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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】化粧材、化粧材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/04 20060101AFI20231117BHJP
【FI】
B29C59/04 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018068457
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177599
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】西根 祥太
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 健
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 一葉
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝二
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】川口 聖司
【審判官】河原 正
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-530403(JP,A)
【文献】特開平5-147185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C59/00-59/18
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸が形成されてなる化粧材であって、
基材、及び前記基材の面に複数の凸線条が配置された線条突起部を有し、
前記凸線条は平面視において有限長であるとともに、曲線部を有してなり、
前記凸線条は、長さが23μm~413μm、幅が5μm~65μm、高さが15μm~35μmであり、前記曲線部における曲率半径が2μm~14μmのとき、隣り合う前記凸線の間隔が4μm~11μm、前記曲線部における曲率半径が17μm~38μmのとき、隣り合う前記凸線の間隔が15μm~50μmであり、
前記線条突起部の複数の前記凸線条がチューリングパターンを有してなり、及び、
前記線条突起部の複数の前記凸線条が、色差ΔEで表される耐指紋性が1.50以下となるパターンを具備している化粧材。
【請求項2】
前記基材及び前記線条突起部はメラミン樹脂を含んでなる請求項1に記載の化粧材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化粧材を製造する方法であって、
前記化粧材に表されるべき前記凸線条のパターンの濃淡画像データを形成する工程と、
前記濃淡画像データに基づいて前記凸線条のパターンと同じ凸線条のパターンを有する版を作製する工程と、
前記作製した版の前記凸線条が具備された側にインキを塗工して硬化させることで賦形シートを作製する工程と、
樹脂が含浸されたシートに前記賦形シートを積層して圧力をかけつつ加熱成形する工程と、を含む、化粧材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化粧材に関し、特に指紋が目立ち難い(耐指紋性を有する)化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
家具、建材等の表面装飾材として化粧材が広く用いられている。例えば特許文献1にはメラミン樹脂による化粧材に関する技術が開示されている。メラミン樹脂による化粧材は耐熱性、耐疵性、耐汚染性等に優れる等の利点があり、生産性も良好という特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-197053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これらメラミン樹脂による化粧材は手で触れたときに指紋の痕跡が目立ち、耐指紋性が低いという問題がある。特に、梨地、砂目等の微細な凹凸形状を表面に賦形して成るいわゆる艶が低い、艶消しの表面の化粧材においてその傾向が顕著であった。
【0005】
化粧材の材料をメラミン樹脂以外の樹脂に変更することで指紋の痕跡を目立たないようにする(耐指紋性を向上する)ことも可能ではあるが、いずれの材料でも生産性が低下してしまう等の問題がある。
【0006】
