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特許7386234複合試料内の関連化合物の同定およびスコア化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】複合試料内の関連化合物の同定およびスコア化
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20231116BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 V
H01J49/00 360
H01J49/00 310
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021510391
(86)(22)【出願日】2019-08-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 IB2019056937
(87)【国際公開番号】W WO2020044161
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】62/725,989
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】テイト, スティーブン エー.
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-504601(JP,A)
【文献】特表2017-535773(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0255258(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0131998(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0179020(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0332681(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 27/92
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、前記既知の化合物の滞留時間を検証するためのシステムであって、前記システムは、
試料混合物から既知の化合物および前記既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを分離する分離デバイスと、
複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次質量窓幅を使用して、前記分離している試料混合物に1つ以上の質量分析/質量分析(MS/MS)スキャンを実施し、前記複数の滞留時間に関して、前記質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を生成する質量分析計と、
前記既知の化合物および前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含むデータベースと、
プロセッサと
を備え、
前記プロセッサは、
前記複数の滞留時間に関して、前記質量範囲全体に関する前記生成イオンスペクトルの集合を受信することと、
前記データベースを使用して、前記既知の化合物のM個の生成イオンを選択することと、
前記生成イオンスペクトルの集合から前記M個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、M個のXICを生成することと、
曲線減算を使用して、前記M個のXICから前記既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算することと、
前記既知の化合物を表す前記第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークを選択することと、
前記データベースを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンを選択することと、
前記生成イオンスペクトルの集合から前記L個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、L個のXICを生成することと、
曲線減算を使用して、前記L個のXICから前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算することと、
前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す前記第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークを選択することと、
前記データベースから見出される前記第1のXICピークの期待滞留時間と前記データベースから見出される前記第2のXICピークの期待滞留時間との間の差によって前記第2のXICピークの滞留時間をシフトすることと、
前記第2のXICピークの前記シフトされた滞留時間が前記第1のXICピークの前記滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、前記第1のXICピークの前記滞留時間が前記既知の化合物の前記滞留時間であることを検証することと
を行う、システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記第1のXICピークと前記第2のXICピークとの類似性をさらに比較し、前記類似性に基づいて、前記第1のXICピークおよび前記第2のXICピークをスコア化する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、曲線減算を使用して、前記M個のXICから前記既知の化合物を表す前記第1のXICピークグループを計算し、前記第1のXICピークグループを計算することは、
前記M個のXICのうちの各XICを他のM個のXICの各々から減算し、
【数50】
個の減算曲線を生成することであって、各減算曲線は、各滞留時間において、
前記各滞留時間における第1のXICの強度と2つ以上の隣接した滞留時間における前記第1のXICの2つ以上の強度とを正規化することと、
前記各滞留時間における第2のXICの強度と前記隣接した滞留時間における前記第2のXICの2つ以上の強度とを正規化することと、
前記第2のXICの前記正規化された強度を前記第1のXICの対応する正規化された強度から減算することと、
差分強度の統計的尺度を計算することと
を行うことによって、前記第1のXICおよび前記第2のXICから計算される、ことと、
前記
【数51】
個の減算曲線のうちの1つ以上の減算曲線がゼロの閾値以内である値を有する1つ以上の滞留時間の少なくとも1つの領域を同定することと、
前記少なくとも1つの領域に関して、前記領域を同定する前記1つ以上の減算曲線を計算するために使用された2つ以上のXICを取得し、前記領域内にある前記2つ以上のXICの各ピークを前記第1のピークグループに追加することと
による、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の平均を計算することを含む、請求項3に記載のシステム
【請求項5】
滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度の前記平均μi+mは、
【数52】
に従って計算され、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数53】
は、滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度である、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の標準偏差を計算することを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度の前記標準偏差σi+mは、
【数54】
に従って計算され、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数55】
は、滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度であり、μi+mは、
【数56】
に従って計算される前記平均である、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の中央値、最頻値、または分散のうちの1つを計算することを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサは、曲線減算を使用して、前記L個のXICから前記既知の化合物を表す前記第2のXICピークグループを計算し、前記第2のXICピークグループを計算することは、
前記L個のXICのうちの各XICを他のL個のXICの各々から減算し、
【数57】
個の減算曲線を生成することであって、各減算曲線は、各滞留時間において、
前記各滞留時間における前記第1のXICの強度と2つ以上の隣接した滞留時間における前記第1のXICの2つ以上の強度とを正規化することと、
前記各滞留時間における前記第2のXICの強度と前記隣接した滞留時間における前記第2のXICの2つ以上の強度とを正規化することと、
前記第2のXICの前記正規化された強度を前記第1のXICの対応する正規化された強度から減算することと、
差分強度の統計的尺度を計算することと
を行うことによって、前記第1のXICおよび前記第2のXICから計算される、ことと、
前記
【数58】
個の減算曲線のうちの1つ以上の減算曲線がゼロの閾値以内である値を有する1つ以上の滞留時間の少なくとも1つの領域を同定することと、
前記少なくとも1つの領域に関して、前記領域を同定する前記1つ以上の減算曲線を計算するために使用された2つ以上のXICを取得し、前記領域内にある前記2つ以上のXICの各ピークを前記第2のピークグループに追加することと
による、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の平均を計算することを含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度の前記平均μi+mは、
【数59】
に従って計算され、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数60】
は、滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の標準偏差を計算することを含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度の前記標準偏差σi+mは、
【数61】
に従って計算され、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数62】
は、滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度であり、μi+mは、
【数63】
に従って計算される前記平均である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、前記既知の化合物の滞留時間を検証する方法であって、前記方法は、
複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を取得することであって、既知の化合物および前記既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドは、分離デバイスを使用して、試料混合物から分離され、1つ以上の質量分析/質量分析(MS/MS)スキャンは、複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、前記質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次前駆体イオン質量窓幅を使用して、前記分離している試料混合物に実施され、質量分析計を使用して、前記複数の滞留時間に関して、前記質量範囲全体に関する前記生成イオンスペクトルの前記集合を生成する、ことと、
プロセッサを使用して、前記既知の化合物および前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含むデータベースを使用して、前記既知の化合物のM個の生成イオンを選択することと、
前記プロセッサを使用して、前記生成イオンスペクトルの集合から前記M個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、M個のXICを生成することと、
