(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】ワクチンT細胞エンハンサー
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231117BHJP
C07K 14/46 20060101ALI20231117BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20231117BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231117BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231117BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20231117BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20231117BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231117BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231117BHJP
A61K 38/03 20060101ALI20231117BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231117BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231117BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231117BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/46
C12N15/86 Z
A61P37/02
A61P35/00
A61P31/12
A61P31/10
A61P31/04
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K38/03
A61K48/00
A61K45/00
A61K35/76
(21)【出願番号】P 2020524616
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(86)【国際出願番号】 EP2018080027
(87)【国際公開番号】W WO2019086615
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-06-28
(32)【優先日】2017-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518435943
【氏名又は名称】ノイスコム アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】ニコシア,アルフレード
(72)【発明者】
【氏名】スカルセッリ,エリーザ
(72)【発明者】
【氏名】フォルゴリ,アントネッラ
(72)【発明者】
【氏名】ラーム,アルミン
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0304582(US,A1)
【文献】A0A0E3JX56_SINCH[online],2015年06月24日,https://www.uniprot.org/uniprot/A0A0E3JX56.txt?version=1参照
【文献】PLOS ONE,2014年06月,Vol.9, Issue6,e100538,https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0100538参照
【文献】Molecular Therapy,2014年05月,Vol.22, No.5,pp.1039-1047,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4015230/参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K 14/00-19/00
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞応答エンハンサー活性を有するポリペプチドであって、
硬骨類のインバリアント鎖(INV)の膜近位ドメイン(MPD)の16のアミノ酸からなる、硬骨類のINVの断片と、
1以上の抗原および/またはその抗原の1以上の抗原性断片と、を含み、
ここで該MPDは配列番号13のアミノ酸配列によって特徴づけられ、
前記ポリペプチドは硬骨類のINVの膜貫通ドメイン(TMD)を含まない、
ポリペプチド。
【請求項2】
それぞれの場合の抗原は、癌特異的抗原、癌特異的ネオアンチゲン、または、ウイルスタンパク質、細菌タンパク質からなる群から独立して選択される、
請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
(i)前記ポリペプチドは、少なくとも5の異なる抗原および/またはその抗原の抗原性断片を含み、
および/または
(ii)前記1以上の抗原および/またはその抗原の1以上の抗原性断片が、請求項1に記載のINVの断片のC末端に隣接する、
請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項6】
異なるベクターがそれぞれ請求項1~3
のいずれか1項に記載の異なるポリペプチドをコードする請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む、2以上の異なるベクターのコレクション。
【請求項7】
それぞれの場合のベクターは、プラスミド、コスミド、リポソーム粒子、ウイルスベクターまたはウイルス様粒子からなる群から独立して選択される、請求項5に記載のベクターまたは請求項6に記載のベクターのコレクション。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項4に記載のポリヌクレオチド、請求項5もしくは7に記載のベクター、または請求項6もしくは7に記載のベクターのコレクション、ならびに薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物、あるいは
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項4に記載のポリヌクレオチド、請求項5もしくは7に記載のベクター、または請求項6もしくは7に記載のベクターのコレクション、ならびに薬学的に許容可能な賦形剤および1以上のアジュバントを含む医薬組成物。
【請求項9】
増殖性疾患、ウイルス性疾患、真菌性疾患または細菌性疾患の予防または治療に使用するための、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項4に記載のポリヌクレオチド、請求項5または7に記載のベクター、請求項6または7に記載のベクターのコレクション、または請求項8に記載の医薬組成物もしくは該医薬組成物を含むキット。
【請求項10】
前記増殖性疾患が癌である、請求項9に記載のポリペプチド
、ポリヌクレオチド、ベクター、ベクターのコレクション、または医薬組成物もしくは該医薬組成物を含むキット。
【請求項11】
癌は、唇、口腔、咽頭、消化器、呼吸器、胸腔内器官、骨、関節軟骨、皮膚、中皮組織、軟組織、乳房、女性生殖器、男性生殖器、尿路、脳および中枢神経系の他の部分、甲状腺、内分泌腺、リンパ組織、ならびに造血組織の悪性新生物からなる群から選択される、請求項
10に記載のポリペプチド
、ポリヌクレオチド
、ベクター
、ベクターのコレクション
、医薬組成物
、またはキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意で1つ以上の抗原に融合した硬骨類インバリアント鎖の断片、または1つ以上の抗原またはその抗原性断片に融合した硬骨類インバリアント鎖を含むポリペプチド、そのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、そのようなポリヌクレオチドを含むベクター、そのようなポリヌクレオチドを含むベクターのコレクション、およびそのようなポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクターの疾患、特に腫瘍疾患の治療または予防のための使用に関する。前記硬骨類インバリアント鎖ポリペプチドまたはその断片は、非免疫原性抗原配列を免疫原性T細胞抗原に変換する「T細胞エンハンサー(T cell enhancer)」として機能する。
【背景技術】
【0002】
