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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】プラズマ照射装置及びプラズマ照射方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/26 20060101AFI20231116BHJP
   C08J 3/28 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H05H1/26
C08J3/28 CEZ
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022174013
(22)【出願日】2022-10-31
【審査請求日】2023-09-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中埜 吉博
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-198252(JP,A)
【文献】特開2020-198238(JP,A)
【文献】特開2019-150566(JP,A)
【文献】特開2021-26811(JP,A)
【文献】特開2020-145038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
G01N 33/48
C08J 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの放出口を備え、前記放出口に向かって前記ガスを流すとともに前記放出口から所定方向一方側に前記ガスを放出する流路であるガス流路と、
誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、
前記第1電極と前記第2電極との間に周期的に変化する電圧を印加する電源部と、
を有し、
前記放電部が発生させたプラズマを前記放出口から放出し、タンパク質を含んだ溶液に照射するプラズマ照射装置であって、
前記放出口の後端を通り且つ前記所定方向と直交する方向の仮想平面において、前記放出口の開口領域全体に対する前記プラズマの可視光領域の割合を、0%より大きく50%以下の割合とし、
前記開口領域における前記ガスの平均ガス流速を40mm/s以下となるように調整する流量制御部を備える、
プラズマ照射装置。
【請求項2】
前記開口領域における前記可視光領域のイオン電流密度を9.0×10-3A/m以上とする
請求項1に記載のプラズマ照射装置。
【請求項3】
前記プラズマの照射に応じて前記溶液から前記溶液外に流れる漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きくする
請求項1又は請求項2に記載のプラズマ照射装置。
【請求項4】
前記ガスは、希ガスである
請求項1又は請求項2に記載のプラズマ照射装置。
【請求項5】
前記ガスは、ヘリウムガスである
請求項4に記載のプラズマ照射装置。
【請求項6】
ガスの放出口を備え、前記放出口に向かって前記ガスを流すとともに前記放出口から所定方向一方側に前記ガスを放出する流路であるガス流路と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、前記第1電極と前記第2電極との間に周期的に変化する電圧を印加する電源部と、を有するプラズマ照射装置を用い、
前記放電部が発生させたプラズマを前記放出口から放出し、タンパク質を含んだ溶液に照射するプラズマ照射方法であって、
前記放出口を前記所定方向と直交する方向に切断した切断面において、前記放出口の開口領域全体に対する前記プラズマの可視光領域の割合を、0%より大きく50%以下の割合とし、
前記開口領域における前記ガスの平均ガス流速を40mm/s以下とする
プラズマ照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はプラズマ照射装置及びプラズマ照射方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タンパク質水溶液の処理方法が開示されている。特許文献1で開示される処理方法では、水系溶媒にタンパク質が混合されてタンパク質水溶液が作成され、このタンパク質水溶液に対してプラズマ発生装置で発生したプラズマが照射されることでタンパク質膜が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-218245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される技術を含め、プラズマ照射装置を用いてタンパク質の凝集膜を形成しようとする従来技術には、どの程度の速度でガスを供給すべきかをという点について具体的に踏み込んだ知見がない。
【0005】
そこで、本願の発明者は、タンパク質の凝集膜を良好に形成するために、ガスの供給速度をどの程度にすべきかという点に着目した。更に、本願の発明者は、ガスの適正な供給速度を検討する過程で、ガスの供給速度を調整することに起因して新たな問題が生じるかという点も検討した。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、タンパク質を含んだ溶液にプラズマを照射し、タンパク質の凝集膜を良好に形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様のプラズマ照射装置は、
ガスの放出口を備え、前記放出口に向かって前記ガスを流すとともに前記放出口から所定方向一方側に前記ガスを放出する流路であるガス流路と、
誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、
前記第1電極と前記第2電極との間に周期的に変化する電圧を印加する電源部と、
を有し、
前記放電部が発生させたプラズマを前記放出口から放出し、タンパク質を含んだ溶液に照射するプラズマ照射装置であって、
前記放出口の後端を通り且つ前記所定方向と直交する方向の仮想平面において、前記放出口の開口領域全体に対する前記プラズマの可視光領域の割合を、0%より大きく50%以下の割合とし、
前記開口領域における前記ガスの平均ガス流速を40mm/s以下となるように調整する流量制御部を備える。
【0008】
本開示の一態様のプラズマ照射方法は、
