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特許7386526ワイヤボンディング装置及びワイヤボンディング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】ワイヤボンディング装置及びワイヤボンディング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20231117BHJP
【FI】
H01L21/60 301G
H01L21/60 301D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020030370
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021136294
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】富山 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】手井 森介
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-111977(JP,A)
【文献】特開2000-012595(JP,A)
【文献】特開平10-189641(JP,A)
【文献】特開2004-087747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極とをワイヤによって接続するワイヤボンディング装置であって、
移動可能であり、挿通された前記ワイヤを繰り出し可能に保持するキャピラリを含むボンディングユニットと、
前記ボンディングユニットの動作を制御する制御ユニットと、を備え、
前記キャピラリは、上昇及び下降の制限範囲であるストローク以上の距離を横方向に移動可能であり、
前記制御ユニットは、
前記キャピラリにより、前記ワイヤの一端を前記第1の電極に接合させる第1接合処理部と、
前記第1の電極に接合された状態で、前記ワイヤを前記キャピラリから繰り出す工程と、前記ワイヤの繰り出し規制を行った状態で、前記キャピラリを移動させて前記ワイヤの折り目を形成する工程と、を行うことによって前記ワイヤを折り畳む折り畳み処理部と、
前記ワイヤの繰り出し規制を行った状態で、前記キャピラリを前記ストローク以上の距離、前記横方向に移動させて、折り畳まれた前記ワイヤを展開しながら前記ワイヤの他端を前記第2の電極に接合させる第2接合処理部と、を備えているワイヤボンディング装置。
【請求項2】
前記折り畳み処理部は、前記キャピラリの移動によって前記ワイヤを屈曲させて折り目を形成すると共に、前記折り目の屈曲角が小さくなるように前記キャピラリを移動させることによって展開可能な曲げ部を形成する、請求項1記載のワイヤボンディング装置。
【請求項3】
前記曲げ部の劣角は鋭角であり、
前記ワイヤを折り畳む前に、前記第1の電極に接合された状態の前記ワイヤを前記キャピラリの移動によって屈曲させ、前記曲げ部とは異なる鈍角のネック部を形成するネック形成部を更に備える、請求項2記載のワイヤボンディング装置。
【請求項4】
前記折り畳み処理部は、長さが揃っている複数の前記曲げ部を形成する、請求項2または3記載のワイヤボンディング装置。
【請求項5】
ワイヤを繰り出し可能に保持するキャピラリを移動させ、第1の電極と第2の電極とを前記ワイヤによって接続するワイヤボンディング方法であって、
前記第1の電極に前記ワイヤの一端を接合する第1接合工程と、
前記ワイヤを前記第1の電極に接合させた状態で前記キャピラリから前記ワイヤを繰り出す工程と、前記ワイヤの繰り出し規制を行った状態で、前記キャピラリを移動させて前記ワイヤの折り目を形成する工程と、を行うことによって前記ワイヤを折り畳む折り畳み工程と、
前記ワイヤの繰り出し規制を行った状態で、前記キャピラリの上昇及び下降の制限範囲であるストローク以上の距離を横方向に移動させて、折り畳まれた前記ワイヤを展開しながら前記ワイヤの他端を前記第2の電極に接合させる第2接合工程と、を備えているワイヤボンディング方法。
【請求項6】
前記折り畳み工程は、前記キャピラリから繰り出された前記ワイヤを屈曲させて折り目を形成するリバース工程と、前記リバース工程の後に、前記折り目の屈曲角が小さくなるように前記キャピラリを移動させることによって展開可能な曲げ部を形成する曲げ部形成工程とを備えている、請求項5記載のワイヤボンディング方法。
【請求項7】