そこで本発明は、材料の種類によらず指紋の痕跡が目立ち難い、耐指紋性を有する化粧材を提供することを課題とする。またこの化粧材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、表面に凹凸が形成されてなる化粧材であって、基材、及び基材の面に複数の凸線条が配置された線条突起部を有し、凸線条は平面視において有限長であるとともに、曲線部を有してなり、線条突起部の複数の凸線条が、色差ΔEで表される耐指紋性が1.50以下となるパターンを具備している化粧材である。
【0008】
ここで、色差ΔEは、「L色空間における色差ΔE ab」を意味する。
そして、「色差ΔEで表される耐指紋性」の指標は、メラミン樹脂を用いた化粧材を作製し、その表面にオレイン酸を1滴滴下した後、ウェスで10往復乾拭きした後の表面と、滴下前の表面と、の色差ΔEで耐指紋性を表すことを意味する。従ってオレイン酸を滴下する前の表面のL色空間における色と、オレイン酸を滴下して上記のように乾拭きした後の表面のL色空間における色との距離がΔE(ΔE ab)である。
【0009】
線条突起部の複数の凸線条がチューリングパターンを有してなるように構成してもよい。
【0010】
また、基材及び線条突起部はメラミン樹脂を含んでなるように構成することもできる。
【0011】
本発明の他の態様は、上記の化粧材を製造する方法であって、化粧材に表されるべき凸線条のパターンの濃淡画像データを形成する工程と、濃淡画像データに基づいて凸線条のパターンと同じ凸線条のパターンを有する版を作製する工程と、作製した版の凸線条が具備された側にインキを塗工して硬化させることで賦形シートを作製する工程と、樹脂が含浸されたシートに賦形シートを積層して圧力をかけつつ加熱成形する工程と、を含む、化粧材の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用される材料によらず指紋の痕跡が目立ち難い化粧材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は化粧材10の表面の一部を拡大して表した平面図である。
図2図2は化粧材10の表面を説明するために模式的に表した化粧材10の一部を示す斜視図である。
図3図3は、凸線条13の形態の例を説明する図である。
図4図4は、凸線条13の形態の他の例を説明する図である。
図5図5は、凸線条13の形態の他の例を説明する図である。
図6図6(a)~図6(d)は、凸線条13の形態の他の例を説明する図である。
図7図7(a)、図7(b)は隣り合う凸線条13の配置の形態の例を説明する図である。
図8図8は版20について説明する図である。
図9図9は比較例の化粧材の表面の一部を拡大して表した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図面に示す形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら形態に限定されるものではない。なお、以下に示す図面では分かりやすさのため部材の大きさや比率を変更または誇張して記載することがある。また、見やすさのため説明上不要な部分の図示や繰り返しとなる符号は省略することがある。
【0015】
図1は1つの形態にかかる化粧材10の一部を拡大し、線条突起部12側から平面視した図(平面図)である。図1には便宜のため、方向を表す矢印(x、y、z)、即ち座標系も併せて表記した。ここでxy方向は化粧材10における表面の面内方向、z方向は厚さ方向であると共に化粧材の面内方向の広がりを代表するxy平面の法線方向でもある。従って図1は化粧材10を線条突起部12側であるz方向から見た図ということになる。なお、図1の如く化粧材の厚さ方向(z方向)から化粧材を観察する事を平面視、平面視を図示した図を平面図とも呼称する。
図1からわかるように本形態の化粧材10では、人の目や手が触れることができる表面側に線条突起部12による凹凸が形成されている。
【0016】
図2は、図1の一部を抜き出して拡大し、これを模式的に示した斜視図である。図1図2よりわかるように、化粧材10は、基材11及び該基材11の一方の面に形成された線条突起部12を有して構成されている。
【0017】
以下、各構成についてさらに詳しく説明する。
【0018】
