(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】プラスチック製アダプタ及び閉鎖式薬物搬送システム
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20231117BHJP
【FI】
A61J1/05 315C
A61J1/05 315A
(21)【出願番号】P 2022570936
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048649
(87)【国際公開番号】W WO2022137491
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000149000
【氏名又は名称】株式会社大協精工
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝之
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-066748(JP,A)
【文献】特開2016-054805(JP,A)
【文献】特開2009-137641(JP,A)
【文献】特開2007-282891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製キャップ
(C)を取り付けた医薬品用容器(A)に取り付けるプラスチック製アダプタ(E)であって、
該キャップ(C)は、中央に開口部(C10)を有する天面部(C1)と、該天面部(C1)の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部(C2)と、該スカート部の内部にインナーカバー(C3)と、を有し、
前記インナーカバー(C3)は、医薬品用容器(A)のゴム栓(B)と接触して係合する突起を有し、
該アダプタ(E)は、中央に篏合部(E11)を有する天面部(E1)と、該天面部(E1)の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部(E2)と、を有し、
前記篏合部(E11)は、リップ(E112)と、該リップ(E112)から垂下する中筒(E113)と、を有し、
前記篏合部(E11)は、閉鎖式薬物搬送システムに用いられる医療器具(F)と嵌合する、プラスチック製アダプタ。
【請求項2】
前記突起は、複数形成されている、請求項1に記載のプラスチック製アダプタ。
【請求項3】
前記スカート部(E2)の内部に、前記天面部(E1)下面中央から垂下し、医薬品容器(A)の内部と連通する穿刺部(E3)を更に有する、請求項1
又は2に記載のプラスチック製アダプタ。
【請求項4】
前記リップ(E112)は、上面(E115)と、ゴム栓(E111)と、下面(E114)と、からなり、
前記上面(E115)又は前記下面(E114)で少なくとも1箇所は前記医療器具(F)と接面する、請求項1
から3のいずれか一項に記載のプラスチック製アダプタ。
【請求項5】
前記スカート部(E2)下端の内面に医薬品用容器(A)のリップ(A2)下方に係合する係止爪(E21)が少なくとも1つ以上形成された、請求項1から
4のいずれか一項に記載のプラスチック製アダプタ。
【請求項6】
前記スカート部(E2)の外周面において、高さ方向に切り欠き部(E22)が少なくとも1つ以上設けられた、請求項1から
5のいずれか一項に記載のプラスチック製アダプタ。
【請求項7】
前記篏合部(E11)上面に指で脱離可能なカバー(D)が設けられた、請求項1から
6のいずれか一項に記載のプラスチック製アダプタ。
【請求項8】
医薬品用容器(A)に取り付けるプラスチック製キャップ(C)であって、該キャップ(C)は、中央に開口部(C10)を有する天面部(C1)と、該天面部(C1)の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部(C2)と、該スカート部の内部にインナーカバー(C3)と、を有し、
前記インナーカバー(C3)は、医薬品用容器(A)のゴム栓(B)と接触して係合する突起を有し、
前記インナーカバー(C3)と前記ゴム栓(B)の摩擦係数は、前記インナーカバー(C
3)と該キャップ(C)の摩擦係数より高い、プラスチック製キャップ(C)と、
前記プラスチック製キャップ(C)に取り付けるプラスチック製アダプタ(E)であって、該アダプタ(E)は、中央に篏合部(E11)を有する天面部(E1)と、該天面部(E1)の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部(E2)と、を有し、前記篏合部(E11)は、リップ(E112)と、該リップ(E112)から垂下する中筒(E113)と、を有し、前記篏合部(E11)は、閉鎖式薬物搬送システムに用いられる医療器具(F)と篏合する、プラスチック製アダプタ(E)と、
