IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人電気通信大学の特許一覧

特許7386525円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法
<>
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図1
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図2
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図3
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図4
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図5
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図6
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図7
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図8
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図9
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図10
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図11
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図12
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図13
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図14
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図15
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図16
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図17
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図18
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図19
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図20
  • 特許-円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】円二色性フィルタ、光学素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び円二色性フィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231117BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20231117BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20231117BHJP
【FI】
G02B5/30
H10K50/86
H10K59/10
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020027348
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2020160440
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019053415
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】古澤 岳
(72)【発明者】
【氏名】関谷 隆司
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩昭
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0113339(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0085314(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0128953(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105403944(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102230987(CN,A)
【文献】国際公開第2012/008551(WO,A1)
【文献】特開2013-134350(JP,A)
【文献】特開2012-058673(JP,A)
【文献】特開2013-182212(JP,A)
【文献】特開2016-173460(JP,A)
【文献】Andrew G. Mark, et al.,"Hybrid nanocolloids with programmed three-dimensional shape and material composition",Nature Materials,2013年06月23日,VOL 12,p.802-807,DOI: 10.1038/NMAT3685
【文献】Minhua Li, et al.,"An ultra-thin chiral metamaterial absorber with high selectiity for LCP and RCP waves",Journal of Physics D: Applied Physics,2014年04月16日,Vol.47, No.18,185102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電性ナノらせんが面状に並設された面状構造体を含み、
前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、右巻き又は左巻きのいずれか一方に偏っており、
前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、前記面状構造体が形成する面の法線に対して60°~90°傾斜するらせん軸を有する、
円二色性フィルタ。
【請求項2】
前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が規則的に配置されている、請求項1に記載の円二色性フィルタ。
【請求項3】
前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、互いに交差する2つの方向のそれぞれに所定のピッチで配置されている、請求項1または2に記載の円二色性フィルタ。
【請求項4】
前記2つの方向が互いに直交する、請求項に記載の円二色性フィルタ。
【請求項5】
前記面状構造体の面内における単位面積当たりの前記導電性ナノらせんの個数が、1×10個/mm~1×10個/mmである、請求項1~4のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項6】
前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、巻き数が0.2~1.5の導電性ナノらせんである、請求項1~5のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項7】
前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、巻き数が0.5~1.0の導電性ナノらせんである、請求項1~6のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項8】
前記複数の導電性ナノらせんを保持する基材を含む、請求項1~のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項9】
前記基材が透光性を有する、請求項に記載の円二色性フィルタ。
【請求項10】
前記複数の導電性ナノらせんを内包する媒質を含む、請求項1~のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項11】
