(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】成形品、成形材料、接合構造、成形材料の製造方法、成形品の製造方法および成形品の接合方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20231117BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20231117BHJP
C08L 1/26 20060101ALI20231117BHJP
C08L 3/02 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
C08L1/02
B29C45/00
C08L1/26
C08L3/02
(21)【出願番号】P 2021047166
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-05-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000207757
【氏名又は名称】大宝工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】西川 哲
(72)【発明者】
【氏名】松坂 圭祐
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-16745(JP,A)
【文献】特開平11-226920(JP,A)
【文献】特開2017-115065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/02
B29C 45/00
C08L 1/26
C08L 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉とを含む成形品(膣腔内に挿入するアプリケーターを除く)であって、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との割合が、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%であることを特徴とする成形品。
【請求項2】
請求項1記載の成形品において、前記パルプは、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプの混合パルプであることを特徴とする成形品。
【請求項3】
請求項2記載の成形品において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプの混合比(質量比)が30:70~70:30であることを特徴とする成形品。
【請求項4】
請求項1記載の成形品において、前記パルプは広葉樹パルプであることを特徴とする成形品。
【請求項5】
パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉と水とを含む射出成形若しくは圧縮成形に用いる成形材料であって、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との割合が、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%であり、水分率が20~65質量%であることを特徴とする成形材料。
【請求項6】
請求項5記載の成形材料において、前記パルプは、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプの混合パルプであることを特徴とする成形材料。
【請求項7】
請求項6記載の成形材料において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプの混合比(質量比)が30:70~70:30であることを特徴とする成形材料。
【請求項8】
請求項5記載の成形材料において、前記パルプは広葉樹パルプであることを特徴とする成形材料。
【請求項9】
請求項5~8いずれか1項に記載の成形材料において、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との混合物100質量部に非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩が0.3~2.0質量部が添加されていることを特徴とする成形材料。
【請求項10】
請求項5~9いずれか1項に記載の成形材料によって成形したピース(膣腔内に挿入するアプリケーターを除く)を水分含有状態で突き合わせ加圧接合し乾燥固化してなることを特徴とする接合構造。
【請求項11】
請求項10記載の接合構造において、前記突き合わせ加圧接合は、突き合わせ部分に10g/m
2以上の水を塗布し10kPa以上の加圧力を10sec以上保持したことを特徴とする接合構造。
【請求項12】
パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉と水とを含む射出成形若しくは圧縮成形に用いる成形材料の製造方法であって、
前記成形材料の前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との割合が、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%であり、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉と前記水とを混合し混練することを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の成形材料の製造方法において
、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との混合物100質量部に、水分率が20~65質量%となるように水を添加して混練することを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項14】