ガスの放出口を備え、前記放出口に向かって前記ガスを流すとともに前記放出口から所定方向一方側に前記ガスを放出する流路であるガス流路と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、前記第1電極と前記第2電極との間に周期的に変化する電圧を印加する電源部と、を有するプラズマ照射装置を用い、
前記放電部が発生させたプラズマを前記放出口から放出し、タンパク質を含んだ溶液に照射するプラズマ照射方法であって、
前記放出口の後端を通り且つ前記所定方向と直交する方向の仮想平面において、前記放出口の開口領域全体に対する前記プラズマの可視光領域の割合を、0%より大きく50%以下の割合とし、
前記開口領域における前記ガスの平均ガス流速を40mm/s以下とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る技術は、タンパク質を含んだ溶液にプラズマを照射し、タンパク質の凝集膜を、より良好に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係るプラズマ照射装置が概略的に例示される概略図である。
図2図2は、第1実施形態に係るプラズマ照射装置の本体部が概念的に例示される斜視図である。
図3図3は、図2で例示された本体部が三分割して示される分解斜視図である。
図4図4は、図2で例示された本体部が第3方向(幅方向)中心位置にて第3方向と直交する方向に切断された切断面の断面概略図である。
図5図5は、図2で例示された本体部が第1方向中心位置にて第1方向と直交する方向に切断された切断面の断面概略図である。
図6図6は、図2で例示された本体部が第2方向(厚さ方向)中心位置にて第2方向と直交する方向に切断された切断面の断面概略図である。
図7図7は、第1実施形態に係るプラズマ照射装置の電気的構成を例示する回路図である。
図8図8は、基準仮想平面での放出口の内縁とプラズマフレアの可視光領域との関係を説明する説明図である。
図9図9は、実証実験における各実験例についての条件及び結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の[1]~[14]には、実施形態の一例が列挙される。
【0012】
[1]ガスの放出口を備え、前記放出口に向かって前記ガスを流すとともに前記放出口から所定方向一方側に前記ガスを放出する流路であるガス流路と、
誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、
前記第1電極と前記第2電極との間に周期的に変化する電圧を印加する電源部と、
を有し、
前記放電部が発生させたプラズマを前記放出口から放出し、タンパク質を含んだ溶液に照射するプラズマ照射装置であって、
前記放出口の後端を通り且つ前記所定方向と直交する方向の仮想平面において、前記放出口の開口領域全体に対する前記プラズマの可視光領域の割合を、0%より大きく50%以下の割合とし、
前記開口領域における前記ガスの平均ガス流速を40mm/s以下となるように調整する流量制御部を備える、
プラズマ照射装置。
【0013】
上記[1]のプラズマ照射装置は、開口領域におけるガスの平均ガス流速を40mm/s以下に抑えることができるため、溶液に達する際のガス流速が大きいことに起因して溶液表面で凹み生じることを抑制することができる。ゆえに、このプラズマ照射装置は、溶液表面で凹みが生じることによって凝集膜の形成が阻害されることを抑えることができる。一方、ガス流速を抑えると、大気の混ざり込みに起因するペニング効果が起こりやすいため、プラズマフレアがエネルギーを失いやすくなるという懸念があるが、放出口の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合が0%より大きく50%以下の割合とされるため、プラズマフレアの減衰を抑えるように収束させることができる。よって、上記のプラズマ照射装置は、溶液表面で凹みが生じること抑えつつ、プラズマフレアの減衰を抑えることができ、タンパク質の凝集膜をより良好に形成することができる。
【0014】
[2]前記開口領域における前記可視光領域のイオン電流密度を9.0×10-3A/m以上とする
[1]に記載のプラズマ照射装置。
【0015】
上記[2]のプラズマ照射装置は、開口領域における可視光領域のイオン電流密度を9.0×10-3A/m以上とすることにより、プラズマフレアの減衰をより一層抑えることができ、タンパク質の凝集膜を、より一層良好に形成することができる。
【0016】
[3]前記プラズマの照射に応じて前記溶液から前記溶液外に流れる漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きくする
[1]又は[2]に記載のプラズマ照射装置。
【0017】
上記[3]のプラズマ照射装置は、漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きくすることにより、タンパク質の凝集膜を、さらに良好に形成することができる。
【0018】
[4]前記ガスは、希ガスである
[1]から[3]のいずれか一つに記載のプラズマ照射装置。
【0019】
上記[4]のプラズマ照射装置は、希ガスの利用により、効率よく電離を促すことができるようになり、プラズマの照射を好適に行うことができる。
【0020】
[5]前記ガスは、ヘリウムガスである
[4]に記載のプラズマ照射装置。
【0021】
上記[5]のプラズマ照射装置は、ヘリウムガスの利用により、さらに効率よく電離を促すことができるようになり、プラズマの照射をより好適に行うことができる。
【0022】
[6]前記放電部は、前記第1電極又は前記第2電極の一方が直接又は他部材を介して前記ガス流路内の空間に面し、前記第1電極と前記第2電極との間に前記電圧を印加することに応じて前記ガス流路内で沿面放電を発生させる
[1]から[5]のいずれか一つに記載のプラズマ照射装置。
【0023】
上記[6]のプラズマ照射装置は、放電部が沿面放電を発生させる構成であるため、より低い印加電圧で、より効率的にプラズマを照射することができる。
【0024】
[7]前記プラズマの照射に応じて前記溶液から前記溶液外に流れる漏れ電流の値を検出する電流検出部を備え、
前記制御部は、前記電流検出部によって検出される前記漏れ電流の値に基づいて前記漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きく維持する制御を行う