前記プロセッサを使用して、曲線減算を使用して、前記M個のXICから前記既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記既知の化合物を表す前記第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークを選択することと、
前記プロセッサを使用して、前記データベースを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンを選択することと、
前記プロセッサを使用して、前記生成イオンスペクトルの集合から前記L個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、L個のXICを生成することと、
前記プロセッサを使用して、曲線減算を使用して、前記L個のXICから前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す前記第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークを選択することと、
前記プロセッサを使用して、前記データベースから見出される前記第1のXICピークの前記期待滞留時間と前記データベースから見出される前記第2のXICピークの前記期待滞留時間との間の差によって前記第2のXICピークの滞留をシフトすることと、
前記プロセッサを使用して、前記第2のXICピークの前記シフトされた滞留時間が前記第1のXICピークの前記滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、前記第1のXICピークの前記滞留時間が前記既知の化合物の前記滞留時間であることを検証することと
を含む、方法。
【請求項15】
非一過性の有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、前記記憶媒体のコンテンツは、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して前記既知の化合物の滞留時間を検証する方法を実施するためのプロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含み、前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、測定モジュールと、分析モジュールとを備えている、ことと、
前記測定モジュールを使用して、複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を取得することであって、既知の化合物および前記既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドは、分離デバイスを使用して、試料混合物から分離され、1つ以上の質量分析/質量分析(MS/MS)スキャンは、複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、前記質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次前駆体イオン質量窓幅を使用して、前記分離している試料混合物に実施され、質量分析計を使用して、前記複数の滞留時間に関して、前記質量範囲全体に関する前記生成イオンスペクトルの集合を生成する、ことと、
前記分析モジュールを使用して、前記既知の化合物および前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含むデータベースを使用して、前記既知の化合物のM個の生成イオンを選択することと、
前記分析モジュールを使用して、前記生成イオンスペクトルの前記集合から前記M個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、M個のXICを生成することと、
前記分析モジュールを使用して、曲線減算を使用して、前記M個のXICから前記既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記既知の化合物を表す前記第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークを選択することと、
前記分析モジュールを使用して、前記データベースを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンを選択することと、
前記分析モジュールを使用して、前記生成イオンスペクトルの前記集合から前記L個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、L個のXICを生成することと、
前記分析モジュールを使用して、曲線減算を使用して、前記L個のXICから前記既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す前記第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークを選択することと、
前記分析モジュールを使用して、前記データベースから見出される前記第1のXICピークの前記期待滞留時間と前記データベースから見出される前記第2のXICピークの前記期待滞留時間との間の差によって前記第2のXICピークの滞留をシフトすることと、
前記分析モジュールを使用して、前記第2のXICピークの前記シフトされた滞留時間が前記第1のXICピークの前記滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、前記第1のXICピークの前記滞留時間が前記既知の化合物の前記滞留時間であることを検証することと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、その内容が参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる2018年8月31日に出願された米国仮特許出願第62/725,989号の利益を主張する。
【0002】
(緒言)
本明細書の教示は、化合物の同定または定量化において、その化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを含むことに関する。より具体的に、本明細書の教示は、既知の化合物の1つ以上の付加物、修飾形態、またはペプチドについての情報を使用して、その既知の化合物の滞留時間を同定または検証するためのシステムおよび方法に関する。本明細書に開示されるシステムおよび方法は、限定ではないが、液体クロマトグラフィ(LC)デバイス等の分離デバイスに結合される質量分析計を使用して実施される。本明細書に開示されるシステムおよび方法は、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、または図1のコンピュータシステム等のコンピュータシステムと併せても実施される。
【背景技術】
【0003】
(背景)
(滞留時間の曖昧性)
質量分析計は、多くの場合、既知の溶出着目化合物を試料から同定および特性評価するために、クロマトグラフィまたは他の分離システムと結合される。そのような結合されたシステムにおいて、溶出溶媒は、イオン化され、一連の質量スペクトルが、規定された時間間隔において、溶出溶媒から取得される。これらの時間間隔は、例えば、1秒から100分以上に及ぶ。一連の質量スペクトルは、クロマトグラムまたは抽出イオンクロマトグラム(XIC)を形成する。
【0004】
XICで見出されるピークは、試料内の既知の化合物を同定または特性評価するために使用される。しかしながら、複合混合物において、同一の質量電荷比(m/z)を有する他のピークによる干渉が、既知の化合物を表すピークの決定を困難にし得る。ある場合、既知の化合物の期待滞留時間に関する情報が、利用不可能である。他の場合、既知の化合物の概算滞留時間が、既知であり得る。しかしながら、このような後者の場合でも、既知の化合物の正確なピークは、試料が複合物である場合、または試料間に少量を上回る滞留時間変動がある場合、曖昧であり得る。結果として、多くの場合、これらの場合において、既知の化合物を同定または特性評価することは困難である。
【0005】
従来の分離結合型質量分析システムにおいて、既知の化合物の断片または生成イオンが、分析のために選択される。質量分析/質量分析(MS/MS)スキャンが、次いで、生成イオンを含む質量範囲にわたって分離の各間隔で実施される。各MS/MSスキャンで見出される生成イオンの強度は、経時的に収集され、例えば、スペクトルの集合、またはXICとして分析される。
【0006】
単純な試料混合物に関して、例えば、生成イオンを表す単一のピークが、典型的に、既知の化合物の期待滞留時間においてXICで見出される。しかしながら、より複雑な混合物に関して、生成イオンを表す2つ以上のピークは、既知の化合物の期待滞留時間に加えて、スペクトルの集合内で1つ以上の追加の時間間隔に位置する。換言すると、生成イオンのXICは、2つ以上のピークを有することができる。
【0007】
より複雑な混合物内の着目化合物を同定する1つの従来的方法は、既知の化合物の生成イオンのうちの2つ以上のものがピークを有する時間間隔の場所を特定することとなっている。方法は、例えば、既知の配列のペプチドが定量化されるとき、プロテオミクスで使用される。
【0008】
典型的多重反応監視(MRM)方法において、各々がペプチドの異なる生成イオン遷移に対応する2つ以上のMRM遷移が監視される。前の発見データが利用可能である場合、これらの遷移は、データで観察される最大生成イオンに基づく。別様に、これらの遷移は、例えば、予測されるyイオンに基づく。XICは、これらの2つ以上のMRM遷移について分析される。全ての遷移に関して生成イオンピークがある時間は、既知の化合物を特性評価するために使用される。
【0009】
複合試料に関して、特に、期待滞留時間が正確に把握されていない場合、生成イオンスペクトルの集合に曖昧性があり得る。例えば、2つ以上の滞留時間または時間間隔があり得、2つ以上の滞留時間または時間間隔に関して、2つ以上のMRM遷移の各々に関する生成イオンピークがある。
【0010】
複合試料によって導入される曖昧性に対処するために、わずかな追加の情報しか利用可能ではない。従来的分離結合型質量分析システムにおいて、各時間間隔における各生成イオンに関する各MS/MSスキャンは、典型的に、狭い前駆体イオン質量窓幅を使用して実施される。結果として、データ収集後に利用可能である、各断片イオンに関する特定の時間間隔における生成イオン質量スペクトルは、わずかな追加の洞察しか提供することができない。
【0011】
「Use of Windowed Mass Spectrometry Data for Retention Time Determination or Confirmation」と題された現在は米国特許第9,343,276号である米国特許出願第14/368,874号(以降では「第‘874号出願」)は、追加のMS/MSデータを収集し、複合試料によって導入される曖昧性に対処するためにこのデータを使用する方法を説明する。第‘874号出願は、参照することによって本明細書に組み込まれる。第‘874号出願において、質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次質量窓幅を使用して、各時間間隔でMS/MSスキャンを実施する分離結合型質量分析システムが、使用される。換言すると、質量範囲全体のスペクトル情報が、分離内の各時間間隔で取得される。質量全体に及ぶために、1つ以上の順次質量窓幅または前駆体イオン質量選択窓を使用して、MS/MSスキャンを実施するための1つの方法は、ABSciexのSWATHTM技法である。
【0012】
図2は、前駆体イオン質量対電荷比(m/z)範囲の例示的略図200であり、m/z範囲は、データ独立入手(DIA)SWATHTMワークフローのための10個の前駆体イオン質量選択窓に分割される。図2に示されるm/z範囲は、200m/zである。用語「質量」および「m/z」は、本明細書では同義的に使用されることに留意されたい。概して、質量分析測定は、m/zで行われ、電荷で乗算することによって質量に変換される。
【0013】
10個の前駆体イオン質量選択または分離窓の各々は、20m/zの幅に及ぶか、またはそれを有する。10個の前駆体イオン質量選択窓の中の3つ、窓201、202、および210が、図2に示される。前駆体イオン質量選択窓201、202、および210は、同一の幅を伴う非重複窓として示される。前駆体イオン質量選択窓は、重複することもでき、および/または、可変幅を有することもできる。米国特許出願第14/401,032号は、例えば、SWATHTM入手の単一のサイクルで重複する前駆体イオン質量選択窓を使用することを説明する。米国特許第8,809,772号は、例えば、SWATHTM入手で可変前駆体イオン質量選択窓を使用して、SWATHTM入手の単一のサイクルで可変幅を伴う前駆体イオン質量選択窓を使用することを説明する。従来のSWATHTM入手において、10個の前駆体イオン質量選択窓の各々が、選択され、次いで、断片化され、図2に示されるm/z範囲全体に関して10個の生成イオンスペクトルを生成する。
【0014】