前記媒質が透光性を有する、請求項10に記載の円二色性フィルタ。
【請求項12】
前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、10nm~1μmのらせん直径を有する導電性ナノらせんである、請求項1~11のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の円二色性フィルタを含む、光学素子。
【請求項14】
前記円二色性フィルタと、発光層と、反射層とを含む、請求項13に記載の光学素子。
【請求項15】
請求項1~12のいずれかに記載の円二色性フィルタを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
前記円二色性フィルタと、有機エレクトロルミネッセンス層と、反射層とを含む、請求項15に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項17】
請求項1又は1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、ディスプレイ。
【請求項18】
請求項1~12のいずれかに記載の円二色性フィルタの製造方法であって、
前記複数の導電性ナノらせんをキャリア基材上に形成する工程と、
前記キャリア基材上に形成された前記導電性ナノらせんを、他の基材上に接合する工程と、
前記キャリア基材を、前記導電性ナノらせんから剥離する工程と、を順に含む、
円二色性フィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円二色性フィルタ、光学素子、有機EL(以下、「有機エレクトロルミネッセンス」ともいう。)素子、ディスプレイ、及び円二色性フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円二色性とは、ある種の媒質を円偏光が透過する際、右回り円偏光と左回り円偏光の吸光度に差が生じる現象である。円二色性により、直線偏光を楕円偏光(含円偏光)に変換する、あるいは偏光面を回転する(旋光性)等の光学操作が可能になる。また、物質の円二色性の測定は、当該物質の構造同定やカイラリティの分析や純度分析等に大いに活用されている。ディスプレイへの応用という観点からは、後に詳述するように外光反射の抑制に利用することができる。
【0003】
通常の物質の円二色性はさほど大きくなく、左右の円偏光の吸収差を十分に得るには、ある程度の光学的厚みが必要であり、光学装置の小型化や、平面ディスプレイ、可撓性ディスプレイへの適用は困難である。そこで、メタマテリアルを用いた円二色性フィルタが希求されている。メタマテリアルは、対象となる電磁波の波長より小さい人工構造体からなり、負の屈折率等の特異な特性を示すことから、新規な光学機能を実現する光学設計技術として近年大いに注目されている。特に、光の波長より薄い構造体からなる薄膜によって、大きな複屈折や、巨大な旋光性の発現が可能なことから、極薄の光学機能フィルムや超小型光学素子の実現に期待が集まっている。また構造体が微小であるため、繰り返し屈曲や、折り曲げに強い光学フィルムを実現できる可能性がある。
【0004】
比較的簡単な平面状メタマテリアル(「コ」の字型の扁平な構造を持つ)の平面上での繰り返し構造を用いて、円二色性を実現する技術が提案されている(特許文献1)。また、負の誘電率を有する金属材料を用いて、サブ波長の薄い円二色性フィルタを実現する技術が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-138985号公報
【文献】特開2012-123327号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. K. Gansel, et al., Science, 325, 1513 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、光学素子には薄型化と小型化の要請が大きい。また、例えば有機ELディスプレイでは、曲げられること(フレキシブル、ベンダブル)や折り曲げられること(フォルダブル)が要求される。しかしながら、従来の外光反射防止フィルタで用いる円偏光板は、直線偏光板と1/4波長板の積層体からなり、直線偏光板は、例えばヨウ素で染色された延伸ポリビニルアルコールフィルムをトリアセチルセルロースフィルムで挟持した構造を有することから、一定の厚さがあり、屈曲性にも欠ける。また1/4波長板には、例えばポリカーボネート等の高分子の延伸フィルムや配向した高分子液晶フィルム等が用いられており、高分子材料の複屈折はさほど大きくないため、必要な位相差を実現するにはある程度の厚みが必要であり、屈曲性も低い。このように、従来の外光反射防止フィルタでは、薄型化と屈曲性向上に限界があった。
【0008】
円二色性の利用を試みた例として特許文献1記載の技術が挙げられるが、円二色性を発現するためには、平面基板に対して入射光線の入射角が基板法線方向から傾斜している必要があり、光学配置が限定されるため一般的な平面型のディスプレイに適用するのは困難である。また、特許文献2記載の技術は、異方性透過板と1/4波長板の積層を必要とするため構造が複雑である。
【0009】
尚、ナノらせん構造を用いて、円偏光を選択透過させる技術が提案されている(非特許文献1)。しかしながら、例えば右回り円偏光を透過させる場合、左回り円偏光は反射してしまうため、反射防止機構には適用できない。また当該技術は円偏光の選択反射を用いたものであり、厳密には円二色性というより、コレステリック液晶で良く知られた円偏光の選択反射に近い。
【0010】
本発明の目的は、薄くて柔軟な外光反射防止フィルタを実現可能な円二色性フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは導電性ナノらせんの配向に着目して鋭意検討を行った結果、右巻き又は左巻きのいずれか一方の導電性ナノらせんを主に用い、これらを特定の配向で配置することによって、右回り円偏光と左回り円偏光の一方を選択的に透過し、かつ、他方の円偏光を選択的に吸収する高い円二色性が発揮されることを発見し、当該構造を有する円二色性フィルタによって薄くて柔軟な外光反射防止フィルタが実現できることを見出して本発明を完成した。
【0012】
本発明によれば、以下の円二色性フィルタ等が提供される。
1.複数の導電性ナノらせんが面状に並設された面状構造体を含み、
前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、右巻き又は左巻きのいずれか一方に偏っており、
前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、前記面状構造体が形成する面の法線に対して60°~90°傾斜するらせん軸を有する、
円二色性フィルタ。
2.前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が規則的に配置されている、前記1に記載の円二色性フィルタ。
3.前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、互いに交差する2つの方向のそれぞれに所定のピッチで配置されている、前記1または2に記載の円二色性フィルタ。
4.前記2つの方向が互いに直交する、前記に記載の円二色性フィルタ。
5.前記面状構造体の面内における単位面積当たりの前記導電性ナノらせんの個数が、1×10個/mm~1×10個/mmである、前記1~4のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
6,前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、巻き数が0.2~1.5の導電性ナノらせんである、前記1~5のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
7.前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、巻き数が0.5~1.0の導電性ナノらせんである、前記に記載の円二色性フィルタ。
8.前記複数の導電性ナノらせんを保持する基材を含む、前記1~のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
9.前記基材が透光性を有する、前記に記載の円二色性フィルタ。
10.前記複数の導電性ナノらせんを内包する媒質を含む、前記1~のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
11.前記媒質が透光性を有する、前記10に記載の円二色性フィルタ。