[1]から[6]のいずれか一つに記載のプラズマ照射装置。
【0025】
上記[7]のプラズマ照射装置は、検出される漏れ電流の値に基づいて、漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きく維持する制御を安定的に行いやすい。
【0026】
[8]ガスの放出口を備え、前記放出口に向かって前記ガスを流すとともに前記放出口から所定方向一方側に前記ガスを放出する流路であるガス流路と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、前記第1電極と前記第2電極との間に周期的に変化する電圧を印加する電源部と、を有するプラズマ照射装置を用い、
前記放電部が発生させたプラズマを前記放出口から放出し、タンパク質を含んだ溶液に照射するプラズマ照射方法であって、
前記放出口の後端を通り且つ前記所定方向と直交する方向の仮想平面において、前記放出口の開口領域全体に対する前記プラズマの可視光領域の割合を、0%より大きく50%以下の割合とし、
前記開口領域における前記ガスの平均ガス流速を40mm/s以下とする
プラズマ照射方法。
【0027】
上記[8]のプラズマ照射方法は、開口領域におけるガスの平均ガス流速を40mm/s以下に抑えることができるため、溶液に達する際のガス流速が大きいことに起因して溶液表面で凹み生じることを抑制することができる。ゆえに、このプラズマ照射方法は、溶液表面で凹みが生じることによって凝集膜の形成が阻害されることを抑えることができる。一方、ガス流速を抑えると、大気の混ざり込みに起因するペニング効果が起こりやすいため、プラズマフレアがエネルギーを失いやすくなるという懸念があるが、放出口の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合が0%より大きく50%以下の割合とされるため、プラズマフレアの減衰を抑えるように収束させることができる。よって、上記のプラズマ照射方法は、溶液表面で凹みが生じること抑えつつ、プラズマフレアの減衰を抑えることができ、タンパク質の凝集膜をより良好に形成することができる。
【0028】
[9]前記開口領域における前記可視光領域のイオン電流密度を9.0×10-3A/m以上とする
[8]に記載のプラズマ照射方法。
【0029】
上記[9]のプラズマ照射方法は、開口領域における可視光領域のイオン電流密度を9.0×10-3A/m以上とすることにより、プラズマフレアの減衰をより一層抑えることができ、タンパク質の凝集膜を、より一層良好に形成することができる。
【0030】
[10]前記プラズマの照射に応じて前記溶液から前記溶液外に流れる漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きくする
[8]又は[9]に記載のプラズマ照射方法。
【0031】
上記[10]のプラズマ照射方法は、漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きくすることにより、タンパク質の凝集膜を、さらに良好に形成することができる。
【0032】
[11]前記ガスは、希ガスである
[8]から[11]のいずれか一つに記載のプラズマ照射方法。
【0033】
上記[11]のプラズマ照射方法は、希ガスの利用により、効率よく電離を促すことができるようになり、プラズマの照射を好適に行うことができる。
【0034】
[12]前記ガスは、ヘリウムガスである
[11]に記載のプラズマ照射方法。
【0035】
上記[12]のプラズマ照射方法は、ヘリウムガスの利用により、さらに効率よく電離を促すことができるようになり、プラズマの照射をより好適に行うことができる。
【0036】
[13]前記放電部は、前記第1電極又は前記第2電極の一方が直接又は他部材を介して前記ガス流路内の空間に面し、前記第1電極と前記第2電極との間に前記電圧を印加することに応じて前記ガス流路内で沿面放電を発生させる
[8]から[12]のいずれか一つに記載のプラズマ照射方法。
【0037】
上記[13]のプラズマ照射方法は、放電部が沿面放電を発生させる構成であるため、より低い印加電圧で、より効率的にプラズマを照射することができる。
【0038】
[14]前記プラズマ照射装置が、前記プラズマの照射に応じて前記溶液から前記溶液外に流れる漏れ電流の値を検出する電流検出部を備え、
前記制御部が、前記電流検出部によって検出される前記漏れ電流の値に基づいて前記漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きく維持する制御を行う
[8]から[13]のいずれか一つに記載のプラズマ照射方法。
【0039】
上記[14]のプラズマ照射方法は、検出される漏れ電流の値に基づいて、漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きく維持する制御を安定的に行いやすい。
【0040】
<第1実施形態>
1.プラズマ照射装置2の構成
第1実施形態に係るプラズマ照射装置2は、図1のような構成をなす。図1に示されるプラズマ照射装置2は、例えば、タンパク質を含んだ溶液90を照射対象としてプラズマを照射する装置として機能し得る。タンパク質を含んだ溶液90は、例えば、血液に含まれるタンパク質(血液タンパク質)を含んだ溶液である。「血液タンパク質を含んだ溶液」は、例えば、血漿、赤血球、白血球、血小板などの成分(血液の成分)を含む血液であってもよい。但し、この場合、溶液には、白血球、血小板などの一部の成分が含まれていなくてもよい。上記「血液タンパク質」は、水に溶解しやすい血液中に多く存在するたんぱく質を指しており、アルブミン、ヘモグロビンなどの負に帯電したタンパク質や、イムノグロブリンなどの正に帯電したタンパク質を指す。図1の例では、プラズマの照射対象である溶液90は、容器80に収容された溶液であるが、容器に収容されていない溶液であってもよく、例えば、動物や人体などの表面や内部に存在する「血液タンパク質を含んだ溶液」(例えば、血液)であってもよい。いずれの場合でも、プラズマ照射装置2がプラズマを照射する溶液の状態は、液体状、ゼリー状、ゲル状、ゾル状のいずれであってもよく、これらの2種以上の状態のものが含まれていてもよい。つまり、本明細書において「溶液」は、液体、ゲル、ゾルのいずれも含む概念である。
【0041】
