(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】圧力測定装置
(51)【国際特許分類】
G01L 1/14 20060101AFI20231117BHJP
G01V 3/08 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
G01L1/14 A
G01V3/08 D
(21)【出願番号】P 2023114164
(22)【出願日】2023-07-12
【審査請求日】2023-07-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592180650
【氏名又は名称】株式会社ミトミ技研
(74)【代理人】
【識別番号】100194180
【氏名又は名称】西谷 豊博
(72)【発明者】
【氏名】北島 俊明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 祐喜雄
(72)【発明者】
【氏名】今井 光太
(72)【発明者】
【氏名】三島木 茂宏
(72)【発明者】
【氏名】大井 琢磨
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-266392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00-1/26
G01L 5/00-5/28
G01H 17/00
G01V 1/00
G01V 3/00-3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置内に複数の圧力センサを配置し、前記複数の圧力センサから所定の同期タイミングにより集めた測定データを、平均化処理して測定値を求める、圧力測定装置において、
測定する波動の圧力分解能に応じて、前記複数の圧力センサ
としてMEMS技術により製造された複数の静電容量センサが配置される範囲を決定するようにしたことを特徴とする
、圧力測定装置。
【請求項2】
前記平均化処理された前記測定データは、所定のカットオフ周波数が設定されているローパスフィルタを通して、ノイズ分が除去されるように構成したことを特徴とする、請求項1に記載の圧力測定装置。
【請求項3】
GPSに基づき、前記所定の同期タイミングで同期信号を生成して前記複数の
静電容量センサに送るとともに、前記測定値にタイムスタンプを付加して出力するように構成したことを特徴とする、請求項1に記載の圧力測定装置。
【請求項4】
前記所定の同期タイミングの間に前記複数の
静電容量センサから得られた前記測定データをそれぞれオーバーサンプリングして平均化した後に、前記平均化処理を行うように構成したことを特徴とする、請求項1に記載の圧力測定装置。
【請求項5】
前記測定値は、外部に出力する所定の周期に達するまでに得られた測定値を平均化して前記測定値とするように、構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の圧力測定装置。
【請求項6】
前記測定する波動は、インフラサウンド
の波動であることを特徴とする、請求項1に記載の圧力測定装置。
【請求項7】
前記平均化処理は、前記測定データから前回の平均化処理により求めた測定値との差が最大及び最小となる測定データを除外して平均化処理をするようにしたことを特徴とする、請求項1に記載の圧力測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧力センサから構成された圧力測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人の可聴周波数(約20Hz~20KHz)よりも低い周波数の音であるインフラサウンド(超低周波音)を測定することで、地震や火山活動の自然災害を予知したり、建築物の構造評価や資源探査などの研究が進められている。
これらのインフラサウンドを測定できる圧力計として、例えば、パロサイエンティフィック社製の水晶振動子を用いた高精度な圧力計が知られている。この圧力計では、10億分の1の分解能、精度0.01%FSを実現可能としているが、高価な計測器である。
【0003】
ところで、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems) 技術により製造される静電容量センサは、安価かつ小型化できる省電力なデバイスであり、さまざまな分野に用いられている。しかし、単体として上記のようなインフラサウンドを計測するためにそのまま用いることは、SN比及びダイナミックレンジが不足しているため、実用的ではない。
