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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】レーザ処理装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/03 20060101AFI20231117BHJP
   B23K 26/351 20140101ALI20231117BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
B23K26/03
B23K26/351
G02F1/13 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019167652
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021041455
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】598072179
【氏名又は名称】株式会社片岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】小市 真樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎二
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-244910(JP,A)
【文献】特開2002-176240(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0041196(US,A1)
【文献】特開2010-048579(JP,A)
【文献】特開2009-048747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/03
B23K 26/351
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを介して処理用のレーザを被処理物に照射して所望の処理を施すレーザ処理装置であって、
前記対物レンズを介して変位計測用のレーザを被処理物上の目標位置に向けて照射し、反射したレーザを受光素子により受光することを通じて、対物レンズから被処理物上の目標位置までの距離を計測する変位計測機構と、
前記変位計測用のレーザの偏光方向をある範囲内で任意に変化させることができ、その偏光方向の調整を通じて、変位計測用のレーザが被処理物における目標位置が属する層以外の層で反射して受光素子に入射するノイズの量を減少させる偏光素子と
を具備するレーザ処理装置。
【請求項2】
前記変位計測機構は、前記対物レンズに入射する前記変位計測用のレーザを前記対物レンズの光軸から当該光軸と直交または略直交する方向に沿って一方側に偏らせる光束オフセット手段を有し、
前記受光素子における、被処理物の目標位置に当たって反射したレーザを受光した位置に基づいて、対物レンズから被処理物上の目標位置までの距離を計測する請求項1記載のレーザ処理装置。
【請求項3】
前記対物レンズに入射する前記処理用のレーザの光軸の向きを操作し、被処理物に対して処理用のレーザを照射する位置を前記目標位置を含む一定領域内で変位させるガルバノスキャナを具備する請求項1または2記載のレーザ処理装置。
【請求項4】
液晶ディスプレイモジュールに生ずる不良箇所に処理用のレーザを照射するレーザリペア装置である請求項1、2または3記載のレーザ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物にレーザを照射して所望の処理を施すレーザ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ処理装置の一種として、液晶ディスプレイモジュールや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイモジュール等に生ずる不良(または、欠陥)箇所にレーザを照射してその修復を行うレーザリペア装置を挙げることができる(例えば、下記特許文献を参照)。
【0003】
レーザリペア装置にあっては、被処理物上の不良箇所に精確に処理用のレーザの焦点を合わせることが要求される。レーザの焦点が僅かでもずれると、不良箇所を適切に修正できないばかりか、不良箇所に近接する正常な素子または回路を損傷させることにもなりかねない。
【0004】
被処理物に対してレーザの焦点を操作するためには、レーザを集光する対物レンズを有した照射ユニットを、ねじ送り機構やピエゾモータ(超音波モータ)その他の調節機構を介して、レーザ光軸と平行または略平行なZ軸方向に移動させる。
【0005】
