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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】人体を模したモジュール
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20231117BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
G09B23/28
G01L5/00 101Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019217110
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2020112783
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019002794
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT) 「Pain-Sensingダミーの開発 ~ 人- ロボット共存社会の実現をめざして~ 」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】プングラサミー・タンヤポン
(72)【発明者】
【氏名】島岡 優策
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 竜司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 球夫
【審査官】宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-227980(JP,A)
【文献】特公昭60-024946(JP,B2)
【文献】特開2014-119548(JP,A)
【文献】特開2010-049194(JP,A)
【文献】中曽根 祐司、外2名,“人間顔の喜怒哀楽表情のモデル化”,「計算工学 1999 Vol.4 No.3」,日本,日本計算工学会,1999年09月30日,第4巻,第3号,pp.10-14,[ISSN]1341-7622
【文献】三輪 洋靖、外4名,“多彩な感情表出が可能な人間形頭部ロボットWE-3RVの開発”,「第19回日本ロボット学会学術講演会講演論文集CD-ROM 2001年」,日本,社団法人日本ロボット学会,2001年09月18日,pp.271-272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-29/14
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨を模した骨部材と、
前記骨部材の上に積層されて、筋肉及び脂肪を含む皮下層を模した皮下層部材と、
前記皮下層部材の上に積層されて、ヤング率が前記皮下層部材よりも大きくなるように構成される、皮膚を模した皮膚部材と
を備え
前記皮膚部材に荷重をかけたときにおいて、前記皮膚部材及び前記皮下層部材に負荷される荷重と、前記皮膚部材及び前記皮下層部材の変位との関係を示す荷重-変位量特性は、初期段階における第1の傾きと、初期段階以降における、前記第1の傾きよりも急な第2の傾きと、を有する、人体を模したモジュール。
【請求項2】
前記荷重-変位量特性は、前記第1の傾きを含み、傾きの変化量が0よりも大きくなる第1の領域と、前記第2の傾きを含み、前記第1の領域よりも傾きの変化量が小さくなる第2の領域と、を有する、請求項に記載の人体を模したモジュール。
【請求項3】
前記皮下層部材と前記骨部材との間に配置されて、前記皮膚部材に荷重をかけたときの圧力情報を検出する第1のセンサ部材を備える、請求項1または2に記載の人体を模したモジュール。
【請求項4】
前記皮膚部材と前記皮下層部材との間に配置されて、前記皮膚部材に荷重をかけたときの圧力情報を検出する第2のセンサ部材をさらに備える、請求項に記載の人体を模したモジュール。
【請求項5】
前記第2のセンサ部材は、前記皮膚部材の下面に面する第1の主面、及び前記皮下層部材の上面に面する第2の主面を有するフレキシブルな面状部材である、請求項4に記載の人体を模したモジュール。
【請求項6】
前記骨部材は、湾曲した凸面を含む湾曲部を有し、
前記凸面は、前記皮下層部材に向いている、請求項1から5のいずれか一項に記載の人体を模したモジュール。
【請求項7】
前記骨部材は、複数種類設けられて前記皮下層部材の下に交換可能に配置され、
複数種類の前記骨部材は、前記湾曲部の曲率が互いに異なるように構成される、請求項6に記載の人体を模したモジュール。
【請求項8】
請求項3から5のいずれか一項に記載の人体を模したモジュールと、
前記第1のセンサ部材で検出される圧力情報に基づいて、人体の痛み情報を出力する制御部と、を備える、人体の痛みを評価する評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体を模したモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のモジュールとして、例えば、特許文献1に記載されているものが知られている。特許文献1には、骨部と、骨部の外周を取り囲む内皮部と、内皮部の外周を取り囲む外皮部とから構成される安全性評価用ダミーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-49194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のモジュールによれば、人体にかかる力をより簡易に評価するという観点において未だ改善の余地がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、人体にかかる力をより簡易に評価することができる、人体を模したモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様の人体を模したモジュールは、骨を模した骨部材と、骨部材の上に積層されて、筋肉及び脂肪を含む皮下層を模した皮下層部材と、皮下層部材の上に積層されて、ヤング率が皮下層部材よりも大きくなるように構成される、皮膚を模した皮膚部材と、皮下層部材と骨部材との間に配置されて、皮膚部材に荷重をかけたときの圧力情報を検出する第1のセンサ部材と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る人体を模したモジュールによれば、人体にかかる力をより簡易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る実施形態1の人体を模したモジュールの概略断面図
図2】モジュールに圧子で荷重をかける前の状態を示す概略断面図
図3】モジュールに圧子で荷重をかけた状態を示す概略断面図
図4】モジュールに圧子で荷重をかけたときの、第1のアレイセンサ及び第2のアレイセンサのピーク圧力値を示す図
図5】モジュールに圧子で荷重をかけたときの、第1のアレイセンサ及び第2のアレイセンサのピーク圧力値を示す図
図6A】モジュールに圧子で荷重をかけたときの、第1のアレイセンサの圧力分布を示す図
図6B】モジュールに圧子で荷重をかけたときの、第2のアレイセンサの圧力分布を示す図
