(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】水中短波帯加熱方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/005 20060101AFI20231117BHJP
【FI】
A23L3/005
(21)【出願番号】P 2019222656
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019074508
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】植村 邦彦
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-002165(JP,A)
【文献】特開2016-111928(JP,A)
【文献】米国特許第06023055(US,A)
【文献】特開平05-308933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
A61L
A47J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を満たした処理容器内に処理対象となる
食品を包んだ包材をセットし、この
包材の両端面に不可避的に入り込む気泡および水を除き電極を
前記包材に密着させ、この状態で電極間に短波帯域の交流を印加し
、前記食品の温度が最高値まで加熱された時点で処理容器内の水温よりも高くなるようにすることを特徴とする水中短波帯加熱方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水中短波帯加熱方法において、前記処理対象は複数の分離した食品
を包んだ包材であり、これら複数の
包材間に
導板を上下方向に密着配置して重ね合わせ、この重ね合わせた
包材の両端面に前記電極を密着させ、この状態で電極間に短波帯域の交流を印加することを特徴とする水中短波帯加熱方法。
【請求項3】
請求項1に記載の水中短波帯加熱方法において、前記水を満たした処理容器は圧力容器内に設置されることを特徴とする水中短波帯加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は短波帯域(例えば3MHz~300MHz)の周波数の交流を食品などに印加して食品を加熱処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
包装容器内に収納した食品を加熱殺菌する方法のうち、加圧蒸気や熱水などの包装容器の外部の熱源を使用する加熱では食品自体が発熱するわけではないので、食品の中心部における温度が上昇せず加熱殺菌が不十分になりやすい。
【0003】
そこで、本発明者は特許文献1には食品自体を発熱させる殺菌方法を提案している。この方法は水を満たす耐圧容器内に一対の筒状電極を同軸状に配置し、これら対をなす筒状電極間を食品収納空間とし、対向する筒状電極間に短波帯の交流を印加することで食品を加熱殺菌するようにしている。
【0004】
また、特許文献2には、対向する狭い電極間の間隙に液体食品材料を連続的に流すとともに、その電極間に20kHz以下の交流の高電圧を印加して、電極間に生成される交流電界により連続的に殺菌する交流高電界殺菌法が開示されている。
【0005】
上記特許文献2の方法では、電気伝導率の高い液体食品や固体食品の場合に、温度が必要以上に上昇してしまう。そこで特許文献3には、交流電界にパルス電界を重畳させた電界を食品に印加する提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-111928号公報
【文献】特許第2848591号公報
【文献】特開2007-229319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1は特許文献2や3に開示される方法の問題点、つまり食品の温度が必要以上に上昇してしまう問題点、3MHz以下の周波数を用いるとプラスチックフィルムで包まれたり、プラスチック容器に入っている食品(パウチ食品)を外部から殺菌することができない問題点を解消するものである。
【0008】