その上で、照射ユニットから被処理物までの離間距離を精密に計測可能なレーザ変位計(例えば、下記非特許文献を参照)を照射ユニットに付設しておき、当該変位計により計測される距離が対物レンズの焦点距離と合致するよう、照射ユニットの位置をZ軸方向に沿って調節するフィードバック制御を実行することが考えられる。これにより、レーザを照射する処理の最中に振動等の外乱がレーザ処理装置に加わったとしても、被処理物上の目標位置にレーザの焦点を合わせ続けることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-274709号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】“レーザ変位計|キーエンス(登録商標)”、[online]、令和1年、[令和1年6月26日検索]、インターネット<https://www.keyence.co.jp/products/measure/laser-positioning/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近時では、被処理物である液晶ディスプレイ等の大形化が顕著となっている。大形の被処理物は、部分的にまたは全体的に撓み変形することがどうしても避けられない。
【0009】
対物レンズを含む処理用のレーザを伝送する光学系の外部にレーザ変位計を付設する場合、対物レンズより出射する処理用のレーザが被処理物に当たる位置と、変位計より出射する変位計測用のレーザが被処理物に当たる位置とが合致せず、互いにずれている。それ故、変位計が計測する照射ユニットから被処理物までの離間距離が、対物レンズから被処理物における処理用のレーザを照射するべき位置までの距離に、常に等しいことが保証されない。被処理物の撓み変形の度合い如何により、両者の乖離は増大する。
【0010】
本発明は、レーザ処理装置の対物レンズから処理用のレーザを照射するべき被処理物上の目標位置までの距離を精度よく計測することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するべく、本発明では、対物レンズを介して処理用のレーザを被処理物に照射して所望の処理を施すレーザ処理装置であって、前記対物レンズを介して変位計測用のレーザを被処理物上の目標位置に向けて照射し、反射したレーザを受光素子により受光することを通じて、対物レンズから被処理物上の目標位置までの距離を計測する変位計測機構と、前記変位計測用のレーザの偏光方向をある範囲内で任意に変化させることができ、その偏光方向の調整を通じて、変位計測用のレーザが被処理物における目標位置が属する層(または、面)以外の層(または、面)で反射して受光素子に入射するノイズの量を減少させる偏光素子とを具備するレーザ処理装置を構成した。
【0012】
並びに、本発明では、対物レンズを介して処理用のレーザを被処理物に照射して所望の処理を施すレーザ処理装置であって、前記対物レンズを介して変位計測用のレーザを被処理物上の目標位置に向けて照射し、反射したレーザを受光素子により受光することを通じて、対物レンズから被処理物上の目標位置までの距離を計測する変位計測機構を具備し、前記変位計測機構は、前記対物レンズに入射する前記変位計測用のレーザを前記対物レンズの光軸から当該光軸と直交または略直交する方向に沿って一方側に偏らせる光束オフセット手段を有し、前記受光素子における、被処理物の目標位置に当たって反射したレーザを受光した位置に基づいて、対物レンズから被処理物上の目標位置までの距離を計測するレーザ処理装置を構成した。
【0013】
本発明に係るレーザ処理装置は、前記対物レンズに入射する前記処理用のレーザの光軸の向きを操作し、被処理物に対して処理用のレーザを照射する位置を前記目標位置を含む一定領域内で変位させるガルバノスキャナを具備することがある。
【0014】
本発明に係るレーザ処理装置は、液晶ディスプレイモジュールに生ずる不良箇所にレーザを照射するレーザリペア装置として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レーザ処理装置の対物レンズから処理用のレーザを照射するべき被処理物上の目標位置までの距離を精度よく計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態のレーザ処理装置の全体構成を示す図。
図2】同実施形態のレーザ処理装置が処理する対象物の一例である液晶ディスプレイの構造を示す図。
図3】同実施形態のレーザ処理装置のレーザ処理用の光学系及び観測用の光学系の提要を示す図。
図4】同実施形態のレーザ処理装置の光軸方向の変位計測用の光学系の提要を示す図。
図5】同実施形態のレーザ処理装置の光軸方向の変位計測用の光学系による計測の仕組みを説明する図。
