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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ポリエチレンパウダー、及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 110/02 20060101AFI20231116BHJP
   C08F 10/02 20060101ALI20231116BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20231116BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20231116BHJP
【FI】
C08F110/02
C08F10/02
C08J3/12 Z
H01M50/417
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023530111
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2022025030
(87)【国際公開番号】W WO2022270571
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2021105354
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 春香
(72)【発明者】
【氏名】四方 和也
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/189443(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/207991(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143191(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/153520(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 110/02
C08F 10/02
C08J 3/12
H01M 50/417
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が20万以上1000万以下であり、
下記のスラリー粘弾性測定条件のstep3における複素粘度が、下記式(1)を満たす、ポリエチレンパウダー。
-25.0×104≦{|η*|(Tmax)-|η*|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)≦-5.0×104 (1)
|η*|(Tmax):Tmaxにおける複素粘度(Pas)の絶対値
|η*|(Tmin):Tminにおける複素粘度(Pas)の絶対値
max:式(2)を満たす範囲内における最大温度(℃)
min:式(2)を満たす範囲内における最小温度(℃)
d(log|η*|)/dT≦-0.1 (2)
|η*|:複素粘度(Pas)の絶対値、T:温度(℃)
(スラリー粘弾性測定条件)
測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 MARSIII
ステージ:20mmφ
プレート:20mmφパラレルプレート
ギャップ:0.5mm
スラリー組成:ポリエチレンパウダー 30質量部、流動パラフィン 70質量部
ポリエチレンパウダー:JIS Z 8801規格に準拠した目開きが425μmのふるいを通過したパウダーを測定に使用する。
測定条件:下記step1~3において複素粘度を測定する。
step1 100℃で2min保温する。
step2 step1の後に、100℃から140℃に1℃/minで昇温する(周波数1Hz、歪0.1%、窒素雰囲気下)。
step3 step2の後に、140℃から100℃に1℃/minで降温する(周波数1Hz、歪0.1%、窒素雰囲気下)。温度変化に対する複素粘度を0.5℃毎に測定する。
【請求項2】
前記式(2)を満たす範囲内における最大温度Tmaxが118℃以上121℃以下である、請求項1に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項3】
前記d(log|η*|)/dTの値が最小値となるときの複素粘度の絶対値|η*|が、5×104Pas以上20×104Pas以下である、請求項1又は2に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項4】
平均粒子径(D50)が50μm以上300μm以下である、請求項1又は2に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項5】
エチレン単独重合体である、請求項1又は2に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項6】
Ti、Al及びMgの合計含有量が40ppm以下である、請求項1又は2に記載のポリエチレンパウダー。
【請求項7】
前記のスラリー粘弾性測定条件のstep3における複素粘度が、下記式(3)を満たす、請求項1又は2に記載のポリエチレンパウダー。
{|η*|(Tmax)-|η*|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)≦0.74log(Mv)-8.2 (3)
(式(3)中、Mvは粘度平均分子量を表す。
|η*|(Tmax):Tmaxにおける複素粘度(Pas)の絶対値
|η*|(Tmin):Tminにおける複素粘度(Pas)の絶対値
max:式(2)を満たす範囲内における最大温度(℃)
min:式(2)を満たす範囲内における最小温度(℃)
d(log|η*|)/dT≦-0.1 (2)
|η*|:複素粘度(Pas)の絶対値、T:温度(℃))
【請求項8】
請求項に記載のポリエチレンパウダーの成形体。
【請求項9】
二次電池用セパレータである、請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
リチウムイオン二次電池用セパレータである、請求項8又は9に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンパウダー、及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは、溶融加工が容易であり、また、ポリエチレンの成形体は、機械強度が高く、耐薬品性、剛性等にも優れている。そのため、ポリエチレンは、従来から、フィルム、シート、微多孔膜、繊維、発泡体、及びパイプ等、多種多様な用途の材料として用いられている。
【0003】
特に、超高分子量ポリエチレンは、より機械強度が高く、摺動性や耐摩耗性に優れ、化学的安定性や長期信頼性にも優れているため、実用上の利用可能性が高い。
【0004】
しかしながら、超高分子量ポリエチレンパウダーは、融点以上の温度で溶融させても流動性が低いという問題を有している。そのため、当該超高分子量ポリエチレンを成形する一般的な方法としては、超高分子量ポリエチレンパウダーを溶剤に溶解した状態で加工して、その後、溶媒を除去する方法等が知られている。
【0005】
例えば、超高分子量ポリエチレンパウダーに流動パラフィンやデカリン等の溶媒を加え、スラリー状にして押出機で加熱混練によりゲル状にし、冷却しながらシート状や糸状に延伸加工後、融点近傍まで再加熱してさらに延伸加工を行い、その後、溶媒を抽出等によって除去し、熱固定する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ポリエチレンパウダーを用いて成形した微多孔膜は、電池の材料として用いられている。このような微多孔膜は、近年、電池の小型化、大容量化、及び、高出力化を目的として、より一層の薄膜化が求められている。そのため、当該微多孔膜の薄膜化に伴う高強度化を図った種々の技術が開示されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0007】
また、例えば、特許文献4には、加工性に優れ、機械強度が高く、かつ繰り返し加熱された際の強度低下が小さい成形体が得られるポリエチレンパウダーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-21559号公報
【文献】特開2011-241361号公報
【文献】特許第5876632号公報
【文献】国際公開第2020/189443号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に微多孔膜の強度を高める方法としては、原料として用いるポリエチレンの分子量を高くする方法、及び延伸倍率を高くする方法等が知られている。例えば、特許文献4に記載のポリエチレンパウダーでは、分子鎖の絡み合いが小さい傾向にあるゲルを形成することができるため、延伸倍率を高くする方法により、微多孔膜の突き刺し強度を高めている。
【0010】
しかしながら、高倍率延伸を行う場合は、延伸前のゲルシートを厚くする必要があり、冷却時及び延伸時において、膜厚方向における熱の伝わり度合いにばらつきが生じる傾向がある。そのため、不均一な微多孔が形成され、微多孔膜の品質が劣ってしまう恐れがある。さらに、二軸延伸では設備上の事情から延伸倍率の設定範囲が狭く、延伸倍率を高めることは難しく、また、低倍率延伸では微多孔膜の高強度化を達成できない傾向にある。
【0011】
また、微多孔膜の製造においては、ゲルシートを延伸設備のチャックで挟むために結晶化させる目的で、シート成形後にロールに接触させて冷却する工程がある。結晶化が不十分な状態でロールからゲルシートを離形すると、ゲルシートの一部が脱落してロール上に付着するため、シート表面に凹凸が生じてしまう。例えば、特許文献4に記載のポリエチレンパウダーは、結晶化が遅いため、このような方法で微多孔膜の製造する場合、冷却時間(ロール接触時間)を長くする必要があり、加工効率の点で改善の余地がある。
【0012】
さらに、リチウムイオンバッテリーにおいては、バッテリー本体が異常発熱した際に、微多孔膜が熱収縮すると電極端部が接触し、短絡する恐れがあることから、微多孔膜は低収縮率であることが求められる。一般に、微多孔膜の強度を高くすると熱収縮率は高くなることから、強度と熱収縮率との両立が求められる。
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みて、ゲルシートが冷却ロールから短時間で離形し、低倍率延伸でも機械強度が高く、さらに熱収縮率が低い成形体が得られるポリエチレンパウダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、所定のスラリー粘弾性測定により求めた降温過程の複素粘度変化において所定の傾きをもつポリエチレンパウダーが、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
粘度平均分子量が20万以上1000万以下であり、
下記のスラリー粘弾性測定条件のstep3における複素粘度が、下記式(1)を満たす、ポリエチレンパウダー。
-25.0×10≦{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)≦-5.0×10 (1)
|η|(Tmax):Tmaxにおける複素粘度(Pas)の絶対値
|η|(Tmin):Tminにおける複素粘度(Pas)の絶対値
max:式(2)を満たす範囲内における最大温度(℃)
min:式(2)を満たす範囲内における最小温度(℃)
d(log|η|)/dT≦-0.1 (2)
|η|:複素粘度(Pas)の絶対値、T:温度(℃)
(スラリー粘弾性測定条件)
測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 MARSIII
ステージ:20mmφ
プレート:20mmφパラレルプレート
ギャップ:0.5mm
スラリー組成:ポリエチレンパウダー 30質量部、流動パラフィン 70質量部
ポリエチレンパウダー:JIS Z 8801規格に準拠した目開きが425μmのふるいを通過したパウダーを測定に使用する。