しかしながら、特許文献1にあっては、同軸状に配置された電極間に短波域の交流を印加する構成になっている。この構成の場合、水槽内に入れた食品(パウチ食品)のみならず、水槽内の水も同時に加熱することになる。容器内の水を加熱することはエネルギーが余分に必要になり且つ処理時間の短縮も図れない。
また、容器の内壁に沿って一対の平行平板電極を配置した構成としても上記と同様の問題が生じる。
【0009】
一方、容器(水槽)内の水の量を少なくすると、均一加熱を行うことができず、このため一定量以上の水を入れるとともに循環を行っているので、更にエネルギーが必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明に係る水中短波帯加熱方法は、水を満たした処理容器内に処理対象となる食品をセットし、この食品の両端面に電極を密着させ、この状態で電極間に短波帯域の交流を印加する構成である。ここで食品と電極との間に不可避的に水や微細気泡が入り込んだ状態も密着である。
【0011】
上記において、複数の食品を同時に加熱処理する場合には、複数の食品を重ね、且つ重ね合わせた食品の両端面に前記電極を密着させるとともに重ね合わせた食品間に導板(金属板)を密着配置させた状態で電極間に短波帯域の交流を印加する。
【0012】
前記電極および導板の形状は処理される食品の端面形状と同じ形状か端面を完全に覆うことができる形状であることが好ましい。食品の端面形状に比較して電極(導板)が極端に小さいと、電極で挟まれた食品の部分の温度が高くなり、均一加熱を行えない。
【発明の効果】
【0013】
食品と電極とを密着させたので、食品と電極との間に水が存在せず直接食品を加熱するため、従来にあっては食品と電極との間の水を加熱していたが、この加熱が不要となり消費電力が少なくなる。また、食品と電極とが直接接触しているので必要温度まで短時間で昇温させることができる。
【0014】
食品と電極が完全に密着しない隙間には、水が入り込むため、隙間が無い場合と同様、食品を均一に加熱することができる。
【0015】
更に、本発明によれば複数の食品を同時に処理する場合でも、各食品の加熱にバラツキが生じることなく、均一加熱処理を行える。
【0016】
また、処理容器の大きさまたは形状として、処理容器内に収納される食品と処理容器内面との隙間が小さくなるものを選定し、食品周囲の水のインピーダンスを食品のインピーダンスに比べて大きくすれば、当該隙間に存在する水に流れる交流電流が少なくなり、消費電力を削減できる。
【0017】
また、加圧下で加熱することで100℃以上の温度まで短時間で加熱することができる。例えば、レトルト加熱処理では、食品の中心部が121℃で4分以上の条件を保持することが要求される。加圧下で水中短波帯加熱により短時間でこの条件をクリアすることができる。
具体的には、従来のレトルト加熱は加熱時間が1時間程度かかっているため、その間に魚や肉の物性や風味が激しく劣化する。このため風味の劣化を大量の香辛料で補うレトルトカレーのような食品が市販されているが、香辛料を少なくした薄味の食品でレトルト加熱したものは市販されていない。また、ソーセージや蒲鉾などをレトルト加熱するとゲルが軟化してしまうため、低温加熱を行ったものはチルドで2~3週間の賞味期限となる。
しかしながら本発明によれば100℃以上の加熱時間を短くできるので、レトルト食品と同様に常温長期間保存可能な加工食品でかつ熱劣化の少ない高品質なものを製造することができ、例えば、スーパーのチルドコーナーで売られている賞味期限が2~3週間のソーセージや蒲鉾なども常温の棚で販売することができ、海外輸出も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は比較例を実施した加熱装置の縦断面図、(b)は同加熱装置の等価回路
【
図2】
図1の加熱装置を用いてRF加熱した場合の加熱時間と水及び食品の温度変化を示すグラフ
【
図3】
図1の加熱装置を用いて温水加熱した場合の加熱時間と水及び食品の温度変化を示すグラフ
【
図4】(a)は本発明に係る水中短波帯加熱方法を実施した加熱装置の縦断面図、(b)は同加熱装置の等価回路
【
図5】
図4の加熱装置を用いてRF加熱した場合の加熱時間と水及び食品の温度変化を示すグラフ
