産業株式会社製
既知濃度のジ-n-ブチルアミンのトルエン溶液を添加して、末端イソシアネート基とジ-n-ブチルアミンとを反応させた。残存するジ-n-ブチルアミンを塩酸標準液で中和滴定し、イソシアネート基の残存量[質量%](末端NCO量)を算出した。
【0063】
(合成例A1-1)
HMDI 100質量部、及びカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン1-オキシド0.5質量部を、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、170℃で18時間撹拌し、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートの重合体であり、両末端にイソシアネート基を有するイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を得た。
IRスペクトル測定により波長2150cm-1前後のカルボジイミド基による吸収ピークを確認した。また、末端NCO量は5.07質量%(カルボジイミド基の重合度6.4)であった。
得られたイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物85.5質量部を150℃で溶解し、これに、末端封止化合物(T1)としてMP(550)を56.7質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して2モル)添加し、180℃まで加熱して撹拌しながら2時間反応させた。反応生成物について、IRスペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認した後、反応容器から取り出し、室温(25℃)まで冷却し、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(A1-1)を得た(分子量2760)。
【0064】
(合成例A1-2)
合成例A1-1において、HMDIの重合の反応時間を16時間とし、末端NCO量7.4質量%(カルボジイミド基の重合度4.0)のイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を得た。
得られたイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物86.6質量部を150℃で溶解し、これに、末端封止化合物(T1)としてMP(550) 84.0質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して2モル)を添加し、180℃まで加熱して撹拌しながら2時間反応させた。反応生成物について、IRスペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認した後、反応容器から取り出し、室温(25℃)まで冷却し、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(A1-2)を得た(分子量2235)。
【0065】
(合成例A1-3)
合成例A1-1と同様にして、末端NCO量12.02質量%(カルボジイミド基の重合度2.0)のイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を得た。
得られたイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物88.8質量部を150℃で溶解し、これに、末端封止化合物(T1)としてMP(550)を139.7質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して2モル)添加し、それ以降は合成例A1-1と同様にして、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(A1-3)を得た(分子量1799)。
【0066】
(合成例A1-4)
合成例A1-1と同様にして、末端NCO量3.77質量%(カルボジイミド基の重合度9.0)のイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を得た。
得られたイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物88.8質量部を150℃で溶解し、これに、末端封止化合物(T1)としてMP(550)を139.7質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して2モル)添加し、それ以降は合成例A1-1と同様にして、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(A1-4)を得た(分子量3327)。
【0067】
(合成例A1-5)
合成例A1-1において、末端封止化合物(T1)としてMP(550)に代えて、MP(400)を41.3質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して2モル)添加し、それ以外は合成例A1-1と同様にして、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(A1-5)を得た(分子量2460)。
