(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】金属板の処理方法及びこの方法で処理した金属板
(51)【国際特許分類】
C23C 22/53 20060101AFI20231116BHJP
C23C 22/68 20060101ALI20231116BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C23C22/53
C23C22/68
C23C28/00 C
(21)【出願番号】P 2022522896
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 IB2020059548
(87)【国際公開番号】W WO2021074765
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/058806
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジルベール,フリーダ
(72)【発明者】
【氏名】ラシエル,リディア
(72)【発明者】
【氏名】タイ,デルフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アレリー,クリスチャン
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-047578(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073319(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/073320(WO,A1)
【文献】特開2010-090464(JP,A)
【文献】特開2009-127077(JP,A)
【文献】特表2015-504977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00
C23C 28/00
C23C 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その面の少なくとも1つの上が、亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜で被覆された鋼基材であって、該金属皮膜自体が以下を含む変換層で被覆され、
- 硫酸亜鉛水和物
-
0を超え、14mg.m
-2までの量のアルミニウム
該変換層がヒドロキシ硫酸亜鉛も遊離水分子も遊離水酸基を有する化合物も含まず、該変換層中の硫黄の表面密度が5.0mg/m
2以上である、鋼基材。
【請求項2】
前記変換層のアルミニウムが、硫酸アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウムの形態である、請求項1に記載の鋼基材。
【請求項3】
前記変換層のアルミニウム量が、5.0~13.0mg.m
-2の間に含まれる、請求項1又は2のいずれか一項に記載の鋼基材。
【請求項4】
前記硫酸亜鉛水和物が、硫酸亜鉛一水和物(ZnSO
4.H
2O)、硫酸亜鉛四水和物(ZnSO
4.4H
2O)及び硫酸亜鉛七水和物(ZnSO
4.7H
2O)の中から選択される化合物の少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼基材。
【請求項5】
前記変換層中の硫黄の表面密度が5.0~22.0mg/m
2の間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼基材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼基材でできた自動車部品。
【請求項7】
以下に従う工程を含む移動する金属ストリップの処理方法。
iv その面の少なくとも1つの上が、亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜で被覆された鋼ストリップを提供する工程、
v 少なくとも0.01mol.L
-1の硫酸亜鉛及び少なくとも0.01mol.L
-1の硫酸アルミニウムを含む水性処理溶液を、単純な接触で該金属皮膜に施用して、湿潤塗膜を形成する工程、
vi 続いて該水性処理溶液を空気で乾燥させて、該金属皮膜上に以下を含む変換層を形成する工程、
- 硫酸亜鉛水和物
- 14mg.m
-2までの量のアルミニウム
[ここで該変換層がヒドロキシ硫酸亜鉛も遊離水分子も遊離水酸基を有する化合物も含まず、該変換層中の硫黄の表面密度が5.0mg/m
2以上である。]
、且つ
前記金属ストリップは、工程iv~viを通して移動する。
【請求項8】
前記水性処理
溶液が、10~140g/Lの間の硫酸亜鉛七水和物を含む、請求項7に記載の処理方法。
【請求項9】
前記水性処理
溶液が、1~80g/Lの間の硫酸アルミニウム十八水和物を含む、請求項7又は8に記載の処理方法。
【請求項10】
前記水