前記折り畳み工程は、前記リバース工程と前記曲げ部形成工程とを交互に複数回実施すると共に、屈曲する方向が逆となるように複数の前記リバース工程を順番に実施して複数の前記曲げ部を形成する、請求項6記載のワイヤボンディング方法。
【請求項8】
前記曲げ部の劣角は鋭角であり、
前記第1接合工程の後で、且つ前記折り畳み工程の前に、前記ワイヤを屈曲させて、前記曲げ部とは異なる鈍角のネック部を形成するネック形成工程を更に備える、請求項6または7記載のワイヤボンディング方法。
【請求項9】
前記折り畳み工程は、長さが揃っている前記複数の曲げ部を形成する、請求項7記載のワイヤボンディング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤボンディング装置及びワイヤボンディング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板に設けられた半導体チップの電極と回路基板に設けられた電極とは、金属製の極めて細いワイヤによって電気的に接合される。このような接続技術は、いわゆるワイヤボンディングと呼ばれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リードフレームにマウントされた半導体チップの電極を第1のボンディング点とし、リードフレームのリード(電極)を第2のボンディング点とし、第1のボンディング点と第2のボンディング点との間をワイヤで接合するワイヤボンディング方法が開示されている。特許文献1において、ワイヤボンディング方法に使用されるボンディング装置は、第1のボンディング点にワイヤを接合した後で、キャピラリを上昇させてキャピラリからワイヤを繰り出す。更に、キャピラリは所定のストローク分だけ上昇する間に左右にも移動してワイヤに癖(屈曲)を付けている。所定のストローク分だけ移動したキャピラリは、そのまま横方向に移動して第2のボンディング点まで到達し、第2のボンディング点にワイヤを接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3189115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワイヤを繰り出すためのキャピラリの最大ストロークには制限があり、通常、キャピラリから繰り出されるワイヤの長さは短距離になり易い。従って、接合対象となる電極間の距離によっては、電極間の接合が困難になる場合があった。
【0006】
本発明は、接合対象となる電極間の距離によらず、電極間の適切な接合を行い易いワイヤボンディング装置及びワイヤボンディング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一形態は、第1の電極と第2の電極とをワイヤによって接続するワイヤボンディング装置であって、移動可能であり、挿通されたワイヤを繰り出し可能に保持するキャピラリを含むボンディングユニットと、ボンディングユニットの動作を制御する制御ユニットと、を備え、制御ユニットは、キャピラリにより、ワイヤの一端を第1の電極に接合させる第1接合処理部と、第1の電極に接合された状態で、ワイヤをキャピラリから繰り出しながらキャピラリを移動させることによってワイヤを折り畳む折り畳み処理部と、キャピラリを移動させて、折り畳まれたワイヤを展開しながらワイヤの他端を第2の電極に接合させる第2接合処理部と、を備えている。
【0008】
この形態では、ワイヤを折り畳むことで、キャピラリの所定のストローク範囲内であっても、ワイヤの展開による伸長余地を作ることができる。そして、第2の電極に接合する際には、折り畳まれたワイヤを展開するようにキャピラリを移動させるので、ワイヤが到達可能な距離を稼ぐことができ、その結果、第1の電極と第2の電極との間の距離によらず、第1の電極と第2の電極とを接合し易くなる。
【0009】
上記のワイヤボンディング装置の折り畳み処理部は、キャピラリの移動によってワイヤを屈曲させて折り目を形成すると共に、折り目の屈曲角が小さくなるようにキャピラリを移動させることによって展開可能な曲げ部を形成してもよい。曲げ部を形成することにより、キャピラリの所定のストローク範囲内において、ワイヤの展開による伸長余地を広げ易くなる。
【0010】
また、上記の曲げ部の劣角は鋭角であり、ワイヤボンディング装置は、ワイヤを折り畳む前に、第1の電極に接合された状態のワイヤをキャピラリの移動によって屈曲させ、曲げ部とは異なる鈍角のネック部を形成するネック形成部を更に備えてもよい。第1の電極に接合されたワイヤを第2の電極に接合するために傾ける際に、ネック部によって屈曲された方向に傾け易くなる。特に、ネック部で屈曲された方向が第2の電極に向かう方向であれば、ワイヤの他端を第2の電極に到達させ易くなって接合精度を高め易くなる。
