(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】レーザ切断加工装置及びレーザ切断加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20231117BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20231117BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20231117BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20231117BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
B23K26/38 A
B23K26/00 M
B23K26/08 H
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2020509807
(86)(22)【出願日】2019-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2019009553
(87)【国際公開番号】W WO2019188155
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018058624
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】中川 龍幸
(72)【発明者】
【氏名】堤 太志
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-080802(JP,A)
【文献】国際公開第2015/072107(WO,A1)
【文献】特開2008-290135(JP,A)
【文献】特開平02-059188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B25J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器から出力されたレーザ光を伝送ファイバ及びレーザ加工ロボットの先端に取付けられたレーザ加工ヘッドを介してワークに照射し、前記ワークを切断するレーザ切断加工装置であって、
前記レーザ加工ロボット及び前記レーザ発振器の動作を制御する制御部を備え、
前記レーザ加工ロボットには、所定の軌跡精度で移動可能である速度範囲が予め定められ、前記速度範囲に基づいて、前記ワークの切断速度の使用可能範囲が設定されており、
前記制御部に設けられた記憶部には、切断加工条件に関する加工条件テーブルが複数保存されており、
前記加工条件テーブルは、前記ワークの材質及び板厚に関連付けられたパラメータとして、レーザ発振周波数と、レーザ出力と、レーザ出力デューティーと、前記切断速度の前記使用可能範囲と、前記ワークの切断面が所定の仕上がり条件を満たすように設定された前記切断速度及び前記レーザ出力で画定される有効範囲と、前記有効範囲の下側境界に関する近似式とを、少なくとも含み、
前記制御部は、前記記憶部に保存された複数の前記加工条件テーブルの中から、前記ワークの前記切断速度と前記レーザ出力とが所定の条件を満たすように前記加工条件テーブルを選択し、選択された前記加工条件テーブルに基づいて前記ワークが切断加工されるよう前記レーザ加工ロボット及び前記レーザ発振器の動作を制御することを特徴とするレーザ切断加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ切断加工装置において、
選択された前記加工条件テーブルに含まれる前記有効範囲と前記切断速度の前記使用可能範囲との重なりが所定の範囲未満である場合は、
前記レーザ発振周波数及び前記レーザ出力デューティーの少なくとも一方を変更して、前記有効範囲と前記切断速度の前記使用可能範囲との重なりが前記所定の範囲以上になるように、前記加工条件テーブルを再選択し、
前記制御部は、再選択された前記加工条件テーブルに基づいて前記ワークが切断加工されるよう前記レーザ加工ロボット及び前記レーザ発振器の動作を制御することを特徴とするレーザ切断加工装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザ切断加工装置において、
前記加工条件テーブルの前記パラメータは、前記ワークの切断方向に対する前記レーザ加工ヘッドの傾斜角にも関連付けられており、
前記制御部は、前記レーザ加工ヘッドの先端が、前記レーザ加工ヘッドの後端よりも前記ワークの切断方向に沿って前方に位置した前進状態で、かつ前記傾斜角が0°以上30°以下の範囲で前記ワークが切断加工されるよう前記レーザ加工ロボット及び前記レーザ発振器の動作を制御することを特徴とするレーザ切断加工装置。
【請求項4】
制御部によって動作が制御されるレーザ発振器から出力されたレーザ光を伝送ファイバ及び前記制御部によって動作が制御されるレーザ加工ロボットの先端に取付けられたレーザ加工ヘッドを介してワークに照射し、前記ワークを切断するレーザ切断加工方法であって、
前記ワークの材質及び板厚を含むレーザ切断加工時の基本条件の入力を受け付ける基本条件入力ステップと、
前記基本条件入力ステップで入力された前記基本条件と、前記制御部内の記憶部に保存され、前記レーザ切断加工に関する各種パラメータを有する加工条件テーブルを複数含んでなる加工条件テーブル群とを照合し、所望の前記レーザ切断加工に対応する前記加工条件テーブルを選択する加工条件テーブル選択ステップと、
前記加工条件テーブル選択ステップで選択された前記加工条件テーブルに基づいて前記レーザ切断加工の加工条件を設定する加工条件設定ステップと、
前記加工条件設定ステップで設定された加工条件において、前記ワークの切断速度が所定の条件を満たすかどうかを判断する切断速度判断ステップと、
前記切断速度判断ステップでの判断結果に基づいて前記ワークが切断加工されるよう前記レーザ加工ロボット及び前記レーザ発振器の動作を制御する切断加工ステップと、を有
し、前記基本条件は、前記ワークの切断方向に対する前記レーザ加工ヘッドの傾斜角をさらに含み、
前記加工条件テーブルの各種パラメータは、前記ワークの切断方向に対する前記レーザ加工ヘッドの前記傾斜角にも関連付けられており、
前記切断加工ステップにおいて、前記レーザ加工ヘッドの先端が、前記レーザ加工ヘッドの後端よりも前記ワークの切断方向に沿って前方に位置した前進状態で、かつ前記傾斜角が0°以上30°以下の範囲で前記ワークが切断加工されるよう前記レーザ加工ロボット及び前記レーザ発振器の動作を制御することを特徴とするレーザ切断加工方法。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ切断加工方法において、
前記切断速度判断ステップでは、前記ワークの前記切断速度が、前記レーザ加工ロボットに予め定められた速度範囲に基づいて設定された使用可能範囲かどうか、または、前記ワークの切断面が所定の仕上がり条件を満たすように設定された前記切断速度及びレーザ出力で画定される有効範囲と前記切断速度の前記使用可能範囲との重なりが所定の範囲以上であるかどうかを判断することを特徴とするレーザ切断加工方法。
【請求項6】
請求項5に記載のレーザ切断加工方法において、
レーザ発振周波数及びレーザ出力デューティーのいずれか一方を変更して前記加工条件テーブルを再選択する加工条件テーブル再選択ステップと、
前記切断速度を前記使用可能範囲の最大値である切断最大速度に設定する切断速度設定ステップと、
前記加工条件テーブル再選択ステップで再選択された前記加工条件テーブルに保存された前記切断速度に対するレーザ出力下限値の近似式を抽出し、前記近似式における前記切断最大速度での前記レーザ出力を切断加工時の前記レーザ出力に設定するレーザ出力設定ステップと、をさらに有し、
前記切断速度判断ステップでの判断が肯定的であれば、前記切断加工ステップにおいて、前記加工条件設定ステップで設定された加工条件に基づいて前記ワークを切断加工させ、
前記切断速度判断ステップでの判断が否定的であれば、
前記切断加工ステップにおいて、前記切断速度設定ステップ及びレーザ出力設定ステップでそれぞれ設定された前記切断速度及び前記レーザ出力に基づいて前記ワークを切断加工させることを特徴とするレーザ切断加工方法。
【請求項7】
請求項4ないし
6のいずれか1項に記載のレーザ切断加工方法において、
前記加工条件テーブル選択ステップでは、前記ワークの切断軌跡全体において、所定の間隔をあけて位置する2つの教示点間における前記基本条件と前記加工条件テーブル群とを照合して、所望の前記レーザ切断加工に対応する前記加工条件テーブルの組み合わせを複数選択し、
前記レーザ切断加工方法は、
前記加工条件テーブルに、前記2つの教示点間を切断加工するときの加工時間と加工時電力とを関連付けてサブテーブルを作成するサブテーブル作成ステップと、