図6】同実施形態のレーザ処理装置の光軸方向の変位計測用の光学系が照射するレーザ光及びその反射光を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ処理装置は、被処理物たる液晶ディスプレイモジュール4に生ずる不良箇所にレーザL1を照射してこれを修正するレーザリペア装置である。
【0018】
図1に、本レーザ処理装置の全体概要を示す。本レーザ処理装置は、処理用のレーザL1を液晶ディスプレイモジュール4上の所望の位置に照射するための光学系1と、対物レンズ19から液晶ディスプレイモジュール4上の対物レンズ19の光軸Aが指向する位置までの距離を計測するための光学系2と、液晶ディスプレイモジュール4上の対物レンズ19の光軸Aが指向する目標位置及びその周辺の領域を観測するための光学系3とを具備する。
【0019】
以後、説明の便宜上、液晶ディスプレイモジュール4が拡張する面と平行または略平行な方向をX軸方向及びY軸方向と定義し、液晶ディスプレイモジュール4が拡張する面に直交または略直交する方向をZ軸方向と定義する。Z軸は、X軸及びY軸の各々と直交する。かつ、Z軸は、液晶ディスプレイモジュール4に相対する対物レンズ19の光軸Aが伸びる方向と平行または略平行である。
【0020】
レーザ処理用の光学系1は、レーザ発振器11、ガルバノスキャナ12、13、テレセントリックレンズ14、チューブレンズ15、デュアルバンドミラー16、17、ダイクロイックミラー18、及び対物レンズ19を備えている。
【0021】
本実施形態にあって、レーザ発振器11は、処理用のレーザL1として、複数の波長のレーザ、例えば波長532nmのレーザL1及び波長1064nmのレーザL1の二種類のレーザを選択的に出力して供給することができる。何れの波長のレーザL1を出力するかは、液晶ディスプレイモジュール4に対して施すべき処理の内容に依存する。
【0022】
ガルバノスキャナ12、13は、対物レンズ19に入射するレーザL1の光軸の向きを操作することで、対物レンズ19から出射し液晶ディスプレイモジュール4に照射するレーザL1の照射位置を、対物レンズ19の光軸Aが液晶ディスプレイモジュール4に対して交わる目標位置を含む一定領域内で、X軸方向及びY軸方向に変位させる。Y軸ガルバノスキャナ13は、液晶ディスプレイモジュール4上のレーザL1の照射位置をX軸方向に変位させ、X軸ガルバノスキャナ12は、液晶ディスプレイモジュール4上のレーザL1の照射位置をX軸方向に変位させる。これらガルバノスキャナ12、13は、既知のそれと同様、レーザL1を反射するガルバノミラーをサーボモータまたはステッピングモータ等により回動させるものである。
【0023】
テレセントリックレンズ14は、ガルバノスキャナ12、13により操作されたレーザL1の光軸の向きを、その入射角如何を問わず当該レンズ14の光軸に平行または略平行となるように調整する。テレセントリックレンズ14から出射したレーザL1は、当該レーザL1の伝送経路上の仮想的な面Pの上に集光する。ガルバノスキャナ12、13は、この仮想的な面Pの上でレーザL1が集光する位置を変位させる。テレセントリックレンズ14から出射したレーザL1は、チューブレンズ15を通過することで平行光線(平行光束)となる。その上で、結像レンズであるチューブレンズ15と、集光レンズである対物レンズ19との組み合わせにより、無限遠補正光学系を作出する。
【0024】
チューブレンズ15から出射したレーザL1は、デュアルバンドミラー16、17で反射される。デュアルバンドミラー16、17は、レーザ発振器11が出力する、例えば波長532nmのレーザL1及び波長1064nmのレーザL1を高効率で反射する。
【0025】
さらに、レーザL1は、ダイクロイックミラー18により反射される。このダイクロイックミラー18は、レーザ発振器11が出力する、例えば波長532nmのレーザL1及び波長1064nmのレーザL1を高効率で反射する一方、それ以外の波長の光L2、Iを高効率で透過する。
【0026】
ダイクロイックミラー18で反射されたレーザL1は、対物レンズ19に入射する。対物レンズ19は、その光軸Aと液晶ディスプレイモジュール4とが交わる目標位置または目標位置を含む一定領域内の所望の位置に、レーザL1の仮想面Pにおける像を結像する。かくして、対物レンズ19から出射する処理用のレーザL1が、液晶ディスプレイモジュール4上の所望の位置に照射されることとなる。
【0027】
変位計測用の光学系2は、レーザ発振器21、ビーム整形レンズ22、光束オフセット手段たるピックオフミラー23、ビームスプリッタ(または、ハーフミラー)24、偏光素子たる1/2波長板25、ホットミラー26、チューブレンズ27、ホットミラー28、コールドミラー29、ダイクロイックミラー18、対物レンズ19、及び受光素子たるカメラセンサ20を備えている。
【0028】
レーザ発振器21は、変位計測用のレーザL2として、例えば波長780nmのレーザを出力して供給する半導体レーザ(ダイオードレーザ)である。変位計測用のレーザL2の波長は、処理用のレーザL1の波長とは異なる。レーザ発振器21が出力するレーザL2は、直線偏光または略直線偏光である。
