(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20231117BHJP
B29C 33/10 20060101ALI20231117BHJP
B29C 45/34 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C33/10
B29C45/34
(21)【出願番号】P 2021127995
(22)【出願日】2021-08-04
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】321008022
【氏名又は名称】株式会社笠原成形所
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】笠原 利博
(72)【発明者】
【氏名】関 正隆
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 真一
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06645587(US,B1)
【文献】特開2003-117969(JP,A)
【文献】特開昭63-004925(JP,A)
【文献】特開2009-172780(JP,A)
【文献】特開2018-144311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出し冷却硬化した後型開きして前記キャビティ内の硬化した樹脂製品を離型排出する射出成形機であって、
前記金型の
型開き面となるパーティングラインに、
前記キャビティ内への前記溶融樹脂の射出時に前記キャビティ内のエアーが前記溶融樹脂と置換されながら排出されるためのベント部が設けられていて、
このベント部に、排出される前記エアーの圧力を測定するエアー圧測定部が設けられていて、
このエアー圧測定部により測定されるエアー圧測定データに基づいて前記キャビティの樹脂充填圧
の適否状況が判断されて成形不良品が検出されるように構成されていて、
前記ベント部は、前記パーティングラインに沿って前記エアーが前記キャビティから排出される溝部からなる構成とされていて、
このベント部の前記溝部に測定用孔を設け、この測定用孔に前記エアー圧測定部またはこのエアー圧測定部の受圧先端部が設けられている構成であり、
前記エアー圧測定部により測定されるエアー圧測定データのピーク値が出力され、このデータに基づいて前記キャビティの前記樹脂充填圧の適否状況が判断され前記成形不良品と判断される樹脂充填圧判断部が備えられていることを特徴とする射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばノズル部から溶融樹脂を、型締めされている射出成形用金型の製品部(キャビティ内)に充填し、冷却硬化後この金型を開いて硬化したキャビティ内の樹脂製品(成形品)を離型排出する射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、キャビティ内に所定の樹脂充填圧で溶融樹脂を充填するが、この充填圧が不十分であると、製品部端部まで樹脂が行き渡らなかったり、ひけを生じたり、製品強度が不十分となるなどの製品不良が生じるおそれがある。
【0003】
そのため、この樹脂充填圧を管理するためノズル部へ溶融樹脂を押し出すスクリュー部やキャビティ内へ樹脂を押し込む与圧を制御する充填制御部を設けたり、この制御のためキャビティ内の樹脂充填圧を測定するためにキャビティ内に樹脂圧測定部を設け、この測定データをフィードバックして制御するなど様々な手法が提案されている。
【0004】
しかし、いずれも樹脂充填圧が常に適正となるようにフィードバック制御するためには、キャビティ内に樹脂圧測定部を設けなければならず、この金型のキャビティに加工が必要となる。
【0005】
そのため、金型を所有していない場合にはその加工に制限がなされたり、また加工できたとしてもキャビティに孔などを設けるため製品にマークが生じてしまうし、そのマークが目立たない位置となるように配慮したり、加工によってはバリが生じてしまうおそれがあるためこれも配慮しなくてはならないから、この測定部を設けるための金型加工は非常にやっかいであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような現状に鑑み、前記問題を解決したもので、キャビティに測定部を設けるためのやっかいな加工を必要とせず、キャビティ内のガス(エアー)を排出するためのベント部が設けられているパーティングラインにエアー圧測定部を設ける構成とし、このエアー圧測定により樹脂充填圧またはその適否を判断して樹脂充填圧が適正となるように制御できるため、この測定部を設けるための加工が容易で製品に与える影響もほとんどなく、適正な樹脂充填圧で製品を成形でき不良品を排除できる優れた射出成形機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0008】
