(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
G01N23/223
(21)【出願番号】P 2021562655
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044668
(87)【国際公開番号】W WO2021112080
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2019218357
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】二位 肇
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-107005(JP,A)
【文献】特開2008-039772(JP,A)
【文献】特開2013-108759(JP,A)
【文献】特開平07-055731(JP,A)
【文献】特開平06-249804(JP,A)
【文献】特開2006-038822(JP,A)
【文献】特開2009-022615(JP,A)
【文献】特開2017-083346(JP,A)
【文献】国際公開第2020/008727(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01T 1/00 - G01T 7/12
G21K 1/00 - G21K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる第1元素と、前記第1元素よりも原子番号の大きい第2元素と、を含んだ液体試料を分析する蛍光X線分析装置であって、
第1X線を射出するX線源と、
前記第1X線によって励起されて第2X線が発生する二次ターゲットと、
液体試料に入射した第2X線によって発生する蛍光X線を検出する検出器と、
前記検出器の出力に基づいて、前記第1元素の前記液体試料中における濃度を算出する濃度算出器と、を備え、
前記第1元素の吸収端のエネルギーをE1、前記第2元素の吸収端のエネルギーをE2、前記第2X線のエネルギーピークをEPとした場合に、
E1<EP<E2であ
り、
前記二次ターゲットは、前記第2元素又はE1<EP<E2の関係を満たすEPとなるLα線が発生する元素で形成されている、蛍光X線分析装置。
【請求項2】
測定対象となる第1元素と、前記第1元素よりも原子番号の大きい第2元素と、を含んだ液体試料を分析する蛍光X線分析装置であって、
第1X線を射出するX線源と、
前記第1X線によって励起されて第2X線が発生する二次ターゲットと、
液体試料に入射した第2X線によって発生する蛍光X線を検出する検出器と、
前記検出器の出力に基づいて、前記第1元素の前記液体試料中における濃度を算出する濃度算出器と、を備え、
前記第1元素の吸収端のエネルギーをE1、前記第2元素の吸収端のエネルギーをE2、前記第2X線のエネルギーピークをEPとした場合に、E1<EP<E2であり、
前記第1元素がシリコン(Si)であり、
前記第2元素がリン(P)であり、
前記二次ターゲットがリン(P)
、イットリウム(Y)又はジルコニウム(Zr)で形成されている請求項1記載の蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記液体試料の試料面に対する前記第2X線の照射光軸の交点である照射中心と、前記試料面に対する前記検出器の検出光軸の交点である視野中心とが、前記試料面内において離間するように構成されている請求項1
又は2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記液体試料と接し、試料面を形成するX線透過膜をさらに備え、
前記第2X線が前記X線透過膜を通過して前記液体試料に照射されるように構成された請求項1乃至
3いずれかに記載の蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記X線透過膜が、ポリイミド、芳香族ポリエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、グラフェン、又は、ダイアモンドライクカーボンで形成された請求項
4記載の蛍光X線分析装置。
【請求項6】
前記第1X線の照射光軸をZ軸、Z軸と前記X線源の光源点で直交し、
試料面と平行なXZ平面を形成する軸をX軸、前記X線源の光源点を通り、X軸及びZ軸と直交とする軸をY軸とした場合に、
前記二次ターゲットが、前記第1X線が入射するターゲット面を具備し、
前記ターゲット面が、XZ平面に対して傾斜しているとともに、YZ平面に対しても傾斜している請求項1乃至