プラズマ照射装置2は、主に、照射ユニット3、ガス供給部7、制御部70、電源部9、などを備える。
【0042】
ガス供給部7は、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの不活性ガス(以下、単にガスともいう)を供給する装置であり、例えば、照射ユニット3とガス供給部7との間に介在する上流流路7A(図4)を介して後述するガス流路30に不活性ガスを供給する。ガス供給部7は、例えばボンベ等から供給される高圧ガスを減圧するレギュレータと、流量制御を行う流量制御装置とを含み、この流量制御装置は、ガス流路30を流れるガスの流量を制御し得る。図1では、上記上流流路7A、上記レギュレータ、及び上記流量制御装置の具体的構成の図示が省略されている。ガス供給部7は、流量制御部の一例に相当する。
【0043】
電源部9は、周期的な電圧を発生させ、照射ユニット3に設けられた後述の2つの電極間に電圧を印加する装置である。電源部9は、主に制御部70と電源回路62とを備える。電源回路62は、高周波数の電圧を発生させて導電部間に印加し得る回路であればよく、公知の様々な電源回路が採用され得る。制御部70は、電源回路62を制御し得る装置であればよく、例えば、マイクロコンピュータなどの情報処理装置を有する制御装置によって構成されている。図1の例では、電源部9の全体が、照射ユニット3の外部に設けられている。しかし、電源部9の一部又は全部が、照射ユニット3に設けられていてもよい。電源部9の詳細は、後述される。
【0044】
照射ユニット3は、プラズマを発生させて照射し得るユニットである。照射ユニット3は、主に、プラズマ照射部20と、このプラズマ照射部20を保持する保持部3Aとを備える。照射ユニット3は、使用者によって把持されつつ使用される構成であってもよく、使用者以外の手段(例えば、ロボット等)によって移動可能とされる構成であってもよく、位置が固定された移動不能な状態で使用される構成であってもよい。
【0045】
保持部3Aは、プラズマ照射部20における本体部20Aが固定される部位であり、本体部20Aを保持する機能を有する。保持部3Aは、本体部20Aを自身の内部に配置しつつ保持する構成であってもよく、本体部20Aを自身の外側に配置しつつ保持する構成であってもよい。図1の例では、保持部3Aは、ケース体として構成され、本体部20Aは、保持部3Aの内部に収容されつつ保持部3Aに対して固定されている。
【0046】
プラズマ照射部20は、誘電体バリア放電を生じさせる装置として構成されている。プラズマ照射部20は、図2のような外観であり、所定の立体形状として構成された本体部20Aを備える。図2の例では、本体部20Aは、板状且つ直方体状に構成されている。プラズマ照射部20は、本体部20Aの長手方向の端部に形成された放出口34からプラズマPを照射するように動作する。プラズマPは、いわゆる大気圧低温プラズマである。
【0047】
図3には、本体部20Aが3分割された構成が分解斜視図として概念的に示されている。本体部20Aは、厚さ方向中央部に第3誘電体層53が設けられ、第3誘電体層53よりも厚さ方向一方側に第4誘電体層54が設けられている。更に、本体部20Aは、第3誘電体層53よりも厚さ方向他方側に第1誘電体層51及び第2誘電体層52が設けられている。第1誘電体層51及び第2誘電体層52によって構成された誘電体領域の内部には、第1電極42及び第2電極44が埋め込まれている。図3には、本体部20Aが3分割された構成が概念的に示されているが、実際の構成は、第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54の各々が、一体的な誘電体部50(図5参照)の一部として構成されている。
【0048】
図4で示されるように、本体部20Aには、放出口34に向かってガスを流すように構成されたガス流路30が設けられている。ガス流路30は、ガスを導入する導入口32と、ガスを放出する放出口34と、導入口32と放出口34との間に設けられる中間流路36と、を有する。導入口32は、本体部20Aの後端側において本体部20Aの内部と外部とに通じる開口部である。放出口34は、本体部20Aの先端側において本体部20Aの内部と外部とに通じる開口部である。中間流路36は、導入口32と放出口34とに通じる通気路であり、導入口32と放出口34との間でガスを流す流路である。ガス流路30は、照射ユニット3の外部に設けられたガス供給部7から供給される不活性ガスを導入口32から導入し、導入口32側から導入されたガスを中間流路36内の空間を通して放出口34に誘導する誘導路となっている。図4では、ガス供給部7から供給される不活性ガスを導入口32に導くための上流流路7Aが二点鎖線によって概念的に示されている。上流流路7Aは、例えば、可撓性の管路等を有するガスの流路である。
【0049】
図4で示されるように、プラズマ照射部20には放電部40が設けられている。放電部40は、ガス流路30内でプラズマ放電を発生させる部位である。放電部40は、誘電体部50と第1電極42と第2電極44とを備え、第1電極42と第2電極44とが誘電体部50の一部である第1誘電体層51(図5参照)を介して互いに対向して配置される。放電部40は、沿面放電部として構成され、第1電極42と第2電極44との電位差に基づく電界をガス流路30内で発生させてその内壁面に沿った沿面放電による大気圧低温プラズマを発生させる。
【0050】
本明細書では、プラズマ照射部20においてガス流路30が延びる方向が第1方向であり、第1方向と直交する方向のうち誘電体部50の厚さ方向が第2方向であり、第1方向及び第2方向と直交する方向が第3方向である。図4の例では、誘電体部50と第1電極42と第2電極44とが一体的に設けられて本体部20Aが構成され、本体部20Aの長手方向が第1方向である。図5のように、第2方向は、本体部20Aを第1方向と直交する平面方向に切断した切断面での本体部20Aの短手方向であり、本体部20Aの高さ方向且つ厚さ方向である。第3方向は、本体部20Aを第1方向と直交する平面方向に切断した切断面での本体部20Aの長手方向であり、本体部20Aの幅方向である。本明細書では、第1方向において放出口34側が本体部20Aの先端側であり、第1方向において導入口32側が本体部20Aの後端側である。
【0051】
