(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】Ad-REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤とを用いた胸部がんの治療のための併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/761 20150101AFI20231117BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231117BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231117BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231117BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
A61K35/761 ZNA
A61K48/00
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/711
(21)【出願番号】P 2021523950
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043151
(87)【国際公開番号】W WO2020091066
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-22
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507365318
【氏名又は名称】桃太郎源株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】公文 裕巳
(72)【発明者】
【氏名】バード ブライアン
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119499(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0189237(US,A1)
【文献】WATANABE, M., et al.,A novel gene expression system strongly enhances the anticancer effects of a REIC/Dkk-3-encoding adenoviral vector,ONCOLOGY REPORTS,2014年,Vol.31,pp.1089-1095
【文献】SUZAWA, K., et al.,Distant Bystander Effect of REIC/DKK3 Gene Therapy Through Immune System Stimulation in Thoracic Malignancies,ANTICANCER RESEARCH,2017年,Vol.37,pp.301-307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 38/00-38/58
A61K 48/00
A61K 39/00-39/44
A61K 31/33-33/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ad-REIC/Dkk-3を
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体であるチェックポイント阻害剤と組み合わせて含む、
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体療法に対して抵抗性である胸部がん治療のための医薬組成物であって、Ad-REIC/Dkk-3が、5'末端側から:
(i) CMVプロモーター;
(ii) 以下のREIC/Dkk-3 DNA:
(a) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(b) 配列番号1に示される塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有するDNA
であって、REIC/Dkk-3活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(iii) ポリA付加配列;ならびに
(iv) hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサー、およびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサー
を連結することによって調製されるDNAコンストラクトを有するアデノウイルスベクターである、前記医薬組成物。
【請求項2】
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体療法に対して抵抗性である胸部がんが中皮腫である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体療法に対して抵抗性である胸部がんを治療するための医薬の製造においてAd-REIC/Dkk-3と
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体であるチェックポイント阻害剤を併用する方法であって、Ad-REIC/Dkk-3が、5'末端側から:
(i) CMVプロモーター;
(ii) 以下のREIC/Dkk-3 DNA:
(a) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(b) 配列番号1に示される塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有するDNA
