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  • 特許-非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20231117BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20231117BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231117BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231117BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231117BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20231117BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/0587
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020521809
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2019017893
(87)【国際公開番号】W WO2019230298
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2018103824
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆正
(72)【発明者】
【氏名】鉾谷 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】森川 敬元
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-041742(JP,A)
【文献】特開2005-209496(JP,A)
【文献】特開2005-197080(JP,A)
【文献】特開2014-035885(JP,A)
【文献】特開2010-212228(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038041(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/010046(WO,A1)
【文献】特開2018-010764(JP,A)
【文献】特開2007-095569(JP,A)
【文献】特開2014-096201(JP,A)
【文献】特開2004-311331(JP,A)
【文献】特開2015-191879(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035289(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0340732(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/052
H01M 10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極がセパレータを介して巻回された巻回型の電極体を備える非水電解質二次電池であって、
前記負極は、負極集電体と、前記電極体の外側に向く前記負極集電体の第1面に形成された第1負極合材層と、前記電極体の内側に向く前記負極集電体の第2面に形成された第2負極合材層とを有し、
前記第1及び前記第2負極合材層は、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質を含み、
前記第2負極合材層における前記Si系活物質のSi基準の平均含有割合は、前記第1負極合材層における前記Si系活物質のSi基準の平均含有割合よりも低く、
前記第1負極合材層は、当該合材層の表面側に配置される第1層と、前記第1層よりも前記負極集電体側に配置され、前記Si系活物質のSi基準の含有割合が前記第1層よりも低い第2層とを含み、
前記第2負極合材層は、前記負極集電体側に配置される第3層と、前記第3層よりも当該合材層の表面側に配置され、前記Si系活物質のSi基準の含有割合が前記第3層よりも低い第4層とを含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記第3層における前記Si系活物質のSi基準の平均含有割合は、前記第2層における前記Si系活物質のSi基準の平均含有割合よりも低い、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記第1負極合材層における前記Si系活物質の含有割合は、5重量%~25重量%であり、
前記第2負極合材層における前記Si系活物質の含有割合は、15重量%未満である、請求項又はに記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極の曲率半径の最小値は、1mm~5mmである、請求項1~のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記第1負極合材層及び前記第2負極合材層は、炭素系負極活物質を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関し、より詳しくは巻回型の電極体を備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