が用いられた、閉鎖式薬物搬送システム。
【請求項9】
前記突起は、複数形成されている、請求項8に記載の閉鎖式薬物搬送システム。
【請求項10】
前記スカート部(E2)の外周面において、高さ方向に切り欠き部(E22)が少なくとも1つ以上設けられた、請求項8又は9に記載の閉鎖式薬物搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製アダプタ及び閉鎖式薬物搬送システムに関する。より詳しくは、プラスチック製キャップを包含し、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することができるプラスチック製アダプタ及び該アダプタを用いた閉鎖式薬物搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品などの各種薬剤の収納容器として、バイアル等の医薬品容器が広く使用されている。前記医薬品容器は、薬剤を収容した後、医薬品容器口部をゴム栓で密封し、医薬品容器内部を密封状態にして使用される。医薬品容器に収容された薬剤の移し替えは、例えば特許文献1に記載の液体薬剤の移し替え装置や特許文献2に記載の入れ子式雌薬瓶アダプタ等を用いて、医療従事者などの使用者により行われる。薬品容器に収容された薬剤が、特に抗がん剤である場合は、前記使用者に対して医薬品容器内部からのエアロゾル、蒸気、液体の漏れ等によるばく露を防ぐため、一般的に閉鎖式薬物搬送システム(Closed System Transfer Device:CSTD)により行われる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2009-504230号公報
【文献】特表2015-528368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した薬剤の移し替え装置等が医薬品容器に対して不整合となると、医薬品容器のゴム栓などを穿刺して孔を開けることが難しくなり、場合によっては医薬品容器から薬剤が漏れるといった事故に繋がる恐れもある。
【0005】
また、前述した入れ子式雌薬瓶アダプタでは、アダプタの下部は薬瓶に対して薬瓶アダプタが整合する。前記アダプタの上部は、ニードルレス注射器に接合するため、直立する雌コネクタを有する。そのため、アダプタの下部の薬瓶側のみならず、アダプタの上部も閉鎖式薬物搬送システムに用いられる医療器具に篏合させる必要があり、複数の接続アダプタが必要になるという問題があった。
【0006】
また、特許文献1及び特許文献2に記載の医薬バイアルは、いずれもバイアル開口部でバンドと呼ばれるアルミニウム製のキャップが装着されている。ここで、従来は、アルミ製のキャップが主流であったが、近年、メーカー各社形状やサイズが異なるプラスチック製のキャップの利用も増加しており、前記プラスチック製のキャップを包含できるバイアルアダプタが無いという問題もある。
【0007】
そこで、本発明では、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することで薬剤漏れを防止できると共に、複数の接続アダプタを要せず、且つ、プラスチック製キャップを包含し、係止できるプラスチック製アダプタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明では、まず、プラスチック製キャップを取り付けた医薬品用容器(A)に取り付けるプラスチック製アダプタ(E)であって、
該アダプタ(E)は、中央に篏合部(E11)を有する天面部(E1)と、該天面部(E1)の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部(E2)と、を有し、
前記篏合部(E11)は、リップ(E112)と、該リップ(E112)から垂下する中筒(E113)と、を有し、
前記篏合部(E11)は、閉鎖式薬物搬送システムに用いられる医療器具(F)と嵌合する、プラスチック製アダプタを提供する。
また、本発明に係るプラスチック製アダプタは、前記スカート部(E2)の内部に、前記天面部(E1)下面中央から垂下し、医薬品容器(A)の内部と連通する穿刺部(E3)を更に有していてよい。
本発明において、前記リップ(E112)は、上面(E115)と、ゴム栓(E111)と、下面(E114)と、からなり、前記上面(E115)又は前記下面(E114)で少なくとも1箇所は前記医療器具(F)と接面してよい。