【0029】
ビーム整形レンズ22は、シリンドリカルレンズやコリメートレンズ等を含み、レーザ発振器21が出力するレーザビームL2の投影形状(スポット形状)を所望の形状に整形する。ビーム成形レンズ22がコリメートレンズを含む場合、そのコリメートレンズを通過したレーザL2は平行光線となる。
【0030】
ピックオフミラー23は、レーザL2の光束の一部を反射しつつ、残部を反射せずに削ぎ落とす。ピックオフミラー23は、例えば、その光軸の方向に沿って見たときに円板状をなすミラーを約半分に切断して半月板状としたD型ミラーである。変位計測用のレーザL2の伝送経路上にピックオフミラー23を配置する理由、ピックオフミラー23の役割については、後述する。
【0031】
ビームスプリッタ24は、レーザL2の伝送経路の上流側から下流側に向かう、液晶ディスプレイモジュール4に照射するべきレーザL2を高効率で透過しつつ、伝送経路の下流側から上流側に向かう、液晶ディスプレイモジュール4に当たって反射したレーザL2を高効率で反射する。
【0032】
1/2波長板25は、これを通過するレーザL2の偏光方向を変化させる。1/2波長板25は、その光軸と直交する所定の光学軸を有しており、1/2波長板25に入射するレーザL2の偏光方向を、当該光学軸に対称となる方向に変化させる。つまり、1/2波長板25の光学軸とレーザL2の偏光方向とがなす角度である変位角(1/2波長板25の光学軸とレーザL2の偏光方向とが一致するときの変位角を0°とする)について、1/2波長板25に入射するレーザL2の偏光方向の変位角がθであるとすると、1/2波長板25から出射するレーザL2の偏光方向の変位角は-θとなる。この1/2波長板25は、その光軸を中心に回転させることができるように支持させてある。変位計測用のレーザL2の伝送経路上に1/2波長板25を配置する理由、1/2波長板25の役割については、後述する。
【0033】
1/2波長板25の下流にあり、チューブレンズ27を挟んで対向するホットミラー26、28は、レーザ発振器21が出力する、例えば波長780nmのレーザL2を高効率で反射する。
【0034】
ホットミラー26、28で反射されたレーザL2は、チューブレンズ27を通過する。詳細には、ミラー26で反射されたレーザL2が上流側からチューブレンズ27に入射すると、そのレーザL2は略平行光となって下流側に出射し、ミラー28へと向かう。並びに、ミラー28で反射されたレーザL2が下流側からチューブレンズ27に入射すると、そのレーザL2は上流側に出射してミラー26へと向かい、最終的にカメラセンサ20の受光面で結像する。
【0035】
ホットミラー28の下流にあるコールドミラー29は、ホットミラー28とは逆に、レーザ発振器21が出力する、例えば波長780nmのレーザL2を高効率で透過する。
【0036】
ダイクロイックミラー18及び対物レンズ19は、レーザ処理用の光学系1におけるそれと共通である。変位計測用のレーザL2の波長は、処理用のレーザL1の波長とは異なっており、ダイクロイックミラー18は、変位計測用のレーザL2を高効率で透過する。
【0037】
ダイクロイックミラー18を通過したレーザL2は、対物レンズ19に入射する。このレーザL2の光軸は、対物レンズ19の光軸Aに一致または略一致する。そして、対物レンズ19は、その光軸Aと液晶ディスプレイモジュール4とが交わる目標位置にレーザL2を集光する。それは即ち、変位計測用のレーザL2が液晶ディスプレイモジュール4に照射される位置が、処理用のレーザL1が液晶ディスプレイモジュール4に照射される位置に合致しまたは極近接することを意味する。
【0038】
レーザ発振器21が出力する変位計測用のレーザL2は、ビーム整形レンズ22、ピックオフミラー23、ビームスプリッタ24、1/2波長板25、ホットミラー26、チューブレンズ27、ホットミラー28、コールドミラー29、ダイクロイックミラー18を経由した後、対物レンズ19から出射して液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置に照射される。
【0039】
さらに、液晶ディスプレイモジュール4に当たって跳ね返るレーザL2の反射光が、対物レンズ19に入射し、ダイクロイックミラー18、コールドミラー29、ホットミラー28、チューブレンズ27、ホットミラー26、1/2波長板25を経由して遡り、ビームスプリッタ24に至る。レーザL2の伝送経路の下流側から入射するこのレーザL2の反射光は、ビームスプリッタ24を透過せず、ビームスプリッタ24により高効率で反射される。
【0040】
