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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20231117BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20231117BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20231117BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/85
H10K30/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021513155
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2019039469
(87)【国際公開番号】W WO2020208843
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019075738
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】松井 太佑
(72)【発明者】
【氏名】菊地 諒介
(72)【発明者】
【氏名】横山 智康
(72)【発明者】
【氏名】大場 史康
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 悠
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-217429(JP,A)
【文献】特表2018-515931(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109524547(CN,A)
【文献】Randi Azmi et al.,“High Efficiency Low-Temperature Processed Perovskite Solar Cells Integrated with Alkali Metal Doped ZnO Electron Transport Layers”,ACS Energy Letters,2018年,Vol.3,p.1241-1246
【文献】D. Akcan et al.,“Structural and optical properties of Na-doped ZnO films”,Journal of Molecular Structure,2018年,Vol.1161,p.299-305
【文献】Li Ying-wei et al.,“Electrical and optical properties of Na+-doped ZnO Thin Films Prepared by Sol-gel method”,Proc. of SPIE Vol.6984,2008年,p.69840U-1 - 69840U-4
【文献】Zhixiang Ye et al.,“Na-doped ZnO nanorods fabricated by chemical vapor deposition and their optoelectrical properties”,Journal of Alloys and Compounds,2017年,Vol.690,p.189-194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00
H10K 30/50-30/57
H10K 39/00-39/18
H01L 31/04-31/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極及び前記第2電極の間に位置する光電変換層と、
前記第1電極及び前記光電変換層の間に位置する半導体層と、
を具備し、
前記第1電極及び前記第2電極からなる群より選ばれる少なくとも1つの電極が透光性を有し、かつ
前記半導体層は、Na、Zn及びOを含有する化合物を含
前記化合物は、Na 2 Zn 2 3 である、
太陽電池。
【請求項2】
前記半導体層は、前記光電変換層に接している、
請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記半導体層は、電子輸送層である、
請求項1又は2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記太陽電池は、前記第2電極及び前記光電変換層の間に位置する正孔輸送層をさらに具備する、