時折、ワクチンはT細胞免疫応答を最適以下で誘発するかまたは全く誘発しない。この不十分なT細胞免疫応答の現象は、完全な自己分子、例えば癌特異的抗原またはその部分、または、部分的な自己分子、例えば癌特異的ネオアンチゲンのいずれかである抗原を標的とするワクチン接種の場合に頻繁に観察される。癌特異的ネオアンチゲンは、主に遺伝子のコード領域の点突然変異に由来し、これは非同義の単一ヌクレオチド変異体をもたらし、1つのアミノ酸の変化をもたらす。タンパク質配列の単一のアミノ酸変化が、強力な免疫応答を誘導できる新規エピトープを生成することはほとんどない。ほとんどの場合、この小さな変化は新しいエピトープをまったく生成しないか、非常に弱いものを生成する可能性がある。自己抗原に対する既存の中枢性免疫寛容(central tolerance)のため、ワクチン接種による癌特異的抗原に対する強力な免疫応答の誘導は、依然として困難な課題である。癌特異的抗原およびネオアンチゲンの欠如したまたは不十分な免疫原性を克服するために、いくつかの遺伝子ワクチンの欠如した/不十分な免疫原性をレスキューするためにいくつかの戦略が採用されてきた。インバリアント鎖(INV)は、遺伝的ワクチン接種との関連でCD8 + T細胞の誘導を増強することが示されている。インバリアント鎖は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子の成熟と構築に必要とされるシャペロンタンパク質である。INVは抗原ペプチドの提示にも役割を果たしており、遺伝的ワクチン接種との関連で抗原と融合すると、T細胞の誘導を増加させることが実証されている。INVに融合したオボアルブミンを発現するレンチウイルスベクターによる改善された免疫能力が記載されている(非特許文献1)。その後、さまざまな報告で、ヒトアデノウイルス5やINV融合抗原を発現するプラスミドDNAベクターによるCD8 + T細胞応答の誘導の強化が報告された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Rowe et al 2006 Mol Ther 13(2) 310-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
癌ワクチン接種では、ワクチン誘導T細胞によって認識されない新たな癌特異的抗原の出現による腫瘍の逃避を避けることが重要である。癌の治療における癌ワクチンの課題は、癌細胞がT細胞応答を「逃避する」可能性を減らすため、一度にできるだけ多くの癌細胞を認識して排除することができる免疫T細胞の多様な集団を誘導することである。したがって、ワクチンは非常に多くの癌特異的抗原をコードすることが望まれる。これは、最近記述された癌特異的ネオアンチゲンに基づく個別化ワクチンアプローチに特に関連する。成功の可能性を最適化するために、できるだけ多くのネオアンチゲンをワクチンの標的とする必要があるが、ベクターの最大挿入サイズは制限されている。全長INV配列またはその大きな断片は、ワクチン抗原挿入の比較的大きな部分を占める。したがって、T細胞エンハンサーとしての短いポリペプチドの使用は、特にワクチンにおけるいくつかの癌特異的抗原を使用する場合の抗癌ワクチン接種の状況において好ましい。
【0005】
アデノウイルス、特に類人猿(Great Apes)由来のアデノウイルス(GAd)ウイルスベクターに基づく遺伝的ワクチン接種プラットフォームは、T細胞応答の誘導が非常に強力であることが示され、また、類人猿由来のアデノウイルスは、異なるタンパク質からの断片をコードするポリヌクレオチドを次々に連結したポリヌクレオチドで構成される人工遺伝子の形式で大きな抗原をコードするのに適している(Borthwick, N., et al., Mol Ther, 2014. 22(2): p. 464-75)。予期しないことに、癌特異的ネオアンチゲンとの関連で使用した場合、T細胞を介した免疫応答は誘発されなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、免疫原性を回復することができる特定のINV配列を同定し、本願では「T細胞エンハンサーアミノ酸配列」ともいう。そのようなT細胞エンハンサーアミノ酸配列は、癌特異的ネオアンチゲンの欠如したまたは不十分な免疫原性を克服するのに適していた。特に、非ヒト硬骨類INVの2つの短い断片は、両方とも強力なT細胞エンハンサーとして機能する膜貫通ドメインを含まないことが同定された。
【0007】
ヒトINVまたは系統発生的に密接に関連した種のINVの使用は、ワクチン接種に関して、この自己配列に対する免疫応答の望ましくない誘導をもたらす可能性がある。この場合、自己免疫応答は、INVが発現している正常組織に向けられる。本発明者らは驚くべきことに、硬骨類のINVは哺乳類のINVとはかなり異なるが、哺乳類の抗原に対するT細胞の応答を増加させること、このT細胞応答エンハンスの効果は、硬骨類のインバリアント鎖に融合された複数の抗原に及んでいること、硬骨類INVの短い断片はこの反応を誘発するのに十分であることを見出した。従って、本発明はとりわけ、(i)健常組織に対する望ましくないT細胞応答を誘発する可能性を減少する、哺乳類の抗原に対するT細胞応答の改善されたエンハンサー、(ii)複数の抗原に対するT細胞応答のエンハンサー、および(iii)多数の抗原またはその抗原性断片を融合する能力を最大化するT細胞を誘発することができる短い断片、を提供する。
【0008】
第1の態様において、本発明は、
(a) T細胞応答エンハンサー活性を有する、硬骨類のインバリアント鎖(INV)の断片であって、硬骨類のINVの膜近位ドメイン(MPD)の16~27のアミノ酸を含むか、またはからなり、該MPDは好ましくは以下のアミノ酸配列によって特徴づけられ、
X1QKX2QIHTLQKX3SX4RX5X6X7QX8TRX9SX10AV
ここで、
X1 は G、D、SまたはN、
X2 は EまたはQ、
X3 は NまたはS、
X4 は DまたはE、
X5 は MまたはL、
X6 は G、N、SまたはT、
X7 は KまたはR、
X8 は LまたはM、
X9 は S、TまたはA、および
X10 は QまたはH、であり、
および該MPDの16~27のアミノ酸は好ましくは配列番号7と少なくとも70%同一性がある、
および任意で、1以上の抗原またはその抗原断片、
または、
(b) T細胞応答エンハンサー活性を有する、配列番号1の全長硬骨類INVまたはその変異体であって、該変異体のMPDのアミノ酸配列は配列番号7と少なくとも80%同一性がある、および1以上の抗原またはその抗原断片、
を含む、ペプチドを提供する。
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。
第3の態様において、本発明は、本発明の第2の態様によるポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
第4の態様において、本発明は、2以上の異なるベクターのコレクションに関し、該異なるベクターはそれぞれ、本発明の第1の態様による異なるポリペプチドをコードする本発明の第2の態様によるポリヌクレオチドを含む。
第5の態様において、本発明は、本発明の第1の態様のポリペプチド、本発明の第2のポリヌクレオチド、または本発明の第3の態様のベクター、または本発明の第4の態様のベクターのコレクション、および薬学的に許容可能な賦形剤および任意で1以上のアジュバントを含む医薬組成物に関する。
第6の態様において、本発明は、本発明の第5の態様の医薬組成物および、個別にパッケージされた少なくとも1つの免疫調節剤(たとえばチェックポイント分子(MCM)の調節剤)、または免疫調節剤(たとえばMCM)をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、または免疫調節剤(たとえば、MCM)をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、を含む部品のキットに関する。
第7の態様において、本発明は、医薬としての使用のための、本発明の第1の態様のポリペプチド、本発明の第2の態様のポリヌクレオチド、または本発明の第3または第4の態様のベクターまたはベクターのコレクションに関する。
第8の態様において、本発明は、増殖性疾患、好ましくは癌、ウイルス性疾患または細菌性疾患の予防または治療に使用するための、本発明の第1の態様のポリペプチド、本発明の第2の態様のポリヌクレオチド、または本発明の第3または第4の態様のベクターまたはベクターのコレクション、または本発明の第5の態様の医薬組成物、または本発明の第6の態様の医薬組成物を含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】5 x10
7 vp または 5 x 10
8 vpの用量でのGAdベクターの免疫原性。 ベクターは、CT26ペンタトープ(pentatope)抗原に連結された、マンダリンフィッシュ(Mandarin Fish)INV全長(MF_INV_FL)、マンダリンフィッシュINVショートバージョン(1~81残基、MF_INV_SH)、マンダリンフィッシュINV変異体A(62~88残基、MF_INV_A)および変異体B(66~81残基、MF_INV_B)をコードする。ペンタは、マンダリンフィッシュINV配列またはその断片を有さず、最初のメチオンのみを有するCT26ペンタトープ抗原を表す。報告された値は、免疫された動物の脾臓細胞に対するELISpotアッセイによって得られた。脾細胞は、変異を含む5つの癌特異的ネオアンチゲンの配列に対応する5つの合成ペプチドのプールで、ワクチン接種の2週間後にエクスビボで刺激された。応答は、数百万の脾細胞あたりのIFNγを産生するT細胞の数として表される(expressed)。下部に示されているのは、テストされた各ベクターコンストラクトの合計6匹の免疫マウスのうち、陽性反応を示しているマウスの数である。破線は、陽性反応のしきい値を表す。
【
図2】さまざまな硬骨類の種のインバリアント鎖のアライメント。最初のボックスは、26アミノ酸長の膜貫通ドメイン(TMD)の特徴である。膜近位ドメイン(MPD)はTMDのC末端すぐにあり、2番目のボックスで強調表示されている。MPDに含まれる短い16アミノ酸長のインバリアント断片MF_INV_Bの位置と範囲は2番目のボックスの下にある一連のアスタリスク(*)で強調表示されている。INV配列は、上から下に配列番号3、配列番号6、配列番号4、配列番号5、配列番号1および配列番号2に示されるアミノ酸配列である。
【
図3】20のCT26ネオアンチゲンをコードするGAdベクターの免疫原性。マウスを5x10