5いずれかに記載の蛍光X線分析装置。
【請求項7】
前記ターゲット面に対する法線ベクトルが(X,Y,Z)=(-1/2,1/√2,-1/2)となるように前記ターゲット面がXZ平面及びYZ平面に対して傾斜している請求項
6記載の蛍光X線分析装置。
【請求項8】
前記検出器が、蛍光X線を検出する検出面を具備し、
前記検出面がXZ平面に対して傾斜するとともに、当該検出面が前記X線源側を向いている請求項
6又は
7記載の蛍光X線分析装置。
【請求項9】
前記二次ターゲットが、それぞれ別々に第2X線が発生するように配置された複数のターゲット要素からなる請求項1乃至
8いずれかに記載の蛍光X線分析装置。
【請求項10】
2つの前記ターゲット要素が、前記検出器を挟むように配置された請求項
9記載の蛍光X線分析装置。
【請求項11】
前記液体試料の試料面に対する前記第2X線の照射光軸の交点である照射中心と
前記試料面に対する前記検出器の検出光軸の交点である視野中心の離間距離が、3mm以上10mm以下である請求項
3乃至
10いずれかに記載の蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中に含まれる元素の濃度を測定可能な蛍光X線分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおける窒化膜のウェットエッチングでは、リン酸中のシリコン濃度がエッチングレートに影響を与えることが知られている。このため、リン酸中のシリコン濃度を測定し、リン酸の品質管理が行われる。
【0003】
従来、リン酸中のシリコン濃度は例えばイオン選択電極法により測定されている(特許文献1参照)。この方法では、リン酸を所定温度まで冷却する必要があるため、エッチング制御装置内において高温で循環しているリン酸中のシリコン濃度をインラインで測定することは難しい。また、この測定方法ではランニングコストが高いという問題もあるため、より使いやすい測定方法が求められている。
【0004】
ところで、リン酸中のシリコン濃度を測定するために蛍光X線分析を用いることはこれまで工業的には試みられていない。
【0005】
これは、シリコン(Si)のような軽元素が励起されて発生する蛍光X線の強度は重元素と比べて低く、加えてエネルギーが低いことで大気による減衰の程度も大きいため、検出器の出力には蛍光X線と同時に発生する散乱X線によるバッググラウンド影響が大きく出てしまい、シリコンを定量分析することが難しいからである。また、分光結晶を用いた蛍光X線分析では、高温のリン酸によって分光結晶を駆動する駆動部及び分光結晶自体が温度影響を受けるため、正確な濃度測定を行うことは難しい。加えて、フィルタによって測定対象としたい蛍光X線のエネルギーを選択しようとすると、検出される強度は低下してしまうので、シリコン(Si)のような軽元素の蛍光X線分析装置には向いていない。
【0006】
また、エッチングに用いられるリン酸中のシリコン濃度は非常に小さい濃度であることが各元素のスペクトルを分離してシリコンの正確な濃度を得ることを難しくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、例えば液体試料に含まれる複数の元素の原子番号がリン(P)とシリコン(Si)のように近い場合でも、測定対象の元素だけから蛍光X線を発生させる、あるいは、除外対象の元素からはごく少量の蛍光X線が発生するようにして、測定対象の元素の濃度を正確に得られる蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係る蛍光X線分析装置は、測定対象となる第1元素と、前記第1元素よりも原子番号の大きい第2元素と、を含んだ液体試料を分析する蛍光X線分析装置であって、第1X線を射出するX線源と、前記第1X線によって励起されて第2X線が発生する二次ターゲットと、液体試料に入射した第2X線によって発生する蛍光X線を検出する検出器と、前記検出器の出力に基づいて、前記第1元素の前記液体試料中における濃度を算出する濃度算出器と、を備え、前記第1元素の吸収端のエネルギーをE1、前記第2元素の吸収端のエネルギーをE2、前記第2X線のエネルギーピークをEPとした場合に、E1<EP<E2であることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、前記第2X線により除外対象となる前記第2元素の蛍光X線は発生させずに、測定対象となる前記第1元素の蛍光X線のみを発生させることができる。したがって、前記第1元素と前記第2元素の原子番号が近く、前記第1元素の濃度が前記第2元素の濃度と比較して非常に小さい場合でも、前記第1元素の蛍光X線のピーク強度からその濃度を正確に測定することが可能となる。