【
図7】
図6の加圧加熱装置を用いてRF加熱した場合の加熱時間と水及び食品の温度変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の比較例と好適な実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1(a)は比較例を実施した加熱装置の縦断面図、(b)は同加熱装置の等価回路を示す。ただし、27MHzの周波数の場合、プラスチック包材のインピーダンスは食品のインピーダンスに比べて小さくなるため、無視した。
加熱装置は処理容器(水槽)1内に短波帯高周波電源2につながる平行平板電極3,3を配置し、これら平行平板電極3,3間に食品4を吊り下げ可能とし、更に容器1内に満たした水を一定温度に保つため、容器1内の水をポンプ5及び熱交換器6を介して循環させている。また、食品4には内部温度を測定するため光ファイバー温度計7を挿入している。
【0020】
装置の寸法などは以下の通りである。
容器(水槽)の内寸:縦150cm×横50cm×高さ200cm
食品:ポテトサラダ500gを内寸法140cm×140cmのプラスチック包材に詰めたパウチ食品
電極:150cm×200cmの銅板
印加高周波:27MHz×2kW
水温:80℃
【0021】
上記の加熱装置を用いて、食品を加熱した結果を
図2に示す。また、上記の加熱装置を用い且つ高周波を印加せず、循環水の温度のみ(外部加熱)で食品を75℃まで加熱した結果を
図3に示す。
【0022】
図2と
図3を比較すると、温水を用いて食品を外部から加熱する場合には、食品の内部温度が75℃になるまで2000秒を要したが、高周波を印加した場合には、75℃に達するまでの時間を180秒まで短縮できた。この間に消費したエネルギーは732Wであった。
【0023】
一方、高周波を印加した場合には、容器(水槽)内の水温が80℃を超えて97℃まで昇温した。この水温上昇は高周波を印加した結果である。つまりこの比較例の場合は容器内の水温を高くするために無駄なエネルギーが消費されている。
【0024】
図4(a)は本発明方法を実施した加熱装置の縦断面図、(b)は同加熱装置の等価回路を示す。
図4に示す実施例にあっては、複数の食品4を同時に加熱処理する例を示している。
【0025】
加熱装置の寸法などは以下の通りである。
容器(水槽)の内寸:縦150cm×横150cm×高さ250cm
食品:ポテトサラダ250gを内寸法140cm×150cmのプラスチック包材に詰めたパウチ食品
電極:130cm×140cmの銅板
導板:130cm×130cmの銅板
印加高周波:27MHz×2kW
水温:80℃
【0026】
本発明方法にあっては、容器1の底面に板状の電極3を固定し、この電極3の上に食品4を1つ置き、この食品4の上に導板8を重ね、これを繰り返して複数(図示例では4個)の食品4を間に導板8を挟み込んだ状態で上下に重ね合わせ、重ね合わせた食品の上端面に電極3を載せる。
電極3及び導板8の形状は食品の重ねられる面と同じ形状若しくはこれに近い形状が好ましい。
【0027】
食品4と電極3または導板8を密着させるために、そこで、上端の電極3の上に重し(200g程度)を載せるか同等の力で押さえつけることが好ましい。
【0028】
上記の加熱装置を用いて、食品を加熱した結果を
図5に示す。尚、食品の温度は下から2番目と4番目の食品の温度を光ファイバー温度計で測定した。
図5から複数の食品は略同一の昇温過程をたどる結果を得た。これは、4個の食品を直列接続しているため、各食品に等しい電流が流れたためである。因みに4つの食品の温度差は3℃以内であった。並列接続にすると、温度が高い食品に多くの電流が流れるため、各食品の温度差は拡大することになる。
【0029】
実施例の場合、食品(ポテトサラダ:1000g)の中心温度が75℃になるまでに250秒を要した。ポテトサラダの比熱を1.0とすると1172Wのエネルギーが使用されたことになる。
【0030】
一方、比較例では500gのポテトサラダが75℃になるまで180秒かかったので、単純に計算すると、実施例の場合は1000gなので、360秒(180秒×2)かかる筈であるが、実際には4つのパウチ食品を重ねて同時処理しているので有効に電力が消費され、食品1個当たりの処理時間が短縮されている。