7の各GAdベクター(MFインバリアント鎖FRAG_Aを含み、CT26-20を含まないMF_INV_A-20)で免疫し、2週間後、脾臓細胞のELISpotアッセイにより免疫応答が測定された。20のコードされたネオアンチゲン配列の配列に対応する20の合成ペプチドのプールに対する応答(数百万の脾細胞あたりIFNγを産生するT細胞の数)が示される。示されている値は、6匹のマウス/グループで実行された測定の平均+/- SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を以下に詳細に説明する前に、本発明は、本明細書に記載されている特定の方法論、プロトコル、および試薬が変化する可能性があるため、これらに限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0011】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「A multilingual glossary ofbiotechnological terms: (IUPAC Recommendations)、Leuenberger,H.G.W, Nagel, B. and Klbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010Basel, Switzerland」および「Pharmaceutical Substances:Syntheses, Patents, Applications、Axel Kleemann andJurgen Engel, Thieme Medical Publishing, 1999」、「MerckIndex: An Encyclopedia of Chemicals, Drugs, and Biologicals、Susan Budavari et al., CRC Press, 1996」、「theUnited States Pharmacopeia-25/National Formulary-20、theUnited States Pharmcopeial Convention, Inc., Rockville Md., 2001」に記載されているように定義される。
【0012】
本明細書および特許請求の範囲を通して、文脈が他に必要としない限り、「含む(comprise)」という単語、および「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、記載された特徴、整数もしくは工程または特徴、整数もしくは工程のグループの包含を意味し、他の特徴、整数もしくは工程または特徴、整数もしくは工程を除外するものではないと理解されるであろう。以下の段落では、本発明の様々な態様をより詳細に定義する。そのように定義された各態様は、これに反することを明確に示されていない限り、他の任意の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは有利であると示されている任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示されている他の任意の特徴と組み合わせることができる。
【0013】
本明細書の本文全体にわたっていくつかの文献が引用されている。本明細書で引用されている各文献(特許、特許出願、科学刊行物、製造元の仕様書、説明書等を含む)は、上記または下記のいずれであっても、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明のそのような開示に先行する権利を与えることを承認したと解釈されるべきではない。
【0014】
定義
以下に、本明細書で頻繁に使用される用語の定義をいくつか示す。これらの用語は、その使用の各例示において、本明細書の残りの部分において、それぞれ定義された意味および好ましい意味を有する。
【0015】
本発明で使用される用語「膜貫通ドメイン(TMD)」は、すべてのINVで保存されているGln(Q)残基のN末端側17残基から始まり、保存されたQのC末端側8残基で終わるアミノ酸セグメント(合計26残基を含む)ものとして定義されるインバリアント鎖配列(INV)のTMDを指す。
【0016】
本発明で使用される用語「膜近位ドメイン(MPD)」は、INVのTMDのC末端側すぐにある27残基のセグメントを指す。
【0017】
本発明において、用語「アジュバント」は、抗原に対する免疫応答を増強(エンハンス)する物質として使用される。さらに、アジュバントは、抗原の製剤化の安定化に役立つ物質としても進化している。ワクチンにアジュバントを加えると、標的抗原に対する免疫系の反応を刺激するが、免疫原性自体は提供しない。アジュバントは、ルーティング(routing)と抗原に対する適応免疫応答を改善するために必要である。アジュバントは、さまざまなメカニズムを通じてその効果を適用する。例えば、血液中の抗原の存在を拡張することにより、および/または抗原提示細胞が抗原を吸収するのを助けることにより、および/またはマクロファージとリンパ球を活性化することにより、および/またはサイトカインの産生を補助することによる。ミョウバンなどの一部のアジュバントは、注射部位で抗原をトラップするデポーを生成することにより送達システムとして機能し、免疫系を刺激し続ける徐放を提供する。記載されているタイプのアジュバントには、i)無機化合物:ミョウバン、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化リン酸カルシウム、ii)鉱物油:パラフィン油、iii)細菌性産物:死滅させた百日咳菌、ウシ型結核菌、トキソイド、iv)非細菌性有機物:スクアレン、v)送達システム:界面活性剤(Quil A)、vi)キラヤ属(Quillaja)(Quillaiaを参照)、大豆、ヒロハセネガ(Polygala senega)由来の植物サポニン、vii)サイトカイン:IL-1、IL-2、IL-12、viii)組み合わせ:フロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、がある。
【0018】
本発明で使用される用語「免疫調節剤」は、免疫系に影響を与える任意の薬物または物質を指す。免疫調節剤は、i)弱い免疫系を強化する、ii)過剰活性免疫系を制御する、ことによって免疫反応を正しいレベルに調節できる。弱い免疫系を強化することができる特定のクラスの免疫調節剤は、i)腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーメンバー好ましくは、CD27、CD40、OX40、GITRまたはCD137のようなアゴニスト性活性化因子MCM、ii)PD-1、CD274、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、VISTAまたはB7-CD28スーパーファミリーメンバー、CD28またはICOSのようなアンタゴニスト性阻害MCMまたはそのリガンドのアンタゴニストからなる、免疫学的チェックポイント分子(MCM)の調節剤である。弱い免疫系を強化することができる別のクラスの免疫調節剤はサイトカインであり、これはT細胞増殖因子として作用する。そのようなサイトカインの好ましい例は、IL-2、IL-12、IL-15、またはIL-17である。
【0019】
本発明に関して使用される用語「抗原」は、免疫応答の分子、例えば抗体、T細胞受容体(TCR)によって認識される任意の構造を指す。好ましい抗原は、細胞性または外来性である、例えば、ウイルス性、細菌性または真菌性の特定の疾患に関連するタンパク質である。抗原は、適応免疫系の非常に多様な抗原受容体(B細胞受容体またはT細胞受容体)によって認識され、体液性または細胞性免疫応答を誘発する可能性がある。このような応答を誘発する抗原は、免疫原とも呼ばれる。細胞内のタンパク質の一部は、外来のものであるか細胞内のものであるかに関係なく、より小さいペプチドに処理され、主要組織適合性複合体(MHC)によって提示される。
【0020】
用語「その抗原性断片」は、免疫系の分子によってまだ認識される特定の抗原の一部を指す。抗原性断片は、少なくとも1つのエピトープまたは抗原決定基を含むであろう。好ましくは、本発明の抗原性断片は、少なくとも1つのT細胞エピトープを含む。
【0021】
本発明に関して使用される用語「エピトープ」は、抗原決定基としても知られ、抗原のセグメント、好ましくは免疫系の分子、例えばB細胞受容体、T細胞受容体または抗体が結合するペプチドのセグメントを指す。抗体またはB細胞が結合するエピトープは「B細胞エピトープ」と呼ばれ、T細胞が結合するエピトープは「T細胞エピトープ」と呼ばれる。本明細書において、用語「結合」は、抗体またはT細胞受容体(TCR)とそれぞれのエピトープとの間の1 x 105 M-1以上、好ましくは1 x106 M-1、1 x 107 M-1、1 x 108 M-1 以上の結合定数での結合として定義される特異的結合に好ましくは関する。当業者は、関連する定数を決定する方法をよく知っている(例えば、Caoili, S.E. (2012) Advances in Bioinformatics Vol. 2012を参照)。好ましくは、抗体のエピトープへの特異的結合は、抗体のFab(断片、抗原結合)領域によって媒介され、B細胞の特異的結合は、B細胞受容体に含まれる抗体のFab領域によって媒介され、T細胞の特異的結合は、T細胞受容体の可変(V)領域によって媒介される。T細胞エピトープは、抗原提示細胞の表面に提示され、主要組織適合性(MHC)分子に結合する。MHC分子には少なくとも2つの異なるクラスがあり、MHCクラスI、IIとそれぞれ呼ばれる。MHC-I経路を通じて提示されたエピトープは細胞傷害性Tリンパ球(CD8+細胞)による反応を誘発し、MHC-II経路を通じて提示されたエピトープはTヘルパー細胞(CD4+細胞)による反応を誘発する。MHCクラスI分子によって提示されるT細胞エピトープは、通常、長さが8~11アミノ酸のペプチドであり、MHCクラスII分子によって提示されるT細胞エピトープは通常、長さが13~17アミノ酸のペプチドである。MHCクラスIII分子は、糖脂質として非ペプチド性エピトープも提示する。すなわち、用語「T細胞エピトープ」は、MHCクラスIまたはMHCクラスII分子のいずれかによって提示される8~11または13~17アミノ酸長のペプチドを好ましくは指す。エピトープは通常、アミノ酸の化学的に活性な表面基からなり、糖側鎖を保有しても保有しなくてもよく、通常、特定の3次元構造特性および特定の電荷特性を有する。立体構造と非立体構造のエピトープは、前者への結合は変性溶媒の存在下で失われるが後者では失われないという点で区別される。