金型1のキャビティ2内に溶融樹脂5を射出し冷却硬化した後型開きして前記キャビティ2内の硬化した樹脂製品6を離型排出する射出成形機であって、前記金型1の型開き面となるパーティングライン7に、前記キャビティ2内への前記溶融樹脂5の射出時に前記キャビティ2内のエアーが前記溶融樹脂5と置換されながら排出されるためのベント部8が設けられていて、このベント部8に、排出される前記エアーの圧力を測定するエアー圧測定部9が設けられていて、このエアー圧測定部9により測定されるエアー圧測定データに基づいて前記キャビティ2の樹脂充填圧の適否状況が判断されて成形不良品が検出されるように構成されていて、前記ベント部8は、前記パーティングライン7に沿って前記エアーが前記キャビティ2から排出される溝部10からなる構成とされていて、このベント部8の前記溝部10に測定用孔11を設け、この測定用孔11に前記エアー圧測定部9またはこのエアー圧測定部9の受圧先端部13が設けられている構成であり、
前記エアー圧測定部9により測定されるエアー圧測定データのピーク値が出力され、このデータに基づいて前記キャビティの前記樹脂充填圧の適否状況が判断され前記成形不良品と判断される樹脂充填圧判断部12が備えられていることを特徴とする射出成形機に係るものである。
【0009】
【0010】
【発明の効果】
【0011】
本発明は上述のように構成したから、キャビティに測定部を設けるためのやっかいな加工を必要とせず、キャビティ内のガス(エアー)を排出するためのベント部が設けられているパーティングラインにエアー圧測定部を設ける構成とし、このエアー圧測定により樹脂充填圧の適否を判断して樹脂充填圧が適正となるように制御できるため、この測定部を設けるための加工が容易で製品に与える影響もほとんどなく、適正な樹脂充填圧で製品を成形でき不良品を排除できる優れた射出成形機となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施例の成形時の型締め状態を示す概略構成説明図である。
【
図2】本実施例の成形後樹脂製品排出時の型開き状態を示す概略構成説明図である。
【
図3】本実施例のエアー圧測定部での良品成型時と不良品成型時(ショートショット)のエアー圧測定データを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の最適な実施形態を図面に基づいて本発明の作用を示し簡単に説明する。
【0014】
射出成形用の金型1の型開き面となるパーティングライン7に設けられているベント部8からキャビティ2のガス(エアー)が排出されるが、このベント部8に設けたエアー圧測定部9によりこの排出エアーの圧力を測定する。すなわち、射出成形時(樹脂充填時)にキャビティ2内のエアーが置換され脱気するが、この脱気圧をその脱気のためのベント部8に設けたエアー圧測定部9により測定する。
【0015】
このエアー圧測定部9により測定されるエアー圧測定データに基づいて前記キャビティ2の樹脂充填圧が取得されこの樹脂充填圧の適否状況が取得され、または成形不良品が検出される。すなわち、このエアー圧測定データにより金型1のキャビティ2内の樹脂充填状態を確認評価することができる。たとえば、良品成型時の適正データ(基準となるエアー圧測定データ)と比較することで、樹脂充填圧が適正となるように射出制御したり、成形不良(ショートショット)を検出しこれを排除するなど樹脂充填が適正となるように管理することができる。
【0016】
また、前記エアー圧測定部9により測定されるエアー圧測定データ
の時間的変化を示すエアー圧測定波形データ
のピーク値が出力され、このデータに基づいてキャビティ2の樹脂充填圧
の適否状況が樹脂充填圧判断部12で判断され取得される。たとえば、
図3に示すようにエアー圧測定データのピーク値が低くなれば、成形不良品として検出できこれを排除することができ、さらに樹脂充填圧が適正となるように射出制御したり、またその原因を追究改善することもでき、樹脂充填圧を適正に制御管理できることとなる。
【0017】
したがって、ベント部8が設けられているパーティングライン7にエアー圧測定部9を設ける構成とし、このエアー圧測定により充填樹脂圧の適否を判断して不良品を検出排除したり樹脂充填圧が適正となるようにフィードバック制御することも可能となるため、この測定部9を設けるための加工が容易で製品に与える影響もほとんどなく、適正な樹脂充填圧で製品を成形でき成形不良品を検出排除することとも容易となる。