【0031】
また
図5から水の温度より食品の温度が高くなることが分かる。これは、容器の内側面と食品との隙間を小さくし、隙間に入る水の量を少なくなるようにしているため、水のインピーダンスがポテトサラダのインピーダンスに比べて大きくなり水を流れる電流が少なくなった結果、水の発熱が小さくなり、水の温度は80℃を超えなかったと考えられる。
【0032】
図示例にあっては、4つのパウチ食品を上下方向に重ねて同時に加熱する例を示したが、同時に処理する食品数は任意であり、本発明は1つの食品を加熱処理する場合にも適用できる。また、図示例では上下方向に食品を重ねた例を示したが、食品を立てて横方向に重ねると、食品の上下で温度差が生じる。このため食品を寝かせて上下方向に重ねて加熱処理することが好ましい。
【0033】
図6は別実施例に係る加圧加熱装置の縦断面図であり、この実施例では加圧下でRF加熱を行う構造となっている。
即ち処理容器1の外側に蓋付きの圧力容器11を配置し、圧力容器11の蓋には圧力計12を取り付けている。また処理容器1内には水が貯留され、この水を抜くためのドレーンパイプ13が処理容器1の底面に接続されている。
【0034】
また処理容器1の底面からは循環パイプ14が導出され、この循環パイプ14は圧力容器11の外側を通り蓋体を貫通して処理容器1の上方に先端が位置し、この先端にシャワーヘッド15が取り付けられている。
【0035】
循環パイプ13の途中には循環ポンプ5及び熱交換器6が設けられ、熱交換器6では外部から温度制御した蒸気を供給することで水温を高め、この温度が高くなった水をシャワーヘッド14から処理容器1内に供給するようにしている。処理容器1内の水温は光ファイバー温度計16によって測定する。
【0036】
処理容器1の底面から絶縁した位置に板状電極3(非接地電極)、水面近くに板状電極3(接地電極)を配置し、これら板状電極3、3間に食品を銅板7を介して4段重ねで配置している。ここで、前記板状電極3(接地電極と非接地電極)は整合器を介して短波帯高周波電源2に接続されている。
【0037】
以上の加圧加熱装置を用いた具体的な実施例を以下に記載する。
食品として、豚ひき肉、タピオカ粉、塩、胡椒を混練したものを羊腸に詰め、一本約50gのソーセージを製造した。このソーセージ4本(約200g)を真空パウチ包装して試料とした。
【0038】
4個のパウチ包装試料のそれぞれ間に銅板を挟んで積み重ねたものを、処理容器1内の下部の板状電極3(非接地電極)と上部の板状電極3(接地電極)で挟み、8kWの短波帯交流を印加した。
【0039】
8kWの短波帯交流を印加した結果を
図7に示す。
図7は加熱中の周囲の水温、食品(ソーセージ)中心部の温度履歴を示しており、560秒から1060までの500秒間、短波帯を印加した結果、ソーセージの中心温度は16℃から130℃まで昇温した。一方、パウチの周囲の水温は560秒から960秒まで短波帯のみで加熱され、960秒以降は120℃の蒸気による熱交換水も利用して加熱した。
【0040】
図7からも明らかなように、処理開始から約700秒経過した時点で、水の温度より食品の温度が高くなることが分かる。これは、前記と同様に容器の内側面と食品との隙間を小さくし、隙間に入る水の量を少なくなるようにしているため、水のインピーダンスが食品のインピーダンスに比べて大きくなり水を流れる電流が少なくなった結果、水の発熱が小さくなり、食品に多くの電流が流れて食品中心部の温度が水の温度を上回ったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る食品の加熱処理方法は、ポテトサラダ、ソーセージに限らず、味噌、豆腐などのプラスチックフィルムに包まれた食品、プラスチック容器にパックされた食品の加熱処理に適用することができる。レトルト加熱と同程度の加熱処理をより短時間で行えることから、レトルト加熱の時短およびレトルト食品の高品質化が期待できる。
【符号の説明】
【0042】
1…処理容器、2…短波帯高周波電源、3…電極、4…食品、5…ポンプ、6…熱交換器、7…導板(銅板)、11…圧力容器、12…圧力計、13…ドレーンパイプ、14…循環パイプ、15…シャワーヘッド、16…光ファイバー温度計。