12.前記複数の導電性ナノらせんの80個数%以上が、10nm~1μmのらせん直径を有する導電性ナノらせんである、前記1~11のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
13.前記1~12のいずれかに記載の円二色性フィルタを含む、光学素子。
14.前記円二色性フィルタと、発光層と、反射層とを含む、前記13に記載の光学素子。
15.前記1~12のいずれかに記載の円二色性フィルタを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。
16.前記円二色性フィルタと、有機エレクトロルミネッセンス層と、反射層とを含む、請求項15に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
17.前記1又は1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、ディスプレイ。
18,前記1~12のいずれかに記載の円二色性フィルタの製造方法であって、
前記複数の導電性ナノらせんをキャリア基材上に形成する工程と、
前記キャリア基材上に形成された前記導電性ナノらせんを、他の基材上に接合する工程と、
前記キャリア基材を、前記導電性ナノらせんから剥離する工程と、を順に含む、
円二色性フィルタの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薄くて柔軟な外光反射防止フィルタを実現可能な円二色性フィルタが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る円二色性フィルタを概念的に説明する図である。
図2図1に示す円二色性フィルタに含まれる導電性ナノらせんの拡大図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る円二色性フィルタに含まれる導電性ナノらせんのユニットを概念的に説明する図である。
図4】本発明の第3実施形態に係る円二色性フィルタに含まれる導電性ナノらせんのユニットを概念的に説明する図である。
図5】導電性ナノらせんのスプリット部とその向きを概念的に説明する図である。
図6】導電性ナノらせんのスプリット部とその向きを概念的に説明する図である。
図7】本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタを有機EL素子に用いた場合の外光反射防止機構の原理を示す図である。
図8図7の有機EL素子における有機EL層で発光した光が、円二色性フィルタを透過して取り出される原理を示す図である。
図9】ジョーンズ行列の説明における座標の定義を示す図である。
図10】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の概略断面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法を示す図である。
図12】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の製造方法を示す図である。
図13】実施例1に係る円二色性フィルタの吸収特性を示す図
図14】実施例2に係る円二色性フィルタの吸収特性を示す図
図15】実施例3に係る円二色性フィルタの吸収特性を示す図
図16】実施例4に係る円二色性フィルタの吸収特性を示す図
図17】実施例5に係る円二色性フィルタの吸収特性を示す図
図18】実施例6に係る円二色性フィルタの吸収特性を示す図
図19】実施例7に係る円二色性フィルタの吸収特性を示す図
図20】実施例8に係る円二色性フィルタの吸収特性を示す図
図21】実施例9に係る円二色性フィルタの吸収特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
[円二色性フィルタ]
本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタは、複数の導電性ナノらせん(以下、単に「ナノらせん」ともいう。)が面状に並設された面状構造体を含み、前記複数の導電性ナノらせんは、右巻き又は左巻きのいずれか一方に偏っており、前記複数の導電性ナノらせんの少なくとも一部は、前記面状構造体が形成する面の法線に対して傾斜したらせん軸を有する。
【0016】
本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタは、上記の構成を有することにより、右回り円偏光及び左回り円偏光の一方を透過させると共に他方の円偏光を吸収する性質(円二色性)が強く発揮され、これにより新規な外光反射防止機構を構築できる。また、基材の厚みに依拠して外光反射防止機構を発揮する従来の外光反射防止フィルタとは異なり、微小なナノらせん構造自体によって外光反射防止機構を発揮できるため、円二色性フィルタの厚みを極めて薄くすることができる。具体的には、従来の外光反射防止フィルタの厚みが、通常100μm以上あるのに対し、本態様の円二色性フィルタの厚みは、機能を発揮する層のみに関して言えば1μm以下であり、後述する基材等を含めたとしても数10μm以下とすることができる。このような薄さによって、円二色性フィルタに優れた屈曲性を付与できる。
【0017】
円二色性フィルタを薄型化できることにより、光学素子の小型化や、高性能化が可能になる。また、ディスプレイ、特に有機ELディスプレイにおいて、薄型化、柔軟性、折り曲げ可能な耐久性を実現することができる。
【0018】
以下の説明において、種々の構成に関して「複数のナノらせんの80個数%以上」という場合、複数のナノらせんの総数のうちの80個数%以上、85個数%以上、90個数%以上、95個数%以上、96個数%以上、97個数%以上、98個数%以上、99個数%以上、99.5個数%以上、99.7個数%以上、99.8個数%以上、99.9個数%以上、又は実質的に100個数%という意味を含み得る。
【0019】
ここで「個数%」とは、円二色性フィルタに含まれる全てのナノらせんの個数に対する該当ナノらせんの個数の割合である。「個数%」は、200個程度のナノらせんが含まれる電子顕微鏡の観察像において100個のナノらせんを任意に抽出し、そのうちの該当ナノらせんの個数により算出してもよい。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る円二色性フィルタを概念的に説明する図であり、図2は、図1に示す円二色性フィルタに含まれるナノらせんの拡大図である。図1に示されるように、本実施形態において、円二色性フィルタ1は、複数のナノらせん20と、基材10とを含む。
【0021】
[ナノらせん]
導電性を有するナノらせん20のそれぞれは、らせん構造を有し、当該らせん構造のらせん直径は、通常1μm以下である。本発明において、「らせん」とは、回転しながら回転面に垂直な方向へ進行する曲線(「巻き線」ともいう。)をいう。ここでいう「回転」は、1回転(360°)に満たないものであってもよい。尚、ナノらせん20の回転数を「巻き数」ともいう。ナノらせん20の「らせん直径」は、図2(a)に符号Dで示されるように、回転面方向における曲線の直径である。ナノらせん20の「巻き線の直径」は、図2(a)に符号dで示されるように曲線の太さであり、該曲線の長さ方向に垂直な断面積を円換算した直径で表す。上述したらせん直径は、巻き線の長さ方向に垂直な断面の中心によって該巻き線の長さ方向に連続的に描かれるらせんの直径ということもできる。ナノらせん20の「らせん軸」は、図2(a)に一点鎖線で示されるように、ナノらせん20の回転中心を通り、回転面に垂直な方向に伸びる軸である。ナノらせん20の「巻きピッチ」は、らせんが1回転する際に進行するらせん軸方向の距離であり、図2(a)に符号Pで示す。ナノらせん20が「右巻き」であるというのは、らせんの巻きとらせん軸が、右ねじの関係にあることを意味する。同様に、ナノらせん20が「左巻き」であるというのは、左ねじの関係にあることを意味する。
【0022】
[ナノらせんの材質]
ナノらせん20に含まれる導電性材料は格別限定されず、例えば、金属、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性酸化物(導電性金属酸化物)、及びカーボンナノチューブ、グラフェン等の導電性炭素材料等が挙げられる。金属は格別限定されず、銀、金、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタン、タングステン、こられの合金、及びこれら金属の組み合わせであり得る。上述した導電性材料は、1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0023】
[ナノらせんの巻き]