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記光電変換層は、1価のカチオン、2価のカチオン、及びハロゲンアニオンにより構成されるペロブスカイト化合物を含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記2価のカチオンは、鉛カチオンである、
請求項に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト太陽電池が研究及び開発されている。ペロブスカイト太陽電池では、化学式ABX3で示されるペロブスカイト化合物が光吸収材料として用いられる。ここで、Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、及びXはハロゲンアニオンである。
【0003】
非特許文献1には、ペロブスカイト太陽電池の光吸収材料として、化学式CH3NH3PbI3で示されるペロブスカイト化合物が開示されている。また、非特許文献1には、電子輸送材料及び正孔輸送材料として、それぞれ、TiO2及びSpiro-OMeTADが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】"Sequential deposition as a route to high-performance perovskite-sensitized solar cells", Nature, vol.499, pp.316-319, 18 July 2013 [DOI:10.1038/nature12340]
【文献】"Research Direction toward Theoretical Efficiency in Perovskite Solar Cells", ACS Photonics, 2018, 5 (8), pp 2970-2977 [DOI:10.1021/acsphotonics.8b00124]
【文献】"Room‐Temperature Formation of Highly Crystalline Multication Perovskites for Efficient, Low‐Cost Solar Cells", Advanced Materials, Volume29, Issue15, April 18, 2017, 1606258 [DOI:10.1002/adma.201606258]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、太陽電池の変換効率を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示による太陽電池は、
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極及び前記第2電極の間に位置する光電変換層と、
前記第1電極及び前記光電変換層の間に位置する半導体層と、
を具備し、
前記第1電極及び前記第2電極からなる群より選ばれる少なくとも1つの電極が透光性を有し、
前記半導体層は、Na、Zn及びOを含有する化合物を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、高い変換効率を有する太陽電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の実施形態による太陽電池の断面図を示す。
図2図2は、実施例で作製した各半導体層のX線回折(以下、「XRD」と記載される)パターンにおける、Na2Zn23の(202)面に対応するピークの近傍を示す。
図3図3は、実施例で作製した各半導体層のXRDパターンにおける、Na2Zn23の(202)面に対応するピークの近傍を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<用語の定義>
本明細書において用いられる用語「ペロブスカイト化合物」とは、化学式ABX3(ここで、Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、及びXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト結晶構造体及びそれに類似する結晶を有する構造体を意味する。本明細書において用いられる用語「ペロブスカイト太陽電池」とは、ペロブスカイト化合物を光吸収材料として含む太陽電池を意味する。
【0010】
<本開示の基礎となった知見>
本開示の基礎となった知見は、次のとおりである。
【0011】
ペロブスカイト太陽電池においても、近年、変換効率が大きく向上している。太陽電池の変換効率は、電圧値と電流値との積により表される。ペロブスカイト太陽電池に関し、理論限界値に近い電流値が報告されている。しかし、報告される電圧値と理論限界値との間には依然として乖離が残る。電圧値の向上が、変換効率の向上において重要な因子である(非特許文献2を参照)。