【0011】
また、蛍光X線分析であれば液体試料を冷却させずに、そのまま測定することも可能であり、例えば液体試料をバッチ測定だけでなく、インライン測定することも可能となる。
【0012】
半導体製造プロセスに用いられるリン酸中のシリコン濃度を正確に測定するのに適した具体的な構成例としては、前記第1元素がシリコン(Si)であり、前記第2元素がリン(P)であり、前記二次ターゲットがリン(P)で形成されているものが挙げられる。このようなものであれば、二次ターゲットを構成するリン(P)から励起される蛍光X線である第2X線は、リン(P)の吸収端のエネルギーよりも小さいので、液体試料中に含まれるリンからは蛍光X線が発生しないようにできる。また、リン(P)の蛍光X線のエネルギーは、シリコン(Si)の吸収端のエネルギーよりも大きいので、液体試料中のシリコン(Si)からは蛍光X線を発生させられる。したがって、リン酸中に含まれるシリコン(Si)からのみ蛍光X線を発生させて、その強度から濃度を得ることができる。
【0013】
リン酸中のリン(P)からは少量の蛍光X線しか発生せず、シリコン(Si)からは多量の蛍光X線が発生するようにして、シリコン(Si)の濃度を正確に得ることができる二次ターゲットの別の態様としては、前記第1元素がシリコン(Si)であり、前記第2元素がリン(P)であり、前記二次ターゲットがイットリウム(Y)又はジルコニウム(Zr)で形成されているものが挙げられる。
【0014】
また、本発明に係る蛍光X線分析装置は、前記液体試料の試料面に対する前記第2X線の照射光軸の交点である照射中心と、前記試料面に対する前記検出器の検出光軸の交点である視野中心とが、前記試料面内において離間するように構成されていることを特徴とする。
【0015】
このようなものであれば、前記検出器は前記試料面において前記照射中心からずれた箇所を前記視野中心としているので、前記照射中心において発生する前記第2X線の散乱X線のうち強度の大きい散乱方向の成分については前記検出器の視野内に入射しにくくできる。一方、前記照射中心において発生する蛍光X線は全方向に均一射出されるので、前記照射中心と前記視野中心をずらしても蛍光X線が前記検出器の視野内に入射する量は散乱X線と比べて低下しない。したがって、前記検出器の出力に対する散乱X線によるバックグラウンドへの影響を小さくし、蛍光X線の検出下限を下げられる。これらのことから、例えばシリコン(Si)のような軽元素から発生する蛍光X線の強度であってもバックグラウンドノイズの中に埋もれてしまわないようにして、その濃度を測定できるようになる。
【0016】
前記液体試料について蛍光X線分析を行うのに適した構成としては、前記液体試料と接し、試料面を形成するX線透過膜をさらに備え、前記第2X線が前記X線透過膜を通過して前記液体試料に照射されるように構成されたものであればよい。このようなものであれば、前記液体試料の下側に前記X線管、前記二次ターゲット、及び、前記検出器と測定系を配置して蛍光X線分析を行うことが可能となるので、前記液体試料が蒸発してもその蒸気が測定系に対して影響を与えることがない。したがって、前記液体試料がリン酸のように蒸気によって測定系が劣化する恐れが有る場合に特に適した構成となる。また、測定系を液体試料の上側に配置して前記液体試料の蒸気を防ぐためにフィルムなどを設けた場合には、前記液体試料とフィルムとの間に気泡が発生し、蛍光X線分析を阻害する余計な散乱が発生する可能性があるが、前記X線透過膜を介して前記液体試料を下側から分析するようにすれば、そもそもそのような問題が生じないようにできる。
【0017】
前記液体試料が高温であったとしても前記X線透過膜を用いた蛍光X線分析を行うのに適した薄さを実現しつつ、十分な機械的強度を保てるようにするには、前記X線透過膜が、ポリイミド、芳香族ポリエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、グラフェン、又は、ダイアモンドライクカーボンで形成されたものであればよい。
【0018】
前記液体試料において発生する前記第2X線の散乱X線は前記検出器に入射しにくくしつつ、各機器を密集させ、前記液体試料で発生する蛍光X線が前記検出器に至るまでの光路長を短くし、より高強度で検出できるようにして、測定下限値を低くするには、前記第1X線の照射光軸をZ軸、Z軸と前記X線源の光源点で直交し、前記試料面と平行なXZ平面を形成する軸をX軸、前記X線源の光源点を通り、X軸及びZ軸と直交とする軸をY軸とした場合に、前記二次ターゲットが、前記第1X線が入射するターゲット面を具備し、前記ターゲット面が、XZ平面に対して傾斜しているとともに、YZ平面に対しても傾斜していればよい。