本実施形態において、複数のナノらせん20は左巻きである。複数のナノらせんがある極性の巻きであるとき、らせんの巻き方向に応じて、例えば右回り円偏光を吸収し、左回り円偏光を透過する。らせんの巻き方向が逆になると、吸収と透過が逆転して、左回り円偏光を吸収し、右回り円偏光を透過する。後に述べる実施形態及び実施例では、主に、左巻きらせんであって、右回り円偏光を吸収し、左回り円偏光を透過する場合について述べるが、この対応は必ずしも自明ではない。光の波長や、ナノらせんの電磁波との共鳴状態によっては、左巻きらせんであって、左回り円偏光を吸収し、右回り円偏光を透過する場合があり得る。本発明は、そのような場合を含む。本質は、らせんの巻きの極性が変わると、それに応じて、吸収、透過される円偏光の極性も入れ替わることである。
【0024】
複数のナノらせん20の巻き数(本実施形態では0.8)は格別限定されないが、小さいことが好ましく、複数のナノらせん20の80個数%以上が、巻き数0.2~1.5の範囲、0.5~1.5の範囲、又は0.7~1.0の範囲であり得る。巻き数が0.2以上であることによって、円偏光に対する選択性に優れる。また、巻き数が1.5以下であることによって、ナノらせん20内で生じるプラズモン共鳴が強まり、吸収特性が向上する。
【0025】
複数のナノらせん20のらせん直径Dは格別限定されず、例えば、複数のナノらせん20の80個数%以上が、10nm~1μm、10nm~500nm、10nm~200nm、又は15nm~100nmのらせん直径を有することができる。
【0026】
複数のナノらせん20の巻きピッチPは格別限定されず、例えば、複数のナノらせん20の80個数%以上が、巻きピッチ5nm~200nm、10nm~150nm、又は15nm~100nmを有することができる。
【0027】
一実施形態において、複数のナノらせん20の80個数%以上が、(巻きピッチ)/(らせん直径)の比が、2.0以下、1.75以下、1.5以下、1.0以下であり得る。らせん直径に対して巻きピッチを小さくすることによって、ナノらせんの共鳴がより強まり、円偏光の選択性が向上し、吸収能を向上することができる。
【0028】
複数のナノらせん20の巻き線の直径d(巻き線の太さ)は格別限定されず、例えば、複数のナノらせん20の80個数%以上が、(巻き線の直径)/(らせん直径)が、1.5以下、または1.0以下、または0.75以下、または0.5以下を有することができる。実際の値としては、巻き線の直径1nm~200nm、5nm~100nm、又は10~50nmを有することができる。
【0029】
[ナノらせんの配置及び配向]
次に、ナノらせん20の配置及び配向について詳しく説明する。本発明において、ナノらせん20の「配置」は、円二色性フィルタ1を平面視した場合のナノらせん20の位置を表す。ナノらせん20の「配向」は、円二色性フィルタ1中のナノらせん20の向き、より具体的にはナノらせん20のらせん軸の向きを表す。
【0030】
本実施形態において、複数のナノらせんが面状に並設されることによって、面状構造体2が形成されている。面状構造体2は、複数のナノらせんの集合体、即ち面状集合体である。「面状構造体2」の面は、面状に並設された複数のナノらせんを面内に含む仮想的な面であり得る。一実施形態において、面状構造体2の面は、円二色性フィルタ1の使用時に、光(入射光)の伝播方向に対して垂直(又は略垂直)になるように配置される。
【0031】
本実施形態において、複数のナノらせん20は、面状構造体2の面内で互いに90°で交差する2つの方向x、yのそれぞれに、所定の並設ピッチで、周期的に、アレイ状に配置されている。並設ピッチは、例えば40nm~1μmとすることができる。併設ピッチをある程度大きく、例えば40nm以上とすることによって、ナノらせん同士の干渉が抑制されるため、吸収ピークを単純化でき特性を向上できる。併設ピッチをある程度小さく、例えば1μm以下とすることによって、吸収能を向上できる。
本実施形態において、面状構造体2の面内における単位面積当たりの複数のナノらせん20の個数は、例えば1×10個/mm~1×10個/mmであり得る。
【0032】
本実施形態において、複数のナノらせん20は、同一方向に配向されている。ナノらせんの配向(向き)を図2(b)のように、傾斜角θと方位角φとで表す。ここで、0≦θ≦90°、0≦φ<360°である。図2(b)において、x-y平面が、面状構造体2の面に相当し、z軸が光(入射光)の伝搬方向に相当する。複数のナノらせん20のらせん軸は、面状構造体2が形成する面の法線(図2(b)のz軸)に対する傾斜角θ(説明の便宜上、図2(b)ではθが90°でない場合を示しているが、実際には、本実施形態ではθ=90°である)が同一であるだけでなく、基材10の面内における向き(方位角φ)においても同一である。
【0033】
上述したように、複数のナノらせん20の少なくとも一部、例えば80個数%以上(本実施形態では100個数%)が、面状構造体2が形成する面の法線に対して傾斜(本実施形態ではθ=90°)するらせん軸を有することによって、高い円二色性が発揮される。
【0034】
比較として、複数のナノらせんのらせん軸が、面状構造体2が形成する面の法線に対して傾斜せず、すなわち、面状構造体2が形成する面に対して直立している場合(θ=0°)、入射光を吸収する性質が弱まり、入射光を反射する性質が強くなるため、外光反射防止フィルタ(外光反射防止機構)への適用が困難になる。
【0035】
[基材]
複数のナノらせん20は、基材10の面に沿って配置されている。基材10は、複数のナノらせん20の配置及び配向を保持している。
一実施形態において、複数のナノらせん20を保持して面状構造体2を構築するための土台となる基材10は、透明で柔軟性があり、薄く、均一で、光学異方性の少ないものが適する。また、一実施形態において、基材10における複数のナノらせん20を保持する面は、絶縁体によって形成される。
【0036】
基材10の材質は格別限定されず、例えば、ポリマー、ガラス等を用いることができる。ポリマーは格別限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。また、ガラスとしては、屈曲性の観点から、薄く柔軟なガラス基材等が挙げられる。
【0037】
一実施形態において、基材10は透明ポリイミドを含む。透明ポリイミドは、透明性に優れるだけでなく、例えば、円二色性フィルタによる円偏光吸収に伴う発熱等に対して良好な耐熱性を発揮する。
【0038】
基材10の形状は格別限定されないが、例えばシート状等とすることができる。基材10として、例えば、シート状に形成されたポリマー(「フィルム」ともいう)を用いることができる。シート状の基材10の厚みは格別限定されないが、屈曲性を付与する観点で薄いことが好ましく、例えば、100μm以下、70μm以下、又は50μm以下であり得る。下限は格別限定されず、例えば、10μm以上であり得る。
尚、後述する転写法によって最終的に基材を剥離する場合等においては、基材に透明性や絶縁性は必ずしも必要なく、不透明なポリイミドや、その他のポリマーフィルムや、金属箔、酸化物基材、シリコン基材等も用いることができる。
【0039】
[その他]
上記においては、円二色性フィルタが基材10を含む場合について主に説明したが、これに限定されない。基材10は必ずしも必須の要素ではなく、例えば他の要素(例えば、有機EL素子の光取出し面)によって複数のナノらせん20の配置及び配向を保持してもよい。
【0040】
他の実施形態において、基材10を省略して、複数のナノらせん20の配置及び配向を保持するように、複数のナノらせん20を媒質中に内包(埋設)するようにしてもよい。複数のナノらせん20を媒質中に内包することによって、ナノらせん構造が好適に保護され、取り扱い性が向上する。一実施形態において、媒質によって構成される層は、柔軟性があり、薄く、均一で、光学異方性の少ないものであり得る。媒質には透光性を有するものを用いることができるが、例えば製造過程において取り扱い性等を考慮して一時的にナノらせん20を、透光性を有しない媒質に内包してもよい。製品においては、透光性を有しない媒質が例えば溶解等により除去されていてもよく、透光性を有しない媒質が透光性を有する媒質に置き換えられていてもよい。
【0041】