基材11は、線条突起部12の基礎となるとともに化粧材10に強度を付与する機能を有するシート状の部材である。基材11は従来公知の化粧材と同様の機能を有するものであればよいので、その材料は特に限定されない。例えば、基材の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アイオノマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、2液硬化型ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、或いは、ラジカル重合型のアクリレート系やカチオン重合型のエポキシ系等で電離放射線(紫外線、電子線等)で硬化する電離放射線硬化性樹脂等を用いることができる。なお、基材の材料が樹脂の場合、公知の着色剤で着色しても良い。
この他、紙、不織布、金属、木等もシート、板、立体物等の形状で、適宜上記樹脂材料と積層させて、使用することもできる。
このように化粧材10では用いられる材料を選ばずに耐指紋性を向上させることができる。
【0019】
このなかでも、従来からその耐熱性、耐疵性、及び生産性の観点から利用されてきたメラミン樹脂の未硬化液状組成物を紙に含侵させて硬化せしめて成る所謂メラミン樹脂化粧材の構成から成る基材を好ましく用いることができる。一般的なメラミン樹脂化粧材の層構成は以下の層構成及び製法から成る。坪量50g/m~250g/mのクラフト紙にフェノール系樹脂の未硬化組成物を含侵してなるコア紙を2枚~5枚程度重ね、その表面側(使用時に露出し視認される側)にメラミン樹脂の未硬化組成物を含侵させた坪量50g/m~250g/mのチタン紙(二酸化チタン粒子を白色隠蔽性顔料として混抄した紙)を重ね、更にその表面側に坪量15g/m~50g/m程度のαセルロースパルプ紙にメラミン樹脂の未硬化組成物を含侵したオーバーレ紙を重ね合せる。そして、該重ね合せたものを加熱及び加圧して、各未硬化組成物を硬化せしめると共に各層を接着一体化した積層体を得る。かかる積層体がメラミン樹脂化粧材である。かかるメラミン樹脂化粧材の構成の基材11表面側に本発明規定の線条突起部12を賦形した化粧材10によれば材料としてメラミン樹脂を用いても耐指紋性を向上させることが可能である。
【0020】
基材の厚さには特に制限は無いが、シート状基材又はフィルム状基材の場合は、例えば、厚さ20μm以上1000μm以下程度、板状基材の場合は、例えば、1mm以上20mm以下程度のものが使用できる。
【0021】
線条突起部12は、基材11の一方の面に形成され、化粧材10の表面に耐指紋性を付与する。本形態で線条突起部12は次のような形態を備えている。
【0022】
線条突起部12は、図1図2よりわかるように、複数の凸線条13が無数に配置されることにより構成されている。この無数に配置された凸線条13によって化粧材10に耐指紋性の機能が付与される。
また、このように無数の凸線条13が表面に配置されることによって、凸線条13が入射光を拡散反射することにより、いわゆる艶消しの表面とすることもできる。従来の梨地、砂目等の艷消表面凹凸を有する化粧材のうち、特にメラミン樹脂を用いたものはこのような艶消しの表面において指紋の痕が顕著に目立ち、耐指紋性が低いことが問題となっていた。これに対して本形態の化粧材10によれば、本発明特定の線条突起部12により艶消し表面であっても耐指紋性も向上させることができる。なお、艶消しの評価は、賦形シートを用いて賦形した化粧材をグロスメーターを用いて艶を測定する(60度、測定機器BYKガードナー社、マイクログロス)ことにより行うことができる。
【0023】
線条突起部12に具備される複数の凸線条13の形態、及び、その配置については、耐指紋性を有するように構成されていればよい。すなわち、複数の凸線条13を設けることにより耐指紋性を向上するというものである。
ここで耐指紋性とは、指紋の痕跡の目立ち具合を意味しており、耐指紋性により指紋の痕跡が目立たなくなる。具体的な耐指紋性の指標としては色差ΔEを用いて評価し、ΔEが1.5以下であればよく、ΔEが1.0以下は耐指紋性が良好であり、ΔEが0.2以下は高い耐指紋性を有すると評価できる。
ここで、色差ΔEは、「L色空間における色差ΔE ab」を意味し、色差ΔEで表される耐指紋性の指標は、メラミン樹脂を用いた化粧材を作製し、その表面にオレイン酸を1滴滴下した後、ウェスで10往復乾拭きした後の表面と、滴下前の表面と、の色差ΔE(ΔE ab)で耐指紋性を表すことを意味する。従ってオレイン酸を滴下する前の表面のL色空間における色と、オレイン酸を滴下して上記のように乾拭きした後の表面のL色空間における色との距離がΔE(ΔE ab)である。このような色差の測定は例えばコニカミノルタ株式会社、分光測色計 CM-370等により得ることができる。
【0024】