【0012】
一般に、太陽電池において、電圧値の損失は界面損失に起因するとされる。電圧値を向上させるために、界面損失の低減が考えられる。本発明者らは、Na、Zn及びOを含有する化合物を含む半導体層を光電変換層と電極との間に配置することで、損失要因となりうる深い欠陥準位が界面に形成され難く、界面損失が抑制されることを見出した。なお、同質の材料から構成される界面(すなわち、ホモ界面)を有する従来の結晶型太陽電池、例えば、ガリウムヒ素系太陽電池及びシリコン系太陽電池、では、界面における欠陥の密度の低減により、比較的容易に界面損失を低減させることが可能である。一方、ペロブスカイト太陽電池は、異なる材料から構成される界面(すなわち、ヘテロ界面)を有している。このため、ペロブスカイト太陽電池では、界面における欠陥の密度の低減が困難である。しかし、上記知見に基づく本開示の技術によれば、ペロブスカイト太陽電池における電圧値及び変換効率の向上が達成可能となる。また、当該技術は、CIS系太陽電池及び有機系太陽電池にも適用しうる。なお、電圧値の向上は、開放電圧の向上として確認できる。
【0013】
<本開示の実施形態>
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0014】
図1は、本実施形態による太陽電池の断面図である。図1に示されるように、本実施形態による太陽電池100は、第1電極2、第2電極6、光電変換層4、及び半導体層3を備える。光電変換層4は、第1電極2及び第2電極6の間に位置する。半導体層3は、第1電極2及び光電変換層4の間に位置する。第1電極2は、半導体層3及び光吸収層4が第1電極2及び第2電極6の間に配置されるように、第2電極6と対向している。第1電極2及び第2電極6からなる群より選ばれる少なくとも1つの電極は、透光性を有する。本明細書において、「電極が透光性を有する」とは、200nm以上2000nm以下の波長を有する光のうち、いずれかの波長において、10%以上の光が電極を透過することを意味する。
【0015】
半導体層3は、Na、Zn及びOを含有する化合物Aを含む。化合物Aは、通常、半導体である。化合物Aは、結晶であってもよい。化合物Aは、Na2Zn23であってもよい。言い換えると、半導体層3は、Na2Zn23を含んでいてもよい。ただし、化合物Aの組成は、Na2Zn23に限定されない。半導体層3は、組成の異なる2種以上の化合物Aを含んでいてもよい。半導体層3がNa2Zn23の結晶を含むことは、XRDにより確認できる。
【0016】
化合物Aにおける、Znに対するNaの組成比(Na/Zn)は、0.769以上であってもよい。上記組成比は、原子数比である。組成比(Na/Zn)が0.769以上である場合に、Na2Zn23が形成されやすい。化合物Aにおける、Znに対するNaの組成比(Na/Zn)は、2.333以下であってもよい。組成比(Na/Zn)が2.333以下である場合に、Na2Zn23以外の組成を有する化合物Aの形成が抑制される。組成比(Na/Zn)は、0.769以上2.333以下であってもよい。
【0017】
半導体層3は、同一の組成を有する複数の層から形成されていても、互いに異なる組成を有する複数の層から形成されていてもよい。半導体層3が複数の層から形成される場合、光電変換層4側の層が化合物Aを含んでいてもよい。
【0018】
半導体層3は、電子輸送層であってもよい。
【0019】
半導体層3は、化合物A以外の物質を含んでいてもよい。当該物質は、通常、半導体である。半導体層3が含みうる当該物質は、例えば、3.0eV以上のバンドギャップを有する半導体S1である。半導体S1及び化合物Aを半導体層3が含む場合、半導体層3を介した光電変換層4への可視光及び赤外光の透過がより確実となる。半導体S1の例は、有機のn型半導体、及び無機のn型半導体である。
【0020】
有機のn型半導体の例は、イミド化合物、キノン化合物、フラーレン及びその誘導体である。無機のn型半導体の例は、金属元素の酸化物及びペロブスカイト酸化物である。金属元素の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga及びCrである。金属酸化物の具体例は、TiO2である。ペロブスカイト酸化物の例は、SrTiO3及びCaTiO3である。
【0021】
半導体層3は、6.0eVよりも大きなバンドギャップを有する物質を含んでいてもよい。6.0eVよりも大きなバンドギャップを有する物質の例は、(i)フッ化リチウムのようなアルカリ金属のハロゲン化物、(ii)フッ化カルシウムのようなアルカリ土類金属のハロゲン化物、(iii)酸化マグネシウムのような卑金属酸化物、及び(iv)二酸化ケイ素である。半導体層3が当該物質を含み、かつ電子輸送層である場合、電子輸送性を確保するために、半導体層3の厚さは、例えば、10nm以下である。