【0011】
上記のワイヤボンディング装置の折り畳み処理部は、長さが揃っている複数の曲げ部を形成してもよい。ワイヤを展開する際に、曲げ部の長さが揃っているので均一に展開し易い。
【0012】
また、本開示の一形態は、ワイヤを繰り出し可能に保持するキャピラリを移動させ、第1の電極と第2の電極とをワイヤによって接続するワイヤボンディング方法であって、第1の電極にワイヤの一端を接合する第1接合工程と、ワイヤを第1の電極に接合させた状態でキャピラリからワイヤを繰り出すと共に、キャピラリから繰り出されたワイヤを折り畳む折り畳み工程と、折り畳まれたワイヤを展開しながらワイヤの他端を第2の電極に接合させる第2接合工程と、を備えている。
【0013】
このワイヤボンディング方法では、第1の電極と第2の電極との間の距離によらず、第1の電極と第2の電極とを接合し易くなる。
【0014】
上記のワイヤボンディング方法の折り畳み工程は、キャピラリから繰り出されたワイヤを屈曲させて折り目を形成するリバース工程と、リバース工程の後に、折り目の屈曲角が小さくなるようにキャピラリを移動させることによって展開可能な曲げ部を形成する曲げ部形成工程とを備えていてもよい。曲げ部を形成することにより、キャピラリの所定のストローク範囲内において、ワイヤの展開による伸長余地を広げ易くなる。
【0015】
上記のワイヤボンディング方法の折り畳み工程は、リバース工程と曲げ部形成工程とを交互に複数回実施すると共に、屈曲する方向が逆となるように複数のリバース工程を順番に実施して複数の曲げ部を形成してもよい。複数の曲げ部を形成することにより、キャピラリの所定のストローク範囲内において、ワイヤの展開による伸長余地を更に広げ易くなる。
【0016】
曲げ部の劣角は鋭角であり、上記のワイヤボンディング方法において、第1接合工程の後で、且つ折り畳み工程の前に、ワイヤを屈曲させて、曲げ部とは異なる鈍角のネック部を形成するネック形成工程を更に備えてもよい。折り畳み工程の前に鈍角のネック部を形成するので、第1の電極に接合されたワイヤを第2の電極に接合するために傾ける際に、ネック部によって屈曲された方向に傾け易くなる。特に、ネック部で屈曲された方向が第2の電極に向かう方向であれば、ワイヤの他端を第2の電極に到達させ易くなって接合精度を高め易くなる。
【0017】
上記のワイヤボンディング方法の折り畳み工程は、長さが揃っている複数の曲げ部を形成してもよい。ワイヤを展開する際に、曲げ部の長さが揃っているので均一に展開し易い。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、接合対象となる電極間の距離によらず、電極間の適切な接合を行い易い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、ワイヤボンディング装置の物理的な構成を示す図である。
図2図2は、半導体装置の一部を拡大して示す図である。
図3図3は、ワイヤボンディング装置の機能的な構成を示す図である。
図4図4は、ワイヤボンディング方法における主要な工程を示すフロー図である。
図5図5は、折り畳み工程を示すフロー図である。
図6図6は、第1接合工程から折り畳み工程に移行する初期段階でのキャピラリの動きを模式的に示す説明図である。
図7図7は、図6で示されたキャピラリの動きを更に簡略化して示す説明図である。
図8図8は、図7で示された工程に続く、キャピラリの動きを簡略化して示す説明図である。
図9図9は、図8で示された工程に続く、キャピラリの動きを簡略化して示す説明図である。
図10図10は、図9で示された工程に続く、キャピラリの動きを簡略化して示す説明図である。
図11図11は、図10で示された工程に続く、キャピラリの動きを簡略化して示す説明図である。
図12図12は、図11で示された工程に続く、キャピラリの動きを簡略化して示す説明図である。
図13図13は、第2接合工程でのキャピラリの動きを簡略化して示す説明図である。
図14図14は、ワイヤボンディング方法におけるキャピラリの移動軌跡を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
〔ワイヤボンディング装置〕
図1に示すワイヤボンディング装置1は、例えば、プリント基板などの電極と、そのプリント基板に設けられた半導体素子の電極と、を細径の金属ワイヤ(以下、「ワイヤ」と称する)20を用いて電気的に接続する。ワイヤボンディング装置1は、ワイヤ20に対して熱、超音波又は圧力を提供してワイヤ20を電極に接続する。ワイヤボンディング装置1は、搬送ユニット2と、ボンディングユニット3と、制御ユニット4と、を有する。