このような耐指紋性を有するための凸線条13の形態は、図1からもわかるように有限長の曲線分を具備する線条突起である。図3に1つの凸線条13の例に注目した平面図を表した。このような凸線条13が無数に配置された集合体として線条突起部12が形成されている。
【0025】
そして耐指紋性をより高める観点から凸線条は次のような形態を有していることが好ましい。
幅Wは、凸線条を平面視し、凸線条の最も低い部位から、凸線条の最高点を通り、反対側の凸線線条の最も低い部位を結んだ直線のうち最も短い距離とする。この幅Wは1μm以上100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1μm以上25μm以下である。
高さHは、表面粗さ測定器で測定した際のRz(JIS B 0601-2001、測定機器:二次元、三次元表面粗さ測定器、株式会社菱光社)とする。この高さHは好ましくは1μm以上100μm以下、さらに好ましくは5μm以上50μm以下である。
曲率半径Rは、5つの凸線条について、1つの凸線条あたり曲部を10箇所測定して平均値をとる。この曲率半径Rは1μm以上50μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1μm以上25μm以下である。
長さLは好ましくは1μm以上500μm以下、さらに好ましくは1μm以上250μm以下である。
【0026】
このように凸線条13は有限長で所定の幅Wを有する(幅W>0の)曲線分を有しているが、このような凸線条13としては図3に示した他にも、例えば図4図5のような凸線条13が含まれても良い。
【0027】
図4に示した凸線条13はいわゆる波型であり、傾きが0となる1つ極部13a(曲線における極大点乃至極小点に相当する)を備えるとともに、極部13aとは異なる極部13bを備えて延びる例である。このような波型の凸線条13が含まれてもよい。
波型の凸線条13についても、その長さ、幅、高さ、及び曲率半径の好ましい範囲は、図3に示した凸線条13で説明した通りである。
【0028】
図5に示した凸線条13は分岐を有するものであり、1本である基部13cから第一の分岐13d、及び第二の分岐13eを有している例である。このような分岐を有する凸線条13が含まれてもよい。
分岐を有する凸線条13についても幅、高さ、及び曲率半径の好ましい範囲は、図3に示した凸線条13で説明した通りである。一方、分岐を有する凸線条13の長さについては、基部13cと第一の分岐13dとの合計長さ、及び、基部13cと第二の分岐13eとの合計長さがそれぞれ図3に示した凸線条13で説明した範囲であることが好ましい。
【0029】
又、凸線条13の平面視形状は、図6に示したような円、楕円、頂点近傍が丸みを帯びた(曲率半径>0の)多角形、或いはこれらを変調した形状等の閉曲線13fを含んでも良い。かかる閉曲線13fは、上記の例に倣って幅Wを有する。
図6(a)は頂点近傍が丸みを帯び多角形等からなる閉曲線13f、図6(b)は楕円からなる閉曲線13fの例である。かかる閉曲線は、図6(c)の如くより径の大きい閉曲線13fの内部(内側)に、より径の小さい閉曲線13fを内包していても良い。また、図6(d)の如く閉曲線13fはその外側に隣接する、より径の大きい開曲線13gを随伴していても良い。
凸線条13の平面視形状は、図6(d)の13gの如く閉曲線の一部を切り欠いた形状であっても良い。或いは、図示は略すが、凸線条13の平面視形状は、図6に図示したような形状の凸線条を平面視において蛇行させたものや、ジギザグ(zig zag)に折線化した形状のものを含んでいても良い。
【0030】
以上のような凸線条13が基材11の表面に無数に配置されることにより、線条突起部12となる。複数の凸線条13の線条突起部12への配置については上記したように耐指紋性を有することができる配置であればよい。
そのための具体的な形態としては特に限定されるものではないが、1つの例として隣り合う凸線条13の間隔は1μm以上70μm以下であることが好ましく、1μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
図7(a)、図7(b)には隣り合う凸線条13の態様の例を示した。
図7(a)は、湾曲した2つの凸線条13がその湾曲方向が揃うようにして並んだ例である。このような場合には図7(a)にGで示した最も離隔した距離が上記間隔の範囲に入っていることが好ましい。
図7(b)は、湾曲した2つの凸線条13においてその湾曲方向が異なり、互いに湾曲による空間内に先端が入り込んだようにして並んだ例である。このような場合にも図7(b)にGで示したような最も離隔した距離が上記間隔の範囲に入っていることが好ましい。
【0032】