このような課題を解決する手段として、例えば、地震計に複数のMEMS加速度センサを用いた技術が開示されている(例えば特許文献1)。
【0004】
特許文献1は、MEMS加速度センサの出力に含まれる熱雑音によるノイズの低減とA/D変換器による量子化誤差の低減を課題としている。熱雑音によるノイズの低減については、センサからの各アナログ出力信号を加算処理してノイズ成分を減少させ、帯域通過フィルタを通して不要な周波数範囲のノイズを除去している。量子化誤差の低減については、オーバーサンプリングしたのちにIIR(無限インパルス応答)低域通過フィルタを用いて、リアルタイムでノイズを除去している。
このように、ノイズを減少させるためには、加算処理することでノイズ成分がセンサの個数(N)の平方根の逆数に比例するため、個数(N)を増やすことが好ましいことになるが、センサの数が増えた場合に、実装面積が広がり、距離が離れているセンサ間では、測定タイミングが同一であっても検出する波動が異なることにより、測定器の解像度を低下させるという問題が生じる。
【0005】
また、インフラサウンドは科学的な研究や応用分野でも利用されており、大気中を長距離伝播する性質を利用して、地震や火山噴火の監視、気象現象の観測、津波観測などに活用されている。音波の周波数が低いため、建物や地下施設の構造評価、地下資源の探査にも利用されている。
このような場合、多地点で観測する必要があるときには、各観測地点で同期した正確な時刻による観測が、要求されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、インフラサウンドを測定することは、自然現象などを観察する上で重要であるにもかかわらず、高性能な圧力測定装置は高価であり、特に、多地点で観測する必要がある場合などには、多額の費用を伴うという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems) 技術により製造された、安価であり小型化できて省電力な静電容量センサを圧力センサとして複数用いるとともに、必要な分解能に対応して、これらのセンサの基板上に配置する範囲を決めるようにした、ことを最も主要な特徴とする。また、多地点で利用する場合にも、同期した測定データの信頼性が保証されるように構成したことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の圧力測定装置は、安価な静電容量センサを複数用いて必要とする分解能が得られるように構成した。また、GPS(Global Positioning System)を用いて、複数のセンサの同期タイミングをとるとともに、測定データにタイムスタンプを付加するようにしたことにより、多地点で同期した測定データの信頼性が保証できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る、圧力測定装置の基板上の圧力センサ配置を説明する図である。
【
図2】本発明に係る、測定する波動の圧力分解能に対応した圧力センサ間の距離を説明する図である。
【
図3】本発明に係る、圧力測定装置の全体構成を示す概念図である。
【
図4】本発明に係る、圧力測定装置の処理の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
安価な構成で必要とする分解能が得られるようにするとともに、多地点で同期した測定データの取得が可能な圧力測定装置を実現した。
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明に係る、圧力測定装置の基板上の圧力センサ配置を説明する図であり、1は回路パターンが印刷されている基板、2-1、・・・2-8は、基板1に配置されているMEMS 技術により製造された、圧力センサとしての静電容量センサである。
各静電容量センサは、同一の性能を有するものであり、横一列が等間隔に4個配置されて、縦に二列で合計8個が配置されている。静電容量センサ間の距離Xが最も大きいのは、センサ2-1とセンサ2-8又はセンサ2-4とセンサ2-5となる。
この状態で、一定の周波数を各静電容量センサが測定する場合、各センサが同一のタイミングで測定が開始された場合であっても、センサ間の距離によって測定する値が異なることになる。
すなわち、本来、各センサが測定する値は同一でなければならないが、どれだけズレたのかが、分解能となって現れる。最もズレが大きくなるのが、センサ2-1とセンサ2-8及びセンサ2-4とセンサ2-5のセンサ出力であり、分解能の限界値となる。