Si及びSi含有材料は、黒鉛などの炭素材料と比べて単位体積当りに多くのリチウムイオンを吸蔵できることが知られている。このため、負極活物質にSi含有材料等を用いることで、電池の高容量化を図ることができる。例えば、特許文献1には、負極活物質に黒鉛及びSi含有材料を用いた非水電解質二次電池が開示されている。また、特許文献1には、負極合材層におけるSi含有材料に対する黒鉛の質量比(黒鉛の質量/Si含有材料の質量)が、負極集電体の表面から離れるに従って連続的又は断続的に大きくなった構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-178913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、Si及びSi含有材料は充放電に伴う体積変化が大きいため、負極活物質としてSi及びSi含有材料の少なくとも一方で構成されるSi系活物質を用いた非水電解質二次電池では、サイクル特性が低下し易いという課題がある。特に、巻回型の電極体を備える場合、巻き始め側端部などの負極の曲率半径が小さい部分においてSi系活物質の体積変化の影響が大きい。本開示の目的は、負極活物質としてSi系活物質を用いた巻回型の電極体を備える非水電解質二次電池において、サイクル特性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る非水電解質二次電池は、正極と負極がセパレータを介して巻回された巻回型の電極体を備える非水電解質二次電池であって、前記負極は、負極集電体と、前記電極体の外側に向く前記負極集電体の第1面に形成された第1負極合材層と、前記電極体の内側に向く前記負極集電体の第2面に形成された第2負極合材層とを有する。第1負極合材層は、Si及びSi含有材料の少なくとも一方で構成されるSi系活物質を含み、Si系活物質のSi基準の含有割合は、前記第1負極合材層の厚み方向において、当該合材層の表面側よりも前記負極集電体側で低い。或いは、前記第2負極合材層は、Si及びSi含有材料の少なくとも一方で構成されるSi系活物質を含み、前記Si系活物質のSi基準の含有割合は、前記第2負極合材層の厚み方向において、前記負極集電体側よりも当該合材層の表面側で低い。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、負極活物質にSi系活物質を用いた巻回型の電極体を備える非水電解質二次電池において、サイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図2図2は、実施形態の一例である負極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述の通り、負極活物質としてSi系活物質を用いた巻回型の電極体を備える非水電解質二次電池では、サイクル特性が低下し易いという課題がある。かかるサイクル特性の低下は、充放電時におけるSi系活物質の大きな体積変化に起因して発生する。具体的には、Si系活物質の大きな体積変化によって活物質粒子同士の接触の程度が弱くなる、又は接触状態が失われて、負極合材層中の導電パスから孤立する活物質粒子が増えることが主な要因であると考えられる。巻回型の電極体では、特に巻き始め側端部などの負極の曲率半径が小さい部分において、Si系活物質の体積変化の影響が大きい。
【0009】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、上記第1負極合材層及び第2負極合材層の少なくとも一方において、Si系活物質のSi基準の含有割合を改良することで、電池のサイクル特性が特異的に改善されることを見出した。本開示に係る非水電解質二次電池によれば、負極合材層にSi系活物質を効率良く添加して高容量化を図りつつ、サイクル特性の低下を抑制できる。
【0010】
以下、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体14が円筒形状の電池ケース15に収容された円筒形電池を例示するが、電池ケースは円筒形に限定されず、例えば角形であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された電池ケースであってもよい。電極体は巻回構造を有していればよく、扁平状に成形されていてもよいが、本開示に係る負極の構成は電極体が円筒状の巻回構造を有する場合に特に効果的である。
【0011】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質(図示せず)と、電極体14及び非水電解質を収容する電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回構造を有する。電池ケース15は、有底筒状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成される。また、非水電解質二次電池10は、外装缶16と封口体17との間に配置される樹脂製のガスケット28を備える。
【0012】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。
【0013】
電極体14は、長尺状の正極11と、長尺状の負極12と、長尺状の2枚のセパレータ13と、正極11に接合された正極タブ20と、負極12に接合された負極タブ21とで構成される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11より長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。
【0014】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極タブ20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極タブ21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極タブ20は封口体17の底板23の下面に溶接等で接続され、底板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極タブ21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0015】