【0022】
本発明に関して使用される用語「癌特異的抗原」は、がん細胞で特異的に発現するタンパク質、または健康な細胞よりもがん細胞で豊富に含まれるタンパク質を指す。癌特異的抗原は、以下の抗原の種類を含む:
(i)癌胎児性の(通常、胎児組織および癌性体細胞でのみ発現)、または
(ii)オンコウイルスの(発癌性形質転換ウイルスによってコードされる)、または
(iii)過剰発現/蓄積された(正常組織と腫瘍性組織の両方で発現し、腫瘍形成では発現レベルが非常に上昇)、または
(iv)がん-精巣(がん細胞と、精巣や胎盤などの成人の生殖組織でのみ発現)、または
(v)系統限定(主に単一のがん組織型で発現)、または
(vi)癌特異的アイソフォーム(転写産物エクソン組成の変化)。
【0023】
本発明に関して使用される用語「癌特異的ネオアンチゲン」は、正常/生殖細胞には存在しないが、形質転換された細胞、特に癌細胞に存在する抗原を指す。癌特異的ネオアンチゲンは、1以上、たとえば 2、3、4、5、またはそれ以上のネオエピトープを含んでもより。本発明のポリペプチドに含まれる各癌特異的ネオアンチゲンの長さは、それらが正常/生殖系列細胞で生じるエピトープを含む可能性が低いことを確認するように選択されることが好ましい。典型的には、これは、癌特異的ネオアンチゲンが、ネオエピトープを作り出したアミノ酸変化のC末端および/またはN末端に12個以下のアミノ酸を含むことで確認することができる。
【0024】
癌特異的ネオアンチゲンは、好ましくは、DNAレベルで起こる突然変異によって生成されるものであり、該突然変異タンパク質は以下を含むことができる:
a)点変異非同義(non-synonymous)SNVによって引き起こされる1つ以上の単一aa変化、および/または
b)フレームシフトされたペプチドをもたらす挿入/欠失によって引き起こされる非野生型アミノ酸配列、および/または
c)エクソン境界の変化またはイントロン保持を生成する突然変異によって引き起こされる非野生型アミノ酸配列、および/または
d)遺伝子融合イベントによって生成された変異した癌タンパク質。
ゲノム点突然変異非同義SNVによって引き起こされる1つ以上の単一アミノ酸変化の結果であるネオアンチゲンは、本発明に関して単一アミノ酸突然変異体ペプチドと呼ばれる。
【0025】
本発明に関して使用される用語「フレームシフトペプチド」は、オープンリーディングフレーム(ORF)のシフトを引き起こす挿入または欠失変異を含むポリヌクレオチドのセグメントをコードするタンパク質の完全な非野生型翻訳産物を指す。
【0026】
本発明に関して使用される用語「オープンリーディングフレーム」、略して「ORF」は、アミノ酸の連続したストリング(string)に翻訳できるヌクレオチドの配列を指す。典型的には、ORFには開始コドンが含まれ、後続の領域は通常、3ヌクレオチドの倍数の長さであるが、所与のリーディングフレームにおいて停止コドン(TAG、TAA、TGA、UAG、UAA、またはUGA)が含まれない。ORFは、翻訳可能なアミノ酸がペプチド結合鎖を形成するタンパク質をコードする。
【0027】
用語「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、一本鎖および二本鎖ヌクレオチドポリマーの両方を含む。ポリヌクレオチドを含むヌクレオチドは、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドまたはいずれかのタイプのヌクレオチドの修飾形態であり得る。前記修飾には、ブロモウリジンおよびイノシン誘導体などの塩基修飾、2',3'-ジデオキシリボースなどのリボース修飾、およびホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホラニラデートおよびホスホロアミデートなどのヌクレオチド間結合修飾が含まれる。ポリヌクレオチドの例はDNAおよびRNAである。
【0028】
「単離されたポリヌクレオチド」は、ゲノムのDNAまたはRNA、mRNA、cDNA、または合成起源のDNAまたはRNA、またはそれらのいくつかの組み合わせであり、単離されたポリヌクレオチドが天然に見出されるポリヌクレオチドの全部または一部と関連していないか、または天然には連結されていないポリヌクレオチドに連結されている。
【0029】
本発明に関して使用される用語「発現カセット」は、発現される少なくとも1つの核酸配列、例えば、転写および/または翻訳制御配列に作動可能に連結された本発明のインバリアント鎖またはその断片に融合した一連の癌特異的ネオアンチゲンをコードする核酸、を含むポリヌクレオチドを指す。好ましくは、発現カセットは、プロモーター、開始部位、および/またはポリアデニル化部位などの所与の遺伝子の効率的な発現のためのシス調節エレメントを含む。好ましくは、発現カセットは、患者の細胞におけるポリヌクレオチドの発現に必要なすべての付加的なエレメントを含む。したがって、典型的な発現カセットは、発現されるポリヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターと、転写産物の効率的なポリアデニル化、リボソーム結合部位、および翻訳終結に必要なシグナルを含む。本カセットの付加的なエレメントは例えばエンハンサーを含んでもよい。発現カセットはまた、効率的な終結を提供するために、構造遺伝子の下流に転写終結領域を含むことが好ましい。前記終結領域は、プロモーター配列と同じ遺伝子から得られてもよく、または異なる遺伝子から得られてもよい。
【0030】
本発明に関して使用される用語「作動可能に連結」されるとは、そのように記述された構成要素が、それらの通常の機能を実行するように構成される、エレメントの配置を指す。ポリヌクレオチドは、別の核酸配列と機能的な関係に置かれると「作動可能に連結」される。例えば、プロモーターが1以上の導入遺伝子の転写に影響を与える場合、プロモーターは1以上の導入遺伝子に機能的に連結されている。さらに、コード配列に作動可能に連結された制御エレメントは、コード配列の発現に影響を与えることができる。制御エレメントは、それらがその発現を指示するように機能する限り、コード配列と隣接している必要はない。したがって、例えば、介在性非翻訳であるが転写される配列は、プロモーター配列とコード配列の間に存在する可能性があり、プロモーター配列は、コード配列に「作動可能に連結」されていると見なすことができる。
【0031】
本発明に関して交換可能に使用される用語「ベクター」または「発現ベクター」は、ポリヌクレオチド、あるタイプのエンベロープ内、例えば、ウイルスコートまたはリポソーム内のポリヌクレオチド、または本発明のポリヌクレオチドを導入することができる、または細胞、好ましくは哺乳動物細胞に導入することができるタンパク質と複合体化したポリヌクレオチドを指す。ベクターの例には、プラスミド、コスミド、ファージ、リポソーム、ウイルス、または人工染色体が含まれるが、これらに限定されない。特に、ベクターは、プロモーターおよび本発明のポリヌクレオチドを適切な宿主細胞に送達するために使用される。発現ベクターは、宿主細胞における発現ベクターの自律複製を促進する「レプリコン」ポリヌクレオチド配列を含んでもよい。宿主細胞に入ると、発現ベクターは宿主染色体DNAとは独立してまたは同時に複製することができ、ベクターおよびその挿入されたDNAのいくつかのコピーを生成することができる。複製能力のない発現ベクターが使用される場合-これは安全上の理由からよくあることであるが-ベクターは複製されないかもしれないが、ポリヌクレオチドの発現を直接指示する可能性がある。発現ベクターの種類によっては細胞から失われる可能性がある、すなわち、ポリヌクレオチドによってコードされるネオアンチゲンを一過性にのみ発現するか、または細胞内で安定している可能性がある。発現ベクターは、典型的には、発現カセット、すなわち、ポリヌクレオチドのmRNA分子への転写を可能にする必要なエレメントを含む。ポリヌクレオチドがRNAである場合、転写は不要であり、したがってRNA分子は翻訳制御エレメントのみを必要とする。
【0032】
用語「T細胞エンハンサーアミノ酸配列」は、抗原性配列と融合すると、遺伝的ワクチン接種との関連でT細胞の誘導を増加させるポリペプチド配列を指す。
【0033】
用語 「T細胞応答エンハンサー活性」は、抗原が負荷されたT細胞の応答を増加させる化合物、特にポリペプチドを指す。そのような化合物の例は、特に抗原性配列に結合される場合、本発明のポリペプチドである。該ポリペプチドは、ワクチン接種と関連して、抗原のみに対するT細胞応答と比較して、前記抗原に対するT細胞応答を増加させるであろう。T細胞応答を測定するのに適したアッセイは当技術分野で知られており、細胞刺激後の小胞体内でのサイトカインの産生と蓄積を検出する、ELISpotまたは細胞内サイトカイン染色(ICS)によるインターフェロンガンマ(IFN-γ)などの活性化T細胞によって放出されるサイトカインの測定が含まれる。T細胞応答エンハンサー活性を有する化合物は、例証されるように、例えば、サイトカイン放出の増加によって、T細胞の応答を増加させる。