本発明において、前記スカート部(E2)下端の内面に医薬品用容器(A)のリップ(A2)下方に係合する係止爪(E21)が少なくとも1つ以上形成されていてよい。
本発明において、前記スカート部(E2)の外周面において、高さ方向に切り欠き部(E22)が少なくとも1つ以上設けられていてよい。
本発明において、前記篏合部(E11)上面に指で脱離可能なカバー(D)が設けられていてよい。
【0009】
また、本発明では、医薬品用容器(A)に取り付けるプラスチック製キャップ(C)であって、該キャップ(C)は、中央に開口部(C10)を有する天面部(C1)と、該天面部(C1)の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部(C2)と、該スカート部の内部にインナーカバー(C3)と、を有し、前記インナーカバー(C3)と前記ゴム栓(B)の摩擦係数は、前記インナーカバー(C3)と該キャップ(C)の摩擦係数より高い、プラスチック製キャップ(C)と、
前記プラスチック製キャップ(C)に取り付けるプラスチック製アダプタ(E)であって、該アダプタ(E)は、中央に篏合部(E11)を有する天面部(E1)と、該天面部(E1)の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部(E2)と、を有し、前記篏合部(E11)は、リップ(E112)と、該リップ(E112)から垂下する中筒(E113)と、を有し、前記篏合部(E11)は、閉鎖式薬物搬送システムに用いられる医療器具(F)と篏合する、プラスチック製アダプタ(E)と、
が用いられた、閉鎖式薬物搬送システムも提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プラスチック製キャップを包含し、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することができるプラスチック製アダプタを提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしもこれらに限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るアダプタEの実施形態の一例を説明する図である。
【
図2】本発明に係るアダプタEの実施形態の一例を医薬品容器Aに適用した状態を説明する図である。
【
図3】本発明に係るアダプタEの実施形態の一例を上方から見た斜視図である。
【
図4】本発明に係るアダプタEの実施形態の一例を下方から見た斜視図である。
【
図5】本発明に係るアダプタEの実施形態の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。
以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
1.プラスチック製アダプタE
図1は、本発明に係るアダプタEの実施形態の一例を説明する図である。
本発明に係るプラスチック製アダプタEは、医薬品容器Aの開口部A1を密封しているゴム栓Bに被せ、例えば後述するプラスチック製キャップCや一般的なバイアルアダプタ等を介して、医薬品容器Aに篏合させて用いられ、閉鎖式薬物搬送システム(Closed System Transfer Device:CSTD)に適用できるアダプタである。
ここで、閉鎖式薬物搬送システム(Closed System Transfer Device:CSTD)の定義について説明する。閉鎖式薬物搬送システムは、閉鎖式接続器具(図示せず)と閉鎖式投与ルートの2つを指す場合があるが、本願明細書では、主として、前者の閉鎖式接続器具を指す。
【0014】
該アダプタEは、中央に篏合部E11を有する天面部E1と、該天面部E1の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部E2と、からなる。また、前記篏合部E11は、リップE112と、該リップE112から垂下する中筒E113と、を有し、前記篏合部E11は、閉鎖式接続器具である医療器具Fと嵌合する。前記スカート部E2の外径は、前記中筒E113の直径よりも大きいことが好ましい。
なお、該医療器具Fとしては、例えば、一般的な針部を有したバイアルアダプタをいう。本発明に係るアダプタEが上記の構成を有することで、後述するプラスチック製キャップCや、本発明に係るアダプタEを適用した際に、医薬品容器A内部からのエアロゾル、蒸気、液体の漏れ等によるばく露を防ぎつつ、医薬品容器A内部の無菌性を保ち、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、