測定条件:下記step1~3において複素粘度を測定する。
step1 100℃で2min保温する。
step2 step1の後に、100℃から140℃に1℃/minで昇温する(周波数1Hz、歪0.1%、窒素雰囲気下)。
step3 step2の後に、140℃から100℃に1℃/minで降温する(周波数1Hz、歪0.1%、窒素雰囲気下)。温度変化に対する複素粘度を0.5℃毎に測定する。
〔2〕
前記式(2)を満たす範囲内における最大温度Tmaxが118℃以上121℃以下である、〔1〕に記載のポリエチレンパウダー。
〔3〕
前記d(log|η|)/dTの値が最小値となるときの複素粘度の絶対値|η|が、5×10Pas以上20×10Pas以下である、〔1〕又は〔2〕に記載のポリエチレンパウダー。
〔4〕
平均粒子径(D50)が50μm以上300μm以下である、〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載のポリエチレンパウダー。
〔5〕
エチレン単独重合体である、〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載のポリエチレンパウダー。
〔6〕
Ti、Al及びMgの合計含有量が40ppm以下である、〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載のポリエチレンパウダー。
〔7〕
前記のスラリー粘弾性測定条件のstep3における複素粘度が、下記式(3)を満たす、〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載のポリエチレンパウダー。
{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)≦0.74log(Mv)-8.2 (3)
(式(3)中、Mvは粘度平均分子量を表す。
|η|(Tmax):Tmaxにおける複素粘度(Pas)の絶対値
|η|(Tmin):Tminにおける複素粘度(Pas)の絶対値
max:式(2)を満たす範囲内における最大温度(℃)
min:式(2)を満たす範囲内における最小温度(℃)
d(log|η|)/dT≦-0.1 (2)
|η|:複素粘度(Pas)の絶対値、T:温度(℃))
〔8〕
〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載のポリエチレンパウダーの成形体。
〔9〕
二次電池用セパレータである、〔8〕に記載の成形体。
〔10〕
リチウムイオン二次電池用セパレータである、〔8〕又は〔9〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ゲルシートが冷却ロールから短時間で離形し、低倍率延伸でも機械強度が高く、さらに熱収縮率が低い成形体が得られるポリエチレンパウダーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】温度変化に対する複素粘度の変化の一例の概念図を示す。
図2】温度変化に対する複素粘度変化の度合いを表す「d(log|η|)/dT」の一例の概念図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。
【0019】
なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
〔ポリエチレンパウダー〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、粘度平均分子量が20万以上1000万以下であり、下記のスラリー粘弾性測定条件のstep3における複素粘度が、下記式(1)を満たす。
-25.0×10≦{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)≦-5.0×10 (1)
|η|(Tmax):Tmaxにおける複素粘度(Pas)の絶対値
|η|(Tmin):Tminにおける複素粘度(Pas)の絶対値
max:下記式(2)を満たす範囲内における最大温度(℃)
min:下記式(2)を満たす範囲内における最大温度(℃)
d(log|η|)/dT≦-0.1 (2)
|η|:複素粘度(Pas)の絶対値、T:温度(℃)
(スラリー粘弾性測定条件)
測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 MARSIII
ステージ:20mmφ
プレート:20mmφパラレルプレート
ギャップ:0.5mm
スラリー組成:ポリエチレンパウダー 30質量部、流動パラフィン 70質量部
ポリエチレンパウダー:JIS Z 8801規格に準拠した目開きが425μmのふるいを通過したパウダーを測定に使用する。
測定条件:下記step1~3において複素粘度を測定する。
step1 100℃で2min保温する。
step2 step1の後に、100℃から140℃に1℃/minで昇温する(周波数1Hz、歪0.1%、窒素雰囲気下)。
step3 step2の後に、140℃から100℃に1℃/minで降温する(周波数1Hz、歪0.1%、窒素雰囲気下)。温度変化に対する複素粘度を0.5℃毎に測定する。
【0021】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、上記構成を有していることにより、ゲルシートが冷却ロールから短時間で離形し、かつ、低倍率延伸でも機械強度が高く、さらに熱収縮率が低い成形体が得られるという効果を奏する。
【0022】
以下、本実施形態のポリエチレンパウダーの構成について説明する。
【0023】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、エチレン重合体により構成されている。当該エチレン重合体は、構成単位の好ましくは99.5mol%以上、より好ましくは99.8mol%以上がエチレンユニットであり、さらに好ましくは、100mol%がエチレンユニット(エチレンホモポリマー)、すなわちエチレン単独重合体である。
【0024】
なお、加工性を向上させたり、ポリエチレンパウダーの成形体として繊維を製造したとき、当該繊維のクリープ特性を改善したりする目的で、ごく少量のα-オレフィン等の共重合成分を加えて分岐を導入することもできる。
【0025】
エチレン重合体の共重合成分が0.3mol%未満であることにより分岐鎖による延伸後の成形体の分子配向度の低下が抑制され、機械強度は高くなる。
【0026】
前記エチレン重合体が共重合体であるときの共重合成分としては、特に限定されないが、例えば、α-オレフィンや、ビニル化合物等が挙げられる。
【0027】
α-オレフィンとしては、以下に限定されないが、例えば、炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、特に限定されないが、例えば、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン等が挙げられる。
【0028】
ビニル化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ビニルシクロヘキサン、スチレン及びその誘導体等が挙げられる。
【0029】
また、必要に応じて、他のコモノマーとして、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ポリエンを使用することもできる。
【0030】
共重合成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
エチレン重合体が共重合体である場合の共重合体中の他のコモノマー量はNMR法等で確認することができる。
【0032】
本実施形態のポリエチレンパウダーの密度は、特に限定されないが、好ましくは910kg/m以上980kg/m以下であり、より好ましくは915kg/m以上970kg/m以下であり、さらに好ましくは920kg/m以上965kg/m以下である。
【0033】
本実施形態のポリエチレンパウダーの密度が910kg/m以上980kg/m以下であることにより、本実施形態のポリエチレンパウダーを含む、延伸成形体、微多孔膜、及び繊維は、優れた強度を有するものとなる。なお、ポリエチレンパウダーの密度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
(({|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin))、d(log|η|)/dT、|η|(Tmax)、|η|(Tmin)、Tmax、Tmin))
本実施形態のポリエチレンパウダー30質量部と、流動パラフィン70質量部とのスラリー溶液を調製し、前記(スラリー粘弾性測定条件)で、温度変化に対する複素粘度を測定すると、例えば、図1に示すような曲線(以下、複素粘度変化曲線という。)が得られる。
【0035】
また、図1に示す複素粘度変化曲線を、温度変化に対する複素粘度変化の度合いを表す「d(log|η|)/dT」に変換すると、例えば、図2に示すような曲線が得られる。
【0036】
d(log|η|)/dTのピーク部分は、複素粘度変化曲線における複素粘度の上昇過程に相当する。この上昇過程は、ポリエチレンの結晶化に伴う分子鎖の運動性低下によるもので、複素粘度変化曲線の傾きが負になるほど、分子鎖の運動停止速度、つまり結晶化速度が大きいことを示している。
【0037】
分子鎖の結晶化速度の大きさは、流動パラフィン中でのポリエチレン分子鎖の分散度合いが影響している。ポリエチレン分子鎖の溶媒への分散性が低い場合では、溶媒中のポリエチレン分子鎖が絡み合って、分子鎖が互いに干渉するため、結晶化速度は大きくなる。
【0038】
本実施形態では、温度変化に対する複素粘度変化の度合いを表す「d(log|η|)/dT」が負になる値のうち、測定誤差を考慮した前記式(2)を満たす範囲から求められる最大温度Tmax、最小温度Tmin、Tmax及びTminにおける複素粘度の絶対値|η|(Tmax)、|η|(Tmin)を用いて、分子鎖の運動停止速度を表す複素粘度の上昇過程の傾きを、{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)という式で表す。
【0039】
本実施形態のポリエチレンパウダーにおける{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)は、-25.0×10Pas/℃以上、-5.0×10Pas/℃以下であるものとし、好ましくは-20.0×10Pas/℃以上、-7.5×10Pas/℃以下、より好ましくは-14.0×10Pas/℃以上、-8.0×10Pas/℃以下、さらに好ましくは-12.0×10Pas/℃以上、-10.0×10Pas/℃以下である。
【0040】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)を、-5.0×10Pas/℃以下とすることにより、溶解過程における流動パラフィンへの分散性が低く、分子鎖の緩和が不十分な部分、絡み合い部が適度に存在すると考えられる。この絡み合い部は結晶過程において結晶核剤として作用するため、本実施形態のポリエチレンパウダーは、短時間で結晶化すると考えられる。
【0041】
例えば、本実施形態のポリエチレンパウダーを用いた微多孔膜の成形においては、押出機のダイスでシート成形したゲルシートは冷却ロールに接すると速やかに結晶化するため、冷却ロールとの接触時間が短くても、冷却ロールから離形されやすく、部分的なゲルの脱離を抑制することができる。脱離部分はシート厚みを不均一化させ、膜の透過性や強度等の物性の不均一化の要因となるため、結晶化が遅いゲルは冷却時間を長くする必要があるが、本実施形態のポリエチレンパウダーは、ゲルの結晶化速度が速いため、高速成形が可能である。
【0042】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーを用いた場合、ゲルの延伸工程においては、絡み合い部の存在により延伸応力がかかりやすくなるため、延伸倍率が低くても、配向度が高いフィブリル部が形成され、得られる成形体の強度は高くなる。
【0043】
一方、本実施形態のポリエチレンパウダーは、{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)を、-25.0×10Pas/℃以上とすることにより、熱収縮率を増大させるほどの絡み合い部がなく、熱収縮率が低い。