図7A】モジュールに圧子で荷重をかけたときの、第1のアレイセンサの圧力分布を示す図
図7B】モジュールに圧子で荷重をかけたときの、第2のアレイセンサの圧力分布を示す図
図8】人体及びモジュールに圧子で荷重をかけたときの荷重-変位量の特性を示す図
図9】本発明に係る実施形態2の人体を模したモジュールの概略断面図
図10】本発明に係る実施形態2の人体を模したモジュールの荷重-変位量特性を示す図
図11】人体の腕橈骨筋が位置する腕部分の荷重-変位量特性を示す図
図12】本発明に係る実施形態2の人体を模したモジュール及び人体の荷重-変位量特性を示す図
図13A】本発明に係る実施形態2の人体を模したモジュール、及びモジュールの一部の部材を変更したものに圧子で荷重をかけたときの荷重-変位量特性を示す図
図13B】本発明に係る実施形態2の人体を模したモジュール、及びモジュールの一部の部材を変更したものに圧子で荷重をかけたときの荷重-変位量特性を示す図
図14A】本発明に係る実施形態2の人体を模したモジュール、及びモジュールの一部の部材を変更したものに圧子で荷重をかけたときの荷重-変位量特性を示す図
図14B】本発明に係る実施形態2の人体を模したモジュール、及びモジュールの一部の部材を変更したものに圧子で荷重をかけたときの荷重-変位量特性を示す図
図15】本発明に係る実施形態3の人体を模したモジュールの概略側面図
図16A】本発明に係る実施形態3の骨部材が板状部材上に配置されていない状態を示す側面図
図16B】本発明に係る実施形態3の骨部材が曲率半径45mmの場合の骨部材及び板状部材の側面図
図16C】本発明に係る実施形態3の骨部材が曲率半径22mmの場合の骨部材及び板状部材の側面図
図16D】本発明に係る実施形態3の骨部材が曲率半径6mmの場合の骨部材及び板状部材の側面図
図17A】本発明に係る実施形態3の湾曲部の曲率が異なるモジュールと、圧子でモジュールを押したときにセンサ部材が検出する最大圧力との関係を示す図
図17B】本発明に係る実施形態3の湾曲部の曲率が異なるモジュールと、圧子でモジュールを押したときにセンサ部材が検出する最大圧力との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る第1態様によれば、骨を模した骨部材と、骨部材の上に積層されて、筋肉及び脂肪を含む皮下層を模した皮下層部材と、皮下層部材の上に積層されて、ヤング率が皮下層部材よりも大きくなるように構成される、皮膚を模した皮膚部材と、皮下層部材と骨部材との間に配置されて、皮膚部材に荷重をかけたときの圧力情報を検出する第1のセンサ部材とを備える、人体を模したモジュールを提供する。
【0010】
本発明に係る第2態様によれば、皮下層部材の上に皮膚部材を積層した状態で皮膚部材に荷重をかけたときにおいて、皮膚部材及び皮下層部材に負荷される荷重と、皮膚部材及び皮下層部材の変位との関係を示す荷重-変位量特性は、初期段階における第1の傾きと、初期段階以降における、第1の傾きよりも急な第2の傾きと、を有する、第1態様に記載の人体を模したモジュールを提供する。
【0011】
本発明に係る第3態様によれば、荷重-変位量特性は、第1の傾きを含み、傾きの変化量が0よりも大きくなる第1の領域と、第2の傾きを含み、第1の領域よりも傾きの変化量が小さくなる第2の領域と、を有する、第2態様に記載の人体を模したモジュールを提供する。
【0012】
本発明に係る第4態様によれば、皮膚部材と皮下層部材との間に配置されて、皮膚部材に荷重をかけたときの圧力情報を検出する第2のセンサ部材をさらに備える、第1態様から第3態様のいずれか1つに記載の人体を模したモジュールを提供する。
【0013】
本発明に係る第5態様によれば、第2のセンサ部材は、皮膚部材の下面に面する第1の主面、及び皮下層部材の上面に面する第2の主面を有するフレキシブルな面状部材である、第4態様に記載の人体を模したモジュールを提供する。
【0014】
本発明に係る第6態様によれば、骨部材は、湾曲した凸面を含む湾曲部を有し、
凸面は、皮下層部材に向いている、第1態様から第5態様のいずれか1つに記載の人体を模したモジュールを提供する。
【0015】
本発明に係る第7態様によれば、骨部材は、複数種類設けられて皮下層部材の下に交換可能に配置され、複数種類の骨部材は、湾曲部の曲率が互いに異なるように構成される、第6態様に記載の人体を模したモジュールを提供する。
【0016】
本発明に係る第8態様によれば、第1態様から第7態様のいずれか1つに記載の人体を模したモジュールと、第1のセンサ部材で検出される圧力情報に基づいて、人体の痛み情報を出力する制御部と、を備える、人体の痛みを評価する評価システムを提供する。
【0017】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によって本発明が限定されるものではない。
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明に係る実施形態1の人体を模したモジュール1の概略断面図である。モジュール1は、例えば、人体の上腕部分を模して形成される。モジュール1は、例えば、人間の痛みを評価するために用いられるダミーモジュールである。
【0019】
図1に示すように、モジュール1は、骨部材3と、皮下層部材5と、皮膚部材7と、第1のアレイセンサ9と、第2のアレイセンサ11と、制御部20とを備える。骨部材3は、人体の骨を模した部材である。皮下層部材5は、人体の筋肉及び脂肪を含む皮下層を模した部材である。皮膚部材7は、人体の皮膚を模した部材である。第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11は、例えば、圧力センサである。制御部20は、第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11で検出される情報を制御する。
【0020】
より精度の高い測定を行うために各構成部材において人体の各組織に近い構成に分割することが考えられるが、本実施形態のモジュール1においては、より簡易でコストを低減するという観点から、類似した組織を1つの層として取り扱っている。
【0021】
本実施形態では、骨部材3は、上腕骨を模した棒状部材である。骨部材3は、例えば、硬質ウレタンフォームで形成される。
【0022】
皮下層部材5は、上腕部分の皮下層を模した部材である。皮下層部材5は、骨部材3の外周に配置される。具体的には、皮下層部材5は、骨部材3の外周全体を覆うように配置される。本実施形態では、皮下層部材5は、人体の筋肉層及び脂肪層を一体的な筋脂肪層として扱い、当該筋脂肪層を模した部材である。常温ではヤング率が小さく液体状に近く、軟らかくて成形や形状維持等が困難な、脂肪層を模した脂肪部材ではなく、筋脂肪層を模した皮下層部材5を用いることで、適切な形状での測定を行うことができる。
【0023】
皮下層部材5は、例えば、ウレタンゲル(ポリウレタン)で形成される。皮下層部材5のヤング率は、例えば、10kPa以上55kPa以下である。上腕部の脂肪量が、例えば前腕部等の部位の脂肪量よりも多いため、上腕部の皮下層を模した皮下層部材5のウレタンゲルのヤング率は小さくなる傾向がある。皮下層部材5が、例えば脂肪量が少なく筋肉質な前腕部等の部位における皮下層を模した部材である場合、ウレタンゲルのヤング率は大きくなる傾向がある。
【0024】