【0068】
(合成例A1-6)
合成例A1-1において、末端封止化合物(T1)としてMP(550)に代えて、MP(500)を51.5質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して2モル)添加し、それ以外は合成例1-1と同様にして、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(A1-6)を得た(分子量2660)。
【0069】
(合成例A2-1)
HMDI 100質量部、末端封止化合物(T2)としてCHI 6.4質量部、及びカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン1-オキシド1.2質量部を、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、180℃で47時間反応させた。反応生成物について、IRスペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が減少したことを確認した。末端NCO量が2.54質量%(カルボジイミド基の重合度6.4)であるポリカルボジイミド化合物を得た。
このポリカルボジイミド化合物を160℃まで加熱し、これに末端封止化合物(T1)としてMP(550)を28.3質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して1.0モル)加え、180℃まで加熱して撹拌しながら2時間反応させた。反応生成物について、IRスペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認した後、反応容器から取り出し、室温(25℃)まで冷却し、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(A2-1)を得た(分子量2291)。
【0070】
(合成例A2-2)
合成例A1-1で得られたイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物85.5質量部を150℃で溶解し、これに、末端封止化合物(T1)としてMP(550)を28.3質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して1.0モル)添加し、180℃まで加熱して撹拌しながら2時間反応させた。さらに、末端封止化合物(T2)としてAAを6.75質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して1.0モル)添加し、180℃まで加熱して撹拌しながら2時間反応させた。反応生成物について、IRスペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認した後、反応容器から取り出し、室温(25℃)まで冷却し、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(A2-2)を得た(分子量2341)。
【0071】
(合成例A2-3)
合成例A2-2において、末端封止化合物(T2)としてAAに代えて、BzOHを5.57質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して1モル)添加し、それ以外は合成例A2-2と同様にして、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(A2-3)を得た(分子量2318)。
【0072】
(合成例B-1)
HMDI 100質量部、末端封止化合物(T3)及び(T4)としてCHI 23.9質量部、及びカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン1-オキシド1.2質量部を、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、180℃で47時間反応させた。反応生成物について、IRスペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認した後、反応容器から取り出し、室温(25℃)まで冷却し、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(B-1)を得た(分子量1078)。
【0073】
(合成例B-2及びB-3)
合成例B-1において、CHIの添加量を47.8質量部、又は10.6質量部として、それ以外は合成例B-1と同様にして、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(B-2)又は(B-3)を得た。
【0074】
(合成例B-4)
HMDI 100質量部、及びカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン1-オキシド0.5質量部を、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、180℃で28時間撹拌し、90℃まで冷却し、イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物を得た。