【0044】
{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)を、所定の値に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、重合の初期活性を上げて急重合させることにより、分子鎖の絡み合いを増大させる方法が考えられる。
ポリエチレン分子鎖の絡み合いを増大させる具体的な方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンパウダーの製造工程において、下記(1)~(4)の方法のうち少なくとも3つを実施する方法が挙げられる。
(1)エチレンガスと、触媒(必要に応じて助触媒)とを隣接した配管から重合器のスラリー中に供給し、かつ水素ガスを供給する場合は重合器の気相に供給する方法。
(2)エチレンガスを溶存させた溶媒(例えば、ヘキサン)を40℃から50℃に調整してから重合器内に供給する方法。
(3)触媒と助触媒とを接触させ、かつ40℃から50℃に調整してから重合器内に供給する方法。
(4)触媒の活性点密度を高くする方法。
【0045】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、上記(1)~(4)の方法のうち少なくとも3つを実施することにより、重合初期に近接する分子鎖が適度に絡み合い、流動パラフィン等の溶媒に溶融しても核剤効果を示す分子鎖の絡み合いが維持される。なお、上記(1)の方法において、水素ガスを供給する場合、水素ガスを重合器の気相に供給する目的は、反応停止剤である水素が触媒と接触する際に高濃度になることを抑制し、急重合を阻害しないようにするためである。したがって、水素ガスを供給しない場合は、反応停止剤である水素による急重合の阻害が起こらないため、エチレンガスと、触媒とを隣接した配管から重合器のスラリー中に供給するだけで上記(1)の方法が実施されているとみなす。
【0046】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーは、前記のスラリー粘弾性測定条件のstep3における複素粘度が、下記式(3)を満たすことが好ましい。
{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)≦0.74log(Mv)-8.2 (3)
ここでMvは粘度平均分子量である。
式(3)の左辺は前述のとおり結晶化速度の指標である。一般に結晶化速度は分子量が大きくなると遅くなる。そのため、ポリエチレンパウダーが分子量に対して式(3)を満たすような結晶化速度をとるとき、冷却ロールからの離形性、成形体の強度および熱収縮率がさらに良好になる傾向にある。{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)を、式(3)を満たすように制御する方法としては、特に限定されないが、分子鎖の絡み合いを増大させる方法が考えられる。分子鎖の絡み合いを増大させる具体的な方法は、前述のとおりである。
【0047】
(粘度平均分子量(Mv))
本実施形態のポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)は、20万以上1000万以下であり、好ましくは25万以上600万以下であり、より好ましくは30万以上150万以下であり、さらに好ましくは50万以上120万以下である。
【0048】
ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)が20万以上であることにより、成形体の機械強度が高くなる。一方で、ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)が1000万以下であると溶媒(例えば、流動パラフィンなど)とのゲル状態において良好な延伸性を示し、加工性に優れたものとなる。
【0049】
ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)は、特に限定されないが、例えば、後述する触媒を用い、重合条件等を適宜調整することで上記数値範囲に制御することができる。
【0050】
重合条件としては、具体的には、重合系に水素を存在させること、重合圧力及び/又は重合温度を変化させること等によって粘度平均分子量を制御することができる。
【0051】
粘度平均分子量(Mv)は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0052】
(d(log|η|)/dTが-0.1以下になる最大温度)
前記式(2)を満たす範囲内における最大温度Tmax、すなわち、d(log|η|)/dTが-0.1以下になる最大温度は、好ましくは118℃以上121℃以下、より好ましくは119℃以上121℃、さらに好ましくは119.5以上121℃以下である。
【0053】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、d(log|η|)/dTが-0.1以下になる最大温度が121℃以下であることにより、一層容易に成形加工ができる傾向にある。
【0054】
例えば、本実施形態のポリエチレンパウダーを用いた微多孔膜の成形においては、ゲルシートの加熱延伸工程において、結晶化開始温度が高すぎず延伸加工を容易に行える。
【0055】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーは、d(log|η|)/dTが-0.1以下になる最大温度が118℃以上であると、冷却ロールへの接触が短時間でも結晶化が開始され、冷却ロールから一層離形しやすい傾向にある。
【0056】
d(log|η|)/dTが-0.1以下になる最大温度を前記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンパウダーの製造工程において、(1)エチレンガスと触媒(必要に応じて助触媒)とを隣接した配管から重合器中のスラリーに供給し、かつ水素ガスを供給する場合は重合器の気相に供給する方法;(2)エチレンガスを溶存させた溶媒(例えば、ヘキサン)を40℃から50℃に調整してから重合器内に供給する方法;(3)触媒と助触媒とを接触させ、かつ40℃から50℃に調整してから重合器内に供給する方法;(4)触媒の活性点密度を高くする方法等を組み合わせて行うことが挙げられる。
【0057】
(d(log|η|)/dTの値が最小値になるときの複素粘度の絶対値|η|)
本実施形態のポリエチレンパウダーは、d(log|η|)/dTの値が最小値になるときの複素粘度の絶対値|η|が、好ましくは5.0×10Pas以上20×10Pas以下であり、より好ましくは5.0×10Pas以上14.0×10Pas以下であり、さらに好ましくは6.0×10Pas以上9.0×10Pas以下である。
【0058】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、d(log|η|)/dTの値が最小値になるときの複素粘度の絶対値|η|が5.0×10Pas以上であることにより、ポリエチレンパウダーを溶媒(例えば、流動パラフィン)に溶融して得られるゲルは高い絡み合いを持つため、低倍率で延伸しても延伸応力は高くなり、得られる微多孔膜の強度は一層高くなる傾向にある。
【0059】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーは、d(log|η|)/dTの値が最小値になるときの複素粘度の絶対値|η|が20.0×10Pas以下であると、粘度が高すぎることを防止でき、押出機内の流動性低下によるダイス詰まりが発生しにくくなる傾向にある。
【0060】
d(log|η|)/dTの値が最小値になるときの複素粘度の絶対値|η|を前記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンパウダーの製造工程において、(1)エチレンガスと触媒(必要に応じて助触媒)とを隣接した配管から重合器中のスラリーに供給し、かつ水素ガスを供給する場合は重合器の気相に供給する方法;(2)エチレンガスを溶存させた溶媒(例えば、ヘキサン)を40℃から50℃に調整してから重合器内に供給する方法;(3)触媒と助触媒とを接触させ、かつ40℃から50℃に調整してから重合器内に供給する方法;(4)触媒の活性点密度を高くする方法等を組み合わせて行うことが挙げられる。
【0061】
(平均粒子径D50)
本実施形態のポリエチレンパウダーの平均粒子径(D50)は、好ましくは50μm以上300μm以下であり、より好ましくは60μm以上280μm以下、さらに好ましくは、70μm以上250μm以下である。
【0062】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、平均粒子径(D50)が50μm以上であると、ハンドリング性がより一層優れ、成形工程内のトラブルが低減される傾向にある。
【0063】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーは、平均粒子径(D50)が300μm以下であると、溶媒(例えば、流動パラフィン)に対する溶融性がより一層良好となり、分子鎖の分布がより均一で配向性の高いゲルが得られるため、機械強度の優れた成形体を製造できる傾向にある。
【0064】
ポリエチレンパウダーの平均粒子径(D50)は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0065】
ポリエチレン粒子の平均粒子径(D50)は、重合系内の条件(温度、エチレン圧力等)を適宜調整することにより上記数値範囲に制御できる。具体的には、重合温度及び/又は重合圧力を高くすると、平均粒子径(D50)を大きくでき、重合温度及び/又は重合圧力を低くすると、平均粒子径(D50)を小さくできる。
【0066】
(Ti、Al、Mgの合計含有量)
本実施形態のポリエチレンパウダーにおいて、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量は、好ましくは40ppm以下であり、より好ましくは30ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。Ti、Al及びMgの合計含有量の下限は、特に限定されないが、例えば、検出限界値である。
【0067】
本実施形態において、Ti、Al及びMgの合計含有量とは、触媒残渣の量のことをいう。
【0068】
本実施形態のポリエチレンパウダーにおいて、Ti、Al及びMgの合計含有量が40ppm以下であることにより、高温で成形加工した際に熱劣化が起こりにくく、機械強度の高い成形体が得られる。
【0069】
Ti、Al及びMgの合計含有量は、単位触媒あたりのポリエチレンパウダーの生産性を調整することにより制御することが可能である。
【0070】
ポリエチレンパウダーの生産性は、製造する際の反応器の重合温度、重合圧力、スラリー濃度により制御することが可能である。すなわち、本実施形態のポリエチレンパウダーの生産性を高くする方法としては、特に限定されないが、例えば、重合器の重合工程において、温度を高くすること;重合圧力を高くすること;スラリー濃度を高くすること;等が挙げられる。
【0071】
使用する触媒としては、特に限定されず、例えば、一般的なチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用することができるが、後述する触媒を使用することが好ましい。
【0072】
なお、本実施形態のポリエチレンパウダーにおけるTi、Al及びMgの合計含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0073】
〔ポリエチレンパウダーの製造方法〕
本実施形態のポリエチレンパウダー製造方法における重合法としては、以下に限定されないが、例えば、スラリー重合法、気相重合法、溶液重合法等により、エチレン、又はエチレンを含む単量体を(共)重合させる方法が挙げられる。
【0074】
これらの中でも、重合熱を効率的に除熱できるスラリー重合法が好ましい。
【0075】