前記サブテーブルの組み合わせのそれぞれに、前記切断軌跡全体にわたって積算された加工時総時間及び加工時総電力を関連付けて複数のナビゲーションテーブルを作成するナビゲーションテーブル作成ステップと、
前記レーザ切断加工における所望の仕様に応じて、複数の前記ナビゲーションテーブルから前記レーザ切断加工に使用する前記ナビゲーションテーブルを選択するナビゲーションテーブル選択ステップと、をさらに有し、
前記切断加工ステップでは、前記ナビゲーションテーブル選択ステップで選択された前記ナビゲーションテーブルに含まれる前記加工条件に基づいて前記ワークが切断加工されるよう前記レーザ加工ロボット及び前記レーザ発振器の動作を制御することを特徴とするレーザ切断加工方法。
【請求項8】
請求項
7に記載のレーザ切断加工方法において、
前記ナビゲーションテーブル選択ステップでは、前記加工時総時間、前記加工時総電力及び前記ワークの切断面形状の確認結果の少なくとも1つに基づいて、使用する前記ナビゲーションテーブルを選択することを特徴とするレーザ切断加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ切断加工装置及びレーザ切断加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の材質からなり、また異なる板厚を有するワークを切断するために、レーザ切断加工が広く行われてきている。このレーザ切断加工では、切断速度やレーザ出力を予め設定してから実際の加工を行う。この場合の切断速度は、例えば、レーザ加工ヘッドの位置を固定した上でワークの送り速度を調整することで設定される。しかし、実際のワークでは屈曲部分やコーナー部において切断方向、つまり、ワークの送り方向が変更されるため、この方向変更に応じて切断速度を加速または減速する必要がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、ワークを加工プログラムにより指令された加工経路に沿って加工する際に、ワークとレーザ光との相対的加工速度である実送り速度を検出して、検出した実送り速度に対応するレーザ出力条件を求めるレーザ制御方法が開示されている。このレーザ制御方法では、実送り速度に対応するレーザ出力条件を求めるために、互いに異なる複数の送り速度と、個々の送り速度に対応するレーザ出力条件とを関連付けた加工条件テーブルを制御装置に記憶している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、複雑な形状のワークを切断加工するために、レーザ加工ヘッドがマニピュレータの先端に接続されたレーザ加工ロボットを用いたレーザ切断加工方法が多く用いられてきている。この方法では、ワークが静止固定された状態で、レーザ加工ロボットを動かして、所定の軌跡上にレーザ光を照射し、ワークを切断する場合が多い。
【0006】
しかし、例えば、表面の一部に凹凸を有する形状のワークを切断加工する場合、凹凸部分でレーザ加工ヘッドの傾斜角をワークの表面形状に対応させて大きく変化させる必要がある。このような場合、レーザ加工ロボットの複数の駆動軸を協働して動作させるため、レーザ加工ヘッドの移動軌跡が所定の軌跡よりもぶれやすくなる。従って、レーザ加工ヘッドを低速で移動させる必要がある。一方、平坦な表面においては、切断加工時間を短縮させるため、レーザ加工ヘッドは高速で移動させるのが好ましい。このように、切断軌跡上での教示点毎にレーザ加工ヘッドの移動速度設定を変更する場合のように、変更の頻度が多い場合、この変更に付随してその他の加工条件を変更する必要が生じ、加工条件の設定が煩雑なものとなる。
【0007】
そこで、本開示はかかる点に鑑みなされたもので、その目的は、切断加工条件を簡便に設定可能なレーザ切断加工装置及びレーザ切断加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示に係るレーザ切断加工装置は、レーザ発振器から出力されたレーザ光を伝送ファイバ及びレーザ加工ロボットの先端に取付けられたレーザ加工ヘッドを介してワークに照射し、ワークを切断するレーザ切断加工装置であって、レーザ加工ロボット及びレーザ発振器の動作を制御する制御部を備え、レーザ加工ロボットには、所定の軌跡精度で移動可能である速度範囲が予め定められ、速度範囲に基づいて、ワークの切断速度の使用可能範囲が設定されており、制御部に設けられた記憶部には、切断加工条件に関する加工条件テーブルが複数保存されており、加工条件テーブルは、ワークの材質及び板厚に関連付けられたパラメータとして、レーザ発振周波数と、レーザ出力と、レーザ出力デューティーと、切断速度の使用可能範囲と、ワークの切断面が所定の仕上がり条件を満たすように設定された切断速度及びレーザ出力で画定される有効範囲と、有効範囲の下側境界に関する近似式とを、少なくとも含み、制御部は、記憶部に保存された複数の加工条件テーブルの中から、ワークの切断速度とレーザ出力が所定の条件を満たすように加工条件テーブルを選択し、選択された加工条件テーブルに基づいてワークが切断加工されるようレーザ加工ロボット及びレーザ発振器の動作を制御することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、予め取得された加工条件テーブル群の中から、切断速度及びレーザ出力に求められる所定の条件を満たすように加工条件テーブルを選択するため、レーザの切断加工条件の設定を簡便に行うことができる。
【0010】
本開示に係るレーザ切断加工方法は、制御部によって動作が制御されるレーザ発振器から出力されたレーザ光を伝送ファイバ及び制御部によって動作が制御されるレーザ加工ロボットの先端に取付けられたレーザ加工ヘッドを介してワークに照射し、ワークを切断するレーザ切断加工方法であって、ワークの材質及び板厚を含むレーザ切断加工時の基本条件の入力を受け付ける基本条件入力ステップと、基本条件入力ステップで入力された基本条件と、制御部内の記憶部に保存され、レーザ切断加工に関する各種パラメータを有する加工条件テーブルを複数含んでなる加工条件テーブル群とを照合し、所望のレーザ切断加工に対応する加工条件テーブルを選択する加工条件テーブル選択ステップと、加工条件テーブル選択ステップで選択された加工条件テーブルに基づいてレーザ切断加工の加工条件を設定する加工条件設定ステップと、加工条件設定ステップで設定された加工条件において、ワークの切断速度が所定の条件を満たすかどうかを判断する切断速度判断ステップと、切断速度判断ステップでの判断結果に基づいてワークが切断加工されるようレーザ加工ロボット及びレーザ発振器の動作を制御する切断加工ステップと、を有し、基本条件は、ワークの切断方向に対するレーザ加工ヘッドの傾斜角をさらに含み、
加工条件テーブルの各種パラメータは、ワークの切断方向に対するレーザ加工ヘッドの傾斜角にも関連付けられており、
切断加工ステップにおいて、レーザ加工ヘッドの先端が、レーザ加工ヘッドの後端よりもワークの切断方向に沿って前方に位置した前進状態で、かつ傾斜角が0°以上30°以下の範囲でワークが切断加工されるようレーザ加工ロボット及びレーザ発振器の動作を制御することを特徴とする。
【0011】
この方法によれば、ワークの材質や板厚等の基本条件と予め取得された加工条件テーブル群とを照合して、切断速度に求められる所定の条件に基づいて切断加工を行う。そのため、動作マージンの広い安定した加工条件を簡便に設定して、ワークのレーザ切断加工を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本開示に係るレーザ切断加工装置によれば、レーザの切断加工条件の設定を簡便に行うことができる。また、本開示に係るレーザ切断加工方法によれば、動作マージンの広い安定した加工条件を簡便に設定して、ワークのレーザ切断加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施形態1に係るレーザ切断加工装置の構成を示す模式図である。
【
図2】加工条件テーブル作成のためのデータ収集手順を示すフローチャートである。
【
図3】異なる材質及び板厚に対して所定の切断面形状が得られるワークの切断速度とレーザ出力との範囲を示す図である。
【
図4】板厚1mmのステンレス鋼に対して所定の切断面形状が得られるワークの切断速度とレーザ出力との範囲を示す図である。
【
図5】切断軌跡に対する切断速度設定上限値の変化を示す概念図である。
【
図6】記憶部における加工条件テーブルの格納状態を示す概念図である。
【
図7】レーザ切断加工手順を示すフローチャートである。
【
図8】加工条件の見直しによる、切断速度の使用可能範囲と切断速度及びレーザ出力の有効範囲との重なり具合の変化を示す概念図である。
【
図9】本開示の実施形態2に係る切断方向に対するレーザ加工ヘッドの傾斜状態を示す模式図である。