性処理溶液中のアルミニウム量に対する亜鉛量の重量比が5から40である、請求項7~9のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項11】
前記金属皮膜が、溶融めっき、電着又は物理蒸着により堆積される、請求項7~10のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項12】
前記金属皮膜を前記水性処理溶液の施用前に脱脂する、請求項7~11のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項13】
前記湿潤塗膜の厚さが0.5~4μmの間である、請求項7~12のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項14】
皮膜重量が2g/m
2未満の油膜が前記変換層上に施用される、請求項7~13のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項15】
乾燥温度が20~200℃の間である、請求項7~14のいずれか一項に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その面の少なくとも1つ上で亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜で被覆された鋼基材を含む金属板に関する。
【0002】
本発明は、特に、この被覆鋼基材の前注油及び硫酸塩を含む水溶液中でのその処理に関する。
【0003】
この種の金属板は、特に自動車用部品の製造に使用されることを意図しているが、それらの用途に限定されるものではない。
【背景技術】
【0004】
US2017260471号より、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、硫酸マグネシウムからなる群から硫酸塩を含む水溶液で亜鉛被覆金属板を処理し、平鋼製品システムの形成において良好なトライボロジー条件を得ることが知られている。
【0005】
この特許出願は、列挙された硫酸塩を含むトライボロジー的に活性な層が、例えば、WO00/15878号に開示された従来の皮膜と同じ効果を達成することを開示する。
【0006】
亜鉛被覆金属板を、硫酸亜鉛を含む水溶液で処理して亜鉛ベースの皮膜上にヒドロキシ硫酸亜鉛の層を形成することは、WO00/15878号から実際に既に知られている。このヒドロキシ硫酸亜鉛の変換層は予め注油された亜鉛被覆金属板に、リン酸化によって得られるものよりも高い性能を提供する。
【0007】
それにもかかわらず、ヒドロキシ硫酸亜鉛をベースとするこの変換層は、自動車産業で使用される接着剤、特にエポキシ系接着剤への不十分な接着性を提供する可能性があることが観察されている。
【0008】
特許出願第WO2019/073273号及びWO2019/073274号には、その面の少なくとも1つ上で亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜で被覆された鋼基材が開示されており、ここで、金属皮膜自体は、硫酸亜鉛一水和物、硫酸亜鉛四水和物及び硫酸亜鉛七水和物の中から選択される化合物の少なくとも1種を含む変換層で被覆されており、変換層は、ヒドロキシ硫酸亜鉛も遊離水分子も遊離水酸基も含まず、変換層中の硫黄の表面密度は0.5mg/m2以上である。
【0009】
これらの特許出願はまた、以下に従う工程を含む、この鋼基材を製造するための処理方法を開示する。
- (i) その面の少なくとも1つ上で亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜で被覆された鋼ストリップ提供する工程、
- (ii) 少なくとも0.01mol/Lの硫酸亜鉛を含む水性処理溶液を、単純な接触により金属皮膜に施用して、湿潤塗膜を形成する工程、
- (iii) 水性処理溶液を、続いて、空気による特定の乾燥温度で、金属皮膜上に水性処理溶液の施用することから乾燥機の出口までの時間が4秒未満である乾燥機内で乾燥させる工程であって、ストリップ速度、湿潤塗膜厚、初期ストリップ温度及び気流速度は、金属皮膜上に遊離水分子も遊離水酸基も含まない変換層を形成するように適合され、変換層中の硫黄の表面密度は0.5mg/m2以上である工程。特許出願WO2019/073273号では、空気乾燥温度は170℃を超える。特許出願WO2019/073274号では、空気乾燥温度は80℃未満である。
【0010】
両特許出願において、変換層は、ヒドロキシ硫酸亜鉛も遊離水分子も、自動車産業で使用される接着剤への接着性を劣化させる遊離水酸基も含んでいないが、処理方法は、非常に特定の温度で行われる空気乾燥を含む。これらは、乾燥温度範囲外では、ヒドロキシ亜鉛硫酸構造が形成され、自動車産業で使用される接着剤、特にエポキシ系接着剤の接着を低下させるため、非常に制限的である。全てのプラントがこのような乾燥温度を取り扱ったり、このような乾燥温度を得るために改変できたりするわけではない。最後に、金属皮膜上に水性処理溶液を施用してから乾燥機の出口までの時間が4秒未満であることを必要とするため、方法が複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2017/260471号明細書