【0022】
搬送ユニット2は、被処理部品である半導体装置10をボンディングエリアに搬送する。ボンディングユニット3は、移動機構6と、ボンディングツール7と、キャピラリ8と、を含む。移動機構6は、キャピラリ8を移動させる。ボンディングツール7の先端には、キャピラリ8が着脱可能に設けられる。キャピラリ8にはワイヤ20が挿通されている。キャピラリ8は移動可能であり、また、挿通されたワイヤ20を繰り出し可能に保持すると共に、ワイヤ20に対して熱、超音波又は圧力を提供する。制御ユニット4は、ボンディングユニット3の動作を含むワイヤボンディング装置1の全体の動作を制御する。制御ユニット4は、いくつかの制御信号をボンディングユニット3に提供する。例えば、制御信号は、半導体装置10に対するキャピラリ8の位置を制御するための信号と、熱、超音波又は圧力の提供の開始及び停止のための信号と、を含む。制御ユニット4については、後述する。
【0023】
〔半導体装置〕
図2は、図1に示された半導体装置10の一部を拡大して示す。半導体装置10は、例えば、リードフレーム11(回路基板)と、リードフレーム11上にマウントされた半導体チップ12と、ワイヤ20と、を有する。半導体チップ12は、リードフレーム11の主面11aに対してダイボンドなどにより固定されており、一又は複数の電極パッド13(第1の電極)を有する。電極パッド13は、半導体チップ12の主面12aに設けられている。
【0024】
ワイヤ20は、半導体チップ12の電極パッド13をリードフレーム11に電気的に接続する。例えば、ワイヤ20は、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)及びこれらの合金により形成される。また、ワイヤ20の直径は、数十マイクロメートル程度であり、一例として20マイクロメートルである。ワイヤ20の一方の端部21(一端)は、半導体チップ12の電極パッド13に物理的及び電気的に接続されている。また、ワイヤ20の他方の端部22(他端)は、リードフレーム11に物理的及び電気的に接続されている。ワイヤ20を半導体チップ12の電極パッド13あるいはリードフレーム11に物理的及び電気的に接続することを、本実施形態では「接合」と称する。
【0025】
〔制御ユニット〕
制御ユニット4はCPUやメモリ等を備えており、例えば、メモリに格納されたプログラムに基づいてボンディングユニット3等に所定の動作を行わせる。ここで、図3は、ワイヤボンディング装置1の機能的な構成を示しており、主として制御ユニット4の構成を中心に示している。制御ユニット4は、ボンディングユニット3に制御信号を提供することでキャピラリ8に各種動作を行わせる機能的な各構成を備えている。具体的には、制御ユニット4は、キャピラリ8により、ワイヤ20の一方の端部21を半導体チップ12の電極パッド13に接合させる第1接合処理部41と、電極パッド13に接合された状態で、ワイヤ20をキャピラリ8から繰り出しながらキャピラリ8を移動させることによってワイヤ20を折り畳む折り畳み処理部43と、キャピラリ8を移動させて、折り畳まれたワイヤ20を展開しながらワイヤ20の他方の端部22をリードフレーム11の接合予定部14に接合させる第2接合処理部44と、を備えている。
【0026】
なお、本実施形態では、ワイヤ20を折り畳む前に、電極パッド13に接合された状態のワイヤ20をキャピラリ8の移動によって屈曲させ、後述の曲げ部Pとは異なる鈍角のネック部20aを形成するネック形成部42を備えている。このネック形成部42は、機能的な構成として省略することも可能である。
【0027】
〔ワイヤボンディング方法〕
次に、図4図14を参照して制御ユニット4の制御動作、及び、ワイヤボンディング方法を説明する。なお、図4及び図5はフロー図であり、図6は、初期段階でのキャピラリ8の動きを模式的に示す説明図である。また、図7図13は、各工程でのフローに沿ったキャピラリ8の動きを簡略化して示す説明図である。また、図14は、フローに沿ったキャピラリ8の移動軌跡を模式的に示す説明図であり、各工程におけるキャピラリ8の移動軌跡を矢印によって示している。
【0028】