媒質として、例えば、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリウレタン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロエチレン-プロペンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンル、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレンコポリマー、エチレン・四フッ化エチレンコポリマーを含む)、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル-スチレン)樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド(ナイロン、アラミドを含む)、ポリブチレン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタラートを含む)、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、環状ポリオレフィン、ポリエチルビニルアセテート、SMA(スチレン-マレイン酸無水物)樹脂、石油樹脂、天然ゴム、合成ゴム(イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムを含む)等が挙げられる。
【0042】
硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズオキサイミダゾール、ポリフェニレンベンゾビスチアゾール、硬化性ポリフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、硬化性ポリイミド、硬化性アクリル樹脂、硬化性メタクリル樹脂、シリコーン(ケイ素)樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられる。
【0043】
媒質として、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性のレジスト材、シリコーンゴム等を用いる場合は、ナノらせん20を被覆するように媒質を液状で塗布して薄膜を形成し、次いで、何れかの刺激(例えば、加熱、あるいは紫外線等のような活性エネルギー線の照射等)によって薄膜を硬化することができる。また、ナノらせん20を含む硬化後の薄膜(媒質)を剥離して、他の所望される部材に貼合することもできる。
【0044】
上記においては、複数のナノらせん20の全て(100個数%)が左巻きである場合について主に示したが、これに限定されない。複数のナノらせん20が、右巻き又は左巻きのいずれか一方に偏っていればよい。
【0045】
複数のナノらせん20が左巻きに偏っている場合、すなわち、複数のナノらせん20の、例えば、80個数%以上、90個数%以上、95個数%以上又は99個数%以上が左巻きである場合は、右回り円偏光を吸収し、左回り円偏光を透過することができる。以下の説明では、複数のナノらせん20が左巻きに偏っている円二色性フィルタについて、「左回り円二色性フィルタ」という場合がある。これに対して、複数のナノらせん20が右巻きに偏っている場合、すなわち、複数のナノらせん20の、例えば、80個数%以上、90個数%以上、95個数%以上又は99個数%以上が右巻きである場合は、左回り円偏光を吸収し、右回り円偏光を透過することができる。以下の説明では、複数のナノらせん20が右巻きに偏っている円二色性フィルタについて、「右回り円二色性フィルタ」という場合がある。
先にも述べたように、波長やナノらせんの共鳴状態によっては、上記とは逆の、左(右)回り円二色性フィルタが左(右)回り円偏光を吸収し、右(左)回り円偏光を透過するということがあり得る。この場合も、対応して右・左を適切に読み替えることで、以下の議論は成り立つ。
【0046】
上記においては、面状構造体2の面が平面である場合について主に示したが、面状構造体2の面は曲面であってもよい。
【0047】
上記においては、複数のナノらせん20の80個数%以上(本実施形態では100個数%)が、規則的に、2つの方向x、yのそれぞれに所定のピッチで配置されている場合について主に示したが、これに限定されない。図示は省略するが、複数のナノらせん20が、面状構造体2の面内でランダムな間隔で配置されてもよい。
【0048】
上記においては、複数のナノらせん20の全て(100個数%)が、面状構造体2が形成する面の法線に対して傾斜(θ=90°)したらせん軸を有する場合について主に示したが、これに限定されない。例えば、複数のナノらせん20の少なくとも一部、例えば80個数%以上が、面状構造体2が形成する面の法線に対して傾斜したらせん軸を有するものであってもよい。複数のナノらせん20のらせん軸が面状構造体2が形成する面の法線に対して傾斜していれば高い円二色性を発揮可能であるが、当該法線に対する傾斜角θは、例えば60°以上、65°以上、70°以上、75°以上、80°以上、85°以上、87°以上、又は90°としてもよい。
【0049】
上記においては、複数のナノらせん20のすべて(100個数%)が同一方向(同一方位角φ)に配向されている場合について主に示したが、これに限定されない。例えば、複数のナノらせん20の80個数%以上が概略同一方向(例えば、ある方位角φに対して±15°の幅の中に入る)に配向されていてもよい。また、例えば、複数のナノらせん20の少なくとも一部、例えば80個数%以上が面状構造体2が形成する面の法線に対して傾斜しているという条件を満たす範囲内で、複数のナノらせん20の80個数%以上がランダム(方位角がランダム)に配向されていてもよい。複数のナノらせん20の配向がランダムであることによって、円二色性フィルタの軸性が低減され、直線偏光に対する複屈折が抑制される効果が得られる。
【0050】
上記においては、ナノらせん20を構成する巻き線の断面(巻き線の長さ方向に垂直な断面)が円形である場合について主に説明したが、これに限定されない。前記断面(断面輪郭)は、任意の幾何学形状であり得、例えば、楕円、多角形(例えば、三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)であってもよい。また、前記断面は、前記多角形の1以上の辺を任意の曲線で置き換えたものであってもよい。さらに、ナノらせん20を構成する巻き線は、必ずしも中実である必要はなく、例えば、断面がコの字状であっても、中空状(筒状)であってもよい。
【0051】
[第2実施形態]
本発明のさらなる実施形態を以下説明する。
図3は、本発明の第2実施形態に係る円二色性フィルタに含まれるナノらせんのユニット(「ユニットセル」ともいう。)を概念的に説明する図である。
【0052】
本実施形態において、円二色性フィルタは、仮想的な面(図3中、x、y方向によって規定される面)の法線方向(図3中、z方向)を回転軸としてC回転対称であるように配置及び配向された4つのナノらせん20のユニットを含む。すなわち、4つのナノらせん20は方位角φが90°ずつ異なる。1つのユニットを構成する4つのナノらせん20は、図3中に一点鎖線で示される4回軸を回転軸として90°回転させた場合に、回転前と同様の配置及び配向(図2(b)で定義した傾斜角θ及び方位角φを含む配向)になるように設けられている。
円二色性フィルタは、このようなユニットを、x方向及びy方向のそれぞれにアレイ状に配置して構成されている。
【0053】
上述した第1実施形態では、複数のナノらせん20の全てが一方向に配向されていたのに対して、本実施形態では、異なる配向のナノらせん20をC回転対称であるように配置している。本実施形態によれば、円二色性フィルタの軸性が低減され、直線偏光に対する複屈折が抑制される効果が得られる。
【0054】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、ナノらせん20は、基材上に保持されることができ、また、媒質中に内包されることもできる。
第2実施形態における円二色性フィルタの他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0055】
[第3実施形態]
図4は、本発明の第3実施形態に係る円二色性フィルタに含まれるユニットセルを概念的に説明する図である。図4(a)は斜視図であり、図4(b)は平面図である。また、図5及び図6は導電性ナノらせんのスプリット部とその向きを概念的に説明する図であり、より詳しくは、図5はスプリット部とその向きの定義を説明する図であり、図6はスプリット部の向きと4回軸との関係の一例を示す図である。
【0056】
第3実施形態においても、第2実施形態と同様に、円二色性フィルタは、仮想的な面(図4(a)中、x、y方向によって規定される面)の法線方向(図4(a)中、z方向)を回転軸としてC回転対称であるように配置及び配向された4つのナノらせん20のユニットを含む。すなわち、4つのナノらせん20は方位角φが90°ずつ異なる。
【0057】
第3実施形態において、ユニットを構成する4つのナノらせん20は、各ナノらせん20のスプリット部(切れ目)がユニットセルの内側(4回軸の方向)を向くように配置されている。
【0058】