【文献】国際公開第2000/015878号
【文献】国際公開第2019/073273号
【文献】国際公開第2019/073274号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、乾燥温度が何度であれ、自動車産業で使用される接着剤、特にエポキシ系接着剤に対してより良好な接着性を提供する表面処理を提供することにより、先行技術の(施設及び方法の)欠点を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、その面の少なくとも1つ上で亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜で被覆された鋼基材であって、該金属皮膜自体が以下を含む変換層で被覆される鋼基材を提供することによって達成される。
- 硫酸亜鉛水和物
- 14mg.m-2までの量のアルミニウム、
ここで変換層はヒドロキシ硫酸亜鉛も遊離水分子も遊離水酸基を有する化合物も含まず、変換層中の硫黄の表面密度が5.0mg/m2以上である。
【0014】
本発明による鋼基材はまた、個別に又は組み合わせて考えられる、以下に列挙する任意の特徴を有し得る。
- アルミニウムは13.0mg.m2までの量であり、
- 変換層のアルミニウムは、硫酸アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウムの形態であり、
- 変換層のアルミニウム量は、5.0~13.0mg/m2の間に含まれ、
- 硫酸亜鉛水和物は、硫酸亜鉛一水和物(ZnSO4.H2O)、硫酸亜鉛四水和物(ZnSO4.4H2O)及び硫酸亜鉛七水和物(ZnSO4.7H2O)の中から選択される化合物の少なくとも1種を含み、
- 変換層中の硫黄の表面密度は、5.0~22.0mg/m2の間に含まれ、
- 亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜は、10重量%の含有率までのマグネシウム、20重量%の含有率までのアルミニウム、0.3重量%までの含有率のケイ素の中の少なくとも1種の元素を含み、
- 亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜は、少なくとも0.1重量%のマグネシウムを含む。
【0015】
本発明の第2の目的は、本発明の鋼基材でできた自動車部品からなる。
【0016】
本発明の第三の目的は、以下に従う工程を含む、移動する金属ストリップの処理方法からなる。
i その面の少なくとも1つ上で亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜で被覆された鋼ストリップを提供する工程、
ii 少なくとも0.01mol.L-1の硫酸亜鉛及び少なくとも0.01mol.L-1の硫酸アルミニウムを含む水性処理溶液を、単純な接触で金属皮膜に施用して、湿潤塗膜を形成する工程、
iii 続いて水性処理溶液を空気で乾燥させて、金属皮膜上に以下を含む変換層を形成する工程、
- 硫酸亜鉛水和物
- 14mg.m-2までの量のアルミニウム、
ここで変換層はヒドロキシ硫酸亜鉛も遊離水分子も遊離水酸基を有する化合物も含まず、変換層中の硫黄の表面密度は5.0mg/m2以上である。
【0017】
本発明による処理方法はまた、個別に又は組み合わせて考えられる、以下に列挙される任意の特徴を有し得る。
- アルミニウムは13.0mg.m2までの量であり、
- 水性処理溶液は10~140g/Lの間の硫酸亜鉛七水和物を含み、
- 水性処理溶液は10~80g/Lの間の硫酸アルミニウム十八水和物を含み、
- 水溶液中のアルミニウム量に対する亜鉛量の重量比は5~40であり、
- 金属皮膜は溶融めっき法、電着又は物理蒸着法で堆積させることができ、
- 金属皮膜は水性処理溶液の施用前に脱気され、
- 湿潤塗膜厚は0.5~4μmの間であり、
- 皮膜重量が2g/m2未満の油膜が変換層に施用され、
- 乾燥温度は20~200℃の間である。
【0018】
いかなる科学的理論にも拘束されないが、変換層におけるヒドロキシ硫酸亜鉛自体の存在が、いくつかの接着剤、特にエポキシをベースとする接着剤に対する処理金属板の弱い接着につながったと思われる。実際、ヒドロキシ硫酸亜鉛構造の水酸基は接着剤のエポキシ系と反応し、接着問題を引き起こす。特に、それらの存在は界面の亜鉛/エポキシの結合を低下させ、接着剤の可塑化も引き起こす。
【0019】
また、本発明者らは、明らかに乾燥している場合であっても、遊離水分子及び/又は遊離水酸基が変換層中に存在し得ることを観察した。これらの遊離水分子及び/又は遊離水酸基はまた、エポキシ系化合物などの接着剤の特定の化合物と非常に反応性であり、このことは接着問題をもたらす。
【0020】
本発明者らは、他の特性を保存しながらエポキシ接着剤に対して良好な接着性を有する層を得るために、乾燥条件の如何にかかわらず、ヒドロキシ硫酸亜鉛を排し、完全に乾燥した、すなわち、遊離の水分子及び遊離水酸基を含まない層を得るための徹底的な研究を行ってきた。