皮膚部材7は、上腕部分の皮膚を模した部材である。皮膚部材7は、皮下層部材5の外周に配置される。具体的には、皮膚部材7は、皮下層部材5の外周全体を覆うように配置される。皮膚部材7は、例えば、シリコンで形成される。
【0025】
第1のアレイセンサ9(皮膚下センサ)は、皮膚部材7と皮下層部材5との間に配置される。具体的には、第1のアレイセンサ9は、皮下層部材5の外表面の一部を覆うように配置される。人体の皮膚及び皮膚内側の脂肪層には、例えば、人間の痛み(表在痛)、圧覚、触覚等を感知する感覚受容器が集中して存在している。このため、皮膚部材7と皮下層部材5との間に第1のアレイセンサ9を配置することで、人間の痛み(表在痛等)、圧覚、触覚等を評価することができる。
【0026】
第2のアレイセンサ11(骨近傍センサ)は、皮下層部材5と骨部材3との間に配置される。具体的には、第2のアレイセンサ11は、骨部材3の外表面の一部を覆うように骨部材3の形状に沿って配置される。人体の骨(骨膜)及び骨の外側の筋肉層(筋膜)には、例えば人間の痛み(深部痛)を感知する感覚受容器が集中して存在している。このため、皮下層部材5と骨部材3との間に第2のアレイセンサ11を配置することで、人間の痛み(深部痛)を評価することができる。
【0027】
第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11は、3次元の変形が可能なシート状のセンサである。第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11は、皮膚部材7に荷重が加えられたときに圧力情報を検出する。第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11は、それぞれのセンサ面が互いに対向するように配置される。
【0028】
制御部20は、第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11で検出される圧力情報に基づいて、痛み情報を出力する。例えば、センサの厚みが厚い場合やセンサが硬い場合等、第1のアレイセンサ9が配置されていることによって、第2のアレイセンサ11の値に影響が出る場合がある。このような場合には、制御部20は、第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11が配置されている状態での第2のアレイセンサ11で検出される圧力値を、第1のアレイセンサ9が無い場合に第2のアレイセンサ11で検出される圧力値に補正してもよい。これにより、第1のアレイセンサ9が配置されている構成であっても、第1のアレイセンサ9が無い場合の第2のアレイセンサ11の圧力値を取得することができる。このため、人体に荷重が負荷された場合における骨近傍の圧力値をより正確に予測することができ、例えば深部痛等の痛みの評価をより正確に行うことができる。
【0029】
制御部20が出力する痛み情報とは、例えば、表在痛、深部痛等の体性痛に関する情報である。本実施形態での痛み情報は、一次痛に関する情報である。痛み情報は、例えば、人体が痛みを感じ始めるときにおける、第1のアレイセンサ9の検出値と第2のアレイセンサ11の検出値の補正値とに関する情報である。具体的には、痛み情報は、ピーク圧力の情報、圧力分布の情報等である。
【0030】
表在痛に関する情報は、例えば、第1のアレイセンサ9で検出される圧力値が予め決められた閾値を超えたときに出力される。深部痛に関する情報は、例えば、第2のアレイセンサ11で検出される圧力値を制御部20が補正した後の圧力値が予め決められた閾値を超えたときに出力される。
【0031】
図2は、モジュール1に圧子13で荷重をかける前の状態を示す概略断面図である。図3は、モジュール1に圧子13で荷重をかけた状態を示す概略断面図である。
【0032】
図2に示すように、モジュール1に圧子13で荷重をかける前において、第1のアレイセンサ9は皮下層部材5の外表面に沿った形状であり、第2のアレイセンサ11は骨部材3の外表面に沿った形状となっている。
【0033】
図3に示すように、モジュール1に圧子13で荷重をかけた状態において、皮膚部材7及び皮下層部材5は、圧子13による荷重の負荷方向に変形する。このとき、皮膚部材7及び皮下層部材5の変形に伴って、第1のアレイセンサ9も同様に、圧子13による荷重の負荷方向に変形する。具体的には、第2のアレイセンサ11は、圧子13による荷重の負荷方向に向けて湾曲するように変形する。
【0034】
(実施例1)
次に実施例1について説明する。実施例1において、モジュール1に対して、骨部材3に向けて圧子13を33mm押し付けたときの第1のアレイセンサ9a(図1)及び第2のアレイセンサ11aの値を測定した。モジュール1の第1のアレイセンサ9a及び第2のアレイセンサ11aの面上に位置する皮膚部材7に対して、圧子13を押し付けた。
【0035】
第2のアレイセンサ11aを、骨部材3において上腕骨の前腕側端部に対応する部分に配置した。具体的には、第2のアレイセンサ11aを、骨部材3において上腕骨の外側部に対応する部分の形状に沿って配置した。第1のアレイセンサ9a及び第2のアレイセンサ11aには、圧力センサ(静電容量式、最大測定圧力7MPa、最小測定圧力34.5kPa、空間分解能2.54mm、使用温度10~40°、耐久性10万回)を用いた。
【0036】
骨部材3、皮下層部材5、及び皮膚部材7を、アメリカ人男性のサイズ中央値のデータを模して作製した。骨部材3を、圧縮強度150~160MPaの硬質ウレタンフォームで形成した。皮下層部材5を、ヤング率10~55kPaのウレタンゲルで形成した。皮膚部材7を、ヤング率100kPaのシリコンで形成した。圧子13により荷重が負荷される部分に関して、皮下層部材5の厚みを約35mmで形成し、皮膚部材7の厚みを約2mmで形成した。
【0037】
図4及び図5は、第1のアレイセンサ9a及び第2のアレイセンサ11aのピーク圧力値を示す図である。
【0038】
図4は圧子13の先端部分が正四角柱形状の場合の結果であり、図5は圧子13の先端部分が半球形状の場合の結果である。図4において、圧子13の先端部分の正四角柱形状の大きさが7mm×7mm、14mm×14mm、19mm×19mm、24mm×24mmの場合の結果を示す。図5において、圧子13の先端部分の半球形状の半径が5mm、10mm、15mmの場合の結果を示す。図4及び図5において、実線が第1のアレイセンサ9aの値を示し、点線が第2のアレイセンサ11aの値を示す。
【0039】
図4及び図5に示すように、圧子13の先端部分の形状が異なっている場合でも、圧子13の先端部分の大きさが大きくなるにつれて、第1のアレイセンサ9aの値は低くなり、第2のアレイセンサ11aは高くなった。
【0040】
さらに、圧子13の先端部分の形状が異なっている場合でも、圧子13の先端部分の大きさが所定の大きさよりも小さいとき、第2のアレイセンサ11aよりも第1のアレイセンサ9aの方が高い圧力値を示した。これにより、圧子13の大きさが所定の大きさよりも小さい場合、表在痛が生じやすいことが分かった。
【0041】
また、圧子13の先端部分の形状が異なっている場合でも、圧子13の先端部分の大きさが所定の大きさよりも大きいとき、第1のアレイセンサ9aよりも第2のアレイセンサ11aの方が高い圧力値を示した。これにより、圧子13の大きさが所定の大きさよりも大きい場合、深部痛が生じやすいことが分かった。
【0042】