請求項12,13いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記パルプは、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプの混合パルプであることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の成形材料の製造方法において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプの混合比(質量比)が30:70~70:30であることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項16】
請求項12,13いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記パルプは広葉樹パルプであることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉と前記水とを混合した物に、非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩を添加し混練することを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項18】
請求項17記載の成形材料の製造方法において、前記非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩の添加量は、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との混合物100質量部に対して0.3~2.0質量部とすることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項19】
請求項12~18のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記混練は、40℃~90℃で行うことを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項20】
パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉とを含む成形品の製造方法であって、請求項5~9のいずれか1項に記載の成形材料を用い、下記条件で射出成形若しくは圧縮成形することを特徴とする成形品の製造方法。
記
射出速度:10~30mm/s
射出圧力:80~140MPa
金型温度:150~180℃
【請求項21】
パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉とを含む成形品(膣腔内に挿入するアプリケーターを除く)同士を接合する方法であって、
前記成形品の前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との割合は、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%であり、
前記成形品同士を接合する対向面に水を塗布する塗布工程と、
前記対向面同士を突き合わせる突き合わせ工程と、
当該突き合わせ部を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする成形品の接合方法。
【請求項22】
請求項21記載の成形品の接合方法において、前記パルプは、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプの混合パルプであることを特徴とする成形品の接合方法。
【請求項23】
請求項22記載の成形品の接合方法において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプの混合比(質量比)が30:70~70:30であることを特徴とする成形品の接合方法。
【請求項24】
請求項21記載の成形品の接合方法において、前記パルプは広葉樹パルプであることを特徴とする成形品の接合方法。
【請求項25】
請求項21~
24のいずれか1項に記載の成形品の接合方法において、前記塗布工程を下記条件で行うことを特徴とする成形品の接合方法。
記
水塗布量:10g/m
2以上
【請求項26】
請求項21~
25のいずれか1項に記載の成形品の接合方法において、前記突き合わせ工程を下記条件で行うことを特徴とする成形品の接合方法。
記
加圧力:10kPa以上
加圧保持時間:10sec以上
【請求項27】
請求項21~
26のいずれか1項に記載の成形品の接合方法において、前記乾燥工程を下記条件で行うことを特徴とする成形品の接合方法。
記
温度:50℃以上
乾燥時間:2分以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品、成形材料、接合構造、成形材料の製造方法、成形品の製造方法および成形品の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、パルプ及び澱粉系結合材を主成分とする成形材料を用いたパルプ射出成形(Pulp Injection Molding)が提案されている(例えば特許文献1,2)。
【0003】
ここで、特許文献2には、生分解性を有する成形品に良好な水分散性(水解性)を付与することで、この成形品を、例えばトイレで使用する使い捨て用品として用いる場合に水洗便器等に流して処理できるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2916136号公報
【文献】特許第6697874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2に係る成形品は、表面にクラックが生じる等、表面が粗くなる場合もあり、成形品の表面をより滑らかにして表面美粧性を向上させたいという要望がある。
【0006】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、水洗便器等に流して処理できる水解性を有し、更に、高い美粧性も備えた従来にない製品を実現できる成形品、成形材料、接合構造、成形材料の製造方法、成形品の製造方法および成形品の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0008】
パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉とを含む成形品(膣腔内に挿入するアプリケーターを除く)であって、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との割合が、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%であることを特徴とする成形品に係るものである。
【0009】
また、請求項1記載の成形品において、前記パルプは、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプの混合パルプであることを特徴とする成形品に係るものである。
【0010】
また、請求項2記載の成形品において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプの混合比(質量比)が30:70~70:30であることを特徴とする成形品に係るものである。
【0011】
また、請求項1記載の成形品において、前記パルプは広葉樹パルプであることを特徴とする成形品に係るものである。
【0012】
また、パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉と水とを含む射出成形若しくは圧縮成形に用いる成形材料であって、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との割合が、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%であり、水分率が20~65質量%であることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0013】
また、請求項5記載の成形材料において、前記パルプは、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプの混合パルプであることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0014】
また、請求項6記載の成形材料において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプの混合比(質量比)が30:70~70:30であることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0015】
また、請求項5記載の成形材料において、前記パルプは広葉樹パルプであることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0016】
また、請求項5~8いずれか1項に記載の成形材料において、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との混合物100質量部に非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩が0.3~2.0質量部が添加されていることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0017】
また、請求項5~9いずれか1項に記載の成形材料によって成形したピース(膣腔内に挿入するアプリケーターを除く)を水分含有状態で突き合わせ加圧接合し乾燥固化してなることを特徴とする接合構造に係るものである。
【0018】
また、請求項10記載の接合構造において、前記突き合わせ加圧接合は、突き合わせ部分に10g/m2以上の水を塗布し10kPa以上の加圧力を10sec以上保持したことを特徴とする接合構造に係るものである。
【0019】
また、パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉と水とを含む射出成形若しくは圧縮成形に用いる成形材料の製造方法であって、前記成形材料の前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との割合が、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%であり、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉と前記水とを混合し混練することを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0020】
また、請求項12記載の成形材料の製造方法において、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との混合物100質量部に、水分率が20~65質量%となるように水を添加して混練することを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0021】
また、請求項12,13いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記パルプは、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプの混合パルプであることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0022】
また、請求項14記載の成形材料の製造方法において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプの混合比(質量比)が30:70~70:30であることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0023】
また、請求項12,13いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記パルプは広葉樹パルプであることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0024】