スラリー重合法においては、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、さらにオレフィン自身を媒体として用いることもできる。
【0076】
前記不活性炭化水素媒体としては、以下に限定されないが、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;及び、これらの混合物等を挙げることができる。
【0077】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における重合器の温度は、通常、40℃以上100℃以下が好ましく、45℃以上95℃以下がより好ましく、50℃以上90℃以下がさらに好ましい。
【0078】
重合温度が40℃以上であれば、工業的に効率的な製造を行うことができる傾向にある。一方、重合温度が100℃以下であれば、連続的に安定的な運転を行うことができる傾向にある。
【0079】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における重合器の圧力は、通常、0.10MPa以上2.0MPa以下が好ましく、より好ましくは0.10MPa以上1.5MPa以下、さらに好ましくは0.10MPa以上1.0MPa以下である。
【0080】
重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法でも行うことができ、特に、連続式で重合することが好ましい。
【0081】
エチレンガス、溶媒(例えば、ヘキサン)、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したポリエチレンパウダーと共にエチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に排出することで、急激なエチレンの反応による部分的な高温状態を抑制することが可能となり、重合系内がより安定化する傾向にある。
【0082】
上述したとおり、{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)を、所定の値に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、重合の初期活性を上げて急重合させることにより、分子鎖の絡み合いを増大させる方法が考えられる。
【0083】
具体的には、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンパウダーの製造工程において、下記(1)~(4)の方法のうち少なくとも3つを実施する方法が挙げられる。
(1)エチレンガスと、触媒(必要に応じて助触媒)とを隣接した配管から重合器のスラリー中に供給し、かつ水素ガスを供給する場合は重合器の気相に供給する方法。
(2)エチレンガスを溶存させた溶媒(例えば、ヘキサン)を40℃から50℃に調整してから重合器内に供給する方法。
(3)触媒と助触媒とを接触させ、かつ40℃から50℃に調整してから重合器内に供給する方法。
(4)触媒の活性点密度を高くする方法。
【0084】
〔(1)の方法〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法においては、エチレンガスと触媒(必要に応じて助触媒)とを隣接した配管から重合器のスラリー中に供給し、かつ、水素ガスを供給する場合は気相中に供給することが好ましい。エチレンガスと触媒(必要に応じて助触媒)との配管が隣接していることで、高濃度のエチレンガスと触媒とがスラリー中で接触し、急速に成長したポリエチレン分子鎖は強固な絡み合いをもつ傾向にある。また、反応停止剤である水素をスラリー中ではなく気相中に導入することで、高濃度の水素と触媒との接触を抑制できる傾向にある。
【0085】
〔(2)の方法〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法においては、エチレンガスを溶存させた溶媒(例えば、ヘキサン)の重合器内への供給温度を40℃以上50℃以下とすることが好ましい。前記範囲内の供給温度とすることにより、ポリエチレン分子鎖は急速に成長し、強固な絡み合いを持つ傾向にある。
【0086】
〔(3)の方法〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法において、触媒と助触媒とは、例えば、供給ライン内で接触させてから重合器内に供給することが好ましい。また、重合器内への供給温度を40℃以上50℃以下とすることが好ましい。触媒と助触媒とが接触して活性化した状態で重合器に供給され、かつ前記範囲内の供給温度とすることにより、ポリエチレン分子鎖は強固な絡み合いを持つ傾向にある。
【0087】
〔(4)の方法〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法に使用される触媒成分は活性点密度が高いことが好ましい。活性低密度が高いと、成長するポリエチレン分子鎖間の距離が近く、強固な絡み合いが形成される傾向にある。なお、触媒の活性点密度は、例えば、触媒におけるチタンの担持量で評価することができる。
【0088】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造に使用される触媒成分としては、特に限定されないが、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒、フィリップス触媒等を好適に挙げることができる。
【0089】
チーグラー・ナッタ触媒としては、特許第5767202号明細書に記載のものを好適に使用することができ、メタロセン触媒としては、以下に限定されないが、例えば、特開2006-273977号公報、及び、特許4868853号に記載のものを好適に使用することができる。
【0090】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法に使用される触媒成分には、トリイソブチルアルミニウム、Tebbe試薬等の助触媒が含まれていてもよい。
【0091】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法に使用する触媒の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上16μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以上12μm以下である。
【0092】
触媒の平均粒子径が0.1μm以上であれば、得られるポリエチレンパウダーの飛散や付着を防止できる傾向にある。
【0093】
また、触媒の平均粒子径が20μm以下であると、ポリエチレンパウダーが大きくなりすぎて、重合系内で沈降すること、及び、ポリエチレンパウダーの後処理工程でのラインの閉塞等を防止できる傾向にある。
【0094】
触媒の粒径分布は可能な限り狭い方が好ましく、篩や遠心分離、サイクロンによって、微粉粒子と粗粉粒子を除去することができる。
【0095】
ポリエチレンパウダーの製造に使用した触媒の失活方法は、特に限定されないが、ポリエチレンパウダーと溶媒とを分離した後に実施することが好ましい。
【0096】
溶媒と分離した後に触媒を失活させるための薬剤を投入することで、溶媒中に溶解している触媒成分等の析出を抑制することができ、触媒成分由来のTi、Al等を低減することができる。
【0097】
触媒を失活させる薬剤としては、以下に限定されないが、例えば、酸素、水、アルコール類、グリコール類、フェノール類、一酸化炭素、二酸化炭素、エーテル類、カルボニル化合物、アルキン類等を挙げることができる。
【0098】
ポリエチレンパウダーの分子量は、例えば、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、重合系に水素を存在させることや、重合温度を変化させること等によって制御することができる。
【0099】
重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することにより、ポリエチレンパウダーの分子量を適切な範囲に制御しやすくなる。
【0100】
重合系内に水素を添加する場合、水素のモル分率は、好ましくは0mol%以上30mol%以下、より好ましくは0mol%以上25mol%以下、さらに好ましくは0mol%以上20mol%以下である。
【0101】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法における溶媒分離方法は、特に限定されないが、例えば、デカンテーション法、遠心分離法、フィルター濾過法等が挙げられ、ポリエチレンパウダーと溶媒との分離効率が高い観点から、遠心分離法が好ましい。
【0102】
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法においては、溶媒と分離した後、乾燥工程を実施することが好ましい。
【0103】
当該乾燥工程における乾燥温度は、通常、好ましくは50℃以上150℃以下、より好ましくは50℃以上140℃以下が、さらに好ましくは50℃以上130℃以下である。乾燥温度が50℃以上であれば、効率的な乾燥が可能である。一方、乾燥温度が150℃以下であれば、ポリエチレンパウダーの凝集や熱劣化を抑制した状態で乾燥することが可能である。
【0104】
(添加剤)
本実施形態のポリエチレンパウダーは、上記のような各成分以外にもポリエチレンパウダーの製造に有用な他の公知の成分を含むことができる。本実施形態のポリエチレンパウダーは、特に限定されないが、例えば、さらに、中和剤、酸化防止剤、結晶核剤、及び耐光安定剤等の添加剤を含有してもよい。
【0105】
中和剤は、ポリエチレン中に含まれる塩素のキャッチャー、又は成形加工助剤等として使用される。中和剤としては、以下に限定されないが、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のステアリン酸塩が挙げられる。
【0106】
中和剤の含有量は、特に限定されないが、ポリエチレン全量に対し、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは4,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。
【0107】
本実施形態のポリエチレンパウダーがメタロセン触媒を用いてスラリー重合法により得られるエチレン重合体である場合、触媒構成成分中からハロゲン成分を除外することも可能であり、中和剤は使用しなくてもよい。
【0108】
酸化防止剤としては、以下に限定されないが、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
【0109】
酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは4,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。
【0110】
結晶核剤としては、以下に限定されないが、例えば、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸塩が挙げられる。
【0111】
結晶核剤の含有量は、特に限定されないが、ポリエチレン全量に対し、好ましくは2,000ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。
【0112】
耐光安定剤としては、以下に限定されないが、例えば、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系耐光安定剤;ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケート、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系耐光安定剤;等が挙げられる。
【0113】
耐光安定剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは4,000ppm以下、さらに好ましくは3,000ppm以下である。
【0114】
本実施形態のポリエチレンパウダー中に含まれる添加剤の含有量は、例えば、ポリエチレンパウダー中の添加剤を、テトラヒドロフラン(THF)を用いてソックスレー抽出により6時間抽出し、抽出液を液体クロマトグラフィーにより分離、定量することにより求めることができる。