ナノらせん20のスプリット部について、図5を参照して説明する。図5(a)に示すように、ナノらせん20の一方の端部の中心から該ナノらせん20のらせん軸に下した垂線をa、他方の端部の中心かららせん軸に下した垂線をbとする。ナノらせん20をらせん軸方向から平面視すると(図5(b))、垂線aとbは、らせん軸を中心とする扇状を形成する。この扇状の開口をナノらせん20のスプリット部と呼ぶ。さらに扇状の角度2α(2αは扇形の中心角に相当)を二等分する線分であって、らせん軸に垂直でらせんの中心から外向きに向かう線分(ベクトル)cの方向を、スプリット部の向きと呼ぶ。
【0059】
図5を参照して、スプリット部の向きについてさらに詳述する。図5(c)~(h)は、ナノらせん20をらせん軸方向から平面視した概念図である。図5(c)及び(d)に示すように、ナノらせん20の巻き数が1未満の場合は、平面視した時にらせんの弧がない側(途切れている側)の扇状についてベクトルcを決定する。ナノらせん20の巻き数が1又は整数の場合は、α=0°であり、図5(e)に示すように、線分a、bは、ベクトルcと一致する。ナノらせん20の巻き数が1を越える場合(図5(f)及び(h))は、線分a、bが形成する扇状のうち小さい方(α<90°)の扇状についてベクトルcを決定する。ナノらせん20の巻き数がちょうど半整数になる場合(図5(g))は、α=90°であり、平面視した時のらせんの弧の重なりが少ない側の扇状についてベクトルcを決定する。
【0060】
スプリット部の向きについて、4回軸との関係でさらに詳述する。図6において、4回軸に垂直な面であって、らせん中心を通る参照面を考え、スプリット部の向きcをなすベクトルの参照面への射影線分をd、らせん中心と4回軸を結ぶ線分をeとし、線分dとeのなす角をβとする。
各ナノらせん20のスプリット部(切れ目)がユニットセルの内側(4回軸の方向)を向くとは、この角度βが90°未満、80°以下、70°以下、60°以下、50°以下、40°以下、30°以下、20°以下又は10°以下であるように配置されていることをいう。ユニットを構成する4つのナノらせん20のスプリット部がユニットセルの内側を向く場合、4つのナノらせんのそれぞれの角度βは、互いに同一であってもよいし、上記の範囲で互いに異なっていてもよい。
【0061】
上記のようにユニットを構成する4つのナノらせん20のスプリット部がユニットセルの内側を向くことで、ナノらせんの共鳴が強まり、片側円偏光の選択性がより増大するという効果が得られる。
【0062】
第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、ナノらせん20は、基材上に保持されることができ、また、媒質中に内包されることもできる。
第3実施形態における円二色性フィルタの他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0063】
[光学素子及び有機EL素子]
以上に説明した円二色性フィルタは、円二色性フィルタに光が入射した時、右回り円偏光及び左回り円偏光の一方を透過させると共に、他方の円偏光を吸収する性質(円二色性)を有する。円二色性フィルタは、ナノらせん20自体によって外光反射防止機能を発現可能であるため、光学素子及び有機EL素子の外光反射防止フィルタとして好適に用いることができる。
【0064】
本発明の一実施形態に係る光学素子は、本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタを含む。一実施形態において、光学素子は、円二色性フィルタと、発光層と、反射層とをこの順で含む。かかる光学素子によれば、円二色性フィルタによって外光反射を減衰させることができる。
【0065】
本発明の一実施形態に係る有機EL素子は、本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタを含む。一実施形態において、有機EL素子は、円二色性フィルタと、有機EL層と、反射層とをこの順で含む。かかる有機EL素子によれば、円二色性フィルタによって外光反射を減衰させることができる。
【0066】
有機EL素子は、蛍光方式、りん光方式、TADF方式等の各種発光機構が採用できる。
また、有機EL素子は、ボトムエミッション、トップエミッション等の光学的構成は特に限定されず、いずれも採用でき;三色塗分けや白色カラーフィルタ法等のカラー化方式も特に限定されず、いずれも採用でき;有機EL層の基材側に陰極を配する逆積層構造、光取出し側とは反対側に反射層を積層する積層構造等の構造も特に限定されず、いずれも採用できる。
【0067】
有機EL素子の有機EL層は、発光層を含めばよく、例えば正孔輸送層、正孔注入層、発光層、電子輸送層及び電子注入層、及び必要に応じて、それらの任意の組み合せの積層構造を採用することができる。また複数の層を含む発光ユニットをさらに複数個積層したタンデム構造を採用することもできる。これら層の材料、厚み等は、公知の材料、公知の厚みが採用できる。
【0068】
有機EL素子の反射層は、ミラー反射を生じることができる材料を含む層であれば、特に限定されない。反射層は、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ti、W、これらの合金を含むとよく、これら金属もしくは合金からなるとよい。
有機EL素子の反射層は、駆動電極としての機能を有してもよい。駆動電極としても機能する反射層は、例えば、Ag、Pd及びCuの合金からなる電極(APC電極)、Mg及びAgの合金からなる電極、及び金属とITO等の透明導電酸化物からなる積層体電極が挙げられる。
【0069】
[原理]
図7は、本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタを有機EL素子に用いた場合の外光反射防止機構の原理を示す図である。図7中の「1」及び「0.5」は、入射光強度を1とした場合の概略の光強度を示す。また、図7では、円二色性フィルタに右回り円二色性フィルタ、すなわち右巻きのナノらせんを用いた場合を例示するが、左回り円二色性フィルタ、すなわち左巻きのナノらせんを用いる場合においても、以下の議論は「左」と「右」を入れ替えることで同様に成り立つ。
外光入射光は、無偏光、すなわちランダムな方向に偏光した直線偏光の集まりと見なせる。個々の直線偏光は、それぞれ強度の等しい右回り円偏光と左回り円偏光の和と考えられる。外光入射光のうち、右回り円偏光の成分は、円二色性フィルタ90とは相互作用せず、通過する。一方、左回り円偏光は円二色性フィルタ90によって吸収され、熱に変換され、減衰する。円二色性フィルタ90を通過した右回り円偏光は、有機EL層70を通過した後、反射層80に達する。右回り円偏光は、反射層80で反射によって左回り円偏光に変換され、有機EL層70を再度通過したあと、円二色性フィルタ90で吸収され、減衰する。
【0070】
図8は、図7の有機EL素子の有機EL層で発光した光が、円二色性フィルタを透過して取り出される原理を示す図である。
有機ELの発光は概略無偏光であり、当該無偏光は、右回り円偏光と左回り円偏光の和と考えることができる。図8において、有機EL層70で発光した光(無偏光)は、反射層80で反射される分も含めて、円二色性フィルタ方向(-z軸方向)に向かう光のうち、右回り円偏光成分は円二色性フィルタ90を通過して外に取り出すことができるが、左回り円偏光は吸収を受け、減衰する。
本発明の円二色性フィルタを備える有機EL素子を、直線偏光板及び1/4波長板からなる従来型の外光反射防止フィルタを備える有機EL素子と比較した場合、ELの発光の概略半分を取り出す点で共通するが、外光反射防止フィルタを薄型化でき、有機EL素子に柔軟性や屈曲性を与えることができる点で優れる。
【0071】
本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタについて上述した原理は、ジョーンズ行列を用いて説明することができる。
具体的には、x軸方向の直線偏光e及びy方向の直線偏光eを基底ベクトルとしたとき、任意の偏光Eは、eとeの線形結合で表すことができる。
E=v+v (1)
同様に、右回り円偏光及び左回り円偏光e及びeもまた基底ベクトルを構成し、任意の偏光Eは、eとeの線形結合で表すことができる。
E=v+v (2)
(v,v)系と(v,v)系は、相互に変換可能である。その変換式は、以下のようである。
【数1】
ここでiは虚数単位である。
(v,v)系において、右回り円二色性フィルタ、すなわち右巻きらせんからなり、左回り円偏光を吸収し、右回り円偏光を透過する場合のジョーンズ行列は、下記で表される(ここでは、左回り円偏光が完全に吸収されるとした)。
【数2】
実際、右回り円偏光(v,v)=(1,0)、及び左回り円偏光(v,v)=(0,1)(いずれも、大きさを1で規格化している)に、この行列を作用させると、下記となる。