また、線条突起部12の複数の凸線条13の形態、及び、その配置について全体として見たときに、次のように考えることもできる。すなわち、線条突起部12に含まれる複数の凸線条13の形態、及び、その配置をいわゆるチューリングパターンにより形成することもできる。
チューリングパターン(Turing pattern)は反応拡散方程式である次式の系で自発的に生じる空間的パターンである。
【0033】
【数1】
【0034】
ここで、uは所謂活性因子の濃度、vは所謂抑制因子の濃度であり、Dは活性因子uの拡散係数、Dは抑制因子vの拡散係数、f(u、v)及びg(u、v)は変数u、vの関数である。
この式は、本来は、各種化学反応の正のフィードバックに関与する活性因子の濃度uと、負のフィードバックに関与する抑制因子の濃度vの増減量を表わす式である。上記式の右辺において第1項は反応項と呼ばれ、活性因子と抑制因子の濃度(u、v)の比率によって活性因子、抑制因子の生成・分解の量を決定する項である。また第2項は拡散項と呼ばれ、拡散現象により移動していく活性因子、抑制因子の量を決定する項である。
【0035】
この反応性拡散方程式は、拡散係数D、D、関数f(u、v)、g(u、v)、及び境界条件に応じて、平面(u、v)において、様々なパターンが生成されることが知られている。かかるパターンをチューリングパターンと呼称する。
【0036】
化粧材表面の線条突起部12を構成する複数の凸線条13の平面視形状を、拡散係数D、D、関数f(u、v)、g(u、v)、及び境界条件を特定し、且つ凸線条13の平面視形状の持つ幅W、長さL、曲率半径R、及び間隔を前記の好ましい範囲内となるように寸法(パターンの拡大乃至縮小倍率)を規定し、且つ高さHも前記の好ましい範囲に規定したパターン(以降、これを「特定チューリングパターン」とも呼称する。)とすることにより、かかる凸線条13から構成された線条突起部12を表目に具備する化粧材は、本発明の効果を十分に奏し得る。
【0037】
以上説明した化粧材10によれば、化粧材に用いられる材料によらず耐指紋性を向上させることができる。例えば材料としてメラミン樹脂を用いたとしても耐指紋性に優れたものとなる。
【0038】
また、上記のような線条突起部12によれば化粧材の表面が艶消しの特徴を備えることもできる。そしてこのように艶消しの表面であっても耐指紋性を有するものとなる。
【0039】
以上説明した化粧材の用途は特に制限は無いが、例えば、壁、床、天井等の建築物の内装材、建築物の外壁、屋根、門扉、塀、柵等の外裝材、扉、窓枠、扉、扉枠等の建具、廻り縁、幅木、手摺等の造作部材の表面材、テレビ受像機、冷蔵庫等の家電製品の筐体の表面材、机、食卓、箪笥等の家具の表面材、箱、樹脂瓶等の容器の表面材、車両等の内装材又は外裝材、船舶の内装材又は外裝材等が挙げられる。
【0040】
次に化粧材の製造方法の例である製造方法S10を説明する。ただし、化粧材を製造する方法がこれに限定されることはない。
本例の化粧材の製造方法S10は、パターン作成工程S11、版作製工程S12、賦形シート作製工程S13、及び、賦形工程S14を含んでいる。以下、各工程について説明する。なお、本例では線条突起部12の凸線条13の形態及び配置をチューリングパターンで形成する例により説明する。
【0041】
<パターン作成工程S11>
パターン作成工程S11では、線条突起部12に表現すべき特定チューリングパターンを数値シミュレーションにより形成してパターンデータを作成し、これを記憶装置にデジタルデータとして保存する。
【0042】
<版作製工程S12>
版作製工程S12では、パターン作成工程S11で得られたチューリングパターンに基づいて化粧材の線条突起部12に形成される凹凸(高さの高低)と同じ凹凸を表面に有する版(賦形シート用成形型)の作製を行う。そして具体的には凹凸の製造工程は以下の手順(1)~(5)を含んでなる。
【0043】
(1)濃淡画像データ作成工程
線条突起部12を構成する凸線条13の平面視パターンに対応するデジタルの濃淡画像データを作成する。該濃淡画像データは、後述の金属ロール表面の一座標毎に画像濃度を対応させたデータである。ここで濃淡画像データは、パターン作成工程S11で得た平面視パターンを用い、TIFF形式で8bitの画像濃淡階調(256階調)で2540dpiの解像度で作成することができる。
【0044】
(2)金属ロール準備工程
上記工程(1)と並行して、図8に示したような版彫刻用の金属ロール20を準備する。金属ロール20は、軸方向両端部に回転駆動軸(shaft)21を有する中空の鉄製の円筒の表面に銅層をメッキ形成したものである。砥石で金属ロール20の表面を研磨して粗面化し、彫刻用レーザ光の鏡面反射による彫刻効率の低下を防止する処理をする。