であって、REIC/Dkk-3活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(iii) ポリA付加配列;ならびに
(iv) hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサー、およびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサー
を連結することによって調製されるDNAコンストラクトを有するアデノウイルスベクターである、前記方法。
【請求項4】
活性成分としてREIC/Dkk-3を含み、
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体であるチェックポイント阻害剤と併用される
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体療法に対して抵抗性である胸部がんを治療するための医薬であって、Ad-REIC/Dkk-3が、5'末端側から:
(i) CMVプロモーター;
(ii) 以下のREIC/Dkk-3 DNA:
(a) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(b) 配列番号1に示される塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有するDNA
であって、REIC/Dkk-3活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(iii) ポリA付加配列;ならびに
(iv) hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサー、およびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサー
を連結することによって調製されるDNAコンストラクトを有するアデノウイルスベクターである、前記医薬。
【請求項5】
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体療法に対して抵抗性である胸部がんが中皮腫である、請求項
4に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ad-REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤とを用いた胸部がんの治療のための併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
REIC/Dkk-3遺伝子は、細胞不死化に関連する遺伝子であることが知られている。この遺伝子の発現は、がん細胞において抑制されることが報告されている。REIC/Dkk-3遺伝子が、がん治療法に使用されていることも報告されている(特許文献1)。
【0003】
抗PD-1(Programmed cell death 1)抗体、抗PD-L1(Programmed cell-death ligand 1)などのチェックポイント阻害剤は、様々な悪性腫瘍に有用であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、チェックポイント阻害剤をAd-REIC/Dkk-3と併用して胸部がんを治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、胸部がんの治療のための、REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤との併用使用の効果について検証した。
【0007】
本発明者らは、REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤との併用使用が、全身性T細胞反応および抗腫瘍反応を増強することを見出した。これは、REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤との併用使用が、胸部がんの治療のために有用な方法であることを示す。
【0008】
具体的には、本発明は以下のとおりである。
[1] Ad-REIC/Dkk-3をチェックポイント阻害剤と組み合わせて含む、胸部がん治療のための医薬組成物であって、上記Ad-REIC/Dkk-3が、5'末端側から:
(i) CMVプロモーター;
(ii) 以下のREIC/Dkk-3 DNA:
(a) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(b) 配列番号1に示される塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有するDNA、
(iii) ポリA付加配列;ならびに
(iv) hTERT(テロメラーゼ逆転写酵素)エンハンサー、SV40エンハンサー、およびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサー
を連結することによって調製されるDNAコンストラクトを有するアデノウイルスベクターである、上記医薬組成物。
[2] チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、[1]の医薬組成物。
[3] 胸部がんが中皮腫である、[1]の医薬組成物。
【0009】
[4] Ad-REIC/Dkk-3およびチェックポイント阻害剤を胸部がん患者に投与することによるがんの治療方法であって、Ad-REIC/Dkk-3が、5'末端側から:
(i) CMVプロモーター;
(ii) 以下のREIC/Dkk-3 DNA:
(a) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(b) 配列番号1に示される塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有するDNA、