【0021】
生成物の観点から、これらの研究は、変換層が硫酸亜鉛水和物及び14.0mg・m-2までの量のアルミニウムを含んでいれば、乾燥条件がどんなものであっても、エポキシ接着剤への接着性の改善が可能であることを明らかにした。
【0022】
実際、14.0mg・m-2までのAlをさらに含む変換層の構造は、接着剤への接着をさらに改善すると考えられる。アルミニウムは金属皮膜の酸化により生じた遊離水酸基を捕捉し、pHが7(その時点でヒドロキシ硫酸亜鉛が金属皮膜上に析出し始める)まで上昇するのを防ぐと思われる。また、アルミニウムはヒドロキシ硫酸亜鉛の析出を避けるのに十分低くpHを保つため、いずれにせよ安定な硫酸亜鉛水和物のみが生成するように乾燥条件を注意深く選択する必要はない。今回の場合、変換層に不安定な水和物が含まれていても、それらはヒドロキシ硫酸亜鉛中では分解しない。さらに、アルミニウムが遊離水酸基を捕捉するので、遊離水分子の生成も妨げられる。
【0023】
したがって、特許出願WO2019/073273号及びWO2019/073274号とは逆に、特定の乾燥温度は不要であり、金属皮膜上に水性処理溶液を施用してから乾燥機の出口までの間の特定の時間は不要である。本発明の処理方法は、多くの変化を取り扱うことなく、プラントにおいて容易に実施することができる。また、本発明の被覆板は、特にUS2017260471号及びWO00/15878号に記載されている先行技術の板よりも接着剤に対する接着性に優れている。
【0024】
本発明は、本発明及び先行技術に従った変換層のIRRAS(赤外線反射吸収分光法)スペクトルである
図1を参照しながら、純粋に説明の目的で提供され、いずれにせよ制限することを意図していない、以下の記載を読むことにより、より深く理解される。
【0025】
まず、本発明は、鋼基材に関するものである。鋼基材は金属ストリップの形態であることができる。それは、熱間圧延され、その後冷間圧延されることが好ましい。それは、例えば、自動車の車体用の部品として後で使用するために巻き取ることができる。
【0026】
鋼基材は、その表面の少なくとも1つ上で、亜鉛又はその合金、すなわち、限定されないが、鉄、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム及びニッケルなどの1種以上の合金化元素を含む亜鉛をベースとする金属皮膜で被覆される。特定の変形例では、この種の皮膜が基材の両面に存在することができる。
【0027】
金属皮膜は、一般に20μm以下の厚さを有し、従来の方法で、貫通腐食から基材を保護することを目的としている。
【0028】
本発明の1つの変形例において、金属皮膜は、0.1~0.4重量%の間のアルミニウムを含み、残余は亜鉛及び製造方法から生じる不可避の不純物である。
【0029】
本発明の1つの変形例において、金属皮膜は、腐食に対する耐性を改善するために少なくとも0.1重量%のマグネシウムを含む。好ましくは、金属皮膜は少なくとも0.5重量%、より好ましくは少なくとも2重量%のマグネシウムを含む。
【0030】
別の好ましい実施形態において、亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜は、10重量%の含有率までのマグネシウム、20重量%の含有率までのアルミニウム、0.3重量%の含有率までのケイ素の中の少なくとも1種の元素を含む。
【0031】
別の好ましい実施形態において、亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜は、0.01~8.0重量%のAl、任意に0.2~8.0重量%のMgを含み、残余は、Zn及び製造方法から生じる不可避の不純物である。例えば、亜鉛をベースとする皮膜は1.2重量%のAl及び1.2重量%のMg又は3.7重量%のAl及び3重量%のMgを含む。
【0032】
亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜は、溶融めっきによって堆積させることができる。この場合、めっき浴はまた、Sr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、Zr又はBiなどの任意の追加元素を0.3重量%まで含有することができる。
【0033】
これらの異なる元素は、とりわけ、金属皮膜の延性又は基材への金属皮膜の接着性を改善することができる。皮膜の特性に及ぼすそれらの影響に精通している当業者は、求めた追加目的に応じてそれらの使用方法を知っているものである。
【0034】
最後に、めっき浴は、溶融した供給インゴット由来の残留元素、又は、5重量%までの含有率、好ましくは3重量%までの含有率の鉄のような、基材がめっき浴を通過することに起因する残留元素を含むことができる。これらの残留元素は部分的に金属皮膜に取り込まれ、その場合それらは「製造方法から生じる不可避の不純物」という用語で示される。
【0035】
亜鉛又はその合金をベースとする金属皮膜は、電着被覆堆積又は物理蒸着によって堆積させることもできる。この場合、亜鉛からなる金属皮膜、すなわち、亜鉛の量が99重量%を超える金属皮膜を堆積させることが可能である。