外装缶16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。上述のように、外装缶16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池ケース15の内部空間が密閉される。外装缶16は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体17を支持する溝入れ部22を有する。溝入れ部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。また、外装缶16の上端部は、内側に折り曲げられ封口体17の周縁部に加締められている。
【0016】
封口体17は、電極体14側から順に、底板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0017】
[正極]
正極11は、正極集電体30と、正極集電体30の両面に形成された正極合材層31とを有する。正極集電体30には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層31は、正極活物質、導電材、及び結着材を含む。正極11は、例えば正極集電体30上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層31を正極集電体30の両面に形成することにより作製できる。
【0018】
正極活物質は、リチウム含有金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム含有金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。なお、リチウム含有金属複合酸化物の粒子表面には、酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機化合物粒子などが固着していてもよい。
【0019】
正極合材層31に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層31に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0020】
[負極]
図2は、負極12の断面を示す図である。図1及び図2に例示するように、負極12は、負極集電体40と、電極体14の外側に向く負極集電体40の第1面40aに形成された負極合材層41(第1負極合材層)と、電極体14の内側に向く負極集電体40の第2面40bに形成された負極合材層42(第2負極合材層)とを有する。正極11は正極集電体30の両面に合材の組成が均一な正極合材層31が形成された層構造を有するが、負極12では、負極合材層41,42の少なくとも一方において、Si及びSi含有材料の少なくとも一方で構成されるSi系活物質の含有割合が連続的又は段階的に変化している。詳しくは後述するが、負極合材層41,42の少なくとも一方では、合材層の表面側と負極集電体40側とでSi系活物質の含有割合が異なっている。
【0021】
負極集電体40には、銅、銅合金など、負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層41は、負極活物質及び結着材を含む。負極12は、例えば負極集電体40上に負極活物質及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層41を負極集電体40の第1面40aに、負極合材層42を負極集電体40の第2面40bに形成することにより作製できる。詳しくは後述するが、負極12の製造には、例えばSi系活物質の含有割合が異なる4種類の負極合材スラリーが使用される。
【0022】
図2に例示するように、巻回型の電極体14を構成する負極12は、長手方向の全長にわたって湾曲している。負極12は、平板の状態で製造され、電極体14の製造時に正極11及びセパレータ13と共に巻回されることで湾曲する。負極12は、一般的に1mm~10mm程度の曲率半径を有し、電極体14の巻き始め側と巻き終わり側では曲率半径が異なる。負極12の曲率半径は、巻き始め側端部<巻き終わり側端部となる。負極12の曲率半径の最小値は、例えば1mm~5mm、又は1mm~2mmである。
【0023】
負極12は、平板の状態で製造されるため、湾曲した状態では凸面側が伸長され、凹面側が圧縮される。つまり、電極体14の外側に向く負極集電体40の第1面40aに形成された負極合材層41は伸長され、電極体14の内側に向く負極集電体40の第2面40bに形成された負極合材層42は圧縮される。さらに、負極合材層41の厚み方向において、当該合材層の表面側は伸長され、負極集電体40側は圧縮される。他方、負極合材層42の厚み方向において、負極集電体40側は伸長され、当該合材層の表面側は圧縮される。本発明者らは、この点に着目して負極12の層構造を改良することで、電池のサイクル特性を向上させることに成功した。
【0024】