図2は、例示的SWATHTM入手の単一のサイクルで使用される非可変かつ非重複前駆体イオン質量選択窓を描写する。SWATHTM入手方法を実施し得るタンデム質量分析計が、例えば、経時的に試料から1つ以上の化合物を分離する試料導入デバイスとさらに結合されることができる。試料導入デバイスは、限定ではないが、注入、液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、キャピラリ電気泳動、またはイオン移動度を含む技法を使用して、試料をタンデム質量分析計に導入することができる。分離された1つ以上の化合物は、イオン源によってイオン化され、イオン源は、その1つ以上の化合物の前駆体イオンのイオンビームを生成し、前駆体イオンは、タンデム質量分析計によって選択および断片化される。
【0015】
結果として、分離された化合物の試料導入の各時間ステップに関して、10個の前駆体イオン質量選択窓の各々が、選択され、次いで、断片化され、m/z範囲全体に関して10個の生成イオンスペクトルを生成する。換言すると、10個の前駆体イオン質量選択窓の各々が、複数のサイクルのうちの各サイクル中、選択され、次いで、断片化される。
【0016】
図3は、DIAワークフローの各サイクル中、各前駆体イオン質量選択窓から生成イオントレースまたは抽出イオンクロマトグラム(XIC)を取得するためのステップをグラフで描写する例示的略図300である。例えば、図3の前駆体イオン質量選択窓201、202、および210によって表される10個の前駆体イオン質量選択窓が、合計1,000サイクルのうちの各サイクル中に選択および断片化される。
【0017】
各サイクル中、生成イオンスペクトルが、各前駆体イオン質量選択窓に関して取得される。例えば、生成イオンスペクトル311が、サイクル1中に前駆体イオン質量選択窓201を断片化することによって取得され、生成イオンスペクトル312が、サイクル2中に前駆体イオン質量選択窓201を断片化することによって取得され、生成イオンスペクトル313が、サイクル1000中に前駆体イオン質量選択窓201を断片化することによって取得される。
【0018】
経時的に各前駆体イオン質量選択窓の各生成イオンスペクトル内の生成イオンの強度をプロットすることによって、XICが、各前駆体イオン質量選択窓から生成される各生成イオンに関して計算されることができる。例えば、プロット320は、前駆体イオン質量選択窓201の1,000個の生成イオンスペクトルの各生成イオンに関して計算されるXICを含む。XICは、時間またはサイクルの観点からプロットされ得ることに留意されたい。
【0019】
プロット320内のXICは、図3では2次元でプロットされて示される。しかしながら、異なるXICが、異なるm/z値から計算されるので、各XICは、実際には3次元である。
【0020】
図4は、経時的に前駆体イオン質量選択窓に関して取得される生成イオンXICの3次元性を示す例示的略図400である。図4において、x軸は、時間またはサイクル数であり、y軸は、生成イオン強度であり、z軸は、m/zである。この3次元プロットから、より多くの情報が、取得される。例えば、XICピーク410および420の両方は、同一の形状を有し、同時または同じ滞留時間に生じる。しかしながら、XICピーク410および420は、異なるm/z値を有する。これは、XICピーク410および420が同位体ピークであること、または同一の前駆体イオンからの異なる生成イオンを表すことを意味し得る。同様に、XICピーク430および440は、同一のm/z値を有するが、異なる時間に生じる。これは、XICピーク430および440が同一の生成イオンであるが、それらが2つの異なる前駆体イオンに由来することを意味し得る。
【0021】
第‘874号出願において、SWATHTMを使用して収集される質量範囲全体のスペクトル情報は、複合混合物において滞留時間の曖昧性を解決するために使用される。換言すると、生成イオンが、分離内の2つ以上の異なる時間間隔に、スペクトルの集合内の2つ以上のピークを有することが見出されるとき、異なる時間間隔の各々における生成イオン質量スペクトルは、実際の滞留時間を決定するために分析される。荷電状態、同位体状態、質量正確度、および既知の化合物の既知の断片化プロファイルに関連付けられる1つ以上の質量差を含む種々の基準が、質量範囲全体の質量スペクトルを分析するために使用される。これらの基準に基づいて、2つ以上の時間間隔における生成イオンの各ピークが、スコア化される。既知の化合物に関する滞留時間が、最高スコアを伴うピークにおいて同定される。
【0022】
図5は、第‘874号出願の方法が複合混合物における滞留時間の曖昧性を解決できる方法を示す例示的略図500である。方法において、例えば、抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)が、SWATHTM生成イオンスペクトルの集合から431のm/zを伴う生成イオンに関して計算される。このXICは、鎖線510に沿って描写される。XICは、2つのXICピーク、XICピーク511およびXICピーク512を有する。これらの2つのピークは、それぞれ、滞留時間T1およびT2にあり、滞留時間の曖昧性を提供する。
【0023】
結果として、第‘874号出願の方法は、曖昧性を解決するために、各XICピークの頂点においてm/zピークを含む質量スペクトルを取得する。例えば、質量スペクトル521が、XICピーク511の頂点におけるm/zピークであるm/zピーク531を含むので、質量スペクトル521が、XICピーク511に関して取得される。質量スペクトル522が、XICピーク512の頂点におけるm/zピークであるm/zピーク532を含むので、質量スペクトル522が、XICピーク512に関して取得される。
【0024】
第‘874号出願の方法は、取得される質量スペクトルのm/zピークの1つ以上のイオン特性の値を生成イオンに関する既知の値とさらに比較する。例えば、1つ以上のイオン特性は、m/zピークの質量正確度であり得る。m/zピーク531およびm/zピーク532の質量が、次いで、m/z431を伴う生成イオンに関する既知の正確な質量値と比較される。
【0025】
例えば、m/z431を伴う生成イオンの既知の質量正確度が431.0345であり、m/zピーク531の質量が431.0344であり、m/zピーク532の質量が431.128であると仮定されたい。次いで、m/zピーク531は、m/zピーク532よりm/z431を伴う生成イオンの既知の正確な質量に近い質量正確度を有する。結果として、XICピーク511の滞留時間は、XICピーク512の滞留時間より既知の化合物の滞留時間である可能性が高い。この確率は、例えば、XICピーク512より高いXICピーク511をスコア化することによって反映されることができる。
【0026】
第‘874号出願の方法は、滞留時間の曖昧性を解決するために、既知の化合物の2つ以上の生成イオンを使用することもできる。2つ以上の生成イオンの各々のピークは、2つ以上の時間間隔で独立してスコア化され、2つ以上の生成イオンのピークのスコアは、2つ以上の時間間隔の各々で組み合わせられる。次いで、滞留時間は、2つ以上の時間間隔の各々における組み合わせられたスコアから決定される。換言すると、第‘874号出願の方法は、各時間間隔で既知の化合物の2つ以上の異なる生成イオンのピークをグループ分けし、各時間間隔でグループの組み合わせられたスコアを比較する。
【0027】
しかしながら、第‘874号出願の方法は、既知の化合物の2つ以上の異なる生成イオンのXICピークが選択される方法を説明しない。MRM遷移に関して上で説明されるように、前の発見データが利用可能である場合、選択されるMRM遷移は、データで観察される最大生成イオンに基づく。換言すると、最も強い生成イオンピークを伴うMRM遷移が、選択される。
【0028】
例えば、第‘874号出願の方法は、同様に、最初に、第1の生成イオンの最も強いピークを選択し、次いで、第1の生成イオンの最も強いピークの頂点に時間が最も近い、他の生成イオンのピークを選択することによって、ピークをグループ分けすると仮定されたい。ここで、第1の生成イオンの最も強いピークは、既知の化合物ではない前駆体イオンに由来することを仮定されたい。他の生成イオンのピークが、次いで、グループ分けされ、間違ったピークでスコア化される。その結果として、第‘874号出願の方法の結果は、ピークグループに関するピークの適切な選択に高度に依存する。
【0029】
(ピークグループ選択)
「Detecting Mass Spectrometry Based Similarity Via Curve Subtraction」と題された国際出願第PCT/IB2016/050481号(以降では「第‘481号出願」)は、既知の化合物の2つ以上の生成イオンのXICピークをグループ分けする方法を説明する。第‘481号出願は、参照することによって本明細書に組み込まれる。第‘481号出願において、ピークのグループに関するピークの適切な選択が、曲線減算を使用して遂行される。
【0030】
図6は、既知の化合物の5つの生成イオンに関する5つのXICの例示的プロット600である。プロット600の5つのXICは、質量範囲全体に及ぶために、1つ以上のSWATHTM質量窓幅を使用して、分離の各時間間隔にMS/MSスキャンを実施することによって収集されるデータから計算される。プロット600の5つのXICの全ては、56の滞留時間の付近に類似性の領域を有すると考えられる。
【0031】
類似性の領域は、XICのペアにおける隣接した滞留時間における強度のグループを局所的に比較するか、またはそれらを減算することによって見出される。例えば、XIC620の強度は、同一の滞留時間におけるXIC610の強度から単純に減算されない。代わりに、各滞留時間において、XIC610の強度および2つ以上の隣接した滞留時間におけるXIC610の強度は、滞留時間におけるXIC610の強度によって除算され、XIC610の強度の第1のグループを効果的に正規化する。同一の滞留時間において、XIC620の強度および2つ以上の隣接した滞留時間におけるXIC620の強度は、滞留時間におけるXIC620の強度によって除算され、XIC620の強度の第2のグループを効果的に正規化する。第2のグループの各強度が、次いで、第1のグループの対応する強度から減算され、差分値の組を生成する。単一の値が、差分値の組の統計的尺度を計算することによって、各滞留時間に関して取得される。統計的尺度は、限定ではないが、差分値の組の平均、最頻値、中央値、分散、または標準偏差であり得る。
【0032】
図7は、滞留時間50と65との間の図6に示される5つのXICの詳細部分の例示的プロット700である。プロット700は、例えば、類似性の領域が、XICのペアにおいて、隣接した滞留時間、9つの強度のグループ、すなわち、N=9を局所的に比較または減算することによって見出される方法を示す。プロット700において、滞留時間57において正規化されるXIC610の9つの強度は、a53、a54、a55、a56、a57、a58、a59、a60、およびa61として示される。これらの9つの値の各々は、例えば、a57で除算することによって正規化される。滞留時間57において正規化されるXIC620の対応する9つの強度は、例えば、b53、b54、b55、b56、b57、b58、b59、b60、およびb61(図示せず)である。同様に、これらの9つの値の各々は、例えば、b57で除算することによって正規化される。正規化後、XIC620のこれらの9つの強度は、XIC610の対応する9つの強度から減算され、差分値の組を生成する。単一の値が、差分値の組の統計的尺度を計算することによって、滞留時間57に関して取得される。比較されるXICの各滞留時間に関して計算される統計的尺度は、比較または減算曲線としてプロットされることができる。
【0033】
図8は、図6に示されるXICのうちの2つのXICの強度の局所減算から計算される平均値を示す減算曲線の例示的プロット800である。プロット800に示される各平均値μは、例えば、式(1)に従って計算される。
【数1】
【0034】
各滞留時間i+mにおいて、第2のXICの強度値のうちのN個の隣接するものの各強度値bが、正規化され、第1のXICの強度値のうちのN個の隣接するものの各対応する正規化値aから減算される。Nは、奇数であり、mは、Nの中点である。
【0035】
図7に戻ると、プロット700は、例えば、9つの強度、すなわち、N=9を使用し、各滞留時間における平均を計算することを示す。プロット700において、滞留時間57における平均を計算することにおいて使用されるXIC610の9つの強度が、示される。これらの9つの強度は、a53、a54、a55、a56、a57、a58、a59、a60、およびa61である。滞留時間57における平均を計算することにおいて使用されるXIC620の対応する9つの強度は、例えば、b53、b54、b55、b56、b57、b58、b59、b60、およびb61(図示せず)である。
【0036】