【0034】
本発明に関して使用される用語「調製物」および「組成物」は、を意図する。活性化合物、例えば、担体および/または賦形剤を含む本発明の類人猿アデノの製剤を含むことが意図される。
【0035】
本発明に関して使用される用語「薬学的に許容可能」は、動物、特にヒトでの使用を目的とする、連邦または州政府の規制機関によって承認されたか、米国薬局方またはその他の一般に認められている薬局方に記載されているものを意味する。
【0036】
本明細書で使用される用語「担体」は、薬理学的に不活性な物質、例えばこれに限定されるものではないが、希釈剤、賦形剤、界面活性剤、安定剤、生理学的緩衝液、または治療活性成分と共に投与されるビヒクルを指す。そのような薬学的な担体は、液体または固体であり得る。液体担体には、これに限定されるものではないが、水中およびこれに限定されるものではないがピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、植物または合成起源のものが含まれる油中の生理食塩水などの無菌液体が含まれる。生理食塩水およびデキストロース水溶液およびグリセロール溶液も、特に注射可能な溶液のための液体担体として使用することができる。医薬組成物が静脈内投与される場合、食塩水が好ましい担体である。適切な薬学的な担体はE. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0037】
適切な薬学的な「賦形剤」は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどを含む。
【0038】
「界面活性剤」には、これに限定されるものではないが、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、TritonX-100などのアニオン性、カチオン性、および非イオン性界面活性剤、ならびにポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65およびポリソルベート80などのポリソルベートが含まれる。
【0039】
「安定剤」には、これに限定されるものではないが、マンニトール、スクロース、トレハロース、アルブミン、ならびにプロテアーゼおよび/またはヌクレアーゼアンタゴニストが含まれる。
【0040】
本発明に関して使用される用語「生理緩衝液」は、これに限定されるものではないが、塩化ナトリウム溶液、脱塩水、ならびにこれに限定されるものではないが、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPES緩衝液([4(2ヒドロキシエチル)ピペラジノ]エタンスルホン酸)またはMOPS緩衝液(3モルホリノ-1プロパンスルホン酸)のような適切な有機または無機緩衝液を含む。一般的に、それぞれの緩衝液の選択は、所望の緩衝液のモル濃度に依存する。リン酸緩衝液は、例えば、注射および注入溶液に適している。
【0041】
「有効量」または「治療有効量」は、意図された目的を達成するのに十分な治療剤の量である。所与の治療剤の有効量は、薬剤の性質、投与経路、治療剤を投与する動物のサイズと動物種、および投与の目的などの要因によって異なる。各個別の場合における有効量は、当技術分野で確立された方法に従って、当業者により経験的に決定され得る。
【0042】
本明細書で使用される疾患または障害の「治療(treat)」、「治療する(treating)」、「処置(treatment)」または「療法(therapy)」は、以下の1以上を達成することを意味する:(a)障害の重症度を軽減すること、(b)治療される障害に特徴的な症状の発症を制限または防止すること、(c)治療される疾患に特徴的な症状の悪化を抑制すること、(d)以前に障害を起こしたことがある人の障害の再発を制限または防止すること、ならびに(e)以前に障害の症状であった人の症状の再発を制限または防止すること。
【0043】
本発明の態様
本発明の第1の態様は以下を含むポリペプチドを提供する:
(a) 好ましくはT細胞応答エンハンサー活性を有する、硬骨類のINVの断片であって、硬骨類のINVの膜近位ドメイン(MPD)の16~27の隣接したアミノ酸を含むか、またはからなり、該MPDは好ましくは以下のアミノ酸配列(配列番号31)によって特徴づけられ、
X1QKX2QIHTLQKX3SX4RX5X6X7QX8TRX9SX10AV
ここで、
X1 は G、D、SまたはN、好ましくはGまたはS、より好ましくはG、
X2 は EまたはQ、好ましくはE、
X3 は NまたはS、好ましくはN、
X4 は DまたはE、好ましくはE、
X5 は MまたはL、好ましくはM、
X6 は G、N、SまたはT、好ましくはS、GまたはT、より好ましくはS、
X7 は KまたはR、好ましくはK、
X8 は LまたはM、好ましくはL、
X9 は S、TまたはA、好ましくはS、および
X10 は QまたはH、好ましくはQであり、
および該MPDの16~27のアミノ酸は好ましくは配列番号7と少なくとも70%同一性がある、
および任意で、1以上の抗原またはその抗原断片、
または、
(b) T細胞応答エンハンサー活性を有する、配列番号1の全長硬骨類INVまたはその変異体であって、該変異体のMPDのアミノ酸配列は配列番号7と少なくとも80%同一性がある、
および1以上の抗原またはその抗原断片。
【0044】
一般に、INVの断片は、そのT細胞抗原刺激効果を保持しながら、できるだけ短いことが望ましい。好ましくは、該断片は、INVのMPDの16~27、17~26、18~25,19~24、20~23、21~22の連続したアミノ酸を含むか、より好ましくはからなる。
【0045】
INVの断片は、MPDのN末端および/またはC末端に追加の配列を含むことができるが、そのような配列が断片に含まれないことが好ましく、したがって、断片は、MPDのそれぞれの連続したアミノ酸のストレッチからなることが好ましい。
【0046】
INVの断片が、MPDのN末端および/またはC末端に追加の配列を含む場合、該断片は、MPD全体、すなわち27アミノ酸を含むことが好ましい。該断片はTMDを含まず、追加のINVのC末端アミノ酸を含むことが好ましい。好ましくは、これらのC末端アミノ酸は、MPDに直接連続している。
【0047】
MPDの配列は、好ましくは、配列番号7に示されるマンダリンフィッシュのMPD配列に基づく。好ましくは、該断片はMPDの16~27のアミノ酸を含むかからなり、該MPDは、配列番号7と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一性がある。
【0048】
該断片は、追加のINVのN末端および/またはC末端のアミノ酸配列を含むことができる。したがって、好ましくはINV断片の全長は16~80、17~72、18~55、19~50、20~45、21~40、22~35、23~30の連続アミノ酸である。
【0049】
1つの好ましい態様において、 該断片は配列番号31のアミノ酸配列によって特徴づけられるMPDを含むかまたはからなる。好ましくは。MPDは少なくともQIHTLQKX3SX4RX5X6X7QX8(配列番号51)のアミノ酸配列を含み、
ここで、
X3 は NまたはS、好ましくはN、
X4 は DまたはE、好ましくはE、
X5 は MまたはL、好ましくはM、
X6 は G、N、SまたはT、好ましくはS、GまたはT、より好ましくはS、
X7 は KまたはR、好ましくはK、
X8 は LまたはM、好ましくはL、
である。
【0050】
この好ましい態様に関し、特に好ましいのは、この断片は配列番号51および配列番号51のN末端および/またはC末端に存在してもよい、MPDの追加のアミノ酸0~11、すなわち、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11を含む。好ましくは、これらの1~11のさらなるアミノ酸は、配列番号7と少なくとも70%の同一性を共有する。好ましくは、配列番号51に示されるコア配列を含む断片全体が、配列番号7と少なくとも70%同一であり、より好ましくは少なくとも75%同一であり、より好ましくは少なくとも80%同一であり、さらにより好ましくは少なくとも85%もしくは少なくとも90%同一である。いずれの場合も、断片はT細胞応答エンハンサー活性を有することが好ましい。該断片のN末端およびC末端に連続するさらなるINV鎖配列がないことがさらに好ましく、より好ましくは断片は、ポリペプチド中の唯一のINV配列である。
【0051】
本発明の第1の態様のポリペプチドの1つの好ましい態様において、
(a) 第1の態様の選択肢(a)のMPDのアミノ酸配列は、配列番号7~12のいずれか、すなわち、配列番号7、8、9、10、11または12である、または、
(b) 本発明の第1の態様の選択肢(a)のINV断片のアミノ酸配列は、配列番号7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18、好ましくは配列番号7または13のいずれかを含むか、または配列番号7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18、好ましくは配列番号7または13のいずれかからなる。
(c) 本発明の第1の態様の選択肢(b)の硬骨類インバリアント鎖のアミノ酸配列は配列番号1~6のいずれかである。
【0052】
断片が、 INVのMPDの16~27アミノ酸からなる場合、好ましい断片は、配列番号7~12に示されるINVのMPDの16~27、17~26、18~25、19~24、20~23、21~22の連続したアミノ酸の長さを有する。
【0053】