【0036】
金属皮膜は、硫酸亜鉛水和物及び14mg・m-2までの量のアルミニウムを含む変換層によって少なくとも部分的に覆われる。
【0037】
硫酸亜鉛水和物及びアルミニウムは相乗作用を示す。亜鉛硫酸塩水和物は、先行技術によって確立された性能を提供し、一方、アルミニウムは、ヒドロキシ硫酸亜鉛及び遊離水分子の出現を防止するように、亜鉛硫酸塩水和物が安定である条件を提供する。
【0038】
硫酸亜鉛水和物は一般式Znx(SO4)y.zH2Oであり、x、y及びzはゼロと異なる。有利には、硫酸亜鉛水和物は、以下、すなわち、硫酸亜鉛一水和物(ZnSO4.H2O)、硫酸亜鉛四水和物(ZnSO4.4H2O)及び硫酸亜鉛七水和物(ZnSO4.7H2O)の中から選択される化合物の少なくとも1種を含む。これらは安定な化合物である。それらの存在のおかげで、不安定な硫酸亜鉛水和物の分解によるその後のヒドロキシ硫酸亜鉛の発生が避けられる。
【0039】
アルミニウムの量は14mg・m-2、好ましくは13.0mg・m-2に制限されるが、それは、より多量のアルミニウムは接着結合を低下させる可能性があると考えられるためである。
【0040】
好ましくは、変換層中のアルミニウム量は5~14mg・m-2であり、より好ましくは7~13mg・m-2である。
【0041】
本発明の変換層中にアルミニウムが存在する形態は特に限定されない。いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、アルミニウムは主に硫酸アルミニウム及び/又はアルミニウムと遊離水酸基との結合に起因する水酸化アルミニウム(Al(OH)3)の形態で存在すると考えられる。好ましくは、変換層は、したがって、硫酸亜鉛水和物、並びに硫酸アルミニウム及び水酸化アルミニウムの少なくとも1種を含む。
【0042】
変換層はまた、ヒドロキシ硫酸亜鉛も遊離水分子も遊離水酸基を有する化合物も含まない。
【0043】
ヒドロキシ硫酸亜鉛は、発明者らの理解に基づくと、接着剤のエポキシ系と反応し、接着問題につながる水酸基を含む。これがないと、エポキシ系接着剤の金属板への接着が大幅に改善する。ヒドロキシ硫酸亜鉛は以下の一般式の化合物を意味する。
[Znx(SO4)y(OH)z,tH2O]
ここで、2x=2y+zであり、y及びzはゼロとは異なる。
【0044】
zは好ましくは6以上であり、より好ましくはz=6及び3≦t≦5である。特に、x=4、y=1、z=6及びt=3である化合物が先行技術から金属板上で観察されている。
【0045】
遊離水分子及び遊離水酸基はまた、エポキシ系化合物などの接着剤の特定の化合物と非常に反応性であり、このことは接着問題をもたらす。それらが存在しないと、エポキシ系接着剤の金属板への接着が大幅に改善する。
【0046】
変換皮膜中の硫酸塩の存在は硫黄の表面密度の尺度により評価され、定量化される。この場合、変換層中の硫黄の表面密度は0.5mg/m2以上である。この値未満では、金属板が形成される間に金属皮膜が劣化し、その結果、金属板の表面に亜鉛又はその合金の粉末又は粒子が形成されると思われる。これらの粒子又はこの粉末の形成ツールにおける蓄積及び/又は凝集は、とげ及び/又はくびれの形成により、形成された部品を損傷する可能性がある。
【0047】
好ましくは、変換層における硫黄の表面密度は5.0~22.0mg/m2の間であり、より好ましくは10.0~22.0mg/m2の間であり、有利には13.0~22.0mg/m2の間である。いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、これらの量の硫黄は、本発明による鋼基材の接着結合をさらに改善すると考えられる。
【0048】
変換層中の硫黄の表面密度はICP又はX線蛍光(XRF)で測定できる。
【0049】
方法の観点から、場合により脱脂後に、前記皮膜への少なくとも0.01mol.L-1の硫酸亜鉛及び少なくとも0.01mol.L-1の硫酸アルミニウムを含む水性処理溶液の施用により変換層を得ることができる。
【0050】
硫酸亜鉛の濃度が0.01mol.L-1未満ではこのような層を形成することができないが、濃度が高すぎると堆積速度があまり改善せず、わずかでも低下する可能性があることもわかっている。好ましくは、水性処理溶液は、50mol.L-1以下の濃度の硫酸亜鉛ZnSO4及び50mol.L-1以下の濃度の硫酸アルミニウムAl2(SO4)3を含む。
【0051】
水性処理溶液は、硫酸亜鉛及び硫酸アルミニウムを純水に溶かすことによって調製できる。例えば、硫酸亜鉛七水和物(ZnSO4.7H2O)を使用することができる。例えば、硫酸アルミニウム十八水和物(Al2(SO4)3.18H2O)を使用することができる。本発明の1つの変形例において、水性処理溶液は、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム及び水からなる。
【0052】
好ましくは、水性処理溶液は10~140g.L-1の間、より好ましくは10~80g.L-1の間、有利には10~40g.L-1の間の硫酸亜鉛七水和物を含む。