【0045】
(3)レーザ光彫刻工程
図8に模式的に示したように、レーザ光直接彫刻機を用い、工程(2)で用意した金属ロール20の表面を工程(1)で作成した濃淡画像データに基づき彫刻する。これによりその表面に図1のような化粧材表面の凹凸と同一平面視形状で且つ順凹凸(化粧材の凸に対応する部分が版面上でも凸となる関係)の凹凸形状を形成する。
従って版における凹凸が備えるべき形状は、上記した化粧材における凹凸の凹凸関係と同じ態様である。
【0046】
金属ロール20をその回転駆動軸21を介して電動機で駆動し、回転駆動軸21を中心軸として回転する。レーザーヘッド22から出射される発振波長1024nm、レーザスポット径10μm、出力600Wのファイバーレーザ光Lで金属ロール20の表面の全面を走査する。その際には工程(1)で作成した濃淡画像データの濃度値に応じてレーザ光をON-OFF切換(照射又は非照射の切換)を行い、照射位置には1回のレーザ光照射による金属の蒸発で深さ10μmの凹部を形成する。かかるレーザ光による金属ロール表面に対する走査を10回繰り返す。また、蒸発した金属が粉体となって金属ロール20の表面に残留又は付着することを防止するため、彫刻液吐出口23から彫刻液Tを金属ロール20の表面のレーザ光照射領域に吹き付けた状態でレーザ光照射を行う。
その際に、例えば、データ上で版深50μmに対応する画像濃度の位置座標においては、合計10回の走査のうち、最初の5回分のみレーザ光を照射(ON)し、残り5回分についてはレーザ光は非照射(OFF)となるよう制御する。
かかるレーザ光の走査を完了させ、金属ロール20の表面に所望の凹凸形状を形成する。
【0047】
(4)電界研磨工程
彫刻液を洗浄した後、電解研磨を行い、金属ロール20の表面に付着した金属の残渣を除去する。
【0048】
(5)クロムメッキ工程
工程(4)の後、該金属ロール表面にメッキにより厚さ10μmのクロム層を形成する。
【0049】
以上により線条突起部12の表面に形成された凹凸と同じ凹凸形状を表面に備える版(賦形シート用成形型)を得ることができる。
【0050】
<賦形シート作製工程S13>
賦形シート作製工程S13では、2軸延伸PETフィルムの易接着面に、電離放射線硬化性アクリレートモノマーを含む塗工インキを作製した版を用いて塗工し、この塗工インキに対して紫外線照射を行って硬化することで賦形シートを作製する。
これにより線条突起部12の表面に形成された凹凸と逆の凹凸形状を表面に備える賦形シートを得ることができる。ここに形成される凹凸は線条突起部12の凸線条13による凹凸と逆の凹凸であるが、その形態及び配置は上記と同じように考えることができる。
【0051】
<賦形工程S14>
賦形工程S14は次のように行われる。
初めに、チタン紙原紙に対し、メラミンホルムアルデヒド樹脂を含む熱硬化性樹脂の液状の未硬化組成物を、含浸装置を用いて未硬化組成物が乾燥時に所定の割合となるように含浸し、乾燥することにより含浸化粧シートを得る。
次にこの含浸化粧シートを、クラフト紙にフェノール樹脂からなる樹脂液を含浸した、フェノール樹脂含浸コア紙の上に積層し、更に作製した含浸化粧シートの上に作製した賦形シートを、賦形シートの印刷面が含浸化粧シートの印刷面と接するように積層する。
このようにして形成された積層体を2枚の金属製の鏡面板で挟み、熱プレス機を用いて圧力をかけつつ、所定の温度及び時間の条件にて加熱成型し、該未硬化組成物を熱硬化させる。これによりメラミン樹脂を含有する硬化樹脂層が形成される。
最後に硬化樹脂層から賦形シートを剥離することにより、化粧材10を得る。
【実施例
【0052】
化粧材10、及び製造方法S10に倣って化粧材を作製して実施例とした。また、線条突起部を有していない化粧材を作成して比較例とした。
【0053】
[実施例の化粧材の形状及び作製]
実施例1、及び実施例2にかかる化粧材は平面視で図1の通りである。この化粧材に備えられる線条突起部の凸線条はチューリングパターンによる形状及び配置とされている。
このような化粧材は次のように作製した。
【0054】
パターン作成工程S11に倣ってチューリングパターンを作成して特定チューリングパターンデータを得た。この特定チューリングパターンは数値シミュレーションとして、「Turingパターンを発生するシンプルな反応拡散セルオートマトンモデルとその集積回路化」、鈴木洋平、高山貴裕、元池N.育子、(財)電子情報通信学会、信学技報の第3頁で提案されたyoungモデルの改良型の反応拡散方程式を用いたシミュレーションで得たパターンである。