図6A及び図7Aは、第1のアレイセンサ9aの圧力分布を示す図である。図6B及び図7Bは、第2のアレイセンサ11aの圧力分布を示す図である。
【0043】
図6A及び図6B並びに図7A及び図7Bにおいて示される数字は、センサの圧力値の段階、すなわち、数字の大きさが大きくなるほど圧力値が高くなっていることを示す。また、図示される点線は、圧子13の先端部分の外形を示す。図6A及び図6Bは圧子13の先端部分の正四角柱形状の大きさが7mm×7mmの場合の結果を示し、図7A及び図7Bは圧子13の先端部分の正四角柱形状の大きさが24mm×24mmの場合の結果を示す。
【0044】
図6A及び図6Bに示すように、圧子13の大きさが所定の大きさよりも小さい場合、第1のアレイセンサ9aの圧力値(ピーク圧力値)の方が第2のアレイセンサ11aの圧力値(ピーク圧力値)よりも高い圧力分布となった。これにより、圧子13の大きさが所定の大きさよりも小さい場合、表在痛が生じやすいことが分かった。
【0045】
一方、図7A及び図7Bに示すように、圧子13の大きさが所定の大きさよりも大きい場合、第2のアレイセンサ11aの圧力値(ピーク圧力値)の方が、第1のアレイセンサ9aの圧力値(ピーク圧力値)よりも高い圧力分布となった。これにより、圧子13の大きさが所定の大きさよりも大きい場合、深部痛が生じやすいことが分かった。
【0046】
(実施例2)
次に実施例2について説明する。実施例2において、モジュール1A及び人体に対して圧子13で押し付けたときの、荷重-変位量特性を測定した。圧子13は、先端部分が正四角柱形状で、大きさが14mm×14mmのものを用いた。また、圧子13は、端面をR2mmで加工したものを用いた。圧子13の移動速度を2mm/s、移動ピッチを1mm、移動後の停止時間を2秒として測定を行った。
【0047】
モジュール1Aに関して、モジュール1と異なる部分について説明する。モジュール1Aは、人体の前腕部分を模したモジュールである。モジュール1Aは、前腕部分の骨を模した骨部材3Aと、前腕部分の皮下層を模した皮下層部材5Aと、前腕部分の皮膚を模した皮膚部材7Aとを備える。
【0048】
骨部材3A、皮下層部材5A、及び皮膚部材7Aを、日本人成人男性の平均サイズ(人間生活工学研究センターの人間計測データベース2004年10月~2006年10月のデータ参照)を模して作製した。骨部材3Aを、圧縮強度150~160MPaの硬質ウレタンフォームで形成した。皮下層部材5Aを、ヤング率10~55kPaのウレタンゲルで形成した。皮膚部材7Aを、ヤング率100kPaのシリコンで形成した。圧子13により荷重が負荷される部分に関して、皮下層部材5Aの厚みを約35mmで形成し、皮膚部材7Aの厚みを約2mmで形成した。
【0049】
皮下層部材5Aにおいて人体の腕橈骨筋に対応する部分の外側の皮膚部材7Aに対して、骨部材3Aに向けて圧子13で押し付けた。平均サイズに近い日本人成人男性(30~50歳代、身長165~175cm、BMIは18.5~25kg/m)15名の人体の腕橈骨筋の外側の皮膚に対して、骨に向けて圧子13で押し付けた。
【0050】
図8は、実施例2の結果を示す図である。図8において、実線は人体の結果を示し、点線はモジュール1Aの結果を示す。
【0051】
図8に示すように、人体の荷重-変位量の特性に関して、人によってばらつきはあるものの、初期変位段階では線形的な変化となり、初期変位段階以降では非線形的な変化となった。モジュール1Aの荷重-変位量の特性においても、人体の場合と同様に、初期変位段階では線形的な変化となり、初期変位段階以降では非線形的な変化となった。さらに、モジュール1Aの荷重-変位量の特性は、初期変位段階でも初期変位段階以降でも、共に人体の荷重-変位量の特性のばらつきの範囲内となった。これにより、モジュール1Aは、人体により近い材料特性を有していることが分かった。
【0052】
本実施形態に係る人体を模したモジュール1によれば、以下の効果を奏することができる。
【0053】
本実施形態に係る人体を模したモジュール1は、骨部材3と、皮下層部材5と、皮膚部材7と、第1のアレイセンサ9と、第2のアレイセンサ11と、制御部20とを備える。骨部材3は、骨を模した部材である。皮下層部材5は、骨部材3の外周に配置されて、筋肉及び脂肪を含む皮下層を模した部材である。皮膚部材7は、皮下層部材5の外周に配置されて、皮膚を模した部材である。第1のアレイセンサ9は、皮膚部材7と皮下層部材5との間に配置されて、皮膚部材7に荷重が加えられたときの圧力情報を検出する。第2のアレイセンサ11は、皮下層部材5と骨部材3との間に配置されて、皮膚部材7に荷重が加えられたときの圧力情報を検出する。制御部20は、第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11で検出される圧力情報に基づいて、痛み情報を出力する。
【0054】
この構成によれば、第1のアレイセンサ9により、例えば表在痛の評価を行うことができ、第2のアレイセンサ11により、例えば深部痛の評価を行うことができる。このため、例えば荷重が負荷されるときの接触面積が小さいとき等の表在痛が生じやすい場合、及び例えば荷重が負荷されるときの接触面積が大きいとき等の深部痛が生じやすい場合のどちらの場合でも痛みの評価を行うことができる。これにより、痛みの評価をより正確に行うことができる。
【0055】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記実施形態では、モジュール1は、人体の上腕部分を模したモジュールであるとしたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、第1のアレイセンサ及び第2のアレイセンサで検出される圧力情報に基づいて、痛み情報を出力するモジュールであれば、上腕部分を模したモジュールに限定されない。モジュール1は、例えば、前腕、手、下肢、体幹部(腹、背等)、人体全体等を模したモジュールであってもよい。
【0056】
また、モジュール1は、人間の痛みを評価するために用いられるダミーモジュールであるとしたが、モジュール1は、例えば人体構造を模したロボット等であってもよい。
【0057】
また、第1のアレイセンサ9は、皮下層部材5の外表面の一部を覆うように配置され、第2のアレイセンサ11は、骨部材3の外表面の一部を覆うように配置されるとしたが、これに限定されない。第1のアレイセンサ9は、皮下層部材5の外表面全体を覆うように配置され、第2のアレイセンサ11は、骨部材3の外表面全体を覆うように配置されていてもよい。
【0058】
また、人体の筋肉及び脂肪を含む皮下層を模した皮下層部材のヤング率は、筋肉量又は脂肪量の少なくともいずれか一方に応じて、部位によって変化させてもよい。また、当該皮下層部材のヤング率は、人体の部位に依らずに統一して形成してもよい。当該皮下層部材を、部位に依らずに統一して形成する場合は、ウレタンゲルのヤング率は、好ましくは、25kPa以上35kPa以下である。
【0059】
また、モジュール1は、第1のアレイセンサ9と、第2のアレイセンサ11とを備えるとしたが、第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11は、アレイセンサに限定されない。第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11は、アレイセンサではなく、例えば、単体のセンサであってもよい。
【0060】