また、請求項12~16のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉と前記水とを混合した物に、非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩を添加し混練することを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0025】
また、請求項17記載の成形材料の製造方法において、前記非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩の添加量は、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との混合物100質量部に対して0.3~2.0質量部とすることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0026】
また、請求項12~18のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記混練は、40℃~90℃で行うことを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0027】
また、パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉とを含む成形品の製造方法であって、請求項5~9のいずれか1項に記載の成形材料を用い、下記条件で射出成形若しくは圧縮成形することを特徴とする成形品の製造方法に係るものである。
記
射出速度:10~30mm/s
射出圧力:80~140MPa
金型温度:150~180℃
【0028】
また、パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉とを含む成形品(膣腔内に挿入するアプリケーターを除く)同士を接合する方法であって、
前記成形品の前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との割合は、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%であり、
前記成形品同士を接合する対向面に水を塗布する塗布工程と、
前記対向面同士を突き合わせる突き合わせ工程と、
当該突き合わせ部を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする成形品の接合方法に係るものである。
【0029】
また、請求項21記載の成形品の接合方法において、前記パルプは、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプの混合パルプであることを特徴とする成形品の接合方法に係るものである。
【0030】
また、請求項22記載の成形品の接合方法において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプの混合比(質量比)が30:70~70:30であることを特徴とする成形品の接合方法に係るものである。
【0031】
また、請求項21記載の成形品の接合方法において、前記パルプは広葉樹パルプであることを特徴とする成形品の接合方法に係るものである。
【0032】
また、請求項21~24のいずれか1項に記載の成形品の接合方法において、前記塗布工程を下記条件で行うことを特徴とする成形品の接合方法に係るものである。
記
水塗布量:10g/m2以上
【0033】
また、請求項21~25のいずれか1項に記載の成形品の接合方法において、前記突き合わせ工程を下記条件で行うことを特徴とする成形品の接合方法に係るものである。
記
加圧力:10kPa以上
加圧保持時間:10sec以上
【0034】
また、請求項21~26のいずれか1項に記載の成形品の接合方法において、前記乾燥工程を下記条件で行うことを特徴とする成形品の接合方法に係るものである。
記
温度:50℃以上
乾燥時間:2分以上
【発明の効果】
【0035】
本発明は上述のように構成したから、水洗便器等に流して処理できる水解性を有し、更に、高い美粧性も備えた従来にない製品を実現できる成形品、成形材料、接合構造、成形材料の製造方法、成形品の製造方法および成形品の接合方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】クラックが生じた成形品の例を示す写真である。
【
図2】クラックが生じていない成形品の例を示す写真である。
【
図3】(a)は実験3の成形品半体、(b)は前記半体を接合した筒体である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0038】
本発明に係る成形品は、カルボキシメチルセルロース塩(CMC)を所定量含むため、優れた水解性を有し、例えば水洗便器等に流して処理できる使い捨て用品等に使用することができる。
【0039】
また、CMCだけでなく澱粉を所定量含むことで、澱粉を含まない場合に比べ表面が滑らかとなり、クラックの発生が抑制され、高い美粧性を有する成形品を実現できる。
【0040】
更に、CMCと澱粉とを含むことで、例えば2つの成形品を接合する場合、接合面となる対向面に水を塗布して一部を糊状にし、対向面同士を突き合わせ、当該突き合わせ部を乾燥させることで、両者を一体に接合することが可能となる。そのため、例えば所謂アンダーカット構造を含む複雑な形状の成形品(美粧性を高めるために形状、模様等にこだわった成形品)であっても、スライドコアや傾斜コア等を備えた特殊な金型を用いずに、例えば、通常の金型でアンダーカットを避けた形状の半体を夫々成形し、半体同士を上記方法で一体に接合すればよく、特殊な金型は不要となる。
【0041】
従って、本発明によれば、水洗便器等に流して処理ができるものでありながら、高い美粧性も備えた従来にない生分解性を有する成形品が実現可能となる。
【実施例】
【0042】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0043】
