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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】大腸炎治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20231117BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20231117BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
A61K33/00
A61K47/02
A61K9/51
A61P1/00
A61K9/10
A61K9/14
A61K47/32
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021003884
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022108771
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521020642
【氏名又は名称】一般社団法人生命科学文化推進機構
(73)【特許権者】
【識別番号】507129282
【氏名又は名称】株式会社ナノウェイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】早川 あけみ
(72)【発明者】
【氏名】神田 秀喜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 治彦
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 博
(72)【発明者】
【氏名】柘植 仁秀
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-244166(JP,A)
【文献】特開平11-267519(JP,A)
【文献】国際公開第01/091701(WO,A1)
【文献】特開2006-001775(JP,A)
【文献】Nanoscale,2020年12月09日,Vol.13,1842-1862
【文献】軽金属,2015年,第55巻,第12号,624-628
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00ー33/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水温36℃~39℃の範囲内において酸化チタンを撹拌し、リン酸ナトリウムと塩化カルシウムを添加しながら酸化チタンにアパタイトを結晶化させながら被覆させるアパタイト被覆酸化チタン製造工程、(B)前記アパタイト被覆酸化チタンを、アミノ系分散剤またはカルボキシル基含有分散剤を含む水溶液に添加し、分散装置を用いて分散させる分散工程を含み、前記分散剤がポリカルボン酸アンモニウムおよびポリアクリル酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一つであり、前記分散剤の添加量はアパタイト被覆酸化チタンの3質量%~12質量%であり、前記分散装置がビーズミル加工装置であることを特徴とする大腸炎治療用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸炎治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、光触媒の一つとして知られており、太陽光等の光が当たると窒素酸化物・硫黄酸化物・メタンガスなどの温室効果ガス、大気汚染物質、揮発性有機化合物、脂肪酸、臭気物質、ダイオキシンなどを無害化したり、水の分解による水素製造に用いられる。このような特性から、大気清浄化、温暖化防止、防汚、消臭、殺菌等の観点から注目されている。酸化チタンは、半導体材料から構成されており、伝導帯の下端と価電子帯の上端との電位差(バンドギャップ)以上のエネルギーを持つ光の照射によって、価電子帯から伝導帯に電子が励起され、伝導帯に電子を生じるとともに、価電子帯に正孔(ホール)を生じる。光照射によって生成された電子と正孔が光触媒活性を誘発することになる。酸化チタンは、外壁に塗布されてセルフクリーニングを行ったり、空気清浄装置に使用されて悪臭浄化等に利用されている(特許文献1)。
【0003】
一方、潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に潰瘍ができる炎症性疾患であり、下血や下痢を伴う腹痛が起きる。その原因の一つとして、免疫機構の異常等が考えられているものの、未だ原因は明らかとなっていない。近年の文明国では、潰瘍性大腸炎患者の数は年々増加しており、その対策が望まれている。例えば、特許文献2には、機能性ペプチドを用いた大腸炎用医薬品が、特許文献3には、抗生物質を用いた大腸炎治療用医薬品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-025941号公報
【文献】特開2020-083759号公報