【0013】
図2は、本発明に係る、測定する波動の圧力分解能に対応した圧力センサ間の距離を説明する図である。例えば、測定する波動3が、振幅A=100Pa、周波数=5Hzであり、圧力分解能(dA)0.1Paで計測する場合、波の伝播速度を340m/sとすると、波長λは340÷5=68mである。ここで、λ/2間での波動を直線近似すると、A:dA=λ/2:Xの関係があるから、X=34mmとなる。
すなわち、この圧力分解能0.1Paでの波長のズレは最大で34mmであり、圧力センサ間の距離は34mm以内でなければならないことになる。
このようにして、複数の圧力センサが配置される範囲(距離)を決定することができ、波動の直線近似する区間を短くするようにセンサを配置する範囲Xを狭くして、実装位置の稠密性を高めることで、より測定する波動に近似でき、精度(圧力分解能)を高めることができる。
【0014】
図3は、本発明に係る圧力測定装置の全体構成を示す概念図であり、4-1、4-2、4-3、・・・4-nは、MEMS技術により製造されたn個の静電容量センサ、5-1、5-2、5-3、・・・5-nはn個の静電容量センサの出力信号をデジタル信号に変換するn個のA/D変換器、6-1、6-2、6-3、・・・6-nは、後述するn個のA/D変換器から出力されたデジタル信号をオーバーサンプリング等するn個の信号処理部、7は、n個の信号処理部から得られたデータを平均化処理する演算部、8は、平均化処理された信号の高域分をカットするIIRローパスフィルタ(LPF)、9は、後述する同期回路10に信号を送るとともに、測定値にタイムスタンプを付加するGPS(Global Positioning System)、10は、所定のサンプル周期でn個のA/D変換器6-1、6-2、6-3、・・・6-nを同時に起動して出力信号を時系列のデジタル信号にする同期回路、11は、所定のタイミングで測定値を出力する出力部である。
【0015】
n個の静電容量センサは、
図1で説明したように、予め決められている精度(圧力分解能)が得られるように、配置できる範囲が決められており、その範囲内に平面的又は立体的な形状に構成した基板上に配置されている。
これらのセンサから計測された圧力信号は、n個のA/D変換器によってデジタル信号に変換される。変換が開始されるタイミングは、同期回路10により、GPS9から1秒ごとに出力されるパルス1PPSに基づいて、各A/D変換器に同期信号(本実施例では0.1ms毎)が送られて開始される。
【0016】
同期回路10からの同期信号に基づいて所定のタイミングでサンプリングされて、n個のA/D変換器から出力された信号は、それぞれ信号処理部6-1などに入力される。信号処理部6-1、・・・6-nでは、MEMSによる静電容量センサは熱雑音に依存するノイズが大きいことから、同時に温度を計測して、入力された信号である圧力信号を修正している。
すなわち、所定のタイミングでサンプリングされた圧力信号と温度計測値をオーバーサンプリングし、温度計測値により修正された圧力信号の加算平均が求められて、個々のセンサ出力に含まれる固有のノイズ成分が、オーバーサンプリングの回数の平方根の逆数に比例して減少することになる。
ここで、個々のセンサは同一の性能を有することが条件であるが、個々のセンサの持つ周波数応答性能には偏差があり、その周波数帯域内の周期でサンプリングを行った場合、気圧変位に対して時定数が長く応答性能が低いセンサは常に変位量を低く測定する傾向がある。そのために、個々のセンサ出力は、オーバーサンプリング処理により測定周期の影響を受けない周波数帯域まで下げる必要がある。
【0017】
そして、信号処理部6-1、6-2、6-3、・・・6-nの各々から出力された信号は、演算部7により、加算平均されて、n個のセンサ出力間でのノイズ成分が減少する。
すなわち、静電容量センサの総数n個の加算平均をすることにより、各センサ出力間でのノイズ成分はnの平方根の逆数に比例して減少することになり、結果的に測定のダイナックレンジを広げることになる。
【0018】
演算部7で加算平均された出力信号は、ローパスフィルタ8を通り、不要な高い周波数範囲のノイズ成分が除去される。ローパスフィルタ8は、IIRフィルタであり、リアルタイムで連続的に処理される。
ローパスフィルタ8のカットオフ周波数は、使用用途に応じて要求される測定帯域を考慮して、パラメータを設定可能としている。
【0019】