【0019】
前記ターゲット面の具体的な構成例としては、前記ターゲット面に対する法線ベクトルが(X,Y,Z)=(-1/2,1/√2,-1/2)となるように前記ターゲット面がXZ平面及びYZ平面に対して傾斜しているものが挙げられる。
【0020】
前記検出器に入射する散乱X線に対する蛍光X線の割合を高めて、さらに検出下限を下げるには、前記検出器が、蛍光X線を検出する検出面を具備し、前記検出面がXZ平面に対して傾斜するとともに、当該検出面が前記X線源側を向いていればよい。
【0021】
前記液体試料において複数箇所で蛍光X線を発生させ、前記検出器に入射する蛍光X線の強度を約複数倍にするには、前記二次ターゲットが、それぞれ別々に第2X線が発生するように配置された複数のターゲット要素からなればよい。
【0022】
前記検出器で検出されるX線について散乱X線の影響を小さく保ちつつ、前記液体試料で発生する蛍光X線の強度を約2倍にできる具体的な構成例としては、2つのターゲット要素が、前記検出器を挟むように配置されたものが挙げられる。
【0023】
記第1元素がシリコン(Si)であり、前記第2元素がリン(P)であっても、本願発明の蛍光分析装置であれば、イオン選択電極法と比較してランニングコストを下げて、かつ、シリコン(Si)の濃度を正確に測定可能となる。また、シリコン(Si)の濃度もインラインで測定できるようになる。
【0024】
記液体材料で発生する蛍光X線を効率的に検出器に取り込むための具体的な構成例としては、前記照射中心と前記視野中心の離間距離が、3mm以上10mm以下であるものが挙げられる。
【発明の効果】
【0025】
このように本発明に係る蛍光X線分析装置であれば、第2X線によって測定対象である前記第1元素のみから蛍光X線を発生させる、あるいは、除外対象である前記第2元素からは少量の蛍光X線しか発生しないようにできる。このため、前記第1元素と前記第2元素の原子番号が近く、前記第1元素の濃度が前記第2元素の濃度よりも非常に小さい場合でも、前記第1元素の蛍光X線のピーク強度からその濃度を正確に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態における蛍光X線分析装置を示す模式的斜視図。
【
図2】同実施形態における蛍光X線分析装置の構成を模式図。
【
図3】同実施形態における蛍光X線分析装置をZ軸方向に沿って見た場合の模式図。
【
図4】同実施形態における蛍光X線分析装置をY軸方向に沿って見た場合の模式図。
【
図5】リン(P)及びシリコン(Si)の蛍光X線のピークと、吸収端を示す模式的グラフ。
【
図6】本発明の別の実施形態における蛍光X線分析装置を示す模式図。
【符号の説明】
【0027】
100・・・蛍光X線分析装置
1 ・・・X線源
2 ・・・一次コリメータ
3 ・・・二次ターゲット
4 ・・・二次コリメータ
5 ・・・X線透過膜
6 ・・・検出器
7 ・・・濃度算出器
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態における蛍光X線分析装置100について
図1乃至
図5を参照しながら説明する。この蛍光X線分析装置100は、例えば半導体製造プロセスにおいて窒化膜のウェットエッチングに用いられる高温リン酸液中に含まれる元素であるシリコン(Si)の濃度を測定するものである。例えばリン酸は100℃~300℃の高温状態にあり、本実施形態では160℃又は160℃前後の温度の液体試料LSである。加えて、リン酸中に含まれるシリコン(Si)はリン(P)に対して1/1000程度から1/10000程度の濃度で存在する微量元素である。すなわち、液体試料LSであるリン酸において、測定対象となる第1元素はシリコン(Si)であり、シリコン(Si)よりも原子番号の大きい第2元素はリン(P)である。より具体的には、本実施形態の蛍光X線分析装置100は、第1元素に対して原子番号が1つだけ大きい第2元素が多量に含まれている液体試料について蛍光X線分析を行う。本実施形態の蛍光X線分析装置100は、例えばエッチング装置内において循環しているリン酸について一部サンプリングし、冷却なしで液体状態のまま蛍光X線分析を行って、シリコン(Si)の濃度を測定するために用いられる。このため、蛍光X線分析装置100は、シリコン(Si)のみが励起されて蛍光X線が派生し、リン(P)からは蛍光X線が励起されない、あるいは、シリコン(Si)及びリン(P)の両方が励起されたとしてもリン(P)から発生する蛍光X線はシリコン(Si)の濃度を算出するのに影響をほとんど与えない程度に少量となるように構成されている。