(iii) ポリA付加配列;ならびに
(iv) hTERT(テロメラーゼ逆転写酵素)エンハンサー、SV40エンハンサー、およびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサー
を連結することによって調製されるDNAコンストラクトを有するアデノウイルスベクターである、上記方法。
[5] チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、[4]のがんの治療方法。
[6] 胸部がんが中皮腫である、[4]のがんの治療方法。
【0010】
[7] Ad-REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤とを併用して胸部がんを治療する方法。
[8] チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、[7]による方法。
[9] チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体である、[7]による方法。
[10] チェックポイント阻害剤が抗PD-L1抗体である、[7]による方法。
【0011】
[11] 胸部がんがPD-1およびPD-L1を細胞表面上で発現し、REIC/Dkk-3遺伝子に対して感受性になるよう免疫系を操作するための、抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体の使用(REIC/Dkk-3-誘導抗腫瘍免疫;REIC/Dkk-3により誘導されたCTL)。
【0012】
[12] 胸部がんを治療するための医薬の製造においてAd-REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤を併用する方法であって、Ad-REIC/Dkk-3が、5'末端側から:
(i) CMVプロモーター;
(ii) 以下のREIC/Dkk-3 DNA:
(a) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(b) 配列番号1に示される塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有するDNA、
(iii) ポリA付加配列;ならびに
(iv) hTERT(テロメラーゼ逆転写酵素)エンハンサー、SV40エンハンサー、およびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサー
を連結することによって調製されるDNAコンストラクトを有するアデノウイルスベクターである、上記方法。
[13] チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、[12]に記載の方法。
【0013】
[14] 活性成分としてREIC/Dkk-3を含み、チェックポイント阻害剤と併用される胸部がんを治療するための医薬であって、Ad-REIC/Dkk-3が、5'末端側から:
(i) CMVプロモーター;
(ii) 以下のREIC/Dkk-3 DNA:
(a) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(b) 配列番号1に示される塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有するDNA、
(iii) ポリA付加配列;ならびに
(iv) hTERT(テロメラーゼ逆転写酵素)エンハンサー、SV40エンハンサー、およびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサー
を連結することによって調製されるDNAコンストラクトを有するアデノウイルスベクターである、上記医薬。
[15] チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、[14] に記載の医薬。
【0014】
[16] 胸部がんが中皮腫である、[14] に記載の医薬。
【発明の効果】
【0015】
Ad-REIC/Dkk-3およびチェックポイント阻害剤は、胸部がんの治療において相乗効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、Ad-REIC/Dkk-3の構造の例を示す。
【
図2】
図2は、Ad-REIC/Dkk-3の配列を示す。
【
図3】
図3は、MTG-201腫瘍負荷試験(皮下注射モデル(SC injection model))の研究スキーマを示す。
【
図4】
図4は、MTG-201 SCモデルにおける各マウスの腫瘍体積変化を示す。
【
図5】
図5は、MTG-201 SCモデルにおける5匹のマウスの平均腫瘍体積変化を示す。
【
図6】
図6は、MTG-201 SCモデルにおける5匹のマウスの切開された腫瘍の重量を示す。
【
図7】
図7は、確立されたAB1 MM腫瘍の、PD-1遮断に対する抵抗性を示す。
【
図8】
図8は、マウスAB1細胞におけるREICタンパク質発現の用量依存性増加を示す。
【
図9】
図9は、REICタンパク質発現による細胞周期のS期停止を示す。
【
図10】
図10は、Ad-REICと抗PD-1抗体の併用療法による腫瘍増殖の抑制を示す(写真)。
【
図11】
図11は、Ad-REICと抗PD-1抗体の併用療法による腫瘍増殖の抑制を示す(グラフ)。
【
図12】
図12は、Ad-REICと抗PD-1抗体によるCD8 T細胞の増加および腫瘍関連マクロファージの減少を示す。
【
図13】
図13は、PD-1遮断によるCD8 T細胞の再活性化を示す。
【
図14】
図14は、Ad-REICと抗PD-1抗体によるエフェクター記憶CD8 T細胞の増加およびTreg細胞(制御性T細胞)の減少を示す。
【
図15】
図15は、Ad-SGE-REIC調製物と抗PD-1抗体の併用の抗腫瘍効果を示す。