図4は、本発明に係る圧力測定装置の処理の流れを説明する図であり、静電容量センサ4-1、4-2、4-3、・・・4-nとこれらに内蔵されている、図示しない温度センサとによる、温度計測(S10)と圧力計測(S20)が行われて、それぞれの計測データはオーバーサンプリングされる(S30)。そして、n個のA/D変換器5-1、5-2、5-3、・・・5-nから出力されたデジタル信号は、信号処理部6-1、6-2、6-3、・・・6-nにより、温度計測で得られた計測データに対応して、各静電容量センサの温度に依存するノイズ成分が修正された圧力データとなる(S40)。
【0020】
修正された各センサからの圧力データ(測定データ)は、演算部7で平均化処理され(S50)、ローパスフィルタ8を通して出力部11に出力される(S60)。
ここで、外部に出力する所望とされる周期に応じて、その周期に達するまで(N)、同期回路10からのサンプル周期に基づき、デジタル信号に変換された測定データから、温度計測(S10)、圧力計測(S20)など上記の処理が順次繰り返され(S70)、それぞれのタイミングで測定値が出力部11に記憶される。
【0021】
そして、外部に出力する所定の周期に達すると(Y)、それまで出力部11に記憶されている測定値の平均をとる(S80)。このことにより、実質的に出力する所望の周期をオーバーサンプリングして、加算平均を取ることと同等の効果が得られる。これにより、高精度の圧力測定値を得ることができる。次に、GPS9により、その時点でのタイムスタンプを付して(S90)、圧力測定値として予め決められているフォーマットにより出力部11から外部に出力される(S100)。
【0022】
このように、測定値にタイムスタンプを付することは、例えば、離れた多地点で圧力観測するような場合には、それぞれの地点での測定値の絶対時間と同期タイミングを知ることが必要であり、震源地などの発生源の位置を特定する上で有効な手段である。
すなわち、本発明の圧力測定装置では、GPSを使用することで、世界標準時に同期したタイムスタンプの付加された測定値が出力されるため、多地点観測網においても時系列同期測定を可能にすることができる。例えば、数Km離して分散計測された多数のインフラサウンド測定結果から、発生時刻、減衰量を取得して、発生源の位置、規模を推定できる。
【0023】
また、上記の加算平均を行う処理方法に代えて、N個のセンサに冗長センサとして2個のセンサを設け、最初のデフォルト値として例えば1気圧を予め設定しておき、各センサからの測定データと比較して変化量が最も大きい最大値と最も小さい最小値を求める。そして、最大値と最小値の測定データを除くN個の測定データを加算平均し、このタイミングでの測定値とする。以降、同様にして、前回のタイミングで加算平均して得られた測定値と、(N+2)個の各センサの測定データとを比較して、最大値と最小値を求め、これらの測定データを除くN個の測定データの加算平均を求めて、このタイミングでの測定値を得るようにする。なお、同じ最大値又は最小値が複数ある場合は、測定データに大きなノイズ成分が含まれていない(実測値に近い)と考えられるため、予め決められたN個のセンサの測定データで加算平均を求めるようにする。
【0024】
前回の測定値を基準として、最大及び最小となる測定データが今回の測定値(平均値)からの最も大きなズレであり、最も大きなノイズ成分を含むと考えられるため、このようにして加算平均を求めるようにすることで、最も大きなノイズ成分を含む測定データが除外されて加算平均され、全てのセンサからの測定データを加算平均する上記の処理方法と比べて、より一層実測値に近いものとなり、測定装置の精度を高めることができる。
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
安価で高精度な圧力測定装置の実現が可能となり、インフラサウンドを測定することが不可欠な分野である、自然科学分野、土木建築分野、防災分野、資源探査分野などで有益な情報を得ることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 基板
2-1 静電容量センサ
3 波動
4-1 静電容量センサ
5-1 A/D変換器
6-1 信号処理部
7 演算部
8 ローパスフィルタ
9 GPS
10 同期回路
11 出力部
【要約】
【課題】複数の安価な圧力センサで構成して高い精度を確保するとともに、多地点で測定しても信頼性が保証された圧力測定を可能とする。
【解決手段】装置内に複数の圧力センサ4-1、4-2、4-3、・・・4-nを配置し、前記複数の圧力センサから所定の同期タイミングにより集めた測定データを、平均化処理7して測定値を求める、圧力測定装置において、測定する波動の圧力分解能に応じて、前記複数の圧力センサが配置される範囲を決定するようにした。
【選択図】
図3