図5で示されるように、誘電体部50は、第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54を備え、本体部20Aは全体として中空状に構成されている。第1誘電体層51は、中間流路36内の空間よりも第2方向(厚さ方向)他方側に配置されるとともに自身の内部に第2電極44が埋め込まれるように構成される。つまり、第1誘電体層51を介して第1電極42及び第2電極44が対向している。第2誘電体層52は、セラミック材料によって第1電極42を覆うように構成されたセラミック保護層であり、第1誘電体層51よりも中間流路36の空間側において第1電極42を覆うように配置される。第1誘電体層51及び第2誘電体層52は、中間流路36における第2方向他方側の内壁部を構成する。第4誘電体層54は、中間流路36の空間よりも第2方向(厚さ方向)一方側に配置され、中間流路36における第2方向一方側の内壁部を構成する。第3誘電体層53は、第2方向において第1誘電体層51と第4誘電体層54との間に配置され、中間流路36における第3方向一方側の側壁部及び第3方向他方側の側壁部を構成する。つまり、中間流路36は、第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54により画成されている。第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54の材料は、例えばアルミナなどのセラミック、ガラス材料や樹脂材料を好適に用いることができる。誘電体部50において機械的強度が高いアルミナが誘電体として用いられれば、放電部40の小型化が図られやすくなる。
【0052】
図5で示されるように、第1電極42は、誘電体部50の一部である第2誘電体層52を介して中間流路36内の空間に面する。第2電極44は、第1電極42に対して中間流路36とは反対側に設けられる。第2電極44は、第1電極42と平行に配されており、第2方向において第1電極42よりも中間流路36から離れている。図6で示されるように、第1電極42は、中間流路36に沿うように第1方向に直線状に延び、第1の幅且つ第1の厚さで第1方向の第1領域に配置されている。第2電極44は、中間流路36に沿うように第1方向に直線状に延び、第2の幅且つ第2の厚さで第1方向の第2領域に配置されている。第1電極42及び第2電極44の厚さ、幅、配置は、特に限定されない。第1電極42と第2電極44の幅や厚さの一方又は両方は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0053】
このように構成された放電部40は、周期的に変化する電圧が第1電極42と第2電極44との間に印加されたときに中間流路36内で沿面放電を発生させる。沿面放電によって生じたプラズマは、ガス供給部7から中間流路36内に供給されたガスによって放出口34を介して外部に放出される。なお、図6の例では、第1方向の領域AR1において中間流路36が一定幅で構成され、領域AR2では、先端側に向かうにつれて中間流路36の幅が小さくなっており、放出口34付近においてガスの流速を高め得る構成となっている。従って、中間流路36で生じたプラズマが、より遠方まで届きやすくなっている。
【0054】
2.電源部9の詳細
図7のように、電源部9は、駆動回路61と制御部70とを備える。駆動回路61は、第1電極42と第2電極44との間に交流電圧を印加し得る回路である。制御部70は、駆動回路61を制御し得る装置である。制御部70は、情報処理機能や演算機能などを備えた制御装置であり、例えば、CPUや記憶部などを有する装置である。
【0055】
駆動回路61は、電源回路62、昇圧トランス64、第1電力路72,74、第2電力路76,78などを有する。電源回路62は、一対の第1電力路72,74の間に交流電圧を印加する回路である。昇圧トランス64は、一対の第1電力路72,74を介して入力される交流電力を昇圧し、一対の第2電力路76,78に交流電力を供給する変圧器である。図7の例では、電源回路62は、電源62Aと交流発生回路62Bとを有する。電源62Aは、直流電圧を出力する直流電源である。
【0056】
交流発生回路62Bは、電源62Aからの電力に基づいて一対の第1電力路72,74間に交流電圧を印加するように動作する回路である。交流発生回路62Bは、一対の導電路63A,63Bと、スイッチング素子63C,63Dと、ダイオード63E,63Fとを有する。一対の導電路63A,63Bには、電源62Aからの直流電圧が印加される。図7の例では、導電路63Aが電源62Aの高電位側の電極に短絡し、導電路63Bが電源62Aの低電位側の電極に短絡する。
【0057】
一対の第1電力路72,74は、交流発生回路62Bから昇圧トランス64の第1巻線部64Aに交流電力を供給する経路ある。一対の第1電力路72,74には、交流発生回路62Bから交流電圧が印加される。図7の例では、昇圧トランス64は、第1巻線部64Aと第2巻線部64Bとを備え、一対の第1電力路72,74からの交流電圧が第1巻線部64Aの両端に印加される。昇圧トランス64は、第1巻線部64Aの両端に交流電圧が印加された場合に、第1巻線部64Aの両端に印加される交流電圧を昇圧した交流電圧を第2巻線部64Bの両端に印加するように変圧する。図7の例では、第1巻線部64Aの一端は、一方の第1電力路72の一端に短絡するように電気的に接続され、第1巻線部64Aの他端は、他方の第1電力路74の一端に短絡するように電気的に接続される。第2巻線部64Bの一端は、一方の第2電力路76の一端に短絡するように電気的に接続され、第2巻線部64Bの他端は、他方の第2電力路78の一端に短絡するように電気的に接続される。一方の第2電力路76の他端は第1電極42に短絡するように電気的に接続され、他方の第2電力路78の他端は第2電極44に短絡するように電気的に接続される。従って、第2巻線部64Bの両端に印加された交流電圧に基づく交流電圧は、一対の第2電力路76,78を介して第1電極42と第2電極44との間に印加される。
【0058】
交流発生回路62Bは、制御部70によって制御される。制御部70は、例えば、スイッチング素子63C,63Dをいずれもオン状態にするオン信号を周期的に出力することにより、スイッチング素子63C,63Dをいずれもオン状態にする動作を周期的に行い、この周期的なオン動作によって第1電極42と第2電極44との間に所定周波数の交流電圧を印加する。電源部9が第1電極42と第2電極44との間に印加する交流電圧の周波数は、例えば、20kHz~300kHzの範囲内であることが望ましい。電源部9が第1電極42と第2電極44との間に印加する電圧の波形は、正弦波の波形、矩形波の波形、三角波の波形などであってもよく、その他の交流波形でもよい。