【0029】
具体的には
図1乃至
図4に示すように、この蛍光X線分析装置100は、X線源1と、一次コリメータ2、二次ターゲット3、二次コリメータ4、液体試料LSと接するX線透過膜5、検出器6、濃度算出器を少なくとも備えたものである。以下の説明では、X線源1から射出される第1X線の射出方向をZ軸と、X線源1の光源点を基準として右手系の直交座標を設定し、説明に用いる。すなわち、光源点を通ってZ軸に対して垂直であり、X線透過膜5により形成される液体試料LSの試料面SPと並行な面を形成する軸をX軸、光源点を通ってX軸、Z軸と直交する軸をY軸として設定する。本実施形態では試料面SP及びXZ平面は水平面であり、Y軸は鉛直方向と一致させてある。
【0030】
X線源1は、第1X線を射出するものであり、液体試料LSに対して照射したエネルギーとは異なるエネルギーのX線を射出する。この第1X線を二次ターゲット3に照射することで発生する蛍光X線を第2X線として液体試料LSに対して照射する。X線源1は例えば内部が真空に保たれるとともに、X線透過窓12としてベリリウム(Be)窓が形成された真空容器11と、真空容器11内に設けられた電子線源(図示しない)と電子線源から射出された電子が入射し第1X線が発生する一次ターゲット13とを備えたものである。
【0031】
一次コリメータ2は、第1X線の照射される範囲を所定範囲に限定するものである。すなわち、一次コリメータ2は、ベリリウム窓から射出された第1X線をZ軸に沿って延びる所定半径の円筒内に限定する。
【0032】
二次ターゲット3は、第1X線の入射するターゲット面31を具備するブロック体であり、ターゲット面31に入射した第1X線により発生する第2X線が二次ターゲット3の上方に配置された液体試料LS及びX線透過膜5へと射出されるように構成されている。具体的には
図1、
図3、
図4に示すようにターゲット面31はXZ平面及びYX平面に対して傾斜している。本実施形態ではターゲット面31に対する法線ベクトルが(X,Y,Z)=(-1/2,1/√2,-1/2)となるようにターゲット面31はXZ平面及びYZ平面に対して傾斜している。
【0033】
また、この二次ターゲット3から射出される第2X線の主となるエネルギーは、液体試料LS中に含まれる第1元素であるシリコン(Si)を励起し対応する蛍光X線を発生させ、液体試料LS中に含まれる第2元素であるリン(P)については励起せず、蛍光X線を発生させないように選択されている。すなわち、第1元素であるシリコン(Si)の吸収端のエネルギーをE1、第2元素であるリン(P)の吸収端のエネルギーをE2、ターゲット面31において第1X線により発生する第2X線のエネルギーピークをEPとした場合に、E1<EP<E2を満たすように二次ターゲット3は構成されている。本実施形態では二次ターゲット3は測定対象ではないリン(P)で形成されている。ここで、
図5のグラフに示すようにリン(P)に第1X線が入射して発生する蛍光X線であるKα線のエネルギーEPは、リン(P)の吸収端のエネルギーE2よりも小さく、シリコン(Si)の吸収端のエネルギーE1よりも大きい。つまり、ある元素の吸収端のエネルギーは、第1X線が入射して発生する第2X線のエネルギーよりも大きくなるので、液体試料LS中において除外対象としたい第2元素で二次ターゲット3を形成することで、二次ターゲット3で発生する第2X線によって液体試料LSから第2元素の蛍光X線が射出されないようにできる。
【0034】
図1乃至
図4に示すように二次コリメータ4は、二次ターゲット3で発生する第2X線の試料面SPに対する照射範囲及び照射方向を限定するものである。すなわち、二次コリメータ4によって第2X線の照射光軸LAは所定方向に規定される。
【0035】
X線透過膜5は水平面に沿って延びる膜であり、その上面において液体試料LSと接して試料面SPを形成する。このX線透過膜5は例えばμm単位の膜厚有した樹脂膜であり、入射する第2X線や液体試料LSにおいて発生する蛍光X線の減衰をできる限り抑えられるように構成されている。本実施形態ではX線透過膜5はポリイミド又は芳香族ポリエーテルケトンで形成されたものである。二次ターゲット3で発生する第2X線は、このX線透過膜5を透過して液体試料LSに対して所定深さまで侵入する。ここで所定深さはおよそ数十μmから数百μmである。液体試料LSに入射した第2X線は前述したように液体試料LSに含まれるシリコン(Si)については蛍光X線を発生させるとともに散乱X線も同時に発生させる。なお、X線透過膜5は、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、グラフェン、又は、ダイアモンドライクカーボンのいずれかで形成されたものであってもよい。