IRスペクトル測定により波長2150cm-1前後のカルボジイミド基による吸収ピークを確認した。また、末端NCO量は2.35質量%(カルボジイミド基の重合度15.2)であった。
得られたイソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物84.2質量部を160℃で溶解し、これに、末端封止化合物(T3)及び(T4)としてCHAを4.7質量部(イソシアネート末端ポリカルボジイミド化合物1モルに対して2モル)添加し、180℃まで加熱して撹拌しながら1.5時間反応させた。反応生成物について、IRスペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認した後、反応容器から取り出し、黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(B-4)を得た(分子量3779)。得られたポリカルボジイミドは、室温(25℃)まで冷却し、ロールグラニュレーターで粉砕した。
【0075】
(合成例B-5~B-9)
合成例A1-1において、MP(550)に代えて、末端封止化合物(T3)及び(T4)としてAA 13.5質量部、IPA 6.2質量部、C18OH 27.7質量部、又はBzOH 11.1質量部を添加し、それ以外は合成例A1-1と同様にして、ポリカルボジイミド化合物(B-5)~(B-9)をそれぞれ得た。
【0076】
(合成例B-10)
HDI 100質量部、末端封止化合物(T3)及び(T4)としてCHI 28.1質量部、カルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド2.0質量部、及び溶剤としてジエチレングリコールジエチルエーテル100質量部を、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、150℃で24時間撹拌混合して反応させた。
その後、溶剤を減圧留去して、反応生成物を反応容器から取り出し、室温(25℃)まで冷却し、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(B-10)を得た(分子量702)。
【0077】
(合成例B-11)
合成例B-10において、HDIに代えてXDIを用い、また、CHIの添加量を33.3質量部として、それ以外は合成例B-10と同様にして、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(B-11)を得た(分子量782)。
【0078】
(合成例B-12)
IPDI 100質量部、末端封止化合物(T3)及び(T4)としてCHI 28.1質量部、及びカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド2.0質量部を、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、150℃で24時間撹拌混合して反応させた。反応生成物について、IRスペクトル測定にて、波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収ピークが消失したことを確認した後、反応生成物を反応容器から取り出し、室温(25℃)まで冷却し、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミド化合物(B-12)を得た(分子量918)。
【0079】
[水性樹脂架橋剤含有液の調製]
下記実施例及び比較例で用いた界面活性剤(C)の詳細は以下のとおりである。
<界面活性剤(C)>
・C1:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アニオン性
・C2:N-ココイルメチルタウリンナトリウム、アニオン性
・C3:ラウリル硫酸ナトリウム、アニオン性
・C4:ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、アニオン性
・C5:2-エチルヘキシル硫酸エステルナトリウム、アニオン性
・C6:α-スルホ脂肪酸メチルエステルナトリウム塩、アニオン性
・C7:ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ノニオン性
・C8:ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(MP(550))、ノニオン性
【0080】
(実施例1)
ポリカルボジイミド化合物(A1-1) 1質量部、及びポリカルボジイミド化合物(B-1) 99質量部を160℃で4時間撹拌混合後、80℃に冷却し、界面活性剤(C1)の水溶液(有効成分16質量%)を3質量部(有効成分換算)添加して、イオン交換水150質量部で希釈して撹拌混合し、水性樹脂架橋剤含有液を得た。
【0081】
(実施例2~45及び比較例1~6)
下記表1~3の各実施例及び比較例に示す組成で、実施例1と同様にして、ポリカルボジイミド化合物(A)及び(B)、並びに界面活性剤(C)を配合し、イオン交換水で希釈して、水性樹脂架橋剤含有液を得た。