【0017】
本明細書は、米国仮出願第62/754,226号および第62/831,108号の明細書および図面に記載される内容を組み込み、これらの出願に基づいて本出願の優先権が主張される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の併用療法においては、Ad-REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤を組み合わせて用いる(併用する)。
【0019】
チェックポイント阻害剤は、抗PD-1(Programmed cell death 1)抗体、抗PD-L1(Programmed cell-death ligand 1)等を含む。
REIC/Dkk-3遺伝子のDNAの塩基配列は、配列表の配列番号1に示される。さらに、REIC/Dkk-3 DNAによりコードされるREICのアミノ酸配列は、配列表の配列番号2に示される。配列番号1に表される塩基配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(NCBI)(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算した場合に、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも97%の配列同一性を有するDNAは、REIC/Dkk-3 DNAに含まれる。
【0020】
REIC/Dkk-3の断片ヌクレオチドも使用できる。配列番号1に示されるREIC/Dkk-3 DNAの塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基~第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列を含むヌクレオチドの例は、1番目の塩基から117番目の塩基の範囲のポリヌクレオチド(配列番号3)および1番目の塩基から234番目の塩基の範囲のポリヌクレオチド(配列番号4)を含む。
【0021】
REIC/Dkk-3遺伝子は、従来技術により被験体に導入することができる。
【0022】
発現カセットを構築するための技術の例は、市販のCMVプロモーターの下流に外来遺伝子挿入部位を含み、さらにその下流にBGA polyA配列を含むpShuttleベクター(Clonetech社)にREIC/Dkk-3 DNAを挿入し、さらにBGA polyA配列の下流にhTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサーおよびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより得ることができる。
【0023】
DNAコンストラクトは、国際公開第WO2011/062298号、米国特許出願公開第2012-0309050号、国際公開第WO2012/161352号および米国特許出願公開第2014-0147917号の記載に従って調製することが可能であり、これらは参照によりその全体が本明細書中に組み込まれるものとする。
【0024】
本発明によれば、REIC/Dkk-3 DNAを含むアデノウイルスベクターを「Ad-REIC」または「Ad-REIC/Dkk-3」と呼ぶ。上記のDNAコンストラクトを含むベクターシステムをSGE(Super Gene Expression)システムと呼ぶ。例えば、REIC/Dkk-3 DNAを含むDNAコンストラクトを含むアデノウイルスベクターを「Ad5-SGE-REIC/Dkk-3」と呼ぶ。
図1は、Ad-REIC/Dkk-3の構造の例を示し、
図2はAd-REIC/Dkk-3の配列を示す。
【0025】
Ad-REIC/Dkk-3中に含まれるDNAコンストラクトは、REIC/Dkk-3 DNAの上流にCMV(cytomegalovirus)プロモーターを連結し、REIC/Dkk-3 DNAの下流にポリA付加配列(ポリアデニル化配列、ポリA)を連結することにより調製される。さらに、hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサーおよびCMV(cytomegalovirus)エンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサー(3×enh)を、ポリA付加配列の下流に連結する。具体的には、上記DNAコンストラクトは、5'末端側から(i) CMVプロモーター、(ii) REIC/Dkk-3 DNA、(iii) ポリA付加配列、ならびに(iv) hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサーおよびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサーを連結することによって調製される。
【0026】
本発明のREIC/Dkk-3 DNAを含むDNAコンストラクトのCMVプロモーターを除く部分の構造を
図2に示し、その配列を配列番号5に示す。
図2中、REIC/Dkk-3 DNAと3×enhの間にBGA polyA配列が含まれる。本発明のREIC/Dkk-3 DNAを含むDNAコンストラクトは、配列番号5に示す配列の上流(5'側)にCMVプロモーターを有する。配列番号6は、BGH ポリAと3つのエンハンサーを含む領域(上記コンストラクトに含まれる)の塩基配列を示す。
図2中、塩基配列中の(1)および(2)の枠で囲んだ部分は、それぞれREIC/Dkk-3タンパク質をコードするDNAおよび3つのエンハンサー(3×enh)を示す。
【0027】
上記のエレメントは、互いに機能的に連結している必要がある。本明細書中で使用される「互いに機能的に連結している」という表現は、それぞれのエレメントがその機能を発揮して、発現させようとする遺伝子の発現が増強されるように互いに連結していることを意味する。