【
図10】レーザ加工ヘッドの傾斜角度に対するレーザ切断加工の加工品質指標の変化を示す模式図である。
【
図11】本開示の実施形態3に係るレーザ切断加工手順を示すフローチャートである。
【
図12】サブテーブルの作成手順を示す概念図である。
【
図13】ナビゲーションテーブルの作成手順を示す概念図である。
【
図14】ナビゲーションテーブルの選択手順を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0015】
(実施形態1)
[レーザ切断加工装置の構成]
図1は、本実施形態に係るレーザ切断加工装置101の構成を示す模式図である。
図1に示すように、レーザ切断加工装置101は、レーザ発振器102と、レーザ加工ロボット130と、コントローラ105と、切断加工条件設定装置(ティーチングペンダント)106とを備える。レーザ加工ロボット130は、レーザ加工ヘッド103とマニピュレータ104とを有している。
【0016】
レーザ発振器102は、伝送ファイバ107によってレーザ加工ヘッド103と接続されている。レーザ発振器102はレーザを発振し、発振したレーザ光109を、伝送ファイバ107を介してレーザ加工ヘッド103へ出力する。
【0017】
レーザ加工ヘッド103は、伝送ファイバ107により伝送されたレーザ光109をワーク108に向けて出射する。すなわち、レーザ光109がレーザ加工ヘッド103の先端からワーク108に出射される。図示しないが、レーザ加工ヘッド103には、伝送ファイバ107を取付けるためのコネクタが設けられている。また、レーザ加工ヘッド103の内部には、伝送ファイバ107から伝送されたレーザ光109を所定のスポット径に集光するための集光レンズ(図示せず)及びその他の光学系(図示せず)が配設されている。
【0018】
マニピュレータ104は複数の関節軸を有しており、各関節軸には、後述するコントローラ105に接続されたモータ(図示せず)及びエンコーダ(図示せず)が取付けられている。レーザ加工ロボット130は、コントローラ105からの指令に従って、マニピュレータ104の各関節軸に取付けられたモータを回転させ、レーザ加工ロボット130の先端に取り付けられたレーザ加工ヘッド103を所望の軌跡を描くように移動させる。なお、マニピュレータ104は、多関節ロボットでなくてもよく、例えば、パラレルリンクタイプのロボット等であってもよい。
【0019】
コントローラ105は、マニピュレータ104に接続され、マニピュレータ104の動作を制御する。また、コントローラ105はレーザ加工ヘッド103に装着された駆動部品(図示せず)に接続され、レーザ加工ヘッド103の動作を制御する。つまり、コントローラ105は、レーザ加工ロボット130の動作を制御する。また、コントローラ105は、レーザ発振器102と接続され、レーザ発振器102における、発振出力(以下、単に「レーザ出力」と呼ぶことがある)や発振周波数やレーザ光の出力デューティー(以下、単に「レーザ出力デューティー」と呼ぶことがある。)を制御する。また、コントローラ105は、切断加工条件設定装置106に接続され、切断加工条件設定装置106と双方向でデータ通信を行う。コントローラ105は、複数の切断加工条件がテーブル形式で保存された記憶部110と、記憶部110に保存された加工条件テーブルと作業者からの所定の入力とに従って、所望の切断加工条件を設定、演算する演算・処理部111とを有する。なお、記憶部110は、コントローラ105の外部にあってもよい。例えば、コントローラ105と有線または無線で双方向にデータ通信を行う場合は、記憶部110は、外部サーバー上にあってもよいし、記憶媒体等であってもよい。
【0020】
切断加工条件設定装置(ティーチングペンダント)106は、切断加工に関する所定のデータを入力する入力部112と、切断加工条件や切断加工時の各種センサ(図示せず)からの情報等を表示する表示部113とを有する。なお、コントローラ105と切断加工条件設定装置106とは一体であってもよい。すなわち、コントローラ105と切断加工条件設定装置106との間でデータのやり取りができれば、その実装方法は問わない。また、表示部113とは別にコントローラ105に表示部が接続されるようにしてもよい。また、入力部112におけるデータ入力形式は特に限定されない。すなわち、入力部112におけるデータ入力形式は、キーボードやタッチパネル等からの入力であってもよいし、音声等による入力でもよし、記憶媒体や外部サーバーから記憶部110にデータを送る際のインターフェース等であってもよい。また、切断加工条件設定装置106に、演算・処理部111とは別の演算・処理部(図示せず)が設けられてもよく、入力部112からの入力に従って所定の演算処理を実行させるようにしてもよい。その場合、当該演算処理結果を記憶部110に記憶させることもできる。なお、以降の説明において、コントローラ105と切断加工条件設定装置106とをあわせて、「制御部120」と呼ぶことがある。また、本実施形態において、レーザ発振器102の最大出力は4kWに設定されているが、特にこれに限定されず、ワーク108の種類等によって適宜変更されうる。
【0021】
[加工条件テーブル作成手順]
図2は、加工条件テーブル作成のためのデータ収集手順のフローチャートである。また、
図3は、異なる材質及び板厚に対して所定の切断面形状が得られるワークの切断速度とレーザ出力との範囲を示す図である。また、
図4は、板厚1mmのステンレス鋼に対して所定の切断面形状が得られるワークの切断速度とレーザ出力との範囲を示す図である。なお、
図4は、
図3に示す複数のグラフのうち、左上に示すグラフに対応している。
【0022】
また、
図5は、切断軌跡に対する切断速度設定上限値の変化を示す概念図である。
図6は、記憶部110における加工条件テーブルの格納状態の概念図である。まず、レーザ切断加工に用いる加工条件テーブル作成のためのデータ収集手順について
図2を用いて説明する。
【0023】
所定の材質及び板厚を有するワーク108を準備する。またレーザ切断加工時のアシストガス種を設定する(ステップS21)。なお、データ収集時において、ワークの切断形状は直線状としているが、後述する円形形状等であってもよい。切断加工中に切断速度を切り替える必要の無い形状が好ましい。
【0024】
準備されたワーク108を切断するための加工条件として、加工条件群1(第1加工条件群)を設定する(ステップS22)。加工条件群1には、パラメータとして、レーザ光109の焦点位置やワーク108とレーザ加工ヘッド103の先端との間の距離やアシストガス圧やアシストガスの吐出径が含まれる。また、アシストガスの流量も含まれるが、これはアシストガスのガス圧及び吐出径によって決定される。さらに、加工条件群1には、パラメータとして、レーザ加工ヘッド103内部の集光レンズの種別も含まれる。なお、集光レンズの種別には、その材質や形状等、例えば、球面レンズか非球面レンズか等の情報も含まれる。これら加工条件群1は、入力部112を介して切断加工条件設定装置106からコントローラ105の記憶部110に保存される。
【0025】
次に、加工条件群2(第2加工条件群)を設定する(ステップS23)。加工条件群2には、パラメータとして、レーザ発振器102のレーザ発振周波数及びレーザ出力デューティーが含まれる。なお、加工条件群2には、他の条件、例えば、レーザ光109の発振波長等が含まれていてもよい。また、レーザ出力デューティーとは、発振周期におけるレーザ出力がオンとなる時間とオフとなる時間の比をいう。これら加工条件群2も加工条件群1と同様にコントローラ105の記憶部110に保存される。
【0026】
さらに、加工条件群3(第3加工条件群)を設定する(ステップS24)。加工条件群3には、パラメータとして、切断速度及びレーザ出力が含まれる。なお、切断速度とは、所定の切断方向に沿って、ワーク108がレーザ光109によって切断される速度のことをいい、本実施形態においては、ワーク108の所定の切断軌跡に沿ってレーザ加工ヘッド103の先端が移動する移動速度に相当する。言いかえると、ワーク108の所定の切断軌跡に沿ってレーザ加工ロボット130の先端が移動する移動速度に相当する。これら加工条件群3も加工条件群1,2と同様にコントローラ105の記憶部110に保存される。
【0027】