【0022】
半導体層3は、光電変換層4に接していてもよい。半導体層3は、第1電極2に接していてもよい。
【0023】
図1に示される太陽電池100では、基板1上に、第1電極2、半導体層3、光電変換層4、正孔輸送層5、及び第2電極6がこの順に積層されている。本開示の太陽電池では、基板1上に、第2電極6、正孔輸送層5、光電変換層4、半導体層3、及び第1電極2がこの順に積層されていてもよい。本開示の太陽電池は、基板1を備えていなくてもよい。本開示の太陽電池は、正孔輸送層5を備えていなくてもよい。
【0024】
太陽電池100の基本的な作用効果が説明される。太陽電池100に光が照射されると、光電変換層4が光を吸収し、励起された電子及び正孔を発生させる。励起された電子は、半導体層3に移動する。正孔は、正孔輸送層5に移動する。半導体層3及び正孔輸送層5は、それぞれ、第1電極2及び第2電極6に電気的に接続されている。負極及び正極としてそれぞれ機能する第1電極2及び第2電極6から、電流が取り出される。
【0025】
以下、太陽電池100の各構成要素が、具体的に説明される。
【0026】
(基板1)
基板1は、太陽電池100を構成する各層を保持する。基板1は、透明な材料から形成されうる。基材1の例は、ガラス基板及びプラスチック基板である。プラスチック基板は、プラスチックフィルムであってもよい。各層を保持できる十分な強度を第1電極2が有する場合、太陽電池100は基板1を備えていなくてもよい。
【0027】
(第1電極2及び第2電極6)
第1電極2及び第2電極6は、導電性を有する。第1電極2及び第2電極6からなる群より選ばれる少なくとも1つの電極は、透光性を有する。透光性を有する電極を、例えば、可視から近赤外に至る領域に属する光が透過する。透光性を有する電極は、例えば、透明であり、かつ導電性を有する金属酸化物から構成されうる。透明であり、かつ導電性を有する金属酸化物の例は、(i)インジウム-錫複合酸化物、(ii)アンチモンがドープされた酸化錫、(iii)フッ素がドープされた酸化錫、(iv)ホウ素、アルミニウム、ガリウム及びインジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素がドープされた酸化亜鉛、並びに(v)これらの複合物である。
【0028】
透光性を有する電極は、透明ではない材料から構成され、かつ光が透過しうるパターン形状を有する電極であってもよい。光が透過しうるパターン形状の例は、線状(ストライプ状)、波線状、格子状(メッシュ状)、及び多数の微細な貫通孔が規則的又は不規則に配列されたパンチングメタル状である。上記パターン形状を有する電極では、当該電極における電極材料が存在しない開口部分を光が透過できる。透明ではない材料の例は、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、及びこれらのいずれかを含む合金である。当該材料は、導電性を有する炭素材料であってもよい。
【0029】
太陽電池100は、第1電極2及び光電変換層4の間に半導体層3を備えている。このため、第1電極2は、光電変換層4から移動する正孔をブロックする特性を有していなくてもよい。第1電極2は、光電変換層4との間でオーミック接触を形成可能な材料から構成されうる。
【0030】
太陽電池100が正孔輸送層5を備えていない場合、第2電極6は、光電変換層4から移動する電子をブロックする特性(以下、「電子ブロック性」と記載される)を有する。この場合、第2電極6は、光電変換層4とオーミック接触しない。本明細書において、電子ブロック性とは、光電変換層4で発生した正孔のみを通過させ、かつ電子を通過させない特性を意味する。電子ブロック性を有する材料のフェルミエネルギー準位は、光電変換層4の伝導帯下端のエネルギー準位に比べて低い。電子ブロック性を有する材料のフェルミエネルギー準位は、光電変換層4のフェルミエネルギー準位に比べて低くてもよい。電子ブロック性を有する材料の例は、白金、金、及びグラフェンのような炭素材料である。なお、これらの材料は透光性を有さない。したがって、これらの材料を用いて透光性の電極を形成する場合は、例えば、上述のようなパターン形状を有する電極が採用される。
【0031】
太陽電池100が第2電極6及び光電変換層4の間に正孔輸送層5を備える場合、第2電極6は、電子ブロック性を有していなくてもよい。この場合、第2電極6は、光電変換層4との間でオーミック接触を形成可能な材料から構成されうる。
【0032】