XIC620が、XIC610から減算されるとき、滞留時間57における平均μ57が、式(1)に従って、XIC610の9つの点からXIC620の9つの点b53、b54、b55、b56、b57、b58、b59、b60、およびb61(図示せず)を減算することによって、計算される。例えば、滞留時間57における平均μ57は、
【数2】
に従って計算され、式中、9つの点の中点mは、5である。
【0037】
図8に戻ると、平均値を示す減算曲線は、2つのXICが類似する領域を同定するために使用されることができる。2つのXICが類似する領域において、平均は、ゼロに近いはずである。プロット800は、平均値がゼロに近い滞留時間56の近傍の滞留時間領域810を示す。結果として、プロット800は、2つのXICのピークが滞留時間領域810内でグループ分けされ得ることを示唆する。しかしながら、プロット800において、平均値は、頻繁にゼロの値を横切り、類似領域を区別することを若干困難にする。
【0038】
XICの類似領域は、標準偏差値を示す減算曲線を計算することによって、さらに区別されることができる。平均μのように、各滞留時間における標準偏差σは、滞留時間に及ぶ2つのXICの各々の領域における奇数N個のXIC値aおよびbから計算される。数学的に、滞留時間i+mに関して、点の数がNであり、N個の点の中点としてmを有する場合、標準偏差は、式(2)によって求められる。
【数3】
【0039】
図7に戻ると、例えば、XIC620が、XIC610から減算されるとき、滞留時間57における分散の平方根σ57は、式(2)に従って、XIC610の9つの点からXIC320の9つの点b53、b54、b55、b56、b57、b58、b59、b60、およびb61(図示せず)を減算することによって計算される。例えば、分散滞留時間57の平方根σ57は、
【数4】
に従って計算され、式中、9つの点の中間点mは、5である。
【0040】
図9は、図6に示されるXICのうちの2つのXICの強度の局所減算から計算される標準偏差値を示す減算曲線の例示的プロット900である。プロット900は、分散の平方根の値がゼロに近い滞留時間56の近傍の滞留時間領域910を示す。結果として、プロット900は、2つのXICのピークが滞留時間領域910内でグループ分けされ得ることを示唆する。図8との図9の比較は、2つのXICの類似領域が、平均値からより分散の平方根の値から容易に区別されることを示す。
【0041】
種々の実施形態において、既知の化合物のM個の生成イオンの各組に関して、XICの
【数5】
個の減算が実施され、
【数6】
個の減算曲線を生成する。M個のXICのピークが、次いで、
【数7】
個の減算曲線に従ってグループ分けされる。ゼロの閾値以内である値を有する
【数8】
個の減算曲線のうちの1つ以上のものの滞留時間が、同定される。換言すると、減算曲線は、統計的比較尺度がゼロに接近する場所に関して検討される。統計的比較尺度がゼロに接近する1つ以上の滞留時間に関して、該1つ以上の滞留時間を同定する1つ以上の減算曲線を計算するために使用された2つ以上のXICが、取得される。ピークグループが、1つ以上の滞留時間内の2つ以上のXICのピークから生成される。
【0042】
図10は、図6の5つのXICから計算される標準偏差値を示す
【数9】
個の減算曲線の例示的プロット1000である。プロット1000は、滞留時間56の近傍の滞留時間領域1010内で、
【数10】
個の減算曲線がゼロに近い値を有することを示す。これは、5つ全てのXICが滞留時間領域1010内で類似ピーク形状を有することを含意する。
【0043】
図11は、滞留時間50と65との間の図6に示される標準偏差値を示す
【数11】
個の減算曲線の詳細部分の例示的プロット1100である。プロット1100は、
【数12】
個の減算曲線が全て、滞留時間55と57との間の滞留時間領域1110内で0.1未満の値を有することをより明確に示す。結果として、滞留時間領域1110内の5つ全てのXICのピークが、グループ分けされることができる。グループのピークは、次いで、第‘874号出願で使用される基準に類似する基準を使用して、スコア化されることができる。次いで、最高スコアを伴うグループが、既知の化合物を同定および/または定量化するために使用される。
【0044】
第‘874号出願および第‘481号出願の方法は、複合試料内の既知の化合物の同定および定量化を大いに改良する。しかしながら、これらおよび他の方法は、単一の既知の化合物を測定することを対象とする。残念ながら、化合物は、処理中に生成されるアーチファクトである多くの形態で存在し得ることが公知である。問題は、これらの化合物が、異なる標的化合物の検出限界を縮小し、試料内で実際に変化しているものを把握する能力を限定する干渉も提供することである。
【0045】
結果として、複合試料内で同定または定量化されている化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドの存在を考慮し得るシステムおよび方法が、必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【文献】米国特許第9,343,276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0047】
(要約)
システム、方法、およびコンピュータプログラム製品が、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、既知の化合物の滞留時間を検証するために開示される。3つ全ての実施形態は、以下のステップを含む。
【課題を解決するための手段】
【0048】
分離デバイスが、試料混合物から既知の化合物および既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを分離する。質量分析計が、複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次質量窓幅を使用して、分離している試料混合物に1つ以上の質量分析/質量分析(MS/MS)スキャンを実施し、複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を生成する。データベースは、既知の化合物および既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含む。
【0049】
プロセッサが、質量分析計から複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を受信する。プロセッサは、データベースを使用して、既知の化合物のM個の生成イオンを選択する。プロセッサは、生成イオンスペクトルの集合からM個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、M個のXICを生成する。プロセッサは、曲線減算を使用して、M個のXICから既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算する。プロセッサは、既知の化合物を表す第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークを選択する。
【0050】
プロセッサは、データベースを使用して、既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンを選択する。プロセッサは、生成イオンスペクトルの集合からL個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、L個のXICを生成する。プロセッサは、曲線減算を使用して、L個のXICから既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算する。プロセッサは、既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークを選択する。
【0051】
プロセッサは、データベースから見出される第1のXICピークの期待滞留時間とデータベースから見出される第2のXICピークの期待滞留時間との間の差によって第2のXICピークの滞留をシフトする。プロセッサは、第2のXICピークのシフトされた滞留時間が第1のXICピークの滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、第1のXICピークの滞留時間が既知の化合物の滞留時間であることを検証する。滞留時間閾値は、事前決定されるか、または、例えば、ユーザから受信されることができる。
【0052】
本出願者の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、前記既知の化合物の滞留時間を検証するためのシステムであって、前記システムは、
試料混合物から既知の化合物および前記既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを分離する分離デバイスと、
複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次質量窓幅を使用して、前記分離している試料混合物に1つ以上の質量分析/質量分析(MS/MS)スキャンを実施し、前記複数の滞留時間に関して、前記質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を生成する質量分析計と、
前記既知の化合物および前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含むデータベースと、
プロセッサと
を備え、
前記プロセッサは、
前記複数の滞留時間に関して、前記質量範囲全体に関する前記生成イオンスペクトルの集合を受信することと、
前記データベースを使用して、前記既知の化合物のM個の生成イオンを選択することと、
前記生成イオンスペクトルの集合から前記M個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、M個のXICを生成することと、
曲線減算を使用して、前記M個のXICから前記既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算することと、
前記既知の化合物を表す前記第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークを選択することと、
前記データベースを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンを選択することと、
前記生成イオンスペクトルの集合から前記L個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、L個のXICを生成することと、
曲線減算を使用して、前記L個のXICから前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算することと、
前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す前記第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークを選択することと、
前記データベースから見出される前記第1のXICピークの期待滞留時間と前記データベースから見出される前記第2のXICピークの期待滞留時間との間の差によって前記第2のXICピークの滞留時間をシフトすることと、
前記第2のXICピークの前記シフトされた滞留時間が前記第1のXICピークの前記滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、前記第1のXICピークの前記滞留時間が前記既知の化合物の前記滞留時間であることを検証することと
を行う、システム。
(項目2)
前記プロセッサは、前記第1のXICピークと前記第2のXICピークとの類似性をさらに比較し、前記類似性に基づいて、前記第1のXICピークおよび前記第2のXICピークをスコア化する、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記プロセッサは、曲線減算を使用して、前記M個のXICから前記既知の化合物を表す前記第1のXICピークグループを計算し、前記第1のXICピークグループを計算することは、
前記M個のXICのうちの各XICを他のM個のXICの各々から減算し、
【数50】

個の減算曲線を生成することであって、各減算曲線は、各滞留時間において、
前記各滞留時間における第1のXICの強度と2つ以上の隣接した滞留時間における前記第1のXICの2つ以上の強度とを正規化することと、
前記各滞留時間における第2のXICの強度と前記隣接した滞留時間における前記第2のXICの2つ以上の強度とを正規化することと、
前記第2のXICの前記正規化された強度を前記第1のXICの対応する正規化された強度から減算することと、
差分強度の統計的尺度を計算することと
を行うことによって、前記第1のXICおよび前記第2のXICから計算される、ことと、
前記
【数51】

個の減算曲線のうちの1つ以上の減算曲線がゼロの閾値以内である値を有する1つ以上の滞留時間の少なくとも1つの領域を同定することと、