負極合材層41,42の一方はSi系活物質を含んでいなくてもよいが、高容量化等の観点から、Si系活物質は負極合材層41,42の両方に含まれることが好ましい。この場合、負極合材層42におけるSi系活物質のSi基準の平均含有割合は、負極合材層41におけるSi系活物質のSi基準の平均含有割合よりも低いことが好ましい。上述のように、負極合材層42は圧縮されるので、負極合材層41と比較してSi系活物質の大きな体積変化を許容する空間的余裕が少ない。このため、サイクル特性向上の観点から、負極合材層41におけるSi系活物質のSi基準の含有割合>負極合材層42におけるSi系活物質のSi基準の含有割合とすることが好ましい。Si系活物質のSi基準の含有割合は、各負極合材層41,42における負極活物質の質量に対するSi系活物質のSi基準の質量の割合として算出される。Si系活物質のSi基準の質量は、Si系活物質の質量にSi系活物質に対するSiの質量比率を乗じて算出される。各負極合材層41,42の表面側と集電体側のSi基準のSi系活物質の含有割合を比較する方法として、例えば、各負極合材層41,42を厚み方向に等間隔に分割し、それぞれのSi基準のSi系活物質の含有割合を算出して比較する方法が挙げられる。各負極合材層41,42が複層構造を有する場合は、それぞれの層のSi基準のSi系活物質の含有割合を算出することにより各負極合材層41,42の表面側と集電体側のSi基準のSi系活物質の含有割合を比較することができる。
【0025】
言い換えると、負極合材層41におけるSi系活物質のSi基準の含有割合を、負極合材層42におけるSi系活物質のSi基準の含有割合よりも高くする。上述のように、負極合材層41は伸長されるので、負極合材層41は負極合材層42と比較してSi系活物質の大きな体積変化を許容する空間的余裕があるため、Si系活物質の量を多くしてもサイクル特性の低下につながり難い。
【0026】
Si系活物質のSi基準の含有割合は、負極合材層41の厚み方向において、当該合材層の表面側よりも負極集電体40側で低くなっている。他方、負極合材層42の厚み方向において、Si系活物質のSi基準の含有割合は、負極集電体40側よりも当該合材層の表面側で低くなっている。例えば、負極合材層41を厚み方向中央で半分に分けたときに、負極集電体40から離れた当該合材層の表面側に位置する部分よりも、負極集電体40側に位置する部分でSi系活物質のSi基準の含有割合が低くなっている。また、負極合材層42を厚み方向中央で半分に分けたときに、負極集電体40側に位置する部分よりも、当該合材層の表面側に位置する部分でSi系活物質のSi基準の含有割合が低くなっている。
【0027】
本実施形態では、負極合材層41,42がそれぞれ複層構造を有する。負極合材層41は、当該合材層の表面側に配置される第1層41Aと、第1層41Aよりも負極集電体40側に配置され、Si系活物質のSi基準の含有割合が第1層41Aよりも低い第2層41Bとを含む。負極合材層42は、負極集電体40側に配置される第3層42Cと、第3層42Cよりも当該合材層の表面側に配置され、Si系活物質のSi基準の含有割合が第3層42Cよりも低い第4層42Dとを含む。
【0028】
Si系活物質のSi基準の含有割合は、負極12の外周側から内周側に向かって、即ち負極合材層41の第1層41Aから負極合材層42の第4層42D側に向かって低くなることが好ましい。つまり、Si系活物質のSi基準の含有割合は、第1層41Aで最大となり、第4層42Dで最小となる。一方、第2層41BにおけるSi系活物質のSi基準の含有割合と、第3層42CにおけるSi系活物質のSi基準の含有割合は同じであってもよく、第2層41B及び第3層42Cの層構成は同じであってもよい。Si系活物質の平均Si基準の含有割合が負極合材層41>負極合材層42を満たす範囲で、Si系活物質のSi基準の含有割合を第2層41B<第3層42Cとしてもよいが、第2層41BにおけるSi系活物質のSi基準の含有割合は、第3層42CにおけるSi系活物質のSi基準の含有割合よりも低いことが好ましい。
【0029】
つまり、負極合材層41,42を構成する各層において、Si系活物質のSi基準の含有割合は、第1層41A>第2層41B≧第3層42C>第4層42Dであることが好ましい。負極合材層41,42におけるSi系活物質のSi基準の含有割合をこのように制御することで、Si系活物質を効率良く添加して高容量化を図りつつ、サイクル特性の低下を抑制できる。なお、負極合材層41,42は、それぞれSi系活物質のSi基準の含有割合が異なる2つの層で構成されているが、3つ以上の層で構成されていてもよい。
【0030】
負極合材層41,42を構成する各層は、さらに炭素系活物質を含むことが好ましい。即ち、負極活物質として、Si系活物質と炭素系活物質が併用されることが好ましい。サイクル特性を考慮すると、負極合材層41,42におけるSi系活物質の含有量は、炭素系活物質の含有量よりも少量であることが好ましい。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。
【0031】
Si系活物質は、Si及びSi含有材料の少なくとも一方で構成されるが、好ましくは充放電時の体積変化がSiよりも小さなSi含有材料で構成される。Si含有材料としては、SiO(0.5≦x≦1.6)で表される材料が例示される。SiOは、例えばのSiOマトリックス中にSiの微粒子が分散した構造を有する。Si含有材料は、リチウムシリケート(Li2ySiO(2+y)(0<y<2))相中にSiの微粒子が分散した材料(LSi)であってもよい。負極合材層41,42には、SiO及びLSiが含まれていてもよい。
【0032】
Si含有材料の粒子表面には、Si含有材料よりも導電性の高い材料で構成される導電被膜が形成されていることが好ましい。導電被膜の構成材料としては、炭素材料、金属、及び金属化合物から選択される少なくとも1種が例示できる。中でも、非晶質炭素等の炭素材料が好ましい。炭素被膜は、例えばアセチレン、メタン等を用いたCVD法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂等をSi含有材料粒子と混合し、熱処理を行う方法などで形成できる。また、カーボンブラック等の導電フィラーを結着材を用いてSi含有材料の粒子表面に固着させることで導電被膜を形成してもよい。導電被膜は、例えばSi含有材料粒子の質量に対して0.5~10質量%で形成される。
【0033】