第1電極2及び第2電極6の光の透過率は、50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。電極を透過する光の波長は、光電変換層4の吸収波長に依存する。第1電極2及び第2電極6のそれぞれの厚さは、例えば、1nm以上1000nm以下である。
【0033】
(光電変換層4)
光電変換層4は、1価のカチオン、2価のカチオン及びハロゲンアニオンにより構成されるペロブスカイト化合物を光吸収材料として含んでいてもよい。この場合、太陽電池100は、ペロブスカイト太陽電池である。上述のように、ペロブスカイト化合物は、化学式ABX3で示されるペロブスカイト結晶構造体及びそれに類似する結晶を有する構造体である。Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、及びXはハロゲンアニオンである。1価のカチオンAの例は、アルカリ金属カチオン及び有機カチオンである。カチオンAの具体例は、メチルアンモニウムカチオン(CH3NH3 +)、ホルムアミジニウムカチオン(NH2CHNH2 +)及びセシウムカチオン(Cs+)である。2価のカチオンBの例は、Pbカチオン(鉛カチオン)、Snカチオンである。2価のカチオンBは、Pbカチオンであってもよい。カチオンA、カチオンB及びアニオンXのそれぞれのサイトは、複数の種類のイオンによって占有されていてもよい。
【0034】
光電変換層4は、ペロブスカイト化合物を主として含んでいてもよい。光電変換層4は、ペロブスカイト化合物から実質的になってもよい。本明細書において、ある物質を「主として含む」とは、当該物質の含有率が50質量%以上であることを意味し、当該物質の含有率は60質量%以上、70質量%以上、さらには80質量%以上であってもよい。本明細書において、ある物質から「実質的になる」とは、当該物質の含有率が90質量%以上であることを意味し、当該物質の含有率は95質量%以上であってもよい。光電変換層4は、ペロブスカイト化合物以外の化合物をさらに含んでいてもよい。光電変換層4は、不純物を含みうる。
【0035】
光電変換層4は、上記例に限定されない。光電変換層4は、CIS系太陽電池が備える光電変換層を構成する化合物半導体を主として含んでいてもよいし、当該化合物半導体から実質的になってもよい。化合物半導体の典型的な例は、銅(Cu)、インジウム(In)及びセレン(Se)を主として含む。
【0036】
本開示の技術は、ヘテロ界面を有することにより変換効率の向上が難しいペロブスカイト太陽電池にとって特に有利である。
【0037】
光電変換層4の厚さは、例えば、100nm以上10μm以下である。光電変換層4の厚さは、100nm以上1000nm以下であってもよい。光電変換層4の厚さは、光電変換層4の光吸収の大きさに依存しうる。
【0038】
(正孔輸送層5)
図1に示される太陽電池100は、第2電極6及び光電変換層4の間に位置する正孔輸送層5をさらに備える。正孔輸送層5は、例えば、有機半導体又は無機半導体により構成される。正孔輸送層5は、互いに異なる材料から構成される複数の層を有していてもよい。
【0039】
有機半導体の例は、3級アミンを骨格内に含むフェニルアミン及びトリフェニルアミン誘導体、並びにチオフェン構造を含むPEDOT化合物である。有機半導体の分子量は限定されない。有機半導体は、高分子体であってもよい。有機半導体の代表的な例は、(i)spiro-OMeTAD:2,2',7,7'-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)-9,9'-spirobifluorene、(ii)PTAA:poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine]、(iii)P3HT:poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl)、(iv)PEDOT:poly(3,4-ethylenedioxythiophene)、及び(v)CuPC:Copper(II) phthalocyanine triple-sublimed gradeである。
【0040】
無機半導体の例は、Cu2O、CuGaO2、CuSCN、CuI、NiOx、MoOx、V25、及び酸化グラフェンのようなカーボン系材料である。
【0041】
正孔輸送層5の厚さは、1nm以上1000nm以下であってもよく、10nm以上500nm以下であってもよい。この範囲の厚さを有する正孔輸送層5は、高い正孔輸送性を有しうる。
【0042】
正孔輸送層5は、支持電解質及び溶媒を含んでいてもよい。支持電解質及び溶媒は、正孔輸送層5中の正孔を安定化させうる。
【0043】