本実施例は、パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉とを含む成形品(膣腔内に挿入するアプリケーターを除く)であって、前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との割合が、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%としたものである。
【0044】
本実施例の成形品としては、例えば使用後に水で水解可能な包装用緩衝体(例えばガラス瓶などの割れ物を包装するシート)、乾燥食品用容体(例えば穀物などを入れる収納袋や収納容器)、使用後に分散流去処理できるトイレ洗浄用具、検尿用容器、汚物入れまたは使い捨ておまる等のトイレ用品、肥料・植物種子などを収納する容器、流し灯篭・流し雛等の祭礼用品などである。
【0045】
成形品を成形するために用いる成形材料は、パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉と水とを混合した混合物に、必要に応じて非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩を添加して混練したものを所定形状(例えばペレット状若しくはタブレット状)に成形したものである。
【0046】
パルプとしては、天然繊維を用いることができる。例えば、製紙用パルプ、溶解パルプ、マーセル化パルプ、フラッフパルプなどの木材パルプ、木綿、リンター、亜麻、マニラ麻、サイザル麻、バガス、ケナフ、藁等より得られる非木材パルプ、古紙より得られる古紙パルプ、籾殻、木粉等の植物粉砕物が挙げられる。また、天然繊維のセルロースを精製したリヨセル繊維、天然セルロースを再生したレーヨン繊維も天然繊維の範疇に入れて使用することができる。
【0047】
本実施例では、木材パルプを用いる。具体的には、広葉樹パルプ若しくは針葉樹パルプまたは広葉樹パルプと針葉樹パルプとを所定割合で混合したものを用いる。広葉樹パルプを多く含む方が水解性が良好となる。本実施例では、広葉樹パルプと針葉樹パルプを混合する場合の割合は、30:70~70:30に設定する。好ましくは50:50である。
【0048】
広葉樹パルプは繊維長0.9mm前後、繊維径20μm程度のものを用いる。針葉樹パルプは繊維長2mm前後、繊維径40μm程度のものを用いる。
【0049】
カルボキシメチルセルロース塩としては、エーテル化度が0.5~1.0、好ましくは0.60~1.00、更に好ましくは0.65~0.75のものを用いる。エーテル化度が0.5に満たないものは、成形材料を金型に充填する際の流動性が低く、成形品が脆弱となるため好ましくなく、エーテル化度が1.0を超えるものは保水性が高く金型内に充填された成形材料の乾燥固化に時間がかかるため、成形品の生産性が低下する。
【0050】
カルボキシメチルセルロース塩はアルカリ金属塩およびカルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が水溶性であることが知られているが、成形品の水解性が良好となる点でナトリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましく、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩は成形品の水解性が劣る。従って、本実施例では、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を採用している。
【0051】
本実施例は、パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉との割合が、パルプ:カルボキシメチルセルロース塩:澱粉=50~80質量%:15~40質量%:5~10質量%である前記パルプと前記カルボキシメチルセルロース塩と前記澱粉との混合物100質量部に、非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩を0.3~2.0質量部添加している。
【0052】
成形材料におけるパルプの配合割合が50質量%未満であると成形品の表面平滑性や強度が低下するため好ましくない。一方、80質量%を超えると成形不可となる。好ましくは50~70質量%である。
【0053】
また、カルボキシメチルセルロース塩の配合割合が15質量%未満であると水解性が悪化するため好ましくない。一方、40質量%超えると成形品の表面平滑性や強度が低下するため好ましくない。好ましくは20~35質量%である。
【0054】
また、澱粉の配合割合が、5質量%未満であると成形性が悪化し、美粧性も低下するため好ましくない。一方、10質量%を超えると水解性が悪化するため好ましくない。
【0055】
本実施例の成形材料は、天然繊維とカルボキシメチルセルロース塩と澱粉の混合物100質量部に水50~190質量部を加えて混練し、水分率が20~65質量%となるようにする。水の添加量が50質量部未満では、混練時の負荷が増大して均一に混練できなくなり、また、混練した成形材料をペレット状もしくはタブレット状にする場合、その形状を維持することが困難となる。一方、水の添加量が190質量部を超えると、著しく低粘度で泥状の混練物となって成形、乾燥が困難となり好ましくない。
【0056】
例えば、内容量が約1リットルのポリビーカ内に、その合計量が55~60gになるように天然繊維,カルボキシメチルセルロース塩,澱粉および水を順次秤取したのち撹拌し、可塑化混練して成形材料とする。
【0057】
本実施例の非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩は、脂肪酸鎖部分に基づく非極性部分と非アルカリ金属部分に基づく極性部分とからなり、水に不溶で撥水性と界面活性機能を有し、溶融及び粉体いずれの状態にあっても滑性を有している。
【0058】