【0059】
3.電源部9の制御
制御部70は、スイッチング素子63C,63Dをいずれもオン状態にする動作を周期的に行う際に、各周期のオン期間(スイッチング素子63C,63Dをいずれもオン状態にする期間)を調整する。上記オン期間が調整されることにより、第1電極42と第2電極44との間に印加される交流電圧や第2電力路76,78を流れる交流電流が調整される。そして、制御部70は、上記交流電圧及び上記交流電流を調整することにより、漏れ電流を調整する。この「漏れ電流」とは、駆動回路61の駆動によって放出口34(図2等)から照射されるプラズマが当たる溶液(照射対象の溶液)から、この溶液外に流れる電流である。図1の例では、プラズマ照射装置2が溶液90にプラズマを照射している最中に溶液90とグラウンド98との間の導電路96を流れる電流が上記漏れ電流である。
【0060】
プラズマ照射装置2は、放出口34におけるガスの平均ガス流速を40mm/s以下とする。放出口34における平均ガス流速V(mm/s)は、放出口34の開口面積A(mm)と放出口34を流れるガスの流量F(L/min)と放出口34を流れるガスの温度T(℃)とに基づいて以下の式1によって求めることができる。
【0061】
(式1)
V=((F×1000/60)×(273+T)/(273+25))/A
【0062】
式1において、(F×1000/60)の値は、放出口34において1秒当たりに流れるガスの体積である。式1において、(273+T)/(273+25)の値は、温度変化に伴うガスの体積膨張を反映した値である。
【0063】
式1において、開口面積Aの値は既知の固定値である。本明細書では、ガス流路30からガスを放出する方向が所定方向である。本実施形態では、上述の第1方向が所定方向であり、ガス流路は第1方向に流路が延びている。図4の例では、放出口34から所定範囲においてガス流路30内の第2方向一方側の内壁面及び第2方向他方側の内壁面が上記第1方向と平行又は略平行とされており、上記第2方向一方側の内壁面と上記第2方向他方側の内壁面の間の空間が上記第1方向に続いている。更に、図6のように、放出口34から所定範囲においてガス流路30内の第3方向一方側の内壁面及び第3方向他方側の内壁面が上記第1方向と平行又は略平行とされており、上記第3方向一方側の内壁面と上記第3方向他方側の内壁面の間の空間が上記第1方向に続いている。このように、放出口34から所定範囲において、第2方向一方側及び他方側の各内壁面と第3方向一方側及び他方側の各内壁面とが第1方向と平行又は略平行とされているため、放出口34付近の上記所定範囲においてガスが第1方向に流れ、放出口34から第1方向一方側(前側)にガスが照射される。
【0064】
本実施形態では、所定方向は第1方向であり、ガス流路30の内壁の先端の縁が放出口34の開口の内縁である。本明細書では、放出口34の開口の内縁全体が第1方向と直交する所定仮想平面上に位置する場合、「放出口34の後端を通り且つ所定方向と直交する方向の仮想平面」とは上記所定仮想平面を指す。そして、放出口34の開口の内縁が上記所定方向(第1方向)において所定範囲に亘って配置される場合には、「放出口34の後端を通り且つ所定方向と直交する方向の仮想平面」は、放出口34の後端を通り且つ上記所定方向と直交する方向の切断面を指す。以下の説明では、「放出口34の後端を通り且つ所定方向と直交する方向の仮想平面」は基準仮想平面とも称される。開口面積Aは、上記基準仮想平面での放出口34の開口領域の面積である。本実施形態では、上記基準仮想平面は、第2方向及び第3方向と平行な平面であり、開口面積Aは、放出口34の内縁(ガス流路30の内壁の先端の縁)を第2方向及び第3方向と平行な平面に正投影した図形(具体的には、矩形状の環状図形)の内側の面積と同一である。
【0065】
上流流路7Aを流れるガスの流量は、放出口34を流れるガスの流量Fと同一とみなすことができる。放出口34における平均ガス流速を40mm/s以下とする方法は、例えば、プラズマ照射装置2においてガス流路30を流れるガスの温度Tを温度センサ(図示省略)によって検出し、検出された温度Tを式1に代入したときの平均ガス流速Vが40mm/s以下となるように、上述の流量制御部によって上流流路7Aを流れるガスの流量Fを調節すればよい。なお、上述の例では、ガス供給部7が流量制御部として機能するが、上流流路7Aに流量制御部が設けられていてもよい。また、ガスの流量Fは、予め使用するガス種で構成されたガス流量計を、放電部40よりガスの上流側に設置してガスの流量を測定することが望ましい。
【0066】
なお、上述の方法は、ガス流路30を流れるガスの温度Tを検出した上で流量Fを調節する方法であったが、例えば、ガス流路30を流れるガスの温度が所定値Tm以下であることが明らかな環境であれば、ガスの温度Tを検出せず、((F×1000/60)×(273+Tm)/(273+25))/Aが40mm/s以下となるように流量Fを調節してもよい。これらの方法以外であっても、平均ガス流速V(mm/s)を40mm/s以下に調整可能な方法であればよい。
【0067】
なお、平均ガス流速Vは、40mm/s以下に調整されることが望ましいが、20mm/s以下に調整されることがより望ましく、10mm/s以下に調整されることが更に望ましい。
【0068】
プラズマ照射装置2は、基準仮想平面(放出口34の後端を通り且つ上記所定方向(第1方向)と直交する方向の仮想平面)において、放出口34の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合を0%より大きくする。放出口34の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合は、10%よりも大きいことがより望ましく、20%よりも大きいことが更に望ましい。一方で、プラズマ照射装置2は、放出口34の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合を50%以下の割合とする。放出口34の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合は、40%以下であることがより望ましく、30%以下であることが更に望ましい。上記基準仮想平面において放出口34の開口領域全体の面積は、開口面積Aである。上述の「プラズマの可視光領域」は、プラズマ照射装置2から放出されるプラズマフレアが可視光として光る領域である。上記基準仮想平面におけるプラズマの可視光領域とは、プラズマフレアが可視光として光る領域のうちの上記基準仮想平面に位置する範囲であり、開口面積Aよりも面積が小さい範囲である。図4図6の例では、上記基準仮想平面の位置が一点鎖線で示され、符号Viで示される。図8には、基準仮想平面での放出口34の内縁形状が符号34Zで示され、基準仮想平面の位置での「プラズマの可視光領域」が円形の外縁を有する模様領域Pzで示される。放出口34の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合は、放出口34とプラズマの可視光領域を撮影し、可視光領域の面積を測定してもよい。