【文献】特開2012-082225号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】<https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04560130149>、食品安全委員会(内閣府)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、大腸炎治療用組成物(特に酸化チタンを含有するもの)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための発明に係る大腸炎治療用組成物は、アパタイトと酸化チタンとを含有するアパタイト被覆酸化チタンを含むことを特徴とする。このとき、前記アパタイト被覆酸化チタンの粒子径の最頻値が50nm~80nmであり、粒子径100nm以下のものの割合が80%以上であることが好ましい。
【0008】
本発明の大腸炎治療用組成物は、例えば経口投与によって与えることができる。ラットを用いた試験から酸化チタンの最小無毒性量(NOAEL)として、2,250mg/kg体重/日が提示されている(非特許文献1)。これに基づき、ヒトの平均体重として60kgを採用すると、経口投与の1日あたりの最大投与量としては、酸化チタンとして135,000mgとなる。このように大量の酸化チタンを摂取する事態は想定し難いため、毒性の観点から経口投与時の投与量上限は問題にならないと考えられる。なお、特に限定されないが、1日あたりの経口投与量としては、酸化チタンとして、0.1mg~50000mg(好ましくは0.5mg~10000mg、更に好ましくは1mg~5000mg、さらに更に好ましくは5mg~5000mg)である。
【0009】
また、上記大腸炎治療用組成物の製造方法は、(A)水温36℃~39℃の範囲内において酸化チタンを撹拌し、リン酸ナトリウムと塩化カルシウムを添加しながら酸化チタンにアパタイトを結晶化させながら被覆させるアパタイト被覆酸化チタン製造工程、(B)前記アパタイト被覆酸化チタンを、アミノ系分散剤またはカルボキシル基含有分散剤を含む水溶液に添加し、分散装置を用いて分散させる分散工程を含むことを特徴とする。
アミン系分散剤としては、アルキルアミンまたはポリカルボン酸のアミン塩を用いることができる。そのようなものとして、例えば、ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、脂肪酸、脂肪酸アミド、ポリカルボン酸、アルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、またはこれらの誘導体等をアミン化したものが例示される。アミン塩としては、アミドアミン塩、脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アルカノールアミン塩、多価アミン塩等が挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリプロピルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。
【0010】
カルボキシル基含有高分子分散剤としては、ポリカルボン酸またはその塩を用いることができる。そのようなものとして、例えば、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリカルボン酸ナトリウムなどが例示される。具体的には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム共重合体、ポリマレイン酸、ポリマレイン酸アンモニウム、ポリマレイン酸ナトリウム等が挙げられる。
アミン系分散剤やカルボキシル基含有高分子分散剤は、水系溶剤に溶解させた溶液状態のもの、市販されているものを使用できる。
【0011】
アミン系分散剤またはカルボキシル基含有高分子分散剤の添加量は、分散剤の種類に応じて適宜調製することができるが、アパタイト被覆酸化チタンに対して、好ましくは0.2質量%~30質量%、更に好ましくは1質量%~20質量%。さらに更に好ましくは3質量%~12質量%である。なお、0.2質量%よりも少ない場合には、アパタイト被覆酸化チタンの分散性を向上させるのに充分な効果が得られない。
分散工程に際しては、分散性を向上させるために、アパタイト被覆酸化チタンの凝集をできるだけ規制するために分散装置を用いて湿式解砕処理を行う。分散装置としては、アパタイト被覆酸化チタンの凝集を緩和できるものであれば、せん断作用や摩砕作用を利用した解砕装置、攪拌式の解砕装置などの湿式解砕装置を使用できる。具体的には、ビーズミル、ジェットミル、ロールミル、ハンマーミル、振動ミル、流星型ボールミル、サンドミル、三本ロールミル等の解砕装置を使用できる。このうち、ビーズミル解砕機又はジェットミル解砕機を使用することが好ましい。
【0012】
なお、湿式解砕処理を行う前に、アパタイト被覆酸化チタンをボールミルにより分散処理することによって、凝集を抑制し、分散性をより高められる。
湿式解砕処理をビーズミルで行う場合、分散処理後に篩別け等により特定の粒径以上の粗粉を除去しておくこと(粗粉除去工程)が好ましい。
本発明のアパタイト被覆酸化チタン分散体中の二酸化チタンの濃度は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、特に好ましくは40質量%以下になるように調製できる。
分散工程における処理条件は、アパタイト被覆酸化チタンの凝集状態に応じて、任意に設定できる。具体的には、分散処理する際の温度は10℃~40℃であることが好ましく、20℃~30℃であることがより好ましい。また、処理時間は、1時間~20時間の範囲内で適当に設定できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、大腸炎(例えば、潰瘍性大腸炎)を治療する組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】水系アパタイト被覆二酸化チタン(水・酸化チタン)を製造から60分後の粒度分布を測定した結果を示すグラフと累積度数表である。(A)分散剤を入れないAP-TiO2、(B)サンプル1、(C)サンプル2の結果をそれぞれ示す。