【0115】
〔用途〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、流動パラフィン等の溶媒に溶融させても強固な絡み合いを持ち、結晶化速度が高い点に特徴を有しており、種々の加工方法により、種々の用途に応用できる。
【0116】
(成形体)
本実施形態のポリエチレンパウダーの成形体は、冷却ロールからの離形性に優れ、低倍率延伸での強度が高く、熱収縮率も低いことから、微多孔膜として特に好適に用いることができる。
【0117】
このような成形体としては、特に限定されないが、例えば、二次電池用セパレータ、特にリチウムイオン二次電池用セパレータ、鉛蓄電池用セパレータが挙げられる。
【0118】
また、高分子量のポリエチレンパウダーの特性である耐摩耗性、高摺動性、高強度、高衝撃性に優れた特徴を活かし、本実施形態のポリエチレンパウダーは、特に限定されないが、例えば、押出し成形やプレス成形や切削加工等の、ソリッドでの成形により、ギアやロール、カーテンレール、パチンコ球のレール、穀物等の貯蔵サイロの内張りシート、ゴム製品等の摺動付与コーティング、スキー板材及びスキーソール、トラックやシャベルカー等の重機のライニング材に使用することが挙げられる。
【0119】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーは、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンパウダーを焼結して得られる成形体、フィルターや粉塵トラップ材等に使用できる。
【実施例
【0120】
以下、具体的な実施例及び比較例を用いて本実施形態についてさらに詳しく説明するが、本実施形態は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
【0121】
各種特性及び物性の測定方法を下記に示す。
【0122】
〔各種特性及び物性の測定方法〕
(1)粘度平均分子量(Mv)
ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)を以下のとおり算出した。
まず、20mLのデカリン(デカヒドロナフタレン)中にポリエチレンパウダー20mgを加え、150℃で2時間攪拌して、ポリエチレンパウダーを溶解させ、溶液を得た。
その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(t)を測定した。
同様に、ポリエチレンパウダーの質量を変えて3種類の溶液を作製し、上記と同様に標線間の落下時間を測定した。
ブランクとしてポリエチレンパウダーを入れていない、デカリンのみの落下時間(t)を測定した。
以下の数式Aに従って求めた、ポリエチレンの還元粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とポリエチレンの還元粘度(ηsp/C)との直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度([η])を求めた。
ηsp/C=(t/t-1)/C (単位:dL/g)・・・(数式A)
次に、下記数式Bを用いて、前記により求めた極限粘度([η])の値を用い、ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)を算出した。
Mv=(5.34×10)×[η]1.49 ・・・(数式B)
【0123】
(2)密度
ポリエチレンパウダーの密度は、以下のとおり求めた。
ポリエチレンパウダーのプレスシートから切り出した切片を120℃で1時間アニーリングし、その後25℃で1時間冷却したものを密度測定用サンプルとした。当該サンプルを用い、JIS K 7112に準じて測定することによってポリエチレンパウダーの密度を求めた。
ポリエチレンパウダーのプレスシートは、縦60mm、横60mm、厚み2mmの金型を用い、ASTM D 1928 Procedure Cに準じて作製した。
【0124】
(3)d(log|η|)/dT、|η|(Tmax)、|η|(Tmin)、Tmax、Tmin
下記に記載した、ポリエチレンパウダー30質量部と流動パラフィン70質量部とからなるスラリー粘弾性測定条件で、温度変化に対する複素粘度の測定を行った。
各測定温度Tに対する|η|については底を10とする対数、log|η|を求め、温度変化に対する複素粘度変化量を表す「d(log|η|)/dT」の曲線を得た。d(log|η|)/dTが式(2)を満たす範囲内における最大温度をTmax、最小温度をTminとし、Tmax及びTminにおける複素粘度をそれぞれ順に|η|(Tmax)及び|η|(Tmin)とし、{|η|(Tmax)-|η|(Tmin)}/(Tmax-Tmin)を求めた。
(スラリー粘弾性測定条件)
測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 MARSIII
ステージ:20mmφ
プレート:20mmφパラレルプレート
ギャップ:0.5mm
スラリー組成:ポリエチレンパウダー30質量部、流動パラフィン70質量部
ポリエチレンパウダー:JIS Z 8801規格に準拠した目開きが425μmのふるいを通過したポリエチレンパウダーを測定に使用した。
測定条件:下記step1~3において複素粘度を測定した。
step1 100℃で2min保温した。
step2 step1の後に、100℃から140℃に1℃/minで昇温した(周波数1Hz、歪0.1%、窒素雰囲気下)。
step3 step2の後に、140℃から100℃に1℃/minで降温した(周波数1Hz、歪0.1%、窒素雰囲気下)。温度変化に対する複素粘度を0.5℃毎測定した。
【0125】
(4)平均粒子径D50
ポリエチレンパウダーの平均粒子径D50を以下のとおり求めた。
200mLの容器に、ポリエチレンパウダー100gを量り取り、カーボンブラック1gを加えて薬さじで十分に撹拌した。
撹拌したポリエチレンパウダーを、JIS Z 8801規格に準拠した目開きが300μm、212μm、150μm、106μm、75μm、53μmのふるいにかけて分級した際、得られる各ふるいに残ったポリエチレンパウダーの質量を目開きの小さい側から積分した積分曲線において、50%質量となる粒子径をポリエチレンパウダーの平均粒子径D50とした。
【0126】
(5)α-オレフィンの含有量
ポリエチレンパウダー中のα-オレフィンに由来する重合単位の含有量(mol%)の測定は、G.J.RayらのMacromolecules,10,773(1977)に開示された方法に準じて以下の測定条件にて行った。当該測定の13C-NMRスペクトルにより観測されるメチレン炭素のシグナルを用いて、その面積強度よりα-オレフィンの含有量を算出した。
(測定条件)
測定装置 :日本電子製ECS-400
観測核 :13C
観測周波数 :100.53MHz
パルス幅 :45°(7.5μsec)
パルスプログラム:single pulse dec
PD :5sec
【0127】
(6)Ti、Al、Mgの含有量
ポリエチレンパウダーをマイクロウェーブ分解装置(型式ETHOS TC、マイルストーンゼネラル社製)を用い加圧分解し、内部標準法にて、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置、型式Xシリーズ X7、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて、ポリエチレンパウダー中の金属としてTi、Al、Mgの元素濃度を測定した。
【0128】
(7)冷却ロールからの離形度
ポリエチレンパウダーと流動パラフィン(松村石油(株)製P-350(商標))とを混合してスラリー状液体を調製した。
それぞれの実施例及び比較例におけるスラリー状液体のポリエチレンパウダーと流動パラフィンとの割合は、トルクが4.0N/m以上4.5N/m以下になるように調整した。
このスラリー状液体を温度200℃、スクリュー回転数100rpmに設定した二軸押出機に投入し、均一ゲルを形成させた。
押出機には200℃に保持されたT-ダイ(幅150mm、リップ幅1.0mm)を取り付け、上記形成した均一ゲルを5kg/hの速度でシート状に押し出した。
押し出したゲルシートを表面温度50℃に制御した金属ロール(冷却ロール)に接触させ、当該冷却ロールから離形させた際にゲルが脱落する時間により以下のとおり離形度を評価した。
(評価基準)
接触から10秒以内で脱落がなくなるものを◎とした。
接触から10秒を超え15秒以内で脱落がなくなるものを〇とした。
接触から15秒を超え20秒以内で脱落がなくなるものを△とした。
脱落がなくなるまでの時間が接触から20秒を超えたものを×とした。
【0129】
(8)低倍率延伸における成形体強度(突き刺し強度)評価
ポリエチレンパウダーと流動パラフィン(松村石油(株)製P-350(商標))とを混合してスラリー状液体を調製した。
ラボプラストミル(東洋精機株式会社製、型式40C150、ミキサー形式R-60)に上記調製したスラリー状液体を40g加え、200℃、回転数50rpmで10分間混練してゲルを得た。
得られたゲルは0.8mmの厚みになるように180℃で10分間、プレス機で10MPaの圧力を加え、シート状に成形してゲルシートを得た。
得られたゲルシートは、縦10cm、横10cmの正方形に切り取り、115℃で縦4倍、横4倍に延伸した。その後、ヘキサンに20分間含浸させて流動パラフィンを抽出し、乾燥処理を施し、微多孔膜を得た。
得られた微多孔膜の突き刺し強度を、イマダ製MX2-500Nを用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で測定し、下記の基準により評価した。
(評価基準)
突き刺し強度が55gf/m以上のものを◎とした。
突き刺し強度が45gf/m以上55gf/m未満のものを○とした。
突き刺し強度が35gf/m以上45gf/m未満のものを△とした。
突き刺し強度が35gf/m未満のものを×とした。
【0130】
(9)熱収縮率評価
上記(8)の方法で作製した微多孔膜を金枠に固定し、加熱処理として134℃の恒温槽に1分間静置した。恒温槽から取り出した後、金枠から外して50mm角に切り取った。続けて、切り取った微多孔膜を115℃の恒温槽に1時間静置した後、25℃で20分間冷却した。処理した微多孔膜の4辺を測定し、50mmからの収縮率を求め、下記の基準により評価した。
(評価基準)
収縮率が5%未満のものを◎とした。
収縮率が10%未満5%以上のものを○とした。
収縮率が15%未満10%以上のものを△とした。
収縮率が15%以上のものを×とした。
【0131】
〔製造例〕触媒の合成
(担持型メタロセン触媒成分[A-1]の合成)
(1)原料(a-1)の調製
平均粒子径が7μm、表面積が700m/g、粒子内細孔容積が1.9mL/gの球状シリカを、窒素雰囲気下、500℃で5時間焼成し、脱水した。
窒素雰囲気下、容量1.8Lのオートクレーブ内で、この脱水シリカ40gをヘキサン800mL中に分散させ、スラリーを得た。
得られたスラリーを攪拌下20℃に保ちながらトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)100mLを1時間で滴下し、その後、同温度で2時間攪拌した。
その後、得られた反応混合物をデカンテーションによって上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。
このようにしてトリエチルアルミニウムで処理されたシリカ成分(原料(a-1))のヘキサンスラリー800mLを得た。
【0132】
(2)原料(a-2)の調製
[(N-t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム-1,3-ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」と記載する。)200mmolをアイソパーE[エクソンケミカル社(米国)製の炭化水素混合物の商品名]1250mLに溶解し、予めトリエチルアルミニウム及びブチルエチルマグネシウムより合成した、Mg(C(n-CAl(Cの1mol/Lヘキサン溶液を25mL加え、さらにヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1mol/Lに調整し、原料(a-2)を得た。