【0069】
更に、プラズマ照射装置2は、制御部70が駆動回路61を制御することにより導電路96を流れる漏れ電流の実効値Ieを1.2mAよりも大きくする。制御部70が上記漏れ電流の実効値Ieを1.2mAよりも大きくする方法としては、例えば、漏れ電流の実効値Ieを監視しながら漏れ電流の実効値Ieを1.2mAよりも大きく維持するように調節する方法が挙げられる。図1の例では、溶液90とグラウンド98との間において、導電性材料によって通電経路が構成されており、具体的には、導電性の材料によって構成される容器80と、容器80とグラウンド98との間の通電経路を構成する導電路96とが上記通電経路となっている。図1の例では、溶液90の電位がグラウンド98に対して相対的に大きい場合には溶液90から導電路96を介してグラウンド98へと電流が流れ、溶液90の電位がグラウンド98に対して相対的に小さい場合にはグラウンド98から導電路96を介して溶液90へと電流が流れる。図1の例では、上記通電経路(具体的には導電路96)に電流センサ92が設けられており、電流センサ92は、溶液90とグラウンド98との間を流れる電流の値を検出し得る。制御部70は、電流センサ92が出力する検出値を継続的に取得することにより導電路96を流れる電流(漏れ電流)の値を継続的に監視し、この漏れ電流の実効値Ieを継続的に把握する。そして、制御部70は、短時間の制御周期毎に上記漏れ電流の実効値Ieを検出し、上記漏れ電流の実効値Ieが1.2mAよりも大きい目標値に維持されるように制御電圧を調整する。
【0070】
なお、平均ガス流速Vが上述されたいずれの範囲に調整される場合でも、漏れ電流の実効値Ieは、1.2mAよりも大きく維持されることが望ましいが、2.0mAよりも大きく維持されることがより望ましく、2.0mAよりも大きく維持されることが更に望ましい。
【0071】
更には、プラズマ照射装置2は、上記基準仮想平面(放出口34の後端を通り且つ上記所定方向と直交する方向の仮想平面)での放出口34の開口領域において、「プラズマの可視光領域」のイオン電流密度を9.0×10-3A/m以上とする。イオン電流密度は、「プラズマの可視光領域」の単位面積当たりの電流の密度である。イオン電流密度は、上述の漏れ電流の実効値Ieと、上記基準仮想平面での「プラズマの可視光領域」の面積Apとに基づいて、Ie/Apの式で表される値を用いることができる。
【0072】
4.実証実験
次の説明は、漏れ電流の実効値と平均ガス流速との関係を確認する実験に関する。
実証実験では、図1のような第1実施形態に係るプラズマ照射装置2を複数種類用意した。これら複数種類のプラズマ照射装置2は、放出口34の開口面積を異ならせたものであり、放出口34以外の構成は同様である。図9のように、実証実験では、放出口34の開口サイズ、プラズマ断面積、占有率、放出口34での平均流速、漏れ電流、イオン電流密度、の組み合わせを様々に変えた実験例1~14の各々について、所定の位置関係及び所定の動作条件でプラズマを発生させた。図9において「開口サイズ」は、上述の開口面積Aの値である。「プラズマ断面積」は、上述の基準仮想平面での「プラズマの可視光領域」の面積Apである。「占有率」は、開口面積Aに対する「プラズマの可視光領域」の面積Apの割合Ap/Aである。「平均流速」は、上述の平均ガス流速Vである。「漏れ電流」は、上述の漏れ電流の実効値Ieである。電流密度は、上述のイオン電流密度であり、Ie/Apの値である。上記の「所定の位置関係」は、放出口34を溶液90に向けた状態且つ放出口34と溶液90の距離を5mmとした位置関係である。上記の「所定の動作条件」は、ガス流路30にヘリウムガスを流しつつ第1電極42と第2電極44の間に最大電圧が1.5kV程度の交流電圧を印加するように交流電圧を発生させる動作条件である。この実証実験で用いられる溶液90は、ウシ血清アルブミン(BSA)を50mg/mLの割合で含有する溶液である。
【0073】
図9には、実証実験の各実験例について、各組み合わせ(開口サイズ、プラズマ断面積、占有率、平均流速、漏れ電流、電流密度、の組み合わせ)と判定結果との対応関係が表として示される。図9の表において判定結果は、膜が形成された実験例がAの判定とされ、膜が形成されなかった実験例がBの判定とされる。
【0074】
実験例1、2では、放出口34の開口面積(開口サイズ)が0.19mmとされたプラズマ照射部20が用いられた。図9では、実験例1、2のプラズマ照射部20の構成を構成1とする。実験例3~5では、放出口34の開口面積が0.25mmとされたプラズマ照射部20が用いられた。図9では、実験例3~5のプラズマ照射部20の構成を構成2とする。実験例6~8では、放出口34の開口面積が0.40mmとされたプラズマ照射部20が用いられた。図9では、実験例6~8のプラズマ照射部20の構成を構成3とする。実験例9~11では、放出口34の開口面積が0.50mmとされたプラズマ照射部20が用いられた。図9では、実験例9~11のプラズマ照射部20の構成を構成4とする。実験例12~14では、放出口34の開口面積が1.05mmとされたプラズマ照射部20が用いられた。図9では、実験例12~14のプラズマ照射部20の構成を構成5とする。
【0075】
実証実験では、実験例9~14のように、少なくとも、占有率(上記基準仮想平面における放出口34の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合)が0%より大きく50%以下の割合であって、平均ガス流速Vが40mm/s以下である場合に、溶液90において凝集膜が確認された。この結果から、占有率が0%より大きく50%以下の割合であって平均ガス流速Vが40mm/s以下である場合にタンパク質の凝集効果が得られることが確認された。実験例9~14のうちの実験例9、10、11,12、14では、タンパク質の凝集膜が確認されており、イオン電流密度が9.0mA/mm以上(即ち、9.0×10-3A/m以上)で良好な結果が得られている。実験例9~14のうちの実験例12、13,14では、タンパク質の凝集膜が確認されており、漏れ電流の実効値が1.2mAよりも大きい範囲で良好な結果が得られている。