このため、非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩は、成形材料を混練する際に内部滑剤として作用し、成形材料が器壁等に粘着することを阻止して作業性を向上させることができる。また、金型内においては外部滑剤として作用し、乾燥により成形材料の表面に表皮層が形成される際に金型壁面への粘着を阻害し、成形材料から水が気化除去される流路を形成し易くし、かつ成形品と金型壁面との摩擦抵抗を低下させ、ひび割れを発生させることなく成形品を離型させる効果を有する。
【0059】
非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩としては、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸アルミニウム、ラウリン酸ストロンチウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ストロンチウム等を挙げることができるが、特にこれらに限定されない。これらは、単独で使用しても複数混合して使用してもよい。
【0060】
非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩は、パルプ、カルボキシメチルセルロース塩および澱粉の合計100質量部に対して、0.3~2.0質量部添加するのが好ましい。非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩の添加量が0.3質量部未満では滑剤効果が低下し、成形材料の混練工程では粘着阻止機能が低下することにより、成形装置の壁面等に粘着しやすくなり、また成形工程においては水蒸気を脱気する時間が長くなる。更に成形品を離型するときには、抜き勾配が小さい場合、スムーズに離型し難くなり、成形体にひび割れが発生する恐れがあるので、好ましくない。
【0061】
一方、非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩の添加量が2.0質量部を超えると、成形材料の混練工程では滑剤効果が強すぎて混練機壁面との摩擦抵抗が減少するので、短時間で均質に混練することが困難となる。更に、成形時、金型内部において成形材料の合流が起こると、接合部の強度が低下して好ましくない。
【0062】
以上のようにして得られる成形材料には、黴の発生を防止する抗菌剤や柔軟性を付与するグリセリン等の多価アルコール類を必要に応じて添加することができる。
【0063】
混練後の成形材料(ペレット状、タブレット状の場合も含む)の水分率(材料全体に対する水分の割合)は、前述の通り、20質量%~65質量%、好ましくは25質量%~50質量%、更に好ましくは30質量%~40質量%である。水分率が20質量%未満では、成形材料の流動性が著しく低下し、成形が困難となるため、好ましくない。また、水分率が65質量%を超えても、低粘度のため成形が困難であると共に、射出成形の際、水蒸気の脱気放出に長時間を要し、成形に時間を要し、生産効率が低下して好ましくない。
【0064】
上記の成形材料を、加熱した射出成形金型若しくは圧縮成形金型に充填し、添加された水を気化除去して乾燥固化させて取り出すことで成形品を製造することができる。
【0065】
ここで、アンダーカット構造を含む複雑な形状の成形品を成形する場合には、通常、スライドコアや傾斜コア等を備えた特殊な金型を用いる必要がある。
【0066】
この点、本実施例の成形材料はカルボキシメチルセルロース塩と澱粉とを所定量含んでいるため、例えば2つの成形品(ピース)を接合する場合、接合面となる対向面に水を塗布して糊状にし、対向面同士を突き合わせ、当該突き合わせ部を乾燥させることで、両者を一体に接合することが可能となる。
【0067】
即ち、特殊な金型を用いずとも、一般的な金型で対応可能となる。例えば、通常の金型でアンダーカットを避けた形状の半体を夫々成形し、半体同士を上記方法で一体に接合することで対応できる。
【0068】
具体的には、成形品の対向面に夫々水を塗布して各対向面を糊状にし、対向面同士を突き合わせ互いに密着するように所定時間室温で加圧し、自然乾燥させることで2つの成形品を一体に接合する。
【0069】
更に具体的に説明すると、水の塗布量は10g/m2以上1000g/m2未満とするのが好ましい。10g/m2未満の場合には接合面の糊化が進まず接合強度が弱まるため好ましくない。また、水の塗布量が1000g/m2以上の場合、成形品の形状が崩れるおそれがあり、また乾燥に過剰な温度および時間が必要になるため好ましくない。また、加圧条件は、加圧力:10kPa以上、加圧保持時間:10sec以上とするのが好ましい。加圧力が10kPa未満若しくは加圧保持時間が10sec未満の場合には接合面の糊化が進まず接合強度が弱まるため好ましくない。また、乾燥条件は温度:50℃以上、乾燥時間:2分以上とするのが好ましい。乾燥温度が50℃未満若しくは乾燥時間が2分未満の場合、糊化した材料が乾燥固化せず接合強度が弱まるため好ましくない。
【0070】
これにより、アンダーカット構造を含む複雑な形状の成形品であっても、金型の複雑化・高コスト化を抑制しつつ、効率的に製造することが可能となり、水洗便器等に流して処理できるものでありながら、高い美粧性を備えた成形品を得ることが可能となる。
【0071】
本実施例は上述のように構成したから、カルボキシメチルセルロース塩(CMC)を所定量含むため、優れた水解性を有し、例えば水洗便器等に流して処理できる使い捨て用品等に使用することができる。例えば、水分散性が、縦10mm、横10mm、厚さ1mmの成形平板を水300ml中に投じて650rpmで攪拌した場合、10分以内に分散が始まり且つ15分以内に50mm2以下の面積を有する断片に分離する水分散性となるようにすることができる。
【0072】
また、CMCだけでなく澱粉を所定量含むことで、澱粉を含まない場合に比べ表面の平滑性が良好となり、高い美粧性を有する成形品を実現できる。
【0073】
[実験例]
上述の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0074】
<実験1>
実験1は、澱粉により水解性に影響がでるか、クラックが生じるかなどを確認する実験である。
【0075】
パルプとCMCとを含む比較例1とパルプとCMCと澱粉とを含む実施例1,2とを比較した。なお、このパルプは針葉樹パルプのみで広葉樹パルプを含まないものである。