ビームスプリッタ24で反射されたレーザL2の反射光は、カメラセンサ20に入射する。カメラセンサ20は、例えばCCD(Chargg-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)等の固体撮像素子を含み、例えば波長780nmのレーザL2の反射光を受光して検出する。しかして、カメラセンサ20が、液晶ディスプレイモジュール4で反射したレーザL2の反射光を受光することを通じて、対物レンズ19から液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置までの距離を計測することができる。その計測の仕組みについては、後述する。
【0041】
観測用の光学系3は、落射照明光源31、アイリス(虹彩絞り)32、コリメートレンズ33、ビームスプリッタ(または、ハーフミラー)34、コールドミラー35、チューブレンズ36、コールドミラー29、ダイクロイックミラー18、対物レンズ19、コールドミラー37、偏光板38及びカメラセンサ39を備えている。加えて、図3に示すように、本実施形態のレーザ処理装置には、観測用の光学系3の構成要素として、偏光板30が付随したバックライト300を追加的に配設している。
【0042】
落射照明光源31は、液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置及びその周辺の領域を照明する可視光波長の落射光Iを出力し供給する光源であり、例えばLED(Ligth Emitting Diode)を用いた照明装置である。
【0043】
アイリス32は、落射光Iの光量を増減調整する。コリメートレンズ33は、アイリス32を通過した落射光Iを平行光線化する。
【0044】
ビームスプリッタ34は、落射光Iの伝送経路の上流側から下流側に向かう、液晶ディスプレイモジュール4に照射するべき落射光Iを高効率で透過しつつ、伝送経路の下流側から上流側に向かう、液晶ディスプレイモジュール4に当たって反射した落射光Iを高効率で反射する。
【0045】
ビームスプリッタ34の下流にあり、チューブレンズ36を挟んで対向するコールドミラー35、29は、落射照明光源31が出力する可視光波長の光Iを高効率で反射する。
【0046】
コールドミラー29は、変位計測用の光学系2におけるそれと共通である。並びに、ダイクロイックミラー18及び対物レンズ19は、レーザ処理用の光学系1におけるそれと共通である。ダイクロイックミラー18は、落射光Iを高効率で透過する。
【0047】
ダイクロイックミラー18を通過した落射光Iは、対物レンズ19に入射する。この落射光Iの光軸は、対物レンズ19の光軸Aに一致または略一致する。そして、対物レンズ19は、その光軸Aと液晶ディスプレイモジュール4とが交わる目標位置に落射光Iを集光する。
【0048】
落射照明光源31が出力する落射光Iは、アイリス32、コリメートレンズ33、ビームスプリッタ34、コールドミラー35、チューブレンズ36、コールドミラー29、ダイクロイックミラー18を経由した後、対物レンズ19から出射して液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置に照射され、目標位置及びその周辺の領域を照明する。
【0049】
また、図3に示しているように、バックライト300は、液晶ディスプレイモジュール4における対物レンズ19が臨む側の面と反対側の面に相対している。バックライト300は、一般的な液晶ディスプレイのバックライトと同様、可視光波長の光を面発光する光源であり、反対側から液晶ディスプレイモジュール4を照明する。
【0050】
液晶ディスプレイモジュール4に当たって跳ね返った落射光Iの反射光や、バックライト300から放たれ偏光板30及び液晶ディスプレイモジュール4を透過した透過光は、対物レンズ19に入射し、ダイクロイックミラー18、コールドミラー29、チューブレンズ36、コールドミラー35を経由して遡り、ビームスプリッタ34に至る。落射光Iの伝送経路の下流側から入射するこの反射光または透過光は、ビームスプリッタ34を透過せず、ビームスプリッタ34により高効率で反射される。
【0051】
ビームスプリッタ34で反射された反射光または透過光は、コールドミラー37により反射され、さらには偏光板38を通過して、カメラセンサ39に入射する。カメラセンサ39は、例えばCCDやCMOS等の固体撮像素子を含み、可視光波長の反射光または透過光を受光して検出し、以て液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置及びその周辺の領域を撮像した高精細な画像を得ることができる。
【0052】
なお、図示しないが、本実施形態のレーザ処理装置は、対物レンズ19の光軸Aを液晶ディスプレイモジュール4に対し相対的にX軸方向及びY軸方向に変位させることのできるXY軸調節機構や、対物レンズ19を液晶ディスプレイモジュール4に対し相対的にZ軸方向に変位させることのできるZ軸調節機構を具備している。XY軸調節機構は、例えば、対物レンズ19を含むユニットをX軸方向及びY軸方向に沿って移動させるXYステージ、あるいは、液晶ディスプレイモジュール4を支持する支持体をX軸方向及びY軸方向に沿って移動させるXYステージ等である。Z軸調節機構は、例えば、対物レンズ19を含むユニットをZ軸方向に沿って移動させるねじ送り機構またはピエゾモータステージ等である。