なお、表1~3に記載の界面活性剤(C)の配合量は、有効成分換算量である。
【0082】
(比較例7)
実施例1において、ポリカルボジイミド化合物(A1-1)を添加せず、ポリカルボジイミド化合物(B-1) 100質量部に、80℃で界面活性剤(C1)の水溶液(有効成分16質量%)を50質量部(有効成分換算)添加して、イオン交換水150質量部で希釈して撹拌混合し、水性樹脂架橋剤含有液を得た。
【0083】
[水性樹脂組成物の評価]
上記の実施例及び比較例の各水性樹脂架橋剤含有液、及び各種水性樹脂を用いて、水性樹脂組成物を調製し、下記に示す各種評価試験を行った。試験1~4の結果を下記表1~3に示し、試験5及び6の結果を下記表4に示し、試験7~9の結果を下記表5に示す。なお、試験5~9は、実施例については表4及び5に示すものを代表例として実施した。
【0084】
(試験1)保存安定性試験(1)
水性アクリル樹脂(「AC261P」、ダウ・ケミカル社製、樹脂固形分約40質量%の水分散体)100質量部に、水性樹脂架橋剤含有液(水性樹脂架橋剤の濃度約40質量%)5質量部(水性樹脂架橋剤として約2質量部)を添加して混合し、水性樹脂組成物を調製した。
各水性樹脂組成物を50℃で保管し、保存安定性試験(1)を行った。調製直後及び30日経過後の粘度を測定し、調製直後の粘度に対する30日経過後の粘度の変化率を求め、これにより保存安定性の評価を行った。粘度変化率0%は、粘度変化がないことを意味し、粘度変化率が0%に近いほど、保存安定性に優れていることを示している。
粘度測定は、B形粘度計(「TVB-10M」、ローター:TM2、東機産業株式会社製)を用いて、温度20℃、回転数60rpmにて行った。
なお、比較例1においては、水性架橋剤と水性樹脂とが分離した状態となったため、粘度測定を行わなかった。また、比較例7は、水性樹脂組成物中に凝集物が生じており、粘度測定が困難であった。
【0085】
(試験2)耐水性試験(1)
(試験1)で調製した各水性樹脂組成物を用いて、アルミ板上に、ワイヤーロッド32番のバーコーターを用いて塗工し、120℃で10分間乾燥させた後、室温(25℃)で1日間放置して、塗膜試料を作製した。
各塗膜試料上にイオン交換水を染み込ませた脱脂綿を載せ、24時間放置することにより、耐水性試験(1)を行った。
【0086】
試験後の塗膜試料の状態を目視観察し、下記の評価基準に基づいて、4点満点で点数評価した。試験回数10回の平均点を評価点として、下記表1~3に示した。評価点が高いほど、耐水性に優れた塗膜であることを示している。
なお、比較例1及び7の塗膜試料は、凝集物があり、均質な塗膜ではなかった。
<評価基準>
4点 :変化なし
3.5点:一部輪郭跡あり
3点 :全体的に輪郭跡あり
2.5点:一部透明性が低下
2点 :全体的に透明性が低下
1.5点:一部不透明、一部に小発泡
1点 :全体的に不透明、全体的に小発泡
0.5点:全体的に発泡、塗膜にひび
0点 :全体的に発泡、塗膜に割れ
【0087】
(試験3)耐溶剤性試験(1)
水性ポリウレタン樹脂(「ロックタイト(登録商標)TW600」、ヘンケル社製、樹脂固形分35質量%の水分散体、黒色塗料)100質量部に、水性樹脂架橋剤含有液(水性樹脂架橋剤の濃度約40質量%)12.5質量部(水性樹脂架橋剤として約5質量部)を添加混合して、水性樹脂組成物を調製した。
各水性樹脂組成物を、アルミ板上に、ワイヤーロッド32番のバーコーターを用いて塗工し、100℃で5分間乾燥させて、塗膜試料を作製した。
各塗膜試料について、摩擦試験機(「型式FR-1B」、スガ試験機株式会社製)を用いて、溶剤として70質量%エタノール水溶液を染み込ませた脱脂綿(荷重900g/cm2)を往復50回ダブルラビングすることにより、耐溶剤性試験(1)を行った。
【0088】
試験後の塗膜試料の状態を目視観察し、白化性、塗膜残存面積、及びグレースケール(ダブルラビング後の脱脂綿の着色具合)を、下記の評価基準に基づいて点数評価した。各5点満点とし、3種の評価の平均点を求め、この平均点の試験回数2回の平均を総合評価点として、下記表1~3に示した。総合評価点が高いほど、耐溶剤性に優れた塗膜であることを示している。
なお、比較例1及び7の塗膜試料は、凝集物があり、均質な塗膜ではなかった。
<評価基準>
〔白化性〕
5点:変化なし
4点:薄いラビング痕あり又はわずかな白化
3点:一部白化
2点:全体白化
1点:一部溶解
0点:完全溶解
〔塗膜残存面積〕
5点 :100%
4.5点:95%以上100%未満
4点 :85%以上95%未満
3.5点:75%以上85%未満
3点 :60%以上75%未満
2.5点:45%以上60%未満
2点 :40%以上45%未満
1.5点:25%以上40%未満
1点 :10%以上25%未満
0点 :10%未満
〔グレースケール〕
評価基準は、JIS L 0805:2005の汚染用グレースケールの判定に準じ、判定段階の級数を点数とした。5級(5点)は、全く着色していない場合であり、1級(1点)は着色が著しい場合である。
【0089】
(試験4)耐水接着性試験
水性ポリウレタン樹脂(「ハイドランAP-60LM」、DIC株式会社製、樹脂固形分約40質量%の水分散体)100質量部に、水性樹脂架橋剤含有液(水性樹脂架橋剤の濃度約40質量%)2質量部を添加して混合し、水性樹脂組成物を調製した。