【0028】
つまり、上記の「Ad-REIC/Dkk-3」のDNAコンストラクトとは、以下のものである:
[1] REIC/Dkk-3 DNAを発現させるためのDNAコンストラクトであって、5'末端側から:
(i) CMVプロモーター;
(ii) 以下のREIC/Dkk-3 DNA:
(a) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(b) 配列番号1に示される塩基配列と少なくとも90%、95%、97%または98%の配列同一性を有するDNA、
(iii) ポリA付加配列;ならびに
(iv) hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサーおよびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサー;
を連結することによって調製される、上記DNAコンストラクト;
[2] ポリA付加配列がウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列(BGA polyA)である、上記[1]によるDNAコンストラクト;ならびに
[3] 配列番号5に示される塩基配列を含む、上記[1]または[2]によるDNAコンストラクトであって、(ii) REIC/Dkk-3 DNA、(iii) ポリA付加配列、および(iv) hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサー、およびCMVエンハンサーをこの順で連結することにより調製されるエンハンサーが連結されている、上記DNAコンストラクト。
【0029】
上記のDNAコンストラクトを含むアデノウイルスベクターは、アデノウイルスベクターへの上記DNAコンストラクトの導入を通して組換えアデノウイルスを作製することにより得られる。アデノウイルスへのDNAコンストラクトの導入は、例えば上記の本発明のDNAコンストラクトを含むpShuttleベクター中のDNAコンストラクトをアデノウイルスに導入することにより行うことができる。
【0030】
アデノウイルスベクターの特徴として、(1) 多くの種類の細胞に遺伝子導入ができる、(2) 静止期の細胞に対しても効率よく遺伝子導入ができる、(3) 遠心分離により濃縮することが可能であり、これにより高タイター(10~11PFU/mL以上)のウイルスが得られる、(4) in vivoの組織細胞への直接の遺伝子導入に適している、といった点が挙げられる。
【0031】
遺伝子治療用のアデノウイルスとして、E1/E3領域を欠失させることにより作製された第1世代のアデノウイルスベクター(Miyake,S.,et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 93,1320, 1996)、E1/E3領域に加えて、E2領域またはE4領域を欠失させることにより作製された第2世代のアデノウイルスベクター(Lieber, A.,et al.,J.Virol.,70,8944,1996;Mizuguchi, H.& Kay, M.A.,Hum. Gene Ther.,10, 2013, 1999)、およびアデノウイルスゲノムをほぼ完全に欠失させることにより作製された(GUTLESS)第3世代のアデノウイルスベクター(Steinwaerder, D. S.,et al., J. Virol.,73, 9303, 1999)が開発されている。本発明による遺伝子導入については、これらのアデノウイルスベクターのいずれも、特に限定されることなく使用することができる。
【0032】
REIC/Dkk-3 DNAを含むDNAコンストラクトを含む組換えアデノウイルスベクターをヒト被験体または別の哺乳動物である被験体に投与することにより、被験体の癌細胞に癌治療用遺伝子がデリバリーされ、癌細胞中で遺伝子が発現し、腫瘍細胞増殖を抑制し癌治療効果を発揮する。
【0033】
本発明のアデノウイルスベクターは、遺伝子治療の分野において使用可能な方法、例えば、静脈内投与および動脈内投与などの血管内投与、経口投与、腹腔内投与、気管内投与、気管支内投与、皮下投与または経皮投与により投与することができる。特に、本発明のアデノウイルスベクターは、特定の組織または細胞への指向性が大きく、標的遺伝子を特定の組織または細胞へ効率的にデリバリーすることができる。このため、アデノウイルスベクターの血管内投与によっても、効率的な診断および治療を行うことができる。
【0034】
アデノウイルスベクターは、治療上有効量を投与すればよく、治療上有効量は、遺伝子治療分野の当業者であれば容易に決定することができる。さらに、投与量は、被験体の病態の重篤度、性別、年齢、体重、習慣等によって適宜変更することができる。例えば、アデノウイルスベクターを、0.5×1011~2.0×1012viral genome/kg体重、好ましくは1.0×1011~1.0×1012 viral genome/kg体重、さらに好ましくは1.0×1011~5.0×1011 viral genome/kg体重の用量で投与すればよい。用語「viral genome」は、アデノウイルスのゲノムの分子数(ウイルス粒子数)を表し、「particle(s)」とも呼ばれる。すなわち、「viral genome」という用語は「viral particle (vp)」という用語と同じである。
【0035】
抗PD-1(Programmed cell death 1)抗体および抗PD-L1(Programmed cell-death ligand 1)抗体などのチェックポイント阻害剤は、T細胞反応を増強し、抗腫瘍活性を媒介し得る。胸部がんおよび悪性中皮腫などの様々な腫瘍細胞はPD-Lの発現をアップレギュレートすることが可能であり、これにより、PD-1が上記リガンドに結合すると細胞傷害性T細胞のアネルギーをもたらすことはよく知られている。従って、抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体を用いてPD-1経路を遮断することにより、腫瘍細胞に対する免疫応答を回復させることができる。PD-1経路の遮断は、PD-1遮断と呼ばれる。