【0053】
好ましくは、水性処理溶液は1~80g.L-1の間、より好ましくは10~60g.L-1の間、有利には10~30g.L-1の間の硫酸アルミニウム十八水和物を含む。
【0054】
有利には、水溶液中のアルミニウム量に対する亜鉛量の重量比は、5~40の間、より好ましくは5~30の間、有利には10~25の間に含まれる。実際、いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、水溶液中のアルミニウム量に対する亜鉛量の重量比が上記の通りである場合、接着結合のさらなる改善があると考えられる。
【0055】
水性処理溶液のpHは、好ましくは、塩基又は酸のいずれも添加せずに、溶液の自然なpHに対応する。このpHの値は一般に4~7の間である。
【0056】
水性処理溶液の温度は20~60℃の間であることができる。
【0057】
水性処理溶液は、乾燥温度にかかわらず、単純な接触により金属皮膜に施用でき、空気で乾燥させることができる。それは、従来の方法、例えば、浸漬、ロールコーティング、噴霧、最終的には圧搾が続くことによって施用される。
【0058】
好ましくは、湿潤塗膜厚さは0.5~4μmの間である。
【0059】
好ましくは、水性処理溶液は、続いて乾燥機中で空気により乾燥させる。好ましくは、乾燥機は、6~12個の間のノズルを備え、金属ストリップへのエアジェットの衝突をより良好に分散させる。好ましくは、乾燥機は、金属ストリップから湿潤塗膜を除去することなくジェット内の圧力損失を回避するために、金属ストリップから4~12cmの間に配置されたノズルを備える。好ましくは、ノズルは、ノズル出口における空気速度を最適化するように、2mm~8mmの間に幅が含まれる開口部を有する。
【0060】
好ましくは、乾燥温度は20~200℃の間、より好ましくは50~200℃の間、例えば、80℃未満、80~150℃の間又は150℃超である。
【0061】
好ましくは、ストリップ速度は60~200m/分の間である。
【0062】
好ましくは、初期ストリップ温度は20~50℃の間である。
【0063】
好ましくは、空気流量は5000~50000Nm3/時の間である。
【0064】
変換層の形成後、変換層上に2g/m2未満の皮膜重量の油膜を施用できる。
【0065】
実用的な観点から、IRRASモード(入射角度80°の赤外線反射吸着分光法)での赤外分光法によりヒドロキシ硫酸亜鉛の不在を制御することができる。変換層がヒドロキシ硫酸亜鉛を含む場合、IRRASスペクトルは、υ3硫酸塩振動1077-1136-1177cm-1に割り当てられた複数の吸収ピーク及びOH伸縮領域3000~3400cm-1における活性水バンドを呈する。これらの結果は、文献に示されているヒドロキシ硫酸亜硫の構造と一致する(υ1硫酸塩振動:1000cm-1、υ2硫酸塩振動:450cm-1、υ3硫酸塩振動:1068-1085-1130cm-1、υ4硫酸塩振動:611-645cm-1、水酸基振動:3421cm-1)。
【0066】
硫酸亜鉛水和物の存在はIRRASモードで赤外分光法により制御できる。変換層がヒドロキシ硫酸亜鉛を含まず、硫酸亜鉛水和物を含む場合、IRRASスペクトルは、3つのピークの代わりに1172cm-1付近に位置する1つの単一の硫酸塩ピークを提示する。より具体的には、上記の安定な硫酸亜鉛水和物の各々の存在は、硫酸バンド及び遊離水バンドを追跡することにより、示差走査熱量測定(DSC)と結合したIRRASモードにおける赤外分光法により制御することができる。
【0067】
湿潤塗膜厚さは、乾燥機の前に配置された赤外線ゲージで測定することができる。それは、光源、赤外線検出器、特定のフィルタで構成される。測定原理は赤外光吸収に基づいている。
【0068】
乾燥機の出口では、変換層における水の不在は、特にハイパースペクトルカメラで制御することができる。この後者は、光を波長に分散させる分光計に結合された赤外マトリックス検出器で作られている。測定装置は、直線形状のIRランプ(長さ800mm)及び双方向反射構成のMWIR(中赤外検知器)ハイパースペクトルカメラで構成することができる。カメラの検出範囲は3~5μmで、これは液体の水の主な吸収バンドに相当する。測定原理は、金属ストリップで反射した光の強度を測定することからなる。変換層に水が残っていれば、水は光の一部を吸収し、より少ない強度が反射される。
【0069】
変形例では、乾燥機出口の変換層に水が存在しないことは、乾燥機内の鋼ストリップの温度を監視することによって制御される。膜中に水がある限り、熱風の熱エネルギーは水を蒸発させるのに費やされ、金属ストリップの温度は一定のままであるか、又は水の蒸発によって低下さえする。膜が乾燥すると、熱風の熱エネルギーが金属ストリップの加熱に費やされる。したがって、乾燥機内の鋼ストリップの温度を監視することにより、乾燥機の出口の前に金属ストリップの温度が上昇し始めることを制御することは容易である。
【0070】