なお、後述するように、レーザ加工ロボット130の先端をワーク108の外観等の形状または所定の切断軌跡に沿って所定の軌跡精度で移動させる場合、その移動速度には上限及び下限が設けられる。これは、レーザ加工ロボット130において、その先端を移動させるには、レーザ加工ロボット130の加工姿勢も考慮し、マニピュレータ104の複数の関節軸を協働して動作させる必要があり、これらの動作を調整するために速度の上限値を設ける必要があるからである。また、マニピュレータ104がパラレルリンクロボット等である場合にも同様に、動作調整のために速度の上限値が設けられる。また、レーザ加工ロボット130の先端を移動させるために、有限の速度下限値も存在する。以降の説明において、これら速度上限値及び下限値の間を、レーザ加工ロボット130の「速度範囲」と呼ぶことがある。また、この「速度範囲」に基づいて設定されたワーク108の切断速度の範囲を「使用可能範囲」と呼ぶことがある。なお、言い換えると、「使用可能範囲」は、ワーク108の形状または所定の切断軌跡に沿って所定の軌跡精度で移動させる場合における、レーザ加工ロボット130が安定して動作出来るなどの、安定して使用可能な速度範囲である。また、この使用可能範囲に含まれる最大速度を「切断最大速度」と呼ぶことがある。
【0028】
ステップS22~S24により、加工条件群1~3が設定された状態で、ワーク108の切断加工試験を実施し(ステップS25)、加工後に切断部が所定の仕上がり条件になっているかどうかを確認する(ステップS26)。ステップS26においては、特に、ワーク108の切断面が所定の仕上がり条件になっているかどうかを確認する。仕上がり条件は主に、切断面の表面粗さと後述するドロスの有無とで評価される。例えば、切断面に所定の高さ以上の凹凸が形成されていたり、ドロスが付着したりしていれば不良であるとし、切断面の表面粗さが所定値以下であったり、ドロスが切断面に付着していなかったりすれば良品であるとする。
【0029】
次に、切断速度及びレーザ出力の有効範囲が画定されたかどうかを判断する(ステップS27)。ステップS24~S27を順次繰返すことにより、切断速度及びレーザ出力の有効範囲を画定して行く。なお、切断速度及びレーザ出力の「有効範囲」とは、
図3,4における灰色で示された領域に相当する。また、切断速度のみに着目する場合は、「切断速度の有効範囲」と呼ぶことがある。
【0030】
切断速度及びレーザ出力の有効範囲は、以下のようにして画定される。すなわち、レーザ加工ロボット130がワーク108の形状によらずに、言い替えると、例えば平面状のワーク等を加工する場合などであり、ワーク108の形状、加工形状、またはレーザ加工ロボット130の加工姿勢等に拘束されない状態で、動作可能な理想上の速度の範囲(速度範囲)にて、切断速度を、最大出力(本実施形態では4kW)までの範囲で、レーザ発振器102のレーザ出力をそれぞれ変化させながら、順次切断加工を行っていく。そして、切断面が所定の仕上がり条件を満たす範囲を切断速度及びレーザ出力の有効範囲として画定する。なお、より具体的に説明すると、この有効範囲は、ワーク108の板厚に応じて決まり、ワーク108の板厚が薄いほど切断速度が速くなり、有効範囲は切断速度が速い側の領域で広くなる。よって、レーザ加工ロボット130の所定の軌跡精度で移動可能である速度範囲に基づくワーク108の切断速度の使用可能範囲が当該有効範囲に対して、例えば切断速度軸の方向で、小さい領域の場合は(ステップS27:NO)、パルス発振でのレーザ発振周波数及びレーザ出力デューティーの少なくとも一方を変更する。そして、ステップS24~S26を行い、当該有効範囲がワークの切断速度の使用可能範囲(使用可能最大速度以下)と重なるように調整する。レーザ出力デューティーの変更は、ワーク108が薄板である場合に適用される。このことについてさらに説明する。
【0031】
レーザ発振器102を連続発振させて薄板のワーク108をレーザ加工する場合、例えば、切断速度が低速域(0.5m/min~1m/min程度)では、入熱が過剰となりワーク108にドロスが付着する。また、連続発振時にワーク108を加工する場合、ワーク108の板厚が薄いほど切断速度が速くなり、高精度の加工軌跡を描くようにレーザ加工ロボット130が動作できる範囲である使用可能範囲よりも、切断速度及びレーザ出力の有効範囲が相対的に高くなる。このような場合は、レーザ発振器102でのレーザ発振を連続発振からパルス発振に切り替えて、レーザ出力デューティーを低下させ、ワーク108への入熱量を下げるようにする。レーザ出力デューティーは、25%~50%程度とするのが好ましい。なお、本開示において、ワーク108の厚みによって、「薄板」、「中板」、「厚板」とそれぞれ呼ぶことがある。例えば、板厚が0.5mmよりも厚く2mm以下であるワーク108を薄板、2mmよりも厚く4mm以下であるワーク108を中板、4mmよりも厚く6mm以下であるワーク108を厚板としている。ただし、板厚が0.5mmであるワーク108を薄板とみなし、6mmよりも厚いワーク108を厚板とみなしてもよい。
【0032】
なお、取得した有効範囲が十分か否かはワーク108の材質等により適宜決められる。有効判断が画定されれば、その結果は、加工条件群3に関連付けられてコントローラ105の記憶部110に保存される。
【0033】
なお、図示しないが、ステップS24~S27は、異なる板厚のワーク108に対しても行われ、有効範囲が画定されたかどうかを判断する。これらが繰り返されて有効範囲が画定されると(ステップS27:YES)、ワーク108に対する所望のレーザ切断加工に必要な数のデータ、つまり必要な数の有効範囲を取得したこととなる(ステップS28)。
【0034】
次に、加工条件群1~3及びステップS24~S27で収集されたデータに切断速度の使用可能範囲を関連付ける(ステップS29)。次に、加工データとして、切断速度に対するレーザ出力下限値の近似式を生成する(ステップS30)。ここで、近似式の生成に用いられる切断速度及びレーザ出力との関係について、
図3,4を用いて説明する。
【0035】
上記ステップS21~S27の処理により、ワーク108の材質及び厚みが設定され、さらに加工条件群1,2が設定された状態で、切断速度とレーザ出力とを変化させて切断加工を行われると、切断面形状が所定の仕上がり条件となる範囲、つまり上記の有効範囲が画定される。
【0036】
切断速度及びレーザ出力の有効範囲を画定する下側の境界線は、例えば、式(1)に示す2次式で近似され、この近似式が加工データに相当する(
図8参照)。
【0037】
P=AV
2+BV+C ・・・(1)
P:レーザ出力
V:切断速度
A,B,C:定数
一方、
図4に示すように、有効範囲外に切断速度及びレーザ出力を設定すると、切断面にドロスが付着したり(
図4中に△で表示)、ワーク108の切断そのものができない(
図4中に×で表示)場合がある。例えば、レーザ発振器102の最大出力が4kW、切断されるワーク108の材質がアルミ合金(A5052)、板厚が3.0mmである場合は、レーザ発振器102を連続発振させても、ワーク108を切断することはできなかった(
図3の上から2段目かつ左から3番目のグラフを参照)。また、
図4には示していないが、切断面形状が不良であったり(
図4中の□の説明参照)、エッジ(バリ)が発生したりする場合(
図4中の◇の説明参照)も、切断速度及びレーザ出力は有効範囲外にある。なお、ドロスとは、レーザ切断加工時にワーク108が溶けて、レーザ光109の照射側と反対側の面付近に付着する溶融物のことをいう。
【0038】
前述したように、切断速度には使用可能範囲が存在し、この使用可能範囲、特に速度上限値(
図4参照)はワーク108自体の形状や切断軌跡等によって変化する。例えば、ワーク108が平板であれば、ワーク108がパイプ形状であるときよりも切断可能な速度の上限値は高くなり、また、加工方法がトリミングの場合は、穴あけ加工よりも切断可能な速度の上限値は高くなる。また、
図5に示すようにワーク108の切断軌跡として円形、オーバル、レクタングル(四角形)の3種類がある場合には、切断可能な速度の上限値はこの順で高くなる。つまり(円形での速度上限値)>(オーバルでの速度上限値)>(レクタングルでの速度上限値)となる。
【0039】
このように、ワーク108を所定の切断軌跡に沿って、かつ良好な切断面形状となるようにレーザ切断するためには、切断速度の使用可能範囲と切断速度及びレーザ出力の有効範囲、特に、切断速度の使用可能範囲と切断速度の有効範囲とが互いに重なり合う必要がある。このことについては、後で詳述する。
【0040】
加工条件群1~3とステップS29で関連付けされたデータとステップS30で生成された加工データとをあわせて加工条件テーブルを生成し、記憶部110に保存する(ステップS31)。例えば、
図6に示すように、集光レンズの種別やワークの材質及び板厚、さらにアシストガス種等が基本条件として設定された場合に、この基本条件に関連付けされた加工条件群1~3の組がテーブル形式で整理されて加工条件テーブルとして記憶部110に保存される。また、同じ基本条件であり、レーザ切断加工装置101の仕様が決まっていれば、加工条件群1は固定されることが多い。一方、加工条件群2,3はワーク108の材質や切断軌跡等により変更されうるため、加工条件群2,3の各パラメータにおいて、複数の値が同じテーブルに保存されている。特に、加工条件群3、つまり、切断速度とレーザ出力は切断面形状の確認結果に関連付けられて複数の値が保存されている。また、加工条件群2,3の各パラメータはマトリックス形式で関係付けられている。また、切断速度及びレーザ出力の有効範囲に関連付けられた式(1)に示す近似式等も同じ加工条件テーブルに保存されている。