図1及び
図2に示すように、プラスチック製キャップCを覆うように取り付けられたアダプタEは、前記スカート部E2の内部に、前記天面部E1の下面中央から垂下し、医薬品容器Aの内部と連通する穿刺部E3を更に有する。穿刺部E3を有することで、別途、穿刺用器具等を用いなくともゴム栓Bを穿刺することができ、使用時の煩雑さを回避することができる。
【0016】
図1及び
図3に示すように、本発明に係るアダプタEは、中央に略T字形状の篏合部E11を有する天面部E1と、該天面部E1の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部E2を有し、前記篏合部E11は、リップE112と、該リップE112から垂下する中筒E113と、からなる。前記リップE112は、上面E115と下面E114を有しており、また、前記リップE112の内部には、薬剤のばく露を防止する円盤状のゴム栓E111が設けられている。
【0017】
図2に示すように、本発明に係るアダプタEの篏合部E11のうち、リップE112を構成する高さt1は、篏合する閉鎖式接続器具である医療器具F(図示せず)側の針を設けた側の内面奥行(長さ)や、前記篏合部E11の内部に設けたゴム栓E111の厚さを考慮し、適宜自由に変更できる。
【0018】
また、前記スカート部E2下端の内面には、前記プラスチック製キャップCを外側から覆うように係合する係止爪E21が少なくとも1つ以上形成されている。
【0019】
次に、本発明に係るアダプタEの篏合部E11がどのように篏合するか、
図5を参照しながら説明する。
なお、本発明に係るアダプタEの篏合部E11が篏合する場合、前記医療器具Fのバイアルアダプタがハウジングを有する場合と、前記医療器具Fのバイアルアダプタがハウジングを有しない場合とがあるが、
図5では、前者のハウジングを有する場合を図示している。
【0020】
前記医療器具Fのバイアルアダプタがハウジングを有する場合、スパイク針F1を設けた前記医療器具Fのバイアルアダプタが、アダプタEの前記篏合部E11に上面から篏合し、前記ハウジング内で前記リップE112の外縁部分を構成する上面E115と下面E114の2箇所で接面し、篏合する。これにより、医療器具Fと本発明に係るアダプタEとが強固に固定することができる。
【0021】
前記医療器具Fのバイアルアダプタが、ハウジングを有しない場合、前記スパイク針F1の根本を構成する鍔部(図示せず)が前記リップE112の上面E115で少なくとも1箇所は接面する。この場合、リップE112の内に設けた円盤状のゴム栓E111を介して薬剤に前記スパイク針F1を穿針できるため、液体の漏れ等によるばく露を防ぎ、より安全な閉鎖式薬物搬送システムに適用することができる。
【0022】
本発明の好ましい形態では、
図1及び
図2に示すように、該アダプタEの前記スカート部E2下端の内側には、前記プラスチック製キャップCを外側から覆うように係合する係止爪E21が少なくとも1つ以上形成されている。係止爪E21の個数は特に限定されないが、複数形成されていることが好ましい。また、係止爪E21の形状は逆レ形状とすることができるが、例えば内径方向に水平に延伸する凸形状とすることができる。これにより、該アダプタEに対して上方への力が加わったとしても、該アダプタEが容易に外れることを防止することができる。また、後述するキャップCと篏合する際、前記係止爪E21に近接し、スカート部E2に対して垂直に設けた間隙の切り欠き部E22は、医薬品用容器Aに篏合する位置を視認することができる位置決め機構としても用いることができる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、
図3に示すように、スカート部E2の外周面において、高さ方向に切り欠き部E22が少なくとも1つ以上設けられている。切り欠き部E22の個数は特に限定されないが、複数形成されていることが好ましい。これにより、スカート部E2の可撓性を向上させ、該アダプタEを篏合させる際に、割れ等の破損が生じることを防ぐことができる。
【0024】
本発明において、
図1に示したゴム栓Bとしては、滑り性の観点や、ゴム栓同士がくっつくドッキングを防止するため、ゴム栓Bの脚部B2にプラスチック製フィルムが積層されている。
また、
図1に示したゴム栓Bより高い密封性を確保するために、笠部B1の下部分はゴム素面であり、更には、ゴム栓Bの脚部B2の根元もゴム素面であることが好ましい。