【0053】
被処理物たる液晶ディスプレイモジュール4に関して補足する。本実施形態では、液晶ディスプレイモジュール4として、いわゆるTN(Twisted Nematic)方式やVA(Vertical Alignment)方式のものを想定している。図2に示すように、この種の液晶ディスプレイモジュール4は、当該ディスプレイのユーザに近い正面(ユーザから見て手前方)から、偏光板41、ガラス基板42、カラーフィルタ43、透明導電膜からなる共通電極44、配向膜45、液晶層46、配向膜47、TFT(Thin Film Transistor)及び透明導電膜からなる画素電極及び配線を含むTFTアレイ48、ガラス基板49、偏光板40、バックライト400の順に積層された構造をなしている。不良箇所の修復を目的として処理用のレーザL1を照射する対象となるのは、TFTアレイ48の層である。
【0054】
図3に、光学系3による液晶ディスプレイモジュール4の観測、及び光学系1によるレーザ処理の模様を示す。但し、簡明化のため、図3では、光学系3の一部の構成要素の図示を省略している。レーザ処理は、偏光板41、40及びバックライト400を装着していない液晶ディスプレイモジュール4に対して行う。レーザ処理装置の対物レンズ19は、後に偏光板40及びバックライト400が装着される側である液晶ディスプレイモジュール4の背面に臨む。そして、対物レンズ19より出射する処理用のレーザL1を、ガラス基板49を透過させてTFTアレイ48に照射することで、短絡している配線を切断したり、切断している配線を溶接したり、混入した異物を除去したり、TFTまたは画素電極等を焼き潰したりして、液晶ディスプレイモジュール4に発生した不良の画素、例えば、常にバックライト400の光を透過させる(光ったままに見える)輝点欠陥や、常にバックライト400の光を遮断する(光らない)黒点欠陥、バックライト400の光の透過量が変化しない欠陥等を修繕する。
【0055】
また、対物レンズ19より出射する落射光Iを液晶ディスプレイモジュール4に照射し、その反射光を対物レンズ19に入射させてカメラセンサ39で受光することにより、液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置及びその周辺領域を撮像する。これにより、現在対物レンズ19の光軸Aが指向している目標位置を知得して、XY軸調節機構を介して対物レンズ19を含むユニットを液晶ディスプレイモジュール4に対し相対的に変位させ、対物レンズ19の光軸AをレーザL1を照射するべき所望のXY位置に合わせるフィードバック制御を実行することが可能となる。加えて、液晶ディスプレイモジュール4に生じている不良箇所を発見したり、レーザL1を照射して行った処理の成否を確認したりすることもできる。
【0056】
レーザ処理装置が備えるバックライト300を点灯させ、液晶ディスプレイモジュール4を透過した透過光を対物レンズ19に入射させてカメラセンサ39で受光することにより、液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置及びその周辺領域を撮像することもあり得る。このとき、偏光板30が偏光板40(または、偏光板41)を代替し、偏光板38が偏光板41(または、偏光板40)を代替することで、偏光板40、41及びバックライト400を装着した完成品の液晶ディスプレイモジュール4を光学的に具現でき、特に不良箇所の発見に役立つ。
【0057】
処理用のレーザL1を照射して液晶ディスプレイモジュール4の不良箇所を適切に修正するためには、対物レンズ19から出射するレーザL1の焦点を精確にTFTアレイ48の層に合わせる必要がある。その前提として、対物レンズ19から液晶ディスプレイモジュール4(のTFTアレイ48)までの距離を精度よく計測することが求められる。
【0058】
図4に、光学系2による対物レンズ19とTFTアレイ48とのZ軸方向に沿った離間距離の計測の模様を示す。但し、簡明化のため、図4では、光学系2の一部の構成要素の図示を省略している。既に述べた通り、レーザ処理装置の対物レンズ19は、液晶ディスプレイモジュール4の背面に臨んでおり、当該対物レンズ19より出射する変位計測用のレーザL2を、ガラス基板49を透過させて液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置(特に、TFTアレイ48)に照射する。
【0059】