【数3】
右回り円偏光は透過、左回り円偏光は吸収されることがわかる。このジョーンズ行列を(v,v)系で記述するには、以下の変換を施せばよい。
【数4】
上記は、(v,v)系を(v,v)系に変換し、そこで右回り円二色性フィルタを作用させ、再び(v,v)系にもどす変換を行なっている。
偏光面の角度がx軸から反時計方向にθ回転した直線偏光のジョーンズベクトルは、(cosθ、sinθ)と書ける(ここで、ジョーンズ行列を用いた原理説明で用いている偏光面の角度θは、らせん軸の傾斜角θとは異なる量を表している)。これが右回り円二色性フィルタを通過すると、下記となる。
【数5】
これをミラーで反射させると、下式のようになる。
【数6】
反射した光が再度右回り円偏光フィルタを通過する。ミラー反射にともない、光の進行方向が反転し、それにともないx軸が入れ替わるが、右回り円偏光フィルタ、すなわち右巻きらせんのヘリシティには裏表がないので、逆方向に進行する光に対しても、やはり右回り円二色性フィルタとして作用する。
【数7】
上記は入射光の偏光方向θによらず、任意の偏光方向の直線偏光が吸収されることを表している。上記ジョーンズ行列の説明における座標の定義は図9に示した通りである。
【0072】
図10は、本発明の一態様に係る有機EL素子の一実施形態を示す概略断面図である。
図10の有機EL素子100は、フレキシブル基材110、平坦化層120、反射層130、透明陽極140、正孔注入層150、正孔輸送層160、発光層170、電子輸送層180、透明陰極190及び円二色性フィルタ200がこの順に積層している。また、平坦化層120は、駆動素子230を含む。
図10において、正孔注入層150、正孔輸送層160、発光層170及び電子輸送層180の積層部分は、発光に関与する有機EL層210であり、反射層130、透明陽極140、有機EL層210、透明陰極190は、封止層220で固体封止されている。
有機EL素子100は、円二色性フィルタ200から光を取り出す、トップエミッション型の有機EL素子である。
【0073】
有機EL素子100において、発光層170で発光した光は、
(1)直接透明陰極190を透過して、円二色性フィルタ200で一部吸収されて通過して取り出されるルート、及び
(2)反射層130で反射して透明陰極190を透過し、円二色性フィルタ200で一部吸収されて通過して取り出されるルート、の2つのルートで取り出される。
また、有機EL素子100外から入ってくる外光は、入射時に円二色性フィルタ200で一部が吸収され、残った外光の一部も反射層130で反射して直接透明陰極190を透過し、円二色性フィルタ200で再度吸収される。
【0074】
[円二色性フィルタの製造方法]
図11は、本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法を示す図である。かかる製造方法は、例えば、光学素子、有機EL素子、ディスプレイ等に含まれる円二色性フィルタを製造する際に好適に用いることができる。
【0075】
本発明の一実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法においては、図11(a)に示すように、ナノらせん20をキャリア基材310上に形成する。
ここで、ナノらせん20の形成には、既知の方法を用いることができる。ナノらせん20を形成する方法として、例えば、光リソグラフィ法、電子線リソグラフィ法、ナノインプリント法、リフトオフ法、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性イオンエッチング法、化学気相成長法、収束イオンビーム法、インクジェット法、3Dプリンタ法、メッキ、自己組織化法、又はこれら方法の2つ以上の組み合せ等が挙げられる。
真空蒸着法は格別限定されず、例えば、基材を回転させながららせん構造を形成する真空蒸着法、あらかじめ基材上にらせん成長の起点となる種構造を形成しておき、その基材を回転させながららせん構造を形成する真空蒸着法等が挙げられる。自己組織化法は格別限定されず、例えば、DNA等の生物鋳型を用いる自己組織化法、磁場配向を利用した自己組織化法等が挙げられる。
基材を回転させながららせん構造を形成する真空蒸着法等の方法を用いてナノらせん20を形成する場合、一般的には、図11(a)に図示されるように、形成されるナノらせん20のらせん軸は、キャリア基材310の面(あるいは、面状構造体2の面)に対して垂直になる。
【0076】
次いで、図11(b)に示すように、キャリア基材310上に形成されたナノらせん20を、他の基材311上に接合する。
ここで、他の基材311は、例えば熱可塑性樹脂フィルムである。キャリア基材310上のナノらせん20に、他の基材311を加熱しながらローラー312で押し当て、剪断(キャリア基材310と他の基材311との間でのずり応力)をかけながら融着する。剪断を受けたナノらせん20のらせん軸は、剪断の程度に応じた所望の傾斜角(本実施形態では90°)で傾斜した状態で、他の基材311上に転写される。
【0077】
次いで、図11(c)に示すように、キャリア基材310を、ナノらせん20から剥離する。このような転写法によって、キャリア基材310上に形成したナノらせん20を、他の基材311上に転写することができる。上述した剪断によって、転写された複数の導電性ナノらせん20の少なくとも一部、例えば80個数%以上(本実施形態では100個数%)が、面状構造体2が形成する面の法線に対して傾斜(例えば傾斜角θが60°以上(本実施形態では90°))したらせん軸を有することができる。
【0078】
一実施形態においては、以上のプロセスによって、ナノらせん20と他の基材311とを含む円二色性フィルタが得られる。他の実施形態においては、他の基材311をキャリア基材(キャリアフィルム)として用いることによって、ナノらせん20を媒質の中に内包(埋設)したり、円二色性フィルタを含む製品(例えば、光学素子、有機EL素子等)に含まれる部材上に転写したりすることができる。
以上に説明した実施形態において、他の基材311に代えて、円二色性フィルタを含む製品(例えば、光学素子、有機EL素子等)に含まれる部材上に、ナノらせん20を転写するようにしてもよい。
また、上述したように、ナノらせんの転写に際して剪断を加えることで、ナノらせんを所望の傾斜角で傾斜させることができる。図示は省略するが、所望の傾斜角で傾斜させたナノらせんを保持するキャリア基材から、目的の基材上に、キャリア基材の面方向の向きを90°回転させながら位置調整して4回の転写を行うことによって、上述したC回転対称である4つのナノらせんのユニットを形成することもできる。
【0079】
[光学素子及び有機EL素子の製造方法]
円二色性フィルタは、上述した転写等によって、光学素子及び有機EL素子に積層することができる。
本発明の一実施形態に係る光学素子の製造方法は、キャリア基材上に複数のナノらせんを形成して、複数のナノらせんを含む面状構造体を含むナノらせん積層体を製造し、次いで、光学素子の光取出し側の最表面と円二色性フィルタの面状構造体とを転写法によって接合し、次いで、キャリア基材を剥離する。
本発明の一実施形態に係る有機EL素子の製造方法は、キャリア基材上に複数のナノらせんを形成して、複数のナノらせんを含む面状構造体を含むナノらせん積層体を製造し、次いで、透明電極層、有機エレクトロルミネッセンス層及び反射層を含む積層体の透明電極層とナノらせん積層体の面状構造体とを転写法によって接合し、次いで、キャリア基材を剥離する。
【0080】
図12は、本発明の有機EL素子の製造方法のプロセスの一実施形態を示す図である。
まず、図12(a)に示すように、キャリア基材310上に複数のナノらせんを含む面状構造体300を形成して、ナノらせん積層体を製造する。
次いで、図12(b)に示すように、製造したナノらせん積層体の面状構造体300側を、別途作製した、透明電極層190、有機EL層210、反射層130及びフレキシブル基材110からなる積層体の透明電極190上に転写する。転写後、キャリア基材310を剥離する。剥離後、図12(c)に示すように、面状構造体300上に保護層320を形成してもよい。
【0081】
ベース基材及び面状構造体からなる積層体を、透明電極上に積層して円二色性フィルタとする場合、ベース基材は光透過性を有することが求められるという制約がある。一方、面状構造体を転写して円二色性フィルタとする場合、上記キャリア基材に特に制約は生じない。キャリア基材は、不透明なポリイミドフィルム、その他のポリマーフィルム、金属箔等を用いてもよい。
【0082】