この反応拡散方程式において、活性因子uの拡散係数Dと抑制因子vの拡散係数Dとの比D/Dを6、シグモイド関数のオフセットCを0としてチューリングパターンを発生させた。
【0055】
次いで、同パターンについて、寸法データが、パターンの曲線分の幅Wが10μm以上20μm、長さLが5μm以上100μm以下、曲率半径Rが1μm以上50μm以下、隣り合う凸線条の間隔が20μm以上30μm以下の範囲に分布するよう、パターンの拡大倍率を調整した。このようにして、凸線条13から構成される線条突起部12の特定チューリングパターンを呈する平面視パターンデータを作成した。
【0056】
次に版作製工程S12に倣って賦形シートのための版を作製した。
【0057】
次に賦形シート作製工程S13に倣って賦形シートを作製した。具体的には次の通りである。
50μm厚のPETフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標)A4100(50μm)を準備した。
また、電離放射線硬化性モノマー(東亞合成株式会社製、アロニックス(登録商標)M350)100質量部、反応性シリコーン(信越化学株式会社製、X-22-164B)2質量部、シリカ(富士シリシア化学株式会社製、サイリシア450)5質量部、及び酢酸エチル50質量部を含む塗工インキも併せて準備した。
準備した塗工インキを上記PETフィルムの易接着面に対して、作製した版を用いて塗工し、165kVの加速電圧にて5Mradの電子線照射を行い、硬化することで賦形シートを得た。
【0058】
次に賦形工程S14に倣って実施例にかかる化粧材を得た。具体的には次の通りである。
初めに、メラミンホルムアルデヒド樹脂60質量部、水35質量部、及びイソプロピルアルコール5質量部からなる熱硬化性樹脂の液状の未硬化組成物を準備した。
この未硬化組成物をチタン紙原紙に対して含浸装置を用いて含浸した。このとき未硬化組成物が乾燥時に80g/m(乾燥時)の割合となるように含浸をおこなった。そしてこれを乾燥することにより含浸化粧シートを得た。
【0059】
次にこの含浸化粧シートを、クラフト紙にフェノール樹脂からなる樹脂液を含浸した、坪量245g/mのフェノール樹脂含浸コア紙(太田産業株式会社、太田コア)3枚の上に積層した。
更に含浸化粧シートの上に作製した賦形シートを、賦形シートの印刷面が含浸化粧シートの印刷面と接するように積層した。
その後、形成された積層体を2枚の鏡面板で挟み、熱プレス機を用いて圧力100kg/cmで、成型温度150℃で10分間の条件にて加熱成型し、未硬化組成物を熱硬化させることによりメラミン樹脂を含有する硬化樹脂層を形成した。
【0060】
最後に硬化樹脂層から賦形シートを剥離することにより実施例にかかる化粧材を得た。
【0061】
[比較例の化粧材の形状及び作製]
比較例の化粧材は、線条突起部を有していない、いわゆるブラストマットフィルムを用いて賦形シートを作製した。そしてこの賦形シートにより実施例の化粧材と同様にして化粧材を得た。図9に比較例にかかる化粧材の一部を拡大した平面図を示した。図9図1と同じ視点及び縮尺である。
【0062】
[評価方法・結果]
上記した方法により凸線条の長さL、幅W、高さH、曲率半径R、間隔を測定するとともに、化粧材の艶、目視による耐指紋性、及び色差ΔEによる耐指紋性の定量評価を行った。表1に結果を示した。
ここで、「長さ」、「幅」、「曲率半径」、及び「間隔」は、株式会社キーエンスの光学顕微鏡VHX-6000を用いて測定した。「高さ」は株式会社菱光社の二次元、三次元表面粗さ測定器を用いて測定した。また、「長さ」、「幅」、「高さ」、「曲率半径」、及び「間隔」は、各水準(実施例1、実施例2、比較例)の賦形シート5枚、各賦形シートから10点、合わせてデータ数N=50で測定した。
「艶」はグロスメーター(60度、測定機器BYKガードナー社、マイクログロス)により測定した。
「耐指紋性(目視)」は、化粧材表面を指で触れ、目視による観察を行って高い耐指紋性を有する場合を「◎」、耐指紋性を有する場合を「〇」、耐指紋性が低い場合を「×」とした。
「耐指紋性(測色ΔE値)」は上記したようにコニカミノルタ株式会社、分光測色計 CM-370によりΔE abを測定することで得た。
【0063】
【表1】
【0064】
結果からわかるように、実施例1、実施例2にかかる化粧材では比較例の化粧材に対して耐指紋性について目視でも、定量的にも優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0065】
10 化粧材
11 基材
12 線条突起部
13 凸線条
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9