変位計測用のレーザL2は、レーザ発振器21より供給されるが、その伝送の過程でピックオフミラー23に当たり、一部の光束L21のみがピックオフミラー23により反射されて対物レンズ19ひいては液晶ディスプレイモジュール4へと向かい、残りの光束は反射されずに削ぎ落とされて対物レンズ19に向かわない。その帰結として、対物レンズ19に入射する光束L21が、対物レンズ19の光軸Aから当該光軸Aと直交または略直交するX軸方向に沿って一方側に偏る。対物レンズ19の光軸AからX軸方向に沿って他方側には、光束L21が殆どまたは全く入射しない。図4では、対物レンズ19の光軸Aを一点鎖線で表し、光束L21を実線で表している。
【0060】
対物レンズ19より出射し、液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置に当たって跳ね返るレーザL2の反射光の光束L22は、再び対物レンズ19に入射し、ビームスプリッタ24で反射される。カメラセンサ20は、この反射光の光束L22を受光する。図4では、光束L22を破線で表している。
【0061】
図5に、対物レンズ19から液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置(特に、TFTアレイ48)までのZ軸方向に沿った離間距離と、カメラセンサ20において反射光L22を受光するX軸方向に沿った受光位置Rとの関係を示している。カメラセンサ20が反射光L22を受光する位置Rは、対物レンズ19からの離間距離に比例または略比例して線形的に変化する。
【0062】
従って、受光位置Rに基づき、現在の対物レンズ19から液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置までの精密な距離を推定することができる。そして、Z軸調節機構を介して対物レンズ19を含むユニットを液晶ディスプレイモジュール4に対し相対的に変位させ、対物レンズ19より出射する処理用のレーザL1の焦点を照射するべき所望の層のZ位置に合わせるフィードバック制御を実行することが可能となる。
【0063】
だが、液晶ディスプレイモジュール4に対して照射した変位計測用のレーザL2の光束L21の全てが、液晶ディスプレイモジュール4における同一の層で反射するわけではない。図6に示しているように、理想的には、レーザL2の光束L21の全てが、処理用のレーザL1を照射するべきTFTアレイ48の層で反射し、そのTFTアレイ48の層で反射した光束L221のみをカメラセンサ20で受光できることが望ましい。しかしながら、実際には、レーザL2の光束L21の一部L210が、TFTアレイ48の層で反射せずにTFTアレイ48以外の層、特に液晶層46を通過した先の界面で反射し、その反射光L222をカメラセンサ20で受光することが起こり得る。反射光222は、対物レンズ19から液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置までのZ軸方向に沿った距離を計測するにあたり、ノイズとなる。
【0064】
上記のようなノイズ光L222を低減する目的で、本実施形態では、変位計測用の光学系2に、レーザL2の偏光方向を変化させることを可能とする偏光素子として、1/2波長板25を配置している。1/2波長板25をその光軸回りに回動操作すれば、当該1/2波長板25を通過して液晶ディスプレイモジュール4へと向かうレーザL2の光束L21の偏光方向をある範囲内で任意に変化させることができる。
【0065】
図6に示しているように、液晶ディスプレイモジュール4の各層に対する入射角が0°でない光束L21、即ち光軸Aに対して平行でなく傾いている光束L21の各層での反射率は、当該光束L21が含むp偏光成分とs偏光成分とで相異なる。一般に、入射角が臨界角以上でない限り、p偏光成分の反射率は、s偏光成分の反射率よりも小さくなる。対物レンズ19から出射して液晶ディスプレイモジュール4に照射されるレーザL2の光束L21がs偏光であり、液晶層46が通過する光の偏光方向をその光軸回りに90°旋回させる状態にあると仮定すると、液晶層46に入射した光束L210は配向膜45に至るまでにs偏光からp偏光へと遷移し、液晶層46と配向膜45との界面における反射率が低下して、同界面で反射する反射光L220の強度が小さくなる。これは、カメラセンサ20に入射するノイズ光L222が低減することを意味する。入射角が反射界面に係るブリュースター角に近い光束L21ほど、ノイズとなる反射光L220、L222が弱まる。
【0066】
従って、1/2波長板25をその光軸回りに回動操作し、レーザL2の光束L21の偏光方向を調節することにより、カメラセンサ20に入射する反射光L22のS/N比を高めることが可能となる。S/N比の改善は、対物レンズ19から液晶ディスプレイモジュール4上の目標位置までの距離の計測の精度の一層の向上に資する。
【0067】