ワイヤボンディング方法は、ワイヤ20の一方の端部21を半導体チップ12の電極パッド13に接合させた後に、ワイヤ20による閉じたループを形成するように他方の端部22をリードフレーム11の接合予定部14に接合させる(図14参照)。特に、本実施形態では、キャピラリ8が上昇及び下降する範囲(ストローク)に制限があり、例えば、リードフレーム11を基準にしたキャピラリ8のストローク制限Lm(ストロークの範囲)は8mm程度である。電極パッド13は第1の電極に相当し、リードフレームの接合予定部14は第2の電極に相当する。
【0029】
図4に示されるようにワイヤボンディング方法は、ワイヤ20の一方の端部21を半導体チップ12の電極パッド13に接合させる第1接合工程S1を備える。また、ワイヤボンディング方法は、ワイヤ20の端部21が電極パッド13に接合されたた状態でキャピラリ8からワイヤ20を繰り出し、更にワイヤ20を折り畳む折り畳み工程S3を備える。また、ワイヤボンディング方法は、折り畳まれたワイヤ20を展開しながらワイヤ20の他方の端部22を、リードフレーム11の接合予定部14に接合させて閉じたループを形成する第2接合工程S4を備えている。なお、本実施形態に係るワイヤボンディング方法では、第1接合工程S1の後に、ネック形成工程S2を実施し、その後に折り畳み工程S3を実施している。
【0030】
制御ユニット4は、ワイヤボンディング方法の各工程S1~S4を実施するために、予め設定された複数の目標点に関する情報を有する。制御ユニット4は、キャピラリ8が複数の目標点に順次移動するように、ボンディングユニット3に制御信号を提供する。また、制御ユニット4は、移動中あるいは移動を停止した状態において、ワイヤ20の繰り出しの許可と規制(停止)を制御する制御信号もボンディングユニット3に提供する。さらに、制御ユニット4は、キャピラリ8からの超音波などの提供の許可と停止を制御する制御信号もボンディングユニット3に提供し、後述のボール接合やステッチ接合を行わせる。
【0031】
まず、第1接合工程S1について説明する。第1接合工程S1は、制御ユニット4の第1接合処理部41が所定の制御信号をボンディングユニット3に提供することで実行される。第1接合工程S1では、図6の(a)図及び図7の(a)図に示されるように、キャピラリ8にワイヤ20の一方の端部21を保持させた状態でキャピラリ8を移動させ、電極パッド13が存在する第1のボンド点までワイヤ20の端部21を運ぶ。この第1のボンド点は実質的に最初の目標点となる。キャピラリ8は、第1のボンド点まで到達すると、ワイヤ20の端部21を電極パッド13に近接させ、電極パッド13に対するボール接合を行う。ボール接合が完了すると第1接合工程S1は終了し、後工程のネック形成工程S2や折り畳み工程S3が実施される。
【0032】
図4に示されるように、本実施形態では、第1接合工程S1の後でネック形成工程S2が実施され、その後、折り畳み工程S3が実施される。折り畳み工程S3では、リバース工程と曲げ部形成工程とを交互に行うことによって一、または複数の「曲げ部P」が形成される。まず、ネック形成工程S2について説明するが、このネック形成工程S2は省略することも可能である。
【0033】
ネック形成工程S2は、制御ユニット4のネック形成部42が所定の制御信号をボンディングユニット3に提供することで実行される。ネック形成工程S2は、ループ状に接合されるワイヤ20の最初の段階でネックとなる部分を形成する工程である。ネック形成工程S2では、図6の(b)図及び図7の(b)図に示されるように、ボール接合後にキャピラリ8を第1のボンド点から離間するように所定の距離だけ上昇させ、キャピラリ8からワイヤ20を繰り出す(図14の軌跡T1参照)。キャピラリ8を第1のボンド点から所定の距離だけ上昇させる位置は、第2の目標点である。
【0034】
次に、キャピラリ8のクランパ81(図1図6参照)を閉じるなどしてワイヤ20の繰り出し規制を行い、更にキャピラリ8を斜め下方に向けて移動させる(図6の(c)図、図7の(c)図、及び図14の軌跡T2参照)。キャピラリ8が斜め下方に移動する際、キャピラリ8からワイヤ20の端部21(第1のボンド点)までの距離は実質的に維持されており、ワイヤ20はキャピラリ8の移動に合わせて傾く。キャピラリ8が斜め下方に移動して到達する位置は、第3の目標点である。
【0035】
次に、ワイヤ20の繰り出し規制を解き、キャピラリ8を再び上昇させてキャピラリ8からワイヤ20を繰り出す(図8の(a)図及び図14の軌跡T3参照)。斜めに傾いているワイヤ20に対し、上下方向にワイヤ20を繰り出すことでワイヤ20のネック部20aが形成される。このネック部20aの劣角は実質的に直角よりも大きな鈍角であり、上述の曲げ部Pとは異なるネック部20aである。ネック部20aを形成した後に、ワイヤ20の繰り出し規制を行い、更にキャピラリ8を斜め下方に向けて移動させてネック形成工程S2を終了する(図8の(b)図及び図14の軌跡T4参照)。キャピラリ8を再び上昇させて到達する位置は第4の目標点であり、更にキャピラリ8を斜め下方に移動して到達する位置は第5の目標点である。