また、骨部材3、皮下層部材5、及び皮膚部材7の各部材の厚みは、場所によって変更してもよい。また、骨部材3、皮下層部材5、及び皮膚部材7の各部材の材料は、上述した材料以外で形成されてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、製造を容易にし、製造コストを低減するために、皮下層部材5は、人体の筋肉層及び脂肪層を一体的な筋脂肪層として扱い、当該筋脂肪層を模した部材であるとしたが、これに限定されない。骨部材3と、皮下層部材5と、皮膚部材7の各部材を、人体構成により類似した構成になるように分割して形成してもよい。例えば、皮下層部材5を、人体の脂肪層を模した脂肪層部材と、人体の筋肉層を模した筋肉層部材と、人体の筋膜を模した筋膜部材と、人体の腱に模した腱部材とに分割して形成してもよい。また、例えば、皮膚部材7を、人体の表皮を模した表皮部材と、人体の真皮を模した真皮部材と、人体の角層を模した角層部材とに分割して形成してもよい。また、例えば、脂肪層部材と筋肉層部材との間や、表皮部材と真皮部材との間等に、センサを配置してもよい。このような構成によって、人体により近いモジュールで痛みの評価を行うことができる。
【0062】
また、第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11は、圧力センサであるとしたが、人体の感覚受容器の役割を有する(モジュール1への外力に対して感知可能な)センサ、測定器であってもよい。第1のアレイセンサ9及び第2のアレイセンサ11は、例えば、力センサ、ロードセル、温度センサ等であってもよい。
【0063】
(実施形態2)
次に、実施形態2の人体を模したモジュール100について、主に実施形態1と異なる点について説明する。また、実施形態2では、実施形態1と重複する記載は、適宜省略する。
【0064】
図9は、実施形態2の人体を模したモジュール100の概略断面図である。図9に示すように、モジュール100は、骨部材110と、皮下層部材120と、皮膚部材130と、第1のセンサ部材140及び第2のセンサ部材150と、荷重センサ160とを備える。
【0065】
本実施形態の骨部材110は、板状部材である。骨部材110は、例えば、金属材料、セラミックス、樹脂等の高剛性材料で形成される。骨部材110の上面110aは、平面状に形成される。骨部材110の下面110bは、荷重センサ160上に配置される。
【0066】
皮下層部材120は、骨部材110の上面110aに積層されて骨部材110と皮膚部材130との間に配置される。皮下層部材120は、フレキシブルな面状部材である。皮下層部材120は、例えば、ウレタンゲル、シリコン、エラストマー等で形成される。皮下層部材120の厚みは、評価を行う人体の部位に応じて決定される。皮下層部材120と皮膚部材130との厚みの比は、例えば、0.85~27.2に設定される。皮膚部材130の厚みは、例えば2mm(文献[1]参照)に設定される。例えば、手の甲を評価する場合、皮下層部材120の厚みは1.7mm(文献[2]参照)に設定される。上腕を評価する場合、皮下層部材120の厚みは50.9mm(文献[1]及び文献[3]参照)に設定される。前腕中間部分を評価する場合、皮下層部材120の厚みは30.0mm(文献[1]及び文献[4]参照)に設定される。ふくらはぎを評価する場合、皮下層部材120の厚みは54.3mm(文献[5]及び文献[6]参照)に設定される。皮下層部材120のヤング率は、例えば、腕部を評価する場合、10kPa以上55kPa以下である。
【0067】
皮膚部材130は、皮下層部材120上に積層されてモジュール100の上面(外表面)130aを構成する。皮膚部材130は、フレキシブルな面状部材である。皮膚部材130は、例えば、シリコン、ウレタンゲル、エラストマー等で形成される。皮膚部材130のヤング率は、例えば、60kPa以上300kPa以下である。皮膚部材130は、ヤング率が皮下層部材120よりも大きくなるように構成される。
【0068】
第1のセンサ部材140及び第2のセンサ部材150は、皮膚部材130に荷重をかけたときの圧力情報を検出する。具体的には、第1のセンサ部材140及び第2のセンサ部材150は、センサ部材が配置される場所における圧力分布及び最大圧力を測定する。第1のセンサ部材140は、例えば、圧力を受けたときに変色して色の濃度によって圧力の大きさを測定できる感圧シートである。感圧シートは、例えば、PETベースの基材に発色剤と顕色剤を塗布したフィルムである。本実施形態の第1のセンサ部材140は、圧力の測定毎に交換可能に設けられる。第2のセンサ部材150は、例えば、圧力を測定できるフレキシブルなアレイセンサである。
【0069】
第1のセンサ部材140及び第2のセンサ部材150は、面方向に延びる面状部材である。具体的には、第1のセンサ部材140は、皮下層部材120の下面120bに面する第1の主面140aと、骨部材110の上面110aに面する第2の主面140bとを有する。第2のセンサ部材150は、皮膚部材130の下面130bに面する第1の主面150aと、皮下層部材120の上面120aに面する第2の主面150bとを有する。
【0070】
第1のセンサ部材140及び第2のセンサ部材150は、皮下層部材120を挟むように配置される。第2のセンサ部材150は、皮下層部材120を挟んで第1のセンサ部材140の上方に配置される。
【0071】
第1のセンサ部材140は、骨部材110と皮下層部材120との間に配置される。具体的には、第1のセンサ部材140は、骨部材110の上面110aによって支持される。高剛性部材である骨部材110上に第1のセンサ部材140が支持されるので、皮膚部材130に荷重がかかったときでも、第1のセンサ部材140は元の形状を容易に維持することができる。このため、皮膚部材130に荷重がかかったときでも、第1のセンサ部材140に折れ目が付きにくいため、第1のセンサ部材140として、感圧シートのように硬めのフィルム基材を有する部材を採用することができる。感圧シートは、フレキシブルなアレイセンサよりも安価であるため、モジュール100のコストを低減することができる。
【0072】
第2のセンサ部材150は、皮下層部材120と皮膚部材130との間に配置される。具体的には、第2のセンサ部材150の第1の主面150aが皮膚部材130の下面130bと接触し、第2のセンサ部材150の第2の主面150bが皮下層部材120の上面120aと接触する。第2のセンサ部材150は、フレキシブルな面状部材であって、皮下層部材120及び皮膚部材130が荷重を受けて変形したときに、皮下層部材120及び皮膚部材130と共に変形するように構成される。これにより、皮下層部材120及び皮膚部材130間における圧力をより正確に測定することができる。
【0073】
荷重センサ160は、骨部材110、皮下層部材120、及び皮膚部材130にかかる力(荷重)を検出する。本実施形態の荷重センサ160は、弾性部材162及びセンサ164を有する。弾性部材162は、例えば、ばねである。弾性部材162は、ばね定数が異なって複数種類設けられ、評価を行う人体の部位に応じてばね定数を変更可能に設けられる。腹部を評価する場合、弾性部材162のばね定数は、例えば10N/mmに設定される(文献[7]参照)。肩部を評価する場合、弾性部材162のばね定数は、例えば35N/mmに設定される(文献[7]参照)。
【0074】
次に、モジュール100の皮下層部材120及び皮膚部材130の材料特性について、図10図14Bを用いて説明する。