【0041】
また、
図6では、基本条件のうち集光レンズの種別によって、同様の加工条件テーブルが生成され、加工条件テーブル群として記憶部110に保存されている例を示している。しかしながら、例えば、ワークの材質を切り口として整理された加工条件テーブルの集合体を生成して、これらを加工条件テーブル群としてもよい。なお、ステップS29~S31の処理は、コントローラ105の演算・処理部111で実行されて、処理結果が記憶部110に保存される。
【0042】
[レーザ切断加工手順]
図7は、レーザ切断加工手順のフローチャートである。また、
図8は、加工条件の見直しによる、切断速度の使用可能範囲と切断速度及びレーザ出力の有効範囲との重なり具合の変化を示す概念図である。まず、
図7を用いてレーザ切断加工手順全体の流れを説明し、後に
図8を用いて、処理の詳細を具体的に説明する。なお、
図2に示す手順でデータが収集され、制御部120のコントローラ105の記憶部110に加工条件テーブル群が保存された状態で、ワーク108を
図7に示すレーザ切断加工手順にてレーザ切断加工するものとする。
【0043】
まず、加工対象となるワーク108の材質及び板厚、さらにアシストガス種等の条件、つまり、レーザ切断加工を行う際の基本条件を確認する。すなわち、制御部120の切断加工条件設定装置106は、入力部112を介して、これらの基本条件の入力を受け付ける(ステップS71:基本条件入力ステップ)。なお、ステップS71には記していないが、基本条件には、ワーク108の切断軌跡の教示(もしくはティーチング)データや集光レンズの種別も含まれる。また、同時に、入力されたこれらの基本条件は記憶部110に保存される。この場合は一時保存であってもよい。
【0044】
制御部120のコントローラ105の演算・処理部111は、入力された基本条件と記憶部110に保存された加工条件テーブル群とを照合し、このレーザ切断加工時に使用される加工条件テーブルを選択する(ステップS72:加工条件テーブル選択ステップ)。
【0045】
演算・処理部111は、選択された加工条件テーブルに基づき、加工条件群1~3を設定する。すなわち、演算・処理部111は、記憶部110の所定領域(以下、「作業領域」とも呼び、この領域は一時記憶領域であってもよい)に加工条件群1~3を保存する(ステップS73:加工条件設定ステップ)。なお、後述するステップS79、S81でも加工条件の設定を行うが、この際には、新たに設定される情報で、作業領域に記憶されている対応する情報を書き換えることになる。
【0046】
なお、基本条件及びレーザ切断加工装置101の仕様が確定しているため、前述したように、加工条件群2,3のそれぞれのパラメータのうち、特定の値がそれぞれ選択される。
【0047】
次に、演算・処理部111は、設定された切断速度が使用可能範囲内にあるかどうか、あるいは、使用可能範囲と切断速度及びレーザ出力で画定される有効範囲との重なりが所定の範囲以上であるかどうかを判断する(ステップS74:切断速度判断ステップ)。なお、ステップS74では、設定された切断速度が使用可能範囲(使用可能最大速度範囲)内にあるかどうかのみを判断するようにしてもよいし、使用可能範囲と切断速度及びレーザ出力で画定される有効範囲との重なりが所定の範囲以上であるかどうかのみを判断するようにしてもよい。また、この所定範囲の大きさについては後述する。
【0048】
ステップS74での判断が肯定的であれば(ステップS74:YES)、演算・処理部111は、ステップS73で設定された加工条件群2,3の値を含め、推奨条件として、加工条件群1~3を確定する(ステップS75:加工条件確定ステップ)。なお、演算・処理部111は、確定した加工条件群1~3の内容を表示部113に表示してもよい。
【0049】
そして、演算・処理部111は、確定された加工条件群1~3に基づき、ワーク108が切断加工されるようレーザ加工ロボット130及びレーザ発振器102の動作を制御する(ステップS76:切断加工ステップ)。
【0050】
一方、ステップS74での判断が否定的であれば(ステップS74:NO)、レーザ発振周波数及びレーザ出力デューティーの少なくとも一方を変更する(ステップS77)。演算・処理部111は、ステップS77での変更結果に基づいて加工条件テーブルを再選択する(ステップS78:ステップS77も含めて加工条件テーブル再選択ステップ)。演算・処理部111は、再選択された加工条件テーブルに基づいて、切断速度を使用可能な最大速度(切断最大速度)に設定する(ステップS79:切断速度設定ステップ)。次に、再選択された加工条件テーブルに保存された近似式、この場合は、式(1)で表わされる、切断速度に対するレーザ出力下限値の近似式を抽出する(ステップS80)。
【0051】
次に、ステップS80で抽出された近似式における切断最大速度でのレーザ出力を切断加工時のレーザ出力に設定する(ステップS81:レーザ出力設定ステップ)。なお、この理由については、後述する。そして、再度、設定された切断速度が使用可能範囲内にあるかどうか、あるいは、使用可能範囲と切断速度及びレーザ出力の有効範囲との重なりが所定の範囲以上であるかどうかを判断する(ステップS74)。このループは、ステップS74での判断が肯定的になるまで繰り返される。ただし、1回で出力デューティー等の変更及び近似式に基づくレーザ出力設定が完了する場合は、ステップS81からステップS75に進んでもよい。
【0052】
なお、ステップS72,S78の選択結果やステップS75での確定結果は、制御部120の切断加工条件設定装置106の表示部113に表示される。
【0053】
ここで、ステップS77~S81での処理内容について、
図8を用いて説明する。
【0054】
ワーク108の材質や板厚によっては、切断速度の使用可能範囲と、切断速度及びレーザ出力の有効範囲とが互いに重なり合わない加工条件テーブルが選択されることがある。例えば、
図8の左上のグラフに示すようにステンレス鋼の薄板を切断加工する場合に、レーザ出力デューティーを100%、つまり、レーザ発振器102を連続発振させる。すると、所定の切断軌跡に沿って、かつ切断面形状を良好に保った状態でワーク108を切断することができず、加工条件の見直しが必要となる。
【0055】
そこで、切断速度の使用可能範囲と、切断速度及びレーザ出力の有効範囲とが互いに重なりあうように、レーザ出力デューティーを小さくする、例えば、50%に変更する。そうすることで、
図8の左下のグラフに示すように、レーザ加工ロボット130が動作可能な範囲で切断速度を設定し、かつ所望の加工品質でレーザ切断加工を行うことができる。
【0056】
一方、ワーク108の板厚が厚くなり、中板(2~4mm)の場合、
図8の中央上側のグラフに示すように、レーザ出力デューティーが100%のときにも、切断速度の使用可能範囲と、切断速度及びレーザ出力の有効範囲とが互いに重なるようになる。しかし、ワーク108の板厚が薄くなるにつれ、切断速度及びレーザ出力の有効範囲が相対的に大きくなるため、切断速度の使用可能範囲と、切断速度及びレーザ出力の有効範囲との2つの範囲の重なりは小さなものとなる。この重なりが小さいと、レーザ切断加工時のレーザ加工ロボット130の動作ばらつきやレーザ出力のばらつきによっては、良好な切断面形状を得られない場合が出てくる。このような場合に、レーザ出力デューティーを小さく、例えば、50%に変更し、切断速度及びレーザ出力の有効範囲を低速度側にシフトさせる。このことにより、レーザ切断加工装置101における工程ばらつきの影響を小さくして、所望の加工品質でレーザ切断加工を行うことができる(
図8の中央下側、および左下のグラフ参照)。なお、ワーク108の板厚が十分に厚い厚板の場合、
図8の右上のグラフに示すように、切断速度の使用可能範囲と、切断速度及びレーザ出力の有効範囲とが互いに重なり、かつその重なりが十分に大きい。そのため、レーザ出力デューティーを変更する必要は無い(
図8の右下のグラフ参照)。
【0057】
なお、切断速度の使用範囲と切断速度及びレーザ出力の有効範囲との重なりに関し、当該重なりが所定の範囲以上となるか否かは、レーザ切断加工に求められる仕様や、レーザ加工ロボット130の動作速度のばらつきの許容範囲及びレーザ出力ばらつきの許容範囲等により適宜決められる。例えば、レーザ加工ロボット130として、動作速度のばらつきが大きい機種を使用する場合は、上記の所定の範囲を大きく取る必要がある。また、レーザ発振器102の出力変動が低く抑えられている場合には、上記の所定の範囲を小さく取ることも可能である。
【0058】
また、ステップS81において、式(1)で表わされる近似式における切断最大速度でのレーザ出力を切断加工時のレーザ出力に設定しているが、これは以下に示す理由による。