上記で概説したそれぞれの場合において、断片または変異体は、T細胞応答エンハンサー活性を有する。T細胞応答エンハンサー活性は、当技術分野で知られているように、または添付の実験に示されているように測定することができる。好ましくは、同じ抗原または一連の抗原に結合した場合、T細胞応答エンハンサー活性は、配列番号13に示されるINV断片のT細胞応答エンハンサー活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%である。
【0054】
本発明の第1の態様の選択肢(a)のポリペプチドの特別な態様において、断片は、MPDの少なくとも16~27N末端アミノ酸からなり、および:
(i) 硬骨類のINVの膜貫通ドメイン(TMD)の1~26の連続したアミノ酸はMPDのN末端すぐであって、該硬骨類のINVのTMDは好ましくは以下のアミノ酸配列(配列番号32)によって特徴づけられ、
AY1KY2AY3LTTLY4CLLY5Y6SQVFTAYY7VF
ここで、
Y1はLまたはF、好ましくは L、
Y2 はI またはV、好ましくはV、
Y3 はGまたはA、好ましくは G、
Y4 はTまたはA、好ましくは T、
Y5 はLまたはV、好ましくはL、
Y6 はAまたはS、好ましくは A、および
Y7 はMまたはT、好ましくは M、であり
および/または
(ii) 硬骨類のINVの1~19の連続したアミノ酸は、MPDのC末端すぐであって、好ましくは以下のアミノ酸配列(配列番号33)によって特徴づけられ、
APZ1Z2MZ3Z4PMZ5SLPZ6Z7Z8DZ9Z10
ここで
Z1 はM、VまたはA、好ましくは M または V、より好ましくはM、
Z2 はR またはK、好ましくは K、
Z3 はH、AまたはQ、好ましくはMまたはH、より好ましくはH、
Z4 はMまたはL、好ましくはM、
Z5 はNまたはS、好ましくはN、
Z6 はMまたはL、好ましくはL、
Z7 はM、Lまたは V、好ましくはL、
Z8 はMまたはS、好ましくはM、
Z9 はFまたはY、好ましくはF、および
Z10 はTまたは S、好ましくはT、である。
【0055】
該断片が、INVの追加のNおよび/またはC末端アミノ酸配列を含む場合、好ましくは、INVの断片の全長は、28~72、30~65、または35~46の連続したアミノ酸である。
【0056】
驚くべきことに、2つ以上の抗原、好ましくはネオアンチゲンに対する強力なT細胞応答は、本発明の第1の態様の選択肢(a)のINV断片または本発明の第1の態様の選択肢(b)のINVを2つ以上の抗原および/またはその抗原性断片に融合することにより誘導され得ることを本発明者らは見出した。これにより、複数の抗原に対するT細胞応答の同時誘導が可能になる。このように、本発明の第1の態様の選択肢(a)と本発明の第1の態様の選択肢(b)の両者に関して、ポリペプチドが複数の抗原および/またはその抗原性断片を含むことが好ましい。例えば、少なくとも5の異なる抗原および/またはその抗原性断片、より好ましくは少なくとも20の異なる抗原および/またはその抗原性断片、さらにより好ましくは、少なくとも50の異なる抗原および/またはその抗原性断片、さらにより好ましくは、少なくとも100の異なる抗原および/またはその抗原性断片、さらにより好ましくは、少なくとも200の異なる抗原および/またはその抗原性断片、ならびに、さらにより好ましくは、少なくとも300の異なる抗原および/またはその抗原性断片該ポリペプチド、を含むことが好ましい。
【0057】
1つのポリペプチド内に最大数の異なる抗原を収容するために、該ポリペプチドが該抗原の抗原性断片を含むことが特に好ましい。
【0058】
抗原は、それぞれの治療用途に応じて選択される。増殖性疾患に対する治療的または予防的ワクチン接種が望まれる場合、抗原は、癌特異的抗原または癌特異的ネオアンチゲンから選択される。上記のように、特に癌ワクチン接種に関して、第1の態様のポリペプチドは、2つ以上の異なる抗原を含むことが好ましい。ポリペプチドは、少なくとも5の異なる癌特異的抗原またはその抗原性断片、より好ましくは少なくとも20の異なる癌特異的抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも50の異なる癌特異的抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも100の異なる癌特異的抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも200の異なる癌特異的抗原またはその抗原性断片、ならびに、さらにより好ましくは少なくとも300の異なる癌特異的抗原またはその抗原性断片、を含むことが好ましい。あるいは、ポリペプチドは、少なくとも5の異なる癌特異的ネオアンチゲンまたはその抗原性断片、より好ましくは少なくとも20の異なる癌特異的ネオアンチゲンまたはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも50の異なる癌特異的ネオアンチゲンまたはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも100の異なる癌特異的ネオアンチゲンまたはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも200の異なる癌特異的ネオアンチゲンまたはその抗原性断片、ならびに、さらにより好ましくは少なくとも300の異なる癌特異的ネオアンチゲンまたはその抗原性断片、を含むことが好ましい。あるいは、ポリペプチドは、少なくとも5の異なる癌特異的抗原もしくはネオアンチゲンまたはその抗原性断片、より好ましくは少なくとも20の異なる癌特異的抗原もしくはネオアンチゲンまたはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも50の異なる癌特異的抗原もしくはネオアンチゲンまたはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも100の異なる癌特異的抗原もしくはネオアンチゲンまたはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも200の異なる癌特異的抗原もしくはネオアンチゲンまたはその抗原性断片、ならびに、さらにより好ましくは少なくとも300の異なる癌特異的抗原もしくはネオアンチゲンまたはその抗原性断片、を含むことが好ましい。
【0059】
あるいは、抗原は、ウイルスタンパク質またはその抗原性断片、細菌タンパク質またはその抗原性断片、または真菌タンパク質またはその抗原性断片である。
【0060】
一般に、ウイルス、細菌または真菌感染に対する予防的または治療的ワクチン接種は、増殖性疾患の治療におけるワクチン接種ほど効果的であるほど多くの異なる抗原を必要としない。しかしながら、特に外被タンパク質において大きなエピトープ多様性を有する、例えば、HIVのようないくつかのウイルスがある。幅広い免疫応答を誘発するために、複数の抗原を含めることができる。したがって、ポリペプチドは、少なくとも5の異なるウイルス抗原またはその抗原性断片、より好ましくは少なくとも20の異なるウイルス抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも50の異なるウイルス抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも100の異なるウイルス抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも200の異なるウイルス抗原またはその抗原性断片、ならびに、さらにより好ましくは少なくとも300の異なるウイルス抗原またはその抗原性断片、を含むことが好ましい。抗原は、同じウイルスの異なる株および/または異なるウイルス種から選択されてもよい。後者の場合ワクチンは、さまざまな異なるウイルス種に対する免疫を可能にする。
【0061】
あるいは、ポリペプチドは、少なくとも5の異なる細菌性抗原またはその抗原性断片、より好ましくは少なくとも20の異なる細菌性抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも50の異なる細菌性抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも100の異なる細菌性抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも200の異なる細菌性抗原またはその抗原性断片、ならびに、さらにより好ましくは少なくとも300の異なる細菌性抗原またはその抗原性断片、を含むことが好ましい。
【0062】
あるいは、ポリペプチドは、少なくとも5の異なる真菌性抗原またはその抗原性断片、より好ましくは少なくとも20の異なる真菌性抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも50の異なる真菌性抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも100の異なる真菌性抗原またはその抗原性断片、さらにより好ましくは少なくとも200の異なる真菌性抗原またはその抗原性断片、ならびに、さらにより好ましくは少なくとも300の異なる真菌性抗原またはその抗原性断片、を含むことが好ましい。
【0063】
上記態様のすべてにおいて、抗原はT細胞抗原であることが好ましい。T細胞抗原は、MHCによって提示され、T細胞応答を誘発する。
【0064】
好ましくは、抗原または各抗原またはその抗原性断片は、6~100アミノ酸、より好ましくは7~50、より好ましくは8~30アミノ酸の長さを有する。
【0065】