【0036】
ネック形成工程S2の後に、折り畳み工程S3を実施する。折り畳み工程S3は、制御ユニット4の折り畳み処理部43が所定の制御信号をボンディングユニット3に提供することで実行される。図5に示されるように、折り畳み工程S3ではリバース工程と曲げ部形成工程とが交互に実施される。まず、第1のリバース工程S31を説明する。図8の(c)図に示されるように、第1のリバース工程S31では、ワイヤ20の繰り出し規制を解き、キャピラリ8を再び上昇させてキャピラリ8からワイヤ20を繰り出す(図14の軌跡T5参照)。
【0037】
次に、ワイヤ20の繰り出し規制を行い、更にキャピラリ8を斜め下方(図9の右斜め下方)に向けて移動させてワイヤ20の折り目を形成する(図9の(a)図及び図14の軌跡T6参照)。リバース工程におけるキャピラリ8の移動方向は、水平方向を基準にして規定することができ、第1のリバース工程S31では第1の方向Da(図9の右方向)に移動している。第1のリバース工程S31において、キャピラリ8を上昇させて到達する位置は第6の目標点であり、その後、キャピラリ8が第1の方向Daに移動して到達する位置は第7の目標点である。この状態で第1のリバース工程S31は終了する。
【0038】
次に第1の曲げ部形成工程S32を実施する。第1の曲げ部形成工程S32では、ワイヤ20の繰り出し規制を実施している状態のまま、キャピラリ8を下降させる(図9の(b)図及び図14の軌跡T7参照)。キャピラリ8を下降させることで、キャピラリ8は、ワイヤ20の端部21(第1のボンド点)に接近することになる。キャピラリ8の下降により、リバース工程で形成された折り目20bの屈曲角βは更に小さくなり、その結果として曲げ部Pが形成される。折り目20bの屈曲角βとは、折り目20bを始点として二方向に延長するワイヤ20を半直線を仮定した場合の劣角を意味する。また、劣角とは、一点から出る二つの半直線がつくる角のうち、180°(二直角)より小さい方の角を意味する。第1の曲げ部形成工程S32によって劣角が鋭角の曲げ部Pが形成され、この曲げ部Pは展開可能である。第1の曲げ部形成工程S32において、キャピラリ8を下降させて到達する位置は第8の目標点である。この状態で第1の曲げ部形成工程S32は終了する。
【0039】
次に、第2のリバース工程S33を実施する。第2のリバース工程S33では、ワイヤ20の繰り出し規制を解き、キャピラリ8を上昇させてキャピラリ8からワイヤ20を繰り出す(図9の(c)図及び図14の軌跡T8参照)。次に、ワイヤ20の繰り出し規制を行い、更にキャピラリ8を第2の方向Db側の下方(図10の左斜め下方)に向けて移動させてワイヤ20の折り目20bを形成する(図10の(a)図および図14の軌跡T9参照)。第2のリバース工程S33において、キャピラリ8を上昇させて到達する位置は第9の目標点であり、その後、キャピラリ8が第2の方向Dbに移動して到達する位置は第10の目標点である。この状態で第2のリバース工程S33は終了する。
【0040】
なお、後述の第3のリバース工程S35及び第4のリバース工程S37を含め、第1~第4のリバース工程S37は、番号の順番(昇順)で実施されている。そして、第2のリバース工程S33におけるキャピラリ8の移動方向(第2の方向Db)は、第1のリバース工程S31におけるキャピラリ8を移動方向(第1の方向Da)に対して反対方向(逆方向)になっている。また、後述の通り、第3のリバース工程S35におけるキャピラリ8の移動方向(第1の方向Da)は、第2のリバース工程S33におけるキャピラリ8の移動方向(第2の方向Db)に対して反対方向(逆方向)になっている。また、第4のリバース工程S37におけるキャピラリ8の移動方向(第2の方向Db)は、第3のリバース工程S35におけるキャピラリ8の移動方向(第1の方向Da)に対して反対方向(逆方向)になっている。つまり、第1~第4のリバース工程S37は、曲げ部Pを形成する際に屈曲する方向が逆となるような順番で実施されている。
【0041】