【0059】
ワーク108をレーザ切断加工する場合、ワーク108の表面から裏面までレーザ光109が到達すると、ワーク108の裏面からレーザ光109が漏れ出てしまう。つまり、ワーク108を通過してレーザ光109がワーク108の外部に照射されることとなる。このような漏れ光の割合が大きくなると、レーザ切断加工に使用されない無効電力の割合が大きくなり、加工コストが増加してしまう。また、通常、ワーク108を通過した漏れ光は、ワーク108の裏面側に設置された加工治具等で反射されても周囲の機器や作業者に照射されないように処置がなされている。しかし、この漏れ光の割合が大きくなると、ワーク108の裏面側に設置された加工治具等の部材を損傷させて、当該部材の交換頻度が高くなる。このことにより、切断加工のランニングコストが増加してしまう。また、部材の損傷の程度によっては、部材表面で不規則に漏れ光が反射され、周囲の機器や作業者に漏れ光が照射されるおそれがあり、特に人体に照射されると危険である。
【0060】
このような不具合を回避するために、レーザ切断加工時のレーザ出力は可能な範囲で低いことが好ましく、切断速度及びレーザ出力の有効範囲の下側境界の値を使用されるレーザ出力に設定することが好ましい。ただし、
図2に示すフローチャートを用いて説明したように、当該有効範囲は実測値を用いて画定されるため、実測値の間にレーザ出力を設定したい場合には補間を行う必要がある。この補間を簡便に行うために、式(1)に示す近似式を用いてレーザ出力を設定するようにしている。
【0061】
なお、
図8に示す例では、レーザ出力デューティーのみを変更しているが、切断速度及びレーザ出力の有効範囲をシフトさせるためには、加工条件群2のいずれかのパラメータ、つまり、レーザ発振周波数またはレーザ出力デューティーのいずれか一方、あるいは両方を変更するようにすればよい。
【0062】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ切断加工装置101は、レーザ発振器102から出力されたレーザ光109を伝送ファイバ107及びレーザ加工ロボット130の先端に取付けられたレーザ加工ヘッド103を介してワーク108に照射し、ワーク108を切断するように構成されている。
【0063】
また、レーザ切断加工装置101は、レーザ加工ロボット130及びレーザ発振器102の動作を制御する制御部120を備えており、制御部120は、コントローラ105と、これに接続された切断加工条件設定装置106とを有している。コントローラ105は、切断加工条件に関する加工条件テーブルを複数保存する記憶部110と、記憶部110に保存された加工条件テーブルと作業者からの所定の入力とに従って、所望の切断加工条件を設定、演算する演算・処理部111とを有している。また、切断加工条件設定装置106は、切断加工に関する所定の情報を入力する入力部112と、切断加工条件等を表示する表示部113とを有している。
【0064】
レーザ加工ロボット130には、所定の軌跡精度で移動可能である速度範囲が予め定められており、この速度範囲に基づいて、レーザ切断加工装置101におけるワーク108の切断速度の使用可能範囲が設定されている。
【0065】
コントローラ105の記憶部110に保存されている加工条件テーブルは、レーザ発振周波数と、レーザ出力及びレーザ出力デューティーと、切断速度の使用可能範囲と、ワーク108の切断面が所定の仕上がり条件を満たすように設定された切断速度及びレーザ出力で画定される有効範囲と、有効範囲の下側境界に関する近似式とを、ワーク108の材質及び板厚に応じて設定された値として少なくとも含んでいる。
【0066】
制御部120は、記憶部110に保存された複数の加工条件テーブルから、切断速度とレーザ出力とが所定の条件を満たすように加工条件テーブルを選択し、選択された加工条件テーブルに基づいてワーク108が切断加工されるようレーザ加工ロボット130及びレーザ発振器102の動作を制御する。
【0067】
本実施形態に係るレーザ切断加工装置101によれば、予め取得された加工条件テーブル群の中から、切断速度とレーザ出力とが所定の条件、つまり、切断速度及びレーザ出力の有効範囲と切断速度の使用可能範囲とが互いに重なり合う条件を満たすように加工条件テーブルを選択する。そのため、レーザの切断加工条件の設定を簡便に行うことができる。
【0068】
また、選択された加工条件テーブルに含まれる有効範囲と切断速度の使用可能範囲との重なりが所定の範囲未満である場合は、レーザ切断加工装置101は、レーザ発振周波数及びレーザ出力デューティーの少なくとも一方を変更して、切断速度及びレーザ出力の理想上の有効範囲と切断速度の使用可能範囲との重なりが所定の範囲以上になるように、加工条件テーブルを再選択する。すなわち、レーザ切断加工装置101は、レーザ発振周波数及びレーザ出力デューティーの少なくとも一方を変更して、加工条件テーブルを再選択する。そして、切断速度を使用可能範囲の最大値である切断最大速度に設定するとともに、レーザ出力を、切断速度及びレーザ出力の有効範囲の下側境界に関する近似式における切断最大速度での値に設定する。切断速度及びレーザ出力の理想上の有効範囲と切断速度の使用可能範囲との重なりが所定の範囲以上になるまでこれらの変更、再選択、設定を繰り返すことで、有効範囲と切断速度の使用可能範囲との重なりが所定の範囲以上になるように、加工条件テーブルを再選択できる。
【0069】
このようにすることで、所望の加工品質を保ちつつ、レーザ切断加工装置101の動作マージンを大きく取れ、安定したレーザ切断加工を行うことができる。
【0070】
また、本実施形態に係るレーザ切断加工方法は、制御部120によって動作が制御されるレーザ発振器102から出力されたレーザ光109を伝送ファイバ107及び制御部120によって動作が制御されるレーザ加工ロボット130の先端に取付けられたレーザ加工ヘッド103を介してワーク108に照射し、ワーク108を切断するレーザ切断加工方法であって、以下のステップを有している。すなわち、本実施形態に係るレーザ切断加工方法は、ワーク108の材質及び板厚を含むレーザ切断加工時の基本条件の入力を受け付ける基本条件入力ステップと、基本条件入力ステップで入力された基本条件と、制御部120内の記憶部110に保存され、レーザ切断加工に関する各種パラメータを有する加工条件テーブルを複数含んでなる加工条件テーブル群とを照合し、所望のレーザ切断加工に対応する加工条件テーブルを選択する加工条件テーブル選択ステップと、加工条件テーブル選択ステップで選択された加工条件テーブルに基づいてレーザ切断加工の加工条件を設定する加工条件設定ステップと、加工条件設定ステップで設定された加工条件において、ワーク108の切断速度が所定の条件を満たすかどうか、この場合は、ワーク108の切断速度がレーザ加工ロボット130に予め定められた速度範囲に基づいて設定された使用可能範囲かどうか、または、ワーク108の切断面が所定の仕上がり条件を満たすように設定された切断速度及びレーザ出力で画定される有効範囲と切断速度の使用可能範囲との重なりが所定の範囲以上であるかどうかを判断する切断速度判断ステップと、切断速度判断ステップでの判断結果に基づいてワーク108が切断加工されるようレーザ加工ロボット130及びレーザ発振器102の動作を制御する切断加工ステップと、を有している。
【0071】
本実施形態に係るレーザ切断加工方法によれば、ワーク108の材質や板厚等の基本条件が定められると、この基本条件と予め取得された加工条件テーブル群とを照合して、切断速度が所定の条件、つまり、切断速度及びレーザ出力の有効範囲と切断速度の使用可能範囲との重なりが所定の範囲以上であるかどうかを判断してから切断加工を行う。そのため、動作マージンの広い安定した加工条件を簡便に設定して、ワーク108のレーザ切断加工を行うことができる。
【0072】
また、本実施形態に係るレーザ切断加工方法は、レーザ発振周波数及びレーザ出力デューティーのいずれか一方を変更して加工条件テーブルを再選択する加工条件テーブル再選択ステップと、切断速度を使用可能範囲の最大値である切断最大速度に設定する切断速度設定ステップと、加工条件テーブル再選択ステップで再選択された加工条件テーブルに保存された切断速度に対するレーザ出力下限値の近似式を抽出し、近似式における切断最大速度でのレーザ出力を切断加工時のレーザ出力に設定するレーザ出力設定ステップと、をさらに有している。切断速度判断ステップでの判断が肯定的であれば、切断加工ステップにおいて、加工条件設定ステップで設定された加工条件に基づいてワーク108を切断加工させる。一方、切断速度判断ステップでの判断が否定的であれば、切断加工ステップにおいて、切断速度設定ステップ及びレーザ出力設定ステップでそれぞれ設定された使用可能最大速度としての切断速度及びレーザ出力に基づいてワーク108を切断加工させる。
【0073】