【0076】
比較例1および実施例1,2は、以下の条件で混練した成形材料を用い、以下の条件で成形を行った(各例は5つずつ作製し、夫々表面の粗さ・クラックの有無を確認した。)。
【0077】
・混練条件 (株)東洋精機製作所製のラボプラストミル15-50型を用い、設定温度70℃,として2分間混練し、混練後直ちに直径50mmの成形用タブレットに形成した。また、成形材料を可塑化混練する場合の温度は、40~90℃が効果的であり、混練する温度が40℃未満では澱粉の糊化が不十分となって均質な成形材料が得られ難くなり、90℃を超えると混練中に材料の乾燥が始まって好ましくない。混練は、前述の成形材料(ペレット状、タブレット状の場合も含む)の水分率が20質量%~65質量%となるように行う。
【0078】
・射出成形条件 成形装置としては、日精樹脂工業製のNEX280III射出成形機を用い、金型としては、成形中に発生する水蒸気を型外に放出脱気するために、脱気ベントおよび脱気手段を備えたものを用いた。また、キャビティ内に成形用タブレットを充填した時、キャビティ内の圧力が30kgf/mm2以上になると、脱気ベントに成形材料が流入するおそれがあるので、成形材料の最終充填位置となる金型のパーティング面には、過剰な材料を放出する流出口を設け、金型温度は150~180℃に設定している。成形用タブレットは、常温では固形になっているが、金型内では熱と圧力とによって瞬時に軟化して低い粘度になり、最高210kgf/mm2のゲージ圧力に対し、5kgf/mm2以下の圧力で成形することができた。
【0079】
また、射出速度は10~30mm/sとし、射出圧力は80~140MPaとしている。射出速度が10mm/s未満若しくは射出圧力が80MPa未満では、充填不良若しくは形状不良が発生する可能性があり好ましくない。射出速度が30mm/sを超えると若しくは射出圧力が140MPaを超えると、金型のパーティングラインやブラッシングラインに発生するバリが大きくなるため、作業効率性を損なう若しくは金型を痛める可能性があり好ましくない。
【0080】
評価は、以下のようにして行った。
【0081】
・表面の粗さおよびクラック 評価人による目視により評価した。
【0082】
・水解性 厚さが0.4mm~1mmの成形品が手攪拌で溶けたと判断(官能評価)されるまでにかかった時間により評価した。
【0083】
実験1の結果を表1に示す。表1中、配合割合欄は、パルプ(Pulp)とカルボキシメチルセルロース塩(CMC)と澱粉(Starch)との配合割合を示す。
【0084】
表1に示す通り、比較例1は、表面の粗さはいずれも良好でなく、また、クラックも生じ易い(
図1参照)。一方、実施例1,2は、表面の粗さは良好であり、クラックも生じ難いことが確認できた(
図2参照)。また、実施例1,2は、澱粉が含まれることで比較例1より水解性は若干低下するが、水洗処理に際して問題がないレベルであることは確認済みである。
【0085】
【0086】
<実験2>
実験2は、水解性を向上させるために各配合割合を確認する実験である。
【0087】
パルプとカルボキシメチルセルロース塩と澱粉との配合割合を比較した。また、広葉樹パルプ(LBKP)と針葉樹パルプ(NBKP)との配合割合についても比較した。
【0088】
比較例2,3および実施例1~7の混練・成形の条件は実験1と同様である。各例は5つずつ作製し評価を行った。
【0089】
評価は、以下のようにして行った。
【0090】
・成形性 表2の実施例2を基準として相対評価を行った(クラックの数が実施例2より悪化した場合は×、同等の場合は〇とした。)。
【0091】
・水解性 (試験方法):水300ml(水温20±5℃)を入れた500mlのビーカーをマグネチックスターラーに載せ、回転子の回転数を600±10回転/分になるように調整する。その中に高さ約30mm、厚さ0.5~1.1mmの円筒形試験片を1つ投入し1時間攪拌した後の残渣を評価した。
【0092】
(評価方法):1mm以上の塊の個数とサイズを、基準とする実施例2と相対評価した(個数とサイズが実施例2より大きい場合は×、個数とサイズのいずれかが実施例2より大きい場合は△、個数とサイズが実施例2と同等の場合は〇、個数とサイズが実施例2より小さい場合は◎とした。)。
【0093】
実験結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
表2に示す通り、本実施例1~7では良好な成形性および水解性が得られた。一方、比較例2,3ではCMCが少なすぎるため成形性が悪化し、成形不能となった。また、CMCが多い場合(CMCが少ない場合、LBKPがないと水解性が悪化する。)、LBKPの割合が多い場合、LBKPのみを用いる場合は、水解性が良好となることが確認できた。
【0096】
CMCは高価であり、CMCを減量することにより、水解性が低下することはLBKPの混合により防げることが確認できた。
【0097】
<実験3>
実験3は、2つの成形品を水を用いて接合した際の接着度合いを確認する実験である。
【0098】
上記実験2の実施例3の配合で形成した同形状(半円筒状)の2つの成形品半体(
図3(a)参照)を、表3の実験手順に従い、向かい合わせに接合し筒状に一体化させた後(3(b)参照)、接着度合いを確認した。表4に実験結果を示す。
【0099】
【0100】
上記塗布量100g/m2以上は接着面の全面が濡れる量である。これ以上塗布量が少ないと全面が濡れない。なお、塗布量が1000g/m2を超えると、水分過多により筒形状が維持できない。
【0101】
【0102】
上記接着判定は、接着強度であって、指で容易に剥離する場合は×、指で剥離しない場合は〇、接着面に隙間があるが指で剥離しない場合は△とした。また、〇および△の接着強度は4000~5000kPaであることを確認した。
【0103】
実験3の結果から、保圧時間については、10s以上で接着することが確認できた。なお、5s程度の場合は、意匠部側の付きが悪くなることが確認できた。
【0104】
また、乾燥条件については、50℃では6分以上、80℃では4分以上、120℃では2分以上の乾燥で剥離することなく接着できることが確認できた。