前記少なくとも1つの領域に関して、前記領域を同定する前記1つ以上の減算曲線を計算するために使用された2つ以上のXICを取得し、前記領域内にある前記2つ以上のXICの各ピークを前記第1のピークグループに追加することと
による、項目1に記載のシステム。
(項目4)
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の平均を計算することを含む、項目3に記載のシステム
(項目5)
滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度の前記平均μ i+m は、
【数52】

に従って計算され、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数53】

は、滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度である、項目4に記載のシステム。
(項目6)
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の標準偏差を計算することを含む、項目3に記載のシステム。
(項目7)
滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度の前記標準偏差σ i+m は、
【数54】

に従って計算され、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数55】

は、滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度であり、μ i+m は、
【数56】

に従って計算される前記平均である、項目6に記載のシステム。
(項目8)
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の中央値、最頻値、または分散のうちの1つを計算することを含む、項目3に記載のシステム。
(項目9)
前記プロセッサは、曲線減算を使用して、前記L個のXICから前記既知の化合物を表す前記第2のXICピークグループを計算し、前記第2のXICピークグループを計算することは、
前記L個のXICのうちの各XICを他のL個のXICの各々から減算し、
【数57】

個の減算曲線を生成することであって、各減算曲線は、各滞留時間において、
前記各滞留時間における前記第1のXICの強度と2つ以上の隣接した滞留時間における前記第1のXICの2つ以上の強度とを正規化することと、
前記各滞留時間における前記第2のXICの強度と前記隣接した滞留時間における前記第2のXICの2つ以上の強度とを正規化することと、
前記第2のXICの前記正規化された強度を前記第1のXICの対応する正規化された強度から減算することと、
前記差分強度の統計的尺度を計算することと
を行うことによって、前記第1のXICおよび前記第2のXICから計算される、ことと、
前記
【数58】

個の減算曲線のうちの1つ以上の減算曲線がゼロの閾値以内である値を有する1つ以上の滞留時間の少なくとも1つの領域を同定することと、
前記少なくとも1つの領域に関して、前記領域を同定する前記1つ以上の減算曲線を計算するために使用された2つ以上のXICを取得し、前記領域内にある前記2つ以上のXICの各ピークを前記第2のピークグループに追加することと
による、項目1に記載のシステム。
(項目10)
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の平均を計算することを含む、項目9に記載のシステム。
(項目11)
滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度の前記平均μ i+m は、
【数59】

に従って計算され、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数60】

は、滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度である、項目10に記載のシステム。
(項目12)
前記差分強度の統計的尺度を計算することは、前記差分強度の標準偏差を計算することを含む、項目9に記載のシステム。
(項目13)
滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度の前記標準偏差σ i+m は、
【数61】

に従って計算され、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数62】

は、滞留時間i+mに関して計算される前記差分強度であり、μ i+m は、
【数63】

に従って計算される前記平均である、項目12に記載のシステム。
(項目14)
既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、前記既知の化合物の滞留時間を検証する方法であって、前記方法は、
複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を取得することであって、既知の化合物および前記既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドは、分離デバイスを使用して、試料混合物から分離され、1つ以上の質量分析/質量分析(MS/MS)スキャンは、複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、前記質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次前駆体イオン質量窓幅を使用して、前記分離している試料混合物に実施され、質量分析計を使用して、前記複数の滞留時間に関して、前記質量範囲全体に関する前記生成イオンスペクトルの前記集合を生成する、ことと、
プロセッサを使用して、前記既知の化合物および前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含むデータベースを使用して、前記既知の化合物のM個の生成イオンを選択することと、
前記プロセッサを使用して、前記生成イオンスペクトルの集合から前記M個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、M個のXICを生成することと、
前記プロセッサを使用して、曲線減算を使用して、前記M個のXICから前記既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記既知の化合物を表す前記第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークを選択することと、
前記プロセッサを使用して、前記データベースを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンを選択することと、
前記プロセッサを使用して、前記生成イオンスペクトルの集合から前記L個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、L個のXICを生成することと、
前記プロセッサを使用して、曲線減算を使用して、前記L個のXICから前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す前記第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークを選択することと、
前記プロセッサを使用して、前記データベースから見出される前記第1のXICピークの前記期待滞留時間と前記データベースから見出される前記第2のXICピークの前記期待滞留時間との間の差によって前記第2のXICピークの滞留をシフトすることと、
前記プロセッサを使用して、前記第2のXICピークの前記シフトされた滞留時間が前記第1のXICピークの前記滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、前記第1のXICピークの前記滞留時間が前記既知の化合物の前記滞留時間であることを検証することと
を含む、方法。
(項目15)
非一過性の有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、前記記憶媒体のコンテンツは、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して前記既知の化合物の滞留時間を検証する方法を実施するためのプロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含み、前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、測定モジュールと、分析モジュールとを備えている、ことと、
前記測定モジュールを使用して、複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を取得することであって、既知の化合物および前記既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドは、分離デバイスを使用して、試料混合物から分離され、1つ以上の質量分析/質量分析(MS/MS)スキャンは、複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、前記質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次前駆体イオン質量窓幅を使用して、前記分離している試料混合物に実施され、質量分析計を使用して、前記複数の滞留時間に関して、前記質量範囲全体に関する前記生成イオンスペクトルの集合を生成する、ことと、
前記分析モジュールを使用して、前記既知の化合物および前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含むデータベースを使用して、前記既知の化合物のM個の生成イオンを選択することと、
前記分析モジュールを使用して、前記生成イオンスペクトルの前記集合から前記M個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、M個のXICを生成することと、
前記分析モジュールを使用して、曲線減算を使用して、前記M個のXICから前記既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記既知の化合物を表す前記第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークを選択することと、
前記分析モジュールを使用して、前記データベースを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンを選択することと、
前記分析モジュールを使用して、前記生成イオンスペクトルの前記集合から前記L個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、L個のXICを生成することと、
前記分析モジュールを使用して、曲線減算を使用して、前記L個のXICから前記既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記既知の化合物の前記少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す前記第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークを選択することと、
前記分析モジュールを使用して、前記データベースから見出される前記第1のXICピークの前記期待滞留時間と前記データベースから見出される前記第2のXICピークの前記期待滞留時間との間の差によって前記第2のXICピークの滞留をシフトすることと、
前記分析モジュールを使用して、前記第2のXICピークの前記シフトされた滞留時間が前記第1のXICピークの前記滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、前記第1のXICピークの前記滞留時間が前記既知の化合物の前記滞留時間であることを検証することと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【0053】
当業者は、下記に説明される図面が、例証目的のためにすぎないことを理解するであろう。図面は、本教示の範囲をいかようにも限定することも意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステムを図示するブロック図である。
【0055】
図2図2は、データ独立入手(DIA)SWATHTMワークフローのための10個の前駆体イオン質量選択窓に分割される前駆体イオン質量対電荷比(m/z)範囲の例示的略図である。
【0056】
図3図3は、DIAワークフローの各サイクル中、各前駆体イオン質量選択窓から生成イオントレースまたは抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)を取得するためのステップをグラフで描写する例示的略図である。