【0075】
図10は、実施形態1におけるモジュール1Aの荷重-変位量特性を示す図である。図11は、人体の腕橈骨筋が位置する腕部分の荷重-変位量特性を示す図である。
【0076】
図10及び図11は、14mm×14mmの正四角柱形状で端面をR2mmで加工した圧子で皮膚部材7A及び腕の皮膚を押し込んだときの結果である。図10及び図11において、圧子の移動量と、当該移動量のときに圧子に発生する荷重を測定することで、モジュール1A及び人体の荷重-変位量特性を測定した。また、図10及び図11において、圧子の移動速度を準静的な衝突速度(2mm/s)、移動ピッチを1mm、移動後の停止時間を2秒とした結果である。図10は3回分のモジュール1Aの測定結果を示し、図11は1人3回で15人の測定結果を示す。
【0077】
図10に示すように、モジュール1Aの荷重-変位量特性は、初期段階における第1の傾きG1と、初期段階以降における、第1の傾きG1よりも急な第2の傾きG2とを有する。第1の傾きG1は、第1の領域F1に含まれる。第2の傾きG2は、第1の領域F1よりも変位量が大きい領域である第2の領域F2に含まれる。第2の領域F2は、第1の領域F1に対して滑らかに接続される。第2の領域F2における平均の傾きは、第1の領域における平均の傾きよりも大きい。
【0078】
第1の領域F1における傾きの変化量は0よりも大きくなり、第2の領域F2における傾きの変化量は第1の領域F1における傾きの変化量よりも小さくなる。本実施形態において、第1の領域F1は非線形領域を含み、第2の領域F2は線形領域を含む。本実施形態の第1の領域F1の初期変位段階においては、圧子で荷重をかけ始めてから所定の変位までの間において線形領域を含む。ここで、非線形は、傾きの変化量が0よりも大きいことを示し、線形は、傾きの変化量が0であることを示す。
【0079】
図11に示すように、人体の荷重-変位量特性は、第1の領域F3と、第2の領域F4とを有する。第1の領域F3は非線形領域を含み、第2の領域F4は線形領域を含む。図10及び図11から、モジュール1Aは、人体と同様に、初期段階において非線形領域を有し、非線形領域よりも変位が大きい領域において線形領域を有する部材であることが示される。このため、モジュール1Aを用いることで、人体にかかる力を簡易に評価することができる。
【0080】
図12を用いて、人型のモジュール1Aだけでなく、より簡易な構成である簡易型のモジュール100においても人体と同様の特性を有することを示す。図12は、人体及びモジュール100の荷重-変位量特性を示す図である。図12において、実線は図8と同様の人体の結果を示し、点線はモジュール100の結果を示す。図12において、モジュール100の骨部材110は、金属板である。具体的には、骨部材110及び荷重センサ160として、GTE社の衝撃力測定器KMG-500を用いた。皮下層部材120は、ヤング率30kPaのウレタンゲルで厚みが18mmに形成される。皮膚部材130は、ヤング率100kPaのシリコンで厚みが2mmで形成される。荷重センサ160の弾性部材162のばね定数は、75N/mmである。
【0081】
図8及び図12に示すように、実施形態1におけるモジュール1Aよりも簡易なモジュールである実施形態2のモジュール100であっても、人体と同様の結果が得られることを知見した。すなわち、モジュール100においても、初期段階において非線形領域を有し、非線形領域よりも変位が大きい領域において線形領域を有することを知見した。これにより、モジュール100を用いて人体にかかる力をより簡易に評価することができる。
【0082】
図13A図14Bは、モジュール100、及びモジュール100の一部の部材を変更したものに圧子で荷重をかけたときの荷重-変位量特性を示す図である。図13A及び図14Aは、圧子の移動速度を2mm/sとした結果であって、図13B及び図14Bは、圧子の移動速度を100mm/sとした結果である。図13A及び図13Bは、14mm×14mmの正四角柱形状で端面をR2mmで加工した圧子で測定した結果であって、図14A及び図14Bは、34mm×34mmの正四角柱形状で端面をR2mmで加工した圧子で測定した結果である。
【0083】
図13A図14Bに示すD1は、モジュール100の結果であって、L1~L3は、モジュール100の一部の部材を変更したときの結果である。具体的には、L1~L3は、GTE社の衝撃力測定器KMG-500を用いて行った測定結果である。L1は、骨部材110の上に、ショア硬度が10である円柱状の衝撃吸収部材を置いて当該衝撃吸収部材の上から圧子で荷重をかけたときの結果である。L2は、衝撃吸収部材のショア硬度が30のときの結果である。L3は、衝撃吸収部材のショア硬度が70のときの結果である。
【0084】
図13A図14BのL1~L3に示すように、いずれの場合においても、衝撃吸収部材を用いたときの荷重-変位量特性は線形的に変化している。具体的には、ショア硬度や弾性部材162のばね定数等を変更した場合であっても、図10図12に示すような非線形領域から線形領域に遷移するような特性の変化が生じていない。このため、L1~L3の結果を示す構成においては、線形領域のみの荷重-変位量特性を有する人体の部位でない限り、正確な測定を行うことができないことを知見した。これに対して、モジュール100においては、非線形領域の荷重-変位量特性を有する人体の部位であっても正確な測定を行えることを知見した。
【0085】
L1~L3で示す結果に対して、図13A及び図13Bに示すように、圧子の大きさが14mm×14mmの場合、モジュール100の荷重-変位量特性は、初期段階に非線形領域を有し、初期変位段階以降に線形領域を有する。一方、図14Aに示すように、圧子の大きさが34mm×34mmの場合、圧子の大きさが14mm×14mmの場合よりも非線形領域の範囲が小さくなっている。図14Bに示すように、圧子の移動速度が100mm/sの場合、非線形領域の範囲が図14Aの結果よりもさらに小さくなり線形領域だけとなっている。
【0086】
図13A図14Bに示すように、モジュール100の荷重-変位量特性は、荷重をかける圧子の大きさが大きくなるほど、線形的な変化に近づく部材である。さらに、モジュール100は、圧子の移動速度が速くなるほど、線形的な変化に近づく部材である。つまり、速度という時間的な変化による差が生じる事から、ヤング率(弾性率)という機械的な変化を現す指標だけではなく、粘性という指標も関係していると考えられる。特に、簡易モジュール100の場合、荷重センサ160内の弾性部材162がヤング率(弾性率)に寄与しており、圧子の押込みによって変化する皮下層部材及び皮膚部材の軟材料が粘性に寄与していると考えられる。
【0087】
本実施形態に係る人体を模したモジュール100によれば、以下の効果を奏することができる。
【0088】
本実施形態に係る人体を模したモジュール100は、骨部材110と、皮下層部材120と、皮膚部材130と、皮下層部材120と骨部材110との間に配置されて、皮膚部材130に荷重をかけたときの圧力情報を検出する第1のセンサ部材140とを備える。
【0089】
これによれば、人体に外力が加わったときに人体にかかる力を簡易に評価することができる。第1のセンサ部材140によって、骨近傍にかかる圧力を簡易に評価することができる。このため、第1のセンサ部材140によって人体の深部痛を簡易に評価することができる。