図2】DSS(Dextran Sulfate Sodium-Salt:デキストラン硫酸ナトリウム)を投与して大腸炎を誘導したマウスの体重変化を示すグラフである。「Normal」は無処置コントロール群を、「4.5%DSS」は飲料水中に4.5%濃度のDSSを入れたDSS投与群を、「DSS+APTiO」は飲料水中に4.5%濃度のDSSを入れ、アパタイト被覆酸化チタンを投与したAP-TiO投与群をそれぞれ示す。各群間においてデータに有意差が認められた場合には、*:0.01<P<0.05、**:0.001<P<0.01、***:P<0.001で示した。
図3】各群のマウス腸管の長さを調べたときの代表的な写真図である。「Control」は無処置コントロール群を、「DSS」はDSS投与群を、「APTiO2」はアパタイト被覆酸化チタンを投与した群を、それぞれ示す。
図4】各群のマウス腸管の長さを比較したグラフである。各群間におけるマークは、*:0.01<P<0.05、**:P<0.01、†:P>0.05(有意差なし)を意味する。
図5】各群のマウス大腸の病理組織切片をHE染色したときの代表的な顕微鏡写真図である。(A)は無処置コントロール群を、(B)はDSS投与群を、(C)はアパタイト被覆酸化チタンを投与した群を、それぞれ示す。
図6】各群のマウス大腸のマクロファージの解析を行ったときの顕微鏡写真図を示した。左欄はHE染色写真図を、右欄はIHC-F4/80を用いて免疫組織化学染色したときの顕微鏡写真図をそれぞれ示す。
図7】腸内細菌叢の解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
<試験目的>
消化管は、腸内細菌との共生関係にある特殊な臓器であり、他の組織とは異なり常に抑制性の免疫が優位となっている。近年、腸管特異的抑制性免疫システムにおいて、腸管マクロファージが重要な役割を担うことが判明した。更に、潰瘍性大腸炎やクローン病の炎症性腸疾患では、その発症に免疫異常を伴う腸局所での過剰な免疫反応と病態が関与することがわかってきた。
マウス大腸炎に対し、アパタイト被覆酸化チタンは光触媒作用により殺菌効果を発揮し、腸内細菌叢に影響を与えると考えられる。
そこで本発明者は、DSS(Dextran Sulfate Sodium-Salt)誘導マウス大腸炎に対するアパタイト被覆酸化チタン(AP-TiO2)の効果を検討した。
【0016】
<試験方法>
1.アパタイト被覆酸化チタンの作製(アパタイト被覆酸化チタン製造工程)
アパタイト被覆酸化チタン(AP-TiO2)は、次の方法によって作製した。
水温36℃~39℃の範囲内において酸化チタンを撹拌し、リン酸ナトリウムと塩化カルシウムを添加しながら酸化チタンにアパタイトを結晶化させながら被覆させた。
2.水系アパタイト被覆二酸化チタン(水・酸化チタン)の作製(分散工程)
AP-TiO2をそのままの状態で投与することは難しいため、水に分散させた形態とすることが好ましい。AP-TiO2は、酸化チタンの比重として水1に対し1.1~1.2となる。このため酸化チタンを水中に分散しておくと、時間経過とともに溶液中において沈降し、凝集が認められた。粒度分布の測定は、日機装(株)のマイクロトラックシリーズによって行った。
粒子径が約25nmの酸化チタンを使用し、これにアパタイト被覆加工を施したところ、比重差による酸化チタンの沈降が認められた。この沈澱物の粒度を測定したところ、平均粒径が1.46μm、累積率90%の粒径は3.43μmであった(図1(A)を参照)。
光触媒における効果は、酸化チタンが光を触媒とし酸化還元反応により作用するものであるため、使用する際には高分散化されており、二次凝集を抑制し微粒子化を維持することがより良い効果を発揮する。このため、AP-TiO2と分散剤の適合性を確認するため、複数種類の分散剤を用いてビーズミル加工を行い、粒度分布測定を行った。加工条件として、使用する機器、ビーズの口径と量、回転数を同一条件とし、分散剤の添加量としては、重量比(固形分濃度)を同一条件とした。
【0017】
(サンプル1)ポリカルボン酸アンモニウムを含む分散剤(SNディスパーサント5020(サンノプコ株式会社))を用いてアパタイト被覆酸化チタンを製造した。
次いで、アパタイト被覆酸化チタンの分散処理(分散工程)を実施した。分散装置として、TSG-6U(ベッセル材質:ジルコニア、ディスク材質:ジルコニア、ディスク形状:ピン付き)を用いた。使用ビーズとしてΦ0.05mmのものを、冷却水流として1.0L/min(10℃設定)を用いた。この条件下で60分間の加工を行った。また、室温は25℃±3℃とした。
分散加工30分経過後に粒度を測定したところ約62nm、加工60分経過後に測定したところ、平均粒径が約55nm、累積率90%の粒径は91.7nmであった(図1(B)を参照)。また、加工後の溶液の回収量は約50%以上であった。
(サンプル2)ポリアクリル酸ナトリウムを含む分散剤(アロンT(東亞合成株式会社))を用いてアパタイト被覆酸化チタンを製造した。
分散工程の条件としては、上記(サンプル1)と同様の条件を用いた。
分散加工30分経過後に粒度を測定したところ約55nm、加工60分経過後に測定したところ、平均粒径が約53nm、累積率90%の粒径は85.3nmであった(図1(C)を参照)。また、加工後の溶液の回収量は約50%であった。(サンプル1)の分散剤量と、(サンプル2)の分散剤量とを比較すると、(サンプル2)の方が少量で分散できることが分かった。