基材を含まない複数のナノらせんを含む円二色性フィルタは、ベース基材を含まないので薄型で柔軟性に優れ、また、光透過性に優れる。また、円二色性フィルタが基材を含む場合であっても、直線偏光板及び1/4波長板からなる従来型の外光反射防止フィルタに比べて、薄型で柔軟性に優れ、また、光透過性に優れる有機EL素子の円二色性フィルタを除く部分が可撓性を有するのであれば、有機EL素子全体として屈曲性に富み、折り曲げも可能となる。
【0083】
以上、本発明を実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。
【実施例
【0084】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例により限定されない。
(実施例1)
図3に示したものと同様の、複数の導電性ナノらせんが面状に並設された面状構造体を定義し、電磁界シミュレータ(COMSOL,Inc.製「COMSOL Multiphysics(登録商標)」)を用いてその光学特性を計算した。基材は省略され、計算に考慮していない。ナノらせんの構成は下記の通りである。
[ナノらせんの構成]
・巻き数:0.8
・配置及び配向:C回転対称(図3に示したユニットセル(4つのナノらせんは方位角φが90°ずつ異なる)のx方向及びy方向への周期的繰り返し)
・並設ピッチ:200nm
・らせん直径:50nm
・巻き線の直径:20nm
・巻きのピッチ:40nm
・面状構造体が形成する面の法線に対するらせん軸の傾斜角θ:90°(らせん軸とx-y面とが平行)
・材質:銀
・ナノらせんの外側の空間:空気
ナノらせんを形成する銀の誘電率には、Ordalらの論文に基づく波長分散特性を用いた(M. A. Ordal, et. al., Appl. Opt., 22, 7, 1099 (1983))。
光学特性(吸収、透過、反射特性)の計算結果を図13に示す。波長755nmでの動作において、右回り円偏光の吸収が85%、左回り円偏光の吸収が15%であった。また、右回り円偏光の透過は5%、左回り円偏光の透過は75%であった。さらに、反射は右回り円偏光、左回り円偏光とも10%以下に抑えられており、所望の特性が得られることが分かった。
【0085】
(実施例2)
図1に示したものと同様の、複数の導電性ナノらせんが面状に並設された面状構造体を定義し(図14(a))、電磁界シミュレータ(COMSOL,Inc.製「COMSOL Multiphysics(登録商標)」)を用いてその光学特性を実施例1と同様にして計算した。基材は省略され計算に考慮していない。ナノらせんの構成は下記の通りである。
[ナノらせんの構成]
・巻き数:0.8
・配置及び配向:C回転対称(図14に示されるように、ナノらせんを1つだけ含むユニットセルのx方向及びy方向への周期的繰り返し)
・並設ピッチ:100nm
・らせん直径:50nm
・巻き線の直径:20nm
・巻きのピッチ:40nm
・面状構造体が形成する面の法線に対するらせん軸の傾斜角θ:90°(らせん軸とx-y面とが平行)
・材質:銀
・ナノらせんの外側の空間:空気
光学特性(透過、反射特性)の計算結果を図14(b)に示す。実施例2においても、実施例1(図13(b))とほぼ同等の特性が得られた。また、実施例2では、動作波長が短波長化し、反射は5%以下に改善された。尚、実施例1は、直線偏光の入射に対する複屈折を抑制する性質については、実施例2よりも優れると推定される。図14(b)では、透過率と反射率のみを示したが、(吸収率)=1.0-(透過率)-(反射率)を評価すると、吸収率につても実施例1とほぼ同等の結果であった。
【0086】
(実施例3)
ナノらせんの巻きのピッチを40nmから20nmに変更し、らせん直径を50nmから20nmに変更したこと以外は実施例2と同様にして光学特性を計算した。基材は省略され計算に考慮していない。
光学特性(吸収特性)の計算結果を図15に示す。面状構造体のサイズをスケールダウンすることで、応答帯域を短波長化できることが分かった。
【0087】
(実施例4)
ナノらせんのらせん直径を50mmから40nmに変更し、巻き線の直径を20nmから40nmに変更し、ナノらせんの巻きのピッチを30nm~70nmで変化させたこと以外は実施例2と同様にして光学特性を計算した。基材は省略され計算に考慮していない。
光学特性(吸収特性)の計算結果を図16に示す。図16は、右回り円偏光の吸収特性を示している。左回り円偏光の吸収特性は図示していないが、波長430nmから780nmの範囲において、吸収率は3%以下であった。ナノらせんの巻きピッチが小さい方が、円偏光の選択性が向上することが分かる。この理由は、巻きピッチが小さいほうが、ナノらせんに誘起されるプラズモン共鳴の強度が強くなくためである。この計算結果より、(巻きのピッチ)/(らせん直径)が1.5以下であることが望ましいことが分かる。
【0088】
(実施例5)
ナノらせんのらせん直径を50nmから40nmに変更し、巻き線の直径を20nmから40nmに変更し、ナノらせんの巻きピッチを40nmから30nmに変更し、ナノらせんが空気中にある場合と、ポリジメチルシロキサン(PDMS)相当の比誘電率2.7を有する媒質に内包した場合とについて、実施例2と同様にして光学特性を計算した。基材は省略され計算に考慮していない。
光学特性(吸収特性)の計算結果を図17に示す。媒質が空気である場合に比べて、ポリジメチルシロキサン(PDMS)相当の比誘電率2.7を有する媒質に内包した場合は、吸収特性は損なわれず、吸収波長が長波長化することが分かる。
【0089】
(実施例6)
図4に示したものと同様の、複数の導電性ナノらせんが面状に並設された面状構造体を定義した。ここで、ユニットセルに含まれる4つのナノらせんは、C回転対称であり、かつナノらせんのスプリット部が内側に向くように配置されている。スプリット部の向きを規定するベクトルは、4回軸に垂直で、4回軸と交差する。即ち、図6において、ベクトルcと線分eが一致し、β=0°である。
当該面状構造体について、実施例2と同様にして光学特性を計算した。
[ナノらせんの構成]
・巻き数:0.8
・配置及び配向:C回転対称(図4に示したユニットセル(4つのナノらせんは方位角φが90°ずつ異なり、かつナノらせんのスプリット部が内側に向くように配置)のx方向及びy方向への周期的繰り返し)
・並設ピッチ:150nm
・らせん直径:40nm
・巻き線の直径:36nm
・巻きのピッチ:20nm
・面状構造体が形成する面の法線に対するらせん軸の傾斜角θ:90°(らせん軸とx-y面とが平行)
・材質:銀(実施例1で用いた誘電率の波長分散特性を考慮)
・ナノらせんの外側の空間:空気
光学特性(吸収特性)の計算結果を図18に示す。波長577nmでの動作において、右回り円偏光の吸収率が93%、左回り円偏光の吸収率が1.8%と、良好な特性を得た。
【0090】
(実施例7)
ナノらせんの直径を30nmとした以外は、実施例6と同様にして、光学特性を計算した。
光学特性の計算結果を図19に示す。実施例6と比較して吸収波長が長波長化し、波長625nmにおいて、右回り円偏光の吸収率が89%、左回り円偏光の吸収率が3%と、良好な特性を得た。
【0091】
(実施例8)
ナノらせんの巻き数を0.4~0.9の範囲で変化させた以外は、実施例6と同様にして、光学特性を計算した。
光学特性(吸収特性)の計算結果を図20に示す。図20(a)は右回り円偏光の吸収特性を示している。これより、巻き数0.5~0.9の範囲において83%以上の吸収率が得られた。図20(b)は左回り円偏光の吸収特性を示している。これより、巻き数0.5~0.9の範囲において吸収率は10%未満であり、良好な選択性が得られた。
【0092】
(実施例9)
ナノらせんの構成及び配置は実施例6と同様とし、ナノらせんが空気中にある場合と、ポリジメチルシロキサン(PDMS)相当の比誘電率2.7を有する媒質に内包した場合とについて、実施例6と同様に光学特性を計算した。
光学特性(吸収特性)の計算結果を図21に示す。空気中にある場合と比較して、吸収波長が長波長化するが、吸収特性は維持されることがわかる。
【0093】
以上の結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【符号の説明】
【0095】
1 円二色性フィルタ
2 面状構造体
10 基材
20 ナノらせん
70 有機EL層
80 反射層
90 円二色性フィルタ
100 有機EL素子
110 フレキシブル基材
120 平坦化層
130 反射層
140 透明陽極
150 正孔注入層
160 正孔輸送層
170 発光層
180 電子輸送層
190 透明陰極
200 円二色性フィルタ
210 有機EL層
220 封止層
230 駆動素子
300 面状構造体
310 キャリア基材
311 他の基材
312 加圧ロール
320 保護層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21