本発明による処理方法及び鋼基材を用いることによって得られる性能の改善を強調する観点から、実施形態のいくつかの具体例を、先行技術に基づく被覆鋼板と比較して詳細に示す。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】
図1a、
図1b及び
図1cはそれぞれ試験例2、9及び4のIRRASスペクトルを示す。
【実施例】
【0072】
[実施例1]
以下の非限定的な実施例(専ら説明のために提示される)で見られるように、本発明者らは、本発明により、他の性能を低下させることなく、自動車産業で使用される接着剤、特にエポキシをベースとする接着剤への接着性を改善することが可能になることを示した。
【0073】
10回の試験例は、水性処理溶液を亜鉛めっき鋼板上に、又は電気亜鉛めっき鋼板上に、ロールコーティングにより施用し、乾燥条件を変えて湿潤塗膜を乾燥させることにより作成した。
【0074】
特許出願US2017260471号に従って、硫酸アルミニウム十八水和物Al2(SO4)3.18H2Oを含む水溶液を亜鉛めっき鋼板(GI)に施用することにより、試験例1及び2を作成した。硫酸アルミニウム十八水和物Al2(SO4)3.18H2Oの濃度は22g.L-1であり、これは0.033mol.L-1のAl2(SO4)3の濃度に相当する。試験例1は続いて、乾燥機中で温度100℃の空気で5秒間乾燥させた。試験例2は続いて、温度180℃の乾燥機中で、8分間空気で乾燥させた。
【0075】
試験例3及び4は特許出願WO00/15878号に従い、硫酸亜鉛七水和物ZnSO4.7H2Oを含む水溶液を亜鉛めっき鋼板に施用することにより作成した。試験例3は続いて、乾燥機中で温度100℃の空気で4秒未満乾燥させた。試験例4は続いて、乾燥機中で温度180℃の空気で8分間乾燥させた。
【0076】
試験例3では、ストリップ速度は120m/分であった。初期ストリップ温度は35℃であった。
【0077】
試験例5は、特許出願O2019/073273号に従って硫酸亜鉛七水和物ZnSO4.7H2Oを含む水溶液を亜鉛めっき鋼板に施用することにより作成した。硫酸亜鉛七水和物の濃度は120g.L-1であり、これは0.42mol.L-1というZn2+イオン濃度及びSO4
2-濃度に相当する。湿潤塗膜の厚さは1.5μmであった。湿潤塗膜は、続いて、温度175℃の乾燥機中で、空気中で4秒以内に乾燥させた。ストリップ速度は120m/分であった。初期のストリップ温度は35℃であった。
【0078】
試験例6は、特許出願WO2019/073274に従って、硫酸亜鉛七水和物ZnSO4.7H2Oを含む水溶液を亜鉛めっき鋼板に施用することにより作成した。硫酸亜鉛七水和物の濃度は120g.L-1であり、これは0.42mol.L-1というZn2+イオン濃度及びSO4
2-濃度に相当する。湿潤塗膜は1.5μmの厚さを有していた。湿潤塗膜は、続いて温度75℃の乾燥機で、空気で4秒以内乾燥させた。ストリップ速度は120m/分であった。初期ストリップ温度は35℃であった。
【0079】
試験例7及び8は、硫酸亜鉛七水和物ZnSO4.7H2O及び硫酸アルミニウム十八水和物Al2(SO4)3.18H2Oを含む水溶液を亜鉛めっき鋼板に施用することにより作成した。硫酸アルミニウム十八水和物Al2(SO4)3.18H2Oの濃度は25g.L-1であり、これはAl3+イオン濃度0.075mol.L-1及び2.02g.L-1及びSO4
2-イオン濃度0.113mol.L-1に相当する。硫酸亜鉛七水和物の濃度は120g.L-1であり、これはZn2+イオン濃度0.42mol.L-1及び27.28g.L-1及びSO4
2-イオン濃度0.42mol.L-1に相当する。このように、水溶液中のアルミニウム量に対する亜鉛量の重量比は13.5である。湿潤塗膜は1~1.5μmの厚さを有していた。試験例7は、続いて、温度75℃の乾燥機で、空気で4秒未満乾燥させた。続いて、試験例8は、温度100℃の乾燥機で、空気で4秒未満乾燥させた。
【0080】
試験例9は、硫酸亜鉛七水和物ZnSO4.7H2O及び硫酸アルミニウム十八水和物Al2(SO4)3.18H2Oを含む水溶液を亜鉛めっき鋼板に施用することにより作成した。硫酸アルミニウム十八水和物Al2(SO4)3.18H2Oの濃度は4.2g.L-1であり、これはAl3+濃度0.013mol.L-1及び0.35g.L-1及びSO4
2-濃度0.019mol.L-1に相当する。硫酸亜鉛七水和物の濃度は32g.L-1であり、これはZn2+イオン濃度0.111mol.L-1及び7.27g.L-1及びSO4
2-濃度0.111mol.L-1に相当する。このように、水溶液中のアルミニウム量に対する亜鉛量の重量比は20.77である。試験例9は続いて、温度180℃の乾燥機で、空気で8分間乾燥させた。
【0081】
試験例10は、硫酸亜鉛七水和物ZnSO4.7H2O及び硫酸アルミニウム十八水和物Al2(SO4)3.18H2Oを含む水溶液を電気亜鉛めっき鋼板(EG)に施用することにより作成した。硫酸アルミニウム十八水和物Al2(SO4)3.18H2Oの濃度は4.2g.L-1であり、これはAl3+濃度0.013mol.L-1及び0.35g.L-1及びSO4