【0090】
また、荷重-変位量特性は、初期段階における第1の傾きG1と、初期段階以降における、第1の傾きG1よりも急な第2の傾きG2とを有する。
【0091】
これによれば、荷重-変位量特性が第1の傾きG1と第1の傾きG1よりも急な第2の傾きG2とを有することで、モジュール100の材料特性を人体の特性に近づけることができる。このため、人体にかかる力をより正確に測定することができる。
【0092】
また、荷重-変位量特性は、第1の傾きG1を含み、傾きの変化量が0よりも大きくなる第1の領域F1と、第2の傾きG2を含み、第1の領域G1よりも傾きの変化量が小さくなる第2の領域F2とを有する。
【0093】
これによれば、モジュール100の材料特性を人体の特性により一層近づけることができる。
【0094】
また、モジュール100は、皮膚部材130と皮下層部材120との間に配置されて、皮膚部材130に荷重をかけたときの圧力情報を検出する第2のセンサ部材150をさらに備える。
【0095】
これによれば、第2のセンサ部材150によって人体の表層にかかる圧力を簡易に評価することができる。このため、人体の深部痛だけでなく、第2のセンサ部材150によって表在痛を簡易に評価することができる。
【0096】
また、第2のセンサ部材150は、皮膚部材130の下面130bに面する第1の主面150a、及び皮下層部材120の上面120aに面する第2の主面150bを有するフレキシブルな面状部材である。
【0097】
これによれば、第2のセンサ部材150をフレキシブルな面状部材とすることで、皮膚部材130及び皮下層部材120の変形に伴って第2のセンサ部材150を変形させることができる。これにより、皮膚部材130及び皮下層部材120が変形したときでも、第1の主面150aを皮膚部材130の下面130bに沿わせ、第2の主面150bを皮下層部材120の上面120aに沿わせることができる。このため、皮膚部材130と皮下層部材120との間における圧力を第2のセンサ部材150によってより正確に測定することができる。さらに、第2のセンサ部材150が第1のセンサ部材140の圧力値に与える影響を低減することができる。このため、皮下層部材120と骨部材110との間における圧力を第1のセンサ部材140によってより正確に測定することができる。
【0098】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、上記実施形態では、モジュール100は、第2のセンサ部材150を備えるとしたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、モジュール100は、第2のセンサ部材150を備えない構成であってもよい。このような構成であっても、第1のセンサ部材140によって人体の深部痛を簡易に評価することができる。
【0099】
また、モジュール100と、第1のセンサ部材140で検出される圧力情報に基づいて、人体の痛み情報を出力する制御部とを備える、人体の痛みを評価する評価システムであってもよい。制御部は、例えば、第1のセンサ部材140で検出される最大圧力値が所定の閾値を超えた場合に痛み情報(深部痛に関する情報)を出力する。さらに、制御部は、第2のセンサ部材150で検出される最大圧力値が所定の閾値を超えた場合に痛み情報(表在痛に関する情報)を出力してもよい。出力された痛み情報は、例えばディスプレイ等の表示部に表示される。当該評価システムによって人体の痛みを簡易に評価することができる。
【0100】
また、モジュール100において、各層の部材(例えば、骨部材110、皮下層部材120、皮膚部材130、荷重センサ160等)が互いに離れないようにするために、周囲を固定してもよく、又は各層間を接着させてもよい。これにより、最外層の皮膚層が皮下層部材の外周全体を覆うように配置されるモジュール1と同様に、モジュール100に圧子で荷重をかけたときに各層の部材の外周が互いに離間することを防止できる。このため、圧子で荷重をかけたときに、各層の部材にかかる力の測定をより正確に行うことができる。例えば、皮膚部材130をシリコンで形成し皮下層部材130をウレタンゲルで形成した場合、接着剤によって皮膚部材130及び皮下層部材130の接着を行ってもよい。また、例えば、皮膚部材130及び皮下層部材130をシリコン等の同じ部材で形成した場合、材料同士の吸着によって皮膚部材130及び皮下層部材130の接着を行ってもよい。
【0101】
(実施形態3)
次に、実施形態3の人体を模したモジュール102について、主に実施形態2と異なる点について説明する。また、実施形態3では、実施形態2と重複する記載は、適宜省略する。
【0102】
図15は、実施形態3の人体を模したモジュール102の概略側面図である。なお、図15においては、皮下層部材122及び皮膚部材132は一体の層として図示している。
【0103】
図15に示すように、モジュール102の骨部材112は、湾曲した凸面113を含む湾曲部114を有する。本実施形態では、湾曲部114の凸面113は、骨部材112の上面を構成する。骨部材112の下面は平面状に形成される。凸面113は、皮下層部材122に向くように配置される。
【0104】
本実施形態の骨部材112は、湾曲部114の曲率が互いに異なって複数種類設けられる。骨部材112は、皮下層部材122の下に交換可能に配置される。具体的には、骨部材112は、評価を行う人体の部位に応じて湾曲部114の曲率を変更可能に設けられる。また、骨部材112は、荷重センサ160の板状部材166上で支持される。板状部材166の上面は、平面状に形成されて、骨部材112の平坦な下面を支持する。
【0105】
骨部材112の湾曲部114上に積層される皮下層部材122及び皮膚部材132は、湾曲部114の湾曲形状と同様に湾曲して配置される。皮下層部材122及び皮膚部材132は、フレキシブルな面状部材である。本実施形態では、皮膚部材132上にさらに第3のセンサ部材190が配置される。第3のセンサ部材190は、皮膚部材132の圧力情報(皮膚部材132上の圧力分布及び最大圧力)を測定する。第3のセンサ部材190によって皮膚部材132上にかかる圧力を測定することで、人体の皮膚上にかかる圧力を評価することができる。
【0106】
本実施形態の第1のセンサ部材180及び第3のセンサ部材190は、圧力を測定できるフレキシブルなアレイセンサである。第1のセンサ部材180は、湾曲部114の湾曲形状と同様に湾曲して配置される。第3のセンサ部材190は、皮膚部材132の湾曲形状と同様に湾曲して配置される。
【0107】
次に、図16A図16D及び図17A図17Bを用いて、湾曲部114の曲率が異なるモジュール102と、圧子170でモジュール102を押したときにセンサ部材180,190が検出する最大圧力との関係について説明する。
【0108】
図16Aは、骨部材112が板状部材166上に配置されていない状態を示す側面図である。図16B図16C図16Dは、それぞれ、曲率半径が45mmの骨部材112a、曲率半径が22mmの骨部材112b、曲率半径が6mmの骨部材112cが板状部材166上に配置されている状態を示す側面図である。図16Bに示す骨部材112aは、例えば顔の骨を模した部材である。図16Cに示す骨部材112bは、例えば上腕骨を模した部材である。図16Dに示す骨部材112cは、例えば手の甲や橈骨等を模した部材である。
【0109】