本発明の第1の態様のポリペプチドの好ましい態様において、1以上の抗原および/またはその1以上の抗原性断片は、本発明の第1の態様によるINVの断片のC末端に、または本発明の第1の態様の選択肢(b)による全長INVのC末端に位置する。特に好ましくは、抗原および/またはその抗原性断片は本発明の第1の態様の選択肢(a)または(b)によるINVのC末端すぐにある。
【0066】
好ましくは、本発明のポリペプチドは、ワクチン接種される患者の細胞内で産生される。細胞内発現は、MHC提示、すなわちT細胞応答の刺激の前提条件である。 したがって、本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様によるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。好ましくは、ポリヌクレオチドはDNAまたはRNAである。 より好ましくは、ポリヌクレオチドはDNAである。好ましくは、RNAは、コードされたポリペプチドの翻訳を直接誘発するために使用される。第1の態様のポリペプチドをコードするDNAは、典型的には、本発明のポリペプチドをコードするm RNAの転写を指向する発現カセットに挿入される。しかしながら、ポリヌクレオチドがベクターに含まれ、かつ該ベクターがRNAウイルスである場合、ポリヌクレオチドはRNAであってもよい。直接適用に好ましいRNAは、自己増幅RNA(SAM)である。
【0067】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様によるポリヌクレオチドを含むベクターに関する。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、発現制御配列に作動可能に連結される。
【0068】
患者に送達される異なる抗原またはその抗原性断片の数が非常に多く、INVおよび全ての抗原またはその抗原性断片の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが選択されたベクターに収容できない場合、2以上のベクターが使用される。すなわち、本発明の第4の態様は、2以上の異なるベクターのコレクションであって、該異なるベクターはそれぞれ、本発明の第1の態様による異なるポリペプチドをコードする本発明の第2の態様によるポリヌクレオチドを含むものである、ベクターのコレクションに関する。
【0069】
本発明の第3の態様のベクターまたは本発明の第4の態様のベクターのコレクションであって、それぞれの場合のベクターは、プラスミド、コスミド、リポソーム粒子、ウイルスベクターまたはウイルス様粒子、好ましくはアルファウイルスベクター、ベネズエラ馬脳炎(VEE)ウイルスベクター、シンドビス(SIN)ウイルスベクター、セムリキ森林ウイルス(SFV)ウイルスベクター、サルまたはヒトサイトメガロウイルス(CMV)ベクター、リンパ球脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)ベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターまたは改変ワクシニアアンカラ(MVA)ベクターからなる群から独立して選択される。好ましくは、ベクターのコレクションでは、コレクションの各メンバーが、異なる抗原またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むものであり、したがって、通常、同時に投与される、同じタイプのベクター、例えば、アデノウイルス由来のベクターが使用される。
【0070】
最も好ましいベクターはアデノウイルスベクターであり、特にヒトまたは非ヒト類人猿に由来するアデノウイルスベクターである。アデノウイルスが由来する好ましい類人猿は、チンパンジー(Pan)、ゴリラ(Gorilla)、オランウータン(Pongo)、好ましくはボノボ(Pan paniscus)と一般的なチンパンジー(Pan troglodytes)である。典型的には、天然に存在する非ヒト類人猿アデノウイルスは、それぞれの類人猿の糞便サンプルから分離される。最も好ましいベクターは、 hAd5、hAd11、hAd26、hAd35、hAd49、ChAd3、ChAd4、ChAd5、ChAd6、ChAd7、ChAd8、ChAd9、ChAd10、ChAd11、ChAd16、ChAd17、ChAd19、ChAd20、ChAd22、ChAd24、ChAd26、ChAd30、ChAd31、ChAd37、ChAd38、ChAd44、ChAd55、ChAd63、ChAd 73、ChAd82、ChAd83、ChAd146、ChAd147、PanAd1、PanAd2、およびPanAd3 ベクターまたは複製可能なAd4およびAd7ベクターに基づく非複製アデノウイルスベクターである。ヒトアデノウイルスは 、hAd4、hAd5、hAd7、hAd11、hAd26、hAd35およびhAd49が当業者によく知られる。天然に存在するChAd3、ChAd4、ChAd5、ChAd6、ChAd7、ChAd8、ChAd9、ChAd10、ChAd11、ChAd16、ChAd17、ChAd19、ChAd20、ChAd22、ChAd24、ChAd26、ChAd30、ChAd31、ChAd37、ChAd38、ChAd44、ChAd63および ChAd82に基づくベクターは WO 2005/071093に詳細に記載されている。天然に存在するPanAd1、PanAd2、PanAd3、ChAd55、ChAd73、ChAd83、ChAd146、およびChAd147に基づくベクターは WO 2010/086189に詳細に記載されている。
【0071】
本発明の第5の態様は、本発明の第1の態様のポリペプチド、本発明の第2のポリヌクレオチド、または本発明の第3の態様のベクター、または本発明の第4の態様のベクターのコレクション、および薬学的に許容可能な賦形剤および任意で1以上のアジュバントを含む医薬組成物に関連する。
【0072】
本発明者らは、少なくとも1つの免疫調節剤、例えば、チェックポイント分子(MCM)の調節剤の投与が、抗原またはその断片に対するT細胞応答の強度をさらに改善することを見出した。したがって、好ましい第6の態様において、医薬組成物は、少なくとも1つの免疫調節剤(例えば、MCM)または免疫調節剤(例えば、MCM)をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、または免疫調節剤(例えば、MCM)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターまたはリポソーム粒子を含む。
【0073】
本発明の第6の態様は、本発明の第5の態様の医薬組成物および個別にパッケージされた少なくとも1つの免疫調節剤(例えば、MCM)または免疫調節剤(例えば、MCM)をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、または免疫調節剤(例えば、MCM)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む部品のキットに関する。
【0074】
好ましくは第5および第6の態様において、免疫調節剤は MCMおよび以下からなる群から選択される:
(a) 腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーのメンバーのアゴニスト、好ましくは、CD27(例:Varlilumab)、CD40(例:CP-870,893)、OX40(例:INCAGN01949またはMEDI0562)、GITR(例:MEDI1873)またはCD137(例:ウトミルマブ)、
(b) PD-1(例:ペンブロリズマブまたはニボルマブ)、CD274(例:アテゾリズマブまたはデュルバルマブ)、A2AR(例:プレラデナント)、B7-H3(例:MGA271)、B7-H4、BTLA、CTLA-4(例:トレメリムマブまたはAGEN1884)、IDO、KIR、LAG3、TIM-3(例:CA-327またはRMT3-23)、またはVISTA(例:CA-170)のアンタゴニスト、またはB7-CD28スーパーファミリーメンバーのアンタゴニスト、好ましくはCD28またはICOSのアンタゴニストまたはそのリガンドのアンタゴニスト。
【0075】
他の好ましい免疫調節剤はサイトカインであり、T細胞成長因子、特に、IL-2、IL-12、または IL-15として作用する。
【0076】
本発明の第7の態様は、医薬としての使用のための、本発明の第1の態様によるポリペプチド、本発明の第2の態様によるポリヌクレオチド、または本発明の第3または第4の態様によるベクターまたはベクターのコレクションに関する。
【0077】
本発明の第8の態様は、増殖性疾患、好ましくは癌、ウイルス性疾患、真菌性疾患または細菌性疾患の予防または治療に使用するための、本発明の第1の態様によるポリペプチド、本発明の第2の態様によるポリヌクレオチド、または本発明の第3または第4の態様によるベクターまたはベクターのコレクション、または本発明の第5の態様による医薬組成物、または本発明の第6の態様による医薬組成物を含むキットに関する。
【0078】
本発明の第5の態様によるポリペプチドの好ましい態様において、本発明の第2の態様によるポリヌクレオチド、または本発明の第3または第4の態様によるベクターまたはベクターのコレクション、または本発明の第5の態様による医薬組成物などを含む医薬組成物またはキットにおいて、がんは、唇、口腔、咽頭、消化器、呼吸器、胸腔内器官、骨、関節軟骨、皮膚、中皮組織、軟組織、乳房、女性生殖器、男性生殖器、尿路、脳および中枢神経系の他の部分、甲状腺、内分泌腺、リンパ組織、ならびに造血組織の悪性新生物からなる群から選択される。
【0079】