各水性樹脂組成物を、表面をアセトンで洗浄した厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ワイヤーロッド32番のバーコーターを用いて塗工し、60℃で1分間予備乾燥した。塗工したフィルム2枚の塗工面同士を貼り合わせ、ポリエチレンテレフタレートで挟み込み、80℃で熱ロールプレス(ロール回転速度0.5rpm)を行った。貼り合わされたフィルムを、2cm×12cmにカッターで切断し、試験片を作製した。
各試験片をイオン交換水に24時間浸漬し、浸漬前と浸漬後の試験片の接着強度をJIS K 6854-3:1999に準じたT形はく離試験(はく離速度100mm/min)により測定した。接着強度が高いほど、水性樹脂組成物が優れた接着性を発揮し得るものであると言える。また、浸漬前後での接着強度の低下率が0に近いものほど、耐水接着性に優れているといることを示している。
なお、比較例1及び7の試験片は、浸漬前においても十分に接着しておらず、接着強度を測定することができなかった。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
(試験5)保存安定性試験(2)
水性アクリル樹脂(「BINDER EDC-250」、大日精化工業株式会社製、樹脂固形分14質量%の水分散体)100質量部に、水性樹脂架橋剤含有液(水性樹脂架橋剤の濃度約40質量%)15質量部(水性樹脂架橋剤として約7質量部)、染料(「ダイストーン(登録商標) Xカラー Blue MX」、株式会社松井色素化学工業所製)25質量部、イオン交換水865質量部を添加して混合し、繊維処理用水性樹脂組成物を調製した。
各水性樹脂組成物を50℃で保管し、保存安定性試験(2)を行った。調製直後及び30日経過後の粘度を測定し、調製直後の粘度に対する30日経過後の粘度の変化率を求め、これにより保存安定性の評価を行った。粘度変化率0%は、粘度変化がないことを意味し、粘度変化率が0%に近いほど、保存安定性に優れていることを示している。
粘度測定は、B形粘度計(「TVB-10M」、ローター:TM2、東機産業株式会社製)を用いて、温度20℃、回転数60rpmにて行った。
なお、比較例1は、水性架橋剤と水性樹脂とが分離した状態となったため、粘度測定を行わなかった。また、比較例7は、水性樹脂組成物中に凝集物が生じており、粘度測定が困難であった。
【0094】
(試験6)耐水性試験(2)
(試験5)で調製した繊維処理用水性樹脂組成物に生布(綿)を浸して、該水性樹脂組成物を含侵させた生布を、100℃の乾燥機で2分間乾燥させた後、25℃で1日間放置し、布試料を得た。
各布試料について、摩擦試験機(「型式FR-1B」、スガ試験機株式会社製)を用いて、水をしみ込ませた脱脂綿(添付白布)(荷重900g/cm)を100回往復させる染色堅牢度試験を行い、これを耐水性試験(2)とした。
【0095】
試験後の布試料及び添付白布の状態を目視観察し、布試料の色落ち性(変退色)、及び添付白布への色移り性(汚染)を、それぞれ、JIS L 0804:2004及びJIS L 0805:2005の各グレースケールを基準として級数判定し、級数を点数とした。
色落ち性は、5級(5点)が、全く色落ち(変退色)していない場合であり、1級(1点)が、色落ちが著しい場合である。色移り性は、5級(5点)が、全く着色していない場合であり、1級(1点)が、着色が著しい場合である。
色落ち性及び色移り性の各評価点の平均点を求め、この平均点の試験回数2回の平均を総合評価点とし、下記表4に示した。総合評価点が高いほど、布試料が耐水性に優れていることを示している。
なお、比較例1及び7の布試料は、表面に凝集物が観察された。
【0096】
【表4】
【0097】
(試験7)保存安定性試験(3)
水性ポリエステル樹脂(「プラスコート(登録商標) Z-730」、互応化学工業株式会社製、樹脂固形分約25質量%の水分散体)100質量部に、水性樹脂架橋剤含有液(水性樹脂架橋剤の濃度約40質量%)5質量部(水性樹脂架橋剤として約2質量部)を添加して混合し、水性樹脂組成物を調製した。
各水性樹脂組成物について、(試験1)と同様にして、保存安定性試験(3)を行った。
なお、比較例1においては、水性架橋剤と水性樹脂とが分離した状態となったため、粘度測定を行わなかった。また、比較例7は、水性樹脂組成物中に凝集物が生じており、粘度測定が困難であった。
【0098】
(試験8)耐水性試験(3)
(試験7)で調製した各水性樹脂組成物を用いて、(試験2)と同様にして、耐水性試験(3)を行った。評価も(試験2)と同様にして行った。
なお、比較例1及び7の塗膜試料は、凝集物があり、均質な塗膜ではなかった。
【0099】
(試験9)耐溶剤性試験(2)
(試験7)で調製した各水性樹脂組成物を用いて、(試験3)と同様にして、耐溶剤性試験(2)を行った。評価も(試験3)と同様にして行った。
なお、比較例1及び7の塗膜試料は、凝集物があり、均質な塗膜ではなかった。
【0100】
【表5】
【0101】
表1~5に示した結果から分かるように、本発明の水性樹脂架橋剤は、水性樹脂と併存させた状態での保存安定性に優れ、また、これを用いることにより、耐水性、耐溶剤性及び耐水接着性に優れた水性樹脂の硬化物が得られることが認められた。