【0036】
チェックポイント阻害剤は、公知の方法で投与することができる。例えば、投与量は、症状、年齢、体重および他の状態により変化する。0.001mg~100mgの用量を、数日、数週間または数ヶ月の間隔で、皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射により投与することができる。
【0037】
アデノウイルスベクターまたはチェックポイント阻害剤は、製剤の分野で一般的に用いられる担体、希釈剤および賦形剤を含有する。例えば、錠剤用の担体または賦形剤としては、ラクトース、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射用の水性液としては、生理食塩水、またはブドウ糖もしくはその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、および非イオン界面活性剤などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。
【0038】
REIC/Dkk-3遺伝子によってコードされるAd-REIC/Dkk-3は、抗がん免疫系をアップレギュレートすることによって胸部がんを治療または予防することができる。さらに、胸部がん細胞のアポトーシスを誘導する。具体的には、Ad-REIC/Dkk-3はCTL(細胞傷害性Tリンパ球)を誘導し、CTLは胸部がん細胞を全身的に攻撃する。CTLによって攻撃された胸部がん細胞は防御機能を発揮し、胸部がん細胞はPD-L1を発現する。チェックポイント阻害剤は、胸部がん細胞の防御機能を阻害する。
【0039】
Ad-REIC/Dkk-3は、単独で、全身性のCD8 T細胞プライミングを増強する。さらに、Ad-REIC/Dkk-3は、単独で、浸潤性のCD8 T細胞にPD-1を誘導し、そしておそらくは注射された微小環境においてPD-L1を誘導する。これは、CD8(および腫瘍特異的)T細胞の増殖を弱める働きをする。さらに、Ad-REIC/Dkk-3は、単独で、より高いレベルのCD4記憶T細胞の疲弊を導く。Ad-REIC/Dkk-3を抗PD-1または抗PD-L1と組合せると、全身性のT細胞反応および抗腫瘍反応が増強される。
【0040】
Ad-REIC/Dkk-3およびチェックポイント阻害剤は、胸部がんの治療において相乗的効果を奏する。抗PD-1および抗PD-L1抗体は、がんがPD-1およびPD-L1を細胞表面上で発現し、REIC/Dkk-3遺伝子に対して感受性になるように免疫系を操作する(REIC/Dkk-3誘導抗腫瘍免疫; REIC/Dkk-3により誘導されたCTL)。Ad-REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤の併用は、Ad-REIC/Dkk-3単独またはチェックポイント阻害剤単独よりも胸部がんの治療に有効である。
【0041】
Ad-REIC/Dkk-3は、チェックポイント阻害剤の投与と同時に、別々にまたは連続して投与することができる。Ad-REIC/Dkk-3は、チェックポイント阻害剤の投与前または投与後に投与することもできる。好ましくは、Ad-REIC/Dkk-3は、チェックポイント阻害剤の投与前に投与される。チェックポイント阻害剤を別々に投与する場合、チェックポイント阻害剤は、Ad-REIC/Dkk-3の投与の1~24時間前、1~30日前または後に投与される。さらに、チェックポイント阻害剤は、Ad-REIC/Dkk-3と同じ間隔で投与することができる。Ad-REIC/Dkk-3を複数回投与する場合、チェックポイント阻害剤を1回投与する。あるいは、チェックポイント阻害剤を複数回投与する場合、Ad-REIC/Dkk-3を1回投与する。
【0042】
本明細書中の治療対象となる胸部がんの例としては、限定するものではないが、例えば、中皮腫、特に悪性中皮腫、肺がん、胸壁腫瘍、縦隔腫瘍、肺(pulmonary)(肺(lung))小結節、重症筋無力症腫瘍、食道がん、胸腺がんまたは胸腺腫などが挙げられる。
【0043】
本発明はまた、Ad-REIC/Dkk-3およびチェックポイント阻害剤を含む組合せ、組合せ製剤または組合せ医薬キットも含む。
【0044】
本発明はまた、胸部がんを治療するための医薬の製造においてAd-REIC/Dkk-3とチェックポイント阻害剤を併用する方法も含む。
【0045】
本発明はまた、Ad-REIC/Dkk-3およびチェックポイント阻害剤を含む医薬組成物も含む。
【0046】
本発明はまた、チェックポイント阻害剤と併用するためのAd-REIC/Dkk-3を含む医薬組成物も含む。
【0047】
本発明はまた、チェックポイント阻害剤と併用するためのAd-REIC/Dkk-3も含む。
【実施例】
【0048】
本明細書中以降、実施例により一部の実施形態がさらに具体的に説明されるであろうが、これらの実施形態は、以下の実施例を限定することを意図するものではない。
【0049】
実施例1
1. 要約
MTG-201(Ad5-SGE-REIC/Dkk-3)は、REIC/Dkk-3遺伝子を有するアデノベクターに由来するがん免疫療法の製剤である。本発明者らは、マウス皮下同種移植モデルを用いたMTG-201の局所投与により抗がん活性を評価した。このモデルは、BALB/c株免疫正常マウスおよびAB1中皮腫細胞系を用いた同系モデルである。5×105個のAB1細胞をマウスの肩に皮下接種した2週間後、2回の腫瘍内投与を行った。抗PD-1抗体およびMTG-201を、単剤または併用剤で投与し、細胞接種の4週間後まで腫瘍サイズ測定を継続した。その結果、抗PD-1抗体単独投与群またはMTG-201単独投与群においては、腫瘍増殖に対する明らかな影響は観察されなかったが、併用投与群においては、腫瘍増殖の顕著な阻害が観察された。