図17A及び図17Bは、湾曲部114の曲率が異なるモジュール102と、圧子170でモジュール102を押したときにセンサ部材180,190が検出する最大圧力との関係を示す図である。図17Aは圧子の大きさが7mm×7mmの場合の結果であって、図17Bは、圧子の大きさが74mm×74mmの場合の結果である。図17A及び図17Bにおいて、実線は第3のセンサ部材190によって測定される最大圧力を示し、破線は第1のセンサ部材180によって測定される最大圧力を示す。
【0110】
図17A及び図17Bに示すように、湾曲部114の曲率が異なるとき、第1のセンサ部材180及び第3のセンサ部材190のいずれの場合でも最大圧力が異なっている。このため、湾曲部114の曲率が異なる複数種類の骨部材を交換可能に設けることで、人体にかかる力をより正確に測定することができる。
【0111】
図17Aに示すように、第1のセンサ部材180及び第3のセンサ部材190のいずれの場合でも、曲率半径の大きさと最大圧力との相関性は低くなっている。一方、図17Bに示すように、第1のセンサ部材180及び第3のセンサ部材190のいずれの場合でも、曲率半径の大きさと最大圧力との相関性は高くなっている。具体的には、曲率半径が小さくなるほど、第1のセンサ部材180及び第3のセンサ部材190で検出される最大圧力の大きさが大きくなっている。このように、圧子170の大きさが所定の大きさよりも大きい場合に、曲率半径が小さくなるほど、第1のセンサ部材180及び第3のセンサ部材190で検出される最大圧力の大きさが大きくなる。つまり、圧子170の大きさが所定の大きさよりも小さいときには、衝突時の最大圧力は、骨側の形状の影響を受けにくいが、圧子170の大きさが所定の大きさよりも大きいときには、衝突時の最大圧力は、骨側の形状の影響を受けやすくなる。
【0112】
本実施形態に係る人体を模したモジュール102によれば、以下の効果を奏することができる。
【0113】
本実施形態に係る人体を模したモジュール102は、骨部材112は、湾曲した凸面113を含む湾曲部114を有し、凸面113は、皮下層部材122に向いている。
【0114】
これによれば、骨部材112が湾曲部114を有することで、モジュール102の特性を人体の特性により一層近づけることができる。
【0115】
また、骨部材112は、複数種類設けられて皮下層部材122の下に交換可能に配置され、複数種類の骨部材112は、湾曲部114の曲率が互いに異なるように構成される。
【0116】
これによれば、複数種類の骨部材112を、湾曲部114の曲率が互いに異なるように構成することで、部位に応じて骨部材112の種類を変更することができる。このため、人体にかかる力をより正確に測定することができる。
【0117】
なお、骨部材112の湾曲部114は、所定の単一方向からの側面視でのみ湾曲していてもよく、複数方向からの側面視において湾曲していてもよい。また、湾曲部114は、任意の方向からの側面視において、同じ曲率で湾曲していている半球状であってもよい。また、湾曲部114は、複数の方向(2軸方向又は多軸方向)からの側面視において、それぞれ異なる曲率で湾曲していてもよい。
【0118】
なお、上記様々な実施の形態のうちの任意の実施の形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【0119】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した特許請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。また、実施形態における要素の組み合わせや順序の変化は、本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【0120】
[参照文献]
[1]Gibney MA, Arce CH, Byron KJ, Hirsch LJ, (2010), “Skin and subcutaneous adipose layer thickness in adults with diabetes at sites used for insulin injections: implications for needle length recommendations”, Curr Med Res Opin, Vol.26, No.6, pp.1519-1530.
[2]Visible Korean Project, Ajou University School of Medicine
[3]R. Ogasawara, et al,. (2012), “Time course for arm and chest muscle thickness changes following bench press training”, Interv Med Appl Sci, Vol 4, No.4, pp.217-220
[4]Iivarinen JT, Korhonen RK, Julkunen P,. Experimental and computational analysis of soft tissue stiffness in forearm using a manual indentation device. Med Eng Phys 2011; 33: 1245-1253
[5]U. Wolf, et al,. (2003), “Mapping of hemodynamics on the human calf with near infrared spectroscopy and the influence of the adipose tissue thickness”, ISOTT, Vol.23, pp.225-230
[6]Chow RS, et al,. (2000), “Sonographic studies of human soleus and gastrocnemius muscle architecture: gender variability”, Eur J Appl Physiol , Vol.82, pp.236-244
[7]FB HM-080 DGUV-Information Collaborative robot systems Design of systems with ”Power and Force Limiting” function, Issue August 2017
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明に係る人体を模したモジュールは、例えば、人体の痛みの評価を行うのに有用である。
【符号の説明】
【0122】
1,1A,100,102 モジュール
3,3A,110,112,112a,112b,112c 骨部材
5,5A,120,122 皮下層部材
7,7A,130,132 皮膚部材
9,9a,9b 第1のアレイセンサ
11,11a,11b 第2のアレイセンサ
13,170 圧子
20 制御部
110a,130a 上面
110b,130b 下面
113 凸面
114 湾曲部
140,180 第1のセンサ部材
140a,150a 第1の主面
140b,150b 第2の主面
150 第2のセンサ部材
160 荷重センサ
162 弾性部材
164 センサ
166 板状部材
190 第3のセンサ部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17A
図17B