【実施例1】
【0018】
本発明の具体的な実施例1について図面に基づいて説明する。
【0019】
本実施例は、たとえば導入されるペレットを送り出して加熱溶融しこの溶融樹脂5を先端部のノズル部3から金型1の製品部(キャビティ2)内に湯道部4を介して射出する構成であって、冷却硬化した後型開きして前記キャビティ2内の硬化した樹脂製品6をたとえばエジェクターピンなどにより離型排出する射出成形機に本発明を適用している。
【0020】
本実施例では、前記金型1の型開き面となるパーティングライン7に前記キャビティ2内のエアーを排出するためのベント部8が設けられていて、このベント部8に、排出される前記エアーの圧力を測定するエアー圧測定部9を設けた構成としている。
【0021】
具体的には、前記ベント部8は、前記パーティングライン7に沿って形成した溝部10であって、この溝部10から溶融樹脂5は漏れ出ず前記エアーのみが前記キャビティ2から置換排出される溝部10に構成している。
【0022】
このベント部8のエアー排出用の溝部10に、これと交差する方向に測定用孔11を設け、この測定用孔11に脱気されるエアー圧を測定する前記エアー圧測定部9を設けた構成としている。
【0023】
たとえば、この金型1のキャビティ2ではなくそのキャビティ2の端部からパーティングライン7に沿って凹設形成されているベント部8の溝部10に臨むようにして測定用孔11を加工形成し、この測定用孔11にエアー圧測定部9として設ける空気圧測定装置9の受圧先端部13(圧力測定先端部)を挿入配設し、この溝部10のエアー圧を測定するように構成している。
【0024】
このように既存のベント部8の溝部10に単に測定用孔11を加工形成しこれにエアー圧測定部9を設けてもよいし、またエアー圧測定がさらに良好となるように既存のベント部8を加工して、たとえばベント部8の末端を絞ったり閉塞した構成としてもよい。
【0025】
また本実施例では、このエアー圧測定部9により測定されるエアー圧測定データに基づいて前記キャビティ2の樹脂充填圧が取得されこの樹脂充填圧の適否状況が取得されるように構成している。たとえば良品成型時の適正データ(基準となる良品成型時のエアー圧測定データ)と比較することで、樹脂充填圧が適正となるように射出制御したり、成形不良(ショートショット)を検出し排除するなど樹脂充填が適正となるように管理するように構成している。
【0026】
具体的には、前記エアー圧測定部9により測定されるエアー圧測定データの時間的変化を示すエアー圧測定波形データのピーク値が出力され、このデータに基づいて前記キャビティ2の前記樹脂充填圧の適否状況が判断される樹脂充填圧判断部12を備えた構成としている。
【0027】
たとえば、前記エアー圧測定部9により測定されるエアー圧測定データのエアー圧測定データの時間的変化を示すエアー圧測定波形データが出力されるとともに、このエアー圧測定データのピーク値も出力されるように構成し、このデータに基づいてキャビティ2の樹脂充填圧の適否状況が樹脂充填圧判断部12で判断され取得されるように構成している。
【0028】
具体的には、本実施例では、
図3に示すようにエアー圧測定データのピーク値が良品成型時の基準データのピーク値よりも低くなれば、成形不良品として検出してこれを排除し、さらに樹脂充填圧が適正となるように射出制御したり、またその原因を追究改善するなどして、樹脂充填圧を適正に制御管理できるように構成している。
【0029】
したがって、ベント部8が設けられているパーティングライン7にエアー圧測定部9を設ける構成とし、このエアー圧測定により充填樹脂圧の適否を判断して不良品を検出排除したり樹脂充填圧が適正となるようにフィードバック制御することも可能となるため、この測定部9を設けるための加工が容易で製品に与える影響もほとんどなく、適正な樹脂充填圧で製品を成形でき不良品を検出排除することとも容易となる。
【0030】
また本実施例では、製品を2個取りする金型1の片側のキャビティ2のベント部8にエアー圧測定部9を設けた構成として、前述のようにこの片側のエアー圧測定部9の測定により双方のキャビティ2の樹脂充填圧を制御管理するように構成しているが、双方のキャビティ2のベント部8にそれぞれ同様にしてエアー圧測定部9を設けて樹脂充填圧を適正に制御したり、各キャビティ2の製品の適否をそれぞれ検出し排除するように構成してもよい。
【0031】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。