本実施形態では、対物レンズ19を介して処理用のレーザL1を被処理物4に照射して所望の処理を施すレーザ処理装置であって、前記対物レンズ19を介して変位計測用のレーザL2(L21)を被処理物4上の目標位置に向けて照射し、反射したレーザL2(L22)を受光素子20により受光することを通じて、対物レンズ19から被処理物4上の目標位置までの距離を計測する変位計測機構と、前記変位計測用のレーザL2(L21)の偏光方向をある範囲内で任意に変化させることができ、その偏光方向の調整を通じて、変位計測用のレーザL2(L21)が被処理物4における目標位置が属する層(または、面)48以外の層(または、面)で反射して受光素子20に入射するノイズL222の量を減少させる偏光素子25とを具備するレーザ処理装置を構成した。
【0068】
並びに、本実施形態では、対物レンズ19を介して処理用のレーザL1を被処理物4に照射して所望の処理を施すレーザ処理装置であって、前記対物レンズ19を介して変位計測用のレーザL2(L21)を被処理物4上の目標位置に向けて照射し、反射したレーザL2(L22)を受光素子20により受光することを通じて、対物レンズ19から被処理物4上の目標位置までの距離を計測する変位計測機構を具備し、前記変位計測機構は、前記対物レンズ19に入射する前記変位計測用のレーザL2(L21)を前記対物レンズ19の光軸Aから当該光軸Aと直交または略直交する方向に沿って一方側に偏らせる光束オフセット手段23を有し、前記受光素子20における、被処理物4の目標位置に当たって反射したレーザL2(L22)を受光した位置に基づいて、対物レンズ19から被処理物4上の目標位置までの距離を計測するレーザ処理装置を構成した。
【0069】
本実施形態によれば、レーザ処理装置の対物レンズ19から処理用のレーザL1を照射するべき被処理物4上の目標位置までの距離を精度よく計測することができる。そして、対物レンズ19を通じて被処理物4に照射するレーザ光Lの照射位置を精確に被処理物4上の目標位置に合わせることが可能となる。
【0070】
また、本実施形態では、レーザ処理用の光学系1にガルバノスキャナ12、13を採用しており、被処理物4に対して処理用のレーザ1を照射する位置を微細かつ高速に制御することができる。ガルバノスキャナ12、13は、変位計測用のレーザL2の伝送経路上には存在せず、対物レンズ19から被処理物4上の目標位置までの離間距離の計測に影響を及ぼさない。
【0071】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、偏光素子として1/2波長板25を採用していたが、これに代えて、またはこれとともに、偏光素子として既知の偏光板を採用することができる。偏光板もまた、その光軸回りに回動操作することにより、当該偏光板を通過するレーザL2の偏光方向を任意に変化させることが可能である。
【0072】
また、上記実施形態では、光束オフセット手段としてピックオフミラー23を採用していたが、これに代えて、またはこれとともに、レーザL2の光束の一部を遮蔽するスリット等を採用することができる。あるいは、対物レンズ19に向けて伝搬するレーザL2の伝送経路上に配置したミラー、光ファイバ等の光学素子の光軸を、対物レンズ19の光軸Aからずらして配置することにより、光束オフセット手段を構成してもよい。
【0073】
上記実施形態では、処理用のレーザL1を照射するべき層であるTFTアレイ48の下方に液晶層46が存在し、変位計測用のレーザL2及びその(ノイズでない)反射光L221は液晶層46を通過しないことを想定していた。だが、TFTアレイ48の上方に液晶層46が存在し、変位計測用のレーザL2が液晶層46を通過した上でTFTアレイ48に当たり、その反射光が再度液晶層46を通過した後に対物レンズ19に入射、受光素子たるカメラセンサ20に受光される態様もとり得る。
【0074】
本発明に係るレーザ処理装置は、プラズマディスプレイモジュール、有機ELディスプレイモジュール、無機ELディスプレイモジュール、マイクロLEDディスプレイモジュール、透明導電膜基板またはカラーフィルタ等に生ずる不良箇所にレーザL1を照射するレーザリペア装置としても好適に用いることができる。要するに、被処理物4は、液晶ディスプレイモジュールに限定されない。
【0075】
さらに言えば、本発明に係るレーザ処理装置の用途は、レーザリペア装置に限定されない。
【0076】
その他、各部の具体的な構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、被処理物にレーザを照射して所望の処理を施すレーザ処理装置に適用できる。
【符号の説明】
【0078】
12、13…ガルバノスキャナ
19…対物レンズ
23…光束オフセット手段(ピックオフミラー)
25…偏光素子(1/2波長板)
20…受光素子(カメラセンサ)
4…被処理物
A…対物レンズの光軸
L1…処理用のレーザ
L2…変位計測用のレーザ
L22、L221…反射光
L222…ノイズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6