【0133】
(3)原料(a-3)の調製
ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム-トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と記載する。)5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液5mLを室温で加え、さらにヘキサンを加えて溶液中のボレート濃度が70mmol/Lとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む反応混合物(原料(a-3))を得た。
【0134】
(4)担持型メタロセン触媒[A-1]の合成
上記(1)で得られたシリカ成分(原料(a-1))のヘキサンスラリー800mLを、20℃で攪拌しながら、上記(2)で得られたチタニウム錯体(原料(a-2))のうち96mLと上記(3)で得られたボレートを含む反応混合物(原料(a-3))138mLとを、同時に1時間で添加し、さらに同温度で1時間攪拌し、チタニウム錯体とボレートとを反応させた。反応終了後、上澄み液を除去し、ヘキサンで未反応の触媒原料を除去することにより、触媒活性種が該シリカ上に形成されている担持型メタロセン触媒[A-1](以下、固体触媒成分[A-1]ともいう)を得た。固体触媒成分[A-1]は、チタンの担持量が多く、活性点密度が高かった。
【0135】
(固体触媒成分[B-1]の合成)
(1)原料(b-1)の調製
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/LのMg6(C12AL(C253のヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムで2000mmol相当)を仕込み、50℃で攪拌しながら、5.47mol/Lのn-ブタノールヘキサン溶液146mLを3時間かけて滴下し、終了後ラインを300mLのヘキサンで洗浄した。
さらに、50℃で2時間かけて攪拌を継続した。反応終了後、常温まで冷却したものを原料(b-1)とした。原料(b-1)はマグネシウムの濃度で0.704mol/Lであった。
【0136】
(2)原料(b-2)の調製
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/LのMg(C12AL(Cのヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムで2000mmol相当)を仕込み、80℃で攪拌しながら、8.33mol/Lのメチルハイドロジエンポリシロキサン(信越化学工業社製)のヘキサン溶液240mLを3時間かけて滴下し、終了後ラインは300mLのヘキサンで洗浄した。さらに80℃で2時間かけて攪拌を継続させた。反応終了後、常温まで冷却したものを原料(b-2)とした。原料(b-2)はマグネシウムとアルミニウムとの合計濃度で0.786mol/Lであった。
(3)(B-1)担体の調製
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で原料(b-1)の有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液1340mL(マグネシウム943mmol相当)を3時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄し、(B-1)担体を得た。この担体を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムは7.5mmolであった。
(4)固体触媒成分[B-1]の合成
上記(B-1)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら2mol/Lの四塩化チタンのヘキサン溶液618mLと原料(b-2)1572mLとを同時に3時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1,100mL除去し、ヘキサン1,100mLで4回洗浄することにより、固体触媒成分[B-1]を合成した。固体触媒成分[B-1]は、チタンの担持量が多く、活性点密度が高かった。
【0137】
(担持型メタロセン触媒成分[A-2]の合成)
(1)原料(a-4)の調製
平均粒子径が7μm、表面積が700m/g、粒子内細孔容積が1.9mL/gの球状シリカを、窒素雰囲気下、500℃で5時間焼成し、脱水した。
窒素雰囲気下、容量1.8Lのオートクレーブ内で、この脱水シリカ40gをヘキサン800mL中に分散させ、スラリーを得た。
得られたスラリーを攪拌下20℃に保ちながらトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)100mLを1時間で滴下し、その後、同温度で2時間攪拌した。
その後、得られた反応混合物をデカンテーションによって上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。
このようにしてトリエチルアルミニウムで処理されたシリカ成分(原料(a-4))のヘキサンスラリー800mLを得た。
【0138】
(2)原料(a-5)の調製
[(N-t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム-1,3-ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」と記載する。)200mmolをアイソパーE[エクソンケミカル社(米国)製の炭化水素混合物の商品名]1250mLに溶解し、予めトリエチルアルミニウムとブチルエチルマグネシウムより合成した、Mg(C(n-CAl(Cの1mol/Lヘキサン溶液を25mL加え、さらにヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1mol/Lに調整し、原料(a-5)を得た。
【0139】
(3)原料(a-6)の調製
ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム-トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と記載する。)5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液5mLを室温で加え、さらにヘキサンを加えて溶液中のボレート濃度が70mmol/Lとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む反応混合物(原料(a-6))を得た。
【0140】
(4)担持型メタロセン触媒[A-2]の合成
上記(1)で得られたシリカ成分(原料(a-4))のヘキサンスラリー800mLを、20℃で攪拌しながら、上記(2)で得られたチタニウム錯体(原料(a-5))のうち32mLと上記(3)で得られたボレートを含む反応混合物(原料(a-6))46mLとを、同時に1時間で添加し、さらに同温度で1時間攪拌し、チタニウム錯体とボレートとを反応させた。反応終了後、上澄み液を除去し、ヘキサンで未反応の触媒原料を除去することにより、触媒活性種が該シリカ上に形成されている担持型メタロセン触媒[A-2](以下、固体触媒成分[A-2]ともいう)を得た。固体触媒成分[A-2]は、チタンの担持量が少なく、活性点密度が低かった。
【0141】
(固体触媒成分[B-2]の合成)
(1)原料(b-3)の調製
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/LのMg6(C12AL(C253のヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムで2000mmol相当)を仕込み、50℃で攪拌しながら、5.47mol/Lのn-ブタノールヘキサン溶液146mLを3時間かけて滴下し、終了後ラインを300mLのヘキサンで洗浄した。
さらに、50℃で2時間かけて攪拌を継続した。反応終了後、常温まで冷却したものを原料(b-3)とした。原料(b-3)はマグネシウムの濃度で0.704mol/Lであった。
【0142】
(2)原料(b-4)の調製
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/LのMg(C12AL(Cのヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムで2000mmol相当)を仕込み、80℃で攪拌しながら、8.33mol/Lのメチルハイドロジエンポリシロキサン(信越化学工業社製)のヘキサン溶液240mLを3時間かけて滴下し、終了後ラインは300mLのヘキサンで洗浄した。さらに80℃で2時間かけて攪拌を継続させた。反応終了後、常温まで冷却したものを原料(b-4)とした。原料(b-4)はマグネシウムとアルミニウムとの合計濃度で0.786mol/Lであった。
【0143】
(3)(B-2)担体の調製
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で原料(b-3)の有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液1340mL(マグネシウム943mmol相当)を3時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄し、(B-2)担体を得た。この担体を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムは7.5mmolであった。
【0144】
(4)固体触媒成分[B-2]の合成
上記(B-2)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンのヘキサン溶液103mLと原料(b-4)131mLとを同時に3時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1,100mL除去し、ヘキサン1,100mLで4回洗浄することにより、固体触媒成分[B-2]を合成した。固体触媒成分[B-2]は、チタンの担持量が少なく、活性点密度が低かった。
【0145】
〔実施例1〕
(ポリエチレンパウダーの重合)
ヘキサン、エチレン、水素、固体触媒成分[B-1]を、撹拌翼が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。重合圧力は0.40MPaで、重合温度はジャケット冷却により80℃保ち、平均滞留時間2.1hrの条件で連続的に反応させた。エチレンガスを溶存させたヘキサンを40℃に調整し、80L/hrで重合器へ供給した。
固体触媒成分[B-1]は、ヘキサンを移送液として55℃に調整し、0.3g/hrの速度で重合器内のスラリー中に添加した。トリイソブチルアルミニウムは固体触媒成分[B-1]と隣接する供給ラインから、55℃に調整し、6.0mmol/hrの速度で重合器内のスラリー中に添加した。
エチレンは固体触媒成分[B-1]の供給ラインと隣接する供給ラインから重合器内のスラリー中に導入した。水素は気相に導入した。その際、水素ガスを、重合器内の気相のエチレンに対する水素濃度が20mol%になるようにポンプで連続的に供給した。
重合スラリーは、重合器の中央部から1500L/hrの速度で一部を重合器から、重合器の外に設置された配管へと抜き取り、70℃に冷却した後、再び重合器の上部に戻した。また、重合器のレベルが一定に保たれるように重合器の底部から重合スラリーを連続的に遠心分離機に送り、ポリエチレンパウダーとそれ以外の溶媒等とを分離した。
分離されたポリエチレンパウダーは、90℃で窒素ブローしながら乾燥した。なお、この乾燥工程で、重合後のパウダーに対し、スチームを噴霧して、触媒及び助触媒の失活を実施した。得られたポリエチレンパウダーを目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去することで、粘度平均分子量25×10g/mol、密度950kg/mの実施例1のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-1に示す。
【0146】