負極合材層41,42におけるSi系活物質のSi基準の平均含有割合は、上述の通り、負極合材層41>負極合材層42である。負極合材層41,42におけるSi系活物質のSi基準の含有割合差は、1.5%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、2.5%以上がさらに好ましい。また、第1層41Aと第2層41BのSi系活物質の含有割合の差、及び第3層42Cと第4層42DのSi系活物質の含有割合の差は、それぞれ1%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。この場合、サイクル特の改善効果がより顕著になる。Si系活物質のSi基準の含有割合は、ICP(Inductively Coupled Plasma:プラズマ発光分析)により測定できる。
【0034】
負極活物質として、Si系活物質と炭素系活物質が併用される場合、Si系活物質(Si含有材料)の質量基準の含有割合も、負極合材層41>負極合材層42であり、第1層41A>第2層41B≧第3層42C>第4層42Dであることが好ましい。負極合材層41におけるSi系活物質の平均含有割合は、5質量%~25質量%が好ましく、10質量%~15質量%がより好ましい。負極合材層42におけるSi系活物質の平均含有割合は、負極合材層41の当該含有割合より低い値であって、好ましくは15質量%未満、より好ましくは5質量%~10質量%である。なお、各層には、異なるSi系活物質を添加してもよい。
【0035】
負極合材層41において負極活物質に占めるSi系活物質の含有割合は、5質量%~25質量%が好ましく、10質量%~15質量%がより好ましい。負極合材層42において負極活物質に占めるSi系活物質の含有割合は、15質量%未満が好ましく、5質量%~10質量%がより好ましい。換言すると、負極合材層41において負極活物質に占める炭素系活物質の含有割合は75質量%~95質量%が好ましく、負極合材層42において負極活物質に占める炭素系活物質の含有割合は85質量%以上が好ましい。
【0036】
負極合材層41,42に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)又はその変性体を用いる。負極合材層41,42には、例えばSBR等に加えて、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコールなどが含まれていてもよい。負極合材層41,42を構成する各層における結着材の種類及び含有量は、互いに異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0037】
負極合材層41,42は、互いに異なる厚みを有していてもよいが、好ましくは略同じ厚みで形成される。負極合材層41,42の厚みは、例えば30μm~80μmであり、好ましくは40μm~60μmである。負極合材層41,42を構成する各層についても、互いに異なる厚みを有していてもよく、同じ厚みで形成されていてもよい。負極合材層41,42には、Si系活物質及び炭素系活物質以外の他の負極活物質がさらに添加されてもよい。他の負極活物質としては、Si以外のリチウムと合金化する金属、当該金属を含有する化合物、チタン酸リチウムなどが例示できる。
【0038】
本実施形態では、負極集電体40の一方の面に第1層41A及び第2層41Bを含む負極合材層41が、他方の面に第3層42C及び第4層42Dを含む負極合材層42が、それぞれ形成されるので、Si系活物質の含有割合が異なる4種類の負極合材スラリーが使用される。例えば、負極合材層41を形成する際には、第1層41A用の第1負極合材スラリーを負極集電体40上に塗布した後、その上に重ねて第2層41B用の第2負極合材スラリーを塗布する。この際、第1負極合材スラリーの塗膜は未乾燥状態であってもよく、乾燥状態であってもよい。
【0039】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
[正極の作製]
LiNi0.88Co0.09Al0.03で表されるリチウム含有金属複合酸化物と、カーボンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、100:0.8:0.7の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドンを適量加えた後、これを混練して正極合材スラリーを調製した。当該正極合材スラリーを厚みが15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、正極集電体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。
【0042】
[第1負極合材スラリー(第1層用スラリー)の調製]
黒鉛粉末と、炭素被膜を有するSiO(x=1)で表されるSi含有材料とを、86.5:13.5の質量比で混合して、負極活物質を調製した。負極活物質と、CMCのナトリウム塩と、ポリアクリル酸とを、100:1:1の質量比で混合した後、固形分が60質量%となるように純水を加えて30分間混錬した。その後、固形分が50質量%となるように純水を追加し、負極活物質に対して1質量%となるようにSBRのディスパージョンを添加して、第1負極合材スラリーを調製した。
【0043】
[第2負極合材スラリー(第2層用スラリー)の調製]
黒鉛粉末と、Si含有材料とを、88.5:11.5の質量比で混合したこと以外は、第1負極合材スラリーの場合と同様にして、第2負極合材スラリーを調製した。
【0044】
[第3負極合材スラリー(第3層用スラリー)の調製]
黒鉛粉末と、Si含有材料とを、90.5:9.5の質量比で混合したこと以外は、第1負極合材スラリーの場合と同様にして、第3負極合材スラリーを調製した。
【0045】