本発明の第5の態様によるポリペプチドの好ましい態様において、本発明の第2の態様によるポリヌクレオチド、または本発明の第3または第4の態様によるベクターまたはベクターのコレクション、または本発明の第5の態様による医薬組成物などを含む医薬組成物またはキットにおいて、少なくとも1つの免疫調節剤(例えば、MCM)、または免疫調節剤(例えば、MCM)をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、または免疫調節剤(例えば、MCM)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターまたはリポソーム粒子は、本発明の第1の態様によるポリペプチド、本発明の第2の態様によるポリヌクレオチド、または本発明の第3または第4の態様によるベクターまたはベクターのコレクション、または本発明の第5の態様による医薬組成物などを含む医薬組成物またはキットの投与前に、投与と同時に、または投与後に投与される。
【0080】
本発明の第8の態様の好ましい態様において、チェックポイント分子の調節剤の投与は、ワクチンの投与開始前に開始され、またはチェックポイント阻害剤の投与は、ワクチンの投与開始後に開始され、またはチェックポイント阻害剤の投与は、ワクチンの投与の開始と同時に開始される。
【0081】
本発明の第8の態様の好ましい態様において、ワクチン接種計画は、2つの異なるウイルスベクターによる異種プライムブースト(prime boost)である。好ましくは、組み合わせは、プライミングのための類人猿由来のアデノウイルスベクターと、ポックスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、または追加免疫のために改変されたワクシニアアンカラ(MVA)ベクターである。好ましくは、これらは、少なくとも1週間、好ましくは6週間の間隔で順次投与される。
【実施例】
【0082】
実施例1:マンダリンフィッシュインバリアント鎖またはその断片へのネオアンチゲンの融合は、類人猿アデノウイルスワクチン接種に関して免疫原性を生成する
【0083】
選択された癌特異的ネオアンチゲンは、5つの非同義の単一ヌクレオチド変異体(SNV)、腫瘍で最も頻繁に見られるタイプの突然変異によって生成される。各癌特異的ネオアンチゲンのアミノ酸配列は、中央に配置された変異アミノ酸の上流と下流の両方に12の野生型(wt)アミノ酸が隣接し、全長は25aaである(表1)。ネオアンチゲンの配列は頭から尾に結合し人工抗原を形成する。
【0084】
CT26マウス腫瘍由来の開始メチオニン(ペンタ:配列番号25)が先行する5つの癌特異的ネオアンチゲン(表1)を含むペンタトープをコードする類人猿アデノウイルスベクター(GAd)は癌特異的ネオアンチゲンに対する免疫反応を誘発することはできない(
図1)、ただしマンダリンフィッシュインバリアント鎖(INV)配列(MF_INV_FL:配列番号26)または膜貫通ドメインを含む残基1から81を含むマンダリンフィッシュINVの切断型バージョン(MF_INV_SH、配列番号27)または開始メチオニンが先行するマンダリンフィッシュのINV配列断片(MF_INV_A:配列番号28;MF_INV_B:配列番号29) がペンタトープのN末端に配置されている場合を除く。すべてのコンストラクトにおいて、発現をモニタリングする目的のためのHAペプチド配列(配列番号30)は、ペンタトープの下流に融合されている。
【0085】
免疫力は、BalBC近交系マウスで、ワクチンコンストラクトごとに5 x 108または5 x 107 GAdウイルス粒子(vp)の用量で筋肉内単回免疫した後に評価された。脾細胞を免疫化の3週間後に収集し、5つの癌特異的ネオアンチゲンのそれぞれに対応する合成25 merペプチドのプールの存在下で細胞を刺激することにより、IFN-γELISpotでテストした。IFN-γELISpotアッセイは、脾臓の単一細胞懸濁液で行われた。MSIP S4510プレートを10μg/mlの抗マウスIFN-γ抗体(U-CyTechUtrecht、オランダ)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。洗浄およびブロッキング後、マウス脾細胞を2つの異なる密度(ウェルあたり1 x 106および5 x 105細胞)で2枚ずつプレーティングし、5つの25merペプチドを含むペプチドプールで最終濃度1μg/mlで一晩刺激した。ペプチド希釈剤ジメチルスルホキシド(Sigma-Aldrich、ミラノ、イタリア)をネガティブコントロールとして使用した。プレートは、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ結合(BD Biosciences、サンノゼ、カリフォルニア)ビオチン化抗マウスIFN-γ抗体(U-CyTech Utrecht、オランダ)でインキュベーションし、最後に、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム1-Step溶液(Thermo Fisher Scientific、ロックフォード、イリノイ)でインキュベーションを行った。自動ELISAスポットアッセイビデオ分析システム自動プレートリーダーを使用してプレートを分析した。ELISpotデータは、脾細胞100万個あたりのIFN-γSFCとして表された。
【0086】
免疫応答(脾細胞100万個あたりのIFN-γを産生するT細胞の数)は
図1に示される。(i)抗原ウェルの平均が20個のスポット形成コロニーSFC/10
6 PBMCより大きく、かつ、(ii)ペプチド希釈剤DMSOとインキュベートしたウェルのバックグラウンド値の3倍を超えると、応答は陽性と見なされた。
図1に示すとおり、マンダリンフィッシュINVまたはその断片の追加により、非免疫原性のペンタ抗原が、MF_INV_FLまたはMF_INV_Aで5x 10
8 vpの用量でワクチン接種された動物で100%の応答率で免疫原性抗原に変換された。特に、短い断片MF_INV_AまたはMF_INV_Bを含むコンストラクトの5 x 10
8 vpでのワクチン接種は、全長マンダリンフィッシュINV(MF_INV_FL)または膜貫通ドメインを含む残基1から81を含むマンダリンフィッシュINVの切断型バージョン(MF_INV_SH)のいずれかを含むコンストラクトで観察されたレベルに匹敵するレベルで免疫原性を誘導した。5 x 10
7 vpでのワクチン接種(
図1)は、全長マンダリンフィッシュINV (MF_INV_FL)を含むコンストラクトで観察されたレベルに匹敵するレベルで、マウスの100%で免疫原性をレスキューすることができる唯一のものである短い断片MF_INV_Aを含むコンストラクトで異なるT細胞エンハンサーの効力を区別することができた。
【0087】
代わりに、 膜貫通ドメインを含む残基1から81を含むマンダリンフィッシュINVの切断型バージョン(MF_INV_SH)は、MF_INV_Aよりも劣っており、6匹のマウスのうち1匹だけで低用量で免疫応答を誘導できる。
【0088】
表1
ペンタ抗原:ペンタ抗原の組成。CT26ネオアンチゲンは、示されている順序で組み立てられたペンタ抗原に存在する。突然変異アミノ酸は太字で示され、各ネオアンチゲンに下線が引かれている。
【表1】
【0089】
実施例2:
マンダリンフィッシュインバリアント鎖断片MF_INV_A (配列番号7)のワクチン誘発免疫応答を増強する能力は、CT26マウスモデル由来ネオアンチゲンを多数(20)含む新たな人工抗原を使用して、さらに試験された。5つすべてのネオアンチゲンが実施例1(表1)のMF_INV_Aのコンストラクトに存在し、新しい抗原に含まれているが、MF_INV_Aとは異なる順序で含まれている(表2)。表2に示す順序で頭から尾に結合した同じ20個のネオアンチゲンをそれぞれコードする2つのGAdベクター:抗原に先行する開始メチオニンのみを有するCT26-20コンストラクト(配列番号49)および開始メチオニンが先行するマンダリンフィッシュインバリアント鎖FRAG_A(配列番号7)が抗原のN末端(配列番号50)に配置されるMF_INV_A-20コンストラクト、が生成された。両方のコンストラクトにおいて発現をモニタリングする目的でHAペプチド配列(配列番号30)が抗原の下流に融合されている。
【0090】
5x10
7ウイルス粒子(vp)の用量で筋肉内免疫を1回行った後、BalBC近交系マウス(グループあたりn=6)で免疫応答をin vivoで評価した。脾臓細胞を免疫化の2週間後に収集し、コードされたネオアンチゲンの配列に対応する20の合成ペプチドのプールの存在下で細胞を刺激するIFNγELISpotによって試験した。小さいペンタトープ抗原について以前に観察されたように、MFインバリアント鎖FRAG_A(配列番号7)の存在は、コード化されたネオアンチゲンの順序と総数から独立して、ワクチン接種後のT細胞応答を強く増強した(
図3)。
【0091】
表2
CT26-20およびMF_INV_A-20コンストラクトの抗原組成: 組み立てられたCT26-20およびMF_INV_A-20抗原に存在する20のCT26ネオアンチゲンの同一性。ネオアンチゲンは、示されている順序で抗原に存在する。突然変異アミノ酸は太字で示され、各ネオアンチゲンに下線が引かれている。配列番号20~24は、ペンタトープに存在する5つのネオアンチゲンと一致する。
【表2】
【0092】
図面の用語
Pool responses プール応答
splenocytes 脾細胞
pos mice 陽性マウス
Monopterus albus タウナギ
Oryzias latipes ミナミメダカ
Oreochromis niloticus ナイルティラピア
Lates calcarifer バラマンディ
Siniperca chuatsi ケツギョ
Dicentrarchus labrax ヨーロピアンシーバス
【配列表】