〔実施例2〕
ヘキサン、エチレン、水素、担持型メタロセン触媒成分[A-1]を、錨形攪拌翼が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。重合圧力は0.5MPaで、重合温度はジャケット冷却により80℃に保った。エチレンガスを溶存させたヘキサンを50℃に調整し、40L/hrで重合器に供給した。担持型メタロセン触媒成分[A-1]は、ヘキサンを移送液として、40℃に調整し、0.2g/hrの速度で重合器のスラリー中に添加した。トリイソブチルアルミニウムは40℃に調整し、担持型メタロセン触媒成分[A-1]と同じ供給ラインから5.0mmol/hrの速度で重合器のスラリー中に添加した。Tebbe試薬は40℃に調整し、担持型メタロセン触媒成分[A-1]と同じ供給ラインから0.3μmol/hrの速度で添加した。
エチレンガス及び水素ガスは気相から導入した。この際、水素ガスを、エチレンに対する水素濃度が1200ppmになるようポンプで連続的に供給した。
重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPa、温度60℃のフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレン及び水素を分離した。
次に、得られた重合スラリーに少量のメタノールを添加して触媒を失活させた後、濾過することで溶剤を除去した。濾過後のポリマーに対する溶媒等の含有量は195%であった。
分離濾過されたポリエチレンパウダーは、95℃で窒素ブローしながら乾燥した。その後は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量27×10g/mol、密度945kg/mの実施例2のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-1に示す。
【0147】
〔実施例3〕
重合工程において、重合圧力を0.7MPaとし、重合温度を70℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを40℃に調整して80L/hrで重合器に供給し、エチレンを担持型メタロセン触媒成分[A-1]と隣接する配管から重合器のスラリー中に導入し、エチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を1050ppmとした以外は、実施例2と同様の操作により、粘度平均分子量35×10g/mol、密度950kg/mの実施例3のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-1に示す。
【0148】
〔実施例4〕
重合工程において、重合圧力を0.5MPaとし、重合温度を78℃とし、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを55℃に調整して同一供給ラインから重合器内のスラリー中に添加し、1-ブテンをエチレンに対して0.10mol%気相に導入した以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量35×10g/mol、密度945kg/mの実施例4のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-1に示す。
【0149】
〔実施例5〕
重合工程において、固体触媒成分[B-1]の代わりに固体触媒成分[B-2]を用い、重合圧力を0.5MPaとし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-2]とトリイソブチルアルミニウムとを同一供給ラインから40℃に調整して重合器内のスラリー中に添加した以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量40×10g/mol、密度940kg/mの実施例5のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-1に示す。
【0150】
〔実施例6〕
重合工程において、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して40L/hrで重合器に供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから50℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、エチレンと固体触媒成分[B-1]との供給ラインを隣接させず、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を17mol%とし、1-ブテンをエチレンに対して0.20mol%の割合で重合器内の気相に導入した以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量45×10g/mol、密度945kg/mの実施例6のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-1に示す。
【0151】
〔実施例7〕
重合工程において、エチレンガスを溶存させたヘキサンを55℃に調整して40L/hrで重合器に供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから40℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を17mol%とし、1-ブテンをエチレンに対して0.20mol%の割合で重合器内の気相に導入した以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量45×10g/mol、密度940kg/mの実施例7のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-1に示す。
【0152】
〔実施例8〕
重合工程において、重合圧力を0.5MPaとし、重合温度を78℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを35℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから40℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を18mol%とした以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量45×10g/mol、密度940kg/mの実施例8のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-1に示す。
【0153】
〔実施例9〕
重合工程において、固体触媒成分[B-1]の代わりに固体触媒成分[B-2]を用い、重合圧力を0.5MPaとし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-2]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから40℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスの水素濃度を15mol%とした以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量50×10g/mol、密度945kg/mの実施例9のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-1に示す。
【0154】
〔実施例10〕
重合工程において、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから40℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を15%とした以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量50×10g/mol、密度945kg/mの実施例10のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-2に示す。
【0155】
〔実施例11〕
重合工程において、重合圧力を0.70MPaとし、重合温度を70℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して重合器に供給し、担持型メタロセン触媒成分[A-1]とトリイソブチルアルミニウムと、Tebbe試薬とを同一の供給ラインから45℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、エチレンを担持型メタロセン触媒成分[A-1]と隣接した配管から重合器のスラリー中に導入し、エチレンガスと水素ガスとの混合ガスにおける水素濃度を300ppmとした以外は、実施例2と同様の操作により、粘度平均分子量90×10g/mol、密度940kg/mの実施例11のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-2に示す。
【0156】
〔実施例12〕
重合工程において、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから45℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を8mol%とした以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量90×10g/mol、密度940kg/mの実施例12のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-2に示す。
【0157】
〔実施例13〕
重合工程において、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから35℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を3mol%とした以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量150×10g/mol、密度935kg/mの実施例13のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-2に示す。
【0158】
〔実施例14〕
重合工程において、重合圧力を0.50MPaとし、重合温度を78℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して80L/hrで重合器に供給し、Tebbe試薬を使用せず、エチレンを担持型メタロセン触媒成分[A-1]と隣接する供給ラインから重合器のスラリー中に導入し、エチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を150ppmとした以外は、実施例2と同様の操作により、粘度平均分子量180×10g/mol、密度930kg/mの実施例14のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-2に示す。
【0159】
〔実施例15〕
重合工程において、重合圧力を0.5MPaとし、重合温度を78℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを50℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから50℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、水素を重合器のスラリー中に導入し、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を1mol%とした以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量320×10g/mol、密度925kg/mの実施例15のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-2に示す。
【0160】
〔実施例16〕