【0076】
5.効果の例
プラズマ照射装置2は、放出口34の開口領域におけるガスの平均ガス流速を40mm/s以下に抑えることができるため、溶液90に達する際のガス流速が大きいことに起因して溶液表面で凹み生じることを抑制することができる。ゆえに、このプラズマ照射装置2は、溶液表面で凹みが生じることによって凝集膜の形成が阻害されることを抑えることができる。一方、ガス流速を抑えると、大気の混ざり込みに起因するペニング効果が起こりやすいため、プラズマフレアがエネルギーを失いやすくなるという懸念があるが、放出口34の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合が0%より大きく50%以下の割合とされるため、プラズマフレアの減衰を抑えるように収束させることができる。よって、プラズマ照射装置2は、溶液表面で凹みが生じること抑えつつ、プラズマフレアの減衰を抑えることができ、タンパク質の凝集膜をより良好に形成することができる。
【0077】
プラズマ照射装置2は、放出口34の開口領域における可視光領域のイオン電流密度を9.0×10-3A/m以上とすることにより、プラズマフレアの減衰をより一層抑えることができ、タンパク質の凝集膜を、より一層良好に形成することができる。
【0078】
プラズマ照射装置2は、プラズマの照射に応じて溶液90から溶液90外に流れる漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きくすることにより、タンパク質の凝集膜を、さらに良好に形成することができる。
【0079】
プラズマ照射装置2は、希ガスの利用により、効率よく電離を促すことができるようになり、プラズマの照射を好適に行うことができる。
【0080】
プラズマ照射装置2は、ヘリウムガスの利用により、さらに効率よく電離を促すことができるようになり、プラズマの照射をより好適に行うことができる。
【0081】
プラズマ照射装置2において、放電部40は、第1電極42又は第2電極44の一方が直接又は他部材を介してガス流路30内の空間に面していることが望ましく、上述の例では、第1電極42と第2電極44との間に電圧を印加することに応じてガス流路30内で沿面放電を発生させる。このプラズマ照射装置2は、放電部40が沿面放電を発生させる構成であるため、より低い印加電圧で、より効率的にプラズマを照射することができる。
【0082】
プラズマ照射装置2は、漏れ電流の値を検出する電流検出部が設けられ、制御部70は、電流検出部によって検出される漏れ電流の値に基づいて漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きく維持する制御を行う。このプラズマ照射装置2は、検出される漏れ電流の値に基づいて、漏れ電流の実効値を1.2mAよりも大きく維持する制御を安定的に行いやすい。
【0083】
<他の実施形態>
本開示は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。上述又は後述の実施形態の特徴は、矛盾しない範囲であらゆる組み合わせが可能である。また、上述又は後述の実施形態のいずれの特徴も、必須のものとして明示されていなければ省略することもできる。更に、上述した実施形態の特徴は、次のように変更されてもよい。
【0084】
プラズマ照射装置2は、ガス流路30を流れるガスの流速又はガス流路30の上流を流れるガスの流速を検出する流速検出部を備えていてもよい。そして、制御部70は、上記流速検出部によって検出される流速に基づいて放出口34における平均ガス流速を40mm/s以下に維持するように制御を行ってもよい。
【0085】
上述の実施形態に係るプラズマ照射装置は、ガス流路30内に供給するガスとしてヘリウムガスが用いられるが、ヘリウムガス以外の希ガスであってもよい。
【0086】
上述の実施形態に係るプラズマ照射装置は、図5のように、第1電極42が他部材である第2誘電体層52を介してガス流路30内の空間に面していたが、第1電極42が他部材を介さずにガス流路30内の空間に面していてもよい。つまり、第1電極42がガス流路30内の空間に露出し、第1電極42がガス流路30の内壁の一部をなすような構成であってもよい。
【0087】
上述した例では、第1電極が直接又は他部材を介してガス流路内の空間に面するが、第2電極が直接又は他部材を介してガス流路内の空間に面してもよい。例えば、第2電極が「他部材」である誘電体層に覆われる構成で誘電体層を介してガス流路内の空間に面していてもよい。或いは、第2電極がガス流路内の空間に露出し、第2電極がガス流路の内壁の一部をなすような構成であってもよい。いずれの場合でも、第1電極は、第2電極よりもガス流路から離れた位置に配置されていればよい。
【0088】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
2 :プラズマ照射装置
7 :ガス供給部(流量制御部)
9 :電源部
30 :ガス流路
34 :放出口
40 :放電部
42 :第1電極
44 :第2電極
50 :誘電体部(誘電体層)
70 :制御部
P :プラズマ
【要約】
【課題】タンパク質を含んだ溶液にプラズマを照射し、タンパク質の凝集膜を良好に形成する。
【解決手段】プラズマ照射装置2において、ガス流路30は、放出口34に向かってガスを流すように構成され、所定方向一方側にガスを放出する流路として構成される。放電部40は、第1電極42及び第2電極44を備え、ガス流路30内でプラズマ放電を発生させる。電源部6は、第1電極42と第2電極44との間に周期的に変化する電圧を印加する。プラズマ照射装置2は、放出口34の後端を通り且つ上記所定方向と直交する方向の仮想平面において、放出口34の開口領域全体に対するプラズマの可視光領域の割合を、0%より大きく50%以下の割合とし、開口領域におけるガスの平均ガス流速を40mm/s以下とする。
【選択図】図1
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図9