次に第2の曲げ部形成工程S34を実施する。第2の曲げ部形成工程S34では、ワイヤ20の繰り出し規制を実施している状態のまま、キャピラリ8を下降させる(図10の(b)図及び図14の軌跡T10参照)。キャピラリ8を下降させることで、キャピラリ8は、ワイヤ20の端部21(第1のボンド点)に接近することになる。キャピラリ8の下降により、リバース工程で形成された折り目20bの屈曲角βは更に小さくなり、その結果として曲げ部Pが形成される。第2の曲げ部形成工程S34によって劣角が鋭角の曲げ部Pが形成され、この曲げ部Pは展開可能である。第2の曲げ部形成工程S34において、キャピラリ8を下降させて到達する位置は第11の目標点である。この状態で第2の曲げ部形成工程S34は終了する。
【0042】
次に、第3のリバース工程S35を実施する。第3のリバース工程S35では、ワイヤ20の繰り出し規制を解き、キャピラリ8を上昇させてキャピラリ8からワイヤ20を繰り出す(図10の(c)図及び図14の軌跡T11参照)。次に、ワイヤ20の繰り出し規制を行い、更にキャピラリ8を第1の方向Da側の下方(図11の右斜め下方)に向けて移動させてワイヤ20の折り目20bを形成する(図11の(a)図及び図14の軌跡T12参照)。第3のリバース工程S35において、キャピラリ8を上昇させて到達する位置は第12の目標点であり、その後、キャピラリ8が第1の方向Daに移動して到達する位置は第13の目標点である。この状態で第3のリバース工程S35は終了する。
【0043】
次に第3の曲げ部形成工程S36を実施する。第3の曲げ部形成工程S36では、ワイヤ20の繰り出し規制を実施している状態のまま、キャピラリ8を下降させる(図11の(b)図及び図14の軌跡T13参照)。キャピラリ8を下降させることで、キャピラリ8は、ワイヤ20の端部21(第1のボンド点)に接近することになる。キャピラリ8の下降により、リバース工程で形成された折り目20bの屈曲角βは更に小さくなり、その結果として曲げ部Pが形成される。第3の曲げ部形成工程S36によって劣角が鋭角の曲げ部Pが形成され、この曲げ部Pは展開可能である。第3の曲げ部形成工程S36において、キャピラリ8を下降させて到達する位置は第14の目標点である。この状態で第3の曲げ部形成工程S36は終了する。
【0044】
次に第4のリバース工程S37を実施する。第4のリバース工程S37では、ワイヤ20の繰り出し規制を解き、キャピラリ8を上昇させてキャピラリ8からワイヤ20を繰り出す(図11の(c)図及び図14の軌跡T14参照)。次に、ワイヤ20の繰り出し規制を行い、更にキャピラリ8を第2の方向Db側の下方(図12の左斜め下方)に向けて移動させてワイヤ20の折り目20bを形成する(図12の(a)図及び図14の軌跡T15参照)。第4のリバース工程S37において、キャピラリ8を上昇させて到達する位置は第15の目標点であり、その後、キャピラリ8が第2の方向Dbに移動して到達する位置は第16の目標点である。この状態で第4のリバース工程S37は終了する。
【0045】
次に第4の曲げ部形成工程S38を実施する。第4の曲げ部形成工程S38では、ワイヤ20の繰り出し規制を実施している状態のまま、キャピラリ8を下降させる(図12の(b)図及び図14の軌跡T16参照)。キャピラリ8を下降させることで、キャピラリ8は、ワイヤ20の端部21(第1のボンド点)に接近することになる。キャピラリ8の下降により、第3のリバース工程S35で形成された折り目20bの屈曲角βは更に小さくなり、その結果として曲げ部Pが形成される。第4の曲げ部形成工程S38によって劣角が鋭角の曲げ部Pが形成され、この曲げ部Pは展開可能である。第4の曲げ部形成工程S38において、キャピラリ8を下降させて到達する位置は第17の目標点である。この状態で第4の曲げ部形成工程S38は終了する。
【0046】
本実施形態では第4の曲げ部形成工程S38の終了によって折り畳み工程S3が終了する。なお、折り畳み工程S3で実施されるリバース工程及び曲げ部形成工程の回数は、リバース工程及び曲げ部形成工程をセットにして1回と考えた場合に、上述の4回に限定されない。例えば、後述の第2接合工程S4において必要となる伸長量を確保できる回数であればよく、1回、あるいは複数回であってもよい。なお、リバース工程及び曲げ部形成工程をセットにした場合の回数が1回の場合には、単数の折り目20bが形成され、2回以上の場合には回数に対応した複数個の折り目20bが形成される。曲げ部Pの展開とは、折り目20bの劣角(屈曲角β)が広がることを意味する(図13参照)。
【0047】
図4に示されるように、折り畳み工程S3の後に、第2接合工程S4を実施する。第2接合工程S4は、制御ユニット4の第2接合処理部44が所定の制御信号をボンディングユニット3に提供することで実行される。図12の(c)図に示されるように、第2接合工程S4では、ワイヤ20の繰り出し規制を解き、キャピラリ8を再び上昇させてキャピラリ8からワイヤ20を繰り出す(図14の軌跡T17参照)。キャピラリ8は、ループトップの位置まで上昇する。キャピラリ8は、ループトップの位置として、例えば、ストローク制限Lm(図13参照)となる位置にまで達する。ループトップの位置は、第18の目標点である。