【0036】
検出器6は液体試料LSで発生した蛍光X線を検出するものであり、その検出面61が試料面SPと平行となるように配置されている。すなわち、検出器6の検出光軸DAは試料面SPに対して垂直となるように設けられており、
図3及び
図4に示すように試料面SPと検出光軸DAの交点である検出中心は検出器6の直上に配置される。また、検出器6は照射中心の直下は検出面61の外周部となるように配置してある。具体的には、各図に示すように二次ターゲット3で発生する第2X線の照射光軸LAと試料面SPとの交点である照射中心と、検出中心とは試料面SP上において所定距離ずれるように構成されている。本実施形態では二次ターゲット3のターゲット面31の傾いている方向に応じて、検出中心に対して照射中心はX軸方向に対して所定距離だけ離れており、その離間距離は例えば3mm以上10mm以下に設定されている。特に
図3に示すようにこのように第2X線の照射光軸LAと検出器6の検出光軸DAがずらして配置されているので、以下のような理由により、検出器6で検出されるX線のうち蛍光X線の比率を高められる。この例であれば照射中心において発生する散乱X線は散乱角に対して依存性があり、試料面SPに垂直な方向(Y軸方向)を中心として強度の高い成分が発生する。本実施形態では検出中心が照射中心から離間しているとともに、照射中心の直下は検出面61の外縁に配置されているので、検出器6の視野の立体角中に散乱X線のうちの強度の高い方向成分は入らないようにして、強度の弱い散乱角の浅い成分が主として検出されるようにできる。一方、蛍光X線には角度依存性がなく、全方向に均一に射出されるので、照射中心と検出中心がずれていても、検出器6の視野の立体角内に入射する蛍光X線の量については前述した散乱X線ほどは減少しない。この結果、検出器6の出力には第2X線の試料面SPにおける散乱X線の影響によるバックグラウンドの値を小さくし、主にシリコン(Si)の蛍光X線の検出下限を下げることができる。
【0037】
濃度算出器7は、例えばCPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力手段を有したいわゆるコンピュータによってその機能が実現されるものである。この濃度算出器7は、メモリに格納されているプログラムがCPUによって実行され、各種機器が協業することによって、検出器6の出力に基づき、液体試料LS中に含まれるシリコン(Si)の濃度を算出する。具体的な算出式は例えば既知のものが用いられる。
【0038】
このように構成された本実施形態の蛍光X線分析装置100によれば、液体試料LSを冷やしたり蒸発させたりすることなく、液体の状態のままで液体試料LSに含まれる微量元素であるシリコン(Si)濃度を蛍光X線に基づいて測定することができる。
【0039】
すなわち、本実施形態では試料面SPにおける第2X線の照射中心と、検出器6の検出中心とがそれぞれ離間させてあるので、試料面SPで発生する散乱X線のうち強度の高い方向成分については検出面6により検出されにくくし、検出器6で検出されるX線のうち、シリコン(Si)の蛍光X線の比率を高められる。この結果、シリコン(Si)の検出下限を従来よりも下げることができる。
【0040】
また、二次ターゲット3の少なくともターゲット面31はリン(P)で形成されているので、二次ターゲット3で発生する第2X線のエネルギーは液体試料LS中に多量に含まれるリン(P)蛍光X線の発生を低減して、液体試料LS中に微量に含まれるシリコン(Si)の蛍光X線だけを発生させられる。このため、多量に存在するリン(P)の蛍光X線のピークにおける裾部分にシリコン(Si)の蛍光X線のピークが隠れてしまうことがない。したがって、シリコン(Si)のような軽元素の強度の低い蛍光X線からシリコン(Si)の濃度正確に測定できる。言い換えると、シリコン(Si)とリン(P)のように原子番号が連続する元素が含まれているとともに、測定対象である第1元素に対して妨害元素となる第2元素が非常に多い液体試料であるために、従来であれば蛍光X線分析でそれぞれを分離して分析することが難しいと考えられ、工業的には測定が試みすらされていなかった微量元素の濃度が本実施形態の蛍光X線分析装置100であれば可能となる。
【0041】