【0050】
2. 方法
AB1細胞(50μlマトリゲル(Matrigel)を有する50μlのPBS中5x10
5細胞)を、6週齢のBALB/cマウスの肩越しに皮下注射した。AB1細胞の注射の2週間後、100μlのPBSまたは希釈緩衝液中のAd-LacZ、MTG-201または抗PD-1抗体を腫瘍内注射した。腫瘍は、AB1細胞注射の2週間後に測定し得るという結果が得られた本発明者らの予備研究に基づいて、14日目および16日目にアデノウイルスベクターを5.0x10
10の用量で注射し、14日目および21日目に抗PD-1抗体を注射した。各回とも、総注射容量は100μlであった。AB1細胞注射後4週間、腫瘍サイズを毎週3回(月曜日、水曜日および金曜日)測定し、28日目にマウスを屠殺した。腫瘍を切除し、腫瘍重量を測定した。
一目瞭然のプロトコルを
図3に示した。
【0051】
または、本発明者らは、平均腫瘍体積が5mm3または10mm3を超えたときに、マウスへのウイルスベクターの注射を開始するだろう。予備研究は、本発明者らが、注射の2週間後に腫瘤病変を検出し得たこと、およびその時点での平均腫瘍体積は13.15mm3であったことを示した。
【0052】
3. 結果
図4は、5匹のマウスの各マウスの腫瘍体積変化を示す。
図4A、
図4B、
図4C、
図4Dおよび
図4Eは、Ad-LacZ単独、Ad-LacZ+抗PD-1抗体、MTG-201単独、MTG-201+抗PD-1抗体および抗PD-1をそれぞれ投与したマウスの腫瘍体積変化を示す。
図5は、平均腫瘍体積変化を示す。
図6は、5匹のマウスの平均腫瘍重量を示す。
図4、5および6に示されるとおり、MTG-201の抗PD-1抗体との併用投与は、がんの増殖を抑制した。
【0053】
実施例2:悪性中皮腫におけるPD-1遮断に対する抵抗性を克服するためのアデノウイルス媒介性Dkk-3遺伝子導入
【0054】
目的:PD-1遮断による免疫療法は、悪性中皮腫(MM)の治療のための有望な治療戦略であるが、しかし、初期相試験から得られた客観的な応答率は、約20%に過ぎなかった。本発明者らは、PD-1阻害に対するMMの抵抗性は、複製不全アデノウイルスベクター(Ad-REIC)を使用し、不死化細胞発現低下(REIC)タンパク質、アポトーシス促進タンパク質および腫瘍サプレッサーをコードするDkk3遺伝子の局所遺伝子導入を通じて腫瘍内リンパ球浸潤を刺激することによって克服し得るという仮説を立てた。
【0055】
方法:AB1マウスMM細胞のin vitro治療の後に、飛行時間型マスサイトメトリー(CyTOF)を用いてREICタンパク質発現を評価した。十分に確立されたマウスMMの免疫正常モデルにおいて、0日目に、5x105個のAB1マウスMM細胞を同系BALB/cマウスに皮下注射した。13日目および15日目にAd-REIC(5x1010ウイルス粒子:viral particle)を腫瘍内投与し、13日目および20日目に抗マウスPD-1抗体(250μg)を腫瘍内投与した。27日目に、CyTOFを用いて、治療された腫瘍の腫瘍免疫微小環境を評価した。
【0056】
結果:確立されたAB1 MM腫瘍は、PD-1遮断に対して抵抗性であった(
図7)。マウスAB1細胞中のREICタンパク質発現は、in vitroでのAd-REICによる治療後に用量依存様式で増加し(
図8)、細胞周期のS期停止を生じた(
図9)。Ad-REICと抗PD-1抗体との併用による、AB1 MM腫瘍を有するマウスの治療は、腫瘍増殖を著しく抑制した(
図10および11)。治療済みAB1腫瘍由来の単一細胞懸濁液で行ったCyTOFは、Ad-REICと抗PD-1抗体が、増加数のCD8 T細胞および減少数の腫瘍関連マクロファージ(CD45+F4/80+CD64+CD3-CD19-)を生じさせたことを示した(
図12)。Ad-REIC療法の後、部分的に疲弊したCD8 T細胞(CD8+PD1+CTLA-4)の割合は22%から39%に増加し、併用療法は、減少頻度の部分的に疲弊したCD8 T細胞(1.5%)および増加頻度のエフェクターCD8 T細胞(CD8+CD44+CD62L-)を生じ、PD-1遮断によるCD8 T細胞の再活性化を意味していた(
図13)。
【0057】
T細胞集団のより深い特徴付けは、Ad-REICと抗PD-1の併用療法後の、エフェクター記憶CD8 (EM CD8)T細胞の大量動員を明らかにした。さらに、エフェクターCD8 T細胞(CD62L-CD44-CD8)およびナイーブCD4 T細胞は増加し、Treg細胞(制御性T細胞)は減少した(
図14)。
【0058】
結論:本発明者らの結果は、マウスMMにおける抗PD-1抗体免疫療法に対する抵抗性は、アデノウイルス媒介性REIC遺伝子導入によって克服し得ることを示した。この戦略は、中皮腫を有する患者のための新規な免疫療法アプローチとしての有望な可能性を有し、本発明者らの施設において第II相臨床試験で試験されるであろう。
【0059】
実施例3:EGFR変異肺がんモデルにおけるAd-SGE-REICと抗PD-1抗体の併用使用の効果
方法:in vivoで継代した腫瘍細胞を、C57BL/6Jマウスの背側領域に皮下移植し、移植の7日後、1日目および3日目にAd調製物(Ad-LacZ、Ad-SGE-REIC) 1.0x109 ifuを腫瘍内投与し、1日目に200μgの抗PD-1抗体を腹腔内投与した。各群の腫瘍体積を経時的に測定した。
【0060】
結果:上記の結果は、
図15に示される。Ad-SGE-REIC調製物と抗PD-1抗体の併用使用は、Ad調製物単独、またはAd陰性対照調製物(Ad-LacZ)および抗PD-1抗体の併用使用と比較して、明らかにより強い抗腫瘍効果を示した。
【0061】
本明細書中で引用される全ての刊行物、特許、および特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【配列表】