【0057】
図4図4は、経時的に前駆体イオン質量選択窓に関して取得される生成イオンXICの3次元性を示す例示的略図である。
【0058】
図5図5は、第‘874号出願の方法が複合混合物における滞留時間の曖昧性を解決し得る様子を示す例示的略図である。
【0059】
図6図6は、既知の化合物の5つの生成イオンに関する5つのXICの例示的プロットである。
【0060】
図7図7は、滞留時間50と65との間の図6に示される5つのXICの詳細部分の例示的プロットである。
【0061】
図8図8は、図6に示されるXICのうちの2つのXICの強度の局所減算から計算される平均値を示す減算曲線の例示的プロットである。
【0062】
図9図9は、図6に示されるXICのうちの2つのXICの強度の局所減算から計算される標準偏差値を示す減算曲線の例示的プロットである。
【0063】
図10図10は、図6の5つのXICから計算される標準偏差値を示す
【数13】
個の減算曲線の例示的プロットである。
【0064】
図11図11は、滞留時間50と65との間の図6に示される標準偏差値を示す
【数14】
個の減算曲線の詳細部分の例示的プロットである。
【0065】
図12図12は、種々の実施形態による、複合試料からの既知の化合物Aの形態A に関して見出される生成イオンXICピークの例示的プロットである。
【0066】
図13図13は、種々の実施形態による、複合試料で見出される既知の化合物Aの5つの形態毎に見出される生成イオンXICスコア曲線の例示的プロットである。
【0067】
図14図14は、種々の実施形態による、スコア曲線を化合物の正準形態Aの期待滞留時間と整列させるように期待滞留時間オフセットによってシフトされた既知の化合物Aの5つの形態の各々に関して見出される生成イオンスコア曲線の例示的プロットである。
【0068】
図15図15は、種々の実施形態による、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、既知の化合物の滞留時間を検証するためのシステムの概略図である。
【0069】
図16図16は、種々の実施形態による、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、既知の化合物の滞留時間を検証する方法を示すフローチャートである。
【0070】
図17図17は、種々の実施形態による、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、既知の化合物の滞留時間を検証する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
本教示の1つ以上の実施形態が、詳細に説明される前に、当業者は、本教示が、それらの用途において、以下の発明を実施するための形態に記載され、または図面に図示される構造、構成要素の配列、およびステップの配列の詳細に限定されないことを理解するであろう。本明細書で使用される語句および専門用語が説明の目的のためのものであり、限定的と見なされるべきではないことも理解されたい。
【0072】
(様々な実施形態の説明)
(コンピュータ実装システム)
図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステム100を図示するブロック図である。コンピュータシステム100は、情報を通信するためのバス102または他の通信機構と、情報を処理するためのバス102と結合されるプロセッサ104とを含む。コンピュータシステム100は、プロセッサ104によって実行されるべき命令を記憶するためにバス102に結合されたランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得るメモリ106も含む。メモリ106は、プロセッサ104によって実行されるべき命令の実行中、一時的変数または他の中間情報を記憶するためにも使用され得る。コンピュータシステム100は、プロセッサ104のための静的情報および命令を記憶するためにバス102に結合された読み取り専用メモリ(ROM)108または他の静的記憶デバイスをさらに含む。磁気ディスクまたは光ディスク等の記憶デバイス110は、情報および命令を記憶するために提供され、バス102に結合される。
【0073】
コンピュータシステム100は、バス102を介して、コンピュータユーザに情報を表示するために、ブラウン管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ112に結合され得る。英数字および他のキーを含む入力デバイス114が、情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信するために、バス102に結合される。別のタイプのユーザ入力デバイスは、方向情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信し、かつディスプレイ112上のカーソル移動を制御するためのマウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御116である。この入力デバイスは、デバイスが平面内で位置を規定することを可能にする2つの軸、第1の軸(すなわち、x)および第2の軸(すなわち、y)において2自由度を典型的に有する。
【0074】
コンピュータシステム100は、本教示を実施することができる。本教示のある実装によると、結果は、プロセッサ104が、メモリ106内に含まれる1つ以上の一続きの1つ以上の命令を実行することに応答して、コンピュータシステム100によって提供される。そのような命令は、記憶デバイス110等の別のコンピュータ読み取り可能な媒体から、メモリ106に読み込まれ得る。メモリ106内に含まれる一続きの命令の実行は、本明細書に説明されるプロセスをプロセッサ104に実施させる。代替として、有線回路が、本教示を実装するために、ソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路およびソフトウェアの任意の具体的組み合わせに限定されない。
【0075】
種々の実施形態において、コンピュータシステム100は、ネットワーク化されたシステムを形成するように、ネットワークを横断して、コンピュータシステム100のような1つ以上の他のコンピュータシステムに接続されることができる。ネットワークは、私設ネットワークまたはインターネット等の公衆ネットワークを含むことができる。ネットワーク化されたシステムにおいて、1つ以上のコンピュータシステムは、データを記憶し、他のコンピュータシステムに供給することができる。データを記憶および供給する1つ以上のコンピュータシステムは、サーバ、またはクラウドコンピューティングシナリオではクラウドと称されることができる。1つ以上のコンピュータシステムは、例えば、1つ以上のウェブサーバを含むことができる。データをサーバまたはクラウドに送信し、そこから受信する、他のコンピュータシステムは、例えば、クライアントまたはクラウドデバイスと称されることができる。
【0076】
本明細書で使用されるような用語「コンピュータ読み取り可能な媒体」は、実行のために命令をプロセッサ104に提供することに関与する任意の媒体を指す。そのような媒体は、限定ではないが、不揮発性媒体、揮発性媒体、および伝送媒体を含む多くの形態をとり得る。不揮発性媒体は、例えば、記憶デバイス110等の光学または磁気ディスクを含む。揮発性媒体は、メモリ106等の動的メモリを含む。伝送媒体は、バス102を備えているワイヤを含む同軸ケーブル、銅線、および光ファイバを含む。
【0077】
コンピュータ読み取り可能な媒体またはコンピュータプログラム製品の一般的形態は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または任意の他の磁気媒体、CD-ROM、デジタルビデオディスク(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク、任意の他の光学媒体、サムドライブ、メモリカード、RAM、PROM、およびEPROM、フラッシュEPROM、任意の他のメモリチップまたはカートリッジ、またはコンピュータが読み取り得る任意の他の有形媒体を含む。
【0078】
種々の形態のコンピュータ読み取り可能な媒体が、実行のために、1つ以上の一続きの1つ以上の命令をプロセッサ104に搬送することに関与し得る。例えば、命令は、最初に、遠隔コンピュータの磁気ディスク上で搬送され得る。遠隔コンピュータは、命令をその動的メモリの中にロードし、モデムを使用して、電話回線を経由して、命令を送信することができる。コンピュータシステム100にローカルなモデムは、電話回線上でデータを受信し、データを赤外線信号に変換するために、赤外線送信機を使用することができる。バス102に結合された赤外線検出器は、赤外線信号内で搬送されるデータを受信し、データをバス102上に置くことができる。バス102は、データをメモリ106に搬送し、そこから、プロセッサ104は、命令を読み出し、実行する。メモリ106によって受信された命令は、随意に、プロセッサ104による実行前または後のいずれかで、記憶デバイス110上に記憶され得る。
【0079】
種々の実施形態によると、方法を実施するためにプロセッサによって実行されるように構成される命令は、コンピュータ読み取り可能な媒体上に記憶される。コンピュータ読み取り可能な媒体は、デジタル情報を記憶するデバイスであり得る。例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体は、ソフトウェアを記憶するための当技術分野で公知であるようなコンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)を含む。コンピュータ読み取り可能な媒体は、実行されるように構成される命令を実行するために好適なプロセッサによってアクセスされる。
【0080】
本教示の種々の実装の以下の説明は、例証および説明の目的のために提示されている。これは、包括的ではなく、本教示を開示される精密な形態に限定しない。修正および変形例が、上記の教示に照らして可能であるか、または本教示の実践から入手され得る。加えて、説明される実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせとして、またはハードウェア単独で実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向両方のプログラミングシステムを用いて実装され得る。
【0081】
(滞留時間検証のためのシステムおよび方法)
上で説明されるように、第‘874号出願の方法は、2つ以上のXICピークが同一の生成イオンm/z値に関して見出されるとき、滞留時間の曖昧性を解決することを対象とする。方法は、2つ以上のXICピークに関して取得される質量スペクトルのm/zピークの1つ以上のイオン特性の値を生成イオンに関する既知の値と比較する。
【0082】
第‘481号出願の方法は、第‘874号出願の方法から見出されるXICピークが実際に既知の標的化合物に由来するかどうかを決定することを対象とする。方法は、曲線減算を使用して、XICピークを既知の標的化合物に由来すると考えられる他の生成イオンの他のXICピークと比較する。
【0083】
第‘874号出願および第‘481号出願の方法は、複合試料内の既知の化合物の同定および定量化を大いに改良する。しかしながら、これらおよび他の方法は、単一の既知の化合物を測定することを対象とする。残念ながら、化合物は、処理中に生成されるアーチファクトである多くの形態で存在し得ることが公知である。問題は、これらの化合物が、異なる標的化合物の検出限界を縮小し、試料内で実際に変化しているものを把握する能力を限定する干渉も提供することである。結果として、複合試料内で同定または定量化されている化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドの存在を考慮し得るシステムおよび方法が、必要とされる。
【0084】
種々の実施形態において、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドについての情報が、既知の化合物の同定または定量化を改良するために使用される。特に、この情報は、既知の化合物の滞留時間を検証するために使用される。[発明者:以下の定義を検証して下さい。それぞれ1つの実施例を提供することを所望する場合もあります。]
【0085】
付加物は、例えば、2つの異なる化合物から形成される化合物であり、形成に起因して、2つの異なる化合物のいずれもからの原子の損失がない。したがって、既知の化合物の付加物は、既知の化合物からの原子の損失も、既知の添加化合物らの原子の損失もないように、既知の化合物および別の添加化合物から形成される化合物である。
【0086】