更に、ゴム栓Bの笠部B1天面は、前記ゴム栓Bの脚部B2と同様に、シリコーン等の潤滑剤が塗布されていないものが好ましい。シリコーン等の潤滑剤が塗布されているとタンパク質の凝集が起きるためである。ゴム栓Bの笠部B1天面に滑性が必要な場合には、プラスチック製フィルムを積層すればよい。ゴム栓Bで利用するプラスチック製フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂等の一般的なプラスチック製フィルムが使用可能である。
【0025】
本発明に係るアダプタEを形成する素材としては、例えば耐熱性や滑り性、耐滅菌性や強度に優れた樹脂であればよく、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリオレフィン系があるが、これらに限定されず、適宜自由に選定できる。具体的には、例えばフッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂(PP、ホモポリマーの外にエチレン基、ブチレン基などを共重合したコーポリマーも含む)、ポリエステル系樹脂(PET)、ポリスルホン系樹脂(PSF)、メチルペンテン系樹脂(PMP)、ポリアクリレート系樹脂(PAR)、ポリアミド系樹脂(PA)、変性フェニレンオキサイド樹脂(PPE)、環状オレフィン系化合物又は架橋多環式炭化水素化合物を重合体成分とする樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、オレフィン系樹脂を極性基で変性(グラフト)した樹脂や、耐磨耗性にも優れたポリアセタール(POM)等が挙げられるが、高圧蒸気滅菌条件、例えば121℃、20分に耐えられる耐熱性や、劣化、割れ等の強度の問題がなく、放射線滅菌等で滅菌できる素材であればこれらに限定されない。本発明に係るアダプタEをプラスチックで形成することで、閉鎖式接続器具である医療器具Fと擦れ合ったり、ぶつかったりしても微粒子等が生じることがない。また、アダプタEは、例えば射出成形により製造することができるため、形状や構造の自由度が高い。
【0026】
本発明に係るアダプタEでは、
図1及び
図2に示すように、前記篏合部E11上面に指で脱離可能なカバーDが一体に設けられていてもよい。すなわち、アダプタEとカバーDとが、例えば上述した樹脂によってそれぞれ成形され溶着した形態が好ましい。勿論、各種方法でアダプタEとカバーDを一体成形することも可能である。このカバーDは本発明においては必須ではないが、篏合部E11上面の汚染を防止するために設けることが好ましい。前記カバーDには全周にわたるか、或いは部分的に形成された1個又は複数の指掛けD1が形成されていることが好ましい。使用者は、必要に応じて指掛けD1に指をかけてカバーDが容易に取り外せるようになっている。
【0027】
なお、カバーDの他の実施形態としては、ガス、水蒸気、菌などを通過しないガス不透過フィルムや、ガスや水蒸気等を通すガス透過フィルム等で成形することが挙げられる。本発明では、篏合部E11内部に設けたゴム栓E111の汚染を防止できる方法であればよく、例えば本発明に係るアダプタEの前記篏合部E11の上面E115を覆うことができ、且つ、剥離可能なシール等でカバーDを形成してもよい。
【0028】
以上に説明した本発明に係るアダプタEの使用方法を、
図1を参照して説明する。
まず、医薬品容器Aに所望の薬剤を充填した後、適当なサイズのゴム栓Bを医薬品容器Aの開口部A1に嵌め込み、医薬品容器Aを密封する。薬剤を収容した医薬品容器Aは、医療従事者などの使用者によりCSTDに適用されるが、この際、医薬品容器A内部からのエアロゾル、蒸気、液体の漏れ等によるばく露を防ぐため、ゴム栓Bで密封された状態の医薬品容器Aに、後述するプラスチック製キャップCを介して、アダプタEを嵌め込む。そうすると、アダプタEの降下に伴い、該アダプタEの内面に設けた逆レ字状の係止爪E21がキャップCのスカート部C2の外周面に当接しつつ、弾性変形して下降し、係止爪E21の先端が、キャップCのスカート部C2の外周面を過ぎると、係止爪E21が元の状態に戻り、アダプタEが固定される。次いで、使用者は、CSTDに用いる医療器具Fを、篏合部E11の上蓋側からアダプタEに篏合させ、薬剤の移し替えを行う。
【0029】
なお、上述した例では、ゴム栓Bを医薬品容器Aの開口部A1に嵌め込み、医薬品容器Aを密封した状態とした後、後述するプラスチック製キャップCを介して、アダプタEを嵌め込んだが、本発明はこれに限定されない。
【0030】
2.閉鎖式薬物搬送システム
本発明では、後述するプラスチック製キャップCと、前述した本発明に係るアダプタEと、が用いられた閉鎖式薬物搬送システムも提供する。前述の通り、アダプタEは、キャップCを介してCSTDに適用することもできる。アダプタEについては、前述した通りであるため、ここでは説明を割愛する。