重合工程において、重合圧力を0.5MPaとし、重合温度を78℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを隣接した異なる供給ラインから50℃に調整して重合器内のスラリー中に添加し、水素を導入しなかった以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量580×10g/mol、密度930kg/mの実施例16のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-2に示す。
【0161】
〔実施例17〕
重合工程において、重合圧力を0.80MPaとし、重合温度を75℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを50℃に調整して80L/hrで重合器に供給し、担持型メタロセンヘキサン[A-1]を気相に50℃で導入し、トリイソブチルアルミニウムを担持型メタロセンヘキサン[A-1]と同一の供給ラインから50℃に調整して重合器の気相に供給し、Tebbe試薬を使用せず、水素を重合器のスラリー中に導入し、エチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を85ppmとした以外は、実施例2と同様の操作により、粘度平均分子量900×10g/mol、密度920kg/mの実施例17のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-2に示す。
【0162】
〔実施例18〕
実施例9のポリエチレンパウダーに結晶核剤としてミリケンジャパン社製のEXP20(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸塩)を400ppmの濃度になるよう添加し、混合機で攪拌混合し、実施例18のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1-2に示す。
【0163】
〔比較例1〕
重合工程において、重合温度を75℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを40L/hrで重合器に供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから45℃で重合器内のスラリー中に添加した以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量15×10g/mol、密度940kg/mの比較例1のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0164】
〔比較例2〕
重合工程において、固体触媒成分[B-1]の代わりに固体触媒成分[B-2]を用い、重合圧力を0.5MPaとし、重合温度を82℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-2]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから40℃で重合器内の気相に添加し、エチレンを固体触媒成分[B-2]の供給ラインと隣接していない供給ラインから気相に導入し、水素を重合器のスラリー中に導入した以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量35×10g/mol、密度945kg/mの比較例2のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0165】
〔比較例3〕
重合工程において、重合温度を82℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを55℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから45℃で重合器内の気相に添加し、エチレンを固体触媒成分[B-1]の供給ラインと隣接しない供給ラインから重合器内の気相に導入し、水素を重合器の気相中に導入し、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を17mol%とした以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量40×10g/mol、密度945kg/mの比較例3のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0166】
〔比較例4〕
重合工程において、エチレンガスを溶存させたヘキサンを55℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-1]とトリイソブチルアルミニウムとを異なる供給ラインから25℃に調整して重合器内の気相に添加し、エチレンを固体触媒成分[B-1]の供給ラインと隣接しない供給ラインから重合器内の気相に導入し、水素を重合器のスラリー中に導入し、重合器内の気相のエチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を15mol%とした以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量50×10g/mol、密度950kg/mの比較例4のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0167】
〔比較例5〕
重合工程において、担持型メタロセン触媒成分[A-1]の代わりに担持型メタロセン触媒成分[A-2]を用い、重合圧力を0.8MPaとし、重合温度を70℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して80L/hrで重合器に供給し、担持型メタロセン触媒成分[A-2]とトリイソブチルアルミニウムと、Tebbe試薬とをそれぞれ異なる供給ラインで55℃に調整して重合器内の気相に添加し、水素を重合器のスラリー中に導入し、エチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を400ppmとし、1-ブテンをエチレンに対して0.10mol%の割合で重合器内の気相に導入した以外は、実施例2と同様の操作により、粘度平均分子量65×10g/mol、密度940kg/mの比較例5のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0168】
〔比較例6〕
重合工程において、担持型メタロセン触媒成分[A-1]の代わりに担持型メタロセン触媒成分[A-2]を用い、重合圧力を0.8MPaとし、重合温度を72℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを35℃に調整して80L/hrで重合器に供給し、担持型メタロセンヘキサン[A-2]とトリイソブチルアルミニウムと、Tebbe試薬とを異なる供給ラインから55℃に調整して重合器内の気相に添加し、水素を重合器のスラリー中に導入し、エチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を250ppmとした以外は、実施例2と同様の操作により、粘度平均分子量85×10g/mol、密度945kg/mの比較例6のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0169】
〔比較例7〕
重合工程において、固体触媒成分[B-1]の代わりに固体触媒成分[B-2]を用い、重合温度を75℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを55℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-2]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから50℃に調整して重合器内の気相に添加し、エチレンを固体触媒成分[B-2]の供給ラインとは隣接しない供給ラインから重合器内の気相に導入し、水素を導入しなかった以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量350×10g/mol、密度930kg/mの比較例7のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0170】
〔比較例8〕
重合工程において、固体触媒成分[B-1]の代わりに固体触媒成分[B-2]を用い、重合圧力を0.5MPaとし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを50℃に調整して重合器に供給し、固体触媒成分[B-2]を35℃に調整して重合器内に添加し、トリイソブチルアルミニウムを固体触媒成分[B-2]と異なる供給ラインから35℃に調整して重合器内に添加し、水素を導入しなかった以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量550×10g/mol、密度930kg/mの比較例8のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0171】
〔比較例9〕
重合工程において、固体触媒成分[B-1]の代わりに固体触媒成分[B-2]を用い、重合圧力を0.5MPaとし、重合温度を78℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを35℃に調整して40L/hrで重合器に供給し、固体触媒成分[B-2]を35℃に調整して重合器内に添加し、トリイソブチルアルミニウムを固体触媒成分[B-2]と異なる供給ラインから35℃で重合器内に添加し、水素を添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作により、粘度平均分子量740×10g/mol、密度930kg/mの比較例9のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0172】
〔比較例10〕
重合工程において、重合圧力を0.8MPaとし、重合温度を75℃とし、エチレンガスを溶存させたヘキサンを45℃に調整して重合器に供給し、担持型メタロセン触媒成分[A-1]とトリイソブチルアルミニウムとを同一の供給ラインから45℃に調整して重合器内に添加し、Tebbe試薬を使用せず、エチレンを担持型メタロセン触媒成分[A-1]と隣接する供給ラインから重合器のスラリー中に導入し、エチレンと水素との混合ガスにおける水素濃度を70ppmとした以外は、実施例2と同様の操作により、粘度平均分子量1050×10g/mol、密度915kg/mの比較例10のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0173】
〔比較例11〕
比較例6のポリエチレンパウダーに結晶核剤としてミリケンジャパン社製のEXP20を400ppmの濃度になるよう添加し、混合機で攪拌混合し、比較例11のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表2に示す。
【0174】
【表1-1】
【0175】
【表1-2】
【0176】
【表2】
【0177】
実施例のポリエチレンパウダーは、核剤効果を示すほどポリエチレン分子鎖が強く絡み合い、低倍率延伸でも機械強度が高い成形体を製造できた。
【0178】
また、実施例のポリエチレンパウダーは、結晶化速度が速く、特に微多孔膜の製造工程において冷却ロールからゲルシートが離形しやすく、優れた加工性を示した。
【0179】
さらに、実施例のポリエチレンパウダーは、特に微多孔膜において、熱収縮率が悪化するほどの分子鎖の絡み合いではなく、低倍率延伸で高強度化することから、強度に対する熱収縮率が低くなった。
【0180】
本出願は、2021年6月25日出願の日本特許出願(特願2021-105354号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明のポリエチレンパウダーは、各種微多孔膜、電池用セパレータ、高強度繊維等として、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2