このようにすることで、所望の加工品質を保ちつつ、動作マージンの広い安定した加工条件を簡便に設定して、ワーク108のレーザ切断加工を行うことができる。
【0074】
(実施形態2)
図9は、本実施形態に係る切断方向に対するレーザ加工ヘッド103の傾斜状態の模式図である。
【0075】
切断軌跡の途中でワーク108の形状が変化する場合、ワーク108に対するレーザ加工ヘッド103の傾斜状態を変える場合がある。その場合、レーザ加工ロボット130の各関節軸を動作させることで、
図9に示すように、レーザ加工ヘッド103は複数の傾斜状態、例えば前進状態、後退状態、面直状態を取ることができる。ここで、前進状態とは、
図9の左上の図に示すように、レーザ加工ヘッド103の先端が、その後端よりもワーク108の切断方向に沿って前方に位置した状態をいう。すなわち、前進状態は、レーザ加工ヘッド103から出射されるレーザ光109の光軸がワーク108の表面に対して垂直方向から傾斜角+θだけ傾いた状態である。また、後退状態とは、
図9の右上の図に示すように、レーザ加工ヘッド103の先端が、その後端よりもワーク108の切断方向に沿って後方に位置した状態をいう。すなわち、後退状態は、レーザ加工ヘッド103から出射されるレーザ光109の光軸がワーク108の表面に対して垂直方向から傾斜角-θだけ傾いた状態をいう。また、面直状態とは、
図9の中央上側の図に示すように、レーザ加工ヘッド103から出射されるレーザ光109の光軸がワーク108の表面に対して垂直となる状態をいう。なお、レーザ加工ヘッド103の傾斜角θは、面直状態を基準として、前進状態では正方向、後退状態では負方向としている。
【0076】
また、
図9の下側の図に示すように、ワーク108の切断方向と交差する方向にもレーザ加工ヘッド103は傾斜しうる(側方傾斜)。なお、進行方向にアシストガスを流すことで効率良く溶融物を排出し、切断面へのドロスの付着量を抑制するために、レーザ加工ヘッド103の傾斜状態は前進状態であるのが好ましい。この点については後で述べる。
【0077】
一方、レーザ加工ヘッド103の傾斜状態において、レーザ加工ヘッド103が前進状態であってもその傾斜角θが大きすぎたり、あるいは、レーザ加工ヘッド103が後退状態であったりすると、ワーク108の切断面の仕上がり状態が悪化することがある。
【0078】
図10は、レーザ加工ヘッド103の傾斜角度に対するレーザ切断加工の加工品質指標の変化を示す模式図である。なお、
図10ではレーザ加工ヘッド103の側方傾斜は無い状態、つまり、
図9の下側の図に示す側方傾斜角θsが0°の場合を示している。
【0079】
図10に示すように、後退状態(傾斜角が-θ)から傾斜角θが0°の面直状態となるようにレーザ加工ヘッド103の傾斜角を変化させて行くと、ワーク108の切断面におけるドロス発生頻度は減少する。また、面直状態(傾斜角θが0°)から前進状態(傾斜角+θ)となるように、レーザ加工ヘッド103をさらに傾けていくと、所定の傾斜角度、この場合は20°でドロス発生頻度が最小となる。一方、さらに傾斜角θを正方向に増加させると、ドロス発生頻度は再び増加し始める。また、切断面形状は、後退状態(傾斜角が-θ)から面直状態(傾斜角θが0°)となるようにレーザ加工ヘッド103の傾斜角を変化させて行くと、ワーク108の切断面形状は良化し、面直状態傾斜角θが0°)から前進状態(傾斜角+θ)となるように、レーザ加工ヘッド103をさらに傾けていくと、この場合は0°~30°の範囲の所定の傾斜角で切断面形状は最も良好となる。一方、さらに傾斜角θを正方向に増加させると、切断面形状は再び悪化し始める。なお、ワーク108の材質や板厚に応じてドロス発生頻度が低く切断面形状が良好となる傾斜角θの範囲は変化するため、加工条件テーブルにおいて、ワーク108の材質や板厚とレーザ加工ヘッド103の傾斜角度とは関連付けられている。
【0080】
このように、レーザ加工ヘッド103の傾斜角θもレーザ切断加工における重要な加工条件の一つであり、
図6に示す基本条件の一つとして、レーザ加工ヘッド103の傾斜角θを加工条件テーブルの各種パラメータに関連付けておくことで、ワーク108のレーザ切断加工の条件設定をより簡便にすることができる。
【0081】
なお、
図10から明らかなように、レーザ加工ヘッド103は前進状態で、つまり、レーザ加工ヘッド103の先端が、その後端よりもワーク108の切断方向に沿って前方に位置した状態で切断加工するのが好ましい。かつレーザ加工ヘッド103の傾斜角θを0°以上、30°以下の範囲とすることが好ましい。特に、レーザ加工時の溶融金属がレーザ照射方向に排出されやすい薄板は、この前進状態のレーザ加工がより好ましい。
【0082】
また、レーザ加工ヘッド103の側方傾斜角θsは、0°であるのが好ましいが、レーザ加工ロボット130の動作ばらつきの許容範囲やレーザ加工ヘッド103の取付けばらつきの許容範囲、また、加工治具に対するワーク108の設置ばらつきの許容範囲を考慮して±数°以内としてもよい。
【0083】
(実施形態3)
図11は、本実施形態に係るレーザ切断加工手順のフローチャートである。また、
図12は、サブテーブルの作成手順の概念図であり、
図13は、ナビゲーションテーブルの作成手順の概念図であり、
図14は、ナビゲーションテーブルの選択手順の概念図である。
【0084】
実施形態1、2において、レーザ切断加工条件を主にレーザ加工ロボット130の速度範囲、つまり切断速度の使用可能範囲と、切断速度とレーザ出力とで画定される有効範囲とに基づいて設定する例を示している。また、主にワーク108の切断面形状に基づいて有効範囲を決定している。
【0085】
しかし、ワーク108のレーザ切断加工において、切断面形状よりも他の項目、例えば、加工タクト(加工時間)や加工時に使用される電力量等が重視される場合もある。このような場合に、レーザ切断加工を行う作業者が、所望の仕様に応じて加工条件を選択できる構成及び方法を本実施形態において説明する。
【0086】
まず、基本条件、つまり、加工対象となるワーク108の材質及び板厚やアシストガス種やワーク108の切断軌跡の教示(もしくはティーチング)データやレーザ加工ヘッド103の傾斜角等を入力する。すなわち、制御部120の切断加工条件設定装置106は、入力部112を介して、これらの基本条件の入力を受け付ける(ステップS111:基本条件入力ステップ)。なお、ステップS111には記していないが、基本条件には、集光レンズの種別も含まれる。また、同時に、入力されたこれらの基本条件はコントローラ105の記憶部110に保存される。この場合は一時保存であってもよい。
【0087】
制御部120のコントローラ105の演算・処理部111は、切断軌跡の隣り合う教示点間における基本条件と記憶部110に保存された加工条件テーブル群とを照合し、教示点間毎に切断速度とレーザ出力とを変化させた複数の加工条件テーブル(加工条件テーブル群)を選択する(ステップS112:加工条件テーブル選択ステップ)。なお、記憶部110に保存された加工条件テーブルにおいて、切断速度やレーザ出力は、
図7に示すフローチャートに準じて設定されるが、本実施形態においては、切断速度の使用可能範囲と切断速度及びレーザ出力の有効範囲との重なりが所定の範囲以上である必要は無い。また、式(1)で表わされる近似式における切断最大速度でのレーザ出力を用いる必要も無い。例えば、レーザ出力が当該有効範囲内であれば、当該近似式よりも大きなレーザ出力の値を用いるようにしてもよい。また、切断速度やレーザ出力を変化させる変化量やデータ個数は、適宜決められ、また、必要に応じて変更されうる。
【0088】
次に、演算・処理部111は、
図12に示すサブテーブルを作成する。具体的には、演算・処理部111は、ステップS112で選択された加工条件テーブル毎に、対応する教示点間での加工時間及び加工時の使用電力(以下、「加工時電力」という)を算出する。そして、演算・処理部111は、算出した値をそれぞれ対応する加工条件テーブルに関連付けてサブテーブルを作成する(ステップS113:サブテーブル作成ステップ)。なお、
図12に示すように、サブテーブルは、ステップS112で選択された加工条件テーブル群の各テーブルに対してそれぞれ作成され、この複数のサブテーブルは教示点間毎にサブテーブル群としてまとめられる。
【0089】
次に、演算・処理部111は、