【0031】
プラスチック製キャップCは、
図1に示すように、医薬品容器Aの開口部A1を密封しているゴム栓Bの脱離防止用のキャップである。該キャップCは、中央に開口部C10を有する天面部C1と、該天面部C1の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部C2と、該スカート部の内部にあるインナーカバーC3と、からなっている。また、該インナーカバーC3と前記ゴム栓Bの摩擦係数は、前記インナーカバーC3と前記キャップCの摩擦係数より高い。このため、打栓したゴム栓BにキャップCを適用して嵌めた際に、キャップCに対して横方向に力が加わっても、キャップCが空回りするだけでゴム栓Bは回転しない。したがって、ゴム栓Bの気密性を保持することができる。
【0032】
本発明の好ましい形態では、
図1に示すように、キャップCは、前記スカート部C2に、少なくとも1つ以上のスリット部C21を有する。スリット部C21は、複数形成されていることが好ましく、例えば3箇所に形成されていることが好ましい。前記スリット部C21は、キャップCと本発明に係るアダプタEとを篏合する際の位置決め機構として用いることができる。なお、アダプタEの位置決め機構としては、例えば凸形状の部材(図示せず)をスカート部C2の内壁に設ける方法等が挙げられる。
【0033】
キャップCの天面部C1は円盤状であり、その中央部には、開口部C10が形成されているが、該開口部C10の大きさは本発明の効果が奏される限り、特に限定されない。本発明に係る閉鎖式薬物搬送システムでは、穿刺部E3が前記開口部C10の中央に嵌り、キャップCの内側に保持されたゴム栓Bを穿刺する。
【0034】
以上に説明した本発明に係る閉鎖式薬物搬送システムの使用方法を、
図1を参照して説明する。
まず、医薬品容器Aに所望の薬剤を充填した後、適当なサイズのゴム栓Bを医薬品容器Aの開口部A1に嵌め込み、医薬品容器Aを密封する。次いで、上記ゴム栓Bで密封された状態の医薬品容器Aに、キャップCを、好適には打栓器を用いて嵌め込むと、ゴム栓BとキャップCが固定される。薬剤を収容した医薬品容器Aは、医療従事者などの使用者によりCSTDに適用されるが、スリット部C21による位置決めを行いつつ、キャップCに、アダプタEを被せるようにして嵌め込み、キャップCとアダプタEが固定される。次いで、使用者は、CSTDに用いる医療器具Fを用いて、上面E115側からゴム栓E111を穿刺し、薬剤の移し替えを行う。
【0035】
なお、上述した例では、ゴム栓Bを医薬品容器Aの開口部A1に嵌め込み、医薬品容器Aを密封した状態とした後、キャップCをゴム栓Bに嵌め込み、更に、アダプタEをキャップCに嵌め込んだが、本発明はこれに限定されない。
【0036】
本発明に係るアダプタEは、スカート部E2においてプラスチック製キャップCを包含し、スカート部E2に設けた係止爪E21で係止できるため、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用でき、薬剤漏れを防止できる。また、本発明に係るアダプタEの篏合部E11のうち、リップE112を構成する高さt1は、篏合する閉鎖式接続器具である医療器具F(図示せず)側の針を設けた側の内面奥行(長さ)や、前記篏合部E11の内部に設けたゴム栓E111の厚さを考慮し、適宜自由に変更できるため、該アダプタE単体で様々な閉鎖式接続器具に適用でき、複数の接続アダプタを要しない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のことから明らかなように、本発明によれば、医薬品容器内部からのエアロゾル、蒸気、液体の漏れ等によるばく露を防ぎつつ、医薬品容器内部の無菌性を保ち、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することができ、更には、複数の接続アダプタを要せず、且つ、プラスチック製キャップを包含し、係止できるプラスチック製アダプタを提供できる。
【符号の説明】
【0038】
A:医薬品容器
A1:開口部
A2:リップ
B:ゴム栓
B1:笠部
B2:脚部
C:プラスチック製キャップ
C1:天面部
C2:スカート部
C3:インナーカバー
C4:係止爪
C10:開口部
D:カバー
D1:指掛け
E:プラスチック製アダプタ
E1:天面部
E11:篏合部
E111:ゴム栓
E112:リップ
E113:中筒
E114:下面
E115:上面
E2:スカート部
E21:係止爪
E22:切り欠き部
E3:穿刺部
F:医療器具
F1:スパイク針