化合物の修飾形態は、例えば、化学反応に起因して、分子の加算または減算を受けた化合物のバージョンである。したがって、既知の化合物の修飾形態は、化学反応に起因して、分子の加算または減算を受けた既知の化合物のバージョンである。
【0087】
ペプチドは、例えば、タンパク質の一部である。それは、最大50個のアミノ酸から成る分子である。対照的に、タンパク質は、通常、50個以上のアミノ酸から成る。より具体的に、一部の研究者は、タンパク質を50個以上のアミノ酸の鎖である1つ以上のポリペプチドと称し、ペプチドを50個以下のアミノ酸を有するオリゴペプチドと称する。したがって、既知の化合物のペプチドは、既知の化合物またはタンパク質より少ないアミノ酸から成る既知の化合物またはタンパク質の一部である。
【0088】
化合物の同定のための複数のXICトレースのスコア化のための第‘874号出願および第‘481号出願の方法を使用して、異なる化合物に関する付加物、修飾形態、またはペプチドの検出および定量化のための方法が、行われる。方法は、利用可能である異なる化合物の範囲を対象とする化合物中心データベースの開発および使用を含む。このデータベースは、本質的に、化合物の親または正準形態に対する一連のスペクトルおよび溶出時間である。このデータベースは、例えば、各標的化合物の全ての形態を含む。
【0089】
さらに、方法は、1つの次元が親m/zであり、別の次元が時間オフセットである複数の次元で化合物をマップすることを含み、時間は、液体クロマトグラフィ(LC)または差分イオン移動度分光分析(DMS)等の分離デバイスの関数である。
【0090】
例えば、複合試料において、既知の化合物Aは、A2+、A3+、A-H2O、およびA+NH3としても存在する。種々の実施形態において、滞留時間(RT)は、データベースまたはライブラリからの各形態に関して同定される。このデータベースまたはライブラリは、上で説明される化合物中心データベースである。このデータベースまたはライブラリは、例えば、各化合物の1つのみの形態を含む標準試料に対して別個の分離および質量分析実験を実施することによって、作成される。各実験において、質量スペクトルおよび滞留時間が、各化合物の各形態の生成イオンに関して測定される。代替実施形態において、このデータベースまたはライブラリは、前の実験から作成される。
【0091】
複合試料は、分離デバイスを使用して分離され、質量分析計を使用して質量分析される。質量分析は、例えば、SWATHTMを使用して実施される。XICの全ては、データベースまたはライブラリを使用して、化合物Aの5つの形態の各々の生成イオンの各々に関する質量スペクトルから抽出される。
【0092】
図12は、種々の実施形態による、複合試料からの既知の化合物Aの形態A2+に関して見出される生成イオンXICピークの例示的プロット1200である。XICピーク1210、1211、1212、1213、および1214が、形態A2+に関して抽出される。これらのXICピークは、形態A2+が複合試料に存在するかどうかを確認するためにスコア化される。
【0093】
例えば、XICピーク1210および1211は、これらのピーク間の曖昧性を解決するために、第‘874号出願の方法を使用してスコア化される。この方法は、XICピーク1211が既知の化合物の形態A2+に関してより可能性が高い生成イオンピークであることを決定する。
【0094】
XICピーク1211、1212、1213、および1214も、それらが同一の化合物に由来することを確認するために、第‘481号出願の方法を使用してスコア化され、およびグループ分けされる。このスコア化およびグループ分けから、XICピーク1211、1212、1213、および1214の全ては、化合物の形態A2+に由来し、したがって、全て、ピークグループの一部であることが見出される。最高スコアを伴うピークグループのうちのピークが、ピークグループを表すために使用されることができる。例えば、XICピーク1212が、化合物の形態A2+に関するピークグループを表すために使用されることができる。XICピーク1212は、次いで、化合物の形態A2+に関するスコア曲線と称されることができる。
【0095】
スコア曲線は、複合試料において見出される化合物の各形態に関して計算される。例えば、化合物Aの5つ全ての形態が、複合試料で見出される場合、5つのスコア曲線が、計算される。
【0096】
図13は、種々の実施形態による、複合試料で見出される既知の化合物Aの5つの形態の各々に関して見出される生成イオンXICスコア曲線の例示的プロット1300である。XICピークスコア曲線1310、1320、1330、1340、および1350が、それぞれ、既知の化合物の形態A、A2+、A3+、A-H2O、およびA+NH3に関して計算される。化合物中心データベースまたはライブラリから、各形態の期待滞留時間が、取得される。これらの期待滞留時間を使用して、スコア曲線1320、1330、1340、および1350は、スコア曲線を化合物の正準形態Aの期待滞留時間と整列させるように、期待滞留時間オフセットによってシフトされることができる。
【0097】
図14は、種々の実施形態による、スコア曲線を化合物の正準形態Aの期待滞留時間と整列させるように期待滞留時間オフセットによってシフトされた既知の化合物Aの5つの各形態に関して見出される生成イオンスコア曲線の例示的プロット1400である。既知の化合物の形態A2+、A3+、A-H2O、およびA+NH3に関するそれぞれのスコア曲線1320、1330、1340、および1350が、化合物の正準形態Aの期待滞留時間と整列させられている。スコア曲線1310は、化合物の正準形態Aに関する測定されたスコア曲線である。
【0098】
スコア曲線1310の滞留時間とのスコア曲線1320、1330、1340、および1350のうちの1つ以上のもののシフトされた滞留時間の比較が、化合物Aの同一性を検証するために使用される。例えば、スコア曲線1320、1330、1340、および1350のうちの1つ以上のもののシフトされた滞留時間が、既知の化合物のスコア曲線1310の滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、化合物Aの同一性が、確認される。
【0099】
種々の実施形態において、既知の化合物の形態のスコア曲線は、種々の方法で比較されることができる。例えば、アンカまたは最も可能性の高い形態として正準形態を使用して、複数の形態からのスコア曲線の類似性が、決定される。例えば、類似性ペアリングを実施することは、アンカされていないスコア曲線のシフト、およびスコア曲線ピーク頂点が同じRT空間(全てがゼロデルタで整列させられるはず)内にあるかどうかの決定を可能にする。ゼロ時間に対するペアリング比較最大値の結果として生じるオフセットを使用することは、各形態に関する個々のスコアをもたらす。最終スコアが、次いで、個々のデルタ時間スコアの各々と、最初の同定スコアとから構成される。
【0100】
そのようなスコア化システムは、複数の電荷の同定のために使用され、現在のスコア化システムを増強するために使用され得る。そのようなシステムは、化合物同定の全体的信頼尺度も提供し得る。そのようなシステムは、試料内の正準化合物のための単一の重み付きエリアを提供するためにも使用され得る。そのようなシステムは、互いに異なる形態のRTオフセットのみを使用して化合物を同定すること、および、これを使用して、試料に存在する高位レベルアイテム(タンパク質/経路等)に関する全体的信頼を提供することも可能であり得る。
【0101】
(化合物の滞留時間を検証するためのシステム)
図15は、種々の実施形態による、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、既知の化合物の滞留時間を検証するためのシステム1500の概略図である。システム1500は、分離デバイス1510と、質量分析計1520と、データベース1530と、プロセッサ1540とを含む。分離デバイス1510は、試料混合物から既知の化合物と既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドとを分離する。分離デバイス1510は、限定ではないが、電気泳動デバイス、クロマトグラフデバイス、異差分イオン移動度分光分析(DMS)デバイス、または他の移動度デバイスを含むことができる。
【0102】
質量分析計1520は、例えば、タンデム質量分析計である。質量分析計1520は、2つ以上の質量分析を実施する1つ以上の物理的質量分析器を含むことができる。タンデム質量分析計の質量分析器は、限定ではないが、飛行時間(TOF)、四重極、イオントラップ、線形イオントラップ、オービトラップ、磁場4セクタ型質量分析器、ハイブリッド四重極飛行時間(Q-TOF)質量分析器、またはフーリエ変換質量分析器を含むことができる。質量分析計1520は、空間または時間において、別個の質量分析段階またはステップを含むことができる。
【0103】
質量分析計1520は、複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次質量窓幅を使用して、分離試料混合物に1つ以上の質量分析/質量分析(MS/MS)スキャンを実施し、複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を生成する。
【0104】
データベース1530は、磁気または電子記憶装置を含むことができる。データベース1530は、プロセッサ1540のためのメモリの一部であり得るか、または別個のメモリであり得る。データベース1530は、ハードウェアコンポーネントに加えて、ソフトウェアコンポーネントを含むことができる。データベース1530は、その情報がより容易に検索されることを可能にするために編成された情報の集合である。データベース1530内の情報の集合は、既知の化合物および既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含む。
【0105】
プロセッサ1540は、質量分析計1520およびデータベース1530と通信する。プロセッサ1540は、分離デバイス1510と通信することもできる。プロセッサ1540は、限定ではないが、図1のシステム、コンピュータ、マイクロプロセッサ、または制御信号およびデータをタンデム質量分析計1520に送信し、それから受信し、データを処理することが可能な任意のデバイスであり得る。
【0106】
プロセッサ1540は、質量分析計1520から、複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を受信する。プロセッサ1540は、データベース1530を使用して、既知の化合物のM個の生成イオンを選択する。プロセッサ1540は、生成イオンスペクトルの集合からM個の生成イオンの各々に関するXICを計算し、M個のXICを生成する。プロセッサ1540は、曲線減算を使用して、M個のXICから既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算する。プロセッサ1540は、既知の化合物を表す第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークを選択する。
【0107】
プロセッサ1540は、データベース1530を使用して、既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンを選択する。プロセッサ1540は、生成イオンスペクトルの集合からL個の生成イオンの各々に関するXICを計算し、L個のXICを生成する。プロセッサ1540は、曲線減算を使用して、L個のXICから既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算する。プロセッサ1540は、既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークを選択する。
【0108】
プロセッサ1540は、データベース1530から見出される第1のXICピークの期待滞留時間とデータベース1530から見出される第2のXICピークの期待滞留時間との間の差によって第2のXICピークの滞留をシフトする。プロセッサ1540は、第2のXICピークのシフトされた滞留時間が第1のXICピークの滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、第1のXICピークの滞留時間が既知の化合物の滞留時間であることを検証する。滞留時間閾値は、事前決定されるか、または、例えば、ユーザから受信されることができる。
【0109】
種々の実施形態において、既知の化合物は、既知のタンパク質である。
【0110】
種々の実施形態において、プロセッサ1540は、第1のXICピークと第2のXICピークとの類似性をさらに比較し、類似性に基づいて、第1のXICピークおよび第2のXICピークをスコア化する。
【0111】
種々の実施形態において、プロセッサ1540は、以下のステップを実施することによって、曲線減算を使用して、M個のXICから既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算する。プロセッサ1540は、M個のXICのうちの各XICを他のM個のXICの各々から減算し、