こうして、分散剤を利用することにより、AP-TiO2の粒度分布を約26nm~70nmの範囲に制御できることが分かった。
【0018】
このように、ビーズミルによる微分散加工することによって、加工前の酸化チタンの粒径(アパタイト被覆未加工時における酸化チタンの粒径として約25nm程度)にアパタイト被覆率約10%を施した際の粒径に極めて近い加工が可能となった。二次凝集等を抑制するため、使用時おける酸化チタンの比表面積が大きくなるため、添加する酸化チタン量が少なくて済む。このため、使用目的に応じたデメリットの改善(添加量が多いと基材に対しての白濁化や基材への負担)微量の光源化においても高い効果が期待できることが考えられる。
高分散化されることにより、提供時における再撹拌する必要性もなくなり、使用する際の使用者への取り扱いも簡易なものとなるため汎用性が拡充も考えられた。
【0019】
2.マウスを用いた評価試験
C57BL/6マウス(雌性、6週齢)の飲料水中に4.5%濃度のDSS(Dextran Sulfate Sodium-Salt:デキストラン硫酸ナトリウム)を入れ、7日間飲ませて大腸炎を誘導した。
被験物質として、アパタイト被覆酸化チタン(AP-TiO2:株式会社ナノウェイヴ製)と、アパタイトのみを使用した。各被験物質は、1日あたり1回、0.5mlを経口チューブにて強制投与した。AP-TiO投与群には、酸化チタンとして5mg/日を与えた。マウスは継続的に蛍光灯下(>869ルクス)で飼育した。
16匹のマウスを無作為に無処置コントロール群(n=5)、DSS投与群(n=6)及びAP-TiO投与群(n=5)の3群に分けた。
試験中には、マウスの体重を経時的に測定し、便の性状変化、血便の有無を観察した。
試験開始から7日経過後にマウスより大腸を摘出し、大腸の長さを測定するとともに病理組織切片を作成し、HE染色を行い顕微鏡で観察した。また、マクロファージを検証するために、病理組織切片に免疫組織化学染色を行った後、顕微鏡で観察した。免疫組織化学染色には、マウス・マクロファージの細胞表面に特異的に発現されるF4/80を特異的に認識するF4/80抗体を用いた。
また、大腸内の便を採取し、細菌叢の解析をDNAシークエンシングにより行った。
【0020】
<試験結果>
1.マウスの体重変化
図2には、試験開始2日目から8日目の間の各群のマウスの体重変化を示した。DSS投与群及びAP-TiO投与群では、DSS投与により、投与開始後5日目あたりから顕著な体重減少が進行した。これは、DSSによって予定通り腸炎が誘導されていることの良い指標となった。この体重減少は、マウスにアパタイト被覆酸化チタンを投与したAP-TiO投与群では有意に抑制された。
【0021】
2.大腸の肉眼的所見
DSS投与開始後7日目又は8日目にマウスより腸管を摘出し、大腸の長さを測定した。図3には各群のマウス腸管の長さを調べたときの代表的な写真図を、図4には各群のマウス腸管の長さを比較したグラフを、それぞれ示した。一般的に大腸が炎症を起こすと腸管の収縮が起こり、大腸全体の長さは短くなる。今回の試験においても、無処置コントロール群に比べると、DSS投与群には著しい大腸の縮小化が認められた。
これに対し、AP-TiO投与群では、血便を殆ど認めず、大腸炎の進行が抑えられていることが認められた。併せて、AP-TiO投与群では、大腸の長さの短縮も抑えられた。
【0022】
3.大腸の病理学的所見
図5には、マウス大腸の病理組織切片をHE染色したときの代表的な顕微鏡写真図を示した。無処置コントロール群(Control)の大腸組織に比べると、DSS投与群(4.5%DSS)では、大腸の正常組織像が大きな影響を受け、粘膜層及び粘膜下層が著しく肥厚していた。これに対し、AP-TiO投与群(DSS+APTiO)では、粘膜層と粘膜下層が薄くなり正常厚に回復し、DSS投与群の組織像から無処置コントロール群に近づいていた。
図6には、マクロファージの解析を行ったときの顕微鏡写真図を示した。コントロール群(Control)には、IHC-F4/80(Immunohistochemistry-F4/80)を用いた免疫組織化学染色法を用いたときにマクロファージは確認されなかった。一方、DSS投与群(4.5%DSS)では、マクロファージが検出された。これに対し、AP-TiO投与群(DSS+APTiO2)では、マクロファージは検出されなかった。なお、(酸化チタンを含まない)アパタイト投与群(DSS+AP only)では、マクロファージが検出された(但し、その検出数はDSS投与群よりも少なかった)。
【0023】
4.腸内細菌叢の解析
大腸内の便について、細菌叢の解析を行った結果を図7に示した。Lactobacllales目、Prevotella、Clostridium Cluster XVIIIはDSS処理によって減少し、AP-TiO2投与を加えても回復しなかった。Bacteroidesは、DSS処理によって変化せずAP-TiO2投与によって増加した。Clostridium Subcluster XIVaは、DSS処理によって増加し、AP-TiO2投与によって減少回復した。このように、腸内細菌叢は、DSS投与によって大腸炎を起こし、無処置コントロール群に比べて変化を起こした。この変化はAP-TiO2投与によって、一部の細菌群がコントロールに近づくことが分かった。
このように本実施形態によれば、酸化チタンを含有する大腸炎治療用組成物を提供することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7