2-濃度0.019mol.L-1に相当する。硫酸亜鉛七水和物の濃度は32g.L-1であり、これはZn2+イオン濃度0.111mol.L-1及び7.27g.L-1及びSO4
2-濃度0.111mol.L-1に相当する。このように、水溶液中のアルミニウム量に対する亜鉛量の重量比は20.77である。湿潤塗膜は続いて、温度180℃の乾燥機で、
空気で8分間乾燥させた。
【0082】
<表面特性評価>
乾燥後、変換層の表面をIRRASで特性決定した。この層中の硫黄量はICP-MSにより測定した。
【0083】
<接着性試験>
全ての試験例で形成された変換層上のエポキシをベースとする接着剤の接着性を単純重ね合わせせん断試験により評価した。最初にAnticorit Fuchs 3802-39S(1g/m2)を用いて脱脂せずに長さ100mm、幅25mmの試験片に再び油を塗布した。水性処理溶液で処理されたものと処理されなかったものの2つの試験片を、この2つの片間に0.2mmの均一な厚さを維持するために、テフロンシムを用いて長さ12.5mmにこれらの片を重ねることにより、Henkel(R)のエポキシをベースとする接着剤Teroson(R)8028GBで組み立てた。組立体全体をオーブン中で、190℃で20分間硬化させた。次いで、試料を接着試験及び老化試験の前に24時間調整した。各試験条件について、5つの組立体を試験した。
【0084】
DIN EN 1465規格に従って接着性を評価した。この試験では、50KNのセル力を用いて、引張機のクランピングジョー(clamping jaw)(各クランプにおいて各試験片の50mmを把持し、各試験片の50mmを自由のまま残す)に各接合した組立体を固定する。試料を室温で10mm/分の速度で引っ張る。最大せん断応力値をMPaで記録し、破壊パターンを視覚的に次のように分類する。
- ストリップ/接着界面に近接した接着剤の塊に断裂が出現した場合、表層凝集不良
- ストリップ/接着界面に断裂が出現した場合、接着不良。
【0085】
粘着不良の割合が高い場合は、この試験に合格しない。
【0086】
接着性の老化を湿布試験により評価する。この試験では、接着した各組立体(毎回5試験体)を、脱イオン水(綿の重さの10倍)を含んだ綿(重さ45g±5)で包み、ポリエチレン袋に入れて密封する。密封袋を70℃、100%HRで7日間オーブン中に保持する。湿布試験を実施したら、DIN EN 1465規格に従って接着性を再評価する。
【0087】
<損失因子評価>
接着老化の前後で、引張強さを、引張センサを用いて各試験例について測定する。次に、パーセントで定義した接老化後の引張強さの損失に対応する機械的損失因子を決定した。前記因子をこの式を用いて算出する。
損失係数(%)=(接着老化前の引張強さ-接着老化後の引張強さ)/(接着老化前の引張強さ)×100
【0088】
<摩擦試験>
試験例1、3及び7の試験片を、スタンピングツールを再現する炭化タングステン製の2つのフラットツールを含む摩擦ツールに配置し、固定した。その後、引張りクランプを用いて試験片の端部を引っ張った。引張りクランプの引張り力は、Fpと呼ばれ、10から80MPaまで変化する。Fpの方向に垂直であるFnと呼ばれる結果として生じる垂直抗力は、引張りの間に増加する。引張力Fpが大きいほど、摩擦ツールの接触圧力は高くなる。Fp及びFnを試験中に測定した。その後、3つの引張り力(10、40及び80MPa)に対するμ=Fp/(2×Fn)という式でμと呼ばれる摩擦係数を計算した。摩擦係数は0.07~0.15の間と予想される。
【0089】
結果を以下の表1に示す。
【0090】
【0091】
図1aのIRRASスペクトルに示されているように、試験例2は、硫酸アルミニウムの存在に帰属される1180cm
-1付近の単一の硫酸塩ピークを提示する。
図1cに示すように、試験例4は、ヒドロキシ亜鉛硫酸構造のυ3硫酸塩振動に帰属される複数の吸収ピークを提示する。また、試験例4は、1650cm
-1付近に位置するピークに対応する遊離水、及び3600cm
-1に位置するピークに対応する遊離水酸基を含む。
図1bに示すように、本発明による試験例9は、硫酸亜鉛水和物に帰属される1170cm
-1付近の単一の硫酸塩ピークを提示する。
図1bでは、ヒドロキシ硫酸亜鉛構造、遊離水及び遊離水酸基は検出されなかった。
【0092】
ICP-MS分析によって示されるように、全試験例の硫黄の量は0.5mg.m-2を上回っている。試験例7~10は0より高く、本発明による13mg.m-2を下回るか又はそれに等しい量のアルミニウムを有する。
【0093】
試験例7~10の接着結合は、試験例1~4と比較して大幅に改善している。試験例7~10は、試験例5及び6と同様の、接着剤に対する接着挙動を示す。それにもかかわらず、試験例5及び6の処理方法は、試験例7~10の処理方法と比較して管理及び実施が困難である。
【0094】
試験例7及び8の損失因子は、試験例1~4よりも大幅に良好である。
【0095】
試験例1、3及び7の摩擦挙動は類似している。
【0096】
このように、本発明の被覆鋼基材は、他の性能を劣化させることなく、先行技術と比較して接着結合の改良を可能にし、実施が容易で管理が容易な処理方法を可能にする。