【0048】
次に、ワイヤ20の繰り出し規制を行ってキャピラリ8を横方向に移動させる(図13及び図14の軌跡T18参照)。第2接合工程S4では、ワイヤ20の繰り出し規制が行われているため、ワイヤ20の繰り出しではなく、曲げ部Pの展開によってワイヤ20の伸長距離を稼ぐことができる。ワイヤ20の伸長によってループ形状が形成され、キャピラリ8は、リードフレーム11の接合予定部14が存在する第2のボンド点まで到達する。キャピラリ8はワイヤ20を保持しており、第2のボンド点において、保持しているワイヤ20の一部分をリードフレーム11の接合予定部14に近接させてステッチ接合し、テールカットを行う。なお、上述の第1接合工程S1の前に、第2のボンド点においてバンプボールを形成するようにしてもよい。リードフレーム11にステッチ接合されるワイヤ20の一部分は、ループを形成するワイヤ20の他方の端部22に相当する。
【0049】
上記の実施形態に係るワイヤボンディング装置1及びワイヤボンディング方法では、ワイヤ20を折り畳むので、キャピラリ8の所定のストローク範囲内であっても、ワイヤ20の展開による伸長余地を作ることができる。そして、第2接合工程S4では、折り畳まれたワイヤ20を展開するようにキャピラリ8を移動させるので、ワイヤ20が到達可能な距離を稼ぐことができ、その結果、電極パッド13と接合予定部14との間の距離によらず、電極パッド13と接合予定部14とを接合し易くなる。
【0050】
また、本実施形態では、キャピラリ8の移動によってワイヤ20を屈曲させて折り目20bを形成している。更に、折り目20bの屈曲角βが小さくなるようにキャピラリ8を移動させることによって、展開可能な、一、または複数の曲げ部Pを形成している。曲げ部Pを形成することにより、キャピラリ8の所定のストローク範囲内において、ワイヤ20の展開による伸長余地を広げ易くなる。
【0051】
また、例えば、曲げ部Pの劣角は鋭角であり、本実施形態では、この曲げ部Pとは異なる鈍角のネック部20aを形成している。電極パッド13に接合されたワイヤ20は、最終的に接合予定部14に接合するために傾けられる。本実施形態において、ネック部20aで屈曲された方向は接合予定部14に向かう方向であり、この方向に傾け易くなる。その結果、ワイヤ20の他方の端部22を接合予定部14に到達させ易くなって接合精度を高め易くなる。特に、ネック部20aで屈曲された方向が接合予定部14(第2の電極)に向かう方向なので、ワイヤ20の他方の端部22を接合予定部14に到達させ易くなって接合精度を高め易くなる。
【0052】
また、本実施形態では複数の曲げ部Pの長さが揃っているので、ワイヤ20を展開する際に均一に展開し易い。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく様々な形態であってもよい。例えば、ワイヤボンディング装置の制御ユニットは、ネック形成部を備えていなくてもよい。従って第1接合工程の後で、ネック形成工程を行うことなく折り畳み工程を実施するワイヤボンディング方法であってもよい。また、展開可能となるワイヤの形状は曲げ部に限定されず、折り目に相当する部分が湾曲した形状であり屈曲角を規定できないような形態であってもよい。更に、展開可能であれば曲げ部の劣角は鈍角であってもよく、複数の曲げ部の長さが不揃いであってもよい。また、上記の実施形態では、半導体チップの電極パッドを第1の電極の一例、リードフレームの電極パッドを第2の電極の一例として説明したが、逆であってもよく、更にその他の電極間を接続する態様であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…ワイヤボンディング装置、20…ワイヤ、2…搬送ユニット、3…ボンディングユニット、4…制御ユニット、8…キャピラリ、13…電極パッド(第1の電極)、14…接合予定部(第2の電極)、21…ワイヤの端部(一端)、22…ワイヤの端部(他端)、41…第1接合処理部、42…ネック形成部、43…折り畳み処理部、44…第2接合処理部、P…曲げ部、20a…ネック部、α…屈曲角、Da…第1の方向、20b…折り目、β…屈曲角、Db…第2の方向。
図1
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