[第4負極合材スラリー(第4層用スラリー)の調製]
黒鉛粉末と、Si含有材料とを、92.5:7.5の質量比で混合したこと以外は、第1負極合材スラリーの場合と同様にして、第4負極合材スラリーを調製した。
【0046】
[負極の作製]
上記第2負極合材スラリーを厚みが8μmの銅箔からなる負極集電体の一方の面に塗布した後、その上に重ねて上記第1負極合材スラリーを塗布した。同様に、負極集電体の他方の面に、上記第3負極合材スラリーを塗布した後、その上に重ねて上記第4負極合材スラリーを塗布した。このとき、各スラリーの塗布量は同じとした。次に、塗膜を乾燥させ、ローラーを用いて圧延した後、所定の電極サイズに切断して、2層構造の第1負極合材層及び2層構造の第2負極合材層を有する負極を作製した。なお、集電体の一方の面が電極体の外側に向く第1面、他方の面が電極体の内側に向く第2面になるように、後述の巻回型電極体を作製する。表1では、負極合材層を構成する各層における負極活物質の総質量に対するSi含有材料の含有割合を示す。また、表1のカッコ内に各層におけるSi含有材料のSi基準の含有割合を示す。
【0047】
[電極体の作製]
上記正極及び上記負極を、ポリエチレン製微多孔膜からなる厚みが20μmのセパレータを介して曲率半径1.5mmの巻き芯に巻回し、最外周面にテープを貼着して、円筒状の巻回型電極体を作製した。なお、正極の集電体露出部にアルミニウム製の正極リードを、負極の集電体露出部にニッケル製の負極リードをそれぞれ溶接した。
【0048】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、20:60:20の体積比で混合した混合溶媒に、ビニレンカーボネートを2質量%の濃度で溶解させた。その後、LiPFを1.3モル/リットルの濃度になるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0049】
[電池の作製]
上記電極体を有底円筒形状の外装缶内に収容し、正極リードを封口体に、負極リードを外装缶の内底面にそれぞれ溶接した。上記非水電解質を外装缶に注液した後、封口体で外装缶の開口を封止して、非水電解質二次電池(高さ65mm、直径18mm、設計容量3500mAh)を作製した。
【0050】
[サイクル特性(容量維持率)の評価]
上記電池を、25℃の温度条件下、以下の条件で充放電して、容量維持率を求めた。表1に示す評価結果は、比較例1の電池の容量維持率を100としたときの相対値である。
<充放電条件>
充電:電流1050mAで電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行った。さらに、4.2Vの電圧で電流値が70mAとなるまで定電圧充電を行った。
放電:定電流1750mAで電圧が2.5Vとなるまで定電流放電を行った。
この充放電を100サイクル行い、下記式にて容量維持率を算出した。
容量維持率(%)100サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量×100
【0051】
<実施例2>
各層における負極活物質の総質量に対するSi含有材料の含有割合を表1に示す量に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、負極及び非水電解質二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0052】
<比較例1>
黒鉛と、Si含有材料とを、89.5:10.5の質量比で混合して調製した負極合材スラリーを用いて、第1及び第2負極合材層の各層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、負極及び非水電解質二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0053】
<比較例2>
各層における負極活物質の総質量に対するSi含有材料の含有割合を表1に示す量に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、負極及び非水電解質二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0054】
<比較例3>
各層における負極活物質の総質量に対するSi含有材料の含有割合を表1に示す量に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、負極及び非水電解質二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、Si系活物質のSi基準の含有割合を、第1層>第2層>第3層>第4層とした実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて容量維持率が高く、サイクル特性に優れる。第1層と第2層、第2層と第3層、及び第3層と第4層におけるSi系活物質の含有割合の差が1%である実施例2の電池においても、サイクル特性の向上が顕著に確認された。なお、比較例2のように負極集電体側に向かってSi系活物質の含有割合を高くした場合、及び比較例3のように負極集電体と反対側に向かってSi系活物質の含有割合を高くした場合は、容量維持率が大きく低下することが分かった。
【符号の説明】
【0057】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極タブ、21 負極タブ、22 溝入れ部、23 底板、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 正極集電体、31 正極合材層、40 負極集電体、40a 第1面、40b 第2面、41,42 負極合材層、41A 第1層、41B 第2層、42C 第3層、42D 第4層
図1
図2