さらに、二次ターゲット3、液体試料LS、検出器6のそれぞれを密集させて配置している。各X線の光路長を短くし、減衰を生じにくくしている。また、X線透過膜5も膜厚が薄く設定されているので、このX線透過膜5をX線が通過する際の減衰も低減できる。したがって、微量の軽元素である液体試料LSに含まれるシリコン(Si)の濃度を測定するのに必要な強度で蛍光X線を検出できる。
【0042】
その他の実施形態について説明する。
【0043】
本発明に係る蛍光X線分析装置は、リン酸液中に含まれるシリコン(Si)の濃度を測定するものに限られない。測定対象となる第1元素と、第1元素よりも原子番号の大きい第2元素を含む液体試料について、第1元素の濃度を蛍光X線に基づいて測定するために用いることができる。第1元素と第2元素の原子番号の差は1であったが、第1元素と第2元素の原子番号の差が2であっても良いし、原子番号の差が2よりも大きくても良い。
【0044】
前記実施形態では、液体試料の一部をサンプリングして冷却や蒸発させることなく、そのままの状態で蛍光X線分析を行っていたが、例えば液体試料が流れている状態で蛍光X線分析を行い、リアルタイムでのインライン濃度測定を実現してもよい。例えば液体試料の流れている配管の一部にX線透過膜で形成された分岐流路を形成し、その部分で蛍光X線分析を行う、あるいは、配管の一部でX線透過膜による窓を形成し、その窓を介して蛍光X線分析を行うようにしてもよい。
【0045】
蛍光X線分析装置を構成する各機器の配置や向きは前記実施形態に示した物に限られない。例えば検出器の検出光軸は試料面に対して垂直に入射するのではなく、試料面に対して斜めに入射するように構成してもよい。この場合、
図1乃至4に示した配置であれば、検出器の検出面を第1X線が射出されるX線源側へと傾ければよい。このようにして照射中心と検出中心をさらにずらして、液体試料の検出面において発生する散乱X線が検出器で検出されにくくし、検出される蛍光X線の割合を高めることができる。なお、液体試料の種類や使用する機器に応じて検出器を傾ける向きは適宜異ならせてもよく、例えばX線源とは反対側に検出面が向くように検出器を傾けても良い。また、二次ターゲットのターゲット面についても前記実施形態のようにXZ平面、及び、YZ平面の両方に対して傾斜しているものに限られず、XZ平面、又は、YZ平面いずれか一方のみに対して傾斜しているものであってもよい。
【0046】
また、
図6に示すように二次ターゲット3を複数のターゲット要素31で構成し、各ターゲット要素31で発生する第2X線が試料面SPに対して別々に照射されるようにしてもよい。より具体的には検出器6を挟むようにターゲット要素31を概略V字状に検出光軸DAに対して鏡面対称で配置すればよい。このようにすれば、検出器6に対して試料面SPから第1元素が発生する蛍光X線が検出光軸DAに対して対称に入射するようになるので、検出される強度を前記実施形態の約2倍にできる。この結果、測定時間を約半分に短縮したり、同じ測定時間で統計的な測定誤差を低減してより正確な測定結果を得たりすることができる。
【0047】
二次ターゲットを構成する元素は、リン(P)に限られるものではなく、
図5に示すようにジルコニウム(Zr)であってもよい。ジルコニウムの蛍光X線の成分であるLα線であれば上述したエネルギー間の関係を満たし、同様の効果を得られる。また、二次ターゲットはイットリウム(Y)で形成されたものであってもよい。また、E1<EP<E2を満たす第2X線が発生する元素であれば、任意の元素を二次ターゲットに用いることができる。
【0048】
本発明については測定対象となる第1元素と第2元素との原子番号の関係や濃度の関係によって様々な実施形態が考えられる。例えば試料面上において照射中心と検出中心をずらさずに一致させた状態で二次ターゲットを構成する元素をE1<EP<E2を満たすように選択した蛍光X線分析装置であってもよい。あるいは、照射中心と検出中心を所定距離ずらした状態で第1元素及び第2元素の両方の蛍光X線が発生するようにしてもよい。
【0049】
また、実施形態において説明した2次ターゲットを構成する材料を、1次X線を発生させるための材料として使用し、1次X線を試料に直接照射しても良い。
【0050】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて各実施形態について様々な変形を行ったり、各実施形態の一部同士を組み合わせたりしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明であれば、第1元素と第2元素の原子番号が近く、第1元素の濃度が第2元素の濃度よりも非常に小さい場合でも、第1元素の蛍光X線のピーク強度からその濃度を正確に得られる蛍光X線分析装置を提供できる。