支持電解質の例は、アンモニウム塩、及びアルカリ金属塩である。アンモニウム塩の例は、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、及びピリジニウム塩である。アルカリ金属塩の例は、LiN(SO2n2n+12、LiPF6、LiBF4、過塩素酸リチウム、及び四フッ化ホウ素カリウムである。
【0044】
正孔輸送層5に含まれうる溶媒は、高いイオン伝導性を有していてもよい。当該溶媒は、水系溶媒及び有機溶媒のいずれであってもよい。溶質の安定化の観点からは、当該溶媒は有機溶媒であってもよい。有機溶媒の例は、tert-ブチルピリジン、ピリジン、n-メチルピロリドンのような複素環化合物である。
【0045】
正孔輸送層5に含まれうる溶媒は、イオン液体であってもよい。イオン液体は、単独で、又は他の溶媒と混合されて用いられうる。イオン液体のメリットは、低い揮発性及び高い難燃性である。
【0046】
イオン液体の例は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートのようなイミダゾリウム化合物、ピリジン化合物、脂環式アミン化合物、脂肪族アミン化合物、及びアゾニウムアミン化合物である。
【0047】
(他の層)
太陽電池100は、上述した以外の他の層を備えうる。他の層の例は、多孔質層である。多孔質層は、例えば、半導体層3及び光電変換層4の間に位置する。多孔質層は、多孔質体を含む。多孔質体は、空孔を含む。半導体層3及び光電変換層4の間に位置する多孔質層に含まれる空孔は、半導体層3と接する部分から光電変換層4と接する部分に至るまで繋がっている。当該空孔は、典型的には、光電変換層4を構成する材料によって充填されており、電子は、直接、光電変換層4から半導体層3に移動しうる。
【0048】
上記多孔質層は、第1電極2及び半導体層3の上に光電変換層4を形成する際の土台となりうる。多孔質層は、光電変換層4の光吸収、及び光電変換層4から半導体層3への電子の移動を阻害しない。
【0049】
上記多孔質層を構成しうる多孔質体は、例えば、絶縁体又は半導体の粒子の連なりにより構成される。絶縁性粒子の例は、酸化アルミニウム粒子、酸化ケイ素粒子である。半導体粒子の例は、無機半導体粒子である。無機半導体の例は、金属元素の酸化物、金属元素のペロブスカイト酸化物、金属元素の硫化物、及び金属カルコゲナイドである。金属元素の酸化物の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si及びCrの各金属元素の酸化物である。金属元素の酸化物の具体例は、TiO2である。金属元素のペロブスカイト酸化物の例は、SrTiO3及びCaTiO3である。金属元素の硫化物の例は、CdS、ZnS、In23、PbS、Mo2S、WS2、Sb23、Bi23、ZnCdS2及びCu2Sである。金属カルコゲナイドの例は、CdSe、In2Se3、WSe2、HgS、PbSe及びCdTeである。
【0050】
上記多孔質層の厚みは、0.01μm以上10μm以下であってもよく、0.1μm以上1μm以下であってもよい。多孔質層は、大きな表面粗さを有していてもよい。具体的には、実効面積/投影面積の値の形で与えられる多孔質層の表面粗さ係数が10以上であってもよく、100以上であってもよい。なお、投影面積とは、物体を真正面から光で照らしたときに、当該物体の後ろにできる影の面積である。実効面積とは、物体の実際の表面積のことである。実効面積は、(i)物体の投影面積及び厚さから求められる体積、(ii)物体を構成する材料の比表面積、及び(iii)物体を構成する材料の嵩密度とから計算できる。
【0051】
太陽電池100は、例えば、以下の方法により作製される。
【0052】
まず、第1電極2が、基板1の表面に形成される。第1電極2の形成には、化学気相蒸着(以下、「CVD」と記載される)法、又はスパッタ法が採用可能である。
【0053】
次に、半導体層3が、第1電極2の上に形成される。半導体層3の形成には、スピンコート法のような塗布法が採用可能である。半導体層3は、Na、Zn及びOを含有する化合物を含む。塗布法により半導体層3を形成する場合、Na原料及びZn原料を所定の割合で溶媒に溶解させた溶液が、スピンコート法のような塗布手法によって、第1電極2の上に塗布される。形成された塗膜は、所定の温度にて空気中で焼成されうる。所定の温度は、例えば、300℃以上500℃以下である。Na原料の例は、酢酸ナトリウムである。Zn原料の例は、酢酸亜鉛である。溶媒の例は、エトキシメタノール、イソプロピルアルコール又はエチルアルコールである。塗布溶液に含まれるNa原料及びZn原料の量の調節により、上記化合物における組成比(Na/Zn)の制御が可能である。
【0054】