図13に示すナビゲーションテーブルを作成する。具体的には、演算・処理部111は、ステップS112で作成された教示点間毎のサブテーブル群からそれぞれ1つのサブテーブルを選択する。そして、演算・処理部111は、選択されたサブテーブルの組み合わせに対して、切断軌跡全体での加工時間(以下、「加工時総時間」という)及び加工時電力(以下、「加工時総電力」という)を算出する。また、演算・処理部111は、選択されたサブテーブルの組み合わせを編集して1つのナビゲーションテーブルを作成する(ステップS114:ナビゲーションテーブル作成ステップ)。また、演算・処理部111は、教示点間毎のサブテーブル群から選択されるサブテーブルを変更することにより、サブテーブルの組み合わせを複数準備し、それぞれに対してナビゲーションテーブルを作成する。このようにして、ナビゲーションテーブル群が作成される。なお、教示点間毎のサブテーブル群からサブテーブルを選択するやり方は、適宜決められ、また、必要に応じて変更されうる。また、ナビゲーションテーブル群内のナビゲーションテーブルの個数は、後述するステップS116で作業者が選択可能な個数、例えば、3個~5個程度とするのが好ましい。なお、加工時総時間の異なる値の組を準備し、これらに対してナビゲーションテーブルを作成するようにしてもよいし、加工時総電力の異なる値の組を準備し、これらに対してナビゲーションテーブルを作成するようにしてもよい。加工時総時間と加工時総電力との異なる値の組を準備し、これらに対してナビゲーションテーブルを作成するようにしてもよい。
【0090】
図13では、切断加工開始点(教示点No.0)を含めて3点の教示点(教示点No.0、教示点No.1、教示点No.2)を有する切断軌跡を示している。同図では、教示点No.0からNo.1までの間はサブテーブルNo.11が、No.1からNo.2までの間はサブテーブルNo.21が選択され、ナビゲーションテーブルNo.11が作成された例を示している。ナビゲーションテーブルNo.11では、教示点No.0からNo.1までの間と、No.1からNo.2までの間とではワーク108の形状が異なっており、これに対応して、レーザ加工ヘッド103の傾斜角θが前者で0°、後者で+20°となるように設定されている。また、
図13に示すように、ナビゲーションテーブルを作成するのに使用された加工条件テーブルからワーク108の切断面形状の確認結果を抽出して、ナビゲーションテーブルに加えるようにしてもよい。
【0091】
演算・処理部111は、ステップS114で作成されたナビゲーションテーブル群のそれぞれに対して、ナビゲーションテーブル内のデータ、つまり、初期条件や加工条件群1~3や加工総時間や加工時総電力等を表示部113に表示する(ステップS115)。必要に応じて、ワーク108の切断面形状の確認結果も表示する。ただし、全てのデータを表示する必要は無く、表示されるデータの種類は適宜決められ、また、必要に応じて変更されうる。なお、表示部113への表示形式は任意であるが、例えば、
図3,4に示すように、切断速度とレーザ出力と切断面形状の確認結果とを同時にグラフ化して示すようにすると作業者にとって理解しやすい形式となる。
【0092】
ステップS115で表示された各ナビゲーションテーブルのデータを参照して、ワーク108の切断加工に関する仕様に適合するナビゲーションテーブルを作業者が選択し、実際に使用される加工条件が確定される。すなわち、切断加工条件設定装置106は、入力部112を介して、ナビゲーションテーブルの選択を受け付ける(ステップS116:ナビゲーションテーブル選択ステップ)。
【0093】
そして、演算・処理部111は、確定された加工条件に基づき、ワーク108が切断加工されるようレーザ加工ロボット130及びレーザ発振器102の動作を制御する(ステップS117:切断加工ステップ)。
【0094】
ステップS116について、
図14の具体例を用いてさらに説明する。
図14に示すように、まず、作業者が入力部112を介して所望の条件を入力する(「1.作業者希望条件」参照)。この例では、切断面形状と加工時総時間と加工時総電力とを入力している。切断面形状に求められる仕様は、切断軌跡全体にわたって良好(G:Good)か、良好とも不良(NG:No Good)とも言えない状態(F:Fair)とし、加工時総時間及び加工時総電力は希望の範囲をそれぞれ入力している。なお、切断面形状については、教示点間毎に要望する仕様を変えて入力するようにしてもよい。例えば、曲面上を蛇行するような複雑な軌跡においては、切断面形状は良好な場合のみとし、切断速度を優先した厚板を直線的に切断する部分があれば、対応する教示点間での切断面形状がFairであってもよいとする。
【0095】
入力された条件に応じて、コントローラ105の演算・処理部111が対応するナビゲーションテーブル候補を複数選択し、表示部113にその内容が表示される(「2.使用可能ナビゲーションテーブル候補表示」参照)。この例では3つの候補(No.11,13,17)が表示されている。これらの候補の中から作業者がナビゲーションテーブルを選択する(「3.ナビゲーションテーブルNo.選択」参照)。この例では、No.13のナビゲーションテーブルが選択されており、この選択によりレーザ切断加工の加工条件が確定し、確定された加工条件に従って切断加工が実行される。
【0096】
以上説明したように、本実施形態のレーザ切断方法は、実施形態1,2に示すレーザ切断方法に以下のステップが修正または付加される。まず、実施形態1に示す加工条件テーブル選択ステップ(
図7のステップS72)において、ワーク108の切断軌跡全体において、隣り合う2つの教示点間におけるレーザ切断加工の基本条件と加工条件テーブル群とを照合して、所望のレーザ切断加工に対応する加工条件テーブルの組み合わせを複数選択する(
図11のステップS112)。
【0097】
また、加工条件テーブルに、当該2つの教示点間を切断加工するときの加工時間と加工時電力とを関連付けてサブテーブルを作成するサブテーブル作成ステップ(
図11のステップS113)と、サブテーブルの組み合わせのそれぞれに、切断軌跡全体にわたって積算された加工時総時間及び加工時総電力を関連付けて複数のナビゲーションテーブルを作成するナビゲーションテーブル作成ステップ(
図11のステップS114)と、レーザ切断加工における所望の仕様に応じて、複数のナビゲーションテーブルから当該レーザ切断加工に使用するナビゲーションテーブルを選択するナビゲーションテーブル選択ステップ(
図11のステップS116)と、をさらに有している。また、本実施形態に示す切断加工ステップでは、ナビゲーションテーブル選択ステップで選択されたナビゲーションテーブルに含まれる加工条件に基づいてワーク108を切断加工する(
図11のステップS117)。
【0098】
本実施形態に係るレーザ切断加工方法によれば、実施形態1,2に示す方法と同様に、レーザの切断加工条件の設定を簡便に行うことができる。また、所望の加工品質を保ちつつ、レーザ切断加工装置101の動作マージンを大きく取れ、安定したレーザ切断加工を行うことができる。
【0099】
さらに、本実施形態に係るレーザ切断加工方法によれば、切断面形状以外の項目、例えば、加工時総時間や加工時総電力量を重視してワーク108のレーザ切断加工を行う必要がある場合に、これらに関する要求仕様を指定することで、記憶部110に保存された複数のナビゲーションテーブルの中から、作業者自身が簡便に所望のテーブルを選択し、加工条件を設定することができる。
【0100】
なお、使用するナビゲーションテーブルは、加工総時間、加工時総電力及びワーク108の切断面形状の確認結果の少なくとも1つに基づいて選択される。これらの複数の要求仕様を満たすようにナビゲーションテーブルが選択されてもよい。
【0101】
なお、本実施形態では、切断軌跡の隣り合う教示点間で基本条件を確認したり、加工条件テーブルを確認したり、サブテーブルを作成したりしたが、特にこれに限られず、所定の間隔をあけて位置する2つの教示点間を対象として、上記のステップを行うようにしてもよい。
【0102】
また、演算・処理部111または演算・処理部111とこれに接続された図示しない外部サーバーとの組み合わせが、学習機能を有する構成であれば、予め十分な学習経験を演算・処理部111等にさせることにより、ステップS112における加工条件テーブルの組み合わせの選択やステップS114における、サブテーブルの組み合わせの選択を短時間で、かつ精度良く行うことができる。
【0103】
また、ステップS116において、作業者が使用するナビゲーションテーブルを選択するようにしているが、演算・処理部111での演算処理によって、ナビゲーションテーブルを選択してもよい。この場合に演算・処理部111等が学習機能を有する構成であれば、使用するナビゲーションテーブルの選択を短時間で、かつ精度良く行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本開示に係るレーザ切断加工装置及びレーザ切断加工方法は、加工条件設定を簡便に行えるため、産業用有用である。
【符号の説明】
【0105】
101 レーザ切断加工装置
102 レーザ発振器
103 レーザ加工ヘッド
104 マニピュレータ
105 コントローラ
106 切断加工条件設定装置(ティーチングペンダント)
107 伝送ファイバ
108 ワーク
109 レーザ光
110 記憶部
111 演算・処理部
112 入力部
113 表示部
120 制御部
130 レーザ加工ロボット
θ 傾斜角
θs 側方傾斜角