【数15】
個の減算曲線を生成する。各減算曲線は、第1のXICおよび第2のXICから計算される。各滞留時間において、滞留時間における第1のXICの強度と、2つ以上の隣接した滞留時間における第1のXICの2つ以上の強度とが、正規化される。同様に、滞留時間における第2のXICの強度と、隣接した滞留時間における第2のXICの2つ以上の強度とが、正規化される。第2のXICの正規化された強度は、第1のXICの対応する正規化された強度から減算される。差分強度の統計的尺度が、計算される。統計的尺度は、限定ではないが、差分強度の平均、最頻値、中央値、分散、または標準偏差を含むことができる。
【0112】
プロセッサ1540は、
【数16】
個の減算曲線のうちの1つ以上の減算曲線がゼロの閾値以内である値を有する1つ以上の滞留時間の1つ以上の領域を同定する。閾値は、事前決定されるか、または、例えば、ユーザから受信されることができる。少なくとも1つの領域に関して、プロセッサ1504は、領域を同定する1つ以上の減算曲線を計算するために使用された2つ以上のXICを取得し、領域内にある2つ以上のXICの各ピークを第1のピークグループに追加する。
【0113】
種々の実施形態において、各滞留時間i+mにおいて、プロセッサ1540は、
【数17】
に従って、差分強度の平均μi+mを計算し、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数18】
は、滞留時間i+mに関して計算される差分強度である。
【0114】
種々の実施形態において、各滞留時間i+mにおいて、プロセッサ1540は、
【数19】
に従って、差分強度の標準偏差σi+mを計算し、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数20】
は、滞留時間i+mに関して計算される差分強度であり、μi+mは、
【数21】
に従って計算される平均である。
【0115】
種々の実施形態において、プロセッサ1540は、以下のステップを実施することによって、曲線減算を使用して、L個のXICから既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算する。プロセッサ1540は、L個のXICのうちの各XICを他のL個のXICの各々から減算し、
【数22】
個の減算曲線を生成する。各減算曲線は、第1のXICおよび第2のXICから計算される。各滞留時間において、滞留時間における第1のXICの強度と、2つ以上の隣接した滞留時間における第1のXICの2つ以上の強度とが、正規化される。同様に、滞留時間における第2のXICの強度と、隣接した滞留時間における第2のXICの2つ以上の強度とが、正規化される。第2のXICの正規化された強度は、第1のXICの対応する正規化された強度から減算される。差分強度の統計的尺度が、計算される。統計的尺度は、限定ではないが、差分強度の平均、最頻値、中央値、分散、または標準偏差を含むことができる。
【0116】
プロセッサ1540は、
【数23】
個の減算曲線のうちの1つ以上の減算曲線がゼロの閾値以内である値を有する1つ以上の滞留時間の少なくとも1つの領域を同定する。閾値は、事前決定されるか、または、例えば、ユーザから受信されることができる。少なくとも1つの領域に関して、プロセッサ1540は、領域を同定する1つ以上の減算曲線を計算するために使用された2つ以上のXICを取得し、領域内にある2つ以上のXICの各ピークを第2のピークグループに追加する。
【0117】
種々の実施形態において、各滞留時間i+mにおいて、プロセッサ1540は、
【数24】
に従って、差分強度の平均μi+mを計算し、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数25】
は、滞留時間i+mに関して計算される差分強度である。
【0118】
種々の実施形態において、各滞留時間i+mにおいて、プロセッサ1540は、
【数26】
に従って、差分強度の標準偏差σi+mを計算し、式中、Nは、各滞留時間に計算される差分強度の数であり、Nは、奇数であり、mは、Nの中点であり、j=1~Nに関する
【数27】
は、滞留時間i+mに関して計算される差分強度であり、μi+mは、
【数28】
に従って計算される平均である。
【0119】
(化合物の滞留時間を検証する方法)
図16は、種々の実施形態による、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、既知の化合物の滞留時間を検証する方法1600を示すフローチャートである。
【0120】
方法1600のステップ1605において、複数の滞留時間に関する質量範囲全体の生成イオンスペクトルの集合が、取得される。既知の化合物および既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドが、分離デバイスを使用して、試料混合物から分離される。1つ以上の質量MS/MSスキャンが、質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次前駆体イオン質量窓幅を使用して、複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、分離している試料混合物に実施され、質量分析計を使用して、複数の滞留時間に関する質量範囲全体の生成イオンスペクトルの集合を生成する。
【0121】
ステップ1610において、既知の化合物のM個の生成イオンが、プロセッサを使用して選択される。M個の生成イオンは、既知の化合物および既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含むデータベースを使用して、選択される。
【0122】
ステップ1615において、XICが、プロセッサを使用して、生成イオンスペクトルの集合からM個の生成イオンの各々に関して計算され、M個のXICを生成する。
【0123】
ステップ1620において、曲線減算を使用して、M個のXICから既知の化合物を表す第1のXICピークグループが、プロセッサを使用して計算される。
【0124】
ステップ1625において、既知の化合物を表す第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークが、プロセッサを使用して選択される。
【0125】
ステップ1630において、既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンが、プロセッサを使用して、選択される。L個の生成イオンも、データベースを使用して、選択される。
【0126】
ステップ1635において、XICが、プロセッサを使用して、生成イオンスペクトルの集合からL個の生成イオンの各々に関して計算され、L個のXICを生成する。
【0127】
ステップ1640において、第2のXICピークグループが、プロセッサを使用して、曲線減算を使用してL個のXICから計算される。
【0128】
ステップ1645において、既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークが、プロセッサを使用して選択される。
【0129】
ステップ1650において、第2のXICピークの滞留が、プロセッサを使用して、データベースから見出される第1のXICピークの期待滞留時間とデータベースから見出される第2のXICピークの期待滞留時間との間の差によってシフトされる。
【0130】
ステップ1655において、プロセッサを使用して、第2のXICピークのシフトされた滞留時間が第1のXICピークの滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、第1のXICピークの滞留時間が、既知の化合物の滞留時間として検証される。
【0131】
(化合物の滞留時間を検証するためのコンピュータプログラム製品)
種々の実施形態において、コンピュータプログラム製品は、そのコンテンツが、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、既知の化合物の滞留時間を検証する方法を実施するためにプロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含む有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を含む。方法は、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムによって実施される。
【0132】
図17は、種々の実施形態による、既知の化合物の付加物、修飾形態、またはペプチドを使用して、既知の化合物の滞留時間を検証する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステム1700の概略図である。システム1700は、測定モジュール1710と、分析モジュール1720とを含む。
【0133】
測定モジュール1710は、測定モジュールを使用して、複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を取得する。既知の化合物および既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドが、分離デバイスを使用して、試料混合物から分離される。1つ以上の質量分析/質量分析(MS/MS)が、質量範囲全体に及ぶための1つ以上の順次前駆体イオン質量窓幅を使用して、複数の滞留時間のうちの各滞留時間において、分離している試料混合物に実施され、質量分析計を使用して、複数の滞留時間に関して、質量範囲全体に関する生成イオンスペクトルの集合を生成する。
【0134】
分析モジュール1720は、データベースを使用して、既知の化合物のM個の生成イオンを選択する。データベースは、既知の化合物および既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドの生成イオンに関する期待滞留時間および期待生成イオン質量スペクトルを含む。分析モジュール1720は、生成イオンスペクトルの集合からM個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、M個のXICを生成する。分析モジュール1720は、曲線減算を使用して、M個のXICから既知の化合物を表す第1のXICピークグループを計算する。分析モジュール1720は、既知の化合物を表す第1のXICピークグループのうちの第1のXICピークを選択する。
【0135】
分析モジュール1720は、データベースを使用して、既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドのL個の生成イオンを選択する。分析モジュール1720は、生成イオンスペクトルの集合からL個の生成イオンの各々に関してXICを計算し、L個のXICを生成する。分析モジュール1720は、曲線減算を使用して、L個のXICから既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループを計算する。分析モジュール1720は、既知の化合物の少なくとも1つの付加物、修飾形態、またはペプチドを表す第2のXICピークグループのうちの第2のXICピークを選択する。
【0136】
分析モジュール1720は、データベースから見出される第1のXICピークの期待滞留時間とデータベースから見出される第2のXICピークの期待滞留時間との間の差によって第2のXICピークの滞留をシフトする。最後に、分析モジュール1720は、第2のXICピークのシフトされた滞留時間が第1のXICピークの滞留時間の滞留時間閾値以内である場合、第1のXICピークの滞留時間が既知の化合物の滞留時間であることを検証する。
【0137】
本教示は、種々の実施形態と併せて説明されるが、本教示が、そのような実施形態に限定されることを意図するものではない。対照的に、本教示は、当業者によって理解されるであろうように、種々の代替物、修正、および均等物を包含する。
【0138】
さらに、種々の実施形態を説明することにおいて、本明細書は、特定の一続きのステップのとして、方法および/またはプロセスを提示し得る。しかしながら、方法またはプロセスが、本明細書に記載されるステップの特定の順序に依拠しない限りにおいて、方法またはプロセスは、説明される特定の一続きのステップに限定されるべきではない。当業者が理解するであろうように、他の一続きのステップも可能であり得る。したがって、本明細書に記載されるステップの特定の順序は、請求項に関する限定として解釈されるべきではない。加えて、方法および/またはプロセスを対象とする請求項は、書かれた順序におけるそれらのステップの実施に限定されるべきではなく、当業者は、一続きが変動させられ、依然として、種々の実施形態の精神および範囲内に留まり得ることを容易に理解することができる。
図1
図2
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図17