次に、光電変換層4が、半導体層3の上に形成される。ペロブスカイト化合物を光吸収材料として含む光電変換層4の形成には、スピンコート法のような塗布法が採用可能である。
【0055】
次に、正孔輸送層5が、光電変換層4の上に形成される。正孔輸送層5の形成には、塗布法、又は印刷法が採用可能である。塗布法の例は、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、及びスピンコート法である。印刷法の例は、スクリーン印刷法である。複数の材料を混合して膜を形成し、次いで、加圧又は焼成して正孔輸送層5が形成されてもよい。有機の低分子物質、又は無機半導体から構成される正孔輸送層5は、真空蒸着法によって形成されてもよい。
【0056】
次に、第2電極6が、正孔輸送層5の上に形成される。第2電極6の形成には、CVD法又はスパッタ方が採用可能である。
【0057】
このようにして、太陽電池100が得られる。ただし、太陽電池100の作製方法は、上記の方法に限定されない。
【0058】
(実施例)
以下、本開示の太陽電池が、実施例を参照しながらより詳細に説明される。ただし、本開示の太陽電池は、以下の例に示される各態様に限定されない。
【0059】
(例1)
図1に示される太陽電池100と同じ構成を有するペロブスカイト太陽電池が、非特許文献3を参考に作製された。例1の太陽電池を構成する各要素は、以下のとおりである。
基板1:ガラス基板
第1電極2:インジウムドープSnO2層(ジオマテック製、表面抵抗率10Ω/sq)
半導体層3:化合物Na2Zn23を含む層(厚さ10nm)
光電変換層4:ペロブスカイト化合物であるCH(NH2)PbI3を主として含む層。
正孔輸送層5:PTAA層(支持電解質及び溶媒として、それぞれLiN(SO2252及び4-tert-ブチルピリジン(t-BP)を含む)
第2電極6:金層(厚さ80nm)
【0060】
具体的な作製方法が、以下に示される。
【0061】
最初に、基板1及び第1電極2として、インジウムドープSnO2層が表面に形成された厚さ1mmの導電性ガラス基板(日本板硝子製)をマイナス40℃以下の露点を有する乾燥雰囲気下にあるドライルーム内に準備された。
【0062】
次に、第1電極2の上に、酢酸ナトリウム(Wako製)及び酢酸亜鉛(Aldrich製)の混合溶液がスピンコートにより塗布された。混合溶液は、酢酸ナトリウム及び酢酸亜鉛がモル比1:1で溶解したエトキシメタノール(Aldrich製)の溶液であった。混合溶液における酢酸ナトリウム及び酢酸亜鉛の濃度は、それぞれ0.55mol/Lであった。次に、ホットプレートを用いて混合溶液が塗布された第1電極2が熱処理されて、Na2Zn23を含む半導体層3を形成した。熱処理は、130℃/10分で行われ、次いで、350℃/10分の条件下で行われた。形成された半導体層3は、電子輸送層として機能した。
【0063】
次に、半導体層3の上に、第1の原料溶液がスピンコートにより塗布されて、光電変換層4を形成した。第1の原料溶液は、N,N-ジメチルホルムアミド(acros製)溶液で以下の化合物を含んでいた。
・0.92mol/LのPbI2(東京化成製)、
・0.17mol/LのPbBr2(東京化成製)、
・0.83mol/Lのヨウ化ホルムアミジニウム(FAI:Great Cell Solar製)、
・0.17mol/Lの臭化メチルアンモニウム(MABr:Great Cell Solar製)、
・0.05mol/LのCsI(岩谷産業製)を含む、ジメチルスルホキシド(acros製)
なお、第1の原料溶液におけるジメチルスルホキシド及びN,N-ジメチルホルムアミドの混合比は、体積比により表示して1:4であった。
【0064】
次に、光電変換層4の上に、第2の原料溶液がスピンコートにより塗布されて、正孔輸送層5を形成した。第2の原料溶液は、トルエン(acros製)溶液であって、以下の化合物を含んでいた。
・10mgのPTAA(Aldrich製)、
・5μLのtBP(Aldrich製)、
・4μLのLiN(SO2252(東京化成製)アセトニトリル溶液(濃度1.8mol/L)
【0065】
最後に、正孔輸送層5の上に、厚さ80nmの金層が蒸着により堆積されて、第2電極7を形成した。
【0066】
このようにして、例1の太陽電池が得られた。なお、以下、項目[半導体層3の評価]および項目[太陽電池特性の評価]に記載された評価もドライルームの中で行われた。
【0067】
(例2から例10)
半導体層3の形成に使用された混合溶液における酢酸ナトリウム及び酢酸亜鉛の混合比(モル比)が以下の表1に示されるように変更されたこと以外は、例1と同様にして、例2から例10の各太陽電池が作製された。
【0068】
[半導体層3の評価]
例1から例10の各太陽電池について、半導体層3に対するXRD分析が実施された。XRD分析は、第2電極7を剥離し、かつ溶剤を用いて正孔輸送層5を溶解除去して露出させた半導体層3に対して実施された。溶剤には、N,N-ジメチルホルムアミドが使用された。XRD分析には、X線回折測定装置(Rigaku製、Cuアノード、λ=0.15418nm)が使用された。XRD分析は、薄膜に対する2θ/θ法に基づいて実施された。
【0069】
XRD分析の結果が、半導体層3の形成に使用された混合溶液における酢酸ナトリウム及び酢酸亜鉛の混合比、並びに当該混合比から算出された組成比Na/Znとともに、以下の表1に示される。また、混合比が9:1から4:6までの範囲にある半導体層3、及び混合比が1:1.1から1:1.4までの範囲にある半導体層3のXRDプロットが、それぞれ図2及び図3に示される。なお、図2及び図3には、XRDプロットにおける、Na2Zn2Oの(202)面に対応するピーク(2θ/θ=34.8°)の近傍が示されている。
【0070】
表1、図2及び図3に示されるように、組成比Na/Znが0.714以下の場合には、Na2Zn23の(202)面に対応するピークは観察されなかった。一方、組成比Na/Znが0.769以上の場合には当該ピークが観察された。これは、組成比Na/Znが0.714以下の場合にはNa2Zn23が半導体層3に含まれないが、組成比Na/Znが0.769以上の場合にはNa2Zn23が半導体層3に含まれることを意味している。また、組成比Na/Znが4.000以上の場合には、Na2Zn23に由来する上記ピークに加えて、35°以上の回折角2θ/θに不純物相のピークが観察された。一方、組成比Na/Znが2.333以下の場合には、当該不純物相のピークは観察されず、凡そ純粋なNa2Zn23の上記ピークが観察された。これは、組成比Na/Znが2.333以下の場合には、不純物の少ないNa2Zn23層が形成可能であることを意味している。
【0071】
【表1】
【0072】
(例11)
第1電極2の上に塗布する溶液が、上記混合溶液から、酢酸亜鉛のみを溶解させたエトキシメタノール溶液(濃度0.55mol/L)に変更されたこと以外は、例1と同様にして、比較例である例11の太陽電池が得られた。この太陽電池は、ZnOから構成される電子輸送層を備えていた。
【0073】
(例12)
光電変換層4の形成の前に、ZnOから構成される電子輸送層が形成された基板1及び第1電極2がNaOH水溶液(濃度0.01mol/L)に60秒間浸漬されて電子輸送層の表面をNa処理したこと以外は、例11と同様にして、比較例である例12の太陽電池が得られた。この太陽電池は、ZnOから構成され、かつNa処理された表面を有する電子輸送層を備えていた。
【0074】
(例13)
第1電極2の上に塗布する溶液が、上記混合溶液から、炭酸ナトリウム(Wako製)及び酢酸亜鉛の混合溶液に変更された以外は、例1と同様にして、比較例である例13の太陽電池が得られた。例13で使用された混合溶液は、炭酸ナトリウム及び酢酸亜鉛がモル比1:1で溶解したエトキシメタノールの溶液であった。混合溶液における炭酸ナトリウム及び酢酸亜鉛の濃度は、それぞれ0.55mol/Lであった。この太陽電池は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)及びZnOの混合物から構成される電子輸送層を備えていた。
【0075】
(例14)
半導体層3が形成されることなく、TiO2から構成される電子輸送層がスパッタ法により形成されたこと以外は、例1と同様にして、比較例である例14の太陽電池が得られた。
【0076】
[太陽電池特性の評価]
作製された各太陽電池の開放電圧及び変換効率が、ソーラーシミュレータ(BAS製、ALS440B)により評価された。評価は、照度100mW/cm2の疑似太陽光を使用して実施された。
【0077】
例1及び例11から例14の太陽電池特性が、以下の表2に示される。
【0078】
【表2】
【0079】
表2に示されるように、Na、Zn及びOを含有する化合物を含む半導体層3を備える例1の太陽電池は、当該半導体層3を備えない例11から例14の太陽電池に比べて、高い開放電圧及び変換効率を示した。また、例1と例12,13との対比により、当該高い開放電圧及び変換効率を得るためには、Na、Zn及びOが化合物として存在する半導体層3が必要であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示の太陽電池は、従来の太陽電池の用途を含む種々の用途に使用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 基板
2 第1電極
3 半導体層
4 光電変換層
5 正孔輸送層
6 第2電極
100 太陽電池
図1
図2
図3